2021-010511
内燃機関
- 審判番号
- 2021-010511
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-040003外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年08月06日
- 審決日
- 2022年03月29日
- 公報発行日
- 2022年06月24日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人あーく特許事務所
- 分類
- P18 .121-Z (F02F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 13項目
第1 手続の経緯
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この出願(以下、「本願」という。)は、平成28年7月14日に出願した特願2016-139574号の一部を令和2年3月9日に新たな特許出願としたものであって、令和3年1月26日付け(発送日:同年2月2日)で拒絶理由が通知され、同年4月2日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月12日付け(発送日:同年5月18日)で拒絶査定がされ、これに対して、同年8月6日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正がされたものである。
第2 令和3年8月6日にされた手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
令和3年8月6日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
〔理由〕
1 本件補正発明
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正前(令和3年4月2日の手続補正書)の請求項1として、
「【請求項1】燃料を改質するための燃料改質気筒と、燃料または改質燃料を燃焼することによって機関出力を得るための出力気筒とを備える内燃機関において、前記燃料改質気筒は、シリンダと、前記シリンダに収容されるピストンと、を有し、前記シリンダの内周面には、当該シリンダと異なる材料が嵌合されている、ことを特徴とする内燃機関。」
とあったものを、
「【請求項1】燃料を改質するための燃料改質気筒と、燃料または改質燃料を燃焼することによって機関出力を得るための出力気筒とを備える内燃機関において、前記燃料改質気筒は、シリンダブロックと、前記シリンダブロックに収容されるピストンと、前記シリンダブロックとシリンダヘッドとの間に介装されるヘッドガスケットと、を有し、前記シリンダブロックの内周面には、当該シリンダブロックと異なる材料が嵌合されており、この材料が前記ヘッドガスケットより内径側に配置されている、ことを特徴とする内燃機関。」
と補正することを含むものである(下線は、補正箇所を示すために当審で付した。)。
上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「燃料改質気筒」において、「シリンダ」を「シリンダブロック」に限定し、「前記シリンダブロックとシリンダヘッドとの間に介装されるヘッドガスケット」を有し、「前記シリンダブロックの内周面には、当該シリンダブロックと異なる材料が嵌合されており、この材料が前記ヘッドガスケットより内径側に配置されて」いるという限定を付加するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて、検討する。
2 引用文献、引用発明
(1)引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2014-136978号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「エンジン」に関して、図面(特に、図1を参照。)と共に次の記載がある(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。
ア「【0001】
本発明はエンジンに関する。詳しくは予混合圧縮自着火エンジンに関する。」
イ「【0020】
図1に示すように、エンジン1は、軽油若しくは重油を燃料とするディーゼルエンジンである。エンジン1は、主に出力用気筒2、過給機15、燃料改質装置である改質用気筒16、吸気用インタークーラー32、改質燃料用インタークーラー33、EGRガス用インタークーラー34及び制御装置であるECU36を具備する。
【0021】
出力用気筒2は、燃料の燃焼により動力を発生させて出力軸に伝達するものである。出力用気筒2は、出力用シリンダ3、出力用ピストン4、出力用コンロッド5、及び副燃料噴射装置6を具備する。
【0022】
出力用気筒2は、出力用シリンダ3の内部に出力用ピストン4が摺動自在に挿入される。出力用シリンダ3は、一側が図示しないシリンダヘッドによって閉塞され、他側が開放するように構成される。開放出力用ピストン4は、出力用シリンダ3の他側が出力用コンロッド5によって出力軸である出力用クランク軸7に連結される。出力用気筒2の圧縮率は、早期着火や失火の発生を考慮して13以上(例えば13~18程度)に設定される。
【0023】
出力用シリンダ3には、出力用シリンダ温度検出センサー8が設けられる。出力用クランク軸7には、出力用クランク角検出センサー9が設けられる。出力用気筒2には、出力用シリンダ3の内壁と出力用ピストン4の端面とから燃焼室10が構成される。出力用気筒2は、燃焼室10に燃料を噴射可能な副燃料噴射装置6が設けられる。副燃料噴射装置6は、ホールタイプのノズルを有するインジェクタから構成される。出力用気筒2には、出力用吸気弁11を介して吸気管12が接続され、出力用排気弁13を介して排気管14が接続される。なお、本実施形態において、出力用気筒2は、単数であっても複数であってもよい。」
ウ「【0025】
燃料改質装置は、軽油等の燃料を低級炭化水素燃料(例えばメタン)に改質し、過早着火を抑制するものである。燃料改質装置は、改質用気筒16から構成される。改質用気筒16は、吸気と排気(EGRガス)との混合気に燃料を噴射したものを断熱圧縮することで燃料を改質する。改質用気筒16は、改質用シリンダ17、改質用ピストン18、改質用コンロッド19、及び主燃料噴射装置20を具備する。
【0026】
改質用気筒16は、改質用シリンダ17の内部に改質用ピストン18が摺動自在に挿入される。改質用シリンダ17は、一側が図示しないシリンダヘッドによって閉塞され、他側が開放するように構成される。改質用ピストン18は、改質用シリンダ17の一側が改質用コンロッド19によって改質用クランク軸21に連結される。改質用クランク軸21には、改質用クランク角検出センサー22が設けられる。改質用気筒16には、改質用シリンダ17の内壁と改質用ピストン18の端面とから改質室23が構成される。改質用気筒16は、改質室23に燃料を噴射可能な主燃料噴射装置20が設けられる。主燃料噴射装置20は、ピントル型ノズル、スワールインジェクタ、エアアシストインジェクタ等のノズルから構成される。
【0027】
改質用気筒16は、出力用クランク軸7と連動連結される改質用クランク軸21からの動力によって改質用ピストン18が往復運動可能に構成される。改質用気筒16の圧縮率は、熱損失を考慮して15以上(例えば15~20程度)に設定される。なお、本実施形態において、改質用気筒16は、出力用クランク軸7からの動力が伝達される構成としたがこれに限定されるものではない。また、改質用気筒16は、出力用気筒2毎にあってもよく、複数の出力用気筒2に対して1つであってもよい。また、出力用気筒2と改質用気筒16とを兼用することも可能である。
【0028】
改質用気筒16には、改質用吸気弁24を介して供給管25が接続され、改質用排気弁26を介して排出管28が接続される。供給管25は、吸気管12に接続される。つまり、供給管25には、吸気管12から吸気の一部が供給可能に構成される。また、供給管25は、EGR管27を介して排気管14と接続される。つまり、供給管25には、出力用気筒2の燃焼室10からの排気の一部がEGR管27を通じてEGRガスとして供給可能に構成される。従って、改質用気筒16の改質室23には、供給管25から吸気とEGRガスの混合気とが供給可能に構成される。排出管28は、ミキサー28aを介して供給管25よりも下流側の吸気管12に接続される。また、改質用気筒16は、混合気が改質された低級炭化水素燃料(以下、単に「改質燃料」と記す)が改質室23から排出管28を介して吸気管12に排出可能に構成される。」
エ「【0032】
このように構成することで、エンジン1は、第1吸気調量弁29によって吸気と改質用気筒16の改質室23から排出される改質燃料との混合比を変更可能に構成される。また、エンジン1は、第2吸気調量弁30とEGRガス調量弁31とによって改質室23に供給される吸気とEGRガスとの混合比を変更可能に構成される。」
オ「【0047】
始めに、エンジン1における吸気及び排気の経路について説明する。図1に示すように、過給機15のコンプレッサー15bによって吸引された外気は、吸気として断熱圧縮された状態で吸気管12に排出される。吸気は、吸気用インタークーラー32で冷却された後、吸気管12を介して出力用気筒2の燃焼室10に供給される。吸気の一部は、吸気管12に接続される供給管25を介して改質用気筒16の改質室23に供給される。
【0048】
出力用気筒2の燃焼室10からの排気は、排気管14を介して過給機15のタービン15aを回転させた後、外部に排出される。排気の一部は、EGR管27及びEGR管27が接続されている供給管25を介してEGRガスとして改質用気筒16の改質室23に供給される。改質室23から排出された改質燃料は、排出管28を介して吸気管12に還流して燃焼室10に供給される。」
カ「【0063】
以上の如く、本発明の第一実施形態に係るエンジン1は、燃料改質装置である改質用気筒16を備えるエンジン1であって、改質用気筒16は、供給管25を介して吸気管12とEGR管27とが接続され、排出管28を介して吸気管12に接続され、供給管25を介して改質用気筒16の改質室23に供給される吸気と排気との混合気に対して燃料を噴射する主燃料噴射装置20が設けられるものである。
このように構成することにより、EGRガスの特性を利用して燃料をノッキングが発生し難い低級炭化水素燃料に改質するとともに、吸気に混合することで燃料と吸気とが均一かつ希薄に混合される。これにより、ノッキングや失火の発生を抑制して予混合圧縮自着火による運転を可能とする。」
キ「【0066】
また、エンジンの出力用気筒2に副燃料噴射装置6が設けられ、ECU36によって出力用気筒2の断熱圧縮行程又は膨張行程前半に燃料を噴射するように制御されるものである。
このように構成することにより、出力用気筒2において着火性が低い状態の場合、着火が補助される。これにより、ノッキングや失火の発生を抑制して予混合圧縮自着火による運転を可能とする。」
上記記載事項アないしキ及び図面の図示内容を総合し、本件補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
〔引用発明〕
「軽油等の燃料を改質するための改質用気筒16と、燃料または改質燃料を燃焼することによって出力軸に伝達される動力を得るための出力用気筒2とを備えるエンジン1において、前記出力用気筒2と前記改質用気筒16は兼用可能なものであり、前記改質用気筒16は、改質用シリンダ17と、前記改質用シリンダ17の内部に摺動自在に挿入される改質用ピストン18と、を有する、エンジン1。」
(2)引用文献2
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2007-32401号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「予混合圧縮自着火式内燃機関」に関して、図面(特に、図2、8及び9を参照。)と共に次の記載がある。
ア「【請求項1】
シリンダ内にピストンを摺動自在に備えるとともに、シリンダヘッドに燃料噴射ノズルを備え、前記ピストンが上死点に到る前の圧縮行程に、前記燃料噴射ノズルから燃料の過早噴射を行うようにした、予混合圧縮自着火式内燃機関において、
前記シリンダの内周面に、該シリンダに対して断熱性を有する遮熱面が設けられ、前記燃料噴射ノズルに、前記遮熱面に向けて燃料を噴射する燃料噴射口が設けられていることを特徴とする、予混合圧縮自着火式内燃機関。
【請求項2】
前記シリンダの内周面に遮熱リングが嵌合され、前記遮熱面が、前記遮熱リングの内周面により構成されていることを特徴とする、請求項1記載の予混合圧縮自着火式内燃機関。」
イ「【0001】
本発明は予混合圧縮自着火式内燃機関に関するものである。」
ウ「【0035】
本実施形態の内燃機関は、予混合圧縮自着火方式のディーゼルエンジンであり、その構造の詳細について説明する前に、基本的な作動工程を簡単に説明する。図1は、本実施形態のディーゼルエンジンの作動工程の概要を示す説明図である。このディーゼルエンジンは、シリンダ10にピストン11を摺動自在に嵌合するとともに、シリンダヘッド12に、燃料噴射ノズル13、吸気孔14、及び排気孔15を設け、吸気孔14及び排気孔15を、それぞれ吸気用及び排気用バルブ17A,17Bによって開閉自在にしたものである。ピストン11頂面とシリンダ10側面とシリンダヘッド12下面との間には、燃焼室18が形成されている。」
エ「【0038】
〔第1実施形態〕
図2は、本発明の第1実施形態に係るディーゼルエンジンのシリンダ頂部の正面断面図であり、図3は、ピストンが上死点にあるときの要部の拡大正面断面図である。シリンダ10は、シリンダブロック20に筒形のシリンダライナー21を嵌挿し、シリンダブロック20の頂部にシリンダヘッド12を固定することにより構成されている。ピストン11の外周には、複数のピストンリング22が嵌合され、ピストンリング22がシリンダライナー21の内周面21Aを摺接するようになっている。
【0039】
シリンダライナー21の上端部の内周面には、径方向外方へ凹む凹溝23が形成されており、この凹溝23には、遮熱リング25が嵌合されている。遮熱リング25は、例えば、SUH等の耐熱鋼やステンレス合金等により断面矩形のリング状に形成され、耐熱性を有すると共に、シリンダライナー21よりも熱伝導率が低くされ、シリンダライナー21に対する断熱性を有している。遮熱リング25の外径は、シリンダライナー21の凹溝23の内径よりもやや小さくなっており、遮熱リング25を、圧入することなく緩く嵌め込むことができるようになっている。」
オ「【0043】
〔本実施形態の作用効果〕
(1)図2に示すように、ピストン11が上死点に到る前の圧縮行程の初期又は中期に、燃料噴射ノズル13から燃料を噴射すると、当該燃料は、シリンダライナー21上部の遮熱リング25の内周面26に衝突する。シリンダ10は冷却水等によって冷却されているが、遮熱リング25は、その断熱性によって温度が低下し難くなっているので、遮熱リング25の熱によって燃料の蒸発を促進し、遮熱リング25に対する燃料の付着を抑制している。したがって、白煙発生や燃費悪化、オイルの希釈化等を防止することができる。」
カ「【0056】
〔第6実施形態〕
図8は、本発明の第6実施形態に係るシリンダ頂部の拡大断面図である。本実施形態では、遮熱リング25の外周面25Bとシリンダライナーの内周面(凹溝23)との間に、空気層よりなる断熱層36を形成したものである。具体的には、遮熱リングの外周面25B全周(又は部分的)に凹溝25C(又は凹部)を形成し、この凹溝25C内を空洞にしている。
【0057】
本実施形態では、断熱層36によって、シリンダライナー21から遮熱リング25へ熱がより伝達し難くなるため、遮熱リング25をより高温状態に維持することができ、燃料の蒸発をより促進することができる。
【0058】
〔第7実施形態〕
図9は、本発明の第7実施形態に係るシリンダ頂部の拡大断面図である。本実施形態は、第6実施形態と同様に、遮熱リング25の外周面25Bとシリンダライナー21の内周面21Aとの間に空気層よりなる断熱層36を形成したものであるが、その断熱層36が、軸方向に複数段設けられている点で異なる。
【0059】
本実施形態においても、第6実施形態と同様の作用効果を奏するが、本実施形態の遮熱リング25は、上下幅の小さい凹溝25C(凹部)を軸方向に複数形成することによって、第6実施形態に比べて遮熱リング25の強度を高めることができる。」
キ「【0076】
〔その他の実施形態〕
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく適宜設計変更可能である。
(1)例えば、遮熱リング25を、シリンダライナー21と同じ材質又は異なる材質で形成し、遮熱リング25の内周面(遮熱面26)に、耐熱性及び断熱性を有する材料で表面処理を施してもよい。また、遮熱面26を、燃料が衝突する部分に対応して部分的に設けてもよい。」
上記アないしキの記載事項を、本件補正発明に照らして整理すると、引用文献2には、以下の事項(以下、「引用文献2記載事項」という。)が記載されているといえる。
〔引用文献2記載事項〕
「ディーゼルエンジンのシリンダブロック20に嵌挿された筒型のシリンダライナー21の内周面に、シリンダライナー21よりも熱伝導性が低い異なる材質で形成した、耐熱性及び断熱性を有する遮熱リング25を嵌合すること。」
(3)引用文献3
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、実願昭60-189623号(実開昭62-98744号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献3」という。)には、「断熱シリンダライナ」に関して、図面(特に、第1、4及び5図を参照。)と共に次の記載がある。
ア「2実用新案登録請求の範囲
往復動ピストン(2)をもつクランクケース(3)内にシリンダライナ(1)を嵌着させ、その両者間に冷却の為に冷却水(8)が循環するようにした内燃機関において、燃焼行程初期のピストン上死点でピストンのトツプリング(4)が達する位置より上方のシリンダライナ(1)内周面に耐熱鋼環又はセラミツクス環等を挿入し、該耐熱鋼環又はセラミツクス環とシリンダライナ間に空気が対流しない空隙を形成して断熱構造とする断熱シリンダライナ。」
3考案の詳細な説明
産業上の利用分野
本考案は、往復動ピストンをもつ内燃機関において、シリンダライナの上部内面に耐熱鋼環又はセラミツクス環等を挿入し、該耐熱鋼環又はセラミツクス環等とシリンダライナ間に空隙を設けて断熱構造としたシリンダライナに関するものである。
従来技術
従来、内燃機関において、シリンダ内を高温に出来ればエンジン効率をよくすることが出来ることは知られていることであるが、その反面、高温に耐え得れるようにする為には冷却水で冷却していた。しかし、冷却水による冷却が高温燃焼ガスの熱量の冷却損失となつてエンジン効率を低下させることになつたので、その解決にセラミツクス材などのよい耐熱材からなるシリンダライナをクランクケースに嵌着してシリンダを形成し、しかも、耐熱性シリンダライナの存在で、高温燃焼ガスの熱量の流出を防止する断熱構造が設けたものが考えられるようになつた。」(明細書1頁4行ないし2頁15行。)
イ「図に示す如く、1はシリンダライナ、2はピストン、3はクランクケースであつて、クランクケース3に嵌着したシリンダライナ1の内周面で、燃焼行程初期のピストンが上死点に達した折のピストンのトツプリング4が到達する位置の上方部分に、耐熱鋼環又はセラミツクス環5を圧入による焼嵌め、溶接、ロー付け等接着によつて挿着する。そして、シリンダライナ1と上記耐熱鋼環又はセラミツクス環5間には空気が熱により対流させるようなことのない空隙6を形成させる。」(明細書5頁1ないし10行)
上記ア及びイの記載事項を、本件補正発明に照らして整理すると、引用文献3には、以下の事項(以下、「引用文献3記載事項」という。)が記載されているといえる。
〔引用文献3記載事項〕
「往復動ピストンをもつ内燃機関のクランクケース3に嵌着したシリンダライナ1の内周面に、耐熱鋼環又はセラミツクス環を圧入による焼嵌めによって挿着し、該耐熱鋼環又はセラミツクス環とシリンダライナ間に空気が対流しない空隙を形成して断熱構造とすること。」
(4)引用文献4
本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開昭60-93157号公報(以下、「引用文献4」という。)には、「断熱エンジンの構造」に関して、図面(特に、第1図を参照。)と共に次の記載がある。
ア「3.発明の詳細な説明
本発明はセラミクスを利用した断熱エンジンの構造に関するものである。」(1頁左下欄10ないし12行)
イ「そこで、本発明の目的は最も高温となるピストンの上死点付近における燃焼室を囲むシリンダヘツドには高温強度に耐え得るセラミクスを、また常時ピストンリングが摺接するシリンダライナには摺動特性に優れたセラミクスをそれぞれ用いることによつて、燃焼室の断熱化とピストンリングの耐久性を達し得るようにした断熱エンジンの構造を提供することにある。」(1頁右下欄12ないし19行)
ウ「本発明を実施例に基づいて説明する。第1図に示すように、シリンダブロツク3にはピストン4を嵌合するセラミクスからなるシリンダライナ19が嵌合支持されるとともに、この上端壁14にアルミニウムなどの金属からなるシリンダヘツド2が公知の手段によつて結合される。」(2頁左上欄6ないし11行)
エ「シリンダライナ19は主としてピストン4およびピストンリング25を摺動案内し、ヘツドライナ1ほど高温に晒されることは潤滑油の耐熱性からも好ましくない。そこで、シリンダライナ19に使用するセラミクスとししてはピストンとの摺動特性と断熱性の点から部分安定ジルコニアが選択される。
シリンダライナ19とピストン4との摺動部を潤滑油を使用し得る温度に維持するために、エンジンの使用条件によつてはシリンダブロツク3の外壁部は水または空気などで冷却することが必要となる。この場合、ヘツドライナ1を窒化珪素をもつて形成し、シリンダライナ19を部分安定ジルコニアをもつて形成し、両者の間に断熱性を有する弾性ガスケツト7を介装することは、両者間の熱伝導を遮り、シリンダライナ19の冷却によるヘツドライナ1からシリンダライナ19への熱移動を抑えることができる。」(2頁右下欄14行ないし3頁左上欄11行)
オ「シリンダライナ19とヘツドライナ1との間の弾性ガスケツト7は、最も高温となる燃焼初期の燃焼ガスに晒されることがないので、普通のエンジンに用いられるガスケツトで十分なガスシールを得ることができる。」(3頁右上欄11ないし15行)
カ「
[図:0001385012000001.jpg]
」
キ 上記ウ及びエの記載事項並びに上記カに示した第1図から、ピストン4がシリンダブロツク3に収容されていること、及び、シリンダブロツク3の内周面には、シリンダライナ19が弾性ガスケツト7より内径側に配置されていることが看取できる。
上記アないしカの記載事項及びキの認定事項を、本件補正発明に照らして整理すると、引用文献4には、以下の事項(以下、「引用文献4記載事項」という。)が記載されているといえる。
〔引用文献4記載事項〕
「シリンダブロツク3と、前記シリンダブロツク3に収容されるピストン4と、前記シリンダブロツク3とヘツドライナ1の間に介装される弾性ガスケツト7とを有する断熱エンジンにおいて、前記シリンダブロツク3の内周面には、部分安定ジルコニアが選択されたセラミクスを使用したシリンダライナ19が嵌合支持されており、このシリンダライナ19は前記弾性ガスケツト7より内径側に配置されていること。」
3 対比・判断
(1)対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「軽油等の燃料」はその機能、構成又は技術的意義からみて本件補正発明の「燃料」に相当し、以下同様に、「改質用気筒16」は「燃料改質気筒」に、「出力軸に伝達される動力を得るための出力用気筒2」は「機関出力を得るための出力気筒」に、「エンジン1」は「内燃機関」に、「改質用ピストン18」は「ピストン」に、それぞれ相当する。
引用発明の「改質用シリンダ17」は、一側が図示しないシリンダヘッドによって閉塞され、他側が解放するように構成されるものであるから(上記(1)ウの【0026】参照。)、その機能及び構成からみて、本件補正発明の「シリンダブロック」に相当する。
また、引用発明の「改質用ピストン18」は、改質用シリンダ17の内部に摺動自在に挿入されるものであるから、内部に「収容される」ものといえる。
そうすると、本件補正発明と引用発明との間には、次の一致点及び相違点がある。
〔一致点〕
「燃料を改質するための燃料改質気筒と、燃料または改質燃料を燃焼することによって機関出力を得るための出力気筒とを備える内燃機関において、前記燃料改質気筒は、シリンダブロックと、前記シリンダブロックに収容されるピストンと、を有する、内燃機関。」
〔相違点〕
本願発明は、燃料改質気筒において、「前記シリンダブロックとシリンダヘッドとの間に介装されるヘッドガスケット」を有し、
「前記シリンダブロックの内周面には、当該シリンダブロックと異なる材料が嵌合されており、この材料が前記ヘッドガスケットより内径側に配置されている」のに対し、
引用発明は、ヘッドガスケットを有するかどうか不明であり、シリンダブロックの内周面にシリンダブロックと異なる材料が嵌合されるものかどうか不明である点。
(2)判断
ア 上記相違点について検討する。
引用文献2記載事項、引用文献3記載事項、引用文献4記載事項に見られるように、シリンダブロックの内周面に、シリンダブロックと異なる材料を嵌合して断熱性を高めることは、内燃機関の当業者にとって従来周知の技術(以下、「周知技術1」という。)にすぎない。
また、内燃機関のシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に、ガスケットを介装してガスシールをすることも、当業者にとって例示するまでもない周知技術である(以下、「周知技術2」という。)。
引用発明は、「出力用気筒2」と「改質用気筒16」が兼用可能なものであって、どちらにおいても断熱圧縮されるものであり、シリンダの断熱性を向上させることは引用発明で当然に求められることであってシリンダに断熱性の高い材料を用いる動機付けがあるから、引用発明において断熱性を高めるために上記周知技術1を適用して、改質用気筒16の内周面に断熱性の高い材料を嵌合することは、当業者が容易になし得たことである。
また、引用発明の改質用気筒16において、断熱圧縮の際にガスが漏れないようシールする必要があることも当業者が当然認識し得ることであるから、上記周知技術2を適用することは、当業者が容易になし得たことである。そして、ガスケットは通常、気筒からのガスの漏洩を防ぐようシリンダの外周位置に設けられるものであるから、引用発明に上記周知技術2のガスケットを採用したものは、ガスケットの内径側に断熱材の高い材料が配置されるものとなる。この点は、引用文献4記載事項に、断熱性を有する部材をシリンダブロックに嵌合する際、当該断熱性を有する部材がガスケットの内径側に配置したものが記載されていることからも追認できる。
したがって、引用発明において、周知技術1及び2を適用して、上記相違点に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
そして、本件補正発明が奏する効果は、全体としてみても、引用発明並びに周知技術1及び2から、当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものでない。
以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用発明、周知技術1及び2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
イ なお、審判請求人は、令和3年8月6日の審判請求書において、概略、以下の主張をしている。
(主張1)引用文献2(当審注:本審決における引用文献1)には、本願の補正後の請求項1に記載の構成(a1)~(a4)と類似した構成が記載されているが、本願の補正後の請求項1に記載の構成(a5)~(a7)に関する記載ならびに示唆がない。
引用文献5(当審注:本審決における引用文献2)には、「予混合圧縮自着火方式のディーゼルエンジン」に関する技術が記載されているだけであって、本願の補正後の請求項1に記載している「燃料を改質するための燃料改質気筒」を備えていない。
さらに、引用文献6(当審注:本審決における引用文献3)には、本願の補正後の請求項1に記載している「燃料を改質するための燃料改質気筒」を備えていない一般的な内燃機関に関する技術が記載されているだけである。
つまり、引用文献5のディーゼルエンジンや引用文献6の一般的な内燃機関は、そもそも、本願の補正後の請求項1に係る発明や引用文献2に記載の「燃料を改質するための燃料改質気筒と、燃料または改質燃料を燃焼することによって機関出力を得るための出力気筒とを備える内燃機関」と技術分野が相違していることが明らかである。
このようなことから、如何に当業者と雖も、引用文献2に技術分野が相違する引用文献5,6の記載事項を組み合わせるということを想到できるとは到底考えられるものではない。
したがって、引用文献2に引用文献5,6の記載事項を組み合わせる必要性ならびに動機付けが無いと言わざるを得ない。
(主張2)本願の補正後の請求項1に記載の構成(a6)の「前記シリンダブロックの内周面には、当該シリンダブロックと異なる材料が嵌合されており、」や構成(a7)の「この材料が前記ヘッドガスケットより内径側に配置されている」に関する記載は、いずれの引用文献にも記載がない。
上記主張1について検討する。
引用発明の「改質用気筒16」は、上記2(1)で述べたとおり、出力用気筒2と兼用可能なものであるから、燃料の改質だけを行うための気筒ではなく、通常の燃焼も行うことが可能な気筒である。また、改質用気筒16は断熱圧縮が行われるものであって、周知技術1を例示する文献として挙げた引用文献5(本審決における引用文献2)のディーゼルエンジンや引用文献6(本審決における引用文献3)の内燃機関もともに、シリンダにおいて断熱圧縮を行うものである。
そうすると、引用発明の「改質用気筒16」を備えたエンジンと、引用文献5(本審決における引用文献2)のディーゼルエンジンや引用文献6(本審決における引用文献3)の内燃機関とは、断熱圧縮する気筒を備えた往復動ピストン装置として同一の技術分野に属するものである。そして、引用発明と周知技術1とは、上記アのとおり、組み合わせる動機付けがあるというべきである。
上記主張2について検討する。
上記構成(a6)については、引用文献2記載事項、引用文献3記載事項及び引用文献4記載事項に見られるように、シリンダブロックの内周面に、シリンダブロックと異なる材料を嵌合して断熱性を高めることが当業者の周知技術にすぎない(上記周知技術1を参照。)。また、上記構成(a7)についても、上記アで述べたとおり、引用発明に周知技術1を適用したものにおいて通常のガスケットを採用した際の通常の配置関係を特定したものにすぎない。
したがって、審判請求人の上記主張1及び2はいずれも採用できない。
4 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正(令和3年8月6日にされた手続補正)は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし7に係る発明は、令和3年4月2日の手続補正により補正がされた請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記「第2〔理由〕1」に補正前の請求項1として記載したとおりのものである。
2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定における拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
「この出願については、令和3年1月26日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。なお、意見書及び手続補正書の内容を検討したが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。備考●理由(特許法第29条第2項)について・請求項 1-7続きを表示(全16行)・引用文献等 1-8引用文献1又は2に記載される燃料改質気筒において、引用文献3-8に開示される技術手段ないし周知技術等を参酌すれば、補正後の本願請求項1に係る発明は、当業者が容易に想到し得たものである。(中略)<引用文献等一覧>1.特開2016-56704号公報2.特開2014-136978号公報3.特開2016-8545号公報(周知技術を示す文献)4.実願昭57-36361号(実開昭58-139522号)のマイクロフィルム(周知技術を示す文献)5.特開2007-32401号公報(周知技術を示す文献)6.実願昭60-189623号(実開昭62-98744号)のマイクロフィルム(周知技術を示す文献)7.特開2013-204572(周知技術を示す文献)8.特開2013-104363(周知技術を示す文献)」
(なお、原査定における引用文献2は、本審決における引用文献1であり、原査定における引用文献5は、本審決における引用文献2であり、原査定における引用文献6は、本審決における引用文献3である。)
令和3年1月26日付け拒絶理由通知書の概要は、次のとおりである。
「(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)・請求項 1-3・引用文献等 1-4続きを表示(全14行)・請求項 4-8・引用文献等 1-6(中略)<引用文献等一覧>1.特開2016-56704号公報2.特開2014-136978号公報3.特開2016-8545号公報(周知技術を示す文献)4.実願昭57-36361号(実開昭58-139522号)のマイクロフィルム(周知技術を示す文献)5.特開2007-32401号公報(周知技術を示す文献)6.実願昭60-189623号(実開昭62-98744号)のマイクロフィルム(周知技術を示す文献)」
3 引用文献、引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本審決における引用文献1(特開2014-136978号公報)、引用文献2(特開2007-32401号公報)、引用文献3(実願昭60-189623号(実開昭62-98744号)のマイクロフィルム)の記載事項並びに前置報告書で新たに引用された、同引用文献4(特開昭60-93157号公報)の記載事項及び引用発明は、上記「第2〔理由〕2」に記載したとおりである。
4 当審の判断
本件補正発明は、上記「第2〔理由〕1」で述べたように、本願発明の「燃料改質気筒」において、「シリンダ」を「シリンダブロック」に限定し、「前記シリンダブロックとシリンダヘッドとの間に介装されるヘッドガスケット」を有し、「前記シリンダブロックの内周面には、当該シリンダブロックと異なる材料が嵌合されており、この材料が前記ヘッドガスケットより内径側に配置されて」いるという限定を付加したものであるから、本願発明の発明特定事項をすべて含んでいる。
そして、本願発明の発明特定事項をすべて含んでいる本件補正発明が、上記「第2〔理由〕3」に記載したとおり、引用発明並びに周知技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明並びに周知技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
5 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明並びに周知技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-010511