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特許異議申立

2020-700189

青果物の鮮度保持に適した包装体、及び青果物の鮮度保持方法

審判番号
2020-700189
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2017-069114
登録番号
6577506
請求日
2020年03月18日
審決日
2021年12月24日
公報発行日
2022年04月28日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】三井化学東セロ株式会社
  • 【権利者代理人】特許業務法人浅村特許事務所
  • 【権利者】三井化学株式会社
  • 【権利者代理人】特許業務法人浅村特許事務所
  • 【異議申立人】森田 弘潤
審判長/審判官
  • 審判長 久保 克彦
  • 審判官 藤原 直欣
  • 審判官 藤井 眞吾
分類
P1651.536-YAA(B65D) / P1651.537-YAA(B65D) / P1651.113-YAA(B65D) / P1651.121-YAA(B65D)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第4号、特許法第113条第2号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

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特許第6577506号発明「青果物の鮮度保持に適した包装体、及び青果物の鮮度保持方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6577506号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕、5について訂正することを認める。 特許第6577506号の請求項1~4に係る特許を維持する。 特許第6577506号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 1 手続の経緯 特許第6577506号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成29年3月30日に出願され、令和元年8月30日にその特許権の設定登録がされ、令和元年9月18日に特許掲載公報が発行された。 本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和2年 3月18日 :特許異議申立人森田弘潤(以下「申立人」という)による請求項1~5に係る特許に対する特許異議の申立て 令和2年 6月26日 :取消理由の通知 (令和2年 6月23日付け取消理由通知書) 令和2年 8月25日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和2年10月 6日 :特許権者による上申書の提出 令和2年12月 2日 :申立人による意見書の提出 令和3年 3月19日 :取消理由(決定の予告)の通知 (令和3年 3月16日付け取消理由通知書) 令和3年 5月18日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 なお、特許権者が平成2年8月25日に提出した訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 2 訂正の請求についての判断 (1)訂正の内容 特許権者が平成3年5月18日に提出した訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という)の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1の「酸素透過度が、20℃、90%RHにおいて、4500cc/m2/atm/day/atm以上」を「酸素透過度が、20℃、90%RHにおいて、4500cc/m2/atm/day以上」に訂正する。 イ 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1の「30000cc/m2/atm/day以下」を「15000cc/m2/atm/day以下」に訂正する。 ウ 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項1に記載の包装体について、「封止直後の内部酸素濃度が、0体積%であ」る旨を特定する。 エ 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項1に記載の包装体について、「封止直後の内部窒素濃度が、100体積%であ」る旨を特定する。 オ 訂正事項5 特許請求の範囲の請求項1に記載の包装体の封止後10℃の条件の下で72時間保持した後における内部酸素濃度について「16.5体積%以下」と記載されているのを、「13.7体積%以下」に訂正する。 カ 訂正事項6 特許請求の範囲の請求項5を削除する。 キ 訂正事項7 明細書の段落【0058】及び段落【0062】の「実施例4」を「参考例1」に訂正する。 ク 一群の請求項 ここで、本件訂正前の請求項1~4は、請求項2~4が、本件訂正の対象である請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、訂正事項1~5,7によって訂正される請求項1に連動して訂正される。したがって、本件補正前の請求項1~4に対応する本件訂正後の請求項1~4は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 (2)訂正の適否 ア 訂正事項1について 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1において「酸素透過度」が「4500cc/m2/atm/day/atm以上」と記載されていたところ、それ自体の記載内容が明らかでない記載であり、また、高分子フィルムの酸素透過度の単位に係る技術常識に照らせば、その記載は誤記であって、「4500cc/m2/atm/day以上」と記載すべきところを正すものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正又は同条第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 また、訂正事項1は、願書に最初に添付した明細書の段落【0021】の「なお、効果的にキャベツ等からの臭いの発生を抑制する観点から、包装直後の包装容器内の酸素濃度が10%以下の場合には、包装容器の酸素透過度が・・・4500cc/m2/atm/day以上であることがより好ましい。」等の記載に基づくものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項の規定に適合するものである。 また、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。 イ 訂正事項2について 訂正事項2は、本件訂正前の請求項1で「30000cc/m2/atm/day以下」とされていた「酸素透過度」を「15000cc/m2/atm/day以下」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正事項2は、願書に添付した明細書の段落【0057】の「(実施例3)・・・フィルムの酸素透過率は、15000CC/m2/atm/dayであった。」との記載や段落【0062】【表1】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。 さらに、訂正事項2は、上記のとおり、数値限定の範囲を狭めることで特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。 ウ 訂正事項3について 訂正事項3は、本件訂正前の請求項1の「包装体」について、「封止直後の内部酸素濃度」が「0体積%であ」るものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正事項3は、願書に添付した明細書の段落【0062】【表1】における実施例の「封入ガス組成」「酸素」が「0」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。 さらに、訂正事項3は、上記のとおり、新たな発明特定事項を直列的に付加することで特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。 エ 訂正事項4について 訂正事項4は、本件訂正前の請求項1の「包装体」について、「封止直後の内部窒素濃度」が「100体積%であ」るものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正事項4は、願書に添付した明細書の段落【0062】【表1】における実施例の「封入ガス組成」「窒素」が「100」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。 さらに、訂正事項4は、上記のとおり、新たな発明特定事項を直列的に付加することで特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。 オ 訂正事項5について 訂正事項5は、本件訂正前の請求項1の「13.7体積%以下」とされていた「包装体の封止後10℃の条件の下で72時間保持した後における内部酸素濃度」を、「13.7体積%であ」るものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正事項5は、願書に添付した明細書の段落【0057】【表1】における実施例の「酸素濃度」「72時間」が「13.7」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。 さらに、訂正事項5は、上記のとおり、数値限定の範囲を狭めて特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。 カ 訂正事項6について 訂正事項6は、本件訂正前の請求項5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正事項6は、特許請求の範囲に何ら新たな事項を導入するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。 キ 訂正事項7について 訂正事項7は、上記訂正事項2及び訂正事項5に係る特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載の整合を図るための明細書の訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 また、訂正事項7は、特許請求の範囲に何ら新たな事項を導入するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 また、訂正事項7は、一群の請求項全てについて行うものであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合する。 (3)小括 以上のとおりであるから、特許請求の範囲及び明細書を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲及び訂正明細書のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕、5について訂正することを認める。 3 本件発明 以上のとおり、本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1~4に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明4」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 酸素透過度が、20℃、90%RHにおいて、4500cc/m2/atm/day以上、15000cc/m2/atm/day以下であり、有孔の延伸ポリプロピレンフィルム、又は無孔のポリエチレン系フィルムである高分子フィルムを含んでなる包装容器内にカットキャベツを含む青果物を収納してなり、包装体の封止直後の内部酸素濃度が、0体積%であり、包装体の封止直後の内部窒素濃度が、100体積%であり、包装体の封止後10℃の条件の下で72時間保持した後における内部酸素濃度が3.3体積%以上13.7体積%以下である、包装体。 【請求項2】 前記高分子フィルムの厚みが、15から45μmである、請求項1に記載の包装体。 【請求項3】 前記高分子フィルムが、少なくとも1種の抗菌剤を含有し、又は少なくとも1種の抗菌剤が塗布されている、請求項1又は2に記載の包装体。 【請求項4】 更に吸湿剤、及び/又は抗菌剤を収納してなる、請求項1から3のいずれか一項に記載の包装体。」 4 特許権者に通知された取消理由 本件訂正前の請求項1~5に係る特許に対して、当審が令和3年3月19日に特許権者に取消理由を通知した(令和3年3月16日付け取消理由通知書(決定の予告))が、その要旨は、次のとおりである。 ・(サポート要件)本件特許は、請求項1~5に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものでないため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号の規定に違反してされたものである。 ・(進歩性)本件特許の請求項5に係る発明は、本件の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証(特開2003-333987号公報)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項5に係る特許は、特許法第113条第2号の規定に違反してされたものである。 5 当審の判断 (1)サポート要件について ア 酸素透過度について 当審で通知したこの点に関する取消理由は、発明の詳細な説明からは、請求項に記載された「20℃、90%RH」における「酸素透過度」が所定値である「高分子フィルムを含んでなる包装容器」が本件発明の課題を解決し得るものとは当業者が認識できない、というものであった。 (ア)酸素透過度を測定する際の温度及び湿度は、本件発明1~4では20℃及び90%RHであるが、発明の詳細な説明では22℃及び相対湿度40%であり(段落【0052】【0023】参照)、両者間に違いがある。 (イ)特許権者は、意見書において以下のように主張する。 ・ 令和3年5月18日に提出した乙第15号証(「ガスバリア講座<基礎講座>『8.酸素透過係数の湿度依存性』」、[online]、三菱ケミカル株式会社、[検索日 令和3年4月28日]、<URL:http://www.soarnol.com/jpn/solution/pdf/beginner08.pdf>)には、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)は湿度依存性を示さず、PPやPCといった疎水性高分子は水の影響をほとんど受けないので酸素透過係数も湿度によって変化しないものである旨記載されている。 ・ 高分子フィルムの酸素透過度に温度依存性はあるが、20℃と22℃での差違は、1%未満と算出されるものであって、微細である(乙第16号証(牛木龍二、外1名、「高分子フィルムのガスバリア性評価」、群馬県立産業技術センター研究報告平成29年度(2017)、p.43-45))。 (ウ)そこで、特許権者のこれらの主張を踏まえて、さらに検討を進める。 発明の詳細な説明には、所与の課題が解決できると確認されている実施例の高分子フィルムとして、22℃及び相対湿度40%で測定した酸素透過度が示されており(【表1】参照)、その一方で、発明の一般的な説明として高分子フィルムの20℃及び90%RHでの酸素透過度を示した箇所がある(段落【0022】)。 本件発明1~4における高分子フィルムは、酸素透過度の値が特定されたものであるが、この酸素透過度を測定する温度、湿度自体に格別の技術的な意義があるものではない。 そして、20℃及び90%RHで測定される高分子フィルムの酸素透過度の値は、22℃及び相対湿度40%で測定した場合と実質的に同程度のものと考えられる。 そうすると、発明の詳細な説明における実施例と同じ値の酸素透過度が20℃及び90%RHで測定した値である高分子フィルムを考えても、所与の課題が解決できると推認できるものである。 したがって、本件発明1~4は、発明の詳細な説明に実質的に記載されたものといえる。 イ 「臭い」と「褐変」の評価について 当審で通知したこの点に関する取消理由は、発明の詳細な説明には、外観及び異臭を客観的、正確に評価したことが把握し得る記載がないから適切な官能評価が記載されているとはいえず、したがって、課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていない、というものであった。 (ア)本件特許明細書の発明の詳細な説明には、実施例、比較例の評価手法に関し、次の記載がある。 「【0052】 以下の実施例/比較例において、各特性の評価は以下の方法で行った。・・・ (外観) 包装体の封を開けて、取り出した青果物を並べ、キャベツ断面を中心に全体的な褐変部分の面積を目視にてn=3で評価した。 評価基準は以下のとおり。 A:褐変が全くなく問題ない。 B:褐変はあるが断面全体の10%以下で少し目立つ状態 C:褐変はあるが断面全体の30%以下であり、かなり目立つが販売可能な状態 D:褐変はあるが断面全体の50%以下であり、著しく目立ち消費者により販売不可能な状態 E:褐変大きく、消費者には明らかに販売不可能な状態(臭い) 包装体の封を開けた時に顔を近づけて内部のにおいを嗅いでn=3で官能評価した。 評価基準は以下のとおり。 A:新鮮な状態で全く問題ない B:やや臭いがあるが新鮮と言える状態 C:臭いが強いが市販と同じ状態であり、販売可能な状態 D:更に臭いが強く消費者が気にする状態 E:更に臭いが強く販売不可能な状態」 また、各実施例(参考例)、比較例の異臭、外観、それぞれの評価としてAからEまでのアルファベットが付されている。 (イ)特許権者は、意見書を提出して、以下のように主張する。 ・ 褐変(外観)については、褐変の面積割合という客観的な外部基準が採用されている。 ・ 臭いについても、消費者の容認可否や販売可能性という外部基準が採用されている。 ・ 褐変(外観)及び臭いは、客観的な基準により評価されるので、パネラー間で評価を共通するための手順が踏まれたことになる。 (ウ)そこで、特許権者のこれらの主張を踏まえて、さらに検討を進める。 a まず、「褐変」の評価は、その面積割合に着目したもので、この面積割合という事項自体は、十分客観的なものといえる。 また、「褐変」の面積割合は、褐変の程度に直結するものである。 したがって、「褐変」についての評価は、客観性が備わったものといえる。 b 次に、「臭い」の評価は、単純に“よい”“わるい”“強い”“弱い”といったようなものではなく、「新鮮」かどうか、「販売可能」かどうか、「消費者が気にする」かどうか、といった事項が検討されたものである。 ところで、食品に関する技術分野における評価手法として、官能評価は、よく用いられるものであり、本件発明1~4での評価も、これの一態様と考えられる。そして、官能評価は、一定の知識・経験を有した者がパネラーとなり、評価の基準を統一して実施するのが通常である。 そのようなパネラーにとって、「キャベツ」についての上記「新鮮」かどうか、といった事項は、臭いに関するものとして十分明確に認識し得るものであって、パネラー相互間での評価の基準も統一できるものと考えられる。 そうすると、「臭い」についての評価も、客観性が備わったものといえる。 なお、褐変の断面面積%を用いた消費者に対して目立つことに係る評価基準や、においの種類でなく単に臭いといった消費者が気にする状態に係る評価基準は、本件明細書の記載されたような統一した評価基準を用いることで、高度の知識ないし経験を有するパネラーでなくとも、客観性の備わった官能評価が可能であるともいえる。 c 発明の詳細な説明において実施例(参考例)、比較例に対して行われた評価は、「褐変」、「臭い」それぞれについて個別に行われたものであり、上記したようにそれぞれの評価手法は、いずれも客観性を備えているのだから、それらの評価による結果を伴った実施例は、所与の課題が解決できることを示す上で十分なものというべきである。 ウ 封止直後の気体組成について 当審で通知したこの点に関する取消理由は、包装体の封止直後の包袋内に酸素以外の気体が任意である本件訂正前の請求項1に係る発明や窒素以外を含む気体(例えば、通常の空気)を充填する工程を包含する本件訂正前の請求項5に係る発明は、発明の詳細な説明の記載から課題を解決し得るものと当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない、というものであった。 本件訂正により、本件発明1の包装体の封止直後の内部酸素濃度が体積0%、内部窒素濃度が100%と訂正され、これは、発明の詳細な説明に記載された実施例でサポートされているといえる。また、本件訂正により、請求項5は削除された。 したがって、本件訂正により、この点での取消理由は、解消された。 エ 72時間後の内部酸素濃度について 当審で通知したこの点に関する取消理由は、「72時間保持した後における酸素濃度」を「16.5体積%以下」とする本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、発明の詳細な説明の記載から課題を解決し得ると当業者が認識できる範囲を超えているから、本件訂正前の請求項1~5に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものではない、というものであった。 本件訂正により、本件発明1の「72時間保持した後における酸素濃度」は、「13.7体積%以下」となり、これは、発明の詳細な説明に記載された実施例のうちに72時間保持した後における酸素濃度が「13.7体積%」が存在することでサポートされているといえる。また、本件訂正により、請求項5は削除された。 したがって、本件訂正により、この点での取消理由は、解消された。 オ 封止後の温度条件について 当審で通知したこの点に関する取消理由は、本件訂正前の請求項5に係る特許に対するものであったが、上記のように本件訂正により請求項5は削除されたので、本取消理由は、対象を失った。 カ 本件発明2~4について 上記ア~エを踏まえれば、本件発明2~4についても、これらに係る特許を取り消す理由はない。 キ 小括 以上のとおり、本件発明1~4は、発明の詳細な説明に記載されたものである。 (2)進歩性について 当審で通知したこの点に関する取消理由は、本件訂正前の請求項5に係る特許に対するものであったが、上記のように本件訂正により請求項5は、本件訂正により削除された。 したがって、当審で通知した本件訂正前の請求項5に係る特許に対する取消理由は、対象を失った。 6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について (1)理由1 特許法第36条第6項第2号(明確性要件違反) 申立人は、包装体の封止後10℃の条件の下で72時間保持した後における内部酸素濃度に影響を与える大きな要素として、[1]初期気体組成(酸素濃度)、[2]酸素の流出入に関する容器の特性、[3]内容物の呼吸の程度などが特定されてないことから、発明特定事項の技術的意味を当業者が理解できず、さらに、出願時の技術常識を考慮すると、訂正前の本件発明1に関して発明特定事項が不足していることが明らかであるから、発明が不明確である場合に該当する旨の主張をしている。 しかし、本件訂正により、包装体の封止直後の内部酸素濃度が0体積%であること、及び、包装体の封止直後の内部窒素濃度が100体積%であることを特定したことにより、本件発明の技術的意味は理解できるものであるし、発明特定事項が不足しているとはいえない。 なお、訂正前の本件発明5に係る申立人の主張は、本件発明5の削除により対象を失った。 (2)理由2 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件違反) 本件明細書には、本件発明の包装体の内容物の種類(キャベツ以外の青果物の種類や配合量)、カットキャベツの線幅、加熱の有無やその条件、内容物と容器内部の容積との比率といった呼吸に関連する諸要素と、本件発明で特定している容器フィルムの酸素透過度やフィルムの素材(本件明細書段落【0028】~【0038】に例示されたような有孔の延伸ポリプロピレンフィルム等)といった酸素の流出入に関する諸要素、さらには初期の容器内気体組成(特に初期酸素濃度)を具体的にどのように調整すれば、本件発明1で特定される「包装体の封止後10℃の条件の下72時間保持した後における内部酸素濃度が3.3体積%以上16.5体積%以下である」という状態が得られるのかが、本件明細書には全く記載されていないから、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1並びに本件発明1を引用する本件発明2~4を当業者が実施できる程度に明確且つ十分に記載したものではない旨の主張をしている。 しかし、上記サポート要件の項で述べたことを含め、本件発明の詳細な説明には、実施例1ないし3に基づき本件発明の課題が解決できる説明がされており、当該記載を参照するに、当業者が実施できる程度に明確且つ十分に記載されたものである。 (3)特許法第29条第2項(甲1に記載された発明を主引用例とする進歩性) ア 甲1に記載された発明 甲1(特開平6-105650号公報)には、【特許請求の範囲】の【請求項1】、段落【0008】、【0012】~【0014】、【0023】、【0027】の記載がある。特に「実施例2」に着目して整理すると、次の「甲1物発明」が記載されている。 <甲1物発明> 「酸素透過度が、30,000cc/m2・atm・dayであり、銀ゼオライト(銀イオン含量:10wt%、練り込み量:LDPEに対し10wt%)を練り込んだ低密度ポリエチレン(LDPE)フィルムを含んでなる、数μm径の未貫通孔を形成した厚さ60μmのフィルム製包装袋内にカットキャベツを収納してなり、包装後10℃の条件で3日経過後における内部酸素濃度が、8.1%である、鮮度保持用袋。」 イ 本件発明1 (ア)対比 本件発明1と甲1物発明とを対比すると、以下の相違点で示すとおり、本件発明1の発明特定事項の全てについて両者は相違していると認められる。 <相違点1> 本件発明1が「酸素透過度が、20℃、90%RHにおいて、4500cc/m2/atm/day以上、15000cc/m2/atm/day以下であり、有孔の延伸ポリプロピレンフィルム、又は無孔のポリエチレン系フィルムである高分子フィルムを含んでなる包装容器内にカットキャベツを含む青果物を収納して」なるものであるのに対し、甲1物発明が、「酸素透過度が、30,000cc/m2・atm・dayであり、銀ゼオライト(銀イオン含量:10wt%、練り込み量:LDPEに対し10wt%)を練り込んだ低密度ポリエチレン(LDPE)フィルムを含んでなる、数μm径の未貫通孔を形成した厚さ60μmのフィルム製包装袋内にカットキャベツを収納して」なるものである点。 <相違点2> 本件発明1が、「包装体の封止直後の内部酸素濃度が、0体積%であり、包装体の封止直後の内部窒素濃度が、100体積%であり、包装体の封止後10℃の条件の下で72時間保持した後における内部酸素濃度が3.3体積%以上13.7体積%以下である、包装体」であるのに対し、甲1物発明が、「包装後10℃の条件で3日経過後における内部酸素濃度が、8.1%である、鮮度保持用袋」である点。 (イ)判断 a 相違点1について 本件発明1の酸素透過度の上限値は、甲1物発明の二分の1の値といえるものであり、甲1物発明に基づき、相違点1に係る本件発明1の構成とする動機付けはない。 b 相違点2について 包装後の期間経過後の内部酸素濃度の値は、上記相違するとした酸素透過度が影響するものであるし、本件発明1で特定する包装直後の内部酸素濃度及び内部窒素濃度についても甲1物発明は具体化されているとはいえないから、甲1物発明に基づき、相違点2に係る本件発明1の構成とする動機付けはない。 c まとめ したがって、本件発明1は、甲1物発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 本件発明2~4 本件発明2~4は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定するものであるから、本件発明1と同様に、甲1物発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)特許法第29条第1項、同条第2項(甲2に記載された発明を主引用例とする新規性・進歩性) ア 甲2に記載された発明 甲2には、【特許請求の範囲】の【請求項1】、【請求項2】及び【請求項3】、並びに、段落【0001】、【0002】、【0011】、【0011】、【0020】、【0021】、【0025】、【0032】の記載がある。これらの記載を整理すると、甲2には、以下の「甲2物発明」が記載されている。 <甲2物発明> 「多数の微細孔を有する通気性のある住友ベークライト(株)製の商品名P-プラスであって、密封包装した白菜、キャベツ、レタス、ダイコン、キュウリ、ニンジン、ネギ、ピーマン、タマネギ等が使用でき、これらの中から1種類あるいは複数種類から選ばれるカット野菜の呼吸により、袋内の酸素濃度が5~10%、二酸化炭素濃度が10~15%で平衡状態となるような機能を有し、4~7℃程度で7日間保存される、カット野菜の保存袋。」 イ 本件発明1 (ア)対比 本件発明1と甲2物発明とを対比すると、以下の相違点で示すとおり、本件発明1の発明特定事項の全てについて両者は相違していると認められる。 また、当該相違点は実質的なものであり、申立人の新規性欠如の主張は採用できない。 <相違点3> 本件発明1が、「酸素透過度が、20℃、90%RHにおいて、4500cc/m2/atm/day以上、15000cc/m2/atm/day以下であり、有孔の延伸ポリプロピレンフィルム、又は無孔のポリエチレン系フィルムである高分子フィルムを含んでなる包装容器内にカットキャベツを含む青果物を収納してなり、包装体の封止直後の内部酸素濃度が、0体積%であり、包装体の封止直後の内部窒素濃度が、100体積%であり、包装体の封止後10℃の条件の下で72時間保持した後における内部酸素濃度が3.3体積%以上13.7体積%以下である、包装体。」であるのに対し、甲2物発明が、「多数の微細孔を有する通気性のある住友ベークライト(株)製の商品名P-プラスであって、密封包装した白菜、キャベツ、レタス、ダイコン、キュウリ、ニンジン、ネギ、ピーマン、タマネギ等が使用でき、これらの中から1種類あるいは複数種類から選ばれるカット野菜の呼吸により、袋内の酸素濃度が5~10%、二酸化炭素濃度が10~15%で平衡状態となるような機能を有し、4~7℃程度で7日間保存される、カット野菜の保存袋。」である点。 (イ)判断 a 相違点3について 酸素透過度が不明であることに加えて、包装直後の内部酸素濃度及び内部窒素濃度についても甲2物発明は具体化されているとはいえないから、甲2物発明に基づき、相違点3に係る本件発明1の構成を容易に想到し得たとすることはできない。 b まとめ したがって、本件発明1は、甲2物発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 本件発明2~4 本件発明2~4は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定するものであるから、本件発明1と同様に、甲2物発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 7 むすび 以上のとおり、本件発明1~4に係る特許は、特許権者に通知した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消されるべきものではない。 また、請求項5は、本件訂正により削除された。このことにより、請求項5に係る特許についての特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2020-700189

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