特許無効審判
2020-800044
腫瘍融解症候群の治療薬及び予防薬
- 審判番号
- 2020-800044
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2014-543303
- 登録番号
- 5907396
- 請求日
- 2020年04月28日
- 審決日
- 2022年04月06日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 請求成立(無効)
- 当事者
- 【請求人】日本ケミファ 株式会社
- 【請求人代理人】酒匂 禎裕
- 【請求人代理人】古家 和典
- 【参加人】MeijiSeikaファルマ 株式会社
- 【参加人代理人】酒匂 禎裕
- 【参加人代理人】古家 和典
- 【参加人】東和薬品 株式会社
- 【参加人代理人】葛和 清司
- 【参加人代理人】井上 純一郎
- 【参加人】日本ジェネリック 株式会社
- 【参加人代理人】小川 裕由
- 【参加人】ニプロ 株式会社
- 【参加人代理人】特許業務法人 朝日奈特許事務所
- 【被請求人】帝人 株式会社
- 【被請求人代理人】三村 量一
- 【被請求人代理人】澤田 将史
- 【被請求人代理人】松下 昂永
- 【被請求人代理人】青木 篤
- 【被請求人代理人】三橋 真二
- 【被請求人代理人】中島 勝
- 【被請求人代理人】渡辺 陽一
- 【被請求人代理人】関根 宣夫
- 【被請求人代理人】津田 英直
- 審判長/審判官
- 審判長 前田 佳与子
- 審判官 藤原 浩子
- 審判官 原田 隆興
- 分類
- P1113.536-ZAA(A61K) / P1113.537-ZAA(A61K) / P1113.121-ZAA(A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第134条の2第6項、特許法第134条の2第9項、特許法第134条の2第1項、特許法第135条、特許法第169条第2項
- データ出所
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上記当事者間の特許第5907396号発明「腫瘍融解症候群の治療薬及び予防薬」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第5907396号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第5907396号の請求項1~5に係る発明についての特許を無効とする。
特許第5907396号の請求項6に係る発明についての審判の請求を却下する。
審判費用は、参加によって生じた費用も含めて、その6分の1を請求人及び参加人の負担とし、6分の5を被請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第5907396号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る発明についての特許出願(特願2014-543303号)は、2013年(平成25年)10月22日(優先権主張 平成24年10月23日 平成25年1月10日 日本国)を国際出願日とする特許出願であって、平成28年4月1日に特許権の設定登録がされたものである。
これに対して、令和2年4月28日に特許無効審判請求がされた。以後の主な手続の経緯は次のとおりである。
令和2年 4月28日 審判請求書の提出
同年 7月 6日付け 応対記録(被請求人に対し、書面審理によ
り審理を進める意向である旨を伝え、了解
を得た。)
同年 7月 7日付け 応対記録(請求人に対し、書面審理により
審理を進める意向である旨を伝え、了解を
得た。)
同年 7月 9日付け 書面審理通知書
同年 7月29日 参加申請書の差出(日医工株式会社)
同年 8月 4日 答弁書の提出
同年 9月24日付け 参加許否の決定(日医工株式会社の参加を
許可)
同年10月30日 弁駁書の提出(請求人)
同年12月23日付け 審決の予告(第1回)
同年12月28日 参加申請書の提出(MeijiSeika
ファルマ株式会社)
令和3年 1月21日 参加申請書の提出(東和薬品株式会社)
同年 1月29日 参加申請書の提出(日本ジェネリック株式
会社)
同年 2月 8日 参加申請書の提出(ニプロ株式会社)
同年 2月16日付け 参加許否の決定(MeijiSeika
ファルマ株式会社の参加を許可)
同年 3月 8日 訂正請求書(第1回)及び上申書の提出
同年 3月16日付け 参加許否の決定(東和薬品株式会社の参加
を許可)
同年 3月16日付け 請求人、参加人日医工株式会社、参加人
MeijiSeikaファルマ株式会社
及び参加人東和薬品株式会社に対し、訂正
請求書副本の送付通知(弁駁指令)
同年 3月23日付け 参加許否の決定(日本ジェネリック株式会
社の参加を許可)
同年 4月 1日付け 参加許否の決定(ニプロ株式会社の参加を
許可)
同年 4月16日 弁駁書の提出(請求人及び参加人Meij
iSeikaファルマ株式会社の連名)
同年 4月19日 弁駁書の提出(参加人東和薬品株式会社)
同年 7月 1日付け 審決の予告(第2回)
同年10月28日 訂正請求書(第2回)及び上申書の提出
同年11月 4日 参加申請取下書の提出(日医工株式会社)
同年12月 8日 弁駁書の提出(参加人東和薬品株式会社)
同年12月 9日 弁駁書の提出(請求人及び参加人Meij
iSeikaファルマ株式会社の連名)
なお、請求人、及び、参加人(Meiji Seikaファルマ株式会社、東和薬品株式会社、日本ジェネリック株式会社、ニプロ株式会社)をまとめて、「請求人ら」ということがある。
第2 訂正請求について
1 訂正の内容
令和3年10月28日にされた訂正請求の趣旨は、「特許第5907396号の明細書及び特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求める。」というものであり、当該訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。
なお、令和3年3月8日にされた訂正請求は、特許法第134条の2第6項の規定により、取り下げられたものとみなす。
(1)訂正事項1
(訂正事項1-1)
特許請求の範囲の請求項1における
「下記式(I)
【化1】
[図:0001400864000001.jpg]
(式中、
R1は、C1~C8アルコキシ基、モルホリノ基、4-メチルピペラジン-1-イル基又はピペリジノ基を表し、
R2は、ニトロ基又はシアノ基を表し、
Xは、カルボキシル基又はC2~C7アルコキシカルボニル基を表し、
Yは、水素原子又はC1~C6アルキル基を表す。)
で表される2-フェニルチアゾール化合物又はそれらの医薬上許容される塩」
との記載を、
「2-[3-シアノ-4-(2-メチルプロポキシ)フェニル]-4-メチルチアゾール-5-カルボン酸又はその医薬上許容される塩」
に訂正する。
(訂正事項1-2)
特許請求の範囲の請求項1における
「バーキット非ホジキンリンパ腫、リンパ芽球性非ホジキンリンパ腫、バーキット急性リンパ芽球性白血病、白血球数(WBC)が100,000以上である急性リンパ芽球性白血病、白血球数(WBC)が50,000以上である急性骨髄性白血病、若しくは単芽球性急性骨髄性白血病である、又は」
との記載を削除する。
(訂正事項1-3)
特許請求の範囲の請求項1における
「抗腫瘍治療に起因せずに腫瘍融解症候群が発症し、尿酸の血中測定値が8mg/dL以上である高尿酸血症及び腎機能低下が認められる、若しくは抗腫瘍治療の実施前に腫瘍融解症候群が発症し、尿酸の血中測定値が8mg/dL以上である高尿酸血症が認められる、高リスク患者」
との記載を、
「抗腫瘍治療に起因せずに腫瘍融解症候群が発症し、尿酸の血中測定値が8mg/dL以上である高尿酸血症及び腎機能低下が認められる、又は抗腫瘍治療の実施前に腫瘍融解症候群が発症し、尿酸の血中測定値が8mg/dL以上である高尿酸血症が認められる、高リスク患者で、造血器腫瘍の患者(ただし、バーキット非ホジキンリンパ腫、リンパ芽球性非ホジキンリンパ腫、バーキット急性リンパ芽球性白血病、白血球数(WBC)が100,000以上である急性リンパ芽球性白血病、白血球数(WBC)が50,000以上である急性骨髄性白血病、及び単芽球性急性骨髄性白血病の患者を除く)」
に訂正する。
(訂正事項1-4)
特許請求の範囲の請求項1における
「高リスク患者における」
との記載を、
「高リスク患者で、造血器腫瘍の患者(ただし、…を除く)に、1日1回60mg投与される、」
に訂正する。
(訂正事項1-5)
特許請求の範囲の請求項1における
「腫瘍融解症候群の治療薬又は予防薬」
との記載を、
「腫瘍融解症候群の治療薬又は抗腫瘍治療に起因する腫瘍融解症候群の予防薬」
に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2における
「式(I)で表される2-フェニルチアゾール化合物又はそれらの医薬上許容される塩を、1日あたり0.5~1000mg、1~7日/週で投与する」
との記載を、
「前記の有効成分を、1~7日/週で投与する」
に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(4)訂正事項4
明細書の【0046】を削除する。
なお、特許請求の範囲の訂正である訂正事項1~3、及び、明細書の訂正である訂正事項4は、そのいずれもが、一群の請求項〔1~6〕に対して請求されたものである。
2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア (訂正事項1-1)は、訂正前の請求項6、願書に添付した明細書(以下「明細書」という。)【0013】及び【0018】の記載に基づいて、訂正前の請求項1に記載された式(I)の一般化合物を、式(I)に含まれる具体例の一つである「2-[3-シアノ-4-(2-メチルプロポキシ)フェニル]-4-メチルチアゾール-5-カルボン酸」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ (訂正事項1-2)は、訂正前の請求項1において「高リスク患者」の選択肢である「バーキット非ホジキンリンパ腫、リンパ芽球性非ホジキンリンパ腫、バーキット急性リンパ芽球性白血病、白血球数(WBC)が100,000以上である急性リンパ芽球性白血病、白血球数(WBC)が50,000以上である急性骨髄性白血病、若しくは単芽球性急性骨髄性白血病である、又は」を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ (訂正事項1-3)は、訂正前の請求項1の「抗腫瘍治療に起因せずに腫瘍融解症候群が発症し、尿酸の血中測定値が8mg/dL以上である高尿酸血症及び腎機能低下が認められる、若しくは抗腫瘍治療の実施前に腫瘍融解症候群が発症し、尿酸の血中測定値が8mg/dL以上である高尿酸血症が認められる、高リスク患者」について、更に「高リスク患者で、造血器腫瘍の患者(ただし、バーキット非ホジキンリンパ腫、リンパ芽球性非ホジキンリンパ腫、バーキット急性リンパ芽球性白血病、白血球数(WBC)が100,000以上である急性リンパ芽球性白血病、白血球数(WBC)が50,000以上である急性骨髄性白血病、及び単芽球性急性骨髄性白血病の患者を除く)」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、「造血器腫瘍」が、腫瘍融解症候群発症リスクとなる原疾患の腫瘍の種類に含まれることは、明細書【0029】の「本発明における腫瘍融解症候群の腫瘍には、造血器腫瘍や固形腫瘍等が含まれる。」との記載から明らかである。
そして、「高リスク患者で、造血器腫瘍の患者(ただし、…を除く)」という記載は、「高リスク患者で、造血器腫瘍の患者」から、明細書【0026】の表3に記載された「バーキット非ホジキンリンパ腫、リンパ芽球性非ホジキンリンパ腫、バーキット急性リンパ芽球性白血病、白血球数(WBC)が100,000以上である急性リンパ芽球性白血病、白血球数(WBC)が50,000以上である急性骨髄性白血病、及び単芽球性急性骨髄性白血病」の患者を除いたものであり、明細書の実施例1には、上記「バーキット非ホジキンリンパ腫、…及び単芽球性急性骨髄性白血病」ではない造血器腫瘍の一種である「骨髄異形成症候群(MDS)」に罹患した「抗腫瘍治療に起因せずに発症し、高尿酸血症を既に呈している高リスク腫瘍融解症候群患者」を具体的に記載している。
したがって、(訂正事項1-3)は、新規事項を追加するものではない。
エ (訂正事項1-4)は、訂正前の請求項1における「有効成分」の用法用量を、「1日1回60mg」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、明細書【0034】には、有効成分を「例えば1日あたり…60…mg」、「1~3回/日」投与することが記載され、実施例1において、1日60mgを投与しており、図1の矢印によれば、その1日当たりの投与回数が1日1回であることが表されている。したがって、(訂正事項1-4)は、新規事項を追加するものではない。
オ (訂正事項1-5)は、訂正前の請求項1における「腫瘍融解症候群の治療薬又は予防薬」について、予防薬の対象を「抗腫瘍治療に起因する腫瘍融解症候群」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、明細書【0022】には、腫瘍融解症候群が化学療法や放射線療法などの治療の際に腫瘍細胞が死滅する際に生じる代謝障害であること、【0025】には、腫瘍の治療を開始する前に、腫瘍融解症候群に対する予防策を講じること、及び、抗腫瘍治療を実施するより前に既に腫瘍融解症候群が発症している場合には、化学療法などの治療により、急性腎不全のリスクがさらに高まることが記載されていることから、明細書には、既に腫瘍融解症候群を発症している患者に対しても抗腫瘍治療により急性腎不全の発症を予防するための薬である、「抗腫瘍治療に起因する腫瘍融解症候群の予防薬」が記載されているといえる。したがって、(訂正事項1-5)は、新規事項を追加するものではない。
カ 以上のとおり、(訂正事項1-1)~(訂正事項1-5)は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2における「式(I)で表される2-フェニルチアゾール化合物又はそれらの医薬上許容される塩」との記載を、「前記の有効成分」と訂正し、「1日あたり0.5~1000mg、」との記載を削除するものであるところ、この訂正は、請求項2で引用する訂正後の請求項1の記載(「1日1回60mg」(上記訂正事項1-4))と整合させるためのものである。
したがって、訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の明細書【0046】に記載された実施例3の実施の形態が具体的でなく明瞭でなかったことから、この段落を削除するものである。
したがって、訂正事項4は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)独立特許要件について
全ての請求項に対して特許無効審判が請求されているので、訂正事項1~4に関し、特許法第134条の2第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される要件(独立特許要件)は適用されない。
(6)請求人らの主張について
ア 請求人らは、本件訂正が、特許請求の範囲の減縮に当たるかどうかを判断するためには、その前提として、特許請求の範囲が技術的に明確でなくてはならないところ、本件訂正後の1-B2a~1-E'(当審注:下記第3参照)のどの構成が「抗腫瘍治療に起因する腫瘍融解症候群の予防薬」に係るのかは不明確であり、TLS発症患者であるB2群の高リスク患者に対するTLSの予防薬という構成は、「予防薬」という用語の一般的意味と矛盾するばかりか、明細書からも読み取れず、本件訂正後の特許請求の範囲が技術的に不明確であるから、本件訂正は、特許請求の範囲の減縮に当たるとはいえないので、訂正要件に違反している旨を主張する(令和3年12月9日提出の弁駁書6~7頁。なお、「TLS」及び「B2群」の定義については、第3における「なお書き」を参照。)。
しかしながら、請求項1の記載からみて、1-B2a~1-E'の全ての構成が、薬理作用に係るものであって、「腫瘍融解症候群の治療薬」と「抗腫瘍治療に起因する腫瘍融解症候群の予防薬」とのいずれにも係ることは明らかである。また、TLSの予防薬という構成が、明確であることは、後記第6の2(2)に説示するとおりであるから、本件訂正後の特許請求の範囲の記載は技術的に明確である。
したがって、本件訂正後の特許請求の範囲が技術的に不明確であることを前提とする、請求人らの上記主張は採用できない。
イ 請求人らは、TLS発症者に対するTLS予防薬は、明細書に記載されていないし、また、治療に起因するTLSと起因しないTLSをどのように区別して発症を予防したと判断するのか明細書には何も記載はなく、甲35においても、化学療法開始後にTLSと診断したにもかかわらず、抗腫瘍治療に起因しないTLSが化学療法により助長されたと考察されており、抗腫瘍治療の有無で区別することもできないから、本件訂正は、新たな技術的事項を導入するものである旨を主張する(令和3年12月9日提出の弁駁書7~8頁)。
しかしながら、後記第6の2(2)に説示するとおり、治療に起因するTLSと起因しないTLSとは、抗腫瘍治療の開始と腫瘍融解症候群の発症時期等の関係から、区別できる。そして、甲35の上記記載は、当業者であれば、抗腫瘍治療に起因するTLSと起因しないTLSとを区別できることを当然の前提とした記載であるといえる。
したがって、請求人らの上記主張は採用できない。
ウ 請求人らは、訂正事項1-2によって予防の対象である表3の高リスク(B1群)が全て削除され、訂正事項1-3によって治療の対象であるB2群から表の高リスクが全て除かれたことから、もはや、高リスクを対象として尿酸値等を改善させるという技術的意義は失われてしまったから、本件訂正は、発明の本質的な技術的事項を変更するものであり、訂正要件に違反している旨を主張する(令和3年12月9日提出の弁駁書9~11頁)。
しかしながら、後記第6の2(2)に説示するとおり、訂正前の請求項1における「高リスク患者」には、本件訂正後の腫瘍融解症候群を発症した患者も含まれていたことは明らかであり、訂正前後で、腫瘍融解症候群を発症した患者を対象として尿酸値等を改善させるという技術的事項は変更されていない。本件訂正により、腫瘍融解症候群を発症した患者の腫瘍から、明細書の表3の高リスクとされる造血器腫瘍が除かれたとしても、上記の技術的事項が変更されたと解することはできない。
したがって、請求人らの上記主張は採用できない。
(7)本件訂正のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。
第3 訂正発明
上記のとおり、本件訂正は認められるから、本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明は、令和3年10月28日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める(なお、請求項6は削除されている。)。
便宜上、請求人及び参加人Meiji Seikaファルマ株式会社の主張に従い、請求項1を構成要件1-A’~1-G'に分説し、請求項の番号に従い「訂正発明1」~「訂正発明5」といい、まとめて「訂正発明」ということがある。また、本件訂正により訂正された明細書を、図面を含めて「訂正明細書」という。
「【請求項1】
1-A’:2-[3-シアノ-4-(2-メチルプロポキシ)フェニル]-4-メチルチアゾール-5-カルボン酸又はその医薬上許容される塩を有効成分として含有する、
1-B2a:抗腫瘍治療に起因せずに腫瘍融解症候群が発症し、尿酸の血中測定値が8mg/dL以上である高尿酸血症及び腎機能低下が認められる、又は
1-B2b:抗腫瘍治療の実施前に腫瘍融解症候群が発症し、尿酸の血中測定値が8mg/dL以上である高尿酸血症が認められる、
1-C’:高リスク患者で
1-D’:造血器腫瘍の患者(ただし、バーキット非ホジキンリンパ腫、リンパ芽球性非ホジキンリンパ腫、バーキット急性リンパ芽球性白血病、白血球数(WBC)が100,000以上である急性リンパ芽球性白血病、白血球数(WBC)が50,000以上である急性骨髄性白血病、及び単芽球性急性骨髄性白血病の患者を除く)に、
1-E’:1日1回60mg投与される、
1-F’:腫瘍融解症候群の治療薬又は
1-G’:抗腫瘍治療に起因する腫瘍融解症候群の予防薬。
【請求項2】
前記の有効成分を、1~7日/週で投与することを特徴とする、請求項1に記載の治療薬又は予防薬。
【請求項3】
抗腫瘍治療実施後、血中尿酸値を正常値の範囲まで低下または正常値の範囲に維持し得る、請求項1または2に記載の治療薬又は予防薬。
【請求項4】
抗腫瘍治療実施後、腎機能を抗腫瘍治療開始前よりも改善または正常に維持し得る、請求項1~3のいずれか1項に記載の治療薬又は予防薬。
【請求項5】
抗腫瘍治療実施後、尿中尿酸排泄量を正常値の範囲まで低下または正常値の範囲に維持し得る、請求項1~4のいずれか1項に記載の治療薬又は予防薬。」
なお、「2-[3-シアノ-4-(2-メチルプロポキシ)フェニル]-4-メチルチアゾール-5-カルボン酸又はその医薬上許容される塩」を「フェブキソスタット」、
「腫瘍融解症候群」又は「腫瘍崩壊症候群」(当審注:腫瘍融解症候群と同義)を「TLS」、
「造血器腫瘍の患者(ただし、バーキット非ホジキンリンパ腫、リンパ芽球性非ホジキンリンパ腫、バーキット急性リンパ芽球性白血病、白血球数(WBC)が100,000以上である急性リンパ芽球性白血病、白血球数(WBC)が50,000以上である急性骨髄性白血病、及び単芽球性急性骨髄性白血病の患者を除く)」を「本件所定の造血器腫瘍の患者」といい、また、
請求項1における「1-B2a」及び「1-B2b」を、まとめて「B2群」ということがある。
第4 当事者の主張及び証拠方法
1 請求人及び参加人の主張及び証拠方法
請求人は、「特許第5907396号の請求項1乃至6に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として甲第1号証~甲第43号証(以下「甲1」等という。)を提出するとともに、以下の無効理由1~5を主張する。
参加人であるMeiji Seikaファルマ株式会社、東和薬品株式会社、日本ジェネリック株式会社及びニプロ株式会社は、いずれも請求人と同旨の主張をすると認める。
[無効理由1](明確性要件違反)
請求項1~6に係る発明は、特許請求の範囲に記載された用語の意味が不明確であって、特定された一の発明を明確に把握することができない等の不備がある(特許法第36条第6項第2号違反)。
したがって、請求項1~6に係る特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
[無効理由2](実施可能要件違反)
請求項1~6に係る発明は、発明の詳細な説明が、実施可能な程度に明確かつ十分に記載したものではない(特許法第36条第4項第1号違反)。
したがって、請求項1~6に係る特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
[無効理由3](サポート要件違反)
請求項1~6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない(特許法第36条第6項第1号違反)。
したがって、請求項1~6に係る特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
[無効理由4](甲1発明に基づく進歩性欠如)
請求項1~6に係る発明は、甲1に記載された発明と技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項1~6に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
[無効理由5](甲2発明に基づく進歩性欠如)
請求項1~6に係る発明は、甲2に記載された発明と技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項1~6に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
[証拠方法]
・甲1:Seminars in Thrombosis and Hemostasis,2007,Vol.33,No.4,p.397~407
・甲2:信州医誌, 2008,Vol.56,No.2,p.73~78
・甲3:Journal of Clinical Oncology,2008,Vol.26,No.16,p.2767~2778
・甲4の1:国内書面(PCT/JP2013/078571)(特願2014-543303号の出願時の特許請求の範囲)
・甲4の2:特願2014-543303号の平成27年10月27日付けの拒絶理由通知書
・甲4の3:特願2014-543303号の平成28年1月18日提出の手続補正書
・甲4の4:特願2014-543303号の平成28年1月18日提出の意見書
・甲5:山内高弘ら,“腫瘍領域における高尿酸血症とその病態・治療 ―腫瘍崩壊症候群を中心に―”,「第45回日本痛風・核酸代謝学会総会 プログラム・抄録集」,2012年2.16(木)・17(金) 奈良県新公会堂(奈良市春日野町101),p.42
・甲6:重篤副作用疾患別対応マニュアル 腫瘍崩壊症候群,平成23年3月,厚生労働省,p.1~15
・甲7:ファルマシア,2012年6月1日,Vol.48,No.6,p.521~525
・甲8:Clinical Journal of the American Society of Nephrology,2012 October 05, Vol.7,No.10, p.1730~1739
・甲9:Guidelines for use of RASBURICASE in adult Haematology and Oncology patients,Kent and Medway Cancer Network,September 2011,p.1~7,インターネット< http://www.kmcc.nhs.uk/tumour-sites/tumour-site-specific-information/haematology-tssg/>
・甲10:フェブリク錠10mg、同錠20mg、同錠40mgの審査報告書,平成22年11月8日,独立行政法人医薬品医療機器総合機構,p.1~94
・甲11:Therapeutic Research,2012年7月20日,Vol.33,No.7,p.1073~1078
・甲12:Mebio, 2011,Vol.28, No.11, p.101~108
・甲13:関西電力病院における医薬品採用・削除の通知について,関西電力病院薬剤部長 濱口良彦,平成23年9月21日
・甲14:重度腎機能障害患者を対象としたフェブキソスタットの使用状況調査,第22回日本医療薬学会年会・講演要旨集, 2012年10月10日,p.450,「 P2-429」
<以上、審判請求書に添付>
・甲15:特願2012-233806号の出願書類(本件特許の優先基礎出願)
・甲16:特願2013-2913号の出願書類(本件特許の優先基礎出願)
・甲17:日本内科学会雑誌,2011年11月10日,Vol.100,No.11,p.3247~3255
・甲18:日本腎臓学会誌,2010,Vol.52,No.5,p.529~533
・甲19:日本臨床腫瘍学会編,「腫瘍崩壊症候群(TLS)診療ガイダンス」,金原出版株式会社,2013年8月30日第1版第1刷,p.4~7,25~31,33,34
・甲20:レーニンジャーの新生化学[上]第3版,株式会社廣川書店,平成14年2月25日,p.716~717
・甲21:G6PD欠乏症-基礎知識(症状・原因・治療など),最終更新2018.02.15,[2020/10/28検索],インターネット<https://medley.life/diseases/54fa8fdf6ef458913885d00e/>
・甲22:フェブリク錠10mg、同錠20mg、同錠40mgの審査報告書,平成28年4月4日,独立行政法人医薬品医療機器総合機構,p.1~21
・甲23:日本癌治療学会誌,平成25年9月27日,Vol.48,No.3,p.2534,「P67-8」
・甲24:History of Changes for Study:NCT01724528 Febuxostat for Tumor Lysis Syndrome Prevention in Hematologic Malignancies(FLORENCE),First Posted:November 9 ,2012[Estimated],インターネット<https://clinicaltrials.gov/ct2/history/ NCT01724528?V_1=View>
・甲25の1:特願2016-700218号(特許第5907396号特許権存続期間延長登録願),平成28年8月22日
・甲25の2:特願2016-700218号の平成28年10月25日付け拒絶理由通知書
・甲25の3:特願2016-700218号の平成29年1月10日付け意見書
・甲25の4:特願2016-700218号の平成29年1月10日付け手続補正書
・甲26:フェブリク(R)錠10mg・20mg・40mgの添付文書,2020年8月改訂
・甲27:International Journal of Nephrology and Renovascular Disease,2010,Vol.3,p.1~10
・甲28:Saudi Journal of Kidney Diseases and Transplantaion,2010,Vol.21,Issue 2,p.328~331
・甲29:The New England Journal of Medicine,2005,Vol.353,No.23,p.2450~2461
・甲30:日本病院薬剤師会雑誌,2011年7月,Vol.47,No.7,p.823~826
・甲31:ラスリテック(R)点滴静注用1.5mg・7.5mgの添付文書,2009年10月作成
・甲1の2:甲1の抄訳(追加)
・甲3の2:甲3の抄訳(追加)
<以上、令和2年10月30日提出の弁駁書に添付>
・甲32:ハリソン内科学 第3版 VOLUME 2,株式会社メディカル・サイエンス・インターナショナル,2009年12月22日,p.269~270
・甲33:高尿酸血症・痛風のガイドライン(第2版),株式会社メディカルレビュー社,2010年1月1日,p.69~72,91~93,106~108
・甲34:癌と化学療法,2008,Vol.35,No.12,p.2030~2032
・甲35:日本消化器学会雑誌,2012年8月5日,Vol.109,No.8,p.1372~1378
・甲36の1:Indian Journal of Urology,2008,Vol.24,No.4,p.555~557,インターネット<https://www.ncbi.nlm.nih.gov.pmc/articles/PMC2684391/?report=printable>
・甲36の2:甲36の1の入手先のウェブサイト,インターネット<https://www.ncbi.nlm.nih.gov.pmc/issues/178926/>
・甲37:日本薬理学雑誌,2010年6月,Vol.135,No.6,p.255~260
・甲38:日本臨牀増刊号 高尿酸血症:低尿酸血症 -痛風の治療新ガイドライン-,2003年1月28日,p.299~303
・甲39:新WHO分類による白血病・リンパ系腫瘍の病態学,株式会社中外医学社,2004年9月20日,p.188~191
・甲40:フェブリク(R)錠10mg,20mg,40mgの医薬品インタビューフォーム,2012年8月改定第4版,p.1,50
<以上、令和3年4月16日提出の弁駁書に添付>
・甲41:ステッドマン医学大辞典 第2版,メジカルレビュー社,1985年3月15日,p.1147の「preventive」の項
・甲42:Turk. J. hematol.,2011,Vol.28,p.52~59
・甲43:UROLOGY,2006,Vol.67,No.5,p.1084.e9~1084.e11
<以上、令和3年12月9日提出の弁駁書に添付>
なお、上記における「(R)」は、○の中にRである。以下、同様。
2 被請求人の主張及び証拠方法
被請求人は、「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする、」との審決を求め、証拠方法として乙第1号証~乙第35号証(以下「乙1」等という。)を提出するとともに、請求人が指摘する無効理由はいずれも存在しない旨を主張する。
[証拠方法]
・乙1:重篤副作用疾患別対応マニュアル 腫瘍崩壊症候群,平成23年3月(平成30年6月改定),厚生労働省,p.10~11
・乙2:日本臨床腫瘍学会編,「腫瘍崩壊症候群(TLS)診療ガイダンス」
,金原出版株式会社,2013年8月30日第1版第1刷,p.8~9
・乙3:痛風と核酸代謝(Gout and Nucleic Acid Metabolism),2018,Vol.42,No.2,p.157~164
・乙4:高尿酸血症と痛風,2012年9月20日,Vol.20,No.2,p.82~83
・乙5:The New England Journal of Medicine,1970,Vol.283,No.7,p.354~357
・乙6:Cancer Research,1981,Vol.41,p.2273~2279
・乙7:British Journal of Haematology,2004,Vol.127,p.3~11
・乙8:Seminars in Nephrology, 1993,Vol.13,No.3,p.273~280
・乙9:Pediatric Nephrology, 1995, Vol.9,p.206~212
・乙10:British Journal of Haematology,2010,Vol.149,p.578~586
<以上、答弁書に添付>
・乙1:重篤副作用疾患別対応マニュアル 腫瘍崩壊症候群,平成23年3月(平成30年6月改定),厚生労働省,p.1~24(答弁書に添付した乙1の全頁を追加提出)
・乙11:ラスリテック(R)点滴静注用1.5mg 7.5mgの医薬品インタビューフォーム,2015年5月改訂,p.1の抜粋
・乙12:独立行政法人医薬品医療機器総合機構のウェブサイトの「重篤副作用疾患別対応マニュアル(医療関係者向け)」,p.1/10~10/10,[2021/2/26検索],インターネット<https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/drugs/adr-info/manuals-for-hc-pro/0001.html>
・乙13:ラスリテック点滴静注用1.5mg及び同点滴静注用7.5mgの審議結果報告書,平成21年9月8日,医薬食品局審査管理課
・乙14:ポケット版 臨床医薬品集2010,株式会社薬事日報社,平成22年1月20日,p.700
・乙15:泌尿器外科,2012年3月,Vol.25,No.3,p.297~303
・乙16:日本小児血液学会編,「小児白血病・リンパ腫の診療ガイドライン 2011年版」,金原出版株式会社,2011年11月30日,p.113~115
・乙17:日本腎臓病薬物療法学会のウェブサイトの「腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧 2020年改訂33版」,[2021/3/5検索],インターネット<URL:https://www.jsnp.org/ckd/yakuzaitoyoryo.php>
<以上、令和3年3月8日提出の上申書に添付>
・乙18:痛風と核酸代謝,2010,Vol.34,No.2,p.236~237
・乙19:高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第2版,株式会社メディカルレビュー社,2010年1月1日,p.79~82
・乙20の1:「腫瘍崩壊症候群(Tumor Lysis Syndromes:TLS)」と題するウェブページ,2012年5月26日,「Continuing Education for Pharmacists」と題するウェブサイトの記事,インターネット<http://ce.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/tumor-lysis-syn.html>
・乙20の2:「図1 腫瘍細胞の崩壊による核酸,リン,カリウム,サイトカインの放出1)(一部改変)」と題する図(乙20の1のウェブページ中にリンクされたもの),インターネット<http://ce.cocolog-nifty.com/blog/files/Figure1.pdf>
・乙20の3:「図2 プリン代謝経路におけるアロプリノールおよびラスブリカーゼの作用3)(一部改変)」と題する図(乙20の1のウェブページ中にリンクされたもの),インターネット<http://ce.cocolog-nifty.com/blog/files/Figure2.pdf>
・乙21の1:「鹿児島市医報 第50巻第8号(通巻594号)2011」と題するウェブページ,インターネット<https://www.city.kagoshima.med.or.jp/ihou/594/594-1.htm>
・乙21の2:鹿児島市医報,2011,第50巻第8号(通巻594号),p.36~37
・乙22:ZYLOPRIM(R)(allopurinol)PRODUCT INFORMATION ,2001年7月
・乙23:「Zyloric Tablets 100mg,300mg,SPC from the eMC」と題するウェブページ,2006年9月26日公開,[2007/10/30検索],インターネット<http://emc.medicines.org.uk/emc/assets/c/html/displaydoc.asp?documentid=4565>
・乙24:PRODUCT MONOGRAPH prZYLOPRIM(R) Allopurinol Tablets USP 100,200 and 300mg,2010年9月15日
・乙25:Malaysian Adverse Drug Reactions Newsletter,2012年8月
・乙26:Philippine National Drug Formulary Essential Drugs Monographs Volume II 3rd Edition,2006,p.120~121
・乙27:The Journal of the American Medical Association,1965,Vol.193,No.1,p.89~94
・乙28の1:「医療関係者向けプログラム MEDICAL LIBRARY」を紹介するウェブページ(ラジオNIKKEIウェブサイト内),[2021/10/22検索],インターネット< http://medical.radionikkei.jp/>
・乙28の2:ラジオ番組である「スズケンDIアワー」について平成22年2月11日に放送された内容のストリーミング放送に係るウェブページ(ラジオNIKKEIウェブサイト内),インターネット<http://medical.radionikkei.jp/suzuken/final/100211/index.html>
・乙28の3:がん化学療法に伴う腫瘍崩壊症候群と高尿酸血症治療薬 ラスブリカーゼ(遺伝子組換え),(ラジオNIKKEIウェブサイト内),掲載日2010年2月11日頃,[2021/10/22検索],インターネット<http://medical.radionikkei.jp/suzuken/final/100211html/index.html>,http://medical.radionikkei.jp/suzuken/final/100211html/index2.html,<http://medical.radionikkei.jp/suzuken/final/100211html/index3.html>
・乙29:Antihyperuricemics Review,2010年10月25日,p.1~17
・乙30:日本内科学会雑誌,2012年4月10日,第101巻4号,p.1027~1033
・乙31:Pediatr.Nephrol.,2007,Vol.22,p.132~135
・乙32:「Tumor lysis syndrome 」と題するウェブページ,オンライン公開日2011年4月28日,[2021/10/27検索],インターネット< https://somepomed.org/articulos/contents/mobipreview.htm?34/29/35281?view=print>
・乙33:甲2の英文抄録の抄訳
・乙34:痛風と核酸代謝,2010,Vol.34,No.1,p.17~21
・乙35:医療用後発医薬品の薬事法上の承認審査及び薬価収載に係る医薬品特許の取扱いについて,2009年6月5日,厚生労働省医政局経済課長,厚生労働省医薬食品局審査管理課長
<以上、令和3年10月28日提出の上申書に添付>
第5 主な証拠の記載事項
以下に、主な証拠の記載事項を示す。
なお、証拠の本文中における参照文献があることを示す数字は、適宜省略した。また、外国語の文献は訳文を示し、当審により下線を付した。
1 甲1(Seminars in Thrombosis and Hemostasis,2007,Vol.33,No.4,p.397~407)
「腫瘍融解症候群」(397頁表題)
「要約
腫瘍融解症候群(TLS)は、…。ハイリスクの患者を特定し、この症候群を早期に認識することは、適切な予防・治療を早期に実施する上で極めて重要である。最近の尿酸代謝の理解の進歩、新しい尿酸降下薬の開発、…は、TLSの治療を改善するための道を開くであろう。本レビューには、…旧世代(アロプリノール、野生型ウリカーゼ)と新世代(フェブキソスタット、Y-700、PEG-ウリカーゼ、ラスブリカーゼ)の尿酸降下薬の比較、…に関する新情報を含む。」(397頁要約)
「
[図:0001400864000002.jpg]
図2 異なるタイプのキサンチンオキシダーゼ阻害薬と尿酸オキシダーゼの開発と臨床適用を説明するタイムライン。我々は、旧世代(アロプリノール及び野生型ウリカーゼ)と新世代(フェブキソスタット、Y-700、ポリエチレングリコール[PEG]-ウリカーゼ、ラスブリカーゼ)の尿酸降下薬を、それらの最初の開発時期に基づいて図表にした。この図表は、高尿酸血症、痛風、あるいは腫瘍溶解症候群(TLS)に対してより効果的で安全な薬の製造における最近の進歩を示すものであるため、重要である。」(401頁下欄)
「XO阻害薬
アロプリノールは、すべてのXO阻害薬の中で最も初期のもので、1966年に痛風患者の治療のために米国食品医薬品局(FDA)によって臨床使用が初めて承認され、現在でも20世紀における最も重要な医薬品の発見の一つと考えられている。ヒポキサンチンの異性体は、XOによって急速にオキシプリノールへ代謝される。アロプリノール、オキシプリノールともに、競合的又は非競合的阻害のいずれかでXOを不可逆的に阻害する。経口(PO)と静脈内投与の2つの製剤があるが、有効性は同様である。シクロホスファミドやワルファリンの濃度を増加させるなど、様々な薬物相互作用を有している。TLSへの使用を検討した最初の研究は1966年で、慢性白血病、急性白血病、リンパ腫の患者33例では、アロプリノール投与後に尿酸の用量依存的な減少が認められた。この研究が、その後のTLSの予防と治療の両方の基本骨格を形成している。
さらに最近では、フェブキソスタット(別名:TEI-6720又はTMX-67として知られる)とY700の2つの新たな治験薬が合成され、高尿酸血症患者に有効であることが確認された。フェブキソスタットは、2004年に発見された新規の非プリン系選択的XO拮抗薬である。高尿酸血症及び痛風患者を対象に、フェブキソスタットとアロプリノールを比較した臨床試験では、フェブキソスタットを投与したより多くの患者(80mgを経口で52週間連日服用した患者では53%、120mgを経口で52週間連日服用した患者では64%)で血清尿酸値6.0mg/dL(360μmol/L)未満とする主要エンドポイントに到達したが、それと比較してアロプリノールではわずか21%しか到達しなかった。いずれの薬剤も0.5~1%しか腎クリアランスを受けないことを考えると、いずれの薬剤も腎不全患者にとって安全である。TLS患者では、薬剤や原疾患によるAKIが頻発するため、この治療法はTLSのリスクが高い患者に最適であろう。同様に、Y700は、1-フェニルピラゾールグループに属する別の新世代XO阻害薬である。アロプリノールよりも尿酸値を低下させる作用が強く、フェブキソスタットと類似しており、主に肝系から排泄されるため、腎不全に安全に使用できる。両方の化合物とも現在FDAで認可されておらず、TLSへの適用は検討されていない。」(403頁左欄12行~末行)
(当審注:「XO阻害薬」はキサンチンオキシダーゼ阻害薬(xanthine oxidase inhibitor)を、「AKI」は急性腎障害(acute kidney injury)を、それぞれ意味する。)
2 甲2(信州医誌, 2008,Vol.56,No.2,p.73-78)及び乙33(甲2の抄訳)
「プレドニゾロン投与後CODOX-M/IVAC療法を施行したバーキットリンパ腫/白血病の3例」(表題)
「…血清LDH値が高いバーキットリンパ腫/白血病の症例では、TLSの更なる進行を防ぐために、コルチコステロイドの投与が有用であることが示唆される。」(73頁要約本文下から3~2行)
「 I はじめに
バーキットリンパ腫/白血病は小児の顎骨に多発する肉腫として1958年にDennis Burkittによって報告された。…
CODOX-M/IVAC(シクロホスファミド,アドリアマイシン,ビンクリスチン,メソトレキセート/イホスファミド,エトポシド,シタラビン)療法は成人バーキットリンパ腫/白血病に対して有効性が高く,60歳以下の成人例の完全寛解率は92.3%…になることが報告されている。
腫瘍崩壊症候群(tumor lysis syndrome:TLS)は,抗癌剤や放射線治療などによる腫瘍の崩壊のために,細胞内成分とその代謝産物が体内に蓄積する病態であるが,その明確な診断基準は存在しない。特に,バーキットリンパ腫/白血病のような,細胞回転の著しい亢進と腫瘍量の増大を認める症例では,発症のリスクが高い。さらに,治療前にTLSの諸々の徴候を示す(spontaneous TLS)こともある。
我々は診断が確定するまでの間,初期治療としてプレドニゾロン投与を行い,その後CODOX-M/IVAC療法を施行したバーキットリンパ腫/白血病の3症例を経験したので報告する。
II 症 例
【症例1】49歳男性。入院2週間前より,全身倦怠感,寝汗,発熱,体重減少が出現し近医を受診,精査加療目的で当科に入院した。入院時身体所見では,血圧180/88 mmHg ,体温36.8°C,結膜に貧血,黄疸を認め,腹部では肝を4横指,脾を触知した。右鼠径部に無痛性無動性弾性硬の6cm×10 cmのリンパ節腫脹を認めた。四肢に紫斑を認めた。検査所見では,WBC 58,880/μL(芽球82%),Hb 8.0g/dL ,血小板33,000/μLと異常を認めた。生化学検査では,LDH 8,080 U/L,UA 38.2 mg/dL,K 6.2 mEq/Lと上昇し,BUN 122 mg/dL,Creatinine 7.5 mg/dLと急性腎不全を呈していた(Table 1)。骨髄所見では,中型から大型で核小体を有し,空胞変性を伴う幼若細胞の増殖を認めた。CD10,CD19,CD20,表面免疫グロブリン(sIg)陽性で,染色体分析で8;14転座を認め,バーキットリンパ腫/白血病(新WHO分類)と診断した。急性腎不全に対して血液透析療法を導入するとともに,TLSに対する治療(輸液負荷,尿のアルカリ化,アロプリノール投与)とプレドニゾロン(PSL) 100 mg/day の投与を開始した。全身倦怠感,寝汗は軽減し,第5病日には WBC 950/μL(芽球8%),LDH 1,430 U/L,UA 18.2 mg /dL,と低下傾向を認めた。同日,診断が確定し,CODOX-M療法を開始した(Fig. 1)。CODOX-M/IVAC療法を2サイクル終了後完全寛解(CR)に到達し,以後再発を認めていない。」(73頁左欄下から6行~74頁左欄下から4行)
「 III 考察
TLSはさまざまな悪性腫瘍の治療の初期に発症する合併症の一つである。特にバーキットリンパ腫,リンパ芽球性リンパ腫,リンパ性白血病で頻度が高く,laboratory TLSは中,高悪性度の非ホジキンリンパ腫の42%に,clinical TLSは6%に認められると報告されている。…当院で経験した3症例全てにおいてTLSを合併し,1例は血液透析を必要とした。」(77頁左欄「III 考察」第1段落)
「 IV 結 語
我々は,高LDH血症,高尿酸血症,腎障害を呈したバーキットリンパ腫/白血病の3例に対し,診断が確定するまでの数日間に病状の進行を抑え,全身状態の改善を図る目的でプレドニゾロン投与を行った。その結果発熱や全身倦怠感などの全身症状の改善を認め,病理診断がなされた時点でCODOX-M/IVAC療法に速やかに移行可能となり,全例で完全寛解が得られた。今後,oncologic emergencyの際のステロイド投与の有効性については,長期的予後も考え合わせた検討が必要と考えられた。」(77頁右欄下から13~3行)
3 甲3(Journal of Clinical Oncology,2008,Vol.26,No.16,p.2767~2778)
「小児及び成人の腫瘍融解症候群の管理に関するガイドライン:エビデンスに基づくレビュー
…
要 旨
目的
腫瘍融解症候群(TLS)は最近、laboratory TLS又はclinical TLSのいずれかに細分化されており、評価システムが確立されている。しかしながら、リスクに応じた患者の層別化を補助し、TLSのリスクのある又は罹患している患者に対する予防及び治療の推奨事項を確立するための標準化されたガイドラインが必要とされている。
方法
小児及び成人の造血器腫瘍及びTLSに関する専門家の委員会が編成され、臨床的エビデンス及び治療基準に基づいてTLSに関する推奨事項及びガイドラインが作成された。関連文献のレビューも用いられた。
結果
TLSを発症するリスクのある患者の予防と管理に関する新しいガイドラインが提示された。TLSの最良の管理は予防である。予防戦略には、高リスク患者における輸液及び予防的ラスブリカーゼ、中間リスク患者に対する輸液及びアロプリノール又はラスブリカーゼ、低リスク患者に対する綿密なモニタリングが含まれる。確立されたTLSの初期管理には、同様の推奨事項が含まれ、高尿酸血症に対する積極的な輸液及び利尿に加え、さらにアロプリノール又はラスブリカーゼが投与される。アルカリ化は推奨されない。成人におけるラスブリカーゼの使用に関するガイドラインが示されているが、この薬剤は現在、米国において小児患者に対する使用のみが承認されている。
結論
TLSに起因する合併症の潜在的な重症度によっては、高リスク患者における予防措置と、症状が生じた場合の迅速な治療が必要とされる。危険因子の認識、リスクのある患者のモニタリング及び適切な介入は、TLSの予防又は管理の鍵となる。これらのガイドラインは、TLSの予防に役立ち、TLSに罹患した患者の管理を改善する。」(2767頁表題、「ABSTRACT」)
「分類
TLSを構成する一連の代謝異常については一般に受け入れられているが、現在のところ、分類及び評価分類に関して普遍的に受け入れられているシステムはない。米国国立がん研究所の一般毒性基準2.0システム及び有害事象共通用語基準3.0では、それの存在(グレード3)又は死亡(グレード4、有害事象共通用語基準のみ)によりTLSをグレード付けしている。HandeとGarrowは、laboratory又はclinical TLS (LTLS又はCTLS)の定義に基づく分類システムを開発した。このシステムでは、治療的介入を必要としない患者と、生命の危険のある臨床的異常をきたしている患者とを区別している。しかし、このシステムにはいくつかの固有の欠点がある。第1に、ベースライン値より25%高い臨床検査値の増加が必要であり、これは既に異常値を呈している患者を考慮に入れていない。第2に、Hande-Garrowシステムは治療開始から4日以内に変化が起こることを必要とし、この場合もTLSを発症しているか、又は治療開始前又は4日後にTLSを発症する患者を考慮していない。
これらの欠点に対応するため、CairoとBishopはHande-Garrow分類を修正し、CTLSとLTLSを定義するためのシステムを考案した。この分類及び評価システムは、現在、進行期(III/IV期、BM、CNS)のB細胞リンパ腫と新たに診断された小児を対象とした、進行中の小児がん治療グループの研究ANHLO1P1に取り入れられている。このシステムにおいては、尿酸、カリウム、リン酸塩又はカルシウムの血清値が2つ以上、診察時に正常値よりも高いか低い場合、又は治療開始前3日以内又は治療開始後7日以内に25%変化する場合、LTLSが存在するとされる(表1)。CTLSには、以下の重大な臨床的合併症(腎不全不整脈/突然死、痙攣発作)の1つ以上に加えてLTLSの存在が必要である(表2)。LTLSは存在又は不存在のいずれかとみなされる(表1)のに対し、CTLSの程度は臨床症状の最大悪性度によって定義される(表2)。」(2769頁「Classification」)
「
[図:0001400864000003.jpg]
」(2769頁「Table 1.」)
「
[図:0001400864000004.jpg]
」(2770頁「Table 2.」)
「腫瘍に本質的に関連付けられた特定の要素が、腫瘍細胞増殖速度、大きな腫瘍負荷、腫瘍化学感受性、及び乳酸脱水素酵素(LDH)レベルの増加といったTLSの発生リスクの増加、と関連している。さらに、既存の尿毒症又は高尿酸血症、尿流量又は酸性尿の減少、脱水、乏尿、無尿、腎機能不全又は腎不全など、いくつかの病態がTLSを発症する素因となりうる。
この情報に基づいて、患者を低リスク群、中間リスク群、及び高リスク群に層別化した。層別化は、悪性腫瘍の種類、白血球数、及び治療の種類に基づいて行われ、表4及び表5に列挙されている。低リスク患者は、低悪性度NHL又は他の増殖の遅い悪性腫瘍を有する患者と定義される。びまん性大細胞型リンパ腫又は他の急速に増殖する悪性腫瘍を有する患者は、TLS発症の中間リスクを有すると考えられる。高リスク患者は、バーキットリンパ腫、リンパ芽球性リンパ腫、及びB-ALLを有する患者と定義される。ALL、AML、及びCLLの患者は、白血球数によって層別化される。」(2770頁左欄第2段落~右欄第1段落)
「
[図:0001400864000005.jpg]
」(2771頁「Table 5.」)
「予防と管理
TLSの発生に起因する合併症の潜在的重症度によって、高リスク患者における予防処置を必要とされ、症状が生じた場合の治療を促進される。リスク因子の認識、リスクのある患者の綿密なモニタリング、及び適切な介入が、TLSの予防又は管理の鍵である。」(2770頁右欄「Prevention and Management」の1~7行)
「アロプリノール。 TLSに関連した高尿酸血症を予防又は管理する一つの手法としては、キサンチンとヒポキサンチンの尿酸への変換を阻害することである(図1)。アロプリノールはキサンチン類似体であり、インビボでオキシプリノールに変換されると、キサンチンオキシダーゼの競合的阻害薬として作用し、それによってプリン代謝物の尿酸への変換を阻害する。アロプリノールの使用は、TLSを発症するリスクのある患者において、尿酸の生成を低下させ、尿酸沈殿によって引き起こされる閉塞性尿路疾患の発生率を低下させることが示されている。」(2771頁右欄「allopurinol」の第1段落)
「水分補給とともに、ラスブリカーゼは、リスクが高いと考えられる小児患者の初期管理に使用するべきである。
…
米国食品医薬品局は、ラスブリカーゼを米国の成人又は老人患者に使用することを承認していないけれども、以上の推奨は、成人患者にも有効である。」(2773頁右欄9~10行、下から3~1行)
「アロプリノール投与
アロプリノールの使用は、TLS発症リスクが中等度の患者に対する予防の選択肢として考えることができる(表7)。アロプリノールに対するアレルギーを有する患者、又はアロプリノールによる治療中に重度の過敏症反応を発現する患者には、アロプリノールは禁忌である。
小児患者には、アロプリノールを50~100mg/m2の用量で8時間ごとに経口投与(最大用量、300mg/m2/日)又は10mg/kg/日を8時間毎に分割投与(最大用量、800mg/日)する。アロプリノールを経口投与できない患者には、200~400 mg/m2/日を1~3回に分けて静脈内投与(最大用量600mg/日)を考慮してもよい。
アロプリノールによる治療は、導入化学療法開始の12~24時間前までに中間リスク患者に開始すべきである。治療は、尿酸値が正常化し、腫瘍量、白血球数、及びその他の検査値が表7に定義される低TLSリスクレベルに回復するまで継続してもよい。アロプリノールは尿酸の生成を妨げるだけで、治療開始前に産生された尿酸を減少させないことに注意すべきである。したがって、高尿酸血症(450μmol/L以上又は7.5mg/dL以上)を有する患者には、ラスブリカーゼによる治療が望ましい(証拠レベル:II;推奨グレード:B)。
アロプリノールはまた、プリン前駆体であるキサンチンとヒポキサンチンの血清中濃度を増加させる。キサンチンは尿への溶解度が低いため、尿細管にキサンチン結晶が沈着する恐れがあり、急性閉塞性尿路疾患を引き起こすことがある。さらに、アロプリノールは他のプリン、特に6-メルカプトプリンの分解も減少させるため、この薬剤をアロプリノールと同時に投与する場合には、6-メルカプトプリン及び/又はアザチオプリンの50%~70%の用量減少が推奨される。
アロプリノールは腎臓から排泄されるため、腎障害患者には50%の減量が推奨される。アロプリノールと相互作用する可能性のある他の薬物には、ジクマロール、尿酸排泄薬、サイアザイド系利尿薬、アンピシリン/アモキシシリン、シクロホスファミド及びその他の細胞毒性薬、クロルプロパミド、及びシクロスポリンがある。
成人患者に対するアロプリノールの用量及び投与に関するガイドラインは、小児患者に対するガイドラインと同じである。TLS発症の進行中のリスクに基づき、導入化学療法の開始の1~2日前に治療を開始し、その後3~7日間まで治療を継続してもよい(証拠レベル:II;推奨グレード:B)。」(2774頁右欄~2775頁左欄「Allopurinol Administration」)
4 甲5(山内高弘ら,“腫瘍領域における高尿酸血症とその病態・治療 ―腫瘍崩壊症候群を中心に―”,「第45回日本痛風・核酸代謝学会総会 プログラム・抄録集」,2012年2.16(木)・17(金) 奈良県新公会堂(奈良市春日野町101),p.42)
「米国臨床腫瘍学会では2008年に世界で初めてTLS治療ガイドラインが作成されリスク別に治療方針が示された。高リスク例ではラスブリカーゼ、中等度リスク例ではアロプリノールを使用する。ラスブリカーゼは近年医薬品化された遺伝子組換え型ユリカーゼで不溶性の尿酸を水溶性のアラントインに変換させる酵素である。…その効果は劇的であった。一方、アロプリノールは腎障害時毒性が発現しTLSにおいては使用が制限されることがある。新薬フェブキソスタットは腎障害時にも使用しやすいキサンチンオキシダーゼ阻害薬である。中等度リスク例(悪性リンパ腫)に本薬10mgを投与したところ効果は比較的速やかで、投与4日以内に血清尿酸値約3mg/dlの減少が得られた。このように腫瘍領域の高尿酸血症は特殊な病態で、TLSのような緊急の対応をせまられる病態も含む。これらの新薬の至適投与法を確立することにより効果的な尿酸値コントロールが可能になると考えられる。」(42頁8~22行)
5 甲6(重篤副作用疾患別対応マニュアル 腫瘍崩壊症候群,平成23年3月,厚生労働省,p.1~15 )
「1.腫瘍崩壊症候群とは?
腫瘍崩壊症候群とは、悪性腫瘍の治療の際に抗がん剤治療や放射線療法の効果が優れており、腫瘍が急速に死滅(崩壊)するときに起きます。…
腫瘍細胞が大量に崩壊するときに、それらの細胞より大量の核酸(細胞の中にある核、すなわち遺伝子を形成している物質)、カリウムなどの電解質、酸などが放出されます。通常、核酸は尿酸に分解・代謝されて腎臓より尿中に排泄されます。核酸が大量に放出されるので、大量の尿酸が体内で作られます。尿酸が痛風の原因とご存知の方も多いと思いますが、尿酸が足の親指の関節などで結晶化した時に痛風になります。もともと、尿酸は結晶化しやすい物質です。尿酸は尿中に排泄されますが、尿中に多量に排泄され、尿の中の尿酸が高濃度になると尿中で結晶化されます。この尿酸の結晶が尿細管や尿管という尿の通る管の内側に詰まってしまうと、尿が外に出られなくなってしまいます。尿が出なくなると急性腎不全となり、場合によっては一時的に人工透析が必要になります。
腫瘍崩壊症候群を予防するために、効果の高い治療を行う際に色々な工夫が行われます。その予防法を下に列挙します、腫瘍崩壊症候群の起きやすさを目安に、これらの予防法のいくつかを組み合わせて行います。
1)水分を多く摂る:水を飲む、点滴で水分を補給することが大切です。
水分を多く摂ると、尿が薄められ、尿酸が結晶化しにくくなりま
す。電解質のバランスが崩れることも予防します。
2)核酸から尿酸を作ることを抑制するアロプリノールという薬を治療前
から予防的に服用します。
3)体をアルカリ性にするためにクエン酸塩、重曹(炭酸水素ナトリウム
)を服用します。
アルカリ性にすると尿酸の水(尿)への溶解度が増し、尿酸が結晶
化しにくくなります。同時に、血液が酸性になることを防ぎます。
4)尿酸を分解するラスブリカーゼという薬を使います。
2010年に販売を開始した薬です。この薬は尿酸を分解することで血
液中の尿酸を減少させます。」(6頁1行~7頁8行)
(当審注:「腫瘍崩壊症候群」は、腫瘍融解症候群と同義である(訂正明細書【0002】参照)。)
「(3)早期に認められる症状および検査異常
典型的な症状は治療開始6時間以内において、まず高カリウム血症が現れる。少し遅れて24~48時間後にリン、カルシウム、尿酸が変動し、それ以後に血清クレアチニン値が上昇し急性腎不全が生じやすい。
…また、腫瘍崩壊症候群(tumor lysis syndrome:TLS)の高尿酸血症に対して予防的、治療的によくアロプリノール(保険適用外)が用いられるが、尿酸産生は相対的に減少するものの、その代りに前駆体のヒポキサンチンとキサンチンの尿中排泄が増大する。キサンチン様結晶の存在を尿中に高頻度に認めた急性腎不全の場合、高キサンチン尿症が原因となっている可能性もある。高キサンチン尿症を予防するために尿酸酸化酵素であるラスブリカーゼを使用する機会も増加している。」(9頁下から16行~10頁3行)
「TLSの発生頻度は、リスク対象となる症例の設定基準、TLSの予防処置の有無と内容、さらにTLSの診断基準の取り方によって、大きく異なってくる。
2.副作用の概要
腫瘍崩壊症候群(tumor lysis syndrome:TLS)は、何らかの原因による腫瘍の急速な細胞崩壊のために、細胞内成分とその代謝産物が腎の生理的排泄能力を越えて体内に蓄積し、尿酸・リン・カリウムの血中濃度上昇、低カルシウム血症、乳酸アシドーシス、さらには乏尿を伴う急性腎不全を含む多彩な病態を生じる。」(10頁下から9~1行)
「3.治療方法(予防・治療)
腫瘍細胞が大きい場合、薬剤または放射線に対し、高い感受性を有する場合、たとえば Burkittリンパ腫、またはそのleukemic counterpartとしてのALL-L3やTリンパ芽球性リンパ腫(lymphoblastic lymphoma:LBL)、あるいは白血球数の多い急性白血病(ALLやAML)はリスクファクターとなるので留意しておく。また、脱水、尿量減少、酸性尿、濃縮尿はリスクファクターであるので、治療前には補正しておく。具体的には、水分負荷(補液)、利尿、アロプリノール投与、尿アルカリ化である。
具体的予防法・治療法
(1)水分負荷、利尿
急激な細胞崩壊により大量に発生した尿酸・リン・カリウムを速やかに体外に排泄し、尿酸とリン酸カルシウム塩の尿細管内析出を防ぐために、大量補液を開始して尿流量を確保する。化学療法開始の少なくとも24~48時間前より補液を始める。
(2)アロプリノール(保険適用外)
急激な細胞崩壊により生じる高尿酸血症を予防するために、アロプリノールを投与する。アロプリノール投与に伴うキサンチン腎症の予防のためにも水分負荷は必須である。
(3)尿のアルカリ化
尿酸の析出を尿アルカリ化によって抑制するために、アルカリの投与(重曹、クエン酸塩)を尿酸値が高い時期には行う。…
…
(6)尿酸を分解するラスブリカーゼの予防投与
ラスブリカーゼは尿酸酸化酵素であり、尿酸を酸化しアラントインにする。主として腫瘍崩壊症候群予防のために使用する。化学療法開始前4~24時間に初回投与を静注で行い、1日1回5~7日投与する。副作用としてアナフィラキシー、溶血、ヘモグロビン尿、メトヘモグロビン血症がある。
(7)透析の適応
腎不全、著しい高カリウム血症・高尿酸血症・乏尿など通常の治療にては対処不能なときは、人工透析を行う。」(11頁下から8行~12頁末行)
(当審注:(1)~(7)は、それぞれ○の中に数字を示す。)
「4.典型的症例概要
【典型的症例】ドセタキセル+ネダプラチン
57 歳、男性。胸部下部食道癌に対し左開胸、開腹食道亜全摘および三領域リンパ節郭清を施行した。病理組織診断は高分化型扁平上皮癌であった。術後の補助療法は本人が望まなかったため、いったん退院となったが、1年後にリンパ節転移、多発性骨転移、多発性肺転移を認め、化学療法目的で再入院となった。化学療法(docetaxel 30 mg/m2+nedaplatin 30 mg/m2を隔週投与)開始 11日後の採血で、血清カリウム値 6.3 mEq/L, 尿酸値 11.0 mg/dL,リン値 7.2mg/dl, 血清クレアチニン値 8.57 mg/dL となった。TLS と診断し、補液及び利尿薬の併用、アロプリノール投与、クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム投与を行ったところ奏功し、救命された。(癌と化学療法 2008; 35: 2030-2032)」(13頁1~11行)
6 甲8(Clinical Journal of the American Society of Nephrology,2012 October 05, Vol.7,No.10, p.1730~1739)
「腫瘍腎臓病学:腫瘍融解症候群」(表題)
「アロプリノール
アロプリノールはプリン類似体であり、ヒポキサンチンの構造的異性体である。アロプリノールはキサンチンオキシダーゼによってオキシプリノールに代謝され、活性型であるオキシプリノールはキサンチンオキシダーゼの競合的阻害薬である。オキシプリノールは腎臓で排泄され、正常な人では最大24時間の長い半減期を持つため、CKDやAKIの患者では投与量が複雑になる。アロプリノールはキサンチンからの尿酸の生成を減少させるが、尿酸値には直接影響を及ぼさない。したがって、すでに明らかな高尿酸血症が発生し、TLSが著しく進行した後にアロプリノール治療を開始することは、臨床経過を変える可能性は低く、後述するラスブリカーゼによる治療がより適切であろう。しかしながら、アロプリノールの予防的使用は、一般的に高リスク又は中リスクの腫瘍患者に推奨される(51)。
…
アロプリノールによる治療はまた、尿酸前駆体であるヒポキサンチン及びキサンチンの血漿中濃度を上昇させ、これらはそれ自体がプリン合成に関与する酵素を阻害する。溶けにくいキサンチンは、腎尿細管内での結晶の析出及び結石形成によりGFRの低下をもたらすことが実証されている。したがって、キサンチン結晶尿症又は結石形成は、アロプリノールの投与によって悪化又は誘発される可能性がある。」(1734頁左欄下から4行~1735頁左欄18行)
「フェブキソスタット
フェブキソスタットは、アロプリノールのような過敏性の側面を有さず、GFR低下に対する投与量の調整を必要としない新規のキサンチンオキシダーゼ阻害薬であり、腎機能が低下したTLSのリスクがある患者の予防薬として魅力的な検討事項である。しかし、この適応症に対するフェブキソスタットの使用を評価した臨床試験は実施されていないか、完了していない。フェブキソスタットは痛風に伴う高尿酸血症の治療に有効であるように思われる。フェブキソスタットの作用機序はアロプリノールと類似しているため、キサンチンの蓄積やキサンチン結石形成のリスクを減少させることは期待できないだろう。フェブキソスタットは、推算GFRが低下した患者、特にアロプリノールへのアレルギー又は他の有害反応の既往がある患者のTLS予防において、高価ではあるがアロプリノールに代わる合理的な選択肢となりうる。」
(1735頁左欄19~35行)
なお、甲8における参照文献51は、下記の文献(乙10)である。
「51. Cairo MS, Coiffier B, Reiter A, Younes A; TLS Expert Panel: Recommendations for the evaluation of risk and prophylaxis of tumour lysis syndrome (TLS) in adults and children with malignant diseases: An expert TLS panel consensus. Br J Haematol 149:578-586, 2010」(1738頁左欄、参照文献51)
7 甲9(Guidelines for use of RASBURICASE in adult Haematology and Oncology patients,Kent and Medway Cancer Network,September 2011,p.1~7)
「成人血液腫瘍患者におけるラスブリカーゼの使用に関するガイドライン」(表題)
「2.0 背景
腫瘍融解症候群(TLS)は、非常に重篤な、そして時には生命を脅かす、がん治療の合併症である。…TLSに対する主な指針は、高リスク患者の同定、予防的治療の開始、及びその合併症の早期発見と早期治療介入である。
現在のTLSの管理には、水分補給(通常は静脈内)、必要であれば利尿剤の投与、尿のアルカリ化、キサンチンオキシダーゼ阻害薬であるアロプリノールによる血清尿酸値の低下などがある。
…ラスブリカーゼは、組換え尿酸オキシダーゼであり、「腫瘍量が大きく、化学療法開始時に急速に腫瘍が融解又は縮小する危険性のある血液系悪性腫瘍の患者の、急性腎不全を防ぐことを目的とした、急性高尿酸血症の治療及び予防」で承認されている。
3.0 使用基準
…ラスブリカーゼは、以下の適応症にのみ使用することができ、コンサルタント血液専門医又は腫瘍専門医の許可を得た場合にのみ使用することができる。
3.1 化学療法開始時の予防
…
3.2 救命又は介入治療
ここでは化学療法が既に行われ、高尿酸血症を伴う急性腫瘍崩壊症候群(ATLS)を認めるような場合について述べる。
注:高尿酸血症のみではラスブリカーゼではなく、むしろアロプリノールの適用である。ただし、他の代謝異常がない場合に限る。
救命治療は、以下のような高尿酸血症を呈する患者に適応となる:
・ クレアチニンが正常上限値を超える患者(…)
○十分な補液を行っても乏尿を認める患者
○リン酸値が2 mmol/L以上の患者
○カリウム値が5.5 mmol/L以上の患者
○低カルシウム血症を呈する患者
・ その他:
○アロプリノールに対してアレルギーがある場合は、ラスブリ
カーゼの適用である。
○患者は、フェブキソスタットを与えられてもよい。」(3頁「2.0 Background」~4頁「3.2 Rescue or intervention treatment」)
8 甲10(フェブリク錠10mg、同錠20mg、同錠40mgの審査報告書,平成22年11月8日,独立行政法人医薬品医療機器総合機構,p.1~94)
「 審査報告書
平成22年11月8日
…
[販売名] フェブリク錠10mg、同錠20mg、同錠40mg…
…
[化学構造]
[図:0001400864000006.jpg]
」(1頁1行~[化学構造]の欄)
「 審査報告(1)
平成22年9月30日
I.申請品目
[販売名] フェブリク錠10mg、同錠20mg、同錠40mg
[一般名] フェブキソスタット
…
[申請時効能・効果]次の疾患における高尿酸血症の改善
痛風、高尿酸血症
[申請時用法・用量]通常、成人にはフェブキソスタットとして40mgを
1日1回経口投与する。なお、症状により適宜増減
し、最大投与量は1日60mgとする。
」(3頁1~11行)
「類薬のアロプリノールでは、プリン代謝異常亢進を特徴とするLesch-Nyhan症候群等の患者を除きヒトでキサンチン結石の報告がないこと、及びヒトの尿量はラットやイヌより多いこと(…)から、本薬投与でヒトにキサンチンによる結石が生じる可能性は低いと考察されている。」(21頁下から11行~8行)
「国内5試験及び国内長期2試験のいずれにおいても、腎・膀胱関連の高度の有害事象は認められず、…。…キサンチン結石を疑わせる所見は認められなかった。」(70頁1~2行、13~14行)
9 甲11(Therapeutic Research,2012年7月20日,Vol.33,No.7,p.1073~1078)
「中等度以上腎機能低下患者に対するフェブキソスタットの有効性と認容性の検討」(表題)
「2011年5月にわが国にて上市された新しい尿酸降下薬であるフェブキソスタットは新規作用機序を有するキサンチンオキシダーゼ阻害薬であり,基本的には肝代謝であり,腎機能障害患者により使いやすく使用できる可能性がある。」(1073頁右欄下から6~2行)
「本研究ではわが国ではまだ検証されていない中等度以上(高度の腎機能障害患者も含めて)腎機能低下患者に対するフェブキソスタットの有効性と安全性を検討することを目的とした。無治療の患者に加え,従来からの高尿酸血症薬からフェブキソスタットへ切り替えた患者も検討した。」(1074頁左欄4~10行)
「フェブキソスタットの新規投与,もしくは切替え後6ヵ月間経過を追跡できた40例(平均年齢57.1歳,女性12例)の背景を表1に示す。原疾患は慢性糸球体腎炎18例,腎硬化症7例,慢性間質性腎炎6例,糖尿病性腎症2例,特発性ネフローゼ症候群2例,その他5例であった。おもな合併症は高血圧,脂質異常症,心・脳血管疾患であった。また,表2に併用薬剤を示す。
全40例の血清尿酸値はフェブキソスタット投与前と比較して6ヵ月後有意に減少した(図1)。 7.Omg/dL達成率はフェブキソスタット投与により20%から87.5%に,6.Omg/dL達成率は 5%から50%と著明に上昇した。…
血清尿酸値の低下に伴い,尿酸排泄も有意に低下した(図3)。新規投与群,切り替え群,もしくは腎機能中等度低下群,高度低下群にても尿酸排泄は有意に低下した(データ省略)。また,eGFRは経過中,悪化することなく保たれていた(図4)。」(1074頁右欄下から16行~1075頁左欄9行)
「これまでに高尿酸血症薬は使用実績と有用性から主にアロプリノールとベンズブロマロンが使用されてきたが,どちらも中等度から高度腎機能低下患者には使用しづらく,尿酸の管理に難渋してきた。本研究で使用したフェブキソスタットは肝代謝であり,糞中と尿中にバランスよく排泄される多排泄経路をとるため,腎機能不全患者にも比較的安全に使用しうることが期待される。実際,本研究により中等度腎機能低下患者のみならず,高度腎機能低下患者にも重篤な副作用を生じることなく,他の薬からの切替え症例でも血清尿酸値の有意な低下が認められた(図1,2)。」(1078頁左欄下から16~4行)
「また図3に示すように尿酸排泄の低下は血清尿酸値の低下に伴うものと考えられるが,その低下率が平均33.8%と血清尿酸値の低下率(平均23.7%)よりも高度であるため,血清尿酸値とともに服用のコンプライアンスを確認する一つの要素となりうる可能性があると考えられた。また,尿中への尿酸排泄低下は,尿路結石のリスク低減も期待される。
次にGFRに関して,本研究では経過中,悪化は認めなかった。海外で行われたフェブキソスタット使用によるFOCUS試験では投与開始後5年にて血清尿酸値の低下に伴い腎機能改善効果が示されており,今後フェブキソスタットの継続使用により,腎機能低下患者において血清尿酸値のコントロールが改善し,腎機能が長期に維持できる可能性が示唆される。」(1078頁右欄5~20行)
10 甲12(Mebio, 2011,Vol.28, No.11, p.101~108)
「新しい尿酸低下薬フェブキソスタットへの期待
Point
●フェブキソスタットは、アロプリノールが反応依存型阻害作用であるのに対し、構造適合型阻害作用を示すために阻害効果は強く、オキシプリノールのような活性をもつ代謝物の生成は起こらず、腎機能障害があっても減量の必要がないという特徴がある。
●治療目標尿酸値6mg/dL以下の達成率は、フェブキソスタット40mg/日、60mg/日ともにほぼ90%に達しており、アロプリノール300mg/日よりも高いことが示されている。」(101頁表題、1~7行)
「1.フェブキソスタットの作用機構
…肝臓で代謝を受け不活性化された後、腸、腎へバランスよく排泄されるために、腎機能異常患者でも減量投与などの必要性がない…。」(103頁右欄下から2行、104頁左欄6~9行)
「3.フェブキソスタットの副作用
…既存の尿酸低下薬の治療においても、初期治療で尿酸値を急速に低下させると発作を誘発することがあるということで、できるだけ緩徐に低下させることが奨められていることから、フェブキソスタットにおいても、初期治療として投与量の漸増で投与初期の痛風発作を減らす方法が検討され、投与指針でも10-20-40mgというような投与法が勧められている。
…
さてフェブキソスタットは、治験の範囲では深刻な副作用は認めていない。」(104頁中央欄下から8行~右欄6行、106頁左欄下から4~2行)
11 甲13(関西電力病院における医薬品採用・削除の通知について,関西電力病院薬剤部長 濱口良彦,平成23年9月21日)
「フェブリク錠20mg(痛風・高尿酸血症改善剤;フェブキソスタット)
…アロプリノールは,代謝物(オキシプリノール)が活性体で,腎機能低下時には減量などが必要となるが,フェブキソスタットは代謝物が活性を示さず,尿排泄とあわせて胆汁排泄も兼ね備えており,軽度~中等症の腎機能低下例に対して,用量調節をせずに通常用量を投与でき,有効性や忍容性に差がないことが確認されている。今回,アロプリノールに比べて尿酸低下作用の有効率が高く…排出経路が腎及び糞中で有り,…使用しやすいので 糖尿病内科と整形外科より申請依頼があった。」(1頁【院内試用薬品】)
12 甲14(重度腎機能障害患者を対象としたフェブキソスタットの使用状況調査,第22回日本医療薬学会年会・講演要旨集, 2012年10月10日,p.450, P2-429)
「重度腎機能障害患者を対象としたフェブキソスタットの使用状況調査
…
【目的】…昨年承認されたフェブキソスタットは、…軽度から中等度の腎機能低下例において、有効性と安全性が示されているものの重度腎機能障害患者での使用経験は少ない。今回、当院における重度腎機能障害患者への使用状況について報告する。
【方法】慢性腎臓病(CKD)IV期及びV期の患者を対象とした。…調査結果より、重度腎機能障害を有する患者において、その有効性を認めることができた。さらに、今後長期の使用における有効性、安全性を追跡していく必要性がある。」(450頁左上「P2-429」)
13 甲27(International Journal of Nephrology and Renovascular Disease,2010,Vol.3,p.1~10)
「痛風の管理の進歩:高尿酸血症の管理におけるフェブキソスタットの批判的吟味」(表題)
「フェブキソスタットは、アロプリノールの代替薬として投与することができ、いくつかの利点を提供する可能性のある新しい薬剤である。我々は、フェブキソスタットの基本的な生物学と臨床成績をレビューし、より古く、より確立された痛風治療薬と比較して、この薬剤の潜在的な有用性を検討している。」(1頁要約9~12行)
「キサンチンの平均血清濃度は7日後にベースラインと比較してかなり増加したが、キサンチン結晶形成の可能性が懸念された。しかし、血清キサンチン濃度は血清中のキサンチンの溶解度限界をかなり下回っており、尿中キサンチン濃度は腎障害に伴って上昇しなかった。以上のことから、著者らはCKDではフェブキソスタット80mgの投与量を調整する必要はないと結論付けた。」(4頁左欄10~18行)
(当審注:「CKD」は、慢性腎疾患(chronic kidney disease)を意味する。)
14 甲28(Saudi Journal of Kidney Diseases and Transplantaion,2010,Vol.21,Issue 2,p.328~331)
「キサンチン尿路結石は通常、良性症状であり、適切なアルカリ化、強制的な水分補給、及び食物性プリンの制限によって予防又は治療することが容易である。」(328頁要約11~13行)
15 甲30(日本病院薬剤師会雑誌,2011年7月,Vol.47,No.7,p.823~826)
「
[図:0001400864000007.jpg]
[図:0001400864000008.jpg]
[図:0001400864000009.jpg]
[図:0001400864000010.jpg]
」(823~826頁)
16 甲31(ラスリテック(R)点滴静注用1.5mg・7.5mgの添付文書,2009年10月作成)
「
[図:0001400864000011.jpg]
[図:0001400864000012.jpg]
」(1頁~2頁左欄)
17 甲32(ハリソン内科学 第3版 VOLUME 2,株式会社メディカル・サイエンス・インターナショナル,2009年12月22日,p.269~270)
「
[図:0001400864000013.jpg]
」(1799頁左欄「治療」の1~6行)
「
[図:0001400864000014.jpg]
」(1799頁図270-4)
18 甲33(高尿酸血症・痛風のガイドライン(第2版),株式会社メディカルレビュー社,2010年1月1日,p.69~72,91~93,106~108)
「
[図:0001400864000015.jpg]
」(107頁「注意事項」)
19 甲34(癌と化学療法,2008,Vol.35,No.12,p.2030~2032)
「
[図:0001400864000016.jpg]
」(表題)
「
[図:0001400864000017.jpg]
」(2030頁「要旨」)
「
[図:0001400864000018.jpg]
[図:0001400864000019.jpg]
」(2030頁左欄本文1行~2031頁右欄末行)
20 甲35(日本消化器学会雑誌,2012年8月5日,Vol.109,No.8,p.1372~1378)
「
[図:0001400864000020.jpg]
」(表題)
「
[図:0001400864000021.jpg]
[図:0001400864000022.jpg]
」(46頁左欄本文1行~47頁右欄下から4行)
「
[図:0001400864000023.jpg]
」(50頁左欄下から11~5行)
21 甲37(日本薬理学雑誌,2010年6月,Vol.135,No.6,p.255~260)
「がん化学療法用尿酸分解酵素製剤ラスブリカーゼ
(ラスリテック(R)点滴静注用)」(表題)
「悪性腫瘍では腫瘍崩壊に伴う高尿酸血症がしばしば見られ,その主な原因として急激な腫瘍細胞の崩壊を引き起こす抗がん薬治療が挙げられる.…
この高尿酸血症を未然に防ぐ目的で,臨床現場ではアロプリノールの投与,輸液,尿のアルカリ化が行われている.アロプリノールは…化学療法前に高尿酸血症を発症している患者では尿酸値が正常値に戻るのに2~3日を要し,速やかながん化学療法の導入が困難になる場合がある.」(255頁右欄3~18行)
「海外では既に腫瘍崩壊症候群を適切に対処する目的で,ガイドライン作成の検討が始められており2008年の…(ASCO)でその概要が発表(9)されたが,本ガイドラインはまだ確定していない.…海外では使用実績が豊富にあり,ガイドラインが確定していない状況でも本剤の有用性が十分認識されているが,国内での使用経験は臨床試験で使用されたわずかな実績しかない.よって,今後本邦の小児,成人患者で本剤が使用されることで本剤の有用性が広く認識されていくと共に,ガイドラインのさらなる検討が期待される.
文 献
…
9)Coffier B,et al. J Clin Oncol.2008;26:2767-2778」(260頁右欄2行~末行)
22 甲38(日本臨牀増刊号 高尿酸血症:低尿酸血症 -痛風の治療新ガイドライン-,2003年1月28日,p.299~303)
「
[図:0001400864000024.jpg]
」(300頁)
23 甲42(Turk. J. hematol.,2011,Vol.28,p.52~59)
「目的:本研究は、非ホジキンリンパ腫(NHL)及び急性リンパ芽球性白血病(ALL)の小児における高尿酸血症及び腫瘍融解症候群(TLS)の発生率、臨床的特徴、及び転帰を調査することを目的とした。
材料と方法:この後ろ向き研究には、327人の患者(113人のNHLと214人のALL)からのデータが含まれていた。
結果:高尿酸血症は、NHLの26.5%とALLの12.6%で生じた。TLSは、NHL患者の15.9%、ALL患者の0.47%であった(p = 0.001)。高尿酸血症性NHL患者は全員が進行疾患であり、腎障害が53%に認められた。…治療は、水分補給とアロプリノールで構成され、尿酸オキシダーゼを投与された患者はいなかった。TLSを発症した患者のうち、26.3%がlabolatory TLS、42.1%がグレードI又はII のTLS、31.6%がグレードIII又はIVのTLSであった。尿酸値は、NHL群とALL群でそれぞれ平均3.5±2.5日と3.05±0.8日後に正常に戻った。全体で、高尿酸血症の患者の7%が血液透析を必要とした。死亡例はなかった。
結論:このシリーズでは、TLSの高リスクに関連する要因は、NHLにおける腎障害とALLにおける高い白血球数であった。アロプリノール及び水分補給による管理は、腫瘍量の多いこの患者群で有効であった。」(52頁要約)
「本研究は、…ことを目的とした。さらに、著者らの病院で用いられた高尿酸血症とTLSの予防及び治療のためのプロトコルの有効性を再評価した。」(53頁右欄2段落3~8行)
「尿酸レベルの自発的又は化学療法後の上昇及び急性TLSの兆候が記録され、ルーチンの高尿酸血症管理プロトコルへの応答、尿酸値の正常化に必要な日数、血液透析を必要とした患者数も記録された。」(54頁左欄6~12行)
「高尿酸血症に対するルーチンの管理プロトコル
全てのNHL及びALL患者にルーチンの予防及び治療を実施した。そのため、尿酸値が正常値の上限にある患者又は急性TLSのリスクが高い患者には、いずれも静脈注射による水分補給とアロプリノールの経口投与を行った。化学療法の24時間前に水分補給は行い、1日の総投与量は2500~3000mL/m-2であった。尿密度とpH範囲はそれぞれ1010と6.7~7に設定した。アロプリノール -300mg・m-2・d-1 p.o. 及び 200mg・m-2・d-1 p.o - をNHL患者及びALL患者にそれぞれ3回に分けて投与した。いずれの患者にも尿酸オキシダーゼは投与されなかった。」(54頁右欄13~25行)
「NHL患者のうち、68%(n=77)がB細胞性、28%(n=31)がリンパ芽球性、4%(n=5)が未分化大細胞リンパ腫であった。」(55頁左欄下から4~2行)
「TLS基準を満たしたのは、NHL患者の15.9%(n=18)及びALL患者の1例(0.47%)であった(p=0.001)。」(55頁右欄2段落4~6行)
「TLSでのアロプリノール治療に関連する死亡と高い血液透析率の以前の報告にもかかわらず、本研究では、高リスク患者は水分補給、アルカリ化、及びアロプリノールで治療され、TLSに関連する死亡は記録されなかった。さらに、尿酸オキシダーゼを投与された患者はいなかったため、7%が血液透析を必要とした。
アロプリノールを尿酸オキシダーゼで置換すると、TLSの発生率と重症度が低下することが報告されている。尿酸オキシダーゼの費用対効果は、世界中で継続的な研究の対象となっている。尿酸オキシダーゼは、リスクのレベルに応じて、様々な用量と期間で投与される。尿酸オキシダーゼの主な利点は、単回投与後の血清尿酸値の急激な低下であり、尿のアルカリ化の前提条件がないことである。しかし、高い取得コストとG6PD酵素欠損症の患者における溶血が主な欠点であり、その使用を制限している。本研究では、血清尿酸値は平均3.5日で正常に戻った。我々は、資源が限られている場合には、アロプリノールを選択的に使用することが合理的であると考えている。」(58頁左欄3~4段落)
24 乙2(日本臨床腫瘍学会編,「腫瘍崩壊症候群(TLS)診療ガイダンス」,金原出版株式会社,2013年8月30日第1版第1刷,p.8~9)
(なお、乙2は、本件優先日と本件出願日との間に公開された文献である。)
「
[図:0001400864000025.jpg]
[図:0001400864000026.jpg]
」(8~9頁)
25 乙4(高尿酸血症と痛風,2012年9月20日,Vol.20, No.2,p.82~83)
「腫瘍融解症候群は,…。
治療の中心は急性尿酸性腎症の治療とoncologic emergencyとしての全身管理である。急性尿酸性腎症の治療・予防には腫瘍細胞の崩壊により産生される血中,尿中,腎組織中の尿酸を低下させる必要がある。本症候群は尿酸産生過剰型高尿酸血症の典型であるので,以前は第一選択薬は尿酸産生抑制薬アロプリノールであった。…
体内の著増した尿酸プールを減少させるための排泄促進以外の方法としては代謝が考えられる。最近市販されたラスブリカーゼは,この代謝を作用機序としている。…ヒトでは尿酸が最終代謝物であるため腫瘍融解症候群では尿酸の過剰な蓄積が起こる。ラスブリカーゼは,ヒトでは通常欠損している尿酸をアラントインに代謝する酵素であるウリカーゼ(…)の遺伝子組み換え型であり(図1),重症例での第一選択薬である。
その長所は(1)作用が強力かつ迅速で,たとえば著明な高尿酸血症も,場合によっては1回投与で測定限界以下まで下降することもある。(2)…。
一方,短所としては(1)異種蛋白からなるので重篤な過敏反応が懸念され,1コースのみの投与しかできない,(2)高価である,などがある。…
別の選択肢として先述したキサンチン-オキシダーゼ阻害による尿酸産生抑制薬がある。代表的薬剤であるアロプリノールについては長所として(1)安価である,(2)経口で投与できる,(3)抗体産生がない,などが挙げられる。一方,短所としては(1)腎機能障害があるときは,アロプリノールの活性型代謝物オキシプリノールが尿酸と同じトランスポーターURAT1などで輸送されるため,高尿酸血症時には体内に高濃度蓄積し,造血障害などの毒性を発揮しやすい,(2)プリン核を基本構造にもつため,プリン代謝関連の薬剤(…)などと薬物相互作用を示す,(3)すでに投与前に体内に蓄積している尿酸を低下する作用はない,(4)切れ味がそれほどよくない,などが挙げられる。これらの事実をふまえ,たとえば現在5日間投与が基本であるラスブリカーゼの投与日数を減じること,その分アロプリノールの追加を行うなどの試みが行われている。
最近市販された新しいキサンチン・オキシダーゼ阻害薬フェブキソスタットについては,(1)その構造がプリン核とは少し異なっていることからプリン代謝関連薬との薬物相互作用が少ないことが予想される,(2)腎排泄型の薬剤アロプリノールと異なり,肝・腎排泄型であるため腫瘍融解症候群で腎機能障害のある場合も使用可能,(3)切れ味もアロプリノールより鋭い,などにより,われわれも良好な感触を得ており(in preparation),今後中等度以下の腫瘍融解症候群への臨床応用が期待される。」(82頁左欄1行~83頁中欄末行)
(当審注:上記の(1)、(2)、(3)は、それぞれ○の中に1、2、3である。)
26 乙5(The New England Journal of Medicine,1970,Vol.283,No.7 ,p.354~357)
「アロプリノール処置を受けたリンパ肉腫患者におけるキサンチン腎症」(表題)
「アロプリノールは、高尿酸血症及び高尿酸尿症の治療における価値が証明されている薬剤である。アロプリノール及びその主要代謝産物であるオキシプリノールは、通常はヒポキサンチンをキサンチンに、キサンチンを尿酸に変換する酵素であるキサンチンオキシダーゼを阻害する。
造血器がんでは、尿酸排泄が2~4倍にも増加する場合がある。抗がん剤又は放射線治療後には、高尿酸血症及び高尿酸尿症がより顕著になる場合もある。細胞の急速な融解は、血清尿酸の急激な上昇、高尿酸尿症、尿路結石形成、及び尿路閉塞を引き起こす可能性がありうる。これらの患者では一般的に、アロプリノールの予防的使用が推奨される。アロプリノールは、化学療法開始1~2日前に投与される。これにより、尿中の尿酸量が大幅に減少し、尿路閉塞性合併症が実質的に解消される。
アロプリノールによる尿酸産生の阻害により、尿中のヒポキサンチン及びキサンチンの量は増加する。こうしたキサンチンの尿中排泄量の増加にもかかわらず、また、その溶解度が低いにもかかわらず、アロプリノール服用患者では、著者等の把握する限り、レッシュ・ナイハン症候群患者1名を除いて、キサンチン結石は報告されていない。最近報告された別の1名のレッシュ・ナイハン症候群患者では、尿中にキサンチンの沈殿物が生じ、留置尿道カテーテル内にキサンチンの沈着物が見られた。
以下の症例では、アロプリノール、プレドニゾン、並びに高用量のシクロホスファミド及びビンクリスチンによる治療を受けたリンパ肉腫患者にキサンチン結石が見いだされた。」(354頁右欄本文1~34行)
「上記の症例では、閉塞をキサンチン結石の要因と考えることは困難である。…
本症例におけるキサンチン結石の発生は、アロプリノールによって尿酸形成が阻害されている状態で、高用量の化学療法薬を投与したことと関連している可能性が最も高い。…
…一般に低用量で治療されるリンパ腫患者にキサンチン結石の報告例が存在しないことを考慮すると、本症例における合併症は、化学療法薬を高用量で投与したことが原因であったと考えられる。化学療法薬の使用量がより高用量となるにつれて、キサンチン結石の形成もより頻繁に見られるものと予想される。
結石の発生を防ぐ方法としては、例えば尿量を1時間当たり300mlに増やすことが挙げられる。…
…腎機能の低下が認められた場合は、結石形成に続発する閉塞を排除するために、静脈性腎盂造影及び逆行性腎盂造影が必要となる場合もある。…
リンパ腫及び高尿酸血症の患者をアロプリノールで治療する場合、特に治療の初期段階では、化学療法薬の高用量を慎重に使用する必要がある。」(356頁右欄11行~357頁左欄7行)
27 乙6(Cancer Research,1981,Vol.41,p.2273~2279)
「アロプリノールを投与したリンパ腫患者における化学療法後プリン排泄」(表題)
「著者等の研究は、急速な腫瘍融解を生じている患者でさえも、一般的に使用される用量のアロプリノールによって、尿酸排泄量の有意な増加を予防できることを示唆している。ただし、高キサンチン尿症はこれらの患者によく見られる所見であり、かかる高キサンチン尿症は腎不全を引き起こすおそれがある。このような患者には、水分補給と、1日当たり300~600mgのアロプリノールの投与を行う必要がある。このような治療を行っても、大量の腫瘍融解後には、プリン腎症が発症する場合がある。」(2278頁左欄24~34行)
28 乙7(British Journal of Haematology, 2004, Vol.127,p.3~11)
「腫瘍融解症候群:新しい治療戦略と分類」(表題)
「この群は、低リスク(非血液学的悪性腫瘍、低腫瘍負荷、低化学療法感受性、低白血球(WBC)数、及び/又は低乳酸脱水素酵素(LDH)レベル)と高リスク(血液学的悪性疾患、すなわち、バーキットリンパ腫、リンパ芽球性リンパ腫、高腫瘍負荷、高WBC数、高LDHレベル及び/又は高化学療法感受性)に分けられると考えられる。」(5頁左欄下から7行~右欄1行)
「アロプリノールによる治療の第二の限界は、プリン前駆体、キサンチン及びヒポキサンチンの血清レベルが増加することである(…)。キサンチンは尿酸と比較して尿への溶解性が低いため、急性閉塞性尿路疾患をもたらすキサンチン腎症が発症する可能性がある(…)。」(8頁右欄7~13行)
「高尿酸血症の予防及び/又は治療に推奨されるガイドライン
LTLS又はCTLSがなく、TLS発症リスクが低いと考えられる患者は、アロプリノール予防の候補となるであろう。…
LTLS及び/又はCTLSのいずれかを有する患者は、高尿酸血症の予防及び/又は治療のためのラスブリカーゼ療法のより良い候補者であろう。」(9頁左欄下から9行~右欄6行)
「
[図:0001400864000027.jpg]
」(9頁表6)
29 乙8(Seminars in Nephrology, 1993,Vol.13,No.3,p.273~280)
「広汎性大細胞型B細胞リンパ腫と診断された。臨床経過は、膵・胆管閉塞を合併しうるBurkittリンパ腫と同程度に侵襲性と判断した。入院9日目、CTスキャン前に、患者の血清クレアチニンは1.6に上昇した。その後7日間、患者の血清カリウム値は5.5、リン5.1、Ca9.6に上昇し、血清尿酸値は14.8 mg/dLであった(図1)。入院18日目に、0.45NaHCO3からなる静脈内輸液を200 mL/hの速度で投与した。しかしながら、患者のクレアチニン、カリウム、及びリンレベルは、その後24時間にわたって増加し続けた。結果として血液透析を開始し、そしてシトキサン、ビンクリスチン、プレドニゾン、及びアロプリノールによる化学療法を開始した。透析にもかかわらず、患者は5.3まで血清カリウム増加を示し続け、ケイキサレートによる追加治療を必要とした。アロプリノール療法にもかからわず、腎機能は悪化した。;リンと尿酸値は増加し、そして持続した。透析と化学療法を継続した。この間、患者は非乏尿性のままであった。入院21日目に、患者は重度の胃潰瘍による急性上部消化管出血を発症した。これは保存療法で管理され、次の48時間にわたり腎機能は改善し始めた。腎機能の改善に伴い、血清カルシウム、リン、カリウム、尿酸値は正常に戻った。次の10日にわたり、アロプリノールにより腎機能は更に改善し、新たなベースラインのクレアチニンは0.9mg/d、尿酸値は2.9mg/dに低下した。」(276頁左欄16~50行)
(当審注)分子量は、P=30.974、Ca=40.078なので、上記「リン 5.1」と「Ca 9.6」は以下のとおり換算される。
「リン5.1」=5.1×(1000/30.974)×(1/1000)×10=1.647 mmol/L
「Ca9.6」=9.6×(1000/40.078)×(1/1000)×10=2.395 mmol/L
30 乙10( British Journal of Haematology,2010,Vol.149,p.578~586)
「悪性疾患の成人及び小児における腫瘍溶解症候群(TLS)のリスク及び予防の評価のための推奨:専門家TLSパネルコンセンサス
概要
腫瘍溶解症候群(TLS)は、高尿酸血症、高リン酸塩血症、高カリウム血症、及び低カルシウム血症等の代謝異常を特徴とする致死的な腫瘍学上の緊急事象である。これらの代謝性合併症を有するがん患者は、腎不全、心不整脈、発作、神経学的合併症、そして潜在的突然死等の臨床毒性に冒されやすくなる。ラスブリカーゼ(組換え尿酸オキシダーゼ)等の新たな治療標的薬の利用可能性が高まっているにもかかわらず、TLSの発症リスクを有する個々の患者について、かかる症候群のリスク分類に関するガイドラインは公表されていない。著者等は国際TLS専門家コンセンサスパネルを開催し、TLSのリスクを有するがん患者を低、中間、及び高リスクに分類するための医学的判断ツリーのガイドラインを作成した。リスク因子としては、laboratory TLS(LTLS)の生物学的エビデンス、悪性腫瘍の増殖、体積、及び段階、並びにTLS診断時の腎機能及び/又は障害が挙げられた。小児及び成人の腫瘍医、TLS病態生理学の専門家、並びにTLSの予防及び管理の専門家による国際TLSコンセンサス専門家パネルは、低、中間、及び高リスクのTLS分類の最終モデルと、関連するTLS予防勧告を策定した。」(578頁表題、「Summary」)
「更に、このリスクモデルは、Coiffier等(2008)によって提案された小児及び成人のTLSの診断及び管理に関する最近のガイドラインを補足し、その上に構築されたものである。」(579頁右欄「Methods」の下から3~1行)
(当審注:「Coiffier等(2008)」は、2008年に発行された「Journal of Clinical Oncology,26,2767-2778」であり(584頁右欄8番目の文献)、甲3と同じ文献である。)
「TLSリスク分類モデル
TLSリスク評価は、3つの連続した段階に基づき、TLSリスクの最終評価を総合的に定義するものとされた。まず、患者をlaboratory TLS(LTLS)の有無について評価する(Hande & Garrow、1993;Cairo & Bishop、2004)。LTLSと定義されるには、尿酸(増加)、カリウム(増加)、又はリン酸塩(増加)の2つ以上の異常が要件とされた(Cairo & Bishop、2004)。次に、血液悪性腫瘍及び固形腫瘍をLRD、IRD、又はHRDに分類した。また、患者を年齢及び病期、バルク疾患、白血球数、LDHレベルに基づき階層化した。第3のステップでは、腎機能と腎障害に基づく調整を要件とした。こうして患者は最終的に、TLS発症の高リスク、中間リスク、又は低リスクを有すると分類されるものとされた。」(579頁右欄「TLS risk classification model」)
「一般に、TLS発症低リスク(LRD)の患者は、TLS及び合併症の発症について監視する必要がある。…TLS発症中間リスク(IRD)の患者は、TLS及び合併症を監視し、大量補液を行い(1日当たり3l/m2/d)、アロプリノール(100~300mg、経口、q8h、毎日)を投与すべきであるが、アルカリ化は不要である(表III)。…TLS発症のリスクが高い(HRD)患者では、頻繁なモニタリングを行うとともに、腎機能障害及び乏尿のエビデンスがない限り、大量補液(3l/m2/d)を行うべきであり、更にラスブリカーゼ(0.1~0.2mg/kg)を1回投与して、臨床的に必要な場合にのみ投与を繰り返す。グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ欠損症の既往歴のある患者では、ラスブリカーゼは禁忌であり、ラスブリカーゼの代わりにアロプリノールを使用する(表III)。この推奨グレードはレベルAである(表II)。更に、高カリウム血症及び/又は高リン酸血症の管理は、施設のルーチンに従って、及び/又は、従前のTLS治療ガイドラインに基づいて行うべきである(Cairo & Bishop、2004;Coiffier等、2008)。最後に、当初からLRD又はIRDの何れかに分類されていたLTLS発症患者には、臨床的に禁忌でない限りラスブリカーゼを投与するべきである。」(582頁右欄下から6行~583頁右欄2行)
また、583頁の表IIIには、推奨される予防処置として、中間リスク疾病(IRD)にはアロプリノール、高リスク疾病(HRD)にはラスブリカーゼが記載されている。
31 乙12(独立行政法人医薬品医療機器総合機構のウェブサイトの「重篤副作用疾患別対応マニュアル(医療関係者向け)」,p.1/10~10/10,[2021/2/26検索])
「重篤副作用疾患別対応マニュアルは、平成17年度から厚生労働省が実施する「重篤副作用総合対策事業」の第一段階「早期発見・早期対応の整備」(4年計画)の一環として、重篤度等から判断して必要性の高いと考えられる副作用について、患者の方や臨床現場の医師、薬剤師等が活用する治療法、判別法等を包括的にまとめたものです。
また、厚生労働省は改定事業として、本マニュアルの一層の活用を推進するため、関係学会の協力を得つつ、最新の知見を踏まえた改定・更新等を平成28年度から開始し、令和2年度末までに実施することとしています。」(1/10頁)
「年月 部位領域 副作用名 症状
…
平成23年3月 腎臓 腫瘍崩壊症候群 …
(平成30年6月改定)
」(5/10頁)
32 乙13(ラスリテック点滴静注用1.5mg及び同7.5mgの審議結果報告書,平成21年9月8日,医薬食品審査管理課)
「 審査報告書
平成21年8月19日
独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
承認申請のあった下記の医薬品にかかる医薬品医療機器総合機構での審査結果は以下のとおりである。
記
[販 売 名]ラスリテック点滴静注用1.5mg、同7.5mg
[一 般 名]ラスブリカーゼ(遺伝子組換え)
[申 請 者]サノフィ・アベンティス株式会社
[申請年月日]平成20年2月26日 」(「審議結果報告書」の次頁から始まる「審査報告書」の1頁1~10行。なお、以下の頁行は、「審査報告書」におけるものである。)
「(5)TLSの発症抑制について
…
機構は、本薬の薬理作用から腫瘍崩壊に伴う高尿酸血症の治療及び発症抑制は期待できると考える。しかし、TLSに特徴的な代謝異常に対して影響を及ぼさないことが示唆されており、TLSの発症抑制に関して、本薬とアロプリノールとの差異は明確ではないと考える。」(49頁7行、50頁本文1~4行)
「(2)アロプリノールとの安全性の差異について
…
機構は、本薬群とアロプリノール群の安全性プロファイル(…)を確認し、大きな差異はないと判断した。」(51頁本文1~5行)
「5)臨床的位置付けについて
本邦では、TLSに伴う高尿酸血症に対して、輸液、尿のアルカリ化及びアロプリノール投与による支持療法が行われている。
また、臨床試験では、血漿中尿酸値、癌腫(病期・病型)、腫瘍量、白血球数等に基づいてTLSリスク(High又はPotentialリスク)が定義されている。
機構は、TLSに伴う高尿酸血症に対する既存の支持療法と本薬との使い分けについて説明を求め、申請者は以下の旨を回答した。
…
機構は、本薬の位置付けについて、以下のように考える。
提出された資料からは、アロプリノールと本薬との有効性の差異は明確ではないと考えるが、少なくとも血中尿酸値については、アロプリノールと同程度の症例で管理が可能であったこと及び本薬の作用機序は既存の支持療法とは異なることから、本薬はTLSリスクが高く既存の支持療法では血中尿酸値の管理が不十分と考えられる症例において使用が推奨される薬剤としての位置付けであると考える。
しかしながら、TLS発症のリスク因子として、…等が挙げられてはいるものの、TLSは造血器腫瘍のみならず、固形腫瘍も含めた多くの癌腫で発症することが報告されており、腫瘍量や化学療法に対する感受性にも影響されることから、TLS発症を確実に予測することは困難と考える。また、TLSガイドラインに基づく本薬と既存の支持療法との使い分けに関する申請者の説明内容は理解できるものの、今後新たに得られる知見及び科学の進歩による治療ガイドラインの変遷やTLSリスク分類の判断基準の改訂等によって、推奨されるTLSの管理方法は変更される可能性があると考える。
したがって、本薬の適応患者については、がん化学療法に十分な知識・経験を有する医師が、提出された臨床試験の対象、並びに本薬の有効性及び安全性を十分に理解した上で、TLSの治療ガイドライン等の最新情報も参考に、本薬の投与が適切と判断される症例のみを選択する必要があると考える。」(55頁3行~56頁2行)
「(2)高尿酸血症の治療及び発症抑制について
申請者は、申請効能・効果に、高尿酸血症の「治療及び発症抑制」を含めた理由について、以下のように説明した。
…
機構は、以下のように考える。
臨床試験では、本薬はがん化学療法に先立って投与が開始されており、がん化学療法に伴う高尿酸血症の治療効果は検討されていないため、効能・効果において、がん化学療法に伴う高尿酸血症の『治療』を含めないことが適切と判断した。また、提出された資料からは、TLSや急性腎不全の発症抑制効果は確認されていないため、…『高尿酸血症』のみを設定することが適切と考える。…
…本薬の効能・効果は、『がん化学療法に伴う高尿酸血症の発症抑制』とすることが適切と判断した。」(58頁15~39行)
33 乙14(ポケット版 臨床医薬品集2010,株式会社薬事日報社,平成22年1月20日,p.700)
「d.腫瘍崩壊による高尿酸血症
ラスブリカーゼ組換え
rasburicase
[新]ラスリテック(サノフィ)点滴静注用
1.5mg,7.5mg
【警】(1)アナフィラキシーショックを含む重篤な過敏症(2)溶血性貧血あるいはメトヘモグロビン血症(3)グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠損では重篤な溶血性貧血(海外報告)あり
[特](1)腫瘍崩壊症候群の発症リスクを考慮.既存の支持療法では血中尿酸値の管理が不十分の場合のみに投与(2)がん化学療法後高尿酸血症の有効性及び安全性未確立
【適】がん化学療法に伴う高尿酸血症」(700頁3~19行)
(当審注:上記(1)~(3)は、●の中に白抜き数字である。)
34 乙15(泌尿器外科,2012年3月,Vol.25,No.3,p.297~303)
「欧米では遺伝子組み換え尿酸分解酵素製剤であるラスプリカーゼの有用性が報告されており,わが国でも2009年に保険承認されている。ラスプリカーゼの使用法も含めた腫瘍崩壊症候群の管理法に関してはガイドラインがあり,大変参考になる。」(301頁左欄下から8~3行。当審注:「ラスプリカーゼ」は「ラスブリカーゼ」の誤記と認められる。)
35 乙31(Pediatr.Nephrol.,2007,Vol.22,p.132~135)
「我々は、T細胞性急性リンパ性白血病の治療中に腫瘍融解症候群を併発した11才女児の両側性キサンチン腎症による乏尿性急性腎不全の症例を報告する。キサンチン腎症は、アロプリノールによる尿酸合成の阻害により、血漿中及び尿中のキサンチン及びヒポキサンチン濃度が症状することに起因する(132頁左欄6~12行)
36 乙32(Tumor lysis syndrome 」と題するウェブページ,オンライン公開日2011年4月28日,[2021/10/27検索],インターネット< https://somepomed.org/articulos/contents/mobipreview.htm?34/29/35281?view=print>)
「キサンチン尿症
…
したがって、アロプリノールを投与されている重度の(massive)TLS患者は、十分な水分補給及び尿アルカリ化にもかかわらず、尿細管にキサンチンが析出し、急性腎不全やキサンチン結石を引き起こす危険性がある[11-15]。」(「Xanthinuria」の項)
第6 当審の判断
当審は、訂正発明1~5は、無効理由4により無効とすべきものと判断する。また、当審は、訂正発明1~5は、無効理由1~3及び5のいずれによっても無効とすることはできないと判断する。その理由は、以下のとおりである。
1 訂正明細書に記載された事項
訂正明細書には、次のとおりの記載がある(なお、下線は当審が付したものがある。)。
(1)【技術分野】
「【0001】
本発明は、式(I)で表される2-フェニルチアゾール化合物又はそれらの医薬上許容される塩を有効成分として含有する、腫瘍融解症候群の治療薬及び予防薬に関する。」
(2)【背景技術】
「【0002】
腫瘍融解症候群(Tumor Lysis Syndrome、以下、「TLS」という場合がある。)は、化学療法や放射線療法などの導入によって腫瘍細胞が死滅する際、あるいは、腫瘍が自然崩壊する際に、細胞構成物質が大量かつ急激に血中に放出されることで生じる代謝障害である。腫瘍細胞が急激に死滅すると、核酸、タンパク質、カリウム、リンなどが一度に血液中に流入し、その結果、高尿酸血症、高カリウム血症、高リン血症、低カルシウム血症、尿毒症などを引き起こす。腫瘍融解症候群は、腫瘍崩壊症候群又は腫瘍溶解症候群ともいわれる。
【0003】
中でも、高尿酸血症は、細胞の核酸などに含まれるプリン体がキサンチンオキシダーゼにより代謝され、ヒポキサンチン、キサンチンを経て尿酸が産生されることにより生じ、体内での溶解限界を超えた高濃度の尿酸塩が腎臓や尿路に結晶沈着することで腎機能障害、さらには急性尿酸性腎症、すなわち急性腎不全を惹起し死亡に至らしめる。症状は通常治療開始後12~72時間でみられるため、患者には適切にリスク評価を行って、高リスク、中間リスク、及び低リスク群に分け、十分な予防策と詳細なモニタリングを行うとともに、発症時には早期に適切な治療を行うことが必要である。
【0004】
腫瘍融解症候群発症の可能性が高い患者に対しては、急性尿酸性腎症を防ぐため、あらかじめ充分な補液により尿量を確保し、尿が酸性の場合には結晶を作りやすいことから、尿のアルカリ化を図る。そして、尿酸値を低下させるために、キサンチンオキシダーゼ阻害薬のアロプリノールにより尿酸産生を抑制するか、尿酸酸化酵素であるラスブリカーゼにより尿酸を分解する治療法が行われている。なお、キサンチンオキシダーゼ阻害薬は、痛風及び高尿酸血症の治療薬として臨床応用されているものである。
【0005】
しかし、キサンチンオキシダーゼ阻害薬のアロプリノールは、尿酸の生成を抑制する作用機序であることから、既に尿酸値が高い場合には無効であることが知られる。また、アロプリノールによる尿酸値の低下効果発現まで数日を要することから、予防的に用いる場合、腫瘍を崩壊させるための化学療法の開始を遅らせなければならないこともある(非特許文献1)。またアロプリノールはキサンチンオキシダーゼを阻害する結果、キサンチンの尿中濃度の上昇や尿路への沈着を引き起こし、急性閉塞性尿路障害を発症させる可能性がある(非特許文献1)。これらの制限があることから、アロプリノールは、腫瘍融解症候群中間リスク例に対して、充分な輸液を行った上で尿量を確保し、化学療法開始12時間以上前から予防的に用いられている(非特許文献2)。アロプリノールの用法用量は50~100 mg/m2、又は10 mg/kg/日を8時間ごとに分割して投与することが推奨されている(非特許文献1)。
【0006】
一方、近年では、腫瘍融解症候群の治療又は予防において、血中の尿酸を分解する作用をもつ遺伝子組換え尿酸酸化酵素薬であるラスブリカーゼの有用性が示されている(非特許文献3)。しかし過敏症や溶血性貧血、メトヘモグロビン血症をもたらすことがあり、注意が必要である。また、投与された患者の体内で、抗体が産生するため、投与回数に制限があること、低分子の薬剤に比して製造コストが高く、高価格であるため、多用されず、主に腫瘍融解症候群高リスク患者への使用が推奨されている(非特許文献1)。また、中間リスク例については、既に高尿酸血症が存在している場合、あるいは化学療法中に高尿酸血症を発症した場合など、リスクが高まった場合に、治療的にラスブリカーゼの投与を行うことが推奨されている(非特許文献2)。
【0007】
本発明で用いられる2-[3-シアノ-4-(2-メチルプロポキシ)フェニル]-4-メチル-チアゾール-5-カルボン酸(一般名:フェブキソスタット)は、キサンチンオキシダーゼ阻害作用により尿酸値を低下させる作用を有することが知られており、投与量と有効性の関係が調べられ、高尿酸血症及び痛風の治療薬となることが明らかになっている(非特許文献4~6)。フェブキソスタットはアロプリノールと同じくキサンチンオキシダーゼ阻害薬である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Journal of Clinical Oncology、vol.26、No.16、2008、2767-2778
【非特許文献2】小児白血病・リンパ腫の診療ガイドライン2011年版
【非特許文献3】Journal of Clinical Oncology、vol.19、No. 3、2001、697-704
【非特許文献4】Journal of Clinical Rheumatology、vol.17、No. 4、2011、S35-S43
【非特許文献5】Journal of Clinical Rheumatology、vol.17、No. 4、2011、S44-S49
【非特許文献6】Journal of Clinical Rheumatology、vol. 17、No. 4、2011、S50-S56 」
(3)【発明が解決しようとする課題】
「【0009】
本発明の目的は、新規な腫瘍融解症候群の治療薬又は予防薬を提供することである。 」
(4)【課題を解決するための手段】
「【0010】
本発明者らが、腫瘍融解により既に高尿酸血症を呈した高リスク患者に、本発明における化合物を投与したところ、血中尿酸値が劇的に低下するとともに、腎機能も劇的に改善することを見出した。
また本発明者らが、腫瘍融解症候群の低~中間リスク造血器腫瘍患者に本発明における化合物の低用量を予防的に投与した後、腫瘍細胞への化学療法を実施したところ、全ての症例で血中尿酸値を正常範囲(7.5mg/dL以下)内にまで維持又は低下させ腎機能も改善させることを見出した。さらに、これらの患者のうち、特に白血球数(WBC)の高い重症の患者では、尿中尿酸排泄量を劇的に低下させる作用も見出した。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0011】 (1)下記式(I):
【化1】
[図:0001400864000028.jpg]
【0012】
(式中、
R1は、C1~C8アルコキシ基、モルホリノ基、4-メチルピペラジン-1-イル基又はピペリジノ基を表し、
R2は、ニトロ基又はシアノ基を表し、
Xは、カルボキシル基又はC2~C7アルコキシカルボニル基を表し、
Yは、水素原子又はC1~C6アルキル基を表す。)
で表される2-フェニルチアゾール化合物又はそれらの医薬上許容される塩を有効成分として含有する、腫瘍融解症候群の治療薬又は予防薬。
【0013】
(2)腫瘍融解症候群が、高リスク患者における腫瘍融解症候群である、(1)に記載の治療薬又は予防薬。
(3)腫瘍融解症候群が、中間リスク患者における腫瘍融解症候群である、(1)に記載の治療薬又は予防薬。
(4)腫瘍融解症候群が、低リスク患者における腫瘍融解症候群である、(1)に記載の治療薬又は予防薬。
(5)腫瘍融解症候群が、悪性腫瘍に対する化学療法又は放射線療法に伴う高尿酸血症を引き起こしていることを特徴とする、(1)~(4)のいずれかに記載の治療薬又は予防薬。
(6)腫瘍融解症候群が、抗腫瘍治療に起因せずに発症し、高尿酸血症及び腎機能低下が認められる腫瘍融解症候群である、(1)~(4)のいずれかに記載の治療薬又は予防薬。
(7)腫瘍融解症候群が、抗腫瘍治療実施前に高尿酸血症を呈している腫瘍融解症候群である、(1)~(6)のいずれかに記載の治療薬又は予防薬。
(8)腫瘍融解症候群が、抗腫瘍治療実施前に腎機能が低下している腫瘍融解症候群である、(1)~(7)のいずれかに記載の治療薬又は予防薬。
(9)式(I)で表される2-フェニルチアゾール化合物又はそれらの医薬上許容される塩を、1日あたり0.5~1000 mg、1~7日/週で投与することを特徴とする、(1)~(8)のいずれかに記載の治療薬又は予防薬。
(10)抗腫瘍治療実施後、血中尿酸値を正常値の範囲まで低下または正常値の範囲に維持し得る、(1)~(9)のいずれかに記載の治療薬又は予防薬。
(11)抗腫瘍治療実施後、腎機能を抗腫瘍治療開始前よりも改善または正常に維持し得る、(1)~(10)のいずれかに記載の治療薬又は予防薬。
(12)抗腫瘍治療実施後、尿中尿酸排泄量を正常値の範囲まで低下または正常値の範囲に維持し得る、(1)~(11)のいずれかに記載の治療薬又は予防薬。
(13)上記式(I)で表される2-フェニルチアゾール化合物が、2-[3-シアノ-4-(2-メチルプロポキシ)フェニル]-4-メチルチアゾール-5-カルボン酸又はその医薬上許容される塩である、(1)~(12)のいずれかに記載の治療薬又は予防薬。」
(5)【発明の効果】
「【0014】
本発明によると、式(I)で表される2-フェニルチアゾール化合物又はそれらの医薬上許容される塩を投与することにより、腫瘍融解症候群の治療又は予防することができる。
また、本発明における化合物は、血中尿酸値を充分に下げることが可能であるため、中間リスク患者、高リスク患者に対する腫瘍融解症候群の治療薬に限らず、予防薬としても投与が可能である。
さらに、本発明は、血中尿酸値の充分な低下や正常範囲内での維持だけでなく、尿中尿酸排泄量も低下や正常範囲内で維持させることができ、腎機能を改善し、又は悪化を防ぐことができる。」
(6)【発明を実施するための形態】
「【0017】
本発明における下記式(I):…
【0018】
… で表される2-フェニルチアゾール化合物又はそれらの医薬上許容される塩としては、例えば、2-[3-シアノ-4-(2-メチルプロポキシ)フェニル]-4-メチルチアゾール-5-カルボン酸が挙げられる。また、式(I)で表される化合物は、国際公開第92/09279号に記載の方法など、公知の方法により製造することができる。
…
【0021】
…
式(I)で表される化合物において、2-[3-シアノ-4-(2-メチルプロポキシ)フェニル]-4-メチルチアゾール-5-カルボン酸が好ましい。
さらに、本発明における化合物は、トピロキソスタット(topiroxostat、(4-[5-(pyridin-4-yl)-1H-1,2,4- triazol-3-yl]pyridine-2-carbonitrile)、ならびに、国際公開第2005/121153号、国際公開第2010/113942号、または 国際公開第2007/043457号に記載されたキサンチンオキシダーゼ阻害薬も用い得る可能性がある。
【0022】
本発明における腫瘍融解症候群とは、化学療法や放射線療法などの治療の際に腫瘍細胞が死滅する際、あるいは、高い増殖能をもつ腫瘍が自然崩壊する際に、細胞構成物質が大量かつ急激に全身の循環血中に放出されることで生じる代謝障害であり、高尿酸血症、高カリウム血症、高リン血症、低カルシウム血症、さらには、急性腎不全や不整脈を引き起こす致死的な疾患として定義される。2008年米国臨床腫瘍学会(ASCO)ガイドラインでは腫瘍融解症候群の診断と重症度について、laboratory TLS とclinical TLSに分け、前者はリン酸、カルシウム、カリウム、及び尿酸の各血清レベルのうち2つ以上に基準値と比べ25%以上の変動がある場合として(表1)、後者は血清クレアチニン値、不整脈、けいれんの各重症度をもとにgrade 0-5まで分けて、定義されている(表2)。
【0023】
【表1】
[図:0001400864000029.jpg]
【0024】
【表2】
[図:0001400864000030.jpg]
【0025】
腫瘍融解症候群は、発症すると急速に症状が進展し治療が困難であるため、予防が重要とされており、患者の腫瘍融解症候群の発症リスクを見極め、腫瘍の治療を開始する前に予防策が講じられている。その際の患者の腫瘍融解症候群発症リスクは、腫瘍のタイプにより高リスク(High Risk)、中間リスク(Intermediate Risk)、低リスク(Low Risk)に定義される(表3)。また、化学療法などの抗腫瘍治療を実施する前より既に腫瘍融解症候群が発症し、高尿酸血症を呈し腎機能が低下している場合には、化学療法などの治療により、急性腎不全の発症リスクがさらに高まることから、腫瘍融解症候群の高リスク患者に相当するリスクを有するものと判断される。
【0026】
【表3】
[図:0001400864000031.jpg]
【0027】
2008年米国臨床腫瘍学会(ASCO)ガイドライン等では、高リスク患者は水分補給に加えてラスブリカーゼによる管理を、中間リスク患者には、水分補給に加えてアロプリノールによる管理を、又は小児の場合にはラスブリカーゼによる管理が推奨される。また、中間リスク患者においても、既に高尿酸血症が発症している場合には、ラスブリカーゼによる管理が推奨される。
【0028】
腫瘍融解症候群の良好な管理とは、通常、尿酸降下薬を化学療法や放射線療法等の治療前に投与開始し、化学療法や放射線療法などによる腫瘍の治療後まで投与継続し、尿酸降下薬の投与開始後48時間の時点で血中尿酸値が、13歳以上の患者の場合には7.5 mg/dL以下に、13歳未満の患者の場合には6.5mg/dL以下に達し、尿酸降下薬投与終了24時間まで維持されることにより定義される。さらには腫瘍融解症候群の管理の臨床的な意義とは、腫瘍融解症候群の発症抑制並びに腫瘍融解症候群に伴う急性腎不全等の腎機能障害の発症抑制又は透析回避と定義される。
即ち本発明において、「正常値」とは、腫瘍融解症候群を良好に管理する目標値であり、血清尿酸値としては7.5 mg/dL以下であり、腎機能については、糸球体濾過率推算値が概ね60 mL/分以上であるか、血清クレアチニン値が概ね1.1 mg/dL以下である状態を意味する。
【0029】
本発明における化合物はキサンチンオキシダーゼ阻害薬であるが、従来の腫瘍融解症候群治療に使用されているキサンチンオキシダーゼ阻害薬の血中尿酸値低下作用に比べて、低下度合いが高いため、中間リスク患者だけでなく、高リスク患者についても有効である。また、腫瘍融解症候群発症前の患者だけでなく、腫瘍融解症候群発症後の患者についても有効である。本発明における腫瘍融解症候群の腫瘍には、造血器腫瘍や固形腫瘍等が含まれる。
【0030】
さらに本発明における予防薬又は治療薬は、低用量であっても、血中尿酸値を正常値の範囲内に維持、又は低下させ、腎機能の悪化を防ぎ、又は改善し、腫瘍融解症候群の予防又は治療に効果を有する。本発明における予防薬又は治療薬は、尿中尿酸排泄量についても、正常範囲内に維持、又は低下させることが可能である。
…
【0034】
本発明の有効成分の投与量としては、腫瘍融解症候群の治療又は予防に有効な量であり、かつ、患者の症状、年齢、体重、併用療法の種類、治療の頻度、望まれる効果の種類、あるいは投与法等に応じて定めることができる。通常、1日あたり0.5~1000mg程度、好ましくは、成人は10~120mg、小児では3~120mgであり、例えば1日あたり3,5,10,20,30,40,50,60,80又は120mg投与する。1回あたりの投与量は、0.1~1000mg程度、好ましくは1~120mgである。小児の場合は成人に比べて適宜減量して投与する。投与は、発症前から開始又は発症後から開始し、連日投与又は間歇的に投与しても良く、通常1~3回/日、1~7日/週で投与する。本発明における治療薬又は予防薬は、このような条件を満足するように製剤を調製するのが好ましい。」
(7)【実施例】
「【0035】
実施例1.腫瘍融解症候群患者の血清尿酸値、腎機能に対する影響の検討(図1)
フェブキソスタットの高リスク腫瘍融解症候群患者への治療効果を検討するために、抗腫瘍治療に起因せずに発症し、高尿酸血症を既に呈している高リスク腫瘍融解症候群患者に新鮮凍結血漿、赤血球濃厚液による輸血を行った後、補液による尿量の確保と尿のアルカリ化とともに、フェブキソスタット(60mg)を3日間経口投与し、血清尿酸値及び腎機能をフェブキソスタット投与前と比較した。
【0036】
<対象患者>
53歳女性、骨髄異形成症候群(MDS)、白血球数(WBC)15400/μL
【0037】
<結果>
血清尿酸値(UA):投与前9.7 mg/dLであったのに対し、翌日よりフェブキソスタット(60 mg/日)3日間投与により、4日目には1.7 mg/dLに低下、82.4%の高い低下率を示した。
【0038】
血清クレアチニン(Cre)、糸球体濾過率推算値(eGFR):投与前血清Cre0.87mg/dL(糸球体濾過率推算値:eGFR 53mL/分)であったのに対し、フェブキソスタット(60 mg/日)3日間投与により、4日目にはクレアチニン値は0.73 mg/dLに低下、eGFRは増加し64 mL/分を示した。
この結果に認める如く、フェブキソスタットの投与により血清尿酸値が急速に低下し、あわせて腎機能も改善し、本薬が、腫瘍融解症候群の治療に有効であることが示された。
【0039】
実施例2.造血器腫瘍患者の化学療法実施時の血清尿酸値、腎機能、尿中尿酸排泄量に対する予防効果の検討(表4、図2~4)
フェブキソスタットの腫瘍融解症候群予防効果を検討するために、腫瘍融解症候群の低~中間リスク造血器腫瘍患者に化学療法を実施する直前または前日より、フェブキソスタットの10 mg(痛風及び高尿酸血症における開始用量)を1日1回連日経口投与し、投与開始5日目における血清尿酸値及び腎機能をフェブキソスタット投与の開始前と比較した。採尿できた症例については、投与開始5日目における尿中尿酸排泄量をフェブキソスタット投与の開始前と比較した。
【0040】
<対象患者(表4)>
表4に、造血器腫瘍患者の年齢、性別、原疾患、白血球数を示す。
36~79歳(中央値70歳)の男女7症例(男性6例、女性1例)、急性骨髄性白血病(AML3例)、びまん性大細胞性B細胞性リンパ腫(DLBCL2例)、慢性骨髄単球性白血病(CMML1例)、慢性骨髄性白血病(CML1例)、白血球数(WBC)3200~347000/μL
【0041】
【表4】
[図:0001400864000032.jpg]
【0042】
<結果>
血清尿酸値(UA)(図2):開始前平均6.3 mg/dLであったのに対し、フェブキソスタット投与開始5日目に平均4.6 mg/dLに低下することが示された。なお、症例2についてはUAの上昇が見られたが、1.9 mg/dLから2.3 mg/dLへの上昇であり、投与前のUAが低かったため、低下させにくく、正常値の範囲内で維持された。
【0043】
糸球体濾過率推算値(eGFR)(図3):開始前平均69.7 mL/分であったのに対し、フェブキソスタット投与開始5日目に平均76.9 mL/分に上昇した。なお、症例2についてはeGFRの低下が見られたが、101 mL/分から99 mL/分への低下であり、正常値の範囲内で維持された。その他の症例では、維持または改善することができ、全ての症例で急性腎不全を予防した。
【0044】
尿中尿酸排泄量(urinary UA)(図4):採尿できた症例に関して、開始前平均1.2 g/日であったのに対し、フェブキソスタット投与開始5日目に平均0.9 g/日に低下した。1例は正常値の範囲内で維持でき、WBCが高い重度の症例では、化学療法実施にも関わらず、2.4から0.7 g/日に劇的に低下した。なお、症例2についてはurinary UAの上昇が見られたが、0.8 g/日から1.6 g/日への軽度の上昇に留まった。
【0045】
この結果に認める如く、低用量である10 mgのフェブキソスタットの予防的投与により、化学療法の実施にも関わらず、全ての症例で血清尿酸値を正常値の範囲内に維持又は低下させることができ、あわせて腎機能も改善し、さらに、尿中尿酸排泄量についても特に重度の症例では劇的に低下させることができたことから、本薬が、腫瘍融解症候群の予防に有効であることが示された。」
(8)【図面の簡単な説明】及び【図1】
「【0015】
【図1】図1は、実施例1における高リスク腫瘍融解症候群患者にフェブキソスタットを投与した後の患者の血液中の尿酸値(UA)、血清クレアチニン値(Cre)及び糸球体濾過率推算値(eGFR)の推移を示すグラフである。」
「
[図:0001400864000033.jpg]
」
2 無効理由1(明確性要件違反)について
(1)請求人らの主張の概要
ア 訂正前の請求項1~6についての主張
明細書には、「リスク」とはTLSの発症リスクであり、「高リスク」は表3に従い定義されることが記載されているところ、請求項1~6における構成1-B2a及び1-B2bは、TLSが既に発症しているので、もはやTLSの発症リスク自体観念できない。
したがって、B2群のTLS発症患者で、かつ、「高リスク患者」(TLS未発症の表3の高リスク腫瘍患者)を観念することができない。
また、既にTLSが発症している患者の「腫瘍融解症候群の高リスク患者に相当するリスク」とは何のリスクなのか不明であり、どの程度の「腎機能低下」(構成1-B2a)を「高リスク患者に相当する」といっているのかも不明確である。
したがって、「高リスク患者」及び「腎機能低下」(構成1-B2a)の意味や範囲が明確ではなく、「腫瘍融解症候群が発症」(構成1-B2a及び1-B2b)と「高リスク」の関係も整合していないから、請求項1~6に係る発明は、明確性要件に違反している(審判請求書9頁下から7行~12頁6行)。
イ 訂正後の請求項1~5についての令和3年12月8日提出の弁駁書(参加人東和薬品株式会社)及び令和3年12月9日提出の弁駁書(請求人及び参加人Meiji Seikaファルマ株式会社)における主張
(i)訂正事項1-2によって予防薬の対象から表3の高リスクが削除され、訂正事項1-3によって治療薬の対象から、表3の高リスクが削除されたが、依然として「高リスク患者」を発明特定事項としており、当該構成が何を特定しているのか不明確である。訂正明細書においては「高リスク」は表3で「定義される」(【0025】)ところ、当該定義との関係を理解することができない。
(ii)訂正事項1-3により除かれる急性リンパ芽球性白血病と急性骨髄性白血病におけるWBCの値が無単位で記載されており、不明確である。
(iii)予防薬は「疾病の発症を阻止するもの」(甲41)であるところ、TLS発症患者に対する予防は観念できず矛盾がある。
また、抗腫瘍治療を実施する場合において、抗腫瘍治療に起因して発症するTLSと起因せずに発症するTLSとをどのように区別するのか不明であるから、いかなる予防薬が「抗腫瘍治療に起因する腫瘍融解症候群の予防薬」に該当するのか理解できない。
(2)当審の判断
ア 本件出願時の技術常識
腫瘍融解症候群は、腫瘍の急速な細胞崩壊のために、細胞内成分とその代謝物が体内に蓄積し、尿酸・リン・カリウムの血中濃度上昇や急性腎不全を含む多彩な病態を生じるものであり、その発生頻度は、リスク対象となる症例の設定基準や診断基準の取り方等によって大きく異なる(甲6:10頁下から9~1行)。
2008年米国臨床腫瘍学会(ASCO)ガイドラインによると、腫瘍融解症候群(TLS)は、lavolatory TLS(LTLS)とclinical TLS(CTLS)に分けられるところ(甲6:11頁2~3行)、それらの有無に応じて、以下の(i)~(iii)の治療又は予防処置を行うことが、本件出願時の技術常識となっていた(乙2:図1)。
(i)LTLSが存在しない患者は、リスクに応じた予防処置を行う。
(ii)LTLSが存在する患者は、高リスクの予防処置に準じた処置を行う。
(iii)CTLSが存在する患者は、TLS治療を行う。
イ 訂正発明1について
(ア)「高リスク患者」について
a 訂正発明1において、「高リスク患者」を特定するための事項として、「1-B2a:抗腫瘍治療に起因せずに腫瘍融解症候群が発症し、尿酸の血中測定値が8mg/dL以上である高尿酸血症及び腎機能低下が認められる」、又は、「1-B2b:抗腫瘍治療の実施前に腫瘍融解症候群が発症し、尿酸の血中測定値が8mg/dL以上である高尿酸血症が認められる」との事項(B2群)が記載されている。
そうすると、訂正発明1の「高リスク患者」は、B2群である「腫瘍融解症候群が発症し」た患者を意味していることは明らかである。
b また、訂正明細書には、「化学療法などの抗腫瘍治療を実施する前より既に腫瘍融解症候群が発症し、高尿酸血症を呈し腎機能が低下している場合には、化学療法などの治療により、急性腎不全の発症リスクがさらに高まることから、腫瘍融解症候群の高リスク患者に相当するリスクを有するものと判断される。」(【0025】)と記載されており、当該記載における「化学療法などの抗腫瘍治療を実施する前より既に腫瘍融解症候群が発症し、高尿酸血症を呈し腎機能が低下している」患者とは、血清尿酸値の正常値(7.5mg/dL以下【0028】)を上回る尿酸の血中測定値である8mg/dL以上である蓋然性が高いことから、訂正発明1の1-B2b患者に該当するといえ、このような患者は、高リスク患者に相当する「リスク」を有するものと判断されると記載されている。
さらに、訂正明細書の実施例1において、フェブキソスタットが「腫瘍融解症候群の治療」に有効であることが示されたとされる骨髄異形成症候群の患者は、「抗腫瘍治療に起因せずに発症し、高尿酸血症を既に呈している高リスク腫瘍融解症候群患者」と記載され(【0035】)、血清尿酸値が9.7mg/dL、正常値(概ね60mL/分以上【0028】)を下回る糸球体濾過率推算値(53mL/分【0038】)であり腎機能の低下が認められることから、実施例1の上記患者は、訂正発明1の1-B2a患者に該当し、このような患者を「高リスク腫瘍融解症候群患者」と表記している。
そうすると、訂正明細書においては、腫瘍融解症候群を未だ発症していない患者だけでなく、腫瘍融解症候群を発症した患者も、「急性腎不全の発症リスクがさらに高まる」等の観点から、「腫瘍融解症候群の高リスク患者に相当するリスクを有する」患者として、「高リスク患者」の概念に含めていることが理解できる。
c また、上記bの訂正明細書における「高リスク患者」の概念は、上記アに説示した、LTLSが存在しない患者に対して、リスクに応じた予防処置を行う(上記ア(i))のみならず、LTLSが存在する患者に対しても、高リスクの予防処置に準じた処置を行う(上記ア(ii))という、本件出願時の技術常識とも整合する。
d 上記a~cによれば、訂正発明1における「高リスク患者」は、B2群の患者であることを意味していると解されるところ、その解釈は、訂正明細書の記載と整合し、本件出願時の技術常識とも整合するから、訂正発明1の「高リスク患者」の意味は、明確である。
(イ)「腎機能低下」について
訂正明細書には、「本発明において、『正常値』とは、腫瘍融解症候群を良好に管理する目標値であり、血清尿酸値としては7.5mg/dL以下であり、腎機能については、糸球体濾過率推算値が概ね60mL/分以上であるか、血清クレアチニン値が概ね1.1mg/dL以下である状態を意味する。」(【0028】)と記載されていることから、「腎機能」については、糸球体濾過率推算値又は血清クレアチニン値を指標としていることが理解でき、「腎機能低下」とは、それらの指標のいずれかが正常値から外れることを意味していると理解できる。
したがって、訂正発明1の「腎機能低下」の意味は、明確である。
(ウ)白血球数の単位について
訂正明細書【0040】【0041】に記載されるように、白血球数(WBC)の単位は「/μL」で表記されるものであるから、訂正発明1における白血球数(WBC)の単位は、「/μL」であることは明らかである。
したがって、訂正発明1の「白血球数(WBC)」の単位は、明確である。
(エ)「抗腫瘍治療に起因する腫瘍融解症候群の予防薬」について
腫瘍融解症候群の患者には、いずれ抗腫瘍治療を施すことは技術常識であるところ、「抗腫瘍治療に起因する腫瘍融解症候群」とは、抗腫瘍治療を実施したことにより発症するものと解されるから、抗腫瘍治療の開始と腫瘍融解症候群の発症時期等の関係から、当業者であれば、抗腫瘍治療に起因するものと起因しないものとを、明確に区別することができる。
また、腫瘍融解症候群を発症した患者において、訂正発明1のフェブキソスタットを適用することは、その後、抗腫瘍治療を実施する場合に発症する可能性のある、急性腎不全(【0025】)を含む「抗腫瘍治療に起因する腫瘍融解症候群」を予防するということにもなるから、訂正発明1のフェブキソスタットは、「抗腫瘍治療に起因する腫瘍融解症候群の予防薬」としての役割も果たすことは明らかである。
したがって、訂正発明1の「抗腫瘍治療に起因する腫瘍融解症候群の予防薬」の意味は、明確である。
(オ)以上によれば、訂正発明1は、明確である。
ウ 訂正発明2~5について
訂正発明1の発明特定事項を備える訂正発明2~5も、訂正発明1について説示したものと同様の理由により明確である。
エ 請求人らの主張について
(ア)請求人らは、被請求人がB2群に対応するという訂正明細書【0025】の記載は、少なくともCTLSと診断された患者が除かれているとは理解できないから、当該記載は、CTLSと診断されない患者(乙2図1)であるとの被請求人の主張とは整合していないし、また、本件特許権の存続期間延長登録の審査過程における自らの主張とも矛盾しているから、訂正発明における「高リスク患者」は明確ではない旨を主張する(令和2年10月30日提出の弁駁書10~13頁)。
しかしながら、訂正明細書【0025】の記載は、CTLSと診断された患者であると記載されていない以上、乙2図1と矛盾するとはいえないし、本件特許権の存続期間延長登録の審査過程における被請求人の主張は本件における明確性の判断を左右するものではない。
したがって、請求人らの上記主張は採用できない。
(イ)請求人らは、どの程度の「腎機能低下」が高リスク患者に相当するのか明確ではなく、訂正明細書【0028】に記載の正常値から外れれば直ちに「腎機能低下」に該当するとはいえないし、当該記載によれば、糸球体濾過率推算値か血清クレアチニン値のいずれかが正常値を満たせば腎機能は「正常」であることは論理必然であり、血清クレアチニン値は正常値である実施例1の患者が、「腎機能低下」が認められるとの被請求人の主張は【0028】の規定に反している旨を主張する(審判請求書11頁、令和2年10月30日提出の弁駁書14~15頁)。
しかしながら、糸球体濾過率推算値と血清クレアチニン値とはいずれも腎機能の指標であるから、その一方の値が正常値から外れれば腎機能が低下したと理解するのが自然である。
したがって、請求人らの上記主張は採用できない。
(ウ)請求人らは、被請求人がB2群に対応するという訂正明細書【0025】の「急性腎不全の発症リスクがさらに高まる」レベルの「腎機能低下」とは具体的にいかなる基準で判断すればよいのか明確ではない旨を主張する(令和2年10月30日提出の弁駁書14~15頁)。
しかしながら、訂正発明の構成要件である1-B2aにおいて、「急性腎不全の発症リスクがさらに高まる」レベルの腎機能低下であることは特定されていないから、当該レベルの判断基準が何であるかは、訂正発明の明確性の判断を左右するものではない。
(エ)請求人らは、訂正明細書【0028】の「概ね60mL/分」という基準もあいまいで、実施例1の53mL/分が「概ね60mL/分」に該当するのかどうかも不明確である旨を主張する(令和2年10月30日提出の弁駁書15頁)。
しかしながら、「概ね60mL/分」は、厳密な意味で「60mL/分」を示すものに限るのではなく、腎機能低下の有無を判断するという目的に照らして、ある程度の範囲を含むものである。
したがって、「概ね60mL/分」という基準は曖昧とはいえない。
(オ)請求人らは、抗腫瘍治療を実施する場合において、抗腫瘍治療に起因して発症するTLSと起因せずに発症するTLSとをどのように区別するのか不明であるから、いかなる予防薬が「抗腫瘍治療に起因する腫瘍融解症候群の予防薬」に該当するのか理解できない旨を主張する(令和3年12月9日提出の弁駁書13頁)。
しかしながら、腫瘍融解症候群は、化学療法や放射線治療などの抗腫瘍治療に起因して生じることは技術常識となっていることから、当業者において、抗腫瘍治療を実施する場合において、抗腫瘍治療に起因して発症するTLSか否かは、その発症の時期等から、当業者において自明であるといえる。
したがって、請求人らの上記主張は採用できない。
(3)小括
以上のとおり、訂正発明1~5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものであるとはいえない。
よって、無効理由1には理由がない。
3 無効理由2(実施可能要件違反)について
(1)医薬の用途発明においては、一般に、物質名、化学構造等が示されることのみによっては、その有用性を予測することは困難であり、発明の詳細な説明に、有効量、投与方法、製剤化のための事項がある程度記載されていても、それだけでは、当業者は当該医薬が実際にその用途において利用できるかどうかを予測することは困難であり、当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されているというためには、明細書において、当該物質が当該医薬用途に利用できることを薬理データ又はこれと同視することができる程度の事項を記載して、その医薬を製造することができるだけでなく、出願時の技術常識を参酌して、当該用途の医薬として使用できることを当業者が理解できるように記載される必要がある。
(2)訂正発明1について
ア 本件出願時の技術常識を参酌して、訂正明細書の発明の詳細な説明の記載から、フェブキソスタットを1日1回60mg投与することにより、1-B2a又は1-B2bの高リスク患者で「本件所定の造血器腫瘍の患者」において、腫瘍融解症候群の治療又は抗腫瘍治療に起因する腫瘍融解症候群の予防ができることを、当業者が理解することができるかについて、以下、検討する。
イ 訂正明細書の発明の詳細な説明には、フェブキソスタットは、腫瘍融解症候群中間リスク例に対して予防的に用いられているアロプリノールと同じく、キサンチンオキシダーゼ阻害薬であって、キサンチンオキシダーゼ阻害作用により尿酸値を低下させる作用を有することが知られており、高尿酸血症及び痛風の治療薬となることが明らかになっていることが記載されている(【0005】及び【0007】)。
また、「本発明」における化合物は、従来の腫瘍融解症候群治療に使用されているキサンチンオキシダーゼ阻害薬の血中尿酸値低下作用に比べて、低下度合いが高いため、中間リスク患者だけでなく、高リスク患者についても有効であり、また、腫瘍融解症候群発症前の患者だけでなく、発症後の患者についても有効であることが記載されている(【0029】)。
さらに、実施例1において、「抗腫瘍治療に起因せずに発症し、高尿酸血症を既に呈している高リスク腫瘍融解症候群患者」とされる骨髄異形成症候群(MDS)で白血球数(WBC)15400/μLである53歳女性に対して、フェブキソスタット(60mg/日)3日間投与により、投与前には、血清尿酸値(UA)9.7mg/dL、血清クレアチニン(Cre)0.87mg/dL、糸球体濾過率推算値(eGFR)53mL/分であったところ、4日後には、それぞれ、1.7mg/dL、0.73mg/dL、64mL/分となり、血清尿酸値が顕著に(82.4%)かつ急速に低下し、腎機能も改善し、本薬が、腫瘍融解症候群の治療に有効であることが示されたことが記載されている(【0035】~【0038】、【図1】)。
そして、図1の矢印の記載からみて、フェブキソスタットの投与は、1日1回であることが理解できる。
ウ 実施例1の患者は、骨髄異形成症候群(MDS)の患者であるから、訂正発明1の「造血器腫瘍の患者(ただし、…を除く)」(本件所定の造血器腫瘍の患者)に該当する。
また、実施例1の患者は、抗腫瘍治療に起因せずに腫瘍融解症候群を発症した、血清尿酸値9.7mg/dL(8mg/dLよりも高い値)と高尿酸血症を既に呈しており、また、糸球体濾過率推算値(eGFR)が正常値(概ね60mL/分以上【0028】)を下回る53mL/分であり、腎臓の機能低下が認められることから、「1-B2aの高リスク患者」に該当する。
そして、抗腫瘍治療に起因せずに腫瘍融解症候群が発症した患者は、抗腫瘍治療の実施前に腫瘍融解症候群が発症した患者であることが推認できるので、実施例1の患者は「1-B2bの高リスク患者」にも該当するといえる。
そうすると、実施例1の記載から、フェブキソスタットを1日1回60mg投与することにより、1-B2a又は1-B2bの高リスク患者で「本件所定の造血器腫瘍の患者」において、腫瘍融解症候群の治療ができることを、当業者が理解することができる。
エ そして、上記患者において、既に発症した腫瘍融解症候群の治療ができることを当業者が理解できるのであるから、上記患者が、抗腫瘍治療を行うに当たり、抗腫瘍治療に起因する腫瘍融解症候群が発症するのを予防できることを、当業者であれば理解することができる。
オ 以上によれば、本件出願時の技術常識を参酌して、訂正明細書の発明の詳細な説明の記載から、フェブキソスタットを1日1回60mg投与することにより、1-B2a又は1-B2bの高リスク患者で「本件所定の造血器腫瘍の患者」において、腫瘍融解症候群の治療又は抗腫瘍治療に起因する腫瘍融解症候群の予防ができることを、当業者が理解することができる。
(3)訂正発明2について
訂正発明2は、訂正発明1において、「有効成分を、1~7日/週で投与すること」を特定したものである。
訂正明細書の実施例1においては、フェブキソスタットを1日1回60mg、3日間投与したことが記載されている。
そうすると、フェブキソスタットを、実施例1における3日間を含む「1~7日/週」で投与した場合においても、1-B2a又は1-B2bの高リスク患者で「本件所定の造血器腫瘍の患者」において、腫瘍融解症候群の治療又は抗腫瘍治療に起因する腫瘍融解症候群の予防ができることを、当業者が理解することができる。
(4)訂正発明3~5について
訂正発明3は、訂正発明1又は2において「抗腫瘍治療実施後、血中尿酸値を正常値の範囲まで低下または正常値の範囲に維持し得る」こと、訂正発明4は、訂正発明1~3のいずれかにおいて「抗腫瘍治療実施後、腎機能を抗腫瘍治療開始前よりも改善または正常に維持し得る」こと、訂正発明5は、訂正発明1~4のいずれかにおいて「抗腫瘍治療実施後、尿中尿酸排泄量を正常値の範囲まで低下または正常値の範囲に維持し得る」ことを特定したものである。
上記(2)及び(3)の説示を踏まえると、1-B2a又は1-B2bの高リスク患者で「本件所定の造血器腫瘍の患者」において、抗腫瘍治療を実施した後においても、血中尿酸値又は尿中尿酸排泄量を正常値の範囲まで低下又は正常値の範囲に維持し、また、腎機能を抗腫瘍治療開始前よりも改善又は正常に維持することを、当業者であれば理解できる。
(5)請求人らの主張について
ア 請求人らは、実施例1の患者は、クレアチニンの値が正常値であるから「腎機能低下」を発明特定要素とする構成1-B2aに該当せず、さらに、実施例1は、抗腫瘍治療も実施されていないので、「抗腫瘍治療の実施」を前提とする構成1-B2bにも該当しないから、実施例1は訂正発明を実施したものではない旨を主張する(審判請求書12~13頁、令和2年10月30日提出の弁駁書16~23頁)。
しかしながら、上記(2)に説示したように、実施例1の患者は、1-B2a及び1-B2bのいずれの患者にも該当するから、請求人らの上記主張は採用できない。
イ 請求人らは、実施例1において尿酸値が改善しても、TLSの診断に関するリン酸、カルシウム及びカリウムの各血清レベル(【0022】)のデータが不明である以上、フェブキソスタットがTLSの治療や予防に効果があるのかを認識できず、また、輸血、補液、尿のアルカリ化等の処置の効果を除いたフェブキソスタット単独の効果も認識できない旨を主張する(審判請求書14~15頁、令和2年10月30日提出の弁駁書23~28頁)。
しかし、実施例1において、リン酸、カルシウム及びカリウムの各血清レベルの測定までしなくとも、訂正明細書【0037】~【0038】に記載のとおり、腫瘍融解症候群患者の尿酸値が低下し、腎機能も改善したことが確認されていれば、TLSの治療薬又は予防薬として使用できると当業者は理解できる。そして、実施例1における輸血、補液、尿のアルカリ化等の処置は、実施例1のような患者に施す基本的な処置であり、これらの処置を行わなかった場合との比較がなくとも、フェブキソスタットを投与したことにより尿酸値等が改善したことを当業者は理解できる。
したがって、請求人らの上記主張は採用できない。
ウ 請求人らは、訂正発明に関するただ一つの実施例1では、抗腫瘍治療は実施されていないので、訂正発明の予防薬の効果を確認することができないし、実施例1の結果から推測することもできない旨を主張する(令和2年10月30日提出の弁駁書29頁、令和3年12月9日提出の弁駁書14頁)。
しかしながら、実施例1では抗腫瘍治療は実施されていなくても、既に発症した腫瘍融解症候群を治療できているのであるから、抗腫瘍治療を実施した場合においても、腫瘍融解症候群の発症を予防することができると当業者であれば理解するものといえる。
(6)小括
以上のとおり、訂正発明1~5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してなされたものであるとはいえない。
よって、無効理由2は理由がない。
4 無効理由3(サポート要件違反)について
(1)特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(2)訂正明細書【0009】の記載によれば、訂正発明1~5の課題は、「新規な腫瘍融解症候群の治療薬又は予防薬を提供する」ことである。
上記3に説示したように、本件出願時の技術常識に照らし、訂正明細書の発明の詳細な説明の記載により、フェブキソスタットを1日1回60mg投与することにより、1-B2a又は1-B2bの高リスク患者で「本件所定の造血器腫瘍の患者」において、腫瘍融解症候群の治療又は抗腫瘍治療に起因する腫瘍融解症候群の予防ができることを、当業者が理解することができる。
そうすると、訂正発明1~5は、当業者が、「新規な腫瘍融解症候群の治療薬又は予防薬を提供する」という課題を解決できると認識し得る範囲内のものである。
(3)小括
以上のとおり、訂正発明1~5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものであるとはいえない。
よって、無効理由3は理由がない。
5 無効理由4(甲1に基づく進歩性欠如)について
(1)本件優先日当時の技術常識
ア 腫瘍融解症候群の治療又は予防におけるアロプリノールの使用について
腫瘍融解症候群とは、腫瘍細胞が大量に崩壊するときに起きるもので、それらの細胞から放出された大量の核酸から産生される尿酸により、高尿酸血症が生じる。尿酸は結晶化しやすいため尿細管や尿管で尿酸の結晶が詰まると、尿が出なくなる急性腎不全となり、場合によっては一時的に人工透析が必要になる(甲6:6頁2~21行)。
そこで、腫瘍融解症候群における高尿酸血症に対処するために、尿酸降下薬として高尿酸血症や痛風患者の治療に用いられる、核酸からの尿酸産生を阻害するキサンチンオキシダーゼ阻害薬であるアロプリノールが用いられていた(甲1:401頁図2、403頁左欄12~44行)。
そして、以下の甲2、甲6、甲30、甲32~甲35、甲42、乙8の記載によれば、本件優先日当時、アロプリノールが、腫瘍融解症候群の高リスク患者又は発症した患者において投与できることは、技術常識となっていたといえる。
・甲2(2008年)には、UA38.2mg/dLであり、急性腎不全を呈していた、バーキットリンパ腫/白血病(新WHO分類) の患者において、急性腎不全に対する血液透析療法及び全身状態を改善するためのプレドニゾロン投与とともに、TLSに対する治療としてアロプリノールを投与したところ、UA18.2mg/dLに低下した症例1が記載され、また、当該症例1はTLSを合併していたこと、及び、バーキットリンパ腫/白血病はTLSの発症のリスクが高いことが記載されている(74頁左欄6~8行、【症例1】、77頁左欄「III考察」の第1段落)。
・甲6(2011年)は、厚生労働省が発行した、腫瘍融解症候群の「重篤副作用疾患別対応マニュアル」であるところ、白血球数の多い急性白血病(ALLやAML)などをリスクファクターとして認識した上で、食道癌の化学療法開始後にTLSと診断された患者、すなわち腫瘍融解症候群を既に発症した患者にアロプリノールを適用した例が、「典型的症例」として記載されている(11頁下から8~1行、13頁)。
・甲30(2011年)には、入院時に白血球数(WBC)103,800 /μL、尿酸9.1mg/dLであった急性骨髄性白血病患者で、腎障害も合併しておりTLSリスクが高いと考えられた患者において、TLS予防のための輸液及びアロプリノールを投与し、翌日から寛解導入療法を開始し、最終的に、腎障害や高尿酸血症を改善した事例が報告されている(823~825頁「事例1」)。
・甲32(2009年)は、「ハリソン内科学」という、広く読まれている教科書的な書籍であるところ、アロプリノールの投与はTLS管理の標準的なアプローチとした上で、TLS高リスク患者の管理については、最初に補液、尿のアルカリ化(pH7.0以上)、アロプリノールの投与であることが記載されている(1799頁左欄の「治療」の項の1~3行、同頁右欄図270-4)。
・甲33(2010年)は、「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン」であるところ、腫瘍融解症候群の疾患自体は、急性尿酸性腎症の治療を中心とした適切な治療により可逆性であることが多いこと、また、急性尿酸性腎症の治療として、水分負荷とフロセミドの併用により尿量を100mL/時以上に保ち、重炭酸ナトリウムにより尿pHを7.0以上に保ち尿酸の溶解を促し、アロプリノールの併用も行うことが記載されている(107頁「注意事項」)。
・甲34(2008年)には、化学療法開始後11日目の時点で、尿酸値(UA)が11.0mg/dとなり、TLSと診断された胸部下部食道癌の患者において、補液及び利尿剤の併用、アロプリノール投与、クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム投与を行ったところ奏功し、最終的に透析療法を施すことなく救命することができたことが記載されている(2030~2031頁)。
・甲35(2012年8月)には、進行性胃癌患者において、化学療法の開始に伴いTLSの発症の可能性を考え、TLSの予防処置としてアロプリノール(100mg/日)の投与、輸液負荷を併用し、化学療法開始後3日目に、尿酸とカリウムの2項目についてlaboratory TLSと診断され、補液の増量と利尿薬の併用、アロプリノールの増量(300mg/日)を行ったところ、カリウム、尿酸は改善し、また、病態そのものは、抗腫瘍治療とは無関係に、腫瘍の急激な増殖・自然崩壊によっておこったTLSを化学療法による腫瘍崩壊が助長したと考えられたことが記載されている(46頁左欄下から9行~47頁右欄下から4行、50頁左欄下から5行)。
・甲42(2011年)には、B細胞性非ホジキンリンパ腫や未分化大細胞非ホジキンリンパ腫を含む非ホジキンリンパ腫(NHL)及び急性リンパ芽球性白血病(ALL)の小児患者において、高尿酸血症と腫瘍融解症候群(TLS)の予防と治療のためのプロトコルの有効性を再評価したところ、高リスク患者は水分補給、アルカリ化、及びアロプリノールで治療され、TLSに関連する死亡率は記録されず、血清尿酸値は、平均3.5日で正常に戻ったことから、血清尿酸値が急激に低下する利点を有する尿酸オキシダーゼの費用対効果を考慮すると、資源が限られている場合にはアロプリノールを選択的に使用することが合理的であると考えられることが記載されている(53頁右欄2段落3~8行、58頁左欄3~4段落)。
・乙8(1993年)には、広汎性大細胞型B細胞リンパ腫と診断され、血清リン値や血清尿酸値(14.8 mg/dL)等からTLSを発症したとみられる患者に、血液透析を開始し、プレドニゾン等とともアロプリノールによる化学療法を開始したところ、最終的には、アロプリノールにより腎機能は更に改善し、尿酸値は2.9mg/dに低下したことが記載されている(276頁左欄16~末行)。
イ キサンチンオキシダーゼ阻害薬であるアロプリノールとフェブキソスタットについて
1966年以降、キサンチンオキシダーゼ阻害薬であるアロプリノールが、尿酸が原因となる痛風だけでなく、腫瘍融解症候群の治療及び予防に用いられてきたが、2004年に、新規の非プリン系キサンチンオキシダーゼ阻害薬であるフェブキソスタットが発見され(甲1)、その後、フェブキソスタットは、2011年5月に日本において尿酸降下薬として上市された(甲11)。
高尿酸血症患者において、フェブキソスタットは、アロプリノールよりも尿酸低下作用の有効率が高く、また、アロプリノールは、代謝物が活性体で、腎機能低下時には減量などが必要となるのに対し、フェブキソスタットは、代謝物が活性を示さず、基本的には肝で代謝され、腸や腎へバランスよく排泄されるために、腎機能異常患者でも減量投与などの必要性がないことが知られていた(甲11~甲13)。
そして、アロプリノールは、中等度から高度腎機能低下患者には使用しづらく、尿酸の管理に難渋してきたが、フェブキソスタットは、中等度腎機能低下患者のみならず高度腎機能低下患者にも重篤な副作用を生じることなく、そして、他の薬からの切替え症例でも血清尿酸値の有意な低下が認められたこと(甲11)、及び、重度腎機能障害を有する患者においてフェブキソスタットの有効性が認められたこと(甲14)が報告されていた。
したがって、本件優先日当時、高尿酸血症患者における尿酸降下薬として、フェブキソスタットは、アロプリノールと比べ高度腎機能低下患者においても使用しやすい、アロプリノールの後継薬であることは、技術常識となっていたといえる。
ウ 腫瘍融解症候群におけるフェブキソスタットの使用について
以下の甲1、甲5、甲8、乙4の記載によれば、次のようなことが理解できる。
本件優先日当時、腫瘍融解症候群における高尿酸血症に対処するための薬として、フェブキソスタットが、アロプリノールに代わる選択肢として期待が持たれており(甲1、甲8、乙4)、腫瘍融解症候群の中間リスク患者にフェブキソスタットを投与した事例が報告されていた(甲5)。
・甲1(2007年)には、高尿酸血症及び痛風患者を対象としたフェブキソスタットとアロプリノールとの比較臨床試験の結果を踏まえて、フェブキソスタットによる治療法について、「TLS患者では、薬剤や原疾患によるAKI(当審注:急性腎障害)が頻発するため、この治療法はTLSのリスクが高い患者には理想的であろう。」と記載されている(403頁左欄下から11~8行)。
・甲5(2012年2月)には、中等度リスク例(悪性リンパ腫)(当審注:中間リスク例)にフェブキソスタットを投与したところ、「効果は比較的速やかで、投与4日以内に血清尿酸値約3mg/dlの減少が得られた。」と記載されている(42頁下から4~3行)。
・甲8(2012年10月5日)には、「フェブキソスタットは、推算GFRが低下した患者、特にアロプリノールへのアレルギー又は他の有害反応の既往がある患者のTLS予防において、高価ではあるがアロプリノールに代わる合理的な選択肢となりうる。」と記載されている(1735頁左欄「Febuxostat」)。
・乙4(2012年9月)には、キサンチンオキシダーゼ阻害薬であるフェブキソスタットについて、腎排泄型のアロプリノールと異なり、肝・腎排泄型であるため腫瘍融解症候群で腎機能障害のある場合も使用可能であり、切れ味もアロプリノールより鋭いことなどから、「今後中等度以下の腫瘍融解症候群への臨床応用が期待される」ことが記載されている(83頁中段の下から3~1行)。
(2)甲1に記載された発明
上記第5の1に示した甲1の記載事項によれば、フェブキソスタットは、キサンチンオキシダーゼ阻害薬である尿酸降下薬であって(図2)、高尿酸血症及び痛風患者を対象に、フェブキソスタットとアロプリノールとを比較した臨床試験において、フェブキソスタットを投与したより多くの患者(80mgを経口で52週間連日服用した患者では53%、120mgを経口で52週間連日服用した患者では64%)で血清尿酸値6.0mg/dL(360μmol/L)未満とする主要エンドポイントに到達したことが記載されている(甲1:403頁左欄30~44行)。
そうすると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「フェブキソスタットを有効成分として含有する、高尿酸血症及び痛風患者に80mg又は120mgを連日投与される、尿酸降下薬。」
(3)訂正発明1について
ア 対比
訂正発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「フェブキソスタット」は、訂正発明1の「2-[3-シアノ-4-(2-メチルプロポキシ)フェニル]-4-メチルチアゾール-5-カルボン酸又はその医薬上許容される塩」に相当する(甲10及び訂正明細書【0007】)。
また、甲1発明の「尿酸降下薬」は、訂正発明1の「治療薬」又は「予防薬」に相当する。
そうすると、訂正発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「2-[3-シアノ-4-(2-メチルプロポキシ)フェニル]-4-メチルチアゾール-5-カルボン酸又はその医薬上許容される塩を有効成分として含有する、治療薬又は予防薬。」
<相違点1>
訂正発明1は、「腫瘍融解症候群の治療薬又は抗腫瘍治療に起因する腫瘍融解症候群の予防薬」であるのに対し、甲1発明は、「高尿酸血症及び痛風患者に」「投与される、尿酸降下薬」である点。
<相違点2>
訂正発明1は、
「1-B2a:抗腫瘍治療に起因せずに腫瘍融解症候群が発症し、尿酸の血中測定値が8mg/dL以上である高尿酸血症及び腎機能低下が認められる、又は
1-B2b:抗腫瘍治療の実施前に腫瘍融解症候群が発症し、尿酸の血中測定値が8mg/dL以上である高尿酸血症が認められる、
1-C':高リスク患者で、
1-D':造血器腫瘍の患者(ただし、バーキット非ホジキンリンパ腫、リンパ芽球性非ホジキンリンパ腫、バーキット急性リンパ芽球性白血病、白血球数(WBC)が100,000以上である急性リンパ芽球性白血病、白血球数(WBC)が50,000以上である急性骨髄性白血病、及び単芽球性急性骨髄性白血病の患者を除く)に、
1-E':1日1回60mg投与される」ものであるのに対し、
甲1発明は、「高尿酸血症及び痛風患者に80mg又は120mgを連日投与される」ものである点。
イ 相違点1について
(ア)甲1は、腫瘍融解症候群についてのレビューであり、その中で、高尿酸血症、痛風及び腫瘍融解症候群に対する薬が紹介され、フェブキソスタットは、旧世代のアロプリノールに対して、新世代のキサンチンオキシダーゼ阻害薬であると記載されている。
また、甲1には、「TLS患者では、薬剤や原疾患によるAKI(当審注:急性腎障害)が頻発するため、この治療法(当審注:フェブキソスタットを投与する治療法)はTLSのリスクが高い患者に最適であろう。」(403頁左欄の下から11~8行)と記載され、フェブキソスタットを腫瘍融解症候群(TLS)のリスクが高い患者に投与することが示唆されている。
(イ)本件優先日当時、アロプリノールが、高尿酸血症の治療だけでなく、腫瘍融解症候群の高リスク患者又は発症した患者において投与できることは、技術常識となっていた(上記(1)ア)。
一方、フェブキソスタットは、高尿酸血症の治療ための尿酸降下薬として、アロプリノールと比べ高度腎機能低下患者においても使用しやすい、アロプリノールの後継薬であることは技術常識となっていた(上記(1)イ)。
また、フェブキソスタットは、腫瘍融解症候群における高尿酸血症に対処するための薬としても、アロプリノールに代わる選択肢として期待が持たれており、実際に、フェブキソスタットを、腫瘍融解症候群の中間リスク患者に投与した事例が報告されていた(上記(1)ウ)。
(ウ)上記(ア)の甲1の記載ないし示唆に加え、上記(イ)の本件優先日当時の技術常識を考慮すれば、甲1発明のフェブキソスタットを、アロプリノールと同様に、腫瘍融解症候群の治療又は予防のために用いることは、当業者であれば容易に想到することができたものといえる。
そして、腫瘍融解症候群の予防とは、腫瘍の患者が抗腫瘍治療に起因して腫瘍融解症候群を発症すること、又は当該治療に起因してより腫瘍融解症候群の症状が悪化することを予防することを含むことは明らかである。
そうすると、甲1発明のフェブキソスタットを、アロプリノールと同様に、腫瘍融解症候群の治療薬、又は抗腫瘍治療に起因する腫瘍融解症候群の予防薬として用いることは、当業者であれば容易に想到することができたものといえる。
ウ 相違点2について
(ア)甲2には、Cairo-BishopによるLabolatory TLSの定義は、細胞障害性療法前の3日以内又は細胞障害性療法後の7日以内に表1に記載された2つ以上の検査値の変動があることである旨が記載され、表1には「尿酸値 8mg/dL以上」と記載されている。ここで、細胞障害性療法前とは、抗腫瘍治療前を意味する。
そうすると、抗腫瘍治療前に腫瘍融解症候群を発症した、尿酸値を下げる必要のある患者は、通常、「抗腫瘍治療に起因せずに」又は「抗腫瘍治療の実施前に」「腫瘍融解症候群が発症し、尿酸の血中測定値が8mg/dL以上である高尿酸血症」の患者であると認められる。
また、フェブキソスタットは、アロプリノールと比べ高度腎機能低下患者においても使用しやすい、アロプリノールの後継薬であることは、技術常識となっていたことから(上記(1)イ)、腎機能低下が認められる、腫瘍融解症候群を発症した患者であっても使用可能であることは、当業者が容易に想到することができたものである。
そうすると、甲1発明のフェブキソスタットを、腫瘍融解症候群の治療薬、又は抗腫瘍治療に起因する腫瘍融解症候群の予防薬として用いるに当たり、「抗腫瘍治療に起因せずに腫瘍融解症候群が発症し、尿酸の血中測定値が8mg/dL以上である高尿酸血症及び腎機能低下が認められる」又は「抗腫瘍治療の実施前に腫瘍融解症候群が発症し、尿酸の血中測定値が8mg/dL以上である高尿酸血症が認められる」患者に投与することは、当業者が適宜なし得ることにすぎない。
(イ)腫瘍融解症候群は、腫瘍細胞増殖速度、腫瘍化学感受性、乳酸脱水素酵素レベルの増加といった腫瘍融解症候群を発症する素因に応じて、患者を発症頻度別に、低リスク(低頻度)、中リスク、高リスク(高頻度)に層別化されているところ(甲3:表5、甲38:表1)、「高リスク患者」であっても、訂正発明1から除かれている「バーキット非ホジキンリンパ腫等の造血器腫瘍の患者」ではない、びまん性大細胞性B細胞リンパ腫や骨髄異形成症候群等の造血器腫瘍の患者(本件所定の造血器腫瘍の患者)においても、腫瘍融解症候群が発症することがある(甲3、甲38、甲42)。
そうすると、上記(ア)に説示した甲1発明のフェブキソスタットを投与する患者として、「本件所定の造血器患腫瘍の患者」とすることに、特段の創意工夫を要したとはいえない。
(ウ)甲1発明のフェブキソスタットの用法用量は、80mg又は120mgを連日投与するものであるが、痛風、高尿酸血症のためのフェブキソスタットの審査報告書(甲10)には、1日1回40mgを経口投与するが、患者の状態に応じて最大投与量は1日1回60mgであると記載されている。
また、甲5には、腫瘍融解症候群の中等度リスク例(悪性リンパ腫)にフェブキソスタットを10mg投与したところ、4日以内に血清尿酸値が3mg/dL減少したことが記載されており、この悪性リンパ腫の患者は、本件所定の造血器腫瘍の患者に相当する。
そうすると、甲1発明のフェブキソスタットを、腫瘍融解症候群を発症した患者に投与する際には、発症した患者であるから甲5記載の中等度リスク例における10mgより多い用量とし、痛風、高尿酸血症の治療に用いられる最大投与量である1日1回60mg(甲10)と同じ用法用量とすることは、当業者が容易に設定することができたものといえる。
エ 阻害要因について
本件優先日当時、キサンチンオキシダーゼ阻害薬であるアロプリノールを投与すると、尿酸と比較して尿への溶解性が低いキサンチンの血清レベルを増加させるために、キサンチン結石(結晶)により急性閉塞性尿路疾患をもたらすキサンチン腎症の懸念があることが知られ(甲3、乙5~乙7)、実際にキサンチン腎症が生じた旨の報告もあった(乙31、乙32)。
他方、「アロプリノール処置を受けたリンパ肉腫患者におけるキサンチン腎症」について記載された乙5には、「化学療法薬の使用量がより高用量となるにつれて、キサンチン結石の形成もより頻繁に見られるものと予想される。結石の発生を防ぐ方法としては、例えば尿量を1時間当たり300mlに増やすことが挙げられる。」(356頁右欄下から14~9行)、「リンパ腫及び高尿酸血症の患者をアロプリノールで治療する場合、特に治療の初期段階では化学療法の高用量を慎重に使用する必要がある。」(357頁左欄4~7行)と記載され、尿量を増やしたり、化学療法の高用量を慎重に使用することで、キサンチン結石に対処可能であることが理解できる。
加えて、「アロプリノールを投与したリンパ腫患者における化学療法後プリン排泄」について記載された乙6には、「高キサンチン尿症はこれらの患者によく見られる所見であり、かかる高キサンチン尿症は腎不全を引き起こすおそれがある。このような患者には、水分補給と、1日当たり300~600mgのアロプリノールの投与を行う必要がある。このような治療を行っても、大量の腫瘍融解後には、プリン腎症が発症する場合がある。」(2278頁左欄下から7~1行)と記載され、大量の腫瘍融解が生じない場合であれば、水分補給により高キサンチン尿症に対処可能であることが理解できる。
そして、甲28に「キサンチン尿路結石は通常、良性症状であり、適切なアルカリ化、強制的な水分補給、及び植物性プリンの制限によって予防又は治療することが容易である。」(328頁11~13行)と記載されているように、乙6に記載のような水分補給を行う対処法は、一般的な、キサンチン結石(結晶)への対処法である。
このように、本件優先日当時、キサンチン結石(結晶)に対する各種の対処法が知られており(乙5、乙6、甲28)、さらに、高尿酸血症の患者や腎機能に障害がある患者に対してフェブキソスタットを投与しても、キサンチン結石(結晶)は問題にはならないことが知られていたこと(甲10、甲12、甲27)を考慮すると、腫瘍融解症候群を発症した患者においては、キサンチン結石(結晶)が生じる可能性を考慮してフェブキソスタットは投与できないと当業者が認識していたとまではいえず、フェブキソスタットを腫瘍融解症候群を発症した患者に投与することに、阻害要因があったとはいえない。
オ 上記ア~エによれば、甲1発明のフェブキソスタットを、腫瘍融解症候群を発症した患者に投与し、相違点1及び2に係る訂正発明1の発明特定事項を備えたものとすることは、当業者が容易に想到することができたものといえる。
カ 効果について
(ア)訂正明細書の実施例1において、骨髄異形成症候群の患者(53歳女性白血球数15400/μL)であって、「抗腫瘍治療に起因せずに発症し、抗尿酸血症を既に呈している高リスク腫瘍融解症候群患者」に対し、新鮮凍結血漿、赤血球濃厚液による輸血を行った後、補液による尿量の確保と尿のアルカリ化とともに、フェブキソスタット(60mg)を3日間投与したところ、血清尿酸値が急速に低下し、あわせて腎機能も改善し、腫瘍融解症候群の治療に有効であることが示されている。
(イ)実施例1の上記患者は、従来、アロプリノールを適用してきた患者であると解されるから、アロプリノールと比べ高度腎機能低下患者においても使用しやすいフェブキソスタットを用いることにより、血清尿酸値を低下させ、その結果、腎機能を改善させたことは、当業者が予測可能な範囲のものにすぎない。
特に、フェブキソスタットの3日間投与により血清尿酸値が低下したことは、中等度リスク患者にフェブキソスタットを投与した場合には投与4日以内に血清尿酸値が3mg/dL低下したこと(甲5)、アロプリノールは化学療法前に高尿酸血症を発症している患者では尿酸値が正常値に戻るのに2~3日を要すること(甲37)等からみて、特段迅速な効果の発揮であるともいえない。
そして、腫瘍融解症候群を発症した患者におけるフェブキソスタットの効果は、当該患者の状態によっても大きく異なるといえるから、比較例も示されていない実施例1の一人の患者の結果から、フェブキソスタットの効果が格別顕著なものであるとはいえない。
キ 以上によれば、訂正発明1は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)訂正発明2について
ア 対比
訂正発明2と甲1発明との一致点及び相違点1、2は上記(3)アのとおりであり、両者は次の相違点3においても相違する。
<相違点3>
訂正発明2は、有効成分を「1~7日/週で投与する」のに対し、甲1発明は、「連日投与」する点。
イ 相違点1、2及び阻害要因について
相違点1、2及び阻害要因についての判断は、上記(3)イ~エに説示したとおりである。
ウ 相違点3について
中等度リスク患者にフェブキソスタット投与した場合には投与4日以内に血清尿酸値が3mg/dL低下したこと(甲5)、アロプリノールは化学療法前に高尿酸血症を発症している患者では尿酸値が正常値に戻るのに2~3日を要すること(甲37)等を参考にして、甲1発明のフェブキソスタットを腫瘍融解症候群を発症した患者に使用する場合に、患者の状態に応じて「1~7日/週で投与」とし、相違点3に係る訂正発明2の発明特定事項を備えたものとすることは、適宜なし得る事項にすぎない。
エ 効果について
相違点1~3を併せ考慮しても、訂正発明2の効果が、格別顕著なものともいえない。
オ したがって、訂正発明2は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5)訂正発明3~5について
ア 対比
訂正発明3~5と甲1発明との一致点及び相違点1~3は、上記(3)ア、(4)アのとおりであり、両者は次の相違点4においても相違する。
<相違点4>
訂正発明3は「抗腫瘍治療実施後、血中尿酸値を正常値の範囲まで低下または正常値の範囲に維持し得る」こと、訂正発明4は「抗腫瘍治療実施後、腎機能を抗腫瘍治療開始前よりも改善または正常に維持し得る」こと、訂正発明5は「抗腫瘍治療実施後、尿中尿酸排泄量を正常値の範囲まで低下または正常値の範囲に維持し得る」ことを特定したものであるのに対し、甲1発明は、対応する事項をいずれも特定していない点。
イ 相違点1~3及び阻害要因について
相違点1~3及び阻害要因についての判断は、上記(3)イ~エ、(4)ウに説示したとおりである。
ウ 相違点4について
甲1発明のフェブキソスタットを、腫瘍融解症候群を発症した患者に投与するに当たり、患者の状態に応じて、抗腫瘍治療実施後に、血中尿酸値及び尿中尿酸排出量を正常値の範囲まで低下又は正常値の範囲に維持し得るものとすることは、当業者が適宜なし得たことである。
また、フェブキソスタットは、アロプリノールと比べ高度腎機能低下患者においても使用しやすいことが技術常識となっており(上記(1)イ)、血清尿酸値の低下に伴い腎機能がある程度改善することも知られていた(甲11)。
そうすると、甲1発明のフェブキソスタットを腫瘍融解症候群を発症した患者に投与するに当たり、患者の状態に応じて、「腎機能を抗腫瘍治療開始前よりも改善または正常に維持し得る」ようにすることも、当業者が適宜なし得たことである。
エ 効果について
相違点1~4を併せ考慮しても、訂正発明3~5の効果が、格別顕著なものともいえない。
オ 以上によれば、訂正発明3~5は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(6)被請求人の主張について
ア 被請求人は、以下の(i)~(iii)を鑑みれば、日本において、アロプリノールのTLSへの適応外処方が行われていたからといって、本件特許の実施例1のような研究結果がない限り、当業者がフェブキソスタットについても同様にTLSへの適用を可能となすことは不可能であることは明白である旨を主張する(令和3年10月28日上申書3~13頁)。
(i)原発性の痛風・高尿酸血症と二次性の痛風・高尿酸血症であるTLSとは、その成因、疾患の態様及び治療が明確に異なり、前者の治療の適応から後者の治療への適応が容易に類推できるものではなく、52週間連続服用した甲1の臨床結果の知見と、短期に集中した緊急対応が必要となるTLSの治療・予防とは、かなりの隔たりがある。
フェブキソスタットは、アロプリノールと、化合物、キサンチンオキシダーゼ阻害様式、阻害活性なども異なり、二次性高尿酸血症に対する挙動が同じであるとはいえず、有害な副作用が現れることも考えられる。
(ii)甲1は2007年の論文であり、フェブキソスタット自体がFDAの承認すら受けていないから、その適応の範囲外であるTLSについての甲1における言及は期待や願望にすぎない。
(iii)本件優先日当時、特に日本において、アロプリノールが、高リスク患者又はTLSを発症した患者にも適応外処方されていたことが事実あったとしても、それは、海外において多数の臨床使用症例が既に報告されていたからであるのに対し、フェブキソスタットは、本件優先日当時、海外においてもTLSへの適応は未承認であり、むしろ、二次性高尿酸血症の患者への使用は推奨されないとの見解が存在していた(乙29)のであるから、TLSの予防・治療に対するフェブキソスタットの適用可能性を検討する動機付けを受けたとしても、個別に臨床試験を行うという高いハードルが存在し、臨床試験がない限り、訂正発明の医薬用途や特定の用法・用量を想到することはできない。
しかしながら、上記(i)~(iii)については以下のとおりであるから、被請求人の上記主張は採用できない。
(i)について
原発性と二次性とで、高尿酸血症について様々な点が異なるとしても、原発性と二次性の高尿酸血症における尿酸降下薬の開発は、密接に関係しており、原発性の高尿酸血症に対する尿酸降下薬を、二次性の高尿酸血症であるTLSに応用するという技術な方向性が確立されていたことは、特に甲1の図2に記載されるように明らかである。
薬物によっては、原発性と二次性の高尿酸血症とで挙動が異なる可能性はあるとしても、甲5において、二次性の高尿酸血症であるTLSの中間リスク患者に、フェブキソスタットを適用して成功した事例が既に報告されているのであるから、フェブキソスタットを二次性の高尿酸血症であるTLSの治療に応用することは、当業者が容易に想到することができたものである。
(ii)について
甲1の記載に加え、優先日当時の技術常識を考慮して上記(1)~(5)のとおり判断したのであるから、被請求人が指摘する甲1の記載が臨床試験に基づくものでないことは、上記判断に影響しない。
(iii)について
乙29(2010年)には、フェブキソスタットは、二次性高尿酸血症を対象とした試験が行われていないから、これらの患者へのフェブキソスタットの使用は推奨されないと記載されているのであって、何らかの臨床試験に基づいて推奨されないと記載しているわけではない。
アロプリノールとフェブキソスタットとで、TLSに関する臨床使用症例の数が異なるとしても、フェブキソスタットを、アロプリノールが適用されていたTLSを発症した患者に適用する動機付けがあるとの上記(3)の判断には影響しない。
イ 被請求人は、アロプリノールがTLSの予防・治療に使用されてきたことは確かであるにしても、本件優先日当時、高リスク患者にはアロプリノールではなく、あくまでもラスブリカーゼが第1選択薬であり、アロプリノールの使用はラスブリカーゼが使用できない場合に限られていたことが明らかであるから(甲5、甲6、甲30、乙13~16、乙20の1~20の3、乙28の3、乙30等)、アロプリノールと同様に原発性の痛風や高尿酸血症における尿酸値の管理に使用できる医薬として知られていたフェブキソスタットを、アロプリノールの使用が推奨されていない高リスク患者や、訂正発明における既に高尿酸血症である患者に適用しようとする発想は容易に得られるものではない旨を主張する(令和3年10月28日上申書14~15頁)。
しかしながら、上記(1)アに説示したとおり、ラスブリカーゼが使用可能になった時期(乙11:2010年4月5日)においても、アロプリノールをTLSを発症した患者に使用したことが、厚生労働省が発行した腫瘍融解症候群についての対応マニュアルに「典型的症例概要」として掲載されているし(甲6:2011年3月)、1997年12月~2007年1月の間に非ホジキンリンパ腫(NHL)又は急性リンパ芽球性白血病(ALL)と診断された患者について「TLSのリスクが高い患者には、いずれも静脈注射による水分補給とアロプリノールの経口投与」を行い、「いずれの患者にも尿酸オキシダーゼ(当審注:ラスブリカーゼ)は投与されなかった。」ことが報告されている(甲42:2011年5月)こと等から、本件優先日当時、高リスク患者やTLSを発症した患者にはアロプリノールを使用しないとされていたとはいえない。
また、腫瘍融解症候群を発症した患者に対して適用する治療薬について、その腫瘍の種類や、発症時期が抗腫瘍治療の前か後かによって、治療薬の種類を使い分けていたとの技術常識は見いだせないから、訂正発明における患者も甲6に記載の患者(抗腫瘍治療の後に発症した固形腫瘍患者)と同様に、アロプリノールを適用可能な患者であるといえる。
したがって、請求人らの上記主張を検討しても、アロプリノールを適用可能である訂正発明における患者に、フェブキソスタットを適用するという発想は当業者が容易に得られたものといえる。
ウ 被請求人は、アロプリノールを使用したところ患者がキサンチン腎症を発症し重篤な症状に陥った事例が多数報告されているし(乙31、乙32)、審決の予告(第2回)において指摘した証拠(甲10、甲12、甲27、甲28)はいずれも高リスク患者でのキサンチン結石のリスクに関する文献ではないから、これらの文献に基づいて訂正発明への阻害要因を否定するのは、あまりにも無理がある旨を主張する(令和3年10月28日上申書17~18頁)。
しかしながら、アロプリノールによりキサンチン腎症が発症したことが報告されていても、なお、アロプリノールをTLSの治療又は予防に使用していたということ自体が、阻害要因がなかったことの証左である。
エ 被請求人は、原発性の痛風・高尿酸血症にフェブキソスタットを投与する場合には、10mgから40mgへと徐々に用量を増やす検討をするのに対し、訂正発明の患者へは最大量の60mgを投与し、キサンチンの生成量の増加が予想されるにもかかわらず、腎機能障害も改善したことは、本件優先日当時の技術水準からは決して予想できない結果であり、フェブキソスタットのTLSへの適応拡大に関する承認事項一部変更承認申請の審査報告書(甲22)では、アロプリノールが1日3回であるのに対しフェブキソスタットは1日1回で済むという点や軽度から中等度の腎機能障害患者には用量調節が不要である点が、肯定的に評価されている旨を主張する(令和3年10月28日上申書19~20頁)。
しかしながら、痛風の治療において用量を漸増するのは、初期治療で尿酸値を急速に低下させると発作を誘発するためであるところ(甲12)、腫瘍融解症候群は迅速な治療が必要とされることから、痛風・高尿酸血症の治療に許容されている最大量である1日1回60mgという用法用量を、用量漸増を検討することなく選択することは、当業者がまず行うことにすぎない。
また、上記(3)カに説示したとおり、腎機能障害も改善することは当業者が予測可能な範囲内のものである。また、フェブキソスタットにおいて想定されるキサンチン生成量によりどの程度の腎機能障害が想定されていたのかも不明であり、腎機能障害の程度は患者によっても大きく変化するものであるから、実施例1における一人の患者の結果のみから、フェブキソスタットの腎機能についての効果が当業者の予測を超えて格別顕著であるともいえない。
そして、痛風・高尿酸血症について、フェブキソスタットは1日1回で承認され(甲10)、アロプリノールは1日2~3回で承認されていることから(乙21の2)、TLSについてフェブキソスタットの投与回数が1日1回であることは当業者の予測可能な程度のものといえる。
オ 本件訂正(訂正事項1-2)により、訂正前の請求項1に係る発明から除かれた「高リスク患者」について、以下のような主張をするので、念のため検討する。
被請求人は、審決の予告(第1回)の甲6、甲30、甲5の解釈は誤りであり、乙13~16の記載事項も併せ総合的に勘案すれば、日本においても、TLS高リスク患者にはアロプリノールではなくラスブリカーゼを投与するという、TLSの発症リスクに応じた薬剤の使い分けを行うことが、本件優先日当時(2012年10月23日)の技術常識になっていたことは明らかである旨を主張する(令和3年3月8日提出の上申書2~11頁)。
そこで、各証拠ごとに被請求人の主張について検討する。
a 甲6について
(a)被請求人は、甲6には、アロプリノールやラスブリカーゼを含む複数の「予防法」を、「腫瘍崩壊症候群の起きやすさを目安に、これらの予防法のいくつかを組み合わせて行」うと明記しており、TLSに対して予防的、治療的にアロプリノールが使用されているものの、これにより高キサンチン尿症が発症する可能性があることを明記するとともに、高キサンチン尿症を予防するためにラスブリカーゼの使用が増加していることを明示しているから、これらの記載から、本件優先日の1年7ヶ月前の2011年3月の時点で、TLSの予防法の選択がTLSの発症リスク及びそれに伴う高キサンチン尿症の可能性を考慮してなされていたこと、及び、高キサンチン尿症を予防する必要がある場合(TLS高リスクの場合)にはラスブリカーゼを投与するとの技術常識が存在したことは明らかである旨を主張する(令和3年3月8日提出の上申書3頁「b.」)。
しかし、甲6には、「腫瘍融解症候群の起きやすさ」がどの程度のときにどの予防法を用いるかについて記載されていない。
また、ラスブリカーゼを使用する機会が増加している「高キサンチン尿症を予防するため」という場合が、TLSの発症リスクが高い場合のことを意味するとは記載されていないし、仮に、それを意味するとしても、「使用が増加している」状態にすぎず、甲6の発行日から本件優先日まで1年7か月という時間の経過を考慮しても、本件優先日当時において、TLSの発症リスクが高い場合にはアロプリノールは使用せず、ラスブリカーゼを使用することが技術常識であったと理解することはできない。
(b)被請求人は、甲6の12頁の項目(6)には、「尿酸を分解するラスブリカーゼの予防投与」として、TLSの予防のためには尿酸を分解するラスブリカーゼを投与する旨が記載されているから、甲6の11~12頁の記載をその文脈に従って総合的に解釈すれば、項目(6)にはTLSの予防のためには尿酸を分解するラスブリカーゼを投与することが明記されており、項目(2)のアロプリノールの記載は、TLS一般について(おそらく人数の多い中・低リスク患者について)一般的な治療法を記載しているにすぎないことが明らかであり、少なくとも甲6のこれらの記載を文脈から切り離して、TLSの高リスク患者にもアロプリノールが使用されていたと解釈することは、明らかに誤読である旨を主張する(令和3年3月8日提出の上申書3~4頁「c.」)。
しかしながら、当審は、甲6の13頁の【典型的症例】の記載に基づいて、TLSを発症した患者にアロプリノールが使用されていたと判断したのであって、被請求人が指摘する甲6の11~12頁の記載に基づいて判断したのではない。
また、甲6の11~12頁におけるアロプリノールの記載は、「おそらく人数の多い中・低リスク患者についての」TLSの一般的な治療法を記載しているにすぎないと限定解釈する根拠は見いだせない。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。
(c)被請求人は、甲6の13頁の【典型的症例】は、ラスブリカーゼは未承認で、アロプリノールしか選択肢がなかった2008年の症例であるから、既にラスブリカーゼが承認され(2009年)販売され(2010年4月5日:乙11)ていた甲6の公開日(2011年)や、本件優先日(2012年10月23日)の時点でも、高リスク患者にアロプリノールを投与していたことを示すものではない旨を主張する(令和3年3月8日提出の上申書4頁「d.」)。
しかし、アロプリノールがTLSを発症した患者に投与し奏功した【典型的症例】が、厚生労働省が2011年3月発行した、TLSについての重篤副作用疾患別対応マニュアルに記載されている以上、2011年3月時点においても、当該【典型的症例】におけるアロプリノールの投与は、適切な治療として認識されていたものと理解するのが自然であり、その後、約1年7か月後の本件優先日において、当業者の認識が大きく変化したことを示す根拠は見いだせない。
したがって、甲6の【典型的症例】が2008年の症例であることを根拠とする被請求人の上記主張は採用できない。
(d)被請求人は、甲6は、対象疾患の治療マニュアルではなく、その副作用に重きを置いたマニュアルであるから(乙12)、本マニュアルにTLS発症リスクに応じた薬剤の使い分けが具体的に記載されていなくとも、そのことから直ちに、当時そのような使い分けがなされていなかったという結論を導き出すことはできない旨を主張する(令和3年3月8日提出の上申書4~5頁「e.」)。
しかしながら、乙12には、「重篤副作用疾患別対応マニュアルは、…副作用について、…臨床現場の医師、薬剤師等が活用する治療法…等を包括的にまとめたもの」(1/10頁)と記載され、副作用名の欄に「腫瘍崩壊症候群」(5/10頁)と記載されているように、悪性腫瘍の治療の際に生じる副作用疾患としての「腫瘍崩壊症候群」自体が、甲6(重篤副作用疾患別対応マニュアル 腫瘍崩壊症候群)における治療対象の疾患である。
また、当審は、甲6にTLS発症リスクに応じた薬剤の使い分けが具体的に記載されていないことのみを、上記アに説示した技術常識の根拠としたものではない。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。
b 甲30について
甲30の事例1は、(i)投与されていた炭酸水素ナトリウムを中止することで「迅速に高リン血症に対応」した点のみが評価された事例にすぎず、アロプリノールを投与したことの是非については何ら評価されていないこと、及び、(ii)甲30の表1には、UA値が「高値」、がん腫が「AML」の場合にはラスブリカーゼを使用すべきであることが明示されており、尿酸(UA)値が高値で、がん腫がAML(急性骨髄性白血病)であった事例1も、本来であれば、事例2と同様に、ラスブリカーゼを投与すべき事例であったということが分かることから、アロプリノールをTLS高リスク患者に使用した事例1は、例外的な事例であり、当時の技術水準を示す事例ではないことは明らかである旨を主張する(令和3年3月8日提出の上申書5~7頁「a.」~「d.」)。
しかしながら、甲30の事例1には、「TLSに伴う高リン血症の対策と輸液処方設計」として、「アロプリノール(100mg)…TLS予防」と記載され、TLS予防のために投与されたアロプリノールが、特段、通常と異なる処方であったことをうかがわせる記載はないから、事例1は例外的な事例であるとする根拠は見いだせない。
また、甲30には、事例2において、「ラスブリカーゼを選択すべき患者について、第17版のハリソン内科書には表1には、アロプリノール、輸液療法、尿のアルカリ化からなる標準的支持療法によっても十分な効果が得られない症例と記載されている。現時点の化学療法時におけるアロプリノール・ラスブリカーゼ使用の目安を示す(表1)。」と記載され、病棟薬剤師は、事例2の患者のTLSのリスクは高いと考えラスブリカーゼの投与を医師に処方提案し、医師もラスブリカーゼの投与を検討したことが記載されていることからすれば、甲30が発行された時点(2011年6月)においても、表1における使い分けが技術常識となっていたものではなく、事例に応じて、アロプリノールとラスブリカーゼのいずれを投与すべきかを、医療従事者が個別に検討していたものといえる。
したがって、アロプリノールをTLS高リスク患者に使用した事例1は、例外的な事例であり、当時の技術水準を示す事例ではないとの被請求人の上記主張は、採用できない。
c 甲5について
被請求人は、甲5には、「高リスク例ではラスブリカーゼ、中等度リスク例ではアロプリノールを使用する」と明記されているにもかかわらず、合議体が、アロプリノールがTLS高リスク患者や発症患者に投与するという状況が続いていたかのように認定したのは、大きな誤解があったとしか思われず、また、甲5において、「TLS治療ガイドライン」(甲3)が引用されているという事実は、2012年2月の時点では、日本の当業者の間でもTLSのリスク分類に基づく薬剤の使い分けが確立されていたことを示す証拠である旨を主張する(令和3年3月8日提出の上申書8頁「(エ)」)。
しかしながら、甲5において、「米国臨床腫瘍学会では2008年に世界で初めてTLS治療ガイドラインが作成されリスク別に治療方針が示された。高リスク例ではラスブリカーゼ、中等度リスク例ではアロプリノールを使用する。ラスブリカーゼは近年医薬品化された遺伝子組換え型ユリカーゼで不溶性の尿酸を水溶性のアラントインに変換させる酵素である。…その効果は劇的であった。一方、アロプリノールは腎障害時毒性が発現しTLSにおいては使用が制限されることがある。」と記載されているのは、甲30における事例2と同様に、米国におけるTLS治療ガイドラインを紹介し、それに従う意図の記載であると理解できるものの、甲5に上記記載があるからといって、甲6における典型的症例のTLS発症患者や、甲30における事例1のTLSの高リスク患者に対して、アロプリノールを投与することが例外扱いされるほどに、TLSのリスク分類に基づく薬剤の使い分けが確立されていたとはいえない。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。
d 乙14(ポケット版 臨床医薬品集2010)について
被請求人は、乙14に、「腫瘍融解症候群」のための選択肢として「ラスブリカーゼ」が掲載されていることは、TLS高リスク患者にはラスブリカーゼを使用することが日本の医療現場でも周知されていたことを示すものである旨を主張する(令和3年3月8日提出の上申書8頁「b.」)。
しかしながら、乙14には、ラスブリカーゼについて、「腫瘍融解症候群の発症リスクを考慮.既存支持療法では血中尿酸値の管理が不十分の場合のみに投与」「がん化学療法後高尿酸血症の有効性及び安全性未確立」と記載されているものの、これらの記載は、TLSの高リスク患者又は発症患者に対して、医療従事者の判断でアロプリノールを適用することが行われなくなっていたことを示すものではない。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。
e 乙15(泌尿器外科,2012,Vol.25,No.3,p.297~303)について
被請求人は、乙15には、「高尿酸血症による急性腎不全」についてはアロプリノールの予防効果が十分でない場合があるとした上で、「ラスブリカーゼの有効性が報告されている」と記載され、ガイドラインである甲3(文献22)を、「大変参考になる」として記載していることは、TLS高リスク患者にはラスブリカーゼを使用することが日本の医療現場でも周知されていたことを示すものである旨を主張する(令和3年3月8日提出の上申書8~9頁「c.」)。
しかしながら、乙15の「欧米では…ラスブリカーゼの有用性が報告されており、わが国でも2009年に保険承認されている、ラスブリカーゼの使用法も含めた腫瘍崩壊症候群の管理法に関してはガイドラインがあり、大変参考になる22)。」との記載において、甲3ガイドライン(文献22)が「大変参考になる」とは、その言葉のとおり、「参考」にしていたといえるものの、当該ガイドラインのとおりTLS高リスク患者にはラスブリカーゼが使われており、医療従事者の判断により、当該患者にアロプリノールを使用するという状況にはなかったことを示すものではない。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。
f 乙16(小児白血病・リンパ腫の診療ガイドライン 2011年版)について
被請求人は乙16には、「推奨1」として「TLS高リスク症例に対しては十分な補液とラスブリカーゼ製剤を投与する。推奨グレードA」、「推奨2」として「TLS中間リスク例に対しては十分な補液とアロプリノール製剤を投与する。」と記載され、本件優先日前に、TLS発症リスク別にそれぞれ異なる予防戦略を採用することが通常であったことを示す旨を主張する(令和3年3月8日提出の上申書9頁「d.」)。
しかしながら、甲3ガイドラインには、ラスブリカーゼの高リスク患者への投与は、主に小児患者を対象として記載され、米国食品医薬品局はラスブリカーゼの成人患者への投与を承認していないと記載されていることを考慮すると(2773頁右欄9~10行、下から3~1行)、小児患者と成人患者とを全く同等の取扱いをしていたとはいえない。
加えて、乙16と同年に発行された甲6においては、特に患者の年齢を特定しておらず、TLS発症リスク別に異なる予防戦略を採用することは記載されていないことを考慮すると、乙16の上記記載により、小児患者だけでなく成人患者においても、上記「推奨1」及び「推奨2」のように、TLS発症リスク別にそれぞれ異なる予防戦略を採用することが通常であったということはできない。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。
g 乙13(ラスリテックの審査結果報告書,2009年)について
被請求人は、「ラスリテック」の審査報告書の「臨床的位置づけ」の記載をみると、甲3ガイドラインの記載を紹介し、「本薬」(ラスブリカーゼ)を評価しており(55頁13~22行)、また、「適応患者については…TLSの治療ガイドライン等の最新情報も参考に、本薬の投与が適切と判断される症例のみを選択する必要がある」と述べ(55頁27行~56頁2行)、さらに、TLS高リスク患者に対してキサンチンオキシダーゼ(XO)阻害剤であるアロプリノールは有効性や安全性に課題があるのに対して、ラスブリカーゼは有効な治療選択肢となることが明示されている(44頁下から2行~46頁本文3行)から、乙13が発行された2009年や、まして既に「ラスリテック」の販売開始(2010年4月5日:乙11)から2年半も経過した本件優先日の時点では、日本においても、欧米と同様、TLS高リスク患者にアロプリノールを投与することに危険性が認識されており、ラスブリカーゼの投与が医療現場の常識となっていた旨を主張する(令和3年3月8日提出の上申書9~10頁「e.」)。
しかし、被請求人が指摘する55頁13~22行の記載は、医薬品医療機器総合機構(以下「機構」という。)が求めた説明に対する申請者(サノフィ・アベンティス株式会社)の回答であり、機構自体の意見ではない。
そして、機構は、申請者(サノフィ・アベンティス株式会社)によるTLSガイドラインに基づくラスブリカーゼと既存の支持療法との使い分けに関する申請者の説明内容は理解できるとしたものの、当該ガイドラインどおりにラスブリカーゼとアロプリノールを使い分けることが適切と判断したわけではなく、ラスブリカーゼとアロプリノールとの安全性に差異はなく、有効性の差異が明確ではないとし(49頁7行、50頁本文1~4行、51頁本文1~5行)、結局、適応患者については、がん化学療法に十分な知識・経験を有する医師が、TLSの治療ガイドライン等の最新情報も参考に、ラスブリカーゼの投与が適切と判断される症例のみを選択する必要があると考えるとし、加えて、ラスブリカーゼについてTLSが発症した場合の治療効果は検討されていないとしているのである(55頁3行~56頁2行)。
したがって、乙13の記載を検討しても、TLSの高リスク患者又は発症した患者に対しては、アロプリノールは投与せず、ラスブリカーゼを投与することが技術常識となっていたとはいえない。
さらに、「ラスリテック」についての論文である甲37(日薬理誌;2010年)に、「海外では既に腫瘍崩壊症候群を適切に対処する目的で,ガイドライン作成の検討が始められており2008年の…(ASCO)でその概要が発表されたが(当審注:甲3),本ガイドラインはまだ確定していない.…海外では使用実績が豊富にあり,ガイドラインが確定していない状況でも本剤の有用性が十分認識されているが,国内での使用経験は臨床試験で使用されたわずかな実績しかない.よって,今後本邦の小児,成人患者で本剤が使用されることで本剤の有用性が広く認識されていくと共に,ガイドラインのさらなる検討が期待される.」(260頁右欄2~16行)と記載されていることも、上記の技術常識についての認識を裏付けるものといえる。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。
カ 被請求人は、甲1の論文が掲載された雑誌は、主に血栓等の血液疾患に関する雑誌であり、血液腫瘍を扱う医師が治療方針を決めるために参照するような雑誌ではないから、かかる雑誌に掲載された甲1の論文が、当業者に対して訂正発明への示唆を与えることはない旨を主張する(令和3年3月8日提出の上申書13頁「(エ)」)。
被請求人の上記主張が、当審の判断におけるどの誤りを指摘するものか定かではないものの、甲1の論文自体は、「腫瘍融解症候群」に関する論文であり、訂正発明と同じ疾患に関するものであるから、医師を含めた当業者が参照する文献として適切であるといえる。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。
(7)小括
以上のとおり、訂正発明1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
よって、無効理由4は理由がある。
6 無効理由5(甲2に基づく進歩性欠如)について
(1)甲2に記載された発明
上記第5の2に示した甲2の記載事項によれば、症例1として、UA(尿酸値)38.2mg/dLで、急性腎不全を呈していた、バーキットリンパ腫/白血病(新WHO分類)の患者において、急性腎不全に対する血液透析療法、全身状態を改善するためのプレドニゾロン投与に加え、TLSに対する治療として、輸液負荷、尿のアルカリ化、アロプリノール投与をしたところ、第5病日には、UA18.2mg/dLと低下傾向を認め、その後、シクロホスファミド等を含むCODOX-M療法を2サイクル終了後完全寛解に到達したことが記載されている。
症例1におけるアロプリノールは、TLSの治療における有効成分であるといえる。
そうすると、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「UA38.2mg/dLであり、急性腎不全を呈していた、バーキットリンパ腫/白血病(新WHO分類)の患者において、急性腎不全に対する血液透析療法及び全身状態を改善するためのプレドニゾロン投与とともに処置され、UA18.2mg/dLに低下させる、アロプリノールを有効成分とするTLSの治療薬。」
(2)訂正発明1について
ア 対比
甲2発明の「アロプリノール」は、キサンチンオキシダーゼ阻害薬であることは技術常識であり(甲1)、訂正発明1の「2-[3-シアノ-4-(2-メチルプロポキシ)フェニル]-4-メチルチアゾール-5-カルボン酸又はその医薬上許容される塩」(フェブキソスタット)も、訂正明細書【0029】の記載によればキサンチンオキシダーゼ阻害薬であるから、いずれもキサンチンオキシダーゼ阻害薬である点で共通する。
甲2発明の「UA(尿酸値)38.2mg/dLであり、急性腎不全を呈していた、バーキットリンパ腫/白血病(新WHO分類)の患者」は、その症状に加え、甲2の「3症例全てにおいてTLSを合併」していた旨の記載を考慮すると、TLSを既に発症していると理解でき、また、アロプリノール投与後に抗腫瘍治療である「CODOX-M/IVAC療法」を施すことから、訂正発明1の「抗腫瘍治療に起因せずに腫瘍融解症候群が発症し、尿酸の血中測定値が8mg/dL以上である高尿酸血症及び腎機能低下が認められる、又は抗腫瘍治療の実施前に腫瘍融解症候群が発症し、尿酸の血中測定値が8mg/dL以上である高尿酸血症が認められる、高リスク患者で、造血器腫瘍の患者」に相当する。
また、甲2発明の「TLSの治療薬」は、訂正発明1の「腫瘍融解症候群の治療薬又は予抗腫瘍治療に起因する腫瘍融解症候群の予防薬」に相当する。
そうすると、訂正発明1と甲2発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「キサンチンオキシダーゼ阻害薬を有効成分として含有する、抗腫瘍治療に起因せずに腫瘍融解症候群が発症し、尿酸の血中測定値が8mg/dL以上である高尿酸血症及び腎機能低下が認められる、又は抗腫瘍治療の実施前に腫瘍融解症候群が発症し、尿酸の血中測定値が8mg/dL以上である高尿酸血症が認められる、高リスク患者で、造血器腫瘍の患者に投与される、腫瘍融解症候群の治療薬又は予抗腫瘍治療に起因する腫瘍融解症候群の予防薬。」
<相違点1’>
訂正発明1’は、「ただし、バーキット非ホジキンリンパ腫、リンパ芽球性非ホジキンリンパ腫、バーキット急性リンパ芽球性白血病、白血球数(WBC)が100,000以上である急性リンパ芽球性白血病、白血球数(WBC)が50,000以上である急性骨髄性白血病、及び単芽球性急性骨髄性白血病の患者を除く」「造血器腫瘍の患者」に投与するものであるのに対し、甲2発明は、「バーキットリンパ腫/白血病(新WHO分類)の患者」に投与するものである点。
<相違点2’>
訂正発明1は、「2-[3-シアノ-4-(2-メチルプロポキシ)フェニル]-4-メチルチアゾール-5-カルボン酸又はその医薬上許容される塩」(フェブキソスタット)を、「1日1回60mg投与」するものであるのに対し、甲2発明は、アロプリノールを投与するものであり、急性腎不全に対する血液透析療法及び全身状態を改善するためのプレドニゾロン投与も併用している点。
イ 相違点1’及び2’について
甲2発明の「バーキットリンパ腫/白血病(新WHO分類)」は、「バーキット非ホジキンリンパ腫」に加え、白血病型acute lymphoblastic leukemia(L3)もその一型とみなされるものであり(甲39:188頁「浸潤部位」参照)、この「L3」とは、FAB分類のL3、すなわち、Burkitt型ALL(Burkitt acute lymphoblastic leukemia:バーキット急性リンパ芽球性白血病)を意味するから(日本内科学会雑誌,2011年,Vol.100,No.7,p.1817-1824。特にp.1820左欄6~7行。表2の欄外「ALL」の説明参照)、甲2発明の「バーキットリンパ腫/白血病(新WHO分類)」には、バーキット非ホジキンリンパ腫及びバーキット急性リンパ芽球性白血病が含まれるところ、これらのいずれも、訂正発明1から除かれている患者であり、本件所定の造血腫瘍の患者とは異なる。
甲2は、「プレドニゾロン投与後CODOX-M/IVAC療法を施行したバーキットリンパ腫/白血病の3例」という題名の論文であり、特に、「バーキットリンパ腫/白血病」のような、細胞回転の著しい更新と腫瘍量の増大を認める症例では、TLS発症のリスクが高いことから、高LDH血症、高尿酸血症、腎障害を呈したバーキットリンパ腫/白血病の3例に対し、診断が確定するまでの数日間に病状の進行を抑え、全身状態の改善を図る目的でプレドニゾロン投与を行い全身状態の改善を認め、病理診断がなされた時点でCODOX-M/IVAC療法に速やかに移行可能であり、全例で完全寛解が得られたことを報告するものであり、その3例のうちの1例が、甲2発明である。
そうすると、甲2発明においては、バーキットリンパ腫/白血病という特定の患者と、プレドニゾロン投与及びCODOX-M/IVAC療法が密接に関係していることから、甲2の記載に接した当業者が、甲2発明における「バーキットリンパ腫/白血病(新WHO分類)」の患者を、細胞回転の著しい更新と腫瘍量の増大を認めTLS発症のリスクが高いとされるバーキット急性リンパ芽球性白血病等の造血器腫瘍が除かれた「本件所定の造血器腫瘍」の患者に変更した上で、プレドニゾロン投与及びCODOX-M/IVAC療法の影響を検討することを動機付けられるとはいえないし、さらに、アロプリノール投与をフェブキソスタット1日1回60mg投与に変更することを、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
上記5(1)に説示した技術常識を考慮しても、上記判断には影響しない。
ウ 以上によれば、訂正発明1は、甲2に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)訂正発明2~5について
訂正発明2~5は、訂正発明1の発明特定事項を全て備え、更に発明特定事項を加えたものである。
したがって、訂正発明1が甲2に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、訂正発明2~5も、甲2に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)請求人らの主張について
請求人らは、訂正前の請求項1~6に係る発明と甲2発明とは、有効成分が異なる点以外は一致しているとし、甲2発明のアロプリノールをフェブキソスタットとして、訂正前の請求項1~6に係る発明とすることは、当業者が容易に想到することができた旨を主張する(審判請求書37~41頁)。
しかしながら、訂正発明1~5と甲2発明とは、相違点2’である有効成分が異なることに加えて、相違点1’である患者の疾病が異なり、これらの相違点1’及び2’に係る訂正発明1~5の構成を容易に想到することができたとはいえないことは、上記(2)及び(3)に説示したとおりである。
なお、請求人らはいずれも、訂正発明1~5に関する無効理由5についての主張はしていない。
(5)小括
以上のとおり、訂正発明1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。
よって、無効理由5は理由がない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正後の請求項1~5に係る特許は、請求人らの主張する無効理由4(甲1に基づく進歩性欠如)により無効とすべきものである。
請求項6に係る発明についての審判請求は、本件訂正より、その対象が存在しないものとなったため、特許法第135条の規定により却下する。
審判費用は、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第64条の規定により、参加によって生じた費用を含めて、その6分の1を請求人及び参加人の負担とし、6分の5を被請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
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2020-800044