特許拒絶査定不服審判
2022-008336
ロキソプロフェンを含有する医薬製剤
- 審判番号
- 2022-008336
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-558332
- 請求日
- 2022年06月01日
- 審決日
- 2024年02月29日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】興和株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人アルガ特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 藤原 浩子
- 審判官 渕野 留香
- 審判官 原田 隆興
- 分類
- P18 .121-Z (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2017-558332「ロキソプロフェンを含有する医薬製剤」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月29日国際公開、WO2017/111167〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)12月26日(優先権主張 平成27年12月25日、平成27年12月25日、平成27年12月25日、平成28年1月29日、平成28年1月29日、平成28年2月26日、平成28年2月26日、平成28年4月26日、平成28年7月21日、平成28年7月21日、平成28年7月26日、平成28年8月17日、平成28年9月1日、いずれも日本国)を国際出願日とする出願であって、その主な手続の経緯は、次のとおりである。
平成31年10月24日 手続補正書の提出
令和 2年 9月17日付け 拒絶理由通知書
令和 3年 1月25日 手続補正書及び意見書の提出
同年 6月 9日付け 拒絶理由通知書
同年10月 5日 手続補正書及び意見書の提出
令和 4年 2月22日付け 拒絶査定
同年 6月 1日 審判請求書及び手続補正書の提出
同年 7月 4日 審判請求書の請求の理由についての手続補 正書(方式)の提出
2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1~4に係る発明は、令和4年6月1日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
次の成分(A)及び(B):
(A)ロキソプロフェン又はその塩;
(B)次の成分(B-1);
(B-1)カンフル
を含有する液状又は半固形状の組成物が、ポリエチレン及びポリプロピレンよりなる群から選ばれる1種以上のポリオレフィン系樹脂製容器に収容されてなる、医薬製剤。」
なお、本願発明は、補正前の令和3年10月5日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1と同一のものであるから、請求項1に係る手続補正は、補正却下についての検討を要しないものである(平成19年(行ケ)第10062号)。
3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、下記の引用文献に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
<引用文献>
引用文献2.医薬品インタビューフォーム ロキソプロフェンNa外用ポンプスプレー1%「TCK」,2015年2月作成(第1版),p.1-16(主引例)
引用文献3.特開2001-309986号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4.「アンメルシン1%ヨコヨコ|製品情報|小林製薬株式会社」,[online],2014年3月14日,[2020年9月17日検索],インターネット<https://web.archive.org/web/20140314180916/https://www.kobayashi.co.jp/seihin/ans_y/index.html>(周知技術を示す文献)
引用文献5.カタコシニード液添付文書,2012年6月改訂,[用法・用量]の欄(周知技術を示す文献)
引用文献6.特開2014-224111号公報(公知の知見及び周知技術を示す文献)
4 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献2に記載の事項
引用文献2には、次の事項が記載されている。なお、下線は、当審で付した。また、摘記に際しては、一部を除き全角表記とし、読みやすくするために適宜改行等の形式変更をした。以下この審決において同様である。
・2a(表紙)
「
[図:0001409554000001.jpg]
」
・2b(3頁)
「III.有効成分に関する項目
1.物理化学的性質
(1)外観・性状
白色~帯黄白色の結晶又は結晶性の粉末である。
(2)溶解性
水又はメタノールに極めて溶けやすく、エタノール(95)に溶 けやすく、ジエチルエーテルにほとんど溶けない。」
・2c(4~5頁)
「IV.製剤に関する項目
1.剤形
(1)投与経路
経皮
(2)剤形の区別、外観及び性状
[図:0001409554000002.jpg]
・・・
2.製剤の組成
(1)有効成分(活性成分)の含量
1g中にロキソプロフェンナトリウム水和物を11.3mg(無水 物として10mg)含有する。
(2)添加物
ヒプロメロース、1,3-ブチレングリコール、クエン酸水和物、 クエン酸ナトリウム水和物、メチルパラベン、l-メントール、エ タノール
・・・
5.製剤の各種条件下における安定性1)
<長期保存試験>
最終包装製品を用いた長期保存試験(25℃、相対湿度60%、2年)の結果、ロキソプロフェンNa外用ポンプスプレー1%「TCK」は通常の市場流通下において2年間安定であることが確認された。
[図:0001409554000003.jpg]
<加速試験>
加速試験(40℃、相対湿度75%、6ヵ月)の結果、ロキソプロフェンNa外用ポンプスプレー1%「TCK」は通常の市場流通下において3年間安定であることが推測された。
[図:0001409554000004.jpg]
」
・2d(14頁)
「X.管理的事項に関する項目
1.規制区分
製剤:ロキソプロフェンNa外用ポンプスプレー1%「TCK」 該当 しない
有効成分:ロキソプロフェンナトリウム水和物 劇薬
2.有効期間又は使用期限
使用期限:外装に表示(2年)
3.貯法・保存条件
室温保存、気密容器
・・・
7.容器の材質
容 器:ポリプロピレン
管 :ポリエチレン
キャップ:ポリプロピレン 」
(2)引用発明
上記(1)の記載、特に、表紙の「経皮吸収型鎮痛・抗炎症剤」、「ロキソプロフェンNa外用ポンプスプレー」なる記載(摘記2a)、4~5頁のIV.製剤に関する項目の1.(2)の表における、剤形の欄の「スプレー剤」なる記載及び「性状」の欄の「液」なる記載、同2.の「製剤の組成」の項目の(1)の有効成分についての「ロキソプロフェンナトリウム水和物」なる記載、同(2)の添加物についての「ヒプロメロース、1,3-ブチレングリコール、クエン酸水和物、クエン酸ナトリウム水和物、メチルパラベン、l-メントール、エタノール」なる記載(摘記2c)、14頁の項目X.の「7.容器の材質」の「容器:ポリプロピレン」「管:ポリエチレン」「キャップ:ポリプロピレン」なる記載(摘記2d)によれば、引用文献2には、以下の発明が記載されていると認められる。
「ロキソプロフェンナトリウム水和物、ヒプロメロース、1,3-ブチレングリコール、クエン酸水和物、クエン酸ナトリウム水和物、メチルパラベン、l-メントール、エタノールを含有する液状組成物が、ポリプロピレンを材質とする容器、ポリエチレンを材質とする管、ポリプロピレンを材質とするキャップからなるポンプスプレー容器に収容されてなる、経皮吸収型鎮痛・抗炎症剤。」(以下「引用発明」という。)
(3)引用文献6に記載の事項
引用文献6には、次の事項が記載されている。
「【発明の名称】ロキソプロフェンを含有する外用剤組成物 」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ロキソプロフェンのもつ優れた鎮痛消炎作用を減弱することなく、打撲・捻挫・激しいスポーツの後・腱鞘炎・所謂テニス肘や加齢などにおける、筋肉痛・腰痛・関節痛・肩痛等の症状を改善する外用剤組成物に関する。より詳しくは、ロキソプロフェンに特定の精油成分であるチモール又はユーカリ油を含有させることによって、消炎作用を更に向上させた外用消炎鎮痛剤に関する。」
「【背景技術】
【0002】
プロピオン酸系非ステロイド性解熱鎮痛消炎剤(NSAID)であるロキソプロフェンは、他のNSAIDと同様にプロスタグランジン生合成の抑制作用に基づく解熱・鎮痛・消炎作用を有する。・・・
【0003】
近年、ロキソプロフェンは外用消炎鎮痛剤としてもパップ剤、テープ剤及びゲル剤が臨床に供されている(例えば、非特許文献2参照)。・・・
【0004】
一方、精油成分でもあるメントール、カンフル、チモール及びユーカリ油は冷感刺激成分として、OTC外用鎮痛消炎剤に添加される場合がある(例えば、非特許文献3参照)。
【0005】
ロキソプロフェンと精油成分を含有する外用剤組成物として、これまでに、ロキソプロフェンとメントールを含有する組成物が、特許文献2(実施例10)及び特許文献3(表4、表7)等に開示されている。
しかし、ロキソプロフェンと、カンフル、チモール又はユーカリ油を含有する外用剤組成物は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-074873公報
【特許文献2】WO93/04677パンフレット
【特許文献3】特開2008-163017公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】薬理と治療 Vol.16 No.2 1988 p.611-619
【非特許文献2】JAPIC 医療用医薬品集 2013 丸善 2012
【非特許文献3】OTC医薬品辞典2010~‘11 じほう 2010」
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、ロキソプロフェンの有効性を更に向上させるとともに、清涼感乃至冷感をも有する、新たなロキソプロフェン含有外用鎮痛消炎剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本研究の結果、ロキソプロフェンに特定の冷感刺激成分であるチモール又はユーカリ油を添加した場合に限り、ロキソプロフェンの消炎作用が増強されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)ロキソプロフェンと、チモール及びユーカリ油から選ばれる1種以上を含有する外用剤組成物、好適には、
(2)皮膚に適用するための、上記(1)に記載の外用剤組成物、
(3)鎮痛消炎剤である、上記(1)又は(2)に記載の外用剤組成物、又は
(4)消炎剤である、上記(1)又は(2)に記載の外用剤組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の、ロキソプロフェンに、チモール又はユーカリ油を含有させた外用剤組成物は冷感を有するのみならず、ロキソプロフェンのもつ優れた消炎作用を更に増強することができるために有用である。」
「【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のロキソプロフェンは、ロキソプロフェンナトリウム水和物として第16改正日本薬局方に掲載されている。・・・
・・・
【0014】
本発明の外用消炎鎮痛剤組成物の具体的な剤形としては、例えば、液剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、貼付剤、エアゾール剤等をあげることができ、各剤形に適した添加剤や基材を適宜使用し、日本薬局方などに記載される通常の方法に従い、製造することができる。」
「【実施例】
【0017】
・・・
【0021】
(試験例)消炎効果試験
(1)被検物質
ロキソプロフェンナトリウム・2水和物は第一三共製のものを、L-メントール、D-カンフル、チモール及びユーカリ油は和光純薬工業製のものを使用した。各被験物質は、溶媒として50%エタノールを用い、1%濃度となるように調製した。
(2)使用動物
Wistar今道雄性ラット5週齢(動物繁殖研究所)を・・・使用した。動物は・・・ラット飼育室内で5匹/ケージにて飼育した。マウス・ラット用固形試料・・・および・・・水道水を自由に摂取させ、1週間予備飼育した後、毛並、体重増加などの一般症状の良好な動物を選別して供試した。
(3)試験方法
・・・試験当日、動物の個体識別のための標識を行った後・・・体重を測定後、ラットの右後肢体積を、足容積測定装置(Volume Meter TK-105、室町機械製)を用いて測定して投与前値とした。
溶媒として50%エタノールを用いて1%濃度のカラゲニン・・・溶液に調製したものを、被験物質塗布直前にラットの右後肢皮下に0.1mL投与して炎症浮腫を惹起させた。
カラゲニン皮下投与(起炎)直後に、各被験物質をラットの右後肢に0.1mL塗布した。・・・
カラゲニン皮下投与3時間後に右後肢容積を測定し、各固体の浮腫強度を次式により算出した(N=5)。
【0022】
【数1】
浮腫強度=(カラゲニン投与後の肢体積/カラゲニン投与前の肢体積)-1
【0023】
対照群(50%エタノール媒体のみ投与)の平均浮腫強度に対する被験物質投与群のそれより、浮腫抑制率(%)を次式より求めた。
【0024】
【数2】
浮腫抑制率(%)=100×
(1-被験物質投与群の平均浮腫強度/対照群の平均浮腫強度)
【0025】
(4)試験結果
各被験物質群における、浮腫抑制率の結果を表3に示す(N=5)。
【0026】
(表3)
[図:0001409554000005.jpg]
【0027】
表3より、ロキソプロフェン単剤に較べ、特定の精油成分であるチモール又はユーカリ油を併用した場合には、浮腫抑制作用が増強することが判明した。
一方、同じ精油成分であっても、L-メントールを併用した場合には抗浮腫効果の増強はわずかしか認められず、D-カンフルは相加的な効果のみ認められた。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の、ロキソプロフェンに、特定の精油成分であるチモール又はユーカリ油を配合したものは、ロキソプロフェンの消炎作用をさらに改善するとともに、各精油のもつ冷感(清涼感)も加わり、使用感と効果の優れた製剤が得られるため、極めて有用である。」
(4)本願の優先日前の周知技術
以下に示されるとおり、l-メントール及び(d-又はdl-)カンフルが、外用鎮痛消炎剤に広く使用されている冷感刺激成分(当審注:「清涼化剤」と同義)であることは、本願の優先日前に周知の事項であった。
ア 引用文献6の【0004】には、「精油成分でもあるメントール、カンフル、チモール及びユーカリ油は冷感刺激成分として、OTC外用鎮痛消炎剤に添加される場合がある」と記載されている。
イ 日本医薬品添加剤協会編集「医薬品添加物事典 2000」、2000年4月28日、株式会社薬事日報社の72頁の「d-カンフル」の項目、72~73頁の「dl-カンフル」の項目、287頁の「l-メントール」の項目の【用途】の欄には、「清涼化剤」と記載され、【投与経路・最大使用量】の欄には、「その他の外用」あるいは「一般外用剤」と記載されているし、また、385頁の「清涼化剤」のリストにもこれらが列記されている。
ウ 「第十三改正 日本薬局方解説書 1996」、平成11年特許庁情報館受入、東京 廣川書店 刊行 C-983~C-986頁の「d-カンフル」の項目には、「性状」として「清涼味がある」と記載され、解説の欄において、「本質」の項目に「局所刺激薬,局所消炎・鎮痒薬」と記載され、「適用」の項目に「局所刺激,血行の改善,消炎,鎮痒の目的で外用される」と記載されているし、C-987~C989頁の「dl-カンフル」の項目には、「性状」として「清涼味がある」と記載され、解説の欄において、「本質」の項目に「局所刺激薬,局所消炎・鎮痒薬」と記載されている。
エ 日本医薬品集フォーラム監修「日本医薬品集 一般薬 2013-14」、平成24年9月10日発行、株式会社じほうの693~694頁、699頁に市販の外用鎮痛消炎薬(一般薬)が記載されており、例えば、694頁の「エアーサロンパスEX」をはじめ、多くの外用鎮痛消炎薬にl-メントールやカンフルが配合されている。
オ 引用文献3の4頁5欄37~38行には「清涼化剤として、メントール、カンフル・・・等があげられる」と記載されている。
カ 引用文献5(外用鎮痛消炎薬 カタコシニード液の添付文書の〔特徴〕の項目6~7行には、「l-メントールの配合により、心地よい清涼感があり、痛みをやわらげます」と記載されている。
キ 特開2015-13847号公報の【0002】には、メントール等のテルペン類が冷却感を与える目的で外用消炎鎮痛剤等に配合されていることが記載され、【0014】には、特に好ましいテルペン類として、l-メントール及びdl-カンフルが記載されている。
ク 特開2014-185132号公報の【0002】には、メントール等のテルペン類が冷却感を与える目的で外用消炎鎮痛剤等に配合されていることが記載され、【0017】には、特に好ましいテルペン類として、l-メントール及びdl-カンフルが記載されている。
5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「ロキソプロフェンナトリウム水和物」は、ロキソプロフェンのナトリウム塩の水和物であるところ、本願明細書の【0016】によれば、本願発明の「ロキソプロフェン又はその塩」には、「水やアルコール等との溶媒和物も含まれる」から、引用発明の「ロキソプロフェンナトリウム水和物」は、「本願発明の「成分(A)」である「ロキソプロフェン又はその塩」に相当する。
(2)本願発明の「成分(B-1)」である「カンフル」に関し、本願明細書の【0018】~【0019】には、「<成分(B-1)>」が「テルペン類」であり、特に好ましいテルペン類が、d-カンフル、dl-カンフル、チモール、l-メントール、dl-メントール等であることが記載されている。
そうすると、本願発明の「カンフル」と引用発明の「l-メントール」とは、「テルペン類」である限りにおいて一致している。
(3)引用発明のロキソプロフェンナトリウム水和物等を含有する「液状組成物」は、本願発明の「液状又は半固形状の組成物」に相当するし、引用発明の「経皮吸収型鎮痛・抗炎症剤」は、本願発明の「医薬製剤」に相当する。
(4)引用発明の「ポンプスプレー容器」は、本願発明の「容器」に相当し、引用発明において、ロキソプロフェンナトリウム水和物等を含有する液状組成物が、「ポリプロピレンを材質とする容器、ポリエチレンを材質とする管、ポリプロピレンを材質とするキャップからなるスプレー容器に収容されてなる」ものであることは、本願発明の液状又は半固形状の組成医薬製剤が、「ポリエチレン及びポリプロピレンよりなる群から選ばれる1種以上のポリオレフィン系樹脂製容器に収容されてなる」ことに相当する。
このことは、本願明細書の【0105】の「<ポリオレフィン系樹脂製容器>」の項目に、「本発明において、「容器」とは、液状又は半固形状の組成物を直接的に収容する包装体を意味する。・・・このような容器の形状としては、例えば、・・・ポンプスプレー剤用容器、ボトル容器(より詳細には例えば、スポンジ状の塗布部材(ヘッド)を備えるボトル容器、ロールオン容器やジャーボトル容器など)、チューブ容器・・・等が挙げられる。」と記載されていることからしても明らかである。
そうすると、本願発明と引用発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
次の成分(A)及び(B):
(A)ロキソプロフェン又はその塩;
(B)次の成分(B-1);
(B-1)テルペン類
を含有する液状又は半固形状の組成物が、ポリエチレン及びポリプロピレンよりなる群から選ばれる1種以上のポリオレフィン系樹脂製容器に収容されてなる、医薬製剤。
<相違点>
組成物に含有されるテルペン類が、本願発明では「カンフル」であるのに対し、引用発明では「l-メントール」である点。
6 判断
(1)相違点について
上記相違点について検討する。
上記4(4)に記載したとおり、l-メントール及び(d-又はdl-)カンフルが、いずれも外用鎮痛消炎剤に広く使用されている冷感刺激成分(清涼化剤)であることは、本願の優先日前に周知の事項であった。
また、ロキソプロフェンを含有する外用鎮痛消炎剤に関する文献である引用文献6には、上記4(4)アで指摘したとおり、「精油成分でもあるメントール、カンフル、チモール及びユーカリ油は冷感刺激成分として、OTC外用鎮痛消炎剤に添加される場合がある」と記載されていることに加え、「ロキソプロフェンと、カンフル、チモール又はユーカリ油を含有する外用剤組成物は知られていない」(【0005】)ことから、「ロキソプロフェンの有効性を更に向上させるとともに、清涼感乃至冷感をも有する、新たなロキソプロフェン含有外用鎮痛消炎剤組成物を提供すること」を課題として検討したことが記載され(【0008】)、消炎効果試験の結果、ロキソプロフェン単剤に較べ、特定の精油成分であるチモール又はユーカリ油を併用した場合には、浮腫抑制作用が増強することが判明したこと、一方、同じ精油成分であっても、L-メントールを併用した場合には抗浮腫効果の増強はわずかであり、また、D-カンフルでは相加的な効果であったことが記載されている(【0021】~【0027】、特に【0026】の表3及び【0027】)。
さらに、引用文献6の表3をみると、ロキソプロフェンにD-カンフルを併用した場合の浮腫抑制率は46.8%であり、L-メントールを併用した場合の30.9%、ユーカリ油を併用した場合の38.8%より優れ、また、チモールを併用した場合の47.8%とほぼ同程度の浮腫抑制率を達成しており、l-メントールをカンフルに変更することで、より優れた消炎作用が発揮されることを認識できる。
そうすると、カンフルがl-メントールと同様、外用鎮痛消炎剤に広く使用されている冷感刺激成分(清涼化剤)であることが、本願優先日前の周知技術であることを踏まえると、当業者は、引用発明において、外用消炎鎮痛剤に含まれる冷感刺激成分であるl-メントールに代えてカンフルを使用することを自然に想到するといえるし、引用文献6の記載から、当業者は、引用発明の経皮吸収型鎮痛・抗炎症剤において、l-メントールを、カンフルに変更することで、l-メントールを併用した場合に比べてより優れた消炎作用が発揮されることを認識できるのであるから、引用発明におけるl-メントールをカンフルに変更し、相違点に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得ることである。
(2)本願発明の効果について
ア 本願発明の効果に関し、本願明細書には以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ロキソプロフェンを外用剤の有効成分として利用する場合、ローション剤、ゲル剤やクリーム剤等の外用塗布剤のように、液状あるいは半固形状の組成物として患部に塗布等することにより使用するのが、患部の位置、形状や範囲に応じて柔軟に必要な量だけ投与する観点から好ましい。また、ロキソプロフェンを液状又は半固形状の組成物に安定的に配合する技術が確立できれば、外用剤のみならず内服薬(経口液剤等)への応用も可能となる。
そこで本発明者が、ロキソプロフェンを液状又は半固形状の組成物に安定的に配合する技術を確立するため、ロキソプロフェン又はその塩を含有する液状又は半固形状の組成物を調製し保存安定性を評価したところ、意外にも、高温条件下での保存により経時的に変色が生じ得ることが判明した。
【0007】
従って、本発明の課題は、ロキソプロフェン又はその塩を含有する液状又は半固形状の組成物の、高温保存時における変色を抑制する手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、この課題を解決すべくさらに検討したところ、ロキソプロフェン又はその塩を含有する液状又は半固形状の組成物に、さらに以下の成分1~9のうちいずれか:
(成分1)メントール、カンフル、チモールに代表されるテルペン類
・・・
を含有せしめ、かつ、ポリエチレン、ポリプロピレンに代表されるポリオレフィン系樹脂製の容器に収容することにより、高温保存時の変色を抑制することができることを見出し、本発明を完成した。」
「【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ロキソプロフェン又はその塩を含有する液状又は半固形状の組成物の、高温保存時における変色を抑制できる。従って、保存安定性に優れた、ロキソプロフェン又はその塩を含有する医薬を提供することができる。」
「【0158】
[試験例1-1]保存試験(テルペン類)その1
表1に示す成分及び分量を含有する液状の組成物を調製し、ポリエチレン製又はガラス製の容器に収容して、それぞれ実施例1-1、比較例1-1、1-2又は参考例1-1の医薬製剤とした。
得られた各種の医薬製剤を、80℃の暗所に1週間保存し、保存後の変色(黄変)の有無を目視により評価した。なお、結果は、変色が生じなかったものを○、変色が生じたものを×として評価した。
結果を表1に示す。
【0159】
【表1】
[図:0001409554000006.jpg]
【0160】
比較例1-1と、参考例1-1(ロキソプロフェン非配合)との対比より、80℃1週間の保存後において確認された変色は、ロキソプロフェンを液状の組成物に配合したことに起因するものであることが明らかとなった。
そして、実施例1-1と、比較例1-1(ガラス製容器収容)、比較例1-2(メントール非配合)との対比より、液状の組成物にさらにl-メントールを配合し、かつ、ポリエチレン製の容器に収容することにより、斯かる変色を抑制できることが明らかとなった。
【0161】
以上の試験結果より、ロキソプロフェン又はその塩を含有する液状又は半固形状の組成物に、さらにメントールを含有せしめ、かつ、これをポリエチレン製の容器に収容することにより、高温保存時における変色を抑制できることが明らかとなった。
【0162】
[試験例1-2]保存試験(テルペン類)その2
表2に示す成分及び分量を含有する液状の組成物を調製し、ポリエチレン製の容器に収容して実施例1-2の医薬製剤とし、試験例1-1と同様の方法により80℃の暗所に1週間保存した後の変色の有無を評価した。
結果を表2に示す。
【0163】
【表2】
[図:0001409554000007.jpg]
【0164】
以上の試験結果より、低級アルコールとしてイソプロパノールに代えてエタノールを用いた場合でも、同様に高温保存時における変色の抑制が確認された。
・・・
【0168】
[試験例1-4]保存試験(テルペン類)その4
表4に示す成分及び分量を含有する液状の組成物を調製し、ポリエチレン製の容器に収容して実施例1-5~1-8の医薬製剤とし、試験例1-1と同様の方法により80℃の暗所に1週間保存した後の変色の有無を評価した。
結果を表4に示す。
【0169】
【表4】
[図:0001409554000008.jpg]
【0170】
以上の試験結果より、テルペン類としてl-メントールに代えてdl-カンフル、チモールを用いた場合でも、同様に高温保存時における変色の抑制が確認された。なお、l-メントール、チモールは単環式のモノテルペノイドであり、dl-カンフルは2環式のモノテルペノイドであることから、テルペン類が広く変色抑制作用を有するものと合理的に推察された。
【0171】
以上の試験例1-1~1-4の結果より、ロキソプロフェン又はその塩を含有する液状又は半固形状の組成物に、さらにメントール、カンフル、チモールに代表されるテルペン類を含有せしめ、かつ、ポリエチレン、ポリプロピレンに代表されるポリオレフィン系樹脂製の容器に収容することにより、高温保存時における変色を抑制できることが明らかとなった。
【0172】
[試験例1-5]保存試験(テルペン類)その5
実施例1-2、1-5~1-8の医薬製剤に収容されているのと同一の液状の組成物を調製し、これを、容器において塗布部材として用いられる、低密度ポリエチレン製の連通多孔質体(MAPS:(株)イノアックコーポレーション)に含浸させた後、80℃の暗所に1週間保存したが、いずれの組成物においても明らかな変色は認められなかった。」
イ 上記アの本願明細書の記載、特に、【0015】の記載によれば、本願発明の医薬製剤は、ロキソプロフェン又はその塩を含有する液状又は半固形状の組成物の、高温保存時における変色を抑制でき、したがって、保存安定性に優れたロキソプロフェン又はその塩を含有する医薬を提供できるという効果を奏するものである。
そして、本願明細書の試験例1-1(【0158】~【0161】、特に【表1】)の比較例1-1と、参考例1-1との対比によれば、ロキソプロフェン又はその塩を含有する液状組成物は、80℃1週間の高温保存条件において目視により確認される変色(黄変)を生じるところ、試験例1-1の実施例1-1と比較例1-2との対比(【表1】)、及び、試験例1-2(【0162】~【0164】)、の実施例1-2の結果(【表2】)から、ロキソプロフェン又はその塩を含有する液状組成物にテルペン化合物であるl-メントールを配合してポリエチレン製の容器に収容する場合には、ガラス製容器に収容する場合とは異なり(【表1】の比較例1-1)、高温保存時における変色を抑制できることを理解できるし、試験例1-4及び試験例1-5(【0168】~【0172】、特に【表4】)の実施例1-5及び実施例1-6の結果から、ロキソプロフェン又はその塩を含有する液状組成物にテルペン化合物である本願発明の「カンフル」(具体的には、dl-カンフル)を配合してポリエチレン製の容器に収容する医薬製剤の場合にも、高温保存時における変色を抑制できることが理解できる。
すなわち、当業者は、上記アで記載した本願明細書の記載から、成分(A)(ロキソプロフェン又はその塩)及び成分(B-1)(カンフル)等のテルペン化合物を含有する液状(又は半固形状)の組成物をポリエチレン及びポリプロピレンよりなる群から選ばれる1種以上のポリオレフィン系樹脂製容器に収容して保存した本願発明の医薬製剤は、80℃で1週間保存後においても変色(黄変)が生じず、高温保存時における変色が抑制できるものであり、保存安定性に優れた医薬製剤であることを理解できる。
ここで、「80℃」という保存条件は、一般的な長期保存試験(25±2℃、60±5%RH又は30±2℃、60±5%)、一般的な加速試験(40±2℃、75±5%RH)とも異なっているし(必要なら、四ツ柳智久ら「製剤学(改訂第6版)」第2刷2013年12月20日発行、株式会社南江堂の197~205頁「第5章 製剤の品質確保,保証」、特に、203頁の表5・2参照。)、「80℃」という高温は、医薬品の現実の保存・市場流通条件では想定し得ない高温条件である。(当審注:上記において人名の「柳」は、原文では異体字で記載されている。)
したがって、本願明細書に記載の「80℃、1週間」での試験は、現実の流通・保存条件において、実際に80℃という高温にさらされる場合を想定しての保存安定性を確認した試験というよりも、一般的な加速試験よりも、さらに過酷な試験を行うことで、一般的な保存条件や市場流通条件で想定される範囲内でのより信頼性の高い安定性を確認するための試験であると解される。そのことは、本願明細書の【0015】に「本発明によれば、ロキソプロフェン又はその塩を含有する液状又は半固形状の組成物の、高温保存時における変色を抑制できる。従って、保存安定性に優れた、ロキソプロフェン又はその塩を含有する医薬を提供することができる。」と記載されていることからも理解できる。
ウ 本願発明の効果についての検討
(ア) 本願発明の効果について検討すると、まず、引用文献2に保存・市場流通下での安定性の試験結果が記載されているとおり(摘記2c)、医薬品の保存・市場流通下での安定性は重要な検討項目であり、医薬の保存安定性は、当業者が当然に考慮する事項である。
(イ) また、保存安定性に関し、引用文献2には、引用発明の、ロキソプロフェンナトリウム水和物を含有する液状組成物がポリプロピレンを材質とする容器、ポリエチレンを材質とする管、ポリプロピレンを材質とするキャップからなるポンプスプレー容器に収容されてなる、経皮吸収型鎮痛・抗炎症剤であるロキソプロフェンNa外用ポンプスプレー1%「TCK」(摘記2d)に関し、長期保存試験(25℃、相対湿度60%、2年)の結果、試験開始時に「無色透明の液で、芳香を有した」性状であったものが、24か月後においても性状は「変化なし」であったこと、及び通常の市場流通下において2年間安定であることが確認されたこと(摘記2c)、加速試験(40℃、相対湿度75%、6か月)においても、試験開始時に「無色透明の液で、芳香を有した」性状であったものが、6か月後においても性状は「変化なし」であり、通常の市場流通下において3年間安定であることが推測されたことが記載されている(同摘記2c)。
(ウ) そして、l-メントールとカンフルとは、同じテルペン類に属する、構造が類似した化合物(必要なら、上記「医薬品添加物事典 2000」の72頁及び287頁参照。)であって、いずれも外用鎮痛消炎剤に広く使用されている冷感刺激成分(清涼化剤)であるから、当業者は、引用発明におけるl-メントールをカンフルに変更した場合であっても、得られた経皮吸収型鎮痛・抗炎症剤の安定性に大きな変化はなく、通常の市場流通下においても2~3年間は安定であり、液体の性状が、無色透明から変化するとしてもせいぜい微黄色透明の程度であり、本願明細書において「変色(黄変)」と目視で認識されるレベルの性状変化は起こらないと予測するといえる。
さらに、本願明細書の記載を検討しても、医薬製剤が「80℃、1週間」保存後においても変色(黄変)が生じないという結果が、通常の市場流通下で、2~3年にわたる安定性が予測される引用発明の経皮吸収型鎮痛・抗炎症剤に比べて、どの程度の有利な効果を示すものであるのかを把握することはできないし、かえって、本願明細書の試験例1-1の実施例1-1の結果(【表1】)及び試験例1-2の実施例1-2の結果(【表2】)によれば、引用発明のl-メントールを含有する経皮吸収型鎮痛・抗炎症剤と本願発明の医薬製剤は、当業者が予測するとおり、保存安定性は同程度であることが理解できる。
(エ) そうすると、本願発明の効果は、引用文献2及び本願の優先日前に周知の事項(引用文献6等)から予測される範囲を超える顕著なものであるということはできない。
(3)以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明並びに引用文献2、引用文献6に記載の事項及び本願優先日前の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)審判請求人の主張について
ア(ア) 審判請求人は、令和4年7月4日提出の手続補正書により補正した審判請求書の3.(3)(III)において、
「引用文献6は、『ロキソプロフェンの有効性を更に向上させるとともに、清涼感乃至冷感をも有する、新たなロキソプロフェン含有外用鎮痛消炎剤組成物を提供する』(段落〔0008〕)との課題のもと、消炎効果試験を行い、『ロキソプロフェン単剤に較べ、特定の精油成分であるチモール又はユーカリ油を併用した場合には、浮腫抑制作用が増強することが判明した。』(段落〔0027〕)との試験結果を経て、『ロキソプロフェンに特定の冷感刺激成分であるチモール又はユーカリ油を添加した場合に限り、ロキソプロフェンの消炎作用が増強されることを見出し、本発明を完成するに至った。』(段落〔0009〕)として、『ロキソプロフェンと、チモール及びユーカリ油から選ばれる1種以上を含有する外用剤組成物。』(請求項1)をその解決手段として提示するものです。
しかも、浮腫抑制作用を増強させる上記チモールやユーカリ油と異なりカンフルは、引用文献6において『相加的な効果のみ』とされ(段落〔0027〕)、チモールやユーカリ油よりも浮腫抑制作用の増強に劣る比較例として否定されています。
そうすると、このような引用文献6に接した当業者が引用文献1、2に記載されたポンプスプレー剤の消炎作用を仮に増強させようとした場合には、上記のようにして「チモール又はユーカリ油を添加した場合に限り、ロキソプロフェンの消炎作用が増強される」とされているチモールやユーカリ油を迷わず選択するはずであり、たとえl-メントールよりは幾分マシな試験結果が記載されていたとしても、相加的な効果しか認められずロキソプロフェンの消炎作用を増強するものと一切評価されていないカンフルを用いることに着目するはずがありません。原査定における前掲の認定(当審注:原査定における、引用文献2に記載された医薬製剤において消炎作用を増強するためにl-メントールに代えてカンフルを配合することが容易である旨の判断のこと。)は、本願発明という『答え』を見てから引用文献の記載内容を評価した『後知恵』であると云わざるを得ません。
さらに、特許・実用新案審査基準の第III部第2章第2節には、阻害要因の例として、『副引用発明を示す刊行物等に副引用発明と他の実施例とが記載又は掲載され、主引用発明が達成しようとする課題に関して、作用効果が他の実施例より劣る例として副引用発明が記載又は掲載されており、当業者が通常は適用を考えない副引用発明』が挙げられており、ロキソプロフェンとカンフルとの組み合わせ(副引用発明)は、ロキソプロフェンとチモール又はユーカリ油との組み合わせよりも劣る比較例(引用文献6の発明に該当しない例)とされるものであるところ、引用文献6の記載はロキソプロフェンとカンフルを組み合わせる阻害要因に他ならないものと確信します。」 と主張している。(当審注:摘記中の下線は原文のまま。以下同様。)
(イ) しかしながら、上記(1)の相違点についての判断でも記載したとおり、そもそもメントール及びカンフルは、いずれも外用鎮痛消炎剤に広く使用されている周知の冷感刺激成分(清涼化剤)であり、外用鎮痛消炎剤に含まれるメントールをカンフルに変更すること自体は、当業者が自然に想到し得る事項に過ぎないし、実際に、引用文献6においても、ロキソプロフェンと併用する清涼剤を従来のl-メントールからカンフルに変更した場合についての検討も行っている。そして、引用文献6においては、消炎効果試験の結果、冷感刺激のための精油成分であるチモール又はユーカリ油を併用した場合に、ロキソプロフェン単剤に比べ、浮腫抑制作用が増強することが判明したことから、好適なものとして、精油成分がチモール又はユーカリ油である場合の発明が記載されているが、引用文献6には、カンフルを使用した試験例が「比較例」であるとの記載はないし、引用文献6に、当業者がカンフルを採用することを妨げる特別な事情が記載されているのでもない。かえって、上記(1)で記載したとおり、当業者は、引用文献6の表3の記載から、引用発明のl-メントールを、カンフルに変更することで、より優れた浮腫抑制率となること、その程度は、ユーカリ油よりも優れ、チモールとほぼ同程度であり、優れた消炎作用が発揮されることを認識できる(浮腫抑制率は、l-メントールでは30.9%、D-カンフルでは46.8%、ユーカリ油では38.8%、チモールでは47.8%)。
そうすると、請求人の指摘する上記の箇所の記載を含め、引用文献6の記載全体を考慮して、当業者は、ロキソプロフェンとカンフルとの組合せは、ロキソプロフェンとチモール又はユーカリ油との組合せよりも劣るものではなく、ロキソプロフェンとチモールとの組合せと同等の消炎効果(浮腫抑制効果)が奏されることを理解できるのであるから、引用文献6の記載はロキソプロフェンとカンフルを組み合わせる動機付けとなるものであって、阻害要因となるものとはいえない。
よって、審判請求人の上記主張は採用できない。
イ(ア) 審判請求人は、3.(3)(IV)において、
「進歩性判断における効果の顕著性に関し、最高裁判所令和元年8月27日判決(平成30年(行ヒ)第69号 審決取消請求事件)において、『本件各発明の効果,取り分けその程度が,予測できない顕著なものであるかについて,優先日当時本件各発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができなかったものか否か,当該構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるか否かという観点』から検討すべきであると判示されています。
そして、引用文献1~6のいずれにも、カンフルと、高温保存時の組成物の変色を抑制する効果との関連性については何の記載も示唆もなく、ロキソプロフェン又はその塩を含有する液状又は半固形状の組成物に、カンフルを含有せしめ、且つポリエチレン及びポリプロピレンよりなる群から選ばれる1種以上のポリオレフィン系樹脂製容器に収容した場合に、高温保存時の組成物の変色が抑制されるとそもそも予測し得たものでは決してない」と主張する。
(イ) しかしながら、上記(2)ウの本願発明の効果についての検討でも記載したとおり、引用文献2の記載に接した当業者は、ロキソプロフェンナトリウム水和物を含有する液状組成物がポリプロピレンを材質とする容器等を備えたポンプスプレー容器に収容されてなる、引用発明の経皮吸収型鎮痛・抗炎症剤における液状組成物中のl-メントールを、同じく外用鎮痛消炎剤に広く使用されている冷感刺激成分(清涼化剤)であるカンフルに変更した場合であっても、得られた経皮吸収型鎮痛・抗炎症剤は、通常の市場流通下においても2~3年間は安定であり、「変色(黄変)」と目視で認識されるレベルの性状変化は起こらないと予測するといえるのであるから、本願発明の効果は、引用発明並びに引用文献2、6に記載の事項及び本願優先日前の周知技術から、当業者が本願発明の構成が奏するものとして予測することができた範囲のものであるといえ、本願発明の効果が、当業者が予測することができた範囲を超える顕著なものであるとはいえない。
よって、審判請求人の上記主張を採用することはできない。
7 むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明(引用文献2に記載された発明)並びに引用文献2、引用文献6に記載の事項及び本願優先日前の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-008336