特許異議申立
2020-700892
青果物の鮮度保持性能に優れた包装体、及び青果物の鮮度保持方法
- 審判番号
- 2020-700892
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-069111
- 登録番号
- 6695822
- 請求日
- 2020年11月20日
- 審決日
- 2022年07月22日
- 公報発行日
- 2022年10月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三井化学東セロ株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人浅村特許事務所
- 【権利者】三井化学株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人浅村特許事務所
- 【異議申立人】森田 弘潤
- 審判長/審判官
- 審判長 藤原 直欣
- 審判官 久保 克彦
- 審判官 藤井 眞吾
- 分類
- P1651.536-YAA(B65D) / P1651.537-YAA(B65D) / P1651.113-YAA(B65D) / P1651.121-YAA(B65D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条第4号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第113条第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6695822号発明「青果物の鮮度保持性能に優れた包装体、及び青果物の鮮度保持方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6695822号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第6695822号の請求項1、4~6に係る特許を維持する。
特許第6695822号の請求項2及び3に係る特許についての申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6695822号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成29年3月30日を出願日とする特許出願(以下、「本件特許出願」という。)であり、令和2年4月24日にその特許権の設定登録がされ、令和2年5月20日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、概略次のとおりである。
令和2年11月20日 : 特許異議申立人森田弘潤(以下「申立人」という。)による請求項1~6に係る特許に対する特許異議の申立て
令和3年3月5日付け : 取消理由の通知
令和3年5月7日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年6月15日付け: 訂正拒絶理由の通知
令和3年7月13日 : 特許権者による意見書の提出
令和3年12月17日 : 申立人による意見書の提出
令和4年1月12日付け: 取消理由の通知(決定の予告)
令和4年3月18日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
上記令和4年3月18日の訂正請求書による訂正の請求がされたから、令和3年5月7日の訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 本件訂正
1 訂正の内容
令和4年3月18日の訂正請求書による訂正の請求(以下、「本件訂正」という。)は、特許第6695822号の明細書、及び特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書、及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求める、というものであって、その内容は以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に記載の「以下であり、」の直後に「前記包装体の封止直後の前記包装容器内の酸素濃度が、10体積%以上15体積%以下であり、」を追加する。
請求項1を引用する請求項4~6も、同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に記載の「包装体の封止後10℃で」の直前に「前記包装体の封止直後の前記包装容器内の窒素濃度が、85体積%以上90体積%以下であり、」を追加する。
請求項1を引用する請求項4~6も、同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に記載の「包装体の封止後10℃で72時間保持した後における内部酸素濃度が、5.42~19.8体積%である」を「包装体の封止後10℃で72時間保持した後における内部酸素濃度が、6.4~8.91体積%である」との記載に訂正する。
請求項1を引用する請求項4~6も、同様に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に記載の「高分子フィルムの酸素透過度が、20℃、90%RHにおいて、1000mL/m2/atm/24hr以上、30000mL/m2/atm/24hr以下であり、」を「高分子フィルムの酸素透過度が、20℃、90%RHにおいて、1000mL/m2/atm/24hr以上、3000mL/m2/atm/24hr以下であり、」との記載に訂正する。
請求項1を引用する請求項4~6も、同様に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項4に記載の「請求項1から3のいずれか一項に記載の包装体。」を「請求項1に記載の包装体。」に訂正する。
請求項4を引用する請求項5及び6も、同様に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項5に記載の「請求項1から4のいずれか一項に記載の包装体。」を「請求項1又は4に記載の包装体。」に訂正する。
請求項5を引用する請求項6も、同様に訂正する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項6に記載の「請求項1から5のいずれか一項に記載の包装体。」を「請求項1及び4から5のいずれか一項に記載の包装体。」に訂正する。
(10)訂正事項10
明細書の段落【0054】及び段落【0061】の【表1】にそれぞれ記載の「実施例1」を「参考例1」に訂正する。
(11)訂正事項11
明細書の段落【0055】及び段落【0061】の【表1】にそれぞれ記載の「実施例2」を「参考例2」に訂正する。
(12)訂正事項12
明細書の段落【0056】及び段落【0061】の【表1】にそれぞれ記載の「実施例3」を「参考例3」に訂正する。
(13)訂正事項13
明細書の段落【0057】及び段落【0061】の【表1】にそれぞれ記載の「実施例4」を「参考例4」に訂正する。
(14)訂正事項14
明細書の段落【0061】の本文及び【表1】にそれぞれ記載の「実施例7」を「参考例5」に訂正する。
(15)訂正事項15
明細書の段落【0062】に記載の「実施例1から7」を「参考例1から4、実施例5から6、及び参考例5」に訂正する。
(16)訂正事項16
明細書の段落【0062】に記載の「実施例1から4」を「参考例1から4」に訂正する。
(17)訂正事項17
明細書の段落【0062】に記載の「実施例5から7」を「実施例5から6及び参考例5」に訂正する。
一群の請求項
本件訂正前の請求項1~6は、請求項2~6が本件訂正の対象である請求項1の記載を直接的又は間接的に引用し、請求項1の記載の訂正に連動して訂正されるものであるから、訂正事項1~17は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項〔1~6〕に対して請求するものである。
2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1~4について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1、2は、訂正前の請求項1に記載された包装体の気体の状態について、「包装体の封止後10℃で72時間保持した後における内部酸素濃度」が特定されていたところ、訂正後は、「前記包装体の封止直後の前記包装容器内の酸素濃度が、10体積%以上15体積%以下であり」、「前記包装体の封止直後の前記包装容器内の窒素濃度が、85体積%以上90体積%以下であり」、と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項3、4は、訂正前の請求項1に数値範囲で特定されていた「包装体の封止後10℃で72時間保持した後における内部酸素濃度」、「高分子フィルムの酸素透過度」の当該数値範囲を狭めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、「本件明細書等」という。)の段落【0061】の【表1】には、実施例5、6の封入ガス組成として、酸素が「10」、「15」(体積%)であり、窒素が「90」、「85」(体積%)であることが示され、また、同じく実施例5、6の72時間後の酸素濃度として「6.4」、「8.91」であることが示されているから、訂正事項1、2及び3は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の事項である。
高分子フィルムの酸素透過度の上限に関し、本件明細書等の段落【0022】に「本発明に用いる高分子フィルムの酸素透過度には袋内酸素濃度を一定範囲に保つ観点から、・・・3000mL/m2/atm/24hr以下が特に好ましい。」と記載されているから、訂正事項4は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の事項である。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1~4は、既に述べたように特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項5、6について
訂正事項5、6は、それぞれ特許請求の範囲の請求項2、請求項3を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、請求項の削除は、新規事項を追加するものでもなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項7~9について
訂正事項7~9は、訂正事項5、6により請求項2、請求項3を削除する訂正と整合させるために、訂正前に請求項2あるいは請求項3を引用する請求項4~6を、請求項2及び3を引用しないものとする訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
訂正事項7~9は、引用する請求項から一部の請求項を削除する訂正であるから、新規事項を追加するものでもなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項10~17について
訂正事項10~17は、訂正事項1~4により“実施例”と表現するのが適切ではなくなった「実施例1」、「実施例2」、「実施例3」、「実施例4」、「実施例7」をそれぞれ「参考例1」、「参考例2」、「参考例3」、「参考例4」、「参考例5」と表現し直すものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、これは一群の請求項1~6に関係する訂正である。
そして、訂正事項10~17は、単に表現を変えるだけの訂正であるから、新規事項を追加するものでもなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)小括
以上のとおりであるから、訂正事項1~17は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第4~6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲[1~6]を、本件訂正の訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正が認められることから、本件特許の請求項1、4~6に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明4」~「本件発明6」という。)は、令和4年3月18日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
延伸ポリプロピレンフィルム、ポリエチレン系フィルム、及び延伸フィルムとポリエチレン系フィルムとの積層体、から選ばれる高分子フィルムを含み、前記高分子フィルムを2枚互いに重ね合わせた状態、または前記高分子フィルム一枚を折り重ねた状態で融着してなる包装容器内にその全部がカットレタスで構成されている青果物を収納してなり、該高分子フィルムの酸素透過度が、20℃、90%RHにおいて、1000mL/m2/atm/24hr以上、3000mL/m2/atm/24hr以下であり、前記包装体の封止直後の前記包装容器内の酸素濃度が、10体積%以上15体積%以下であり、前記包装体の封止直後の前記包装容器内の窒素濃度が、85体積%以上90体積%以下であり、包装体の封止後10℃で72時間保持した後における内部酸素濃度が、6.4~8.91体積%である、包装体。」
「【請求項4】
前記高分子フィルムの厚みが、15から45μmである、請求項1に記載の包装体。
【請求項5】
前記高分子フィルムが、少なくとも1種の抗菌剤を含有し、又は少なくとも1種の抗菌剤が塗布されている、請求項1又は4に記載の包装体。 【請求項6】
更に吸湿剤、及び/又は抗菌剤を収納してなる、請求項1及び4から5のいずれか一項に記載の包装体。」
第4 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~6に係る特許に対して、当審が特許権者に対して令和4年1月12日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。
1 サポート要件: 本件請求項1~6に係る特許は、本件請求項1~6に記載された発明が発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 明確性: 本件請求項1~6に係る特許は、本件請求項1~6の記載が明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 進歩性: 本件特許の請求項1~6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
・ 引用文献1:特開平6-105650号公報(申立人が提出した甲第1号証)
・ 引用文献2: 日本工業規格“プラスチック―フィルム及びシート―ガス透過度試験方法―第2部:等圧法”、JIS K 7126-2:2006、2006年、p.8(申立人が提出した甲第10号証)
・ 引用文献3:特開平4-148643号公報(申立人が提出した甲第11号証)
・ 引用文献4:永井耕介 他2名、“レタスの収穫後の呼吸特性と各種機能性フィルムによる鮮度保持”、兵庫県農業技術センター研究報告〔農業編〕、第46号、p.45-p.50、1998年(申立人が提出した甲第2号証)
第5 当審の判断
1 特許権者に通知した取消理由について
(1)理由1(サポート要件)
ア 本件発明の課題について
本件特許明細書には、本件発明が解決しようとする課題について、以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景技術の限界に鑑み、包装容器内にレタスを含む青果物を収納してなる包装体であって、当該レタスを含む青果物からの異臭の発生を、長期間に亘って有効に抑制するなど、該青果物の鮮度保持機能に優れた包装体を提供することを課題とする。
本発明者は、鋭意検討の結果、包装体の封止後所定時間経過後の包装体の内部酸素濃度を所定範囲内に制御することが、レタスを含む青果物からの異臭を長期間に亘り抑制するために特に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。」
そうすると、本件発明は、「・・・当該レタスを含む青果物からの異臭の発生を、長期間に亘って有効に抑制するなど、該青果物の鮮度保持機能に優れた包装体を提供することを」を課題とし、そのために、「包装体の封止後所定時間経過後の包装体の内部酸素濃度を所定範囲内に制御する」こととしたものである。
イ 官能評価について
(ア)発明の詳細な説明には、実施例、比較例の評価手法に関し、次の記載がある。
「【0052】
以下の実施例/比較例において、各特性の評価は以下の方法で行った。
(酸素透過度)
まず、次の方法で内寸170mm×235mmの袋を形成した。1枚のフィルムをほぼ均等に2つ折りにし約5mm幅で、インパルスシーラー(富士インパルス社製、品番Fi-200-10WK)で加熱条件の目盛を3に設定してヒートシールを行い、当該ヒートシール辺がほぼ中央にくるようにヒートシール辺とほぼ垂直をなす辺の一方の全体を、他方の辺の一方の連通部となる端部約2cmを除く全体をヒートシールして、内寸170mm×235mmの袋を形成した。
次に前記連通部から窒素ガスを注入し、袋内が飽和状態になってから袋内のガスを連通部からほぼすべて排出した。この操作を5回繰り返した後、窒素ガスを注入して袋内を窒素ガスで飽和させて連通部を前記インパルスシーラーで同様の条件でヒートシールした。窒素ガスを飽和させた袋を22℃、相対湿度40%の空気中(1気圧、酸素濃度:21%、窒素濃度:79%)の室内に6時間放置した。
次にサンプリング針チューブで袋内のガスを約20ccサンプリングして食品包装用ジルコニア酸素濃度計(東レエンジニアリング社製、型番LC-750F)にて袋中の酸素濃度を測定した。さらに、袋中の気体の体積を測定し、下記の式から酸素透過度を算出した。
(式)酸素透過度=内部酸素濃度変化(%)/100×体積(cm3)×24×60/時間(360分)×10000cm2/面積(799cm2)/0.21(酸素の分圧)
(酸素濃度・二酸化炭素濃度)
Dansensor製食品包装用O2/CO2分析計Check Mate 3を用いて測定した。
(臭い)
包装体の封を開けた時に顔を近づけて内部のにおいを嗅いでn=3で官能評価した。
評価基準は以下のとおり。
A:新鮮な状態で全く問題ない
B:やや臭いがあるが新鮮と言える状態
C:臭いが強いが市販と同じ状態であり、販売可能な状態
D:更に臭いが強く消費者が気にする状態
E:更に臭いが強く販売不可能な状態」
また、各実施例(参考例)、比較例について、臭いの評価としてAからEまでのアルファベットが付されている。
(イ)特許権者は、意見書を提出して、カットレタスという現実の流通で広く販売されている商品について、消費者の容認可否や販売可能性という客観性がある外部基準を採用したものである旨主張する。
(ウ)そこで、合議体として、特許権者の主張を踏まえてさらに検討を進める。
上記「臭い」の評価は、単純に“よい”“わるい”“強い”“弱い”といったようなものではなく、「新鮮」かどうか、「販売可能」かどうか、「消費者が気にする」かどうか、といった事項が検討されたものである。
ところで、食品に関する技術分野における評価手法として、官能評価は、よく用いられるものであり、本件発明1~6での評価も、これの一態様と考えられる。そして、官能評価は、一定の知識・経験を有した者がパネラーとなり、評価の基準を統一して実施するのが通常である。
そのようなパネラーにとって、「カットレタス」についての上記「新鮮」かどうか、といった事項は、臭いに関するものとして十分明確に認識し得るものであって、パネラー相互間での評価の基準も統一できるものと考えられる。
特に、においの種類でなく単に臭いといった消費者が気にする状態に係る評価基準は、本件明細書の記載されたような統一した評価基準を用いることで、高度の知識ないし経験を有するパネラーでなくとも、客観性の備わった官能評価が可能であるともいえる。
そして、発明の詳細な説明において実施例(参考例)、比較例に対して行われた評価は、その手法が客観性を備えているのだから、それらの評価による結果を伴った実施例は、所与の課題が解決できることを示す上で十分なものというべきである。
ウ 酸素透過度について
発明の詳細な説明には、所与の課題が解決できると確認されている実施例の高分子フィルムとして、22℃及び相対湿度40%で測定した酸素透過度が示されており(【0052】【表1】参照)、その一方で、発明の一般的な説明として高分子フィルムの20℃及び90%RHでの酸素透過度を示した箇所がある(段落【0022】)。
本件発明1、4~6における高分子フィルムは、酸素透過度の値が特定されたものであるが、この酸素透過度を測定する温度、湿度自体に格別の技術的な意義があるものではない。
特に発明の詳細な説明には、酸素透過度を調整するために、高分子フィルムに開口部を設ける手段についても記載されていることから(段落【0026】)、20℃及び90%RHで測定される高分子フィルムの酸素透過度の値は、22℃及び相対湿度40%で測定した場合と実質的に同程度のものと考えられる。
そうすると、発明の詳細な説明における実施例と同じ値の酸素透過度が20℃及び90%RHで測定した値である高分子フィルムを考えても、所与の課題を解決できるといえる。
したがって、本件発明1、4~6は、“酸素透過度”の点について、発明の詳細な説明に実質的に記載されたものといえる。
エ 所定時間経過後における臭気を抑制し得る事項について
(ア)本件訂正によって、「該高分子フィルムの酸素透過度が、20℃、90%RHにおいて、1000mL/m2/atm/24hr以上、3000mL/m2/atm/24hr以下であり」、「前記包装体の封止直後の前記包装容器内の酸素濃度が、10体積%以上15体積%以下であり、前記包装体の封止直後の前記包装容器内の窒素濃度が、85体積%以上90体積%以下であり」、「包装体の封止後10℃で72時間保持した後における内部酸素濃度が、6.4~8.91体積%である」という事項が本件発明1、4~6の発明特定事項に含まれることになった。これにより、本件発明1、4~6は、「20℃、90%RHにおいて、1000mL/m2/atm/24hr以上、3000mL/m2/atm/24hr以下」という範囲の酸素透過度を有する高分子フィルムを用いた包装容器の中の酸素濃度、窒素濃度を包装体の封止直後にそれぞれ「10体積%以上15体積%以下」、「85体積%以上90体積%以下」という特定の範囲のものとしておいて、そこにカットレタスを収納して包装体を封止した後「10℃で72時間保持した後における内部酸素濃度」が「6.4~8.91体積%」という特定の範囲内にするようにしたものと理解できる。こうした本件発明1、4~6は、課題が解決することが確認された実施例5、6による開示に照らすと、当業者が課題を解決することができると認識できる範囲を超えたものではない。
なお、本件訂正前の請求項2には、包装体の封止直後の包装容器内の酸素濃度の数値範囲が特定されていたが、本件訂正により、当該請求項2は、削除され、請求項1には、上述のように包装体の封止直後の包装容器内の酸素濃度、窒素濃度の数値範囲がそれぞれ特定されるに至った。
(イ)レタスの種類、レタスのカットの仕方などは、カットレタスの収納後の呼吸に関係する要素であるとはいえるが、本件発明1、4~6は、(ア)で述べたように、特定の範囲の酸素透過度の高分子フィルムを用いた包装容器の中の酸素濃度、窒素濃度を包装体の封止直後に特定の範囲のものとしておいて、そこにカットレタスを収納して包装体を封止した後「10℃で72時間保持した後における内部酸素濃度」が特定の範囲内になるようにしたものであり、本件発明1、4~6の実施に当たってはレタスの種類やカットの仕方に加えて収納される分量なども適宜選定されることも考えれば、これらレタスの種類などが特定されないことをもって当業者が課題を解決することができると認識できる範囲を超えているとするのは相当でない。
(ウ)なお、本件発明1、4~6は、包装体の封止直後の包装容器内の二酸化炭素濃度についての発明特定事項を含んでいないが、「前記包装体の封止直後の前記包装容器内の酸素濃度が、10体積%以上15体積%以下であり、前記包装体の封止直後の前記包装容器内の窒素濃度が、85体積%以上90体積%以下であり」という発明特定事項が、実施例5、6に依拠したものであり、実施例5、6でも発明の詳細な説明のその他の記載でも包装体の封止直後に包装容器内に二酸化炭素が含まれることは記載されていないのだから、本件発明1、4~6は、包装体の封止直後の包装容器内に二酸化炭素が含まれていないものと理解すべきである。そうすると、申立人が特許異議申立書で指摘した二酸化炭素濃度の特定に関する点は、採用し得ない。
オ 小括
以上のとおり、本件発明1、4~6は、上記課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。
したがって、本件請求項1、4~6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たす特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当しない。
(2)理由2(明確性)について
酸素透過度、課題を解決するための手段については、既に上記(1)ウ、エで述べたとおりであり、本件発明1、4~6は明確である。
したがって、本件請求項1、4~6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たす特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当しない。
(3)理由3(進歩性)について
ア 引用文献1に記載された事項及び引用文献1に記載された発明
引用文献1には、以下の記載がある(下線は当審が付した。以下同様。)。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】抗菌性を有する金属あるいは金属イオンを担持させた物質あるいは化合物を少なくともカット野菜と接するフィルム面に練り込んだ袋において、酸素透過度が5,000~50,000cc/m2・atm・dayの範囲となるように袋内面側より、未貫通孔を形成させたことを特徴とするカット野菜の鮮度保持用袋。」
(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明はカット野菜の鮮度を保持するための包装用袋に関し、特にフィルムが抗菌性を有し、かつガス透過性を適度に保つことによりカット野菜の鮮度を保持する袋に関する。」
(ウ)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明はカット野菜の包装用フィルムに関し、低濃度の抗菌性物質で高い抗菌効果を有し、かつ袋内の酸素濃度をカット野菜の鮮度を保持するのに適した濃度に制御できるカット野菜の鮮度保持用袋を供給することを課題とする。」
(エ)「【0008】以下、詳細に説明する。抗菌性物質としては、プラスチックフィルムに対して練り込むことが可能で、かつそのプラスチックフィルムが抗菌性を有しているものであれば何でも良い。例えば、従来から用いられている金属あるいは金属イオン担持させた物質等が使用できる。ここで、金属あるいは金属イオンとしては銀、銅、鉄あるいはそれらのイオンがあげられる。」
(オ)「【0012】使える樹脂の種類としては抗菌性フィルム用の樹脂としては、ポリエチレン、ポリブタジエン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、積層体で抗菌性物質を含まない樹脂は他にナイロン、ポリエステル、延伸ポリプロピレンなどがフィルムの強度等を増すために用いることができる。」
(カ)「【0014】本発明においては、上記抗菌性増大のための未貫通孔の部分の膜厚が薄くなり、その部分では酸素透過度が増大する。従って、未貫通孔の数と孔の深さを制御することにより、酸素透過度をも必要な範囲に制御できる。」
(キ)「【0028】<実施例3>ポリエステル(12μm)を基材として銀ゼオライト(銀イオン含量:10wt%,練り込み量:ポリメチルペンテンに対し10wt%)を練り込んだポリメチルペンテン(20μm)を押出して積層体フィルムを得た。このフィルムに対し、フィルムの酸素透過度を10,000cc/m2・atm・dayとなるように数μm径の未貫通孔を形成させた。作製したフィルムを銀ゼオライト練り込みフィルム面が内側になるように10×20cmの大きさの袋に製袋し、その中に2.0×2.0cmの大きさに切断し、冷水洗浄したカットレタスを50g量り、包装し、以下、実施例1と同様に実験を行った。実験結果を(表5)及び(表6)に示す。」
(ク)「【0033】 【表6】
[図:0001389362000001.jpg]
」
(ケ)「【0034】<実施例4>ポリエステル(12μm)を基材としてLDPE(50μm)銀ゼオライト(銀イオン含量:10wt%,練り込み量:LDPEに対し5wt%)を練り込んだLDPE(10μm)を、共押出しして積層体フィルムを得た。このフィルムに対し、フィルムの酸素透過度を5,000cc/m2・atm・dayとなるように数μm径の未貫通孔を形成させた。作製したフィルムを銀ゼオライト練り込みフィルム面が内側になるように10×20cmの大きさの袋に製袋し、その中に1/4にカットし、冷水洗浄したカットレタスを50g量り、包装し、以下、実施例1と同様に実験を行った。実験結果を(表7)及び(表8)に示した。」
(コ)「【0039】 【表8】
[図:0001389362000002.jpg]
」
イ 上記アに摘記した事項、特にその実施例4に注目すると、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ポリエステル(12μm)を基材としてLDPE(50μm)銀ゼオライト(銀イオン含量:10wt%,練り込み量:LDPEに対し5wt%)を練り込んだLDPE(10μm)を、共押出しした積層体フィルムに対し、フィルムの酸素透過度を5,000cc/m2・atm・dayとなるように数μm径の未貫通孔を形成させ、作製したフィルムを銀ゼオライト練り込みフィルム面が内側になるように10×20cmの大きさの袋に製袋し、その中に1/4にカットし、冷水洗浄したカットレタス50gを包装し、10℃の条件下で貯蔵した貯蔵日数が0日である時、袋内の酸素濃度が20.8%であり、貯蔵日数が3日である時、袋内の酸素濃度が6.2%である包装体。」
ウ 本件発明1
(ア)本件発明1と引用発明を対比する。
a 引用発明の「積層体フィルム」のうち「ポリエステル(12μm)」の「基材」は、「フィルム」という限りにおいて本件発明1の「延伸フィルム」と一致する。
引用発明の「積層体フィルム」のうち「LDPE(10μm)」は、本件発明1の「ポリエチレン系フィルム」に相当する。
そうすると、引用発明の「ポリエステル(12μm)を基材としてLDPE(50μm)銀ゼオライト(銀イオン含量:10wt%,練り込み量:LDPEに対し5wt%)を練り込んだLDPE(10μm)を、共押出しした積層体フィルム」は、「フィルムとポリエチレン系フィルムとの積層体である高分子フィルム」という限りにおいて、本件発明1の「延伸フィルムとポリエチレン系フィルムとの積層体、から選ばれる高分子フィルム」に一致する。
b 引用発明の「袋」は、本件発明1の「包装容器」に相当する。
そして、引用発明の「カットレタス」は本件発明1の「カットレタス」に相当し、引用発明は、「カットレタス50g」を包装するものであるから、本件発明1の用語で記載するところの「包装容器内にその全部がカットレタスで構成されている青果物を収納してな」るものである。
c 引用発明の「酸素透過度」は本件発明1の「酸素透過度」に相当する。
d 引用発明の「貯蔵日数が3日」は、本件発明1の「72時間保持した後」に相当し、同様に、「袋内の酸素濃度」は「内部酸素濃度」に相当する。
そうすると、引用発明の「10℃の条件下で」「貯蔵日数が3日である時、袋内の酸素濃度が6.2%」と本件発明1の「包装体の封止後10℃で72時間保持した後における内部酸素濃度が、5.42~19.8体積%」は、「包装体の封止後10℃で72時間保持した後における内部酸素濃度」が特定のものであるという限りで一致する。
e 以上を踏まえると、本件発明1と引用発明の一致点、相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「フィルムとポリエチレン系フィルムとの積層体である高分子フィルムを含む包装容器内にその全部がカットレタスで構成されている青果物を収納してなり、包装体の封止後10℃で72時間保持した後における内部酸素濃度が特定のものである、包装体。」
<相違点1>
ポリエチレン系フィルムと積層体を構成するフィルムに関し、本件発明1は「延伸フィルム」であるのに対し、引用発明はそのように特定されていない点。
<相違点2>
包装容器について、本件発明1は「前記高分子フィルムを2枚互いに重ね合わせた状態、または前記高分子フィルム一枚を折り重ねた状態で融着してなる」のに対し、引用発明は、そのように特定されていない点。
<相違点3>
高分子フィルムの酸素透過度に関し、本件発明1は、「20℃、90%RHにおいて、1000mL/m2/atm/24hr以上、3000mL/m2/atm/24hr以下」であるのに対し、引用発明は、「5,000cc/m2・atm・day」である点。
<相違点4>
本件発明1は「包装体の封止直後の前記包装容器内の酸素濃度が、10体積%以上15体積%以下であり、前記包装体の封止直後の前記包装容器内の窒素濃度が、85体積%以上90体積%以下であ」るのに対し、引用発明は、そのように特定されていない点。
<相違点5>
包装体の封止後10℃で72時間保持した後における内部酸素濃度について、本件発明1では「6.4~8.91体積%である」のに対し、引用発明では「6.2%」である点。
(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、<相違点4>から検討する。
引用発明は、包装体の封止前に包装容器内の気体の組成を調整するものとはいえず、包装容器内には大気が充満したもの、すなわち酸素濃度は約21%であると考えるのが相当である。
そして、相違点4に係る本件発明1の発明特定事項は、他の証拠を参照しても導き出せるものではなく、周知の事項ともいえない。
したがって、引用発明において、包装体の封止直後に包装容器内を、大気とは異なった、酸素濃度が10体積%以上15体積%以下で窒素濃度が85体積%以上90体積%以下という組成にすることは、到底示唆されるものではなく、引用発明において相違点4に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことではない。
そして、本件発明1は、相違点4に発明特定事項を備えたことをもって所与の課題を解決すると評価されるものである。
そうすると、本件発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明4~6について
本件発明4~6は、いずれも、本件発明1の発明特定事項を全て含み他の発明特定事項を付加したものであるから、本件発明1と同様に、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 小括
以上を踏まえると、本件発明1、4~6は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明ではない。
したがって、請求項1、4~6に係る特許は、特許法第113条第2号に該当しない。
2 特許権者に通知しなかった特許異議申立理由について
申立人は、特許異議申立書において、本件発明1、4~6が実施可能でない旨指摘する(「(4-3)申立理由2(実施可能要件違反)」)。
しかし、既に上記1(1)で述べたように、本件発明1、4~6は、所与の課題を解決することが確認された実施例5、6の開示に照らして当業者が課題を解決することができたと認識できる範囲のものである。
そして、当業者は、実施例5、6という具体的な構成の開示を参酌して、本件発明1、4~6を実施することができる。
したがって、本件請求項1、4~6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たす特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当しない。
第6 むすび
以上のとおり、本件請求項1、4~6に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件請求項1、4~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件請求項2及び3は、本件訂正により削除され、本件請求項2及び3に係る特許についての特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2020-700892