特許拒絶査定不服審判
2022-010639
ガラス転移温度の相異なるバインダーを含む分離膜及びその製造方法
- 審判番号
- 2022-010639
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-565412
- 請求日
- 2022年07月07日
- 審決日
- 2023年08月07日
- 公報発行日
- 2024年01月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
- 【請求人代理人】飯田 雅人
- 【請求人代理人】実広 信哉
- 審判長/審判官
- 審判長 山田 正文
- 審判官 須原 宏光
- 審判官 岩田 淳
- 分類
- P18 .121-Z (H01M) / P18 .56 -Z (H01M) / P18 .572-Z (H01M) / P18 .575-Z (H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-565412「ガラス転移温度の相異なるバインダーを含む分離膜及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 7月11日国際公開、WO2019/135510、令和 2年 7月27日国内公表、特表2020-522097〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2018年12月18日(優先権主張 2018年1月5日、韓国)を国際出願日とする出願であって、その手続の概略は以下のとおりである。
令和3年 7月30日付け:拒絶理由通知
令和3年11月10日 :意見書、手続補正書の提出
令和3年12月28日付け:拒絶査定
令和4年 7月 7日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和4年7月7日にされた手続補正について補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年7月7日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正による特許請求の範囲の記載
本件補正による特許請求の範囲の請求項1(以下「本件補正発明」という。)の記載は、次のとおりである(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
多孔性構造の高分子樹脂からなる分離膜基材と、
前記分離膜基材上にコーティングされ、第1無機物及び第1バインダーからなる第1コーティング層であって、前記第1バインダーのガラス転移温度(Tg)が30℃未満であり、前記第1無機物を全体固形分質量を基準に60重量%~95重量%含む、第1コーティング層と、
前記第1コーティング層上にコーティングされ、第2無機物及び第2バインダーを含む第2コーティング層であって、前記第2バインダーのガラス転移温度(Tg)が60℃以上であり、前記第2バインダーを全体固形分質量を基準に50重量%~100重量%含む、第2コーティング層と、
を含み、
前記第1バインダーと第2バインダーは同じ高分子である、
二次電池用分離膜。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和3年11月10日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
多孔性構造の高分子樹脂からなる分離膜基材と、
前記分離膜基材上にコーティングされ、第1無機物及び第1バインダーを含む第1コーティング層であって、前記第1バインダーのガラス転移温度(Tg)が30℃未満である、第1コーティング層と、
前記第1コーティング層上にコーティングされ、第2無機物及び第2バインダーを含む第2コーティング層であって、前記第2バインダーのガラス転移温度(Tg)が60℃以上である、第2コーティング層と、
を含み、
前記第1バインダーと第2バインダーは同じ高分子である、
二次電池用分離膜。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「第1無機物及び第1バインダーを含む第1コーティング層」を「第1無機物及び第1バインダーからなる第1コーティング層」に限定し、さらに「前記第1無機物を全体固形分質量を基準に60重量%~95重量%含む」の限定を付加するものである。
また、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「第2無機物及び第2バインダーを含む第2コーティング層」について、「前記第2バインダーを全体固形分質量を基準に50重量%~100重量%含む」の限定を付加するものである。
そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記「1(1)」に記載したとおりのものである。
(2)引用文献1及びその記載事項
ア 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2013/151144号(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。以下同様。)。
「[0014]
(1)有機セパレータ層、前記有機セパレータ層の少なくとも一面上に隣接して形成された耐熱層、及び前記耐熱層上に形成された接着剤層を有する二次電池用セパレータであって、前記耐熱層は、非導電性粒子及びバインダーを含有し、前記接着剤層は、ガラス転移温度が10~100℃である粒子状重合体を含有する二次電池用セパレータ。」
「[0036]
耐熱層における非導電性粒子の含有割合は、70~97重量%であることが好ましく、80~95重量%であることがより好ましい。耐熱層における非導電性粒子の含有割合を上記範囲内とすることにより、非導電性粒子同士が接触部を有しつつ、イオンの移動が阻害されない程度に、非導電性粒子同士の隙間を形成できる。」
「[0076]
(1.2.3.その他の任意の成分)
耐熱層には、上述した成分以外にも、さらに任意の成分が含まれていてもよい。かかる任意の成分としては、粘度調整剤、界面活性剤、消泡剤や電解液分解抑制等の機能を有する電解液添加剤等が挙げられる。任意の成分は、本発明の二次電池用セパレータを用いた二次電池における電池反応に過度に好ましくない影響を及ぼさないものであれば、特に制限は無い。これらは、後述する耐熱層用スラリーの安定性向上のために添加される成分や、電池性能の向上のために添加される成分を含む。また、任意の成分の種類は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。」
「[0085]
(1.3.1.粒子状重合体)
粒子状重合体を構成する重合体としては、例えば、共役ジエン重合体、ウレタン重合体、(メタ)アクリル重合体などが挙げられる。中でも、高い接着性、及び適度な電解液への膨潤度を有している点から、(メタ)アクリル重合体が好ましい。」
「[0089]
本発明に用いる粒子状重合体は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を含有することが好ましい。粒子状重合体が、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を含有することにより、電極活物質層への接着性を向上することができる。」
「[0096]
本発明において、粒子状重合体として好適な(メタ)アクリル重合体を用いる場合において、(1)(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位、及び架橋性単量体単位を有する(メタ)アクリル重合体;(2)(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、(メタ)アクリロニトリル単量体単位、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位、及び架橋性単量体単位を有する(メタ)アクリル重合体;(3)(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位、芳香族ビニル単量体単位及び架橋性単量体単位を有する(メタ)アクリル重合体;のいずれかを用いることがより好ましく、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位及び架橋性単量体単位を有する(メタ)アクリル重合体や、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位、芳香族ビニル単量体単位、及び架橋性単量体単位を有する(メタ)アクリル重合体を用いることがより好ましい。」
「[0104]
(1.3.2.その他の任意の成分)
接着剤層には、上述した成分以外にも、さらに任意の成分が含まれていてもよい。かかる任意の成分としては、電極活物質層保護等の機能を有する電解液添加剤等が挙げられる。任意の成分は、本発明の二次電池用セパレータを用いた二次電池における電池反応に過度に好ましくない影響を及ぼさないものであれば、特に制限は無く、耐熱層に用いたバインダーや非導電性粒子が含まれる場合もある。これらは、後述する接着剤層用スラリーの安定性向上のために添加される成分や、電池性能の向上のために添加される成分を含む。また、任意の成分の種類は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。接着剤層におけるこれら任意成分の含有割合は10重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることがより好ましい。
[0105]
接着剤層における、非導電性粒子の割合は、0~40重量%、好ましくは10~20重量%である。接着剤層における非導電性粒子及び粒子状重合体の割合を前記範囲内とすることにより、電極への高い接着性と耐熱性を維持することができる。」
「[0158]
(評価方法)
〔ピール強度〕
二次電池用セパレータを、幅10mm×長さ100mmの長方形に切り出し、接着剤層表面にセロハンテープ(JIS Z1522に規定されるもの)を貼り付け、試験片とした。次に、前記試験片におけるセロハンテープを試験台に固定した状態で、二次電池用セパレータの一端を垂直方向に引張り速度50mm/分で引張って剥がしたときの応力を測定した。測定を3回行い、その平均値を求めてこれをピール強度とし、下記の基準により判定する。ピール強度が大きいほど、耐熱層及び接着剤層の複合層と有機セパレータ層との結着力が大きい、すなわち密着強度が大きいことを示す。」
「[0176]
〔実施例1〕
(耐熱層用バインダーの製造)
撹拌機を備えた反応器に、イオン交換水70部、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム(花王ケミカル社製、製品名「エマール2F」)0.15部、並びに過流酸アンモニウム0.5部を、それぞれ供給し、気相部を窒素ガスで置換し、60℃に昇温した。
一方、別の容器でイオン交換水50部、分散剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部、並びに、重合性単量体として、ブチルアクリレート94.8部、アクリロニトリル2部、メタクリル酸1部、N-メチロールアクリルアミド1.2部及びアリルグリシジルエーテル(AGE)1部を混合して単量体混合物を得た。この単量体混合物を4時間かけて前記反応器に連続的に添加して重合を行った。添加中は、60℃で反応を行った。添加終了後、さらに70℃で3時間撹拌して反応を終了し、耐熱層用のバインダーとして(メタ)アクリル重合体を含む水分散液を製造した。
得られた(メタ)アクリル重合体(表1~表3において「ACL」と記載する。)における架橋性単量体単位の含有割合は2.2%であった。(メタ)アクリル重合体の体積平均粒子径D50は0.36μm、ガラス転移温度は-45℃であった。
[0177]
(耐熱層用スラリーの製造)
非導電性粒子としてアルミナ粒子(住友化学社製AKP-3000、体積平均粒子径D50=0.45μm、テトラポッド状粒子)を用意した。
粘度調整剤として、エーテル化度0.8~1.0カルボキシメチルセルロース(ダイセルファインケム社製、製品名D1200)を用いた。なお、粘度調整剤の1%水溶液の粘度は、10~20mPa・sであった。
非導電性粒子を100部、粘度調整剤を1.5部、及びイオン交換水を固形分濃度が40重量%になるように混合して分散させた。さらに、バインダーとして上記(メタ)アクリル重合体を含む水分散液を固形分で4部となる量、ポリエチレングリコール型界面活性剤(サンノプコSNウェット366)0.2部を混合し、耐熱層用スラリーを製造した。」
「[0179]
(接着剤層用スラリーの製造)
得られた粒子状重合体Aを100部及び、バインダーとして上記(メタ)アクリル重合体(耐熱層用バインダーとして得られたもの)を固形分で4部、イオン交換水を固形分濃度が20%になるように混合し、接着剤層用スラリーとして用いた。
[0180]
(二次電池用セパレータの製造)
ポリエチレン製の多孔基材(厚み16μm、ガーレー値210s/100cc)を用意した。これを有機セパレータ層として用い、その両面に、前記耐熱層用スラリーを塗布し、50℃で3分間乾燥させた。これにより、片面厚み3μmの耐熱層を、両面に備える複層物(X)を得た。
次いで、複層物(X)の各耐熱層の上に、上記接着剤層用スラリーをスプレーコート法により塗布し、50℃で1分間乾燥し、片面厚み0.5μmの接着剤層を両面に備える二次電池用セパレータを得た。なお、接着剤層を構成する粒子状重合体Aの上記指標溶液に対する膨潤度は3.5倍であった。
得られた二次電池用セパレータについて、ピール強度、ガーレー値の増加率、熱収縮性及び、耐ブロッキング性を評価した。結果を表1に示す。」
「[0195]
〔実施例7〕
(粒子状重合体Dの製造)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてアクリル酸エチル22.2部、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてメタクリル酸2部、芳香族ビニル単量体としてスチレン75部、架橋性単量体としてエチレンジメタクリレート0.8部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部、イオン交換水150部、及び、重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌した後、60℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、粒子状重合体Dを含む水分散液を得た。
得られた粒子状重合体Dにおける、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は22.2%、芳香族ビニル単量体単位の含有割合は75%、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合は2%、架橋性単量体単位の含有割合は0.8%であった。また、得られた粒子状重合体Dの体積平均粒子径D50は0.15μm、ガラス転移温度は76℃であった。なお、このときの接着剤層を構成する粒子状重合体Dの指標溶液に対する膨潤度は3倍であった。
[0196]
接着剤層用スラリーの製造に際し、粒子状重合体として、粒子状重合体Dを用いて接着剤層用スラリーを製造したこと以外は実施例1と同様にして、耐熱層用スラリー、接着剤層用スラリー、二次電池用セパレータ及び二次電池を製造し、それぞれ評価した。結果を表2に示す。」
イ 上記記載より、実施例7に着目すると、引用文献1には二次電池用セパレータに関して、次の事項が記載されている。
(ア)有機セパレータ層、前記有機セパレータ層の少なくとも一面上に隣接して形成された耐熱層、及び前記耐熱層上に形成された接着剤層を有する二次電池用セパレータ。([0014])
(イ)ここで、実施例7の二次電池用セパレータは、粒子状重合体として、粒子状重合体Dを用いて接着剤層用スラリーを製造したこと以外は実施例1と同様に製造したのであるから([0196])、以下、粒子状重合体D以外の事項は、実施例1を参酌した。
a 有機セパレータ層はポリエチレン製の多孔基材であり、耐熱層は、有機セパレータ層の両面に、耐熱層用スラリーを塗布、乾燥したものであり、接着剤層は、各耐熱層の上に、接着剤層用スラリーを塗布、乾燥したものである。([0180])
b 耐熱層は耐熱層用スラリーを塗布、乾燥したものであるから(上記a)、[0176]及び[0177]によれば、耐熱層は、アルミナ粒子を100部、粘度調整剤を1.5部、バインダーとしてガラス転移温度が-45℃である(メタ)アクリル重合体を4部、及び、ポリエチレングリコール型界面活性剤0.2部含有する。
c [0195]によれば、粒子状重合体Dは、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてアクリル酸エチル22.2部、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてメタクリル酸2部、芳香族ビニル単量体としてスチレン75部、架橋性単量体としてエチレンジメタクリレート0.8部を重合したものである。即ち、粒子状重合体Dは、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位、芳香族ビニル単量体単位及び架橋性単量体単位を有するといえる。
そして、[0096]によれば、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位、芳香族ビニル単量体単位及び架橋性単量体単位を有するものは、(メタ)アクリル重合体である。
また、粒子状重合体Dのガラス転移温度は76℃である。([0195])
以上のことより、粒子状重合体Dは、ガラス転移温度が76℃である(メタ)アクリル重合体からなる粒子状重合体である。
d 接着剤層は、接着剤層用スラリーを塗布、乾燥したものであり(上記a)、上述したように、実施例7は、実施例1の粒子状重合体として、粒子状重合体Dを用いたものであるから、[0176]及び[0179]より実施例7の接着剤層は、ガラス転移温度が76℃である(メタ)アクリル重合体からなる粒子状重合体を100部及び、ガラス転移温度が-45℃である(メタ)アクリル重合体(耐熱層用バインダーとして得られたもの)を4部含有する。
e [0085]及び[0089]によれば、接着剤層に含まれる粒子状重合体は電極活物質層への接着性を有している。
ウ 以上によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「有機セパレータ層、前記有機セパレータ層の少なくとも一面上に隣接して形成された耐熱層、及び前記耐熱層上に形成された接着剤層を有する二次電池用セパレータであって、
前記有機セパレータ層はポリエチレン製の多孔基材であり、
前記耐熱層は、前記有機セパレータ層の両面に、耐熱層用スラリーを塗布、乾燥したものであって、
前記耐熱層は、アルミナ粒子を100部、粘度調整剤を1.5部、バインダーとしてガラス転移温度が-45℃である(メタ)アクリル重合体を4部、及び、ポリエチレングリコール型界面活性剤0.2部を含有し、
前記接着剤層は、前記耐熱層の上に、接着剤層用スラリーを塗布、乾燥したものであって、
前記接着剤層は、ガラス転移温度が76℃である(メタ)アクリル重合体からなる粒子状重合体を100部及び、ガラス転移温度が-45℃である(メタ)アクリル重合体(耐熱層用バインダーとして得られたもの)を4部含有し、
前記粒子状重合体は、電極活物質層への接着性を有する、
二次電池用セパレータ。」
(3)引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明の「ポリエチレン製の多孔基材であ」る「有機セパレータ層」は、本件補正発明の「多孔性構造の高分子樹脂からなる分離膜基材」に相当する。
イ 引用発明の「有機セパレータ層の両面に、耐熱層用スラリーを塗布、乾燥した」「耐熱層」は、本件補正発明の「前記分離膜基材上にコーティングされ」た「第1コーティング層」に相当する。
また、引用発明の「アルミナ粒子」、「バインダーとしてガラス転移温度が-45℃である(メタ)アクリル重合体」は、それぞれ、本件補正発明の「第1無機物」、「第1バインダー」に相当する。
そして、引用発明の「耐熱層」は、「アルミナ粒子」、「バインダーとしてガラス転移温度が-45℃である(メタ)アクリル重合体」、「粘度調整剤」及び「界面活性剤」を含有するのであるから、本件補正発明の「第1コーティング層」とは、「前記分離膜基材上にコーティングされ、第1無機物及び第1バインダーを含む第1コーティング層」である点で共通する。
但し、第1コーティング層が、本件補正発明は「第1無機物及び第1バインダーからなる」のに対して、引用発明は「アルミナ粒子」及び「バインダーとしてガラス転移温度が-45℃である(メタ)アクリル重合体」に加え、「粘度調整剤」及び「界面活性剤」を含む点で相違する。
ウ 上記イで述べたように、引用発明の「バインダーとしてガラス転移温度が-45℃である(メタ)アクリル重合体」は、本件補正発明の「第1バインダー」に相当する。そうすると、引用発明の「(メタ)アクリル重合体」の「ガラス転移温度が-45℃である」ことは、本件補正発明の「前記第1バインダーのガラス転移温度(Tg)が30℃未満であ」ることに相当する。
但し、第1コーティング層が、本件補正発明は「前記第1無機物を全体固形分質量を基準に60重量%~95重量%含む」のに対して、引用発明はそのような特定がない点で相違する。
エ 引用発明の「前記耐熱層の上に、接着剤層用スラリーを塗布、乾燥した」「接着剤層」は、本件補正発明の「前記第1コーティング層上にコーティングされ」た「第2コーティング層」に相当する。
ここで、接着剤層に含まれる粒子状重合体は電極活物質層への接着性を有するのであるから、引用発明の「ガラス転移温度が76℃である(メタ)アクリル重合体からなる粒子状重合体」はバインダーであるといえる。そうすると、引用発明の「ガラス転移温度が76℃である(メタ)アクリル重合体からなる粒子状重合体」は、本件補正発明の「第2バインダー」に相当する。
したがって、引用発明の「接着剤層」と本件補正発明の「第2コーティング層」とは、「前記第1コーティング層上にコーティングされ、第2バインダーを含む第2コーティング層」である点で共通する。
但し、第2コーティング層が、本件補正発明は「第2無機物」「を含む」のに対して、引用発明はそのような特定がない点で相違する。
オ 上記エで述べたように、引用発明の「ガラス転移温度が76℃である(メタ)アクリル重合体からなる粒子状重合体」は、本件補正発明の「第2バインダー」に相当する。そうすると、引用発明の「(メタ)アクリル重合体からなる粒子状重合体」の「ガラス転移温度が76℃である」ことは、本件補正発明の「前記第2バインダーのガラス転移温度(Tg)が60℃以上であ」ることに相当する。
また、引用発明の「前記接着剤層は、ガラス転移温度が76℃である(メタ)アクリル重合体からなる粒子状重合体を100部及び、ガラス転移温度が-45℃である(メタ)アクリル重合体(耐熱層用バインダーとして得られたもの)を4部含有する」ことは、「接着剤層」が「粒子状重合体」を全体固形分質量を基準に96重量%(100/(100+4))含んでいるので、本件補正発明の「第2コーティング層」が、「前記第2バインダーを全体固形分質量を基準に50重量%~100重量%含む」ことに含まれる。
カ 上記イ及びエで述べたように、引用発明の「ガラス転移温度が-45℃である(メタ)アクリル重合体」、「ガラス転移温度が76℃である(メタ)アクリル重合体」は、それぞれ、本件補正発明の「第1バインダー」、「第2バインダー」に相当する
そして、引用発明の「ガラス転移温度が-45℃である(メタ)アクリル重合体」及び「ガラス転移温度が76℃である(メタ)アクリル重合体」は、ともに「(メタ)アクリル重合体」である。このことは、本件補正発明の「前記第1バインダーと第2バインダーは同じ高分子である」ことに相当する。
キ 引用発明の「二次電池用セパレータ」は、本件補正発明の「二次電池用分離膜」に相当する。
上記アないしキによれば、本件補正発明と引用発明との間には、次の一致点及び相違点があるといえる。
(一致点)
「多孔性構造の高分子樹脂からなる分離膜基材と、
前記分離膜基材上にコーティングされ、第1無機物及び第1バインダーを含む第1コーティング層であって、前記第1バインダーのガラス転移温度(Tg)が30℃未満である第1コーティング層と、
前記第1コーティング層上にコーティングされ、第2バインダーを含む第2コーティング層であって、前記第2バインダーのガラス転移温度(Tg)が60℃以上であり、前記第2バインダーを全体固形分質量を基準に50重量%~100重量%含む、第2コーティング層と、
を含み、
前記第1バインダーと第2バインダーは同じ高分子である、
二次電池用分離膜。」
(相違点1)
第1コーティング層が、本件補正発明は「第1無機物及び第1バインダーからなる」のに対して、引用発明は「アルミナ粒子」及び「バインダーとしてガラス転移温度が-45℃である(メタ)アクリル重合体」に加え、「粘度調整剤」及び「界面活性剤」を含む点。
(相違点2)
第1コーティング層が、本件補正発明は「前記第1無機物を全体固形分質量を基準に60重量%~95重量%含む」のに対して、引用発明はそのような特定がない点。
(相違点3)
第2コーティング層が、本件補正発明は「第2無機物」「を含む」のに対して、引用発明はそのような特定がない点。
(4)相違点についての判断
ア 上記相違点1について
引用文献1に「耐熱層には、上述した成分以外にも、さらに任意の成分が含まれていてもよい。かかる任意の成分としては、粘度調整剤、界面活性剤、消泡剤や電解液分解抑制等の機能を有する電解液添加剤等が挙げられる。」([0076])と記載されていることから、粘度調整剤及び界面活性剤は任意の成分であり、引用発明の「耐熱層」おいて「粘度調整剤」及び「ポリエチレングリコール型界面活性剤」を省略することは、当業者が適宜なし得ることにすぎない。
したがって、引用発明に基づいて上記相違点1に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たことである。
イ 上記相違点2について
上記相違点1で検討した「粘度調整剤」及び「ポリエチレングリコール型界面活性剤」を省略した「耐熱層」は、「アルミナ粒子を100部」及び「ガラス転移温度が-45℃である(メタ)アクリル重合体を4部」含有するのであるから、アルミナ粒子は全体固形分質量を基準に96重量%(100/(100+4))含まれることになる。
ここで、引用文献1には「耐熱層における非導電性粒子の含有割合は、70~97重量%であることが好ましく、80~95重量%であることがより好ましい。」([0036])と記載されていることから、引用発明において、アルミナ粒子の含有量を、全体固形分質量を基準に96重量%から60~95重量%に含まれる量に変更することは、当業者が適宜なし得る数値範囲の最適化にすぎない。
また、本願明細書には「前記第1コーティング層の主成分である前記第1無機物は全体固形分質量を基準に50重量%~99重量%含むことができ、好ましくは60重量%~95重量%含むことができる。」(【0031】)と記載があるのみで、第1無機物を全体固形分質量を基準に60重量%~95重量%にすることによる有利な効果等は認められず、上記数値限定に格別な意義は認められない。
したがって、引用発明に基づいて上記相違点2に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たことである。
ウ 上記相違点3について
引用文献1には「接着剤層には、上述した成分以外にも、さらに任意の成分が含まれていてもよい。・・・任意の成分は、・・・非導電性粒子が含まれる場合もある。」([0104])及び「接着剤層における、非導電性粒子の割合は、0~40重量%、好ましくは10~20重量%である。」([0105])と記載されていることから、引用発明の「接着剤層」において、アルミナ粒子等の非導電性粒子を含有させることは、当業者が適宜なし得ることにすぎない。
そして、引用発明の「接着剤層」に非導電性粒子を0~40重量%含有さたものにおいて、「粒子状重合体」の含有量は、全体固形分質量を基準に50重量%~100重量%の範囲内となる。
したがって、引用発明に基づいて上記相違点3に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たことである。
エ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
(5)本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の結論のとおり決定する。
3 請求人の主張について
請求人は、本願請求項1に係る発明は、分離膜基材に対する剥離強度が向上し、電極合剤層との接着力が向上した分離膜を提供することが課題であるが、引用文献1はむしろ電極との接着性のみに着目しており、引用文献1には、剥離強度及び電極接着力が共に向上する効果が得られることは示唆も開示もされていない旨を主張している。(審判請求書7頁20行-8頁19行)
しかしながら、引用文献1には、ピール強度を測定することにより、耐熱層及び接着剤層の複合層と有機セパレータ層との結着力(即ち、本願でいうところの分離膜基材に対する剥離強度)の大きさを評価することが記載されており([0158])、引用発明は複合層と有機セパレータ層との結着力も考慮した二次電池用セパレータであるものと認められ、上記主張を採用することはできない。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和3年11月10日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものであるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2[理由]1(2)」に記載したとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由、概略は次のとおりである。
2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
●理由2(進歩性)について
・請求項 1~6,8~10
・引用文献等 1
・請求項 1~6,8~10
・引用文献等 2
<引用文献等一覧>
1.国際公開第2013/151144号
2.国際公開第2016/159724号
3 対比・判断
本願発明は、前記「第2[理由]2」で検討した本件補正発明から、「第1無機物及び第1バインダーを含む第1コーティング層」を「第1無機物及び第1バインダーからなる第1コーティング層」にする限定をなくし、「前記第1無機物を全体固形分質量を基準に60重量%~95重量%含む」及び「前記第2バインダーを全体固形分質量を基準に50重量%~100重量%含む」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記「第2[理由]2(3)、(4)」に記載したとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その他の請求項に論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-010639