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特許拒絶査定不服審判

2024-002535

改善された性能を有するエネルギー貯蔵装置についての組成および方法

審判番号
2024-002535
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-522945
請求日
2024年02月14日
審決日
2025年03月27日
公報発行日
2025年09月26日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】テスラ・インコーポレーテッド
  • 【請求人代理人】弁理士法人前田特許事務所
審判長/審判官
  • 審判長 岩間 直純
  • 審判官 須原 宏光
  • 審判官 ▲高▼橋 徳浩
分類
P18 .121-Z (H01M) / P18 .572-Z (H01M) / P18 .575-Z (H01M)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2020-522945「改善された性能を有するエネルギー貯蔵装置についての組成および方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 元年 5月31日国際公開、WO2019/103874、令和 3年 2月15日国内公表、特表2021-504877〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2018年11月13日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2017年11月22日 米国(US)、2018年11月8日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 令和 4年 8月29日付け:拒絶理由通知 令和 5年 2月 3日 :意見書、手続補正書の提出 令和 5年 5月24日付け:最後の拒絶理由通知 令和 5年 8月25日 :意見書、手続補正書の提出 令和 5年11月22日付け:令和5年8月25日の手続補正について の補正の却下の決定 令和 5年11月22日付け:拒絶査定(原査定) 令和 6年 2月14日 :審判請求書、手続補正書の提出 令和 6年 8月21日 :上申書の提出 第2 令和6年2月14日の手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 令和6年2月14日の手続補正を却下する。 [理由] 1.本件補正について (1)本件補正後の特許請求の範囲 令和6年2月14日の手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。 「【請求項1】 エネルギー貯蔵装置の単一のドライ電極薄膜であって、 乾燥した活物質と、 乾燥した結着剤と、 を備え 前記単一のドライ電極薄膜は、自己支持形であり、 前記単一のドライ電極薄膜は、実質的に溶媒残留物を含まず、 前記単一のドライ電極薄膜の電極薄膜多孔性は、最大で40%であり、 前記単一のドライ電極薄膜は、厚さが少なくとも110μmであり、 前記乾燥した結着剤は、線維化可能な結着剤を含み、 前記単一のドライ電極薄膜の電極材料ロード量は少なくとも20mg/cm2である、ドライ電極薄膜。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の、令和5年2月3日の手続補正による特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「【請求項1】 エネルギー貯蔵装置の単一のドライ電極薄膜であって、 乾燥した活物質と、 乾燥した結着剤と、 を備え 前記単一のドライ電極薄膜は、自己支持形であり、 前記単一のドライ電極薄膜は、実質的に溶媒残留物を含まず、 前記単一のドライ電極薄膜の電極薄膜多孔性は、最大で40%であり、 前記単一のドライ電極薄膜は、厚さが少なくとも110μmである、ドライ電極薄膜。」 2.補正の適否 (1)補正の目的について 本件補正は、 ア.補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「乾燥した結着剤」について、「線維化可能な結着剤を含」むことの限定を付加し、更に、 イ.補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「単一のドライ電極薄膜」について、「電極材料ロード量は少なくとも20mg/cm2である」ことの限定を付加するものである。 そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。 よって、上記補正を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)否かについて以下に検討する。 (2)本願補正発明 本願補正発明は、上記「1.(1)」の【請求項1】に記載したとおりのものである。 (3)引用文献及びその記載事項 ア.引用文献1 (ア)原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された特表2017-517862号公報(以下、「引用例」という。)には、「第1電極フィルム112」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。 a.「【0036】 図1はエネルギー貯蔵装置100の一例の側方の概略断面図を示す。いくつかの実施形態においては、エネルギー貯蔵装置100は電気化学的な装置である。いくつかの実施形態においては、エネルギー貯蔵装置100は、リチウムイオンバッテリーなどのリチウムをベースとしたバッテリーであってもよい。いくつかの実施形態においては、エネルギー貯蔵装置100は、リチウムイオンキャパシタなどのリチウムをベースとしたキャパシタであってもよい。もちろん、他のエネルギー貯蔵装置も本発明の範囲に含まれ、キャパシタとバッテリーとのハイブリッド、及び/又は燃料電池も含むことができる。上記のエネルギー貯蔵装置100には、第1電極102、第2電極104、及び第1電極102と第2電極104との間に位置するセパレータ106が設けられていてもよい。例えば、第1電極102及び第2電極104はセパレータ106のそれぞれ反対の表面に位置するように配設されてもよい。 【0037】 第1電極102がカソードを備え、第2電極104がアノードを備えていてもよく、又はそれぞれが逆になるように備えていてもよい。いくつかの実施形態においては、第1電極102はリチウムイオンキャパシタのカソードを備えていてもよい。いくつかの実施形態においては、第1電極102はリチウムイオンキャパシタのカソード又はリチウムイオンバッテリーのカソードを備えていてもよい。いくつかの実施形態においては、第2電極104はリチウムイオンバッテリーのアノード又はリチウムイオンキャパシタのアノードを備えていてもよい。」 b.「【0042】 第1電極102は第1電極フィルム112(例えば、上方の電極フィルム)を第1集電体108の第1表面(例えば、第1集電体108の上側の表面)に有していてもよく、第2電極フィルム114(例えば、下方の電極フィルム)を第1集電体108の反対側の第2表面(例えば、第1集電体108の下側の表面)に有していてもよい。同様に、第2電極104は第1電極フィルム116(例えば、上方の電極フィルム)を第2集電体110の第1表面(例えば、第2集電体110の上側の表面)に有していてもよく、第2電極フィルム118を第2集電体110の反対側の第2表面(例えば、第2集電体110の下側の表面)に有していてもよい。例えば、セパレータ106が第2電極104の第1電極フィルム116と第1電極102の第2電極フィルム114に隣接するように、第2集電体110の第1表面は第1集電体108の第2表面を向くようにしてもよい。電極フィルム112,114,116,及び/又は118は、様々な適切な形状、大きさ、及び/又は厚みを有していてもよい。例えば、電極フィルムの厚みは、約80μmから約150μmを含み、約60μmから約1,000μmであってもよい。 【0043】 いくつかの実施形態においては、ここに記載する一つ以上の電極フィルムは乾式作製工程で作製されてもよい。ここで用いられる限りにおいては、乾式作製工程は電極フィルムを形成する際に、溶媒が全く用いられないか又は実質的には用いられないような過程を意味するものとして用いられる。例えば、電極フィルムの構成要素として乾燥粒子を含むことができる。電極フィルムを形成するための乾燥粒子は、混合により乾燥粒子電極フィルム混合物となることができる。いくつかの実施形態においては、電極フィルムの構成要素の重量%と乾燥粒子電極フィルム混合物の構成要素の重量%がほぼ同じ又は等しくなるように、乾式作製過程を経て乾燥粒子電極フィルム混合物から電極フィルムを形成することができる。電極を作製するための乾式方法は、活性材料、導電性添加物、及び/又はバインダ材の混合、及びそれに続く独立したフィルム形成のための混合物のカレンダ処理、を含むことができる。いくつかの実施形態においては、独立したフィルムはラミネート処理を通して行うように集電体に付着させることができる。」 c.「【0054】 ここに記載するいくつかの実施形態は、高空孔率のPTFEから又は湿式のPE/PVDFスラリー工程から生成した電極と同等の電力効率を示しながらも、活性材料と混合でき且つ低空孔率の電極フィルムに圧縮することができるイオン伝導率の高いバインダを提供する。例えば、いくつかの実施形態は電気化学的に安定なバインダ材か、又は直鎖状のポリウレタン、ポリエーテル、ポリアミド、ポリカーボネート、枝分かれしたポリエーテル、ウレタン、エーテル、アミド、及びカーボネートのうち少なくとも2つのモノマーの組み合わせを含む共重合体、ウレタン、エーテル、アミド、及びカーボネートのうち2つの組み合わせを含むブロック共重合体、そしてエーテルやポリエーテルを上記のポリマー、共重合体、及びブロック共重合体上に移植したもの有する電極を含む。例えば、商品名ペバックス(登録商標)でアルケマの商品であるポリエーテルブロックアミド材などがある。ほかの例は、末端の水酸基をアルキル化、例えばメチル化、することにより、エーテル末端となっているペバックス(登録商標)ポリマーなどがある。さらにほかの例は、ポリウレタンエラストマーであり、例えばルブリゾルにより商品名Pellethane(登録商標)で売り出されているものや、ポリウレタン-ポリエーテルブロック共重合体などがある。これらの他のバインダ材やバインダ混合物はPTFE又は既知の若しくはここに記載の他のバインダ及び付加物と混合してもよいし、又はバインダ材や付加物をさらに加えることなく用いてもよい。これらの代替のバインダ材もまた、前述した電極バインダとしてPTFEを用いたとき生じる容量の損失と劣化の問題を抑制することができる。いくつかの実施形態は機械的性質の完全性とイオン伝導性とが改善された電極フィルムを提供することができる。」 d.「【0068】 図3は、図1のエネルギー貯蔵装置など、エネルギー貯蔵装置のカソード電極フィルムを生成するための作成工程300の一例を示す。いくつかの実施形態においては、カソード電極フィルム作製工程300はリチウムイオンバッテリーのカソードを作製するために利用することができる。いくつかの実施形態においては、カソード電極フィルム作製工程300は、リチウムイオンキャパシタのカソードを作製するために用いることができる。いくつかの実施形態においては、カソード電極フィルム作製工程300は混合バインダ材を含むカソード電極フィルムを形成する。」 e.「【0081】 ブロック310においては、第2バインダ成分と第3カソード電極フィルム混合物は混合されて第4カソード電極フィルム混合物を与えることができる。いくつかの実施形態においては、第2バインダ成分はフィブリル化可能なバインダ成分を含む。いくつかの実施形態においては、フィブリル化可能な第2バインダ成分はPTFEを含む。そのような実施形態においては、上記記載のブロック302は、多孔性炭素材料と、PTFE混合バインダ材の少なくとも1つの成分と、の混合を含むことができる。上記のPTFE混合バインダ材の少なくとも1つの成分には、ブロック310の一部として、PTFEがのちに加えられてPTFE混合バインダ材を形成することができる。例えば、PTFE混合バインダ材を含むカソード電極フィルムを形成することができるように、活性炭素、NMC、PVDF、及びカーボンブラックを含む第3カソード電極フィルム混合物にPTFEを加えることができる。いくつかの実施形態においては、第2バインダ成分と第3カソード電極フィルム混合物との混合は、第2バインダ成分のフィブリル化を含むことができる。例えば、第2バインダ成分と第3カソード電極フィルム混合物は、ブレンディングなどの、1つ以上の低せん断工程を用いて混合することができ、上記のフィブリル化された第2バインダ成分から形成される多数のフィブリルを含む混合物を与える。例えば、第2バインダ成分のフィブリル化によりフィブリルのマトリックス、結晶及び/又は網状構造を形成し、混合物の1つ以上の成分の望ましい構造的な支えをもたらすことができる。いくつかの実施形態においては、ブレンディングはパドル式ブレンダーの利用を含むことができる。いくつかの実施形態においては、ブレンダーはWaring(登録商標)ブレンダーを含むことができる。いくつかの実施形態においては、ブレンダーはCyclomixTMブレンダーを含むことができる。いくつかの実施形態においては、ブロック310における低せん断フィブリル化工程の利用によって、カソード活性材料が高せん断工程にさらされるのを抑制し又は回避させつつ、第2バインダ成分のフィブリル化を有利にもたらすことができる。 【0082】 ブロック312においては、第4カソード電極フィルム混合物は圧縮されてカソード電極フィルムを形成することができる。いくつかの実施形態においては、第4カソード電極フィルムは上記の混合物をカレンダ処理することによって圧縮され、電極フィルムを形成することができる。いくつかの実施形態においては、第4カソード電極フィルム混合物はカレンダ処理されて、独立した乾燥粒子カソード電極フィルムを形成することができる。いくつかの実施形態においては、電極フィルムはラミネート加工工程などにより、対応する集電体、例えば図1の第1集電体108や第2集電体110などに貼り付けてカソードを形成することができる。」 (イ)上記記載から、引用例には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。 a.引用例に記載の「第1電極フィルム112」は、上記「(ア)a.」の段落【0036】、【0037】、「(ア)b.」の段落【0042】の記載によれば、第1電極102、第2電極104及びセパレータ106が設けられたエネルギー貯蔵装置100において、第1電極フィルム112は、リチウムイオンバッテリーのカソードを備える第1電極102における第1集電体108の第1表面に備えられるものである。 b.上記「(ア)b.」の段落【0042】の記載によれば、第1電極フィルム112の厚みは、約80μmから約150μmを含み、約60μmから約1000μmであってもよいものである。 c.上記「(ア)b.」の段落【0042】、【0043】の記載によれば、第1電極フィルム112は、電極フィルムを形成する際に溶媒が全く用いられないかまたは実質的には用いられないような過程を意味する乾式作製工程で作製され、乾式作製工程は、活性材料、導電性添加物、及び/または、バインダ材の混合、及び、混合物のカレンダ処理を含んでなるものである。 d.上記「(ア)d.」の段落【0068】、「(ア)e.」の段落【0081】、【0082】の記載によれば、カソード電極フィルムは、カソード電極フィルム作製工程300によって作製され、カソード電極フィルム作製工程300において、第4カソード電極フィルム混合物は、PTFEを含むフィブリル化可能な第2バインダ成分を含み、カレンダ処理されて、独立した乾燥粒子カソード電極フィルムを形成し、ラミネート加工などにより、第1集電体108に貼り付けてカソードを形成するものである。ここで、上記「a.」によれば、第1電極フィルム112は、リチウムイオンバッテリーのカソードを備える第1電極102における第1集電体108の第1表面に備えられるものであるから、上記カソード電極フィルムに該当するものといえる。 e.上記「(ア)c.」の段落【0054】の記載によれば、実施形態における電極フィルムは、活性材料と混合でき、かつ、低空孔率の電極フィルムに圧縮することができるイオン伝導率の高いバインダを提供することにより、機械的性質の完全性とイオン伝導性が改善された電極フィルムとして提供されるものである。ここで、上記「(ア)b.」の段落【0042】、【0043】の記載から、第1電極フィルム112も、上記実施形態における電極フィルムに該当するものといえる。 (ウ)以上のことから、上記記載を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「第1電極フィルム112であって、 第1電極102、第2電極104及びセパレータ106が設けられたエネルギー貯蔵装置100において、第1電極フィルム112は、リチウムイオンバッテリーのカソードを備える第1電極102における第1集電体108の第1表面に備えられ、 第1電極フィルム112の厚みは、約80μmから約150μmを含み、約60μmから約1000μmであってもよいものであり、 第1電極フィルム112は、電極フィルムを形成する際に溶媒が全く用いられないかまたは実質的には用いられないような過程を意味する乾式作製工程で作製され、乾式作製工程は、活性材料、導電性添加物、及び/または、バインダ材の混合、及び、混合物のカレンダ処理を含み、 第1電極フィルム112は、カソード電極フィルム作製工程300によって作製され、カソード電極フィルム作製工程300において、第4カソード電極フィルム混合物は、PTFEを含むフィブリル化可能な第2バインダ成分を含み、カレンダ処理されて、独立した乾燥粒子カソード電極フィルムを形成し、ラミネート加工などにより、第1集電体108に貼り付けてカソードを形成し、 第1電極フィルム112は、活性材料と混合でき、かつ、低空孔率の電極フィルムに圧縮することができるイオン伝導率の高いバインダを提供することにより、機械的性質の完全性とイオン伝導性が改善された電極フィルムとして提供される、 第1電極フィルム112。」 イ.引用文献2 (ア)原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された特表2016-504727号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。 a.「【0004】 受け入れ可能なレート性能を実現するべく、Liイオン電池は、(1)(最終的な電池内において電解質によって充填される)十分な空隙率を含むと共に、(2)電極に跨るリチウムの妥当な輸送を許容するべく十分に薄いことを必要とする(これは、活性材料の低担持量(mg/cm2)を意味している)電極から製造される。通常の空隙率は、>12容積%であり、しばしば、15容積%であり、15~20mg/cm/の担持量が通常の値である。多孔性の相対的に薄い電極は、相対的に高価な‘厚膜技術’によって得られる。イオン輸送は、固体中よりも電解質中において格段に高速であることから、電極の密度の増大には、当然、限界が存在している。空隙率が低過ぎる場合には、十分に高速のイオン輸送を支持するための十分な電解質が存在していない。従って、電極に跨るLi輸送の一部分が固体粒子を介して発生するように、高イオン輸送レートを有するカソード材料を開発することが非常に望ましいであろう。この結果、相対的に大きな電流レートを印加することができる。」 b.「【0088】 スラリの一部分を厚膜としてA1フォイル上に被覆し、乾燥させ、剥ぎ取り、且つ、磨り潰すことにより、電極粉体を取得する。電極粉体の密度を加圧されたペレット上において計測する。一般に、電極粉体の密度は、粉体によって得られうる実際の電極密度の非常に良好な近似値である。加圧されたペレットの直径は、1.311cmであり、且つ、質量は、3.0gであり、印加される力は、207MPaである。取得されたペレット密度値は、4.153g/cm3(5%のHLM)、4.036g/cm3(10%のHLM)、及び4.123g/cm3(15%のHLM)である。LiCoO2(5.05g/cm3)、HLM(4.251g/cm3)、PVDF(1.7g/cm3)、及び炭素(2g/cm3)の真密度の使用により、空隙率の計算が可能となる。結果は、11.3%、11.6%、及び7.6%である。これらのデータは、非常に低い空隙率を有する電極が実現可能であることを示している。空隙率は、例8において後程算出される臨界空隙率を格段に下回っている。商用セルの場合の代表的な電極空隙率は、>12%であり、しばしば、15~20%である。」 (イ)上記(ア)の記載を総合勘案すると、引用例2には、次の技術事項(以下、「引用例2記載技術」という。)が記載されているものと認められる。 「Liイオン電池の代表的な電極空隙率は、15~20%であり、Liイオン電池における通常の担持量は、15~20mg/cm2であること。」 (4)対比 本願補正発明と引用発明とを対比する。 ア.引用発明における「エネルギー貯蔵装置100」は、本願補正発明でいう「エネルギー貯蔵装置」に相当する。また、引用発明における「第1電極フィルム112」は、「乾式作製工程で作製され」るものであり、本願補正発明でいう「ドライ電極薄膜」に相当する。更に、引用発明における「第1電極フィルム112」は、「第1電極102における第1集電体108の第1表面に備えられ」るものであるから、単一の電極フィルムを構成しているといえ、このことは、本願補正発明でいう「ドライ電極薄膜」が、「単一の」ものであることに相当する。加えて、引用発明における「エネルギー貯蔵装置100」は、「第1電極102」が設けられ、かつ、引用発明における「第1電極102」は、「第1電極フィルム112」を備えるものであるから、引用発明における「エネルギー貯蔵装置100」は、「第1電極フィルム112」を備えるといえ、このことは、本願補正発明でいう「ドライ電極薄膜」が、「エネルギー貯蔵装置」を構成するものであることに相当する。 したがって、本願補正発明と引用発明とは、「エネルギー貯蔵装置の単一のドライ電極薄膜であ」る点で一致する。 イ.引用発明における「活性材料」は、本願補正発明でいう「活物質」に相当し、引用発明における「バインダ材」及び「第2バインダ成分」は、いずれも、本願補正発明でいう「結着剤」に相当する。また、引用発明における「乾式作製工程」は、「活性材料、導電性添加物、及び/または、バインダ材の混合」を含むことから、当該乾式作製工程において、活性材料及びバインダ材は乾燥しているといえ、このことは、本願補正発明でいう「活物質」及び「結着剤」が、それぞれ、「乾燥した」ものであることに相当する。 したがって、本願補正発明と引用発明とは、「乾燥した活物質と、乾燥した結着剤と、を備え」る点で一致する。 ウ.「単一のドライ電極薄膜」について、本願補正発明では、「自己支持形であ」ることを特定するのに対して、引用発明では、「カレンダ処理されて、独立した乾燥粒子カソード電極フィルムを形成し、ラミネート加工などにより、第1集電体108に貼り付けてカソードを形成」するものの、自己支持形であるか否か定かではない点で一応相違する。 エ.引用発明における「第1電極フィルム112」は、「電極フィルムを形成する際に溶媒が全く用いられないかまたは実質的には用いられないような過程を意味する乾式作製工程で作製され」るものであるから、得られた第1電極フィルム112は溶媒を実質的に含有しないといえ、このことは、本願補正発明でいう「単一のドライ電極薄膜」が、「実質的に溶媒残留物を含ま」ないものであることに相当する。 したがって、本願補正発明と引用発明とは、「前記単一のドライ電極薄膜は、実質的に溶媒残留物を含ま」ない点で一致する。 オ.「単一のドライ電極薄膜」について、本願補正発明では、「電極薄膜多孔性は、最大で40%であ」ることを特定するのに対して、引用発明では、「低空孔率の電極フィルム」であるものの、電極薄膜多孔性の上限についての特定を有していない点で相違する。 カ.「単一のドライ電極薄膜」について、本願補正発明では、「厚さが少なくとも110μmであ」ることを特定するのに対して、引用発明では、「厚みは、約80μmから約150μmを含み、約60μmから約1000μmであってもよい」点で相違する。 キ.上記「イ.」に記載したように、引用発明における「第2バインダ成分」は、本願補正発明でいう「結着剤」に相当する。また、引用発明における「第2バインダ成分」は、「PTFEを含むフィブリル化可能な」ものであることは、本願補正発明でいう「結着剤」が、「線維化可能な」ものであることに相当する。そして、引用発明における「第4カソード電極フィルム混合物」は、「カレンダ処理されて、独立した乾燥粒子カソード電極フィルムを形成」するものであり、かつ、「PTFEを含むフィブリル化可能な第2バインダ成分を含」むものであることは、本願補正発明でいう「乾燥した結着剤」が、「線維化可能な結着剤を含」むものであることに相当する。 したがって、本願補正発明と引用発明とは、「前記乾燥した結着剤は、線維化可能な結着剤を含」む点で一致する。 ク.「単一のドライ電極薄膜」について、本願補正発明では、「電極材料ロード量は少なくとも20mg/cm2である」ことを特定するのに対して、引用発明では、「低空孔率の電極フィルムに圧縮することができる」ものの、電極材料ロード量の下限についての特定を有していない点で相違する。 よって、上記「ア.」ないし「ク.」によれば、本願補正発明と引用発明とは、 「エネルギー貯蔵装置の単一のドライ電極薄膜であって、 乾燥した活物質と、 乾燥した結着剤と、 を備え 前記単一のドライ電極薄膜は、実質的に溶媒残留物を含まず、 前記乾燥した結着剤は、線維化可能な結着剤を含む、ドライ電極薄膜。」 である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点1] 「単一のドライ電極薄膜」について、本願補正発明では、「自己支持形であ」ることを特定するのに対して、引用発明では、「カレンダ処理されて、独立した乾燥粒子カソード電極フィルムを形成し、ラミネート加工などにより、第1集電体108に貼り付けてカソードを形成」するものの、自己支持形であるか否か定かではない点。 [相違点2] 「単一のドライ電極薄膜」について、本願補正発明では、「電極薄膜多孔性は、最大で40%であ」ることを特定するのに対して、引用発明では、「低空孔率の電極フィルム」であるものの、電極薄膜多孔性の上限についての特定を有していない点。 [相違点3] 「単一のドライ電極薄膜」について、本願補正発明では、「厚さが少なくとも110μmであ」ることを特定するのに対して、引用発明では、「厚みは、約80μmから約150μmを含み、約60μmから約1000μmであってもよい」点。 [相違点4] 「単一のドライ電極薄膜」について、本願補正発明では、「電極材料ロード量は少なくとも20mg/cm2である」ことを特定するのに対して、引用発明では、「低空孔率の電極フィルムに圧縮することができる」ものの、電極材料ロード量の下限についての特定を有していない点。 (5)判断 上記相違点1ないし相違点4について検討する。 ア.相違点1について 「自己支持形」との用語は一般的な技術用語ではないため、本願明細書の記載を参酌すると、段落【0075】には、「『自己支持形の』電極は、電極の製造処理において、他の支持要素を要することなく、巻かれて、ハンドリングされて、そして展開されるのに必要な十分な強度を有する」と記載されている。このことから、「自己支持形」とは、他の支持要素を要することなく、製造処理できる形態を意味すると認められる。 ここで、引用発明における「第1電極フィルム112」にあっても、カソード電極フィルム作製工程300における中間生成物である「第4カソード電極フィルム混合物」は、「カレンダ処理されて、独立した乾燥粒子カソード電極フィルムを形成し、ラミネート加工などにより」、「カソードを形成」するものであるから、他の支持要素なしに独立した電極フィルムとして製造処理できるものである。してみれば、「第1電極フィルム112」は、自己支持形の電極薄膜であるということができる。 したがって、上記相違点1は、実質的な相違点ではない。 イ.相違点2について 引用発明における「第1電極フィルム112」は、「低空孔率の電極フィルム」であるのだから、従来からある一般的な電極フィルムと比較して空孔率が低い電極フィルムである。ここで、上記「(3)イ.(イ)」に記載したように、引用例2には、Liイオン電池の代表的な電極空隙率は、15~20%であることが記載されているところ、電極の作製工程が乾式であるか湿式であるかによって代表的な電極空隙率に多少の差異が生じるにせよ、引用発明における第1電極フィルム112は、引用例2記載技術に見られる代表的な電極空隙率を大きくは超えないような、少なくとも40%は超えないような空孔率の電極フィルムであると把握できる。そして、引用例2に記載された代表的な電極空隙率は、上記「(3)イ.(ア)a.」の段落【0004】における「容積%」との記載から明らかなとおり、電極の容積に占める空隙の容積の割合を意味するものであるところ、本願明細書の段落【0059】には、「電極薄膜多孔性(電極薄膜の体積のうち孔が占める体積のパーセンテージとして表現される)」と記載されていることに照らせば、本願補正発明における「電極薄膜多孔性」は、引用例2記載技術の電極空隙率に相当するパラメータといえる。 してみれば、引用発明における第1電極フィルム112において、引用例2に記載された技術事項を参酌し、相違点2に係る「電極薄膜多孔性は、最大で40%」とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。 ウ.相違点3について 本願明細書の段落【0058】に記載されているように、電極薄膜の厚みは、所望の比容量、面積エネルギー密度、比エネルギー密度などに対応するように選択されるべきものであり、当該段落【0058】の記載からは、当該電極薄膜の厚みに格別の臨界的意義は認められないところ、引用発明における第1電極フィルム112にあっても、「約80μmから約150μmを含み、約60μmから約1000μmであってもよい」という厚みの範囲から、エネルギー貯蔵装置100に要求される電気化学的特性に応じて厚みを適宜選択し、相違点3に係る「厚さが少なくとも110μmであ」るものとすることは、当業者であれば適宜なし得たことである。 エ.相違点4について 引用発明における「第1電極フィルム112」は、「厚みは、約80μmから150μmを含み、約60μmから約1000μmであってもよい」、「低空孔率の電極フィルムに圧縮することができる」もの、すなわち、相応の厚みを備えつつ圧縮可能な、高い電極材料ロード量を実現できる電極フィルムであるのだから、引用発明の「第1電極フィルム112」は、従来からあるような電極フィルムと比較して電極材料ロード量が高い電極フィルムといえる。ここで、上記「(3)イ.(イ)」に記載したように、引用例2記載技術に見られるように、Liイオン電池における通常の担持量は、15~20mg/cm2であり、また、例えば、特開2014-103107号公報(特に、段落【0025】~【0030】、【0036】、【0037】、【0061】、【0062】を参照)、更には、特開2017-157337号公報(特に、段落【0036】、【0042】、【0043】、【0047】、【0048】を参照)に記載されているように、リチウムイオン電池において、少なくとも20mg/cm2の電極材料ロード量を有するカソードは、乾式作製工程か湿式作製工程かを問わず、出願時において既に一般的に実現されていた周知のものであることを考慮すれば、引用発明における第1電極フィルム112にあっても、上記周知の電極材料ロード量を有するカソードの存在を踏まえつつ、かかる引用例2に記載されたような通常の担持量よりも高い電極材料ロード量の電極フィルムとし、相違点4に係る「電極材料ロード量は少なくとも20mg/cm2」とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。 オ.審判請求人の主張について ここで、審判請求人は審判請求書の「3.(2)進歩性について」において、「引用文献2の例6の電極は、PVDF等の弾性を有するバインダを用いた湿式法により形成されたものです。また、活物質としてD50が異なる2種類の粒子を用いることを特徴とするものであり、大きなLCOと小さなHLMとを用いて、空隙を埋めることにより、低い空隙率を達成しています。 一方、引用文献1に記載の発明は、PVDFを用いた湿式の電極膜におけるコスト問題を解決することを目的とするものであり、PTFE等のフィブリル化バインダを用いることを特徴とします。湿式法の使用を回避しようとする引用文献1に、湿式法である引用文献2を組み合わせる理由はありません。また、引用文献1においては、バインダと活物質とを高剪断混合してフィブリル化する必要があるため、引用文献2のような、D50が異なる2種類の粒子を用いたとしても、高剪断混合の際に均質化されるので、最終的に得られるフィブリル化バインダと活物質との混合物は、引用文献2に示されているような2種類の活物質の粒子が空隙を埋め合う効果を有するものにはなり得ません。 このように、高剪断混合を必要とする引用文献1に記載の発明に引用文献2に記載の方法を適用することは困難であり、組み合わせることができたとしても低空隙率の乾式の電極フィルムを得ることはできません。 また、引用文献2においては、電極の厚さの減少を許容するより空隙率を減少させるものです(段落0028)。引用文献1のように引用文献1の厚い電極とは全く異なる技術的思想に基づく引用文献2の薄い電極の構成を組み合わせることは当業者が容易にできたことではありません。」などと主張している。 しかしながら、引用例2は、湿式法により形成された例6の電極を引用発明に適用するために引用された文献ではなく、上記「(3)イ.(イ)」に記載したように、Liイオン電池の代表的な電極空隙率、或いは、Liイオン電池における通常の担持量がどの程度の値であるのかを特定するために引用された文献に過ぎないから、審判請求人の上記主張は、令和5年5月24日付けの最後の拒絶理由通知において通知された拒絶理由を正解するものとはいえず、審判請求人の上記主張は採用できない。 3.本件補正についてのむすび 以上のとおり、本願補正発明は、引用発明、引用例2に記載の技術事項及び周知の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 令和6年2月14日の手続補正は上記のとおり却下され、令和5年8月25日の手続補正についても令和5年11月22日付けで補正却下の決定がなされているので、本願の請求項1に係る発明は、令和5年2月3日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2 [理由]1.(2)」の【請求項1】に記載したとおりのものである。 2.原査定の概要 本願の請求項1に対する原査定(令和5年11年22日付け拒絶査定)の拒絶の理由のうち、理由1(進歩性)の概要は以下のとおりである。 この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1:特表2017-517862号公報 引用文献2:特表2016-504727号公報 3.引用文献及びその記載事項 原査定の拒絶の理由で引用した引用例(引用文献1)の記載事項、引用発明、及び、原査定の拒絶の理由で引用した引用例2(引用文献2)の記載事項は、上記「第2 [理由]2.(3)」に記載したとおりである。 4.対比・判断 本願発明は、上記「第2 [理由]2.」で検討した本願補正発明の発明特定事項である、 (1)「乾燥した結着剤」について、「線維化可能な結着剤を含」むことの限定を省き、更に、 (2)「単一のドライ電極薄膜」について、「電極材料ロード量は少なくとも20mg/cm2である」ことの限定、すなわち、上記「第2 [理由]2.(4)」で認定した[相違点4]に係る構成を省いたものに相当する。 そして、本願補正発明から、上記(1)に記載した限定、及び、上記(2)に記載した[相違点4]に係る構成を省いた残りの発明特定事項については、[相違点1]ないし[相違点3]を除いて、上記「第2 [理由]2.(4)」の「ア.」ないし「ク.」に記載したとおり、引用発明における「第1電極フィルム112」においても備える事項である。また、[相違点1]については、上記「第2 [理由]2.(5)ア.」と同様の理由により、実質的な相違点ではなく、[相違点2]については、上記「第2 [理由]2.(5)イ.」と同様の理由により、引用発明及び引用例2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に想到し得たことであり、[相違点3]については、上記「第2 [理由]2.(5)ウ.」と同様の理由により、引用発明に基いて、当業者が容易に想到し得たことである。 したがって、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2024-002535

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