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特許異議申立

2020-700883

繊維強化樹脂材料、その製造方法及び繊維強化樹脂材料を用いた繊維強化樹脂成形体

審判番号
2020-700883
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2015-556785
登録番号
6695693
請求日
2020年11月18日
審決日
2022年02月03日
公報発行日
2022年06月24日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】小松マテーレ株式会社
  • 【権利者代理人】新居 広守
  • 【権利者代理人】道坂 伸一
  • 【異議申立人】伴 よし子
  • 【異議申立人】神保 良男
審判長/審判官
  • 審判長 大島 祥吾
  • 審判官 細井 龍史
  • 審判官 相田 元
分類
P1651.113-YAA(C08J) / P1651.121-YAA(C08J) / P1651.16 -YAA(C08J)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条1項3号特許法29条の2特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第29条の2、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

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特許第6695693号発明「繊維強化樹脂材料、その製造方法及び繊維強化樹脂材料を用いた繊維強化樹脂成形体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6695693号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし17〕、〔18及び19〕について訂正することを認める。 特許第6695693号の請求項1及び3ないし12、並びに14ないし19に係る特許を維持する。 特許第6695693号の請求項2及び13に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6695693号の請求項1ないし19に係る特許についての出願は、2015年(平成27年)1月8日(優先権主張 平成26年1月10日)を国際出願日とする特願2015-556785号に係る出願であって、令和2年4月24日にその特許権の設定登録がされ、同年5月20日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和2年11月18日 : 特許異議申立人 伴 よし子(以下、 「特許異議申立人1」という。)による 特許異議の申立て 同年 同月20日 : 特許異議申立人 神保 良男(以下、 「特許異議申立人2」という。)による 特許異議の申立て 令和3年 2月19日付け : 取消理由通知 同年 5月25日 : 特許権者 小松マテーレ株式会社(以下 、「特許権者」という。)による 訂正請求及び意見書の提出 同年 6月28日付け : 特許法第120条の5第5項の通知 同年 7月30日 : 特許異議申立人2による意見書 同年 9月27日付け : 取消理由通知<決定の予告> 同年12月17日 : 特許権者との面接 同年 同月28日 : 特許権者による訂正請求及び意見書の 提出 なお、令和3年5月25日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 また、令和3年6月28日付けで特許法第120条の5第5項の通知を行ったが、特許異議申立人1からは何らの応答もなかった。 そして、下記「第2 訂正の適否についての判断」にあるように、令和3年12月28日になされた特許権者による訂正請求によって特許請求の範囲が相当程度減縮され、事件において提出された全ての証拠や意見等を踏まえて更に審理を進めたとしても特許を維持すべきとの結論となると当審が判断したため、当該訂正請求に対し、特許法第120条の5第5項ただし書における特別の事情と認め、異議申立人に対して同法同条第5項の通知を行っていない。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 令和3年12月28日付けの訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の(1)ないし(16)のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「繊維強化樹脂成形体に用いられる繊維強化樹脂材料であって、 熱可塑性樹脂と一方向に配列された強化繊維の束とを含み、 前記熱可塑性樹脂が反応型樹脂であり、 前記繊維強化樹脂材料の長さが5~500mmであり、 前記繊維強化樹脂材料の厚みが0.3mm以上であり、 前記強化繊維の束の内部にまで前記熱可塑性樹脂が浸透している 繊維強化樹脂材料。」 と記載されているのを、 「複数用いて加熱及び加圧することで繊維強化樹脂成形体を成形するための繊維強化樹脂材料であって、 熱可塑性樹脂と一方向に配列された強化繊維の束とを含み、 前記熱可塑性樹脂が反応型樹脂であり、 前記繊維強化樹脂材料の長さが5~500mmであり、 前記繊維強化樹脂材料の厚みが0.3mm以上1.5mm以下であり、 前記繊維強化樹脂材料の形状が、短冊状、柱状、紐状、粒状、又は、チップ状であり、 前記熱可塑性樹脂がエポキシ樹脂であって、反応後にフェノキシ樹脂になり、 前記強化繊維の束の内部にまで前記熱可塑性樹脂が浸透している 繊維強化樹脂材料。」 に訂正する。 請求項1を直接又は間接的に引用する請求項3ないし12、14ないし16についても同様に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に「請求項1又は2に記載の繊維強化樹脂材料。」とあるのを、「請求項1に記載の繊維強化樹脂材料。」に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4に「請求項1~3のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。」とあるのを、「請求項1又は3に記載の繊維強化樹脂材料。」に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5に「請求項1~4のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。」とあるのを、「請求項1、3、4のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。」に訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~4のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。」とあるのを、「請求項1、3、4のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。」に訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項7に「請求項1~6のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。」とあるのを、「請求項1、3~6のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。」に訂正する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項8に「請求項1~7のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。」とあるのを、「請求項1、3~7のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。」に訂正する。 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項9に「請求項1~8のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。」とあるのを、「請求項1、3~8のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。」に訂正する。 (10)訂正事項10 特許請求の範囲の請求項10に「請求項1~9のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。」とあるのを、「請求項1、3~9のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。」に訂正する。 (11)訂正事項11 特許請求の範囲の請求項11に「請求項1~9のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。」とあるのを、「請求項1、3~9のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。」に訂正する。 (12)訂正事項12 特許請求の範囲の請求項12に「請求項1~11のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。」とあるのを、「請求項1、3~11のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。」に訂正する。 (13)訂正事項13 特許請求の範囲の請求項13を削除する。 (14)訂正事項14 特許請求の範囲の請求項14に「請求項1~13のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。」とあるのを、「請求項1、3~12のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。」に訂正する。 (15)訂正事項15 特許請求の範囲の請求項15に「請求項1~13のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。」とあるのを、「請求項1、3~12のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。」に訂正する。 (16)訂正事項16 特許請求の範囲の請求項18に 「繊維強化樹脂成形体に用いられる繊維強化樹脂材料の製造方法であって、 一方向に配列された強化繊維の束に、反応型の熱可塑性樹脂及び当該熱可塑性樹脂を溶解及び/又は分散するための溶剤を含む熱可塑性樹脂溶液を付与した後、乾燥及び/又は熱処理を行い、 前記繊維強化樹脂材料の長さが5~500mmであり、 前記繊維強化樹脂材料の厚みが0.3mm以上であり、 前記強化繊維の束の内部にまで前記熱可塑性樹脂が浸透している 繊維強化樹脂材料の製造方法。」 と記載されているのを、 「複数用いて加熱及び加圧することで繊維強化樹脂成形体を成形するための繊維強化樹脂材料の製造方法であって、 一方向に配列された強化繊維の束に、反応型の熱可塑性樹脂及び当該熱可塑性樹脂を溶解及び/又は分散するための溶剤を含む熱可塑性樹脂溶液を付与した後、乾燥及び/又は熱処理を行い、 前記繊維強化樹脂材料の長さが5~500mmであり、 前記繊維強化樹脂材料の厚みが0.3mm以上1.5mm以下であり、 前記繊維強化樹脂材料の形状が、短冊状、柱状、紐状、粒状、又は、チップ状であり、 前記熱可塑性樹脂がエポキシ樹脂であって、反応後にフェノキシ樹脂になり、 前記強化繊維の束の内部にまで前記熱可塑性樹脂が浸透している 繊維強化樹脂材料の製造方法。」 に訂正する。 請求項18を直接引用する請求項19についても同様に訂正する。 2 一群の請求項について 訂正事項1による本件訂正は、訂正前の請求項1ないし17を訂正するものであり、訂正事項2ないし15による本件訂正は、訂正前の請求項2ないし17を訂正するものであるところ、本件訂正前の請求項2ないし17は、訂正請求の対象である請求項1ないし16の記載を直接又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前の請求項1ないし17は一群の請求項であって、本件訂正の訂正事項1ないし15は、一群の請求項〔1ないし17〕について請求されたものである。 また、訂正事項16による本件訂正は、訂正前の請求項18及び19を訂正するものであるところ、本件訂正前の請求項19は、訂正請求の対象である請求項18の記載を直接引用する関係にあるから、訂正前の請求項18及び19は一群の請求項であって、本件訂正の訂正事項16は、一群の請求項〔18及び19〕について請求されたものである。 3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)請求項1の訂正(訂正事項1)について 訂正事項1による請求項1についての訂正は、訂正後の請求項1の繊維強化樹脂材料について、「複数用いて加熱及び加圧することで繊維強化樹脂成形体を成形するための」なる用途に関する事項が付加され、「前記繊維強化樹脂材の形状が、短冊状、柱状、紐状、粒状、又は、チップ状であり、」なる事項が付加され、前記繊維強化樹脂材料の厚みについて、「1.5mm以下」と上限が規定されるとともに、熱可塑性樹脂について、「エポキシ樹脂であって、反応後にフェノキシ樹脂になり」なる事項が付加されたものである。 したがって、訂正事項1による請求項1についての訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項1による請求項1についての訂正は、本件特許の明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲の拡張し、又は変更するものではない。 さらに、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項3ないし12、14ないし16についても同様である。 (2)請求項2の訂正(訂正事項2)について 訂正事項2による請求項2についての訂正は、請求項2を削除するものであるため、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項2による請求項2についての訂正は、本件特許の明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)請求項3ないし12の訂正(訂正事項3ないし12)について 訂正事項3ないし12による請求項3ないし12についての訂正は、請求項3ないし12において引用する請求項2を削除するものである。 したがって、訂正事項3ないし12による請求項3ないし12についての訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項3ないし12による請求項3ないし12についての訂正は、本件特許の明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲の拡張し、又は変更するものではない。 (4)請求項13の訂正(訂正事項13)について 訂正事項13による請求項13についての訂正は、請求項13を削除するものであるため、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項13による請求項13についての訂正は、本件特許の明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (5)請求項14及び15の訂正(訂正事項14及び15)について 訂正事項14及び15による請求項14及び15についての訂正は、請求項14及び15において引用する請求項2及び請求項13を削除するものである。 したがって、訂正事項14及び15による請求項14及び15についての訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項14及び15による請求項14及び15についての訂正は、本件特許の明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲の拡張し、又は変更するものではない。 (6)請求項18の訂正(訂正事項16)について 訂正事項16による請求項18についての訂正は、訂正後の請求項18の繊維強化樹脂材料について、「複数用いて加熱及び加圧することで繊維強化樹脂成形体を成形するための」なる用途に関する事項が付加され、「前記繊維強化樹脂材の形状が、短冊状、柱状、紐状、粒状、又は、チップ状であり、」なる事項が付加され、前記繊維強化樹脂材料の厚みについて、「1.5mm以下」と上限が規定されるとともに、熱可塑性樹脂について、「エポキシ樹脂であって、反応後にフェノキシ樹脂になり」なる事項が付加されたものである。 したがって、訂正事項16による請求項18についての訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項16による請求項18についての訂正は、本件特許の明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲の拡張し、又は変更するものではない。 さらに、請求項18を直接引用する請求項19についても同様である。 4 小括 以上のとおりであるから、訂正事項1ないし16による請求項1ないし19についての訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件訂正は適法なものであり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし17〕、〔18及び19〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2で示したとおり、本件訂正は認められたため、本件特許の請求項1ないし19に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、本件特許発明1ないし19を総称して「本件特許発明」ともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし19に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。 「【請求項1】 複数用いて加熱及び加圧することで繊維強化樹脂成形体を成形するための繊維強化樹脂材料であって、 熱可塑性樹脂と一方向に配列された強化繊維の束とを含み、 前記熱可塑性樹脂が反応型樹脂であり、 前記繊維強化樹脂材料の長さが5~500mmであり、 前記繊維強化樹脂材料の厚みが0.3mm以上1.5mm以下であり、 前記繊維強化樹脂材料の形状が、短冊状、柱状、紐状、粒状、又は、チップ状であり、 前記熱可塑性樹脂がエポキシ樹脂であって、反応後にフェノキシ樹脂になり、 前記強化繊維の束の内部にまで前記熱可塑性樹脂が浸透している 繊維強化樹脂材料。 【請求項2】(削除) 【請求項3】 前記強化繊維が炭素繊維である請求項1に記載の繊維強化樹脂材料。 【請求項4】 前記繊維強化樹脂材料の厚みが0.38mm以上である請求項1又は3に記載の繊維強化樹脂材料。 【請求項5】 前記繊維強化樹脂材料の幅が1mm以上10mm以下である請求項1、3、4のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。 【請求項6】 前記繊維強化樹脂材料の幅が300mm以下である請求項1、3、4のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。 【請求項7】 前記繊維強化樹脂材料の幅を1とした場合、前記繊維強化樹脂材料の繊維軸方向の長さが1.5以上、50.0以下である請求項1、3~6のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。 【請求項8】 前記熱可塑性樹脂のガラス転移点が90~200℃である請求項1、3~7のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。 【請求項9】 前記強化繊維の束を構成する強化繊維の単繊維の本数が1000本以上である請求項1、3~8のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。 【請求項10】 前記強化繊維の束が開繊されている請求項1、3~9のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。 【請求項11】 前記強化繊維の束が開繊されていない請求項1、3~9のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。 【請求項12】 繊維体積含有率(Vf値)が20~70%である請求項1、3~11のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料。 【請求項13】(削除) 【請求項14】 請求項1、3~12のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料を用いて得られた繊維強化樹脂成形体。 【請求項15】 請求項1、3~12のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂材料を加熱及び加圧して成形してなる繊維強化樹脂成形体。 【請求項16】 前記繊維強化樹脂材料に含まれる強化繊維の束は、短冊状であり、 当該繊維強化樹脂成形体は、前記短冊状の強化繊維の束が3次元にランダムに積層された積層構造を有する請求項14または15に記載の繊維強化樹脂成形体。 【請求項17】 繊維体積含有率(Vf値)が20~70%である請求項14~16のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂成形体。 【請求項18】 複数用いて加熱及び加圧することで繊維強化樹脂成形体を成形するための繊維強化樹脂材料の製造方法であって、 一方向に配列された強化繊維の束に、反応型の熱可塑性樹脂及び当該熱可塑性樹脂を溶解及び/又は分散するための溶剤を含む熱可塑性樹脂溶液を付与した後、乾燥及び/又は熱処理を行い、 前記繊維強化樹脂材料の長さが5~500mmであり、 前記繊維強化樹脂材料の厚みが0.3mm以上1.5mm以下であり、 前記繊維強化樹脂材料の形状が、短冊状、柱状、紐状、粒状、又は、チップ状であり、 前記熱可塑性樹脂がエポキシ樹脂であって、反応後にフェノキシ樹脂になり、 前記強化繊維の束の内部にまで前記熱可塑性樹脂が浸透している 繊維強化樹脂材料の製造方法。 【請求項19】 前記熱可塑性樹脂溶液の粘度が、5~1000mPa・sである請求項18に記載の繊維強化樹脂材料の製造方法。」 第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由及び取消理由<決定の予告>の概要 1 特許異議申立人1が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 令和2年11月18日に特許異議申立人1が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書1」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりで ある。 (1)申立理由1-1(甲第1号証を主引用文献とする新規性・進歩性について) 本件特許の請求項1、3、4、6、8ないし15、17ないし19に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか又は甲第1号証に記載された発明に基いて、その優先日前にその優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (2)申立理由1-2(甲第2号証を主引用出願とする拡大先願について) 本件特許の請求項1、3、4、6ないし10、12ないし15、18に係る発明は、本件特許の出願の日前の日本語特許出願であって、その出願後に国際公開がされた下記の日本語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその優先日前の日本語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記日本語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (3)証拠方法 甲第1号証:特許第3035618号公報 甲第2号証:特願2014-550957号(再公表特許 国際公開2015/046290号) 甲第3号証:製品開発に役立つプラスチック材料入門、p72-73, p104-105, p118-123 2013年5月24日 初版8刷発行 以下、順に「甲1-1」ないし「甲1-3」という。 2 特許異議申立人2が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 令和2年11月20日に特許異議申立人2が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書2」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 (1)申立理由2-1(甲第1号証を主引用文献とする新規性について) 本件特許の請求項1ないし9、11ないし15、17ないし19に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (2)申立理由2-2(甲第1号証を主引用文献とする進歩性について) 本件特許の請求項1ないし19に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (3)証拠方法 甲第1号証:特開2006-321896号公報 甲第2号証:特開2013-213305号公報 甲第3号証:特開2012-136814号公報 甲第4号証:特開2012-251378号公報 甲第5号証:特開2005-238758号公報 甲第6号証:特開昭58-211416号公報 以下、順に「甲2-1」ないし「甲2-6」という。 3 取消理由<決定の予告>の概要 令和3年9月27日付けで通知した取消理由<決定の予告>(以下、「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。 (1)取消理由4(甲2-1を主引用文献とする新規性) 本件特許の請求項1、2、4、6ないし9、13に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲2-1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 (2)取消理由5(甲2-1を主引用文献とする進歩性) 本件特許の請求項1ないし19に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲2-1に記載された発明に基いて、その優先日前当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 (3)取消理由6(甲2-6を主引用文献とする進歩性) 本件特許の請求項1ないし19に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲2-6に記載された発明に基いて、その優先日前当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 なお、上記取消理由4は上記申立理由2-1に、上記取消理由5は上記申立理由2-2に対応している。 第5 取消理由についての当審の判断 1 証拠に記載された事項等 (1)甲2-1に記載された事項及び甲2-1発明 ア 甲2-1に記載された事項(下線は、当審で付与したものである。以下同様。) 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 強化用繊維を金型に引き込みつつ引き抜きながら前記金型を介して加熱し、前記強化用繊維に含浸させた1分子中にエポキシ基を2つ有する化合物(A)と1分子中にフェノール性水酸基を2つ有する化合物(B)とを重付加反応により直鎖状に重合させることにより、前記化合物(A)と化合物(B)とが重合してなる熱可塑性樹脂を前記金型で成形することを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂の引抜成形方法。 ・・・<略>・・・ 【請求項7】 強化用繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維である請求項1~6のいずれか記載の引抜成形方法。 【請求項8】 請求項1~7のいずれか記載の引抜成形方法で成形されてなる繊維強化プラスチック。」 「【0003】 しかしながら、熱可塑性樹脂と強化用繊維を混練する場合に、次のような問題が知られている。すなわち、高分子量の熱可塑性樹脂を強化用繊維に含浸させるために、高圧・高温で熱可塑性樹脂を溶融させて流動性や繊維との濡れ性を確保する必要がある。その結果、高圧・高温により、ガラス繊維等の強化用繊維が損傷して複合材中の強化用繊維は短繊維となり、損傷により繊維自体の強度も低下し、最終的にこの複合材を使用して成形したFRTPの強度特性の低下をもたらす。さらに、熱可塑性樹脂が高分子量であることにより、強化用繊維に熱可塑性樹脂が充分に含浸されず、熱可塑性樹脂と強化用繊維との界面にボイドが生じる。また、高温で長時間保持されることにより熱可塑性樹脂が分解又は劣化する不都合がある。さらに、熱硬化性樹脂と強化用繊維との複合体の製造と比較して、非常に大きな成形エネルギーが必要になる。また、すでに重合が終了した熱可塑性樹脂の段階で強化用繊維への含浸を行うことから、強化用繊維のカップリング剤等との化学反応が起こらず、強化用繊維と熱可塑性樹脂の界面での化学的接着が発生せず、複合化効率が大幅に低下してしまう。 【0004】 一方、引抜成形法は、引抜成形装置の樹脂含浸部に強化用繊維を引き込み、強化用繊維を樹脂に含浸させ、その後、加熱された金型内部に引き込みつつ引き抜きながら複合材を成形するものであり、様々な断面形状を持つ長尺物等の成形物の製造に適用可能な方法であり、品質が均一で高信頼性の成形法として知られている。引抜成形法は、樹脂を強化用繊維に含浸させた状態で成形するため低粘度樹脂であることが望ましいことから、従来、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂が主として使用されている。熱可塑性樹脂を使用する試みがないわけではないが、粘度を下げるために加熱溶融する必要があり、上述の熱可塑性樹脂に関する諸問題がそのまま該当してしまう。また、含浸しにくいことから、引取速度が遅くなる。 【0005】 反応性化合物を強化用繊維と混合してから重合することにより繊維強化された熱可塑性プラスチックを製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この技術では、まず、反応性化合物を含浸させて乾燥させたプリプレグを製造し、その後、これを熱プレスして重合反応を行い、成形体を製造している。また、解重合可能な熱可塑性ポリウレタンを使用して引抜成形を適用する方法も知られている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、エポキシ樹脂を使用した引抜成形法は未だ知られていない。 ・・・<略>・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明の目的は、上述の現状に鑑みて、エポキシ樹脂を使用した引抜成形でありながら、繊維強化熱硬化性樹脂では困難なリユース、リサイクル及び2次加工が可能となる繊維強化熱可塑性樹脂を製造する引抜成形方法を提供することにある。」 「【発明の効果】 【0009】 本発明の成形方法は、上述の構成により、あらかじめ強化用繊維に低粘度の上記化合物(A)及び化合物(B)(本明細書中、合わせて単に反応性化合物ともういう。)を複合・含浸し、その後ポリマーにするため、良好な引抜成形加工性を有する。 また、強化用繊維と複合・含浸される時には、反応性化合物が低粘度であるため、強化用繊維との濡れ性が極めて良好で、繊維束間にボイドが残存することがなく、高品質な複合材料が得られる。このため、ボイドの発生が問題となるような様々な複雑な形状の成形物を容易且つ欠陥なく製造することが可能になる。」 「【0016】 本発明において用いられる強化用繊維は、アスペクト比が1000以上(更に好ましくは5000以上)であり、連続長繊維束、繊維編組物(織物、編物、組物)、チョップドストランドマット、連続繊維マットの形態を有する基材であることが好ましい。上記のような基材を用いることにより、熱可塑性樹脂の補強度を向上させることができ、優れた機械的特性を発揮する繊維強化熱可塑性樹脂の成形・製造が可能になる。 【0017】 強化用繊維としては、例えば、アラミド繊維等の有機繊維や、ガラス繊維、炭素繊維等の無機繊維を用いることができるが、炭素繊維やガラス繊維を用いることが好ましい。 【0018】 ガラス繊維としては、ガラス繊維モノフィラメント、ガラス繊維ストランド、ガラス繊維ロービング、ガラス繊維ヤーン等の長繊維;ガラス繊維チョップドストランド、ガラス繊維ロービングの切断物等のガラス繊維チョップド繊維等を用いることができ、ガラス繊維ミルドファイバー等のガラス繊維短繊維を含んでいてもよい。」 「【0020】 ガラス繊維としては、ガラス繊維ロービングの切断物又はガラス繊維織物が好ましく、ガラス繊維ロービングの切断物は、直径3~100μmのガラス繊維モノフィラメントが100~2000本束ねられたガラス繊維束を、10~200本更に束ねたものであって、繊維長が10cm以上(より好ましくは、50cm以上)のものが好ましい。」 「【0026】 成形体における強化用繊維の配合比率は、成形体体積に対して、強化用繊維30~85体積%が好ましく、40~75体積%がより好ましい。強化用繊維の量が30体積%未満であると、成形品の物性が低くなったり、そりやうねりが大きくなる傾向にあり、85体積%を超すと、繊維に樹脂が未含浸となる傾向にある。」 「【0032】 上記化合物(A)、化合物(B)及び重合触媒の混合物が室温で液状であると強化用繊維への含浸工程において加温を必要としないか、あるいは混合物の重合開始に伴う増粘を著しく引き起こさない程度の加温により、十分粘度が低下して強化用繊維への含浸が容易になる点から好ましい。」 「【0037】 本発明においては、更に、任意の添加成分として、有機パウダーや水酸化アルミ等の無機パウダーによる充填材や公知の難燃剤等を添加してもよい。また、本発明の目的を阻害しない範囲で溶剤を、例えば、粘度調節等の目的で、使用してもよい。上記溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン等のケトン類、メチルセロソルブ、エチレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類がある。これらの中では、アセトンが重合時に飛びやすい点から好ましい。使用量は樹脂成分100重量部に対し0.1~15重量部が好ましく、より好ましくは4~8重量部である。少なすぎるとフェノール類が析出し、多すぎると重合後も樹脂中に溶剤が残留することによる物性低下が大きくなる。」 「【0039】 本発明の成形方法における重合反応においては、反応性化合物の含浸後、重合は金型内で進行するため、金型の設定温度近傍での重合条件となる。金型の温度は温水加熱などによる80℃程度から蒸気加熱、電気加熱ヒーター等による300℃程度までが一般的である。使用する反応性化合物、重合触媒、反応遅延剤の種類にしたがって、重合反応を生じさせる温度域が異なるが、通常、重合温度としては、120~200℃、重合時間としては、1~20分程度である。この重合時間は、反応性化合物の金型内部滞在時間程度であることが好ましい。 【0040】 重合反応工程において得られる繊維強化熱可塑性エポキシ樹脂成形体は、重合温度近傍のTgを有しているため、冷却工程を経て切断又は巻き取りされることが望ましい。冷却は冷却金型を通過させてもよく、又は、水等で冷却してもよい。また、引取速度は0.05~10m/min程度とすることができる。」 「【実施例】 【0041】 以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の記載は専ら説明のためであって、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 【0042】 実施例1 まず、以下の表1に示す使用原料を同表記載の重量部にて混合して、反応性化合物の混合物を得た。なお、得られた混合物は、混合物作製時及び室温に保管している状態では重合反応を生じなかった。表1中の略号の意味は以下のとおり。 AER260 旭化成社製ビスフェノール型液状エポキシ樹脂(エポキシ当量:190g/eq) BPA-M 三井化学社製ビスフェノールA(水酸基当量:114g/eq) TOTP 北興化学工業社製トリ-o-トリルホスフィン(分子量:304) トリ-n-オクチルボレート 東京化成社製(分子量:398) 【0043】 【表1】 [図:0001385130000001.jpg] 【0044】 AER260を900gと、予め粉砕したBPA-Mを600gとを縦型ミキサーで混ぜ、その後3本ロールを用いて最大粒径が10μm以下となるように均一に分散させた。これをベースAとした。AER260を100gとパウダー状のTOTP40gとを混ぜ、その後3本ロールを用いて最大粒径が10μm以下となるように均一に分散させた。これをベースBとした。ベースA1500g、ベースB140g、及びトリ-n-オクチルボレート39.3gとを縦型ミキサーを用いて20分攪拌・混合し、実施例1の配合物を得た。 【0045】 実施例1の配合物を図1に示す加熱含浸槽03に供給し、80℃に保ち、完全に融解した状態とした。図2に示すように、金型入り口温度を80℃に保ち、金型中央部で160℃,金型出口で100℃になるような温度分布に加熱保持した平板成形用の金型04の内部(長方形断面形状,幅b=15mm×板厚t=2mm)に、強化用繊維であるガラス繊維ロービング(RS440RR-520AS、日東紡績株式会社製、番手:4400g/1000m、アクリルシラン処理)02をセットし、牽引装置05により引取速度1m/minで通過させた。金型の出口通過後3分間の自然冷却(空気による自然冷却)により、成形品の表面温度は60℃以下になり、切断装置06により切断を行ない、ガラス繊維含有率が72体積%のガラス繊維強化熱可塑性エポキシ樹脂成形体を得た。 【0046】 得られたガラス繊維強化熱可塑性エポキシ樹脂成形体の表面や断面には気泡等は観察されず、美麗な面状態であった。なお、この成形体は、160~180℃で1分間加熱させるだけで再溶融したため、容易に曲げ加工が可能であり、架橋構造を有さない直鎖状ポリマーであることが確認できた。 【0047】 次に、得られたガラス繊維強化熱可塑性エポキシ樹脂成形体(以下「熱可塑GFRP」という。)を長さ20mmと80mmにカットし、曲げ試験と動的粘弾性試験の測定を行なった。 ・・・<略>・・・ 【0052】 貯蔵弾性率(E’)の測定結果とtanδの測定結果を図3、4に示す。貯蔵弾性率(E’)については、Tg(tanδピークの温度)以下の温度域では、熱可塑GFRPとRefGFRPはほぼ同じ程度の値を示し、E’が急激に低下する温度(概ねTgに相当する)は熱可塑GFRPの方が若干低い値であった。 ・・・<略>・・・ 【0054】 また、表2(当審注:表3の誤記である。)に3点曲げ試験の結果を示す。この結果より、本発明の繊維強化熱可塑性エポキシ樹脂は、熱硬化性エポキシ樹脂を使用したRefGFRPと同等以上の非常に優れた機械的強度を発揮することが判明した。 【0055】 【表3】 [図:0001385130000002.jpg] 」 「【0056】 本発明の成形方法で製造される複合材は、常温付近(例えば、20℃~80℃)では、熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂とした繊維強化樹脂(FRP)と同等の機械的特性を示しながら、高温(例えば、160℃以上)では容易に液状化し、2次加工やリユース、リサイクルが可能な繊維強化熱可塑性エポキシ樹脂成形体を得ることができる。また、化合物(A)の少なくとも一部及び/又は化合物(B)の少なくとも一部として、フルオレン骨格を有する化合物を使用することにより耐熱性を向上させた繊維強化熱可塑性エポキシ樹脂成形体を得ることができ、自動車用途、例えば、プラットフォーム、ボンネット、バンパー、ドア、ルーフ、シート、スポイラー、トラック運転室屋根のスポイラー、バス車体等に適用することができる。」 「【図3】 [図:0001385130000003.jpg] 」 イ 甲2-1発明 甲2-1に記載された事項を、特に実施例1を用いて整理すると、甲2-1には次の発明が記載されていると認める。 「AER260 旭化成社製ビスフェノール型液状エポキシ樹脂(エポキシ当量:190g/eq) 100重量部、BPA-M 三井化学社製ビスフェノールA(水酸基当量:114g/eq)60重量部、TOTP 北興化学工業社製トリ-o-トリルホスフィン(分子量:304)4重量部、トリ-n-オクチルボレート東京化成社製(分子量:398)3.93重量部を混合した反応性化合物の配合物を、加熱含浸槽03に供給し、80℃に保ち、完全に融解した状態とし、金型入り口温度を80℃に保ち、金型中央部で160℃,金型出口で100℃になるような温度分布に加熱保持した平板成形用の金型04の内部(長方形断面形状,幅b=15mm×板厚t=2mm)に、強化用繊維であるガラス繊維ロービング(RS440RR-520AS、日東紡績株式会社製、番手:4400g/1000m、アクリルシラン処理)02をセットし、牽引装置05により引取速度1m/minで通過させ、金型の出口通過後3分間の自然冷却(空気による自然冷却)により、成形品の表面温度は60℃以下になり、切断装置06により切断を行なって得られたガラス繊維含有率が72体積%の繊維強化熱可塑性エポキシ樹脂成形体(得られた繊維強化熱可塑性エポキシ樹脂成形体の表面や断面には気泡等は観察されず、美麗な面状態であり、160~180℃で1分間加熱させるだけで再溶融される)。」(以下、「甲2-1材料発明」という。) 「AER260 旭化成社製ビスフェノール型液状エポキシ樹脂(エポキシ当量:190g/eq) 100重量部、BPA-M 三井化学社製ビスフェノールA(水酸基当量:114g/eq)60重量部、TOTP 北興化学工業社製トリ-o-トリルホスフィン(分子量:304)4重量部、トリ-n-オクチルボレート 東京化成社製(分子量:398)3.93重量部を混合した反応性化合物の配合物を、加熱含浸槽03に供給し、80℃に保ち、完全に融解した状態とし、金型入り口温度を80℃に保ち、金型中央部で160℃,金型出口で100℃になるような温度分布に加熱保持した平板成形用の金型04の内部(長方形断面形状,幅b=15mm×板厚t=2mm)に、強化用繊維であるガラス繊維ロービング(RS440RR-520AS、日東紡績株式会社製、番手:4400g/1000m、アクリルシラン処理)02をセットし、牽引装置05により引取速度1m/minで通過させ、金型の出口通過後3分間の自然冷却(空気による自然冷却)により、成形品の表面温度は60℃以下になり、切断装置06により切断を行なって得られたガラス繊維含有率が72体積%の繊維強化熱可塑性エポキシ樹脂成形体(得られた繊維強化熱可塑性エポキシ樹脂成形体の表面や断面には気泡等は観察されず、美麗な面状態であり、160~180℃で1分間加熱させるだけで再溶融される)の製造方法。」(以下、「甲2-1製法発明」という。) (2)甲2-6に記載された事項及び甲2-6発明 ア 甲2-6に記載された事項 (ア)「無撚の繊維糸条の単繊維数の多いものを単独で拡幅してなるか、あるいは単繊維数の少ないものを多数本引揃え、該糸条を互に相接するまで拡幅してなる一方面シート状物に、マトリツクス樹脂を含浸し、得られる一方面プリプレグをその長手方向に裁断して細幅テープ状糸条となし、さらにこれを所定の長さに切断することを特徴とする、チヨツプドストランドプリプレグの製造法。」(特許請求の範囲) (イ)「マトリックス樹脂としては熱硬化性樹脂例えばエポキシ樹脂、フエノール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂など、熱可塑性樹脂例えばナイロン66、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブタレンテレフタレート樹脂、 PPS樹脂などが用いられる。」(第2ページ左下欄第3~8行) (ウ)「実施例1 アクリル系炭素繊維(直径8μ×フイラメント数10000本)の繊維糸条50本を拡幅して一方向シート状となし、硬化剤を加えて調整されたエポキシ樹脂をメチルエチルケトンにより600g/lに希釈して常温で含浸させたのち、離型紙にはりつけたまま乾燥炉を通し、次いでプレスして幅500mm、厚さ0.25mmの一方向プリプレグを製造する。この一方向プリプレグを5℃の室内に1時間放置したのち、カツターで長手方向に裁断し、幅3mmのテープ状としたのち長さ2.5cmに切断する。このプリプレグは元の繊維の約1/3の太さに相当する炭素繊維を含むもので、これを縦220mm、横220mmの金型に無作為に230g仕込み、プレス圧50kg/cm2をかけ、170℃で1時間硬化させたのち、加圧せずに170℃で1時間の後硬化を行うと、極めて表面の美しい厚さ3mmの均一な成形品が得られる。」(第3ページ右上欄第1~19行) (エ)「実施例3 アクリル系炭素繊維(直径8μ×フイラメント数15000本)の繊維糸条を30本使用し、硬化剤を加え調整されたエポキシ樹脂をメチルエチルケトンにより600g/lに希釈して常温で含浸させたのち、離型紙にはりつけて乾燥炉を通し、幅300mm、厚さ0.3mmの一方向プリプレグを製造し、冷却装置つきカッターで長手方向に幅1.5mmに裁断してテープ状と成し、これをさらに長さ2.5cmに切断し、得られるCH-STプリプレグをエポキシ樹脂を薄く塗布したポリエチレンフィルム上にマツト状に分散したのちプレスしてシート状とする。さらにこれを縦100mm、横220mmに裁断し、30枚重ねて50kg/cm2のプレス圧で、130℃の温度で1時間加熱硬化させ、加圧下で100℃まで冷却したのち放冷すると、表面の綺麗な、厚さの均一な8mmの成形品が得られる。」(第3ページ左下欄第17行~右下欄第1~15行) イ 甲2-6発明 甲2-6に記載された事項を、特に実施例1を用いて整理すると、甲2-6には次の発明が記載されていると認める。 「アクリル系炭素繊維(直径8μ×フイラメント数10000本)の繊維糸条50本を拡幅して一方向シート状となし、硬化剤を加えて調整されたエポキシ樹脂をメチルエチルケトンにより600g/lに希釈して常温で含浸させたのち、離型紙にはりつけたまま乾燥炉を通し、次いでプレスして幅500mm、厚さ0.25mmの一方向プリプレグを製造し、この一方向プリプレグを5℃の室内に1時間放置したのち、カッターで長手方向に裁断し、幅3mmのテープ状としたのち長さ2.5cmに切断した一方向プリプレグ」(以下、「甲2-6材料発明」という。) 「アクリル系炭素繊維(直径8μ×フイラメント数10000本)の繊維糸条50本を拡幅して一方向シート状となし、硬化剤を加えて調整されたエポキシ樹脂をメチルエチルケトンにより600g/lに希釈して常温で含浸させたのち、離型紙にはりつけたまま乾燥炉を通し、次いでプレスして幅500mm、厚さ0.25mmの一方向プリプレグを製造し、この一方向プリプレグを5℃の室内に1時間放置したのち、カッターで長手方向に裁断し、幅3mmのテープ状としたのち長さ2.5cmに切断した一方向プリプレグの製造法」(以下、「甲2-6製法発明」という。) 2 取消理由4及び5(甲2-1を主引用文献とする新規性・進歩性)について (1)本件特許発明1について 本件特許発明1と甲2-1材料発明を対比する。 甲2-1材料発明の「ガラス繊維ロービング(RS440RR-520AS、日東紡績株式会社製、番手:4400g/1000m、アクリルシラン処理)」は、本件特許発明1の「一方向に配列された強化繊維の束」に相当する。また、甲2-1材料発明の「AER260 旭化成社製ビスフェノール型液状エポキシ樹脂(エポキシ当量:190g/eq) 100重量部、BPA-M 三井化学社製ビスフェノールA(水酸基当量:114g/eq)60重量部、TOTP 北興化学工業社製トリ-o-トリルホスフィン(分子量:304)4重量部、トリ-n-オクチルボレート 東京化成社製(分子量:398)3.93重量部を混合した反応性化合物の配合物」は、成形後160~180℃で1分間加熱させるだけで再溶融されるものであるため、本件特許発明1の「反応型樹脂」であり、「エポキシ樹脂」である「熱可塑性樹脂」に相当する。甲2-1材料発明の「繊維強化熱可塑性エポキシ樹脂」は、本件特許発明1の「繊維強化樹脂」に相当する。 そして、甲2-1材料発明の繊維強化熱可塑性エポキシ樹脂成形体は、板厚t=2mmの金型で成形しているから、その厚みが2mmであり、その表面や断面には気泡等は観察されていないことから、「前記強化繊維の束の内部にまで前記熱可塑性樹脂が浸透している」ものと認められる。 そうすると、両者は、 「繊維強化樹脂であって、 熱可塑性樹脂と一方向に配列された強化繊維の束とを含み、 前記熱可塑性樹脂が反応型樹脂であり、 前記熱可塑性樹脂がエポキシ樹脂であり、 前記強化繊維の束の内部にまで前記熱可塑性樹脂が浸透している 繊維強化樹脂。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点ウ-1-1> 繊維強化樹脂について、本件特許発明1が「複数用いて加熱及び加圧することで繊維強化樹脂成形体を成形するための繊維強化樹脂材料」であると共に、「前記繊維強化樹脂材料の長さが5~500mmであり、前記繊維強化樹脂材料の厚みが0.3mm以上1.5mm以下であり、前記繊維強化樹脂材料の形状が、短冊状、柱状、紐状、粒状、又は、チップ状であり」と特定されているのに対し、甲2-1材料発明はそのような特定がされていない点 <相違点ウ-1-2> エポキシ樹脂について、本件特許発明1が「反応後にフェノキシ樹脂になり」と特定されているのに対し、甲2-1材料発明はそのような特定がされていない点 そこで、上記相違点について検討する。 <相違点ウ-1-1>について 甲2-1材料発明の繊維強化樹脂の厚みは2mmであるから、当該相違点は実質的な相違点であり、本件特許発明1は甲2-1材料発明ではない。 また、甲2-1の段落【0056】に、「本発明の成形方法で製造される複合材は、常温付近(例えば、20℃~80℃)では、熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂とした繊維強化樹脂(FRP)と同等の機械的特性を示しながら、高温(例えば、160℃以上)では容易に液状化し、2次加工やリユース、リサイクルが可能な繊維強化熱可塑性エポキシ樹脂成形体を得ることができる。」と記載されている。しかしながら、当該樹脂成形体を2次加工やリユース、リサイクルするに際し、当該樹脂成形体を「複数用いて加熱及び加圧する」ことや、そのために、厚みについて「0.3mm以上1.5mm以下」とすること、長さについて「5~500mm」とすること、形状について「短冊条、柱状、紐状、粒状、又は、チップ状」とすることについてまでは甲2-1やその他の証拠には記載されておらず、また、そのようにする動機付けとなる記載もない。 そして、本件特許発明1は、「繊維強化成形体を加熱及び加圧して製造する際に、繊維強化樹脂成形体中に空気が含まれることなどを抑制し、強度や生産が安定する。」(本件特許明細書の段落、【0031】ないし【0033】及び【実施例】)という効果は、甲2-1材料発明及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲2-1材料発明であるとはいえないし、甲2-1材料発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 なお、特許異議申立人2は、令和3年7月30日付けの意見書において、「甲2-1の明細書段落0045~0047には、実施例1として、厚み2mm、長さ80mm(又は20mm)の繊維強化熱可塑性エポキシ樹脂成形体が記載されており、また、同じく段落0056には、得られた繊維強化熱可塑性工ポキシ樹脂成形体は2次加工やリユースが可能なものであるとしていることから、特許権者が挙げる上記の構成はいずれも相違点にはならない。」と主張している。 しかしながら、甲2-1の段落【0047】において、甲2-1材料発明であるガラス繊維強化熱可塑性工ポキシ樹脂成形体を、長さ20mmと80mmにカットしたのは、あくまでも曲げ試験と動的粘弾性試験の測定を行なうためであって、2次加工やリユース、リサイクルのために当該長さにカットしたものではない。また、仮に、当該カットしたものを2次加工やリユース、リサイクルするにしても、「複数用いて加熱及び加圧する」ことまでは、甲2-1は記載されていない。 よって、特許異議申立人2の上記主張は首肯できない。 (2)本件特許発明3ないし12、14ないし17について 本件特許発明4、6ないし9は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、本件特許発明4、6ないし9は甲2-1材料発明であるとはいえない。 また、本件特許発明3ないし12、14ないし17は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、本件特許発明3ないし12、14ないし17は、甲2-1材料発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3)本件特許発明18について 本件特許発明18と甲2-1製法発明とを対比すると、上記(1)で対比したのと同様である。 また、甲2-1製法発明の「AER260 旭化成社製ビスフェノール型液状エポキシ樹脂(エポキシ当量:190g/eq)」は液状であるから、これを含む「反応性化合物の配合物」は、本件特許発明18の「熱可塑性樹脂がエポキシ樹脂」である「熱可塑性樹脂溶液」に相当する。そして、甲2-1製法発明の「反応性化合物の配合物を、加熱含浸槽03に供給し、80℃に保ち、完全に融解した状態とし、金型入り口温度を80℃に保ち、金型中央部で160℃,金型出口で100℃になるような温度分布に加熱保持した平板成形用の金型04の内部(長方形断面形状,幅b=15mm×板厚t=2mm)に、強化用繊維であるガラス繊維ロービング(RS440RR-520AS、日東紡績株式会社製、番手:4400g/1000m、アクリルシラン処理)02をセットし、牽引装置05により引取速度1m/minで通過させ」ることは、本件特許発明18の「一方向に配列された強化繊維の束に、反応型の熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂溶液を付与した後、乾燥及び/又は熱処理を行」うことに相当する。 そうすると、両者は、 「繊維強化樹脂の製造方法であって、 一方向に配列された強化繊維の束に、反応型の熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂溶液を付与した後、乾燥及び/又は熱処理を行い、 前記熱可塑性樹脂がエポキシ樹脂であり、 前記強化繊維の束の内部にまで前記熱可塑性樹脂が浸透している 繊維強化樹脂の製造方法。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点ウ-18-1> 繊維強化樹脂について、本件特許発明1が「複数用いて加熱及び加圧することで繊維強化樹脂成形体を成形するための繊維強化樹脂材料」であると共に、「前記繊維強化樹脂材料の長さが5~500mmであり、前記繊維強化樹脂材料の厚みが0.3mm以上1.5mm以下であり、前記繊維強化樹脂材料の形状が、短冊状、柱状、紐状、粒状、又は、チップ状であり」と特定されているのに対し、甲2-1製法発明はそのような特定がされていない点 <相違点ウ-18-2> エポキシ樹脂について、本件特許発明1が「反応後にフェノキシ樹脂になり」と特定されているのに対し、甲2-1製法発明はそのような特定がされていない点 そこで、上記相違点について検討する。 上記<相違点ウ-18-1>は、上記(1)の<相違点ウ-1-1>と同じである。 そうすると、本件特許発明1と同様の理由で、本件特許発明18は甲2-1製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (4)本件特許発明19について 本件特許発明19は、請求項18を直接引用するものであり、本件特許発明18の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明18と同様の理由で、本件特許発明19は甲2-1製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (5)取消理由4及び5についてのむすび したがって、本件特許発明1、4、6ないし9は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1、4、6ないし9に係る特許は、取消理由4によっては取り消すことはできない。 また、本件特許発明1及び3ないし12、並びに14ないし19は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1、3ないし12、14ないし19に係る特許は、取消理由5によっては取り消すことはできない。 2 取消理由6(甲2-6を主引用文献とする進歩性)について (1)本件特許発明1について 本件特許発明1と甲2-6材料発明を対比する。 甲2-6材料発明の「アクリル系炭素繊維(直径8μ×フイラメント数10000本)の繊維糸条」は、本件特許発明1、2の「一方向に配列された強化繊維の束」に相当し、甲2-6材料発明の「エポキシ樹脂」は、本件特許発明1の「樹脂」に相当する。また、甲2-6材料発明の「一方向プリプレグ」は、当該プリプレグを金型に無作為に仕込み、プレス圧50kg/cm2をかけ、170℃で1時間硬化させて成形品を得ているから、本件特許発明1の「複数用いて加熱及び加圧することで繊維強化樹脂成形体を成形するための繊維強化樹脂材料」に相当する。 また、甲2-6材料発明のプリプレグは、長さ25mm、幅3mm、厚み0.25mmであることから、両者はその形状が、「粒状、又は、チップ状」或いは「短冊状、柱状、紐状」である点で一致している。 そうすると、両者は、 「複数用いて加熱及び加圧することで繊維強化樹脂成形体を成形するための繊維強化樹脂材料であって、 樹脂と一方向に配列された強化繊維の束とを含み、 前記繊維強化樹脂材料の長さが25mmであり、 前記繊維強化樹脂材料の形状が、短冊状、柱状、紐状、粒状、又は、チップ状であり、 樹脂がエポキシ樹脂である 繊維強化樹脂材料。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点エ-1-1> エポキシ樹脂について、本件特許発明1が「反応型」である「熱可塑性樹脂」であって、「反応後にフェノキシ樹脂になり」と特定されているのに対し、甲2-6材料発明は熱硬化性である点 <相違点エ-1-2> 本件特許発明1が「強化繊維の束の内部にまで前記熱可塑性樹脂が浸透している」と特定されているのに対し、甲2-6材料発明はそのような特定がされていない点 <相違点エ-1-3> 繊維強化樹脂材料の厚みについて、本件特許発明1が「0.3mm以上1.5mm以下」と特定されているのに対し、甲2-6材料発明は0.25mmである点 そこで、上記相違点について検討する。 <相違点エ-1-1>について 甲2-6には、マトリックス樹脂として、熱硬化性樹脂に加えて、熱可塑性樹脂についても記載されているところ、具体的には、ナイロン66、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂 、ポリプタレンテレフタレート樹脂、PPS樹脂しか記載されておらず、「反応型熱可塑性樹脂」を用いることについては記載されていない。 一方、エポキシ樹脂として、反応型熱可塑性のもの自体は公知のものではある。しかしながら、甲2-6材料発明において、同じエポキシ樹脂ではあっても、熱硬化性のものに代えて、性質の全く異なる「反応型熱可塑性」のものを採用する動機付けは、甲2-6及び他の証拠にもない。 そして、本件特許発明1は、「熱により溶融して用いられる熱可塑性樹脂は、強化繊維の束への含浸が困難であるため、強化繊維の束を0.13mm以下の薄いシート状にする必要があるが、本実施の形態の繊維強化樹脂材料であれば、反応型の熱可塑性樹脂を用いているため熱可塑性樹脂が強化繊維の束に容易に含浸するので強化繊維の束を薄くする必要がなく、厚みの厚い繊維強化樹脂材料が得られる。」(同段落【0034】)という顕著な効果を奏するものである。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲2-6材料発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)本件特許発明3ないし12、14ないし17について 本件特許発明3ないし12、14ないし17は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲2-6材料発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3)本件特許発明18について 本件特許発明18と甲2-6製法発明とを対比すると、上記(1)で対比したのと同様である。 また、甲2-6製法発明の「硬化剤を加えて調整されたエポキシ樹脂をメチルエチルケトンにより600g/lに希釈し」たものは、本件特許発明18の「樹脂溶液」に相当する。 そうすると、両者は、 「複数用いて加熱及び加圧することで繊維強化樹脂成形体を成形するための繊維強化樹脂材料の製造方法であって、 一方向に配列された強化繊維の束に、樹脂及び樹脂を溶解及び/又は分散するための溶剤を含む樹脂溶液を付与した後、乾燥及び/又は熱処理を行い、 前記繊維強化樹脂材料の長さが25mmであり、 前記繊維強化樹脂材料の形状が、短冊状、柱状、紐状、粒状、又は、チップ状であり、前記樹脂はエポキシ樹脂である 繊維強化樹脂材料の製造方法。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点エ-18-1> エポキシ樹脂について、本件特許発明18が「反応型」である「熱可塑性樹脂」であって、「反応後にフェノキシ樹脂になり」と特定されているのに対し、甲2-6製法発明は熱硬化性である点 <相違点エ-18-2> 本件特許発明18が「強化繊維の束の内部にまで前記熱可塑性樹脂が浸透している」と特定されているのに対し、甲2-6製法発明はそのような特定がされていない点。 <相違点エ-18-3> 繊維強化樹脂材料の厚みについて、本件特許発明18が「0.3mm以上1.5mm以下」と特定されているのに対し、甲2-6材料発明は0.25mmである点 そこで、上記相違点について検討する。 <相違点エ-18-1>について 上記<相違点エ-18-1>は、(1)の上記<相違点エ-1-1>と同じである。 よって、本件特許発明1と同様の理由により、本件特許発明18は甲2-6製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)本件特許発明19について 本件特許発明19は、請求項18を直接引用するものであり、本件特許発明18の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明18と同様の理由で、甲2-6製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (5)取消理由6についてのむすび したがって、本件特許発明1及び3ないし12、並びに14ないし19は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1及び3ないし12、並びに14ないし19に係る特許は、取消理由6によっては取り消すことはできない。 第6 取消理由通知<決定の予告>で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由について 取消理由で採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由は、特許異議申立書1の申立理由1-1(甲1-1を主引用文献とする新規性・進歩性)、申立理由1-2(甲1-2に基づく拡大先願)、特許異議申立書2の申立理由2-1(甲2-1を主引用文献とする新規性)のうち本件特許発明3、5、10ないし12についてである。 そこで、これらの申立理由について検討する。 1 証拠に記載された事項等 (1)甲1-1に記載された事項及び甲1-1発明 ア 甲1-1に記載された事項 「【請求項1】 強化繊維ファブリックに、メタクリル酸アルキルエステル及び/又はアクリル酸アルキルエステルとこれらに溶解する熱可塑性重合体を主成分とし、粘度が10~104センチポイズの範囲にあるアクリル系硬化性樹脂組成物を含浸した、まだ硬化していない繊維強化熱可塑性樹脂シート材料。 【請求項2】 アクリル系硬化性樹脂組成物に有機過酸化物と硬化促進剤が含有されている請求項1記載のまだ硬化していない繊維強化熱可塑性樹脂シート材料。 【請求項3】 粘度が10~104センチポイズの範囲にある常温又は加熱硬化性アクリル系樹脂液と強化繊維ファブリックとを接触させ、前記強化繊維ファブリックに前記樹脂液を含浸させることを特徴とする請求項1記載の繊維強化熱可塑性樹脂シート材料の製造方法。」 「【0002】炭素繊維、ガラス繊維等の強化繊維で補強した熱可塑性複合材料は、強化繊維に由来する、優れた力学的性質と樹脂の熱可塑性に由来する優れた成形性、熱融着性及び短時間の成形性を兼ね備えた優れた材料としてよく知られている。特に、高強度化、軽量化が要求されつつある、スポーツ用品、日常品用として比較的低温で賦型が可能な、繊維強化アクリル樹脂が提案されている(米国特許4778717)。 【0003】従来、このような材料を製造する方法としては、下記の方法が用いられてきた。 (1)樹脂を軟化する温度にし、強化繊維ファブリックに含浸する方法。 (2)メチルエチルケトン等の溶剤に樹脂を溶解し、この溶液を強化繊維ファブリックに含浸した後、溶剤を揮発する方法。 【0004】しかし(1)の方法では、樹脂の溶融粘度が105~106センチポイズと高く、完全に樹脂を繊維に含浸することが困難であり、また高温高圧を必要とするため、高価な装置が必要となる。また(2)の方法では、溶剤を完全に揮発することが困難であり、材料中に残留した溶剤はその力学的性質を低下させるばかりでなく、回収できない溶剤は製造コストを引き上げる。 【0005】そこで、本発明者らは、強化繊維ファブリックにより強化されたアクリル系樹脂において、強化繊維間の空隙がアクリル系樹脂で十分に満たされたシート材料を効率的、連続的に製造する方法について鋭意検討を行ない、本発明に到達した。」 「【0009】以下、本発明の詳細を具体的に説明する。本発明に用いる強化繊維ファブリックとは、高弾性、高強度の繊維からなる織布、一方向繊維束、チョップ、ランダムストランドマット、又はこれらを組み合せたものであって、繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、金属繊維等の無機繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリイミド繊維等の有機繊維が使用される。これらの2種以上の繊維を組み合せて用いることもできる。また、これらの強化繊維と樹脂との密着性を改良するため、各種の表面処理を施すこともできる。 【0010】本発明に用いる常温または加熱硬化性アクリル系樹脂は、メタクリル酸アルキルエステル及び/又はアクリル酸アルキルエステルとこれらに溶解する熱可塑性重合体を主成分とするアクリル系硬化性樹脂組成物であり、硬化触媒及び必要に応じて硬化促進剤を加えることにより、常温及び/又は加熱により硬化物を得ることができる。硬化触媒としては、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド等の有機過酸化物が用いられる。硬化促進剤としては、ナフテン酸コバルト、オクチル酸コバルト等の金属石鹸やジメチルトルイジン等の芳香族3級アミン等が用いられる。得られた硬化物は、耐無機酸、耐有機酸、耐アルカリの耐薬品性、耐候性等に優れた特徴を持つ、成形性に優れた熱可塑性樹脂である。」 「【0013】樹脂組成物の付着量は、前記の(C)項の方法でロール間の間隙を調節することで強化繊維ファブリックの分率が10~70容量%に制御することができる。本発明において、前記(B)項で付着物を挟持するフィルムには、重合の妨げとなる酸素を透過しづらいものであればよく、例えばポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルムなどの合成樹脂フィルム、表面にシリコン膜を塗布した離型紙などが例示される。」 「【0019】本発明で得られるシート状物はそのままで種々の用途に利用できるが、例えば各種樹脂板に熱融着、あるいは接着して米国特許4778717に記載されている熱賦型可能なサンドイッチ板に加工することも可能であるし、また、適当な長さ巾に切断して、あるいは連続した状態で硬化する。また重合が完結する前にフィルムを剥離して数枚重ねたものを同様に硬化することも可能である。また切断して、所望の配列・分散状態として、加熱・加圧する等の成形方法を適用し成形品を得ることも可能である。」 「【0020】以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。下記例中の『部』は『重量部』を意味する。 実施例1 熱可塑性重合体として、重合平均分子量95000のメタクリル酸メチルホモポリマー19部、メタクリル酸メチル81部、硬化促進剤として、ジメチル-p-トルイジン0.8部からなるアクリル系樹脂混合液(B型粘度計、20℃、90センチポイズ)に硬化触媒として、ベンゾイルパーオキシドを樹脂液100部に対して、1重量部添加し、常温硬化型アクリル系樹脂液を調整した。強化繊維ファブリックとして、炭素繊維6000本を集束してなる炭素繊維トウ(三菱レイヨン製パイロフィル TR40)を製織(9本/インチ経緯糸とも)してなる炭素繊維織布を用意した。これらから以下の工程を経て、シート状物を得た。以下図1により説明する。上記織布1をドクターナイフ2の直前でポリエステルフィルム5上に供給される樹脂成分3とローラー対4直前で接触させ付着物とする一方、上から重ねたポリエステルフィルム6とともに移送し(5.0m/分)、間隙を0.4mmとしたローラ4で含浸し、次いで間隙を0.35mmに設定したローラー7でさらに含浸を進めた。これを押切りカッター8で300mm長に切断し、平坦なガラス板上にこれを26℃の室温中に40分放置し、硬化を行なった。 【0021】得られたシート状物の炭素繊維含有率は、47%であり、長さ方向、巾方向に切断した厚み約0.35mmの薄片の端面を研磨して光学顕微鏡観察を行なったところ炭素繊維トウ中への樹脂の含浸は良好であった。樹脂部にボイドはみられなかった。次にこのシート状物を90mm角に切断、積層し、250℃に設定した平金型で5kg/cm2の圧力で一体化し、外観の良好な2.5mm厚の成形品を得た。これから切り出した試験片に対して、ASTM D-790に準じた曲げ試験、同D-2344に準じた層間せん断試験を実施したところ曲げ強度60kg/mm2、曲げ弾性率6ton/mm2、層間せん断強度4kg/mm2と、すぐれた特性を示した。」 イ 甲1-1発明 甲1-1に記載された事項を、特に実施例1を【請求項1】、【請求項3】の記載にならって整理すると、甲1-1には次の発明が記載されていると認める。 「炭素繊維6000本を集束してなる炭素繊維トウ(三菱レイヨン製パイロフィル TR40)を製織(9本/インチ経緯糸とも)してなる炭素繊維織布に、重合平均分子量95000のメタクリル酸メチルホモポリマー19部、メタクリル酸メチル81部、硬化促進剤として、ジメチル-p-トルイジン0.8部からなるアクリル系樹脂混合液(B型粘度計、20℃、90センチポイズ)に硬化触媒として、ベンゾイルパーオキシドを樹脂液100部に対して、1重量部添加して調整した、常温硬化型アクリル系樹脂液を、間隙を0.35mmに設定したローラー7でさらに含浸を進め、300mm長に切断し、平坦なガラス板上にこれを26℃の室温中に40分放置し、硬化を行ない、さらに90mm角に切断した厚み約0.35mmのシート状物であって、当該シート状物の炭素繊維含有率は47%であり、当該シート状物の端面を研磨して光学顕微鏡観察を行なったところ炭素繊維トウ中への樹脂の含浸は良好であった繊維強化熱可塑性樹脂シート材料。」(以下、「甲1-1材料発明」という。) 「炭素繊維6000本を集束してなる炭素繊維トウ(三菱レイヨン製パイロフィル TR40)を製織(9本/インチ経緯糸とも)してなる炭素繊維織布に、重合平均分子量95000のメタクリル酸メチルホモポリマー19部、メタクリル酸メチル81部、硬化促進剤として、ジメチル-p-トルイジン0.8部からなるアクリル系樹脂混合液(B型粘度計、20℃、90センチポイズ)に硬化触媒として、ベンゾイルパーオキシドを樹脂液100部に対して、1重量部添加して調整した、常温硬化型アクリル系樹脂液を、間隙を0.35mmに設定したローラー7でさらに含浸を進め、300mm長に切断し、平坦なガラス板上にこれを26℃の室温中に40分放置し、硬化を行ない、さらに90mm角に切断した厚み約0.35mmのシート状物であって、当該シート状物の炭素繊維含有率は47%であり、当該シート状物の端面を研磨して光学顕微鏡観察を行なったところ炭素繊維トウ中への樹脂の含浸は良好であった繊維強化熱可塑性樹脂シート材料の製造方法。」(以下、「甲1-1製法発明」という。) (2)甲1-2を公報とする出願の願書に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「甲1-2先願明細書等」という。)及び甲1-2先願発明 ア 甲1-2先願明細書等に記載された事項 「【請求項1】 一方向性の強化繊維と、ポリアミドで構成されるマトリックス樹脂とを有する一方向性繊維強化テープであって、一方向性繊維強化テープ中のマトリックス樹脂は、次式(1)で求められる初期結晶化度C1が30%以上、50%以下であり、かつ、相対粘度が1.9以上、4以下である、一方向性繊維強化テープ。 C1(%)=(ΔHA1/ΔH0)×100 ・・・(1) (ここで、ΔHA1(J/g)は、一方向性繊維強化テープの示差走査熱量測定において、1回目の昇温時に現れる吸熱特性曲線のピーク面積から求められる、マトリックス樹脂の単位質量当たりの融解熱量の値であり、ΔH0(J/g)は、マトリックス樹脂を構成するポリアミドの完全結晶物の単位質量当たりの融解熱量の値である。) ・・・<略>・・・ 【請求項4】 ボイド率が6%以下であり、厚さが0.1mm以上、1.5mm以下である、請求項1~3のいずれかに記載の一方向性繊維強化テープ。 【請求項5】 繊維体積含有率が20%以上、65%以下である、請求項1~4のいずれかに記載の一方向性繊維強化テープ。 【請求項6】 一方向性の強化繊維と、ポリアミドで構成されるマトリックス樹脂とを有する一方向性繊維強化テープを製造する方法であって、マトリックス樹脂を溶融し、強化繊維束に含浸させる含浸工程、溶融したマトリックス樹脂を冷却固化し、一定形状の一方向性繊維強化テープ前駆体を形成する冷却固化工程、および、一方向性繊維強化テープ前駆体を固相重合する固相重合工程を有する、一方向性繊維強化テープの製造方法。 ・・・<略>・・・ 【請求項9】 強化繊維束に含浸させる際のマトリックス樹脂は、その相対粘度が1.5以上、3以下である、請求項6~8のいずれかに記載の一方向性繊維強化テープの製造方法。 【請求項10】 請求項1~5のいずれかに記載の一方向性繊維強化テープ、または請求項6~9のいずれかに記載の方法で製造された一方向性繊維強化テープと、一方向性繊維強化テープ以外の他の樹脂部材とを接合して得られる、成形体。」 「【0017】 そこで、本発明の目的は、強度、耐熱性および耐環境性を発揮させ、他の樹脂部材と接合しやすい一方向性繊維強化テープを提供することにあり、また、このような一方向性繊維強化テープと他の樹脂部材との接合性に優れた成形体を提供することにある。 【0018】 さらには、本発明の他の目的は、繊維間への樹脂の含浸性に優れ、樹脂含浸時の糸切れ発生を抑制して、一方向性繊維強化テープを製造する方法を提供することにある。 【0019】 上記課題を解決するために種々検討を行った結果、本発明者らは、以下に示す一方向性繊維強化テープ(UDテープ:「Uni Directional」と称することがある)を見いだすに至った。」 「【0029】 本発明において、一方向性の強化繊維とは、繊維方向が一方向に配列した状態の強化繊維をいい、一方向性繊維強化テープとは、マトリックス樹脂中に、強化繊維を、その繊維方向が一方向に配列した状態で含む基材をいう。図1は一方向性繊維強化テープ100の概略斜視図であり、強化繊維の配向方向に沿って略直角方向の断面が正面に図示されている。図1において、両方向矢印は繊維の配向方向を示している。強化繊維101は、一方向性繊維強化テープ100内に、特定の位置に固まることなく概ね均一に分散されており、強化繊維101の間はマトリックス樹脂102で充填されている。すなわち、強化繊維はマトリックス樹脂で含浸されている。具体的な製造方法は後述するが、引抜き成形法などの連続成形により、薄肉状の一方向性繊維強化テープ100が製造される。 【0030】 一方向性繊維強化テープ100に使用する強化繊維101としては、炭素繊維、金属繊維、有機繊維、および無機繊維が例示される。 ・・・<略>・・・ 【0038】 一方向性繊維強化テープにおいて、強化繊維は通常、多数本の単繊維を束ねた強化繊維束を1本または複数本を並べて構成される。1本または複数本の強化繊維束を並べたときの強化繊維の総フィラメント数(単繊維の本数)は1,000~2,000,000本の範囲にあることが好ましい。生産性の観点からは、強化繊維の総フィラメント数は、1,000~1,000,000本がより好ましく、1,000~600,000本がさらに好ましく、1,000~300,000本が特に好ましい。強化繊維の総フィラメント数の上限は、分散性や取り扱い性とのバランスも考慮して、生産性と分散性、取り扱い性を良好に保てるようであればよい。」 「【0040】 本発明において、上記一方向性繊維強化テープ100に使用するマトリックス樹脂102はポリアミドで構成される。ポリアミドとしては、例えば、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド56、ポリアミド410、ポリアミド510、ポリアミド4T、ポリアミド5T、ポリアミド5I、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミド4,6共重合体、ポリアミド6.12、ポリアミド9T、ポリアミドMXD6、イソフタル酸とビス(3-メチル-4アミノシクロヘキシル)メタンとを重合してなるポリアミド(ポリアミドPACMI)などのホモポリマ-、または、これらの共重合体または混合物が挙げられる。それらポリアミドの中でも、ポリアミド6、ポリアミド66、またはポリアミド610を用いることが好ましく、ポリアミド6、またはポリアミド66を用いることがより好ましい。」 「【0049】 また、具体的な測定方法は後述するが、マトリックス樹脂の相対粘度は、JIS K6920-2(2009)に基づき測定することができ、その際、一方向性繊維強化テープ中から強化繊維を除いたもの(マトリックス樹脂)の相対粘度を測定する。 【0050】 一方向性繊維強化テープ中におけるマトリックス樹脂の相対粘度が1.9よりも小さいと、一方向性繊維強化テープの靭性が低下する傾向にある。一方向性繊維強化テープ中におけるマトリックス樹脂の相対粘度が4よりも大きいと、成形体としての加工性に問題が生じやすく、また例えば補強部材として成形体を成形するにあたりコスト的に不利となる傾向にある。一方向性繊維強化テープ中におけるマトリックス樹脂の相対粘度は、好ましくは、2以上、3.9以下、より好ましくは、2.1以上、3.9以下、さらに好ましくは、2.3以上、3.8以下である。 【0051】 本発明では、初期結晶化度C1および相対粘度を前記した範囲とするために、後述するように、一方向性の強化繊維にマトリックス樹脂が含浸し、固化した状態の一方向性繊維強化テープ前駆体を加熱して固相重合反応によりマトリックス樹脂をより高分子量化し相対粘度を高めることが有効である。また、その固相重合反応時に、マトリックス樹脂中の分子が規則性よく配向することで、高い初期結晶化度を有する一方向性繊維強化テープとすることができる。このようなマトリックス樹脂のさらなる高分子量化、高結晶化により、強度、耐熱性および耐環境性を向上させることができる。固相重合する場合は、強化繊維へ含浸する前の状態では、低粘度の樹脂が使用でき、斯かる低粘度の樹脂は繊維間に含浸しやすくなることから、一方向性繊維強化テープの生産速度を高めることができるとともに、固相重合することで結晶化度および相対粘度が高まり、得られる一方向性繊維強化テープ自身の強度などを向上させることができる。」 「【0065】 また、本発明における一方向性繊維強化テープは、そのボイド率が、好ましく は6%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下、最も好ましくは2%以下であり、その厚さが、好ましくは0.1~1.5mm、より好ましくは0.1~1mm、さらに好ましくは0.2~0.7mm、最も好ましくは0.2~0.6mmである。 【0066】 ボイド率とは、ここでは一方向性繊維強化テープに含まれるボイド(気泡)の体積割合を示すものであり、具体的な算出方法は後述するが、一方向性繊維強化テープを構成する強化繊維やマトリックス樹脂の質量と密度の比率から算出することができる。ボイド率が6%よりも大きいと、一方向性繊維強化テープの強度の低下を招く場合がある。ボイド率は小さければ小さいほど好ましい。 【0067】 また、一方向性繊維強化テープの厚さが0.1mmよりも小さいと、強化繊維だけでは要求される強度を発現できなくなり、一方向性繊維強化テープを用いた成形体が強度不足となる場合がある。一方向性繊維強化テープの厚さが1.5mmよりも大きいと、強化繊維の間にまで樹脂が含浸しにくくなり、一方向性繊維強化テープの内部にボイドが生成しやすくなったり、加熱・冷却による固化に際して、一方向性繊維強化テープにおける芯部と表層部とでは熱の掛かり方に差が生じたりする。さらに、他の樹脂部材と接合する場合において、十分な接合面積が確保できず、接着強度が不足する場合がある。 【0068】 また、本発明における一方向性繊維強化テープは、繊維体積含有率の下限が好ましくは20%、より好ましくは30%、さらに好ましくは35%であり、繊維体積含有率の上限が好ましくは65%、より好ましくは60%である。繊維体積含有率が20%よりも小さいとテープの強度が不足することがあり、65%よりも大きいとテープの生産速度が低下しコストが上昇するうえ、他の樹脂部材と接着する際、テープの樹脂量が少ないことから接着強度が期待するほど向上しないことがある。」 「【0077】 含浸工程では、連続的に送り出される強化繊維束に、溶融したマトリックス樹脂を含浸させる。連続的に送り出される強化繊維束は通常、薄い層状の形態を有している。図3に示す製造装置200において、強化繊維の連続した単繊維を1,000~50,000本集めて束状とした強化繊維束201を巻き付けたボビン202を複数準備し、これら複数のボビン202から強化繊維束201を引き出し、横に並べて全体として薄い層状(テープ状)の形態とし、複数の糸道ガイド203を介して、強化繊維束201を、溶融したマトリックス樹脂206が貯留された含浸ダイ204内に進入させる。 【0078】 製造装置200に備えられた含浸ダイ204は、強化繊維束201の移送方向を向く直方体となっており、この含浸ダイ204の内部には、フィーダー205から供給されたマトリックス樹脂206が溶融した状態で貯留されている。強化繊維束201の移送方向において上流側に位置する含浸ダイ204の入口には、強化繊維束201が通過可能な入口孔が形成されており、この入口孔を介して、強化繊維束201は含浸ダイ204の内部に入ってゆく。開繊された強化繊維束201は、含浸ダイ204内部に設けられたバーやロールで張力を与えられながら強化繊維束201を構成する単繊維が引き揃えられたり、進行方向に屈曲させながら、しごかれたりしながら、含浸ダイ204内を通過することで、溶融したマトリックス樹脂206が、強化繊維束201を構成する単繊維間にまで含浸される。」 「【実施例】 【0107】 次に、本発明を実施例によって、より具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 ・・・<略>・・・ 【0130】 H.原材料 (a)マトリックス樹脂(A):ポリアミド6(ガラス転移点:50℃、融点:215℃、相対粘度:1.60) ε-カプロラクタム(東レ(株)製)1750gに酢酸(和光純薬(株)製)7gおよびイオン交換水250gを加え、螺旋帯撹拌翼をもった撹拌機と熱媒ジャケットを装備した内容積5Lのバッチ式重合缶に仕込んだ。 【0131】 次に重合缶内を密閉化し、充分に窒素置換した後に、熱媒温度を270℃まで上昇させ、缶内圧力(ゲージ圧)1.0MPaに到達するまで昇圧した。この後缶内圧力(ゲージ圧)を1.0MPaで制圧し、缶内温度が250℃となるまで維持した。 【0132】 次に熱媒加熱温度を250℃に変更し、40分間かけて大気圧まで放圧した後、大気圧、窒素雰囲気下で100分加熱し、ポリマーの重合を進めた。その後、重合缶内を窒素で微加圧としてポリマーを吐出せしめ、水冷して、カッターで長さ約2mmにカッティングしてペレットを得た。 【0133】 また、カッティングして得られたポリアミドペレットは16時間熱水で処理する事により低重合物を除去した。その後、水分率が0.05%となるよう、真空乾燥機を用いて、80℃で真空乾燥を行った後、120℃の熱風乾燥炉で5時間加熱し、目的のペレットを得た。 ・・・<略>・・・ 【0138】 (f)強化繊維束(F):PAN系炭素繊維束(東レ(株)製T700SC-12K) ・・・<略>・・・ 【0141】 (実施例1) 図3に示す一方向性繊維強化テープの製造装置を用いて、一方向性繊維強化テープを製造した。図3において、強化繊維束が巻かれたボビン202を16本準備し、それぞれボビン202から連続的に糸道ガイド203を通じて強化繊維束を送り出した。連続的に送り出された強化繊維束201は、含浸ダイ204内にて、マトリックス樹脂を充填したフィーダー205から定量供給されたマトリックス樹脂206を含浸させた。強化繊維束には、強化繊維束(F)を用い、マトリックス樹脂には、マトリックス樹脂(A)を用いた。含浸ダイ204内でマトリックス樹脂206を含浸した強化繊維束201を、含浸ダイ204のノズルから1m/minの引き抜き速度で連続的に引き抜いた。引取ロール207bにて引き抜かれた強化繊維束201は、冷却ロール207aを通過してマトリックス樹脂が冷却固化され、一方向性繊維強化テープ前駆体208aとして巻取機209にて巻き取られた。得られた一方向性繊維強化テープ前駆体208aの厚さは0.3mm、幅は50mmであった。巻き取られた一方向性繊維強化テープ前駆体208aを一定の大きさに切り取った後、加熱炉210内において、真空下、170℃で12時間の固相重合条件で固相重合を行い、一方向性繊維強化テープ208bを得た。 【0142】 さらに、得られた一方向性繊維強化テープ208bを補強部材としてインサート成形を行った。図5に示すように、(a)金型402のキャビティ内に、一定の形状にされた一方向性繊維強化テープ410を設置し、(b)射出ノズル401から、所定の溶融温度で溶融した他の樹脂部材420を、金型402内に注入した後、(c)金型を広げ、注入された溶融樹脂を冷却固化し、一方向性繊維強化テープ410と接合した成形体を取り出した。他の樹脂部材としては、他の樹脂部材(G)を用い、溶融温度は280℃、金型温度は120℃であった。金型のキャビティは、幅方向に90mmのフィルムゲートを有し、幅100mm、長さ150mm、厚さ3mmであった。また、キャビティに一方向性繊維強化テープを設置するに際しては、キャビティの幅×長さと同サイズとなるよう幅50mm、長さ100mmの一方向性繊維強化テープを幅方向に3枚並べて接着し、繊維が長さ方向と並行するようキャビティの厚さ方向両面に設置した。また、射出成形するに際し、一方向性繊維強化テープの位置や繊維が乱れないようにした。 【0143】 得られた一方向性繊維強化テープは、高い相対粘度、結晶化度を有しており、また、ボイド率が低く、生産性も実使用上問題ないレベルであった。また、得られた一方向性繊維強化テープを補強部材としたインサート成形体での強度、耐熱性および接着性とも実使用上問題ないレベルであった。」 イ 甲1-2先願発明 甲1-2先願明細書に記載された事項を、特に実施例1を用いて整理すると、甲1-2先願明細書等には次の発明が記載されていると認める。 「含浸ダイ204内でマトリックス樹脂(ポリアミド6(ガラス転移点:50℃、融点:215℃、相対粘度:1.60))206を含浸した強化繊維束(PAN系炭素繊維束(東レ(株)製T700SC-12K))201を、含浸ダイ204のノズルから1m/minの引き抜き速度で連続的に引き抜き、引取ロール207bにて引き抜かれた強化繊維束201は、冷却ロール207aを通過してマトリックス樹脂が冷却固化され、一方向性繊維強化テープ前駆体208aとして巻取機209にて巻き取られて得られた、厚さ0.3mm、幅50mmである一方向性繊維強化テープ前駆体208aを長さ100mmに切り取った後、加熱炉210内において、真空下、170℃で12時間の固相重合条件で固相重合を行い得られた、一方向性繊維強化テープ208b」(以下、「甲1-2材料先願発明」という。) 「含浸ダイ204内でマトリックス樹脂(ポリアミド6(ガラス転移点:50℃、融点:215℃、相対粘度:1.60))206を含浸した強化繊維束(PAN系炭素繊維束(東レ(株)製T700SC-12K))201を、含浸ダイ204のノズルから1m/minの引き抜き速度で連続的に引き抜き、引取ロール207bにて引き抜かれた強化繊維束201は、冷却ロール207aを通過してマトリックス樹脂が冷却固化され、一方向性繊維強化テープ前駆体208aとして巻取機209にて巻き取られて得られた、厚さ0.3mm、幅50mmである一方向性繊維強化テープ前駆体208aを長さ100mmに切り取った後、加熱炉210内において、真空下、170℃で12時間の固相重合条件で固相重合を行う、一方向性繊維強化テープ208bの製造方法。」(以下、「甲1-2製法先願発明」という。) 2 申立理由1-1(甲1-1を主引用文献とする新規性・進歩性)について (1)本件特許発明1について 本件特許発明1と甲1-1材料発明を対比する。 甲1-1材料発明の「炭素繊維6000本を集束してなる炭素繊維トウ(三菱レイヨン製パイロフィル TR40)を製織(9本/インチ経緯糸とも)してなる炭素繊維織布」は、本件特許発明1の「強化繊維」に相当する。甲1-1材料発明の「繊維強化熱可塑性樹脂シート材料」は、平坦なガラス板上にこれを26℃の室温中に40分放置し、硬化を行なっているから、本件特許発明1の「加熱及び加圧することで繊維強化樹脂成形体を成形するための繊維強化樹脂材料」に相当する。また、甲1-1材料発明の「重合平均分子量95000のメタクリル酸メチルホモポリマー19部、メタクリル酸メチル81部、硬化促進剤として、ジメチル-p-トルイジン0.8部からなるアクリル系樹脂混合液(B型粘度計、20℃、90センチポイズ)に硬化触媒として、ベンゾイルパーオキシドを樹脂液100部に対して、1重量部添加して調整した、常温硬化型アクリル系樹脂液」は、甲1-1の段落【0010】に、「本発明に用いる常温または加熱硬化性アクリル系樹脂は、メタクリル酸アルキルエステル及び/又はアクリル酸アルキルエステルとこれらに溶解する熱可塑性重合体を主成分とするアクリル系硬化性樹脂組成物であり、硬化触媒及び必要に応じて硬化促進剤を加えることにより、常温及び/又は加熱により硬化物を得ることができる。・・・得られた硬化物は、耐無機酸、耐有機酸、耐アルカリの耐薬品性、耐候性等に優れた特徴を持つ、成形性に優れた熱可塑性樹脂である。」と記載されていることから、本件特許発明1の「反応型樹脂」である「熱可塑性樹脂」に相当する。 そして、甲1-1材料発明は、「シート状物」を「長さ方向、巾方向に切断した厚み約0.35mmの薄片の端面を研磨して光学顕微鏡観察を行なったところ炭素繊維トウ中への樹脂の含浸は良好であった」ことから、「前記強化繊維の束の内部にまで前記熱可塑性樹脂が浸透している」ものと認められる。 そうすると、両者は、 「加熱及び加圧することで繊維強化樹脂成形体を成形するための繊維強化樹脂材料であって、 熱可塑性樹脂と強化繊維とを含み、 前記熱可塑性樹脂が反応型樹脂であり、 前記繊維強化樹脂材料の長さが300mmであり、 前記繊維強化樹脂材料の厚みが0.35mmであり、 前記強化繊維の束の内部にまで前記熱可塑性樹脂が浸透している 繊維強化樹脂材料。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点ア-1-1> 加熱及び加圧することで繊維強化樹脂成形体を成形するための繊維強化樹脂材料について、本件特許発明1は、「複数用いて」と特定されているのに対し、甲1-1材料発明はそのような特定がされていない点 <相違点ア-1-2> 強化繊維について、本件特許発明1が「一方向に配列された強化繊維の束」と特定されているのに対し、甲1-1材料発明は「炭素繊維6000本を集束してなる炭素繊維トウ(三菱レイヨン製パイロフィル TR40)を製織(9本/インチ経緯糸とも)してなる炭素繊維織布」である点 <相違点ア-1-3> 繊維強化樹脂材料の形状について、本件特許発明1が「短冊条、柱状、紐状、粒状、又は、チップ状」と特定されているのに対し、甲1-1材料発明はそのような特定がされていない点 <相違点ア-1-4> 熱可塑性樹脂について、本件特許発明1が「エポキシ樹脂であって、反応後にフェノキシ樹脂にな」るものであるのに対し、甲1-1材料発明は「アクリル系樹脂」である点 上記相違点について検討する。 事案に鑑み、<相違点ア-1-4>から検討する。 <相違点ア-1-4>は実質的な相違点であるから、本件特許発明1は甲1-1材料発明ではない。 また、甲1は、アクリル系樹脂を用いることを前提とした技術的事項しか開示されておらず、甲1-1材料発明において、アクリル系樹脂をエポキシ樹脂に代替する動機付けは、甲1及びその他の証拠にもない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1-1材料発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (2)本件特許発明3、4、6、8ないし12、14、15、17について 本件特許発明3、4、6、8ないし12、14、15、17は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲1-1材料発明であるとはいえないし、甲1-1材料発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3)本件特許発明18について 本件特許発明18と甲1-1製法発明とを対比する。 甲1-1製法発明の「メタクリル酸メチル」は、メタクリル酸メチルホモポリマーを溶解するもので、本件特許発明18の「溶剤」に相当し、甲1-1製法発明の「常温硬化型アクリル系樹脂液」は、本件特許発明18の「熱可塑性樹脂溶液」に相当する。そして、甲1-1製法発明の「常温硬化型アクリル系樹脂液を、間隙を0.35mmに設定したローラー7でさらに含浸を進め、300mm長に切断し、平坦なガラス板上にこれを26℃の室温中に40分放置し、硬化を行な」うことは、本件特許発明18の「強化繊維に、反応型の熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂溶液を付与した後、乾燥及び/又は熱処理を行」うことに相当する。 そうすると、両者は、 「加熱及び加圧することで繊維強化樹脂成形体を成形するための繊維強化樹脂成形体に用いられる繊維強化樹脂材料の製造方法であって、 強化繊維に、反応型の熱可塑性樹脂及び当該熱可塑性樹脂を溶解及び/又は分散するための溶剤を含む熱可塑性樹脂溶液を付与した後、乾燥及び/又は熱処理を行い、 前記繊維強化樹脂材料の長さが300mmであり、 前記繊維強化樹脂材料の厚みが0.35mmであり、 前記強化繊維の束の内部にまで前記熱可塑性樹脂が浸透している 繊維強化樹脂材料の製造方法。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点ア-18-1> 加熱及び加圧することで繊維強化樹脂成形体を成形するための繊維強化樹脂材料について、本件特許発明18は、「複数用いて」と特定されているのに対し、甲1-1製法発明はそのような特定がされていない点 <相違点ア-18-2> 強化繊維について、本件特許発明18が「一方向に配列された強化繊維の束」と特定されているのに対し、甲1-1製法発明は「炭素繊維6000本を集束してなる炭素繊維トウ(三菱レイヨン製パイロフィル TR40)を製織(9本/インチ経緯糸とも)してなる炭素繊維織布」である点 <相違点ア-18-3> 繊維強化樹脂材料の形状について、本件特許発明1が「短冊条、柱状、紐状、粒状、又は、チップ状」と特定されているのに対し、甲1-1製法発明はそのような特定がされていない点 <相違点ア-18-4> 熱可塑性樹脂について、本件特許発明1が「エポキシ樹脂であって、反応後にフェノキシ樹脂にな」るものであるのに対し、甲1-1製法発明は「アクリル系樹脂」である点 上記相違点について検討する。 事案に鑑み、<相違点ア-18-4>から検討するに、<相違点ア-18-4>は、上記(1)の<相違点ア-1-4>と同じである。 よって、本件特許発明1と同様の理由で、本件特許発明18は甲1-1製法発明であるとはいえないし、甲1-1製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (4)本件特許発明19について 本件特許発明19は、請求項18を直接引用するものであり、本件特許発明18の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明18と同様の理由で、甲1-1製法発明であるとはいえないし、甲1-1製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (5)申立理由1-1についてのむすび したがって、本件特許発明1、3、4、6、8ないし12、14、15、17ないし19は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、また、同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1、3、4、6、8ないし12、14、15、17ないし19に係る特許は、申立理由1-1によっては取り消すことはできない。 3 申立理由1-2(甲1-2に基づく拡大先願)について (1)本件特許発明1について 本件特許発明1と甲1-2材料先願発明を対比する。 甲1-2材料先願発明の「強化繊維束(PAN系炭素繊維束(東レ(株)製T700SC-12K))201」は、本件特許発明1の「一方向に配列された強化繊維の束」に相当する。甲1-2材料先願発明の「一方向性繊維強化テープ208b」は、当該テープを補強部材としてインサート成形を行っているから、本件特許発明1の「加熱及び加圧することで繊維強化樹脂成形体を成形するための繊維強化樹脂成形体に用いられる繊維強化樹脂材料」に相当する。 また、甲1-2材料先願発明の「マトリックス樹脂(ポリアミド6(ガラス転移点:50℃、融点:215℃、相対粘度:1.60))206」は、固相重合が行われ、高分子量化するものであるから、本件特許発明1の「反応型樹脂」である「熱可塑性樹脂」に相当する。 そして、甲1-2の段落【0078】に、「開繊された強化繊維束201は、含浸ダイ204内部に設けられたバーやロールで張力を与えられながら強化繊維束201を構成する単繊維が引き揃えられたり、進行方向に屈曲させながら、しごかれたりしながら、含浸ダイ204内を通過することで、溶融したマトリックス樹脂206が、強化繊維束201を構成する単繊維間にまで含浸される。」と記載されていることから、甲1-2材料先願発明も「前記強化繊維の束の内部にまで前記熱可塑性樹脂が浸透している」ものと認められる。 そうすると、両者は、 「加熱及び加圧することで繊維強化樹脂成形体を成形するための繊維強化樹脂成形体に用いられる繊維強化樹脂材料であって、 熱可塑性樹脂と一方向に配列された強化繊維の束とを含み、 前記熱可塑性樹脂が反応型樹脂であり、 前記繊維強化樹脂材料の長さが100mmであり、 前記繊維強化樹脂材料の厚みが0.3mmであり、 前記強化繊維の束の内部にまで前記熱可塑性樹脂が浸透している 繊維強化樹脂材料。」 の点で一致し、以下の点で一応相違する。 <相違点イ-1-1> 加熱及び加圧することで繊維強化樹脂成形体を成形するための繊維強化樹脂材料について、本件特許発明1は、「複数用いて」と特定されているのに対し、甲1-2材料先願発明はそのような特定がされていない点 <相違点イ-1-2> 繊維強化樹脂材料の形状について、本件特許発明1が「短冊条、柱状、紐状、粒状、又は、チップ状」と特定されているのに対し、甲1-2材料先願発明はそのような特定がされていない点 <相違点イ-1-3> 熱可塑性樹脂について、本件特許発明1が「エポキシ樹脂であって、反応後にフェノキシ樹脂にな」るものであるのに対し、甲1-2材料先願発明は「ポリアミド6」である点 上記相違点について検討する。 事案に鑑み、<相違点イ-1-3>から検討する。 甲1-2先願明細書等には、ポリアミドを用いることを前提とした技術的事項しか開示されておらず、甲1-2材料先願発明において、ポリアミド6をエポキシ樹脂に代替することは、課題解決のための具体化手段における微差ともいえない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1-2材料先願発明と同一ないし実質同一ともいえない。 (2)本件特許発明3、4、6ないし10、12、14、15について 本件特許発明3、4、6ないし10、12、14、15は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲1-2材料先願発明と同一ないし実質同一であるともいえない。 (3)本件特許発明18について 本件特許発明18と甲1-2製法先願発明を対比すると、本件特許発明1と同様、両者は、 「加熱及び加圧することで繊維強化樹脂成形体を成形するための繊維強化樹脂成形体に用いられる繊維強化樹脂材料の製造方法であって、 一方向に配列された強化繊維の束に反応型の熱可塑性樹脂を付与し、 前記繊維強化樹脂材料の長さが100mmであり、 前記繊維強化樹脂材料の厚みが0.3mmであり、 前記強化繊維の束の内部にまで前記熱可塑性樹脂が浸透している 繊維強化樹脂材料。」 の点で一致し、以下の点で一応相違する。 <相違点イ-18-1> 加熱及び加圧することで繊維強化樹脂成形体を成形するための繊維強化樹脂材料について、本件特許発明18は、「複数用いて」と特定されているのに対し、甲1-2製法先願発明はそのような特定がされていない点 <相違点イ-18-2> 繊維強化樹脂材料の形状について、本件特許発明18が「短冊条、柱状、紐状、粒状、又は、チップ状」と特定されているのに対し、甲1-2製法先願発明はそのような特定がされていない点 <相違点イ-18-3> 熱可塑性樹脂について、本件特許発明18が「エポキシ樹脂であって、反応後にフェノキシ樹脂にな」るものであるのに対し、甲1-2製法先願発明は「ポリアミド6」である点 <相違点イ-18-4> 反応型の熱可塑性樹脂を付与する事項について、本件特許発明18が「反応型の熱可塑性樹脂及び当該熱可塑性樹脂を溶解及び/又は分散するための溶剤を含む熱可塑性樹脂溶液を付与した後、乾燥及び/又は熱処理を行い」と特定されているのに対し、甲1-2製法先願発明はそのような特定がされていない点 上記相違点について検討する。 事案に鑑み、<相違点イ-18-3>から検討するに、<相違点イ-18-3>は、上記(1)の<相違点イ-1-3>と同じである。 よって、本件特許発明1と同様の理由で、本件特許発明18は甲1-2材料先願発明と同一ないし実質同一ともいえない。 (3)申立理由1-2についてのむすび したがって、本件特許発明1、3、4ないし10、12、14、15及び18は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1、3、4ないし10、12、14、15及び18に係る特許は、申立理由1-2によっては取り消すことはできない。 3 申立理由2-1(甲2-1を主引用文献とする新規性)のうち本件特許発明3、5、10ないし12について 本件特許発明3、5、10ないし12は、請求項1を直接又は間接的に引用 するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、本件特許発明3、5、10ないし12は甲2-1材料発明であるとはいえない。 したがって、本件特許発明3、5、10ないし12は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項3、5、10ないし12に係る特許は、申立理由2-1によっては取り消すことはできない。 第7 結語 上記第5及び6のとおり、本件特許の請求項1及び3ないし12、並びに14ないし19に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1及び3ないし12、並びに14ないし19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、本件特許の請求項2及び13に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人による請求項2及び13に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2020-700883

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