2021-007774
リチウム二次電池用負極、この製造方法及びこれを含むリチウム二次電池
- 審判番号
- 2021-007774
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-529841外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年06月15日
- 審決日
- 2022年05月20日
- 公報発行日
- 2022年11月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
- 【請求人代理人】飯田 雅人
- 【請求人代理人】実広 信哉
- 分類
- P18 .121-Z (H01M) / P18 .572-Z (H01M) / P18 .575-Z (H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 10項目
第1 手続の経緯
本願は、2018年4月9日(パリ条約による優先権主張2017年4月25日 韓国)を国際出願日とする出願であって、その手続の概略は以下のとおりである。
第2 令和3年6月15日にされた手続補正について補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年6月15日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正による特許請求の範囲の記載
本件補正による特許請求の範囲の請求項1(以下「本件補正発明」という。)の記載は、次のとおりである(下線部は、補正箇所である。)。
「集電体の少なくとも一面にリチウム電極を含み、前記リチウム電極は、厚さが15ないし50nmである表面酸化膜(native layer)が形成され、前記リチウム電極は、前記集電体と接していない一面にイオン伝導性保護層がさらに形成され、前記イオン伝導性保護層は、ポリフッ化ビニリデン及びポリフッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレンからなる群から選択された1種以上のイオン伝導性高分子を含み、前記イオン伝導性保護層は、厚さが0.01~1μmである、リチウム二次電池用負極。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和2年9月24日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「集電体の少なくとも一面にリチウム電極を含み、前記リチウム電極は、厚さが15ないし50nmである表面酸化膜(native layer)が形成され、前記リチウム電極は、前記集電体と接していない一面にイオン伝導性保護層がさらに形成され、前記イオン伝導性保護層は、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリジメチルシロキサン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンイミン、ポリフェニレンテレフタレート、ポリメトキシポリエチレングリコールメタクリレート及びポリ2-メトキシエチルグリシジルエーテルからなる群から選択された1種以上のイオン伝導性高分子を含み、前記イオン伝導性保護層は、厚さが0.01~1μmである、リチウム二次電池用負極。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「イオン伝導性保護層」について、「前記イオン伝導性保護層は、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリジメチルシロキサン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンイミン、ポリフェニレンテレフタレート、ポリメトキシポリエチレングリコールメタクリレート及びポリ2-メトキシエチルグリシジルエーテルからなる群から選択された1種以上のイオン伝導性高分子を含み」から、「ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリジメチルシロキサン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル」、「ポリエチレンイミン、ポリフェニレンテレフタレート、ポリメトキシポリエチレングリコールメタクリレート及びポリ2-メトキシエチルグリシジルエーテル」を除外して、「前記イオン伝導性保護層は、ポリフッ化ビニリデン及びポリフッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレンからなる群から選択された1種以上のイオン伝導性高分子を含み」に限定する補正であり、択一的記載の要素を削除するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献及びその記載事項
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ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2009-544121号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。以下同様)。
「【0009】本発明の目的は、リチウムの薄膜を活性材料とするアノードを有し、最も便利な産業条件にある大気圧で実施することができ、前記リチウム膜がその膜に隣接する電池の要素に完全に付着するが作動中に樹枝状結晶を形成することはない電池をもたらす電気化学的電池を作製するための方法を提案することである。」
「【0015】本発明の第1の目的は、少なくとも1つの活性リチウム層を備える多層材料を調製するための方法にある。前記方法は、リチウムの酸化が実質的には起こらないように十分な速度および/または保護層との接触後にリチウムの付着力が高まるよう十分な時間内で保護層上に活性リチウム膜を堆積させる工程を含む。」
「【0018】別の実施形態においては、パッシベーション層の厚さがゼロである。パッシベーション層は、Li2O、Li2CO3、LiOHおよびLi2S2O4からなる群からの少なくとも1種のリチウム化合物を含む。Li2O、Li2CO3およびLiOHは乾燥雰囲気中で形成され、Li2S2O4はSO2の存在下で形成される。」
「【0023】1~15秒で保護層を堆積させることができる。この多層材料が活性リチウム層の両側に2つの保護層を備える場合、リチウム膜のもう一方の空いている表面上に堆積される第1の保護層と同時に第2の保護層を活性リチウム膜上に堆積させることができる。第1の層の堆積後、好ましくは15秒未満後に第2の層を堆積させることもできる。【0024】保護層を形成するために使用する材料は、10-4S.cm2よりも高いイオン伝導度を有し、セラミックス、ガラス、ポリマーおよびこれらの混合物から選択される。イオン伝導性保護層は、互いに独立に10-4S.cm2よりも高いイオン伝導度を有する材料で構成される少なくとも2つのサブ層を備えることができ、この材料は、セラミックス、ガラスおよびセラミック充填剤を含有してもよいポリマーから選択される。【0025】セラミック保護層が、有利には非化学量論的リチウムリン酸窒化物型のセラミックで構成される。このタイプのセラミックは、LIPONという名称で表される。本発明の関係においては、化合物Li3.3PO3.9N0.17および類似化合物を好ましくは使用する。特にすべてが固体である電池向けの薄膜の調製に使用するLIPON化合物についての詳細な説明は、The Electrochemical Societyによって出版された「Micro Power Sources」、K.ZaghibおよびS.Surampudi、Proceedings Volume 2000-03、pp.70~79に提供されている。」
「【0028】保護層を、イオン化合物溶液を導入したポリマー、またはイオン基を有するポリマーで構成することができる。このポリマーは、さらにセラミックを含有することができる。ポリマー型保護層は、好ましくは1~100μmの厚さを有する。」
「【0073】LIPON層上への活性リチウム膜の堆積により、リチウム上の固い固体のLIPON層の存在のおかげで樹枝状結晶の形成が抑制される。液体電解質電池本発明による液体電解質電池は、カソードと、電解質を含浸させたセパレータと、保護層と、活性リチウム膜で構成されるアノードとを備える。」
「【0082】以下の実施例は説明のために提供され、本発明の目的を限定するものではない。実施例1電流コレクタと、カソード材料と、固体ポリマー電解質SPEとで構成される半電池を作製する。【0083】カソード材料は、LiV3O8と、ポリエーテル結合剤と、LiTFSIと、高比表面積炭素とで構成される。このカソードは45μmの厚さを有する。電解質SPEは、LiTFSi溶液をポリエーテル型ポリマー中に導入して構成され、その厚さは20~30μmである。【0084】押出成形によって厚さ250μmの金属リチウム膜が得られ、その後、ジュエラーロールミルにより2秒間手動で薄層化される。こうして厚さ55μmのリチウム膜が得られ、その表面には厚さが25Åであるパッシベーション膜を有する。」
「【0087】この半電池のSPE面上に、スパッタリングによってLi3PO4ターゲットからLIPON層を堆積させる。このLIPON層の厚さは900nmで、ASTM No.D3359規格によって測定した接着力は5/5である。実施例4LiV3O8/SPE/LIPON/リチウム型電池を、下記プロセスによって作製した。【0088】実施例1の手順によって作製した半電池「電流コレクタ/カソード材料/SPE」のSPE面上に、厚さ1μmのLIPON層をカソードスパッタリングによって堆積させた。その後、厚さ250μmの市販の押出膜から、LIPON膜上にリチウム膜を堆積させた。このリチウム膜は、厚さが50Åを超えるパッシベーション層を有する。この市販のリチウム膜を、クラス1,000タイプの無水室内の2本のステンレス鋼ロール間で薄層化して、厚さ50μmのリチウム膜を得た。【0089】この厚さ50μmの膜は、SPE表面上に2秒未満で積極的に堆積させ、次いでこのリチウム膜上に電流コレクタを堆積させた。このように製造した電池は、5mAhのキャパシタンスを有する。この電池をC/3放電で循環させ、3.1ボルトの定電位まで1時間で充電した。キャパシタンスおよびクーロン効率は、100サイクルの間安定している。3%のキャパシタンスの損失が100サイクルの後測定されるが、クーロン効率は99.9~100%のままである。」
(イ)上記記載より、引用文献1には、実施例4のリチウム型電池に関して次の事項が記載されている。
a 【0087】及び【0088】によれば、実施例4に記載のリチウム型電池は、実施例1の手順によって作製した半電池「電流コレクタ/カソード材料/SPE」のSPE面上に、厚さ1μmのLIPON層を堆積させたものである。
ここで、【0082】によれば、実施例1の半電池は、電流コレクタと、カソード材料と、固体ポリマー電解質SPEとで構成される半電池である。
そうすると、実施例4に記載のリチウム型電池は、電流コレクタと、カソード材料と、固体ポリマー電解質SPEとで構成される半電池の固体ポリマー電解質SPE面上に、厚さ1μmのLIPON層を堆積させたものである。
b 【0024】及び【0025】によれば、保護層は、イオン伝導度を有するセラミックスから選択されたものであって、セラミックの保護層はLIPONであるから、上記aにおける実施例4の厚さ1μmのLIPON層は、イオン伝導度を有する保護層である。
c 【0088】によれば、SPE面上にLIPON層を堆積させ、LIPON膜上にリチウム膜を堆積させている。
そして、【0088】及び【0089】によれば、厚さ250μmの市販のリチウム膜を薄層化して厚さ50μmのリチウム膜を得て、この厚さ50μmの膜をSPE表面上に2秒未満で堆積させているので、SPE面上のLIPON膜上に薄層化したリチウム膜を堆積させているといえる。
d 【0089】によれば、リチウム膜上に電流コレクタを堆積させている。
e 【0088】及び【0089】によれば、実施例4は、厚さ250μmの市販のリチウム膜を薄層化して厚さ50μmのリチウム膜を得て、この厚さ50μmの膜をSPE面上のLIPON膜上に2秒未満で堆積させている。
ここで、【0084】によれば、実施例1では、押出成形によって厚さ250μmの金属リチウム膜を得て、その後、2秒間手動で薄層化して厚さ55μmのリチウム膜を得ている。そして、厚さ55μmのリチウム膜はその表面に厚さが25Åであるパッシベーション膜を有している。
そうすると、実施例4のLIPON膜上に2秒未満で堆積させたリチウム膜は、実施例1のリチウム膜と同程度の厚さに薄層化されたものであり、その処理時間も同様に2秒程度であるから、その表面に厚さ数nmのパッシベーション膜を有しているといえる。
そして、【0018】によれば、パッシベーション層は、Li2O、Li2CO3、LiOHおよびLi2S2O4からなる群からの少なくとも1種のリチウム化合物を含んでいる。
よって、LIPON膜上に2秒未満で堆積させたリチウム膜は表面に、厚さ数nmのLi2O、Li2CO3、LiOHおよびLi2S2O4からなる群からの少なくとも1種のリチウム化合物を含むパッシベーション層を有している。
f 【0009】によれば、リチウム型電池は、リチウム膜を活性材料とするアノードを有している。
g 【0089】によれば、実施例4で製造したリチウム型電池は、放電及び充電を行えるので、リチウム型二次電池である。
(ウ)上記aないしgによれば、引用文献1には、実施例4に着目すると次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「電流コレクタと、カソード材料と、固体ポリマー電解質SPEとで構成される半電池の固体ポリマー電解質SPE面上に、イオン伝導度を有する保護層である厚さ1μmのLIPON層を堆積させ、LIPON膜上に薄層化したリチウム膜を堆積させ、リチウム膜上に電流コレクタを堆積させたものであって、リチウム膜は表面に、厚さ数nmのLi2O、Li2CO3、LiOHおよびLi2S2O4からなる群からの少なくとも1種のリチウム化合物を含むパッシベーション層を有し、リチウム膜を活性材料とするアノードを有する、リチウム型二次電池。」
イ 引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である韓国公開特許第10-2016-0037610号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、仮訳として、当審訳を付けた。
「[0030][図:0001390155000001.jpg][図:0001390155000002.jpg]」
「[0031][図:0001390155000003.jpg]」
「[0044][図:0001390155000004.jpg]」
「[0046][図:0001390155000005.jpg]」
(当審訳:
[0030]
パッシベーション層(1210、1220)はリチウム金属板(1100)の上面と下面に形成される。リチウム金属は陰極で使用する場合充電及び放電が進行されることによってリチウム金属上にデンドライト(dendrite)が生成される。デンドライトは多様な形状に形成できるが、仮に針形状で成長する市電池内部の分離膜を裂くこともできる。この場合電池の陰極と陽極が接触してショートが起きるかひどい場合電池の爆発する事が起こることができる。よってリチウム金属板上にデンドライトが形成されないようにリチウム金属板の表面を保護する必要がある。本発明によるパッシベーション層(1210、1220)はリチウム金属板(1100)の表面に形成されて、電池の充電及び放電の時デンドライトの形成を抑制する。
[0031]
パッシベーション層(1210、1220)は金属酸化物または炭素ナノチューブ、高分子電解質、硝子繊維の中で少なくとも一つを含んで形成されうるが、素材はここに限定しない。パッシベーション層は強度が強いながらもリチウム金属を保護することができる素材を使用する。金属酸化物としてワイヤ(wire)、チューブ(tube)またはパーティクル(particle)タイプの金属酸化物(例えば、Al2O3あるいはシリコン酸化物)が利用されうる。シルバーナノワイヤ、銅メッシュ、シルバーメッシュ、銀塩などの素材が使われることもできる。このような物質は単独で使われるか2以上の物質を含んで形成されうる。高分子電解質は電荷を有している高分子物質として単独で使われることもできて、前述の物質と高分子電解質、PE、PVDF、PVDF-HFP、ポリドーパミン(polydopamine)などの高分子との複合体で使われることもできる。高分子電解質としてPEO、ポリシロキサン(polysiloxane)、PDMS、PMMA、PAN系列高分子、acrylate系列高分子などが利用されうる。
[0044]
パッシベーション層(1210)は水分保護フィルム(1212)上にパッシベーション組成物を均一に塗布させることで形成される。パッシベーション組成物はリチウム金属を保護してデンドライトの形成を抑制することができる素材を使用する。金属酸化物はワイヤ(wire)、チューブ(tube)またはパーティクル(particle)タイプの金属酸化物(例えば、Al2O3あるいはシリコン酸化物)が利用されうる。シルバーナノワイヤ、銅メッシュ、シルバーメッシュ、銀塩などの素材が使われることもできる。パッシベーション組成物はリチウム金属上にスピンコーティング(spincoating)、ドクターブレード(doctor blade)コーティング、ディップ(dip)コーティング、グラビア(gravure)コーティング、スリットダイ(slitdie)コーティング、スクリーン(screen)コーティングなどの方法に塗布することができる。パッシベーション層(1210)は1~100μmの厚さに形成されうる。
[0046]
パッシベーション層(1210)はリチウム金属板(1100)表面に蒸着されてリチウム金属板(1100)が電解液に直接露出することを防止してリチウムと電解質の反応を防ぐことができる。パッシベーション層(1210)は導電性を有するので、電極にイオンをなだらかに伝達することができる。)
以上の記載より、引用文献2には次の技術が記載されている。
「リチウム金属板上にデンドライトが形成されるのを抑制する1~100μmの厚さのイオンを伝達するパッシベーション層を、金属酸化物(例えば、Al2O3)などの物質とPVDF、PVDF-HEPの複合体で構成する技術。」
(3)引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明の「リチウム膜」は、「アノード」の「活性材料」であるから、本件補正発明の「リチウム電極」に相当する。
また、引用発明は「リチウム膜上に電流コレクタを堆積させ」ているので、「電流コレクタ」の一面に「リチウム膜」が存在している。そして、引用発明の「電流コレクタ」は集電体のことである。
そうすると、引用発明の「リチウム膜上に電流コレクタを堆積させたもの」は、本件補正発明の「集電体の少なくとも一面にリチウム電極を含」むことに相当する。
イ 引用発明の「パッシベーション層」は、「リチウム膜」の表面に形成された「Li2O、Li2CO3、LiOHおよびLi2S2O4からなる群からの少なくとも1種のリチウム化合物を含む」酸化膜といえるので、本件補正発明の「表面酸化膜」に相当する。
そうすると、引用発明の「リチウム膜は表面に、厚さ数nmのLi2O、Li2CO3、LiOHおよびLi2S2O4からなる群からの少なくとも1種のリチウム化合物を含むパッシベーション層を有」することと本件補正発明とは、「前記リチウム電極は、表面酸化膜(native layer)が形成され」ている点で共通する。
但し、表面酸化膜の厚さが、本件補正発明は「15ないし50nm」であるのに対して、引用発明は「厚さ数nm」である点で相違する。
ウ 引用発明の「LIPON層」は「イオン伝導度を有する保護層」である。
そうすると、引用発明の「LIPON膜上に」「リチウム膜を堆積させ、リチウム膜上に電流コレクタを堆積させたもの」は、本件補正発明の「前記リチウム電極は、前記集電体と接していない一面にイオン伝導性保護層がさらに形成され」ていることに相当する。
但し、イオン伝導性保護層が、本件補正発明は「ポリフッ化ビニリデン及びポリフッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレンからなる群から選択された1種以上のイオン伝導性高分子を含み」「厚さが0.01~1μmである」のに対して、引用発明は「厚さ1μmのLIPON層」である点で相違する。
エ 引用発明の「リチウム型二次電池」は、固体ポリマー電解質SPE面上の「LIPON層」、LIPON膜上の「リチウム膜」及びリチウム膜上の「電流コレクタ」により「アノード」を構成している。
そうすると、引用発明の「電流コレクタ」、「リチウム膜」及び「LIPON層」からなる「アノード」は、本件補正発明の「集電体」、「リチウム電極」及び「イオン伝導性保護層」からなる「リチウム二次電池用負極」に相当する。
上記アないしエによれば、本件補正発明と引用発明との間には、次の一致点及び相違点があるといえる。
(一致点)
「集電体の少なくとも一面にリチウム電極を含み、前記リチウム電極は、表面酸化膜(native layer)が形成され、前記リチウム電極は、前記集電体と接していない一面にイオン伝導性保護層がさらに形成された、リチウム二次電池用負極。」
(相違点1)
表面酸化膜の厚さが、本件補正発明は「15ないし50nm」であるのに対して、引用発明は「厚さ数nm」である点。
(相違点2)
イオン伝導性保護層が、本件補正発明は「ポリフッ化ビニリデン及びポリフッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレンからなる群から選択された1種以上のイオン伝導性高分子を含み」「厚さが0.01~1μmである」のに対して、引用発明は「厚さ1μmのLIPON層」である点。
(4)相違点についての判断
ア 上記相違点1について
引用文献1には、「リチウムの酸化が実質的には起こらないように十分な速度および/または保護層との接触後にリチウムの付着力が高まるよう十分な時間内で保護層上に活性リチウム膜を堆積させる」(【0015】)こと、リチウム膜に1~15秒で保護層を堆積させることができること(【0023】)が記載されている
つまり、引用発明において、保護層であるLIPON膜上に薄層化したリチウム膜を堆積させるまでの時間(即ち、薄層化したリチウム膜を保護層で覆うまでの時間)は、短時間で堆積させることの困難性や、その課程でできたパッシベーション層(表面酸化膜)の厚さがリチウム型電池の特性に悪影響を与えない範囲(即ち、リチウムの酸化が実質的に起きていない範囲)を考慮して、1~15秒の間で適宜決めればよい設計的事項といえる。
そして、1~15秒でできる表面酸化膜の厚さが、本件補正発明の範囲である15ないし50nmと重複することは、引用文献1の図1bの記載から明らかである。
そうすると、引用発明において、保護層であるLIPON膜上に薄層化したリチウム膜を堆積させるまでの時間を1~15秒の間で調整し、「リチウム膜」の「パッシベーション層」(表面酸化膜)を厚さを15ないし50nm程度とすることは、当業者が適宜なし得る最適化の範囲であり、格別に優れた創作性を認めることはできない。
したがって、引用発明に基づいて上記相違点1に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たことである。
イ 上記相違点2について
引用文献2には、リチウム金属板上にデンドライトが形成されるのを抑制する1~100μmの厚さのイオンを伝達するパッシベーション層を、金属酸化物(例えば、Al2O3)などの物質とPVDF、PVDF-HEPの複合体で構成する技術が記載されている(上記「(2)イ」)。
ここで、引用発明の「LIPON層」は、リチウム膜上に樹枝状結晶が形成されるのを抑制するものであるから(【0073】)、引用発明の「LIPON層」と引用文献2に記載の「パッシベーション層」は機能が共通する。
そして、引用文献1には「イオン伝導度を有する保護層」を、1~100μmの厚さであるセラミックを含有するポリマーで構成することが示唆されている(【0028】)。また、引用文献2に記載された金属酸化物(例えば、Al2O3)などの物質とPVDF、PVDF-HEPの複合体は、セラミックを含有するポリマーといえるものである。
上記事項を勘案すれば、引用発明のイオン伝導度を有する保護層である「LIPON層」に換えて、引用文献2に記載されたセラミックを含有するポリマーであるところの「パッシベーション層」を用いることは、当業者が容易になし得たことである。
上記のように、引用発明に引用文献2に記載された「パッシベーション層」を適用したものは、「イオン伝導度を有する保護層」が、ポリフッ化ビニリデン及びポリフッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレンからなる群から選択された1種以上のイオン伝導性高分子を含んだものとなり、厚さにおいて本件補正発明と一部重複する。そして、「イオン伝導度を有する保護層」の厚さは、作成した電池の性能やデンドライトの抑制効果などを考慮して適宜変更すれば良い設計的事項であるといえる。そして、その厚さを薄くしたところで、1μmを境にして得られる特性に格別顕著な違いがあるとは認められない。
したがって、引用発明に引用文献2に記載された技術を適用し、上記相違点2に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たことである。
ウ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
(5)請求人の主張について
ア 請求項1の補正の根拠に関して、審判請求書における請求人の主張の概略は、次のとおりである。
審査官は、拒絶査定において「引用文献1に記載された発明において、引用文献2に記載された発明を参酌することで、イオン導電性保護層を、LIPONに代えて、高分子電解質のPEO、ポリシロキサン、PMMA、PAN系高分子電解質とすることは、当業者が適宜なし得る設計事項である」と認定されたので、審査官は、引用文献2に開示される電解質以外のPVDFを、LIPONの代わりに、引用文献1の保護層として採用することはないとご判断されたものと思料する。(第8-10頁)
イ 上記主張について検討する。
本件補正発明は「前記イオン伝導性保護層は、ポリフッ化ビニリデン及びポリフッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレンからなる群から選択された1種以上のイオン伝導性高分子を含み」と記載されているのように、イオン伝導性保護層はイオン伝導性高分子のみからなるものに限らず、イオン伝導性高分子を含む複合体等も含んでいる。
そして、引用文献2の[0031]にはパッシベーション層として、審査官が指摘したPEO、ポリシロキサン、PMMA、PAN系高分子電解質が単独で使われるもの以外の、金属酸化物(例えば、Al2O3)などの物質とPVDF、PVDF-HEPの複合体も記載されている。ここで、金属酸化物などの物質とPVDF、PVDF-HEPの複合体は、本件補正発明に含まれるイオン伝導性高分子を含む複合体等である。
そうすると、引用文献2には、上記審査官の指摘にかかわらず、引用発明に適用して本件補正発明の構成が得られる金属酸化物などの物質とPVDF、PVDF-HEPの複合体で構成したパッシベーション層が記載されていることは明らかである。
そして、上記相違点2で検討したように、引用発明の「LIPON層」に換えて、引用文献2に記載された金属酸化物などの物質とPVDF、PVDF-HEPの複合体で構成したパッシベーション層を用いることは、当業者が容易になし得たことである。
よって、上記主張は採用することができない。
(6)本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和2年9月24日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるものであるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2[理由] 1(2)」に記載したとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由、概略は次のとおりである。
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1ないし3、11
・引用文献等 1、2
<引用文献等一覧>
1.特表2009-544121号公報
2.韓国公開特許第10-2016-0037610号公報
3 引用文献及びその記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び2の記載事項は、上記「第2[理由] 2(2)」に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記「第2の[理由]2」で検討した本件補正発明の「イオン伝導性保護層」に、「ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリジメチルシロキサン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル」、「ポリエチレンイミン、ポリフェニレンテレフタレート、ポリメトキシポリエチレングリコールメタクリレート及びポリ2-メトキシエチルグリシジルエーテル」の択一的記載の要素を付加するものである。
そうすると、本願発明から択一的記載の要素を削除した本件補正発明が、上記「第2[理由]2(3)、(4)」に記載したとおり、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-007774