特許無効審判
2016-800037
2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶多形体およびその製造方法
- 審判番号
- 2016-800037
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2000-554711
- 登録番号
- 特許第3547707号(P3547707)
- 請求日
- 2016年03月30日
- 審決日
- 2017年06月05日
- 公報発行日
- 2019年04月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】日本ケミファ 株式会社
- 【請求人代理人】今村 正純
- 【請求人代理人】室伏 良信
- 【請求人代理人】渡辺 紫保
- 【請求人代理人】野津 万梨子
- 【請求人代理人】井上 香織
- 【請求人代理人】牧野 知彦
- 【被請求人】帝人 株式会社
- 【被請求人代理人】青木 篤
- 【被請求人代理人】石田 敬
- 【被請求人代理人】福本 積
- 【被請求人代理人】古賀 哲次
- 【被請求人代理人】中村 和美
- 【被請求人代理人】渡辺 陽一
- 【被請求人代理人】中島 勝
- 【被請求人代理人】萩尾 保繁
- 【被請求人代理人】石神 恒太郎
- 審判長/審判官
- 審判長 中田 とし子
- 審判官 冨永 保
- 審判官 加藤 幹
- 分類
- P1123.113-ZE (C07D) / P1123.121-ZE (C07D) / P1123.536-ZE (C07D) / P1123.537-ZE (C07D) / P1123.832-ZE (C07D) / P1123.85 -ZE (C07D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第36条第4項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第134条の2第1項、特許法第36条第6項、特許法第29条第1項第3号、特許法第180条の2第1項、特許法第2条第3項第1号、特許法第2条第3項第3号、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
上記当事者間の特許第3547707号発明「2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶多形体およびその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
特許第3547707号の請求項1、3、5、6、8、10、14に係る発明についての特許を無効とする。
特許第3547707号の請求項12、16、17、18に係る発明についての審判請求は、成り立たない。
審判費用は、その11分の4を請求人の負担とし、11分の7を被請求人の負担とする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第3547707号(以下「本件特許」という。)は、1999年6月18日(優先権主張 1998年6月19日 日本国(JP))を国際出願日として出願(特願2000-554711号)されたものであり、その特許権について平成16年4月23日に設定登録を受けた(請求項の数19)。
その後、本件の特許請求の範囲の請求項1、3、5、6、8、10、12、14、16、17及び18に係る発明についての特許を無効とすることについて、平成28年3月30日に日本ケミファ株式会社(以下「請求人」という。)から本件審判の請求がされた。
本件審判の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成28年 3月30日付け 審判請求書・甲第1~甲第16号証提出
同年 7月 1日付け 審判事件答弁書・訂正請求書・乙第1、乙 第2号証提出
同年 8月10日付け 審判事件弁駁書・甲第17~甲第20号証
提出
同年 9月30日付け 審理事項通知
同年10月28日付け 上申書1(請求人)・甲第21号証提出
同年 同月 同日付け 上申書1(被請求人)・乙第3号証の1~ 5、乙第4、乙第5号証、乙第6号証の1 、2、乙第7号証の1~3、乙第8号証の 1、2、乙第9号証提出
同年11月18日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)・甲第22
、甲第23号証提出
同年 同月 同日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)・乙第1
0、乙第11号証提出
同年12月 2日 口頭審理
同年 同月16日付け 上申書2(請求人)・甲第7号証の2、甲
第24~第26号証提出
同年 同月 同日付け 上申書2(被請求人)・乙第12号証提出
平成29年 1月 6日付け 上申書3(請求人)
同年 同月 同日付け 上申書3(被請求人)
同年 2月10日付け 審決の予告
上記において、上申書を提出順に「上申書1」などとした。以下、書証は、その証拠番号により、甲第1号証を「甲1」、乙第1号証を「乙1」などともいう。
なお、審決の予告に対し被請求人からの応答はなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
特許権者である帝人株式会社(以下「被請求人」という。)は、審判長が審判請求書の副本を送達し被請求人が答弁書を提出するために指定した期間内である平成28年7月1日に訂正請求書を提出して、訂正請求書に添付した訂正明細書(以下「本件訂正明細書」という。)のとおり、訂正後の請求項1、3、5、6、8、10、12、14、16、17及び18について請求項ごとに訂正(以下「本件訂正」という。)することを求めた。
その訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1:特許請求の範囲の請求項1に「結晶多形体」とあるのを「結晶多形がつくり分けられた結晶多形体」に訂正する。
(2)訂正事項2:特許請求の範囲の請求項3に「結晶多形体」とあるのを「結晶多形がつくり分けられた結晶多形体」に訂正する。
(3)訂正事項3:特許請求の範囲の請求項5に「結晶多形体」とあるのを「結晶多形がつくり分けられた結晶多形体」に訂正する。
(4)訂正事項4:特許請求の範囲の請求項6に「結晶多形体」とあるのを「結晶多形がつくり分けられた結晶多形体」に訂正する。
(5)訂正事項5:特許請求の範囲の請求項8に「結晶多形体」とあるのを「結晶多形がつくり分けられた結晶多形体」に訂正する。
(6)訂正事項6:特許請求の範囲の請求項10に「結晶多形体」とあるのを「結晶多形がつくり分けられた結晶多形体」に訂正する。
(7)訂正事項7:特許請求の範囲の請求項12に「A晶の製造方法」とあるのを「結晶多形がつくり分けられたA晶の製造方法」に訂正する。
(8)訂正事項8:特許請求の範囲の請求項14に「C晶の製造方法」とあるのを「結晶多形がつくり分けられたC晶の製造方法」に訂正する。
(9)訂正事項9:特許請求の範囲の請求項16に「G晶の製造方法」とあるのを「結晶多形がつくり分けられたG晶の製造方法」に訂正する。
(10)訂正事項10:特許請求の範囲の請求項17に「G晶の製造方法」とあるのを「結晶多形がつくり分けられたG晶の製造方法」に訂正する。
(11)訂正事項11:特許請求の範囲の請求項18に「G晶の製造方法」とあるのを「結晶多形がつくり分けられたG晶の製造方法」に訂正する。
(12)訂正事項12:特許請求の範囲の請求項14に「メタノールおよび水の混合溶媒」とあるのを「メタノールおよび水の混合溶媒であって、メタノール/水が80/20~50/50であるもの」に訂正する。
(13)訂正事項13:特許請求の範囲の請求項14に「加熱する」とあるのを「50℃以上で加熱する」に訂正する。
(14)訂正事項14:特許請求の範囲の請求項17に「混合溶媒」とあるのを「混合溶媒であって、2-プロパノール/水が90/10~50/50であるもの」に訂正する。
2 訂正の適否についての検討
(1)訂正事項1~6について
訂正事項1~6は、いずれも相当する請求項(請求項1、3、5、6、8、10)に記載の「結晶多形体」について、「結晶多形がつくり分けられた」との記載を追加して、「結晶多形がつくり分けられた結晶多形体」と訂正するものである。
このうち、訂正事項1により、請求項1は、「反射角度2θで表して、ほぼ6.62°、7.18°、12.80°、13.26°、16.48°、19.58°、21.92°、22.68°、25.84°、26.70°、29.16°、および36.70°に特徴的なピークを有するX線粉末回折パターンを示す、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶多形体。」から、「反射角度2θで表して、ほぼ6.62°、7.18°、12.80°、13.26°、16.48°、19.58°、21.92°、22.68°、25.84°、26.70°、29.16°、および36.70°に特徴的なピークを有するX線粉末回折パターンを示す、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶多形がつくり分けられた結晶多形体。」と訂正されるが、本件訂正前の請求項1は、特定の特徴的なピークを有するX線粉末回折パターンを示す結晶多形体に係るものであり、該結晶多形体は、そのX線粉末回折パターンの特徴的なピークによって、他の結晶多形体と画される特定の結晶多形体であると解される。一方、本件訂正後の請求項1も、特定の特徴的なピークを有するX線粉末回折パターンを示す結晶多形体に係るものであり、該結晶多形体は、特定の特徴的なピークを有するX線粉末回折パターンを示すことによって、他の結晶多形体と画される特定の結晶多形体であると解される。そして、本件訂正前後において、結晶多形体のX線粉末回折パターンの特徴的なピークに異なる点はない。してみると、本件訂正前後において、請求項1に記載の結晶多形体には、技術的にみて実質的に何ら相違する点はないから、本件訂正によって請求項1に記載の結晶多形体に技術的にみて実質的に変更される点はない。
したがって、訂正事項1についての本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号~第4号に掲げるいずれの事項も目的とするものではない。
そして、訂正事項2、3についての本件訂正は、訂正事項1と同様に、特定の特徴的なピークを有するX線粉末回折パターンを示す請求項3、5に記載の結晶多形体について、同様の訂正を行うものであるから、訂正事項1と同様に、当該訂正によって請求項3、5に技術的にみて実質的に変更される点はない。
また、訂正事項4~6についての本件訂正は、赤外分光分析において、特定の他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収を有する請求項6、8、10に記載の結晶多形体について、訂正事項1と同様の訂正を行うものであるところ、これら請求項に記載の結晶多形体は、赤外分光分析における特徴的吸収によって他の結晶多形体とは識別できるものであり、本件訂正前後において、赤外分光分析において、特定の他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収に異なる点はないから、本件訂正において、請求項6、8、10に記載の結晶多形体には、技術的にみて実質的に変更される点はない。
したがって、訂正事項2~6についての本件訂正も、特許法第134条の2第1項ただし書第1号~第4号に掲げるいずれの事項も目的とするものではない。
(2)訂正事項7~11について
訂正事項7~11は、いずれも相当する請求項(請求項12、14、16~18)において、特定の晶について、「結晶多形がつくり分けられた」との記載を追加するものである。そして、上記各請求項において、本件訂正前後において、特定の晶(A晶、C晶、G晶)についての変更はないところ、A晶、C晶、G晶は、そのアルファベットによって、特定の結晶多形体を表現するものであって、その他の結晶多形体と画されるものであると解される。してみると、本件訂正前後において、請求項12、14、16~18に記載の結晶多形体には、技術的にみて実質的に変更される点はない。
したがって、訂正事項7~11についての本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号~第4号に掲げるいずれの事項も目的とするものではない。
(3)訂正事項12~14について
訂正事項12、13は請求項14についての、訂正事項14は請求項17についての訂正であるところ、上記(2)で述べたとおりであるから、訂正事項8、10による請求項14、17についての訂正はいずれも認められず、本件訂正の請求は請求項ごとにされているから、これら請求項についての訂正である訂正事項12~14についての訂正も認められない。
3 訂正請求に対する被請求人の主張について
被請求人は、概略以下の主張をしている。
訂正事項1~11についての訂正は、目的とする特定の結晶形に他の結晶形が共存する場合を排除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、「結晶多形がつくり分けられた」とは、各請求項においてX線粉末回折パターンや、赤外分光分析における特徴的吸収により定義される特定の結晶形に、他の結晶形が随伴/夾雑しないことを意味する純度の概念である(訂正請求書4~8頁、審判事件答弁書3~7頁、上申書1、3~9頁、口頭陳述要領書2~3頁)。
しかし、上記2(1)~(3)で述べたとおりであり、「結晶多形がつくり分けられた」との記載を追加しても、技術的にみて実質的に変更される点はないから、上記主張を採用することはできない。
4 訂正の適否についてのまとめ
よって、平成28年7月1日付けで請求された請求項1、3、5、6、8、10、12、14、16、17及び18についての訂正を認めない。
第3 本件発明
1 本件発明
上記第2の項で示したように、平成28年7月1日付けで請求された請求項1、3、5、6、8、10、12、14、16、17及び18についての訂正は認められないから、本件特許の請求項1、3、5、6、8、10、12、14、16、17及び18に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1、3、5、6、8、10、12、14、16、17及び18に記載された事項により特定される、それぞれ以下のとおりのものである(以下、請求項の番号に応じて、請求項1に係る発明を「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ということがある。)。
「【請求項1】
反射角度2θで表して、ほぼ6.62°、7.18°、12.80°、13.26°、16.48°、19.58°、21.92°、22.68°、25.84°、26.70°、29.16°、および36.70°に特徴的なピークを有するX線粉末回折パターンを示す、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶多形体。」
「【請求項3】
反射角度2θで表して、ほぼ6.62°、10.82°、13.36°、15.52°、16.74°、17.40°、18.00°、18.70°、20.16°、20.62°、21.90°、23.50°、24.78°、25.18°、34.08°、36.72°、および38.04°に特徴的なピークを有するX線粉末回折パターンを示す、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶多形体。」
「【請求項5】
反射角度2θで表して、ほぼ6.86°、8.36°、9.60°、11.76°、13.74°、14.60°、15.94°、16.74°、17.56°、20.00°、21.26°、23.72°、24.78°、25.14°、25.74°、26.06°、26.64°、27.92°、28.60°、29.66°、および29.98°に特徴的なピークを有するX線粉末回折パターンを示す、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶多形体。」
「【請求項6】
赤外分光分析において、1678cm-1付近に他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収を有する、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶多形体。」
「【請求項8】
赤外分光分析において、1703cm-1および1219cm-1付近に他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収を有する、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶多形体。」
「【請求項10】
赤外分光分析において、1703cm-1および1684cm-1付近に他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収を有する、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶多形体。」
「【請求項12】
図1においてI領域として示された、温度およびメタノール/水の混合溶媒組成によって画定される条件のもとで晶析することを特徴とする、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸のA晶の製造方法。」
「【請求項14】
メタノールおよび水の混合溶媒に懸濁した2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸に、少量の2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸のC晶を存在させて加熱することを特徴とする、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸のC晶の製造方法。」
「【請求項16】
図1においてIII領域として示された、温度およびメタノール/水の混合溶媒組成によって画定される条件のもとで晶析することを特徴とする、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸のG晶の製造方法。」
「【請求項17】
2-プロパノールおよび水からなる混合溶媒から晶析することを特徴とする、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸のG晶の製造方法。」
「【請求項18】
2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸のD晶を、通常雰囲気下、自然乾燥することを特徴とする、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸のG晶の製造方法。」
2 本件発明1、6及び12の結晶、本件発明3、8及び14の結晶、並びに本件発明5、10及び16~18の結晶について
本件発明1、3、5は、X線粉末回折パターンの特徴的なピークによって、本件発明6、8、10は赤外分光分析における他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収によって、本件発明12、14、16~18は、アルファベット(A、C又はG)によって、結晶多形体又は晶を特定するところ、本件特許明細書の「すなわち本発明は、反射角度2θで表わしてほぼ6.62°、7.18°、12.80°、13.26°、16.48°、19.58°、21.92°、22.68°、25.84°、26.70°、29.16°、および36.70°に特徴的なピークを有するX線粉末回折パターンを示す、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶多形体(以下、A晶ともいう);
・・・
反射角度2θで表わしてほぼ6.62°、10.82°、13.36°、15.52°、16.74°、17.40°、18.00°、18.70°、20.16°、20.62°、21.90°、23.50°、24.78°、25.18°、34.08°、36.72°、および38.04°に特徴的なピークを有するX線粉末回折パターンを示す、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶多形体(以下、C晶ともいう);
・・・
ならびに、反射角度2θで表わしてほぼ6.86°、8.36°、9.60°、11.76°、13.74°、14.60°、15.94°、16.74°、17.56°、20.00°、21.26°、23.72°、24.78°、25.14°、25.74°、26.06°、26.64°、27.92°、28.60°、29.66°、および29.98°に特徴的なピークを有するX線粉末回折パターンを示す、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶多形体(以下、G晶ともいう)である。
また、赤外分光分析によれば、上述のA晶は1678cm-1付近に、・・・C晶は1703cm-1および1219cm-1付近に、・・・G晶は1703cm-1および1684cm-1付近に、それぞれ他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収を有する。
すなわち、本発明は、赤外分光分析において、1678cm-1付近に他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収を有する、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶多形体(A晶);
・・・
赤外分光分析において、1703cm-1および1219cm-1付近に他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収を有する、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶多形体(C晶);
・・・
ならびに、赤外分光分析において、1703cm-1および1684cm-1付近に他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収を有する、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶多形体(G晶)である。」との記載(特許公報の記載箇所で示す。以下同じ。4頁37行~5頁35行)及び上申書1、44~45頁における、本件発明1の結晶多形体と本件発明6の結晶多形体と本件発明12のA晶は同じ結晶形であり、本件発明3の結晶多形体と本件発明8の結晶多形体と本件発明14のC晶は同じ結晶形であり、本件発明5の結晶多形体と本件発明10の結晶多形体と本件発明16~18のG晶は同じ結晶形である旨の記載からみて、本件発明1及び6の結晶多形体及び本件発明12の晶、本件発明3及び8の結晶多形体及び本件発明14の晶、並びに本件発明5及び10並びに本件発明16~18の晶は、いずれも同じ結晶形を有する結晶であると認める。
第4 請求人の主張する無効理由の概要及び請求人が提出した証拠方法等
1 無効理由の概要
請求人は、請求の趣旨の欄を「特許第3547707号の特許請求の範囲の請求項1、3、5、6、8、10、12、14、16、17及び18に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」とした審判請求書、審判事件弁駁書、上申書1~3及び口頭審理陳述要領書において、概略以下の無効理由1~5を主張している(調書も参照)。
(1)無効理由1
(1-1)本件発明1及び6は甲第2号証に記載された発明であり、
(1-2)本件発明3及び8は甲第2号証に記載された発明であり、
(1-3)本件発明3及び8は甲第5号証に記載された発明であり、
(1-4)本件発明5及び10は甲第6号証に記載された発明である。
したがって、本件発明1、3、5、6、8、10は特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、本件発明1、3、5、6、8、10の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(2)無効理由2
(2-1)本件発明1及び6は甲第2号証に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
(2-2)本件発明3及び8は甲第2号証に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
(2-3)本件発明3及び8は甲第5号証に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
(2-4)本件発明5及び10は甲第6号証に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明1、3、5、6、8、10は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件発明1、3、5、6、8、10の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(3)無効理由3
(3-1)本件発明1、6及び12は甲第2号証(主引用例)に記載された発明、甲第5、6、14及び15号証に記載された発明並びに本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
(3-2)本件発明3、8及び14は甲第2号証(主引用例)に記載された発明、甲第5、6、14及び15号証に記載された発明並びに本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
(3-3)本件発明3、8及び14は甲第5号証(主引用例)に記載された発明、甲第2、6、14及び15号証に記載された発明並びに本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
(3-4)本件発明5、10、16~18は甲第6号証(主引用例)に記載された発明、甲第2、5、14及び15号証に記載された発明並びに本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明1、3、5、6、8、10、12、14、16~18は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件発明1、3、5、6、8、10、12、14、16~18の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(4)無効理由4
本件発明3、8及び14について、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、これらの発明を当業者が実施できる程度の開示がないので、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明3、8及び14の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
したがって、本件発明3、8及び14の特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
(5)無効理由5
本件発明3、8及び14について、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、これらの発明が解決しようとする課題を解決できることを当業者が理解できるように記載されていないため、本件発明3、8及び14は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
したがって、本件発明3、8及び14の特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
2 請求人が提出した証拠方法等
以下の証拠方法が提出されている。
[審判請求書に添付]
甲1:特許第3547707号公報
甲2:Heterocycles、1998、47(2)、pp.857~864
甲3:本件特許のファミリーである欧州特許出願(08005934.8)の審査において、特許権者から2009年6月26日付けで欧州特許庁に提出された意見書
甲4:本件特許のファミリーである欧州特許出願(08005934.8)の審査において、欧州特許庁から2008年8月18日付けで送達された指令書(Form 1507)
甲5:特許第2725886号公報
甲6:特許第2706037号公報
甲7:請求人の従業員である天童温が平成28年3月8日付けで作成した実験成績証明書
甲8:社団法人有機合成化学協会編、「有機合成実験法ハンドブック」、丸善株式会社、平成2年3月31日発行、263~280頁
甲9:社団法人日本化学会編、「第4版 実験化学講座1 基本操作I」、丸善株式会社、平成2年11月5日第4版発行、184~198頁
甲10:知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10271号審決取消請求事件判決(平成19年7月4日言渡)
甲11:仲井由宣、花野学編、「新製剤学」、株式会社南山堂、1982年11月25日第1版発行、102~103頁
甲12:塩路雄作著、「固形製剤の製造技術」、株式会社シーエムシー出版、1985年3月5日初版第1刷発行、2003年1月27日普及版第1刷発行、9~14頁
甲13:特許庁審判部、「特許性検討会報告書 2008」、平成21年3月、1~8頁、118~128頁、160~169頁
甲14:特開平1-242582号公報
甲15:特開平7-70120号公報
甲16:本件特許の審査過程において平成16年3月9日付けで特許権者から提出された意見書
[審判事件弁駁書に添付]
甲17:化学工学論文集、1995、21(3)、pp.437-443
甲18:特許第2708715号公報
甲19:知的財産高等裁判所平成23年(行ケ)第10445号審決取消請求事件判決(平成24年12月5日言渡)
甲20:「安定性試験ガイドラインについて」、平成6年4月21日、各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生省薬務局新医薬品課長通知
[上申書1に添付]
甲21:「第13改正日本薬局方解説書 通則 製剤総則 一般試験法 1996」、国立国会図書館への受け入れ日:平成9年7月18日、iii、iv頁、B-471~B-473頁、B-256~B-258頁
[口頭審理陳述要領書に添付]
甲22:ファルマシア、2009、Vol.45、No.4、pp.327~332
甲23:Acc.Chem.Res.、1995、28(4)、pp.193~200
[上申書2に添付]
甲7-2:請求人の従業員である吉田愼一が平成28年12月13日付けで作成した実験成績証明書(甲7の記載を基にして、先に行った試験の内容を明確にすべく加筆修正を行ったもの)
甲24:特開平2-167286号公報
甲25:再公表公報WO95/29913
甲26:請求人の従業員である吉田愼一が平成28年12月13日付けで作成した実験成績証明書
第5 被請求人の主張の概要及び被請求人が提出した証拠方法等
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、答弁の趣旨の欄を「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」とした審判事件答弁書、上申書1~3及び口頭審理陳述要領書において、請求人が主張する無効理由のいずれにも理由がない旨の反論をしている(調書も参照)。
2 被請求人が提出した証拠方法等
以下の証拠方法が提出されている。
[審判事件答弁書に添付]
乙1:帝人ファーマ株式会社の寺本満による2016年6月28日を報告日とする実験成績証明書(1)、エタノール系溶媒からのフェブキソスタット晶析に関する実験
乙2:帝人ファーマ株式会社の寺本満による2016年6月28日を報告日とする実験成績証明書(2)、フェブキソスタットの中和晶析に関する実験
[上申書1に添付]
乙3の1:特許無効審判事件(無効2008-800055)審決、審決日:平成21年8月25日
乙3の2:知的財産高等裁判所平成21年(行ケ)第10284号審決取消請求事件判決、判決言渡日:平成24年1月27日
乙3の3:乙3の2についての上告状兼上告受理申立書、平成24年2月7日
乙3の4:最高裁判所平成24年(行ツ)第146号及び平成24年(行ヒ)第167号決定、決定日:平成27年7月8日
乙3の5:平成21年(行ケ)第10284号審決取消請求事件について提出された特許法第180条の2第1項に基づく意見書、特許庁長官指定代理人、平成23年7月5日
乙4:特許第4898081号公報
乙5:特許第5457647号公報
乙6の1:帝人ファーマ株式会社の佐藤嘉紀による2013年7月19日を報告日とする実験成績証明書、種晶なしでのフェブキソスタットC晶の調製
乙6の2:帝人ファーマ株式会社の寺本満による2016年10月19日を報告日とする実験成績証明書、フェブキソスタットの各結晶形からC晶への転移に関する実験
乙7の1:知的財産高等裁判所平成26年(行ケ)第10182号審決取消請求事件判決、判決言渡日:平成27年8月20日
乙7の2:拒絶査定不服審判事件(不服2012-6456)審決、審決日:平成26年6月9日
乙7の3:特開2003-48831号公報
乙8の1:特公昭62-56151号公報
乙8の2:特許第2676521号公報
乙9:特許第3726291号公報
[口頭審理陳述要領書に添付]
乙10:帝人ファーマ株式会社の寺本満による2016年11月16日を報告日とする実験成績証明書、エタノール系溶媒からのフェブキソスタット晶析に関する実験(2)
乙11:帝人ファーマ株式会社の寺本満による2016年11月16日を報告日とする実験成績証明書、エタノール系溶媒からのフェブキソスタット晶析に関する実験(3)
[上申書2に添付]
乙12:特許第3296564号公報
第6 当審の判断
当審は、無効理由2の(2-3)及び(2-4)、無効理由3のうち(3-1)の本件発明1及び6について、(3-2)及び(3-3)、並びに(3-4)の本件発明5及び10については理由があり、無効理由1、無効理由2の(2-1)及び(2-2)、無効理由3の(3-1)の本件発明12について、(3-4)の本件発明16~18について、無効理由4及び無効理由5は理由がない、と判断する。
その理由は以下のとおりである。
1 無効理由1について
(1)甲2、甲5~甲7及び甲7の2の記載
ア 甲2(Heterocycles、1998、47(2)、pp.857~864)には以下の記載がある(訳文で示す。)。
2a)「4-アルコキシ-1,3-ベンゼンジカルボニトリルの簡易ワンポット合成」(857頁、表題)
2b)「要約 2-(3-シアノ-4-イソブトキシフェニル)-4-メチルチアゾール-5-カルボン酸(TEI-6720)を調製した。乾燥DMSO中でKCNによりシアノ基を4-ニトロベンゾニトリルに導入し、その後ハロゲン化アルキルでクエンチすることにより、重要な中間体である4-アルコキシ-1,3-ベンゼンジカルボニトリルを良好な収率で得た。この反応は、乾燥DMSOでは完了したが、乾燥DMFでは生じなかった。この観察は、DMSOが反応に関与すると考えることができることを示唆する。」(857頁、要約)
2c)「
代表的な例として、TEI-6720の効率的な合成は、スキーム2に概説されている。得られた2bを、チオアセタミドで処理し9、その後クロロアセトアセタートで環化し10、ヒドロキシル化して、TEI-67201,2を60%の収率で得た。2dを同様に変換して、2-(4-エトキシエトキシ-3-シアノフェニル)-4-メチルチアゾール-5-カルボン酸を得た。これは、IC50が1.9nMのXOD阻害活性を示した。この結果は、一連の2-(4-アルコキシ-3-シアノフェニル)-4-メチルチアゾール-5-カルボン酸が、概して強力なキサンチンオキシダーゼ阻害活性を有することを示唆する。
実験の部
基本
NMRスペクトルは、テトラメチルシランを内部標準として使用して、JEOL EX-270型フーリエ変換分光計で記録した。FT-IRスペクトルは、JASCO 5300型システムによりKBr粉末で決定した。中圧液体クロマトグラフィーによる精製は、ダイソー IR-60シリカゲルで実施した。融点は、ヤナコMP-S3装置で測定した。HRMSは、日立M-80B分光計で得た。別様の記述がない限り、市販の試薬及び溶媒をそのまま使用した。DMSO及びDMFは、水素化カルシウムで蒸留し、モレキュラーシーブ4Aと共に保存した。分析TLCは、ガラス支持シリカゲル60(E.メルク社)を使用して実施した。C、H、及びNの微量分析は、柳本MT-3装置を使用して得た。
4-アルコキシー1,3-ベンゼンジカルボニトリル(2)を調製するための基本手順:
4-ニトロベンゾニトリル(1.0当量)及びKCN(1.5当量)の乾燥DMSO(5mL/mmo1)溶液を100℃に加熱し、1時間撹拌した。混合物を冷却し、K2CO3(0.5当量)及びハロゲン化アルキル(2~4当量)を反応混合物に導入した。反応が達成されるまで、室温~80℃で1~24時間、撹拌を更に継続した。反応混合物を水に注ぎ、生成物をAcOEtで抽出した。有機層を無水Na2SO4で乾燥し、濃縮した。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで残渣を精製して、4-アルコキー1,3-ベンゼンジカルボニトリルを得た。
・・・
4-(2-メチルプロポキシ)-1,3-ベンゼンジカルボニトリル(2b):
黄色固形物;mp 128~132℃(EtOH);1HNMR(CDCl3):δ 1.09(6H、d、J=7Hz)、2.21(1H、m)、3.91(2H、d、J=6Hz)、7.04(1H、d、J=9Hz)、7.79(1H、dd、J=9及び2Hz)、7.85(1H、d、J=2Hz);13CNMR(CDCl3):δ 18.96、28.07、76.05、103.72、104.65、113.15、114.14、117.11、137.59、138.06、163.54;FT-IR(KBr):ν=2963、2234、1611、1503、1304、1007、833cm-1;HRMS:m/z C12H12N2Oの計算値 200.0950、測定値200.0938;C12H12N2Oの分析計算値:C、72.0;H、6.0;N、14.0、測定値:C、71.8;H、6.0;N、14.4。
・・・
4-(2-メチルプロポキシ)-3-シアノベンズチオアミド(6):
HClのDMF溶液(6~7N、8mL)に、2b(590mg、2.95mmol)を室温で添加した。チオアセトアミド(550mg、7.3mmol)を混合物に添加し、その後45℃に加熱し、40時間撹拌した。生成物をAcOEtで抽出した。有機層を水で3回洗浄してチオアセトアミドを除去し、Na2SO4で乾燥し、その後蒸発させた。残渣をCHCl3(20mL)で処理し、ろ過により沈殿物を除去した。ろ過液を濃縮し、得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/AcOEt、3:1)で精製し、6(590mg、2.5mmol、85%)を暗黄色の結晶(mp 123~124℃)として得た:1HNMR(CDCl3):δ 1.08(6H、d、J =7Hz)、2.20(1H、m)、3.90(2H、d、J =7Hz)、6.96(1H、d、J=9Hz)、8.11(1H、d,J=2Hz)、8.16(1H、dd、J=9及び2Hz);13CNMR(CDCl3):δ 19.03、28.12、75.85、101.76、111.91、115.51、131.35、132.15、134.32、163.39、199.10;FT-1R(KBr):ν 3165、2232、1642、1601、1503、1302、1005cm-1;HRMS:m/z C12H14N2OSの計算値 234.0827、測定値234.0834;C12H14N2OSの分析計算値:C、61.5;H、6.0;N、12.0、測定値:C、61.4;H、6.0; N、11.9。
4-メチル-2-(4-(2-メチルプロポキシ)-3-シアノフェニル)-5-チアゾールカルボン酸(TEI-6720):
6(400mg、1.65mmol)及びエチル2-クロロアセトアセテート(340mg、1.65mmol)のエタノール(4mL)溶液を、100℃に加熱し、2時間撹拌した。冷却した後、混合物をブラインで洗浄し、生成物をAcOEtで2回抽出した。合わせた有機層を、Na2SO4で乾燥し、留去した。シリカゲルでのカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/AcOEt、3:1)で精製して、エチル4-メチル-2-(4-(2-メチルプロピルオキシ)-3-シアノフェニル)-5-チアゾールカルボキシラート(306mg)を得た。それを、THF(3mL)及びEtOH(3mL)の混合液中、1N-NaOH溶液(1.2mL)により、1時間60℃で加水分解した。混合液を1N-HCl溶液で中和し、形成された結晶をろ取した。試料を、アセトンから再結晶させて、TEI-6720(183mg、5.8mmol、35%)を無色結晶として得た(mp 201~202℃):1HNMR(DMSO-d6):δ 1.04(6H、d、J=7Hz)、2.12(1H、m、J=7Hz)、2.67(3H、s)、3.99(2H、d、J=7Hz)、7.34(1H、d、J=9Hz)、8.20(1H、dd、J=9及び2Hz)、8.25(1H、d、J=2Hz);13CNMR(CDCl3);δ 17.68、19.05、28.18、75.76、103.04、112.68、115.31、121.24、125.71、132.22、132.74、162.71、162.98、167.28、168.60:FT-IR(KBr):ν=2960、2880、2230、1700、1680、1600、1430、1130cm-1;HRMS:m/z C16H16N2O3Sの計算値 316.0882、測定値316.0861;C16H16N2O3Sの分析計算値:C、60.7:H、5.1:N、8.9、測定値:C、60.7;H、5.1:N、8.9。」(860頁スキーム2~863頁20行)
イ 甲5(特許第2725886号公報)には以下の記載がある。
5a)「【請求項1】痛風又は高尿酸血症に有効量の下記式(I)で示される2-アリールチアゾール誘導体又はその医薬上許容される塩を含んでなる医薬組成物:
(上式中、
Arは下記式(II):
(式中、R1,R2及びR3の少なくとも1つの基が、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ホルミル基、式OR,S(O)nR、若しくはNRR′(ここで、・・・Rは無置換若しくは置換されたC1-10のアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基若しくはアラルキルカルボニル基を表わし、・・・)で示される基を表わし;
Xが水素原子;C1-4のアルキル基;カルボキシル基;・・・であり;そして
Yが水素原子又はC1-4のアルキル基を表わすが;
R1,R2及びR3のいずれか1つの基がハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルアミノ基又はニトロ基である場合には、残りの2つの基の少なくとも1つは水素原子以外の基を表わし;・・・)」(特許請求の範囲、請求項1)
5b)「実施例76
2-(4-イソプロポキシ-3-ニトロフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸エチル1.0gをエタノール20mlおよび酢酸エチル20mlに溶かし、10%パラジウム触媒100mgを加え、水素雰囲気下室温で一昼夜攪拌した。反応後、触媒を濾去し、濾液を濃縮した。得られた結晶を濃塩酸4mlに溶解し、これに亜硝酸ナトリウム215mgを3mlの水に溶かした溶液を氷冷下で徐々に滴下し、30分後飽和重曹水40mlで中和した。一方、シアン化銅620mgおよびシアン化カリウム400mgを水10mlに懸濁し、70℃で攪拌したのち氷冷した。これに先のジアゾニウム塩溶液を氷冷下で徐々に加えた。滴下終了したのち、反応液を60℃に加温し一時間後、酢酸エチル100mlで抽出した。有機層を濃縮し、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィーにより精製すると400mgの2-(3-シアノ-4-イソプロポキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸エチルが得られた(収率42%)。
これをエタノール3mlおよびテトラヒドロフラン4mlに溶解させたのち1N水酸化ナトリウム2mlを加え60℃で1時間加水分解した。溶媒を留去したのち1N塩酸で中和し、酢酸エチルで抽出した。有機層を濃縮し、得られた固体をエタノールより再結晶すると295mgの2-(3-シアノ-4-イソプロポキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸が得られた(収率80%)。
m.p.220-222℃
1H-NMR(DMSO-d6)δ;
8.24(d 1H J=2.6Hz)8.19(dd 1H J=9.0Hz J=2.6Hz)
7.38(d 1H J=9.0Hz)4.89(m 1H)
2.67(s 3H)1.38(d 6H J=5.9Hz)
以下同様にして次の化合物を製造した。
実施例77
2-(4-イソブチルオキシ-3-ニトロフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸エチルより2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸を得た(収率33%)。
m.p.238-239℃(分解)
1H-NMR(CDCl3)δ;
8.21(d 1H J=2.3Hz)8.11(dd 1H J=8.9Hz J=2.3Hz)
7.03(d 1H J=8.9Hz)3.91(d 2H J=6.6Hz)
2.80(s 3H)2.21(m 1H)1.10(d 6H J=6.6Hz)」(19~20頁、実施例76、77)
ウ 甲6(特許第2706037号公報)には以下の記載がある。
6a)「【請求項8】 4―ニトロベンゾニトリルと式(I′)
MCN …(I′)
(式中、Mはアルカリ金属を表わす。)で表わされるシアン化合物及び式(II′)
R1X …(II′)
(式中、R1は無置換又は置換されたC1~C10のアルキル基、Xはハロゲン原子又は脱離基を表わす。)で表わされるアルキル化剤とを反応させて式(III ′)
【化5】
(式中、R1の定義は上記式(II′)の定義と同じ。)で表わされる4―アルコキシ―1,3―ベンゼンジカルボジニトリルを得、次いでこれにチオアセタミドを酸性条件下で反応させて式(IV′)
【化6】
(式中、R1の定義は上記式(II′)の定義に同じ。)で表わされる3―シアノ―4―アルコキシベンゼンカルボチオアミドを得、次いでこれに式(V′)
【化7】
(式中、R2はヒドロキシ基;置換若しくは無置換のC1~C10のアルコキシ基;ハロゲン原子;アミノ基;又はモノ若しくはジ置換のC1~C6のアルキルアミノ基を表わし、Yはハロゲン原子又は脱離基を表わし、R3 は水素原子;置換若しくは無置換のC1~C6のアルキル基;又は置換若しくは無置換のC6~C10のアリール基を表わす。)で表わされるアシル酢酸エステル誘導体を反応させてなる式(VI′)
【化8】
(式中、R1,R2,R3の定義は式(II′)及び式(V′)の定義に同じ。)で表わされる2―(3―シアノフェニル)チアゾール誘導体又はその医薬上許容される塩の製造方法。」(特許請求の範囲、請求項8)
6b)「【0062】
【実施例1】
4―イソブチルオキシ―1,3―ベンゼンジカルボニトリル
4―ニトロベンゾニトリル(888mg)と青酸カリウム(703mg)の混合物にDMSO(12ml)を加え100℃で40分間加熱攪拌する。冷後さらに臭化イソブチル(2.9g)と炭酸カリウム(410mg)を加え80℃で8時間攪拌した。室温に冷却後、水(30ml)にあけて攪拌し生じた結晶を濾過し乾燥することで題記化合物(600mg)が得られた。(収率50%)
mp 132.4~133.4℃;MS m/z 200(M);
1H―NMR(δ;DMSO―d6)
1.08(d,6H,J=6.5Hz),2.21(tq,1H,J=6.5 and 6.5Hz),3.91(d,2H,J=6.5Hz),7.04(d,1H,J=9Hz),7.79(dd,1H,J=2 and 9Hz),7.85(d,1H,J=2Hz).
FT―IR(cm-1,KBr)
3050,2960,2880,2230,1610,1500,1300,1010.
・・・
【0069】
【実施例5】
3―シアノ―4―イソブチルオキシベンゼンカルボチオアミド
実施例1で得られた4―イソブチルオキシ―1,3―ベンゼンジカルボニトリル(590mg)に6規定のDMF塩化水素溶液(8ml)とチオアセタミド(550mg)を加え48時間45℃で攪拌した。さらにDMF塩化水素溶液(2ml)を加えチオアセタミド(220mg)を追加し、さらに24時間攪拌した。反応液を水洗いし酢酸エチルで生成物を抽出した後硫酸ナトリウムで乾燥、濃縮した。残留物をクロロホルムに溶解させ、不溶性不純物を濾過で除き濾液を濃縮することで題記化合物(650mg)が得られた。(収率92%)
1H―NMR(δ;CDCl3)
1.08(d,6H,J=6.5Hz),2.20(m,1H),3.90(d,2H,J=6.5Hz),6.96(d,1H,J=9Hz),8.11(d,1H,J=2Hz),8.16(1H,dd,J=2 and 9Hz).
FT―IR(cm-1,KBr)
3390,3290,3170,2230,1640,1600,1500,1300.
・・・
【0076】
【実施例9】
2―(3―シアノ―4―イソブチルオキシフェニル)―4―メチル―5―チアゾールカルボン酸エチル
実施例5で得られた3―シアノ―4―イソブチルオキシベンゾチオアミド(400mg)と2―クロロアセト酢酸エチル(340mg)のエタノール(4ml)溶液を100℃に加熱し100分間攪拌した。冷後析出した結晶を濾過後乾燥しさらに酢酸エチルより再結晶し題記化合物(306mg)が得られた。(収率52%)
mp 172~173℃
1H―NMR(δ;CDCl3)
1.08(d,6H,J=6.5Hz),1.39(t,3H,J=7Hz),2.21(tq,1H,J=6.5Hz),2.77(s,3H),3.90(d,2H,J=6.5Hz),4.36(q,2H,J=7Hz),7.01(d,1H,J=9Hz),8.09(dd,1H,J=2 and 9Hz),8.18(d,1H,J=2Hz).
FT―IR(cm-1,KBr)
2970,2880,2230,1710,1510,1430,1370,1300,1260.
【0077】
【実施例10】
2―(3―シアノ―4―イソブチルオキシフェニル)―4―メチル―5―チアゾールカルボン酸
実施例9で得られた2―(3―シアノ―4―イソブチルオキシフェニル)―4―メチル―5―チアゾールカルボン酸エチル(306mg)にTHF(3ml)を加え40℃に加温し溶解しエタノール(3ml)と1規定水酸化ナトリウム溶液(1.2ml)を加え60℃に加熱し60分間攪拌した。反応液を冷却後、濃縮し水(7ml)を加えた後1規定塩酸で中和した。生じた結晶を濾過、乾燥し粗結晶(290mg)が得られた。さらにこの化合物をエタノール/水=9:1より再結晶170mgの題記化合物が得られた。(収率61%)
mp 207~209℃
1H―NMR(δ;DMSO―d6)
1.04(d,6H,J=6.5Hz),2.12(m,1H,J=6.5Hz),2.67(s,3H),3.99(d,2H,J=6.5Hz),7.34(d,1H,J=9Hz),8.20(dd,1H,J=2 and 9Hz),8.25(d,1H,J=2Hz).
FT―IR(cm-1,KBr)
2960,2880,2230,1680,1600,1520,1430,1280.」
エ 甲7(請求人の従業員である天童温が平成28年3月8日付けで作成した実験成績証明書)には以下の事項が記載されている。
7)「 平成28年3月8日
実験成績証明書
日本ケミファ株式会社
GE開発部 原薬管理室
天童 温
1.試験の目的
4-メチル-2-(4-(2-メチルプロポキシ)-3-シアノフェニル)-5-チアゾールカルボン酸(以下、本件化合物)について、下記の3件の特許及び論文の追試により得られる結晶と特許3547707号開示の結晶との機器データの比較及び報告を行う。
○1(○の中に1;以下同様) HETEROCYCLES,Vol,47,No.2,1998 P863 5行目~20行目 標記化合物の結晶及びアセトン中での再結晶
○2 特許第2725886号 実施例77 本件化合物のエタノール中での再結晶
○3 特許第2706037号 実施例10 本件化合物の90%エタノール中での再結晶
2.試験者及び試験期間等
日本ケミフア株式会社GE開発部原薬管理室の天童 温は、以下に記載する実験番号1)~4)の本件化合物の結晶形確認試験(以下「本試験」という。)を行った。
本試験は平成28年2月26日に開始され、現在までに以下の製造及び成績体の機器デ一タを測定した。
1)実験-I 原料の脱エステル化反応による本件化合物の結晶
2)実験-II 1)で得られた結晶を用いたアセトン中での再結晶
3)実験-III 1)で得られた結晶を用いたエタノール中での再結晶
4)実験-IV 1)で得られた結晶を用いた90%エタノール中での再結晶
なお、再結晶化の条件は、以下のとおりであり、文献に開示のない条件については、実験化学講座、有機合成試験法ハンドブック記載の方法に忠実に従い実験試験を行った。
再結晶化の条件
・溶媒の選択:特許及び論文記載の溶媒を選択した
・結晶の溶解:実験化学講座(P185 4・3・1溶解 a.再結晶(iii)加熱溶解の項)に従い、溶媒還流下、マグネチックスクーラーで攪拌しながら1)の結晶を加熱溶解させた。
・不要物の除去:有機合成試験法ハンドブック(P268 10・1・3ろ(原文ではさんずいに戸;以下同じ。)過の項)に従い、溶解しない不純物をろ過し分離した。
・結晶化:実験化学講座(P185 4・3・1溶解 a.結晶化(iv)結晶化の項)に従い、溶液を室温まで放冷した。
・ろ(原文ではさんずいに戸;以下同じ。)取・乾燥:有機合成試験法ハンドブック(P277 10・1・5ろ取・乾燥の項)に従い、析出した結晶を吸引ろ過し、得られた結晶をドラフト内で室温で風乾した。
3.本件化合物の再結晶
1)実験-I 4-メチル-2-(4-(2-メチルプロポキシ)-3-シアノフェニル)-5-チアゾールカルボン酸の合成; Lot AT1602261A
特許第2706037号実施例10に従い、エチル4-メチルー2-(4-(2-メチルプロピルオキシ)-3-シアノフェニル)-5-チアゾールカルボキシラート(原料10.2g,29.6mmol,Weihei社製造 Lot P150502FT3)を、エタノール(100mL,純正化学1級品、Lot 2015E2008)及びTHF(100mL,純正化学1級品)に懸濁し、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(38.5mL,38.5mmol、固形水酸化ナトリウム 関東化学 1級品 Lot 707H6059を用い蒸留水に溶解し調整した)を加え、60℃油浴中1.0時間加熱撹拌した。この溶液を氷冷下に1mo1/L塩酸水溶液(濃塩酸 関東化学 1級品 Lot 706H1020を用い、蒸留水を加え調製した)でpHを約2に調整した。直後に析出した結晶を濾取後、蒸留水(100m)で洗浄した。さらに母液を一晩室温で放置し、析出した結晶を濾取後、蒸留水(100m)で洗浄し、前記結晶と合わせ室温で風乾して表題化合物9.14gを白色固形物として得た。本成績体について粉末X線回折及び赤外分光スペクトルを測定した。
2)実験-II アセトン中での再結晶;Lot AT1603221A
1)で得られた結晶(500mg)にアセトン(5mL,純正化学 1級品、Lot 2016B2017)を加え50℃に加温して溶解し、不溶物を濾別後、室温で撹拌した。結晶は徐々に析出してきた。析出した結晶を濾取し少量のアセトンで洗浄後、室温で風乾して白色固形物(285mg)を得た。本成績体について、粉末X線回折及び赤外分光スペクトルを測定した。
3)実験-III エタノール中での再結晶;Lot AT1602291B
1)で得られた結晶(1.00g)にエタノール(15mL,純正化学1級品、Lot 2015E2008)を加え65℃に加温して溶解し、不溶物を濾別後、室温で撹拌した。結晶は徐々に析出した。析出した結晶を濾取し少量のエタノールで洗浄後、室温で風乾して白色固形物(660mg)を得た。本成績体について、粉末X線回折及び赤外分光スペクトルを測定した。
4)実験-IV 90%エタノール中での再結晶;Lot AT1602291C
1)で得られた結晶(1.00g)に90%エタノール(15mL,EtOH/蒸留水=9/1)を加え70℃に加温して溶解し、不溶物を濾別後、室温で撹拌した。結晶は徐々に析出した。析出した結晶を濾取し少量の90%エタノールで洗浄後、室温で風乾して白色固形物(664mg)を得た。本成績体について、粉末X線回折及び赤外分光スペクトルを測定した。
4.測定データ
4-1.粉末X線回折
各成績体と特許3547707号開示の各結晶形の粉末X線回折データ(XRD)との比較を行った。
・実験-IのピークはG晶と同様のピークを示した。
・実験-IIのピークはC晶と同様のピークを示した。
・実験-IIIのピークはC晶と同様のピークを示した。
・実験-IVのピークはG晶と同様のピークを示した。
4-2.赤外分光スペクトルデータ(IR)
各成績体と特許3547707号開示の各結晶形(C晶、G晶)の赤外分光スペクトルデータにおける特徴的なピークの比較を行った。
・実験-IのピークはG晶の特徴的ピークと同様のピークを示した。
・実験-IIのピークはC晶の特徴的ピークと同様のピークを示した。
・実験-IIIのピークはC晶の特徴的ピークと同様のピークを示した。
・実験-IVのピークはG晶の特徴的ピークと同様のピークを示した。
5.結果及び考察
4-1から4-2のデータを基に、以下に結果をまとめた。
上記表に示すように、原料の脱エステル反応により得られた成績体はG形結晶、アセトン再結晶で得られた成績体はC形結晶、エタノール再結晶で得られた成績体はC形結晶、90%エタノール再結晶で得られた成績体はG形結晶であると推察した。
以上
機器データ分析方法説明
粉末X線回折スペクトルの測定
試料約50mgを標準的試料ホルダーに緩く詰め込み、スライドガラスで平滑にし、ブルカーエイエックスエス(Bruker AXS)卓上型X線回折装置D2 PHASER(CuKa放射線)を用いて回折パターンを測定した。回折パターンを管電圧=30kV、管電流=10mA、ロックドカップル走査(locked-coup1e scan)、スリット1.0mm、スキャッター1.0mm、2θ範囲=2から40°、ステップサイズ=0.02°、及びステップ時間=0.3秒として収集した。DIFFRAC.SUITE version3 及びDUFFRAC.EVA version3.1の各ソフトウェアをデータ収集及び分析のために用いた。
赤外吸収スペクトルの測定
試料約lmgをメノウ鉢で軽くすり混ぜ粉末とし、これに赤外吸収スペクトル用臭化カリウム0.16gを加え、速やかにすり混ぜた後、錠剤成型器に入れて加圧製錠し、堀湯(HORIBA)フーリエ変換赤外分光光度計FT-720を用いて赤外吸収スペクトルを測定した。スペクトルはスキャン回数=10、走査速度=2.5、分解能=4、測定範囲=400から4000cm-1として収集した。HORIBA FT-IR for Windows(登録商標)version3.1ソフトウェアをデータ収集及び分析のために用いた。
上記分析方法に従い、各成績体の粉末X線回折スペクトル及び赤外吸収スペクトルの測定を行った。測定結果を以下に示す。
図1:実験-I結晶の粉末X線回折チャート
図2:アセトン再結晶物の粉末X線回折チャート
図3:エタノール再結晶物の粉末X線回折チャート
図4:90%エタノール再結晶物の粉末X線回折チャート
図5:実験-I結晶の赤外分光スペクトルヤート
図6:アセトン再結晶物の赤外分光スペクトルチャート
図7:エタノール再結晶物の赤外分光スペクトルチャート
図8:90%エタノール再結晶物の赤外分光スペクトルチャート
」
オ 甲7-2(請求人の従業員である吉田愼一が平成28年12月13日付けで作成した実験成績証明書(甲7の記載を基にして、先に行った試験の内容を明確にすべく加筆修正を行ったもの))には、以下の事項が記載されている。
7-2)「 平成28年12月13日
実験成績証明書
日本ケミファ株式会社
GE開発部 原薬管理課
吉田 愼一
1.試験の目的
4-メチル-2-(4-(2-メチルプロポキシ)-3-シアノフェニル)-5-チアゾールカルボン酸(以下、本件化合物)を特許第2706037号実施例10に従って合成し、得られた本件化合物について、以下の3件の特許及び論文の追試により得られる結晶と特許3547707号開示の結晶との機器データの比較及び報告を行う。
○中1 HETEROCYCLES,Vol,47,No.2,1998 (甲第2号証) P863 13行目~14行目 アセトン中での再結晶
○中2 特許第2725886号(甲第5号証)実施例77 本件化合物のエタノール中での再結晶
○中3 特許第2706037号(甲第6号証) 実施例10 本件化合物の90%エタノール中での再結晶
2.試験者及び試験期間等
日本ケミファ株式会社 GE 開発部原薬管理室の天童 温は、以下に記載する実験番号Aの本件化合物の合成及び実験番号○中1~○中3の本件化合物の結晶形確認試験(以下「本試験」という。)を行った。
本試験は平成28年2月26日に開始され、現在までに以下の製造及び成績体の機器デ一タを測定した。
1)実験-A 原料の脱エステル化反応による本件化合物の合成(実験○中1~○中3を行うための原料とする本件化合物を得る実験)
2)実験-○中1 1)で得られた結晶を用いたアセトン中での再結晶
(HETEROCYCLES,Vol,47,No.2,1998(甲第2号証) P863 13行目~14行目の追試)
3)実験-○中2 1)で得られた結晶を用いたエタノール中での再結晶
(特許第2725886号(甲第5号証) 実施例77の追試)
4)実験-○中3 1)で得られた結晶を用いた90%エタノール中での再結晶
(特許第2706037号(甲第6号証) 実施例10の追試)
なお、再結晶化の条件は、以下のとおりであり、文献に開示のない条件については、実験化学講座、有機合成試験法ハンドブック記載の方法に忠実に従い実験試験を行った。
再結晶化の条件
・溶媒の選択:特許及び論文記載の溶媒を選択した
・結晶の溶解:実験化学講座(P185 4・3・1溶解 a.再結晶(iii)加熱溶解の項)に従い、溶媒還流下、マグネチックスターラー(東京理化器械株式会社製、回転速度約400rpm、オクタゴン型撹拌子。以下、この実験で用いたマグネチックスターラーはすべて同じ。)で攪拌しながら1)で得られた結晶を加熱溶解させた。用いたマグネチックスターラー及び反応装置(写真1)、撹拌子のサイズ(写真2)を以下に示す。
・不要物の除去:有機合成試験法ハンドブック(P268 10・1・3 ろ過の項)に従い、溶解しない不純物をろ過し分離した。
・結晶化:実験化学講座(P185 4・3・1溶解 a.結晶化(iv)結晶化の項)に従い、溶液を室温まで放冷した。その際、溶液をマグネチックスターラー(東京理化器械株式会社製、回転速度約400rpm、オクタゴン型撹拌子)で攪拌した。
・ろ取・乾燥:有機合成試験法ハンドブック(P277 10・1・5ろ取・乾燥の項)に従い、析出した結晶を吸引ろ過し、得られた結晶をドラフト内で室温で風乾した。
3.本件化合物の再結晶
1)実験-A 4-メチル-2-(4-(2-メチルプロポキシ)-3-シアノフェニル)-5-チアゾールカルボン酸の合成:Lot AT1602261A
特許第2706037号実施例10に従い、エチル4-メチル-2-(4-(2-メチルプロピルオキシ)-3-シアノフェニル)-5-チアゾールカルボキシラート(原料:10.2g,29.6mmol, Weihei 社製造 Lot P150502FT3)を、エタノール(100mL,純正化学1級品、Lot 2015E2008)及びTHF(100mL,純正化学1級品)に懸濁し、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(38.5mL,38.5mmol、固形水酸化ナトリウム 関東化学 1級品 Lot 707H6059を用い蒸留水に溶解し調整した)を加え、60℃油浴中1.0時間、マグネチックスターラー(東京理化器械株式会社製、回転速度約400rpm、オクタゴン型撹拌子)で攪拌した。この溶液を氷冷下に1mol/L塩酸水溶液(濃塩酸 関東化学 1級品Lot 706H1020を用い、蒸留水を加え調製した)でpHを約2に調整した。直後に析出した結晶を濾取後、蒸留水(100m)で洗浄した。さらに母液を一晩室温で放置し、析出した結晶を濾取後、蒸留水(100m)で洗浄し、前記結晶と合わせ室温で風乾して表題化合物9.14gを白色固形物として得た。なお、念のために、本成績体について粉末X線回折(図1)及び赤外分光スペクトル(図5)を測定した。
2)実験-○中1 アセトン中での再結晶;Lot AT1603221A
1)で得られた結晶(500mg)にアセトン(5mL,純正化学 1級品、Lot 2016B2017)を加え50℃に加温して溶解し、不溶物を濾別後、室温で3日間、マグネチックスターラー(東京理化器械株式会社製、回転速度約400rpm、オクタゴン型撹拌子)で攪拌した。結晶は徐々に析出してきた。析出した結晶を濾取し少量のアセトンで洗浄後、室温で風乾して白色固形物(285mg)を得た。本成績体について、粉末X線回折(図2)及び赤外分光スペクトル(図6)を測定した。
3)実験-○中2 エタノール中での再結晶;Lot AT1602291B
1)で得られた結晶(1.00g)にエタノール(15mL,純正化学1級品、Lot 2015E2008)を加え65℃に加温して溶解し、不溶物を濾別後、室温で3時間、マグネチックスターラー(東京理化器械株式会社製、回転速度約400rpm、オクタゴン型撹拌子)で攪拌した。結晶は徐々に析出した。析出した結晶を濾取し少量のエタノールで洗浄後、室温で風乾して白色固形物(660mg)を得た。本成績体について、粉末X線回折(図3)及び赤外分光スペクトル(図7)を測定した。
4)実験-○中3 90%エタノール中での再結晶;Lot AT1602291C
1)で得られた結晶(1.00g)に90%エタノール(15mL,EtOH/蒸留水=9/1)を加え70℃に加温して溶解し、不溶物を濾別後、室温で3時間、マグネチックスターラー(東京理化器械株式会社製、回転速度約400rpm、オクタゴン型撹拌子)で攪拌した。結晶は徐々に析出した。析出した結晶を濾取し少量の90%エタノールで洗浄後、室温で風乾して白色固形物(664mg)を得た。本成績体について、粉末X線回折(図4)及び赤外分光スペクトル(図8)を測定した。
4.測定データ
4-1.粉末X線回折
各成績体と特許3547707号開示の各結晶形の粉末X線回折データ(XRD)との比較を行った。
・実験-AのピークはG晶と同様のピークを示した。
・実験-○中1のピークはC晶と同様のピークを示した。
・実験-○中2のピークはC晶と同様のピークを示した。
・実験-○中3のピークはG晶と同様のピークを示した。
4-2.赤外分光スペクトルデータ(IR)
各成績体と特許3547707号開示の各結晶形(C晶、G晶)の赤外分光スペクトルデータにおける特徴的なピークの比較を行った。
・実験-AのピークはG晶の特徴的ピークと同様のピークを示した。
・実験-○中1のピークはC晶の特徴的ピークと同様のピークを示した。
・実験-○中2のピークはC晶の特徴的ピークと同様のピークを示した。
・実験-○中3のピークはG晶の特徴的ピークと同様のピークを示した。
5.結果及び考察
4-1から4-2のデータを基に、以下に結果をまとめた。
上記表に示すように、原料の脱エステル反応により得られた成績体はG形結晶、アセトン再結晶で得られた成績体はC形結晶、エタノール再結晶で得られた成績体はC形結晶、90%エタノール再結晶で得られた成績体はG形結晶であると推察した。
以上
機器データ分析方法説明
粉末X線回折スペクトルの測定
試料約50mgを標準的試料ホルダーに緩く詰め込み、スライドガラスで平滑にし、ブルカーエイエックスエス(Bruker AXS)卓上型X線回折装置D2 PHASER (CuKα放射線)を用いて回折パターンを測定した。回折パターンを管電圧=30kV、管電流=10mA、ロックドカップル走査(locked-couple scan)、スリット1.0mm、スキャッター1.0mm、2θ範囲=2から40°、ステップサイズ=0.02°、及びステップ時間=0.3秒として収集した。DIFFRAC、SUITE Version3 及びDUFFRAC.EVA version3.1の各ソフトウェアをデータ収集及び分析のために用いた。
赤外吸収スペクトルの測定
試料約1mgをメノウ鉢で軽くすり混ぜ粉末とし、これに赤外吸収スペクトル用臭化カリウム0.16gを加え、速やかにすり混ぜた後、錠剤成型器に入れて加圧製錠し、堀場(HORIBA)フーリエ変換赤外分光光度計FT-720を用いて赤外吸収スペクトルを測定した。スペクトルはスキャン回数=10、走査速度=2.5、分解能=4、測定範囲=400から4000cm-1として収集した。HORIBA FT-IR for Windows(登録商標)Version3.1ソフトウェアをデータ収集及び分析のために用いた。
上記分析方法に従い、各成績体の粉末X線回折スペクトル及び赤外吸収スペクトルの測定を行った。測定結果を以下に示す。
図1:実験-A結晶の粉末X線回折チャート
図2:アセトン再結晶物(実験-○中1結晶)の粉末X線回折チャート
図3:エタノール再結晶物(実験-○中2結晶)の粉末X線回折チャート
図4:90%エタノール再結晶物(実験-○中3結晶)の粉末X線回折チャート
図5:実験-A結晶の赤外分光スペクトルヤート
図6:アセトン再結晶物(実験-○中1結晶)の赤外分光スペクトルチャート
図7:エタノール再結晶物(実験-○中2結晶)の赤外分光スペクトルチャート
図8:90%エタノール再結晶物(実験-○中3結晶)の赤外分光スペクトルチャート
」
(2)甲2、甲5及び甲6に記載された発明
ア 甲2に記載された発明
摘示2a~2cからみて、甲2には、
「エチル4-メチル-2-(4-(2-メチルプロピルオキシ)-3-シアノフェニル)-5-チアゾールカルボキシラート(306mg)を、THF(3mL)及びEtOH(3mL)の混合液中、1N-NaOH溶液(1.2mL)により、1時間60℃で加水分解し、混合液を1N-HCl溶液で中和し、形成された結晶をろ取した試料を、アセトンから再結晶させて、得られる4-メチル-2-(4-(2-メチルプロピルオキシ)-3-シアノフェニル)-5-チアゾールカルボン酸(TEI-6720)の無色結晶であって、以下の特性を有する結晶
(mp 201~202℃):1HNMR(DMSO-d6):δ 1.04(6H、d、J=7Hz)、2.12(1H、m、J=7Hz)、2.67(3H、s)、3.99(2H、d、J=7Hz)、7.34(1H、d、J=9Hz)、8.20(1H、dd、J=9及び2Hz)、8.25(1H、d、J=2Hz);13CNMR(CDCl3);δ 17.68、19.05、28.18、75.76、103.04、112.68、115.31、121.24、125.71、132.22、132.74、162.71、162.98、167.28、168.60:FT-IR(KBr):ν=2960、2880、2230、1700、1680、1600、1430、1130cm-1;HRMS:m/z C16H16N2O3Sの計算値 316.0882、測定値316.0861;C16H16N2O3Sの分析計算値:C、60.7:H、5.1:N、8.9、測定値:C、60.7;H、5.1:N、8.9」の発明(以下「甲2発明1」という。)が記載されている。なお、以下「4-メチル-2-(4-(2-メチルプロピルオキシ)-3-シアノフェニル)-5-チアゾールカルボン酸」を「本件化合物」ということがある。
イ 甲5に記載された発明
摘示5bの実施例77は実施例76と同様の製造方法により2-(3-シアノ-4-イソプロポキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸を得るものであるところ、実施例76の製造方法における中間体である2-(3-シアノ-4-イソプロポキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸エチルに相当する実施例77の中間体は、その原料が2-(4-イソブチルオキシ-3-ニトロフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸エチルであることからみて、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸エチルであるといえる。また、実施例77における溶媒、原料、生成物の量は明らかではないが、実施例76の「以下同様にして次の化合物を製造した」との記載からみて、反応温度、時間、溶媒の種類等の各種操作は実施例76と同様であるといえる。また、得られた2-(3-シアノ-4-イソプロポキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸が結晶であることは明らかである。したがって、摘示5a、5bからみて、甲5には、
「2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸エチルをエタノール及びテトラヒドロフランに溶解させたのち1N水酸化ナトリウムを加え60℃で1時間加水分解し、溶媒を留去したのち1N塩酸で中和し、酢酸エチルで抽出し、有機層を濃縮し、得られた固体をエタノールより再結晶することにより得られる2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶であって、以下の特性を有する結晶
m.p.238-239℃(分解)
1H-NMR(CDCl3)δ;
8.21(d 1H J=2.3Hz)8.11(dd 1H J=8.9Hz J=2.3Hz)
7.03(d 1H J=8.9Hz)3.91(d 2H J=6.6Hz)
2.80(s 3H)2.21(m 1H)1.10(d 6H J=6.6Hz)」の発明(以下「甲5発明1」という。)が記載されているといえる。
ウ 甲6に記載された発明
摘示6bの実施例10に記載の方法により得られる2―(3―シアノ―4―イソブチルオキシフェニル)―4―メチル―5―チアゾールカルボン酸が結晶であることは明らかである。したがって、摘示6a及び6bからみて、甲6には、
「2―(3―シアノ―4―イソブチルオキシフェニル)―4―メチル―5―チアゾールカルボン酸エチル(306mg)にTHF(3ml)を加え40℃に加温し溶解しエタノール(3ml)と1規定水酸化ナトリウム溶液(1.2ml)を加え60℃に加熱し60分間攪拌し、反応液を冷却後、濃縮し水(7ml)を加えた後1規定塩酸で中和し、生じた結晶を濾過、乾燥し粗結晶(290mg)を得、さらにこの化合物をエタノール/水=9:1より再結晶して得られる2―(3―シアノ―4―イソブチルオキシフェニル)―4―メチル―5―チアゾールカルボン酸の結晶であって、以下の特性を有する結晶
mp 207~209℃
1H―NMR(δ;DMSO―d6)
1.04(d,6H,J=6.5Hz),2.12(m,1H,J=6.5Hz),2.67(s,3H),3.99(d,2H,J=6.5Hz),7.34(d,1H,J=9Hz),8.20(dd,1H,J=2 and 9Hz),8.25(d,1H,J=2Hz).
FT―IR(cm-1,KBr)
2960,2880,2230,1680,1600,1520,1430,1280.」の発明(以下「甲6発明1」という。)が記載されているといえる。
(3)無効理由1の各理由について
(3-1)無効理由1の(1-1)について
ア 本件発明1と甲2発明1との対比・判断
(ア)対比
本件発明1と甲2発明1とを対比する。本件発明1の結晶多形体は結晶であるといえるから、両者は
「2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1:本件発明1が、「反射角度2θで表して、ほぼ6.62°、7.18°、12.80°、13.26°、16.48°、19.58°、21.92°、22.68°、25.84°、26.70°、29.16°、および36.70°に特徴的なピークを有するX線粉末回折パターンを示す」としているのに対し、甲2発明1では、X線粉末回折パターンについての特定がされていない点
相違点2:本件発明1が、「結晶多形体」としているのに対し、甲2発明1では、そのように特定されていない点
(イ)相違点の検討
相違点1について、甲2には、当該結晶のX線粉末回折パターンについて何ら記載するところはなく、該パターンについて記載されているに等しい事項であるともいえない。したがって、相違点2について検討するまでもなく、相違点1において、本件発明1と甲2発明1とは相違し、本件発明1が甲2に記載された発明であるとはいえない。
(ウ)請求人の主張について
請求人は、甲7及び甲7の2を提示して、甲2に開示された条件を忠実に再現しつつ追試を行い、甲2に開示された製造方法によってC晶が得られることを確認したこと、甲3において、被請求人が甲2に記載の方法により得られる結晶がA晶及びC晶の混合物であり、これをアセトン中存在下で4時間攪拌すると、その全てがC晶になると説明しており、そうであるとすれば、甲7に示した方法においては十分な攪拌を行ったために、全ての結晶がC晶になってしまったが、撹拌時間を短くする(4時間以内にする)ことで、A晶(なお、上述のとおり、A晶は本件発明1の結晶多形体に相当する)が得られていることが明らかであるから、本件発明1は甲2に記載された発明と同一である旨、優先日当時の技術常識に従って温度、濃度、攪拌条件等は適宜選択することができるので、甲7の実験は追試として妥当なものである旨などを主張する(審判請求書、38~45頁、審判事件弁駁書、10~26頁、上申書1、4~9頁、口頭審理陳述要領書、5~9頁、上申書2、4~17頁)。
しかし、被請求人は甲3の上記説明は推定であり、正しいかどうかは分からない旨主張している(調書参照)。また、甲7及び甲7の2は、甲2、甲5及び甲6に記載の製造方法を追試し、それにより得られる結晶と本件特許の結晶との機器データの比較及び報告を行ったものとされるところ、甲2、甲5及び甲6に記載の製造方法の追試とされる、甲7に記載の実験-II~IV及び甲7の2に記載の実験-○中1~○中3では、いずれも、試薬の量、温度、攪拌の有無とその条件等について、甲2、甲5及び甲6に記載のない条件を設定して実験を行っており、この点において、甲7及び甲7の2に記載の実験は、甲2、甲5及び甲6に記載の製造方法の正確な追試であるとはいえない。そして、結晶の製造にあたり、温度、濃度、攪拌条件等については、何らかの製造条件のもとに行わなければならないことは当然であるが、製造条件の相違によって結晶の生成の有無、結晶の形態(結晶形)が異なる場合があることがあることが技術常識であることに鑑みれば(本件化合物についても、製造条件の相違によって結晶形が異なることは、本件特許明細書の記載、乙1、乙2、乙10、乙11の記載からみても明らかである。)、甲7及び甲7の2に記載の上記実験が、甲2、甲5及び甲6に記載の製造方法の追試であるとはいえないから、本件発明1は甲2に記載された発明であるとはいえない。さらにいえば、甲7及び甲7の2に記載のいずれの実験においてもA晶が得られたことは実際に確認されておらず、この点からみても、本件発明1は甲2に記載された発明であるとはいえない。
したがって、請求人の主張を採用することはできない。
イ 本件発明6と甲2発明1との対比・判断
(ア)対比
本件発明6と甲2発明1とを対比する。甲2発明1の結晶の特性のうち、FT-IR(KBr):ν=2960、2880、2230、1700、1680、1600、1430、1130cm-1は赤外分光分析における吸収を示すものといえる。また、本件発明6の結晶多形体は結晶であるといえる。したがって、両者は
「2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点3:本件発明6が、「赤外分光分析において、1678cm-1付近に他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収を有する」としているのに対し、甲2発明1では、赤外分光分析における吸収が、「FT-IR(KBr):ν=2960、2880、2230、1700、1680、1600、1430、1130cm-1」とされている点
相違点4:本件発明6が、「結晶多形体」としているのに対し、甲2発明1では、そのように特定されていない点
(イ)相違点の検討
相違点3について、甲2には、当該結晶が赤外分光分析において、1678cm-1付近に他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収を有することについて、何ら記載されておらず、それが甲2に記載されているに等しい事項であるともいえない。甲2発明1は、FT-IR(KBr)について、1680cm-1において吸収を示すものであるが、それが、他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収であるとはされておらず、該吸収が他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収であるかも不明である。したがって、相違点4について検討するまでもなく、相違点3において、本件発明6と甲2発明1とは相違し、本件発明6が甲2に記載された発明であるとはいえない。
なお、上記第3の2で述べたとおり、本件発明1と本件発明6とは同じ結晶形を有する結晶多形体であるところ、上記アで述べたとおり、本件発明1が甲2に記載された発明であるとはいえないことからみても、本件発明6も甲2に記載された発明であるとはいえない。
(ウ)請求人の主張について
本件発明6の新規性についての請求人の主張は、上記アの(ウ)に記載したのと同様であるから、そこで述べたのと同様の理由により、請求人の主張を採用することはできない。
(3-2)無効理由1の(1-2)について
ア 本件発明3と甲2発明1との対比・判断
(ア)対比
本件発明3と甲2発明1とを対比する。本件発明3の結晶多形体は結晶であるといえるから、両者は
「2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点5:本件発明3が、「反射角度2θで表して、ほぼ6.62°、10.82°、13.36°、15.52°、16.74°、17.40°、18.00°、18.70°、20.16°、20.62°、21.90°、23.50°、24.78°、25.18°、34.08°、36.72°、および38.04°に特徴的なピークを有するX線粉末回折パターンを示す」としているのに対し、甲2発明1では、X線粉末回折パターンについての特定がされていない点
相違点6:本件発明3が、「結晶多形体」としているのに対し、甲2発明1では、そのように特定されていない点
(イ)相違点の検討
相違点5について、甲2には、当該結晶のX線粉末回折パターンについて何ら記載するところはなく、該パターンについて記載されているに等しい事項であるともいえない。したがって、相違点6について検討するまでもなく、相違点5において、本件発明3と甲2発明1とは相違し、本件発明3が甲2に記載された発明であるとはいえない。
(ウ)請求人の主張について
請求人は、甲7及び甲7の2を提示して、甲2に開示された条件を忠実に再現しつつ追試を行い、甲2に開示された製造方法によってC晶(なお、上述のとおり、C晶は本件発明3の結晶多形体に相当する)が得られることを確認したから、本件発明3は甲2に記載された発明と同一である旨、優先日当時の技術常識に従って温度、濃度、攪拌条件等は適宜選択することができるので、甲7の実験は追試として妥当なものである旨などを主張する(審判請求書、38~45頁、審判事件弁駁書、10~26頁、上申書1、4~9頁、口頭審理陳述要領書、5~9頁、上申書2、4~17頁)。
しかし、甲7及び甲7の2に記載の上記実験が、甲2、甲5及び甲6に記載の製造方法の追試であるとはいえないことは上記(3-1)のアの(ウ)で述べたとおりであるから、本件発明3は甲2に記載された発明であるとはいえない。
したがって、上記請求人の主張を採用することはできない。
イ 本件発明8と甲2発明1との対比・判断
(ア)対比
本件発明8と甲2発明1とを対比する。甲2発明1の結晶の特性のうち、FT-IR(KBr):ν=2960、2880、2230、1700、1680、1600、1430、1130cm-1は赤外分光分析における吸収を示すものといえる。また、本件発明8の結晶多形体は結晶であるといえる。したがって、両者は
「2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点7:本件発明8が、「赤外分光分析において、1703cm-1および1219cm-1付近に他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収を有する」としているのに対し、甲2発明1では、赤外分光分析における吸収が、「FT-IR(KBr):ν=2960、2880、2230、1700、1680、1600、1430、1130cm-1」とされている点
相違点8:本件発明8が、「結晶多形体」としているのに対し、甲2発明1では、そのように特定されていない点
(イ)相違点の検討
相違点7について、甲2には、当該結晶が赤外分光分析において、1703cm-1および1219cm-1付近に他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収を有することについて、何ら記載されておらず、それが甲2に記載されているに等しい事項であるともいえない。したがって、相違点8について検討するまでもなく、相違点7において、本件発明8と甲2発明1とは相違し、本件発明8が甲2に記載された発明であるとはいえない。
(ウ)請求人の主張について
本件発明8の新規性についての請求人の主張は、上記アの(ウ)に記載したのと同様であるから、そこで述べたのと同様の理由により、請求人の主張を採用することはできない。
(3-3)無効理由1の(1-3)について
ア 本件発明3と甲5発明1との対比・判断
(ア)対比
本件発明3と甲5発明1とを対比する。本件発明3の結晶多形体は結晶であるといえるから、両者は
「2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点9:本件発明3が、「反射角度2θで表して、ほぼ6.62°、10.82°、13.36°、15.52°、16.74°、17.40°、18.00°、18.70°、20.16°、20.62°、21.90°、23.50°、24.78°、25.18°、34.08°、36.72°、および38.04°に特徴的なピークを有するX線粉末回折パターンを示す」としているのに対し、甲5発明1では、X線粉末回折パターンについての特定がされていない点
相違点10:本件発明3が、「結晶多形体」としているのに対し、甲5発明1では、そのように特定されていない点
(イ)相違点の検討
相違点9について、甲5には、当該結晶のX線粉末回折パターンについて何ら記載するところはなく、該パターンについて記載されているに等しい事項であるともいえない。したがって、相違点10について検討するまでもなく、相違点9において、本件発明3と甲5発明1とは相違し、本件発明3が甲5に記載された発明であるとはいえない。
(ウ)請求人の主張について
請求人は、甲7及び甲7の2を提示して、甲5の実施例77に記載された製造方法の追試を行い、甲5に開示された製造方法によってC晶(なお、上述のとおり、C晶は本件発明3の結晶多形体に相当する)が得られることを確認したから、本件発明3は甲5に記載された発明と同一である旨、優先日当時の技術常識に従って温度、濃度、攪拌条件等は適宜選択することができるので、甲7の実験は追試として妥当なものである旨などを主張する(審判請求書、38~45頁、審判事件弁駁書、10~26頁、上申書1、4~9頁、口頭審理陳述要領書、5~9頁、上申書2、4~17頁)。
しかし、甲7及び甲7の2に記載の上記実験が、甲2、甲5及び甲6に記載の製造方法の追試であるとはいえないことは上記(3-1)のアの(ウ)で述べたとおりであるから、本件発明3は甲5に記載された発明であるとはいえない。
したがって、上記請求人の主張を採用することはできない。
イ 本件発明8と甲5発明1との対比・判断
(ア)対比
本件発明8と甲5発明1とを対比する。本件発明8の結晶多形体は結晶であるといえるから、両者は
「2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点11:本件発明8が、「赤外分光分析において、1703cm-1および1219cm-1付近に他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収を有する」としているのに対し、甲5発明1では、赤外分光分析における吸収が特定されていない点
相違点12:本件発明8が、「結晶多形体」としているのに対し、甲5発明1では、そのように特定されていない点
(イ)相違点の検討
相違点11について、甲5には、当該結晶の赤外分光分析の結果についての記載はなく、それが甲5に記載されているに等しい事項であるともいえない。したがって、相違点12について検討するまでもなく、相違点11において、本件発明8と甲5発明1とは相違し、本件発明8が甲5に記載された発明であるとはいえない。
(ウ)請求人の主張について
本件発明8の新規性についての請求人の主張は、上記アの(ウ)に記載したのと同様であるから、そこで述べたのと同様の理由により、請求人の主張を採用することはできない。
(3-4)無効理由1の(1-4)について
ア 本件発明5と甲6発明1との対比・判断
(ア)対比
本件発明5と甲6発明1とを対比する。本件発明5の結晶多形体は結晶であるといえるから、両者は
「2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点13:本件発明5が、「反射角度2θで表して、ほぼ6.86°、8.36°、9.60°、11.76°、13.74°、14.60°、15.94°、16.74°、17.56°、20.00°、21.26°、23.72°、24.78°、25.14°、25.74°、26.06°、26.64°、27.92°、28.60°、29.66°、および29.98°に特徴的なピークを有するX線粉末回折パターンを示す」としているのに対し、甲6発明1では、X線粉末回折パターンについての特定がされていない点
相違点14:本件発明5が、「結晶多形体」としているのに対し、甲6発明1では、そのように特定されていない点
(イ)相違点の検討
相違点13について、甲6には、当該結晶のX線粉末回折パターンについて何ら記載するところはなく、該パターンについて記載されているに等しい事項であるともいえない。したがって、相違点14について検討するまでもなく、相違点13において、本件発明5と甲6発明1とは相違し、本件発明5が甲6に記載された発明であるとはいえない。
(ウ)請求人の主張について
請求人は、甲7及び甲7の2を提示して、甲6の実施例10に記載された方法に従って結晶を製造する追試を行い、再結晶前後の結晶がいずれもG晶(なお、上述のとおり、G晶は本件発明5の結晶多形体に相当する)であること確認したから、本件発明5は甲6に記載された発明と同一である旨、優先日当時の技術常識に従って温度、濃度、攪拌条件等は適宜選択することができるので、甲7の実験は追試として妥当なものである旨などを主張する(審判請求書、38~45頁、審判事件弁駁書、10~26頁、上申書1、4~9頁、口頭審理陳述要領書、5~9頁、上申書2、4~17頁)。
しかし、甲7及び甲7の2に記載の上記実験が、甲2、甲5及び甲6に記載の製造方法の追試であるとはいえないことは上記(3-1)のアの(ウ)で述べたとおりであるから、本件発明5は甲6に記載された発明であるとはいえない。
したがって、上記請求人の主張を採用することはできない。
イ 本件発明10と甲6発明1との対比・判断
(ア)対比
本件発明10と甲6発明1とを対比する。甲6発明1の結晶の特性のうち、FT―IR(cm-1,KBr)2960,2880,2230,1680,1600,1520,1430,1280は赤外分光分析における吸収を示すものといえる。また、本件発明10の結晶多形体は結晶であるといえる。したがって、両者は
「2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点15:本件発明10が、「赤外分光分析において、1703cm-1および1684cm-1付近に他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収を有する」としているのに対し、甲6発明1では、赤外分光分析における吸収が、「FT―IR(cm-1,KBr)2960,2880,2230,1680,1600,1520,1430,1280」とされている点
相違点16:本件発明10が、「結晶多形体」としているのに対し、甲2発明1では、そのように特定されていない点
(イ)相違点の検討
相違点15について、甲6には、赤外分光分析において、1703cm-1および1684cm-1付近に他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収を有することについて、何ら記載されておらず、それが甲6に記載されているに等しい事項であるともいえない。したがって、相違点16について検討するまでもなく、相違点15において、本件発明10と甲6発明1とは相違し、本件発明10が甲6に記載された発明であるとはいえない。
(ウ)請求人の主張について
本件発明10の新規性についての請求人の主張は、上記アの(ウ)に記載したのと同様であるから、そこで述べたのと同様の理由により、請求人の主張を採用することはできない。
(4)無効理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、
(1-1)本件発明1及び6は甲第2号証に記載された発明であるとはいえず、
(1-2)本件発明3及び8は甲第2号証に記載された発明であるとはいえず、
(1-3)本件発明3及び8は甲第5号証に記載された発明であるとはいえず、
(1-4)本件発明5及び10は甲第6号証に記載された発明であるとはいえず、
したがって、本件発明1、3、5、6、8、10は特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないとすることはできない。
よって、本件発明1、3、5、6、8、10の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるということはできず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由1によっては、無効とすべきものではない。
2 無効理由2について
(1)甲2、甲5~甲7、甲7の2、甲8、甲14、甲15、甲17、甲18、甲20、甲21、甲24及び甲25の記載
ア 甲2、甲5~甲7及び甲7の2の記載は、上記1の(1)のア~オに記載のとおりである。
イ 甲8(社団法人有機合成化学協会編、「有機合成実験法ハンドブック」、丸善株式会社、平成2年3月31日発行、263~280頁)には以下の記載がある、
8a)「最も一般的な再結晶手順での結晶の析出のさせ方は,飽和に近い熱溶液をただ放置し,室温へ冷えるとともに結晶を得る方法である.」(275頁26~27行)
8b)「過飽和になりやすい場合は,冷却の途中で振り混ぜたり,かき混ぜたりすると純度の高い結晶を得ることが可能である.」(275頁下から1行~276頁1行)
ウ 甲14(特開平1-242582号公報)には以下の記載がある。
14a)「I型結晶:式(I)で示される化合物1gを水15mlに加熱溶解し熱時ろ過後、60°でI型結晶の種晶を添加し、40°まで冷却した時点で、結晶がほぼ析出したことを目視で確認した後、室温で一昼夜撹拌した。次に析出した結晶をろ取し、60°で24時間乾燥し、I型結晶とした。」(2頁右下欄下から6行~3頁左上欄1行)
14b)「(4)結晶形の転移
各結晶形を25°75%RH及び40°75%RHに30日間放置し、放置後の結晶形を粉末X線回折測定により調べた結果を第3表に示す。I型に結晶形の変化は認められなかったが、II型及びIII型はI型及びII型の混合物に転移していた。
」(3頁左下欄1~6行、第3表)
14c)「実施例1
式(I)で示される化合物20gを水300mlに加熱溶解し、ろ過する。ろ液を撹拌下40°まで冷却し、更に同温度にて2時間撹拌して結晶がほぼ析出したことを目視で確認した後、更に25°まで冷却した。得られた結晶をろ取し、60°で24時間乾燥したところ、白色結晶15gを得た。」(3頁左下欄下から2行~右下欄5行
14d)「実施例3
式(I)で示される化合物20gを水300mlに加熱溶解し、ろ過する。ろ液を撹拌下、冷却を開始し、60°でI型結晶を種晶として投入する。その後1/2量のエタノールを徐々に加えた後、約40°まで冷却し、更に同温度にて2時間撹拌して結晶が析出したことを目視で確認した後、25°まで冷却した。得られた結晶をろ取し、60°で12時間乾燥したところ、白色結晶15gを得た。」(4頁左上欄1~9行)
エ 甲15(特開平7-70120号公報)には以下の記載がある。
15)「【0020】結晶学的安定性に関する試験例 I型結晶を40℃、75%相対湿度下に6ヶ月保存した試料、II型結晶を35℃、75%相対湿度下1日保存した試料およびIII型結晶を35℃、75%相対湿度下3日保存した試料についてそれぞれ粉末X線回折を測定した。その結果を図7~9に示す。I型結晶は、図7に示すように、保存前後で粉末X線回折パターンはまったく変化せず、安定な結晶であることが確認された。一方、II型結晶およびIII型結晶は、それぞれ図8および図9に示すように、保存によりI型結晶への変化が認められ、これら結晶は容易にI型結晶へ転移することが確認された。」
オ 甲17(化学工学論文集、1995、21(3)、pp.437-443)には以下の記載がある。
17)「1・1 テトラリン体のA形晶およびB形晶の調製法
・・・
B形晶はA形晶の精結晶40gを60V/V%-IPA水溶液800mlに加えて353Kに加熱した後,303Kまで冷却して結晶を析出させ,同温で15時間撹拌を行った.析出結晶をろ過して313K,133~266Paで20時間以上真空乾燥を行い,70%の収率でB形晶の精結晶を調製した.」(437頁右欄下から19~5行)
カ 甲18(特許第2708715号公報)には以下の記載がある。
18)「【0041】
【実施例】
実施例I/1
任意の形態学的組成のファモチジン(以下、単にファモチジンと称する)10gを短時間煮沸することにより100mlの水中に溶解した。この溶液を100℃から20℃まで3時間以内に冷却させた。15~20℃における30分間の攪拌に引続き、単斜柱(monoclinal prismatic) 型として現れる、沈澱した結晶性生成物を濾過し、乾燥させた。・・・
【0042】実施例I/2
10gのファモチジンを70mlの50%水性エタノール中に攪拌下に煮沸によって溶解した。78℃の溶液を清澄化し、濾過し、3時間以内に室温まで冷却した。この後30分間攪拌を行った。この様にして8.4gの、167~169℃の融点を有する微結晶性の「A」型を得た。・・・
【0043】実施例I/3
10gのファモチジンを50mlの50%水性エタノール中に攪拌下に熱溶解した。溶液を3時間以内に室温に冷却させ、次いで再び1時間攪拌した。濾過及び乾燥後、9.5g(95%)の、167~169℃の融点を有する「A」型を得た。
【0044】実施例I/4
10gのファモチジンを60mlの50%水性イソプロパノール中に短時間の煮沸によって溶解した。溶液を3時間以内に均一に冷却させた。得られた結晶を濾過し、乾燥させた。
生成物の重量:9.4g(94%)
融点:167~169℃
その他の物理的パラメータは実施例I/1に示したものと同様である。
【0045】実施例I/5
1000l容積の装置内において、煮沸及び攪拌下に溶液を70kgのファモチジン、427.5kgの脱イオン水、及び124kg(157.5l)のエタノールから調製した。得られた80℃の溶液をゆっくり5~6時間以内に連続的に攪拌しながら20℃まで冷却させた。15~20℃において1時間攪拌後、遠心分離及び乾燥を行い。67kgの、167~170℃の融点を有する「A」型を得た。・・・
【0047】実施例II/2
5gのファモチジンを連続的攪拌下に短時間の煮沸によって40mlの75%水性メタノール中に溶解した。熱溶液を濾過し、この溶液を攪拌しながら氷上に注いだ。これに引続いて、攪拌の1時間後、針状結晶型で現れる「B」型を溶液から濾過により取り出した。・・・
【0048】実施例II/3
5gのファモチジンを短時間の煮沸によって30mlの50%水性イソプロパノール中に溶解した。次いで氷水で溶液を素速く冷却し、1時間の攪拌後に得られた「B」型の結晶を分離した。・・・
【0049】実施例II/4
16.87gのファモチジンを数分間攪拌しながら125mlの水及び6.0gの氷酢酸の混合物に溶解した。得られた溶液を滴下漏斗中に注ぎ、20~25℃の温度において一定速度で10ml(25%)アンモニア及び20mlの水の攪拌混合物中に滴下した。10分間の攪拌に続き、生成物を濾過し、水洗し、及び乾燥させた。・・・
【0050】実施例II/5
110kgのファモチジンを816kgの脱イオン水及び39.2kgの氷酢酸の混合物に溶解した。得られた濾過溶液を滴下溜めに吸込み、次いで120kgの脱イオン水及び60kgの25%アンモニアを、攪拌機を備えた2000l容積の装置に入れた。これに引続き、550gの「B」型の種晶をこの水酸化アンモニウム含有水溶液に添加し、次いでファモチジン-アセテート溶液を一定速度で15~25℃において攪拌下に1~1.5時間以内にこの装置に供給した。30分の攪拌後、遠心分離、洗浄及び乾燥を行って99.4kg(90.4%)の「B」型を得た。」
キ 甲20(「安定性試験ガイドラインについて」、平成6年4月21日、各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生省薬務局新医薬品課長通知)には以下の記載がある。
20a)「(2)加速試験
加速試験は、申請する貯蔵方法で長期間保存した場合の化学的変化を予測すると同時に、流通期間中に起こり得る前記貯蔵方法からの短期的な逸脱の影響を評価するための試験である。
加速試験は、原薬又は製剤の化学的変化又は物理的変化を促進する保存条件を用いて行う。なお、加速試験の結果が物理的変化の予測に適応できるとは限らない。
(3) 苛酷試験
苛酷試験は、流通の間に遭遇する可能性のある苛酷な条件における品質の安定性に関する情報を得るための試験であり、加速試験よりも苛酷な保存条件を用いて行う。
苛酷試験は、医薬品本来の安定性に関する特性、すなわち分解生成物、分解経路、分解機構を解明するため、さらに安定性試験に用いる分解生成物の分析方法の適合性を確認するためにも利用できる。また、特殊な製剤の場合、特別な保存条件での安定性を評価するために実施する。」(別紙 1の(2)及び(3))
20b)「○中2 長期保存試験及び加速試験の標準保存条件及び承認申請に必要な最短保存期間については、次のとおりとする。
条件 承認申請時の最短保存期間
長期試験 25℃±2℃/60%RH±5% 一二か月
加速試験 40℃±2℃/75%RH±5% 六か月」(別紙 3の(2)の3))
20c)「(3) 苛酷試験
1)試験方法
○中1 検体
-ロットの原薬から採取する。原則として包装を除いた状態で試験を行うが、必要に応じて包装をした状態での試験を行う(注5)。
○中2 保存条件
保存条件は、原薬の特性に応じて設定するが、通常、加速試験より苛酷な条件で実施する。加速試験の温度条件よりも一○℃ずつ高くなっていく温度条件(例えば、五〇℃、六〇℃、……)と必要な場合には適切な湿度条件(例えば、七五%RH以上)とを組合わせた保存条件に対する影響、及び光安定性を検討する。
○中3 試験期間及び測定時期
原薬の物理的化学的特性に基づいて、試験目的に合うように適宜設定する。」(別紙 3の(3))
ク 甲21(「第13改正日本薬局方解説書 通則 製剤総則 一般試験法 1996」、東京 廣川書店 刊行、国立国会図書館への受け入れ日:平成9年7月18日、iii、iv頁、B-471~B-473頁、B-256~B-258頁)には以下の記載がある。
21a)「同定及び判定
同定は測定した試料の粉末X線回折パターンを標準試料のそれと比較することにより行う.結晶多形,溶媒和結晶の判定はそれぞれの結晶形が示す固有の特徴的なX線回折パターンを測定した試料間で相互に比較するか,又は標準試料のそれと比較することにより行う.・・・医薬品各条で別に規定するもののほか通例,有機化合物の結晶では,・・・.同一結晶形の回折角は回折計の測定精度内で一致するべきである.同一結晶形では通例,回折角は±0.2°以内の範囲で一致し,・・・.」(B-472頁下から6行~B-473頁6行)
21b)「29.赤外吸収スペクトル測定法
・・・赤外吸収スペクトルはその物質の化学構造によって定まる.したがって,種々の波数における吸収を測定して物質を確認又は定量することができる.・・・波数の再現性はポリスチレンの吸収波長 3000cm-1付近で±5cm-1,1000cm-1付近で±1cm-1以内とする.」(B-256頁1行~下から7行)
ケ 甲24(特開平2-167286号公報)には以下の記載がある。
24)「はじめに作成したアセトン溶媒化物を再結晶させるのは、不純物の度合をより一層減少させるのに、しばしば有利である。 再結晶のための通常の溶剤は、水性アセトンである。 このような再結晶は、通常の方法、例えば、溶媒化物を水に溶解し、少量のアセトンで処理し、濾過し、次いで、より多量のアセトンで処理し、任意に攪拌および/又は冷却して再結晶生成物を得る方法により行なう。」(4頁右下欄8~16行)
コ 甲25(再公表公報WO95/29913)には以下の記載がある。
25)「本発明のS-4661の結晶を再結晶によって得るためには、S-4661を、アルコール、アセトンなどの有機溶媒、水、あるいはその混合溶液から結晶化すればよい。ここで用いられるアルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどがあげられる。有機溶媒と水との混合溶媒を用いる場合には、その混合割合は、水/有機溶媒が1:1~1:5(v/v)であることが好ましい。本発明の結晶を得るために、S-4661を上記有機溶媒、水、または混合溶媒に溶解して、S-4661溶液を調製する。このS-4661溶液の濃度は、約5~40重量%であることが好ましい。S-4661の結晶をこの溶液中から析出させるためには、冷却および/または攪拌などの、任意の晶析操作を行い得る。好ましくは約0~10℃に冷却しながら、溶液を攪拌することにより、S-4661の結晶が得られる。」(8頁下から2行~9頁10行)
(2)甲2、甲5及び甲6に記載された発明
甲2、甲5及び甲6に記載された発明は、上記1の(2)に記載のとおりである。
(3)無効理由2の各理由について
(3-1)無効理由2の(2-1)について
ア 本件発明1と甲2発明1との対比・判断
(ア)対比
本件発明1と甲2発明1との一致点・相違点は、上記1の(3-1)のアの(ア)に記載のとおりである。
(イ)相違点の検討
相違点1について、甲2には、当該結晶のX線粉末回折パターンについて何ら記載するところはなく、どのようにすれば、本件化合物について、反射角度2θで表して、ほぼ6.62°、7.18°、12.80°、13.26°、16.48°、19.58°、21.92°、22.68°、25.84°、26.70°、29.16°、および36.70°に特徴的なピークを有するX線粉末回折パターンを示す結晶が得られるかは本件優先日当時の技術常識でもない。したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は甲2に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(ウ)請求人の主張について
請求人は、甲7及び甲7の2を提示して、甲2に開示された条件を忠実に再現しつつ追試を行い、甲3において、甲2に開示された製造方法によってC晶が得られることを確認した旨、被請求人が甲2に記載の方法により得られる結晶がA晶及びC晶の混合物であり、これをアセトン中存在下で4時間攪拌すると、その全てがC晶になると説明しており、そうであるとすれば、甲7に示した方法においては十分な攪拌を行ったために、全ての結晶がC晶になってしまったが、撹拌時間を短くする(4時間以内にする)ことで、A晶(なお、上述のとおり、A晶は本件発明1の結晶多形体に相当する)が得られていることが明らかであり、撹拌時間といった詳細な条件を適宜設定することは、当業者における単なる設計的事項に過ぎないから、本件発明1は甲2に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨などを主張する(審判請求書、38~45頁、審判事件弁駁書、10~26頁、上申書1、4~9頁、口頭審理陳述要領書、5~16頁、上申書2、4~17頁、上申書3、9~10頁)。
しかし、被請求人は甲3の上記説明は推定であり、正しいかどうかは分からない旨主張している(調書参照)。また、結晶の製造にあたり、温度、濃度、攪拌条件等については、何らかの製造条件のもとに行わなければならないことは当然であるが、製造条件の相違によって結晶の生成の有無、結晶の形態(結晶形)が異なる場合があることがあることが技術常識であり(本件化合物についても、製造条件の相違によって結晶形が異なることは、本件特許明細書の記載、乙1、乙2、乙10、乙11の記載からみても明らかである。)、請求人の提示した甲7及び甲7の2の実験結果では、アセトンを溶媒とする条件の下で、A晶が得られることは実際に確認されておらず、どのような条件を設定すればアセトンを溶媒とする条件の下でA晶が得られるかは不明であり、撹拌時間を短くすることでA晶が得られているとの考えも単なる推測に過ぎず、具体的に確認されていないから、甲2に記載された発明及び本願優先日の技術常識に基づいて、当業者がA晶を容易に得ることができるということはできない。
したがって、請求人の主張を採用することはできない。
イ 本件発明6と甲2発明1との対比・判断
(ア)対比
本件発明6と甲2発明1との一致点・相違点は、上記1の(3-1)のイの(ア)に記載のとおりである。
(イ)相違点の検討
相違点3について、甲2には、当該結晶が赤外分光分析において、1678cm-1付近に他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収を有することについて、何ら記載されておらず、どのようにすれば、本件化合物について、赤外分光分析において、1678cm-1付近に他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収を有する結晶が得られるかは本件優先日当時の技術常識でもない。したがって、相違点4について検討するまでもなく、本件発明6は甲2に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(ウ)請求人の主張について
請求人の主張は、上記アの(ウ)に記載したのと同様であるから、そこで述べたのと同様の理由により、請求人の主張を採用することはできない。
(3-2)無効理由2の(2-2)について
ア 本件発明3と甲2発明1との対比・判断
(ア)対比
本件発明3と甲2発明1との一致点・相違点は、上記1の(3-2)のアの(ア)に記載のとおりである。
(イ)相違点の検討
相違点5について、甲2には、当該結晶のX線粉末回折パターンについて何ら記載するところはなく、どのようにすれば、本件化合物について、反射角度2θで表して、ほぼ6.62°、10.82°、13.36°、15.52°、16.74°、17.40°、18.00°、18.70°、20.16°、20.62°、21.90°、23.50°、24.78°、25.18°、34.08°、36.72°、および38.04°に特徴的なピークを有するX線粉末回折パターンを示す結晶が得られるかは本件優先日当時の技術常識でもない。したがって、相違点6について検討するまでもなく、本件発明1は甲2に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(ウ)請求人の主張について
請求人は、甲7及び甲7の2を提示して、甲2に開示された条件を忠実に再現しつつ追試を行い、甲2に開示された製造方法によってC晶が得られることを確認した旨、撹拌時間といった詳細な条件を適宜設定することは、当業者における単なる設計的事項に過ぎないから、本件発明3は甲2に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨などを主張する(審判請求書、38~45頁、審判事件弁駁書、10~26頁、上申書1、4~9頁、口頭審理陳述要領書、5~9頁、上申書2、4~17頁、上申書3、9~10頁)。
そこで、検討するに、甲7の実験-II及び甲7の2の実験-○中1が甲2の追試とされるところ、実験-IIでは、具体的な攪拌条件が不明であり、それを具体的に明らかにした実験○中1では、室温で3日間、マグネチックスターラー(東京理化器械株式会社製、回転速度約400rpm、オクタゴン型撹拌子)で攪拌するというものであり、そのような条件下で結晶を析出させることが本件優先日当時の技術常識であるということはいえず、製造条件の相違によって結晶の生成の有無、結晶の形態(結晶形)が異なる場合があることがあることが技術常識である(本件化合物についても、製造条件の相違によって結晶形が異なることは、本件特許明細書の記載、乙1、乙2、乙10、乙11の記載からみても明らかである。)ことを考慮すれば、甲2に記載された技術的事項及び本件優先日当時の技術常識に基づいて、本件発明3の結晶多形体を当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
したがって、上記請求人の主張を採用することはできない。
イ 本件発明8と甲2発明1との対比・判断
(ア)対比
本件発明8と甲2発明1との一致点・相違点は、上記1の(3-2)のイの(ア)に記載のとおりである。
(イ)相違点の検討
相違点7について、甲2には、当該結晶が赤外分光分析において、1703cm-1および1219cm-1付近に他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収を有することについて、何ら記載されておらず、どのようにすれば、本件化合物について、赤外分光分析において、1703cm-1および1219cm-1付近に他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収を有する結晶が得られるかは本件優先日当時の技術常識でもない。したがって、相違点8について検討するまでもなく、本件発明8は甲2に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(ウ)請求人の主張について
請求人の主張は、上記アの(ウ)に記載したのと同様であるから、そこで述べたのと同様の理由により、請求人の主張を採用することはできない。
(3-3)無効理由2の(2-3)について
ア 本件発明3と甲5発明1との対比・判断
(ア)対比
本件発明3と甲5発明1との一致点・相違点は、上記1の(3-3)のアの(ア)に記載のとおりである。
(イ)相違点の検討
(i)相違点9について
甲7及び甲7の2には、甲5に記載の実施例77の追試とされる、それぞれ実験III及び実験○中2が記載されているところ(なお、甲7の2は甲7の記載を基にして、先に行った試験の内容を明確にすべく加筆修正を行ったものである)、甲7の2には、以下の再結晶方法が記載されている(摘示7-2)。
「1)実験-A 4-メチル-2-(4-(2-メチルプロポキシ)-3-シアノフェニル)-5-チアゾールカルボン酸の合成:Lot AT1602261A
特許第2706037号実施例10に従い、エチル4-メチル-2-(4-(2-メチルプロピルオキシ)-3-シアノフェニル)-5-チアゾールカルボキシラート(原料:10.2g,29.6mmol, Weihei 社製造 Lot P150502FT3)を、エタノール(100mL,純正化学1級品、Lot 2015E2008)及びTHF(100mL,純正化学1級品)に懸濁し、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(38.5mL,38.5mmol、固形水酸化ナトリウム 関東化学 1級品 Lot 707H6059を用い蒸留水に溶解し調整した)を加え、60℃油浴中1.0時間、マグネチックスターラー(東京理化器械株式会社製、回転速度約400rpm、オクタゴン型撹拌子)で攪拌した。この溶液を氷冷下に1mol/L塩酸水溶液(濃塩酸 関東化学 1級品Lot 706H1020を用い、蒸留水を加え調製した)でpHを約2に調整した。直後に析出した結晶を濾取後、蒸留水(100m)で洗浄した。さらに母液を一晩室温で放置し、析出した結晶を濾取後、蒸留水(100m)で洗浄し、前記結晶と合わせ室温で風乾して表題化合物9.14gを白色固形物として得た。・・・
3)実験-○中2 エタノール中での再結晶;Lot AT1602291B
1)で得られた結晶(1.00g)にエタノール(15mL,純正化学1級品、Lot 2015E2008)を加え65℃に加温して溶解し、不溶物を濾別後、室温で3時間、マグネチックスターラー(東京理化器械株式会社製、回転速度約400rpm、オクタゴン型撹拌子)で攪拌した。結晶は徐々に析出した。析出した結晶を濾取し少量のエタノールで洗浄後、室温で風乾して白色固形物(660mg)を得た。本成績体について、粉末X線回折(図3)及び赤外分光スペクトル(図7)を測定した。」
当該方法は、概要、エチル4-メチル-2-(4-(2-メチルプロピルオキシ)-3-シアノフェニル)-5-チアゾールカルボキシラートを水酸化ナトリウムを用いて加水分解した後、生成した4-メチル-2-(4-(2-メチルプロピルオキシ)-3-シアノフェニル)-5-チアゾールカルボン酸の結晶をエタノールに加温溶解して、ろ過した後、室温で3時間攪拌して再結晶を行うものであり、得られた成績体(結晶)の粉末X線回折及び赤外分光スペクトルの結果は、図3、図7として表されている(摘示7-2)。さらに、甲7の2には、当該粉末X線回折の結果が本件発明3で特定されるピークと共に表として記載されているところ、その値は、全て±0.2°の範囲で一致している(甲7の2、4頁、4-1の表のC晶の欄及び実験○中2の欄)。
ここで、甲5の実施例77では、再結晶を行う際に、エタノールを用いること以外その詳細な条件は不明であるところ、結晶化を行う際に、目的の結晶を適当な量の溶媒に加温溶解し、ろ過した後に、一定時間攪拌を行って結晶化することは本件優先日当時周知の事項であると認められる(上記(1)の甲8、甲14、甲17、甲18、甲24及び甲25の記載参照)。なお、甲8には、「最も一般的な再結晶手順での結晶の析出のさせ方は、飽和に近い熱溶液をただ放置し、室温へ冷えること共に結晶を得る方法である」との記載があるが(摘示8a)、当該記載は、最も一般的な再結晶手順について記載しているのであり、攪拌することが技術常識ではないことを示すものとはいえない。また、結晶化の際の温度を室温程度で行うことも当業者が適宜設定する事項であるといえる。そして、本件優先日当時、結晶をX線粉末回折パターンにより特定することは周知であり、同一結晶系でX線回折パターンの回折角は±0.2°以内の範囲で一致することが通例であること(摘示21a)、本件発明3ではそのピークが、「ほぼ」で記載されていることから、本件発明3で特定される全てのピークとその粉末X線回折の結果のピークが±0.2°の範囲で一致する、甲7の2に記載された実験○中2で得られた成績体(結晶)は、本件発明3の結晶多形体に相当するといえる。なお、被請求人も、上申書2において、実験○中2と同じ実験であるといえる甲7の実験IIIで得られた成績体(結晶)の粉末X線回折結果がC晶(本件発明3の結晶多形体)に相当するといえる旨記載している。
してみると、甲5の実施例77に基づいて、再結晶を行うにあたり、本件優先日当時の技術常識に基づいてその条件を設定して結晶化を行い、得られた結晶のX線粉末回折パターンのピークを特定して、相違点9に係る技術的事項を採用することは当業者が容易に行うことである。
(ii)相違点10について
同一の化学組成を有する物質で結晶構造を異にするものがあるとき、それらを多形というから、結晶多形体とは、複数の結晶構造がある物質について、そのうちの1の結晶のことをいうものと解される。してみると、結晶多形体は結晶であるということができるから、この点は実質的な相違点ではない。
(iii)効果について
本件発明のA晶、C晶及びG晶について、本件特許明細書には、以下の記載がある。
「A晶は準安定結晶形であり、図1においてI領域として示される、温度およびメタノール/水の混合溶媒組成によって画定される条件のもとで、メタノール/水再沈殿法で製造することで得られる。・・・
A晶は、上記のI領域での通常の操作範囲では準安定な結晶と位置づけられる。この晶形は、通常の保管条件(例えば75%相対湿度、25℃など)では長期に保持され、かつ化学的にも安定である。
C晶は、上記のI領域での通常の操作範囲では安定な結晶と位置づけられる。しかし、この晶形への溶媒媒介転移は、条件にもよるが通常数日を要し、このままではC晶を工業的に再現性よく製造することは難しい。このため、この転移を何らかの方法で加速し、短時間で転移を達成する必要があった。この転移を加速するためには、例えば結晶の懸濁状態においてC晶の種晶を加えて再加熱するなどの操作を必要とする。この晶形は通常の保管条件(例えば75%相対湿度、25℃など)では長期に保持され、かつ化学的にも安定である。
G晶は加熱減圧乾燥するような操作では結晶水を失い、B晶へと変化する。この晶形は、通常の保管条件(例えば75%相対湿度、25℃など)では長期に保管され、かつ化学的にも安定である。
・・・
以上述べたように、いずれの晶形も有用であるが、長期保存による晶形維持という意味では、A晶、C晶、およびG晶が有用である。なかでも、工業的優位性という観点からはA晶が好ましい。」(6頁47行~9頁5行)
「[実施例10]
安定性試験
A晶、B晶、C晶、D晶、およびG晶の安定性試験を以下の条件で行った。
保存条件1:40℃/75%相対湿度、密栓状態、3ヶ月および6ヶ月保存
保存条件2:40℃/75%相対湿度、開栓状態、1ヶ月および3ヶ月保存
その結果、B晶およびD晶は、保存条件1の3ヶ月時点および保存条件2の1ヶ月時点でG晶への変化が粉末X線回折および赤外分光分析により確認できた。この転移後のG晶は、保存条件1の6ヶ月および保存条件2の3ヶ月時点ではG晶の晶形を保持していることが確認された。
一方、A晶、C晶、およびG晶は保存条件1の6ヶ月時点および保存条件2の3ヶ月時点では他の結晶多形体への転移は確認できなかった。
なお、試験全期間を通して、各結晶多形体の総不純物量は、試験開始前と比較して増減が認められなかった。」(10頁25~37行)
上記本件特許明細書の記載は、A晶、C晶及びG晶について専らその安定性に関するものであるが、上記(1)に示した甲14、甲15及び甲20にも記載されるとおり、多形体によってその安定性が異なることがあること、本件特許明細書に記載の上記実施例10に記載の安定性試験に相当する試験において、医薬品の安定性試験を行い、その条件下で安定性が求められることはいずれも周知であることからみて、本件発明3が当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するとはいえない。
(ウ)まとめ
したがって、本件発明3は甲5に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(エ)被請求人の主張について
被請求人は、本件発明が進歩性を有することの理由として、本件発明の結晶化条件が各号証に記載の結晶化条件から容易に想到できなければ、本件特許に係るA晶、C晶及びG晶の製造方法の発明のみならず、A晶、C晶及びG晶の物自体の発明も進歩性を有する旨、技術常識の参酌の仕方によって形成される結晶形は異なるので、当該甲号証において実際に製造された結晶を特定することはできないから、前記甲号証は、新規性(及び進歩性)を否定するには適格性を欠く旨、本件発明の効果について、比較対象となる従来技術が存在せず、A晶、C晶及びG晶が上記実施例10の保存条件1及び2で他の結晶形への転移が確認されないのに対して、B晶及びD晶はG晶への変化が認められる旨などを主張する(審判事件答弁書、18~33頁、上申書1、15~36頁、口頭審理陳述要領書、3~6頁、上申書3、3~12頁)。
しかしながら、本件発明3の結晶多形体は本件特許明細書に記載の結晶化条件以外の条件でも製造されるのものである。また、結晶化条件によって形成される結晶形が異なるものであったとしても、本件発明3の結晶多形体が得られる条件が当業者が容易に採用し得るものであれば、本件発明3の結晶多形体とすることもまた当業者が容易になし得ることである。そして、効果については上で述べたとおりである。
したがって、被請求人の主張を採用することはできない。
イ 本件発明8と甲5発明1との対比・判断
(ア)対比
本件発明8と甲5発明1との一致点・相違点は上記1の(3-3)のイの(ア)に記載のとおりである。
(イ)相違点の検討
(i)相違点11について
上記アの(イ)の(i)に記載したとおりの事項が甲7及び甲7の2に記載されているところ、甲7の2には、本件発明8(C晶)で特定される赤外分光分析における他の結晶多形体と区別できる特徴的吸収と、実験○中2で得られた成績体(結晶)の赤外分光スペクトルの結果が記載されており、それぞれ、1703cm-1及び1219cm-1(C晶)と1701cm-1及び1219cm-1(実験○中2)とされている。
ここで、赤外吸収スペクトル測定法について、甲21に「波数の再現性はポリスチレンの吸収波長 3000cm-1付近で±5cm-1,1000cm-1付近で±1cm-1以内とする.」と記載されるとおり(摘示21b)、ある程度の誤差が生じること、本件発明8の結晶多形体と本件発明3の結晶多形体は同一の結晶形を有する結晶であることからみて、甲7の2に記載された実験○中2で得られた結晶は、本件発明8の結晶多形体に相当するといえる(なお、被請求人も、上申書2において、実験○中2と同じ実験であるといえる甲7の実験IIIで得られた結晶の粉末X線回折結果がC晶(本件発明8の結晶多形体)に相当するといえる旨記載している。)。
また、本件優先日当時、赤外吸収スペクトルは物質の化学構造によって定まり、物質の確認に赤外吸収スペクトルの吸収を用いることは周知である(摘示21b)。
してみると、上で述べたことと、上記アの(イ)の(i)で述べたのと同様の理由により、甲5の実施例77に基づいて、再結晶を行うにあたり、本件優先日当時の技術常識に基づいてその条件を設定して結晶化を行い、得られた結晶の赤外分光分析の他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収を特定して、相違点11に係る技術的事項を採用することは当業者が容易に行うことである。
(ii)相違点12について
上記アの(イ)の(ii)で述べたのと同様の理由により、この点は実質的な相違点ではない。
(iii)効果について
本件発明8の結晶多形体は、本件特許明細書においてC晶としてその効果について記載されているところ、上記アの(イ)の(iii)で述べたのと同様の理由により、本件発明8が当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するとはいえない。
(ウ)まとめ
したがって、本件発明8は甲5に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(エ)被請求人の主張について
被請求人は、上記アの(エ)で述べたのと同様の主張をしているが、上記アの(エ)で述べたのと理由により、被請求人の主張を採用することはできない。
(3-4)無効理由2の(2-4)について
ア 本件発明5と甲6発明1との対比・判断
(ア)対比
本件発明5と甲6発明1との一致点・相違点は、上記1の(3-4)のアの(ア)に記載のとおりである。
(イ)相違点の検討
(i)相違点13について
甲7及び甲7の2には、甲6に記載の実施例10の追試とされる、それぞれ実験IV及び実験○中3が記載されているところ(なお、甲7の2は甲7の記載を基にして、先に行った試験の内容を明確にすべく加筆修正を行ったものである)、甲7の2には、以下の再結晶方法が記載されている(摘示7-2)。
「1)実験-A 4-メチル-2-(4-(2-メチルプロポキシ)-3-シアノフェニル)-5-チアゾールカルボン酸の合成:Lot AT1602261A
特許第2706037号実施例10に従い、エチル4-メチル-2-(4-(2-メチルプロピルオキシ)-3-シアノフェニル)-5-チアゾールカルボキシラート(原料:10.2g,29.6mmol, Weihei 社製造 Lot P150502FT3)を、エタノール(100mL,純正化学1級品、Lot 2015E2008)及びTHF(100mL,純正化学1級品)に懸濁し、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(38.5mL,38.5mmol、固形水酸化ナトリウム 関東化学 1級品 Lot 707H6059を用い蒸留水に溶解し調整した)を加え、60℃油浴中1.0時間、マグネチックスターラー(東京理化器械株式会社製、回転速度約400rpm、オクタゴン型撹拌子)で攪拌した。この溶液を氷冷下に1mol/L塩酸水溶液(濃塩酸 関東化学 1級品Lot 706H1020を用い、蒸留水を加え調製した)でpHを約2に調整した。直後に析出した結晶を濾取後、蒸留水(100m)で洗浄した。さらに母液を一晩室温で放置し、析出した結晶を濾取後、蒸留水(100m)で洗浄し、前記結晶と合わせ室温で風乾して表題化合物9.14gを白色固形物として得た。なお、念のために、本成績体について粉末X線回折(図1)及び赤外分光スペクトル(図5)を測定した。
・・・
4)実験-○中3 90%エタノール中での再結晶;Lot AT1602291C
1)で得られた結晶(1.00g)に90%エタノール(15mL,EtOH/蒸留水=9/1)を加え70℃に加温して溶解し、不溶物を濾別後、室温で3時間、マグネチックスターラー(東京理化器械株式会社製、回転速度約400rpm、オクタゴン型撹拌子)で攪拌した。結晶は徐々に析出した。析出した結晶を濾取し少量の90%エタノールで洗浄後、室温で風乾して白色固形物(664mg)を得た。本成績体について、粉末X線回折(図4)及び赤外分光スペクトル(図8)を測定した。」
ここで、甲6の実施例10では、再結晶を行う際に、エタノール/水=9:1を用いること以外その詳細な条件は不明であるところ、結晶化を行う際に、目的の結晶を適当な量の溶媒に加温溶解し、ろ過した後に、攪拌を行って結晶化することは本件優先日当時周知の事項であると認められる(上記(1-1)の各摘示参照。なお、甲8には、「最も一般的な再結晶手順での結晶の析出のさせ方は、飽和に近い熱溶液をただ放置し、室温へ冷えること共に結晶を得る方法である」との記載があるが(摘示8a)、当該記載は、最も一般的な再結晶手順について記載しているのであり、攪拌することが技術常識ではないことを示すものとはいえない。)。また、結晶化の際の温度を室温程度で行うことも当業者が適宜設定する事項であるといえる。そして、本件優先日当時、結晶をX線粉末回折パターンのピークにより特定することは周知であり、同一結晶系でX線回折パターンの回折角は±0.2°以内の範囲で一致することが通例であること(摘示21a)、本件発明5ではそのピークが、「ほぼ」で記載されていることから、本件発明5で特定される全てのピークとその粉末X線回折の結果のピークが±0.2°の範囲で一致する、甲7の2に記載された実験○中3で得られた成績体(結晶)は、本件発明5の結晶多形体に相当するといえる(なお、被請求人も、上申書2において、実験○中3と同じ実験であるといえる甲7の実験IVで得られた成績体(結晶)の粉末X線回折結果がG晶(本件発明5の結晶多形体)に相当するといえる旨記載している。)。
してみると、甲6の実施例10に基づいて、再結晶を行うにあたり、本件優先日当時の技術常識に基づいてその条件を設定して結晶化を行い、得られた結晶のX線粉末回折パターンのピークを特定して、相違点13に係る技術的事項を採用することは当業者が容易に行うことである。
(ii)相違点14について
上記(3-3)のアの(イ)の(ii)で述べたのと同様の理由により、この点は実質的な相違点ではない。
(iii)効果について
本件発明5の結晶多形体は、本件特許明細書において、G晶として上記(3-3)のアの(イ)の(iii)に示したとおり、その効果について記載されているところ、上記(3-3)のアの(イ)の(iii)で述べたのと同様の理由により、本件発明5が当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するとはいえない。
(ウ)まとめ
したがって、本件発明5は甲6に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(エ)被請求人の主張について
被請求人は、上記(3-3)のアの(エ)で述べたのと同様の主張をしているが、上記(3-3)アの(エ)で述べたのと理由により、被請求人の主張を採用することはできない。
イ 本件発明10と甲6発明1との対比・判断
(ア)対比
本件発明10と甲6発明1との一致点・相違点は上記1の(3-4)のイの(ア)に記載のとおりである。
(イ)相違点の検討
(i)相違点15について
上記アの(イ)の(i)に記載したとおりの事項が甲7及び甲7の2に記載されているところ、甲7の2には、本件発明10(G晶)で特定される赤外分光分析における他の結晶多形体と区別できる特徴的吸収と、実験○中3で得られた成績体(結晶)の赤外分光スペクトルの結果が記載されており、それぞれ、1703cm-1及び1684cm-1(C晶)と1701cm-1及び1684cm-1(実験○中3)とされている。
ここで、赤外吸収スペクトル測定法について、甲21に「波数の再現性はポリスチレンの吸収波長 3000cm-1付近で±5cm-1,1000cm-1付近で±1cm-1以内とする.」と記載されるとおり(摘示21b)ある程度の誤差が生じること、本件発明10の結晶多形体と本件発明5の結晶多形体は同一の結晶形を有する結晶であることからみて、甲7の2に記載された実験○中3で得られた結晶は、本件発明10の結晶多形体に相当するといえる(なお、被請求人も、上申書2において、実験○中3と同じ実験であるといえる甲7の実験IVで得られた結晶の粉末X線回折結果がG晶(本件発明10の結晶多形体)に相当するといえる旨記載している。)。
また、本件優先日当時、物質の確認に赤外吸収スペクトルの吸収を用いることは周知である。
してみると、上で述べたことと、上記アの(イ)の(i)で述べたのと同様の理由により、甲6の実施例10に基づいて、再結晶を行うにあたり、本件優先日当時の技術常識に基づいてその条件を設定して結晶化を行い、得られた結晶の赤外分光分析の他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収を特定して、相違点15に係る技術的事項を採用することは当業者が容易に行うことである。
(ii)相違点16について
上記(3-3)のアの(イ)の(ii)で述べたのと同様の理由により、この点は実質的な相違点ではない。
(iii)効果について
本件発明10の結晶多形体は、本件特許明細書においてG晶としてその効果について記載されているところ、上記アの(イ)の(iii)で述べたのと同様の理由により、本件発明10が当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するとはいえない。
(ウ)まとめ
したがって、本件発明10は甲6に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(エ)被請求人の主張について
被請求人は、上記(3-3)アの(エ)で述べたのと同様の主張をしているが、上記(3-3)アの(エ)で述べたのと理由により、被請求人の主張を採用することはできない。
(4)無効理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、
(2-1)本件発明1及び6は甲第2号証に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできず、
(2-2)本件発明3及び8は甲第2号証に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
そして、
(2-3)本件発明3及び8は甲第5号証に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
(2-4)本件発明5及び10は甲第6号証に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明1及び6は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとすることはできない。
よって、本件発明1及び6の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものではなく、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものではない。
また、本件発明3、5、8及び10は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件発明3、5、8及び10の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
3 無効理由3について
(1)甲2、甲5~甲7、甲7の2、甲8、甲14、甲15、甲17、甲18、甲20、甲21、甲24及び甲25の記載並びに乙1及び乙10の記載
ア 甲2、甲5~甲7、甲7の2、甲8、甲14、甲15、甲17、甲18、甲20、甲21、甲24及び甲25の記載
甲2、甲5~甲7及び甲7の2の記載は、上記1の(1)に、甲8、甲14、甲15、甲17、甲18、甲20、甲21、甲24及び甲25の記載は上記2の(1)にそれぞれ記載のとおりである。
イ 乙1(帝人ファーマ株式会社の寺本満による2016年6月28日を報告日とする実験成績証明書(1))には以下の事項が記載されている。
「 報告日 2016年6月28日
実験成績証明書(1)
エタノール系溶媒からのフェブキソスタット晶析に関する実験
報告者 帝人ファーマ株式会社
生産技術部原薬技術グループ
主任研究員 寺本 満
2.実験の目的
2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸(以下、一般名の「フェブキソスタット」と表記する)の結晶多形現象の解明を目的とし、エタノ―ル溶媒もしくはエタノール/水混合溶媒からの冷却晶析で生じる結晶形を確認する。
3.実験期間
2006年4月19日から2006年5月12日
4.実験を行った施設
日本国山口県岩国市日の出町2-1 帝人岩国研究センター
帝人フアーマ株式会社 医薬第1工場内 第2実験室および第3合成室
5.実験を行った者
玉水 時彦 (研究補助職)
6.結晶多形評価に用いた装置
赤外分光光度計(IR):堀場製作所製FT-720
7.実験方法
冷却管を備えた50mLナスフラスコにフェブキソスタット1gおよび溶媒を入れ、90℃のオイルバスに浸漬して溶解した。これを無撹拌で、室温中に放冷、もしくは氷水バスに浸漬して急冷することで冷却晶析を行った。得られたスラリーをろ取し、IRにて結晶形を確認した。
実験群-1:エタノール溶媒
エタノール溶媒からの冷却晶析で得られた結晶形について、表1にまとめる。
実験群-2:エタノール/水混合溶媒
エタノール/水(9:1)混合溶媒(容量比)からの冷却晶析で得られた結晶形について、表2にまとめる。
8.結果及び考察
エタノール単独溶媒、エタノール/水(9:1)混合溶媒いずれも、同一条件もしくは非常に近い条件にもかかわらず異なる結晶形が得られた。
以上」
ウ 乙10(帝人ファーマ株式会社の寺本満による2016年11月16日を報告日とする実験成績証明書、エタノール系溶媒からのフェブキソスタット晶析に関する実験(2))には以下の事項が記載されている。
「 報告日 2016年11月16日
実験成績証明書
エタノール系溶媒からのフェブキソスタット晶析に関する実験(2)
報告者 帝人ファーマ株式会社
生産技術部原薬技術グループ
主任研究員 寺本 満
1.報告者など
報告者の寺本満は1992年に大阪大学大学院工学研究科修士課程を修了して帝人ファーマ株式会社(当時は帝人株式会社)に入社し、1999年より現職である生産技術部原薬技術グループ{当時は製剤研究所原薬製造技術グループ}にて医薬品原薬の合成や結晶多形検討に携わっており、医薬品の製造全般に関する知識を有している。
実験指示者の野方倫彰は1993年に名古屋大学大学院工学研究科修士課程を修了して帝人株式会社に入社し、2001年より2009年まで帝人ファーマ株式会社(当時は帝人株式会社)の製剤研究所原薬製造技術グループにて医薬品原薬の合成や結晶多形検討に携わった。医薬品の製造全般に関する知識を有している。
2.実験の目的
2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メテルー5-チアゾールカルボン酸(以下、一般名の「フェブキソスタット」と表記する)の結晶多形現象の解明を目的とし、エタノール/水混合溶媒からの冷却
晶析で生じる結晶形を確認する。
3.実験期間
2006年4月19日から2006年5月12日
4.実験を行った施設
日本国山口県岩国市日の出町2-1 帝人岩国研究センター
帝人フアーマ株式会社医薬第1工場内第2実験室および第3合成室
5.実験を行った者
野方 倫彰(実験指示者)
玉水 時彦(研究補助職)
6.結晶多形評価に用いた装置
赤外分光光度計(IR):堀場製作所製FT-720
7.実験の方法および結果
冷却管を備えた50mLナスフラスコにフェブキソスタット1gおよびエタノール/水(容量比9:1)混合溶媒10mLを入れ、90℃のオイルバスに浸漬して溶解した。下表に示す冷却条件で晶析を行い、得られたスラリーをろ取し、IRにて結晶形を確認した。なお、徐冷とはこの場合、フラスコをオイルバスに浸漬したままピークを切り、オイルバスがゆっくりと冷えることで冷却晶折させたものである。
得られた結晶形について、下表にまとめる。
冷却晶析の条件により、A晶が得られる場合とG晶が得られる場合とがあった。
以上」
(2)甲2、甲5及び甲6に記載された発明
甲2、甲5及び甲6に記載された発明は、上記1の(2)に記載のとおりであるところ、さらに、甲2、甲5及び甲6には、以下の発明が記載されている。
ア 甲2に記載された発明
摘示2a~2cからみて、甲2には、
「エチル4-メチル-2-(4-(2-メチルプロピルオキシ)-3-シアノフェニル)-5-チアゾールカルボキシラート(306mg)を、THF(3mL)及びEtOH(3mL)の混合液中、1N-NaOH溶液(1.2mL)により、1時間60℃で加水分解し、混合液を1N-HCl溶液で中和し、形成された結晶をろ取した試料を、アセトンから再結晶させることによる、4-メチル-2-(4-(2-メチルプロピルオキシ)-3-シアノフェニル)-5-チアゾールカルボン酸(TEI-6720)の無色結晶の製造方法であって、該結晶が以下の特性を有する方法
(mp 201~202℃):1HNMR(DMSO-d6):δ 1.04(6H、d、J=7Hz)、2.12(1H、m、J=7Hz)、2.67(3H、s)、3.99(2H、d、J=7Hz)、7.34(1H、d、J=9Hz)、8.20(1H、dd、J=9及び2Hz)、8.25(1H、d、J=2Hz);13CNMR(CDCl3);δ 17.68、19.05、28.18、75.76、103.04、112.68、115.31、121.24、125.71、132.22、132.74、162.71、162.98、167.28、168.60:FT-IR(KBr):ν=2960、2880、2230、1700、1680、1600、1430、1130cm-1;HRMS:m/z C16H16N2O3Sの計算値 316.0882、測定値316.0861;C16H16N2O3Sの分析計算値:C、60.7:H、5.1:N、8.9、測定値:C、60.7;H、5.1:N、8.9」の発明(以下「甲2発明2」という。)が記載されている。
イ 甲5に記載された発明
上記1の(2)のイと同様の理由により、甲5には、
「2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸エチルをエタノール及びテトラヒドロフランに溶解させたのち1N水酸化ナトリウムを加え60℃で1時間加水分解し、溶媒を留去したのち1N塩酸で中和し、酢酸エチルで抽出し、有機層を濃縮し、得られた固体をエタノールより再結晶することによる、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶の製造方法であって、該結晶が以下の特性を有する方法
m.p.238-239℃(分解)
1H-NMR(CDCl3)δ;
8.21(d 1H J=2.3Hz)8.11(dd 1H J=8.9Hz J=2.3Hz)
7.03(d 1H J=8.9Hz)3.91(d 2H J=6.6Hz)
2.80(s 3H)2.21(m 1H)1.10(d 6H J=6.6Hz)」の発明(以下「甲5発明2」という。)が記載されているといえる。
ウ 甲6に記載された発明
上記1の(2)のウと同様の理由により、甲6には、
「2―(3―シアノ―4―イソブチルオキシフェニル)―4―メチル―5―チアゾールカルボン酸エチル(306mg)にTHF(3ml)を加え40℃に加温し溶解しエタノール(3ml)と1規定水酸化ナトリウム溶液(1.2ml)を加え60℃に加熱し60分間攪拌し、反応液を冷却後、濃縮し水(7ml)を加えた後1規定塩酸で中和し、生じた結晶を濾過、乾燥し粗結晶(290mg)を得、さらにこの化合物をエタノール/水=9:1より再結晶することによる、2―(3―シアノ―4―イソブチルオキシフェニル)―4―メチル―5―チアゾールカルボン酸の結晶の製造方法であって、該結晶が以下の特性を有する方法
mp 207~209℃
1H―NMR(δ;DMSO―d6)
1.04(d,6H,J=6.5Hz),2.12(m,1H,J=6.5Hz),2.67(s,3H),3.99(d,2H,J=6.5Hz),7.34(d,1H,J=9Hz),8.20(dd,1H,J=2 and 9Hz),8.25(d,1H,J=2Hz).
FT―IR(cm-1,KBr)
2960,2880,2230,1680,1600,1520,1430,1280.」の発明(以下「甲6発明2」という。)が記載されているといえる。
」
(3)無効理由3の各理由について
(3-1)無効理由3の(3-1)について
ア 本件発明1と甲2発明1との対比・判断
(ア)対比
本件発明1と甲2発明1との一致点・相違点は、上記1の(3-1)のアの(ア)に記載のとおりである。
(イ)相違点の検討
(i)相違点1について
本件発明1の結晶多形体はA晶とされるものである。甲2に記載の製造方法において再結晶にはアセトンが用いられるところ、甲5及び甲6に記載のとおり、同じ化合物について、その再結晶にエタノール、エタノール/水=9:1が用いられることは公知である。
そして、上記乙1には、90℃でフェブキソスタット(本件発明1の化合物)をエタノール又はエタノール/水=9:1に溶解し、無攪拌、室温放冷することにより、いずれもA晶が生成することが、上記乙10には、90℃でフェブキソスタットをエタノール/水=9:1に溶解し、攪拌・徐冷、無攪拌・室温放冷、攪拌・室温放冷のいずれもおいてもA晶が生成することが記載されている。ここで、攪拌、無攪拌、室温放冷、徐冷の結晶化条件は、上記2の(1-1)で示した甲各号証の記載からみて、本件優先日当時周知の条件であり、温度等の乙1及び乙10に記載のその他の結晶化条件も当業者が適宜設定し得る事項であるから、乙1及び乙10に記載の結晶化条件は当業者が容易に設定できるものであるといえる。
さらに、本件化合物は甲5及び甲6に記載のとおり医薬として用いられるものであるところ(摘示5a、6a)、医薬に用いられる化合物について、その結晶多形体を探索することは通常行われることであり、溶媒等の各種製造条件によって得られる結晶形が異なる場合があることは本件優先日当時周知である。また、本件優先日当時結晶をX線粉末回折パターンのピークにより特定することも周知である。
してみると、結晶多形体を探索することを目的として、甲2に記載の製造方法において、アセトンの代わりにエタノール又はエタノール/水=9:1を用い、当業者が容易に設定できる結晶化条件を採用して、A晶を製造し、それをX線粉末回折パターンのピークにより特定することは当業者が容易に行うことである。
そして、上述のとおり、A晶は、本件発明1の結晶多形体であるから、相違点1に係るX線粉末回折パターンのピークを有するものであり、特定されたピークは、本件発明1のピークと同一である。したがって、相違点1に係る事項を採用することは当業者が容易に行うことである。
(ii)相違点2について
上記2の(3-3)のアの(イ)の(ii)で述べたのと同様の理由により、この点は実質的な相違点ではない。
(iii)効果について
上記2の(3-3)のアの(イ)の(iii)で述べたのと同様の理由により、本件発明1が当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するとはいえない。
(ウ)まとめ
したがって、本件発明1は甲第2号証(主引用例)に記載された発明、甲第5、6、14及び15号証に記載された発明並びに本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(エ)被請求人の主張について
被請求人は、上記2の(3-3)のアの(エ)で述べたのと同様の主張をしているが、上記2の(3-3)アの(エ)で述べたのと理由により、被請求人の主張を採用することはできない。
イ 本件発明6と甲2発明1との対比・判断
(ア)対比
本件発明6と甲2発明1との一致点・相違点は、上記1の(3-1)のイの(ア)に記載のとおりである。
(イ)相違点の検討
(i)相違点3について
本件発明6の結晶多形体はA晶とされるものであり、A晶を製造することが当業者が容易に行うことであることは、上記アの(イ)の(i)で述べたとおりである。また、本件優先日当時、赤外吸収スペクトルは物質の化学構造によって定まり、物質の確認に赤外吸収スペクトルの吸収を用いることは周知であって(摘示21b)、当該吸収によって結晶を特定することは当業者が容易に行うことであるといえるところ、A晶は、本件発明6の結晶多形体であるから、相違点3に係る赤外分光分析の他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収を有するものである。
してみると、相違点3に係る技術的事項を採用することは当業者が容易に行うことである。
(ii)相違点4について
上記2の(3-3)のアの(イ)の(ii)で述べたのと同様の理由により、この点は実質的な相違点ではない。
(iii)効果について
上記アの(イ)の(iii)で述べたのと同様の理由により、本件発明1が当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するとはいえない。
(ウ)まとめ
したがって、本件発明6は甲第2号証(主引用例)に記載された発明、甲第5、6、14及び15号証に記載された発明並びに本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(エ)被請求人の主張について
被請求人は、上記2の(3-3)のアの(エ)で述べたのと同様の主張をしているが、上記2の(3-3)アの(エ)で述べたのと理由により、被請求人の主張を採用することはできない。
ウ 本件発明12と甲2発明2との対比・判断
(ア)対比
本件発明12と甲2発明2とを対比する。本件発明12のA晶は結晶であるといえるから、両者は
「2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶の製造方法」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点17:本件発明12が、「図1においてI領域として示された、温度およびメタノール/水の混合溶媒組成によって画定される条件のもとで晶析する」と特定しているのに対し、甲2発明2では、「エチル4-メチル-2-(4-(2-メチルプロピルオキシ)-3-シアノフェニル)-5-チアゾールカルボキシラート(306mg)を、THF(3mL)及びEtOH(3mL)の混合液中、1N-NaOH溶液(1.2mL)により、1時間60℃で加水分解し、混合液を1N-HCl溶液で中和し、形成された結晶をろ取した試料を、アセトンから再結晶させ」るとしている点
相違点18:本件発明12が、結晶をA晶と特定しているのに対し、甲2発明2では、そのような特定がない点
(イ)相違点の検討
相違点17及び18について併せて検討する。
甲2、甲5、甲6、甲14及び甲15のいずれにも、図1においてI領域として示された、温度およびメタノール/水の混合溶媒組成によって画定される条件のもとで晶析して本件化合物のA晶を製造することについて記載も示唆もされていない。すなわち、甲2にはアセトンを、甲5にはエタノールを、甲6にはエタノール/水=9:1を用いて本件化合物を再結晶することが記載されているが、いずれもメタノール/水の混合溶媒ではなく、特定の溶媒についてしか記載のない、甲2、甲5、甲6、甲14及び甲15のいずれにも、図1においてI領域として示された、温度およびメタノール/水の混合溶媒組成によって画定される条件のもとで晶析して本件化合物のA晶を製造することは、甲2、甲5、甲6、甲14及び甲15のいずれにも記載も示唆もされておらず、それが本件優先日当時の技術常識であるともいえない。
したがって、相違点17及び18に係る技術的事項を採用し、本件発明12とすることは当業者が容易に行うことであるということはできない。
(ウ)まとめ
したがって、本件発明12は甲第2号証(主引用例)に記載された発明、甲第5、6、14及び15号証に記載された発明並びに本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
(エ)請求人の主張について
請求人は、有機化合物においては再結晶溶媒を種々変えて再結晶化を試みることは本件優先日当時における当業者の周知・慣用手段である旨、甲6には本件化合物の結晶の製造にあたって、エタノール/水=9:1を用いることが記載されており、エタノールと同族のメタノールと水の混合物を用いることは、当業者がごく普通に試みる再結晶手法に過ぎない旨、甲8にはメタノールと水との混合溶媒を再結晶溶媒として使用できることが示されている旨、結晶化温度や攪拌の有無といった条件の選択は、例えば甲8や甲9に説明された条件に基づいて適宜採用できる程度のことである旨などを主張する(審判請求書、56~64頁、審判事件弁駁書、35~43頁、口頭審理陳述要領書、9~18頁)。
たしかに、エタノールとメタノールはいずれもアルコールであり、溶媒としてメタノールと水の組み合わせが甲8に記載されているが、本件化合物をメタノールと水の混合物で結晶化することは記載も示唆もされておらず、また、仮にメタノールと水の混合溶媒を用いたとしても、その場合にその他の条件としてどのような条件を選択した場合にA晶が生成するかは明らかでなく、しかも、その条件は多岐に亘るので、図1においてI領域として示された、温度およびメタノール/水の混合溶媒組成によって画定される条件のもとで晶析した場合に、本件化合物のA晶が生成することは、上記いずれの甲号証にも示唆されているとはいえないので、本件発明12が甲第2号証(主引用例)に記載された発明、甲第5、6、14及び15号証に記載された発明並びに本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできず、上記請求人の主張を採用することはできない。
(3-2)無効理由3の(3-2)について
ア 本件発明3と甲2発明1との対比・判断
(ア)対比
本件発明3と甲2発明1との一致点・相違点は、上記1の(3-2)のアの(ア)に記載のとおりである。
(イ)検討
本件発明3について、甲5に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることは、上記の2の(3-3)のアで述べたとおりであるところ、上記相違点は、上記の2の(3-3)のアで述べた相違点と同様である。
そして、甲2に記載の製造方法において再結晶にはアセトンが用いられるところ、甲5に記載のとおり、同じ化合物について、その再結晶にエタノールが用いられることは公知であって、甲2に記載の製造方法において、アセトンの代わりにエタノールを用い、当業者が容易に設定できる結晶化条件を採用することも当業者が容易に行うことであることは、上記(3-1)のアの(イ)の(i)で述べたとおりである。
以上のことから、本件発明3は甲第2号証(主引用例)に記載された発明、甲第5、6、14及び15号証に記載された発明並びに本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 本件発明8と甲2発明1との対比・判断
(ア)対比
本件発明8と甲2発明1との一致点・相違点は、上記1の(3-2)のイの(ア)に記載のとおりである。
(イ)検討
上記相違点は、本件発明8が、「赤外分光分析において、1703cm-1および1219cm-1付近に他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収を有する」としている点及び「結晶多形体」としている点を相違点としている点で、上記の2の(3-3)のイの(ア)で述べた相違点と同様であるところ、本件発明8について、甲5に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることは、上記の2の(3-3)のイで述べたとおりである。
そして、甲2に記載の製造方法において再結晶にはアセトンが用いられるところ、甲5に記載のとおり、同じ化合物について、その再結晶にエタノールが用いられることは公知であって、甲2に記載の製造方法において、アセトンの代わりにエタノールを用い、当業者が容易に設定できる結晶化条件を採用することも当業者が容易に行うことであることは、上記(3-1)のアの(イ)の(i)で述べたとおりである。
以上のことから、本件発明8は甲第2号証(主引用例)に記載された発明、甲第5、6、14及び15号証に記載された発明並びに本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ 本件発明14と甲2発明2との対比・判断
(ア)対比
本件発明14と甲2発明2とを対比する。本件発明14のC晶は結晶であるといえるから、両者は
「2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶の製造方法」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点19:本件発明14が、「メタノールおよび水の混合溶媒に懸濁した2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸に、少量の2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸のC晶を存在させて加熱する」と特定しているのに対し、甲2発明2では、「エチル4-メチル-2-(4-(2-メチルプロピルオキシ)-3-シアノフェニル)-5-チアゾールカルボキシラート(306mg)を、THF(3mL)及びEtOH(3mL)の混合液中、1N-NaOH溶液(1.2mL)により、1時間60℃で加水分解し、混合液を1N-HCl溶液で中和し、形成された結晶をろ取した試料を、アセトンから再結晶させ」るとしている点
相違点20:本件発明14が、結晶をC晶と特定しているのに対し、甲2発明2では、そのような特定がない点
(イ)相違点の検討
相違点19及び20について併せて検討する。
甲2発明2では再結晶に用いる溶媒がアセトンであるところ、本件化合物の再結晶に用いる溶媒について、甲5にはエタノールが、甲6にはエタノール/水=9:1が記載されており、種々の溶媒で再結晶化できることは公知である。また、メタノール及び水の混合溶媒を用いること、結晶を製造するに際に加熱すること、懸濁液から結晶を析出させることも本件優先日当時周知である(甲8、甲16)。そして、相違点19に係る少量の本件化合物のC晶は種晶であるといえるところ、結晶化において種晶を用いることも本件優先日当時も周知であり(甲14、甲18)、種晶を用いることでそれと同じ結晶形の結晶が生成することは明らかである。また、種晶とする少量の本件化合物のC晶を当業者が容易に製造できることは上記ア及びイで述べたことから明らかである(なお、少量の本件化合物のC晶を当業者が容易に製造できることは、上記2の(3-3)のア及びイ、並びに以下の(3-3)のア及びイで述べることからも明らかである。)。
してみると、甲2に記載された発明において、本件化合物について、メタノール及び水の混合溶媒に懸濁した本件化合物に少量の本件化合物のC晶を存在させて加熱することで、本件化合物のC晶を製造することは当業者が容易に行うことである。
(ウ)効果について
上記2の(3-3)のアの(イ)の(iii)で述べたのと同様の理由により、本件発明14が当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するとはいえない。
(エ)まとめ
したがって、本件発明14は甲第2号証(主引用例)に記載された発明、甲第5、6、14及び15号証に記載された発明並びに本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(オ)被請求人の主張について
上記2の(3-3)のアの(エ)で述べたのと同様の理由により、被請求人の主張を採用することはできない。
(3-3)無効理由3の(3-3)について
ア 本件発明3と甲5発明1との対比・判断
(ア)対比
本件発明3と甲5発明1との一致点・相違点は、上記1の(3-3)のアの(ア)に記載のとおりである。
(イ)検討
本件発明3が甲5に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることは、上記2の(3-3)のアで述べたとおりであるから、本件発明3は甲第5号証(主引用例)に記載された発明、甲第2、6、14及び15号証に記載された発明並びに本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 本件発明8と甲5発明1との対比・判断
(ア)対比
本件発明8と甲5発明1との一致点・相違点は、上記1の(3-3)のイの(ア)に記載のとおりである。
(イ)検討
本件発明8が甲5に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることは、上記2の(3-3)のイで述べたとおりであるから、本件発明8は甲第5号証(主引用例)に記載された発明、甲第2、6、14及び15号証に記載された発明並びに本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ 本件発明14と甲5発明2との対比・判断
(ア)対比
本件発明14と甲5発明2とを対比する。本件発明14のC晶は結晶であるといえるから、両者は
「2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶の製造方法」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点21:本件発明14が、「メタノールおよび水の混合溶媒に懸濁した2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸に、少量の2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸のC晶を存在させて加熱する」と特定しているのに対し、甲5発明2では、「2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸エチルをエタノール及びテトラヒドロフランに溶解させたのち1N水酸化ナトリウムを加え60℃で1時間加水分解し、溶媒を留去したのち1N塩酸で中和し、酢酸エチルで抽出し、有機層を濃縮し、得られた固体をエタノールより再結晶する」としている点
相違点22:本件発明14が、結晶をC晶と特定しているのに対し、甲5発明2では、そのような特定がない点
(イ)相違点の検討
相違点21、22について併せて検討する。
甲5発明2では再結晶に用いる溶媒がエタノールであるところ、本件化合物の再結晶に用いる溶媒について、甲2にはアセトンが、甲6にはエタノール/水=9:1が記載されており、種々の溶媒で再結晶化できることは公知である。したがって、(3-2)のウの(イ)で述べたのと同様の理由により、甲5に記載された発明において、本件化合物について、メタノール及び水の混合溶媒に懸濁した本件化合物に少量の本件化合物のC晶を存在させて加熱することで、本件化合物のC晶を製造することは当業者が容易に行うことである。
(ウ)効果について
上記2の(3-3)のアの(イ)の(iii)で述べたのと同様の理由により、本件発明14が当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するとはいえない。
(エ)まとめ
したがって、本件発明14は甲第5号証(主引用例)に記載された発明、甲第2、6、14及び15号証に記載された発明並びに本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(オ)被請求人の主張について
上記2の(3-3)のアの(エ)で述べたのと同様の理由により、被請求人の主張を採用することはできない。
(3-4)無効理由3の(3-4)について
ア 本件発明5と甲6発明1との対比・判断
(ア)対比
本件発明5と甲6発明1との一致点・相違点は、上記1の(3-4)のアの(ア)に記載のとおりである。
(イ)検討
本件発明5が甲6に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることは、上記2の(3-4)のアで述べたとおりであるから、本件発明5は甲第6号証(主引用例)に記載された発明、甲第2、5、14及び15号証に記載された発明並びに本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 本件発明10と甲6発明1との対比・判断
(ア)対比
本件発明10と甲6発明1との一致点・相違点は、上記1の(3-4)のイの(ア)に記載のとおりである。
(イ)検討
本件発明10が甲6に記載された発明及び本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることは、上記2の(3-4)のイで述べたとおりであるから、本件発明10は甲第6号証(主引用例)に記載された発明、甲第2、5、14及び15号証に記載された発明並びに本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ 本件発明16と甲6発明2との対比・判断
(ア)対比
本件発明16と甲6発明2とを対比する。本件発明16のG晶は結晶であるといえるから、両者は
「2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶の製造方法」である点で一致し、
相違点23:本件発明16が、「図1においてIII領域として示された、温度およびメタノール/水の混合溶媒組成によって画定される条件のもとで晶析する」としているのに対し、甲6発明2では、「2―(3―シアノ―4―イソブチルオキシフェニル)―4―メチル―5―チアゾールカルボン酸エチル(306mg)にTHF(3ml)を加え40℃に加温し溶解しエタノール(3ml)と1規定水酸化ナトリウム溶液(1.2ml)を加え60℃に加熱し60分間攪拌し、反応液を冷却後、濃縮し水(7ml)を加えた後1規定塩酸で中和し、生じた結晶を濾過、乾燥し粗結晶(290mg)を得、さらにこの化合物をエタノール/水=9:1より再結晶する」としている点
相違点24:本件発明16が結晶をG晶と特定しているのに対し、甲6発明2ではそのような特定がない点
(イ)相違点の検討
相違点23及び24について併せて検討する。
甲2、甲5、甲6、甲14及び甲15のいずれにも、図1においてIII領域として示された、温度およびメタノール/水の混合溶媒組成によって画定される条件のもとで晶析して本件化合物のG晶を製造することについて記載も示唆もされていない。すなわち、甲2にはアセトンを、甲5にはエタノールを、甲6にはエタノール/水=9:1を用いて本件化合物を再結晶することが記載されているが、いずれもメタノール/水の混合溶媒ではなく、特定の溶媒についてしか記載のない、甲2、甲5、甲6、甲14及び甲15のいずれにも、図1においてIII領域として示された、温度およびメタノール/水の混合溶媒組成によって画定される条件のもとで晶析して、本件化合物のG晶を製造することは甲2、甲5、甲6、甲14及び甲15のいずれにも記載も示唆もされておらず、それが本件優先日当時の技術常識であるともいえない。
したがって、相違点23及び24に係る技術的事項を採用し、本件発明16とすることは当業者が容易に行うことであるということはできない。
(ウ)まとめ
したがって、本件発明16は甲第6号証(主引用例)に記載された発明、甲第2、5、14及び15号証に記載された発明並びに本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
(エ)請求人の主張について
上記(3-1)のウの(エ)で述べたのと同様の理由により、請求人の主張を採用することはできない。
ウ 本件発明17と甲6発明2との対比・判断
(ア)対比
本件発明17と甲6発明2とを対比する。本件発明17のG晶は結晶であるといえるから、両者は
「2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶の製造方法」である点で一致し、
相違点25:本件発明17が、「2-プロパノールおよび水からなる混合溶媒から晶析する」としているのに対し、甲6発明2では、「2―(3―シアノ―4―イソブチルオキシフェニル)―4―メチル―5―チアゾールカルボン酸エチル(306mg)にTHF(3ml)を加え40℃に加温し溶解しエタノール(3ml)と1規定水酸化ナトリウム溶液(1.2ml)を加え60℃に加熱し60分間攪拌し、反応液を冷却後、濃縮し水(7ml)を加えた後1規定塩酸で中和し、生じた結晶を濾過、乾燥し粗結晶(290mg)を得、さらにこの化合物をエタノール/水=9:1より再結晶する」としている点
相違点26:本件発明17が結晶をG晶と特定しているのに対し、甲6発明2ではそのような特定がない点
(イ)相違点の検討
相違点25及び26について併せて検討する。
甲2にはアセトンを、甲5にはエタノールを、甲6にはエタノール/水=9:1を用いて本件化合物を再結晶することが記載されているが、いずれも2-プロパノール及び水からなる混合溶媒ではなく、特定の溶媒についてしか記載のない甲2、甲5、甲6、甲14及び甲15のいずれにも、2-プロパノールおよび水からなる混合溶媒から晶析して、本件化合物のG晶を製造することは甲2、甲5、甲6、甲14及び甲15のいずれにも記載も示唆もされておらず、それが本件優先日当時の技術常識であるともいえない。甲17及び甲18には、水とイソプロパノールとの混合溶媒から結晶を生成することが記載されているが、いずれも本件化合物とは異なる化合物についてであり、これら文献に本件化合物を2-プロパノール及び水からなる混合溶媒から晶析してG晶を得ることが示唆されているとはいえない。
したがって、相違点25及び26に係る技術的事項を採用し、本件発明17とすることは当業者が容易に行うことであるということはできない。
(ウ)まとめ
したがって、本件発明17は甲第6号証(主引用例)に記載された発明、甲第2、5、14及び15号証に記載された発明並びに本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
(エ)請求人の主張について
請求人は、有機化合物においては再結晶溶媒を種々変えて再結晶化を試みることは本件優先日当時における当業者の周知・慣用手段である旨、甲6には本件化合物の結晶の製造にあたって、エタノール/水=9:1を用いることが記載されており、エタノールと同族の2-プロパノールと水の混合物を用いることは、当業者がごく普通に試みる再結晶手法に過ぎない旨、甲9に、2種の溶媒を混合して極性を調製する技術が教示されている旨、2-プロパノール/水の混合物を再結晶溶媒として使用できることは当業者に周知されており、甲17及び甲18にも記載されている旨、結晶化温度や攪拌の有無といった条件の選択は、例えば甲8や甲9に説明された条件に基づいて適宜採用できる程度のことである旨などを主張する(審判請求書、56~64頁、審判事件弁駁書、35~43頁、口頭審理陳述要領書、9~18頁)。
たしかに、エタノールと2-プロパノールはいずれもアルコールではあるが、2-プロパノール及び水の混合溶媒が記載されている甲17及び甲18において結晶化される化合物は本件化合物とは異なる特定の化合物であるから、甲17及び甲18に2-プロパノール及び水の混合溶媒が記載されているからといって、2-プロパノール及び水からなる混合溶媒で晶析することで、本件化合物のG晶を製造することが示唆されているとはいえない。したがって、本件発明17が、甲第5号証(主引用例)に記載された発明、甲第2、6、14及び15号証に記載された発明並びに本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできず、上記請求人の主張を採用すすることはできない。
ウ 本件発明18と甲6発明2との対比・判断
(ア)対比
本件発明18と甲6発明2とを対比する。本件発明18のG晶は結晶であるといえるから、両者は
「2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶の製造方法」である点で一致し、
相違点27:本件発明18が、「2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸のD晶を、通常雰囲気下、自然乾燥する」としているのに対し、甲6発明2では、「2―(3―シアノ―4―イソブチルオキシフェニル)―4―メチル―5―チアゾールカルボン酸エチル(306mg)にTHF(3ml)を加え40℃に加温し溶解しエタノール(3ml)と1規定水酸化ナトリウム溶液(1.2ml)を加え60℃に加熱し60分間攪拌し、反応液を冷却後、濃縮し水(7ml)を加えた後1規定塩酸で中和し、生じた結晶を濾過、乾燥し粗結晶(290mg)を得、さらにこの化合物をエタノール/水=9:1より再結晶する」としている点
相違点28:本件発明18が結晶をG晶と特定しているのに対し、甲6発明2ではそのような特定がない点
(イ)相違点の検討
相違点27及び28について併せて検討する。
本件発明18で特定されるD晶について、本件特許明細書及び本件特許請求の範囲には、以下の記載がある(内容的に重複するものは省略した。)。
「【請求項15】
図1においてII領域として示された、温度およびメタノール/水の混合溶媒組成によって画定される条件のもとで晶析することを特徴とする、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸のD晶の製造方法。」(請求項15)
「反射角度2θで表わしてほぼ8.32°、9.68°、12.92°、16.06°、17.34°、19.38°、21.56°、24.06°、26.00°、30.06°、33.60°、および40.34°に特徴的なピークを有するX線粉末回折パターンを示す、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶多形体(以下、D晶ともいう)」(5頁4~8行)
「赤外分光分析において、1705cm-1付近に他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収を有する、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶多形体(D晶)」(5頁30~32行)
「【図面の簡単な説明】
・・・
図5は本発明のD晶のXRD図の一例である。
・・・
図10は本発明のD晶のIR図の一例である。」(6頁31~41行)
「D晶はメタノール和物であり、メタノール溶媒あるいはメタノール/水混合溶媒から再結晶することで得られた湿潤品を、低温で減圧乾燥することで得られる。この湿潤品を室温、常圧で自然乾燥するとG晶となるし、高温で減圧乾燥すると非晶質体となる。D晶を得るための乾燥条件として、温度は通常35℃以下、好ましくは25℃以下である。一方、高温で減圧乾燥して非晶質体を得る場合の加熱温度は通常50℃以上、さらに好ましくは65℃~100℃である。低い温度ではメタノールの放出に時間がかかり実際的ではないし、あまりの高温は目的物の分解などによる化学的純度が低下するので避けたい。減圧度に関しても、加熱温度との兼ね合いではあるが、通常25mmHg以下であればよい。好ましくは数mmHg以下である。上記湿潤品を得るための別の方法として、A晶取得のためのメタノール/水再沈殿法においてメタノール/水の比率が70/30よりメタノールが多い組成で水添加をやめ、そのまま冷却して長時間攪拌する方法が挙げられる。このとき長時間攪拌する温度はメタノールの組成によっても異なるが、メタノール/水の比率が70/30の場合は30℃以下に保持することで、目的とする湿潤品を得ることができる。」(8頁2~15行)
「D晶もB晶と同様に通常の湿度条件に保持するだけでG晶となり、各晶形をつくり分けるという点では有意義な晶形である。また、D晶は、それを加熱減圧乾燥することで非晶質体を製造することができる唯一の中間体でもある。」(8頁50行~9頁2行)
「[実施例3]
2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸のD晶の製造
2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の10gに80mLのメタノールを加え、65℃に加熱攪拌した。その後、結晶を採取しIRにてD晶に転移するのを確認するまで攪拌した。冷却の後、結晶を濾取し、25℃、2mmHgにて4時間減圧乾燥した。得られた結晶はXRD、IRのデータよりD晶とわかった。」(9頁26~33行)
「[実施例10]
安定性試験
A晶、B晶、C晶、D晶、およびG晶の安定性試験を以下の条件で行った。
保存条件1:40℃/75%相対湿度、密栓状態、3ヶ月および6ヶ月保存
保存条件2:40℃/75%相対湿度、開栓状態、1ヶ月および3ヶ月保存
その結果、B晶およびD晶は、保存条件1の3ヶ月時点および保存条件2の1ヶ月時点でG晶への変化が粉末X線回折および赤外分光分析により確認できた。この転移後のG晶は、保存条件1の6ヶ月および保存条件2の3ヶ月時点ではG晶の晶形を保持していることが確認された。
一方、A晶、C晶、およびG晶は保存条件1の6ヶ月時点および保存条件2の3ヶ月時点では他の結晶多形体への転移は確認できなかった。
なお、試験全期間を通して、各結晶多形体の総不純物量は、試験開始前と比較して増減が認められなかった。」(10頁25~37行)
また、図5及び図10として以下の記載がある。
「
」(図5)
「
」(図10)
これらの記載によれば、D晶はメタノール溶媒あるいはメタノール/水混合溶媒から再結晶することで得られた湿潤品を、低温で減圧乾燥することで得られるものであるところ、本件化合物についてこのような方法により結晶を得ることは、甲2、甲5、甲6、甲14及び甲15のいずれにも記載も示唆もされておらず、このような方法によりD晶が得られることは本件優先日当時の技術常識でもない。
してみると、本件化合物のD晶を原料とすることは当業者が容易になし得た事項であるとはいえないから、相違点27及び28に係る技術的事項を採用し、本件発明18とすることは当業者が容易に行うことであるということはできない。
(ウ)まとめ
したがって、本件発明18は甲第6号証(主引用例)に記載された発明、甲第2、5、14及び15号証に記載された発明並びに本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
(エ)請求人の主張について
請求人は、本件特許発明18は、種々ある製造方法の一つに過ぎず、特段の効果がある製法として記載されているわけではない旨、結晶多形体として「D晶」を得ることは容易である旨を主張するが(審判請求書、56~64頁、審判事件弁駁書、35~43頁)、上で述べたとおりであるから、請求人の主張を採用することはできない。
(4)無効理由3についてのまとめ
以上のとおりであるから、
(3-1)本件発明12は甲第2号証(主引用例)に記載された発明、甲第5、6、14及び15号証に記載された発明並びに本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできず、
(3-4)本件発明16~18は甲第6号証(主引用例)に記載された発明、甲第2、5、14及び15号証に記載された発明並びに本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
そして、
(3-1)本件発明1、6は甲第2号証(主引用例)に記載された発明、甲第5、6、14及び15号証に記載された発明並びに本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
(3-2)本件発明3、8及び14は甲第2号証(主引用例)に記載された発明、甲第5、6、14及び15号証に記載された発明並びに本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
(3-3)本件発明3、8及び14は甲第5号証(主引用例)に記載された発明、甲第2、6、14及び15号証に記載された発明並びに本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
(3-4)本件発明5及び10は甲第6号証(主引用例)に記載された発明、甲第2、5、14及び15号証に記載された発明並びに本件優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明12及び16~18は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとすることはできない。
よって、本件発明12及び16~18の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものでなく、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきものではない。
また、本件発明1、3、5、6、8、10及び14は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件発明1、3、5、6、8、10及び14の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
4 無効理由4について
無効理由4の概要は、C晶の製造に関して本件特許明細書の発明の詳細な説明には、溶媒媒介転移を用いて製造する旨の記載があるが、そもそも溶媒媒介転移に用いるためのC晶をどのようにして製造できるのかについて全く記載がなく、本件特許の優先日当時の技術水準及び技術常識によっても当業者はC晶を製造することができないので、本件特許明細書の発明の詳細な説明は実施可能要件を満足していないことになるから、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明3、8及び14の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。したがって、本件発明3、8及び14についての特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである、というものである。
(1)はじめに
以下の観点に立って、検討する。
物の発明における発明の「実施」とは、その物の生産、使用等をする行為をいう(特許法第2条第3項第1号)から、特許法第36条第4項の「その実施をすることができる」(実施可能要件)とは、その物を生産することができ、かつ、その物を使用できることである。したがって、物の発明については、明細書の発明の詳細な説明の記載又はその示唆及び出願当時の技術常識に基づき、当業者がその物を生産することができ、かつ、その物を使用できるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。
物を生産する方法の発明における発明の「実施」とは、その方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用等をする行為をいう(特許法第2条第3項第3号)から、特許法第36条第4項の「その実施をすることができる」(実施可能要件)とは、その方法により物を生産することができ、かつ、その物を使用できることである。したがって、物を生産する方法の発明については、明細書の発明の詳細な説明の記載又はその示唆及び出願当時の技術常識に基づき、当業者がその方法により物を生産することができ、かつ、その物を使用できるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。
(2)発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には以下の記載がある。
(ア)「本発明は、医薬品として有用な化合物を含有する医薬組成物を品質的に安定して供給するに際して重要となる、結晶多形体の制御技術に関する。さらに詳細には、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶多形体およびそれらの製造方法に関する。この化合物は、生体において尿酸の生合成を調節する作用を有し、高尿酸血症の治療薬として用いうる。」(3頁25~29行)
(イ)「すなわち本発明は、・・・反射角度2θで表わしてほぼ6.62°、10.82°、13.36°、15.52°、16.74°、17.40°、18.00°、18.70°、20.16°、20.62°、21.90°、23.50°、24.78°、25.18°、34.08°、36.72°、および38.04°に特徴的なピークを有するX線粉末回折パターンを示す、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶多形体(以下、C晶ともいう)・・・である。・・・
すなわち、本発明は、・・・赤外分光分析において、1703cm-1および1219cm-1付近に他の結晶多形体と識別できる特徴的吸収を有する、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の結晶多形体(C晶)・・・である。・・・
本発明はさらに、・・・
メタノールおよび水の混合溶媒に懸濁した2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸に、少量のC晶を存在させて加熱することを特徴とする、C晶の製造方法・・・である。」(4頁37行~6頁7行)
(ウ)「【図面の簡単な説明】
・・・
図4は本発明のC晶のXRD図の一例である。
・・・
図9は本発明のC晶のIR図の一例である。」(6頁31~40行)
(エ)「C晶は、溶媒媒介転移を用いて製造する。このとき用いる溶媒は、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸をあまり溶かさないが、少しは溶解度のあるものが好ましい。通常はメタノール/水の混合溶液が使用される。その組成は一般にはメタノール/水=80/20~50/50、好ましくはメタノール/水=70/30~60/40が用いられる。このような溶媒に溶解度以上の結晶を懸濁させ、これに少量のC晶を添加して加熱攪拌する。添加するC晶の量や加熱温度は、C晶への転移完了までの時間に影響し、一般にはC晶へ転移をさせたい2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の2重量%以下で十分であり、通常1重量%以下で行われる。C晶へ転移させたい2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の晶形は、この転移の結果に影響しない。加熱する温度は転移を完了させる時間に影響するが、最終的に転移が起これば問題はない。一般には50℃以上、通常60℃以上の温度が用いられる。」(7頁39行~8頁1行)
(オ)「C晶は、上記のI領域での通常の操作範囲では安定な結晶と位置づけられる。しかし、この晶形への溶媒媒介転移は、条件にもよるが通常数日を要し、このままではC晶を工業的に再現性よく製造することは難しい。このため、この転移を何らかの方法で加速し、短時間で転移を達成する必要があった。この転移を加速するためには、例えば結晶の懸濁状態においてC晶の種晶を加えて再加熱するなどの操作を必要とする。この晶形は通常の保管条件(例えば75%相対湿度、25℃など)では長期に保持され、かつ化学的にも安定である。」(8頁37~43行)
(カ)「以上述べたように、いずれの晶形も有用であるが、長期保存による晶形維持という意味では、A晶、C晶、およびG晶が有用である。なかでも、工業的優位性という観点からはA晶が好ましい。」(9頁3~5行)
(キ)「[実施例2]
2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸のC晶の製造
2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸の10gにメタノール/水=70/30を混合した液100mLを加え、65℃に加熱攪拌した。これに2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸のC晶を20mg加えた。その後、結晶を採取しIRにてC晶に転移するのを確認するまで攪拌した。冷却の後、結晶を濾取し、80℃、2mmHgにて4時間減圧乾燥した。得られた結晶はXRD、IRのデータよりC晶とわかった。」(9頁17~25行)
(ク)「[実施例10]
安定性試験
A晶、B晶、C晶、D晶、およびG晶の安定性試験を以下の条件で行った。
保存条件1:40℃/75%相対湿度、密栓状態、3ヶ月および6ヶ月保存
保存条件2:40℃/75%相対湿度、開栓状態、1ヶ月および3ヶ月保存
その結果、B晶およびD晶は、保存条件1の3ヶ月時点および保存条件2の1ヶ月時点でG晶への変化が粉末X線回折および赤外分光分析により確認できた。この転移後のG晶は、保存条件1の6ヶ月および保存条件2の3ヶ月時点ではG晶の晶形を保持していることが確認された。
一方、A晶、C晶、およびG晶は保存条件1の6ヶ月時点および保存条件2の3ヶ月時点では他の結晶多形体への転移は確認できなかった。
なお、試験全期間を通して、各結晶多形体の総不純物量は、試験開始前と比較して増減が認められなかった。」(10頁25~37行)
また、図4及び図9として以下の記載がある。
(ケ)「
」(図4)
(コ)「
」(図9)
(3)検討
ア 本件発明3について
本件発明3の結晶多形体の発明であるから物の発明であり、該結晶多形体はC晶である(上記(2)の(イ))。上述のとおり、C晶の製造方法について、発明の詳細な説明には、溶媒媒介転移を用いて製造すること、少量のC晶を添加すること、添加量は通常1重量%以下で行われることが記載されていると共に、C晶への溶媒媒介転移は、条件にもよるが通常数日を要し、このままではC晶を工業的に再現性よく製造することは難しいこと、このため、この転移を何らかの方法で加速し、短時間で転移を達成する必要があったこと、この転移を加速するためには、例えば結晶の懸濁状態においてC晶の種晶を加えて再加熱するなどの操作を必要とすることが記載されている(上記(2)の(エ)及び(オ))。また、C晶を製造した実施例である実施例2では、本件化合物の混合液にC晶を加えて結晶を得ている(上記(2)の(キ))。したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、C晶を添加することなくC晶を製造した具体的な記載はない。
しかし、発明の詳細な説明には、C晶の添加がなけれはC晶が製造できないとは記載されておらず、むしろ、「この晶形への溶媒媒介転移は、条件にもよるが通常数日を要し」との記載とそれに続く種晶を加える旨の記載(上記(2)の(オ))からは、C晶は、種晶を添加しなくても製造できると考えるのが自然であるから、上述の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、C晶の添加がなければC晶を製造することができないと理解するのではなく、上記(2)の(エ)と(オ)を併せ読めば、C晶の製造の際にC晶を添加するのは、工業的に再現性よく製造すること、転移を加速し、短時間で転移を達成することを目的とするものであり、時間をかけさえすればC晶を添加しなくともC晶を製造できると理解し、製造できるものといえる。実際、発明の詳細な説明の実施例2と同様の条件下、C晶を添加しなくともC晶を製造できることは、乙6の1及び乙6の2でも示されている。
そして、上述の発明の詳細な説明の記載からみて、C晶は、生体において尿酸の生合成を調節する作用を有し、高尿酸血症の治療薬として有用な化合物を含有する医薬組成物を供給することに使用できるものといえる。
したがって、物の発明である本件発明3については、明細書の発明の詳細な説明の記載又はその示唆及び出願当時の技術常識に基づき、当業者がその物を生産することができ、かつ、その物を使用できるといえるから、実施可能要件を満たすということができる。
イ 本件発明8について
本件発明8は結晶多形体の発明であって、本件発明3と同様に物の発明であり、C晶の発明である(上記(2)の(イ))。したがって、上記アで述べたのと同様の理由により、実施可能要件を満たすということができる。
ウ 本件発明14について
本件発明14はC晶の製造方法であるから、物を生産する方法の発明であるところ、上述の発明の詳細な説明の記載からみて、メタノールおよび水の混合溶媒に懸濁した本件化合物に、少量の本件化合物のC晶を存在させて加熱して、本件化合物のC晶を製造すること自体は発明の詳細な説明に記載されており(上記(2)の(エ)及び(キ))、また、上記アで述べたとおり、当業者はC晶を添加しなくともC晶を製造できると理解し、製造できるものといえるから、本件発明14において添加するためのC晶もまた、明細書の発明の詳細な説明の記載又はその示唆及び出願当時の技術常識に基づき、当業者が製造できるものといえる。したがって、本件発明4の方法によりC晶を生産することができるといえる。そして、C晶が使用できることは上記アで述べたとおりである。
したがって、物を生産する方法の発明である本件発明14については、明細書の発明の詳細な説明の記載又はその示唆及び出願当時の技術常識に基づき、当業者がその方法により物を生産することができ、かつ、その物を使用できるといえるから、本件発明14は実施可能要件を満たす。
(4)請求人の主張について
請求人は、上記(2)の(オ)の記載だけからは、C晶の種晶を全く使用せずに、何らかの任意の結晶形から溶媒媒介転移がゆっくりでも進行し、目的のC晶が得られると理解することはできない旨、上記(2)の(エ)に記載されている製造方法は、二代目以降のC晶の産業的な製造方法であって、初代のC晶(最初のC晶)の製造方法の説明ではない旨、初代のC晶の製造に関して、各種製造条件について、本件特許明細書には何ら具体的な説明がないので、当業者が溶媒媒介転移を続けていれば、いずれ必ずC晶が得られるという技術的事項を理解できるはずはない旨、甲19に初代結晶の製造方法に関してスラリー濃度などの具体的な開示がない場合には、実施可能要件を満たさないとの結論が明確に示されている旨、甲22及び甲23を提示して、いったんC晶が存在すると、室内の空中に浮遊するなどするC晶が種晶になるので、乙6の1及び乙6の2の実験結果はC晶の種晶を用いることなくC晶を溶媒媒介転移により製造できたことを示す実験結果であるとはいえない旨、乙6の1及び乙6の2の実験は攪拌温度等の実験の条件が実施例2とは異なる旨などを主張する(審判事件弁駁書、50~52頁、口頭陳述要領書、19~24頁、上申書3、6~9頁)。
しかしながら、上記(3)で述べたとおり、明細書の発明の詳細な説明の記載又はその示唆及び出願当時の技術常識に基づき、当業者はC晶を添加しなくともC晶を製造できると理解することができ、また、製造できるといえるから、最初のC晶を製造できるといえ、当該最初のC晶を製造する具体的な製造方法は上記(2)の(エ)、(オ)及び(キ)の記載から明らかであるといえる。また、甲19に係る特許の結晶と本件発明に係るC晶の製造方法は異なるものであって、その製造方法に関する発明の詳細な説明の記載も本件と甲19では異なるものであるから、同様に論ずることはできず、甲22及び甲23の記載は、単に種晶混入の可能性を述べたに過ぎず、乙6の1及び乙6の2の実験において種晶混入が起きているとすべき特段の事情も見当たらず、乙6の1又は乙6の2の実験条件は実施例2の製造条件と撹拌時間を除いて同様のものといえる。したがって、上記請求人の主張はいずれも採用できない。
(5)無効理由4についてのまとめ
したがって、本件発明3、8及び14について、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、これらの発明を当業者が実施できる程度の開示がないとはいえず、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明3、8及び14の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないとはいえず、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないとはいえない。
したがって、本件発明3、8及び14の特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものではない。
5 無効理由5について
無効理由5の概要は、C晶の製造に関して本件特許明細書の発明の詳細な説明には、溶媒媒介転移を用いて製造する旨の記載があるが、そもそも溶媒媒介転移に用いるためのC晶をどのようにして製造できるのかについて全く記載がなく、本件特許の優先日当時の技術水準及び技術常識によっても当業者はC晶を製造することができないので、当業者は安定性に優れたC晶を提供するという本件特許発明3及び8の課題並びに本件特許発明14の課題を解決することができると理解することができないため、本件発明3、8及び14は特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、したがって、本件発明3、8及び14についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである、というものである。
なお、請求人の主張する無効理由5は、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、溶媒媒介転移に用いるためのC晶をどのようにして製造できるのかについて全く記載がなく、本件特許の優先日当時の技術水準及び技術常識によっても当業者はC晶を製造することができないことにあることを根拠とする点で無効理由4と同様である。
(1)はじめに
以下の観点に立って、検討する。
特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。そして、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合することは、当該特許の特許権者が証明責任を負うと解するのが相当である。
(2)発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、上記4の(2)に示した事項に加え、以下の事項が記載されている。
(ア)「背景技術
ある化合物が2種以上の結晶状態を形成するとき、これらの異なる結晶状態は結晶多形とよばれる。結晶多形のそれぞれの結晶多形体(晶形)によって、その安定性が相違することがあることは一般的に知られている。例えば特開昭62-226980号公報には、プラゾシン塩酸塩の2種の結晶多形体はその安定性が異なり、長期保存安定性の結果に影響することが記載されている。また、特開昭64-71816号公報には、ブスピロン塩酸塩の異なる結晶多形体のうちの特定のものが、貯蔵や製造条件下での特定物理的性質の保持という意味で有利であることが記載されている。
このように、ある特定の結晶多形体が安定性などの点で優位性をもつことがあり、したがって、複数の結晶多形をもつ場合には、それらの結晶多形体おのおのを優先的に製造する技術を開発することが重要となる。ことに、医薬品として有用な化合物を含有する医薬組成物を製造するに際しては、結晶多形をコントロールし、優位性のある特定の結晶多形体のみを含有する医薬組成物とするのが適当である。
下記式で示される2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸は、国際公開WO92/09279号パンフレットに記載されているように、キサンチンオキシダーゼを阻害する作用を有することが知られている。
(式略)
・・・
結晶多形が意味をもつのは、その固体物性が、その物質の生理活性、物理化学的性質、あるいは工業的製造方法などに影響する場合である。例えば固形製剤として動物に使用する場合には、予め結晶多形の有無を確認するとともに、それらをつくり分ける技術を開発しておくことが重要となる。また、長期保存する場合にも、いかに安定にその晶形を維持できるかが問題となる。さらには、その晶形を工業的に容易に、かつ再現性よく製造する技術を開発することも重要な課題である。
発明の開示
したがって、本発明の目的は、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸について上述の問題を解決することである。すなわち、この化合物の結晶多形の存否を確認し、もし結晶多形が存在するなら、各々の結晶多形体をつくり分ける技術を提供することである。
本発明者らは鋭意研究した結果、2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸には、非晶質体や溶媒和物も含めて最低6種の結晶多形体が存在することが明らかになった。このうち溶媒和物については、2種(メタノール和物、水和物)が判明した。また、非晶質体を除いたすべての結晶多形体は、特徴的なX線粉末回折パターン(XRD)を示すことがわかった。それぞれの結晶多形体は特異的な2θ値を有する。2以上の結晶多形体が混在する場合でも、X線粉末回折によれば、およそ0.5%の含有率まで検出できる。
また、非晶質体を含むこれらすべての結晶多形体は、赤外分光分析(IR)においても、それぞれに特徴的な吸収パターンを示す。さらに、結晶多形体は各々異なった融点を示すこともあり、この場合、示差走査熱量法(DSC)によって分析することもできる。
また、本発明者らは、それらの結晶多形体の製造方法に関しても鋭意研究し、欲する晶形の2-(3-シアノ-4-イソブチルオキシフェニル)-4-メチル-5-チアゾールカルボン酸を得る技術を見出した。」(3頁30行~4頁36行)
(3)本件発明3、8及び14の課題について
上記4の(2)及び上記(2)で示した記載及び本件特許の出願時の技術常識からみて、本件発明3及び8の発明が解決しようとする課題は、本件化合物の安定な結晶多形体を提供することにあり、本件発明14の発明が解決しようとする課題は、C晶をつくり分ける技術を提供すること及びC晶を工業的に容易に、かつ再現性よく製造する技術を提供することにあると認められる。
(4)発明の詳細な説明に記載された発明と本件発明3、8及び14との対比・判断
ア 本件発明3について
本件発明3が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討する。
上記4の(3)のアで述べたとおり、本件発明3は実施可能要件を満たすものであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、溶媒媒介転移に用いるためのC晶をどのようにして製造できるのかについて全く記載がなく、本件特許の優先日当時の技術水準及び技術常識によっても当業者はC晶を製造することができないということはできない。また、上記4の(2)で示した本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、C晶は安定な結晶であるということができる。
してみると、本件発明3は、その発明が解決しようとする課題を解決することができると当業者が認識できる範囲のものである。
イ 本件発明8について
本件発明8は本件発明3と同様にC晶に係るものであり、その解決しようとする課題も本件発明3と同様であるから、上記アで述べたのと同様の理由により、本件発明8は、その発明が解決しようとする課題を解決することができると当業者が認識できる範囲のものである。
ウ 本件発明14について
上記アと同様にして、本件発明14について検討するに、上記4の(3)のウで述べたとおり、本件発明14は実施可能要件を満たすものであり、したがって、上記4の(2)で示した本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許の出願時の技術常識からみて、C晶をつくり分けること及びC晶を工業的に容易に、かつ再現性よく製造することができるといえる。
してみると、本件発明14は、その発明が解決しようとする課題を解決することができると当業者が認識できる範囲のものである。
(5)請求人の主張について
請求人は、上記4の(4)で述べたのと同様の主張をしているが、上記4の(4)で述べたのと同様の理由により該主張を採用できない。
(6)無効理由5についてのまとめ
本件発明3、8及び14について、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、これらの発明が解決しようとする課題を解決できることを当業者が理解できるように記載されていないとはいえず、本件発明3、8及び14は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないとはいえず、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものではないとはいえない。
したがって、本件発明3、8及び14の特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないか、同法第123条第1項第4号に該当せず、無効とすべきものではない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本件発明3、5、8及び10に係る発明についての特許は、無効理由2及び3により無効とすべきものであり、本件発明1、6及び14の特許は、無効理由3により無効とすべきものである。また、本件発明12、16、17及び18の特許は、請求人が示したいずれの理由及び証拠によっても無効とすべきものではない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、その11分の4を請求人の負担とし、11分の7を被請求人の負担とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2016-800037