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特許無効審判

2020-800029

重症心不全の治療方法およびその薬剤

審判番号
2020-800029
法域
特許
審判種別
無効審判(無効の審決)
出願番号
特願2006-502681
登録番号
4771937
請求日
2020年03月16日
審決日
2022年07月05日
公報発行日
2024年07月26日
結論
請求成立(無効)
当事者
  • 【請求人】トーアエイヨー 株式会社
  • 【請求人代理人】牧野 知彦
  • 【請求人代理人】岡田 健太郎
  • 【参加人】ニプロ 株式会社
  • 【参加人代理人】北村 明弘
  • 【参加人代理人】祐成 篤哉
  • 【参加人代理人】来間 清志
  • 【参加人】東和薬品 株式会社
  • 【参加人代理人】早坂 巧
  • 【被請求人】大塚製薬 株式会社
  • 【被請求人代理人】重冨 貴光
  • 【被請求人代理人】古庄 俊哉
  • 【被請求人代理人】黒田 佑輝
  • 【被請求人代理人】石津 真二
  • 【被請求人代理人】杉野 文香
  • 【被請求人代理人】渡辺 洋
審判長/審判官
  • 審判長 原田 隆興
  • 審判官 前田 佳与子
  • 審判官 藤原 浩子
分類
P1113.121-ZAA(A61K) / P1113.536-ZAA(A61K) / P1113.537-ZAA(A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法169条2項民事訴訟法61条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第134条の2第9項、特許法第134条の2第1項、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第36条第4項第1号、特許法第148条第1項、特許法第134条の2第6項、特許法第131条の2第2項、特許法第131条の2第1項、特許法第36条第6項第1号、特許法第169条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

上記当事者間の特許第4771937号発明「重症心不全の治療方法およびその薬剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

結 論 特許第4771937号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3、11〕、〔4~6、12〕、〔7、14〕、〔8~10、13〕について訂正することを認める。 特許第4771937号の請求項1~14に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用及び参加により生じた費用は、被請求人の負担とする。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第4771937号(以下「本件特許」という。)の請求項1~13に係る発明についての出願である特願2006-502681号(以下「本件特許出願」という。)は、2004年(平成16年)2月23日(パリ条約による優先権主張 2003年2月24日 US(アメリカ合衆国))を国際出願日とするものであり、平成23年7月1日に特許権の設定登録がされたものである。 そして、令和2年3月16日に、トーアエイヨー株式会社(以下「請求人」という。)から、本件特許の特許権者である大塚製薬株式会社(以下「被請求人」という。)に対し、本件特許の請求項1~13に係る発明の特許を無効にすることを求める旨の本件特許無効審判請求がされた。 以後の主な手続の経緯は以下のとおりである。 令和2年 3月16日 審判請求書の提出(請求人) 同年 8月20日 参加申請書の提出 (ニプロ株式会社が、特許法第148条第1項の規定により、請求人側に参加することを申請した。) 同年 9月 3日 訂正請求書の提出(被請求人) 同年 同月 同日 答弁書の提出(被請求人)(以下「第1答弁書」という。) 同年10月 6日付け 参加許否の決定 (ニプロ株式会社の参加を許可する決定である。以下、参加人 ニプロ株式会社を「参加人ニプロ」という。) 同年10月15日 参加申請書の提出 (東和薬品株式会社が、特許法第148条第1項の規定により、請求人側に参加することを申請した。) 同年11月18日 弁駁書の提出(請求人) 同年11月25日付け 参加許否の決定 (東和薬品株式会社の参加を許可する決定である。以下、参加人 東和薬品株式会社を「参加人東和薬品」という。) 同年12月24日付け 審理事項通知書 令和3年 2月15日 口頭審理陳述要領書の提出(参加人東和薬品) 同年 2月16日 口頭審理陳述要領書の提出(請求人) 同年 同月 同日 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人) 同年 3月 9日 口頭審理に代えた第1回口頭審尋(テレビ会議で非公開) 同年 3月15日 上申書(第1回口頭審尋で使用した説明資料)の提出(参加人東和薬品) 同年 同月 同日 上申書(第1回口頭審尋で使用した説明資料) の提出(被請求人) 同年 3月16日付け 補正許否の決定 (令和2年2月15日提出の口頭審理陳述要領書における、参加人東和薬品の主張に対する決定である。) 同年 3月30日 上申書の提出(請求人) 同年 3月30日 上申書の提出(被請求人) 同年 6月 9日付け 審決の予告 同年 8月17日 訂正請求書及び上申書の提出(被請求人) 同年10月13日 弁駁書の提出(請求人) 同年 同月14日 弁駁書の提出(参加人東和薬品) 同年12月16日 答弁書の提出(被請求人) (被請求人が、令和3年10月13日提出の弁駁書(請求人)に対する反論を記載したもの。以下「第2答弁書(1)」という。) 同年12月16日 答弁書の提出(被請求人) (被請求人が、令和3年10月14日提出の弁駁書(参加人東和薬品)に対する反論を記載したもの。以下「第2答弁書(2)」という。) 令和3年8月17日提出の訂正請求書による訂正の請求がされたため、令和2年9月3日提出の訂正請求書による訂正の請求は、特許法第134条の2第6項により、取り下げられたものとみなす。 なお、令和3年6月22日に、Meiji Seikaファルマ株式会社が特許法第148条第1項の規定により請求人側に参加することを申請し、同年8月20日付けで同社の参加を許可する決定がなされたが、同社は令和4月4月15日に参加を取り下げた(以下、同社を「元参加人Meiji」という。)。元参加人Meijiに関する経緯は以下のとおりである。 令和3年10月13日 弁駁書の提出(元参加人Meiji) 同年12月16日 答弁書の提出(被請求人) (被請求人が、令和3年10月13日提出の弁駁書(元参加人Meiji)に対する反論を記載したもの。以下「第2答弁書(3)」という。) 令和4年 1年21日 上申書の提出(元参加人Meiji) (元参加人Meijiが、第2答弁書(3)に対する反論を記載したもの。) 同年 2月16日 上申書の提出(被請求人) (被請求人が、令和4年1年21日提出の上申書(元参加人Meiji)に対する反論を記載したもの。) 第2 訂正請求について 1 訂正の趣旨 令和3年8月17日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の趣旨は、特許第4771937号の特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~14について訂正することを求めるというものである。 2 訂正の内容 本件訂正の内容は、以下のとおりのものである。なお、当審により、訂正箇所に下線を付した。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「該活性成分の1日当たりの用量が0.6mg/kg未満の範囲であることを特徴とする」と記載されているのを、「該活性成分の1日当たりの用量が0.371mg/kg以下の範囲であることを特徴とする」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2及び11も同様に訂正する。)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に「該活性成分の1日当たりの用量が0.1mg/kgから0.6mg/kg未満の範囲であることを特徴とする」と記載されているのを、「該活性成分の1日当たりの用量が0.1mg/kgから0.371mg/kg以下の範囲であることを特徴とする」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項11も同様に訂正する。)。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に「該活性成分の用量が1日当たり15~45mg/個体の範囲であることを特徴とする」と記載されているのを、「該活性成分の用量が1日当たり15~30mg/個体の範囲であることを特徴とする」に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項11も同様に訂正する。)。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4に「該活性成分の1日当たりの用量が0.6mg/kg未満の範囲であることを特徴とする」と記載されているのを、「該活性成分の1日当たりの用量が0.371mg/kg以下の範囲であることを特徴とする」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5、6及び12も同様に訂正する。)。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項6に「該活性成分の1日当たりの用量が0.1mg/kgから0.6mg/kg未満の範囲であることを特徴とする」と記載されているのを、「該活性成分の1日当たりの用量が0.1mg/kgから0.371mg/kg以下の範囲であることを特徴とする」に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項12も同様に訂正する。)。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項7に「該活性成分の用量が1日当たり15~45mg/個体の範囲であることを特徴とする」と記載されているのを、「該活性成分の用量が1日当たり15~30mg/個体の範囲であることを特徴とする」に訂正する(請求項7の記載を引用する請求項12も同様に訂正する。)。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項8に「活性成分が0.6mg/kg未満の範囲の1日投与量単位で含まれる」と記載されているのを、「活性成分が0.371mg/kg以下の範囲の1日投与量単位で含まれる」に訂正する(請求項8の記載を引用する請求項9及び13も同様に訂正する。)。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項9に「該活性成分が0.1mg/kgから0.6mg/kg未満の範囲の1日投与量単位で薬剤に含まれる」と記載されているのを、「該活性成分が0.1mg/kgから0.371mg/kg以下の範囲の1日投与量単位で薬剤に含まれる」に訂正する(請求項9の記載を引用する請求項13も同様に訂正する。)。 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項10に「活性成分が15~45mg/個体の範囲の1日投与量単位で含まれる」と記載されているのを、「活性成分が15~30mg/個体の範囲の1日投与量単位で含まれる」に訂正する(請求項10の記載を引用する請求項13も同様に訂正する。)。 (10)訂正事項10 訂正事項1に加え、特許請求の範囲の請求項1に「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全の治療薬」と記載されているのを、「急性心不全または慢性心不全の急性増悪期にあるニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの患者に最適の治療と組み合わされて入院下で経口にて投与開始される重症心不全の治療薬」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2及び11も同様に訂正する。)。 (11)訂正事項11 訂正事項2に加え、特許請求の範囲の請求項2に「範囲であることを特徴とする」と記載されているのを、「範囲であり、予後を改善することを特徴とする」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項11も同様に訂正する。)。 (12)訂正事項12 訂正事項3に加え、特許請求の範囲の請求項3に「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全の治療薬」と記載されているのを、「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの患者に最適の治療と組み合わされて経口にて投与される重症心不全の治療薬」に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項11も同様に訂正する。)。 (13)訂正事項13 訂正事項4に加え、特許請求の範囲の請求項4に「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全の治療用医薬組成物」と記載されているのを、「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの患者に最適の治療と組み合わされて入院下で経口にて投与開始される重症心不全の治療用医薬組成物」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5、6及び12も同様に訂正する。)。 (14)訂正事項14 特許請求の範囲の請求項5に「該活性成分が、該組成物の重量に基づいて1~70重量%の量で含まれる」と記載されているのを、「該活性成分が、該組成物の重量に基づいて1~70重量%の量で含まれ、予後を改善することを特徴とする」に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項12も同様に訂正する。)。 (15)訂正事項15 訂正事項6に加え、特許請求の範囲の請求項7に「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全の治療用医薬組成物」と記載されているのを、「急性心不全または慢性心不全の急性増悪期にあるニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの患者に最適の治療と組み合わされて入院下で経口にて投与開始される重症心不全の治療用医薬組成物」に訂正する(請求項7の記載を引用する請求項12も同様に訂正する。)。 (16)訂正事項16 訂正事項7に加え、特許請求の範囲の請求項8に「1日投与量単位で含まれるニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全の治療用薬剤」と記載されているのを、「1日投与量単位で含まれる、急性心不全または慢性心不全の急性増悪期にあるニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全の患者に最適の治療と組み合わされて経口にて投与される治療用薬剤」に訂正する(請求項8の記載を引用する請求項9及び13も同様に訂正する。)。 (17)訂正事項17 訂正事項8に加え、特許請求の範囲の請求項9に「1日投与量単位で薬剤に含まれる」と記載されているのを、「1日投与量単位で薬剤に含まれる、予後を改善することを特徴とする」に訂正する(請求項9の記載を引用する請求項13も同様に訂正する。)。 (18)訂正事項18 訂正事項9に加え、特許請求の範囲の請求項10に「1日投与量単位で含まれるニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全の」と記載されているのを、「1日投与量単位で含まれる、急性心不全または慢性心不全の急性増悪期にあるニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全の患者に最適の治療と組み合わされて経口にて投与される」に訂正する(請求項10の記載を引用する請求項13も同様に訂正する。)。 (19)訂正事項19 (訂正事項19-1) 特許請求の範囲の請求項12に「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全において浮腫を改善することを特徴とする請求項4~7のいずれかの医薬組成物」とあるうち、請求項4~6を引用するものについて「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全において浮腫を改善することを特徴とする請求項4~6のいずれかの医薬組成物」に訂正する。 (訂正事項19-2) 特許請求の範囲の請求項12に、「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全において浮腫を改善することを特徴とする請求項4~7のいずれかの医薬組成物」とあるうち、請求項7を引用するものについて「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全において浮腫を改善するとともに予後を改善することを特徴とする請求項7の医薬組成物」に訂正し、新たに請求項14とする。 なお、上記訂正事項1~9の内容は、特許法第134条の2第6項により取り下げられたものとみなす令和2年9月3日提出の訂正請求書(上記第1)において請求した訂正事項1~9の内容と、同一である。 また、本件訂正における訂正前後の請求項の対応は、以下の表のとおりである。 [図:0001411599000001.jpg] (20)別の訂正単位とする求め 訂正後の請求項4~7、12及び14について、当該請求項についての訂正が認められる場合には、請求項4~6及び12、請求項7及び14をそれぞれ一群の請求項とし、別の訂正単位として扱うことを求める。 3 訂正の適否の判断 (1)訂正事項1、2、4、5、7及び8について 訂正事項1、2、4、5、7及び8は、それぞれ訂正前の請求項1、2、4、6、8及び9に係る発明における活性成分の1日当たりの用量の範囲を「0.6mg/kg未満の範囲」から「0.371mg/kg以下の範囲」に訂正するものであるところ、当該訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項において準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 ここで、本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下、まとめて「本件明細書等」という。)には、実験例(【0050】~【0052】表1、以下「本件実験例」という。)で用いられた上記活性成分の用量について、「試験における投与量を1日当たり体重1kg当たりの用量に換算したところ、30mg処置群で0.371±0.096mg/kg(77例)」及び「本願発明化合物は、投与量を1日体重1kg当たり0.6mg以下にコントロールすることで、重症心不全の優れた治療効果を示すことが明らかになった。」(【0051】)という記載がある。 そして、上記訂正の「0.371mg/kg」という用量は、本件明細書等に記載の「30mg処置群」の患者に対する用量の平均値であり、上記訂正の「0.371mg/kg以下の範囲」という用量の範囲は、本件明細書等に記載の「1日体重1kg当たり0.6mg以下」という用量の範囲に含まれているので、上記訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項において準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 (2)訂正事項3、6及び9について 訂正事項3、6及び9は、それぞれ訂正前の請求項3、7及び10に係る発明における活性成分の1日当たりの用量の範囲を「15~45mg/個体」から「15~30mg/個体」に訂正するものであるところ、当該訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項において準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 ここで、本件明細書等には、実験例で用いられた上記活性成分の用量について、「試験における投与量を1日当たり体重1kg当たりの用量に換算したところ、30mg処置群で0.371±0.096mg/kg(77例)」及び「本願発明化合物は、投与量を1日体重1kg当たり0.6mg以下にコントロールすることで、重症心不全の優れた治療効果を示すことが明らかになった。」(【0051】)という記載がある。 そして、上記訂正の「30mg/個体」は、本件明細書等に記載の「30mg処置群」の患者に対する用量であり、「30mg処置群」の患者に対する「0.371±0.096mg/kg」という用量は、本件明細書等に記載の「1日体重1kg当たり0.6mg以下」という用量範囲に含まれているので、上記訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項において準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 (3)訂正事項10、15、16及び18について ア 訂正事項10は、請求項1の「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全の治療薬」を「急性心不全または慢性心不全の急性増悪期にあるニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの患者に最適の治療と組み合わされて入院下で経口にて投与開始される重症心不全の治療薬」に訂正するものであり、 訂正事項15は、請求項7の「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全の治療用医薬組成物」を「急性心不全または慢性心不全の急性増悪期にあるニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの患者に最適の治療と組み合わされて入院下で経口にて投与開始される重症心不全の治療用医薬組成物」に訂正するものであり、 訂正事項16は、請求項8の「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全の治療用薬剤を製造するための」を「急性心不全または慢性心不全の急性増悪期にあるニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全の患者に最適の治療と組み合わされて経口にて投与される治療用薬剤を製造するための」に訂正するものである。 訂正事項18は、請求項10の「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全の治療用薬剤を製造するための」を「急性心不全または慢性心不全の急性増悪期にあるニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全の患者に最適の治療と組み合わされて経口にて投与される治療用薬剤を製造するための」に訂正するものである。 したがって、訂正事項10、15、16及び18は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項において準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 イ「急性心不全または慢性心不全の急性増悪期にある」ことについて 本件明細書等には、請求項1、7、8及び10に係る「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの患者」が「急性心不全または慢性心不全の急性増悪期にある」ことについて、「本発明は重症心不全が急性心不全または慢性心不全の急性増悪期である、上記[1]の重症心不全の治療方法を提供する。」(【0018】、「明細書および特許請求の範囲にある用語「重症心不全」とは、急性心不全または慢性心不全の急性増悪期で、例えば、ニューヨーク心臓協会の分類で重症度IIIおよびIVを意味する」(【0035】)という記載がある。 さらに、本件実験例では、被験者について「重症心不全患者(すなわち、急性心不全あるいは慢性心不全の急性憎悪期の患者、ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IIIおよびIV)」(【0050】)と記載されている。 よって、本件明細書等には、「急性心不全または慢性心不全の急性増悪期にある」ことについて、具体的に記載されている。 ウ「患者に最適の治療と組み合わされ」ることについて 本件明細書等には、請求項1に係る治療薬、請求項7に係る治療用医薬組成物、請求項8に係る治療用薬剤及び請求項10に係る治療用薬剤が「最適の治療と組み合わされ」ることについて、「10日までは急性の入院患者での試験投薬、続く7週間では外来での投薬で、一般に採用されている最適の現治療(研究者によって決定する)と組み合わせた3つの(A)の用量またはプラセボの効果を評価」(【0052】表1の「目的」)という記載がされており、上記「この最適の現治療(研究者によって決定する)」について「すべての患者は、利尿薬、ジゴキシン、ACE阻害剤、ヒドララジン、硝酸エステル系、βブロッカーを含み得る通常の治療を受け続けた。」(【0052】表1の「試験設計」の最終文)という記載によって説明されている。 したがって、これらの記載を参酌した当業者は、「患者に最適の治療」とは、研究者が当該患者に最適なものとして決定し一般に採用されている通常の治療を意味することを、理解できるといえる。 よって、本件明細書等には、「患者に最適の治療と組み合わされ」ることが具体的に記載されている。 エ「入院下で経口にて投与開始される」又は「経口にて投与される」ことについて 本件明細書等には、請求項1に係る治療薬、請求項7に係る治療用医薬組成物、請求項8に係る治療用薬剤及び請求項10に係る治療用薬剤が「入院下で経口にて投与開始される」又は「経口にて投与される」ことについて、「本発明の薬物の適当な投与方法は、様々な製剤の形体、患者の年齢、性別および他の条件、疾患の重篤さなどに応じて決定され得る。例えば、錠剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤およびカプセル剤は経口投与される。」(【0044】)及び「錠剤を経口投与するために錠剤芯部を数回バニシングする。」(【0048】)という記載がある。 さらに、本件実験例の患者は「悪化心不全で入院している患者」であり、当該患者に対する投与様式は「経口錠剤」である(【0052】表1の「被験者群」及び「試験製品、用量、投与様式」)。 よって、本件明細書等には、「入院下で経口にて投与開始される」又は「経口にて投与される」ことが具体的に記載されている。 オ 上記イ~エから、訂正事項10、15、16及び18は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項において準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 (4)訂正事項12及び13について 訂正事項12は、請求項3の「重症度IVの重症心不全の治療薬」を「重症度IVの患者に最適の治療と組み合わされて経口にて投与される重症心不全の治療薬」に訂正するものであり、訂正事項13は、請求項4の「重症度IVの重症心不全の治療薬」を「重症度IVの患者に最適の治療と組み合わされて入院下で経口にて投与開始される重症心不全の治療薬」に訂正するものであるところ、これらの訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項において準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 そして、本件明細書等に、「患者に最適の治療と組み合わされ」ることについての記載があることは上記(3)ウで説示したとおりであり、「入院下で経口にて投与開始される」又は「経口にて投与される」ことについての記載があることは上記(3)エで説示したとおりである。 したがって、訂正事項10、15及び18は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項において準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 (5)訂正事項11、14及び17について ア 訂正事項11は、請求項2の「の範囲である」を「の範囲であり、予後を改善する」に訂正するものであり、訂正事項14は、請求項5の「の量で含まれる」を「の量で含まれ、予後を改善することを特徴とする」に訂正するものであり、訂正事項17は、請求項9の「で薬剤に含まれる」を「で薬剤に含まれる、予後を改善することを特徴とする」に訂正するものであるところ、これらの訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項において準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 イ「予後を改善する」ことについて (ア)本件明細書等には、「予後を改善すること」について、「心不全の患者は生存に関しての予後が悪い。心疾患のすべての患者のデータを含むアメリカのフラミンガム研究での統計によれば、心不全を起こしてからの50%生存率は約4年である(Kannel,WB,etal.,1982,Mckee,PA,etal.,1982)。また、ニューヨーク心臓協会の分類において、重症度Iの疾患の患者は良好な予後を示すが、重症度IVの患者では、50%生存率が1年以内、重症度IIまたはIIIの患者では、50%生存率が4年以内を示す。従って、重症心不全と診断された患者の予後は悪い(Integrated Handbook of Internal Medicine,Volume 30,1990,Nakayma Shoten)。」(【0009】)、及び、「したがって、本発明の方法によれば、予後が悪い重症心不全の患者においてでさえ、その予後が十分改善され、故に本発明の方法は重症心不全の治療に有用である。」(【0037】)と記載されている。 (イ)また、本件明細書等には、本件実験例の評価項目として、「外来患者の主要評価項目:心不全の悪化は以下のいずれかで定義された:1.入院、2.CHFのための、救急治療部、外来診療、または心不全の増加療法または新たな治療のいずれかの要求に関連する観察ユニットへの臨時の受診、3.死亡。悪化する心不全のための投薬中止の割合、および時間と投薬中止について解析した。」(【0052】、【0053】の表1(続き)の「評価項目」)と記載され、本件実験例の結果について、「同試験において、入院期間から外来で投与を終了するまでの全期間の死亡率が、投与開始から死亡事象発現までの時間を考慮した解析の結果(Log-Rankテスト)、30mg投与群で対照群に比べて有意に低かった(表5)。」(【0051】の「(2)結果」、【0057】の「表5.」)と記載されている。 そして、上記(ア)は予後を「生存率」で評価しており、「生存率」と「死亡率」が関連していることからすれば、本件実験例では、重症度III及びIVの患者(すなわち重症度IVの患者を含む)に対する治療による「予後」を「死亡率」で評価しており、「30mg投与群で対照群に比べて有意に低かった(表5)」こと、すなわち30mg投与群では対照群に比べて「死亡率」が低下したことは、「予後が改善」されたことを意味するといえる。 (ウ)上記(ア)及び(イ)から、本件明細書等において「予後を改善する」ことについて記載された事項を参酌した当業者は、「予後を改善する」ことは、「死亡率」を低下させることを意味するものであることを、理解できるといえる。 よって、本件明細書等には、「予後を改善する」ことが具体的に記載されている。 ウ 上記イから、訂正事項11、14及び17は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項において準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 (6)訂正事項19-1について 訂正事項19-1は、請求項4~7のいずれかを引用していた訂正前の請求項12において、請求項7の引用を解消して、訂正後の請求項12では請求項4~6のいずれかを引用するように訂正するものである。 そして、訂正事項19-1は、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとする」もの、及び特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないので、特許法第134条の2第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (7)訂正事項19-2について 訂正事項19-2は、訂正前の請求項7を引用する訂正前の請求項12を、「浮腫を改善するとともに予後を改善する」という特定を含む、訂正後の新たな請求項14とするものである。 ここで、訂正前の請求項7を引用する訂正前の請求項12には「浮腫を改善する」ことが既に特定されていたので、訂正後の新たな請求項14における「浮腫を改善するとともに予後を改善することを特徴とする」という特定は、訂正前の請求項7を引用する訂正前の請求項12において、さらに「予後を改善する」ことを特定するものである。 そして、上記(5)イで説示したとおり、本件明細書等には、「予後を改善する」ことが具体的に記載されている。 よって、訂正事項19-2は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 なお、訂正前の請求項2及び11はそれぞれ訂正前の請求項1を引用しており、訂正前の請求項11は訂正前の請求項1~3のいずれかを引用している。訂正前の請求項5、6及び12はそれぞれ訂正前の請求項4を引用しており、訂正前の請求項12は訂正前の請求項4~7のいずれかを引用している。訂正前の請求項9及び13はそれぞれ訂正前の請求項8を引用しており、訂正前の請求項13は訂正前の請求項8~10のいずれかを引用している。 よって、本件訂正は、訂正前の一群の請求項〔1~3、11〕、〔4~7、12〕、〔8~10、13〕に対して請求されたものである。 (8)独立特許要件について 本件特許無効審判事件では、訂正前の全ての請求項が無効審判の請求の対象とされているので、訂正事項1~19に関して、特許法第134条の2第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(独立特許要件)は課せられない。 (9)請求人及び参加人(以下「請求人ら」ともいう。)による、訂正要件違反の主張 ア 「患者に最適の治療と組み合わせて」という特定について 請求人は、本件訂正による訂正事項10等における「最適の治療」とは、いかなる観点において「最適」であるのかが不明確であるし、その具体的な治療方法も不明確であり、技術常識を参酌しても本件明細書の記載からは「最適の治療」の意味が不明確であるから、「患者に最適の治療と組み合わせて」という特定は、本件明細書等に記載された事項の範囲内のものであるとはいえない、という趣旨の主張をしている(令和3年10月13日提出の弁駁書p.5~6、p.11~12)。 そこで、上記主張について検討する。 本件明細書等に、請求項1に係る治療薬、請求項7に係る治療用医薬組成物及び請求項10に係る治療用薬剤が「最適の治療と組み合わされ」ることについての記載があることは、上記(3)ウで説示したとおりであり、「患者に最適の治療と組み合わせて」という特定は本件明細書等に記載された事項の範囲内のものである。 よって、請求人による上記主張は採用できない。 イ 「予後を改善する」という特定について 請求人は、訂正事項11等における「予後を改善する」という特定は、何らかの構成要件として記載されているのか、単なる効果を記載しているのか不明であるし、当業者は、本件実験例で示された結果から「予後の改善」が見られたとは解釈しないのであるから、「予後を改善する」という特定を含む訂正は「新規事項の追加」に該当し、また「特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正」に該当する、という趣旨の主張をしている(令和3年10月13日提出の弁駁書p.6~10)。そして、参加人東和薬品も同様の趣旨の主張をしている(令和3年10月14日提出の弁駁書p.6~10)。 そこで、上記主張について検討する。 本件明細書等における「予後を改善する」ことに関する記載を参酌した当業者が、「予後を改善する」ことは、死亡率を低下させることを意味することを理解できるといえることは、上記(5)イ(イ)で説示したとおりである。 そして、「予後を改善する」という特定は、各請求項に係る発明により奏される効果を説明する記載であると解されるところ、各請求項に係る発明により、重症度III及びIVの患者(すなわち重症度IVの患者を含む)に対して「死亡率」の低下が見られたことが本件実験例に記載されていることは、上記(5)イ(イ)で説示したとおりである。 よって、「予後を改善する」という特定は本件明細書等に記載された事項の範囲内のものであるから、請求人らによる上記主張は採用できない。 ウ 「急性心不全」という特定について 参加人東和薬品は、訂正事項10等における「急性心不全」は慢性心不全の急性憎悪期以外にも、心筋梗塞や心筋炎等、他の種々の原因で引き起こされるものも含まれており、それぞれの病態に対応した治療が必要で、利尿薬の投与が適するとは限らないから、「急性心不全」という特定は、本件明細書等に記載された事項の範囲内のものではないという趣旨の主張をしている(令和3年10月14日提出の弁駁書p.4~6)。 そこで、上記主張について検討する。 本件明細書等には、請求項10、15及び18に係る「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの患者」が「急性心不全または慢性心不全の急性増悪期にある」ことについての記載があることは、上記(3)イで説示したとおりであり、これらの記載を参酌した当業者は、利尿薬の投与による、「急性心不全」の患者に対する治療効果について理解できるといえる。 よって、「急性心不全」という特定は本件明細書等に記載された事項の範囲内のものであるから、参加人東和薬品による上記主張は採用できない。 (10)まとめ 以上のとおりであるから、本件特許の特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3、11〕、〔4~6、12〕、〔7、14〕、〔8~10、13〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記「第2」のとおり本件訂正は認められるので、本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲の請求項1~14に係る発明は、令和3年8月17日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認められる。 「【請求項1】 5-ヒドロキシ-7-クロロ-1-[2-メチル-4-(2-メチルベンゾイルアミノ)ベンゾイル]-2,3,4,5-テトラヒドロ-1H-ベンゾアゼピンまたはその医薬的に許容される塩を活性成分として含み、該活性成分の1日当たりの用量が0.371mg/kg以下の範囲であることを特徴とする、急性心不全または慢性心不全の急性増悪期にあるニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの患者に最適の治療と組み合わされて入院下で経口にて投与開始される重症心不全の治療薬。 【請求項2】 該活性成分の1日当たりの用量が0.1mg/kgから0.371mg/kg以下の範囲であり、予後を改善することを特徴とする、請求項1の治療薬。 【請求項3】 5-ヒドロキシ-7-クロロ-1-[2-メチル-4-(2-メチルベンゾイルアミノ)ベンゾイル]-2,3,4,5-テトラヒドロ-1H-ベンゾアゼピンまたはその医薬的に許容される塩を活性成分として含み、該活性成分の用量が1日当たり15~30mg/個体の範囲であることを特徴とする、ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの患者に最適の治療と組み合わされて経口にて投与される重症心不全の治療薬。 【請求項4】 活性成分の5-ヒドロキシ-7-クロロ-1-[2-メチル-4-(2-メチルベンゾイルアミノ)ベンゾイル]-2,3,4,5-テトラヒドロ-1H-ベンゾアゼピンまたはその医薬的に許容される塩、および通常の医薬的に許容される担体または希釈剤を含み、該活性成分の1日当たりの用量が0.371mg/kg以下の範囲であることを特徴とする、ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの患者に最適の治療と組み合わされて入院下で経口にて投与開始される重症心不全の治療用医薬組成物。 【請求項5】 該活性成分が、該組成物の重量に基づいて1~70重量%の量で含まれ、予後を改善することを特徴とする、請求項4の医薬組成物。 【請求項6】 該活性成分の1日当たりの用量が0.1mg/kgから0.371mg/kg以下の範囲であることを特徴とする、請求項4の医薬組成物。 【請求項7】 活性成分の5-ヒドロキシ-7-クロロ-1-[2-メチル-4-(2-メチルベンゾイルアミノ)ベンゾイル]-2,3,4,5-テトラヒドロ-1H-ベンゾアゼピンまたはその医薬的に許容される塩、および通常の医薬的に許容される担体または希釈剤を含み、該活性成分の用量が1日当たり15~30mg/個体の範囲であることを特徴とする、急性心不全または慢性心不全の急性増悪期にあるニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの患者に最適の治療と組み合わされて入院下で経口にて投与開始される重症心不全の治療用医薬組成物。 【請求項8】 活性成分が0.371mg/kg以下の範囲の1日投与量単位で含まれる、急性心不全または慢性心不全の急性増悪期にあるニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全の患者に最適の治療と組み合わされて経口にて投与される治療用薬剤を製造するための、活性成分の5-ヒドロキシ-7-クロロ-1-[2-メチル-4-(2-メチルベンゾイルアミノ)ベンゾイル]-2,3,4,5-テトラヒドロ-1H-ベンゾアゼピンまたはその医薬的に許容される塩の使用。 【請求項9】 該活性成分が0.1mg/kgから0.371mg/kg以下の範囲の1日投与量単位で薬剤に含まれる、予後を改善することを特徴とする、請求項8の使用。 【請求項10】 活性成分が15~30mg/個体の範囲の1日投与量単位で含まれる、急性心不全または慢性心不全の急性増悪期にあるニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全の患者に最適の治療と組み合わされて経口にて投与される治療用薬剤を製造するための、活性成分の5-ヒドロキシ-7-クロロ-1-[2-メチル-4-(2-メチルベンゾイルアミノ)ベンゾイル]-2,3,4,5-テトラヒドロ-1H-ベンゾアゼピンまたはその医薬的に許容される塩の使用。 【請求項11】 ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全において浮腫を改善することを特徴とする請求項1~3のいずれかの治療剤。 【請求項12】 ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全において浮腫を改善することを特徴とする請求項4~6のいずれかの医薬組成物。 【請求項13】 ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全において浮腫を改善することを特徴とする請求項8~10のいずれかの使用。 【請求項14】 ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全において浮腫を改善するとともに予後を改善することを特徴とする請求項7の医薬組成物。」 なお、請求項1~3を引用する請求項11における「治療剤」という記載は明らかな誤記であり、正しくは請求項1~3に記載される「治療薬」であると認められる。よって、以下では、請求項11の「治療剤」は「治療薬」であるという前提で判断する。 また、以下では、請求項1~14に係る各発明は、各請求項の番号に従い「本件発明1」~「本件発明14」といい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。 第4 当事者の主張及び証拠方法 1 請求人の主張及び証拠方法 請求人は、「特許第4771937号の特許請求の範囲の請求項1乃至13に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、以下の無効理由1~6を主張する。 そして、請求人は、証拠方法として甲第1号証~甲第34号証(以下「甲1」、「甲2」・・・「甲34」と記載する。)、及び被請求人が提出した「乙第88の1号証」に対して請求人が作成した訳文(甲号証番号が付与されていないので、以下では当該訳文を甲第35号証として扱い、「甲35」と記載する。)を提出した。 [無効理由1]実施可能要件違反・サポート要件違反(その1)(特許法第36条第4項第1号又は同第6項1号、同法第123条第1項第4号)(請求項1~13に対して) 請求項1~7、11、12に係る発明は、「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全」の治療薬(治療剤)ないし治療用医薬組成物とされ、本件発明8~10、13は、「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全」の治療用薬剤を製造するための特定の化合物の使用とされているところ、特許請求の範囲に記載された化合物が、「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全」に対して効果があるか否かが明細書の記載から明らかではない。 したがって、請求項1~13に係る発明は、実施可能なように記載されておらず、また、発明の詳細な説明に記載された発明ともいえないから、請求項1~13に係る特許は無効とすべきものである。 [無効理由2]実施可能要件違反・サポート要件違反(その2)(特許法第36条第4項第1号又は同第6項1号、同法第123条第1項第4号)(請求項1、2、4、5、6、8、9、11~13に対して) 請求項1、4、5、8に係る発明は、活性成分の1日当たりの用量が、「0.6mg/kg未満」であることを特徴としており、請求項2、6、9に係る発明は、活性成分の1日当たりの用量が「0.1mg/kgから0.6mg/kg未満の範囲」であることを特徴としており、請求項11~13に係る発明においても引用されているが、本件明細書には、そのような範囲の投与量についての効果は示されていない。 したがって、請求項1、2、4、5、6、8、9、11~13に係る発明は、実施可能なように記載されておらず、また、発明の詳細な説明に記載された発明ともいえないから、請求項1、2、4、5、6、8、9、11~13に係る特許は無効とすべきものである。 [無効理由3]実施可能要件違反・サポート要件違反(その3)(特許法第36条第4項第1号又は同第6項1号、同法第123条第1項第4号)(請求項3、7、10、11~13に対して) 請求項3、7に係る発明は、「該活性成分の用量が1日当たり15~45mg/個体の範囲であることを特徴する」とされており、請求項10に係る発明は、「活性成分が15~45mg/個体の範囲の1日投与量単位で含まれる」とされており、請求項11~13に係る発明においても引用されているところ、本件明細書には、そのような範囲の投与量についての効果は示されていない。 したがって、請求項3、7、10、11~13に係る発明は、実施可能なように記載されておらず、また、発明の詳細な説明に記載された発明ともいえないから、請求項3、7、10、11~13に係る特許は無効とすべきものである。 [無効理由4]実施可能要件違反・サポート要件違反(その4)(特許法第36条第4項第1号又は同第6項1号、同法第123条第1項第4号)(請求項1~13に対して) 本件の実施例の患者は、特許請求の範囲に記載された化合物の他に、「利尿薬、ジゴキシン、ACE阻害剤、ヒドララジン、硝酸エステル系、βブロッカーを含み得る通常の治療を受け続け」ているため(本件明細書の表1)、特許請求の範囲に記載された化合物の単剤としての効果が記載されていない。また、それぞれの患者に利尿薬の投与があったかも含め、どのような利尿薬がどの程度の量を投与されているのかが不明であり、それぞれの患者に利尿薬の影響がどのようにあったかも不明であるので、本件発明の単剤としての効果が示されているとはいえない。 したがって、請求項1~13に係る発明は、実施可能なように記載されておらず、また、発明の詳細な説明に記載された発明ともいえないから、請求項1~13に係る特許は無効とすべきものである。 [無効理由5]進歩性欠如(その1)(特許法第29第2項、同法第123条第1項第2号)(請求項1~13に対して) 請求項1~13に係る発明は、本件出願前(2002年)の刊行物である甲2にトルバプタンやバソプレシンV2-受容体拮抗剤に関する周知技術であった知見あるいは甲3を適用することによって容易に想到し得たものであるから、特許法第29第2項の規定に違反して特許されたものであるので、請求項1~13に係る特許は無効とすべきものである。 (当審注:下記「第7 1(1)」で説示するように、「トルバプタン」は、請求項1~13に係る発明(本件発明)における活性成分の別名称である。) [無効理由6]進歩性欠如(その2)(特許法第29第2項、同法第123条第1項第2号)(請求項1~13に対して) 請求項1~13に係る発明は、本件出願前(2001年)の刊行物である甲3に、トルバプタンに関する周知事項であった知見(必要であれば、甲2、甲4、甲5)を適用することによって容易に想到し得たものであるから、特許法第29第2項の規定に違反して特許されたものであるので、請求項1~13に係る特許は無効とすべきものである。 [請求人の証拠方法] ・甲1:特許第477937号公報(本件特許の特許公報) ・甲2:Circulation Journal,2002,Vol.66,Suppl.1,p.277の「OE-360」 ・甲3:Cardiovascular Research,2001,Volume 51,Issue 3,p.403-408 ・甲4:Drugs of the Future,2002,Vol.27,No.4,p.350-357 ・甲5:JACC,2002,Vol.39,Suppl.1,p.171の「839-1」 ・甲6:本件特許出願(特願2006-502681号)における平成22年6月30日付け拒絶理由通知書 ・甲7:本件特許出願(特願2006-502681号)における平成22年8月11日提出の意見書 ・甲8:本件特許出願(特願2006-502681号)における平成22年8月11日提出の手続補正書 ・甲9:本件特許出願(特願2006-502681号)における平成23年5月13日提出の手続補正書(方式) ・甲10:トルバプタン製剤(サムスカ(R)錠7.5mg等)の添付文書,大塚製薬株式会社,最終改訂2019年8月 (当審注:上付き文字「(R)」はRの丸囲いを意味する。以下同様。) ・甲11:「トルバプタン(V2受容体拮抗薬)の解説」,日経メディカル処方薬事典,株式会社日経BP,https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/article/57ccc81cac65bae1018b456a.html,プリントアウト日:令和2年2月10日 ・甲12:JAMA,2004,Vol.291,No.16,p.1963-1971 ・甲13:日本循環器学会他,「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」,2018年3月23日発行,2018年6月25日更新,p.1-15,29-31,83-84 ・甲14:松崎益徳他,「慢性心不全治療ガイドライン」,Japanese Circulation Journal,2000,Vol.64,Suppl.IV,p.1023-1079 ・甲15:SharonA.Hunt,MD,FACCetal., 「ACC/AHA Guidelines for the Evaluation and Management of Chronic Heart Failure in the Adult:Executive Summary」,Circulation,2001,Volume 104,Issue 24,p.2996-3007 ・甲16:特開平11-21241号公報,公開日:平成11年1月26日 ・甲17:Congestive Heart Failure,2002,Vol.8,p.251-256 以上、審判請求書に添付して提出。 ・甲18の1:新谷歩他,「検定とP値:統計的エビデンスとは」,原稿作成日:2017年3月31日,p.1-16 ・甲18の2:甲18の1のウェブページ,https://www.amed.go.jp/page_000001_00542.html ・甲19の1:財団法人日本医薬情報センター,「医療薬日本医薬品集」,平成12年10月25日発行,p.1821-1824の「フロセミド」 ・甲19の2:財団法人日本医薬情報センター,「医療薬日本医薬品集」,平成12年10月25日発行,p.1337-1338の「トリクロルメチアジド」 ・甲19の3:財団法人日本医薬情報センター,「医療薬日本医薬品集」,平成12年10月25日発行,p.944~945の「スピロノラクトン」 ・甲19の4:財団法人日本医薬情報センター,「医療薬日本医薬品集」,平成12年10月25日発行,p.524-525の「カルペリチド」 ・甲19の5:財団法人日本医薬情報センター,「医療薬日本医薬品集」,平成12年10月25日発行の奥付 ・甲20:European Heart Journal,1997,Vol.18,p.1457-1464 ・甲21:Circulation,2001,Vol.104,No.17 Supplement II,p.II-438の「2075」 ・甲22の1:古谷伸之,「診察を極める!Dr.古谷のあすなろ塾 浮腫を極める!」,月刊レジデント,2008,1巻3号,p.6-7 ・甲22の2:甲22の1の書誌事項 ・甲23:The New England Journal of Medicine,1999,Vol.341,No.10, p.709-717 ・甲24:THE LANCET,1999,Vol.353,p.9-13 ・甲25の1:The Jounal of Pharmacology and Experimental Therapeutics,2000,Volume 292,Issue 1,p.288-294 ・甲25の2:甲25の1の書誌事項 以上、令和2年11月18日提出の弁駁書に添付して提出。 ・甲26:Experimental Physiology,2000,Volume 85,Issues 1,p.259S-265S ・甲27:Journal of the American Society ofNephrology,1999,Vol.10, p.2165-2170 ・甲28:特開平8-198879号公報,公開日:平成8年8月6日 ・甲29:特開2002-128696号公報,公開日:平成14年5月9日 ・甲30:特開2002-179591号公報,公開日:平成14年6月26日 ・甲31:特表2004-517872号公報,公表日:平成16年6月17日 ・甲32:特表2004-530671号公報,公表日:平成16年10月7日 以上、令和3年2月16日提出の口頭審理陳述要領書に添付して提出。 ・甲33:Japanese Circulation Journal,1997,Vol.61,p.367-374 ・甲34:Circulation,2018,Vol.137,p.1671-1683 ・乙88の1の抄訳 以上、令和3年10月13日提出の弁駁書に添付して提出。 2 参加人ニプロの主張 参加人ニプロ(以下、「参加人ニプロ」という。)は、令和3年3月9日に開催された第1回口頭審尋において、審判請求書、令和2年11月18日提出の弁駁書及び令和3年2月16日提出の口頭審理陳述要領書において請求人が主張する無効理由1~6を主張する旨を陳述した。 3 参加人東和薬品の主張及び証拠方法 参加人東和薬品は、令和3年3月9日に開催された第1回口頭審尋において、以下の(1)~(3)を陳述した。 そして、参加人東和薬品は、証拠方法として、丙B第1号証~丙B第5号証(以下、号証番号順に「丙B1」・・・「丙B5」と記載する。)を、令和3年2月15日提出の口頭審理陳述要領書に添付して提出した。 (1)参加人東和薬品が令和3年2月15日提出の口頭審理陳述要領書において主張する無効理由1及び無効理由2は、審判請求書、令和2年11月18日提出の弁駁書及び令和3年2月16日提出の口頭審理陳述要領書において請求人が主張する無効理由1~3に相当するものである。 (2)参加人東和薬品は、審判請求書、令和2年11月18日提出の弁駁書及び令和3年2月16日提出の口頭審理陳述要領書において請求人が主張する無効理由4は主張しない。 (3)参加人東和薬品は、審判請求書、令和2年11月18日提出の弁駁書及び令和3年2月16日提出の口頭審理陳述要領書において請求人が主張する無効理由5及び無効理由6を主張する。 [参加人東和薬品の証拠方法] ・丙B1:Drugs of the Future,2002,Vol.27,No.4,p.350-357 (当審注:丙B1は請求人が提出した甲4と同一の証拠である。) ・丙B2:European Heart Journal,2001,Volume 22,Issue 17,p.1527及び1542 ・丙B3:Circulation,1999,Vol.100,p.1311-1315 ・丙B4:JAMA,2007,Vol.297,No.12,p.1319-1331 以上、令和3年2月15日提出の口頭審理陳述要領書に添付して提出。 ・丙B5:薬学用語解説 「予後」,日本薬学会,検索日[2021年10月1日],https://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?予後 以上、令和3年10月14日提出の弁駁書に添付して提出。 4 参加人東和薬品の令和3年2月15日提出の口審理陳述要領書における主張に対する「補正許否の決定」 当審は、令和3年3月16日付けで、特許法第131条の2第2項の規定に基づき、下記の趣旨の「補正許否の決定」を通知した。 [令和3年3月16日付け「補正許否の決定」の趣旨] 令和3年2月15日提出の口頭審理陳述要領書において参加人東和薬品が主張する無効理由3は、丙B1(請求人が審判請求書に添付して提出した甲4)を主引用例とし、丙B2及び丙B3を副引用例とする進歩性欠如を主張するものである。 しかし、請求人は甲4を主引用例とする進歩性欠如の無効理由を主張していないので、上記無効理由3は、特許法第131条の2第1項に規定される、請求の理由の要旨を変更する補正に相当するものであり、許可しない。 また、上記口頭審理陳述要領書に記載された事項のうち、上記無効理由3以外の事項による、請求の理由の補正に相当するものについては、許可する。 5 被請求人の主張及び証拠方法 被請求人は、「本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」、との審決を求め、請求人が指摘する無効理由はいずれも存在しない旨を主張する。 そして、被請求人は、証拠方法として乙第1号証~乙第109の2号証(以下、号証番号順に「乙1」、「乙2」・・・「乙109の2」と記載する。)を提出した。 [被請求人の証拠方法] ・乙1:「急性重症心不全治療ガイドライン」,Japanese Circulation Journal,2000,Vol.64,Suppl.IV,p.1129-1165 ・乙2:「改訂版 目でみる循環器病シリーズ 2 心不全,ショック」,株式会社メジカルビュー社,2001,p.128 ・乙3:「循環器疾患 最新の治療2000-2001」,株式会社南江堂,2000,p.239 ・乙4:「重症心不全-診断・治療・病理の最前線」,株式会社医学書院,2003.01.15,p.69,147-148,231及び234 ・乙5:「知っておきたい循環器病あれこれ(7)心不全―その症状と治し方―」,財団法人循環器病研究振興財団,1999,「はじめに」及びp.1-16 (当審注:「(7)」は7の丸囲いを意味する。) ・乙6:「新薬理学入門」,株式会社南山堂,1997,p.155 ・乙7の1:European Heart Journal,2002,Volume 23,Issue 23,p.1861-1866 ・乙7の2:乙7の1の抄訳 ・乙8の1:Circulation,2000,Volume 101,Issue 1,p.40-46 ・乙8の2:乙8の1の抄訳 ・乙9:「ハーバード大学テキスト 心臓病の病態生理 第2版」,株式会社メディカル・サイエンス・インターナショナル,2004.11.25,p.435-439 ・乙10:ラシックス(R)錠、ラシックス(R)20mg錠及びラシックス(R)細粒(フロセミド製剤)の添付文書(第3版),アベンティスファーマ株式会社,2000年1月改訂 ・乙11の1:The American Journal of Medicine,1999,Vol.106,p.90-96 ・乙11の2:乙11の1の抄訳 ・乙12の1:Congestive Heart Failure,2002,Vol.8,p.80-85 ・乙12の2:乙12の1の抄訳 ・乙13の1:Journal of the American College of Cardiology,2001,Vol.38,No.4,p.955-962 ・乙13の2:乙13の1の抄訳 ・乙14の1:The European Journal of Heart Failure,2002,Vol.4,p.331-336 ・乙14の2:乙14の1の抄訳 ・乙15の1:JACC,1997,Vol.30,No.3,p.733-738 ・乙15の2:乙15の1の抄訳 ・乙16の1:European Journal of Heart Failure,1999,Vol.1,p.411-417 ・乙16の2:乙16の1の抄訳 ・乙17の1:European Heart Journal,1999,Volume 20,Issue 9,p.673-682 ・乙17の2:乙17の1の抄訳 ・乙18:「これからの臨床試験 医薬品の科学的評価-原理と方法」,株式会社朝倉書店,1999,p.122-123 ・乙19:「『臨床試験のための統計的原則』について」,1999,厚生省医薬安全局審査管理課長 ・乙20の1:MJA,2002,Vol.177,p.256-257 ・乙20の2:乙20の1の抄訳 ・乙21:「3.臨床薬効評価:試験計画のデザインと統計解析法」,臨床薬理 Japanese Journal of Clinical Pharmacology and Therapeutics,1996,27巻,2号,p.525-528 ・乙22の1:「ACC/AHA2005 Guideline Update for the Diagnosis and Management of Chornic Heart Failure in the Adult」,the American College of Cardiology Foundation and the American Heart Association,Inc.,2005,p.1-82 ・乙22の2:乙22の1の抄訳 ・乙23:「学会・論文発表のための統計学 統計パッケージを誤用しないために」,真興交易(株)医書出版部,1999,p.168-182 ・乙24の1:JACC,1993,Vol.22,No.4(Supplement A),p.165A-171A ・乙24の2:乙24の1の抄訳 ・乙25:「標準薬理学(第5版)」,株式会社医学書院,1997,p.38-41 ・乙26:「標準薬理学(第6版)」,株式会社医学書院,2001,p.9-10 ・乙27:「新薬理学入門」,株式会社南山堂,1997,p.7-8 ・乙28の1:American Journal of Hypertension,2002,Vol.15,No.8,p.709-716 ・乙28の2:乙28の1の抄訳 ・乙29の1:Journal of Human Hypertension,1999,Vol.13,p.275-281 ・乙29の2:乙29の1の抄訳 ・乙30の1:Cardiology,2001,Vol.96,p.132-143 ・乙30の2:乙30の1の抄訳 ・乙31:「新医薬品の承認に必要な用量-反応関係の検討のための指針」について,厚生省薬務局審査課長,1994.07.25(出力日2020.05.21),https://www.pmda.go.jp/int-activities/int-harmony/ich/0001.html,p.1-10 ・乙32の1:Circulation,2001,Vol.103,p.375-380 ・乙32の2:乙32の2の抄訳 ・乙33の1:American Heart Journal,2002,Vol.144,p.31-38 ・乙33の2:乙33の1の抄訳 ・乙34の1:JAMA,2002,Vol.287,No.7,p.890-897 ・乙34の2:乙34の1の抄訳 ・乙35:日本循環器学会他,「慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)」,2013.09.13更新版,p.1-3及びp.23-24 ・乙36:「標準薬理学(第5版)」,株式会社 医学書院,1997,p.27-28 ・乙37の1:The New England Journal of Medicine,1991,Vol.325,p.1468-1475 ・乙37の2:乙37の1の抄訳 ・乙38の1:THE LANCET,1997,Vol.349,p.971-977 ・乙38の2:乙38の1の抄訳 ・乙39の1:THE LANCET,1990,Vol.336,p.1-6 ・乙39の2:乙39の1の抄訳 ・乙40の1:The New England Journal of Medicine,2001,Vol.344,No.22,p.1659-1667 ・乙40の2:乙40の1の抄訳 ・乙41:アカルディカプセル(R)1.25及びアカルディカプセル(R)2.5(ピモベンダン製剤)の添付文書(第3版),日本べーリンガーインゲルハイム株式会社,2000.08改訂 ・乙42:ゼストリル(R)錠5、ゼストリル(R)錠10及びゼストリル(R)錠20の添付文書(第8版),アストラゼネカ株式会社,2001.12改訂 ・乙43:レニベース(R)錠2.5、レニベース(R)錠5及びレニベース(R)錠10の添付文書(第5版),萬有製薬株式会社,2001.05改訂 ・乙44の1:Clinical Pharmacology & Therapeutics,1990,Vol.28,No.2,p.182-186 ・乙44の2:乙44の1の抄訳 ・乙45の1:Clinical Pharmacology & Therapeutics,1994,Vol.56,No.1,p.48-54 ・乙45の2:乙45の1の抄訳 ・乙46の1:Clinical Pharmacology & Therapeutics,1974,Vol.16,No.2,p.322-329 ・乙46の2:乙46の1の抄訳 ・乙47:「循環器 NOW No.15 循環器疾患の薬物療法」,株式会社南江堂,1997,p.194-197 ・乙48の1:THE AMERICAN JOURNAL OF CARDIOLOGY,1997,Vol.80,p.519-522 ・乙48の2:乙48の1の抄訳 ・乙49の1:International Journal of Cardiology,1999,Vol.71,p.219-225 ・乙49の2:乙49の1の抄訳 ・乙50:日薬理誌,Vol.114,補冊1,1999,p.113P-117P ・乙51の1:European Journal of Pharmacology,1997,Vol.321,p.225-230 ・乙51の2:乙51の1の抄訳 ・乙52の1:Cardiovascular Research,2002,Vol.54,p.13-15 ・乙52の2:乙52の1の抄訳 ・乙53の1:European Heart Journal,2000,Vol.21,p.594 ・乙53の2:乙53の1の抄訳 以上、第1答弁書に添付して提出。 ・乙22の3:乙22の1の抄訳 ・乙34の3:乙34の1の抄訳 ・乙49の3:乙49の1の抄訳 ・乙54:「意見書」,作成者:富山大学学術研究部 医学系内科学(第二)教授 絹川弘一郎,作成日:2021年2月2日 ・乙55:「ハーバード大学テキスト心臓病の病態生理第2版」,株式会社メディカル・サイエンス・インターナショナル,2004,p.238-239 ・乙56の1:Circulation,1997,Volume 96,Issue 2,p.509-516 ・乙56の2:乙56の1の抄訳 ・乙57:日本循環器学会他,「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」,2018,p.18-21 ・乙58の1:Journal of Cardiac Failure,2002,Vol.8,No.3,p.149-154 ・乙58の2:乙58の1の抄訳 ・乙59:「特許第4771937号明細書記載の臨床試験に関するシミュレーション解析報告書」,作成者:大塚製薬株式会社 医薬品事業部 白土敬之,作成日:2021年2月12日 ・乙60の1:European Heart Journal,2014,Vol.35,p.1284-1293 ・乙60の2:乙60の1の抄訳 ・乙61:「意見書」,作成者:千葉大学大学院薬学研究院 臨床薬理学(旧高齢者薬剤学)研究室 教授 樋坂章博,作成日:2021年2月4日 ・乙62の1:THE JOURNAL OF PHARMACOLOGY AND EXPERIMENTAL THERAPEUTICS,1998,Vol.287,No.3,p.860-867 ・乙62の2:乙62の1の抄訳 ・乙63の1:THE JOURNAL OF PHARMACOLOGY AND EXPERIMENTAL THERAPEUTICS,1995,Vol.272,No.2,p.546-551 ・乙63の2:乙63の1の抄訳 ・乙64の1:JAMA,2007,Vol.297,No.12,p.1319-1331 ・乙64の2:乙64の1の抄訳 ・乙65:「特許・実用新案 審査ハンドブック」,特許庁,作成日:令和2年12月16日,「附属書B 第3章 医薬発明」のp.1,p.30-32 ・乙66の1:Journal of Cardiology,2016,Vol.67,p.399-405 ・乙66の2:乙66の1の抄訳 ・乙67:トルバプタン製剤(サムスカ(R)錠7.5mg等)の添付文書,大塚製薬株式会社,最終改訂2019年8月 ・乙68:特許第5266042号公報,発行日:平成25年8月21日 ・乙69:「持続型ACE阻害剤ゼストリル(R)錠5等」の医薬品インタビューフォーム,アストラゼネカ株式会社,2016年4月改訂 ・乙70:「心不全治療薬アカルディ(R)カプセル1.25等」の医薬品インタビューフォーム,日本べーリンガーインゲルハイム株式会社,2014年9月改訂 ・乙71:「持続性アンジオテンシン変換酵素阻害剤 レニベース(R)錠 2.5等」の医薬品インタビューフォーム,MSD株式会社,2020年9月改訂 ・乙72の1:Clinical Pharmacology & Therapeutics,1999,Vol.65,Issue2,p.201の「PIII-100」 ・乙72の2:乙72の1の訳文 ・乙72の3:乙72の1の書誌事項 ・乙73の1:「ICD-9-CM Official Guidelines For Coding and Reporting」,The Centers for Medicare and Medicaid Services(CMS),2002,p.1-10及びp.46 ・乙73の2:乙73の1の抄訳 ・乙74の1:Journal of Clinical Epidemiology,2003,Vol.56,p.530-535 ・乙74の2:乙74の1の抄訳 ・乙75の1:「NOTE FOR GUIDANCE ON CLINICAL INVESTIGATION OF MEDICINAL PRODUCTS FOR THE TREATMENT OF CARDIAC FAILURE」,The European Agency for the Evaluation of Medical Products Human Medicines Evaluation Unit,1999,p.1-11 ・乙75の2:乙75の1の抄訳 ・乙76の1:「VAPRISOL(R)(conivaptan hydrochloride injection)」の米国添付文書,Astellas Pharma US,Inc.,2005 ・乙76の2:乙76の1の抄訳 ・乙77の1:「VAPRISOL(R)(conivaptan hydrochloride injection)」の米国添付文書,Cumberland Pharmaceuticals Inc.,2016 ・乙77の2:乙77の1の抄訳 ・乙78:「標準薬理学(第5版)」,株式会社医学書院,1997,p.260-267 ・乙79:「特許・実用新案 審査ハンドブック」,特許庁,作成日:令和2年12月,「第III部 第2章 新規性・進歩性」の「3202 ヒト結膜肥満細胞安定化剤事件最高裁判決」 以上、令和3年2月16日提出の口頭審理陳述要領書に添付して提出。 ・乙80:「コニバプタンの国内開発に関する検討結果報告書」,作成者:アステラス製薬株式会社 代表取締役社長 野木森 雅郁,作成日:平成20年4月4日 以上、令和3年3月15日提出の上申書に添付して提出。 ・乙49の4:乙49の1の抄訳 ・乙75の3:乙75の1の抄訳 ・乙81:「標準循環器病学」,株式会社 医学書院,2001,p.109-114 ・乙82の1:「Surrogate End Points in Clinical Trials:Are We Being Misled?」,Annals of Internal Medicine,1996,Vol.125,No.7,p.605-613 ・乙82の2:乙82の1の抄訳 ・乙83の1:Guidance for Industry Providing Clinical Evidence of Effectiveness for Human Drug and Biological Products,米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)ほか,1998,p.1-20,表紙及び目次 ・乙83の2:乙83の1の抄訳 ・乙84:「臨床試験の基盤設備はどう進めるべきか 循環器系臨床研究者の立場からの提言」,薬理と治療,2000年4月号,URL:lifescience.co.jp/yk/jpt_online/topics/index_topics1.html ・乙85:臨床薬理(Jpn J Clin Pharmacol 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以上、令和3年8月17日提出の上申書に添付して提出。 ・乙75の4:乙75の1の抄訳 ・乙89の3:乙89の1の抄訳 ・乙93の1:Circulation,2003,Vol.107,p.2690-2696 ・乙93の2:乙93の1の抄訳 ・乙94の1:「Vasopressin Receptor Blockade With Tolvaptan in Chronic Heart Failure: Differential Effects in Normonatremic and Hyponatremic Patients」,JACC,2002,「ABSTRACTS-Cardiac Function and Heart Failure 171A」の「839-1」 ・乙94の2:乙94の1の抄訳 ・乙95の1:「Advances in Treatment of Heart Failure」,Virginia Luis Fuentes,MA VetMB PhD CertVR DVC MRCVS DipACVIM(Cardiology),2002,p.1-5 ・乙95の2:乙95の1の抄訳 ・乙96:利尿薬を正しく使いこなそう腎疾患における処方の基本(第55回日本腎臓学会学術総会モーニングセミナー),2012年,p.1-12 ・乙97の1:Lasix(R)(furosemide) Tablets 20,40,and 80mg,Aventis Pharmaceuticals Inc.,2000,p.1-7 ・乙97の2:乙97の1の抄訳 ・乙98の1:FDA Meeting Minutes 1999/4/20 U.S.Food and Drug Administration(FDA) ・乙98の2:乙98の1の抄訳 ・乙99:「臨床試験における対照群の選択とそれに関連する諸問題」について,医薬審発第136号,2001年2月27日 ・乙100:佐中 孜,「畜尿方法の実際」,CKD早期発見・治療ベストガイド~寛解につながる慢性腎臓病へのアプローチ,医学書院,2013年 ・乙101の1:Circulation Journal,2014,Vol.78,p.911-921 ・乙101の2:乙101の1の抄訳 ・乙102の1:The British Journal of 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(当審注:引1及び引2は、元参加人Meijiが令和3年10月13日提出の弁駁書に添付して提出した丙C第4号証及び丙C第7号証である。被請求人は、上記弁駁書に対する反論として、令和3年12月16日に第2答弁書(3)を提出した。) 第5 主な証拠及び引用文献に記載された事項 主な証拠及び引用文献の記載事項を以下に示す。外国語で記載された記載事項は、必要に応じて当審による日本語訳を記載する。なお、下線は当審により付したものである。 [甲2(Circulation Journal,2002,Vol.66,Suppl.1,p.277の「OE-360」)に記載された事項] (甲2a) 「うっ血性心不全患者における新規バソプレシン受容体遮断薬であるトルバプタンによる長期治療(Chronic Therapy)の有益な効果」(甲2のタイトル) (甲2b) 「トルバプタン(OPC-41061、TLV)は、新規の非ペプチド性バソプレシン受容体拮抗薬である。心不全(HF、NYHAI-III)及びうっ血の兆候(浮腫又はラ音等)を有する患者を対象に、3用量のTLVの効果を調査するプラセボ対照二重盲検試験を行った。3日間の慣らし期間の後、250人の患者をプラセボ群(n=62)、又はTLV 30mg(n=64)、45mg(n=62)若しくは60mg群(n=62)に無作為化し、1日1回、25日間投与した。患者は水分制限なしの標準治療を受けており、試験全体を通して安定したフロセミド用量(20-240mg/日)が維持されていた。」(甲2の本文1~8行) (甲2c) 「ベースラインでは、プラセボ、TLV 30、45、及び60mg群においてそれぞれ34、23、23、及び32%に低ナトリウム血症(血清Na+=136mEq/L)が見られた。TLV群の忍容性は良好であった。投与1日目に、TLV 30、45、及び60mg群の体重はベースラインに対してそれぞれ-0.79±.99、-0.96±.93、-0.84±.02kgの減少が観察されたが、プラセボ群の体重はベースラインに対して+0.32±.46kgの増加を示した(プラセボ群に対してすべての治療群でP<0.001)。この体重減少は、25日間の治療期間にわたって維持された。プラセボ群と比較して、TLV群では統計学的に有意かつ用量依存的な尿量の増加も観察された(TLV 30、45、及び60mg、並びにプラセボ群の投与1日目の尿量は、それぞれ3.9±.6、4.2±.9、4.6±.4、2.3±.2L/24時間;p<0.001)。TLV投与患者では、プラセボ群と比べて脚の浮腫の著しい減少が観察された(p<0.05)。血清Na+の増加も、試験期間全体を通してTLV投与患者で観察された(プラセボに対してp<0.0001)。この効果は、ベースライン時に低ナトリウム血症の患者でより顕著で持続的であった。血清カリウム値やその他の臨床検査値、及び血圧の変化は観察されなかった。HFの患者において、長期のTLV治療(chronic TLV therapy)は、血清電解質の有害な変化なしに、プラセボと比較して体重を減少させ、浮腫を軽減させた。」(甲2の本文8行~最終行) [甲3(Cardiovascular Research,2001,Volume 51,Issue 3,p.403-408)に記載された事項] (甲3a) 「低ナトリウム血症におけるV2バソプレシン拮抗薬の役割 ・・・ 要約 低ナトリウム血症は、頻繁な電解質障害である。うっ血性心不全、肝硬変、循環血漿量縮小及びSiADHでよく見られる。これらの異常において、低ナトリウム血症は非浸透圧性バソプレシンと持続的な水分取込によって引き起こされる。これは、低ナトリウム血症の治療におけるV2バソプレシン受容体拮抗薬の理論的根拠を提供する。うっ血性心不全の様々な動物モデルから、ペプチド性及び非ペプチド性V2バソプレシン拮抗薬が腎水利尿及び血漿ナトリウム濃度を効果的に増加させるという説得力のある証拠がある。さらに、いくつかの実験研究では、V2拮抗薬に反応した心不全の血行動態の変化の改善も示された。患者のデータは、経口の非ペプチド性V2拮抗薬が低ナトリウム血症を矯正し、心不全の血行動態障害を改善する可能性があることを示した。さらに、V2拮抗薬の実験的及び臨床的研究が肝硬変及びSiADHで行われている。これらの研究では、低ナトリウム血症も改善又は修正された。まとめると、V2バソプレシン拮抗薬は、低ナトリウム血症の治療薬になると約束されている。」(p.403のタイトル及び「Abstract」) (当審注:「SiADH」は抗利尿ホルモン不適合分泌症候群を意味する。) (甲3b) 「1992年、ヤマムラらは初めての非ペプチド性経口活性V2バソプレシン受容体拮抗薬(OPC-31260)を記載した[1]。それ以来、いくつかの他の非ペプチド性V2又はV1/V2バソプレシン拮抗薬の特徴が明らかにされている[2-6,29]。 現在研究されているV2及びV1/V2受容体拮抗薬の報告されている薬理学的特性を表1に示す。引用されたすべての薬剤は現在、臨床試験を含むさまざまな開発段階にある。これらの研究では、腎効果の点で個々の薬剤間に大きな違いは現れていない。したがって、それらを「V2バソプレシン受容体拮抗薬」としてまとめて説明する。 [図:0001411599000002.jpg] 」(p.404右欄14~25行及びp.405の「Table1」) (当審注:「Table1」中のマーカーは当審が付したものである。「Table1」に記載の「OPC41061」は本件発明における活性成分であり(トルバプタン(Tolvaptan)とも称される。下記第7の1(1)を参照。)、「YM087」は非特異的V1A/V2バソプレシン受容体拮抗薬コニバプタン(YM-087)である(甲3c)。) (甲3c) 「より最近では、アブラハムらは、非特異的V1A/V2バソプレシン受容体拮抗薬コニバプタン(YM-087)の効果を報告した。彼らは、重度の心不全(NYHAIII及びIV)を有する低ナトリウム血症(平均血清Na+濃度126.2 mmol/l)の患者6人を対象に、オープンラベル試験(試験期間8日)を実施した。コニバプタンの投与は、10 mg1日2回(経口)の用量で開始された。血清Na+濃度の正常化又は不耐容の徴候が生じるまで、(20、40、60mg1日2回の用量まで)漸増した。水分摂取量を1日当たり1.5リットルに制限した。コニバプタンは、これらの患者の血清Na+濃度を有意かつ安全に増加させることが示された[35]。コニバプタンの水利尿効果は、静注コニバプタンを使用したさらなる研究で確認されている[36,37]。これらの研究では、コニバプタンがのどの渇きに影響を及ぼさないことが指摘された[35,36]。うっ血性心不全(NYHA III/IV)患者(n=142)における静注コニバプタンの血行動態への効果は、Udelsonらによるプラセボ対照研究で調査された[38]。彼らは、コニバプタンの単回投与後にPCWPとRAPが有意に減少することを示した。全身血圧又は心拍数に影響はなかった。」(p.406左欄2段落) (甲3d) 「心不全に関しては、注意が示されている。特異的V2R拮抗薬を使用した研究では、血漿バソプレシン濃度の増加が観察されている[30,39,40]。例えば、ある研究では、WAY-VPA985に反応して血漿バソプレシン濃度が3倍になった[41]。これは、そのような患者におけるV1受容体の拮抗されない刺激(an unopposed stimulation)の可能性についての懸念につながった。おそらく、これはCCFで逆効果になる可能性がある。したがって、非特異的V1A/V2受容体拮抗薬は、CCFの現場(setting)において特異的V2受容体拮抗薬よりも有利であろう。」(p.406左欄3段落) (当審注:「特異的V2R拮抗薬」はバソプレシンV2受容体拮抗薬と同義である。また、「CCF」はうっ血性心不全を意味する。) [甲4(Drugs of the Future,2002,Vol.27,No.4,p.350-357)に記載された事項] (甲4a) 「トルバプタン 心不全の治療 バソプレシンV2拮抗薬 OPC-41061 (±)-N-[4-(7-クロロ-5-ヒドロキシ-2,3,4,5-テトラヒドロ-1H-1-ベンゾアゼピン-1-イルカルボニル)-3-メチルフェニル]-2-メチルベンザミド [図:0001411599000003.jpg] 」(甲4のタイトル及びp.350左欄に記載の化学式) (甲4b) 「要約 うっ血性心不全は、心機能障害が循環性うっ血を引き起こす状態である。 治療法はないが、心機能を改善し、症状を軽減し、患者の生活の質を改善するために、いくつかのクラスの薬剤が利用可能であるか、又は開発中である。アルギニンバソプレシン(AVP)は、自由水吸収、体液浸透圧、血液量、細胞収縮、血圧の調節に重要な役割を果たす、強力な抗利尿ホルモンであり、その多様な作用は、G-タンパク質共役型受容体サブタイプV1、V2及びV3によって媒介される。うっ血性心不全の患者に見られる全身性血管収縮及び希釈性低ナトリウム血症は、一部、異常に高い循環AVPレベルに起因している。したがって、AVP拮抗作用は、心不全における疾患の進行を防ぐための実行可能な戦略である。経口活性を有するベンズアゼピン系であるトルバプタンは、V2受容体拮抗薬であり、優れた前臨床及び臨床の水利尿効果を示しており、うっ血性心不全で見られる低ナトリウム血症の治療において、肝硬変や腎病変等の他の状態と同様に潜在的な有効性を示している。」(p.350左欄のAbstract) (甲4c) 「アルギニンバソプレシン(AVP)は、強力な抗利尿作用及び血管収縮作用を有する神経下垂体ホルモンであり、自由水再吸収、体液浸透圧、血液量、血圧、細胞収縮、細胞増殖及び副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)分泌の調節に不可欠な役割を果たしている。AVP作用は、3つの特異的Gタンパク質共役受容体サブタイプによって媒介される:V1-血管(V1)タイプa及びb、V2-腎(V2)及びV3-下垂体(V3)。各受容体タイプの活性化は、細胞内セカンドメッセンジャーの活性化を経て別個の薬理効果をもたらす。症候性心不全の患者は、これらの患者で観察される全身性血管収縮及び希釈性低ナトリウム血症の一部を担っているAVPレベルを、正常な被験者で観察されるAVPレベルの2倍にすることが知られている。さらに、希釈性低ナトリウム血症は、肝硬変や腎病変等の他の状態と同様に、うっ血性心不全に罹患している入院患者に見られる最も一般的な電解質障害であり、この状態は死亡率を60倍に増加させる(4,5)。したがって、低ナトリウム血症を軽減できるAVP受容体拮抗薬の開発には、かなりの治療上の関心がある。V1受容体の遮断は、うっ血性心不全、動脈性高血圧、末梢血管疾患の治療薬として有用である可能性がある。V2受容体遮断は、うっ血性心不全の進行だけでなく、肝硬変、ネフローゼ症候群、過剰な体液貯留及びその後の希釈性低ナトリウム血症を含むあらゆる状態に対しても有効である。一方、V3受容体の遮断は、ACTH分泌腫瘍の治療に有効である可能性がある(5-9)。」(p.352左欄10行~同頁右欄16行) (甲4d) 「AVP拮抗作用は、心不全の疾患進行を防ぐ魅力的な戦略となり、表Iに示すように、V2受容体拮抗薬とデュアルV2/V1a受容体拮抗薬の両方を含むいくつかの薬剤が現在開発中である。ベンゾジアゼピン系のトルバプタン(OPC-41061)は、強力な水利尿薬効果を示し、疾患進行性うっ血性心不全の治療薬としてさらなる開発のために選択された、経口活性を有する特異的かつ選択的な非ペプチド性V2受容体拮抗薬である(1,3)。」(p.352右欄17行~p.353左欄2行) (甲4e) 「薬物動態 12人の健康な男性ボランティアを含む非盲検試験では、[14C]標識(100μCi)及び非標識のトルバプタンの単回経口投与(60 mg)の吸収、分布、代謝、排泄を調べた。 ・・・ 12人の健康な男性ボランティアで実施された無作為化非盲検3期間クロスオーバー試験では、トルバプタン(30mg)とフロセミド(80mg)又はヒドロクロロチアジド(100mg)との間に臨床的に有意な薬物動態学的又は薬物動力学的相互作用はないと判断された。フロセミドもヒドロクロロチアジドもトルバプタンのCmax値とAUC値(0.28μg/ml及び168μg・h/ml)を変えず、トルバプタンで観察された尿量、血漿AVP及び血漿レニンの変化率は上記利尿薬の影響を受けなかった(13)。」(p.354左欄の「Pharmacokinetics」の第2段落) (甲4f) 「 [図:0001411599000004.jpg] 」(甲4eの参考文献(13)の書誌事項) [甲14(松崎益徳他,「慢性心不全治療ガイドライン」,Japanese Circulation Journal,2000,Vol.64,Suppl.IV,p.1023-1079)に記載された事項] (甲14a) 「1-1.慢性心不全の定義 慢性心不全とは狭義の意味からは,“慢性の心筋障害により心臓のポンプ機能が低下し,末梢主要臓器の酸素需要量に見合うだけの血液量を絶対的にまた相対的に拍出できない状態であり,肺または体静脈系にうっ血をきたし生活機能に障害を生じた病態”と言える.労作時呼吸困難,息切れ,尿量減少,四肢の浮腫,肝腫大などの症状の出現により生活の質的低下(QOL低下)が生じ,日常生活が極しく障害される.また致死的不整脈の出現も高頻度にみられ,突然死の頻度も高い.すべての心疾患の終末的な病態でその生命予後は極めて悪い.従来は急性心不全と同様に血行動態的諸指標や肺体うっ血の有無より診断,評価されていた.しかし,近年の病態解析の進歩により,慢性心不全では交換神経系やレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系に代表される神経内分泌系因子が著しく亢進し,その病態を悪化させていることが判明した.また心内圧の上昇はナトリウム利尿ホルモンやアドレノメデュリンなどの血管拡張因子の分泌を促進させ,慢性心不全は種々の神経内分泌因子が複雑に関連し合った一つの症候群と考えられるようになった.1980年代中頃より報告されているアンジオテンシン変換酵素阻害薬による慢性心不全患者の生命予後の改善効果や,従来は絶対禁忌と思われていたβ遮断薬の長期投与効果は,“神経内分泌疾患”としての慢性心不全を裏付けるものであろう.」(p.1028左欄「1-1.慢性心不全の定義」の1段落) 「3 神経体液因子 心筋は虚血,高血圧,炎症などの種々の負荷がかかると,心機能を保持するために種々の代償機序が働く.この代償機序には神経体液因子の亢進と心肥大がある.神経体液因子は心筋のみならず全身の血管,臓器に作用して,運動耐容能低下,不整脈,突然死等のいわゆる心不全症候群の形成に関与する。 ・・・ 3-1.慢性心不全と神経体液因子 1) 交感神経系 ・・・慢性心不全患者では心不全の重症度に比例して血漿ノルエピネフリン濃度が増加する.・・・大規模臨床試験の結果,β遮断薬はその選択性,非選択性,虚血性,非虚血性心不全症例にかかわらず有効であることから,β遮断薬のクラス効果と考えられる. 2) レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系 心不全ではレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系が賦活され,アンジオテンシンIIが過剰に産生される.軽度の心機能障害でも血漿レニン活性値が上昇している例があり,また重症心不全症例のすべてに血漿レニン活性値は上昇しているとは限らない.SAVE試験においても血漿レニン活性値,ノルエピネフリン(NE),バソプレシン,心房性(A型)ナトリウム利尿ペプチド(ANP)は正常から高値まで広い範囲にわたり,各神経体液因子間には相関は認められなかった(27).それにも関わらず,アンジオテンシン変換酵素阻害薬,アンジオテンシンII受容体拮抗薬が心不全患者の症状,心機能,生存率を改善する.・・・アルドステロン自体もナトリウム貯留,マグネシウムやカリウム喪失,交換神経亢進,副交感神経抑制,心筋ならびに血管の線維化,圧受容器の機能異常,血管障害等をきたすことが指摘されている.」(p.1035左欄2行~同頁右欄下から11行) (当審注:SAVE試験は、Survival And Ventricular Enlargement studyと称される大規模試験を意味する。) (甲14b) 「5 活動能力の評価 5-1.運動能力 慢性心不全による活動能力の低下は患者の生活の質と充実度を直接に低下させるため,活動能力の改善は慢性心不全患者治療の主要目標である.活動能力は運動能力のみならず,心理的状態,認識能力,社会的環境などに依存する.これらの評価は初期の病態把握および管理をする上で極めて重要である(65). ・・・ 1)運動能力の評価法 i)動的運動負荷試験 ・・・ ii)6分間歩行試験 ・・・ iii)身体活動能力質問表 従来,運動能力による心血管系予備能の評価はNew York Heart Association(NYHA)の心機能分類に見られるごとく労作時の自覚症状に基づいてなされてきた.このような問診による評価は客観性に乏しいという問題があるが簡便であり,何よりも患者の自覚である点で重要である.患者は自覚症状の発生を避けるために徐々に活動を制限していることがあり,また老人では日常生活の活動性の低下から症状が顕在化していないことがあるため,明確な個々の活動に対する耐容性を問診する必要がある.基本的な日常活動と酸素摂取量を対応させた問診表に身体活動能力質問表(specific activity scale,表7)があり,特に日常生活で自覚症状が出現する中等症から重症の慢性心不全の運動能力評価に有用である(73).」(p.1041右欄の「iii) 身体活動能力質問表」の項目) (甲14c) 「慢性心不全患者における入院の基準 ・・・ 慢性心不全患者で以下の所見のいずれかが認められる場合には入院の適応がある。 ClassI 1. 外来治療に抵抗性の慢性心不全憎悪(NYHA III,IV度) ・・・ ClassII 1. 軽度~中等度の臨床症状を有する慢性心不全 2. 初めて軽度心不全が発生した患者 3. 一人暮らしなど安全な外来管理が不可能と考えられる社会的要因がある場合 2 薬物療法 2-1. 収縮機能障害に対する治療 ・・・ 1) ジギタリス ・・・ 2) 利尿薬 心不全患者のうっ血に基づく労作時呼吸困難,浮腫などの症状を軽減するために最も有効な薬剤である.ループ利尿薬を基本に,わが国ではフロセミド,エタクリン酸,ブメタニド,ピレタニド,アゾセミドが用いられる.軽症例ではサイアザイド系利尿薬も用いられ,またループ利尿薬で十分な利尿が得られない場合にはサイアザイド系利尿薬との併用を試みても良い.ただしこれらの利尿薬は低カリウム血症,低マグネシウム血症をきたしやすく,ジギタリス中毒を誘発しやすいばかりでなく,重症心室性不整脈を誘発することもある.従ってこれらの利尿薬の使用時には血清カリウムおよびマグネシウムの保持を心がける必要がある.・・・さらに最近,NYHA III度以上の左室収縮機能不全に基づく重症心不全患者を対象とした大規模試験(RALES)ではスピロノラクトンの併用が全死亡率,心不全死亡率,突然死のいずれをも減少させることが明らかとなっている(85).スピロノラクトン以外のカリウム保持性利尿薬によっても同様の効果が得られるかどうかは不明である.」(p.1044左欄19行~p.1045左欄20行) (甲14d) 「○重症度からみた薬物治療 NYHA I度(無症状の左室収縮機能不全):まずアンジオテンシン変換酵素阻害薬が適応となる.心房細胞による頻脈を伴う症例ではジギタリスを用いる. NYHA II度:アンジオテンシン変換酵素阻害薬に加えて肺うっ血所見や全身浮腫など体液貯留による症状が明らかである場合にはループ利尿薬,サイアザイド系利尿薬を用いる.洞調律で重症心室性不整脈を伴わない非虚血性心筋症にはジギタリスを用いる.β遮断薬導入を試みる. NYHA III度:アンジオテンシン変換酵素阻害薬に加えて肺うっ血所見や全身浮腫など体液貯留による症状が明らかである場合にはループ利尿薬,サイアザイド系利尿薬を用いる.カリウム保持性利尿薬とくにスピロノラクトンを併用する.入院としβ遮断薬導入を試みる.非虚血性心筋症で明らかな低血圧の無い症例ではアムロジピンを追加しても良い. NYHA IV度:入院とする.カテコラミン,フォスフォジエステラーゼ阻害薬,利尿薬などの非経口投与を行い状態の安定化を図る.状態の安定化が得られたならアンジオテンシン変換酵素阻害薬,スピロノラクトンを含む利尿薬,ジギタリスなどの経口心不全治療薬への切り替えを行い,さらにβ遮断薬導入を試みる. ○心不全の重症度からみた治療指針(図3) [図:0001411599000005.jpg] 」(p.1046左欄下から13行~同頁右欄11行及びp.1047の図3) (当審注:NYHA I度、NYHA II度、NYHA III度及びNYHA IV度は、それぞれ下記「第7 1(3)」で説示するNYHAクラスI、NYHAクラスII、NYHAクラスIII及びNYHAクラスIVを意味する。) (甲14e) 「3) アルジニン・バソプレシン(AVP)受容体拮抗薬 バソプレシン(arginine vasopressin,AVP)は,血液の浸透圧上昇あるいは循環血液量の減少等に応じて下垂体後葉より分泌され,腎集合尿細管に働き水の再吸収を増加させるよう働くホルモンで,うっ血性心不全において血中濃度が上昇することが明らかとなっている.心不全におけるAVP分泌亢進の機序の詳細は不明であるが,心拍出量の低下,それに続く有効循環血液量の低下が感知され分泌亢進につながっていると推測されている.このうっ血性心不全時の高AVP血症は利尿不全をもたらし,心不全時にみられる浮腫,低ナトリウム血症の一因となっていると考えられている. AVP受容体拮抗薬は,血漿ナトリウム濃度増加作用を有する利尿薬として,現在,臨床治験が進行中である.」(p.1058左欄6~20行) [甲15(Sharon A.Hunt,MD,FACC et al.,「ACC/AHA Guidelines for the Evaluation and Management of Chronic Heart Failure in the Adult:Executive Summary」,Curculation,2001,Volume 104,Issue 24,p.2996-3007)に記載された事項] (甲15a) 「本文書の作成にあたって、作成委員会では、心不全への進行とその進展の両者を重視した新たな分類法を採用することを決定し、これにより心不全を4段階に分類することとした。stage Aは、・・・stage Cは、心臓の構造的変化が基礎にあり、心不全の既往若しくは現在心不全の症状がある段階、stageDは、機械的循環補助、強心薬の持続点滴、心臓移植又はホスピスケア等の特殊な治療を必要とする、末期の段階とした・・・。また、New York Heart Association(NYHA)の心機能分類は、主としてstage C又はDの患者の症状の重症度を評価する分類であるが,本分類法はこの機能分類を補うものであり、これに代わることを意図しているわけではない。しかし、NYHAの心機能分類は医師による主観的評価を反映するもので、しばしば短期間にクラスが変化し、NYHAのクラスが異なっても治療に大きな差がないことが長年にわたって認識されている。」(p.2997左欄下から8行~同頁右欄21行) (甲15b) 「C. 現在症状があるか,以前に症状があった左室機能不全患者(Stage C) ・・・ 2. ルーチンの使用が進められる薬剤 症候性左室機能不全患者のほとんどは、利尿薬、ACE阻害薬、β遮断薬、通常の場合ジギタリスの4種類の薬剤の併用によりルーチンに管理すべきである(21)。これらの薬剤の有用性は、多数の大規模臨床試験により証明されており、その使用が中心的役割を果たしていることについては、非常に説得力のあるエビデンスがある。体液貯留のある患者では、体液状態が正常になるまで、利尿薬を投与すべきであり、さらに、利尿薬投与は、体液貯留の再発を防ぐために、継続しなければならない。また、利尿薬が有効であっても、ACE阻害薬とβ遮断薬は、心不全の長期予後によい影響を与えることが証明されているため、患者に忍容性があるかぎり、投与を開始、継続すべきである。次に、ジゴキシンの投与は、症状を軽減し、運動耐容量を増加させるため、いつでも開始してよい。」(p.3001右欄下から19行~p.3002左欄17~33行) (当審注:ACE阻害薬は、アンジオテンシン変換酵素阻害薬を意味する。) (甲15c) 「D. 難治性末期心不全患者(Stage D) ・・・ 進行性心不全患者の多くは、塩分と体液の貯留による症状を示すため、ナトリウムバランスを回復する治療が有効である。したがって、末期心不全の管理を成功させるために重要なことは、体液貯留を認識し、注意深くコントロールすることである。」(p.3003左欄1~28行) [甲20(European Heart Journal,1997,Vol.18,p.1457-1464)に記載された事項] (甲20a) 「イタリアの病院心臓病学ユニットにおける心不全に関する調査:SEOSI研究の結果 ・・・ 要約 イタリア病院心臓専門医協会(ANMCO)が調整した研究(SEOSI)には、359の心臓病学ユニットが参加した。この研究の目的は次のとおりである。(1)心不全が疑われるまたは既知の患者の何人が病院の心臓病学ユニットに連続して接近するかを評価する。(2)それらの臨床的特徴を評価する。(3)心臓専門医によって開始された診断治療プロセスを定義する。(4)患者に対する病気の社会的および感情的な影響を評価する。 12日間で、3921人の患者が登録された。平均年齢は67±12歳(中央値69)であった。患者の49%はNYHAクラスIII-IVであった。心房細動は27%に存在した。症例の35%は入院が予定されていた。虚血性心疾患は心不全の主な原因であった(42%)。動脈性高血圧が20%、特発性拡張型心筋症が15%、心臓弁膜症が15%を占めた。胸部X線、心電図、心エコー検査は症例の70-80%で、携帯型ECGは36%、運動テストは11%で実施された。ACE阻害薬は63.5%、カルシウム拮抗薬は19%、ベータ遮断薬は5.5%に投与された。NYHA分類に関して、薬剤処方に有意差は認められなかった。多剤使用が一般的であった(3・6±1・6)。主なアドバイスは次のとおりである。塩分制限(47%)と安静(44%);身体活動と正式な運動プログラムは、それぞれ患者の10%と5%に処方された。ほとんどの患者は病院のフォローアップに向けられた。 したがって、心不全は病院の心臓病学ユニットにとって大きな負担となる。毎年約19万人の心不全患者が病院の循環器病棟で治療を受け、約6万5000人が入院していると推定されている。心臓病専門医は、必要な検査と薬の処方の両方に関してかなりよく志向している。β遮断薬と運動療法は非常に慎重に処方されている。簡潔さ、単純さ、低コストを特徴とする本試験の形式は、国の医療制度と医師の行動のいくつかの側面に関する定期的な情報を取得するためのツールとして使用できる。」(p.1457のタイトル及び要約) (甲20b) 「表4は、病因に従って処方された薬剤を示している。利尿薬は77%の患者に、ACE阻害薬は64%に、ジギタリスは63%に、硝酸塩は40%に投与された。・・・NYHAクラスに関連して、患者間で薬剤処方に有意差は認められなかった。処方された薬の数は、NYHAクラスI及びIVの患者でそれぞれ3.6±1.6及び3.5±1.7であった。 [図:0001411599000006.jpg] 」(p.1459右欄2~17行及びp.1460の「Table 4」) (当審注:「Table 4」中のマーカーは当審が付したものである。「Diuretics」は利尿薬を意味する。) [甲27(Journal of the American Society of Nephrology,1999,Vol.10,p.2165-2170)に記載された事項] (甲27a) 「選択的V2受容体バソプレシン拮抗作用は慢性心不全患者の尿中アクアポリン-2の排泄を減少させる」(p.2165のタイトル) (甲27b) 「要約 集合管細胞の頂端膜に位置する水チャネルであるアクアポリン-2(AQP-2)は、バソプレシン(AVP)の制御下で水の再吸収を調節する。ヒトAQP-2に対する抗体を使用して、定量的ウエスタンブロット分析を実施し、慢性NYHA II及びIII心不全患者の経口、非ペプチド、V2受容体拮抗薬(VPA-985)に対する集合管の応答性を判定した。・・・ベースラインの定常状態のAQP-2排泄の定量化は、治験薬投与の前日に尿を採取することにより行った。翌日、患者は4つの異なる用量の1つでプラセボ又はVPA-985のいずれかを受け、尿は2時間毎に採取された。・・・VPA-985は、溶質を含まない水分クリアランスと尿量を大幅に増加させ、尿浸透圧を大幅に低下させた。」(p.2165要約の左欄1行~右欄9行) [乙1(「急性重症心不全治療ガイドライン」,Japanese Circulation Journal,2000,Vol.64,Suppl.IV p.1129-1165)に記載された事項] (乙1a) 「1 急性心不全の定義 心不全はその発現する速さによって急性および慢性心不全に分類される.急性心不全では機能的あるいは構造的異常が急激に発生し,低下した心ポンプ機能を代償する時間がないか,代償機転が充分でないような重篤な障害が起こり招来される病態である.臨床的には急性心不全は心原性肺水腫,心原性ショック及び慢性左室機能不全の急性憎悪の三状態を含むというのが一般的だが1)2),単に急性心原性肺水腫をさすという狭義の解釈もある2). ・・・ 2 急性心不全の症状と自他覚所見及び原因疾患 突然に出現する呼吸困難(発作性夜間呼吸困難を含む),前胸部圧迫感,息切れ,起坐呼吸,精神・神経症状などがあれば急性心不全を疑う.・・・. ・・・ 慢性心不全の急性憎悪では頸静脈怒張,心拡大,肝腫大,浮腫(主に下肢),胸水などのうっ血所見に,さらに上記の急性左心不全症状が加わることが特徴である。 急性心不全の症状,所見を従来の心不全重症度分類にあてはめると,Killip分類ではクラスII~IV度に,急性心筋梗塞に適用されたForrester分類ではsubset II及びIV,また広く用いられているNew York Heart Association(NYHA)分類ではII度の一部,及びIII,IV度が該当してくる.従って,原則としては入院の上,診断の確定と治療が必要となる. 原因疾患は,全ての心疾患があげられ,その多くは左心機能を障害するものである.高年者では心筋梗塞/心筋虚血,高血圧や心筋症が急性心不全の背景になっている場合が多く,若年者では心筋炎にも注意したい.また,年代には関係なく肺血栓塞栓症による循環不全も近年,以前と比べよく認められる.」(p.1132左欄3段落~右欄最終段落) (当審注:「Forrester分類」については乙81a、「New York Heart Association(NYHA)分類」については乙6aを参照。) (乙1b) 「3-3 治療法の基本 急性心筋梗塞時のみならず,あらゆる急性心不全の場合にForrester分類で示された治療方針は基本となる8).即ち,肺毛細管圧18mmHg以上,心係数(L/min/m2)2.2以上(subset II)では利尿薬,血管拡張薬,肺毛細管圧18mmHg以下,心係数2.2以下(subset III)では補液(+必要があればカテコラミン),さらに肺毛細管圧18mmHg以上,心係数2.2以下(subset IV)ではカテコラミン,利尿薬,血管拡張薬,及び大動脈内バルーンパンピング(intraaortic ballon pumping,IABP)とされた.」(p.1134左欄1~10行) (乙1c) 「1 初発急性心不全 1-1.救急処置室における診断手順 初発急性心不全は,基本的に入院が必要となるため、入院を前提とした診断を進めて行く.」(p.1136右欄1~4行」 「III 治療 急性心不全の治療の中心は表6の如く血行動態の安定化と原因疾患に対する治療である.心不全治療の中心は薬物療法であるが,薬物抵抗性の難治性の心不全に対しては機械的補助循環療法を積極的に行うことにより治療成績は向上し死亡率を減少させることも可能となっている. [図:0001411599000007.jpg] 」(p.1141左欄3段落、及び同頁右欄の「表6」) (当審注:「hANP」は心房性ナトリウム利尿ペプチドである(甲14aの「3-1.2)」を参照。) [乙4(「重症心不全-診断・治療・病理の最前線」,株式会社医学書院,2003.01.15,p.69,147-148,231及び234)に記載された事項] (乙4a) 「a.ループ利尿薬 ループ利尿薬はHenle係蹄上行脚のNaClの再吸収を抑制し,強力な利尿作用を発揮する。 ・・・ c.カリウム(K)保持性利尿薬 K保持性利尿薬はその作用部位の違いからアルドステロン拮抗薬とプテリジン系利尿薬に分けられる。前者は遠位尿細管や皮質部集合管においてNa+-K+,Na+-H+交換性Na+再吸収作用に特異的に拮抗し,K+,H+保持性Na+利尿作用を示す。後者はアルドステロン拮抗作用をもたず,遠位尿細管や皮質部集合管に直接作用し,Na+再吸収を抑制する。・・・心不全の治療に単独で用いられることはまれで,低K血症,低Mg血症の予防を目的にループ利尿薬やサイアザイド系利尿薬と併用される。」(p.147左欄1行~同頁右欄8行) (当審注:アルドステロンは、甲14aの2)に記載のように、ナトリウム貯留,マグネシウムやカリウム喪失,交換神経亢進,副交感神経抑制,心筋並びに血管の線維化,圧受容器の機能異常,血管障害等をきたすことが指摘されている神経体液因子である。) (乙4b) 「3.腎機能からみた心不全の治療 a.利尿薬 1)利尿薬抵抗性 心不全ではループ利尿薬がよく用いられるが,重症心不全ではしばしばループ利尿薬の大量投与にも反応せず利尿薬抵抗性を呈する。食事の塩分制限や服薬状態が不良な場合もあるが,経口投与では心不全による消化管の浮腫や血流低下に基づく吸収遅延と作用部位での不十分な濃度ために利尿効果が低下していることも多い。・・・また,ループ利尿薬の長期投与により遠位尿細管細胞の肥厚が認められ,この部位でのNa/KATPaseやNa-Cl共輸送体の密度の増加によるNa再吸収亢進も利尿効果減少の理由と考えられている11,12)。 2)利尿薬の併用 ループ利尿薬に抵抗を示す場合に,作用部位の異なる利尿薬の併用により利尿効果がみられることがある11)・・・。サイアザイド系利尿薬の主な作用は遠位尿細管でのNa再吸収抑制であるが,炭酸脱水酵素も阻害し,心不全で亢進した近位尿細管でのNa・水の再吸収を抑えることにより,Na・水をヘンレ上行脚に送りループ利尿薬の効果をあげる11,12)。」(p.234右欄1~27行) [乙5(「知っておきたい循環器病あれこれ(7)心不全―その症状と治し方―」,財団法人循環器病研究振興財団,1999,「はじめに」及びp.1-16)に記載された事項(当審注:「(7)」は7の丸囲いを意味する。)] (乙5a) 「心不全の治し方 症状が安定しているかどうかによって、心不全は大きく二つに分類されます。というのは、症状が同じでも治療は本質的に異なるからです。 安定した状態から急激に悪化する場合を「急性心不全」、それなりに体全体のバランスがとれ、状態が安定している場合を「慢性心不全」といいます。 ・・・ 一般に急性心不全の時は、入院を必要とすることが多く、安静が必要で、酸素吸入を行ったり、一時的に心臓の働きを高める薬を使ったりします〈図7〉。 また、運動制限が必要ですが、安定期には、逆に負担にならない程度の適度な運動も必要です。 慢性心不全では、心臓に対してはむしろ過度な刺激から守る薬を用います。」(p.10の5~20行) (乙5b) 「慢性心不全の薬による治療:体内の余分な水分を取り除く「利尿剤」、心臓の働きを手助けする「ジギタリス剤」、心臓にかかる負担を軽くするアンギオテンシン変換酵素阻害剤などの「血管拡張剤」、長期的には心臓に障害を与えやすい神経やホルモンの作用を抑制する「ベータ遮断剤」などがあります。」(p.12の4~8行) (当審注:「アンギオテンシン変換酵素阻害剤」は、アンジオテンシン変換酵素阻害薬及びACE阻害薬と同義である。) [乙6(「新薬理学入門」,株式会社南山堂,1997,p.155)に記載された事項] (乙6a) 「強心薬とは心筋収縮力を増強する薬物であり,心不全heart failureに治療応用される.心不全とは何らかの理由で(特に心臓疾患の末期になって),心臓のポンプ機能が低下し,心拍出量が減少することである。そのために末梢組織や肺などの臓器組織への血液循環が滞り,その結果,生体に備わっている代償作用(血管収縮と水分貯留)を引き起こして,共通する臨床症状(呼吸困難,浮腫,乏尿,チアノーゼ)が現れてくる。この代償作用は短期的には合目的的であるが,慢性心不全の発症・進展という面から見ると,悪循環の回路を形成している。症状が現れてくる前に,悪循環の代償機構が先行していると考えられている。心不全の出現は患者の日常生活を著しく損ない,生命予後を短縮する。重症な場合(NYHA IV度)には治療されなければ1年間の死亡率が50%以上にもなる(表4-3)。 [図:0001411599000008.jpg] 」(p.155の4~13行及び「表4-3」) (乙6b) 「1.心不全の治療指針 ・・・心不全の治療は弱った心筋収縮力を増加させる(陽性変力作用)とともに,循環血液量を減らし(主に前負荷軽減),末梢抵抗を減らして(主に後負荷軽減)心臓へかかる負担を減少させることにより行われている。・・・。 慢性心不全の多くは原因疾患の根本的な治療ができないので対症的な治療が行われている。安静を守り,心臓に加わった過重な負荷を塩分制限,利尿薬により取り除き,強心薬により心筋収縮力および心拍出量を高め,血管拡張薬で前・後負荷を軽減させるのが原則である・・・。慢性心不全の治療薬として現在広く用いられているものは利尿薬,ジギタリス,ACE阻害薬の3種類である。」(p.155の下から9行~最下行) [乙7の1(European Heart Journal,2002,Volume 23,Issue 23,p.1861-1866)に記載された事項] (乙7の1a) 「任意抽出の外来心不全患者における1年死亡率 ・・・ 目的 任意抽出の外来心不全患者を対象に1年死亡率及び予後因子を推定することと、その観察された実死亡率と一般開業医の推定値を比較すること。 方法及び結果 411例のニューヨーク心臓協会(NYHA)クラスII-IVの治療継続心不全患者(患者集団の平均年齢75歳、男性が56%)をスイス国内の一次診療所71ヵ所で組み入れた。・・・NYHAクラスII、III及びIVの心不全患者では、死亡率はそれぞれ7.1%、15.0%及び28.0%であった。 ・・・ 結論 任意抽出の外来心不全患者は予後が不良であり、特に重症心不全患及び心疾患による直近の入院があった患者で不良であった。一般開業医はますます増えつつあるこのような患者集団の高い死亡率を認識している。」(p.1861のタイトル及び要約) (乙7の1b) 「NYHAクラスII、III及びIVの心不全患者では、総死亡率はそれぞれ7.1%、15.0%及び28.0%であった(図1)。 [図:0001411599000009.jpg] 」(p.1862右欄下から2行~1行及びp.1863左欄のFigure1) [乙12の1(Congestive Heart Failure,2002,Vol.8,p.80-85)に記載された事項] (乙12の1a) 「うっ血性心不全患者における利尿薬抵抗性及び抵抗性克服戦略 うっ血性心不全は、慢性で進行性のポンプ不全及び体液貯留を特徴とする複雑な臨床的血行障害である。うっ血性心不全の死亡率に及ぼす利尿薬療法の全体的影響は依然不明であるが、利尿薬は依然として症候性うっ血性心不全管理に極めて重要な要素である。時間とともに、適切な水分排出が生じる前に、ナトリウムと水の排泄が増加しなくなる。この現象は、利尿薬治療中のうっ血性心不全患者3例中1例に発生すると考えられており、利尿薬抵抗性と呼ばれている。うっ血性心不全では、薬物動態的変化および薬力学的変化の両方が利尿薬抵抗性の原因だと考えられている。慢性の疾患であることから、症状管理は生活の質向上に不可欠で、そのため利尿反応の増強が極めて要である。」(p.80のタイトル及び要約) (乙12の1b) 「利尿薬抵抗性 利尿薬抵抗性を定量するのは難しいが、うっ血性心不全患者3例中1例に起こると考えられている。心不全は、利尿薬抵抗性が観察される最も一般的な臨床的状況である。軽度うっ血性心不全では、腎機能が保存される限り、利尿薬抵抗性は通常は起こらない。しかし、中等度及び重度のうっ血性心不全患者では、利尿薬抵抗性がより頻繁に起こり、しばしば臨床的に問題となる21,22。」(p.81右欄1~10行) [乙27(「新薬理学入門」,株式会社南山堂,1997,p.7-8)に記載された事項] (乙27a) 「3. 用量反応関係dose-response relation(図1-5) 生体において薬物の作用は用いられる量,適用量(用量dose)に依存する.薬は用量があまりに少なすぎれば,作用が生じる閾値濃度以下の用量つまり無効量となり,効果を現すことがない.薬の効果を現すのに必要な最小の量をその薬の最小有効量という. 治療のために薬を投与するときは,その薬が十分に効果を発揮することを期待して用いるのであるから,最小有効量では不十分である.平均して最大効果の半分の効果を現す量を50%有効量,ED50といい,これを中心にして治療に普通用いられる薬の用量を常用量という.」(p.7の1~8行) (乙27b) 「 [図:0001411599000010.jpg] 」(p.7の「図1-5」) [乙50(日薬理誌,Vol.114,補冊1,1999,p.113P-117P)に記載された事項] (乙50a) 「新規バソプレシンV1A/V2両受容体遮断薬YM087の薬理作用 ・・・ 要約:Conivaptan hydrochrolide(YM087)の薬理作用をin vitroおよびin vivo実験にて検討した.・・・以上の結果より,YM087は世界初の経口投与で有効なV1A/V2両受容体遮断薬であることが示され,心不全や低ナトリウム血症の治療薬としての有用性が示唆された。」(p.113Pのタイトル及び要約) (乙50b) 「経口投与可能なAVP受容体遮断薬の創製研究をするうえで留意した点は前述した浸透圧系および血圧・容量系によるAVP分泌制御機構であった.すなわち,選択的なV2受容体遮断による急速な水の喪失は血漿浸透圧の上昇と体液量の減少を招き,AVP分泌を刺激する。血中AVPレベルの上昇によるV1A受容体刺激は心血管系および腎臓に好ましくない作用をもたらす危険性が大いにある。特に、心不全患者には悪影響を及ぼすことが容易に推察される。これらの不都合な作用は、V1A受容体遮断作用を併せ持つことにより防ぐことができる。そこで、V1A/V2両受容体遮断作用を併せ持つ非ペプチド性化合物の創製研究に着手した。」(p.113Pの下から3行~p.114Pの3行)(当審注:Conivaptan hydrochrolide(YM087)は、甲3の「Table1」(甲3b)に記載されているバソプレシンV1A/V2受容体拮抗薬である。) [乙51の1(European Journal of Pharmacology,1997,Vol.321,p.225-230)に記載された事項] (乙51の1a) 「ヒト及びイヌにおいて、OPC-31260の静脈内及び経口投与により、血漿浸透圧の上昇及び急速な血漿中バソプレシン濃度上昇が誘発されること、並びにこれらの作用はバソプレシンV2受容体遮断の結果生じる急速な水分喪失に起因することが報告されている(オオニシら、1993、1995;シミズ、1995;ナイトウら、1994)。そのため、バソプレシンV2受容体遮断下に、循環血中濃度が上昇したバソプレシンがバソプレシンV1A受容体サブタイプと相互作用し、うっ血性心不全及び腎疾患を含む一部疾患において、望ましくない生物学的反応を生じる可能性があるということは想像できる。こう考えることは、うっ血性心不全のイヌに、バソプレシンV1A及びV2受容体拮抗薬を併用投与した際、各拮抗薬を単独投与した場合よりも有益な作用が発揮されたこと(ナイトウら、1994)及び進行性腎不全ラットにおいて、バソプレシンV1A及びV2受容体拮抗薬の併用により腎保護作用が得られたこと(オカダら、1994)を示した一部の試験によって裏付けられる。」(p.229右欄26~45行) (当審注:OPC-31260は甲3のTable1(甲3b)に記載されているバソプレシンV2受容体拮抗薬である。) [乙52の1(Cardiovascular Research,2002,Vol.54,p.13-15)に記載された事項] (乙52の1a) 「臨床的観点から、AVPの拮抗作用の重要な問題は、どの種類の拮抗薬を、どのような状況で使用するかに関わる。純粋なV2拮抗薬は、代償された、体液量非増加状態では大した価値はないかもしれないが、利尿薬節約効果が実証された場合、ループ利尿薬の補助としての有用性が証明され、レニン-アンジオテンシン系及び電解質不均衡への有害刺激が軽減される可能性がある。しかし、競合的拮抗薬投与後にAVP濃度が上昇した場合、純粋なV2拮抗薬が不必要なV1a作用を刺激するのもわかる。このことは本試験でみられた。この作用を防ぐには、複合的な拮抗作用が最も望ましい。選択的V1a拮抗薬なら、直接的に心筋への最大利益をもたらす可能性があり、不必要な利尿を引き起こさないと思われるが、AVP濃度上昇によりV2刺激が生じた場合、水貯留が引き起こされる可能性がある。したがって、純粋なV2拮抗作用のように、純粋なV1a拮抗作用は、長期的には実臨床では賢明でないかもしれない。V1a及びV2拮抗作用の混合物を調整することにより、理論的には、所定の化合物の予定された効用、すなわち、病状がより重い体液量が増加した患者にはより多くのV2作用、及び体液量非増加状態の安定した集団には長期作用のためより多くのV1aということに通じる。」(p.14左欄下から14行~同頁右欄9行) [乙72の1(Clinical Pharmacology & Therapeutics,1999,Vol.65,Issue 2,p.201の「PIII-100」)に記載された事項] (乙72の1a) 「OPC-41061(OPC)、フロセミド(F)及びヒドロクロロチアジド(H)の薬物動態学的(PK)・薬力学的(PD)相互作用」(乙72の1のタイトル) (乙72の1b) 「OPCは新規のV2受容体拮抗薬である。12名の健常ボランティアを対象とした無作為化非盲検3期間クロスオーバー試験の目的は、FとHがOPCの水利尿活性に影響を与えるかどうか、OPCがFとHのナトリウム利尿活性に影響を与えるかどうかを判断することであった。投与(T)群1の被験者(n=6)は、OPC30mg、F80mg又はOPC30mg+F80mgの単回投与を受けた。T群2の被験者(n=6)は、OPC30mg、H100mg又はOPC30mg+H100mgの単回投与を受けた。各Tも間に1日の休薬期間を設けた。投与後24時間まで血漿と尿を採取し、HPLC法を用いてOPC、F、Hを分析した。PKパラメータはノンコーパートメント法を用いて算出した。F及びHは、OPCのCmax(平均-OPC:0.28対OPC+F:0.33 μg/mL)及びAUC(平均-OPC:1.68対OPC+F:2.08 μg・hr/mL)に影響を与えなかった。PDパラメータは、ベースラインからの変化率(%Δ)で表され、尿量、血漿アルギニンバソプレシン(AVP)及びレニンが含まれていた。平均化した結果は以下のとおりである。 [図:0001411599000011.jpg] 結論として、OPCを利尿薬と併用して投与した場合、OPCとF又はHとの間に臨床的に有意なPK及びPD相互作用は認められなかった。」(乙72の1の本文及び表) (当審注:「OPC-41061(OPC)」は本件発明における活性成分である(トルバプタン(Tolvaptan)とも称される。下記第7の1(1)を参照。)) [乙78(「標準薬理学(第5版)」,株式会社医学書院,1997,p.260-267に記載された事項] (乙78a) 「B.利尿薬diuretics 1.概念 利尿薬diureticsは,主として腎臓に作用して,尿中への水,Na+の排泄を増加させる薬物である。・・・。 水,Na+をともに排泄させることは利尿薬の作用の基本であるが,一般には,Na+の排泄を増加させることにより,水もそれに伴って排泄が増加するので,利尿薬は尿中へのNa+の排泄を増加させる薬であるということもできる。この意味で利尿薬はナトリウム利尿薬natriureticsまたは塩利尿薬salureticsとも呼ばれる。 ・・・ 一方,ADH不適切分泌症候群(SIADH)のように,水のみが細胞外液に貯留して,低ナトリウム血症が起こるような場合には,水だけを選択的に排泄する必要がある。このような目的の薬物は水利尿薬aquareticsと呼ばれる。 2.臨床応用 利尿薬は第1に,浮腫,腹水のように細胞外液に貯留した水,Na+を体外に出すことを目的として使われる。浮腫をきたす疾患としては腎疾患,肝疾患,心疾患が主要なものである。」(p.260左欄~右欄の「B.利尿薬diuretics 1.概念」~「2.臨床応用」の1~4行) (当審注:「ADH」は抗利尿ホルモンを意味する。) (乙78b) 「3.分類(表14-4) 利尿薬はその効力の違いによって,大きく3群に分けられる。効力の違いによって利尿薬を分類することは,臨床における薬の選択という面でも,また作用機序,作用部位の違いを示す上でも重要である。図14-2は主な利尿薬の作用部位を模式的に示したものである。利尿薬の効力は,最大利尿時に糸球体濾過量の何%のNa+が排泄されるかが,おおよその目安になる(表14-5)。 [図:0001411599000012.jpg] [図:0001411599000013.jpg] [図:0001411599000014.jpg] 」(p.261右欄2段落~p.262左欄1段落、p.260の「表14-4」、p.261の「図14-2」及び「表14-5」) (当審注:「GFR」は「糸球体濾過量」の略語であり、単位時間あたりに腎臓の糸球体で濾過される血液の量を意味する。GFRは腎機能の機能評価に用いられる値である。) (乙78c) 「6.水利尿薬 ADHの不適切分泌によって循環血漿量が増加し,低ナトリウム血症となる。このような特殊な病態の治療には水のみを選択的に排泄させることが必要である。これにはdemecrocycline,炭酸リチウムなどがある。最近,ペプチド性のバソプレシンV2受容体拮抗薬が開発され、その臨床応用が試みられている。」(p.264左欄の「6.水利尿薬」) [乙81(「標準循環器病学」,株式会社 医学書院,2001,p.109-114)に記載された事項] (乙81a) 「〔急性心不全〕 急性心不全に対しては血行動態の改善による救命が当面の治療目標である。原則的に,集中治療室に収容しSwan-Ganzカテーテルを留置し,Forrester心機能分類に応じた治療を行う(図4-8)。利尿薬,硝酸薬に加えカテコラミン製剤やホスホジエステラーゼ(PDE)阻害薬などの強心薬を必要に応じて使用し,血行動態の改善をはかる。PDE阻害薬は,持続投与すると耐性を生じその効果が減弱するため,間欠的投与が試みられ,効果を上げている。 [図:0001411599000015.jpg] 」(p.109「〔急性心不全〕」、及び「図4-8 Forresterの分類」) (当審注:「図4-8 Forresterの分類」中のマーカーは、当審が付したものである。) (乙81b) 「b.心不全自体の治療 現在,利尿薬,強心薬,ACE阻害薬にβ遮断薬を加えた薬物療法が標準的となっている(図4-9)。 [図:0001411599000016.jpg] 」(p.110右欄2段落1~4行及び「図4-9」) (当審注:「図4-9慢性心不全の段階的治療」中のマーカーは、当審が付したものである。) (乙81c) 「I.経過・予後 (1)急性心不全 急性心筋梗塞の場合,肺水腫合併例の死亡率は10~20%,心原性ショックに陥った症例の死亡率は50%以上と報告されている。生存例では徐々に代償機転が働いて急性期を脱する。回復の程度は基礎疾患の重症度に依存するが,ほとんど心機能障害を残さない症例から重症の慢性心不全に移行するものまで多彩である。 (2)慢性心不全 慢性心不全の年間死亡率はNYHA分類のIII度の患者では約20%,IV度では60%以上と報告されている。心臓病をもつ患者はいずれ心不全に陥るが,その死の型は必ずしも“心臓死”とは限らず,“非心臓死”が少なくない。心不全の予後は基礎にある心臓疾患の病態によって異なり,治療による延命効果の評価も異なってくる。狭義の“心臓死”とは,心機能の低下による心機能不全と不整脈などによる突然死である。しかし,肺感染や呼吸不全による死,腎や肝の機能不全による“非心臓死"では,どの程度心不全の治療経過,経年的増悪などと関連づけて判断するかが問題である。・・・心不全治療に伴う副作用,薬物中毒などの合併死因,あるいは別の病態の出現,血栓塞栓症などの二次的変化の関与,さらには動脈硬化性病変の経年的進行などとの因果関係をどのように評価するかなど問題がある。予後と関連する因子として左室駆出率,運動能力の低下,低Na血症,心室性不整脈,血漿ノルエピネフリン濃度の上昇などが報告されているが,いずれの指標も重症度を反映するものであり,一般的には予後は重症度に依存すると考えてよい。」(p.114左欄~右欄の「I.経過・予後」) (当審注:「(1)」及び「(2)」は、それぞれ■の中に白抜きの数字1及び2を示す。) [乙86の1(「●心不全診療の最前線-[III]心不全の治療 2. QOL・予後改善からみた慢性心不全の薬物療法」,第122回日本医学会シンポジウム記録集,2002年12月5日,p.59-64)に記載された事項] (当審注:乙86の1及び乙86の2の記載からすれば、2002年12月5日に日本医学会が主催するシンポジウムが開催され、記録集はこのシンポジウムの内容を示すものと認められるから、記録集に記載されたシンポジウムの内容は、2002年12月5日には公然知られたものであるといえる。) (乙86の1a) 「2.QOL・予後改善からみた慢性心不全の薬物療法 ・・・ 心不全,ことに慢性心不全の治療戦略はその病態に対する考え方とともに大きく変遷してきたといえる.心不全は長らく,うっ血や浮腫ととらえられ,ジギタリスに加え,利尿薬が用いられた.・・・臨床応用された. しかし80年代後半から,心不全領域でもランダム化臨床試験(RCTs)の結果に基づいた治療(EBM)が志向され,生命予後改善効果を指標とした大規模臨床試験が行われ,大部分の強心薬は,自他覚症状の急性改善効果は有するものの,長期投与するとむしろ生命予後を短縮することが示された。・・・現在,無理に収縮力を高めるのではなく,活性化し障害的に作用する神経・体液性因子から心筋を保護する立場へと,心不全治療の転換が図られている.すなわち,ACE阻害薬,AII拮抗薬,β遮断薬などの使用である. また,従来の心不全薬物治療におけるRCTsは、Primary endpointとして生命予後の延長という「いかに多く生きるか」という量的なとらえ方が中心であった.しかし,今後は「精神的,身体的にいかによく生きるか」という質的なとらえ方,すなわち,QOLの概念へも配慮した治療展開が模索され,新たな薬剤の開発・臨床応用の進むことが期待される.」(p.59のタイトル及び本文1行~最終行) (乙86の1b) 「1.心不全の診断・治療の変遷 心不全,ことに慢性心不全の病態および薬物治療に対する考え方は時代とともに大きく変化した(図1). [図:0001411599000017.jpg] 」(p.60左欄1~4行及び図1) (乙86の1c) 「4.量的なとらえ方から質的なとらえ方への転換 心不全領域において,1980年代から始まったRCTsより,EBM(evidence-based medicine)に基づいた治療が展開した.その中で,慢性心不全における強心薬のRCTsではいずれも生命予後を悪化させた.・・・. ・・・ QOLは,“精神的,身体的にいかによく生きるかという生活のとらえ方”と定義されている.1948年,WHOが健康の概念を「病気がなく,病弱でもないばかりか,肉体的,精神的,社会的にもよく生きている状態」と定義して以来,QOLは実地診療や臨床試験において健康状態を把握するための重要な概念との認識が広まった.強心薬の例のように,ただ単に細く長く生きるのではなく,太く短く生きることも患者の選択肢の中に加えられるべきではないかという議論がある. ・・・ 各心不全薬のQOLおよび予後に対する効果を示す(表)が,QOLと生命予後とは必ずしも一致しないことがよく分かる10).今後の心不全におけるRCTsでは,たとえば臨床症状,運動耐容能,QOLなどの指標と,死亡や入院といったイベントを統合的に評価する複合エンドポイント(composite endpoint)を導入したほうがよい場合もあろう. [図:0001411599000018.jpg] 」(p.62右欄~p.63右欄の「4.量的なとらえ方から質的なとらえ方への転換」及びp.63右欄の「表」) (乙86の1d) 「心不全に対して,従来運動耐容能の向上をめざす等,心臓の収縮力を高める方向が指向されてきましたが,これでは心不全はよくならない.心臓を保護するような薬剤が,長い目で見るとQOLの改善と寿命延長をもたらすことがエビデンスとして示されました.」(p.64右欄2段落6~12行) [引1(HEPATOLOGY,2003年1月,Vol.37,p.182-191)に記載された事項] (引1a) 「バソプレシン受容体拮抗薬(VPA-985)は低ナトリウム血症患者の血清ナトリウム濃度を改善する:多施設、無作為化、プラセボ対照試験 ・・・ 進行した肝硬変及び腹水又はうっ血性心不全(CHF)における低ナトリウム血症は、遠位腎臓ネフロンにおける特異的V2受容体の活性化を介して水分再吸収を増加させるバソプレシン分泌の不適切な上昇の結果である。本研究では、V2受容体拮抗薬VPA-985の入院期間中の低ナトリウム血症の補正における3種類の異なる用量の有効性と安全性を検討する。入院患者44例(肝硬変患者33例、うっ血性心不全患者6例、不適切な抗利尿ホルモン症候群(SIADH)患者5例)を対象に、25、125、250mgのVPAを1日2回、又はプラセボを投与し、一定のナトリウム摂取を検討した。血清ナトリウムの測定は、毎日の投与後に繰り返し、次の投与は血清ナトリウムの過剰上昇のために差し控えた。水分摂取量は、以前の24時間での尿量に従って調整した。有害事象は脱水症又は脳症の臨床徴候に基づいていた。VPA-985はプラセボと比較して有意な全体的な水利尿反応をもたらし、自由水クリアランス(P<0.05)及び血清ナトリウム(P<0.05)の有意な用量依存性の上昇をもたらしたが、起立性血圧又は血清クレアチニン値に有意な変化は認められなかった。250mgを1日2回投与した患者5例(50%)は、投与を複数回中止した。試験終了時の血漿バソプレシン濃度は、より高用量の2群で有意に上昇した。結論として、VPA-985は、水分貯留に関連する状態における腎臓の水分処理異常及び低ナトリウム血症の是正において、適切な用量で有効かつ安全であると考えられる。VPA-985の高用量投与は、有意な脱水を引き起こす可能性があり、その使用に際しては注意深いモニタリングが必要である。」(p.182のタイトル及び要約) (引1b) 「バソプレシンは、ヘンレ係蹄の上行脚の細胞及びネフロンの集合管の細胞(9)に発現する特異的V2受容体の活性化を介して水分代謝に影響を及ぼす。集合管では、V2受容体の活性化により、水チャネルが他の水不透過性の集合管細胞に挿入されることにより、水の再吸収が直接増加する(10)。V2受容体拮抗薬は、V2受容体に競合的に結合することによってバソプレシンを置換し、腎集合管での水分再吸収を低下させることができる(11)。VPA-985は、非ペプチド性、高選択性の経口活性型V2受容体拮抗薬である。VPA-985は、V2受容体に結合するバソプレシンの競合的阻害剤である(12)。腎臓からの電解質排泄に影響を及ぼすことなく腎臓からの水分排泄を促進し、血清ナトリウム濃度を改善することが示されている(13)。したがって、本研究の目的は、(1)腹水を伴う肝硬変及び心不全、並びに抗利尿ホルモン不適合(SIADH)症候群を含む浮腫状態の患者における低ナトリウム血症の是正における様々な用量のVPA-985の安全性及び有効性、並びに(2)患者の全般的な症状に対するVPA-985の効果を評価することであった。」(p.182右欄2段落~p.183左欄1段落) (引1c) 「患者 1998年1月から1999年1月までの間に、3日間連続で130mmol/L未満の安定した低ナトリウム血症を有する入院患者44例を、様々な用量のVPA-985の安全性と有効性を評価する多施設無作為化プラセボ対照試験に登録した。試験群は、肝硬変及び腹水を認める患者33例、肝硬変及びうっ血性心不全(CHF)を認める患者1例、うっ血性心不全(CHF)を認める患者5例、及び腫瘍の存在とは無関係のSIADHを認める患者5例で構成された。・・男性31例、女性13例で、平均年齢は51.3±1.6歳(平均±SEM)であった。・・・うっ血性心不全(CHF)患者6例(1例は肝硬変を併発した患者)のうち、1例はニューヨーク・クラスIの症状を示し、2例はクラスIIIの症状を示したが、他の3例はクラスIVの症状を示した。・・・。」(p.183の「Patients」) [引2(Exp.Opn.Invest.Drug,2001,Vol.10,Issue 10,p.825-834)に記載された事項] (引2a) 「経口活性型の非ペプチドバソプレシン受容体拮抗薬の開発と治療適応 ・・・ バソプレシン(AVP)は、自由水再吸収、血管収縮、細胞増殖及び副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)分泌を含む多くの生理学的効果を示す環状ノナペプチドホルモンである。健常生物では、AVPは体液の浸透圧と体液量の状態のホメオスタシスに重要な役割を果たす。しかし、AVPの不適切な分泌症候群(SIADH)、うっ血性心不全、動脈性高血圧、肝硬変、ネフローゼ症候群、月経困難症、及び高眼圧のようないくつかの疾患又は病態において、AVPはその病態生理において重要な役割を果たす可能性がある。近年、経口活性型の非ペプチドAVP受容体拮抗薬が、化学物質のランダムスクリーニングとリード化合物の最適化によって開発された。これらには、V1-血管受容体サブタイプ及びV2-腎臓のAVP受容体サブタイプに特異的な薬剤が含まれる。V1/V2二重AVP受容体拮抗薬も研究されている。これらの非ペプチド受容体拮抗薬のいくつかは広範に研究されているが、他のものは現在研究中である。AVP受容体拮抗薬の潜在的な治療適応は以下の通りである: ・動脈性高血圧、うっ血性心不全、レイノー症候群、末梢血管障害、月経困難症におけるV1血管AVP受容体の遮断 ・バソプレシン不適切分泌症候群、うっ血性心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群、及び自由水の過剰貯留とそれに続く希釈性低ナトリウム血症におけるV2-腎臓AVP受容体の遮断 ・ACTH分泌腫瘍におけるV3下垂体AVP受容体の遮断 本総説は、経口活性型の非ペプチドAVP受容体拮抗薬の薬理学とその臨床応用を検討する。」(p.825タイトル~要約) (引2b) 「V2-腎受容体(V2R)は、腎髄質部(並びにMDCK及びLLC-PK1細胞株)の集合管の基底外側膜に発現し、そこでAVPの抗利尿作用を媒介する。AVPがV2Rに結合すると、コレラ毒素感受性G蛋白質Gsの連続的なカップリング、アデニルシクラーゼの活性化、cAMPの産生及びプロテインキナーゼAの活性化が起こり、アクアポリン-2水チャンネル(AQP-2)の腎集合管細胞の管腔表面への挿入が促進され、その後、AQP-2mRNA及び蛋白質の合成が亢進する[15]。」(p.826第2段落16~27行) (引2c) 「OPC-41061(トルバプタン)はOPC-31260[53]の構造変換の最終産物である。3つのヒトAVP受容体サブタイプの各々を含むベクターをトランスフェクトしたHeLa細胞において、OPC-41061は、AVP又はOPC-31260よりも強力にV2-腎受容体へのAVP結合を置換し(それぞれKi=0.4±0.06nM、0.78±0.08nM及び9.42±0.9nM)、cAMP産生を阻害した。V3-下垂体受容体の拮抗作用やアゴニスト活性は認められなかった。OPC-41061は、Ki=12.3±0.8nMで、V1-血管受容体のより弱い阻害を示した。ラット肝臓V1及びラット腎臓V2受容体のデータは、V2受容体に対するより大きな選択性、それぞれ、Ki=325±41nM及び1.33±0.30nMを明らかにした。単回経口投与により、試験した用量(0.3~10mg/kg)で用量依存的な水利尿が確認された。OPC-41061の長期経口投与(1~10mg/kg)では、血清浸透圧、ナトリウム、クレアチニン、尿素窒素に変化は認められなかった[54]。28日間の投与期間中、血漿レニン活性及びアルドステロンレベルは徐々に低下したが、AVPの下垂体分泌にはほとんど変化が認められなかった。・・・OPC-41061は、CHF、SIADH及び肝硬変を含む様々な病因による低ナトリウム血症の患者を対象に研究されている。二重盲検プラセボ対照試験では、うっ血性心不全患者250例(NYHAクラスI~III)をトルバプタン30mg、45mg、60mg、又はプラセボを1日1回、25日間投与する群に無作為に割り付けた[55]。1kg未満の安定した体重減少が記録され、脚の浮腫は顕著に減少した。実薬投与により尿量が増加し、尿浸透圧が低下したが、血清ナトリウムは正常範囲に回復した。その他の生物学的パラメータ及び血圧は変化しなかった。このランダム化比較試験は、経口的に活性のある非ペプチドV2腎受容体拮抗薬が、有害な生物学的変化なしにCHFの浮腫性症状を緩和することができることを示唆している。」(p.829左欄最終段落~右欄第1段落) (当審注:「CHF」はうっ血性心不全、「SIADH」はバソプレシン(AVP)の不適切な分泌症候群を意味する。) 第6 本件明細書の発明の詳細な説明に記載された事項 本件明細書(甲1)の発明の詳細な説明(以下「発明の詳細な説明」ともいう。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付した。 【発明の詳細な説明】 【0001】 (技術分野) 本発明は、活性成分としてベンゾアゼピン化合物を含む薬剤を用いて重症心不全を治療する方法、およびそれに用いられる薬剤に関する。さらに詳しくは、本発明は、式(1): 【化1】 [図:0001411599000019.jpg] [式中、 R1は水素原子またはハロゲン原子であり、 R2は水酸基または式:-NR5R6(R5およびR6は同一または異なって、各々水素原子または低級アルキル基である)の基であり、 R3は水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、または低級アルコキシ基であり、 R4はハロゲン原子、低級アルキル基または低級アルコキシ基である] のベンゾアゼピン化合物またはその医薬的に許容される塩の治療上の有効量を、治療が必要な患者に投与することからなる、重症心不全の治療方法に関する。 【0002】 本発明はさらに、活性成分として上記ベンゾアゼピン化合物(1)を含む 重症心不全の治療薬、並びに重症心不全の治療用薬剤を製造するための上記ベンゾアゼピン化合物(1)の使用を提供する。 【0003】 (背景技術) 式(1)のベンゾアゼピン化合物は、バソプレシン拮抗作用を有し、血管拡張剤、降圧剤、利尿剤、血小板凝集抑制剤等として有用であることが知られており(WO91/05549、米国特許第5,258,510号、米国特許第5,753,677号、特開平6-80641参照)、さらにこれらの化合物はまた、オキシトシン拮抗剤(WO94/01113)、白内障治療剤(WO94/18975、米国特許第5,827,862号)、脳浮腫治療剤(特開平8-157368、メニエール病治療剤(特開平10-120592)、または抗潰瘍剤(特開平7-188021)としても有用であることが知られている。 ・・・ 【0006】 心不全は左心室の機能および神経ホルモン調節の異常が特徴の複雑な臨床症候群として定義され、それらは労作不耐性、水分貯留、および寿命の減少につながる。 【0007】 心不全は、臨床症状や疾患の経過に基づいて「急性心不全」および「慢性心不全」または「慢性心不全の急性憎悪期」に分類される。 【0008】 心不全の治療処置は症状、すなわち慢性期か急性期かによって全く異なる。慢性心不全の治療では、残っている心不全症状の軽減および急性憎悪に陥らないように安定な状態を維持するよう治療される。一方、患者が急性憎悪に陥ってしまった場合は、病状が急速に悪化し、生命を脅かされるので、この観点から、とりあえず呼吸や血圧を制御し、強心薬を使って臨床症状を改善して安定化させ、救命を図ることが必要であり、血行動態的観点では、心拍出量の増加、循環血液量の減少、腎血流量の増加を図ることが必要である。 【0009】 心不全のほとんどは原因療法で治療ができないので、症状は時間の経過とともに徐々に悪化していく。たとえ一時的な対症療法で心機能を回復するとしても、該機能は後に悪化し、根治はあり得ない。悪化の速度は、基礎疾患の種類、重症度、治療の有効性、生活環境などの種々の因子によって左右される。また、良好な回復の経過をたどりながら、患者が時には予期せぬ突然死を起こすことがある。心不全の患者は生存に関しての予後が悪い。心疾患のすべての患者のデータを含むアメリカのフラミンガム研究での統計によれば、心不全を起こしてからの50%生存率は約4年である(Kannel,WB,etal.,1982,Mckee,PA,etal.,1982)。また、ニューヨーク心臓協会の分類において、重症度Iの疾患の患者は良好な予後を示すが、重症度IVの患者では、50%生存率が1年以内、重症度IIまたはIIIの患者では、50%生存率が4年以内を示す。従って、重症心不全と診断された患者の予後は悪い(Integrated Handbook of Internal Medicine,Volume 30,1990,Nakayma Shoten)。 【0010】 (発明の開示) 本発明者らは、重症心不全の治療方法、並びにそれに有効な新規な薬物の探索研究を鋭意行ってきた。その結果として、式(1)のベンゾアゼピン化合物が重症心不全の治療に有効であることを見出し、本発明を完成した。 ・・・ 【0031】 (発明を実施するための最良の形態) 本発明の重症心不全の治療方法に適した薬物は、活性成分として少なくとも1つの上式(1)のベンゾアゼピン化合物またはその医薬的に許容される塩を含む。 ・・・ 【0035】 また、明細書および特許請求の範囲にある用語「重症心不全」とは、急性心不全または慢性心不全の急性憎悪期で、例えば、ニューヨーク心臓協会の分類で重症度IIIおよびIVを意味する。ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IIIおよびIV(The Criteria Committee of the New York Heart Association:Diseases of the Heart and Blood Vessels,Nomenclature and Criteria of Diagnosis,6th ed.P.110,Little,Brown Co.,Boston(1964))は以下のように定義される:重症度IIIの心臓疾患の患者は、身体的活動が著しく制限されることとなる。休息している場合は問題ない。身体的活動が通常以下のため、疲労、動悸、呼吸困難、または狭心痛を引き起こす。重症度IVの心臓疾患の患者は、いずれかの身体的活動を不快なく行うことができなくなる。心不全または狭心症の症状が休息中でさえあり得る。いずれかの身体的活動が行われれば、不快が増大する。 【0036】 ・・・本発明者らの研究によれば、化合物(1)が1日当たりの用量が0.1mg/kgから0.6mg/kg未満の用量範囲、好ましくは1日当たり15mgから45mg/個体の用量で、さらに好ましくは1日当たり約30mg/個体の用量で投与したところ、頻尿等の副作用もなく、体重の減少および尿量の増加に効果があり、それで浮腫および死亡率が改善し得、低ナトリウム血症の患者において、血清ナトリウム値の上昇が認められた。 【0037】 したがって、本発明の方法によれば、予後が悪い重症心不全の患者においてでさえ、その予後が十分改善され、故に本発明の方法は重症心不全の治療に有用である。 ・・・ 【0045】 本発明の活性化合物の投与量は、用法、患者の年齢、性別および他の条件、疾患の重篤さなどに応じて選択されるが、通常1日あたり0.6mg/kg未満、好ましくは1日当たり0.1mg/kgから0.6mg/kg未満の範囲である。適当な用量は1日当たり15mg~45mg/個体の範囲である。 【0046】 (実施例) 本発明は以下の製造例および実施例でより詳細に説明するが、これらに限定されるものではない。 ・・・ 【0048】 製造2 [図:0001411599000020.jpg] 本発明活性化合物、クエン酸、ラクトース、リン酸二カルシウム、プルロニックF-68およびラウリル硫酸ナトリウムを混合する。 ・・・ このように調製された錠剤芯部をバニシングし、タルクを散布し、湿気の吸収を防止する。錠剤芯部に下塗り層を被覆する。錠剤を経口投与するために錠剤芯部を数回バニシングする。錠剤を丸い形状で、平滑な表面するために、さらに下塗り層および滑沢剤によるコーティングがそれに適用される。所望の色合いが得られるまで錠剤を着色コーティング物質でさらに被覆する。乾燥後、被覆錠剤を磨いて均一なグロスの所望の錠剤を得る。 ・・・ 【0050】 実験例 (1)方法: 重症心不全患者(すなわち、急性心不全あるいは慢性心不全の急性憎悪期の患者、ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IIIおよびIV)に、5-ヒドロキシ-7-クロロ-1-[2-メチル-4-(2-メチルベンゾイルアミノ)ベンゾイル]-2,3,4,5-テトラヒドロ-1H-ベンゾアゼピンを1日当たり30、60あるいは90mgの用量で、入院期間から開始し退院後にかけて60日間投与した(詳細は、表1に示す)。 【0051】 (2)結果 結果を表2~7に示す。 統計手法は、表2のデータについてはANOVA法で、表3および4のデータについてはANCOVA法で、表5のデータについてはLog-Rankテストで解析した。 この試験における投与量を1日当たり体重1kg当たりの用量に換算したところ、30mg処置群で0.371±0.096mg/kg(77例)、60mg処置群で0.769±0.205mg/kg(83例)、90mg処置群で1.149±0.283mg/kg(76例)であった(いずれも平均±標準偏差)。 その結果に示されるように、30mg処置群において、全尿排出量が増加し(表2)、体重が減少した(表3)。また、ベースライン(通常(136mEq/L未満)より低い血清ナトリウム濃度を有する患者)における低ナトリウム血症の患者は、血清ナトリウム濃度の上昇が認められた(表4)。 同試験において、入院期間から外来で投与を終了するまでの全期間の死亡率が、投与開始から死亡事象発現までの時間を考慮した解析の結果(Log-Rankテスト)、30mg投与群で対照群に比べて有意に低かった(表5)。また、その最低用量30mgでの処置群では、高用量での処置群のデータに比べて、副作用としての頻尿の発現頻度が低く(表6)、副作用による投与中断例の割合が低くかった(表7)。結果として、本願発明化合物は、投与量を1日体重1kg当たり0.6mg以下にコントロールすることで、重症心不全の優れた治療効果を示すことが明らかになった。 【0052】 【表1】 [図:0001411599000021.jpg] 【0053】 【表2】 [図:0001411599000022.jpg] 【0054】 【表3】 [図:0001411599000023.jpg] 【0055】 【表4】 [図:0001411599000024.jpg] 【0056】 【表5】 [図:0001411599000025.jpg] 【0057】 【表6】 [図:0001411599000026.jpg] 【0058】 【表7】 [図:0001411599000027.jpg] 【0059】 【表8】 [図:0001411599000028.jpg] 【0060】 (産業上利用) 本発明の重症心不全の治療方法は、重症心不全、すなわち、急性心不全あるいは慢性心不全の急性憎悪期の治療に極めて有効である。さらに、本発明の方法はほとんど副作用を伴わずに非常に安全である。このように、本発明は、患者にベンゾアゼピン化合物(1)もしくはその医薬的に許容される塩、および該ベンゾアゼピン化合物(1)もしくはその医薬的に許容される塩を含有する医薬組成物を投与して重症心不全を治療する方法、並びに重症心不全の治療に適した薬物の製造のための該活性化合物の使用を提供する。」 第7 当審の判断 当審は、以下のとおり判断する。 本件発明1~14に係る特許は、無効理由5(進歩性欠如(その1))により無効とすべきものである。そして、本件発明1~14に係る特許は、無効理由1~4、及び無効理由6(進歩性欠如(その2))のいずれによっても無効とすることはできない。 事案に鑑み、以下では、まず本件優先日当時の技術常識について説示し、その後、無効理由5(進歩性欠如(その1))、無効理由6(進歩性欠如(その2))、無効理由1~4の順に判断する。 1 本件優先日当時の技術常識 本件発明の活性成分、利尿薬、バソプレシンV2受容体拮抗薬、ニューヨーク心臓協会(NYHA)が定めた心機能分類、心不全の薬物治療等に関する本件優先日当時の技術常識について、以下に検討する。 なお、以下では本件優先日当時の技術常識を「技術常識」と略して記載することがある。 (1)本件発明の活性成分の別名称 本件発明の活性成分である「5-ヒドロキシ-7-クロロ-1-[2-メチル-4-(2-メチルベンゾイルアミノ)ベンゾイル]-2,3,4,5-テトラヒドロ-1H-ベンゾアゼピン」は、別名「トルバプタン(Tolvaptan)」又は「OPC-41061」とも称される、アルギニンバソプレシン(AVP)のV2受容体拮抗薬である(甲4a及び甲4b、バソプレシンV2については下記(2)イを参照。)。 なお、以下では、本件発明の活性成分及び「アルギニンバソプレシン(AVP)」を、それぞれ「トルバプタン」及び「バソプレシン」とも記載する。 (2)利尿薬、バソプレシンV2受容体拮抗薬、及びトルバプタンの利尿作用 ア 利尿薬の種類、作用部位及び臨床応用 (ア)利尿薬は、主として腎臓に作用して、尿中への水、Na+の排泄を増加させる薬物である。一般には、Na+の排泄を増加させることにより、水もそれに伴って排泄が増加するので、利尿薬はナトリウム利尿薬又は塩利尿薬とも呼ばれるが、他方、「水利尿薬」と呼ばれる、水だけを選択的に排泄するための利尿薬もある(乙78a、乙78c)。 また、利尿薬は、その効力の違いによって、高い効力の利尿薬(例:ループ利尿薬)、中程度効力の利尿薬(例:サイアザイド系利尿薬)、弱い効力の利尿薬(例:炭酸脱水素酵素阻害薬、スピロノラクトン等のカリウム保持性利尿薬、浸透圧利尿薬)の3群に大別される(乙78bの「表14-4」)。 [図:0001411599000029.jpg] (イ)主な利尿薬の作用部位は以下のとおりである(乙78bの「図14-2」及び「表14-5」)。利尿薬の効力は、最大利尿時に糸球体濾過量(GFR)の何%のNa+が排泄されるかが、おおよその目安になる。 [図:0001411599000030.jpg] [図:0001411599000031.jpg] そして、本件発明の活性成分であるトルバプタン(バソプレシンV2受容体拮抗薬)は水だけを選択的に排泄するための「水利尿薬」(上記(ア))であり、その作用部位は腎髄質部の集合管である(下記イ及びウを参照。))。 (ウ)利尿薬の臨床応用は、第1に、浮腫、腹水のように細胞外液に貯留した水、Na+を体外に出すことを目的とするものであり、浮腫をきたす疾患としては、腎疾患、肝疾患及び心疾患が主要なものである(乙78a)。 イ バソプレシンV2受容体拮抗薬 (ア)バソプレシン、及びバソプレシンV2受容体 バソプレシンは、血液の浸透圧上昇あるいは循環血液量の減少等に応じて下垂体後葉より分泌される、腎集合尿細管に働き水の再吸収を増加させるよう働くホルモンで、うっ血性心不全において血中濃度が上昇することが明らかとなっている(甲14e)。 バソプレシンは、自由水吸収、体液浸透圧、血液量、細胞収縮、血圧の調節に重要な役割を果たす、強力な抗利尿ホルモンであり、その多様な作用は、V1-血管(V1)タイプa及びb、V2-腎(V2)タイプ及びV3-下垂体(V3)タイプという、各種のGタンパク質共役受容体サブタイプによって媒介される(甲4b)。 そして、バソプレシンV2-腎(V2)タイプの受容体は、腎髄質部の集合管の基底外側膜に発現し、そこでバソプレシン(AVP)の抗利尿作用を媒介する(引2b)。 なお、以下では、バソプレシンV2-腎(V2)タイプの受容体を「バソプレシンV2受容体」という。 (イ)バソプレシンV2受容体拮抗薬 バソプレシンV2受容体遮断は、うっ血性心不全の進行だけでなく、肝硬変、ネフローゼ症候群、過剰な体液貯留及びその後の希釈性低ナトリウム血症を含むあらゆる状態に対しても有効である(甲4c)。 そして、各種のバソプレシンV2受容体拮抗薬及びバソプレシンV1A/V2受容体拮抗薬について、その利尿作用に関して多数の報告がなされている(甲3、甲4、引1、引2、乙50~52、乙72の1、乙78等)。 ウ 本件発明の活性成分であるトルバプタンの利尿作用 本件発明の活性成分であるトルバプタン(OPC-41061)は、疾患進行性うっ血性心不全の治療薬としてさらなる開発のために選択された、特異的かつ選択的な非ペプチド性の経口活性を有するバソプレシンV2受容体拮抗薬であり、経口投与で強力な水利尿薬として作用する薬物である(甲4d、引2c)。 (当審注:「水利尿薬」は,尿中に、水だけを選択的に排泄させる利尿薬である(上記ア(ア)、乙78a及び乙78c)。) (3)ニューヨーク心臓協会(NYHA)が定めた心機能分類 心不全とは、何らかの理由で心臓のポンプ機能が低下し、心拍出量が減少することである。心不全により末梢組織や肺などの臓器組織への血液循環が滞ると、生体に備わっている代償作用(血管収縮と水分貯留)が引き起こされて、呼吸困難,浮腫,乏尿,チアノーゼのような臨床症状が現れてくる(乙6a)。 そして、ニューヨーク心臓協会(New York Heart Association:NYHA)が定めた心機能分類は、心不全の患者の病態を、患者の労作時の自覚症状に基づいて、下記の表4-3に記載されるようにクラスI~IVの4段階に分類するものである(甲14b及び乙6a)。 [図:0001411599000032.jpg] また、心不全がNYHA IV度すなわち上記表4-3に記載のClass IVのように重症な場合には、治療されなければ1年間の死亡率が50%以上にもなること(乙6a)が知られている。 加えて、例えば任意抽出の外来心不全患者についてNYHAクラスII、III及びIV(すなわち上記表4-3に記載の「Class II」、「Class III」及び「Class IV」)の心不全患者では、それぞれの1年死亡率が7.1%、15.0%及び28.0%であったこと、及び特に重症心不全患者及び心疾患による直近の入院があった患者で予後が不良であったことが報告されている(乙7の1a及び乙7の1b)。 このように、重症心不全患者の予後は不良であり、NYHAのClass IVの心不全患者は、治療をした場合でも、他のクラスよりも死亡率が高い。 なお、以下では、ニューヨーク心臓協会(NYHA)が定めた心機能分類のClass I、Class II、Class III及びClass IVを、それぞれNYHAクラスI、NYHAクラスII、NYHAクラスIII及びNYHAクラスIVと記載する。 (4)心不全の患者に対する薬物治療 ア 心不全の治療は、弱った心筋収縮力を増加させる(陽性変力作用)とともに循環血液量を減らし(主に前負荷軽減)、末梢抵抗を減らして(主に後負荷軽減)心臓へかかる負担を減少させることにより行われている。 そして、薬物治療としては、体内の余分な水分を取り除く利尿薬、心臓にかかる負担を軽くする血管拡張剤であるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、心臓に障害を与えやすい神経やホルモンの作用を抑制するβ遮断薬、心臓の働きを手助けするジギタリス等が広く用いられている(乙5b、乙6b、甲14c、甲14d、甲15b等)。 イ 加えて、利尿薬、ACE阻害薬、β遮断薬及びジギタリス等の複数種の薬を併用することは、心不全の患者に対する薬物治療における常套手段である(甲14d、甲15b及び乙4bの「2) 利尿薬の併用」)。 例えば甲2には、臨床試験全体を通して安定したフロセミド用量(20-240mg/日)を維持しつつ、トルバプタンを併用投与したこと(甲2b)が記載され、甲20には、NYHA分類クラスIVの心不全患者に対して処方された薬の数が3.5±1.7であったこと(甲20b)が記載されている。 ウ また、上記(3)で説示したNYHA分類は医師による主観的評価を反映するものであり、しばしば短期間にクラスが変化し、NYHA分類のクラスが異なっても治療に大きな差がないことが、長年にわたって認識されている(甲15a)。 例えばイタリア病院心臓専門医協会(ANMCO)が調整し、359の心臓病学ユニットが参加した研究(SEOSI)に関する論文報告である甲20では、NYHA分類に関して薬剤処方に有意差は認められなかったことが報告されている(甲20a及び甲20b)。 (5)心不全の患者に対する利尿薬投与 ア 体液貯留のある心不全患者では、体液状態が正常になるまで利尿薬を投与すべきであり、さらに、体液貯留の再発を防ぐために、利尿薬投与を継続しなければならない(甲15b)。 進行性心不全患者の多くは塩分と体液の貯留による症状を示すため、ナトリウムバランスを回復する治療が有効であり、末期心不全の管理を成功させるために重要なことは、体液貯留を認識し、注意深くコントロールすることである(甲15c)。 そして、利尿薬は、心不全患者のうっ血に基づく労作時呼吸困難、浮腫などの症状を軽減するために最も有効な薬剤であり(甲14c)、NYHAクラスI~IVのいずれの患者に対しても投与される、主要な治療薬である(甲14c、甲14d及び甲20b)。 さらに、心不全の患者に対する薬物療法に利尿薬を用いることが常套手段であることは、上記甲15、甲14、甲20の他に、乙1(特に乙1b及び乙1c)、乙5(特に乙5b)、乙6(特に乙6b)、乙81(特に乙81a及び乙81b)、乙86の1(特に乙86の1b)にも記載されている。 イ 心不全の患者に投与される利尿薬の具体例としては、ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬、カリウム保持性利尿薬等が挙げられ、これらが併用されることもある(乙4a及び乙4b)。 そして、バソプレシンV2受容体拮抗薬であるVPA-985を慢性NYHAII及びIII心不全患者(すなわちNYHAクラスII及びIIIの慢性心不全患者)に投与した例(甲27a~甲27b)、そして、上記VPA-985をニューヨーク・クラスI、クラスIII及びIV(すなわちNYHAクラスI、クラスIII及びIV)の症状を有する低ナトリウム血症の患者に投与した例(引1a~引1c)が報告されている。 (6)心不全の患者における利尿薬抵抗性 利尿薬治療中のうっ血性心不全患者3例中1例に、適切な水分排出が生じる前にナトリウムと水の排泄が増加しなくなるという「利尿薬抵抗性」と称される現象が発生すると考えられている。そして、中等度及び重度のうっ血性心不全患者では、利尿薬抵抗性がより頻繁に起こり、しばしば臨床的に問題となる(乙12の1a及び乙12の1b)。 例えば重症心不全の患者では、しばしばループ利尿薬(乙4a)の大量投与にも反応しない利尿薬抵抗性を呈することがある。そして、ループ利尿薬に抵抗を示す場合に、作用部位の異なる利尿薬の併用により利尿効果がみられることがある(乙4b)。 (7)急性心不全について ア 心不全はその発現する早さによって急性心不全及び慢性心不全に分類される。急性心不全では機能的あるいは構造的異常が急激に発生し、低下した心ポンプ機能を代償する時間がないか、代償機転が充分でないような重篤な障害が起こり招来される病態である。 突然に出現する呼吸困難(発作性夜間呼吸困難を含む)、前胸部圧迫感、息切れ、起坐呼吸,精神・神経症状などがあれば急性心不全を疑う。 慢性心不全の急性憎悪では、頸静脈怒張、心拡大、肝腫大、浮腫(主に下肢)、胸水などのうっ血所見に、さらに急性左心室不全が加わることが特徴である(乙1a)。 なお、以下では、原則として「急性心不全」を、「慢性心不全の急性憎悪」を含む急性心不全を意味するものとして記載する。 イ 急性心不全の症状及び所見の分類 急性心不全の症状及び所見を従来の心不全重症度分類にあてはめると、Killip分類ではクラスII~IV度に、急性心筋梗塞に適用されたForrester分類ではsubset II及びIV、また広く用いられているNew York Heart Association(NYHA)分類ではII度の一部、及びIII、IV度が該当してくる(乙1a)。 Forrester分類のsubset II及びIVは、以下の「図4-8」で当審がマーカーを付したサブセットである(乙81a)。 [図:0001411599000033.jpg] New York Heart Association(NYHA)分類は以下のとおりである(乙6a)。 [図:0001411599000034.jpg] ウ 急性心不全の薬物療法で「利尿薬」が用いられることについて 急性心不全の治療の中心は下記の表(乙1cの表6)及び上記イで示したForrester分類の表(乙81aの「図4-8 Forresterの分類」)のように、血行動態の安定化と原因疾患に対する治療であり、治療の中心は薬物療法である(乙1c、乙81a))。 [図:0001411599000035.jpg] そして、上記イで説示した「図4-8 Forrester分類」のsubset II及びIV、並びに上記「表6 急性心不全の治療」の「2) 薬物療法」に示されるように、急性心不全の薬物療法では「利尿薬」が用いられる。 (8)慢性心不全について ア 慢性心不全とは、狭義の意味からは「慢性の心筋障害により心臓のポンプ機能が低下し、末梢主要臓器の酸素需要量に見合うだけの血液量を絶対的にまた相対的に拍出できない状態であり、肺または体静脈系にうっ血をきたし生活機能に障害を生じた病態」と言える。労作時呼吸困難、息切れ、尿量減少、四肢の浮腫、肝腫大などの症状の出現により生活の質的低下(QOL低下)が生じ、日常生活が極しく障害される(甲14a)。 イ 慢性心不全による活動能力の低下は、患者の生活の質と充実度を直接に低下させるため、活動能力の改善は慢性心不全患者治療の主要目標である。 そして、従来、運動能力による心血管系予備能の評価はNew York Heart Association(NYHA)の心機能分類に見られるごとく労作時の自覚症状に基づいてなされてきた。このような問診による評価は客観性に乏しいという問題があるが簡便であり、何よりも患者の自覚である点で重要である(甲14b)。 New York Heart Association(NYHA)の心機能分類は、上記(3)で説示した以下の分類である(乙6a)。 [図:0001411599000036.jpg] ウ 慢性心不全の薬物療法で「利尿薬」が用いられることについて (ア)慢性心不全では、心臓に対して過度な刺激から守る薬を用い、下記の図(乙81bの「図4-9」)のように、体内の余分な水分を取り除く「利尿薬」、心臓の働きを手助けする「ジギタリス」、心臓にかかる負担を軽くするACE阻害薬(アンギオテンシン変換酵素阻害薬)などの「血管拡張剤」、長期的には心臓に障害を与えやすい神経やホルモンの作用を抑制する「β遮断薬」を加えた薬物療法が標準的となっている(乙5a、乙5b、乙81b)。 [図:0001411599000037.jpg] 上記図4-9(乙81b)に示されるように、軽症の慢性心不全、中等症の慢性心不全、重症の慢性心不全、及び急性心不全としての治療が必要な慢性心不全のいずれにおいても、薬物療法では「利尿薬」が用いられる。 (イ)また、下記図3(甲14d)に示されるように、NYHAクラスII,III,IVのいずれにおいても、薬物療法では「利尿薬」が用いられる。 [図:0001411599000038.jpg] (ウ)さらに、心不全,ことに慢性心不全の病態及び薬物治療に対する考え方は時代とともに大きく変化したが、下記の(図1)に示されるように、利尿薬は1960年以前から2000年代にかけて継続して、薬物治療の常套手段として用いられている(乙86の1b)。 [図:0001411599000039.jpg] (9)心不全の予後について ア 急性心筋梗塞の場合、肺水腫合併例の死亡率は10~20%、心原性ショックに陥った症例の死亡率は50%以上と報告されている。生存例では徐々に代償機転が働いて急性期を脱する。回復の程度は基礎疾患の重症度に依存するが、ほとんど心機能障害を残さない症例から重症の慢性心不全に移行するものまで多彩である(乙81c)。 イ 慢性心不全の年間死亡率はNYHA分類のIII度の患者では約20%、IV度では60%以上と報告されている。そして、予後と関連する因子として左室駆出率、運動能力の低下、低Na血症、心室性不整脈、血漿ノルエピネフリン濃度の上昇などが報告されているが、いずれの指標も重症度を反映するものであり、一般的には予後は重症度に依存すると考えてよい(乙81c)。 ウ QOL・予後改善からみた慢性心不全の薬物療法 1980年代後半から、心不全領域でもランダム化臨床試験(RCTs)の結果に基づいた治療(EBM)が志向され、生命予後改善効果を指標とした大規模臨床試験が行われ、大部分の強心薬は、自他覚症状の急性改善効果は有するものの、長期投与するとむしろ生命予後を短縮することが示された(乙86の1a)。 また、従来の心不全薬物治療におけるRCTsは、Primary endpoint(主要なエンドポイント)として生命予後の延長という「いかに多く生きるか」という量的なとらえ方が中心であったが、今後は「精神的,身体的にいかによく生きるか」という質的なとらえ方、すなわち、QOLの概念へも配慮した治療展開が模索され、新たな薬剤の開発・臨床応用の進むことが期待される(乙86の1c)。 加えて、下記の「表 心不全治療薬のQOLおよび予後に対する効果」(乙86の1c)から、各心不全治療薬によるQOLに対する効果と、生命予後に対する効果とは必ずしも一致しないことがわかる。今後の心不全におけるRCTsでは、例えば、臨床症状、運動耐容能、QOLなどの指標と死亡や入院といったイベントを統合的に評価する複合エンドポイント(composite endpoint)を導入した方がよい場合もある。そして、心臓を保護するような薬剤が、長い目で見るとQOLの改善と寿命延長をもたらすことがエビデンスとして示された(乙86の1c)。 [図:0001411599000040.jpg] 以上(1)~(9)の技術常識を踏まえて、各無効理由についての判断を行う。 2 無効理由5(進歩性欠如(その1))についての判断 (1)請求人の主張の概要 請求人が主張する無効理由5(進歩性欠如(その1))の概要は、請求項1~13に係る発明は、甲2にトルバプタンやバソプレシンV2-受容体拮抗剤に関する周知技術であった知見あるいは甲3を適用することによって容易に想到し得たものであるから、請求項1~13に係る特許は特許法第29第2項の規定に違反して特許されたものであるので、無効とすべきものである、というものである。 (2)当審の判断 ア 甲2に記載された発明(甲2A~甲2C発明) 甲2は、うっ血性心不全患者におけるトルバプタン(OPC-41061、TLV)による長期治療の有益な効果について記載された文献である(甲2a)。 甲2には、「水分制限なしの標準治療を受けており、試験全体を通して安定したフロセミド用量(20-240mg/日)が維持されていた」「心不全(HF、NYHAI-III)及びうっ血の兆候(浮腫又はラ音等)を有する患者」に対し、トルバプタン(OPC-41061、TLV)の30mg、45mg若しくは60mgを1日1回、25日間投与した臨床試験を行ったことが記載されている(甲2b)。 そして、上記臨床試験の患者は、「試験全体を通して安定したフロセミド用量(20-240mg/日)が維持されていた」のであるから、トルバプタン(OPC-41061、TLV)は「安定したフロセミド用量(20-240mg/日)」と組み合わせて投与されたものと解される。 また、上記臨床試験では、TLV群(以下「トルバプタン投与群」という。)の忍容性は良好であり、トルバプタン投与群では、プラセボ群と比較して、血清Na+の増加、尿量の増加、及び体重減少が観察され、すなわち長期のTLV治療(トルバプタン治療)は、HF(心不全)の患者において、血清電解質の有害な変化なしに、プラセボと比較して体重を減少させ、浮腫を軽減させた(甲2c)のであるから、甲2には、トルバプタン(OPC-41061、TLV)を含む心不全(HF、NYHAI-III)の治療薬、治療用医薬組成物又は治療用薬剤が記載されているといえる。 そうすると、甲2には、以下の(ア)~(ウ)の発明が記載されていると認められる。 なお、以下では、甲2に記載される「トルバプタン(OPC-41061、TLV)」及び「心不全(HF、NYHA I-III)」を、それぞれ「トルバプタン」及び「心不全(NYHA I-III)」と記載する。 (ア)「トルバプタンを活性成分として含み、該活性成分を1日1回、30mg、45mg若しくは60mgの用量で投与するものであり、心不全(NYHA I-III)及びうっ血の兆候(浮腫又はラ音等)を有する患者に、安定したフロセミド用量(20-240mg/日)と組み合わされて投与される心不全(NYHA I-III)の治療薬。」の発明(以下「甲2A発明」という。)。 (イ)「活性成分のトルバプタンを含み、該活性成分を1日1回、30mg、45mg若しくは60mgの用量で投与するものであり、心不全(NYHA I-III)及びうっ血の兆候(浮腫又はラ音等)を有する患者に、安定したフロセミド用量(20-240 mg/日)と組み合わされて投与される心不全(NYHA I-III)の治療用医薬組成物。」の発明(以下「甲2B発明」という。)。 (ウ)「活性成分を1日1回、30mg、45mg若しくは60mgの用量で投与するものであり、心不全(NYHA I-III)及びうっ血の兆候(浮腫又はラ音等)を有する患者に、安定したフロセミド用量(20-240mg/日)と組み合わされて投与される治療用薬剤を製造するための、活性成分のトルバプタンの使用。」の発明(以下「甲2C発明」という。)。 イ 本件発明1と甲2A発明との対比・判断 (ア)本件発明1と甲2A発明との対比 (i)甲2A発明の活性成分である「トルバプタン」は、本件発明1の活性成分である「5-ヒドロキシ-7-クロロ-1-[2-メチル-4-(2-メチルベンゾイルアミノ)ベンゾイル]-2,3,4,5-テトラヒドロ-1H-ベンゾアゼピンまたはその医薬的に許容される塩」に相当し(上記1(1))、甲2A発明における「1日1回」の用量は、本件発明1における「1日当たりの用量」に相当する。 (ii)本件発明1の「最適の治療」とは、本件明細書の「一般に採用されている最適の現治療(研究者によって決定する)」(【0052】の「表1.」の「目的」)という記載から、本件発明1の患者、すなわち「急性心不全または慢性心不全の急性増悪期にあるニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの患者」に対して一般に採用されている最適の治療であるといえる。 他方、甲2A発明の患者は、「水分制限なしの標準治療を受けており、試験全体を通して安定したフロセミド用量(20-240mg/日)が維持されていた」(甲2b)のであり、上記「標準治療」及び「安定したフロセミド用量」は、甲2A発明の患者、すなわち心不全(NYHA I-III)及びうっ血の兆候(浮腫又はラ音等)を有する患者に対して、一般に採用されている最適の治療であると解される。 そうすると、本件発明1の「最適の治療」と、甲2A発明の「安定したフロセミド用量(20-240mg/日)」とは、それぞれの患者に対して最適の治療である点で一致しているといえる。 (iii)上記(i)及び(ii)を考慮すると、本件発明1と甲2A発明とは、「5-ヒドロキシ-7-クロロ-1-[2-メチル-4-(2-メチルベンゾイルアミノ)ベンゾイル]-2,3,4,5-テトラヒドロ-1H-ベンゾアゼピンまたはその医薬的に許容される塩を活性成分として含み、心不全の患者に最適の治療と組み合わされて投与される、心不全の治療薬。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) 「心不全の患者」、「心不全の治療薬」及び「活性成分」の投与について、本件発明1では、それぞれ「急性心不全または慢性心不全の急性増悪期にあるニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの患者」、「重症心不全の治療薬」及び「最適の治療と組み合わされて入院下で経口にて投与開始される」ものであることが特定されているのに対し、甲2A発明では、それぞれが「心不全(NYHA I-III)及びうっ血の兆候(浮腫又はラ音等)を有する患者」、「心不全(NYHA I-III)の治療薬」及び「安定したフロセミド用量(20-240mg/日)と組み合わされて投与される」ものであることが特定されている点。 (相違点2) 活性成分の1日当たりの用量が、本件発明1では「0.371mg/kg以下の範囲である」ことが特定されているのに対し、甲2A発明では「30mg、45mg若しくは60mgである」ことが特定されている点。 (イ)相違点1についての判断 (i)相違点1の「心不全の患者」及び「心不全の治療薬」について (i-1)相違点1の「心不全の患者」に関し、本件発明1の「ニューヨーク心臓協会の分類」及び甲2A発明の「NYHA」は、いずれも「ニューヨーク心臓協会(New York Heart Association:NYHA)が定めた心機能分類」に相当する。NYHA分類は、心不全の患者の病態を、患者の労作時の自覚症状に基づいてクラスI~IVの4段階に分類するものであり(上記1(3)、1(8)イ、甲14b、乙6a)、本件発明1の患者はNYHAクラスIV、甲2A発明の患者はNYHAクラスI~IIIであるから、本件発明1の患者の方が、甲2A発明の患者よりもNYHA分類で示される重症度が高い心不全患者である。 (i-2)ここで、体液貯留のある心不全患者では体液状態が正常になるまで利尿薬を投与すべきであること、進行性心不全患者の多くは塩分と体液の貯留による症状を示すこと、末期心不全の管理を成功させるためには体液貯留を認識して注意深くコントロールすることが重要であることに加えて、利尿薬は、心不全患者のうっ血に基づく労作時呼吸困難、浮腫などの症状を軽減するために最も有効な薬剤であり、NYHAクラスI~IVのいずれの患者に対しても投与される主要な治療薬であること(上記1(5))、そして、NYHA分類のクラスが異なっても治療に大きな差がないことが長年にわたって認識されており、NYHA分類に関して薬剤処方に有意差は認められなかった論文報告があること(上記1(4))は、技術常識である。 (i-3)そして、相違点1の「心不全の治療薬」について、本件発明1及び甲2発明Aの活性成分はいずれもトルバプタン(上記(ア)(i))であり、トルバプタンがNYHAクラスI~IIIの心不全患者に対して有効な治療効果を奏するとともに忍容性が良好であった旨の甲2の記載(上記ア)、及び上記(i-2)の技術常識を踏まえれば、甲2A発明のトルバプタンを、甲2A発明の患者よりも重症度が高いNYHAクラスIVの患者に適用して「重症心不全の治療薬」の活性成分とした場合でも、当該「重症心不全の治療薬」の投与により、NYHAクラスIVの患者の体液貯留が改善され、浮腫などの症状が軽減される等の治療効果が得られることを、当業者は期待するといえる。 また、本件優先日当時、トルバプタンと同じくバソプレシンV2受容体拮抗薬である「VPA-985」が、NYHAクラスI~IIIより重症度の高いNYHAクラスIVの症状を有する患者に対しても投与されていたのであるから(上記1(5)イ)、トルバプタンをNYHAクラスIVの患者に適用することに阻害要因があったともいえない。 (ii)相違点1の「活性成分」の投与について (ii-1)甲2A発明のトルバプタンは、疾患進行性うっ血性心不全の治療薬としてさらなる開発のために選択された、特異的かつ選択的な非ペプチド性の経口活性を有するバソプレシンV2受容体拮抗薬であり、経口投与で強力な水利尿薬として作用する薬物である(上記1(2)ウ、甲4d、引2c)。 そして、本件優先日当時、トルバプタンを経口の投与経路で患者に投与した臨床試験結果は知られていたが(甲4e、及び甲4のp.354頁左欄下から4行~p.356左欄13行の「Clinical Studies」)、経口以外の投与経路の臨床試験結果は知られていなかったのであるから、甲2A発明のトルバプタンは、本件発明1と同様に「経口にて投与」されたと解される。 (ii-2)甲2には、甲2A発明の「心不全(NYHA I-III)及びうっ血の兆候(浮腫又はラ音等)を有する患者」が、急性心不全、慢性心不全の急性憎悪期、慢性心不全のいずれであるのか、入院患者又は外来患者のいずれであるのかについて、記載されていない。 しかし、利尿薬は、急性心不全の薬物療法(上記1(7)ウ)及び慢性心不全の薬物療法(上記1(8)ウ)のいずれにおいても用いられる主要な薬物であるから、甲2A発明のトルバプタンをNYHAクラスIVの患者に適用する際に、その患者が急性心不全や慢性心不全の急性憎悪期の患者である場合においてもトルバプタンを適用することを、当業者は自然に想起するといえる。 そして、急性心不全の患者や慢性心不全の急性憎悪期の患者は、原則として又は基本的に入院が必要となること(乙1a、乙1c)を考慮すると、甲2A発明のトルバプタンを適用するNYHAクラスIVの患者が、急性心不全や慢性心不全の急性憎悪期の患者である場合に、トルバプタンを、入院下で経口にて投与開始することは、当業者が通常行うことにすぎない。 (iii)上記(i)~(ii)で説示したように、利尿薬は、NYHAクラスI~IVのいずれの患者に対しても、急性心不全の薬物療法及び慢性心不全の薬物療法のいずれにおいても用いられる薬物であり、トルバプタンをNYHAクラスIVの患者に適用することに阻害要因があったとはいえず、甲2の臨床試験では、トルバプタンを、NYHAクラスI~IIIの心不全患者に対して有効な治療効果を奏するとともに忍容性が良好であったことが確認されていた。 したがって、甲2A発明のトルバプタンを、原則として又は基本的に入院が必要となる「急性心不全または慢性心不全の急性増悪期にあるNYHAクラスIV」の患者に対して「最適の治療と組み合わされて入院下で経口にて投与開始」した場合でも、トルバプタンにより奏される強力な水利尿薬効果によって、上記NYHAクラスIVの患者の体液貯留が改善され、浮腫などの症状が軽減される等の治療効果が得られることを期待して、甲2A発明を相違点1の構成を備えたものとすることを、甲2A発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者は容易に想到し得たといえる。 (ウ)相違点2についての判断 当業者が、甲2A発明において、「急性心不全または慢性心不全の急性増悪期にある」NYHAクラスIVの患者に対して、「最適の治療と組み合わされて入院下で経口にて投与開始」するために、トルバプタンの適切な用量を決定する必要があることは、自明である。 そして、従前の臨床試験で用いられたトルバプタンの用量は、上記「トルバプタンの適切な用量」を決定する際に、当業者が当然に参考にする事項である。 ここで、甲2の臨床試験では、投与1日目に、プラセボ群の体重はベースラインに対して+0.32±.46kg増加したのに対し、トルバプタン30、45、及び60mgを投与した群の体重はベースラインに対してそれぞれ-0.79±.99、-0.96±.93、-0.84±.02kg減少し、この体重減少は25日間の治療期間にわたって維持されたこと、そして、投与1日目の尿量は、プラセボ群では2.3±.2L/24時間であったのに対し、トルバプタン30、45、及び60mgを投与した群の尿量はそれぞれ3.9±.6、4.2±.9、4.6±.4L/24時間であったという結果が得られている(甲2c)。 上記結果によると、トルバプタン投与による体重減少の効果について、45mg投与群と30mg投与群との差が0.2(0.96-0.76)kg程度であるのに対し、30mg投与群とプラセボ投与群との差は1.11(0.79+0.32)kg程度、そしてトルバプタン投与による24時間当たりの尿量増加の効果について、45mg投与群と30mg投与群との差が0.3(4.2-3.9)L程度であるのに対し、30mg投与群とプラセボ投与群との差は1.6(3.9-2.3)L程度であった。 このように、体重減少の効果及び尿量増加の効果のいずれについても、30mg投与群とプラセボ投与群との差の数値は、45mg投与群と30mg投与群との差の数値の5倍程度という大きな値であったことから、甲2A発明のNYHAクラスI~IIIの患者に対する1日当たり「30mg」というトルバプタンの用量は、最小有効量(治療効果を得るために必要な最小量、乙27b)よりも十分に高い用量であったと解されるので、トルバプタンをNYHAクラスIVの患者に対して1日当たり「30mg」以下の用量で投与した場合でも、ある程度の治療効果が得られることを、当業者は期待するといえる。 また、臨床試験において、活性成分を新たな適用対象に投与する際に、少ない用量から投与を開始して、有効性及び有害事象を確認しながら用量漸増を試みることは、常套手段である。 加えて、本件発明1における「0.371mg/kg」という用量は、本件明細書の発明の詳細な説明(上記「第6」)の【0051】に記載されているように、「30mg処置群」に投与された用量の平均値であるから、甲2A発明における「30mg」という用量と略同一の用量である。 そうすると、甲2A発明の治療薬を、「急性心不全または慢性心不全の急性増悪期にあるニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの患者に最適の治療と組み合わされて入院下で経口にて投与開始される重症心不全の治療薬」とする際のトルバプタンの適切な用量を決定するために、その1日当たりの用量を、甲2A発明における「30mg」と略同一である「0.371mg/kg」よりも少ない用量から開始し、有効性及び有害事象を確認しながら用量漸増を試みて、「0.371mg/kg以下の範囲である」ように決定して、甲2A発明を相違点2の構成を備えたものとすることは、甲2A発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が適宜なし得た事項にすぎず、格別の創意工夫を要したものであるとはいえない。 (エ)以上のとおりであるから、甲2A発明を、相違点1及び相違点2に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、甲2A発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が容易になし得た事項である。 (オ)本件発明1の効果について (i)本件実験例で得られた結果について 発明の詳細な説明に記載される本件実験例には、NYHAクラスIII及びIVの患者の両方が含まれる患者群に対し、トルバプタンを1日当たり30、60あるいは90mgの用量で、入院期間から開始し退院後にかけて60日間投与した臨床試験結果が記載されている(【0050】~【0059】)。 そして、本件実験例では、30mg処置群において、全尿排出量が増加し(表2.)、体重が減少し(表3.)、ベースラインより低い血清ナトリウム濃度を有する患者における低ナトリウム血症の患者は、血清ナトリウム濃度の上昇が認められた(表4.)という結果が得られている。 さらに、本件実験例では、入院期間から外来で投与を終了するまでの全期間の死亡率が、投与開始から死亡事象発現までの時間を考慮した解析の結果(Log-Rankテスト)、30mg処置群で対照群に比べて有意に低かったこと(表5.)、30mg処置群では、高用量での処置群のデータに比べて、有害事象である頻尿の発現頻度が低かったこと(表6.)、有害事象による投与中断例の割合が低かったこと(表7.)を示す結果が得られている。 以上のように、発明の詳細な説明には、上記「30mg処置群」すなわちトルバプタンを1日当たり30mgの用量で入院期間から開始し退院後にかけて60日間投与した、NYHAクラスIII及びIVの患者の両方が含まれる患者群において、プラセボ群と比較して、死亡率の低下で表される「予後の改善」を含む有効な治療効果が得られ、高用量群と比較して有害事象が少なかったことが記載されている。 (ii)本件実験例では、NYHAクラスIVの患者のみにトルバプタンを投与した場合の治療効果及び有害事象の程度が記載されていないことを踏まえ、本件発明1の効果について検討する。 (ii-1)発明の詳細な説明には、本件実験例の「30mg処置群」の患者数が77人であったことが記載されており(【0051】)、そして「表1.試験の概要」の「被験者群」の項目における「NYHA(ニューヨーク心臓協会)分類III-IV」という記載から(【0052】)、当業者は、上記臨床試験において、トルバプタンを1日当たり30mgの用量で投与したNYHAクラスIII及びNYHAクラスIVの患者の合計数が77人であったことを理解できる。 しかし、発明の詳細な説明には、NYHAクラスIIIを含まないNYHAクラスIVの患者のみの人数が記載されておらず、本件実験例で、トルバプタンを1日当たり30mgの用量で投与した場合に、NYHAクラスIVの患者のみにおいてどの程度の治療効果が奏され、どの程度の有害事象が生じるのかは、不明である。 (ii-2)他方、甲2には、NYHAクラスI~IIIの患者に対して、トルバプタンを1日1回30mgの用量で25日間投与した群において、プラセボ群と比較して尿量増加、体重減少、血清ナトリウム濃度の維持増加、浮腫改善の症状改善効果が実際に観察されたことに加えて、長期のトルバプタン治療は、血清電解質の有害な変化なしに、プラセボと比較して体重を減少させ、浮腫を軽減させたという結論まで記載されている(甲2b、甲2c)。 そして、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が、トルバプタンを「急性心不全または慢性心不全の急性増悪期にある」NYHAクラスIVの患者に対して、「最適の治療と組み合わされて入院下で経口にて投与開始」した場合でも、特段の支障を生じることなく、ある程度の治療効果が得られることを期待することは、上記(イ)で説示したとおりである。 また、1日1回30mg投与した群が、1日1回30mgよりも高い用量で投与した群と比較して有害事象が少ないことは、当業者は当然に予測し得ることにすぎない。 (ii-3)上記(ii-2)から、本件実験例のNYHAクラスIII及びIVの患者の両方が含まれる患者群において、トルバプタンを1日1回30mgの用量で入院期間から開始し退院後にかけて60日間投与した場合に、血清電解質の有害な変化等の特段の支障を生じることなく、対照群(プラセボ群)と比較して体重を減少させ、浮腫を軽減させる等、各種の症状を改善する効果がある程度得られることを、当業者は予測し得たといえる。 そして、上記(ii-1)で説示したように、本件実験例ではNYHAクラスIIIを含まないNYHAクラスIVの患者のみの人数が不明であるから、NYHAクラスIVの患者における上記「各種の症状を改善する効果」及び有害事象の程度は不明である。 (ii-4)また、本件実験例では、NYHAクラスIII及びIVの患者の両方が含まれる患者群において、トルバプタンを1日1回30mgの用量で入院期間から開始し退院後にかけて60日間投与した群(30 mg投与群)では、入院期間から外来で投与を終了するまでの全期間の死亡率が対照群(プラセボ群)よりも有意に低かったこと(表5.)、すなわち死亡率の低下で表される「予後」が改善されたという効果が得られたという結果が得られている。 しかし、上記(ii-3)で説示したように、本件実験例のNYHAクラスIII及びIVの患者の両方が含まれる患者群に対してトルバプタンを投与することによって、血清電解質の有害な変化等の特段の支障を生じることなく、各種の症状を改善する効果が得られることを当業者は予測できるのであるから、上記「予後」が改善されたという効果が得られたことは、当業者の予測を超える格別顕著な効果であるとはいえない。 そして、上記(ii-1)で説示したように、本件実験例ではNYHAクラスIIIを含まないNYHAクラスIVの患者のみの人数が不明であるから、NYHAクラスIVの患者における上記「予後」が、どの程度改善されたのかは不明である。 (ii-5)上記(ii-1)~(ii-4)で説示したように、本件実験例で得られた結果を参酌しても、NYHAクラスIVの患者における治療効果及び有害事象の程度が不明であるから、本件発明1におけるNYHAクラスIVの患者に対して、トルバプタンの1日当たり「0.371mg/kg以下」という用量(上記30mg以下の用量と略同一である。)の範囲を特定することに、臨界的意義があるとはいえない。 (iii)本件実験例では、「急性心不全または慢性心不全の急性憎悪期」の患者と「慢性心不全」の患者とを比較して評価されておらず、また、トルバプタンの投与開始時期が「入院下」である場合と「外来」である場合とを比較して評価されていないことを踏まえ、本件発明1の効果について検討する。 発明の詳細な説明には、本件実験例の「試験標題」が「悪化うっ血性心不全患者の急性および慢性症状における(A)の効果を評価するための、多施設の、ランダム化した、二重盲検の、プラセボ対照の(A)の試験」であり、本件実験例の目的が「10日までは急性の入院患者での試験投薬、続く7週間では外来での投薬で、一般に採用されている最適の現治療(研究者によって決定する)と組み合わせた3つの(A)の用量またはプラセボの効果を評価」することであること(【0052】【表1】の「表1.試験の概要」)が記載されている。 そして、本件実験例では、「急性心不全または慢性心不全の急性憎悪期」の患者を対象とする場合と、「慢性心不全」の患者を対象とする場合とを比較して、治療効果及び有害事象を評価した結果は記載されていない。 また、本件実験例では、トルバプタンの投与開始時期が「入院下」である場合と、「外来」である場合(すなわち入院下ではない場合)とを比較して、治療効果及び有害事象を評価した結果は記載されていない。 そうすると、本件発明1の「心不全患者」を「急性心不全または慢性心不全の急性憎悪期にある」NYHAクラスIVの患者に特定し、かつ、「活性成分」の投与を「入院下で経口にて投与開始される」ものとしたことに起因する特有の効果があるとはいえない。 (iv)以上(i)~(iii)を総合すると、本件実験例で示された、NYHAクラスIII及びIVの患者の両方が含まれる患者群において、死亡率の低下で表される「予後の改善」を含む有効な治療効果及び高用量群と比較して有害事象が少なかったという効果(上記(i))は、甲2A発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が予測可能なものであり、本件発明1において、「心不全の患者」、「心不全の治療薬」及び「活性成分」の投与を、それぞれ「急性心不全または慢性心不全の急性増悪期にあるニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの患者」、「重症心不全の治療薬」及び「最適の治療と組み合わされて入院下で経口にて投与開始される」ものであることに特定し、かつ、上記重症度IVの患者に対するトルバプタンの用量を1日当たり「0.371mg/kg以下」に特定したことに起因する特有の効果であるとはいえない。 (v)なお、心不全の治療に強心薬を用いた場合は、症状が改善されてQOL向上効果が得られても生命予後の改善効果は得られないことがあり、サイアザイド系・ループ系利尿薬による生命予後の改善効果は不明である(上記1(9)ウ)。 しかし、トルバプタンの作用部位は腎髄質部の集合管の基底外側膜に発現するバソプレシンV2受容体であって(上記1(2)イ(ア))、心臓に直接作用する強心薬とは、作用部位及び作用機序が大きく異なっている. また、サイアザイド系・ループ系利尿薬の作用部位は近位尿細管であり、これらの利尿薬はNa+イオン及びK+イオンを尿中に排泄する作用を有するのに対し(上記1(2)ア)、トルバプタンの作用部位は腎髄質部の集合管であり、トルバプタンは水だけを選択的に尿中に排泄させる水利尿薬である(上記1(2)ア及びイ(ア)、1(2)ウ)。 さらに、作用部位が集合管であり、カリウム保持性の利尿薬であるスピロノラクトン(上記1(2)ア)については、生命予後の改善効果があることが報告されている(上記1(9)ウ)。 このように、治療薬の作用部位及び作用機序により、生命予後の改善効果は異なるのであるから、強心薬やサイアザイド系・ループ系利尿薬のように、生命予後の改善効果が疑問視されている薬物があるからといって、トルバプタンのようなバソプレシンV2受容体拮抗薬により「予後が改善されたという効果」が、当業者が予測し得ない格別顕著な効果であるとはいえない。 (vi)以上のとおりであるから、発明の詳細な説明に記載された本件実験例の結果を参酌しても、本件発明1の効果が、甲2A発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が予測し得ない格別顕著な効果であるとはいえない。 ウ 本件発明2と甲2A発明との対比・判断 (ア)本件発明2と甲2A発明との対比 本件発明2と甲2A発明とは、上記イ(ア)(iii)で認定した点で一致し、上記(相違点1)に加えて、下記(相違点3)及び(相違点4)で相違する。 (相違点3) 活性成分の1日当たりの用量について、本件発明2では「0.1mg/kgから0.371mg/kg以下の範囲である」ことが特定されているのに対し、甲2A発明では「30mg、45mg若しくは60mgである」ことが特定されている点。 (相違点4) 本件発明2では「予後を改善すること」が特定されているのに対し、甲2A発明ではこのような特定がされていない点。 (イ)相違点について検討する。 (i)相違点1について 相違点1の判断は上記イ(イ)で説示したとおりである。 (ii)相違点3について 相違点2の判断(上記イ(ウ))と同様の理由により、トルバプタンの用量を「0.1mg/kgから0.371mg/kg以下の範囲である」ように決定することは、甲2A発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が適宜なし得た事項にすぎず、格別の創意工夫を要したものであるとはいえない。 (iii)相違点4について 本件発明2の「予後を改善すること」という特定事項は、本件発明2の治療薬が予後を改善する効果を奏すること、すなわち「死亡率」を低下させるという効果を奏することを意味する特定事項である(上記第2の3(5)イ)。 しかし、トルバプタンの投与により、本件発明2で特定されるNYHAクラスIVの患者の体液貯留が改善され、浮腫などの症状が軽減される等の治療効果が得られることを当業者が期待することは、相違点1の判断(上記イ(イ))で説示したとおりであり、死亡率の低下で表される「予後」が改善されることが当業者が予測し得た程度の効果にすぎないことは、上記イ(オ)(ii-3)で説示したとおりである。 (iv)上記(i)~(iii)から、甲2A発明を、相違点1、相違点3及び相違点4に係る本件発明2の構成を備えたものとすることは、甲2A発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が容易になし得た事項である。 (ウ)本件発明2の効果について 上記イ(オ)と同様の理由により、本件発明2の効果が、甲2A発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が予測し得ない格別顕著な効果であるとはいえない。 エ 本件発明3と甲2A発明との対比・判断 (ア)本件発明3と甲2A発明との対比 本件発明3と甲2A発明とは、上記イ(ア)(iii)で認定した点で一致し、下記の点で相違する。 (相違点5) 「心不全の患者」、「心不全の治療薬」及び「活性成分」の投与について、本件発明3では、それぞれ「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの患者」、「重症心不全の治療薬」及び「最適の治療と組み合わされて経口にて投与開始される」ものであることが特定されているのに対し、甲2A発明では、それぞれが「心不全(NYHA I-III)及びうっ血の兆候(浮腫又はラ音等)を有する患者」、「心不全(NYHA I-III)の治療薬」及び「安定したフロセミド用量(20-240mg/日)と組み合わされて投与される」ものであることが特定されている点。 (相違点6) 活性成分の1日当たりの用量が、本件発明3では「15~30mg/個体の範囲である」ことが特定されているのに対し、甲2A発明では「30mg、45mg若しくは60mgである」ことが特定されている点。 (イ)相違点5及び6について 相違点5は、上記イ(イ)の相違点1と、「急性心不全または慢性心不全の急性増悪期にある」及び「入院下で」という特定事項がない点以外は同一内容であるから、上記イ(イ)と同様に、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が容易に想到し得たといえる。 相違点6について、本件発明3の「30mg/個体」という用量は、本件実験例の「30mg処置群」に投与された用量(【0051】)であり、甲2A発明の「30mg」という用量と同量であるから、上記イ(ウ)と同様の理由により、トルバプタンの用量を「15~30mg/個体の範囲である」ように決定することは、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が適宜なし得た事項にすぎず、格別の創意工夫を要したものであるとはいえない。 よって、甲2A発明を、相違点5及び6に係る本件発明3の構成を備えたものとすることは、甲2A発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が容易になし得た事項である。 (ウ)本件発明3の効果について 上記イ(オ)と同様の理由により、本件発明3の効果が、甲2A発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が予測し得ない格別顕著な効果であるとはいえない。 オ 本件発明4と甲2B発明との対比・判断 (ア)本件発明4と甲2B発明との対比 甲2B発明における活性成分である「トルバプタン」は、本件発明4における活性成分である「5-ヒドロキシ-7-クロロ-1-[2-メチル-4-(2-メチルベンゾイルアミノ)ベンゾイル]-2,3,4,5-テトラヒドロ-1H-ベンゾアゼピンまたはその医薬的に許容される塩」に相当する(上記1(1))。 そして、甲2B発明において、トルバプタンを「1日1回、30mg、45mgもしくは60mgの用量で投与する」ことは、トルバプタンの「1日当たりの用量」が「30mg、45mg若しくは60mg」であることに相当する。 そうすると、本件発明4と甲2B発明とは、「活性成分の5-ヒドロキシ-7-クロロ-1-[2-メチル-4-(2-メチルベンゾイルアミノ)ベンゾイル]-2,3,4,5-テトラヒドロ-1H-ベンゾアゼピンまたはその医薬的に許容される塩を含む、心不全の治療用医薬組成物。」の発明である点で一致し、下記(相違点7)及び上記(相違点2)で相違する。 (相違点7) 「心不全の患者」、「心不全の治療用医薬組成物」及び「活性成分」の投与について、本件発明4では、それぞれ「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの患者」、「重症心不全の治療用医薬組成物」及び「最適の治療と組み合わされて入院下で経口にて投与開始される」ものであることが特定されているのに対し、甲2B発明では、それぞれが「心不全(NYHA I-III)及びうっ血の兆候(浮腫又はラ音等)を有する患者」、「心不全(NYHA I-III)の治療用医薬組成物」及び「安定したフロセミド用量(20-240mg/日)と組み合わされて投与される」ものであることが特定されている点。 (イ)相違点7及び2についての判断 相違点7は、上記イ(イ)の相違点1と、「急性心不全または慢性心不全の急性増悪期にある」という特定事項がない点以外は同一内容であるから、上記イ(イ)と同様に、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が容易に想到し得たといえる。 そして、相違点2の判断は上記イ(ウ)で説示したとおりである。 よって、甲2B発明を、相違点7及び2に係る本件発明4の構成を備えたものとすることは、甲2B発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が容易になし得た事項である。 (ウ)本件発明4の効果について 上記イ(オ)と同様の理由により、本件発明4の効果が、甲2B発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が予測し得ない格別顕著な効果であるとはいえない。 カ 本件発明5と甲2B発明との対比・判断 (ア)本件発明5と甲2B発明との対比 本件発明5と甲2B発明とは、上記オ(ア)で認定した点で一致し、上記(相違点7)及び(相違点2)に加えて、下記(相違点8)で相違する。 (相違点8) 本件発明5では、活性成分が治療用医薬組成物の重量に基づいて1~70重量%の量で含まれること、かつ「予後を改善すること」が特定されているのに対し、甲2B発明ではこのような特定がされていない点。 (イ)相違点7、2及び8について 相違点7及び2については上記オ(イ)で説示したとおりであり、相違点8における「予後を改善すること」については上記ウ(イ)(iii)で説示したとおりである。 そして、相違点8における、活性成分が治療用医薬組成物の重量に基づいて1~70重量%の量で含まれることについて、活性成分の含有量範囲を適切な範囲に決定することは、治療用医薬組成物を調製する際に、当業者が適宜調整し得る事項にすぎない。 よって、甲2B発明を、相違点7、2及び8に係る本件発明5の構成を備えたものとすることは、甲2B発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が容易になし得た事項である。 (ウ)本件発明5の効果について 上記イ(オ)と同様の理由により、本件発明5の効果が、甲2B発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が予測し得ない格別顕著な効果であるとはいえない。 キ 本件発明6と甲2B発明との対比・判断 (ア)本件発明6と甲2B発明との対比 本件発明6と甲2B発明とは、上記オ(ア)で認定した点で一致し、上記(相違点7)及び(相違点3)で相違する。 (イ)相違点7及び3について 相違点7については上記オ(イ)で説示したとおりであり、相違点3については上記ウ(イ)(ii)で説示したとおりである。 よって、甲2B発明を、相違点7及び3に係る本件発明6の構成を備えたものとすることは、甲2B発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が容易になし得た事項である。 (ウ)本件発明6の効果について 上記イ(オ)と同様の理由により、本件発明6の効果が、甲2B発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が予測し得ない格別顕著な効果であるとはいえない。 ク 本件発明7と甲2B発明との対比・判断 (ア)本件発明7と甲2B発明との対比 本件発明7と甲2B発明とは、上記オ(ア)で認定した点で一致し、上記(相違点1)及び(相違点6)で相違する。 (イ)相違点1及び6について 相違点1については上記イ(イ)で説示したとおりであり、相違点6については上記エ(イ)で説示したとおりである。 よって、甲2B発明を、相違点1及び6に係る本件発明7の構成を備えたものとすることは、甲2B発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が容易になし得た事項である。 (ウ)本件発明7の効果について 上記イ(オ)と同様の理由により、本件発明7の効果が、甲2B発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が予測し得ない格別顕著な効果であるとはいえない。 ケ 本件発明8と甲2C発明との対比・判断 (ア)本件発明8と甲2C発明との対比 甲2C発明における活性成分である「トルバプタン」は、本件発明8における活性成分である「5-ヒドロキシ-7-クロロ-1-[2-メチル-4-(2-メチルベンゾイルアミノ)ベンゾイル]-2,3,4,5-テトラヒドロ-1H-ベンゾアゼピンまたはその医薬的に許容される塩」に相当する(上記1(1))。 そうすると、本件発明8と甲2C発明とは、「心不全の患者に投与される治療用薬剤を製造するための、活性成分の5-ヒドロキシ-7-クロロ-1-[2-メチル-4-(2-メチルベンゾイルアミノ)ベンゾイル]-2,3,4,5-テトラヒドロ-1H-ベンゾアゼピンまたはその医薬的に許容される塩の使用。」の発明である点で一致し、下記(相違点9)及び(相違点10)で相違する。 (相違点9) 「心不全の患者」及び「活性成分」の投与について、本件発明8では、それぞれ「急性心不全または慢性心不全の急性増悪期にあるニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全の患者」及び「最適の治療と組み合わされて経口にて投与開始される」ものであることが特定されているのに対し、甲2C発明では、それぞれが「心不全(NYHA I-III)及びうっ血の兆候(浮腫又はラ音等)を有する患者」及び「安定したフロセミド用量(20-240mg/日)と組み合わされて投与される」ものであることが特定されている点。 (相違点10) 本件発明8では、「活性成分が0.371mg/kg以下の範囲の1日投与単位で含まれる」ことが特定されているのに対し、甲2C発明では「活性成分を1日1回、30mg、45mg若しくは60mgの用量で投与するもの」であることが特定されている点。 (イ)相違点9及び10について 相違点9は、相違点1(上記イ(イ))と、「入院下で」という特定事項がない点以外は実質的に同一内容であるから、相違点1について説示したとおり(上記イ(イ))、甲2C発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が容易に想到し得たといえる。 相違点10について、甲2C発明の「1日1回、30mg、45mg若しくは60mgの用量で投与するもの」である活性成分を、治療用薬剤において1日投与単位で含まれるようにすることは当業者が適宜なし得る事項にすぎず、1日投与単位を「0.371mg/kg以下の範囲」とすることについては相違点2の判断(上記イ(ウ))で説示したとおりである。 よって、甲2C発明を、相違点9及び10に係る本件発明8の構成を備えたものとすることは、甲2C発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が容易になし得た事項である。 (ウ)本件発明8の効果について 上記イ(オ)と同様の理由により、本件発明8の効果が、甲2C発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が予測し得ない格別顕著な効果であるとはいえない。 コ 本件発明9と甲2C発明との対比・判断 (ア)本件発明9と甲2C発明との対比 本件発明9と甲2C発明とは、上記ケで認定した点で一致し、上記(相違点9)に加えて、下記(相違点11)で相違する。 (相違点11) 本件発明9では、「活性成分が0.1mg/kgから0.371mg/kg以下の範囲の1日投与単位で含まれる、予後を改善すること」が特定されているのに対し、甲2C発明では「活性成分を1日1回、30mg、45mg若しくは60mgの用量で投与するもの」であることが特定されている点。 (イ)相違点9及び11について 相違点9については上記ケ(イ)で説示したとおりである。 相違点11について、甲2C発明の「1日1回、30mg、45mg若しくは60mgの用量で投与するもの」である活性成分を、治療用薬剤において1日投与単位で含まれるようにすることは当業者が適宜なし得る事項にすぎず、1日投与単位を「0.1mg/kgから0.371mg/kg以下の範囲」とすることについては相違点3の判断(上記ウ(ア)(ii))で説示したとおりである。そして、「予後を改善すること」については上記ウ(イ)(iii)で説示したとおりである。 よって、甲2C発明を、相違点9及び11に係る本件発明9の構成を備えたものとすることは、甲2C発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が容易になし得た事項である。 (ウ)本件発明9の効果について 上記イ(オ)と同様の理由により、本件発明9の効果が、甲2C発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が予測し得ない格別顕著な効果であるとはいえない。 サ 本件発明10と甲2C発明との対比・判断 (ア)本件発明10と甲2C発明との対比 本件発明10と甲2C発明とは、上記ケで認定した点で一致し、上記(相違点9)に加えて、下記(相違点12)で相違する。 (相違点12) 本件発明10では、「活性成分が15~30mg/個体の範囲の1日投与単位で含まれる」ことが特定されているのに対し、甲2C発明では「活性成分を1日1回、30mg、45mg若しくは60mgの用量で投与するもの」であることが特定されている点。 (イ)相違点9及び12について 上記相違点9については上記ケ(イ)で説示したとおりである。 上記相違点12について、甲2C発明の「1日1回、30mg、45mg若しくは60mgの用量で投与するもの」である活性成分を、治療用薬剤において1日投与単位で含まれるようにすることは当業者が適宜なし得る事項にすぎず、1日投与単位を「15~30mg/個体の範囲」とすることについては相違点6の判断(上記エ(イ))で説示したとおりである。 よって、甲2C発明を、相違点9及び12に係る本件発明10の構成を備えたものとすることは、甲2C発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が容易になし得た事項である。 (ウ)本件発明10の効果について 上記イ(オ)と同様の理由により、本件発明10の効果が、甲2C発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が予測し得ない格別顕著な効果であるとはいえない。 シ 本件発明11と甲2A発明、本件発明12と甲2B発明、及び本件発明13と甲2C発明との対比・判断 (ア)本件発明11について 本件発明11は、本件発明1~3のいずれかの治療薬について、「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全において浮腫を改善すること」を特定した発明である。 これに対し、甲2には、トルバプタンの投与により、心不全(NYHA I-III)すなわちNYHAクラスI~IIIの患者の脚の浮腫の著しい減少が観察されたことを示す臨床試験結果が記載されている(甲2c)。 そして、トルバプタンは強力な水利尿薬効果を示す利尿薬であり(上記1(2))、利尿薬は心不全患者のうっ血に基づく労作時呼吸困難、浮腫などの症状を軽減するために最も有効な薬剤であり、NYHAクラスI~IVのいずれの患者に対しても投与される主要な治療薬である(上記1(5))という技術常識を参酌した当業者は、トルバプタンの投与によって、「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全」における浮腫、すなわちNYHAクラスIVにおける浮腫を、特段の支障を生じることなく改善する効果が得られることを期待して、甲2A発明の治療薬について「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全において浮腫を改善すること」を特定することを、当然に想起するといえる。 さらに、上記イ~エと同様の理由により、甲2A発明を本件発明11の構成を備えたものとすることは、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が容易になし得た事項である。 また、本件発明11の効果は、上記イ(オ)と同様の理由により、甲2A発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が予測し得ない格別顕著な効果であるとはいえない。 (イ)本件発明12について 本件発明12は、本件発明4~6のいずれかの治療用医薬組成物について、「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全において浮腫を改善すること」を特定した発明である。 そして、上記(ア)及び上記オ~キと同様の理由により、甲2B発明を本件発明12の構成を備えたものとすることは、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が容易になし得た事項である。 また、本件発明12の効果は、上記イ(オ)と同様の理由により、甲2B発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が予測し得ない格別顕著な効果であるとはいえない。 (ウ)本件発明13について 本件発明13は、本件発明8~10のいずれかについて、「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全において浮腫を改善すること」を特定した発明である。 そして、上記(ア)及び上記ケ~サと同様の理由により、甲2C発明を本件発明13の構成を備えたものとすることは、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が容易になし得た事項である。 また、本件発明13の効果は、上記イ(オ)と同様の理由により、甲2C発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が予測し得ない格別顕著な効果であるとはいえない。 ス 本件発明14と甲2B発明との対比・判断 (ア)本件発明14と甲2B発明との対比・判断 本件発明14は、本件発明7について、さらに「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全において浮腫を改善するとともに予後を改善すること」を特定した発明である。 本件発明14と甲2B発明とは、上記オ(ア)で認定した点で一致し、上記(相違点1)及び(相違点6)に加えて、下記(相違点13)で相違する。 (相違点13) 本件発明14では、本件発明7について、さらに「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全において浮腫を改善するとともに予後を改善すること」が特定されているのに対し、甲2B発明ではこのような特定がされていない点。 (イ)相違点1、6及び13について 相違点1の判断は上記イ(イ)、相違点6の判断は上記エ(イ)でそれぞれ説示したとおりである。 相違点13の「浮腫を改善する」ことについての判断は上記シ(ア)で説示したとおりであり、相違点13の「予後を改善すること」についての判断は上記ウ(イ)(iii)で説示したとおりである。 よって、甲2B発明を、相違点1、6及び13に係る本件発明14の構成を備えたものとすることは、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が容易になし得た事項である。 (ウ)本件発明14の効果について 上記イ(オ)と同様の理由により、本件発明14の効果が、甲2B発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が予測し得ない格別顕著な効果であるとはいえない。 (3)被請求人の主張について ア 被請求人による、甲2A~甲2C発明のトルバプタンを、NYHAクラスIVの患者に投与することに関する主張 被請求人は、以下の(ア)~(オ)を主な根拠として、甲2に記載の臨床試験でトルバプタンをNYHAクラスIVの患者に投与することは、当業者が容易に想到し得たものではないという趣旨の主張しているので、順次検討する。 (ア)NYHAクラスIVはNYHA分類の中でも極めて重症度が高く、その予後も不良で死亡率も高く、特別の治療が必要とされる難治性のクラスとして、NYHAクラスI~IIIとは区別されていた。 そして、この区別は、NYHAクラスI~IIIの治療とNYHAクラスIVの治療を同列にみることはできず、NYHAクラスI~IIIに効果を有する治療薬がNYHAクラスIVには効果を有しない(難治性)ことを意味する(甲14、15、乙1、6、7、32~35等、第1答弁書p.83~94)。 そこで、上記主張(ア)について検討する。 重症心不全患者の予後が不良であり、NYHA分類の中で最も重症度の高いクラスであるNYHAクラスIVの患者の死亡率が高いことは、上記1(2)で説示したとおりである。そしてNYHAクラスIVの患者に対しては、例えば心移植のように特別な治療が必要となる場合がある(甲14dの図3)。 しかし、例えば心臓にかかる負担を軽くする血管拡張剤であるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬及び心臓の働きを手助けするジギタリスはNYHAクラスI~IVの治療に用いられ、長期的には心臓に障害を与えやすい神経やホルモンの作用を抑制するβ遮断薬はNYHAクラスII~IVの治療に用いられているように、NYHAクラスI~IIIに効果を有する治療薬が、NYHAクラスIVの治療にも用いられている。 そして、体内の余分な水分を取り除く利尿薬は、心不全患者のうっ血に基づく労作時呼吸困難、浮腫などの症状を軽減するために最も有効な薬剤であり、NYHAクラスI~IVのいずれの患者に対しても投与される、主要な治療薬である(上記1(4)及び(5))。 さらに、NYHA分類に関して薬剤処方に有意差は認められなかったという報告があったように、NYHA分類のクラスが異なっても治療に大きな差がないことが長年にわたって認識されていたことは、上記1(4)で説示したとおりである。 このように、NYHAクラスI~IIIの治療だけでなくNYHAクラスIVの治療においても広く用いられている治療薬として、利尿薬を含む複数種が存在しているのであるから、被請求人による、「NYHAクラスI~IIIに効果を有する治療薬がNYHAクラスIVには効果を有しない」という趣旨の上記主張(ア)は、採用できない。 (イ)本件特許の優先日当時、乙37(ミルリノン)、乙38(イボパミン)、乙39(キサモテロール)、乙40(プシンドロール)、乙41(アカルディ)、乙42(ゼストリル)及び乙43(レニベース)のように、NYHAクラスIVの心不全患者には効果を示さない例やむしろ悪化させる例が数多く存在していた。 したがって、トルバプタンについても、NYHAクラスI~IIIに投与した試験結果が存在することをもって、NYHAクラスIVに対する治療効果があるか否かは明らかではないと考えられていた(第1答弁書p.96~107)。 そこで、上記主張(イ)について検討する。 乙37(ミルリノン)は血管拡張薬、乙38(イボパミン)は強心薬、乙39(キサモテロール)は強心薬、乙40(プシンドロール)は血管拡張薬、乙41(アカルディ)は強心薬、乙42(ゼストリル)はアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬及び乙43(レニベース)はアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬であり、いずれも体内の余分な水分を取り除く利尿薬ではなく、トルバプタンのようにバソプレシンV2拮抗作用に基づく水利尿薬(上記1(2))とは、作用部位も薬理作用も異なる薬物である。 そして、利尿薬は、心不全患者のうっ血に基づく労作時呼吸困難、浮腫などの症状を軽減するために最も有効な薬剤であり、NYHAクラスI~IVのいずれの患者に対しても投与される、主要な治療薬である(上記1(4)及び(5))。 さらに、甲2に記載されている臨床試験の結果から、トルバプタンをNYHAクラスIVの患者に対して1日当たり「30mg」以下の用量で投与した場合でも、ある程度の治療効果が得られることを当業者は期待するといえることは、上記(2)イ(ウ)で説示したとおりである。 そうすると、トルバプタンとは作用部位も薬理作用も異なる上記乙37~乙43に記載される薬物についてNYHAクラスIVの心不全患者に対する有用性が確立されていないことは、トルバプタンをNYHAクラスIVの患者に投与する際には用法及び用量の決定を慎重に行うべきであることを示唆するものであって、トルバプタンをNYHAクラスIVの患者に投与しても治療効果が得られないことや、トルバプタンをNYHAクラスIVの患者に投与すること自体を差し控えるべきであることを示唆するものではない。 よって、被請求人による上記主張(イ)を参酌しても、トルバプタンをNYHAクラスIVの患者に投与することを、当業者は容易に想到し得たといえる。 (ウ)NYHAクラスIVの患者のような重症度の高い患者においては、利尿薬の抵抗性が問題とされ、利尿薬の用量を増加させたり、静注にしたりする等の用量・投与経路を変更しなければ、通常の心不全患者で認められるような有効な効果は生じないとされていた。 そして、重症度の高い心不全患者においては、高用量の利尿薬投与が病態憎悪に関連するという報告が複数存在し、死亡率を増加させる可能性が示唆されていた。 このような事情からすれば、トルバプタンをNYHAクラスIVの患者に投与した場合、仮に治療効果が得られるとしても、NYHAクラスI~IIIの患者と同様の用量、さらには同じ投与経路では、治療効果は得られないと一般に理解されていたのである(乙11、乙12、乙30、乙33、乙44~49等、第1答弁書p.107~125)。 そこで、上記主張(ウ)について検討する。 中等度及び重度のうっ血性心不全患者では、利尿薬抵抗性がより頻繁に起り、しばしば臨床的に問題となることは、上記1(6)で説示したとおりである。 しかし、本件優先日当時、具体的に利尿薬抵抗性が問題となったことが報告された利尿薬は、ループ利尿薬であるフロセミド又はトラセミド(乙11、乙30、乙44及び乙45)、サイアザイド系利尿薬であるメトラゾン(乙46)であり、これらの利尿薬は、トルバプタンのようにバソプレシンV2拮抗作用に基づく水利尿薬とは作用機序が異なるものである。 そして、本件優先日当時、トルバプタンのようにバソプレシンV2拮抗作用に基づく水利尿薬について、従前のループ利尿薬等と同様の利尿薬抵抗性が生じ、用量を増加させたり、静注にしたりする等の用量・投与経路の変更が必要になったことは報告されていない。 また、乙48及び乙49には、重症度の高い心不全患者において、高用量の利尿薬投与が病態憎悪に関連していたことが記載されているが、本件優先日当時、トルバプタンのようにバソプレシンV2拮抗作用に基づく水利尿薬が高用量で投与されて病態憎悪に関連していたことは報告されていない。 このように、本件優先日当時、トルバプタンのようにバソプレシンV2拮抗作用に基づく水利尿薬の投与によって、実際に利尿薬抵抗性の問題が生じたことは報告されていない。 そして、甲2に記載されている臨床試験の結果から、トルバプタンをNYHAクラスIVの患者に対して1日当たり「30mg」以下の用量で投与した場合でも、ある程度の治療効果が得られることを当業者は期待するといえることは、上記(2)イ(ウ)で説示したとおりである。 よって、被請求人による、「トルバプタンをNYHAクラスIVの患者に投与した場合、仮に治療効果が得られるとしても、NYHAクラスI~IIIの患者と同様の用量、さらには同じ投与経路では治療効果は得られないと一般に理解されていたのである」という趣旨の上記主張(ウ)は、採用できない。 (エ)本件優先日当時、選択的バソプレシンV2受容体拮抗作用は、内因性バソプレシンレベルの上昇を誘引し、それがバソプレシンV1a受容体を刺激することで、心血管系や腎臓に悪影響を及ぼす危険性があると理解され、それがためにバソプレシンV2受容体のみを拮抗するのは好ましくないと考えられていた。 そして、このような知見を踏まえれば、選択的バソプレシンV2受容体拮抗作用を有するトルバプタンを、NYHAクラスIVのような重症度の高い患者に投与すれば、心不全の症状を更に悪化させ、最悪の結果にもつながりかねず、かかる危険性に鑑みれば、トルバプタンをNYHAクラスIVの患者に使用することは控えるべきと考えられていたといえる(乙50~乙52、乙72の1等、第1答弁書p.125~131及び口頭審理陳述要領書p.83~89)。 そこで、上記主張(エ)について検討する。 選択的バソプレシンV2受容体遮断に起因する血中バソプレシン上昇により生じるバソプレシンV1a受容体刺激によって生じる悪影響を、バソプレシンV2受容体遮断作用及びバソプレシンV1a受容体遮断作用を併せ持つバソプレシンV1a/V2受容体拮抗薬によって防いだ例があることは、本件優先日当時に知られていた事項である(甲3d、乙50b、乙51の1a及び乙52の1a)。 しかし、本件優先日当時、血中バソプレシン上昇による悪影響が生じる可能性があることが報告された選択的バソプレシンV2受容体拮抗薬は、「WAY-VPA985」(甲3d)及び「OPC-31260」(乙51の1a)であり、トルバプタンの投与に起因する血中バソプレシン上昇によって悪影響が生じたことは報告されていなかった。 そして、例えば乙72の1に記載の臨床試験の表(乙72の1b)には、健常ボランティアに対してOPC-41061(OPC)すなわちトルバプタンを30mg投与した場合に、血漿アルギニンバソプレシン(AVP)が上昇した結果が示されていたにもかかわらず、乙72の1には、トルバプタン投与に起因する血中バソプレシン上昇によって悪影響が生じたという記載はなく、トルバプタンをNYHAクラスIVのような重症心不全患者に投与することは控えるべきであることを示唆する記載もない。 一方、乙72の1の発行年(1999)及び「PIII-100」というAbstract番号から、乙72の1に記載の臨床試験は、甲4において引用された参考文献(13)(甲4e及び甲4f)に記載の臨床試験と実質的に同一内容であると解される。 すなわち、甲4には、健常ボランティアに対してトルバプタンを30mg投与した場合に血漿アルギニンバソプレシン(AVP)が上昇したことが知られていたこと(乙72の1)を踏まえた上で、トルバプタン(OPC-41061)は、強力な水利尿薬効果を示し、疾患進行性うっ血性心不全の治療薬としてさらなる開発のために選択された、経口活性を有する特異的かつ選択的な非ペプチド性V2受容体拮抗薬であること(甲4d)が記載されているといえる。 そして、甲4には、トルバプタン投与に起因する血中バソプレシン上昇によって悪影響が生じたという記載はなく、トルバプタンをNYHAクラスIVのような重症心不全患者に投与することは控えるべきであることを示唆する記載もない。 以上のように、本件優先日当時、トルバプタン投与に起因する血中バソプレシン上昇による悪影響が生じたことは報告されていなかったことを考慮すると、被請求人による、「トルバプタンをNYHAクラスIVのような重症心不全患者に投与することは控えるべきであると考えられていた」という趣旨の上記主張(エ)は、採用できない。 (オ)本件発明は、本件試験例を開示し、NYHAクラスIVの重症心不全の治療に関し、30 mg投与群は、プラセボ投与群との比較において死亡率低下(予後改善)の効果を有することを示し、かつ、NYHAクラスI~IIIの患者に使用するのと同様の用量で、治療効果が得られることを示したものである。 この死亡率低下(予後改善)、低用量での症状改善の効果は、既述の従来一般的知見とは異なる新たなトルバプタン固有の知見であって、これらの効果は当業者が予測することができた範囲を超える顕著なものである(第1答弁書p.134~135)。 そこで、上記主張(オ)について検討する。 そもそも、発明の詳細な説明には、本件実験例における、NYHAクラスIIIを含まないNYHAクラスIVの患者のみの人数が記載されておらず不明であるから、トルバプタンを1日当たり30mgの用量でNYHAクラスIVの患者のみに対して投与した場合に、プラセボ群と比較してどの程度の治療効果が得られたのかについて当業者は理解することができないことは、上記(2)イ(オ)で説示したとおりである。 すなわち、発明の詳細な説明には、本件実験例においてNYHAクラスIVの患者のみに対して、NYHAクラスI~IIIの患者に使用するのと同様の用量でトルバプタンを投与した場合に、どの程度の治療効果が得られたのかについては記載されていないのであるから、「本件発明は、本件試験例を開示し、・・・、かつ、NYHAクラスI~IIIの患者に使用するのと同様の用量で、治療効果が得られることを示したものである」という趣旨を含む上記主張(オ)は、本件実験例の結果(上記(2)イ(オ))から当業者が理解できる事項に基づくものではないので、採用できない。 そして、甲2に記載された事項(特に甲2c)及び技術常識を参酌した当業者が、NYHAクラスIVの患者に対して、トルバプタンを1日1回30mgの用量で入院期間から開始し退院後にかけて60日間投与した場合でも、血清電解質の有害な変化なしに、プラセボと比較して体重を減少させ、浮腫を軽減させることによって、ある程度の症状改善及び死亡率低下(予後改善)という効果得られることを当業者が期待すること、及び、本件実験例の結果を参酌しても、本件発明で特定されるNYHAクラスIVの患者のみに対する効果が、甲2A~甲2C発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が予測し得ない格別顕著な効果であるとはいえないことは、上記(2)イ(オ)で説示したとおりである。 イ 被請求人による、慢性心不全治療と急性心不全の治療との違い、及び「入院下」での投与と「外来」での投与との違いに関する主張 被請求人は、慢性心不全と急性心不全は、診断へのアプローチ、治療方針、治療薬の効能効果等が異なるので、甲2に記載される臨床試験結果からは、トルバプタンを急性心不全又は慢性心不全の急性憎悪期の重症心不全に投与した場合の治療を容易に想到し得ないという趣旨の主張(令和3年8月17日提出の上申書のp.13~16)、及び甲2に記載される臨床試験結果からは、トルバプタンを「入院下」で投与し開始する治療を容易に想到し得ないという趣旨の主張(令和3年8月17日提出の上申書のp.17~19)をしている。 そこで、上記主張イについて検討する。 被請求人は、本件優先日当時に日本で上市されていた心不全の治療薬の添付文書(乙41~乙43)では慢性心不全と急性心不全が明確に区別され、効能効果として相違するものとして取り扱われていた旨を主張しているが(令和3年8月17日提出の上申書のp.14~15の「(2)」)、乙41(アカルディ)は強心薬、乙42(ゼストリル)はアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬及び乙43(レニベース)はアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬であり、いずれも体内の余分な水分を取り除く利尿薬ではなく、トルバプタンのようにバソプレシンV2拮抗作用に基づく水利尿薬(上記1(2))とは、作用部位も薬理作用も異なる薬物である。 これに対し、利尿薬は、急性心不全の薬物療法(上記1(7)ウ)及び慢性心不全の薬物療法(上記1(8)ウ)のいずれにおいても用いられる主要な薬物であるから、甲2A発明のトルバプタンをNYHAクラスIVの患者に適用する際に、その患者が急性心不全や慢性心不全の急性憎悪期の患者である場合においてもトルバプタンを適用することを、当業者は自然に想起するといえることは、上記(2)イ(ii-2)で説示したとおりである。 また、甲2A発明のトルバプタンを適用するNYHAクラスIVの患者が、急性心不全や慢性心不全の急性憎悪期の患者である場合に、トルバプタンを入院下で経口にて投与開始することは当業者が通常行うことにすぎないことも、上記(2)イ(ii-2)で説示したとおりである。 そして、本件優先日当時、トルバプタンを急性心不全や慢性心不全の急性憎悪期の患者に投与した場合には、慢性心不全の患者に投与した場合に奏される治療効果よりも低い効果しか得られないことが知られていたとはいえず、「入院下」での投与と「外来」での投与とで、トルバプタン投与により奏される治療効果が異なることが知られていたともいえない。 さらに、そもそも本件実験例では、「急性心不全または慢性心不全の急性憎悪期」の患者を対象とする場合と、「慢性心不全」の患者を対象とする場合とを比較して治療効果及び有害事象を評価した結果は記載されておらず、そして、トルバプタンの投与開始時期が「入院下」である場合と、「外来」である場合(すなわち入院下ではない場合)とを比較して治療効果及び有害事象を評価した結果も記載されていないことは、上記(2)イ(オ)(iii)で説示したとおりである。 よって、被請求人による上記主張イは採用できない。 ウ 被請求人による、予後の改善(死亡率低下)という治療効果に関する主張 被請求人は、急性心不全の治療によって本件発明が奏する予後改善(死亡率低下)という治療効果は、既存の利尿薬では何ら確認されていない異質の効果であり、当業者の予測を超えるものであるという趣旨の主張をしている(令和3年8月17日提出の上申書のp.17の2~8行)。 そこで、上記主張ウについて検討する。 本件優先日当時、各心不全治療薬によるQOLに対する効果と、生命予後(当審注:上記「予後改善(死亡率低下)」に相当する。)に対する効果とは、必ずしも一致しないことが知られていたことは、上記1(9)ウで説示したとおりである。 そして、例えば乙86の1cの「表」に示されるように、サイアザイド系・ループ系利尿薬による生命予後の改善効果は不明であるが、上記「表」に示されるように、少なくとも、利尿薬としてスピロノラクトンを用いた場合に生命予後の改善が得られたことは知られていたのであるから(上記1(9)ウ)、被請求人による「予後改善(死亡率低下)という治療効果は、既存の利尿薬では何ら確認されていない異質の効果」であるという趣旨の主張は妥当ではない。 また、サイアザイド系・ループ系利尿薬の作用部位は近位尿細管であり、これらの利尿薬はNa+イオン及びK+イオンを尿中に排泄する作用を有するのに対し(上記1(2)ア)、トルバプタンの作用部位は腎髄質部の集合管であり、トルバプタンは水だけを選択的に尿中に排泄させる水利尿薬であるから(上記1(2)ア及びイ(ア)、1(2)ウ)、サイアザイド系・ループ系利尿薬による生命予後の改善効果は不明であるからといって、作用部位及び作用機序が異なるトルバプタン投与により生命予後の改善効果が期待できないとはいえない。 さらに、甲2に記載される臨床試験結果から、本件実験例のNYHAクラスIII及びIVの患者の両方が含まれる患者群において、トルバプタンを長期にわたり1日1回30mg投与した場合に、血清電解質の有害な変化なしに、プラセボと比較して体重を減少させ、浮腫を軽減させる等、各種の症状を改善する効果がある程度得られること、及び死亡率の低下で表される「予後」が改善されたという効果が得られたことは、当業者が予測し得た程度の効果にすぎないことは、上記(2)イ(オ)で説示したとおりである。 よって、被請求人による上記主張ウは採用できない。 エ 被請求人は、甲2試験はトルバプタンによる慢性治療の効果を評価したものであり、慢性期の心不全(すなわち慢性心不全)を対象としている。このことは、甲2の表題に「Chronic Therapy」(慢性治療)と記載されていること、及び、甲2の最終段落に「chronic TLV therapy」(慢性的なTVP治療)と記載されていることか明らかであるという趣旨の主張をしている(令和3年8月17日提出の上申書p.10「第2 1」)。 そこで、上記主張エについて検討する。 甲2には、臨床試験の対象が「心不全(HF、NYHA I-III)及びうっ血の兆候(浮腫又はラ音等)を有する患者」であることは記載されているが(甲2b)、上記患者全員が慢性心不全の患者であることは記載されていない。 そして、急性心不全の症状及び所見を従来の心不全重症度分類にあてはめると、広く用いられているNew York Heart Association(NYHA)分類ではII度の一部、及びIII、IV度(すなわちNYHAクラスIIの一部、及びクラスIII、クラスIV)が該当してくるのであるから(上記1(7)イ、乙1a)、甲2のNYHA I-III(すなわちNYHAクラスI~III)の患者全員が慢性心不全の患者であるとまではいえない。 また、甲2の臨床試験では、トルバプタンを25日間という長期間投与していることから(甲2b)、被請求人が指摘する「Chronic Therapy」及び「chronic TLV therapy」はそれぞれ「長期治療」及び「長期のTLV治療」を意味するものと解される。 よって、甲2の臨床試験では慢性心不全を対象としているという趣旨の上記主張エは採用できない。 (4)無効理由5における、「甲2に」「甲3を適用することによって」「容易に想到し得たものである」という記載について ア 請求人は、「無効理由5(進歩性欠如(その1))」について、審判請求書では「甲2にトルバプタンやバソプレシンV2-受容体拮抗剤に関する周知技術であった知見あるいは甲3を適用することによって容易に想到し得たものであるから」のように記載している(審判請求書p.8~p.9の「5」及びp.43の「1」)。 イ ここで、上記「あるいは」が「トルバプタンや・・・であった知見」と「甲3」のいずれかを選択することを意味する場合は、無効理由5における「甲2に」「甲3を適用することによって」「容易に想到し得たものである」という記載は、甲2(主引用例)と甲3(副引用例)とを組み合わせた場合の進歩性欠如を主張するものであると解釈される(請求人が令和3年2月16日に提出した口頭審理陳述要領書p.4の「第1 1(ii)」)。 他方、審判請求書には、甲3について、「さらに、2001年の論文である甲3には、・・・非特異的V1A/V2バソプレシン受容体拮抗薬コニバプタン(YM-087)の効果について、重度の心不全(NYHA IIIおよびIV)の設定で臨床試験を実施し、効果を確認している。(改行)このように、NYHAIIIの患者に投与していたV2バソプレシン受容体拮抗薬をNYHAIVの患者に投与することも公知である。」という記載もあるので(p.48の2~3段落)、本審決においては、甲3を、V2バソプレシン受容体拮抗薬に関する技術常識を裏付ける証拠として採用した(上記1(2)イ等)。 ウ ただし、上記アの「甲3を適用すること」という記載は、「トルバプタンやバソプレシンV2-受容体拮抗剤に関する周知技術であった知見」を参酌せずに、甲3のみを副引用例として用いることを意味するものであるとも解釈できるところ、上記「周知技術であった知見」とは、上記1(2)イの「バソプレシン受容体拮抗薬」、同ウの「本件発明の活性成分であるトルバプタンの利尿作用」において認定した技術常識を意味するものといえる。 ここで、上記の解釈によると、甲3以外の証拠により裏付けられる上記特定の技術常識を参酌しないことを前提として、本件発明1と甲2A発明との対比における相違点1(上記(2)イ(ア))を判断することになる。 そして、上記前提においては、甲3以外の証拠により裏付けられる上記特定の技術常識を参酌しないので、甲2A発明を相違点1の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。上記(2)で説示した他の相違点についても同様である。 (5)無効理由5(進歩性欠如(その1))についての判断のまとめ 以上のとおりであるから、本件発明1~14は、甲2A~甲2C発明、甲2に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって、本件発明1~14に係る特許は、無効理由5(進歩性欠如(その1))により、無効とすべきものである。 3 無効理由6(進歩性欠如(その2))についての判断 (1)請求人の主張の概要 請求項1~13に係る発明は、甲3に、トルバプタンに関する周知事項であった知見(必要であれば、甲2、甲4、甲5)を適用することによって容易に想到し得たものであるから、請求項1~13に係る特許は、特許法第29第2項の規定に違反して特許されたものであるので、無効とすべきものである、というものである。 (2)当審の判断 ア 甲3は、うっ血性心不全や肝硬変等でよく見られる、非浸透圧性バソプレシンと持続的な水分取込によって引き起こされる低ナトリウム血症の治療における、V2バソプレシン拮抗薬の役割について記載された文献である(甲3a)。 そして、甲3には、重度の心不全(NYHA III及びIV)を有する低ナトリウム血症の患者に対し、非特異的バソプレシンV1A/V2受容体拮抗薬であるコニバプタンの投与を10mg1日2回(経口)の用量で開始し、血清Na+濃度の正常化又は不耐容の徴候が生じるまで、20、40、60mg1日2回の用量まで漸増して投与した臨床試験について、コニバプタンは、これらの患者の血清Na+濃度を有意かつ安全に増加させることが示されたことが記載されている(甲3c)。 上記臨床試験の結果は、コニバプタンの投与が、重度の心不全(NYHA III及びIV)を有する患者における低ナトリウム血症の治療に有効であったことを示すものであるから、上記臨床試験では、上記患者に対して、コニバプタンを含む治療薬、治療用医薬組成物又は治療用薬剤が投与されたといえる。 そうすると、甲3には、以下の発明が記載されていると認められる。 (ア)「コニバプタンを活性成分として含み、該活性成分を10 mg 1日2回(経口)の用量で投与する、重度の心不全(NYHA III及びIV)を有する患者における低ナトリウム血症の治療薬。」の発明(以下「甲3A発明」という。) (イ)「活性成分のコニバプタンを含み、該活性成分を10 mg 1日2回(経口)の用量で投与する、重度の心不全(NYHA III及びIV)を有する患者における低ナトリウム血症の治療用医薬組成物。」の発明(以下「甲3B発明」という。) (ウ)「活性成分を10 mg 1日2回(経口)の用量で投与する、重度の心不全(NYHA III及びIV)を有する患者における低ナトリウム血症の治療用薬剤を製造するための、活性成分のコニバプタンの使用。」の発明(以下「甲3C発明」という。) イ ここで、本件発明1~3、11と甲3A発明との対比、本件発明4~7、12、14と甲3B発明との対比、本件発明8~10、13と甲3C発明との対比のいずれにおいても、本件発明1~14における活性成分は「5-ヒドロキシ-7-クロロ-1-[2-メチル-4-(2-メチルベンゾイルアミノ)ベンゾイル]-2,3,4,5-テトラヒドロ-1H-ベンゾアゼピンまたはその医薬的に許容される塩」(トルバプタン)であるのに対し、甲3A~甲3C発明における活性成分は「コニバプタン」である点が、相違点に含まれているといえる。 ウ 甲3A~甲3C発明における「コニバプタン」に代えて「トルバプタン」を用いる動機付けについて (ア)甲3には、臨床試験を含む様々な開発段階にあるV2及びV1/V2受容体拮抗薬を、「V2バソプレシン受容体拮抗薬」(バソプレシンV2受容体拮抗薬)としてまとめて説明しており、表1には、OPC41061(トルバプタン)やYM087(コニバプタン)を含む6種類の上記拮抗薬について、それぞれの薬理学的特性が記載されている(甲3b)。 そして、トルバプタンは選択的V2受容体拮抗薬であり(上記1(1))、コニバプタンは非特異的バソプレシンV1A/V2受容体拮抗薬である(甲3c)。 (イ)他方、甲3には、特異的V2R拮抗薬(選択的バソプレシンV2受容体拮抗薬)を使用した研究で血漿バソプレシン濃度の増加が観察され、非特異的V1A/V2受容体拮抗薬(非特異的バソプレシンV1A/V2受容体拮抗薬)は、CCF(うっ血性心不全)の現場において、特異的V2受容体拮抗薬(選択的バソプレシンV2受容体拮抗薬)よりも有利であろう、という趣旨の記載がある(甲3d)。 (ウ)そうすると、甲3の記載に接した当業者は、うっ血性心不全を有する患者の治療において、甲3A~3C発明における「コニバプタン」(非特異的バソプレシンV1A/V2受容体拮抗薬)は、例えば表1(甲3b)に記載された「トルバプタン」のような選択的バソプレシンV2受容体拮抗薬よりも有利であろうということを理解するといえるので、甲3A~3C発明における「コニバプタン」に代えて、あえて「トルバプタン」を用いる動機付けがあるとはいえない。 エ よって、本件発明1~14は、甲3A~甲3C発明、甲3に記載された事項及び技術常識を参酌した当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないので、本件発明1~14に係る特許は、無効理由6(進歩性欠如(その2))によって、無効とすることはできない。 オ 請求人の主張について (ア)請求人は、トルバプタンとコニバプタンは、甲4の表1に記載されているとおり、いずれもバソプレシンV2受容体拮抗薬として同様に注目されていたこと、及び甲17の訳文8~9頁に記載されているように、本件優先日当時、心不全の治療薬として有望なV2拮抗薬としてはコニバプタンかトルバプタンの2種類が特に知られた状況であったこと、及びコニバプタンはバソプレシンV2受容体拮抗薬の中でもV1a/V2受容体に非特異的である一方、トルバプタンはV2受容体特異的であることも知られていたことを主な根拠として、甲3A~甲3C発明における活性成分であるコニバプタンを、V2受容体に対して、より特異的であるトルバプタンに置き換えることは当業者であれば容易に想到できるという趣旨の主張をしている(審判請求書p.56等)。 そこで、上記主張(ア)について検討する。 しかし、そもそも甲3には、コニバプタンを別個の活性成分に変更することを示唆する記載はないことは上記イ及びウで説示したとおりであり、コニバプタンの薬理作用とトルバプタンの薬理作用とが完全に同一であるとはいえないのであるから(上記ウ)、両者がいずれもV2受容体を介するバソプレシンの作用を拮抗する点では共通しているという趣旨の請求人の上記主張を考慮しても、甲3A~甲3C発明における活性成分であるコニバプタンをトルバプタンに置き換えることを、当業者が容易に想到しえたとはいえない。 (イ)請求人は、V2受容体拮抗薬に分類される薬物についてもある程度のV1a受容体遮断作用を示すものと考えられており、V2受容体拮抗薬、V1a/V2受容体拮抗薬といった分類はヒトにおける受容体選択性の相違を客観的な基準に基づいて分類したものとはいえないので、甲3にコニバプタン以外のバソプレシン拮抗薬、特に選択的V2受容体拮抗薬の投与を示唆する記載がないとしても、甲3のコニバプタンをトルバプタンに置き換えることにより、より強力な水利尿効果を期待することは容易といえる、という趣旨の主張をしている(令和3年10月13日提出の弁駁書p.36~39)。 そこで、上記主張(イ)について検討する。 ある化合物が複数種の受容体に対する遮断作用を有する場合は、通常は、その化合物を主要な遮断作用を示す受容体に対する拮抗薬として扱うものと解される。 そして、そもそも甲3には、コニバプタンを別個の活性成分に変更することを示唆する記載がなく、コニバプタンの薬理作用とトルバプタンの薬理作用とが完全に同一であるとはいえないことは上記ウで説示したとおりであるから、甲3のコニバプタンをトルバプタンに置き換える動機付けは不十分であるので、請求人による上記主張(イ)は採用できない。 5 無効理由1(請求項1~13に対する、実施可能要件違反・サポート要件違反(その1))についての判断 (1)請求人の主張の概要 請求項1~7、11、12に係る発明は、「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全」の治療薬(治療剤)ないし治療用医薬組成物とされ、請求項8~10、13に係る発明は、「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全」の治療用薬剤を製造するための特定の化合物の使用とされているところ、特許請求の範囲に記載された化合物が、「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの重症心不全」に対して効果があるか否かが明細書の記載から明らかではない。 したがって、請求項1~13に係る発明は、実施可能なように記載されておらず、また、発明の詳細な説明に記載された発明ともいえないので、請求項1~13に係る特許は、無効とすべきものである。 (2)当審の判断 ア 発明の詳細な説明の記載から、本件発明が解決すべき課題は、NYHAクラスIVの患者に対する治療法を提供することであり、その解決手段は、本件発明における活性成分であるトルバプタンを、本件発明で特定される用量で上記患者に投与することである(【0010】、【0035】~【0037】等)。 これに対し、本件実験例では、NYHAクラスIII及びIVの患者の両方が含まれる患者群に対して、トルバプタンを1日当たり30、60あるいは90mgの用量で、入院期間から開始し退院後にかけて60日間投与した臨床試験結果が記載されている(【0050】~【0059】)。 そして、本件実験例では、30mg処置群において、全尿排出量が増加し(表2)、体重が減少し(表3)、ベースラインより低い血清ナトリウム濃度を有する患者における低ナトリウム血症の患者は、血清ナトリウム濃度の上昇が認められた(表4)という結果が得られている。 さらに、本件実験例では、入院期間から外来で投与を終了するまでの全期間の死亡率が、投与開始から死亡事象発現までの時間を考慮した解析の結果(Log-Rankテスト)、30mg処置群で対照群に比べて有意に低かったこと(表5)、30mg処置群では、高用量での処置群のデータに比べて、副作用としての頻尿の発現頻度が低かったこと(表6)、副作用による投与中断例の割合が低かったこと(表7)を示す結果が得られている。 以上のように、発明の詳細な説明には、NYHAクラスIII及びIVの患者の両方が含まれる患者群に対して、トルバプタンを1日当たり30mgの用量で投与した場合に治療効果が得られたことが記載されている。 ここで、発明の詳細な説明における「表1.試験の概要」(【0052】)の「被験者群」の項目には「NYHA(ニューヨーク心臓協会)分類III-IV」と記載されており、NYHAクラスIIIの患者を含まない、NYHAクラスIVのみの患者の人数は記載されておらず不明であるが、あえて上記2つのクラスを記載している以上、上記「NYHA(ニューヨーク心臓協会)分類III-IV」の群にはNYHAクラスIVの患者が存在していたと解するのが自然である。 そして、発明の詳細な説明には、上記臨床試験においてNYHAクラスIVの患者には治療効果が得られなかったという趣旨の記載はないのであるから、トルバプタンをNYHAクラスIVの患者に投与した場合でも、ある程度の治療効果が得られたと解するのが自然である。 このように、発明の詳細な説明の記載から、トルバプタンをNYHAクラスIVの患者に対して投与した場合に、具体的にどの程度の治療効果が得られたのかは不明であるけれども、ある程度の治療効果が得られたことを当業者は理解できるといえるのであるから、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~14の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。 そして、同様の理由により、本件発明1~14によって、NYHAクラスIVの患者に対する治療法を提供するという課題を解決できることを当業者は認識できるといえるのであるから、本件発明1~14は発明の詳細な説明に記載されたものであるといえる。 よって、本件発明1~14に係る特許を、無効理由1により無効にすることはできない。 イ 請求人は、発明の詳細な説明に記載された臨床試験においては、NYHAクラスIIIの患者及びNYHAクラスIVの患者の分布が不明であり、NYHAクラスIVの患者のみの結果を取り出して評価することはできず、NYHAクラスIVの患者に対して、本件発明の効果が生じているかが不明といわざるを得ない、という趣旨の主張をしている(審判請求書p.25等)。 しかし、トルバプタンをNYHAクラスIVの患者に対して投与した場合に、具体的にどの程度の治療効果が得られたのかは不明であるけれども、ある程度の治療効果が得られたことを当業者は理解又は認識できるといえることは、上記アで説示したとおりである。 よって、請求人の上記主張は採用できない。 ウ なお、被請求人は、乙14、乙15、乙16及び乙17に記載の各臨床試験におけるNYHAクラスIVの患者の割合が、それぞれ67%、51.5%、52%及び61%であったことを根拠として、本件実験例においてNYHAクラスIVの患者が多数存在していたことが理解できるという趣旨の主張(第1答弁書p.37~46)、及び医薬統計学の観点から、本件実験例においてNYHAクラスIVの患者が多数存在していたという趣旨の主張(第1答弁書p.46~49)をしている。 上記主張について、本件実験例においてNYHAクラスIVの患者が存在していたと解されることは上記アで説示したとおりであるが、本件優先日当時、NYHAクラスIII及びIVの患者の両方が含まれる患者群を対象とする本件実験例において、NYHAクラスIVの患者の割合を一定値以上にすることが義務づけられていたとはいえず、上記主張を参酌しても、依然として本件実験例におけるNYHAクラスIVの患者の人数は不明である。 よって、被請求人の上記主張は採用できない。 エ また、被請求人は、甲2に記載の臨床試験の結果を用いたシミュレーション解析報告書である乙59を提示して、本件実験例において、NYHAクラスIVの患者に対し、トルバプタン30mgの投与による治療効果が得られたことを主張している(口頭審理陳述要領書p.24~27)。 しかし、甲2に記載の臨床試験の対象はNYHAクラスI~IIIの患者であるのに対し、本件実験例における対象はNYHAクラスIII及びIVの患者であって、NYHAクラスI及びIIの患者は含まれていない。 また、甲2に記載の臨床試験では、臨床試験全体を通して安定したフロセミド用量(20-240mg/日)が維持された(甲2b)のに対し、本件実験例では、すべての患者は、利尿薬、ジゴキシン、ACE阻害剤、ヒドララジン、硝酸エステル系、βブロッカーを含み得る通常の治療を受け続けたが(【0052】の表1.の「試験設計」の項目)、当該通常の治療で投与された薬剤の用量は不明である。 このように、甲2に記載の臨床試験と本件実験例とは、対象となった心不全患者のNYHAクラスの範囲、及びトルバプタン以外に投与された薬剤のプロトコールが異なるのであるから、乙59に記載のシミュレーション解析によって、本件発明によるNYHAクラスIVの患者に対する治療効果が正しく評価されているとはいえない。 よって、被請求人の上記主張は採用できない。 6 無効理由2(請求項1、2、4、5、6、8、9、11~13に対する、実施可能要件違反・サポート要件違反(その2))についての判断 (1)請求人の主張の概要 請求項1、4、5、8に係る発明は、活性成分の1日当たりの用量が、「0.6mg/kg未満」であることを特徴としており、請求項2、6、9に係る発明は、活性成分の1日当たりの用量が「0.1mg/kgから0.6mg/kg未満の範囲」であることを特徴としており、請求項11~13に係る発明においても引用されているが、本件実験例には、そのような範囲の投与量についての効果は示されていない。したがって、これらの請求項は、実施可能なように記載されておらず、また、発明の詳細な説明に記載された発明ともいえないので、請求項1、2、4、5、6、8、9、11~13に係る特許は無効とすべきものである。 (2)当審の判断 ア 上記「第2」で説示した訂正請求による訂正により、請求項1、4、5、8における活性成分の1日当たりの用量は、「0.371mg/kg以下の範囲」に訂正され、請求項2、6、9における活性成分の1日当たりの用量は、活性成分の1日当たりの用量は「0.1mg/kgから0.371mg/kg以下の範囲」に訂正された(請求項11~13についても同様である。)。 イ ここで、上記「0.371mg/kg」という用量は、発明の詳細な説明の【0051】に記載のように、30mg/個体の用量の平均値である。 そして、上記5(2)で説示したように、本件実験例では、NYHAクラスIII及びIVの患者の両方が含まれる患者群に対して、トルバプタンを1日当たり30、60あるいは90mgのいずれの用量においても、治療効果が得られたことが示されている。 加えて、本件実験例で示された、「1日の全尿排泄量(ml)」(表2.)及び「ベースラインからの体重(kg)の平均変化量」(表3.)のいずれにおいても、30mg処置群とプラセボ群との差は、30mg処置群と60mg処置群との差よりも大きい傾向が認められるので、「30mg」はいわゆる最小有効量(治療効果を得るために必要な最小量、乙27b)よりも高い用量であるといえる。 そうすると、当業者は、発明の詳細な説明の記載から、NYHAクラスIVの患者に対して、トルバプタンを30mgと略同一である「0.371mg/kg」又は「0.371mg/kg未満」の範囲の用量で投与した場合であっても、ある程度の治療効果が得られることを理解できるといえるのであるから、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1、2、4、5、6、8、9、11~13の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。 そして、同様の理由により、本件発明1、2、4、5、6、8、9、11~13によって、NYHAクラスIVの患者に対する治療法を提供するという課題を解決できることを当業者は認識できるといえるのであるから、本件発明1、2、4、5、6、8、9、11~13は発明の詳細な説明に記載されたものであるといえる。 よって、本件発明1、2、4、5、6、8、9、11~13に係る特許を、無効理由2によって無効とすることはできない。 ウ 請求人は、本件実験例においては、0.371mg/kgという数値は、30 mg処置群の用量を体重1kg当たりの用量に換算したというだけであって、これより少ない用量でトルバプタンをNYHAクラスIVの患者に対して投与した場合に、治療効果が得られるのかどうかはわからない、という趣旨の主張をしている(令和2年11月18日提出の弁駁書p.34等)。 上記主張について、当業者は、発明の詳細な説明の記載から、NYHAクラスIVの患者に対して、トルバプタンを30mgと略同一である「0.371mg/kg」又は「0.371mg/kg未満」の範囲の用量で投与した場合であっても、ある程度の治療効果が得られることを理解又は認識できるといえることは、上記イで説示したとおりである。 よって、請求人の上記主張は採用できない。 7 無効理由3(請求項3、7、10、11~13に対する、実施可能要件違反・サポート要件違反(その3))についての判断 (1)請求人の主張の概要 請求項3、7に係る発明は、「該活性成分の用量が1日当たり15~45mg/個体の範囲であることを特徴する」とされており、請求項10に係る発明は、「活性成分が15~45mg/個体の範囲の1日投与量単位で含まれる」とされており、請求項11~13に係る発明においても引用されているところ、本件明細書には、そのような範囲の投与量についての効果は示されていない。したがって、請求項3、7、10、11~13に係る発明は、実施可能なように記載されておらず、また、発明の詳細な説明に記載された発明ともいえないので、請求項3、7、10、11~13に係る特許は無効とすべきものである。 (2)当審の判断 ア 上記「第2」で説示した訂正請求による訂正により、請求項3、7における活性成分の1日当たりの用量は、「15~30mg/個体の範囲」に訂正され、請求項10における1日投与量単位は「15~30mg/個体の範囲」に訂正された(請求項11~13についても同様である。)。 イ そして、上記5(2)で説示したように、本件実験例では、NYHAクラスIII及びIVの患者の両方が含まれる患者群に対して、トルバプタンを1日当たり30、60あるいは90mgのいずれの用量においても、治療効果が得られたことが示されている。 加えて、本件実験例で示された、「1日の全尿排泄量(ml)」(表2.)及び「ベースラインからの体重(kg)の平均変化量」(表3.)のいずれにおいても、30mg処置群とプラセボ群との差は、30mg処置群と60mg処置群との差よりも大きい傾向が認められるので、「30mg」はいわゆる最小有効量(治療効果を得るために必要な最小量、乙27b)よりも高い用量であるといえる。 そうすると、当業者は、発明の詳細な説明の記載から、NYHAクラスIVの患者に対して、トルバプタンを30mg又は30mg未満の範囲の用量で投与した場合であっても、ある程度の治療効果が得られることを理解できるといえるのであるから、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明3、7、10、11~14の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。 そして、同様の理由により、本件発明3、7、10、11~14によって、NYHAクラスIVの患者に対する治療法を提供するという課題を解決できることを当業者は認識できるといえるのであるから、本件発明3、7、10、11~14は発明の詳細な説明に記載されたものであるといえる。 よって、本件発明3、7、10、11~14に係る特許を、無効理由3によって無効とすることはできない。 ウ 請求人は、本件実験例においては、30mg処置群の用量よりも少ない用量でトルバプタンをNYHAクラスIVの患者に対して投与した場合に、治療効果が得られるのかどうかはわからない、という趣旨の主張をしている(令和2年11月18日提出の弁駁書p.34等)。 上記主張について、当業者は、発明の詳細な説明の記載から、NYHAクラスIVの患者に対して、トルバプタンを30mg又は30mg未満の範囲の用量で投与した場合であっても、ある程度の治療効果が得られることを理解できるといえることは、上記イで説示したとおりである。 よって、請求人の上記主張は採用できない。 8 無効理由4(請求項1~13に対する、実施可能要件違反・サポート要件違反(その4))についての判断 (1)請求人の主張の概要 本件の実施例の患者は、特許請求の範囲に記載された化合物の他に、「利尿薬、ジゴキシン、ACE阻害剤、ヒドララジン、硝酸エステル系、βブロッカーを含み得る通常の治療を受け続け」ているため(本件明細書の表1)、特許請求の範囲に記載された化合物の単剤としての効果が記載されていない。 また、それぞれの患者に利尿薬の投与があったかも含め、どのような利尿薬がどの程度の量を投与されているのかが不明であり、それぞれの患者に利尿薬の影響がどのようであったかも不明であるので、本件発明の単剤としての効果が示されているとはいえない。したがって、請求項1~13に係る発明は、実施可能なように記載されておらず、また、発明の詳細な説明に記載された発明ともいえない。 (2)当審の判断 ア 心不全の患者に対して、複数種の薬を用いて治療を行うことは常套手段である(上記1(4))。 そして、本件実験例では、NYHAクラスIII及びIVの患者の両方が含まれる患者群に対して、トルバプタンを1日当たり30、60あるいは90mgのいずれの用量においても、プラセボ群と比較して治療効果が得られたことが記載されており、すべての患者は、利尿薬、ジゴキシン、ACE阻害剤等を含み得る通常の治療を受け続けているのであるから(【0052】の「表1.試験の概要」)、上記治療効果は、トルバプタンを投与したことに起因するものであることを、当業者は理解できるといえるのであるから、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~14の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。 そして、同様の理由により、本件発明1~14によって、NYHAクラスIVの患者に対する治療法を提供するという課題を解決できることを当業者は認識できるといえるのであるから、本件発明1~14は発明の詳細な説明に記載されたものであるといえる。 したがって、発明の詳細な説明は当業者が本件発明1~14の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されており、かつ本件発明1~14は発明の詳細な説明に記載されたものであるといえる。 よって、本件発明1~14に係る特許を、無効理由4によって無効にすることはできない。 イ 請求人は、通常の治療に用いられる他の薬とトルバプタンとを組み合わせたことにより、どのような効果及び悪影響が生じるのかは不明であるから、単に通常の治療に用いられる他の薬を投与しているプラセボ群との比較のみでは、トルバプタンの単独の効果や悪影響を議論することはできない、という趣旨の主張をしている(審判請求書p.41等)。 そこで、上記主張について検討する。 本件出願日当時、通常の治療に用いられる他の薬とトルバプタンとを組み合わせたことにより、治療に特段の支障が生じるような悪影響が観察されたことは報告されていない。 そして、本件実験例で示された、NYHAクラスIII及びIVの患者の両方が含まれる患者群における治療効果は、トルバプタンを投与したことに起因するものであることを、当業者は理解できるといえることは、上記アで説示したとおりである。 よって、請求人の上記主張は採用できない。 9 請求人らが本件訂正により新たに生じたと主張する、実施可能要件違反・サポート要件違反について (1)「患者に最適の治療と組み合わせて」という特定に基づく主張について 請求人は、本件明細書には「最適の治療」をどのように実現したらよいのかについての開示がないのであるから「最適の治療」が特定された請求項に係る発明は実施可能要件(同法同条第4項第1号)に違反するという趣旨の主張(令和3年10月13日提出の弁駁書p.12~p.13)、及び、本件明細書には「最適の治療」の具体的な内容については、例示として「利尿薬、ジゴキシン、ACE阻害剤、ヒドララジン、硝酸エステル系、βブロッカーを含み得る通常の治療」としか説明されておらず、その具体的な内容が何ら特定されていないから、「最適の治療」が特定された請求項に係る発明はサポート要件(特許法第36条第6項第1号)に違反するという趣旨の主張をしている(令和3年10月13日提出の弁駁書p.12)。 そこで、上記主張について検討する。 発明の詳細な説明に、請求項1に係る治療薬、請求項7に係る治療用医薬組成物及び請求項10に係る治療用薬剤が「最適の治療と組み合わされ」ることについての記載があることは、上記第2の3(3)ウで説示したとおりであり、これらの記載及び本件出願日当時の技術常識を参酌した当業者は、「最適の治療」という記載は、それぞれの患者において最も有効な治療効果を得ることを目的として、最適とされる通常の薬物療法を意味していることを理解して、「最適の治療」を実施することができるといえる(当審注:「本件出願日当時の技術常識」は「本件優先日当時の技術常識」(上記1)と同様である。)。 そして、上記当業者は、「最適の治療」が特定された請求項に係る発明が発明の詳細な説明に記載されたものであることを認識できるといえる。 よって、請求人による上記主張は採用できない。 (2)「予後を改善する」という特定に基づく主張について 請求人は、訂正後の請求項2、5、9、14で具体的に特定されている投与量などの構成の他にどのような構成があれば「予後の改善」ができるのかが不明であり、本件明細書には予後の改善を理解できるに足る記載はないので、「予後の改善」が特定された請求項に係る発明は、サポート要件及び実施可能要件に違反するという趣旨の主張をしている(令和3年10月13日提出の弁駁書p.13~14)。そして、参加人東和薬品も同様の趣旨の主張をしている(令和3年10月14日提出の弁駁書p.17)。 そこで、上記主張について検討する。 発明の詳細な説明における「予後を改善する」に関する記載を参酌した当業者が、「予後を改善すること」は、死亡率」を低下させることを意味することを理解できること、そして、 「予後の改善」という特定は、各請求項に係る発明により奏される効果を説明する記載であると解されるところ、各請求項に係る発明により、重症度III及びIVの患者(すなわち重症度IVの患者を含む)に対して「死亡率」の低下が見られたことが本件実験例に記載されていることは、上記第2の3(5)イ(イ)で説示したとおりである。 そうすると、これらの記載及び本件出願日当時の技術常識を参酌した当業者は、「予後の改善」の意味を理解して、「予後を改善する」という特定がされた請求項に係る発明を実施することができ、また、これらの発明が発明の詳細な説明に記載されたものであることを認識できるといえる。 よって、請求人らによる上記主張は採用できない。 (3)「急性心不全」という特定に基づく主張について 参加人東和薬品は、訂正事項10等における「急性心不全」は慢性心不全の急性憎悪期以外にも、心筋梗塞や心筋炎等、他の種々の原因で引き起こされるものも含まれており、そのような多様な背景を有する急性心不全の患者に対してトルバプタン(各請求項に係る発明における活性成分)の有効性を裏付ける記載が本件明細書中に存在しないので、「急性心不全」が特定された各請求項に係る発明はサポート要件及び実施可能要件に違反するという趣旨の主張をしている(令和3年10月14日提出の弁駁書p.16)。 そこで、上記主張について検討する。 発明の詳細な説明に、請求項10、15及び18に係る「ニューヨーク心臓協会の分類:重症度IVの患者」が「急性心不全または慢性心不全の急性増悪期にある」ことについての記載があることは、上記第2の3(3)イで説示したとおりであり、これらの記載及び本件出願日当時の技術常識を参酌した当業者は、「急性心不全」という特定がされた患者に対する治療効果について理解できるといえる。 そうすると、上記当業者は、「急性心不全」という特定がされた各請求項に係る発明を実施することができ、また、これらの発明が発明の詳細な説明に記載されたものであることを認識できるといえる。 よって、参加人東和薬品による上記主張は採用できない。 第8 むすび 以上のとおり、本件発明1~14に係る特許は、無効理由5(進歩性欠如(その1))により無効とすべきものである。 また、本件発明1~14に係る特許は、無効理由1~4、及び無効理由6(進歩性欠如(その2))のいずれによっても無効とすることはできない。 そして、審判に関する費用については、参加により生じた費用も含めて、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人の負担とする。 よって、結論のとおり審決する。

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2020-800029

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