2021-017865
運転者交替促進装置、該装置が搭載された運転評価システム、及びコンピュータプログラム
- 審判番号
- 2021-017865
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-046945外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年12月24日
- 審決日
- 2024年02月06日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .121-WZ (G08G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第3項、特許法第29条第1項第3号、特許法第2条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
結論
理由
目次 ▾ 12項目
第1 手続の経緯
折りたたみ中(クリックで表示)
本願は、平成30年3月14日の出願であって、令和3年2月25日付け(発送日:同年3月10日)で拒絶の理由が通知され、その指定期間内の令和3年4月28日に意見書が提出されたが、令和3年9月28日付け(発送日:同年10月5日)で拒絶査定がなされ、これに対し、令和3年12月24日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正書が提出され、当審において令和4年12月28日付け(発送日:令和5年1月12日)で拒絶の理由が通知され、その指定期間内である令和5年3月10日に意見書が提出され、令和5年3月30日付け(発送日:同年4月11日)で拒絶の理由が通知され、その指定期間内である令和5年5月1日に意見書が提出されたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1ないし請求項11に係る発明は、令和3年12月24日の手続補正により補正がされた特許請求の範囲の請求項1ないし請求項11に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
〔本願発明〕
「法令で定められた運転者の交替を促進する運転者交替促進装置であって、一行程における実車距離積算部と、一行程における運転時間積算部と、を備え、前記実車距離積算部において積算された車両の実車距離が法令で定められた所定の距離、あるいは前記運転時間積算部において積算された運転時間が法令で定められた所定の運転時間を超えると、運転者の交替が必要と判断する運転者交替判断部を備えていることを特徴とする運転者交替促進装置。」
第3 当審において通知した拒絶の理由の概要
当審において令和5年3月30日付けで通知した拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)のうち、本願発明についての拒絶の理由は、大略以下のとおりである。
理由(進歩性)
この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記(引用文献等については引用文献等一覧を参照)
・請求項1
・引用文献1及び2
<引用文献等一覧>
1.特開昭57-158138号公報
2.「貸切バス 交替運転者の配置基準(解説)」,国土交通省自動車局,第二版,平成25年6月7日,https://www.mlit.go.jp/common/001000380.pdf(周知技術を示す文献)
第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1
(1)当審拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献1には、「自動車の安全運転指導装置」に関して、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下同様。)。
ア 「自動車運転者の労働時間等の改善基準に準拠した注意や警告を音声で行ない得るようにし、長時間運転の際にも作動して安全指導を行い交通安全を確保せんとすることを目的とする。以下、本発明を図示の実施例に基づいて詳記に説明する。第1図は、従来の自動車の交通安全運転指導装置のブロックダイアグラムである。図中Aは音声信号発生回路にして、該発生回路Aの音声信号はカセットテープレコーダか、LSI(大規模集積回路)を使用して周波数合成により得られるが、その音声信号の内容は、交通安全運転に関する心構えの「ことば」である。Bは上記音声信号発生回路Aの音声信号を増巾する増巾回路、Cは該増巾回路Bの出力を音声に変換するスピーカである。また、Dは上記音声信号発生回路Aと、増巾回路Bと、自動車のエンジン始動回路E、その他の電気系統に供給する直流電源である。更にFは上記の直流電源Dをエンジン始動回路Eに供給、停止するためのイグニッションスイッチで、自動車に付設されているものであり、Gは上記イグニッションスイッチFを経て音声信号発生回路Aと増巾回路Bとに供給される直流電源Dの供給時間を設定するためのタイマーである。第2図は本発明に係る自動車の安全運転指導装置のブロックダイヤグラムである。図中、1は音声発生回路、2は上記音声信号発生回路1の音声信号を増巾する増巾回路、3は該増巾回路2の出力を音声に変換するスピーカであって上記増巾回路2とスピーカ3とは、自動車に塔載されているカーラジオの増巾回路とスピーカとを切替によって使用するようにしてもよい。4はこれら電気系統に供給する直流電源で、5は自動車のエンジン始動回路、6は直流電源4をエンジン始動回路5に供給、停止するためのイグニッションスイッチで自動車に付設されているものである。以上1~5までの構成部材は、先に発明者が開発した従来装置と同じであるが、本発明装置は上記構成に走行装置7と、制御装置8とを新たに装備した点に特徴がある。走行装置7というのは、自動車の駆動機構全体すなわちエンジンの始動に供なって車が走行するためのメカニズム全体をいい、制御装置8とは上記イグニッションスイッチ6を経て音声信号発生回路1と増巾回路2とに供給される直流電源4の供給時間を設定するタイマー9と、上記イグニッションスイッチ6からエンジン始動回路及び走行装置を経て車が走行を開始したことや走行距離、走行時間、走行速度等の情報を得て所定の条件の充足を認知して音声発生回路1と増巾回路2とに直流電源4が供給されるように設定するメーター10とを組合せてなる。すなわち、音声発生回路1と増巾回路2及びスピーカーを作動させる直流電源4を供給する条件とタイミングをタイマー9による時間とメーター10による走行装置からの情報とを組合せることによって制御せんとするのが制御装置8である。」(第2頁右上欄第2行-右下欄第16行)
イ 「 このように、本発明装置は従来装置に走行装置7と制御装置8を更に装備させたので、次のような多様なタイミングで音声による安全運転指導を行うことができる。即ち、(イ)制御装置内のタイマー9の機能により、走行直後あるいは何秒か何分後かに音声発生装置を作動させる。(ロ)制御装置内のメーター10の機能により走行直後あるいは何メートル走行後かに音声発生装置を作動させる。(ハ)制御装置内のメーター10の機能により走行時速何キロメートルかに到達した時点で音声発生装置を作動させる。(ニ)制御装置により運転開始後連続運転時間4時間経過直後に運転者の交替若しくは30分以上の駐車による休憩をするよう音声発生装置による警告をする。続きを表示(全11行)(ホ)駐車又は走行停止して30分経過すればタイマーは0にもどり、その後改めて連続運転時間4時間経過後に音声発生装置が作動する。(へ)連続運転時間4時間経過途中の駐車30分経過の場合もタイマーは0にもどり、その後改めて連続運転時間4時間経過後に音声発生装置が作動する。(ト)連続運転時間が4時間経過直後において駐車時間1回が10分以上で精算して合計が30分以上となった場合も、タイマーは0にもどり、その後改ためて連続運転時間4時間経過後に音声発生装置が作動する。(チ)2時間経過予備警告として時間経過案内を行うようにすることも可能である。(リ)精算能力を有する制御装置のメーターにより、1000km毎の音声による拒離経過案内を行ない警告をする。上記のように音声による安全運転指導は様々なタイミングで行なうことが出来るが、特に上記例では(ニ)~(ト)は労働省労働基準局が定めている「連続運転時間」に関する基準に基づいており、労務管理の一助としての意義をもたせることが出来る。そこで、運転者が自動車の運転席に座り、イグニッションスイッチ6を1段、2段と閉成すると、直流電源4がエンジン始動回路5の点火プラグに供給されると共にエンジンが始動する。しかし、これだけではタイマー9は作動せず、次に走行装置が作動して走行が始まると制御装置8が作動を開始し数秒又は数分程度経過すると、直流電源4がイグニッションスイッチ6を経て音声信号発生回路1と増巾回路2とに供給され、運転開始に伴なう安全運転の心構えについての音声による安全運転指導が行なわれ運転中所定の速度以上となった際にはスピード出し過ぎの音声による警告が発せられる。また、運転開始後連続4時間以上経過した場合には休憩をとることの警告が音声によって行なわれ、更にまた所定の拒離以上走行した場合にも、その旨注意が与えられる等運転者のその時の状況に応じた安全運転指導がタイミングよく音声によって行なうことが出来るようになった。このようなタイミングと状況判断は走行装置7とタイマー9とメーター10とからなる制御装置8を装備させることによって初めて実現可能となったものである。」(第2頁右下欄第17行-第3頁左下欄第16行)
ウ 「8.補正の内容(1)明細書中、第6頁第7行目において、「走行拒離」とあるを「走行距離」と訂正する。(2)明細書中、第6頁第16行目において「るのが制御装置8である。」とある後に次の文章を挿入する。「尚、上記制御装置8の走行距離や走性時間、走行速度等の情報を得るための具体的装置の一例として既存のタコメータを利用するようにしてもよいこと勿論である。」(3)明細書中、第8頁第1行目において「精算して」とあるを「積算して」と訂正する。同頁第7行目において「(リ)精算能力」とあるを「(リ)積算能力」と訂正する。(4)同頁第8行目において「拒離経過案内」とあるを「距離経過案内」と訂正する。(5)明細書中、第9頁第9行目において、「所定の拒離以上」とあるを「所定の距離以上」と訂正する。」(第4頁右欄第1行-第15行)
(2)上記(1)より、引用文献1には、以下のアないしウの事項が記載されていると認定できる。なお、以下のアないしウでは、上記(1)ウの「8.補正の内容」を踏まえて認定した。
ア 上記(1)アの下線を付した記載並びに上記(1)イの下線を付した(イ)、(ニ)及び(ホ)の記載より、タイマー9により運転開始後連続運転時間を積算することが記載されていると認定できる。
イ 上記(1)ア及び上記(1)イの下線を付した(ロ)及び(リ)の記載より、メーター10により走行距離を積算することが記載されていると認定できる。
ウ 上記(1)イの下線を付した(ニ)の記載及び上記(1)イの(リ)の後に続く下線を付した記載より、労働省労働基準局が定めている基準に基づく運転開始後連続運転時間4時間経過直後に運転者の交替をするよう音声発生装置による警告をすることが記載されていると認定できる。
(3)上記(1)及び(2)から、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
〔引用発明〕
「労働省労働基準局が定めている基準に基づく運転開始後連続運転時間4時間経過直後に運転者の交替をするよう音声発生装置による警告をする自動車の安全運転指導装置であって、走行距離を積算するメーター10と、運転開始後連続運転時間を積算するタイマー9と、を備え、前記警告は、タイマー9の機能により前記音声発生装置を作動させる自動車の安全運転指導装置。」
2 引用文献2
(1)当審拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献2には、次の事項が記載されている。
ア
表紙
「[図:0001409471000001.jpg]」
イ
第1頁
「[図:0001409471000002.jpg]」
ウ
第2頁
「[図:0001409471000003.jpg]」
エ
第5頁
「[図:0001409471000004.jpg]」
オ
第8頁
「[図:0001409471000005.jpg]」
カ
第11頁
「[図:0001409471000006.jpg]」
(2)上記(1)より、引用文献2には、以下のアないしウの事項が記載されていると認められる。
ア 上記(1)イの第1頁には、「貸切バスの安全を確保するため、「旅客自動車運送事業運輸規則の解釈及び運用について」が一部改正され、その中で「高速バス及び貸切バスの交替運転者の配置基準について」が策定されています。」、「本解説書では、交替運転者の配置基準の詳細を解説したものです。解説書では、・・・について、それぞれの基準の要点を纏めております。さらに、本基準に加え、引き続き、「勤務時間等基準告示」※1を遵守する必要があります。」及び「※1 旅客自動車運送事業運輸規則第21条第1項の規定に基づく事業自動車の運転者の勤務時間及び乗務時間に係る基準(平成13年国土交通省告示第1675号)をいいます。」と記載されていることから、上記(1)ウないしカに記載された運転時間や実車距離等の基準は、国土交通省の「省令」である「旅客自動車運送事業運輸規則」に基づくものであると認められる。
また、「法令」は「法律および命令の総称。」(広辞苑第六版)を意味し、「省令」は「各省大臣が主任の事務につき発する命令」(広辞苑第六版)を意味することから、「省令」は「法令」に該当し、国土交通省が定めた「省令」である「旅客自動車運送事業運輸規則」は、「法令」に該当するものであると認められる。
よって、上記(1)ウないしカに記載された運転時間や実車距離等の基準は、「法令」に該当する「旅客自動車運送事業運輸規則」に基づくものであると認められる。
イ 上記(1)ウ、オ及びカの記載より、引用文献2には、「連続運転時間」、「一運行の運転時間」及び「1日の運転時間」が以下のように定義されていると認められる。
「連続運転時間: 10分以上の運転の中断をすることなく連続して運転する時間をいう。」 (上記(1)カ)
「一運行の運転時間:1人の運転者が回送運行を含む一運行で運転する時間をいう。」(上記(1)オ)
「1日の運転時間:1人の運転者が回送運行を含む1日の乗務で運転する時間をいう。」(上記(1)オ)
そして、上記(1)ウには、貸切バスの交替運転者の配置基準について、これまでの「法令」に該当する「旅客自動車運送事業運輸規則」に基づく基準である「勤務時間等基準告示」で定められた「連続運転時間が4時間を超える場合」に加えて、昼間及び夜間は「一運行の運転時間」が「9時間」を超えて引き続き運行する場合は交替運転者が必要であることが記載されていると認められる。同様に、「1日の運転時間」が「原則9時間」を超えて引き続き運行する場合は交替運転者が必要であることが記載されていると認められる。
ウ 上記(1)ウ及びエの記載より、引用文献2には、「実車距離」が以下のように定義されていると認められる。
「実車運行:旅客の乗車の有無に関わらず、旅客の乗車が可能として設定した区間の運行をいい、回送運行は実車運行には含まない。実車距離:実車運行する区間(以下単に「実車運行区間」という。)の距離をいう。一運行の実車距離:1人の運転者が一運行で運転する実車距離をいう。1日の合計実車距離:1人の運転者が1日の乗務で運転する実車距離の合計をいう。」(上記(1)エ)
そして、上記(1)ウには、貸切バスの交替運転者の配置基準について、これまでの「法令」に該当する「旅客自動車運送事業運輸規則」に基づく基準である「勤務時間等基準告示」で定められた「連続運転時間が4時間を超える場合」に加えて、昼間は「一運行の実車距離」が「500km」を超えて引き続き運行する場合は交替運転者が必要であること、「1日の合計実車距離」が「600km」を超えて引き続き運行する場合は交替運転者が必要であることが記載されていると認められる。
(3)上記(1)及び(2)から、引用文献2には、以下の事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されていると認められる。
〔引用文献2記載事項〕
「これまでの「法令」に該当する「旅客自動車運送事業運輸規則」に基づく基準である「勤務時間等基準告示」で定められた「連続運転時間が4時間を超える場合」に加えて、「一運行の運転時間」、「1日の運転時間」、「一運行の実車距離」、あるいは「1日の合計実車距離」が「法令」に該当する「旅客自動車運送事業運輸規則」に基づく基準を超えて引き続き運行する場合は交替運転者が必要であること。」
第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「運転者」及び「自動車の安全運転指導装置」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明の「運転者」及び「運転者交替促進装置」にそれぞれ相当する。
本願の明細書には、「[背景]自動車運転者の労働時間その他の労働条件については、それらが交通事故の発生要因と密接に結びついていると考えられるため、事故防止対策の一環として、厚生労働省が改善基準告示を平成元年2月「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(労働省告示第7号)」として策定し、国土交通省も、この改善基準告示をそのまま引用して勤務時間等告示(平成13年12月3日 国土交通省告示1675号)を定めている。概要を以下に示す。」(段落【0002】)及び「上記した背景(法令)を意識し、法令遵守を実現するための技術として開示されたものとして下記の特許文献1を挙げることができる。」(段落【0010】)と記載されており、厚生労働省が策定した「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」を「法令」としていることから、引用発明の「労働省労働基準局が定めている基準」は、同様に、本願発明における「法令」に相当すると認められる。
よって、引用発明の「労働省労働基準局が定めている基準に基づく運転開始後連続運転時間4時間経過直後に運転者の交替をするよう音声発生装置による警告をする」ことは、本願発明の「法令で定められた運転者の交替を促進する」ことに相当する。
引用発明の「走行距離を積算するメーター10」と、本願発明の「一行程における実車距離積算部」とは、「距離の積算部」という限りにおいて一致する。
引用発明の「運転開始後連続運転時間を積算するタイマー9」と、本願発明の「一行程における運転時間積算部」とは、「運転時間の積算部」という限りにおいて一致する。
引用発明の「労働省労働基準局が定めている基準に基づく運転開始後連続運転時間4時間経過直後に運転者の交替をするよう音声発生装置による警告をする」及び「前記警告は、タイマー9の機能により前記音声発生装置を作動させる」ことと、本願発明の「前記実車距離積算部において積算された車両の実車距離が法令で定められた所定の距離、あるいは前記運転時間積算部において積算された運転時間が法令で定められた所定の運転時間を超えると、運転者の交替が必要と判断する」こととは、「前記運転時間の積算部において積算された運転時間が法令で定められた所定の運転時間を超えると、運転者の交替が必要と判断する」ことという限りにおいて一致し、引用発明は本願発明における「運転者交替判断部」と「前記運転時間の積算部において積算された運転時間が法令で定められた所定の運転時間を超えると、運転者の交替が必要と判断する運転者交替の判断部」という限りにおいて一致するものを備えているといえる。
そうすると、本願発明と引用発明との一致点、相違点は、以下のとおりである。
〔一致点〕
「法令で定められた運転者の交替を促進する運転者交替促進装置であって、距離の積算部と、運転時間の積算部と、を備え、前記運転時間の積算部において積算された運転時間が法令で定められた所定の運転時間を超えると、運転者の交替が必要と判断する運転者交替の判断部を備えている運転者交替促進装置。」
〔相違点〕
「距離の積算部」に関して、本願発明においては、「一行程における実車距離積算部」であるのに対し、引用発明においては、積算する距離が具体的に特定されておらず、また、「運転時間の積算部」に関して、本願発明においては、「一行程における運転時間積算部」であるのに対し、引用発明においては、運転開始後連続運転時間を積算するものであり、また、「前記運転時間の積算部において積算された運転時間が法令で定められた所定の運転時間を超えると、運転者の交替が必要と判断する」ことに関して、本願発明においては、「前記実車距離積算部において積算された車両の実車距離が法令で定められた所定の距離、あるいは前記運転時間積算部において積算された運転時間が法令で定められた所定の運転時間を超えると、運転者の交替が必要と判断する」のに対し、引用発明においては、労働省労働基準局が定めている基準に基づく運転開始後連続運転時間4時間経過直後に運転者の交替をするよう音声発生装置による警告をする点。
第6 当審の判断
1 相違点について
上記相違点について以下に検討する。
これまでの「法令」に該当する「旅客自動車運送事業運輸規則」に基づく基準である「勤務時間等基準告示」で定められた「連続運転時間が4時間を超える場合」に加えて、「一運行の実車距離」及び「1日の合計実車距離」(本願発明における「一行程における実車距離」に相当)、あるいは「一運行の運転時間」及び「1日の運転時間」(本願発明における「一行程における運転時間」に相当)が法令で定められた基準を超えて引き続き運行する場合は交替運転者が必要であることは、本願の出願前に周知の事項である(以下「周知事項」という。例えば、引用文献2記載事項を参照。)。
そして、法令やその解釈、運用は社会の要請等に応じて変更され得るものであり、その時々の法令で定められた労働条件を満たすよう運転者の交替の条件を決定すべきことは、引用発明においても当然に内在する課題であることから、引用発明の「労働省労働基準局が定めている基準に基づく運転開始後連続運転時間4時間経過直後に運転者の交替をする」という条件に加えて、上記周知事項を考慮し、「一行程における実車距離」や「一行程における運転時間」が「法令で定められた所定の距離や時間」を超えた場合に、運転者の交替が必要と判断するように構成すること、そのために、走行距離を積算するメーター10を一行程における実車距離を積算できる実車距離積算部とすること、及び、運転開始後連続運転時間を積算するタイマー9を一行程における運転時間を積算できる運転時間積算部とすることにより相違点に係る本願発明の発明特定事項に想到することは、当業者が容易になし得るものである。
また、本願発明は、全体としてみても、引用発明及び周知事項から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。
2 令和5年5月1日提出の意見書における審判請求人の主張について
(1)審判請求人は上記意見書において以下のア及びイの主張をしている。
ア 「(4)引用文献1記載の発明の引用発明としての適格性引用文献1に係る出願は、拒絶査定不服審判において拒絶査定が確定しています。 その際の審決書の一部を抜粋して下記します。記『………………、メーターとタイマーは第2図には単なるブロック図として記載されているだけであり、走行装置からメーターへの情報とタイマーによる時間とを組み合わせて明細書第11頁~第13頁に記載される(イ)~(リ)の運転指導を行うための具体的構成は明細書を見ても記載されていない。続きを表示(全17行)例えば、長時間連続運転をした場合に休憩をとるように音声発生装置で警告する(ニ)を採りあげてみても、これを実施する構成は、メーターとタイマーとを組み合わせて行うという、単なる考えに留まるものであり、自動車という構成の中で、具体的にどのような構成によって達成するのか開示されていない。一例として、本願発明の(ニ)と同じ課題に対して1つの解決手段を提供した実公昭56-8062号公報(原審での引用例)を参照して見ても、ただ1つの課題を解決するために種々の配慮を行った複雑な構成を必要としており、いわんや、本願発明のように(イ)~(リ)の複数の内容の運転指導を行うというのであれば、本願明細書に記載される程度の構成や、メーターやタイマーの単なるブロック図のみからは、到底本願発明の目的を実施することはできない。したがって、平成2年10月23日付け拒絶理由通知書で指摘した点は依然として明らかではなく、本願明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易にその発明を実施できる程度に構成が記載されておらず、また、これによって特許請求の範囲の記載にも不備が認められるので、本願は特許法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満たしていない。よって結論のとおり審決する。』また、引用文献1には、『(ニ)制御装置により運転開始後連続運転時間4時間経過直後に運転者の交替……………………をするよう音声発生装置による警告をする。』 とあり、また、『(ニ)~(ト)は労働省労働基準局が定めている「連続運転時間」に関する基準に基づいており、』との記載が存在します。しかしながら、労働省労働基準局が定めている法令では、『連続運転時間4時間経過直後に運転者の交替……………………をするよう(音声発生装置による)警告をしなければならない。』といった規定は存在せず、引用文献1における係る記載は、発明者の法令誤認識に基づく誤記であります。また、引用文献1には、「(イ)~(リ)の複数の内容の運転指導が、初めて実現可能となった。」とも、記載されています。しかしながら、上記審決書の抜粋を見れば明らかなように、(イ)~(リ)の内容は、引用文献1記載の発明では、達成できているとは認められず、達成できていないことを、さも達成できているかの如く記載していることからすれば、「(イ)~(リ)の複数の内容の運転指導が、初めて実現可能となった。」との記載は、虚偽記載に相当します。この様に、上記審決書における記載、上記指摘の記載を統合すれば、引用文献1記載の発明は、誤記、虚偽記載に基づく、いわば未完成発明、虚偽発明とでもいうべきものでございます。法は、このような、未完成発明、虚偽発明に基づき、有用な新規の発明を拒絶することは想定しておらず、引用文献1記載の発明に基づく引用発明の認定は、法の精神に照らせば、認められないものでございます。法は、あくまで真実の記載に基づく引用発明の認定を前提としています。従いまして、拒絶理由通知書におきまして、審判官殿がなされました、本件引用発明の認定は、全く意味のない誤った認定ということになり、本件拒絶理由通知書における理由は、その主たる根拠を無くしてしまっているものと思料致します。」(以下「主張1」という。)
イ 「(6)本願の請求項1に係る発明と引用文献2との対比引用文献2には、「連続運転時間4時間以上」に基づく、運転者の交替は、どこにも記載がありません。引用文献2には、「連続運転時間2時間」に関して、10分以上の休憩(連続運転時間の中断の条件)が記載されています。従いまして、引用文献2に記載の周知技術(「連続運転時間」に基づく、休憩の取得)と引用発明(「連続運転時間」に基づく、運転者の交替)とを組み合わせて考えること自体に矛盾がございます。」(以下「主張2」という。)
(2)上記(1)ア及びイの主張について検討する。
ア 主張1について
(ア)まず、特許法第29条第2項は、「特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。」と規定し、「前項各号に掲げる発明」について、同条第1項第3号は、「特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明」と規定している。また、同条第1項第3号の「特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明」における「発明」について、特許法第2条第1項において、「この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と規定している。
そして、特許法第29条第1項第3号で規定する特許出願前に「頒布された刊行物に記載された発明」というためには、特許出願当時の技術水準を基礎として、当業者が当該刊行物を見たときに、特許請求の範囲の記載により特定される特許を受けようとする発明の内容との対比に必要な限度において、その技術的思想を実施し得る程度に技術的思想の内容が開示されていることが必要であり、かつ、それで足りると解するのが相当であって(参考判決:平成18年(行ケ)第10316号、平成23年(行ケ)第10201号、平成19年(行ケ)第10250号、平成30年(ワ)第28929号、平成30年(ワ)第28930号)、上記主張1で引用している審決における特許法第36条第3項および第4項に規定する要件とは別論である。
これを踏まえて、引用文献1について、本願出願当時の技術水準を基礎として、当業者が引用文献1を見たときに、本願発明の発明特定事項との対比に必要な限度において、その技術的思想を実施し得る程度に技術的思想の内容が引用文献1に開示されているどうかを検討する。
(イ)上記第4の1において説示したとおり、上記第4の1(1)の引用文献1の記載により開示された内容に基づいて、引用文献1には引用発明が記載されていると認めることができ、上記第5において説示したとおり、引用発明は本願発明と対比することができるものである。
そうすると、引用文献1には、本願出願当時の技術水準を基礎として、本願発明の発明特定事項との対比に必要な限度において、その技術的思想を実施し得る程度に技術的思想の内容が開示されているといえ、引用発明は、上記(ア)でいう特許法第29条第1項第3号で規定する特許出願前に「頒布された刊行物に記載された発明」に該当するといえるものである。
(ウ)また、引用文献1には、上記第4の1(1)イの記載からみて、同第4の1(1)イにおける(ニ)については、労働省労働基準局が定めているのは「連続運転時間4時間経過直後に運転者の交替」をする必要があるということであって、上記主張1のような「『連続運転時間4時間経過直後に運転者の交替……………………をするよう(音声発生装置による)警告をしなければならない。』といった規定」が存在すること、すなわち運転者の交替をするよう「(音声発生装置による)警告をしなければならない」ことまで労働省労働基準局が定めている法令において規定すると引用文献1に記載されていると解されるものではなく、引用文献1における記載は、発明者の法令誤認識に基づく誤記というべきものではない。
(エ)したがって、請求人の上記主張1は、当を得たものではなく、採用することができない。
イ 主張2について
(ア)上記第4の2において説示したとおり、引用文献2には引用文献2記載事項が記載されていると認められ、引用文献2記載事項は、「これまでの「法令」に該当する「旅客自動車運送事業運輸規則」に基づく基準である「勤務時間等基準告示」で定められた「連続運転時間が4時間を超える場合」」は「交代運転者が必要である」とするものである。
(イ)また、上記1において説示したように、法令やその解釈、運用は社会の要請等に応じて変更され得るものであり、その時々の法令で定められた労働条件を満たすよう運転者の交替の条件を決定すべきことは、引用発明においても当然に内在する課題であることから、引用発明の条件に加えて、引用文献2にて例示される周知事項を考慮し、相違点に係る本願発明の発明特定事項に想到することは、当業者が容易になし得るものであって、主張2のような矛盾は何ら認められない。
(ウ)したがって、請求人の上記主張2は、当を得たものではなく、採用することができない。
3 小括
よって、本願発明は、引用発明及び周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
2021-017865