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特許拒絶査定不服審判

2021-010645

内燃機関

審判番号
2021-010645
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2018-024121外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2021年08月10日
審決日
2022年03月29日
公報発行日
2022年06月24日
結論
請求不成立
審判長/審判官
分類
P18 .121-Z (F02F)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2018-24121「内燃機関」拒絶査定不服審判事件〔令和元年8月22日出願公開、特開2019-138264〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 この出願(以下、「本願」という。)は、平成30年2月14日の出願であって、令和3年1月26日付け(発送日:同年2月2日)で拒絶理由が通知され、同年4月2日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月10日付け(発送日:同年5月18日)で拒絶査定がされ、これに対して、同年8月10日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正がされたものである。 第2 令和3年8月10日にされた手続補正についての補正の却下の決定 〔補正の却下の決定の結論〕 令和3年8月10日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 〔理由〕 1 本件補正発明 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正前(令和3年4月2日の手続補正書)の請求項1として、 「【請求項1】 隣接気筒を仕切るように形成された隔壁を有するシリンダブロックと、 カウンターウェイトを有するクランクシャフトと、 ピストン下死点位置よりも下方、かつ前記クランクシャフトの軸方向から見て前記カウンターウェイトの回転半径内において前記隔壁に形成され、前記隣接気筒間を連通する通気孔と、 を備え、 前記カウンターウェイトは、前記クランクシャフトの回転中に前記通気孔と対向する領域の少なくとも一部に形成された凹部及び貫通孔の双方を含み、 前記凹部は前記通気孔から離れる方向に窪み、前記貫通孔は前記通気孔から離れる方向において前記カウンターウェイトを貫通しており、 前記クランクシャフトの回転中に前記通気孔と対向する前記領域の一部に前記凹部が形成され、前記領域の他の一部又は残りの部分に前記貫通孔が形成されている ことを特徴とする内燃機関。」 とあったものを、 「【請求項1】 隣接気筒を仕切るように形成された隔壁を有するシリンダブロックと、 カウンターウェイトを有するクランクシャフトと、 ピストン下死点位置よりも下方、かつ前記クランクシャフトの軸方向から見て前記カウンターウェイトの回転半径内において前記隔壁に形成され、前記隣接気筒間を連通する通気孔と、 を備え、 前記カウンターウェイトは、前記クランクシャフトの回転中に前記通気孔と対向する領域の少なくとも一部に形成された凹部及び貫通孔の双方を含み、 前記凹部は前記通気孔から離れる方向に窪み、前記貫通孔は前記通気孔から離れる方向において前記カウンターウェイトを貫通しており、 前記クランクシャフトの回転中に前記通気孔と対向する前記領域の一部に前記凹部が形成され、前記領域の他の一部又は残りの部分に前記貫通孔が形成されており、 前記凹部の深さは、前記クランクシャフトの径方向における前記凹部の一端における前記カウンターウェイトの厚さと、前記凹部の他端における前記カウンターウェイトの厚さとの和の平均値に1/3を乗じて得られる値以上となるように設定されている ことを特徴とする内燃機関。」 と補正することを含むものである(下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。)。 上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「カウンターウェイト」に形成された「凹部の深さ」について、「前記クランクシャフトの径方向における前記凹部の一端における前記カウンターウェイトの厚さと、前記凹部の他端における前記カウンターウェイトの厚さとの和の平均値に1/3を乗じて得られる値以上となるように設定されている」という限定を付加するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて、検討する。 2 引用文献、引用発明 (1)引用文献1 原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開平7-217496号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「内燃機関のクランクシャフト」に関して、図面(特に、図1ないし4を参照。)と共に次の記載がある(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。 ア「【請求項1】 各気筒のシリンダ部から下方に延びてクランクケース内の空間を各気筒別に隔離する隔壁を有し、ピストンの運動方向が互いに逆となるクランク角領域を有する互いに隣接した気筒間の前記隔壁に通気孔を備える内燃機関に組み込むクランクシャフトであって、 カウンタウェイトの、前記内燃機関の運転中に前記通気孔とオーバラップする部位に通気通路を形成したことを特徴とする内燃機関のクランクシャフト。」 イ「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、内燃機関のクランクシャフトに係り、特に内燃機関運転時における気筒内圧力変動を抑制すべく各気筒を隔離する隔壁に通気孔を備える内燃機関に組み込むクランクシャフトに関する。 【0002】 【従来の技術】近年では、内燃機関のコンパクト化に伴って、内燃機関の内部においてクランクシャフトを収納把持するクランクケースの空間容積が小さくなる傾向にある。ここで、内燃機関においては、各気筒のシリンダ部からクランクケース内に延びて各気筒間を隔離する隔壁と、その隔壁の下端に装着されるベアリングキャップとでクランクシャフトのベアリングハウジングを構成し、クランクシャフトの下部空間で各気筒間を連通するのが一般的である。」 ウ「【0008】 【発明が解決しようとする課題】ところで、内燃機関に組み込まれるクランクシャフトは、ピストンに連結されるクランクピンの反対側に、クランクピンを挟み込むように一対のカウンタウェイトを備えるのが一般的である。内燃機関の運転中における振動を防止するために、回転モーメントをその回転中心に対してバランスさせる必要があるからである。 【0009】このため、内燃機関の運転中は、クランクシャフトのジャーナル部を中心としてカウンタウェイトが回転することになるが、かかる構成によれば、ピストンが下死点付近に到達すると、その気筒に対応して設けられたカウンタウェイトはほぼ上昇側変位端付近に位置することになり、当該気筒と隣接する気筒とを隔離すべく設けられた隔壁に近接した状態となる。 【0010】この際、上記従来の内燃機関の如く、隔壁に通気孔が設けられているとすれば、クランクシャフトのカウンタウェイト部は、その通気孔とオーバーラップした状態となり、内燃機関がコンパクト化されている場合には、折角設けた通気孔の通気性が、カウンタウェイトにより妨げられて結局気筒間の通気性が確保できない事態を生ずる。 【0011】特に上記した4気筒式内燃機関においては、何れかの気筒において吸気が開始される際には、すなわちピストンが上死点から下死点に向けて変位を開始する際には、隔壁の通気孔が常に隣接する気筒のカウンタウェートにより遮断され、ポンピングロスの低減効果が著しく減殺されるという問題を有していた。 【0012】本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、カウンタウェートの、内燃機関の運転中において隔壁に設けられた通気孔とオーバーラップする部位に通気通路を形成することにより上記の課題を解決する内燃機関のクランクシャフトを提供することを目的とする。」 エ「【0015】 【作用】本発明に係るクランクシャフトにおいて、前記カウンタウェイトに形成した前記通気孔は、当該カウンタウェイトを備える気筒のピストンが下死点付近に達し、当該カウンタウェイトが前記隔壁に設けられた通気孔とオーバーラップする際に、そのオーバーラップに関わらず前記通気孔が実質的に閉塞されるのを防止する。」 オ「【0017】 【実施例】図1は、本発明の一実施例であるクランクシャフトを用いて構成した内燃機関10の全体構成図を示す。ここで、同図(A)はその側面断面図を、同図(B)はそのB-B断面図を示す。 【0018】同図(A)に示すように、内燃機関10は、直列4気筒式内燃機関であり、シリンダブロック12は、第1気筒♯1~第4気筒♯4に対応するシリンダボア14-1~14-4を備え、またシリンダ部から下部に向かって延設され、クランクケース内において各気筒♯1~♯4を隔離する隔壁161-2,162-3,163-4を備えている。」 カ「【0020】クランクシャフト24は、第1気筒♯1及び第4気筒♯4について同位相に設けられたクランクピン24-1,24-4、第2気筒♯2及び第3気筒♯3に対応して、クランクピン24-1,24-4に対して180°位相をずらして同位相に設けられたクランクピン24-2,24-3、及び個々のクランクピン24-1~26-4を挟み込むように、その反対側に設けられた4対のカウンタウェイト24-1a,24-1b、24-2a,24-2b、24-3a,24-3、24-4a,24-4bを備えている。」 キ「【0023】ここで、本実施例のクランクシャフト24は、第1気筒♯1及び第2気筒♯2に対応して形成した部分の斜視図である図2にも示すように、隔壁161-2、及び163-4に対向して設けられるカウンタウェイト24-1b,24-2a、及び24-3b,24-4aに、前記した通気通路に相当する貫通孔25-1,25-2,25-3,25-4を備えており、この点に特徴を有している。」 ク「【0026】ところで、4気筒式の内燃機関においては、♯1と♯2、及び♯3と♯4が180°の位相差でピストンがストロークする組み合わせであることは前記した通りであるが、このため、本実施例のシリンダブロック12は、第1気筒♯1と第2気筒♯2とを隔離する隔壁161-2、及び第3気筒♯3と第4気筒♯4とを隔離する隔壁163-4に、それぞれ隣接する気筒間の通気性を確保すべく通気孔34,36を備えている。 【0027】以下、本実施例の内燃機関10における通気孔34,36、及び貫通孔25-1~25-4の機能について説明するが、通気孔34と36、及び貫通孔25-1,25-2と25-3,25-4とは、その構成において異なるところがないため、以下においては便宜上通気孔34と貫通孔25-1,25-2との組み合わせに限って説明を行う。 【0028】ところで、隔壁161-2に通気孔34が設けられていないとすると、図1(A)に示す状態からピストン28-1が下降を、ピストン28-2が上昇を開始すると、ピストン28-1下部空間の内圧は上昇し、またピストン28-2下部空間の内圧は低下する。 【0029】この際、内燃機関10の回転数がさほど高くなく、クランクシャフト24の下方空間において第1気筒♯1と第2気筒♯2とが実質的に導通した状態であれば、発生した内圧差はベアリングキャップ22-1周辺を流通する空気の流れにより相殺されて、内燃機関10として適切な圧力分布を維持することができる。 【0030】しかし、内燃機関10が高回転領域で運転している場合は、内燃機関10の振動、潤滑オイル32とクランクピン24-1~24-4との衝突等に起因して潤滑オイル32の油面が揺動し、また多量の潤滑オイルが循環されることに起因してクランクシャフト24の下部空間が多量のオイルミストで満たされることから、ベアリングキャップ22-1の周辺に高い通気抵抗が発生する。 【0031】このようにベアリングキャップ22-1の周辺において高い通気抵抗が生ずると、従前においてその空間を流通していた空気の流通が阻害され、第1気筒♯1と第2気筒♯2の内圧差が相殺し得なくなる。つまり、下死点へ向かって変位するピストン28-1に対しては、比較的高圧力が、上死点へ向かって変位するピストン28-2に対しては比較的低圧が、その下部空間に発生することになり、内燃機関10のポンピングロスが助長される事態を招く。 【0032】また、このように両気筒♯1,♯2内の内圧が相殺し得なくなれば、潤滑オイル32の表面はその内圧差に従って更に揺動することになり、より多量のオイルミストの発生を促進し、従ってクランクシャフト24の下部空間の通気抵抗をより高め、一層内燃機関の出力特性を悪化させることになる。 【0033】これに対して、本実施例の内燃機関10においては、クランクシャフト24の下部空間に比べてオイルミストの濃度が低い空間に開口する通気孔34を備えている。このため、クランクシャフト24の下部空間の通気抵抗が高まった場合でも、この通気孔34の通気性が確保されていれば、両気筒♯1及び♯2の導通状態を維持することが可能である。 【0034】ところで、図1に示すように内燃機関10においては、第1気筒♯1と第2気筒♯2とを隔離する隔壁161-2の近傍をカウンタウェイト24-1b,24-2aが回動し、交互に通気孔34に対してオーバーラップする構成である。従って、カウンタウェイト24-1b,24-2aに何ら通気通路に相当するものが設けられていないとすれば、通気孔34を設けたことによる通気性が著しく減殺されて有効なポンピングロスの低減を実現することができない。 【0035】この点、本実施例のクランクシャフト24は、上記したように通気孔34又は36に対向して回動するカウンタウェイト24-1b,24-2a又は24-3b,24-4aにそれぞれ貫通孔25-1,25-2又は25-3,25-4を備えている。また、これらの貫通孔25-1~25-4は、図3に示すように、ピストン28-1~28-4が下死点に達した際に通気孔34又は36と重なり合うようにその位置が設定されている。 【0036】このため、ピストン28-1~28-4がストロークする過程でカウンタウェイト24-1b,24-2a,24-3b,24-4aの多大な面積が通気孔34にオーバーラップするにも関わらず、最も大面積のオーバラップを生ずる下死点到達時においては、通気孔34,36及び貫通孔25-1~25-4を介して気筒間の通気性が適当に確保されることになる。 【0037】従って、第1気筒♯1又は第2気筒♯2において吸気工程が開始される際には、両気筒♯1、♯2のピストン28-1,28-2下部空間に不当な内圧差が生ずることがなく、内燃機関10のポンピングロスを有効に低減することができる。尚、かかる効果は、内燃機関10をコンパクトに設計した場合、すなわち隔壁161-2,163-4に対してカウンタウェイト24-1b,24-2a,24-3b,24-4aを近接して設けざるを得ない場合に特に顕著である。」 ケ「【0038】尚、上記実施例においては、クランクシャフト24に設けた貫通穴25-1~25-4により前記した通気通路を構成することとしているが、前記した通気通路の構成は、かかる構成に限定するものではない。 【0039】すなわち、図4及び図5は、前記した通気通路を、それぞれ通気孔34又は36側に設けられた通気溝42-1~42-4で、又は貫通通路52-1a~52-4aと通気孔34,36側にのみ開口した開口部52-1b~52-4bとで構成したクランクシャフト40,50の一部の斜視図を示したものであるが、これらの構成によっても所望の効果を得ることができる。 【0040】この場合、図4に示すクランクシャフト40においては、カウンタウェイト24-1b,24-2a(及び24-3b,24-4a)全体に渡って通気溝42-1,42-2(42-3,42-4)が設けられるため、また図5に示すクランクシャフト50においては、貫通通路52-1a~52-4aの作用により、クランクシャフト40,50の回転角によらず常に良好な通気性を得ることができる。 【0041】ところで、上記した各実施例は、内燃機関が4気筒式であること、すなわち♯1と♯2のピストン28-1,28-2、及び♯3と♯4のピストン28-3,28-4が互いに180°の位相差を以てストロークする場合に限定しているが、これに限るものではない。 【0042】すなわち、本実施例の要部である貫通孔は、隣接する気筒のピストン下部空間のうち一方が増圧、他方が減圧過程である場合において、両気筒間の通気性を確保する点に特徴を有するものである。 【0043】従って、例えば隣接する気筒のピストンが120°の位相差を以てストロークする6気筒式の内燃機関について適用することも可能であり、この場合は隔壁を介して隣接する2つの気筒のピストン下部空間の一方が増圧、他方が減圧過程となる領域、すなわち一方のピストンの上昇と他方のピストンの下降とがオーバーラップする120°CAの領域において有効に通気性向上効果を発揮させることができる。」 コ「【0056】 【発明の効果】上述の如く、請求項1記載の発明によれば、内燃機関の各気筒においてピストンが下死点付近に位置する際に、カウンタウェイトが隔壁に設けた通気孔とオーバラップしても、通気通路を介して通気孔の開口状態が維持できるため、そのオーバーラップにより気筒間の通気性が阻害されることがない。 【0057】このため、各気筒におけるピストン下部空間の圧力変動を効果的に抑制することが可能となり、従来に比べてポンピングロスを低減して内燃機関の出力特性を改善することができると共に、カウンタウェイトによる通気孔の閉塞を考慮する必要がないことから、内燃機関の体格を、従来より一層コンパクトにすることができる。 【0058】また、請求項2記載の発明によれば、ピストンが上死点から下死点へ向かう過程においてピストン下部空間から強制的に空気を排出し、又はピストンが下死点から上死点へ向かう過程において、ピストン下部空間に強制的に空気を吸引することができる。 【0059】従って、本発明に係るクランクシャフトを用いた場合、ピストンのストロークに伴うピストン下部空間の内圧変化を積極的に抑制することが可能となり、かかる内圧変化に起因する内燃機関のポンピングロスを有効に低減して、内燃機関の出力特性の改善を図ることが可能である。」 サ 上記クの記載事項並びに図1及び3の図示内容からみて、引用文献1記載の通気孔34、36は、ピストン28-1~28-4の下死点位置よりも下方において、隔壁161-2、163-4に形成されたものである。 シ 上記ケの記載事項並びに図1及び4の図示内容からみて、通気溝42-1、42-2、42-3、42-4は、通気孔34、36から離れる方向に窪んでいるものであって、クランクシャフト40の回転角によらず良好な通気性を得ることができる程度の深さの溝であるといえる。 ス 上記クの記載事項並びに図1及び2の図示内容からみて、貫通孔25-1、25-2又は25-3、25-4は、通気孔34、36から離れる方向においてカウンタウェイト24-1b、24-2a又は24-3b、24-4aを貫通するものである。 上記記載事項アないしコ及び認定事項サないしス並びに図面の図示内容(特に、図1ないし4)を総合し、本件補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 〔引用発明〕 「隣接する第1気筒♯1と第2気筒♯2及び隣接する第3気筒♯3と第4気筒♯4をそれぞれ隔離する隔壁161-2及び隔壁163-4を有するシリンダブロック12と、 カウンタウェイト24-1a~24-4a、24-1b~24-4bを有するクランクシャフト24又は40と、 ピストン28-1~28-4の下死点位置よりも下方、かつ前記クランクシャフトの軸方向から見て前記カウンタウェイト24-1a~24-4a、24-1b~24-4bの回転してオーバーラップする部位において前記隔壁161-2及び隔壁163-4に形成され、前記隣接する第1気筒♯1と第2気筒♯2の間及び第3気筒♯3と第4気筒♯4の間を連通する通気孔34、36と、 を備え、 前記カウンタウェイト24-2a、24-4a、24-1b、24-3bは、前記クランクシャフト24又は40の回転中に前記通気孔34、36とオーバーラップする部位に形成された通気溝42-1、42-2、42-3、42-4又は貫通孔25-1、25-2、25-3、25-4のいずれか一方を含み、 前記通気溝42-1、42-2、42-3、42-4は前記通気孔34、36から離れる方向に窪み、前記貫通孔25-1、25-2、25-3、25-4は前記通気孔34、36から離れる方向において前記カウンタウェイト24-1b、24-2a又は24-3b、24-4aを貫通しており、 前記クランクシャフト40の回転中に通気孔34、36とオーバーラップする部位に通気溝42-1、42-2、42-3、42-4が形成されているか、又は、前記クランクシャフト24の回転中に通気孔34、36とオーバーラップする部位に貫通孔25-1、25-2、25-3、25-4が形成されており、 前記通気溝42-1、42-2、42-3、42-4の深さが、クランクシャフト40の回転角によらず良好な通気性を得ることができる程度の深さで設けられている、 内燃機関。」 3 対比・判断 (1)対比 ア 本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「隣接する第1気筒♯1と第2気筒♯2及び隣接する第3気筒♯3と第4気筒♯4」はその機能、構成又は技術的意義からみて本件補正発明の「隣接気筒」に相当し、以下同様に、「隔壁161-2及び隔壁163-4」は「隔壁」に、「シリンダブロック12」は「シリンダブロック」に、「カウンタウェイト24-1a~24-4a、24-1b~24-4b」は「カウンターウェイト」に、「クランクシャフト24、40」は「クランクシャフト」に、「ピストン28-1~28-4」は「ピストン」に、「通気孔34、36」は「通気孔」に、「オーバーラップする部位」は「対向する領域の少なくとも一部」に、「通気溝42-1、42-2、42-3、42-4」は「凹部」に、「貫通孔25-1、25-2、25-3、25-4」は「貫通孔」に、それぞれ相当する。 イ 引用発明の「隔壁161-2及び隔壁163-4」は、「隣接する第1気筒♯1と第2気筒♯2」及び「隣接する第3気筒♯3と第4気筒♯4」をそれぞれ隔離するものであるから、「仕切るように形成された」ものといえる。 ウ 引用発明の「通気孔34、36」は、クランクシャフト24の軸方向から見て「カウンタウェイト24-1a~24-4a、24-1b~24-4b」の「回転してオーバーラップする部位」において「隔壁161-2及び隔壁163-4」に形成されたものであるから、「カウンタウェイト24-1a~24-4a、24-1b~24-4b」の「回転半径内」において形成されたものといえる。 エ 上記相当関係から、引用発明の「前記通気溝42-1、42-2、42-3、42-4の深さはクランクシャフト40の回転角によらず良好な通気性を得ることができる程度の深さで設けられている」と本件補正発明の「前記凹部の深さは、前記クランクシャフトの径方向における前記凹部の一端における前記カウンターウェイトの厚さと、前記凹部の他端における前記カウンターウェイトの厚さとの和の平均値に1/3を乗じて得られる値以上となるように設定されている」とは、「凹部の深さが所定の深さで設定されている」という限りにおいて一致する。 そうすると、本件補正発明と引用発明との間には、次の一致点及び相違点がある。 〔一致点〕 「隣接気筒を仕切るように形成された隔壁を有するシリンダブロックと、 カウンターウェイトを有するクランクシャフトと、 ピストン下死点位置よりも下方、かつ前記クランクシャフトの軸方向から見て前記カウンターウェイトの回転半径内において前記隔壁に形成され、前記隣接気筒間を連通する通気孔と、 を備え、 前記カウンターウェイトは、前記クランクシャフトの回転中に前記通気孔と対向する領域の少なくとも一部に形成された凹部又は貫通孔のいずれか一方を含み、 前記凹部は前記通気孔から離れる方向に窪み、前記貫通孔は前記通気孔から離れる方向において前記カウンターウェイトを貫通しており、 前記凹部の深さは、所定の深さで設定されている、 内燃機関。」 〔相違点1〕 本件補正発明は、前記カウンターウェイトは、前記クランクシャフトの回転中に前記通気孔と対向する領域の少なくとも一部に形成された凹部「及び」貫通孔の「双方」を含み、 「前記クランクシャフトの回転中に前記通気孔と対向する前記領域の一部に前記凹部が形成され、前記領域の他の一部又は残りの部分に前記貫通孔が形成されて」いるのに対し、 引用発明は、前記カウンタウェイト24-2a、24-4a、24-1b、24-3bは、前記クランクシャフト24又は40の回転中に前記通気孔34、36とオーバーラップする部位に形成された通気溝42-1、42-2、42-3、42-4「又は」貫通孔25-1、25-2、25-3、25-4の「いずれか一方」を含み、 「前記クランクシャフト40の回転中に通気孔34、36とオーバーラップする部位に通気溝42-1、42-2、42-3、42-4が形成されているか、又は、前記クランクシャフト24の回転中に通気孔34、36とオーバーラップする部位に貫通孔25-1、25-2、25-3、25-4が形成されて」いる点。 〔相違点2〕 本件補正発明は、「前記凹部の深さは、前記クランクシャフトの径方向における前記凹部の一端における前記カウンターウェイトの厚さと、前記凹部の他端における前記カウンターウェイトの厚さとの和の平均値に1/3を乗じて得られる値以上となるように設定されている」のに対し、 引用発明は、「前記通気溝42-1、42-2、42-3、42-4の深さが、クランクシャフト40の回転角によらず良好な通気性を得ることができる程度の深さで設けられている」点。 (2)判断 ア 上記相違点1について検討する。 引用発明の課題は、上記2(1)ウの引用文献1の記載事項にあるように、気筒間の隔壁に設けられた通気孔の通気性がカウンタウェイトにより阻害されることを解消するというものである。 そして、引用発明の「通気溝42-1、42-2、42-3、42-4」と「貫通孔25-1、25-2、25-3、25-4」はどちらも、気筒間の隔壁に設けられた通気孔34、36とカウンタウェイトがオーバーラップした場合でも通気性を確保するためにカウンタウェイトに設けられたものである(引用文献1の【0036】及び【0040】を参照。)。ここで、引用発明の「通気溝42-1、42-2、42-3、42-4」は、その作用効果として引用文献1の【0040】に記載されるとおり、「カウンタウェイト24-1b,24-2a(及び24-3b,24-4a)全体に渡って通気溝42-1,42-2(42-3,42-4)が設けられるため、・・・クランクシャフト40,50の回転角によらず常に良好な通気性を得ることができる。」という、「貫通孔」の有無とは関連しない効果を奏するものである。 そうすると、引用発明が前提とする気筒間の通気孔による通気性向上のために、「貫通孔」に加えて「通気溝」を付加することは、当業者が容易になし得たことである。 そして、「通気溝」はカウンタウエイト全体に渡って設けられるものであるから、クランクシャフトの回転中に通気孔と対向する領域の一部に「通気溝」が形成され、当該領域の残りの部分に「貫通孔」が形成されたものとすることは、「貫通孔」に「通気溝」を単に付加したものにすぎず、その点に困難性があるともいえない。 したがって、引用発明において、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 イ 上記相違点2について検討する。 引用発明の「通気溝」の深さは、クランクシャフト40の回転角によらず良好な通気性を得ることができる程度の深さで設けられている。隔壁に設けられた通気孔34、36にカウンタウェイトがオーバーラップしても良好な通気性を得るためには相応の深さの溝をカウンタウェイトに形成する必要があることは当業者にとって自明であるし、通気溝をある程度の値以上の深さとすれば相応に通気性が向上することも、当業者が通常予測し得ることである。また、引用文献1の図4にも相応の深さの通気溝が形成されたものが図示されている。 そして、上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項に関し、本願明細書の【0041】において「凹部48の深さがより大きい方が、凹部48を利用して通気孔46#12周りのガスの流れをより分散させられるので、カウンターウェイト24#1によるガスの流れの阻害を抑制するうえでは望ましい。このため、凹部48の深さが上記平均厚さの1/3以上であると、ガスの流れの阻害を効果的に抑制するうえで望ましい。」と記載されるのみであり、当該発明特定事項にどのような臨界的意義があるのか不明である。 そうすると、引用発明において、良好な通気性を得るための「通気溝」の深さとしてカウンタウェイトの平均厚さの1/3以上の深さとすることは、当業者が適宜設計し得た程度のことにすぎない。 したがって、引用発明において、上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 ウ 本件補正発明が奏する効果は、全体としてみても、引用発明及び引用文献1の記載事項から、当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものでない。 エ よって、本件補正発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 オ なお、審判請求人は、令和3年8月10日の審判請求書において、概略、以下の主張をしている。 (主張)本願の「凹部」に関連する「通気溝」に関して、引用文献1には、補正後の請求項1に記載のような、ガスの流れの阻害を効果的に抑制する上で望ましい具体的な深さの設定は何ら開示されておらず、その示唆もなされていない。 上記主張について検討する。 上記イの相違点2の検討において述べたとおり、引用発明において、良好な通気性を得るための「通気溝」の深さとしてカウンタウェイトの平均厚さの1/3以上の深さとすることは、当業者が適宜設計し得た程度のことにすぎず、上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 また、引用発明の「通気溝」はクランクシャフト40の回転角によらず良好な通気性を得ることができる程度の深さで設けられているものであり、カウンタウェイトが通気孔にオーバーラップする際に通気性を阻害することを解消するという課題を解決し得るものであるから、本件補正発明の奏する効果と同等の効果を奏するものといえる。 よって、審判請求人の上記主張は採用できない。 4 むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正(令和3年8月10日にされた手続補正)は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、令和3年4月2日の手続補正により補正がされた請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記「第2〔理由〕1」に補正前の請求項1として記載したとおりのものである。 2 原査定における拒絶の理由の概要 原査定における拒絶の理由の概要は、次のとおりである。 この出願については、令和3年1月26日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。なお、意見書及び手続補正書の内容を検討したが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。 備考 ●理由2(特許法第29条第2項)について ・請求項 1 ・引用文献等 1 請求項1に係る発明は引用文献1に基づき当業者が容易になし得たものである。 ・請求項 2-5 ・引用文献等 1,2 <引用文献等一覧> 1.特開平7-217496号公報 2.特開2010-84560号公報 3 引用文献、引用発明 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1の記載事項及び引用発明は、上記「第2〔理由〕2」に記載したとおりである。 4 当審の判断 本件補正発明は、上記「第2〔理由〕1」で述べたように、本願発明の「カウンターウェイト」に形成された「凹部の深さ」について、「前記クランクシャフトの径方向における前記凹部の一端における前記カウンターウェイトの厚さと、前記凹部の他端における前記カウンターウェイトの厚さとの和の平均値に1/3を乗じて得られる値以上となるように設定されている」という限定を付加したものであるから、本願発明の発明特定事項をすべて含んでいる。 そして、本願発明の発明特定事項をすべて含んでいる本件補正発明が、上記「第2〔理由〕3」に記載したとおり、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5 まとめ したがって、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2021-010645

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