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特許拒絶査定不服審判

2021-010351

風味付きニコチン粉末

審判番号
2021-010351
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2018-529277外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2021年08月04日
審決日
2023年08月09日
公報発行日
2024年01月26日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2018-529277「風味付きニコチン粉末」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月29日国際公開、WO2017/109625、平成31年 2月28日国内公表、特表2019-505479〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 14項目
理 由

1 手続の経緯

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本願は、2016年(平成28年)年12月8日(パリ条約による優先権主張 2015年12月24日(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、その後の主な手続の経緯は以下のとおりである。

令和2年 9月15日付け :拒絶理由通知書
令和3年 2月24日 :手続補正書及び意見書の提出

同年 3月30日付け :拒絶査定

同年 8月 4日 :手続補正書及び審判請求書の提出

同年 9月15日 :手続補正書(方式)(請求の理由の補正)

の提出

同年10月29日付け :前置報告
令和4年12月28日 :上申書の提出
令和5年 1月26日付け :拒絶理由通知書(当審)

同年 5月30日 :手続補正書及び意見書の提出

2 本願発明

令和5年5月30日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。なお、下線は当審が付した。

「【請求項1】
粉末システムであって、
粒子サイズが約5マイクロメートル以下である第一の複数の粒子であって、前記第一の複数の粒子がニコチン粒子を含み、前記ニコチン粒子がL-ロイシンで被覆されたニコチンまたはL-ロイシンで被覆されたニコチン塩水和物の1種またはそれより多数を含む、第一の複数の粒子と、
粒子サイズが50マイクロメートル~150マイクロメートルの範囲内で、かつ風味を含む、第二の複数の粒子と、を備え、
前記第一の複数の粒子が前記粉末システムの全重量の約50重量%~約99重量%であり、かつ前記第二の複数の粒子が前記粉末システムの全重量の約50重量%~約1重量%であり、
前記粒子サイズが空気動力学的中央粒子径である、粉末システム。」

ここで、令和3年8月4日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1(以下「旧請求項1」という。)及び請求項7(以下「旧請求項7」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
粉末システムであって、
粒子サイズが約5マイクロメートル以下である第一の複数の粒子であって、前記第一の複数の粒子がニコチン粒子を含み、前記ニコチン粒子がL-ロイシンで被覆されたニコチンまたはL-ロイシンで被覆されたニコチン塩水和物の1種またはそれより多数を含む、第一の複数の粒子と、
粒子サイズが50マイクロメートル~150マイクロメートルの範囲内で、かつ風味およびステアリン酸マグネシウムを含む、第二の複数の粒子と、を備え、
前記粒子サイズが空気動力学的中央粒子径で測定される、粉末システム。」
「【請求項7】
前記第一の複数の粒子が前記粉末システムの全重量の約50重量%~約99重量%であり、かつ前記第二の複数の粒子が前記粉末システムの全重量の約50重量%~約1重量%である、請求項1~6のいずれか一項に記載の粉末システム。」

したがって、本願発明は、旧請求項1を引用する旧請求項7に係る発明において、第二の複数の粒子に係る「風味およびステアリン酸マグネシウムを含む」という特定から「およびステアリン酸マグネシウム」を削除して、「風味を含む」という特定としたものである。

なお、旧請求項1に記載された「前記粒子サイズが空気動力学的中央粒子径で測定される」は、本願発明の「前記粒子サイズが空気動力学的中央粒子径である」と同義であると認める。

3 拒絶の理由

令和5年1月26日付けで当審が通知した拒絶理由のうち、進歩性に関する理由は、次のとおりのものである。

本願の請求項1~7に係る発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記の文献に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.国際公開第2015/166350号

(対応する公表公報:特表2017-513649号公報)

2.国際公開第2015/173648号

(対応する公表公報:特表2017-512212号公報)

3.特表2008-521788号公報

4.国際公開第2015/193498号

4 引用文献の記載事項及び引用発明

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(1)引用文献の記載事項

上記3の拒絶理由で引用された引用文献1(国際公開第2015/166350号)及び引用文献2(国際公開第2015/173648号)は外国語で記載されているため、記載事項は訳文で記載する。それぞれの訳文は対応する公表公報(引用文献1に対応する特表2017-513649号公報、及び、引用文献2に対応する特表2017-512212号公報)の記載から段落番号を含めて摘記する。

なお、下線は当審が付した。

ア 引用文献1の記載事項

引用文献1には、次の事項が記載されている。

(摘記1a)

「【請求項1】
ニコチン粉末吸入器であって、
マウスピース部分と遠位端部分の間に延びる本体と、
前記マウスピース部分と遠位端部分の間に延びる空気流チャネルと、
続きを表示(全12行)
前記空気流チャネルに沿って配置され、かつ用量のニコチン粉末を含む、ニコチン粉末容器と、
前記空気流チャネルと流体連通した風味送達要素とを含み、
前記用量のニコチン粉末が約5L/min未満の吸入速度でユーザーの肺に吸入されうる、ニコチン粉末吸入器。
・・・
【請求項7】
前記ニコチン粉末容器がニコチン塩を含むニコチン粉末を含むカプセルを受けるように構成されている、請求項1~6のいずれか1項に記載のニコチン粉末吸入器。
【請求項8】
前記カプセルが粉末風味剤を含む前記風味送達要素をさらに含む、請求項7に記載のニコチン粉末吸入器。」(請求項1、7、8、対応する公表公報の請求項1、7、8)

(摘記1b)

「【0010】
本開示は、乾燥粉末ニコチンおよび風味剤を吸入するための、風味付きニコチン粉末吸入器を提供する。風味付きニコチン粉末吸入器は、マウスピース部分と遠位端部分の間に延びる本体を含む。空気流チャネルは、マウスピース部分および遠位端部分およびニコチン粉末容器の間を延びる。ニコチン粉末容器は、空気流チャネルに沿って配置され、また用量のニコチン粉末を受け取るように構成される。風味送達要素は、空気流チャネルと流体連通している。用量のニコチン粉末は、従来的な喫煙法で利用された吸入の流速を模倣した約5L/min未満または約2L/min未満の吸入速度でユーザーの肺に吸入されることができる。風味剤は、ニコチン粒子が吸入されるのと同時にユーザーの口に送達される。本明細書で説明した風味付きニコチン粉末吸入器は、ユーザーの肺によって形成された吸入気流のみを利用して、風味付きニコチン粉末吸入器の本体を通した空気の流れを形成する「受動的」な装置である。
・・・
【0012】
続きを表示(全22行)
ニコチン粉末容器および風味送達要素は、ニコチン粉末および風味剤を同時に提供するように構成・配置される。一部の実施形態で、風味剤は、例えば、カプセル内でニコチン粉末と混合した乾燥粉末である。その他の実施形態で、風味剤は、吸入の前にニコチン粉末と分離されるか、または吸入器の空気流チャネル内で混合される。これらの一部の実施形態で、風味剤およびニコチン粉末は直列の流れで配置され、単一の流れチャネル内に配置され、また風味剤または風味送達要素はニコチン粉末またはニコチン粉末容器の上流または下流のいずれかである。その他の実施形態では、風味剤およびニコチン粉末は並列の流れで配置され、風味剤およびニコチン粉末が混合されて、ニコチン粉末容器および風味送達要素の両方の下流で混合物を形成する一対の流れチャネル内に配置される。
・・・
【0015】
カプセル内でニコチン粉末と混合または結合された風味剤を含む実施形態において、風味剤はユーザーに送達される毎回の吸入または「吸煙」に望ましい風味を提供する量だけ存在する。
・・・
【0019】
ニコチン粉末は、ユーザーの肺への吸入送達について有用な任意のサイズ分布を持ちうる。数多くの実施形態において、少なくとも約90wt%のニコチン粉末は、約10マイクロメートル以下、好ましくは約7マイクロメートル以下の粒子サイズを持ちうる。ニコチン粉末は、約0.1~約10マイクロメートルの平均直径サイズ範囲を持つことが好ましく、約1~約7マイクロメートルがより好ましく、約2~約6マイクロメートルがさらに好ましい。
【0020】
乾燥粉末吸入用の従来的な製剤は、活性粒子は吸入器を通過する気流によって影響を受けるには一般に小さすぎるため、一般に活性粒子の流動化を増大させる役目をする担体粒子を含む。こうして、担体粒子は製剤中で希釈剤または膨化剤として作用することにより、用量の一様性を向上させるために利用された。ところが、本明細書で説明したニコチン粉末は担体を含まないものとしうる。担体を含まないことにより、ニコチン粉末が吸入され、典型的な喫煙法での吸入速度または空気の流速と同様な吸入速度または空気の流速で、ユーザーの肺に送達される。さらに、ニコチン粉末は担体を含まないため、吸入器の気流経路は、単純な幾何学的形状または単純な構成を持ちうる。
【0021】
本明細書で説明したニコチン粉末は、ニコチン塩粒子が被覆された粒子である、表面が変性したニコチン塩としうる。好ましい一つの被覆材料はL-ロイシンである。これらの担体を含まないニコチン粉末について説明があり、Teicos Pharma Inc.(Espoo、Finland)から入手可能である。特に有用な一つのニコチン粉末は、L-ロイシン被覆された重酒石酸ニコチンである。
【0022】
風味剤または風味は、液体または固体の風味(摂氏約22度の室温および1気圧で)として提供することができ、風味製剤、風味を含有する材料および風味前駆体が含まれうる。風味剤は、1つ以上の天然風味剤、1つ以上の合成風味剤、または天然および合成の風味剤の組み合わせを含みうる。
【0023】
風味剤または風味は、天然または合成に由来する各種の風味材料を意味する。これらには、単一の化合物および混合物が含まれる。風味または風味剤は、ニコチン粉末吸入器の体験を向上させて、例えば、燃焼式の喫煙物品の喫煙から生じるものと類似した体験を提供する風味属性を持つことが好ましい。例えば、風味または風味剤は、口充足感および複雑さなどの風味属性を高めることができる。複雑さは、単一の感覚属性が支配的にならず風味のバランス全体がより豊かなものであることとして、一般的に知られている。口充足感は、消費者の口および喉の中での豊かさおよび量の認識として説明される。
・・・
【0027】
一部の実施形態で、風味剤は力価の高い風味剤であり、一般に吸入気流内で結果的に200 ppm未満となるレベルで使用される。こうした風味剤の例は、β-ダマセノン、2-エチル-3,5-ジメチルピラジン、フェニルアセトアルデヒド、グアイアコール、およびフラネオールなどの主なたばこ芳香化合物である。その他の風味剤は、より高い濃度レベルでのみ人間によって感知されることができる。本明細書では力価の低い風味剤と言及されるこれらの風味剤は一般に、吸入空気内に放出される風味剤が結果的に何桁も多い量のレベルで使用される。・・・」(2頁27行~7頁2行、対応する公表公報の段落【0012】~【0027】)

(摘記1c)

「
[図:0001405122000001.jpg]
」(FIG.8、対応する公表公報の図8)

(摘記1d)

「【0048】
・・・図8は、単一の流れ経路および粉末ニコチンおよび風味剤(粉末風味剤が好ましい)の両方を含む単一のカプセル120を持つ風味付きニコチン吸入器10を示す。気流経路は、上流部分15および下流部分13を含む。」(10頁30行~11頁2行、対応する公表公報の段落【0048】)

イ 引用文献2の記載事項

引用文献2には、次の事項が記載されている。

(摘記2a)

「【請求項1】
ニコチン粒子を含む、吸入に適した乾燥粉末ニコチン製剤であって、前記ニコチン粒子が、実質的に約1~10ミクロンのサイズである、前記乾燥粉末ニコチン製剤。
・・・
【請求項5】
続きを表示(全13行)
前記ニコチン粒子の少なくとも約90%が、約10ミクロン未満のサイズである、請求項1に記載の前記製剤。
・・・
【請求項9】
吸入に適した乾燥粉末ニコチン製剤であって、
実質的に約1~10ミクロンのサイズの粒子を有するニコチン系成分と、
実質的に約5~10ミクロンのサイズの粒子を有する鎮咳剤成分と、を含む、前記乾燥粉末ニコチン製剤。
・・・
【請求項14】
実質的に約10~1000ミクロンのサイズの粒子を有する香味成分をさらに含む、請求項9に記載の前記製剤。」(請求項1、5、9、14、対応する公表公報の請求項1、5、9、14)

(摘記2b)

「 【0014】
特に明記しない限り、記載される粒子のサイズまたはサイズ範囲は、粒子または粒子のセットの空気力学的直径の質量中央値(MMAD)として考慮すべきである。このような値は、特徴付けられる粒子と同じ空気力学的挙動を有する、1gm/cm3の密度を有する球の直径として定義された空気力学的粒径の分布に基づいている。本明細書に記載される粒子は、種々の密度及び形状であっても良いため、粒子のサイズは、粒子の実際の直径としてではなく、MMADとして表される。」(4頁11~17行、対応する公表公報の段落【0014】)

(摘記2c)

「 【0019】
別の実施例では、本発明の製剤は、実質的に10~1000ミクロンのサイズの粒子を有する香味成分を任意に含んでも良い。一実施形態では、香味成分は、実質的に10~200ミクロンの範囲内の粒子で構成される。好ましい実施形態では、香味成分は、実質的に10~100ミクロンの範囲内の粒子で構成される。香味成分は、対象に口腔内で影響を与えることができる、このように組み込まれたより大きい粒子を利用して、所望の香味を生成する。さらに、このような香味成分粒子を10ミクロンより大きいサイズに制限することによって、これらの粒子は、対象の肺に進入する能力が制限される。したがって、いくつかの実施形態では、香味成分粒径範囲内の最小粒子は、少なくとも約10ミクロン、少なくとも約12ミクロン、少なくとも約20ミクロン、少なくとも約30ミクロン、または少なくとも約50ミクロンである。いくつかの実施形態では、香味成分粒径範囲内の最大粒子は、約1000ミクロン以下、約500ミクロン以下、約200ミクロン以下、約150ミクロン以下、約120ミクロン以下、約100ミクロン以下、約90ミクロン以下、または約80ミクロン以下である。特定の実施形態では、香味成分粒子の約10%以下は、約10ミクロン未満である。特定の実施形態では、香味成分粒子の約10%以下は、約20ミクロン未満である。」(7頁4~21行、対応する公表公報の段落【0019】)

(摘記2d)

「 【0061】
様々な実施形態において、本発明の製剤中の各成分の相対重量パーセントは、異なる特性を達成するように変化させることができる。故に、当業者が理解するように、成分の相対重量パーセントは、様々な理由で、例えば、限定されないが、製剤の鎮咳剤性能を最適化する、製剤の味を変えるまたは向上させる、及びニコチンの相対用量を調整するために修正され得る。特定の実施形態では、製剤は、約1~20重量%の香味成分、好ましくは、1~5重量%の香味成分であり得る。特定の実施形態では、製剤は、約1~10重量%の鎮咳剤、好ましくは1~2.5重量%の鎮咳剤であり得る。様々な実施形態では、任意の香味成分、鎮咳剤成分、担体、または他の成分を別として、製剤の残りの部分はニコチン成分である。一実施形態では、製剤は、約100%ニコチン成分であり得る。」(22頁4~15行、対応する公表公報の段落【0061】)

(2)引用発明

上記(1)アの摘記1a~dによれば、引用文献1には、乾燥粉末吸入用の風味付きニコチン粉末であって、風味付きニコチン粉末は、ニコチン粉末と粉末風味剤を混合したものであり、ニコチン粉末は、L―ロイシンで被覆された重酒石酸ニコチンであって、約2~約6マイクロメートルの粒子サイズである、乾燥粉末吸入用の風味付きニコチン粉末が記載されている。

そうすると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「約2~約6マイクロメートルの粒子サイズであって、L-ロイシンで被覆された重酒石酸ニコチンを含むニコチン粉末と、粉末風味剤とを混合した、乾燥粉末吸入用の風味付きニコチン粉末。」

5 対比、判断

(1)対比

本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「乾燥粉末吸入用の風味付きニコチン粉末」は、ニコチンを含む粒子及び風味を含有する粒子を混合したものであるから、本願発明の「粉末システム」(本願明細書【0001】の「粉末システム」の定義参照)に相当する。

引用発明の「L-ロイシンで被覆された重酒石酸ニコチン」は、本願発明の「L-ロイシンで被覆されたニコチンまたはL-ロイシンで被覆されたニコチン塩水和物」」(本願明細書【0020】参照)に相当するから、引用発明の「L-ロイシンで被覆された重酒石酸ニコチンを含むニコチン粉末」は、本願発明の「第一の複数の粒子であって、前記第一の複数の粒子がニコチン粒子を含み、前記ニコチン粒子がL-ロイシンで被覆されたニコチンまたはL-ロイシンで被覆されたニコチン塩水和物の1種またはそれより多数を含む、第一の複数の粒子」に相当する。

引用発明の「粉末風味剤」は、L-ロイシンで被覆された重酒石酸ニコチンを含むニコチン粉末とは異なる粉末であるから、本願発明の「風味を含む、第二の複数の粒子」に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>

「第一の複数の粒子と第二の複数の粒子とを備えた粉末システムであって、
前記第一の複数の粒子が、ニコチン粒子を含み、前記ニコチン粒子がL-ロイシンで被覆されたニコチンまたはL-ロイシンで被覆されたニコチン塩水和物の1種またはそれより多数を含む、第一の複数の粒子であり、
前記第二の複数の粒子が、風味を含む第二の複数の粒子である、前記粉末システム。」

<相違点>

相違点1 本願発明の「粒子サイズ」は「空気動力学的中央粒子径」であって、「第一の複数の粒子」の「粒子サイズが約5マイクロメートル以下」であり、「第二の複数の粒子」の「粒子サイズが50マイクロメートル~150マイクロメートルの範囲内」であるのに対し、引用発明では、「粒子サイズ」が「空気動力学的中央粒子径」であることは特定されておらず、「第一の複数の粒子」の粒子サイズは「約2~約6マイクロメートル」であり、「第二の複数の粒子」の粒子サイズは特定されていない点。

相違点2 本願発明は、「前記第一の複数の粒子が前記粉末システムの全重量の約50重量%~約99重量%であり、かつ前記第二の複数の粒子が前記粉末システムの全重量の約50重量%~約1重量%」であるのに対し、引用発明では、対応する事項が特定されていない点。

(2)判断

ア 相違点1についての判断

まず、引用発明のニコチン粉末の粒子サイズである「約2~約6マイクロメートル」は、本願発明の第一の複数の粒子の粒子サイズである「約5マイクロメートル以下」と重複するものである。

ここで、本願発明の粒子サイズである「空気動力学的中央粒子径」は対応する国際公開第2017/109625では「mass median aerodynamic diameter」(Claim 5)と記載されており、一方、引用文献2の粒子サイズである「空気力学的直径の質量中央値」(摘記2b)も原文では「mass median aerodynamic diameter」(4頁12行)と記載されているので、引用文献2に記載された「空気力学的直径の質量中央値」は、本願発明の「空気動力学的中央粒子径」と同義である。

次に、引用文献1には、風味剤は、肺に吸入されるニコチン粉末とは異なり、ユーザーの口に送達されるものであって、送達された口及び喉において認識されるものであることが記載されている(摘記1bの【0010】、【0023】)。

一方、引用文献2には、吸入に適した乾燥粉末ニコチン製剤において、ニコチン粒子が、実質的に約1~10ミクロンのサイズであり、実質的に約10~1000ミクロンのサイズの粒子を有する香味成分をさらに含むこと(摘記2a)、より大きい粒子サイズを採用することによって、香味成分は、口腔内で影響を与えることができ、また香味成分粒子を10ミクロンより大きいサイズに制限することによって、粒子を肺に進入することを制限すること、香味成分粒子の下限を約50ミクロンとし、上限を約150ミクロンとすること(摘記2c)が記載又は示唆されている。

そうすると、引用文献1と引用文献2とは、いずれも吸入に適した乾燥粉末ニコチン製剤という技術分野に属するものであり、固体である乾燥粉末の粒径サイズを好適化することは当業者が当然に試みる事項であるから、当業者は、引用発明の「粒子サイズ」として引用文献2に記載の「mass median aerodynamic diameter(空気動力学的中央粒子径)」を用い、引用文献2に記載又は示唆された数値範囲を参酌して、引用発明において、肺に吸入されるニコチン粉末の粒子サイズ(約2~約6マイクロメートル)を「空気動力学的中央粒子径」で「約5マイクロメートル以下」に、口に送達される粉末風味剤の粒子サイズを、「空気動力学的中央粒子径」で「50マイクロメートル~150マイクロメートルの範囲内」にそれぞれ好適化して、相違点1に係る本願発明の構成を備えたものとすることを、容易に想到し得たといえる。

イ 相違点2についての判断

一般に、課題解決のための数値範囲の最適化又は好適化は当業者の通常の創作能力の発揮であって、この点に進歩性はないとされている。

ここで、相違点2に係る本願発明の発明特定事項は、ニコチンを含む第一の複数の粒子が、風味を含む第二の複数の粒子と同程度であるか、それよりも多く含むものであることを特定するものと解され、この点について、本願明細書の【0037】には、「ニコチンを含む粒子と風味を含む粒子は、ニコチンとともに摂取された時にユーザーによって風味が検出されるように、任意の有用な相対的な量で組み合わせられてもよい。」と説明されている。

そうすると、相違点2に係る本願発明の発明特定事項の技術的意義は、ニコチンを含む第一の複数の粒子が、風味を含む第二の複数の粒子と同程度であるか、それよりも多く含むことで、ユーザーによって風味が検出されるようにすることにあると解される。

一方、引用文献1には、ニコチン粉末と混合した風味剤を含む実施形態において、風味剤は、望ましい風味を提供する量だけ存在すること、一般に吸入気流内で200ppm未満となるレベルで使用されることが記載されている(摘記1bの【0027】)。また、引用文献2には、ニコチン製剤の味を変え又は向上させるために香味成分を約1~20重量%とすること、製剤の残りの部分がニコチン成分であることが記載されている(摘記2d)。

そうすると、ニコチン製剤において、ユーザーに望ましい風味を提供するため、風味の量を、活性成分であるニコチンに対して少ない量とすることは当業者が当然に行うことであるといえるから、ニコチンを含む粒子と風味を含む粒子を含む本願発明の粉末システムにおいて、風味を含む第二の複数の粒子を、ニコチンを含む第一の複数の粒子より少なくするように配合比を好適化し、相違点2に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者の通常の創作力の範囲の発揮に過ぎないものといえる。

そして、本願明細書をみても、配合比の上限及び下限を、相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることの臨界的意義は認められない。

したがって、引用発明において、相違点2に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が適宜なし得たことである。

ウ 本願発明の効果について

本願明細書には、「空気動力学的中央粒子径」である「粒子サイズが約5マイクロメートル以下」の「L-ロイシンで被覆されたニコチンまたはL-ロイシンで被覆されたニコチン塩水和物の1種またはそれより多数」を含む第一の複数の粒子と、「空気動力学的中央粒子径」である「粒子サイズが50マイクロメートル~150マイクロメートルの範囲内」の「風味」を含む第二の複数の粒子とを、所定の配合比で備える本願発明の粉末システムが、引用発明の乾燥粉末吸入用の風味付きニコチン粉末と比較して、凝集の減少程度や吸入量等の点で優れた効果を奏するか否かについて、何ら具体的に開示されていない。

そして、上記ア及びイで説示したように、引用文献2には、吸入に適した乾燥粉末ニコチン製剤におけるニコチン粒子や香味成分の好適な粒子サイズ(mass median aerodynamic diameter(空気動力学的中央粒子径))が記載又は示唆されており、引用文献1及び2には、ニコチン製剤において、活性成分であるニコチンに対する風味を少ない量としてユーザーに望ましい風味を提供できることが記載されている。

そうすると、本願発明の奏する効果は、引用文献1及び2の記載から当業者が予測できるものである。

したがって、本願発明の奏する効果は、引用発明、引用文献1及び2に記載の技術的事項から予測される程度のものにすぎず、予測困難かつ格別顕著な効果を認めることはできない。

エ まとめ

以上のとおりであるから、本願発明は、引用文献1に記載された発明、及び、引用文献1及び2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 令和5年5月30日提出の意見書における請求人の主張について

(1)請求人は、引用文献1は風味剤が固体の風味である場合の粒径を開示しておらず、引用文献2はニコチン粒子がL-ロイシンなどのアミノ酸を含むことを開示していないから、仮に当業者が、引用文献1に記載されている発明に引用文献2に開示されている技術を適用して、補正後の請求項1に係る本発明を得ようとする場合には、まず、ニコチン粉末が担体を含まないことを推奨する引用文献1の開示内容に反してニコチン粒子よりも粒径の大きな風味粒子を採用する一方で、ニコチン粉末が担体を含まない場合に採用されている被覆材料(L-ロイシン)はそのまま使用しよう、と考える必要があるところ、当業者がそのように考えるための動機づけは引用文献1及び引用文献2のいずれにもなく、ニコチン粒子を含む第一の複数の粒子及び風味を含む第二の複数の粒子についてそれぞれの粉末システムの全重量中の割合を特定する本願発明に到るものではない旨主張する(7頁第3段落~8頁第1段落)。

しかしながら、引用発明の「粉末風味剤」は、口充足感および複雑さなどの風味属性を高めるため(摘記1bの【0023】)に用いられている粉末であって、活性粒子の流動化を増大させる役目をする担体粒子(摘記1bの【0020】)として用いられている粉末ではない。

また、引用文献1には、ニコチン粉末は、ユーザーの肺に吸入される、すなわち肺に送達されるものである(摘記1bの【0010】、【0019】)のに対し、風味剤は、ユーザーの口に送達されるものであって、送達された口及び喉において認識されるものである(摘記1bの【0010】、【0023】)ことが記載されており、ニコチン粉末の送達部位である「肺」が、「風味剤」の送達部位である「口」とは異なることは明らかである。

そうすると、上記5(2)アで説示した、大きいサイズの香味成分が口腔内で影響を与えるという引用文献2の記載から、引用発明において、肺に吸入される、すなわち肺に送達される「L-ロイシンで被覆された重酒石酸ニコチンを含むニコチン粉末」と同時に、口に送達される「粉末風味剤」として、該ニコチン粉末よりも粒径の大きな「粉末風味剤」を採用することは、引用文献1の開示内容に反するものではない。

そして、上記5(2)ア及びイで説示したように、引用文献1の開示内容に反することなく、引用発明を本願発明の構成を備えたものにすることを、当業者は容易に想到し得たといえる。

したがって、請求人の上記主張は採用できない。

(2)請求人は、発明の効果について、本願明細書【0012】及び【0019】に記載された本願発明の効果は、引用文献の開示内容からでは当業者といえども予測し得るものではない旨主張する(8頁第2~4段落)。

しかしながら、本願明細書には、本願発明の奏する効果を裏付ける具体的なデータに基づく記載はない。

そして、本願明細書【0012】に記載されている、ニコチン粒子と風味粒子との組合せによる効果は、引用文献2の記載(特に摘記2c)から当業者が予測し得た程度のものにすぎないことは、上記5(2)ウで説示したとおりである。

また、引用発明のニコチン粉末は「L-ロイシンで被覆された重酒石酸ニコチンを含むニコチン粉末」であるから、本願明細書【0019】に記載されている、L-ロイシンで被覆したことによる効果を当然に有するものである。

したがって、請求人の上記主張は採用できない。

7 むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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2021-010351

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