特許拒絶査定不服審判
2022-007570
シリンダーブロックの製造方法
- 審判番号
- 2022-007570
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-132796
- 請求日
- 2022年05月20日
- 審決日
- 2023年01月31日
- 公報発行日
- 2023年04月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】住友ベークライト株式会社
- 【請求人代理人】速水 進治
- 審判長/審判官
- 審判長 山本 信平
- 審判官 水野 治彦
- 審判官 石黒 雄一
- 分類
- P18 .121-Z (F02F) / P18 .575-Z (F02F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第3項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第29条、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2017-132796「シリンダーブロックの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年1月31日出願公開、特開2019-15227〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成29年7月6日の出願であって、令和3年8月23日付け(発送日:令和3年8月31日)で拒絶の理由が通知され、令和3年10月21日に意見書及び手続補正書が提出されたが、令和4年3月1日付け(発送日:令和4年3月8日)で拒絶査定がされ、これに対し、令和4年5月20日に拒絶査定不服審判が請求され、その請求と同時に手続補正書が提出され、令和4年12月1日に上申書が提出されたものである。
第2 令和4年5月20日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年5月20日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.本件補正について
(1)本件補正前の令和3年10月21日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
フェノール樹脂と炭素繊維基材とを含むプリプレグを、成形金型の内部における成形空間内に配置する工程と、
前記成形空間に熱硬化性樹脂組成物を導入し、前記熱硬化性樹脂組成物と前記プリプレグと、を接合させて一体化された接合体を得る工程と、
前記接合体を硬化させることにより、樹脂層と、炭素繊維基材層とを有するシリンダーブロックを得る工程と、
を含み、
前記熱硬化性樹脂組成物が、レゾール型フェノール樹脂と、充填材と、を含み、
前記配置する工程において前記成形空間内に配置する前記プリプレグは、示差走査熱量計を用いて測定した前記プリプレグを構成する樹脂成分の硬化率が20%以上80%以下となるものである、シリンダーブロックの製造方法。」
(2)そして、本件補正により、上述の本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおり補正された(下線は、請求人が補正箇所を示すために付したものである。)。
「【請求項1】
フェノール樹脂と炭素繊維基材とを含むプリプレグを、成形金型の内部における成形空間内に配置する工程と、
前記成形空間に熱硬化性樹脂組成物を導入し、前記熱硬化性樹脂組成物と前記プリプレグと、を接合させて一体化された接合体を得る工程と、
前記接合体を硬化させることにより、樹脂層と、炭素繊維基材層とを有するシリンダーブロックを得る工程と、
を含み、
前記熱硬化性樹脂組成物が、レゾール型フェノール樹脂と、充填材と、を含み、
前記配置する工程において前記成形空間内に配置する前記プリプレグは、示差走査熱量計を用いて測定した前記プリプレグを構成する樹脂成分の硬化率が20%以上61%以下となるものである、シリンダーブロックの製造方法。」
2.補正の適否
(1)独立特許要件について
本件補正は、本件補正は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものであって、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「プリプレグを構成する樹脂成分の硬化率」について、その範囲を「20%以上80%以下となる」ものとすることを「20%以上61%以下となる」ものとすると限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1(以下、「本件補正発明」という。)が、同法同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
ア 本件補正発明
本件補正発明は、上記1.(2)に記載したとおりのものである。
イ 引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である特開2017-106405号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「移動体用構造部材」に関して、【図2】とともに次の記載がある(下線は、当審が付したものである。以下同様。)。
(ア)「【0001】
本発明は、車両などの移動体に使用される移動体用構造部材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両用エンジンのシリンダブロックとしては、アルミニウムなどの金属製のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このような車両用の構造部材は、省エネ、低燃費化を目的とする近年の車重軽減の要請から軽量化が望まれる。」
(イ)「【0006】
前記課題を解決する本発明の移動体用構造部材は、金属の基材と、熱硬化性樹脂を含み前記基材上に形成される樹脂層と、を備え、前記樹脂層は、前記基材側から順番に第1樹脂層と、第2樹脂層と、を有し、少なくとも前記第2樹脂層は、炭素繊維を含んでいることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、所定の強度を有するとともに、金属よりも軽量となる移動体用構造部材を提供することができる。」
(ウ)「【0009】
次に、本発明の実施形態に係る移動体用構造部材について説明する。本発明での移動体とは、走行する車両、航行する船舶、航空機などの移動可能な構造体を意味するが、本実施形態での移動体用構造部材は、自動車用エンジンのシリンダブロックを例にとって説明する。」
(エ)「【0015】
<シリンダブロック>
次に、移動体用構造部材としてのシリンダブロック14について説明する。
図1に示すように、シリンダブロック14は、気筒列方向に長い略直方体を呈している。シリンダブロック14には、前記のピストン(図示省略)が配置されるシリンダボア14aが形成されている。
【0016】
シリンダブロック14には、冷却水が流通するウォータジャケット18が設けられている。
ウォータジャケット18は、図1に示すように、上面視で気筒列方向に沿った3つのシリンダボア14aの略外周を囲繞するように連続し、かつ周回するように形成されている。
【0017】
図2は、図1のII-II縦断面を部分的に拡大して示す部分拡大縦断面図である。
図2に示すように、ウォータジャケット18の上端部は、開口して形成されるとともに、ウォータジャケット18の下端部は、シリンダブロック14の内部で閉塞するように形成されている。このようなウォータジャケット18は、開口側の上端部から閉塞側の下端部に掛けて徐々に幅が狭まるようにテーパが設けられている。
【0018】
なお、図示しないが、シリンダブロック14には、冷却水をウォータジャケット18内へ供給する冷却水入口と、エンジン12を冷却した後の冷却水をウォータジャケット18外に排出する冷却水出口とが設けられている。
図2中、符号19は、シリンダボア14a内でピストン16との摺動面を形成する、薄肉の円筒体からなるシリンダライナである。本実施形態でのシリンダライナ19の材料としては、例えばアルミ合金、鋼材、セラミックなどを想定しているが、これらに限定されるものではない。また、符号17は、コネクティングロッドである。
【0019】
本実施形態における移動体用構造部材としてのシリンダブロック14は、前記したように金属・樹脂・炭素繊維複合構造体で構成されている。
具体的には、シリンダブロック14は、図2に示すように、金属の基材20と、この基材20上に配置される樹脂部材21とを有している。樹脂部材21は、後に詳しく説明するように第1樹脂部材22と、炭素繊維を含む第2樹脂部材23とを有している。」
(オ)「【0022】
樹脂部材21は、図1に示すように、基材20の外側に配置されてシリンダブロック14の外形である略直方体を呈している。
樹脂部材21は、前記のように第1樹脂部材22と、第2樹脂部材23とを有している。これらの第1樹脂部材22と第2樹脂部材23とは互いに接合されて一体となっている。
樹脂部材21は、特許請求の範囲にいう「樹脂層」を構成し、第1樹脂部材22は、特許請求の範囲にいう「第1樹脂層」を構成し、第2樹脂部材23は、特許請求の範囲にいう「第2樹脂層」を構成している。
【0023】
第1樹脂部材22の外形は、図示しないが、図1に示す第2樹脂部材23の内側で略直方体を呈している。
また、第1樹脂部材22は、図2に示すように、ウォータジャケット18を形成するように基材本体部20aと離間する離間部22aと、この離間部22aの下方で基材本体部20aと接合される接合部22bとを有している。
また、第1樹脂部材22は、基材20のフランジ部20bの上面とも接合されている。
【0024】
このような第1樹脂部材22は、熱硬化性樹脂で形成されている。
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アリル樹脂、フラン樹脂などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、機械的強度、耐熱性、取扱容易性、製造コストなどを考慮すると、中でもフェノール樹脂が望ましい。
本実施形態での第1樹脂部材22は、熱硬化性樹脂のみで形成されるものを想定しているが、第1樹脂部材22には、後記する充填剤を含めることもできる。
【0025】
第2樹脂部材23は、図1に示すように、シリンダブロック14の四方の側面部を形成している。具体的には、第2樹脂部材23は、図2に示すように、基材本体部20aを取り巻くように配置される第1樹脂部材22の外壁面と、この外壁面と面一となるように形成されるフランジ部20bの外側端面とを覆うように配置されている。 つまり、本実施形態に係るシリンダブロック14は、基材20を構成する基材本体部20a上に、第1樹脂部材22(第1樹脂層)と、第2樹脂部材23(第2樹脂層)とがこの順番で配置されている。
【0026】
第2樹脂部材23は、熱硬化性樹脂と炭素繊維とを含んで構成されている。
熱硬化性樹脂としては、前記の第1樹脂部材22を構成する熱硬化性樹脂と同様のものが挙げられる。
炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系、レーヨン系、ピッチ系の炭素繊維が挙げられる。中でも、強度と弾性率のバランスに優れたPAN系炭素繊維が望ましい。」
(カ)「【0029】
次に、本実施形態に係るシリンダブロック14(移動体用構造部材)の製造方法について説明する。
本実施形態に係るシリンダブロック14の製造方法は、予め熱硬化性樹脂を含浸させた炭素繊維を加熱して半硬化させて第2樹脂部材23の形状を有するプリフォームを形成する第1工程と、シリンダブロック14の外形を模ったキャビティを有する金型内の所定の位置に、前記のプリフォームと、基材20(図2参照)と、ボルト15(図1参照)と、ウォータジャケット18(図2参照)の形状を模った中子と、を配置する第2工程と、金型内に熱硬化性樹脂を注型して型締めし、半硬化のプリフォームと注型した熱硬化性樹脂とを完全硬化させる第3工程と、を有して構成することができる。そして、型開きを行った後に、中子を取り出してシリンダブロック14が得られる。
【0030】
この製造方法では、注型した熱硬化性樹脂が硬化することによって第1樹脂部材22が形成され、硬化したプリフォームによって第2樹脂部材23が形成される。また、型開きを行って中子が取り出された跡に、ウォータジャケット18が形成される。
【0031】
第1工程で使用するプリフォームは、熱硬化性樹脂が炭素繊維に含浸している市販のプリプレグを半硬化させて形成することもできる。このような半硬化のプリフォームは、形状保持性が良好となる利点がある。また、第3工程で、半硬化のプリフォームと注型した熱硬化性樹脂とを金型内で完全硬化させることによって、第1樹脂部材22と、第2樹脂部材23との接合性が良好となる。
【0032】
また、第2工程では、完全硬化したプリフォームを金型内に配置することもできる。この場合、第3工程で型内に注型された熱硬化性樹脂は、完全硬化したプリフォームの表面に形成される微細な隙間に入り込んで硬化することになる。これにより隙間に入り込んで硬化した熱硬化性樹脂は、第1樹脂部材22と第2樹脂部材23との間でアンカー効果を発揮して第1樹脂部材22と第2樹脂部材23との接合強度を向上させる。」
(キ)「【0034】
また、本実施形態での製造方法は、トランスファー成形法を使用するものを想定しているが、インジェクション成形を使用するものであってもよい。
また、金型内に注型する熱硬化性樹脂は、プリフォームに使用される熱硬化性樹脂と同系統の熱硬化性樹脂が望ましい。つまり、プリフォームの熱可塑性樹脂がフェノール樹脂であれば、金型内に注型する熱硬化性樹脂についてもフェノール樹脂であることが望ましい。この場合、プリフォームを形成するプリプレグには、流動性又は半流動性の熱硬化性樹脂が使用され、金型内に注型する熱硬化性樹脂としては、常温で固形であり、所定の温度に加熱した際に流動化し、さらに加熱することによって硬化するものが望ましい。
【0035】
また、この製造方法では、第2工程で中子を使用してウォータジャケット18を形成しているが、中子を用いずに、予めウォータジャケット18の形状を模った雄型をキャビティ内に有する金型を使用することもできる。
【0036】
次に、本実施形態に係るシリンダブロック14(移動体用構造部材)の奏する作用効果について説明する。
このシリンダブロック14によれば、従来のシリンダブロック(例えば、特許文献1参照)の一部を樹脂に代えて構成することができるので、シリンダブロック14の軽量化を図ることができる。
【0037】
また、このシリンダブロック14によれば、前記の金属・樹脂・炭素繊維複合構造体で構成されているので、車両などの移動体に要求される十分な強度を発揮することができる。特に、樹脂部材21(図2参照)に25%以上の炭素繊維を含むものは、金属(アルミニウム)と略同等以上の強度を発揮することができる。
【0038】
また、このシリンダブロック14は、シリンダボア14aを有する基材20を囲むように断熱性に富む樹脂部材21が配置されているので、エンジン12の熱効率が向上する。」
(ク)
「
[図:0001396084000001.jpg]
」
これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、本件補正発明の記載ぶりに則り整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「 フェノール樹脂が炭素繊維に含浸しているプリプレグを半硬化させたプリフォームを、シリンダブロック14の外形を模ったキャビティを有する金型内の所定の位置に配置する第2工程と、
前記シリンダブロック14の外形を模ったキャビティを有する金型内に熱硬化性樹脂を注型し、型締めし、
半硬化のプリフォームと注型した熱硬化性樹脂を完全硬化させることにより、第1樹脂部材22と、第2樹脂部材23とを有するシリンダブロック14を得る第3工程と、
を含み、
前記熱硬化性樹脂が、常温で固形であり所定の温度に加熱した際に流動化し更に加熱することによって硬化するフェノール樹脂と、充填材と、を含み、
前記第2工程において前記シリンダブロック14の外形を模ったキャビティを有する金型内に配置する前記プリプレグを半硬化させたプリフォームは、プリプレグを加熱して半硬化させたプリフォームである、シリンダブロック14の製造方法。」
また、原査定の拒絶の理由で周知技術を示す文献として引用された、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である特開平10-128860号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「繊維強化プラスチック成形品の製造方法」に関して次の記載がある。
(ケ)「【0013】(3) 熱処理
熱硬化性樹脂で含浸したプリフォーム1を半硬化状態になるまで熱処理する。熱処理条件は、一般に熱硬化性樹脂が半硬化状態となるように設定する。ここで「半硬化状態」とは、室温では熱硬化性樹脂が固体状で粘着性がなく、取り扱いが容易であるが、さらに熱処理すると熱硬化性樹脂は再流動化した後完全に硬化する状態を言う。半硬化状態とするには、繊維強化プラスチック部材中の熱硬化性樹脂の硬化率(全熱硬化性樹脂に対する硬化した樹脂の割合)が、10~40%であるのが好ましい。硬化率が10%未満では十分に固形ではなく、また粘着性があるために取扱が容易でない。一方硬化率が40%を超えると、後の硬化工程において他の繊維強化プラスチック部材との接着が不十分になり、成形体の剥離強度が低下する。」
これらの記載事項を総合すると、引用文献2には、以下の事項(以下、「引用文献2の記載事項」という。)が記載されている。
「繊維強化プラスチック部材中の熱硬化性樹脂の硬化率を、十分に固形で、また粘着性がなく成形体の剥離強度が低下しない範囲とすること。」
また、原査定の拒絶の理由で周知技術を示す文献として引用された、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である特開平10-309755号公報(以下、「引用文献3」という。)には、「繊維強化プラスチック成形品の製造方法」に関して次の記載がある。
(コ)「【0029】ここで、適度な硬化状態とは、プリプレグシートがその形状を保持でき、べとつかず、さらに、完全硬化時にSMCとの接着を可能にするだけの反応基(架橋点)を残している状態のことである。さらに、成形時に、型の凹凸形状、目地部分に追従でき、流出、クラック破壊、シート破れなどを起こさない程度の強度と柔軟性を有していることが好ましい。このことから、プリプレグシートの硬化度を50~95%とすることが好ましく、70~90%とすることが特に好ましい。硬化方法としては、特に制限はないが、加熱硬化によるときは、40~80℃の乾燥炉などに入れて行うのが一般的である。
【0030】なお、硬化度は次のようにして求められる。プリプレグシートの製造に用いられる熱硬化性樹脂組成物をガラス板上に約200μm厚さに塗布したものを数枚用意し、プラスチックフィルムで覆い、所定の温度で時間を変えて(例えば、10分、20分、30分)加熱する。加熱前の熱硬化性樹脂組成物及び加熱後の熱硬化性樹脂組成物について、それぞれ示差走査熱量測定装置〔例えば、Du Pont 9900 Thermal Analyzer(Du Pont Co.,製)〕を用いて反応熱容量を測定する。加熱前の熱硬化性樹脂組成物の反応熱容量をA、加熱後の熱硬化性樹脂組成物の反応熱容量をBとして、数5にしたがって反応率αを求める。
【数5】α(%)=(A-B)×100/A
【0031】得られた反応率αを加熱時間に対してプロットして、加熱時間に対する反応率の検量線を作成する。プリプレグシートの硬化度は、所定温度での加熱時間から上記検量線により加熱時間に対応する反応率を求め、これを硬化度とする。」
これらの記載事項を総合すると、引用文献3には、以下の2つの事項(以下、それぞれ「引用文献3の記載事項1」及び「引用文献3の記載事項2」という。)が記載されている。
[引用文献3の記載事項1]
「適度な硬化状態とは、プリプレグシートがその形状を保持でき、べとつかず、さらに、完全硬化時にSMCとの接着を可能にするだけの反応基(架橋点)を残している状態であり、成形時に、型の凹凸形状、目地部分に追従でき、流出、クラック破壊、シート破れなどを起こさない程度の強度と柔軟性を有していることが好ましい、プリプレグシートの硬化度の範囲とすること。」
[引用文献3の記載事項2]
「硬化度は、加熱前の熱硬化性樹脂組成物及び加熱後の熱硬化性樹脂組成物について、それぞれ示差走査熱量測定装置を用いて反応熱容量を測定して反応率αを求め、得られた反応率αから加熱時間に対する反応率の検量線を作成し、所定温度での加熱時間から上記検量線により加熱時間に対応する反応率とすること。」
また、原査定の拒絶の理由で周知技術を示す文献として引用された、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である特開2017-5870号公報(以下、「引用文献4」という。)には、「モータハウジングおよびモータハウジングの製造方法」に関して、次の記載がある。
(サ)「【0034】
フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂などのノボラック型フェノール樹脂;メチロール型レゾール樹脂、ジメチレンエーテル型レゾール樹脂、桐油、アマニ油、クルミ油などで溶融した油溶融レゾールフェノール樹脂などのレゾール型フェノール樹脂;アリールアルキレン型フェノール樹脂などが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
これらの中でも入手容易性、安価およびロール混練による作業性が良好などの理由からノボラック型フェノール樹脂が好ましい。」
これらの記載事項を総合すると、引用文献4には、以下の事項(以下、「引用文献4の記載事項」という。)が記載されている。
「フェノール樹脂としては、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、アリールアルキレン型フェノール樹脂などが挙げられ、これらは単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよいこと。」
また、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開平9-31750号公報(以下、「文献5」という。)には、「フェノール樹脂繊維及びその製造方法」に関して次の記載がある。
(シ)「液状のレゾール型フェノール樹脂を原料とするものではなく、本来架橋反応の遅い常温で固形状のレゾール型フェノール樹脂を原料として、これを熱溶融させ、紡糸ノズルより、加熱空気流の牽引力により繊維化を行うものである。」(3ページ左欄第37-41行)
これらの記載事項を総合すると、文献5には以下の事項(以下、「文献5の記載事項」という。)が記載されている。
「常温で固形状のレゾール型フェノール樹脂を熱溶融させること。」
また、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開2016-155953号公報(以下、「文献6」という。)には、「エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂シート及びそれを用いた金属ベース回路基板」に関して次の記載がある。
(ス)「【0018】
Bステージ状態のエポキシ樹脂シートとしては、エポキシ樹脂組成物の硬化率が20~80%であることが好ましく、25~50%がより好ましい。硬化率を20~80%とすることで、金属基板及び回路への接着性を良好にすることができる。尚、硬化率の測定は、示差走差熱量計等の熱分析装置を使用し求めることができる。」
(セ)「【0027】
[硬化率]
得られたBステージ状態のシートおよび硬化体をサンプリングし、示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント社製、「Q2000」)を用い、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で25~300℃まで昇温させ、総発熱量C1(cal/g)を測定した。
次に、未硬化状態のエポキシ樹脂組成物を試料として、同条件にて示差走査熱量計の測定を行い、総発熱量C0(cal/g)を測定した。硬化率は、(C0-C1)/C0×100(%)より求めた。」
これらの記載事項を総合すると、文献6には以下の事項(以下、「文献6の記載事項」という。)が記載されている。
「硬化率の測定は、示差走差熱量計等の熱分析装置を使用し求めることができること。」
また、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開2013-123033号公報(以下、「文献7」という。)には、「半導体装置の製造方法」に関して次の事項がある。
(ソ)「【0045】
上記接合材の硬化率が40%を超えると、接合材に空気が巻き込まれた場合にボイドを充分に除去することができない。上記接合材の硬化率は30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。また、上記接合材の硬化率の下限は特に限定されない。
なお、接合材の硬化率(%)とは、下記式(1)により求められる値を意味する。
接合材の硬化率(%)=(1-Dh/Di)×100 (1)
式(1)中、Diは示差走査熱量計にて算出される接合材の初期状態の発熱量を表し、Dhは示差走査熱量計にて算出される接合材の加熱処理後の発熱量を表す。」
これらの記載事項を総合すると、文献7には、以下の事項(以下、「文献7の記載事項」という。)が記載されている。
「接合材の硬化率(%)は、示差走査熱量計にて算出される接合材の初期状態の発熱量と、示差走査熱量計にて算出される接合材の加熱処理後の発熱量により求められる値であること。」
ウ 引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「炭素繊維」はその機能、構成及び技術的意義からみて前者の「炭素繊維基材」に相当する。同様に、「熱硬化性樹脂」は「熱硬化性樹脂組成物」に、「注型」は「導入」に、「完全硬化」は「硬化」に、「第1樹脂部材22」は「樹脂層」に、「第2樹脂部材23」は「炭素繊維基材層」に、「シリンダブロック14」は「シリンダーブロック」にそれぞれ相当する。
後者の「プリプレグを半硬化させたプリフォーム」は、半硬化、すなわち樹脂を「所定の硬化率」で硬化させた「プリプレグ」であることは自明であるから、その機能、構成及び技術的意義からみて前者の「プリプレグ」に相当する。そうすると、後者の「プリプレグを半硬化させたプリフォームはプリプレグを加熱して半硬化させたプリフォームである」ことと前者の「プリプレグは、示差走査熱量計を用いて測定した前記プリプレグを構成する樹脂成分の硬化率が20%以上61%以下となるものである」こととは、「プリプレグは、前記プリプレグを構成する樹脂成分が所定の硬化率となるものである」ことという限りで一致する。
また、後者の「シリンダブロック14の外形を模ったキャビティを有する金型」は、その機能、構成及び技術的意義からみて前者の「成形金型」に相当する。そうすると、後者の「シリンダブロック14の外形を模ったキャビティを有する金型内の所定の位置に配置する」ことは前者の「成形金型の内部における成形空間内に配置する」ことに相当するから、後者の「シリンダブロック14の外形を模ったキャビティを有する金型内の所定の位置に配置する第2工程」は前者の「成形金型の内部における成形空間内に配置する工程」に相当し、同様に後者の「前記第2工程」は前者の「前記配置する工程」に相当し、さらに、後者の「前記シリンダブロック14の外形を模ったキャビティを有する金型内」は前者の「前記成形空間」及び「前記成形空間内」に相当するものを含む。
そして、後者の「型締め」は、これによりシリンダブロック14の外形を模ったキャビティを有する金型内において、熱硬化性樹脂とプリプレグを半硬化させたプリフォームとを「接合」させて「一体化」された「接合体を得る」ものといえる。そうすると、後者の「前記シリンダブロック14の外形を模ったキャビティを有する金型内に熱硬化性樹脂を注型し、型締めし、」は前者の「前記成形空間に熱硬化性樹脂組成物を導入し、前記熱硬化性樹脂と前記プリプレグと、を接合させて一体化された接合体を得る工程と、」に相当する。そうすると、後者の「半硬化のプリフォームと注型した熱硬化性樹脂」からなるものは、前者の「接合体」に相当する。そして、後者の「半硬化のプリフォームと注型した熱硬化性樹脂を完全硬化させることにより、第1樹脂部材22と、第2樹脂部材23とを有するシリンダブロック14を得る第3工程」は前者の「前記接合体を硬化させることにより、樹脂層と、炭素繊維基材層とを有するシリンダーブロックを得る工程」に相当する。
そして、後者の「常温で固形であり所定の温度に加熱した際に流動化し更に加熱することによって硬化するフェノール樹脂」と前者の「レゾール型フェノール樹脂」とは、「フェノール樹脂」という限りで一致する。
したがって、両者は、
「 フェノール樹脂と炭素繊維基材とを含むプリプレグを、成形金型の内部における成形空間内に配置する工程と、
前記成形空間に熱硬化性樹脂組成物を導入し、前記熱硬化性樹脂組成物と前記プリプレグと、を接合させて一体化された接合体を得る工程と、
前記接合体を硬化させることにより、樹脂層と、炭素繊維基材層とを有するシリンダーブロックを得る工程と、
を含み、
前記熱硬化性樹脂組成物が、フェノール樹脂と、充填材と、を含み、
前記配置する工程において前記成形空間内に配置する前記プリプレグは、プリプレグは、前記プリプレグを構成する樹脂成分が所定の硬化率となるものである、シリンダーブロックの製造方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
「熱硬化性樹脂組成物」に含まれる「フェノール樹脂」に関し、前者は「レゾール型フェノール樹脂」であるのに対し、後者は「常温で固形であり所定の温度に加熱した際に流動化し更に加熱することによって硬化するフェノール樹脂」である点。
[相違点2]
「配置する工程において前記成形空間内に配置する前記プリプレグ」に関し、前者は「示差走査熱量計を用いて測定した前記プリプレグを構成する樹脂成分の硬化率が20%以上61%以下となるもの」であるのに対し、後者は「プリプレグを加熱して半硬化させたプリフォーム」である点。
エ 判断
相違点について検討する。
相違点1について検討する。引用発明において金型内に注型する熱硬化性樹脂は、プリフォームを形成するプリプレグで使用される流動性又は半流動性のフェノール樹脂と同系統であって、常温で固形であり所定の温度に加熱した際に流動化し更に加熱することによって硬化するフェノール樹脂である。そして、フェノール樹脂において、レゾール型フェノール樹脂は従来知られたフェノール樹脂であって、他の型のフェノール樹脂と組み合わせて使用してもよいことは、引用文献4の記載事項にもあるとおり技術常識といえる。さらに、文献5の記載事項から、常温で固形であり所定の温度に加熱した際に流動化するレゾール型フェノール樹脂は、従来知られたものといえる。
そうすると、引用発明において、常温で固形であり所定の温度に加熱した際に流動化し更に加熱することによって硬化するフェノール樹脂として、常温で固形であり所定の温度に加熱した際に流動化し更に加熱することによって硬化するレゾール型フェノール樹脂を採用し、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者の通常の知識の範囲で容易になし得たことである。
相違点2について検討する。上記イ、(イ)の【0007】の記載から、引用発明が「所定の強度」を有していることは明らかである。また、引用発明は「シリンダブロック」という製品であるからシリンダブロックとしての良好な外観を示す必要があることもまた自明である。そして上記イ、(カ)の段落【0031】及び【0032】の記載から、引用発明においてはプリプレグを半硬化させたプリフォームは第1樹脂部材22と第2樹脂部材23との接合性が良好であり、硬化させたプリフォームは第1樹脂部材22と第2樹脂部材23との接合強度を向上させるのであるから、引用発明において、プリフォームの硬化の程度により第1樹脂部材22と第2樹脂部材23との接合性及び接合強度が変わることは当業者であれば容易に理解できることである。同様に、第1樹脂部材22と第2樹脂部材23との接合性が良好となるとシリンダブロックの外観が良好なものとなることも当業者であれば容易に理解できることである。すなわち、引用発明において、プリプレグを硬化させてプリフォームを形成する際、良好な外観と所定の強度を得るため、その硬化の程度、すなわち硬化率を所定の値とすることは、引用文献1に示唆されているといえる。そして、強度としての曲げ強度及び曲げ弾性率は、構造部材を設計する際に通常考慮する強度である。
そして、引用文献2の記載事項及び引用文献3の記載事項1から、べと付き、すなわちタックがなく、所定の強度を維持するように硬化度の範囲を設定することは周知技術であり、引用文献3の記載事項2、文献6の記載事項及び文献7の記載事項から、示差走査熱量計を用いて硬化度を測定することは慣用手段といえる。
そうすると、引用発明のプリプレグを半硬化させたプリフォームにおいて、上記周知技術及び慣用手段を踏まえ、その樹脂成分の硬化率を、示差走査熱量計を用いて測定した所定の範囲となるようにすることは、当業者の通常の知識の範囲で容易に想起しうることである。
そして、硬化率を20%以上61%との範囲とすることの臨界的意義について発明の詳細な説明の段落【0037】ないし【0043】の記載をみても、当該範囲は、タックがなく(段落【0038】及び【0040】)、外観に実用上問題がない(段落【0038】及び【0041】)範囲であり、曲げ強度及び曲げ弾性率についても、実施例1ないし実施例5をみると、硬化率と曲げ強度及び曲げ弾性率との関係について、段落【0038】の【表1】及び段落【0039】の【表2】から何らかの法則性を見出すことはできず、さらに、範囲内の実施例と範囲外の曲げ強度及び曲げ弾性率とを比較しても、下限である20%より低い硬化率における曲げ強度及び曲げ弾性率の値の記載はなく、また上限である61%より大きい硬化率である実施例5と実施例1ないし実施例4を比較すると、実施例3の曲げ弾性率は実施例5よりも低く、曲げ強度についても実施例1ないし4は実施例5よりも高いものの、顕著に高いといえるものではない。そして、曲げ強度、曲げ弾性率について、範囲内である実施例1ないし4と範囲外である実施例5との間に異質な相違を見出すこともできない。そうすると、硬化率を20%以上61%との範囲とすることに、引用発明において必要な強度、外観を得るために当業者が通常の創作活動の範囲で適宜行う数値範囲の最適化または好適化を越えた顕著な差異を見出すことはできない。
そうすると、引用発明において、上記周知技術及び慣用手段を踏まえ、当業者の通常の創作能力の範囲で相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、容易になし得たことである。
また、本件補正発明は、全体としてみても、引用発明、周知技術及び慣用手段から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。
したがって、本件補正発明は、引用発明、周知技術及び慣用手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3.むすび
上記2.のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1.本願発明
令和4年5月20日にされた手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし8に係る発明は、令和3年10月21日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2 1.(1)に記載のとおりのものである。
2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献に記載された発明に基づいて、その出願前に発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開2017-106405号公報
引用文献2:特開平10-128860号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:特開平10-309755号公報(周知技術を示す文献)
3.引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし3及びその記載事項は、前記第2[理由]2.(1)イに記載したとおりである。
4.対比・判断
本願発明は前記第2[理由]2.(1)で検討した本件補正発明から、「プリプレグを構成する樹脂成分の硬化率」について、その範囲である「20%以上61%以下となる」ものとするとの限定を「20%以上80%以下となる」ものとしたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2[理由]2.(1)ウ及びエに記載したとおり、引用発明及び引用文献2の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び引用文献2の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書において次の主張をしている。
「(i)本願発明の臨界的意義について
補正後の請求項1に係る発明(本願発明という。)は、「フェノール樹脂と炭素繊維基材とを含むプリプレグを、成形金型の内部における成形空間内に配置する工程」において、「前記プリプレグを構成する樹脂成分の硬化率が20%以上61%以下」という構成を備えており、かかる構成を備える実施例1~4(硬化率:25%~61%)が、硬化率の下限を「20%」以上とすることにより、比較例1(硬化率:0%、タック性:×)と比べてタック性が抑制されるため(○)、炭素繊維基材層と樹脂層との界面荒れや炭素繊維基材層の金型側面との接触面の表面荒れが抑制された良好な外観が得られること(◎、○、△)という結果を示しており、一方の硬化率の上限を「61%」以下とすることにより、実施例5(硬化率68%、上記の補正により比較例となる)と比べて、曲げ強度や曲げ弾性率という機械的強度を向上するという結果を示します(表1、2)。
すなわち、本願発明は、硬化率の下限を「20%」とすることにより、タック性の低減および良好な外観が得られ、硬化率の上限を「61%」以下とすることにより、機械的強度を向上できるという効果が得られることが当初明細書における表1、2により理解することができます。
したがって、本願発明は、硬化率の下限および上限において、上記の効果が得られる点で臨界的意義を有するものです。
(ii)引用文献について
これに対して、引例文献1には、タック性、良好な外観、および、機械的強度の向上という、本願発明の硬化率を「20%以上61%以下」とすることにより得られる上記の効果について記載も示唆もされていません。
また、拒絶査定には「引用文献2(段落0009-0013を特に参照。)には、繊維強化プラスチック成形品の製造時において、炭素繊維と熱硬化性樹脂とを含むプリプレグ中の熱硬化性樹脂の硬化率が10~40%である半硬化状態にすることで、プリプレグの形状安定性及びハンドリング性を向上させると共に、後の硬化行程における他の繊維強化プラスチック部材との接合性及び成形体の剥離強度を保持できる点が記載されており、引用文献3(段落0014-0016,0028-0031を特に参照。)には、繊維強化プラスチック成形品の製造時において、繊維基材と熱硬化性樹脂とを含むプリプレグ中の熱硬化性樹脂の硬化率を50~90%とすることで、プリプレグの形状安定性及びハンドリング性が向上する」と記載されています。
そして、上記の記述を根拠として、拒絶査定では「プリプレグ中の熱硬化性樹脂の硬化率を最適化することによって、プリプレグのハンドリング性の向上と、複合成形品の機械的強度の向上とを図ることは、引用文献2-3に記載のように、従来周知の技術である。」と認定されています。
しかしながら、これらの引用文献2および引用文献3では、上記の効果が得られる具体的な技術が、(i)熱硬化性樹脂の種類、(ii)熱硬化性樹脂の硬化率の数値範囲という2点において全く異なる、という事を開示しています。すなわち、(i)熱硬化性樹脂の種類に関して、引用文献2はエポキシ系、ビスマレイミド系(段落0011)であるのに対して、引用文献3は不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂(段落0021)であり、また(ii)熱硬化性樹脂の硬化率の数値範囲に関して、引用文献2では硬化率は10~40%(段落0013)であるのに対して、引用文献3では硬化率は50~95%(段落0029)です。
また、引用文献2では硬化率が40%以上を超えると接着が不十分になり成形体の剥離強度が低下すると記述されている一方で、引用文献3では硬化率を50%以上とすることが好ましいと記述されています。したがって、このような硬化率の数値範囲における技術的矛盾がある引用文献2および3の記述を参酌すると、適切な硬化率の数値範囲というものは、熱硬化性樹脂の種類によって相違するという事になります。それ故、上記のような周知技術を見出すことは困難であると考えます。なぜならば、プリプレグの形状安定性及びハンドリング性の向上という効果を得るための具体的な技術が、引用文献2および引用文献3で共通しておらずk、具体的に言えば上記(i)(ii)の点で相違しているためです。
ここで、拒絶査定には「樹脂の種類に応じてプリプレグ中の熱硬化性樹の硬化率を最適化すること、が周知技術」と記載されています。
しかしながら、かかる樹脂が「フェノール樹脂」を含む場合にまで上位概念化した場合でも周知技術である、という理由について特許・実用新案審査基準に沿って説明されていません。周知技術というためには、少なくとも、一般的に知られている技術である必要がありますが、フェノール樹脂における硬化率の最適な数値範囲について、各引用文献に記載されておらず、技術常識であるとも言えないためです。
また、引用文献2の「エポキシ系、ビスマレイミド系」の熱硬化性樹脂の硬化率「10~40%」、引用文献3の「不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂」の熱硬化性樹脂の硬化率「50~95%」のいずれも、「フェノール樹脂」の熱硬化性樹脂の硬化率について、プリプレグの形状安定性及びハンドリング性を向上する効果を得るための、最適な数値範囲に関する技術的示唆を与えるものではありません。その上、引用文献2および3において、硬化率の数値範囲に、共通の範囲が存在しないことが示されています。
したがって、熱硬化性樹脂の種類に応じて最適な硬化率の範囲が全くことなる技術的事情があることから、引用文献2および3を参酌したとしても、引用文献1において、「フェノール樹脂」の熱硬化性樹脂の硬化率を、本願発明の「20%以上61%以下」という数値範囲にすることは、当業者が決して容易なことではありません。」
また、審判請求人は、令和4年12月1日の上申書において次の主張している。
「・特許・実用新案審査基準に関して
特許・実用新案審査基準の「第 III 部 第 2 章 第 2 節 進歩性 第 2 節 進歩性 3.1.2 動機付け以外に進歩性が否定される方向に働く要素 (1) 設計変更等」には、数値範囲の最適化とは、設計変更等の一例として「(ii)一定の課題を解決するための数値範囲の最適化又は好適化(例2)」というように定義されています。なお、かかる最適化の例2には「例2:硬化前のコンクリートについて、流動性を悪化させる75μm以下の粒子の含有量を低減し、1.5質量%以下に定めることは、当業者が適宜なし得る数値範囲の最適化又は好適化にすぎない」と記載されています。
しかしながら、本件の前置報告書における審査官殿の最適化の認定におかれましては、「一定の課題」について検討がされていないこと、また、「実験等を通じて」が、「当業者が適宜なし得る」という要件を満たすかについて見解を述べていない点で、十分な論理ではないと考えます。
・「一定の課題」に関して
引用文献1には、シリンダブロックに関する技術が開示されていて、審査官殿のご指摘の通り、フェノール樹脂を含浸させた炭素繊維を加熱して半硬化させてなる「プリフォーム」を構成する樹脂成分を「半硬化」させることによって得られる効果は、形状保持性が良好となる点と、完全硬化させた際に「第1樹脂部材22」との接合性が良好となる点、という記載がなされています。しなしながら、本願発明の効果である、(i)複合成形品のハンドリング性の向上、(ii)複合成形品の曲げ強度・曲げ弾性率の向上、(iii)複合成形品の炭素繊維基材における両側面における外観不良の抑制という、3つの効果については明記されてはいません。
一方、引用文献2は、熱硬化性樹脂の硬化率に関して、「硬化率が10%未満では十分に固形ではなく、また粘着性があるために取扱が容易でない。一方硬化率が40%を超えると、後の硬化工程において他の繊維強化プラスチック部材との接着が不十分になり、成形体の剥離強度が低下する。」と記載されています(段落0013)。しかしながら、引用文献2において、シリンダブロックに関する技術が開示されていない上、熱硬化性樹脂が引用文献1のフェノール樹脂ではなく、エポキシ系・ビスマレイミド系(段落0011)になります。また、引用文献2において、エポキシ系・ビスマレイミド系の硬化率の効果として、上記の本願発明の効果のうち、少なくとも(ii)および(iii)について記載されていません。なお、引用文献1の接合性や引用文献2の密着が良好だと、複合成形品の曲げ強度・曲げ弾性率が向上することについて、いずれの文献にも記載も示唆もされていない点、付言させていただきます。
また、引用文献3は、熱硬化性樹脂の硬化率に関して、「適度な硬化状態とは、プリプレグシートがその形状を保持でき、べとつかず、さらに、完全硬化時にSMCとの接着を可能にするだけの反応基(架橋点)を残している状態のことである。さらに、成形時に、型の凹凸形状、目地部分に追従でき、流出、クラック破壊、シート破れなどを起こさない程度の強度と柔軟性を有していることが好ましい。このことから、プリプレグシートの硬化度を50~95%とすることが好まし」いと記載されています(段落0029)。しかしながら、引用文献3において、シリンダブロックに関する技術が開示されていない上、熱硬化性樹脂が引用文献1のフェノール樹脂ではなく、不飽和ポリエステル樹脂・ビニルエステル樹脂(段落0021)になります。また、引用文献3において、不飽和ポリエステル樹脂・ビニルエステル樹脂の硬化率の効果として、上記の本願発明の効果のうち、少なくとも(ii)および(iii)について記載されていません。なお、引用文献3のシートの強度とは、シート単独の強度を意味しますから、複合成形品における曲げ強度・曲げ弾性率が向上することについて全く記載されていない点、付言させていただきます。
以上より、本願発明のシリンダブロックの製造方法において、「フェノール樹脂と炭素繊維基材とを含むプリプレグ構成する樹脂成分の硬化率が20%以上61%以下」という構成により得られる効果のうち、上記の(ii)および(iii)について、いずれの引用文献1~3に開示されていません。
・「数値範囲」に関して
引用文献2では硬化率が40%以上を超えると接着が不十分になり成形体の剥離強度が低下すると記述されている一方で、引用文献3では硬化率を50%以上とすることが好ましいと記述されています。したがって、このような硬化率の数値範囲における技術的矛盾がある引用文献2および3の記述を参酌すると、適切な硬化率の数値範囲というものは、熱硬化性樹脂の種類や課題によって相違するという事になります。
今回、引用文献1で使用されるフェノール樹脂について、引用文献2や3では使用されていませんから、熱硬化性樹脂の種類が相違しますので、当業者が引用文献2や3に記載の硬化率の数値範囲を用いることは容易なことではありません。
なお、引用文献2および3に基づいて、周知技術を導き出すことも困難であることも付言させて頂きます。
・「当業者が適宜なし得る」に関して
本願発明のシリンダブロックの製造方法において、「フェノール樹脂と炭素繊維基材とを含むプリプレグ構成する樹脂成分の硬化率が20%以上61%以下」という構成により、(i)複合成形品のハンドリング性の向上、(ii)複合成形品の曲げ強度・曲げ弾性率の向上、(iii)複合成形品の炭素繊維基材における両側面における外観不良の抑制という、3つの効果が得られることが、本願明細書を参酌すると理解できます。
具体的には、本願明細書の表1,2には、実施例1~4(硬化率:25%~61%)が、フェノール樹脂を含むプリプレグの硬化率の下限を「20%」以上とすることにより、比較例1(硬化率:0%、タック性:×)と比べてタック性が抑制されるため(○)、製造工程におけるハンドリング性に優れる結果が示されている一方で、フェノール樹脂を含むプリプレグの硬化率の上限を「61%」以下とすることにより、炭素繊維基材層と樹脂層との界面荒れや炭素繊維基材層の金型側面との接触面の表面荒れが抑制された良好な外観が得られること、すなわち、実用上問題ない状態であり、かつ、実施例5(硬化率68%)と比べて、複合成形品の曲げ強度・曲げ弾性率を向上できるという結果が示されています。
このように本願発明の硬化率の数値範囲、とくにその上限については、引用文献1~3に開示されていない課題を解決できるものであることが理解できます。」
そこで、これらの主張について検討する。
第2、2.、(1)、イ、(エ)で摘記したとおり、引用発明は、所定の強度を備えた移動体用構造部材であるシリンダブロックである。そして、構造部材において、「強度」として「曲げ強度」、「曲げ弾性率」を含む「強度」を考慮することは技術常識といえる。また、製品であるシリンダブロックに良好な外観が求められることは自明である。そして、引用文献1には、プリプレグの硬化の程度により第1樹脂部材22と第2樹脂部材23との接合性及び接合強度が変わることが記載されている。そうすると、引用発明は、プリプレグの硬化の程度によって所要の強度及び良好な外観を有することは当業者であれば容易に理解できる。すなわち、引用発明において、所要の強度及び良好な外観を有するシリンダブロックを得るために、プリプレグの硬化の程度を考慮することは、引用文献1に示唆されているといえるものである。
また、引用文献2の記載事項及び引用文献3の記載事項1のとおり、「べと付き、すなわちタックがなく、所定の強度を維持するように硬化度の範囲を設定すること」は周知技術といえる。そして、引用文献2及び引用文献3に記載された硬化度の数値範囲(引用文献2においては10~40%、引用文献3においては50~95%)に関わらず、当該周知技術は熱硬化性樹脂の種類や用途に限定されるものではなく、フェノール樹脂のみ当該周知技術から除外されるとの格別な事情を見出すこともできない。
そして、「硬化率が20%以上61%以下」との限定について、本願の発明の詳細な説明、特に段落【0037】ないし【0043】の記載事項を参酌しても、格別な臨界的意義を見出せないことは第2、2.、(1)、エの相違点2の判断において上述したとおりである。
なお、請求人は「炭素繊維基材層と樹脂層との界面荒れや炭素繊維基材層の金型側面との接触面の表面荒れが抑制された良好な外観が得られること、すなわち、実用上問題ない状態であ」ると主張する。しかしながら、【表1】及び段落【0041】には、良好な外観が得られる場合(◎)、実用上問題ないレベルの場合(○)、実用上問題ないが実施例1よりも劣る場合(△)のみが記載され、実施例1ないし実施例5及び比較例1はこれらのいずれかに該当するから、外観については、硬化率の値に関わらず実用上は問題ない状態と解されるものである。そして、図3には、実施例1の複合成形品の断面図が示されるものの、実施例2ないし5及び比較例1について同様の断面図はない。そうすると、仮に図3が実施例1における「炭素繊維基材層と樹脂層との界面荒れや炭素繊維基材層の金型側面との接触面の表面荒れ」について図示したものと仮定しても、他の実施例との比較においてどのような特徴があるか理解できない。また、実施例2ないし4が同様の特徴を備えるかも不明である。そうすると、本願の発明の詳細な説明から、「硬化率が20%以上61%以下」とすることによる外観についての臨界的意義を見出すことはできない。
また、請求人は「実施例5(硬化率68%)と比べて、複合成形品の曲げ強度・曲げ弾性率を向上できる」と主張する。しかしながら、硬化率が40%である実施例3の曲げ弾性率の値は実施例5の値よりも小さい。また、実施例3の曲げ強度の値は実施例5の値より大きいものの、顕著に大きいということはできない。
そうすると、審判請求書及び上申書における請求人の上記主張は当を得ない。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-007570