2021-010691
インク吐出ヘッドの洗浄方法及びその洗浄装置、並びに記録方法及び記録装置
- 審判番号
- 2021-010691
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-019270外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年08月11日
- 審決日
- 2022年10月31日
- 公報発行日
- 2023年01月27日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .121-Z (B41J) / P18 .575-Z (B41J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 12項目
第1 手続の経緯
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本願は,平成28年2月3日に特許出願としたものであって,令和1年10月11日付けで拒絶理由が通知され,これに対して,同年11月14日に意見書及び手続補正書が提出されたが,令和2年4月3日付けで拒絶理由(最後)が通知され,これに対して,同年6月15日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年11月6日付けで拒絶理由(最後)が通知され,これに対して,同年12月24日に意見書及び手続補正書が提出されたが,令和3年5月13日付けで令和2年12月24日に提出された手続補正書による補正の却下の決定がなされるとともに拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされたのに対し,同年8月11日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。
第2 令和3年8月11日に提出された手続補正書による補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和3年8月11日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲を全文にわたって補正をするところ,特許請求の範囲について,下記(1)に示す本件補正前の(すなわち,令和2年6月15日に提出された手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1乃至18を,下記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1乃至16へと補正するものである。(下線は審決で付した。以下同じ。)
(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】インク吐出ヘッドのノズル面を洗浄するインク吐出ヘッドの洗浄方法であって、押圧部材上の払拭部材に洗浄液を付与する工程と、洗浄液を付与した払拭部材で前記ノズル面を払拭する工程と、を含み、続きを表示(全54行)前記払拭部材に付与する前記洗浄液の付与量が、記録時間により制御されることを特徴とするインク吐出ヘッドの洗浄方法。【請求項2】前記洗浄液の付与量が、複数の設定量から選択される請求項1に記載のインク吐出ヘッドの洗浄方法。【請求項3】前記洗浄液の付与量が、圧力により制御される請求項1から2のいずれかに記載のインク吐出ヘッドの洗浄方法。【請求項4】前記洗浄液が複数のノズルから付与され、前記洗浄液の付与量が前記ノズルの数により制御される請求項1から2のいずれかに記載のインク吐出ヘッドの洗浄方法。【請求項5】前記洗浄液の付与量が、前記洗浄液の付与回数により制御される請求項1から2のいずれかに記載のインク吐出ヘッドの洗浄方法。【請求項6】前記洗浄液が、下記構造式(1)及び(2)で表される化合物の少なくともいずれかを含有する請求項1から5のいずれかに記載のインク吐出ヘッドの洗浄方法。【化1】[図:0001392611000001.jpg]【化2】[図:0001392611000002.jpg]【請求項7】前記洗浄液が、3-メトキシ-3メチル-1-ブタノールを含有する請求項1から6のいずれかに記載のインク吐出ヘッドの洗浄方法。【請求項8】前記インク吐出ヘッドが、顔料及び樹脂の少なくともいずれかを含有するインクジェットインクを吐出する請求項1から7のいずれかに記載の前記インク吐出ヘッドの洗浄方法。【請求項9】インク吐出ヘッドのノズル面を洗浄するインク吐出ヘッドの洗浄装置であって、押圧部材上の払拭部材に洗浄液を付与する手段と、洗浄液を付与した払拭部材で前記ノズル面を払拭する手段と、を有し、前記払拭部材に付与する前記洗浄液の付与量が、記録時間により制御されることを特徴とするインク吐出ヘッドの洗浄装置。【請求項10】前記洗浄液の付与量が、複数の設定量から選択される請求項9に記載のインク吐出ヘッドの洗浄装置。【請求項11】前記洗浄液の付与量が、圧力により制御される請求項9から10のいずれかに記載のインク吐出ヘッドの洗浄装置。【請求項12】前記洗浄液が複数のノズルから付与量され、前記洗浄液の付与が前記ノズルの数により制御される請求項9から10のいずれかに記載のインク吐出ヘッドの洗浄装置。【請求項13】前記洗浄液の付与量が、前記洗浄液の付与回数により制御される請求項9から10のいずれかに記載のインク吐出ヘッドの洗浄装置。【請求項14】前記洗浄液が、下記構造式(1)及び(2)で表される化合物の少なくともいずれかを含有する請求項9から13のいずれかに記載のインク吐出ヘッドの洗浄装置。【化3】[図:0001392611000003.jpg]【化4】[図:0001392611000004.jpg]【請求項15】前記洗浄液が、3-メトキシ-3メチル-1-ブタノールを含有する請求項9から14のいずれかに記載のインク吐出ヘッドの洗浄装置。【請求項16】前記インク吐出ヘッドが、顔料及び樹脂の少なくともいずれかを含有するインクジェットインクを吐出する請求項9から15のいずれかに記載の前記インク吐出ヘッドの洗浄装置。【請求項17】インク吐出ヘッドのノズルプレートのインク吐出側のノズル面からインクを吐出する吐出工程と、前記ノズル面を請求項1から8のいずれかに記載のインク吐出ヘッドの洗浄方法により洗浄する洗浄工程と、を含むことを特徴とする記録方法。【請求項18】インクを吐出するインク吐出ヘッドと、前記インク吐出ヘッドのノズルプレートのインク吐出側のノズル面を洗浄する請求項9から16のいずれかに記載のインク吐出ヘッドの洗浄装置と、を有することを特徴とする記録装置。」
(2)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】顔料及び樹脂の少なくともいずれかを含有するインクジェットインクを吐出するインク吐出ヘッドのノズル面を洗浄するインク吐出ヘッドの洗浄方法であって、押圧部材上の払拭部材に洗浄液を付与する工程と、洗浄液を付与した払拭部材で前記ノズル面を払拭する工程と、を含み、続きを表示(全50行)前記払拭部材に付与する前記洗浄液の付与量が、連続記録時間により制御されることを特徴とするインク吐出ヘッドの洗浄方法。【請求項2】前記洗浄液の付与量が、複数の設定量から選択される請求項1に記載のインク吐出ヘッドの洗浄方法。【請求項3】前記洗浄液の付与量が、圧力により制御される請求項1から2のいずれかに記載のインク吐出ヘッドの洗浄方法。【請求項4】前記洗浄液が複数のノズルから付与され、前記洗浄液の付与量が前記ノズルの数により制御される請求項1から2のいずれかに記載のインク吐出ヘッドの洗浄方法。【請求項5】前記洗浄液の付与量が、前記洗浄液の付与回数により制御される請求項1から2のいずれかに記載のインク吐出ヘッドの洗浄方法。【請求項6】前記洗浄液が、下記構造式(1)及び(2)で表される化合物の少なくともいずれかを含有する請求項1から5のいずれかに記載のインク吐出ヘッドの洗浄方法。【化1】[図:0001392611000005.jpg]【化2】[図:0001392611000006.jpg]【請求項7】前記洗浄液が、3-メトキシ-3メチル-1-ブタノールを含有する請求項1から6のいずれかに記載のインク吐出ヘッドの洗浄方法。【請求項8】顔料及び樹脂の少なくともいずれかを含有するインクジェットインクを吐出するインク吐出ヘッドのノズル面を洗浄するインク吐出ヘッドの洗浄装置であって、押圧部材上の払拭部材に洗浄液を付与する手段と、洗浄液を付与した払拭部材で前記ノズル面を払拭する手段と、を有し、前記払拭部材に付与する前記洗浄液の付与量が、連続記録時間により制御されることを特徴とするインク吐出ヘッドの洗浄装置。【請求項9】前記洗浄液の付与量が、複数の設定量から選択される請求項8に記載のインク吐出ヘッドの洗浄装置。【請求項10】前記洗浄液の付与量が、圧力により制御される請求項8から9のいずれかに記載のインク吐出ヘッドの洗浄装置。【請求項11】前記洗浄液が複数のノズルから付与量され、前記洗浄液の付与が前記ノズルの数により制御される請求項8から9のいずれかに記載のインク吐出ヘッドの洗浄装置。【請求項12】前記洗浄液の付与量が、前記洗浄液の付与回数により制御される請求項8から9のいずれかに記載のインク吐出ヘッドの洗浄装置。【請求項13】前記洗浄液が、下記構造式(1)及び(2)で表される化合物の少なくともいずれかを含有する請求項8から12のいずれかに記載のインク吐出ヘッドの洗浄装置。【化3】[図:0001392611000007.jpg]【化4】[図:0001392611000008.jpg]【請求項14】前記洗浄液が、3-メトキシ-3メチル-1-ブタノールを含有する請求項8から13のいずれかに記載のインク吐出ヘッドの洗浄装置。【請求項15】インク吐出ヘッドのノズルプレートのインク吐出側のノズル面からインクを吐出する吐出工程と、前記ノズル面を請求項1から7のいずれかに記載のインク吐出ヘッドの洗浄方法により洗浄する洗浄工程と、を含むことを特徴とする記録方法。【請求項16】インクを吐出するインク吐出ヘッドと、前記インク吐出ヘッドのノズルプレートのインク吐出側のノズル面を洗浄する請求項8から14のいずれかに記載のインク吐出ヘッドの洗浄装置と、を有することを特徴とする記録装置。」
2 補正の適否について
(1)本件補正事項
本件補正は,本件補正前の請求項1の「インク吐出ヘッドの洗浄方法」における「制御」対象である「払拭部材に付与する洗浄液の付与量」を「記録時間により制御」することから「連続記録時間により制御」すると特定するもの(以下「補正事項1」という。)を含むものである。
そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
そうすると、補正事項1は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また、補正事項1は、本願の願書の最初に添付した明細書の段落【0029】の「インク吐出ヘッドのノズルプレートのインク吐出側のノズル面からインクを吐出させて記録を行う。連続記録の場合には、記録開始(T0)-記録終了(T1)から、記録時間Tpを求める。なお、間欠記録の場合には、個別の記録時間の合計から記録時間Tpを求めることができる。 洗浄液の付与量の段階を選択する際の記録時間(X、Y)や、洗浄液の付与量の設定は、使用するインクや洗浄液により変更することが可能である。また、通常量と多量や、少量と通常量などの複数の設定量から選択されることが好ましい。 洗浄液の付与量は、使用するインクの種類と記録時間(X、Y)の設定にもよる」との記載に基づいており、新規事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。
3 独立特許要件について
上記2のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるので、本件補正後の請求項1に係る発明(令和3年8月11日に提出された手続補正書の特許請求の範囲に記載された事項により特定される、上記「1 (2)本件補正後の特許請求の範囲」の【請求項1】乃至【請求項16】(以下、それぞれ「本件補正発明1」乃至「本件補正発明16」という。))における本件補正発明1が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。
(1)本件補正発明1
本件補正発明1は,上記「1 (2)」に示した本件補正後の【請求項1】に記載された事項により特定されるものと認められる。
(2)引用例
本願の出願前に頒布された公開公報である特開2012-171346号公報(以下「引用例」という。)には,以下の事項が記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】【請求項1】インクジェットヘッドのノズル面を清掃するノズル面清掃装置において、吸収性を有する長尺状の払拭部材を長手方向に所定の搬送経路に沿って走行させる払拭部材走行駆動手段と、前記払拭部材に洗浄液を定量付与することで払拭部材を前記インクジェットヘッドの払拭に適した量の洗浄液により湿潤された状態とする洗浄液付与手段と、前記洗浄液が付与された払拭部材を前記ノズル面に押圧当接させる押圧手段と、前記ノズル面に押圧当接された払拭部材が前記払拭部材走行駆動手段により走行しながら前記ノズル面に沿って摺動するように前記払拭部材と前記インクジェットヘッドとを相対的に移動させることで、前記ノズル面を前記洗浄液が定量付与された払拭部材で順次払拭する払拭手段と、を備えたことを特徴とするノズル面清掃装置。」
イ 「【技術分野】【0001】本発明は、ノズル面清掃装置及びインクジェット記録装置に関し、特に洗浄液を付与した払拭部材によりインクジェットヘッドのノズル面を払拭するヘッドクリーニング技術に関する。【背景技術】【0002】インクジェット記録装置では、ヘッドのノズル面(ノズルが形成されている面)が汚れていると、吐出不良を生じる。このため、定期的にノズル面の清掃が行われる。【0003】ノズル面を清掃する方法としては、従来、ブレードでノズル面を払拭して清掃する方法や、ウェブでノズル面を払拭して清掃する方法などが知られている。」
ウ 「【発明が解決しようとする課題】【0007】吸収性を有する長尺状のウェブ等の払拭部材でヘッドを払拭する場合、払拭部材の吸収能力によって払拭性が異なってくる。【0008】続きを表示(全17行)例えば、払拭部材中の洗浄液量が多い状態でヘッドのノズル面を払拭すると、ノズル内部に洗浄液を押し込んでしまう懸念がある。ノズル内部に洗浄液が進入すると、ノズル開口近傍のインクの粘度や表面張力が変化し、吐出方向性が悪化する。これを回避するためには、洗浄後の予備吐出数を多くする必要があるが、インクや時間が無駄になるという問題点がある。【0009】また、洗浄液量が少ない状態でヘッドのノズル面を払拭すると、払拭部材の吸収能力によりノズル内部のインクを引き出してしまう。その結果、ノズル面にスジ上の拭き残し跡をつけ、この拭き残し跡がノズル近傍で固化してしまうと、吐出方向性に影響を及ぼしてしまう。【0010】さらに、払拭部材の洗浄液の吸収度合いの均一性が低いときも同様であり、いずれも払拭後の吐出に悪影響を与える。これを回避するためには、洗浄液供給後、均一にぬれ広がるまで払拭を行わずに待機することが必要となるが、メンテナンスに要する時間が長くなり、生産性の低下が懸念される。【0011】このように、払拭部材に洗浄液を供給する際には、最適な払拭部材の吸収能力を維持することが大切である。【0012】しかし、特許文献1では、上流側に位置する洗浄液タンク及び塗布ローラによって洗浄材に洗浄液が供給されており、洗浄液量をコントロールすることが難しいという欠点がある。また、均一な供給ができないという問題点もある。【0013】また特許文献2の技術では、洗浄液を均一に含浸させることができるものの、払拭部材上で均一にぬれ広がるまでの時間がかかるという欠点がある。【0014】本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、払拭部材の吸収能力を適切な状態に保ちつつ払拭することで、払拭時のノズルからの洗浄液の進入やインクの引き出しを抑制し、吐出安定性を向上させるノズル面清掃装置及びインクジェット記録装置を提供することを目的とする。」
エ 「【0051】(洗浄液付与部の構成)洗浄液付与部140は、主として、アニロクスロール142と、貯留された洗浄液にアニロクスロール142の一部が浸漬される洗浄液トレイ144と、アニロクスロール142に当接して表面の余分な洗浄液を除去するドクターブレード146と、アニロクスロール142に当接して回転する中間ロール148と、中間ロール148に当接して回転する転写ロール150と、洗浄液が貯留される洗浄液タンク152と、洗浄液タンク152と洗浄液トレイ144とを繋ぐ洗浄液配管154と、洗浄液トレイ144から洗浄液トレイ144に洗浄液を送液する洗浄液ポンプ156と、を備えて構成される。」
オ 「【0075】なお、アニロクスロール142の回転速度を制御することで、払拭ウェブ112の洗浄液量を調整することができる。例えばアニロクスロール142の回転速度を上げることで、転写ロール150の回転速度が払拭ウェブ112の走行速度よりも速くなり、転写ロール150の表面と払拭ウェブ112の表面との間でスリップし、払拭ウェブ112に付与される洗浄液量が増加する。【0076】このように、アニロクスロール142及びドクターブレード146によって計量された洗浄液は、払拭ウェブ112に定量付与される。ここで、払拭ウェブ112の適量(ノズル面33を払拭するのに適した量)の洗浄液量は、払拭ウェブ112の吸収能力、ノズル面33の撥液性(インクの接触角)、インクの物性、ノズル径によって決まる。【0077】また、適量の洗浄液量は、インクジェットヘッド32C、32M、32Y、32Kによっても異なる。したがって、必要な洗浄液の量に応じて、アニロクスロール142の回転速度及びセル径を決定すればよい。」
カ 「【0094】ここでは、ノズル面33を1回だけ払拭清掃したが、ノズル面33の汚れの状態に応じて、払拭回数を制御するように構成してもよい。ノズル面33の汚れの状態は、前回のノズル面清掃からの経過時間やヘッド32の吐出数、印刷枚数等から推測する。【0095】前回のノズル面清掃からの経過時間が所定時間より長い、又はヘッド32のノズルの吐出数や印刷枚数が所定数より多い場合には、ノズル面33の汚れが多いと判断し、複数回払拭を実施する。【0096】複数回払拭は、汚れを除去するための払拭を行った後、最後にノズル面33のメニスカスを整える仕上げ払拭を実施する。例えば3回の払拭を行う場合であれば、1回目、2回目は汚れを除去するための払拭を行い、3回目に仕上げ払拭を行う。【0097】汚れを除去するための払拭は、液膜ロール160の回転速度を速くすることにより、洗浄液の供給量を多くした払拭とする。例えば、払拭ウェブ112に含まれる洗浄液量を適量よりも増やす。払拭ウェブ112に含まれる洗浄液量を増やすことで、ノズル面33の汚れが多い状態でも、適切に汚れを除去することができる。」
キ 上記イに、定期的にノズル面を清掃すること及び、その方法がよく知られていることが記載されていることからして、引用例には、ノズル面清掃装置のみならず、実質的に、ノズル面清掃装置を用いたノズル面清掃方法が記載されているものと認められる。
ク 上記カより、ヘッドのノズルの吐出数や印刷枚数が所定数より多い場合には、ノズル面の汚れが多いと判断し、複数回払拭を実施する払拭方法が記載されているものと認められる。
ケ インクジェットヘッドから吐出されるインクが顔料及び樹脂の少なくともいずれかの成分を含有することは、インクジェット記録技術における技術常識といえる事項であるから、引用例に記載されたインクが顔料及び樹脂の少なくともいずれかの成分を含有することは、明らかな事項である。
そうすると,上記記載事項ア乃至カ及び認定事項キ乃至ケより,引用例には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「インクが顔料及び樹脂の少なくともいずれかの成分を含有するインクを吐出するインクジェットヘッドのノズル面を清掃するノズル面清掃装置を用いたノズル面清掃方法において、吸収性を有する長尺状の払拭部材を長手方向に所定の搬送経路に沿って走行させる払拭部材走行駆動手段と、前記払拭部材に洗浄液を定量付与することで払拭部材を前記インクジェットヘッドの払拭に適した量の洗浄液により湿潤された状態とする洗浄液付与手段と、前記洗浄液が付与された払拭部材を前記ノズル面に押圧当接させる押圧手段と、前記ノズル面に押圧当接された払拭部材が前記払拭部材走行駆動手段により走行しながら前記ノズル面に沿って摺動するように前記払拭部材と前記インクジェットヘッドとを相対的に移動させることで、前記ノズル面を前記洗浄液が定量付与された払拭部材で順次払拭する払拭手段と、を備え、ヘッドのノズルの吐出数や印刷枚数が所定数より多い場合には、ノズル面の汚れが多いと判断し、複数回払拭を実施する、ノズル面清掃装置を用いたノズル面清掃方法。」
(3)当審の判断
ア 本件補正発明1と引用発明との対比
(ア)後者の「インクが顔料及び樹脂の少なくともいずれかの成分を含有するインク」、「インクを吐出するインクジェットヘッド」、「ノズル面を清掃するノズル面清掃装置を用いたノズル面清掃方法」、「押圧手段」、「払拭部材」は,それぞれ,前者の「顔料及び樹脂の少なくともいずれかを含有するインクジェットインク」、「インクを吐出するインク吐出ヘッド」、「ノズル面を洗浄するインク吐出ヘッドの洗浄方法」、「押圧部材」、「払拭部材」に相当する。
(イ)後者の「ノズル面を清掃するノズル面清掃装置を用いたノズル面清掃方法」は、「払拭部材に洗浄液を定量付与することで払拭部材を前記インクジェットヘッドの払拭に適した量の洗浄液により湿潤された状態とする」「洗浄液付与手段」を備えることにより、押圧手段によりノズル面に押圧当接させられる払拭部材に洗浄液を定量付与するものであるから、前者の「ノズル面を洗浄するインク吐出ヘッドの洗浄方法」と後者の「ノズル面を清掃するノズル面清掃装置を用いたノズル面清掃方法」とは、「押圧部材上の払拭部材に洗浄液を付与する工程」を備える点で一致する。
(ウ)後者の「ノズル面を清掃するノズル面清掃装置を用いたノズル面清掃方法」は、「前記洗浄液が付与された払拭部材を前記ノズル面に押圧当接させる」「押圧手段」及び、「前記ノズル面に押圧当接された払拭部材が前記払拭部材走行駆動手段により走行しながら前記ノズル面に沿って摺動するように前記払拭部材と前記インクジェットヘッドとを相対的に移動させることで、前記ノズル面を前記洗浄液が定量付与された払拭部材で順次払拭する」「払拭手段」を備えることにより、洗浄液を付与した払拭部材でノズル面を払拭するものであるから、前者の「ノズル面を洗浄するインク吐出ヘッドの洗浄方法」と後者の「ノズル面を清掃するノズル面清掃装置を用いたノズル面清掃方法」とは、「洗浄液を付与した払拭部材でノズル面を払拭する工程」を備える点で一致する。
イ 本件補正発明1と引用発明の一致点と相違点について
上記アの対比を踏まえると,本件補正発明1と引用発明とは,つぎの一致点で一致し,相違点において相違する。
[一致点]
「顔料及び樹脂の少なくともいずれかを含有するインクジェットインクを吐出するインク吐出ヘッドのノズル面を洗浄するインク吐出ヘッドの洗浄方法であって、押圧部材上の払拭部材に洗浄液を付与する工程と、洗浄液を付与した払拭部材で前記ノズル面を払拭する工程と、を含む、インク吐出ヘッドの洗浄方法。」
[相違点]
本件補正発明1は、「払拭部材に付与する洗浄液の付与量が、連続記録時間により制御される」ものであるのに対し、引用発明は、「ヘッドのノズルの吐出数や印刷枚数が所定数より多い場合には、ノズル面の汚れが多いと判断し、複数回払拭を実施する」ものである点。
ウ 上記相違点についての検討
(ア)インクジェット記録技術において、ヘッドのノズルの吐出数や印刷枚数といえば、ワンジョブにおけるカウントであることは技術常識といえることからして、引用発明において、ヘッドのノズルの吐出数や印刷枚数に比例して、連続記録時間が長くなることも技術常識といえる事項である。
(イ)引用発明は、ヘッドのノズルの吐出数や印刷枚数について「所定数」を境界として、当該「所定数」より多い場合には、ノズル面の汚れが多いと判断し、複数回払拭を実施するものであるところ、上記(ア)のとおり、ヘッドのノズルの吐出数や印刷枚数に比例して、連続記録時間が長くなるのであるから、ヘッドのノズルの吐出数や印刷枚数について「所定数」以下の場合、すなわち、連続記録時間が「所定時間」より短い場合には、ノズル面の汚れが多いとは判断せず、1回、もしくは、ノズル面の汚れが多いと判断した場合に実施する複数回より少ない回数、払拭を実施するものと認める。
(ウ)ここで、引用発明において、ヘッドのノズルの吐出数や印刷枚数について、「所定数」の数倍のヘッドのノズルの吐出数や印刷枚数となった場合には、ヘッドのノズルの吐出数や印刷枚数について「所定数」より多い場合に実施していた複数回の払拭では不十分であることは、想定し得るところである。
(エ)そして、引用発明においては、適量の洗浄液により湿潤された状態の払拭ウェブで払拭するものであるところ、引用発明が解決しようとする課題からすれば、払拭1回あたりにつき、適量の洗浄液で払拭ウェブを湿潤しなければ、払拭効果が劣ることは明らかである。
(オ)そうすると、引用発明のヘッドのノズルの吐出数や印刷枚数が多くなればなるほど、払拭回数は多くなり、結果として、洗浄液の付与量が増加することは明らかなことである。
(カ)ここで、上記(ア)のとおり、ヘッドのノズルの吐出数や印刷枚数が多くなればなるほど、連続記録時間は長くなるという比例関係にあるのだから、引用発明の「ヘッドのノズルの吐出数や印刷枚数」に替えて、「連続記録時間」とすることは容易になし得るものである。
(キ)そして、上記(オ)及び(カ)から、引用発明の「ヘッドのノズルの吐出数や印刷枚数」に替えて、「連続記録時間」とすることにより、連続記録時間が多い場合には、ノズル面の汚れが多いと判断し、洗浄液の付与量が増加することとなり、結果として、洗浄液の付与量が、連続記録時間により制御されることとなる。
(ク)すなわち、引用発明において、「ヘッドのノズルの吐出数や印刷枚数」に替えて、「連続記録時間」とすることにより、以て、上記相違点の構成とすることは当業者が容易に想到し得るものである。
(ケ)そして、本件補正発明1の発明特定事項によって奏される効果も、引用発明から、当業者が予測し得る範囲内のものである。
(コ)したがって、本件補正発明1は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
エ 請求人の主張について
請求人は、審判請求書において“しかしながら、吐出数や印刷枚数は、連続記録時間とは直接的に関係しない数値です。例えば、合計の吐出数や印刷枚数が同じであっても、途中で記録を休止した場合、ノズル内のインクに含まれる液体成分が揮発するため、インクの粘度が上昇(増粘)し、ノズル面の洗浄が困難となる場合があります。そのため、吐出数や印刷枚数が少ない(記録時間が短い)場合であっても、洗浄液の付与量が多く必要になる場合があります。補正後の本願発明のように、連続記録時間を指標として、洗浄液の付与量を制御することで、効率よく良好な洗浄を行うことができます。”旨、主張する。
(ア)しかし、願書に添付した明細書(以下「明細書等」とい。)の発明の詳細な説明には、「【0029】…連続記録の場合には、記録開始(T0)-記録終了(T1)から、記録時間Tpを求める。なお、間欠記録の場合には、個別の記録時間の合計から記録時間Tpを求めることができる。 洗浄液の付与量の段階を選択する際の記録時間(X、Y)や、洗浄液の付与量の設定は、使用するインクや洗浄液により変更することが可能である。また、通常量と多量や、少量と通常量などの複数の設定量から選択されることが好ましい。」と記載され、「連続記録」は、「間欠記録」とは異なる概念として記載されている。
(イ)すなわち、審判請求書で主張する「途中で記録を休止した場合」とは、明細書等においては、「間欠記録」のことを意味し、「連続記録」とは区別されているものと認められる。
(ウ)そうすると、引用発明の「ヘッドのノズルの吐出数や印刷枚数が所定数より多い場合」とは「連続記録」に相当する場合であるとみなせるのであって、請求人の審判請求書での主張は、明細書等の記載に基づかず、理由のないものと言わざるを得ない。
オ 小括
上記で検討したとおり,本件補正発明1は,引用発明から,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(4)独立特許要件についての検討のまとめ
以上検討したように,本件補正発明1は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって,本件補正発明1は,特許出願の際,独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は,特許法第17条の2第6項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に違反する。
4 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり,本件補正は,上記において検討したように,本件補正発明1は特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから,本件補正は,同法第159条第1項で読み替えて準用する第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,令和2年6月15日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】インク吐出ヘッドのノズル面を洗浄するインク吐出ヘッドの洗浄方法であって、押圧部材上の払拭部材に洗浄液を付与する工程と、洗浄液を付与した払拭部材で前記ノズル面を払拭する工程と、を含み、前記払拭部材に付与する前記洗浄液の付与量が、記録時間により制御されることを特徴とするインク吐出ヘッドの洗浄方法。」(以下「本願発明」という。)
2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は,令和2年11月6日付けの拒絶理由通知書により通知された次に示すものを含むものである。
(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された特開2012-171346号公報に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3 引用例
令和2年11月6日付けの拒絶理由通知に引用された引用例,及び,その記載内容は上記「第2 3 (2)」に記載したとおりである。
4 対比・判断
(1)対比
本願発明は,実質的に,本件補正発明1の「連続」との限定を省くものである。
そうすると,本願発明と引用発明とを対比すると,上記「第2 4 (3)イ」での検討を勘案すると,両者は,上記[相違点]で相違するのみである。
してみると,上記「第2 4 (3)ウ」における検討内容を踏まえれば,上記と同様の理由により,本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
5 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
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2021-010691