特許拒絶査定不服審判
2022-013645
積層電池
- 審判番号
- 2022-013645
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-084425
- 請求日
- 2022年08月31日
- 審決日
- 2023年09月25日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】トヨタ自動車株式会社
- 【請求人代理人】山本 典輝
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 信一
- 審判官 須原 宏光
- 審判官 小池 秀介
- 分類
- P18 .121-Z (H01M) / P18 .575-Z (H01M) / P18 .572-Z (H01M) / P18 .56 -Z (H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018- 84425「積層電池」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 8月22日出願公開、特開2019-140079〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成30年4月25日(優先権主張 平成30年2月6日)の出願であって、その手続の概略は以下のとおりである。
令和 3年 5月28日付け:拒絶理由通知
令和 3年 8月 2日 :意見書、手続補正書の提出
令和 4年 1月21日付け:拒絶理由(最後)通知
令和 4年 4月27日 :意見書、手続補正書の提出
令和 4年 6月22日付け:令和4年4月27日の手続補正についての補正の却下の決定、拒絶査定
令和 4年 8月31日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和4年8月31日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年8月31日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正による特許請求の範囲の記載
本件補正による特許請求の範囲の請求項1(以下「本件補正発明」という。)の記載は、次のとおりである(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
少なくとも一つの短絡電流分散体と複数の発電要素とが積層され、前記少なくとも一つの短絡電流分散体が前記複数の発電要素の間に積層された積層電池であって、
前記短絡電流分散体において、第1の集電体層と第2の集電体層と前記第1の集電体層及び前記第2の集電体層の間に設けられた絶縁層とが積層されており、
前記発電要素において、正極集電体層と正極材層と電解質層と負極材層と負極集電体層とが積層されており、
前記第1の集電体層が前記正極集電体層と電気的に接続されており、
前記第2の集電体層が前記負極集電体層と電気的に接続されており、
前記第1の集電体層及び前記第2の集電体層が、銅、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、クロム及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属からなり、
前記絶縁層は熱硬化性樹脂によって構成され、
前記第1の集電体層及び前記第2の集電体層のうちの少なくとも一方が、複数の金属箔から構成されている、
積層電池。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
令和4年4月27日の手続補正は却下されたので、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、令和3年8月2日にされた手続補正により補正された次のとおりである。
「【請求項1】
少なくとも一つの短絡電流分散体と少なくとも一つの発電要素とが積層された積層電池であって、
前記短絡電流分散体において、第1の集電体層と第2の集電体層と前記第1の集電体層及び前記第2の集電体層の間に設けられた絶縁層とが積層されており、
前記発電要素において、正極集電体層と正極材層と電解質層と負極材層と負極集電体層とが積層されており、
前記第1の集電体層が前記正極集電体層と電気的に接続されており、
前記第2の集電体層が前記負極集電体層と電気的に接続されており、
前記第1の集電体層及び前記第2の集電体層が、銅、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、クロム及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属からなり、
前記絶縁層は熱硬化性樹脂によって構成されている、
積層電池。」
2 補正の適否
本件補正は、
ア 本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「少なくとも一つの短絡電流分散体と少なくとも一つの発電要素とが積層された積層電池」について、「少なくとも一つの短絡電流分散体と複数の発電要素とが積層され、前記少なくとも一つの短絡電流分散体が前記複数の発電要素の間に積層された積層電池」との限定を付加し、
イ 本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「前記第1の集電体層及び前記第2の集電体層」について、「前記第1の集電体層及び前記第2の集電体層のうちの少なくとも一方が、複数の金属箔から構成されている」ことの限定を付加するものである。
上記ア及びイに係る補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記「1(1)」に記載したとおりのものである。
(2)引用文献及びその記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された引用文献である特開2014-082122号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の各記載がある(なお、下線は当審で付した。)。
「【0015】
以下、リチウムイオン二次電池の一実施形態について説明する。
図1に示すように、車両に搭載されるリチウムイオン二次電池(以下「二次電池」と示す)10は、ケース11に電極組立体12が収容されている。ケース11は、電極組立体12を収容する略有底矩形箱状の本体部材13と、該本体部材13の開口部13aを閉塞する矩形板状の蓋部材14とから構成されている。本体部材13及び蓋部材14は、アルミニウムなどの金属製である。」
「【0017】
図2に示すように、ケース11には、電解質としての非水電解液17が充填されている。また、電極組立体12は、絶縁性を有する樹脂製シート11aに覆われた状態でケース11に収容されている。」
「【0020】
そして、電極組立体12は、正極シート18を収容した袋状セパレータ20、及び負極シート19を交互に積層された積層型の電極組立体である。このため、電極組立体12では、正極シート18、及び負極シート19が間にセパレータ部20a(袋状セパレータ20)を介在させた状態で交互に層状に重なっている。以下、電極組立体12における正極
シート18及び負極シート19が重なる方向を積層方向Dと示す。
【0021】
正極シート18は、正極金属箔21と、リチウムイオンを脱挿入可能な正極活物質を含み正極金属箔21の両面に設けられた活物質層としての正極活物質層22と、を有する。正極金属箔21は、アルミニウム系金属(本実施形態ではアルミニウム)から形成されている。アルミニウムの融点は、660℃である。また、正極金属箔21の厚さは、例えば15μmである。」
「【0024】
また、図3に示すように、負極シート19は、負極金属箔25と、リチウムイオンを脱挿入可能な負極活物質を含み負極金属箔25の両面に設けられた活物質層としての負極活物質層26と、を有する。負極金属箔25は、リチウム電位に対して3V以下でリチウムと合金化しない金属である銅系金属(本実施形態では銅)から形成されている。銅の融点は、1084℃であり、正極金属箔21を形成する金属(本実施形態ではアルミニウム)よりも高い温度である。また、負極金属箔25の厚さは、例えば20μmである。」
「【0028】
そして、図3及び図4に示すように、積層方向Dにおける電極組立体12の最も外側には、全体として矩形のシート状(矩形板状)に形成された第2正極としての正極板30と、第2負極としての負極板31とが配置されている。なお、本実施形態の正極板30は、袋状セパレータ20に収容されている。
【0029】
すなわち、積層方向Dにおける電極組立体12の両端には、該両端に配置された負極シート19に対して、それぞれ負極板31、セパレータ部20a、正極板30、セパレータ部20aがこの順で積層され、相互に面接触された状態で重なっている。つまり、正極板30と負極板31は、セパレータ部20a(袋状セパレータ20)を間に介在させた状態で電極組立体12の外側に重なっている。本実施形態では、正極板30を収容する袋状セパレータ20(各セパレータ部20a)が正極板30と負極板31とを絶縁する絶縁部材となる。
【0030】
各負極板31は、矩形のシート状(板状又は箔状)である金属基材としての負極金属基材34を有する。負極金属基材34の両面(全体)には、負極活物質層26が設けられていない。負極金属基材34は、負極シート19において負極集電タブ28を除いた部分と積層方向Dからみて同一(略同一)の形状及び大きさであり、電極組立体12において、積層方向Dからみて相互に重なっている。
【0031】
負極金属基材34は、銅系金属(本実施形態では銅)から形成されている。負極金属基材34の厚さは、例えば0.1mm以上1mm以下である。電極組立体12において、負極板31(負極金属基材34)は、袋状セパレータ20(セパレータ部20a)を介することなく負極シート19に接触されている。
【0032】
また、負極金属基材34には、矩形の金属箔(本実施形態では銅箔)を溶接することにより、負極タブ31aが縁部31bから突出されている。負極タブ31aは、負極板31を電極組立体12に積層した状態において、負極集電タブ28と重なる位置に設けられており、各負極集電タブ28と共に負極集電タブ群28aを構成する。そして、負極タブ31aは、負極端子16及び各負極集電タブ28と電気的に接続されている。即ち、各負極板31は、負極タブ31aを介して各負極シート19と電気的に接続されている。
【0033】
また、各正極板30は、矩形のシート状(板状又は箔状)である金属基材としての正極金属基材33を有する。正極金属基材33は、正極金属箔21を形成する金属(本実施形態ではアルミニウム)よりも融点が高い金属である銅系金属(本実施形態では銅)から形成されている。」
「【0036】
また、正極金属基材33には、矩形の金属箔(本実施形態ではアルミニウム箔)を溶接することにより、正極タブ30aが縁部30bから突出されている。正極タブ30aは、正極板30を電極組立体12に積層した状態において、正極集電タブ24と重なる位置に設けられており、各正極集電タブ24と共に正極集電タブ群24aを構成する。そして、正極タブ30aは、正極端子15及び各正極集電タブ24と電気的に接続されている。即ち、正極板30は、正極タブ30aを介して各正極シート18と電気的に接続されている。」
「【0038】
このため、例えば釘などの鋭利な金属片36が積層方向Dから二次電池10に刺さる場合には、該金属片36を介して、正極金属箔21と負極金属箔25とが短絡することに加えて、正極金属基材33と、負極金属基材34とが短絡する。したがって、本実施形態では、正極シート18と負極シート19との間を流れる電流を減少させ、二次電池10としての発熱を抑制できる。」
「【0047】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 正極金属基材33は、非水電解液17に対して耐性を有する樹脂(例えばポリエチレンやポリプロピレンなど)のコート層により、全体が覆われていてもよい。ここで「非水電解液17に対して耐性を有する」とは、非水電解液17中において正極活物質や負極活物質の性能を低下させる程度に成分が溶出したり、正極金属基材33から剥離したりしないことを意味する。この場合には、正極金属基材33を袋状セパレータ20に収容しなくてもよい。なお、正極金属基材33の一部をアルミニウムめっき層33aで覆い、残部を上記樹脂のコート層で覆ってもよい。」
(イ)上記記載より、引用文献1にはリチウムイオン二次電池に関して、次の事項が記載されている。
リチウムイオン二次電池10は、ケース11に電極組立体12が収容されており(【0015】)、
ケース11には非水電解液17が充填され(【0017】)、
電極組立体12は、正極シート18及び負極シート19が間にセパレータ部20aを介在させた状態で交互に層状に重なっており(【0020】)、
正極シート18は、正極金属箔21と正極活物質層22とを有し(【0021】)、
負極シート19は、負極金属箔25と負極活物質層26とを有し(【0024】)、
積層方向における電極組立体12の最も外側には、正極板30と負極板31とが積層配置され(【0028】、図3)、
負極板31は、銅から形成されている負極金属基材34を有し(【0030】、【0031】)、
正極板30は、樹脂のコート層により全体が覆われた、銅から形成されている正極金属基材33を有し(【0033】、【0047】)、
負極板31は、負極シート19と電気的に接続されており(【0032】)、
正極板30は、正極シート18と電気的に接続されており(【0036】)、
釘などの鋭利な金属片が積層方向から二次電池10に刺さる場合には、正極金属基材33と負極金属基材34とが短絡して、正極シート18と負極シート19との間を流れる電流を減少させること(【0038】)。
(ウ)以上によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「ケース11に電極組立体12が収容されているリチウムイオン二次電池10であって、
ケース11には非水電解液17が充填され、
電極組立体12は、正極シート18及び負極シート19が間にセパレータ部20aを介在させた状態で交互に層状に重なっており、
正極シート18は、正極金属箔21と正極活物質層22とを有し、
負極シート19は、負極金属箔25と負極活物質層26とを有し、
積層方向における電極組立体12の最も外側には、正極板30と負極板31とが積層配置され、
負極板31は、銅から形成されている負極金属基材34を有し、
正極板30は、樹脂のコート層により全体が覆われた、銅から形成されている正極金属基材33を有し、
負極板31は、負極シート19と電気的に接続されており、
正極板30は、正極シート18と電気的に接続されており、
釘などの鋭利な金属片が積層方向から二次電池10に刺さる場合には、正極金属基材33と負極金属基材34とが短絡して、正極シート18と負極シート19との間を流れる電流を減少させる、
リチウムイオン二次電池10。」
イ 引用文献3
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された引用文献である特開2014-093149号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0025】
安全対策電極ユニット30は、第1の金属箔32Aと、第2の金属箔32Bと、第1の金属箔32Aと第2の金属箔32Bとの間に介在する絶縁層34とで構成されている。」
「【0040】
特に、安全対策電極ユニット30によれば、第1の金属箔32Aおよび第2の金属箔32Bがいずれも積層金属箔で構成されているため、1枚の金属箔で構成されている場合に比べて電気抵抗が低く電気が流れやすくなっており、それにより、抵抗発熱により金属箔が溶解する事態が効果的に抑制されている。」
ウ 引用文献4
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された引用文献である特開2001-068156号公報(以下、「引用文献4」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0045】短絡形成兼放熱促進ユニットの作製:正極集電体(この場合の正極集電体にはリード部となる部分も含んでいる)と同じ形状、寸法に打ち抜いた厚さ50μmのアルミニウム板、負極集電体(この場合の負極集電体にはリード部となる部分も含んでいる)と同じ形状、寸法に打ち抜いた厚さ50μmの銅板および絶縁体として74mm×44mmに打ち抜いた厚さ20μmのポリイミドフィルムを用意し、ポリイミドフィルムを中央にしてアルミニウム板と銅板とが対向するように密着させ、短絡形成兼放熱促進ユニットを得た。図4にその位置関係を平面図で示す。図4に示すように、上記のように作製した短絡形成兼放熱促進ユニット30は、絶縁体31を介して2枚の金属板32と金属板33とを配置することによって構成されていて、この図4に示すものでは、上側に配置する金属板32にはアルミニウム板が使用され、下側に配置する金属板33には銅板が使用され、絶縁体31にポリイミドフィルムが使用されている。」
エ 引用文献5
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された引用文献である特開2017-098207号公報(以下、「引用文献5」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0036】
次に、内部部材として、厚み15μmのアルミニウム箔(第1の導電部材)と、溝の高さが2.4mm、幅が2mm、溝間の距離が6mmである厚さ3.1mmのベークライトのスペーサ(絶縁部材)と、厚み10μmの銅箔(第2の導電部材)とを重ね、前記電極体の捲回軸と直交する方向における外周1周分以上の長さにおいて切り取った。」
オ 引用文献6
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された引用文献である特開平11-097066号公報(以下、「引用文献6」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0008】ところで、このように露呈集電体と電池缶との間に介在させた絶縁体を備えた電池においては、その絶縁体の材料に、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)及びPP-PEの共重合体を用いているものが一般的であるが、これらPEやPPの引っ張り伸度は、MD(巻き)方向が70~160%で、TD(膜幅)方向が500~1000%というように大きい。このように引っ張り伸び度が大きい材料からなる絶縁体を用いた電池では、例えば、鋭利な導体の先端が少しだけゆっくり刺し入れられた場合、絶縁体に伸びが生じて刺さった鋭利な導体と露呈集電体との間に絶縁体が巻き込まれることがありうる。その結果、鋭利な導体と露呈集電体との接触抵抗が大きくなり、ここを短絡電流が流れる際に高温の熱が発生することも考えられうる。こうした高熱は電極活物質や電解液などに影響を与え、電池の発火などの危険性を生み出す恐れがある。」
「【0023】電解液(図示せず)としては、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートの混合有機溶媒に1mol/lのLiPF6を溶質として溶解させたものを用いた。
(実施例2)本実施例の電池は、絶縁体が、40%の引っ張り伸度をもつポリイミド樹脂からなる他は、実施例1と同じ電池である。」
(3)引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明は「釘などの鋭利な金属片が積層方向から二次電池10に刺さる場合には、正極金属基材33と負極金属基材34とが短絡して、正極シート18と負極シート19との間を流れる電流を減少させる」のであるから、引用発明において、正極金属基材33を有する「正極板30」と負極金属基材34を有する「負極板31」とが「積層配置され」たものは、本件補正発明の「短絡電流分散体」に相当する。
また、引用発明の「正極シート18及び負極シート19」の間に「セパレータ部20aを介在させた」ものは、本件補正発明の「発電要素」に相当する。そうすると、引用発明の「正極シート18及び負極シート19が間にセパレータ部20aを介在させた状態で交互に層状に重なって」いる「電極組立体12」は、本件補正発明の「複数の発電要素」に相当する。
したがって、引用発明の「積層方向における電極組立体12の最も外側には、正極板30と負極板31とが積層配置され」ていることは、本件補正発明の「少なくとも一つの短絡電流分散体と複数の発電要素とが積層され」ていることに相当する。また、引用発明の電極組立体12の外側に正極板30と負極板31とを積層配置した「リチウムイオン二次電池10」は、本件補正発明の「積層電池」に相当する。
但し、前記少なくとも一つの短絡電流分散体について、本件補正発明は複数の発電要素の「間」に積層されていることを特定するのに対して、引用発明は最も外側に積層されている点で相違する。
イ 引用発明の正極板30の「樹脂のコート層」は、引用文献1の【0029】及び【0047】の記載によると、絶縁部材である袋状セパレータ20に代わるものであるから絶縁層であるといえる。
そして、引用発明の「正極金属基材33」、「負極金属基材34」は、本件補正発明の「第1の集電体層」、「第2の集電体層」に相当する。
したがって、引用発明において、「樹脂のコート層により全体が覆われた」「正極金属基材33を有」する「正極板30」と、「負極金属基材34を有」する「負極板31」とが「積層配置され」ていることは、本件補正発明の「前記短絡電流分散体において、第1の集電体層と第2の集電体層と前記第1の集電体層及び前記第2の集電体層の間に設けられた絶縁層とが積層されて」いることに相当する。
ウ 引用発明の「正極金属箔21」、「正極活物質層22」、「負極金属箔25」、「負極活物質層26」は、それぞれ、本件補正発明の「正極集電体層」、「正極材層」、「負極集電体層」、「負極材層」に相当する。
そして、本願明細書には「積層電池100を電解液系電池とする場合、電解質層23は電解液とセパレータとを含む。」(【0034】)と記載されていることから、引用発明の非水電解液17が充填されている「セパレータ部20a」は、本件補正発明の「電解質層」に相当する。
引用発明の「正極シート18及び負極シート19が間にセパレータ部20aを介在させ」ていることは、本件補正発明の「前記発電要素において、正極集電体層と正極材層と電解質層と負極材層と負極集電体層とが積層されて」いることに相当する。
エ 引用発明は「負極板31は、負極シート19と電気的に接続されており、正極板30は、正極シート18と電気的に接続されて」いるので、「負極金属基材34」と「負極金属箔25」は「電気的に接続されており」、「正極金属基材33」と「正極金属箔21」は「電気的に接続されて」いる。このことは、本件補正発明の「前記第1の集電体層が前記正極集電体層と電気的に接続されており、前記第2の集電体層が前記負極集電体層と電気的に接続されて」いることに相当する。
オ 引用発明が「銅から形成されている負極金属基材34」及び「銅から形成されている正極金属基材33」であることは、本件補正発明の「前記第1の集電体層及び前記第2の集電体層が、銅、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、クロム及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属からな」ることに相当する。
カ 上記イのとおり、引用発明の「樹脂のコート層」は絶縁層である。
したがって、引用発明の「樹脂のコート層」と本件補正発明とは、「前記絶縁層は樹脂によって構成され」ている点で共通する。
但し、樹脂が、本件補正発明は「熱硬化性」樹脂であることを特定するのに対して、引用発明はそのような特定がない点で相違する。
キ 前記第1の集電体層及び前記第2の集電体層について、本件補正発明は「少なくとも一方が、複数の金属箔から構成されている」と特定するのに対して、引用発明はそのような特定がない点で相違する。
上記アないしキによれば、本件補正発明と引用発明との間には、次の一致点及び相違点があるといえる。
(一致点)
「少なくとも一つの短絡電流分散体と複数の発電要素とが積層された積層電池であって、
前記短絡電流分散体において、第1の集電体層と第2の集電体層と前記第1の集電体層及び前記第2の集電体層の間に設けられた絶縁層とが積層されており、
前記発電要素において、正極集電体層と正極材層と電解質層と負極材層と負極集電体層とが積層されており、
前記第1の集電体層が前記正極集電体層と電気的に接続されており、
前記第2の集電体層が前記負極集電体層と電気的に接続されており、
前記第1の集電体層及び前記第2の集電体層が、銅、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、クロム及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属からなり、
前記絶縁層は樹脂によって構成されている、
積層電池。」
(相違点1)
前記少なくとも一つの短絡電流分散体について、本件補正発明は複数の発電要素の「間」に積層されていることを特定するのに対して、引用発明は最も外側に積層されている点。
(相違点2)
樹脂が、本件補正発明は「熱硬化性」樹脂であると特定するのに対して、引用発明はそのような特定がない点。
(相違点3)
前記第1の集電体層及び前記第2の集電体層について、本件補正発明は「少なくとも一方が、複数の金属箔から構成されている」と特定するのに対して、引用発明はそのような特定がない点。
(4)相違点についての判断
上記相違点1について
リチウムイオン二次電池において、短絡電流分散体を複数の発電要素の間に積層することは周知とえいるものであり(例えば、特開2009-087600号公報(【0029】)、米国特許出願公開第2013/0323546号明細書(図3)、特開2008-277201号公報(図2))、格別な構成とであるといえない。特に、特開2008-277201号公報には、外部衝撃による電池の変形に対応すべく、電池内部に短絡電流分散体を配置することも記載されている(【0017】)。
そうすると、引用発明のリチウムイオン二次電池においても、外部衝撃による電池の変形などを考慮して、上記周知の短絡電流分散体を複数の発電要素の間に積層する技術を採用し、正極板30と負極板31を電極組立体12の中に配置することは、当業者が適宜なし得る設計的事項であるといえる。
そして、本願の発明の詳細な説明の段落【0052】の記載を参酌しても、上記相違点1に係る構成により格別な作用効果が生じるものでもないといえることから、引用発明において、上記相違点1に係る構成を得ることは、当業者が容易になし得たことである。
上記相違点2について
短絡電流分散体の絶縁層として、熱硬化性樹脂を用いる技術は、引用文献4(ポリイミドフィルム(【0045】))、引用文献5(ベークライト(【0036】))及び引用文献6(ポリイド樹脂(【0023】))に記載されているとおり、一般的なことである。
また、引用文献6には短絡電流分散体の絶縁層として、引っ張り伸び度が大きい絶縁体を用いた電池では、絶縁体に伸びが生じて刺さった鋭利な導体と露呈集電体との間に絶縁体が巻き込まれ、鋭利な導体と露呈集電体との接触抵抗が大きくなり、高温の熱が発生することが記載されている(【0008】)。そして、一般的に、熱可塑性樹脂より熱硬化性樹脂の方が硬質で脆い材料であるから、短絡電流分散体における絶縁層の引っ張り伸度を小さくするために熱硬化性樹脂を選択することは、当業者が容易に想到し得ることであるといえる。
そうすると、引用発明の「樹脂のコート層」においても、引っ張り伸度を小さくするために、短絡電流分散体の絶縁層として一般的な熱硬化性樹脂を用いることは、当業者が容易になし得たことである。
上記相違点3について
引用文献3には、第1の金属箔32Aと、第2の金属箔32Bと、絶縁層34とで構成されている安全対策電極ユニット30において、第1の金属箔32Aおよび第2の金属箔32Bを積層金属箔で構成し、1枚の金属箔で構成されている場合に比べて電気抵抗が低く電気が流れやすくして、抵抗発熱により金属箔が溶解する事態が効果的に抑制する技術が記載されている(【0025】、【0040】、図1)。
そうすると、引用発明において、負極金属基材34及び正極金属基材33が溶解する事態を効果的に抑制することに配慮して、引用文献3に記載された積層金属箔とする技術を採用して、負極金属基材34及び正極金属基材33を、銅箔の積層金属箔とすることは、当業者が容易になし得たことである。
なお、請求人は令和4年4月27日の意見書において「引用文献1で第2正極の金属基材の材料をアルミニウムより融点が高い金属とすることで、短絡によって生じる熱で第2正極が溶融することを抑制するという課題をすでに解決しているので、さらに引用文献3を組み合わせる動機付けは何らありません」と主張しているが、引用発明において、負極金属基材34及び正極金属基材33の溶解をより確実に抑制するために、さらに引用文献3に記載された技術を採用することを妨げる理由はなく、上記主張を採用することができない。
そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明、引用文献3ないし6に記載された技術及び周知技術から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
よって、本件補正発明は、引用発明、引用文献3ないし6に記載された技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである
(5)本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明、引用文献3ないし6に記載された技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和3年8月2日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものであるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2[理由]1(2)」に記載したとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概略は次のとおりである。
この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献4ないし6に記載された技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
1.特開2014-082122号公報
4.特開2001-068156号公報
5.特開2017-098207号公報
6.特開平11-097066号公報
3 対比・判断
本願発明は、前記「第2[理由]2」で検討した、本件補正発明の「少なくとも一つの短絡電流分散体と複数の発電要素とが積層され、前記少なくとも一つの短絡電流分散体が前記複数の発電要素の間に積層された積層電池」から、「発電要素」が「複数」であることと、「前記少なくとも一つの短絡電流分散体が前記複数の発電要素の間に積層され」に係る限定事項を削除し、さらに、本件補正発明から、「前記第1の集電体層及び前記第2の集電体層のうちの少なくとも一方が、複数の金属箔から構成されている」に係る限定事項を削除したものである。
ここで、上記削除した限定事項は、上記相違点1及び3に対応するものであるから、本願発明と引用発明とを対比すると、上記相違点2に係る構成で相違し、その余の点で一致する。
そして、上記「第2[理由]2(4)」に記載したとおり、上記相違点2に係る構成は、引用発明及び引用文献4ないし6に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び引用文献4ないし6に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その他の請求項に論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-013645