2021-006888
ロキソプロフェンを含有してなる医薬製剤
- 審判番号
- 2021-006888
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-013931外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年05月28日
- 審決日
- 2022年11月24日
- 公報発行日
- 2023年02月24日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】興和株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人アルガ特許事務所
- 分類
- P18 .121-Z (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 21項目
1 手続の経緯
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本願は、平成29年1月30日(優先権主張:平成28年1月29日、平成28年7月21日)の出願であって、その主な手続の経緯は、以下のとおりである。
令和1年 5月27日付け 拒絶理由通知書
同年 9月19日 手続補正書及び意見書の提出
令和2年 2月28日付け 拒絶理由通知書
同年 7月 2日 手続補正書及び意見書の提出
同年 9月29日付け 拒絶理由通知書
令和3年 1月20日 意見書の提出
同年 1月22日 手続補足書の提出
同年 2月22日付け 拒絶査定
同年 5月28日 審判請求書の提出
同年 6月24日 審判請求書の手続補正書(請求の理由の補充)の提出
2 本願発明
本願の請求項1~12に係る発明は、令和2年7月2日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
【請求項1】
次の成分(A)及び(B):
(A)ロキソプロフェン又はその塩;
(B)トコフェロール、トコフェロールコハク酸エステル、トコフェロール酢酸エステル及びトコフェロールニコチン酸エステル並びにそれらの塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上;
を含有する液状又は半固形状の組成物が、ポリエチレン及びポリプロピレンよりなる群から選ばれる1種以上のポリオレフィン系樹脂製容器に収容されてなる、医薬製剤。
3 原査定の拒絶理由
原審における査定の理由は以下のとおりである。
本願の請求項1~12に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
4 引用文献の記載事項及び引用発明
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(1)引用文献1の記載事項及び引用発明
引用文献1には、以下のとおり記載されている。
ア 技術分野
【0001】
本発明は、ロキソプロフェン及び/又はその医学的に許容できる塩を含有する外用剤の分野に関する。さらに詳しくは、本分野で、酸性条件で生じる析出あるいは沈殿の生成を防止する技術に関する。
イ 背景技術
【0002】
ロキソプロフェン(正式名:2-[p-(2-オキソシクロペンチルメチル)フェニル]プロピオン酸)のナトリウム塩、すなわちロキソプロフェンナトリウムはフェニルプロピオン酸系の非ステロイド性消炎鎮痛剤の一つである。関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群、歯痛、外傷後並びに抜歯後の鎮痛・消炎、急性上気道炎の解熱・鎮痛に対して効果を示し、汎用されている(非特許文献1)。ロキソプロフェンナトリウムは、生体内で作用の強い活性代謝物に変換されたのち作用を発揮するいわゆるプロドラッグであり、この薬物は消化管傷害が比較的少ないという特性を有するものの、消化管潰瘍の既往歴のある患者または長期投与する時には慎重に投与することが必要である。このため、係る副作用を軽減することを目的として、炎症部位での局所薬物濃度を高め全身性の副作用を回避する目的で経皮投与型の外用剤が考えられる(特許文献1)。
ウ 発明が解決しようとする課題
【0007】
本発明は、ロキソプロフェンを配合した外用剤のpHを酸及び/又は酸性物質により低下させた際に、析出あるいは沈殿の生成を防止することを課題とする。
エ 発明の効果
【0010】
本発明により、酸性条件においても析出あるいは沈殿の生成を防止した外用剤の提供が可能となった。
オ 外用剤の剤形
【0019】
本発明の外用剤の剤形は、特に限定されるものではないが、例えば、ローション剤、液剤、乳液、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、エアゾール剤、チック剤等が挙げられ、これらは公知の方法で製造することができる。製造に際しては、本発明の効果を損なわない範囲で、他の非ステロイド性消炎鎮痛剤、局所刺激剤、清涼化剤、血行促進剤、抗炎症剤、抗ヒスタミン剤、生薬等の外用剤に用いる他の有効成分、pH調節剤、抗酸化剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、経皮吸収促進剤等の添加物を適宜添加してもよい。
カ 実施例3
【0023】
ロキソプロフェンナトリウム 2g
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50 2g
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60 4g
アジピン酸ジイソプロピル 2g
トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリル 10g
セタノール 3g
ステアリルアルコール 3g
酢酸トコフェロール 1g
プロピレングリコール 5g
精製水 68g
リン酸 適量
ロキソプロフェンナトリウム2g、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50 2g、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60 4gを精製水68gとプロピレングリコール5gの混合物に溶解した。これにリン酸適量を加え、pHを5.3に調節し、水相とした。別に、アジピン酸ジイソプロピル2g、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリル10g、セタノール3g、ステアリルアルコール3g、酢酸トコフェロール1gを約80℃に加温し、撹拌して油相とした。約80℃に加温した水相に油相を加え、攪拌しながら室温まで冷却し、これにリン酸適量を加え、pHを5.0に調節して乳液を得た。
キ 上記ア~カの記載、特に、カの実施例3の記載、オに外用剤の剤形として乳液が挙げられていることからみて、引用文献1には、以下の「引用発明」が記載されていると認められる。
「ロキソプロフェンナトリウム 2gポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50 2gポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60 4gアジピン酸ジイソプロピル 2g続きを表示(全12行)トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリル 10gセタノール 3gステアリルアルコール 3g酢酸トコフェロール 1gプロピレングリコール 5g精製水 68gリン酸 適量を含有するpH5.0の乳液である、外用剤。」
(2)引用文献4の記載事項
引用文献4には、以下のとおり記載されている。
ア 表紙
[図:0001393530000001.jpg]
イ 3頁
III.有効成分に関する項目
1.物理化学的性質
(1)外観・性状
白色~帯黄白色の結晶又は結晶性の粉末である。
(2)溶解性
水又はメタノールに極めて溶けやすく、エタノール(95)に溶けやすく、ジエチルエーテルにほとんど溶けない。
ウ 4~5頁
IV.製剤に関する項目
1.剤形
(1)投与経路
経皮
(2)剤形の区別、外観及び性状
[図:0001393530000002.jpg]
・・・
2.製剤の組成
(1)有効成分(活性成分)の含量
1g中にロキソプロフェンナトリウム水和物を11.3mg(無水物として10mg)含有する。
(2)添加物
ヒプロメロース、1,3-ブチレングリコール、クエン酸水和物、クエン酸ナトリウム水和物、メチルパラベン、l-メントール、エタノール
・・・
5.製剤の各種条件下における安定性1)
<長期保存試験>
最終包装製品を用いた長期保存試験(25℃、相対湿度60%、2年)の結果、ロキソプロフェンNa外用ポンプスプレー1%「TCK」は通常の市場流通下において2年間安定であることが確認された。
[図:0001393530000003.jpg]
<加速試験>
加速試験(40℃、相対湿度75%、6ヵ月)の結果、ロキソプロフェンNa外用ポンプスプレー1%「TCK」は通常の市場流通下において3年間安定であることが推測された。
[図:0001393530000004.jpg]
エ 14頁
X.管理的事項に関する項目
1.規制区分
2.有効期間又は使用期限
3.貯法・保存条件
室温保存、気密容器
・・・
7.容器の材質
容 器:ポリプロピレン
管 :ポリエチレン
5 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「ロキソプロフェンナトリウム」は、引用文献1の記載(上記4(1)ア、イ)から、ロキソプロフェンのナトリウム塩であるから、本願発明の「(A)ロキソプロフェン又はその塩」に相当する。
引用発明の「酢酸トコフェロール」は、トコフェロール酢酸エステルの別名であるから(例えば、日本医薬品添加剤協会 編「医薬品添加物事典 2007」、2007年7月25日第一刷発行、191頁、「トコフェロール酢酸エステル」の項)、本願発明の「(B)トコフェロール酢酸エステル」に相当する。
引用発明の「乳液」は、精製水が大部分を占めており、液状といえるし、本願明細書【0015】には液状の組成物の性状は乳濁液であってもよいことが記載されており、乳液はエマルション(乳濁液)の一種であることから(例えば、日本化粧品技術者協会 編「化粧品事典」、2015年4月25日第3刷発行、356頁、「エマルション」の項)、引用発明の「乳液」は本願発明の「液状又は半固形状の組成物」に相当する。
また、引用発明の「乳液である、外用剤」は、消炎鎮痛剤という医薬の有効成分であるロキソプロフェンナトリウム(上記4(1)イ)を含む液状のものであって、本願明細書【0051】に医薬製剤の剤形として外用液剤が挙げられていることからみて、引用発明の「乳液である、外用剤」は本願発明の「医薬製剤」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明は、
「 次の成分(A)及び(B):(A)ロキソプロフェン又はその塩;(B)トコフェロール酢酸エステル;を含有する液状又は半固形状の組成物である、医薬製剤。」という点で一致し、次の点で相違する。
<相違点>
本願発明は「組成物が、ポリエチレン及びポリプロピレンよりなる群から選ばれる1種以上のポリオレフィン系樹脂製容器に収容されてなる、医薬製剤」としているのに対して、引用発明は収容される容器について特定がない点で相違する。
(2)判断
上記相違点について検討する。
ア 引用発明の組成物の各成分について
上記成分である(A)ロキソプロフェン又はその塩は、引用文献1に記載のとおり、非ステロイド性消炎鎮痛剤の一つであって、関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群、歯痛、外傷後並びに抜歯後の鎮痛・消炎、急性上気道炎の解熱・鎮痛に対して効果を示し、汎用されているものである(上記4(1)イ)。
また、上記成分である(B)トコフェロール酢酸エステルも、安定化剤、抗酸化剤として知られる医薬品添加剤である(日本医薬品添加剤協会 編「医薬品添加物事典 2007」、2007年7月25日第一刷発行、191頁、「トコフェロール酢酸エステル」の項)。
イ 外用液剤の容器について
外用液剤の容器としては、ガラスびんのような破損しやすく取り扱いが難しいガラス製容器よりも、ポリエチレンやポリプロピレンなどのプラスチック製容器を使用することが一般的であり(例えば、本願優先日当時の技術常識を示す文献として、杉原 正泰著「医薬品の包装設計」、1984年10月20日第1版発行、株式会社南山堂、269~274頁、特に、269頁の「A.液剤の容器」の3~5行及び274頁の1~2行参照。)、また、市販の外用製剤の容器の多くもポリエチレンやポリプロピレン製であった(例えば、アンメルツヨコヨコ(https://web.archive.org/web/20151124001622/http://www.kobayashi.co.jp/seihin/an_y/index.htmlの「廃棄方法」の欄、Copyright(c)2015)、ニューアンメルツヨコヨコA(https://web.archive.org/web/20150613015502/http://www.kobayashi.co.jp:80/seihin/nan_y/index.htmlの「廃棄方法」の欄、Copyright(c)2012))。
そして、引用文献4に記載のとおり、市場に流通している外用消炎鎮痛剤であるロキソプロフェン含有液剤においても、汎用樹脂であるポリエチレンやポリプロピレンといったポリオレフィン製の容器に収容した医薬製剤とすることが一般的に行われていた(上記4(2)エ)。
ウ そうすると、上記アのとおり、引用発明の「乳液である、外用剤」を構成する組成物の各成分が汎用され知られているものであるし、上記イのとおり、ポリエチレンやポリプロピレン製の容器も一般的なものであるから、引用発明の「乳液である、外用剤」をポリエチレンやポリプロピレン製の容器に収容された医薬製剤とすることは、当業者が自然に想到し得たことといえる。
よって、引用発明を、相違点に係る本願発明の構成を備えたものとすることは当業者が容易に想到することができたものである。
(3)本願発明の効果について
ア 本願明細書の記載、特に、【0008】の記載によれば、本願発明の医薬製剤は、ロキソプロフェン又はその塩を含有する液状又は半固形状の組成物の、高温保存時における変色を抑制できる。したがって、保存安定性に優れた、ロキソプロフェン又はその塩を含有する医薬を提供することができるという効果を奏するものである。
そして、本願発明の、成分(A)(ロキソプロフェン又はその塩)及び成分(B)(トコフェロール類)を含有する液状の組成物を収容する保存容器として、ポリエチレン及びポリプロピレンよりなる群から選ばれる1種以上のポリオレフィン系樹脂製容器を採用することによる効果は以下のとおりである。
本願明細書の試験例2(【0064】の【表2】)には、ロキソプロフェンナトリウム水和物とdl―α―トコフェロール酢酸エステルを含有する液状組成物を80℃で2週間保存後、液状の組成物の外観変色の有無を目視により評価し、変色が生じなかったものを「○」、変色が生じたものを「×」と評価した(評価方法【0059】)ところ、ガラス製容器に収容して保存した場合(比較例3)の外観評価は「×」であり、変色が生じた比較例3をポリエチレン製容器に収容して保存した場合(実施例2)の外観評価は「○」であり、変色は生じなかったことが示されている。また、試験例3(【0067】【表3】)には、ロキソプロフェンナトリウム水和物とdl―α―トコフェロール酢酸エステルを含有する液状組成物の保存容器をポリプロピレン製容器に変更した場合であっても、80℃で2週間保存後の外観評価は「○」であり、変色は生じなかったことが示されている。
さらに、試験例1(【0060】【表1】)には、ロキソプロフェンナトリウム水和物とdl―α―トコフェロール酢酸エステルを含有する液状組成物をポリエチレン製容器で80℃で3日間保存した場合、あるいは1週間保存した場合についての結果(実施例1)が記載されており、いずれの場合も保存後の外観評価は「○」であり、変色は生じなかったことが示されている。
イ したがって、本願発明の効果は、成分(A)(ロキソプロフェン又はその塩)及び成分(B)(トコフェロール類)を含有する液状の組成物を収容する保存容器として、ポリエチレン及びポリプロピレンよりなる群から選ばれる1種以上のポリオレフィン系樹脂製容器を採用した本願発明の医薬製剤は、80℃で最大2週間保存後においても変色(黄変)が生じない、高温保存時における変色が抑制できるものであり、当該液状の組成物をガラス容器に収容した医薬製剤に比べて、保存安定性に優れていることが理解できる。
なお、「80℃」という保存条件は、一般的な長期保存試験(25±2℃、60±5%RH又はまたは30±2℃、60±5%)、一般的な加速試験(40±2℃、75±5%RH)とも異なっているし(例えば、四ツ枡智久ら「製剤学(改訂第6版)」第2刷2013年12月20日発行、南江堂の197~205頁「第5章 製剤の品質確保,保証」、特に、203頁の表5・2参照。)、「80℃」という高温は、医薬品の現実の保存・市場流通条件では想定し得ない高温条件であるから、本願明細書に記載の「80℃、2週間」での試験は、現実の流通・保存条件において、実際に80℃という高温にさらされる場合を想定しての保存安定性を確認した試験というよりも、一般的な保存・市場流通条件で想定される範囲内での安定性を確認するための試験であることは、明らかである。
このことは、請求人が、令和2年7月2日提出の意見書の5頁3段落において、「医薬製剤の安定性の予測は、アレニウスの式に基づく反応速度論的解析により行われるものですが、この原理を利用した80℃という保存条件での苛酷試験は、40℃という保存条件の加速試験と同様に、本願出願前から広く実施されていた試験です。80℃という保存条件は、製造承認申請に要求される条件ではないというだけであり、80℃という保存条件が特殊ということは決してありません。」と主張し、また、同6頁1段落において、「なお、先願主義を採用する日本の特許制度の下では、可能な限り出願を急がざるを得ないため、本出願人は試験期間を短縮すべく80℃という保存条件を採用したものであって、特殊な条件を採用する意図も全くありません)。」と主張することとも整合する。
ウ 以上を踏まえて、本願発明の効果を検討する。
(ア)医薬において、保存・市場流通下での安定性が重要な検討項目であり、医薬品の製造承認を得る際にも、安定性についての資料の提出が義務づけられており(医薬品の承認申請について(薬食発第0331015号 平成17年3月31日、https://www.pmda.go.jp/files/000161124.pdf)、医薬の保存安定性は、当業者が当然に確認する事項である。
(イ)また、引用文献4には、本願の優先日前に市販されていたロキソプロフェンナトリウム含有の外用消炎鎮痛剤(ロキソプロフェンNa外用ポンプスプレー1%「TCK」)に関する情報が記載されており、ロキソプロフェンナトリウム含有の外用消炎鎮痛剤は、ロキソプロフェンナトリウム水和物を含有する液状の医薬組成物がポリプロピレン及びポリエチレンからなる容器に収容された医薬製剤であり(上記4(2)エ)、当該医薬製剤は長期保存試験(25℃、相対湿度60%、2年)の結果、試験開始時に「無色透明の液で、芳香を有した」性状であったものが、24ヵ月後においても性状は「変化なし」であったこと、及び、通常の市場流通下において2年間安定であることが確認されたこと(上記4(2)ウ)、また、加速試験(40℃、相対湿度75%、6ヵ月)においても、試験開始時に「無色透明の液で、芳香を有した」性状であったものが、6か月後においても性状は「変化なし」であり、通常の市場流通下において3年間安定であることが推測されたことが記載されている(上記4(2)ウ)。
(ウ)そうすると、当業者であれば、引用文献4の記載(上記(イ))から、引用発明のロキソプロフェンナトリウムを含有する乳液を、外用液剤の容器として一般的であり、ロキソプロフェン含有液剤を収容する容器としても一般的であるポリエチレン製、ポリプロピレン製の容器に収容した製剤とする場合であっても、当然に、その製剤の保存安定性を確認するといえるし、そのような製剤は、通常の市場流通下において、2~3年間は安定であり、変色のような外観変化を生じることなく2~3年程度保存できると予測するといえる。
(エ)一方、上記イで記載したとおり、本願明細書の記載から、当業者は、本願発明の、ポリエチレン及びポリプロピレンよりなる群から選ばれる1種以上のポリオレフィン系樹脂製容器に収容されてなる医薬製剤が、「80℃、2週間」保存後においても変色(黄変)が生じないことは理解できるものの、「80℃、2週間」という保存条件は、通常の市場流通・保存条件や、一般的な長期保存試験や加速試験とは異なる条件であって、本願明細書で示された「80℃、2週間」での変色を生じないという効果は、通常求められる効果ではなく、実際に、医薬製剤として市場に流通し、保存された際に、通常の保存・市場流通条件での2~3年にわたる安定性が予測されるロキソプロフェン含有液状医薬製剤に比べて、どの程度の有利な効果を示すものであるのかを把握することはできない。
(オ)したがって、本願発明の効果が、引用文献1及び引用文献4に記載された事項から予測される範囲を超えるものではない。
(4)請求人の主張について
ア 請求人は、審判請求書の手続補正書において、おおむね以下のとおり主張している。
(ア)日本の製薬企業等によって構成される団体である日本製薬工業協会がまとめた「医薬品インタビューフォーム作成の手引き(改訂版)平成25年4月改訂」(参考資料10)の40頁の「5.製剤の各種条件下における安定性」の項に「(2) 規格内の変動は「変化なし」と記載してもよい.」と記載されていることから明らかなように、引用文献4の5頁に示される各表中の「変化なし」との評価は、試験開始時には無色透明であったものが保存後に微黄色透明に変化した(規格範囲内で変動が生じた)ことを決して排除するものではなく、引用文献4の5頁に記載の加速試験の結果に当業者が接したとしても、40℃で6ヶ月間無色透明な状態が必ず維持できていると理解しない。このことは、引用文献4同頁の「加速試験(40℃、相対湿度75%、6ヵ月)の結果、ロキソプロフェンNa外用ポンプスプレー1%「TCK」は通常の市場流通下において3年間安定であることが推測された」との記載を考慮しても同様であり、この記載は、通常の市場流通下で3年間保存した場合に微黄色透明に変化した(規格範囲内で変動が生じた)ことを否定するものではない。(審判請求書の手続補正書4頁4段落~5頁1段落)
(イ)また、令和3年1月21日付提出の手続補足書に示すように、本願発明の構成を満足する医薬製剤を保存した場合には、無色透明な状態が80℃でも4週間(原査定で指摘された80℃2週間の実に2倍もの期間)維持された(実験成績証明書(参考資料11)の表A及び写真の実施例A、B)。このような格別顕著な変色抑制効果が得られるということは引用文献1~2及び4の記載から当業者が到底予測できたものでない。
本願明細書の段落【0008】には、「高温保存時における変色を抑制できる」と明記され、その保存期間の上限を2週間とするような記載は一切なく、80℃で1週間又は2週間保存した場合の試験結果(変色の有無)は一例として示されているというべきものであるところ(表1~3)、本願明細書は、80℃で4週間保存した場合の変色抑制効果が高温保存時における変色抑制効果として「その効果が明細書に記載されている」ものに他ならず、実験成績証明書に示した試験結果は当然に参酌されるべきものである。(審判請求書の手続補正書5頁3~7段落)
イ この点について検討する。
(ア)上記主張ア(ア)について
参考資料10には、製剤の安定性の試験において、規格内の変動は「変化なし」と記載してもよい旨が記載されているが、引用文献4の長期保存試験及び加速試験の結果を示す表(上記4(2)ウ)における「変化なし」が、試験開始時の性状とされる「無色透明の液」を意味するのか、規格内の「無色~微黄色透明の液」であることを意味するのかは明らかではなく、規格の性状である「無色~微黄色透明の液」の範囲内において、色の変化があったかは不明である。
保存後の製剤が「無色透明」又は「無色~微黄色透明」のいずれかの状態であるとしても、保存後の製剤は「無色~微黄色透明の液」の性状であり、当業者が保存安定性に疑義を生じるほどの色調変化が生じているとみるべき記載も存在しない。
一方、本願明細書には、保存試験に関し、「保存後の変色(黄変)の有無を目視により評価した」と記載されており(【0059】)、製品がどのような性状であったのか(無色であったのか、微黄色透明であったのか)は明示されていないし、ロキソプロフェンナトリウム含有医薬製剤の規格自体が「無色~微黄色透明」であることに鑑みれば、当業者は、本願明細書において目視により確認される「黄変」とは、「無色透明」の製剤が、当該製剤自体の規格内の「微黄色透明」に変化する場合を想定しているというよりも、むしろ、目視で評価を行う者(例えば、パネラー等)が、「変色(黄変)」したと評価できる程度に明確な「黄色」に「変色」する場合(「規格内」の程度を超えるレベルの変色)を想定して確認した結果に基づく評価と理解するのが自然である。
そうすると、参考資料10を参酌しても、当業者が、引用文献4に記載の製剤が、保存後において本願明細書に記載される「変色(黄変)」が生じたものに相当すると理解することはできないから、審判請求人の主張は採用できない。
さらに、本願明細書には、本願明細書に記載の「変色(黄変)」に、「微黄色透明」が含まれることについての記載はないし、目視で評価を行ったパネラーの専門性や人数等の記載もなく、本願明細書に記載の評価結果は、引用文献4のような市販の医薬品についての正式な情報を記載する「医薬品インタビューフォーム」に記載される評価結果と同視することもできない。
また、本願発明の効果が、引用文献1及び引用文献4に記載された事項から予測される範囲を超えるものではないことは、上記(3)のとおりである。
よって、審判請求人の主張ア(ア)は採用できない。
(イ)上記主張ア(イ)について
請求人は、本願明細書【0008】には、「高温保存時における変色を抑制できる」と明記され、その保存期間の上限を2週間とするような記載は一切なく、上記実験成績証明書に示した試験結果は当然に参酌されるべきものと主張するが、上記実験成績証明書の追加試験における「80℃、4週間」の保存期間(表A)は、当初の本願明細書に記載のあった「80℃、2週間」の保存期間(本願明細書【0063】~【0065】、試験例2、表2)の2倍の保存期間であり、当初の本願明細書に何ら記載のない保存期間及びその試験結果であり、仮に、当該追加試験が、本願明細書に追加される補正が行われた場合、新規事項の追加に相当する事項であるから、その試験結果を、本願発明の効果として参酌することはできない。
(5)まとめ
したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献1及び引用文献4の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-006888