特許拒絶査定不服審判
2020-016009
往復動ピストン内燃機関のためのシリンダハウジングの製造方法
- 審判番号
- 2020-016009
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-519214
- 請求日
- 2020年11月19日
- 審決日
- 2021年06月30日
- 公報発行日
- 2022年01月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト
- 【請求人代理人】赤澤 日出夫
- 審判長/審判官
- 審判長 佐々木 正章
- 審判官 金澤 俊郎
- 審判官 高島 壮基
- 分類
- P18 .121-Z (F02F) / P18 .575-Z (F02F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-519214「往復動ピストン内燃機関のためのシリンダハウジングの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年5月24日国際公開、WO2018/091120、令和1年10月24日国内公表、特表2019-530826〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)10月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2016年11月15日(DE)ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、令和2年1月9日付け(発送日:同年1月21日)で拒絶理由が通知され、令和2年3月2日に意見書及び誤訳訂正書が提出されたが、令和2年7月10日付け(発送日:同年7月21日)で拒絶査定がされ(以下「原査定」という。)、これに対して令和2年11月19日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正書が提出されたものである。
第2 令和2年11月19日にされた手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和2年11月19日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正前(令和2年3月2日の誤訳訂正書)の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
第1のシリンダ摺動軌道(16)により区切られる第1のシリンダ(12)と、第2のシリンダ摺動軌道(18)により区切られる少なくとも1つの第2のシリンダ(14)とを有する、往復動ピストン内燃機関のためのシリンダハウジングの製造方法において、
前記シリンダ(12,14)はそれぞれの前記シリンダ摺動軌道(16,18)によって形成されるそれぞれの内側輪郭(22,24)に関して互いに相違し、
それぞれの前記内側輪郭(22,24)は少なくともそれぞれの部分領域でそれぞれの前記シリンダ(12,14)の軸方向で下方に向かって拡張し、
それぞれの前記拡張はそれぞれのラッパ形ホーニング加工によって形成されるシリンダハウジングの製造方法。」
(2)そして、本件補正により、上述の本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおり補正された(下線は、請求人が補正箇所を示すために付したものである。)。
「【請求項1】
第1のシリンダ摺動軌道(16)により区切られる第1のシリンダ(12)と、第2のシリンダ摺動軌道(18)により区切られる少なくとも1つの第2のシリンダ(14)とを有する、往復動ピストン内燃機関のためのシリンダハウジングの製造方法において、
前記シリンダ(12,14)は、それぞれの前記シリンダ摺動軌道(16,18)によって形成されるそれぞれの内側輪郭(22,24)に関して、常温状態のとき、互いに相違し、高温状態のとき、互いに少なくとも同様もしくは同一であり、
それぞれの前記内側輪郭(22,24)は少なくともそれぞれの部分領域でそれぞれの前記シリンダ(12,14)の軸方向で下方に向かって拡張し、
それぞれの前記拡張はそれぞれのラッパ形ホーニング加工によって形成されるシリンダハウジングの製造方法。」
2 本件補正の適否
(1)本件補正の内容
本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「内側輪郭」に関して、「互いに相違し」とされていたものを、「常温状態のとき、互いに相違し、高温状態のとき、互いに少なくとも同様もしくは同一であり」と限定するものであり、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(2)引用文献
ア 引用文献1
原査定の拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された実願昭59-38650号(実開昭60-149854号)のマイクロフィルム(以下「引用文献1」という。)には、「エンジンのシリンダブロック」に関して、以下の事項が記載されている(下線は、当審が付与したものである。以下同様。)。
(ア)「(産業上の利用分野)
本考案は、多気筒エンジンのシリンダブロックに関するものである。」(明細書1ページ11行ないし13行)
(イ)「(従来技術)
従来より、エンジンのシリンダにおいては、上部が、燃焼室に近いことから、下部よりも熱膨張による熱変形量が大きく、シリンダの内径を上部から下部まで一定とした場合、その内径が小さいとピストンが焼付き、内径が大きいとピストンが半径方向に動き、騒音が発生するという問題がある。
そこで、特開昭57-126539号公報に記載されるように、ピストン下死点に相当するシリンダ下部からピストン上死点に相当するシリンダ上部に向って、シリンダの内径を徐々に小さくすることにより、上記問題に対処することが提案されている。」(明細書1ページ14行ないし2ページ7行)
(ウ)「ところで、直列のシリンダ列が形成された多気筒エンジンのシリンダブロック1の場合には、高温時に、第1図に示すように熱変形し、シリンダ列の端部の第1及び第4気筒1A,1Dは外方への熱膨張は束縛を受けないのに対し、中間の第2及び第3気筒1B,1Cは隣の気筒の壁部にて束縛を受けるので、第2図に示すように、シリンダブロック1はヘッド側T1がオイルパン側T2よりも大きく変形して扇状となる。その結果、冷間時においてピストンのストローク方向と略一致する、シリンダ列の端部における気筒の中心軸が該ストローク方向に対して大きく傾き、ピストンの摺動抵抗が大きくなるという問題がある。なお、各気筒1A,1B,1C,1Dにおける熱変形量を、曲線A1,A2,B1,B2,C1,C2,D1,D2で示す。」(明細書2ページ8行ないし3ページ3行)
(エ)「(考案の目的)
本考案は、熱影響によるピストンのストローク方向に対する気筒の中心軸の傾きを緩和し、冷間時及び高温時でのピストンの摺動抵抗を小さくすることができるエンジンのシリンダブロックを提供することを目的とする。
(考案の構成)
本考案は、上述した如き多気筒エンジンにおいて、シリンダ列の端部における気筒の中心軸は、冷間時において、上部がシリンダ列の反対側の端部の方向へ傾斜していることを特徴とするものである。」(明細書3ページ4行ないし15行)
(オ)「(実施例)
以下、本考案の実施例を図面に沿って説明する。
第3図において、11は直列のシリンダ列が形成された多気筒エンジンのモデル化したシリンダブロックで、そのシリンダ列の端部S1における第1気筒11Aの中心軸l1は、その上部が冷間時においてシリンダ列の反対側の端部S2の方向へ傾斜するようになっている。また、シリンダ列の端部S2における第4気筒11Dの中心軸l4も、同様に傾斜している。したがって、第1及び第4気筒11A,11Dの中心軸l1,l4は、それらの上部が互いに接近するように全体が傾斜している。
第2及び第3気筒11B,11Cの中心軸l2,l3も、冷間時において、それらの上部が互いに接近するように傾斜しているが、その傾斜角度αは、第1及び第4気筒11A,11Dの中心軸l1,l4の傾斜角度βよりも小さくなっている(α<β)。」(明細書3ページ16行ないし4ページ12行)
(カ)「上記のように構成すれば、第1気筒11Aについて考えると、第4図に示すように、冷間域において中心軸l1がピストンのストローク方向Pに対し角度βだけ傾斜している(l11参照)が、運転により温度が上昇し常用域になると、上記ストローク方向Pと略一致し(l12参照)、しかしてさらに温度が上昇して高温域になると、冷間域とは反対方向に角度βだけ傾斜する(l13参照)。
したがって、冷間時においては中心軸が上記ストローク方向Pと略一致するが、温間時には上記ストローク方向Pに対し角度2β傾斜する従来のシリンダブロック1に比し、冷間時及び高温時に上記ストローク方向Pに対し角度±β傾斜するだけであるから、ピストンの摺動抵抗が小さくなる。」(明細書4ページ13行ないし5ページ6行)
(キ)「(考案の効果)
本考案は、上記のように構成したから、熱影響によるピストンのストローク方向に対する気筒の中心軸の傾きを緩和し、冷間時及び高温時でのピストンの摺動抵抗を小さくすることができる。」(明細書5ページ7行ないし11行)
(ク)第1図
[図:0001380577000001.jpg]
(ケ)第2図
[図:0001380577000002.jpg]
(コ)第3図
[図:0001380577000003.jpg]
(サ)第4図
[図:0001380577000004.jpg]
(シ)上記(ウ)の記載及び第1図の図示内容から、冷間時に平行な各気筒各気筒1A,1B,1C,1Dは、高温になると曲線A1,A2,B1,B2,C1,C2,D1,D2のように熱変形することが分かる。
(ス)上記(イ)及び(ウ)の記載並びに第2図の図示内容から、冷間時に側面視長方形のシリンダブロック1は、高温時(運転時)には、ヘッド側T1の熱変形量がオイルパン側T2の熱変形量よりも大きいため、側面視扇状の形状となることが分かる。
(セ)上記(オ)及び(カ)の記載並びに第3図の図示内容から、第1気筒11A、第2気筒11B、第3気筒11C及び第4気筒11Dは、冷間時において上部が互いに接近するように全体が傾斜し、各気筒の中心軸l1、l2、l3、l4がピストンのストローク方向Pに対しそれぞれ左側に角度β、左側に角度α、右側に角度α、右側に角度βだけ傾斜しているが、運転により温度が上昇して常用域になると、各気筒の中心軸l1、l2、l3、l4がピストンのストローク方向Pと略一致することが分かる。
上記記載事項を総合し、本件補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「第1気筒11A、第2気筒11B、第3気筒11C及び第4気筒11Dを有する、多気筒エンジンのシリンダブロックの製造方法において、
前記第1気筒11A、第2気筒11B、第3気筒11C及び第4気筒11Dは、冷間時、上部が接近するように傾斜し、各気筒の中心軸l1、l2、l3、l4がピストンのストローク方向Pに対しそれぞれ左側に角度β、左側に角度α、右側に角度α、右側に角度βだけ傾斜しているが、運転により温度が上昇し常用域になると、各気筒の中心軸l1、l2、l3、l4がストローク方向Pと略一致する、多気筒エンジンのシリンダブロックの製造方法。」
イ 引用文献2
原査定の拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された特開昭57-126539号公報(以下「引用文献2」という。)には、「内燃機関」に関して、以下の事項が記載されている。
(ア)「本発明は、スラップ音の低減化を図った内燃機関に関するものである。
従来から、内燃機関には、第1図に示すような構成のものがある。この図において、1はシリンダブロック、2はシリンダ、3はこのシリンダ2内を往復運動するピストンで、その頂面4に作用する燃焼圧力Fは、第2図に示すように、コンロッド5をその軸方向に押圧する押圧力Cと、ピストン3を横方向に振らせる力、いわゆるスラップ力Sとに分解され、押圧力Cはクランク軸6に伝達されてエンジン出力として取り出され、スラップ力Sはピストン3を横方向に振らせ、ピストン3がシリンダ2の内壁を殴打することとなるので騒音の原因となる。この騒音レベルは、ピストン3とシリンダ2との隙間が大きい程高く、この隙間が小さい程低いことが知られているが、この隙間が小さすぎると、高負荷時にピストン3がシリンダ2に焼付くという不具合を生ずる。
従来は、この不具合を避けるために、第3図に示すように、冷間時におけるピストン頂面4の直径PUを、この頂面4と比較して高熱に晒されないピストンスカート部7の直径PLよりも小さく形成し、高負荷時にスカート部7の直径PLと頂面4の直径PUとが略等しくなるようにして、ピストン3とシリンダ2との隙間が焼付きを生じる程小さくならないようにしてあった。これを、冷間時におけるピストン3とシリンダ2との隙間状態を図示した第4図と、高負荷時(暖機時)におけるピストン3とシリンダ2との隙間状態を図示した第5図を参照しつつ説明する。
第4図、第5図において、符号3aは上死点におけるピストン3を、符号3bは下死点におけるピストン3を、符号BUはピストン上死点近傍のシリンダ開口径を、符号BLはピストン下死点近傍のシリンダ開口径をそれぞれ示し、冷間時におけるシリンダ2の内径は下死点近傍のシリンダ開口から上死点近傍のシリンダ開口に向かってそのどの部分を測定しても略同一となっている。
ピストン3は、その往復運動速度が早く、冷間時、暖機時を問わず上・下死点において略んどその温度変化がないため、ピストン3の各直径PU,PLは、上死点における寸法が下死点において略そのまま維持されるものとなる。一方シリンダ2は、高負荷時に、ピストン3の上死点近傍のシリンダ部2a(以下、シリンダ上部という。)の温度よりもピストン3の下死点近傍のシリンダ部2b(以下、シリンダ下部という。)の温度が低いために、シリンダ上部2aの内径よりもシリンダ下部2bの内径が小さなものとなって、シリンダ下部2b方向にピストン3が向かって行くに伴って、ピストン3とシリンダ2との隙間が小さなものとなる。
すなわち、ピストン3はその熱負荷の差に起因するピストン3の頂面4とスカート部7の温度差による熱膨脹の差を考えた直径差が与えられていたが、シリンダ2の熱負荷の差に起因するシリンダ上部2aとシリンダ下部2bの温度差による熱膨脹を加味した設計がされていなかったため、高負荷時に、シリンダ上部2aの直径がシリンダ下部2bの直径よりも大きくなるため、ピストン3とシリンダ2の隙間が大きくなり、ピストンスラップに起因する機関騒音が増大するという問題を惹起していた。
本発明は、上記のような従来技術の有する問題点に着目してなされたもので、ピストン下死点に相当するシリンダ下部からピストン上死点に相当するシリンダ上部に向かって、シリンダの内径を徐々に小さくすることにより、上記問題点を解消することを目的としたものである。」(1ページ右下欄4行ないし2ページ左下欄11行)
(イ)「第6図において、シリンダ2は、ピストン上死点近傍のシリンダ開口径BUが、その冷間時においてピストン下死点近傍のシリンダ開口径BLよりも小さく形成され、シリンダ下部2bからシリンダ上部2aに向かって徐々に径が小さくなるテーパ状とされ、ここでは、高負荷時に両開口径BL,BUの値が同一となるようにされている。すなわち、冷間時のシリンダの両開口径の値が同一の場合、高負荷時においては、シリンダ下部2bとシリンダ上部2aとの温度差をtとするとき、上死点近傍のシリンダ開口径BUが、下死点近傍のシリンダ開口径BLよりもαtBLだけ余分に膨脹するので、この膨脹分ΔD(=αtBL)を考慮して、冷間時における上死点近傍のシリンダ開口径BUが、冷間時における下死点近傍のシリンダ開口径BLよりもαtBLだけ小さな値となるようにシリンダ2を製作する。なお、ここで、αはシリンダを形成する材料の熱膨脹係数で、鋳鉄製シリンダの場合には、α=(10~12)×10-6〔1/deg〕、アルミニウム製シリンダの場合には、α=(23~25)×10-6〔1/deg〕である。一例として、シリンダ上部2aとシリンダ下部2bとの温度差が50度Cの場合には、上死点近傍のシリンダ開口径BUは、鋳鉄製シリンダの場合で下死点近傍のシリンダ開口径BLよりも約5.5×10-4BL大きい膨脹を示し、アルミニウム製シリンダの場合で下死点近傍のシリンダ開口径BLよりも約1.2×10-3BL大きい膨脹を示す。一方、アルミニウム製ピストンと鋳鉄製シリンダとの冷間時の隙間は、従来、ディーゼルエンジンの場合で約7×10-4D0、ガソリンエンジンの場合で約3.5×10-4D0に設定されている。
したがって、実際に、シリンダ2の製作をするにあたっては、冷間時におけるシリンダ上部2aとピストン3の頂面4の近傍周部との隙間を保証するために、冷間時における下死点近傍のシリンダ開口径BLと上死点近傍のシリンダ開口径BUとの寸法差Δdを、下記に示す表1の範囲内に設定するものである。
表1(略)
この実施例による内燃機関の場合には、第7図にも示すように、冷間時におけるピストン下死点近傍のシリンダ開口径BU(審決注:「BU」は「BL」の誤記。)よりもピストン上死点近傍のシリンダ開口径BL(審決注:「BL」は「BU」の誤記。)を小さく形成し、かつ、その寸法差をΔdを、高負荷時において生ずるシリンダ下部2bとシリンダ上部2aとの温度差による膨脹分ΔD(=αtBL)としてあるので、高負荷時には第8図に示すように、シリンダ下部2bからシリンダ上部2aに向かってシリンダ2の内径のどの部分を測定してもその径が同一のものとなり、シリンダ上部2aとピストン3との隙間の増大をおさえることができる。したがって、この実施例による場合、冷間時においてシリンダ2の内径がそのどの部分を測定しても略同一とされた従来例のものと比較してその機関騒音を低減させることが可能となる。」(2ページ左下欄16行ないし3ページ右上欄16行)
(ウ)「第9図および第10図は、本発明に係る内燃機関のシリンダブロックの第2の実施例を示すもので、高熱に晒されるシリンダ上部2aのテーパ度をシリンダ下部2bのテーパ度よりも大きく形成してシリンダ内面をピストン下死点近傍位置から上死点位置に向かって湾曲しながら順次径小とし、シリンダ下部2bにおいてピストン3の焼付きを起こりにくくすると共に、前記実施例と比較してさらに一層の騒音低減を図ったものである。」(3ページ左下欄6行ないし14行)
(エ)「本発明は、以上説明したように、高負荷時において、ピストンとシリンダ上部との隙間の増大をおさえることができるので、ピストンスラップによる機関騒音を従来のものと比較して低減させることができる。また、シリンダ下部とピストンとの隙間が従来例同様に保証されているので、焼付き防止効果も奏する。また、高負荷時、従来のものと比較して本発明の場合、シリンダ上部とピストンとの隙間が小さくなっているので、従来のものよりも消炎域で生成される未燃ガス(HC)を減少させることができるという効果を奏する。さらに、ピストンの上・下死点において、ピストンリングの合い口隙間の変化が小さくなるので、ブローバイガスをも減少させることができるという効果を奏する。」(3ページ左下欄末行ないし右下欄14行)
上記記載事項及び図面の図示内容を総合し、本件補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用文献2には以下の事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。
〔引用文献2記載事項〕
「スラップ音を低減するために、シリンダ2は、シリンダ上部2aのシリンダ開口径BUが、その冷間時においてシリンダ下部2bのシリンダ開口径BLよりも小さく形成され、シリンダ下部2bからシリンダ上部2aに向かって徐々に径が小さくなるテーパ状とされ、高負荷時に両開口径BL,BUの値が同一となるようにされていること。」
(3)対比・判断
本件補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「第1気筒11A」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、前者の「第1のシリンダ摺動軌道(16)により区切られる第1のシリンダ(12)」に相当し、以下同様に、「第2気筒11B」は「第2のシリンダ摺動軌道(18)により区切られる少なくとも1つの第2のシリンダ(14)」に、「前記第1気筒11A及び第2気筒11B」は「シリンダ(12,14)」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「多気筒エンジンのシリンダブロックの製造方法」は、その技術的意義からみて、本件補正発明の「往復動ピストン内燃機関のためのシリンダハウジングの製造方法」に相当する。
よって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。
〔一致点〕
「第1のシリンダ摺動軌道により区切られる第1のシリンダと、第2のシリンダ摺動軌道により区切られる少なくとも1つの第2のシリンダとを有する、往復動ピストン内燃機関のためのシリンダハウジングの製造方法。」
〔相違点〕
本件補正発明は、
「前記シリンダは、それぞれの前記シリンダ摺動軌道によって形成されるそれぞれの内側輪郭に関して、常温状態のとき、互いに相違し、高温状態のとき、互いに少なくとも同様もしくは同一であり、
それぞれの前記内側輪郭は少なくともそれぞれの部分領域でそれぞれの前記シリンダの軸方向で下方に向かって拡張し、
それぞれの前記拡張はそれぞれのラッパ形ホーニング加工によって形成される」のに対し、
引用発明は、「前記第1気筒11A、第2気筒11B、第3気筒11C及び第4気筒11Dは、冷間時、上部が接近するように傾斜し、各気筒の中心軸l1、l2、l3、l4がピストンのストローク方向Pに対しそれぞれ左側に角度β、左側に角度α、右側に角度α、右側に角度βだけ傾斜しているが、運転により温度が上昇し常用域になると、各気筒の中心軸l1、l2、l3、l4がストローク方向Pと略一致する」点。
上記相違点について検討する。
引用文献1((2)ア(ウ)を参照。)に記載されているように、シリンダブロックは低温から高温になるときに第2図のように扇状に熱変形及び熱膨張し、図1の曲線A1~D2に示されるように、運転時により高温になる上部の方が、運転時に温度上昇が比較的少ない下部よりも、大きく熱変形することは明らかである。したがって、引用発明のものは、高温の常用域(高温状態)において第1気筒11A及び第2気筒11Bの中心軸l2がストローク方向Pと略一致するようにするために、冷間域(低温状態)では、第1気筒11Aの中心軸は左側に角度β傾き、第2気筒11Bの中心軸は左側に角度α傾くようにするとともに、さらに、第1気筒11A及び第2気筒11Bは、冷間域(低温状態)では、(運転時により高温になる)上方の内径に比べて(運転時に温度上昇が比較的少ない)下方の内径の方が大きい、略円錐台形状にされているとも理解できる。
そして、引用発明においても、スラップ音を低減することは当然の課題であるところ、引用文献2には「スラップ音を低減するために、シリンダ2は、シリンダ上部2aのシリンダ開口径BUが、その冷間時においてシリンダ下部2bのシリンダ開口径BLよりも小さく形成され、シリンダ下部2bからシリンダ上部2aに向かって徐々に径が小さくなるテーパ状とされ、高負荷時に両開口径BL,BUの値が同一となるようにされていること。」(引用文献2記載事項)が記載されている。ここで、「シリンダ上部2aのシリンダ開口径BUが、その冷間時においてシリンダ下部2bのシリンダ開口径BLよりも小さく形成され」ることは、本件補正発明1における、「(シリンダの)内側輪郭は少なくともそれぞれの部分領域でシリンダの軸方向で下方に向かって拡張」することに相当する。
したがって、引用発明において、上記当然の課題を解決するために、引用文献2記載事項を適用すれば、
「第1気筒1A、第2気筒1B、第3気筒1C及び第4気筒1Dを有する、多気筒エンジンのシリンダブロックの製造方法において、
前記第1気筒1A、第2気筒1B、第3気筒1C及び第4気筒1Dは、冷間時、上部が接近するように傾斜し、各気筒の中心軸l1、l2、l3、l4がピストンのストローク方向Pに対しそれぞれ左側に角度β、左側に角度α、右側に角度α、右側に角度βだけ傾斜しているが、運転により温度が上昇し常用域になると、各気筒の中心軸l1、l2、l3、l4がストローク方向Pと略一致し、
スラップ音を低減するために、シリンダは、シリンダ上部のシリンダ開口径が、その冷間時においてシリンダ下部のシリンダ開口径よりも小さく形成され、シリンダ下部からシリンダ上部に向かって徐々に径が小さくなるテーパ状とされ、高負荷時に両開口径の値が同一となるようにされている、
シリンダハウジングの製造方法。」
すなわち、
「第1のシリンダ摺動軌道により区切られる第1のシリンダと、第2のシリンダ摺動軌道により区切られる少なくとも1つの第2のシリンダとを有する、往復動ピストン内燃機関のためのシリンダハウジングの製造方法において、
前記シリンダは、それぞれの前記シリンダ摺動軌道によって形成されるそれぞれの内側輪郭に関して、常温状態のとき、互いに相違し、高温状態のとき、互いに少なくとも同様もしくは同一であり、
それぞれの前記内側輪郭は少なくともそれぞれの部分領域でそれぞれの前記シリンダの軸方向で下方に向かって拡張するシリンダハウジングの製造方法。」になる。
また、テーパ内径面の加工のためにホーニング加工を用いること(本件補正発明1の「ラッパ形ホーニング加工」に相当)は、本願の優先日前に周知の技術(以下、「周知技術」という。例えば、特開2013-46946号公報の段落【0001】~【0003】、特開2010-76032号公報の段落【0001】、特開平6-126613号公報の段落【0001】等の記載を参照。)である。
そして、引用発明においても、スラップ音を低減することは当然の課題である。してみると、引用発明に、引用文献2記載事項を適用するに際して、上記周知技術であるホーニング加工を適用することにより、上記相違点に係る本件補正発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。
なお、請求人は、審判請求書において、次のように主張しているので、以下検討する。
「本件補正発明は、第1のシリンダ摺動軌道、第2のシリンダ摺動軌道のそれぞれによって形成されるそれぞれの内側輪郭に関して、常温状態のとき互いに相違し、高温状態のとき互いに少なくとも同様または同一であること、を1つの特徴とするものであります。
このような本件補正発明の特徴は、いずれの引用文献にも記載も示唆もありません。」
しかしながら、本願明細書の段落【0033】等を参照すると、「同様又は同一」とは、類似する程度の意味であるから、請求人が本件補正発明の特徴と主張する点は、引用発明に引用文献2記載事項を適用することによりできることである。
したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。
また、本件補正発明は、全体としてみても、引用発明、引用文献2記載事項及び周知技術から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。
したがって、本件補正発明は、引用発明、引用文献2記載事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。
3 むすび
上記のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本件補正発明について
1 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、令和2年3月2日の誤訳訂正書により誤訳訂正された請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、第2 [理由] 1(1)に記載したとおりのものである。
2 原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶理由の概要は以下のとおりである。
(進歩性)本願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前に発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1
・引用文献等 1-5
<引用文献等一覧>
1.実願昭59-38650号(実開昭60-149854号)のマイクロフィルム
2.特開昭57-126539号公報
3.特開2013-46946号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2010-76032号公報(周知技術を示す文献)
5.特開平6ー126613号公報(周知技術を示す文献)
3 引用文献1及び2、引用発明並びに引用文献2記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び2、引用発明並びに引用文献2記載事項は、前記第2[理由]2(2)に記載したとおりである。
4 対比・判断
本件発明は、前記第2[理由]2で検討した本件補正発明における「内側輪郭」に関して、「常温状態のとき」という限定及び「高温状態のとき、互いに少なくとも同様もしくは同一であり」という限定を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2[理由]2(3)に記載したとおり、引用発明、引用文献2記載事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も実質的に同様の理由により、引用発明、引用文献2記載事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2020-016009