特許異議申立
2021-700680
インクジェット印刷人工皮革及び加飾成形体
- 審判番号
- 2021-700680
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-021687
- 登録番号
- 6817837
- 請求日
- 2021年07月14日
- 審決日
- 2022年05月18日
- 公報発行日
- 2022年08月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社クラレ
- 【権利者代理人】江川 勝
- 【権利者代理人】古川 通子
- 【権利者】小松マテーレ株式会社
- 【権利者代理人】江川 勝
- 【権利者代理人】古川 通子
- 【異議申立人】高橋 和秀
- 審判長/審判官
- 審判長 藤原 直欣
- 審判官 藤井 眞吾
- 審判官 久保 克彦
- 分類
- P1651.113-YAA(D06N) / P1651.121-YAA(D06N) / P1651.537-YAA(D06N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項、特許法第135条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6817837号発明「インクジェット印刷人工皮革及び加飾成形体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
特許第6817837号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、8〕、〔3~7、9〕、10、11、12、13について訂正することを認める。
特許第6817837号の請求項3~7、9~13に係る特許を維持する。
特許第6817837号の請求項1、2、8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
第1 手続の経緯
特許第6817837号(以下「本件特許」という。)の請求項1~9に係る特許についての出願は、平成29年2月8日の出願であって、令和3年1月4日にその特許権の設定登録がされ、同年1月20日に特許掲載公報が発行された。
本件特許についての特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和3年7月14日 :特許異議申立人高橋和秀(以下「申立人」という。)による特許異議の申立て
同年11月12日付け :取消理由通知書
令和4年1月7日 :特許権者による意見書の提出及び訂正請求(以下「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)
同年2月24日 :申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
本件訂正請求は、特許第6817837号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~13について訂正することを求める、というものであって、その内容は以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に
「前記インクジェット印刷された前記起毛面のL*a*b*表色系に基づくL*値が最も低い色の部分のL*値(L*a)と前記インクジェット印刷されていない部分のL*値(L*b)との明度差ΔL*(L*b-L*a)が50以下である請求項1または2に記載のインクジェット印刷人工皮革。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、
「不織布と前記不織布の内部に付与された高分子弾性体とを含む人工皮革基材を含み、
前記人工皮革基材は全体が着色されており、且つ、インクジェット印刷された起毛面を有し、
前記インクジェット印刷された前記起毛面のL*a*b*表色系に基づくL*値が最も低い色の部分のL*値(L*a)と前記インクジェット印刷されていない部分のL*値(L*b)との明度差ΔL*(L*b-L*a)が50以下である、インクジェット印刷人工皮革。」に訂正する。
(4)訂正事項4
(4-1)訂正事項4-1
特許請求の範囲の請求項4に
「前記L*値(L*b)が80以下である請求項1~3の何れか1項に記載のインクジェット印刷人工皮革。」と記載されているのを、引用する請求項について、
「前記L*値(L*b)が80以下である請求項3に記載のインクジェット印刷人工皮革。」に訂正する。
(4-2)訂正事項4-2
特許請求の範囲の請求項4に
「前記L*値(L*b)が80以下である請求項1~3の何れか1項に記載のインクジェット印刷人工皮革。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、
「不織布と前記不織布の内部に付与された高分子弾性体とを含む人工皮革基材を含み、
前記人工皮革基材は全体が着色されており、且つ、インクジェット印刷された起毛面を有し、
前記インクジェット印刷されていない部分のL*a*b*表色系に基づくL*値(L*b)が80以下である、インクジェット印刷人工皮革。」と記載し、新たに請求項10とする。
(4-3)訂正事項4-3
特許請求の範囲の請求項4に
「前記L*値(L*b)が80以下である請求項1~3の何れか1項に記載のインクジェット印刷人工皮革。」とあるうち、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を引用するものについて、独立形式に改め、
「不織布と前記不織布の内部に付与された高分子弾性体とを含む人工皮革基材を含み、
前記人工皮革基材は全体が着色されており、且つ、インクジェット印刷された起毛面を有し、
前記人工皮革基材は、前記高分子弾性体に付着した無機顔料で着色されており、
前記インクジェット印刷された前記起毛面のL*a*b*表色系に基づくL*値が最も低い色の部分のL*値(L*a)と前記インクジェット印刷されていない部分のL*値(L*b)との明度差ΔL*(L*b-L*a)が50以下であり、
前記L*値(L*b)が80以下である、インクジェット印刷人工皮革。」と記載し、新たに請求項11とする。
(5)訂正事項5
(5-1)訂正事項5-1
特許請求の範囲の請求項5に
「前記L*値(L*a)が50以下である請求項1~4の何れか1項に記載のインクジェット印刷人工皮革。」と記載されているのを、引用する請求項について、
「前記L*値(L*a)が50以下である請求項3または4に記載のインクジェット印刷人工皮革。」に訂正する。
(5-2)訂正事項5-2
特許請求の範囲の請求項5に
「前記L*値(L*a)が50以下である請求項1~4の何れか1項に記載のインクジェット印刷人工皮革。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、
「不織布と前記不織布の内部に付与された高分子弾性体とを含む人工皮革基材を含み、
前記人工皮革基材は全体が着色されており、且つ、インクジェット印刷された起毛面を有し、
前記インクジェット印刷された前記起毛面のL*a*b*表色系に基づくL*値が最も低い色の部分のL*値(L*a)が50以下である、インクジェット印刷人工皮革。」と記載し、新たに請求項12とする。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に
「前記不織布は、平均繊度0.1~0.8dtexの極細繊維を含む請求項1~5の何れか1項に記載のインクジェット印刷人工皮革。」と記載されているのを、引用する請求項について、
「前記不織布は、平均繊度0.1~0.8dtexの極細繊維を含む請求項3~5の何れか1項に記載のインクジェット印刷人工皮革。」に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に
「前記起毛面は平均立毛長30~100μmの前記不織布から起毛された繊維を有する請求項1~6の何れか1項に記載のインクジェット印刷人工皮革。」と記載されているのを、引用する請求項について、
「前記起毛面は平均立毛長30~100μmの前記不織布から起毛された繊維を有する請求項3~6の何れか1項に記載のインクジェット印刷人工皮革。」に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8を削除する。
(9)訂正事項9
(9-1)訂正事項9-1
特許請求の範囲の請求項9に
「請求項1~8の何れか1項に記載のインクジェット印刷人工皮革と、前記インクジェット印刷人工皮革を樹脂成形体に積層一体化したことを特徴とする加飾成形体。」と記載されているのを、
「請求項3~7の何れか1項に記載のインクジェット印刷人工皮革を樹脂成形体に積層一体化したことを特徴とする加飾成形体。」に訂正する。
(9-2)訂正事項9-2
特許請求の範囲の請求項9に
「請求項1~8の何れか1項に記載のインクジェット印刷人工皮革と、前記インクジェット印刷人工皮革を樹脂成形体に積層一体化したことを特徴とする加飾成形体。」とあるうち、請求項1を引用する請求項5を引用するものについて、独立形式に改め、
「インクジェット印刷人工皮革を樹脂成形体に積層一体化した加飾成形体であり、
前記インクジェット印刷人工皮革が、
不織布と前記不織布の内部に付与された高分子弾性体とを含む人工皮革基材を含み、
前記人工皮革基材は全体が着色されており、且つ、インクジェット印刷された起毛面を有し、
前記インクジェット印刷された前記起毛面のL*a*b*表色系に基づくL*値が最も低い色の部分のL*値(L*a)が50以下である、加飾成形体。」と記載し、新たに請求項13とする。
(10)一群の請求項、別の訂正単位とする求め
本件訂正前の請求項2~9は、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用するものであって、請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものである。
また、特許権者は、訂正後の請求項3~7、9~13については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている。
2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1、2、8について
訂正事項1、2、8は、それぞれ本件訂正前の請求項1、2、8を削除するものであり、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1、2、8は、請求項を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものである。
(2)訂正事項3について
訂正事項3は、本件訂正前の請求項3が請求項1または2の記載を引用するものであるところ、請求項2の記載を引用しないものとした上で、請求項1を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消して独立形式に改めたものであるから、「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。
また、訂正事項3は、引用する請求項数を削減し、請求項間の引用関係を解消して、独立形式へ改めるためのものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものである。
(4)訂正事項4について
(訂正事項4-1)
訂正事項4-1は、本件訂正前の請求項4が請求項1~3の記載を引用するものであるところ、訂正事項1及び2で請求項1及び2が削除されたことに伴い、引用する請求項を整合させるために、引用する請求項の数を減少させるものであって、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項4-1は、請求項1及び2が削除されたことに伴い、引用する請求項の数を減少させるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものである。
(訂正事項4-2)
訂正事項4-2は、本件訂正前の請求項4が請求項1~3の何れか1項の記載を引用するものであるところ、請求項2~3の記載を引用しないものとした上で、請求項1を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消して独立形式に改め、「前記L*値(L*b)」がどの「L*値(L*b)」を指すのか不明であったものを、請求項3に記載されていた「L*値(L*b)」の定義を記載し、新たに項番を付したものであるから、「明瞭でない記載の釈明」、「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。
また、訂正事項4-2は、引用する請求項数を削減し、請求項間の引用関係を解消して、独立形式へ改め、特許請求の範囲に記載されていた「L*値(L*b)」の定義を記載したものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものである。
(訂正事項4-3)
訂正事項4-3は、本件訂正前の請求項4のうち、請求項1~3の記載を全て引用するものについて、請求項間の引用関係を解消して独立形式に改め、新たに項番を付したものであるから、「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。
また、訂正事項4-3は、引用する請求項数を削減し、請求項間の引用関係を解消して、独立形式へ改めるためのであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものである。
(5)訂正事項5について
(訂正事項5-1)
訂正事項5-1は、本件訂正前の請求項5が請求項1~4の何れか1項の記載を引用するものであるところ、訂正事項1及び2で請求項1及び2が削除されたことに伴い、引用する請求項を整合させるために、引用する請求項の数を減少させるものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項5-1は、請求項が削除されたことに伴い、引用する請求項の数を減少させるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものである。
(訂正事項5-2)
訂正事項5-2は、本件訂正前の請求項5が請求項1~4の記載を引用するものであるところ、訂正事項1で請求項1が削除されたことに伴い、請求項1を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消して独立形式に改めたものについて、「前記L*値(L*b)」がどの「L*値(L*b)」を指すのか不明であったものを、請求項3に記載されていた「L*値(L*b)」の定義を記載し、新たに項番を付したものであるから、「明瞭でない記載の釈明」、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。
また、訂正事項5-2は、引用関係がある請求項の記載を、当該請求の記載を引用しない形へ書き替え、特許請求の範囲に記載されていた「L*値(L*b)」の定義を記載したものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものである。
(6)訂正事項6について
訂正事項6は、本件訂正前の請求項6が請求項1~5の記載を引用するものであるところ、訂正事項1及び2で請求項1及び2が削除されたことに伴い、請求項6が引用する請求項の数を減らすものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項6は、請求項が削除されたことに伴い、引用する請求項の数を減少させるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものである。
(7)訂正事項7について
訂正事項7は、本件訂正前の請求項7が請求項1~6の記載を引用するものであるところ、訂正事項1及び2で請求項1及び2が削除されたことに伴い、請求項7が引用する請求項の数を減らすものであって、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項7は、請求項が削除されたことに伴い、引用する請求項の数を減少させるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものである。
(8)訂正事項9について
(訂正事項9-1)
訂正事項9-1は、本件訂正前の請求項9が請求項1~8の記載を引用するものであるところ、訂正事項1、2及び8で請求項1、2及び8が削除されたことに伴い、請求項9が引用する請求項の数を減らすものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項9-1は、請求項が削除されたことに伴い、引用する請求項の数を減少させるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものである。
(訂正事項9-2)
訂正事項9-2は、本件訂正前の請求項9が請求項1~8の記載を引用するものであるところ、訂正事項1で請求項1が削除されたことに伴い、請求項1を引用する請求項5を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消して独立形式に改めたものについて、「前記L*値(L*b)」がどの「L*値(L*b)」を指すのか不明であったものを、請求項3に記載されていた「L*値(L*b)」の定義を記載し、新たに項番を付したものであるから、「明瞭でない記載の釈明」、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。
また、訂正事項9-2は、引用関係がある請求項の記載を、当該請求の記載を引用しない形へ書き替え、特許請求の範囲に記載されていた「L*値(L*b)」の定義を記載したものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものである。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、8〕、〔3~7、9〕、10、11、12、13について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
上記第2のとおり、本件訂正が認められたので、本件特許の請求項3~7、9~13に係る発明(以下、それぞれ「本件発明3」等という。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項3~7、9~13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項3】
不織布と前記不織布の内部に付与された高分子弾性体とを含む人工皮革基材を含み、
前記人工皮革基材は全体が着色されており、且つ、インクジェット印刷された起毛面を有し、
前記インクジェット印刷された前記起毛面のL*a*b*表色系に基づくL*値が最も低い色の部分のL*値(L*a)と前記インクジェット印刷されていない部分のL*値(L*b)との明度差ΔL*(L*b-L*a)が50以下である、インクジェット印刷人工皮革。
【請求項4】
前記L*値(L*b)が80以下である請求項3に記載のインクジェット印刷人工皮革。
【請求項5】
前記L*値(L*a)が50以下である請求項3または4に記載のインクジェット印刷人工皮革。
【請求項6】
前記不織布は、平均繊度0.1~0.8dtexの極細繊維を含む請求項3~5の何れか1項に記載のインクジェット印刷人工皮革。
【請求項7】
前記起毛面は平均立毛長30~100μmの前記不織布から起毛された繊維を有する請求項3~6の何れか1項に記載のインクジェット印刷人工皮革。」
「【請求項9】
請求項3~7の何れか1項に記載のインクジェット印刷人工皮革を樹脂成形体に積層一体化したことを特徴とする加飾成形体。
【請求項10】
不織布と前記不織布の内部に付与された高分子弾性体とを含む人工皮革基材を含み、
前記人工皮革基材は全体が着色されており、且つ、インクジェット印刷された起毛面を有し、
前記インクジェット印刷されていない部分のL*a*b*表色系に基づくL*値(L*b)が80以下である、インクジェット印刷人工皮革。
【請求項11】
不織布と前記不織布の内部に付与された高分子弾性体とを含む人工皮革基材を含み、
前記人工皮革基材は全体が着色されており、且つ、インクジェット印刷された起毛面を有し、
前記人工皮革基材は、前記高分子弾性体に付着した無機顔料で着色されており、
前記インクジェット印刷された前記起毛面のL*a*b*表色系に基づくL*値が最も低い色の部分のL*値(L*a)と前記インクジェット印刷されていない部分のL*値(L*b)との明度差ΔL*(L*b-L*a)が50以下であり、
前記L*値(L*b)が80以下である、インクジェット印刷人工皮革。
【請求項12】
不織布と前記不織布の内部に付与された高分子弾性体とを含む人工皮革基材を含み、
前記人工皮革基材は全体が着色されており、且つ、インクジェット印刷された起毛面を有し、
前記インクジェット印刷された前記起毛面のL*a*b*表色系に基づくL*値が最も低い色の部分のL*値(L*a)が50以下である、インクジェット印刷人工皮革。
【請求項13】
インクジェット印刷人工皮革を樹脂成形体に積層一体化した加飾成形体であり、
前記インクジェット印刷人工皮革が、
不織布と前記不織布の内部に付与された高分子弾性体とを含む人工皮革基材を含み、
前記人工皮革基材は全体が着色されており、且つ、インクジェット印刷された起毛面を有し、
前記インクジェット印刷された前記起毛面のL*a*b*表色系に基づくL*値が最も低い色の部分のL*値(L*a)が50以下である、加飾成形体。」
第4 取消理由通知書に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1、2、6~9に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した令和3年11月12日付けの取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)取消理由1(サポート要件)
請求項8には、インクジェット印刷済みの「インクジェット印刷人工皮革」の「乾熱収縮率」及び「20%強力」が規定されているが、本件明細書において「乾熱収縮率」及び「20%強力」は、インクジェット印刷する前の「人工皮革基材」の物性として記載されたものであるから、請求項8、及び請求項8を引用する請求項9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
(2)取消理由2(新規性)
請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。
(3)取消理由3(進歩性)
請求項1、2、6、7、9に係る発明は、引用文献1~6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
引用文献1:特開2004-308044号公報(甲第1号証)
引用文献2:特開昭54-147901号公報 (甲第2号証)
引用文献3:特開2004-143654号公報(甲第3号証)
引用文献4:特開平3-69631号公報 (甲第4号証)
引用文献5:特開昭61-231286号公報 (甲第5号証)
引用文献6:特開2014-181414号公報(甲第6号証)
2 当審の判断
(1)取消理由1(サポート要件)について
本件訂正により、請求項8、及び請求項8を引用する請求項9は削除されたから、サポート要件の取消理由1の対象となった請求項は存在しないものとなった。
(2)取消理由2(新規性)、取消理由3(進歩性)について
本件訂正後の請求項3~7、9~13に係る発明は、新規性、進歩性の取消理由の対象となっていない本件訂正前の請求項3~5に係る発明の発明特定事項の少なくともいずれか1つを備えるものとなったため、新規性、進歩性の取消理由の対象となった請求項は存在しないものとなった。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由の概要
本件特許異議の申立ての申立て理由のうち、取消理由通知に採用しなかったものは、概略以下のとおりである。
(1)新規性
請求項1を引用する請求項6に係る発明は、引用文献1(甲第1号証)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。
(3)進歩性
ア 請求項8は、甲第1号証(引用文献1)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
イ 請求項3~5、8、及び請求項6、7、9(請求項3~5を引用するもの)は、甲第2号証(引用文献2)に記載された発明、甲第4号証(引用文献4)に記載された発明及び甲第5号証(引用文献5)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
ウ 請求項3~5、8、及び請求項6、7、9(請求項3~5を引用するもの)は、甲第3号証(引用文献3)に記載された発明、甲第4号証(引用文献4)に記載された発明及び甲第5号証(引用文献5)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 引用文献に記載された事項
(1)引用文献1に記載された事項、引用発明1
引用文献1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は強調のために当審が付した。
「【請求項1】
極細繊維が絡合し高分子弾性体が含浸され、立毛、染色処理された繊維立毛人工皮革であって、その厚み方向に対して色調変化があることを特徴とする立毛人工皮革。
・・・
【請求項4】
厚み方向全体が染色されていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の立毛人工皮革。
【請求項5】
極細繊維の繊度が0.0001dtex以上、0.9dtex以下であることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の立毛人工皮革。」
「【0015】
本発明の立毛人工皮革は、極細繊維が絡合し高分子弾性体が含浸され、立毛、染色処理され、その厚み方向に対して色調変化があることを特徴とするものである。」
「【0022】
第1番目には、人工皮革の厚み方向全体に対する染色が施され、さらに表面立毛部側に偏った染色が施されているものが挙げられる。この場合、経年使用に伴い、表面立毛側の染色カラーから厚み方向全体に対する染色カラーへ変化をもたらす。」
「【0028】
本発明の立毛人工皮革を構成する極細繊維の繊度は、0.0001dtex以上、0.9dtex以下であることが好ましい。極細短繊維の繊度が0.9dtexより高いと、表面タッチがざらつき、外観が低品位となるため好ましくない。また、繊度が0.0001dtexより低いと、繊維強度が低くなり、毛羽落ちが増加したり、染色における発色性低下の問題もあるため好ましくない。」
「【0030】
本発明の立毛人工皮革は、前述の如くに、表面もしくは裏面に偏った染色が施されていることが実際的で好ましいものである。
【0031】
これを実現するためは捺染処理を利用することが好適であり、例えば、ローラー捺染、スクリーン捺染、インクジェット方式捺染、昇華捺染、真空昇華捺染などを利用することが可能である。」
「【0036】
以上に説明したように、本発明の人工皮革は、例えば以下のような加工法により製造することが可能なものである。
【0037】
すなわち、例えば、ポリスチレンを海成分・ポリエステルを島成分とする複合繊維を海島紡糸法により紡糸し、捲縮付与・カット処理にて短繊維とし、この短繊維をカーディングマシン、クロスラッパーを用いてウェッブシートとした後、ニードルパンチングなどによる繊維絡合処理を行うことによって得られたフェルトに、繊維極細化処理、高分子弾性体付与し、更に厚さを1/2などにするスライスを行い、さらにバフィングすることなどにより人工皮革基布とする。
【0038】
得られた基布について、液流染色機で厚み方向全体に対する染色および還元洗浄の処理を行い、テンターで乾燥セットする。その後、昇華捺染装置で表面立毛部側を捺染することにより、表面立毛部側に偏った染色を施し、液流染色機で還元洗浄、テンターで乾燥セットを施すことにより目的の人工皮革を得ることができる。」
「【0039】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例1
島成分としてポリエチレンテレフタレート、海成分としてポリスチレンからなる成分比80/20、島数16の2成分系海島型複合繊維を溶融紡糸法にて作り、延伸、捲縮付与、カット処理を行うことにより、島繊度0.2dtexの海島型複合繊維を得た。この原綿を用い、カーディングおよびクロスラッパーにて繊維積層ウェブとし、2000本/cm2のニードルパンチを施すことにより目付650g/m2の短繊維よりなるフェルトを作製した。かくして得られたシートを極細化し、ポリウレタンをシート重量に対し32%付与したものを、スライス後起毛処理し、厚み0.85mmの基材(人工皮革原反布帛)を得た。
【0040】
本基材を用い、液流染色機を使用した常法で、分散染料にて黄色に液中染色した後、その立毛表面にブルーの昇華染料を用いて真空昇華捺染を施した。本加工後の厚みは1.0mmであった。また製品立毛表面はブルーを呈していた。光学顕微鏡にてその断面を観察したところ、0.4mmまでブルーの染色が確認できた。
【0041】
そのサンプルをJIS-1096-E法に準じて、荷重12kPa、20000回のマーチンデール摩擦処理を施した。その摩擦後の摩擦部分と未摩擦部分の間でJIS L0804-変退色用グレースケールに準じて変退色を測定すると摩擦前4級/摩擦後3級であり、グレースケールの差が1級であった。摩擦部は緑味をおび、未摩擦部はブルーであるという新規な色調感が感じられるものであった。
実施例2
実施例1と同様の基材に対し、立毛表面側からブルーの昇華染料を用いて真空昇華捺染を施した。その立毛表面はブルーを呈していた。光学顕微鏡にて観察したところ、0.4mmまでブルーの染色が確認できた。
【0042】
本サンプルに対し実施例1同様の摩擦処理を施し、変退色を測定したところ、摩擦前4級/摩擦後2.5級であり、グレースケールの差が1.5級であった。摩擦部は水色味を帯び、未摩擦部はブルーであるという新規な色調感が感じられるものであった。
実施例3
島成分としてポリエチレンテレフタレート、海成分としてポリスチレンからなる成分比55/45、島数32の2成分系海島型複合繊維を溶融紡糸法にて作り、延伸、捲縮付与、カット処理を行うことにより、島繊度0.04dtexの海島型複合繊維を得た。この原綿を用い、カーディングおよびクロスラッパーにて繊維積層ウェブとし、2000本/cm2のニードルパンチを施すことにより目付600g/m2の短繊維よりなるフェルトを作製した。かくして得られたシートを極細化し、ポリウレタンをシート重量に対し27%付与したものを、スライス後起毛処理し、厚み0.45mmの基材を得た。本基材を用い、液流染色機を使用した常法で、分散染料にて黄色に液中染色した後、その立毛裏面側からブルーの昇華染料を用いて真空昇華捺染を施した。
【0043】
本加工後の製品厚みは0.6mmであった。また製品立毛表面は黄色、裏面はブルーを呈していた。光学顕微鏡にてその断面を観察したところ、裏面から0.3mmまでブルー系の染色が確認できた。
本サンプルに対し実施例1と同様の摩擦処理/変退色測定を実施したところ、摩擦前2.5級/摩擦後3.5級であり、グレースケールの差が1級であった。摩擦部は黄緑味を帯び、表面は黄味であるという新規な色調感が感じられるものであった。
実施例4
実施例3の基材に対し、立毛裏面側からブルーの昇華捺染処理のみを施した。立毛面は白色、裏面はブルーを呈していた。光学顕微鏡にてその断面を観察したところ、裏面から0.3mmまでブルーの染色が確認できた。本サンプルに対し実施例1と同様の摩擦処理/変退色測定を実施したところ、摩擦前1級/摩擦後2級であり、グレースケールの差が1級であった。摩擦部は水色味を帯び、未摩擦部は白色であるという新規な色調感が感じられるものであった。」
以上の摘記事項を総合すると、引用文献1には、次の発明が記載されている(以下「引用発明1」という)。
「ポリスチレンを海成分・ポリエステルを島成分とする複合繊維を海島紡糸法により紡糸し、捲縮付与・カット処理にて短繊維とし、この短繊維をカーディングマシン、クロスラッパーを用いてウェッブシートとした後、ニードルパンチングなどによる繊維絡合処理を行うことによって得られたフェルトに、繊維極細化処理、高分子弾性体付与して製造された人工皮革基布について、液流染色機で厚み方向全体に対する染色を行い、その後、インクジェット方式捺染を含む捺染処理で表面立毛部側を捺染することにより得られた人工皮革であって、
立毛人工皮革を構成する極細繊維の繊度が、0.0001dtex以上、0.9dtex以下である人工皮革。」
(2)引用文献2に記載された事項、引用発明2
引用文献2には、以下の事項が記載されている。
ア「(1)主としてポリエステル繊維よりなる立毛を有する不織布に、含浸用樹脂を、不織布と樹脂の乾燥重量比率が90:10~50:50の範囲になるような量含浸・凝固させて立毛を有する多孔性基体層を作成し、
(2)該基体層に、顔料およびバインダー樹脂を主体とする、粘度が20℃で5~200CPSで固形分濃度が0.1~8重量%の水系塗料を含浸し、絞り率が60~120%となるよりに絞液して着色基体層を作成し、次いで
(3)該着色基体層の立毛表面に、顔料およびバインダー樹脂を主体とする、粘度が20℃で100~30,000CPSで固形分濃度が5~60重量%の水系塗料を、塗布量が固形分で1~10g/m2となるような量塗布することを特徴とするベロア調人工皮革の製造方法。」(特許請求の範囲)
イ「塗料を含浸する方法の場合は、基体層は内部まで均一に着色されるが、合成繊維よりなる表面毛羽の着色濃度が薄いため白ぼけた色になり商品価値のないものとなるという欠点があった。」(2ページ左上欄5~9行)
ウ「繊維のデニールは0.01~1.5デニールの範囲のものが好ましい。
本発明において使用される含浸用樹脂としては、ポリウレタンエラストマー、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリアクリル酸樹脂などがある。」(2ページ左下欄5~10行)
エ「立毛を有する多孔性基体層に水系塗料が含浸せしめられる。水系塗料は顔料とバインダー樹脂が主体であり、顔料としては水系樹脂中に分散する様加工されたものであれば有機系、無機系いずれでも使用出来る。」(第2ページ右下欄8~13行)
オ「本発明によれば、内部まで均一に着色され、色の深み、色の堅牢度、表面外観共にすぐれたベロア調人工皮革を製造する事ができる。」(3ページ右上欄13~15行)
カ「実施例1
・・・立毛を有する多孔性基体層を得た。
この基体層は、以下の組成の水系塗料で含侵せしめられ、絞り率100%で絞液された後、120℃で5分間乾燥され着色基体層とされた。
・・・
得られた着色基体層の立毛表面に、以下の組成の水系塗料(容積で3倍に機械発泡させたもの)がナイフロールコーターを用いて固形分で3g/m2量塗布され、120℃で3分間乾燥された。
・・・
得られたベロア調人工皮革は、色の濃い深みのある赤に着色され、立毛表面、切り口、裏面共に同系統の色に着色されており商品価値の高いものであった。」(3ページ左下欄5行~4ページ左上欄18行)
以上の摘記事項を総合すると、引用文献2には、次の発明が記載されている(以下「引用発明2」という)。
「立毛を有する不織布に、ポリウレタンエラストマー、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリアクリル酸樹脂などの含浸用樹脂を含浸・凝固させた立毛を有する多孔性基体層に、顔料およびバインダー樹脂を主体とする水系塗料を含浸して作成した着色基体層と、水系塗料が塗布された着色基体層の立毛表面を有する人工皮革であって、
顔料は、水系樹脂中に分散するよう加工された無機系であり、
繊維のデニールは0.01~1.5デニールの範囲であり、
内部まで均一に着色されたベロア調人工皮革。」
(3)引用発明3に記載された事項、引用発明3
引用文献3には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
0.2デシテックス以下の極細繊維からなる3次元絡合体と高分子弾性体Aからなるスエード調人工皮革であって、下記(1)~(4)
(1)3次元絡合体が平均粒径0.01~0.3μmの有機系顔料及び平均粒径0.01~0.3μmのカーボンブラックから選ばれた少なくとも一の顔料Aを0~8質量%含有していること、
(2)高分子弾性体Aが平均粒径0.05~0.6μmの有機系顔料及び平均粒径0.05~0.6μmのカーボンブラックから選ばれた少なくとも一の顔料、もしくは、有機系顔料を含む平均粒径0.05~0.6μmの顔料粒子を顔料Bとして1~20質量%含有していること、
(3)高分子弾性体Aと3次元絡合体の質量比が15:85~60:40であること、
(4)表面に存在する極細繊維の平均立毛長が10~200μmであること、
を満足することを特徴とするスエード調人工皮革。
・・・
【請求項9】
顔料Cを高分子弾性体Bに対して0.5~25質量%含有する高分子弾性体Bからなる層が、立毛繊維の根元付近の表面に連続又は非連続の状態で存在している請求項1~8のいずれか1項に記載のスエード調人工皮革。
・・・
【請求項13】
0.2デシテックス以下の極細繊維からなる3次元絡合体と高分子弾性体からなるスエード調人工皮革を製造するに際し、下記のI~IIIの工程、
I.平均粒径0.01~0.3μmの有機系顔料及び平均粒径0.01~0.3μmのカーボンブラックから選ばれた少なくとも一の顔料Aを0~8質量%含有し極細繊維となる水難溶性の熱可塑性成分、および水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系共重合体成分からなる極細繊維発生型繊維から構成された繊維絡合不織布を製造する工程、
II.水分散高分子弾性体、および、顔料Bとして、平均粒径0.05~0.6μmの水分散有機系顔料及び平均粒径0.05~0.6μmの水分散カーボンブラックから選ばれた少なくとも一の水分散顔料、もしくは有機系顔料を含む平均粒径0.05~0.6μmの水分散顔料粒子を水分散高分子弾性体に対して1~20質量%含有する高分子弾性体分散液を、該水分散高分子弾性体に由来する高分子弾性体と3次元絡合体の質量比が15:85~60:40となるよう繊維絡合不織布の内部に付与する工程、
III.水溶液で水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系共重合体成分を抽出除去することにより、極細繊維発生型繊維を0.2デシテックス以下の極細繊維にする工程、
を行うことを特徴とするスエード調人工皮革の製造方法。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記諸問題を解決し、幅広い色調において、発色性および耐光堅牢性などの堅牢性が良好で、スエード感、表面タッチ、風合い、および力学物性や各種堅牢性が良好な高級感のあるスエード調人工皮革、および該スエード調人工皮革を用いた、半銀付調人工皮革、銀付調人工皮革に関するものである。」
「【0023】
本発明のスエード調人工皮革は、表面に存在する極細繊維の平均立毛長を10~200μmにすることが必要である。極細繊維の平均立毛長が200μmを超える場合には、得られるスエード調人工皮革において、繊維の下地にあたる高分子弾性体を完全に覆い隠してしまい高分子弾性体中の顔料の発色性が妨げられ、繊維の色調が強調され過ぎてバラエティーに富んだ色調を揃えることが困難となる。逆に、極細繊維の平均立毛長が10μm未満である場合には、繊維と高分子弾性体の色斑が目立ち、またスエード感や表面タッチに劣ったものとなる傾向がある。また、極細繊維の平均立毛繊維長を調節することで、スエード感や表面タッチ等、更には色調を調節することが可能であり、例えば、スエード調とするには50~200μm、短毛のヌバック調とするには10~100μmが好ましい。また、平均立毛繊維長を長くすると、繊維の色調に近くなり、逆に、平均立毛繊維長を短くすると、高分子弾性体の色調が強くなる傾向となる。」
「【0054】
必要に応じて、顔料Cを0.5~25質量%含有する高分子弾性体Bからなる層を立毛繊維の根元付近の表面に連続又は非連続の状態で付与することが、得られるスエード調人工皮革の色調、発色性および表面感や表面物性を容易に調節できる点で好適な例として挙げられる。・・・繊維絡合不織布や極細繊維絡合体の表層に付与する方法としては、公知のグラビアコート法、スプレー法等の点状の非連続付与方法、ナイフコート法、転写法等の連続付与方法を用いれば良いが、塗布の均一性の点および塗布量の調節が容易な点で、さらには、表面のスエード感が損なわれ難い点で、グラビアコート法、スプレー法が好ましい例として挙げられる。・・・」
「【0076】
次いで、含浸処理した繊維絡合不織布を厚み方向に垂直にスライサーにて2分割し、非スライス面をサンドペーパでバフィングして厚さ0.80mmにした後、スライス面をエメリーバフ機で起毛処理して立毛面を形成した。次いでサーキュラー液流機を用い90℃の熱水で海成分であるエチレン10モル%変性PVAを抽出除去すると同時にリラックス処理を行った。その後、立毛面を逆シールで仕上げ処理をして、厚み0.80mm、比重が0.55g/cm3、高分子弾性体と3次元絡合体との質量比が30/70、島成分の極細繊維の平均繊度が0.06デシテックスのグレー色のスエード調人工皮革を得た。得られたスエード調人工皮革は、発色性、スエード感、表面タッチおよび風合い共に優れた高級感のあるものであった。さらに、耐光堅牢性が4~5級、湿潤下の摩擦堅牢性が4級と良好であり、引張強力40kg/2.5cm、引裂強力5.0kg、表面磨耗性測定における減量40mgと力学物性も良好なものであった。また、走査型電子顕微鏡で観察したところ、顔料は高分子弾性体中にほぼ均一に分散して高分子弾性体にほぼ埋包されていて、その平均粒径は0.1~0.2μmであった。また表面繊維の平均立毛長は約80μmであった。・・・
【0077】実施例2・・・得られたスエード調人工皮革は、濃色感、スエード感、表面タッチおよび風合いに優れたものであった。さらに、耐光堅牢性が4~5級、湿潤下の摩擦堅牢性が4級で表面磨耗性測定における減量30mgと良好であった。また表面繊維の平均立毛長は約40μmであった。 【0078】実施例3・・・得られたスエード調人工皮革は、発色性、スエード感、表面タッチおよび風合い共に優れたものであった。さらに、耐光堅牢性が4級、湿潤下の摩擦堅牢性が4級と良好であり、引張強力35kg/2.5cm、引裂強力4.5kg、表面磨耗性測定における減量45mgと力学物性も良好なものであった。また表面繊維の平均立毛長は約100μmであった。 【0079】実施例4
・・・得られたスエード調人工皮革は、鮮明性、スエード感、表面タッチおよび風合いに優れたものであった。さらに、耐光堅牢性が4~5級、湿潤下の摩擦堅牢性が3~4級と良好であり、引張強力45kg/2.5cm、引裂強力5.0kg、表面磨耗性測定での減量40mgであった。また、走査型電子顕微鏡で観察したところ、顔料は高分子弾性体中にほぼ均一に分散して高分子弾性体にほぼ埋包されていて、その平均粒径は0.1~0.2μmであった。また表面繊維の平均立毛長は約70μmであった。・・・【0080】実施例5
・・・得られたスエード調人工皮革は実施例4に比べて色調が濃く、鮮明感と濃色感、スエード感および表面タッチ、風合いに優れたものであった。さらに、耐光堅牢性が4級、摩擦堅牢性が3~4級と良好であり、引張強力35kg/2.5cm、引裂強力4.5kg、表面磨耗性測定での減量45mgであった。また、走査型電子顕微鏡で観察したところ、表面繊維の平均立毛長は約90μmであった。 【0081】実施例6・・・得られたスエード調人工皮革は、発色性、スエード感、表面タッチ、柔軟性、ドレープ性に優れたものであった。さらに、耐光堅牢性が4~5級、摩擦堅牢性が4級と良好であり、引張強力50kg/2.5cm、引裂強力6.0kg、表面磨耗性測定での減量50mgと力学物性も良好なものであった。また表面繊維の平均立毛長は約100μmであった。 【0082】実施例7・・・得られたスエード調人工皮革は、スエード感および表面タッチ、風合いに優れたものであった。さらに、耐光堅牢性が4~5級、湿潤下の摩擦堅牢性が4~5級と良好であり、引張強力50kg/2.5cm、引裂強力5.5kg、表面磨耗性測定での減量40mgと力学物性も良好なものであった。また、走査型電子顕微鏡で観察したところ、顔料は高分子弾性体中にほぼ均一に分散して高分子弾性体に埋包されており、その平均粒径は0.1~0.2μmであり、また表面繊維の平均立毛長は約80μmであった。・・・【0083】実施例8
・・・得られたスエード調人工皮革は、極細繊維の平均繊度が0.02デシテックスであって、スエード感および表面タッチ、風合いに優れたものであった。さらに、湿潤下の摩擦堅牢性が3~4級で、引張強力45kg/2.5cm、引裂強力5.0kg、表面磨耗性測定での減量35mgと力学物性も良好なものであった。また、走査型電子顕微鏡で観察したところ、顔料は高分子弾性体中にほぼ均一に分散して高分子弾性体にほぼ埋包されており、その平均粒径は約0.2μmであり、また表面繊維の平均立毛長は約40μmであった。」
以上の摘記事項を総合すると、引用文献3には、次の発明が記載されている(以下「引用発明3」という)。
「0.2デシテックス以下の極細繊維からなる3次元絡合体と高分子弾性体Aからなるスエード調人工皮革であって、3次元絡合体及び高分子弾性体がそれぞれ顔料A,Bとしてカーボンブラックを含有し、表面に存在する極細繊維の平均立毛長が10~200μmであり、
立毛繊維の根元付近の表面に顔料Cを含有する高分子弾性体Bからなる層が、公知のグラビアコート法、スプレー法等の点状の非連続付与方法、ナイフコート法、転写法等の連続付与方法を用いて連続又は非連続の状態で付与されており、
極細繊維発生型繊維から構成された繊維絡合不織布から製造されるスエード調人工皮革」
3 当審の判断
(1)引用文献1に基づく理由について
本件訂正前の請求項1を引用する請求項6、及び請求項8は削除されたため、引用文献1に基づく新規性、進歩性の特許異議申立理由の対象となった請求項は存在しないものとなった。
(2)引用文献2に基づく理由について
ア 本件訂正前の請求項8について
本件訂正前の請求項8は削除されたため、引用文献2に基づく進歩性の特許異議申立理由の対象となった請求項8は存在しないものとなった。
イ 本件発明3について
(ア)対比
本件発明3と引用発明2とを対比する。
引用発明2の「不織布」は、本件発明3の「不織布」に相当し、同様に、「立毛表面を有する」「人工皮革」は、「起毛面を有する」「人工皮革」に相当する。
ポリウレタンエラストマー、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリアクリル酸樹脂などの含浸用樹脂が弾性を有することは技術常識であるから、引用発明2の「ポリウレタンエラストマー、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリアクリル酸樹脂などの含浸用樹脂」は、本件発明3の「高分子弾性体」に相当する。
引用発明2の「着色基体層」は多孔性基体層を水系塗料を含浸して着色したものであるから、本件発明3の「全体が着色され」た「人工皮革基材」に相当する。
引用発明2の「水系塗料が塗布された着色基体層の立毛表面」と、本件発明3の「インクジェット印刷された起毛面」とは、「着色された起毛面」である限りで一致する。
そうすると、本件発明3と引用発明2とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点1>
「不織布と前記不織布の内部に付与された高分子弾性体とを含む人工皮革基材を含み、
前記人工皮革基材は全体が着色されており、且つ、着色された起毛面を有する人工皮革。」
<相違点1>
「着色された起毛面」について、本件発明3は、「インクジェット印刷された起毛面」であるのに対し、引用発明2は、「水系塗料の塗布された着色基体層の立毛表面」である点。
<相違点2>
本件発明3は、「前記インクジェット印刷された前記起毛面のL*a*b*表色系に基づくL*値が最も低い色の部分のL*値(L*a)と前記インクジェット印刷されていない部分のL*値(L*b)との明度差ΔL*(L*b-L*a)が50以下である」ことが特定されているのに対し、引用発明2は、そのように特定されていない点。
(イ)判断
事案に鑑み、相違点2から検討する。
引用文献2は、「着色基体層の立毛表面」に、「水系塗料(容積で3倍に機械発泡させたもの)がナイフロールコーターを用いて固形分で3g/m2量塗布され」、「得られたベロア調人工皮革は、色の濃い深みのある赤に着色され、立毛表面、切り口、裏面共に同系統の色に着色され」(上記2(2)カ)たものであり、立毛表面にL*a*b*表色系に基づくL*値の分布が生じさせるものではないから、引用文献2には、「インクジェット印刷された前記起毛面のL*a*b*表色系に基づくL*値が最も低い色の部分のL*値(L*a)」及び「インクジェット印刷されていない部分のL*値(L*b)」という発明特定事項が記載も示唆もされていない。また、起毛面をインクジェット印刷するにあたり、相違点2に係る本件発明3の構成とすることが、本件特許の出願前に周知であったとする他の証拠も提出されていない。
したがって、引用発明2において、相違点2に係る本件発明3の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(ウ)小括
よって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明3は、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明4~7、9、11について
本件発明4~7、9、11は、いずれも、本件発明3の発明特定事項を全て含んだ上で他の発明特定事項が付加されたものである。
そうすると、本件発明4~7、9、11と引用発明2とを対比すると、両者の間には、少なくとも、本件発明3と引用発明2とを対比した際の相違点1、2が存在することになり、そして、その相違点2についての判断は、上記イで述べたとおり、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
よって、本件発明4~7、9、11は、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明10について
本件発明10と引用発明2を対比すると、上記一致点1で一致し、以下の点で相違する。
<相違点3>
本件発明10は、「前記インクジェット印刷されていない部分のL*a*b*表色系に基づくL*値(L*b)が80以下である」ことが特定されているのに対し、引用発明2は、そのように特定されていない点。
しかしながら、上記イに示したとおり、引用文献2には、「インクジェット印刷されていない部分のL*a*b*表色系に基づくL*値(L*b)」について記載も示唆もされていない。また、起毛面をインクジェット印刷するにあたり、相違点3に係る本件発明10の構成とすることが、本件特許の出願前に周知であったとする他の証拠も提出されていない。
したがって、引用発明2において、相違点3に係る本件発明10の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
よって、本件発明10は、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件発明12について
本件発明12と引用発明2を対比すると、上記一致点1で一致し、以下の点で相違する。
<相違点4>
本件発明12は、「前記インクジェット印刷された前記起毛面のL*a*b*表色系に基づくL*値が最も低い色の部分のL*値(L*a)が50以下である」ことが特定されているのに対し、引用発明2は、そのように特定されていない点。
しかしながら、上記イに示したとおり、引用文献2には、「インクジェット印刷されていない部分のL*a*b*表色系に基づくL*値(L*b)」について記載も示唆もされていない。また、起毛面をインクジェット印刷するにあたり、相違点4に係る本件発明12の構成とすることが、本件特許の出願前に周知であったとする他の証拠も提出されていない。
したがって、引用発明2において、相違点4に係る本件発明12の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
よって、本件発明12は、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
カ 本件発明13について
本件発明13は、本件発明12の発明特定事項を全て含んだ上で他の発明特定事項が付加されたものである。
そうすると、本件発明13と引用発明2とを対比すると、両者の間には、少なくとも、本件発明12と引用発明2とを対比した際の相違点4が存在し、そして、その相違点4についての判断は、上記オで述べたとおりである。
したがって、引用発明2において、相違点4に係る本件発明13の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
よって、本件発明13は、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)引用文献3に基づく理由について
ア 本件訂正前の請求項8について
本件訂正前の請求項8は削除されたため、引用文献3に基づく進歩性の特許異議申立理由の対象となった請求項8は存在しないものとなった。
イ 本件発明3について
(ア)対比
本件発明3と引用発明3とを対比する。
引用発明3の「高分子弾性体A」は本件発明3の「高分子弾性体」に相当し、以下同様に、「それぞれ顔料A,Bとしてカーボンブラックを含有」する「3次元絡合体及び高分子弾性体A」は「全体が着色され」た「人工皮革基材」に、「表面に存在する極細繊維」の「立毛繊維」は「起毛面」に、「スエード調人工皮革」は「人工皮革」に相当する。
引用発明3の「極細繊維からなる3次元絡合体」は、「繊維絡合不織布」として製造されるものであるから、本件発明3の「不織布」に相当する。
引用発明3の「顔料Cを含有する高分子弾性体Bからなる層が連続又は非連続の状態で存在して」いる「立毛繊維の根元付近の表面」と、本件発明3の「インクジェット印刷された起毛面」とは、「着色された起毛面」である限りで一致する。
そうすると、本件発明3と引用発明3とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点2>
「不織布と前記不織布の内部に付与された高分子弾性体とを含む人工皮革基材を含み、
前記人工皮革基材は全体が着色されており、且つ、着色された起毛面を有する人工皮革。」
<相違点5>
「着色された起毛面」に関して、本件発明3は、「インクジェット印刷された起毛面」であるのに対し、引用発明3は、「顔料Cを含有する高分子弾性体Bからなる層が連続又は非連続の状態で存在して」いる「立毛繊維の根元付近の表面」である点。
<相違点6>
本件発明3は、「前記インクジェット印刷された前記起毛面のL*a*b*表色系に基づくL*値が最も低い色の部分のL*値(L*a)と前記インクジェット印刷されていない部分のL*値(L*b)との明度差ΔL*(L*b-L*a)が50以下である」ことが特定されているのに対し、引用発明3は、そのように特定されていない点。
(イ)判断
事案に鑑み、相違点6から検討する。
引用文献3は、「0.2デシテックス以下の極細繊維からなる3次元絡合体と高分子弾性体Aからなるスエード調人工皮革であって、3次元絡合体及び高分子弾性体がそれぞれ顔料A,Bとしてカーボンブラックを含有し、表面に存在する極細繊維の平均立毛長が10~200μmであり、立毛繊維の根元付近の表面に顔料Cを含有する高分子弾性体Bからなる層が、公知のグラビアコート法、スプレー法等の点状の非連続付与方法、ナイフコート法、転写法等の連続付与方法を用いて連続又は非連続の状態で付与され」ることで、「幅広い色調において、発色性および耐光堅牢性などの堅牢性が良好で、スエード感、表面タッチ、風合い、および力学物性や各種堅牢性が良好な高級感のある」(上記2(3)【0011】)ものとすることであり、立毛表面にL*a*b*表色系に基づくL*値の分布が生じさせるものではないから、引用文献3には、「インクジェット印刷された前記起毛面のL*a*b*表色系に基づくL*値が最も低い色の部分のL*値(L*a)」及び「インクジェット印刷されていない部分のL*値(L*b)」という発明特定事項が記載も示唆もされていない。また、起毛面をインクジェット印刷するにあたり、相違点6に係る本件発明3の構成とすることが、本件特許の出願前に周知であったとする他の証拠も提出されていない。
したがって、引用発明3において、相違点6に係る本件発明3の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(ウ)小括
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3は、引用発明3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明4~7、9、11について
本件発明4~7、9、11は、いずれも、本件発明3の発明特定事項を全て含んだ上で他の発明特定事項が付加されたものである。
そうすると、本件発明4~7、9、11と引用発明3とを対比すると、両者の間には、少なくとも、本件発明3と引用発明3とを対比した際の相違点5、6が存在することになり、そして、その相違点6についての判断は、上記イで述べたとおりである。
したがって、引用発明3において、相違点6に係る本件発明4~7、9、11の構成とすることは当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
よって、本件発明4~7、9、11は、引用発明3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明10について
本件発明10と引用発明3を対比すると、上記一致点2で一致し、以下の点で相違する。
<相違点7>
本件発明10は、「前記インクジェット印刷されていない部分のL*a*b*表色系に基づくL*値(L*b)が80以下である」ことが特定されているのに対し、引用発明3は、そのように特定されていない点。
しかしながら、上記イに示したとおり、引用文献2には、「インクジェット印刷されていない部分のL*a*b*表色系に基づくL*値(L*b)」について記載も示唆もされていない。また、起毛面をインクジェット印刷するにあたり、相違点7に係る本件発明10の構成とすることが、本件特許の出願前に周知であったとする他の証拠も提出されていない。
したがって、引用発明3において、相違点7に係る本件発明10の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
よって、本件発明10は、引用発明3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件発明12について
本件発明12と引用発明3を対比すると、上記一致点2で一致し、以下の点で相違する。
<相違点8>
本件発明12は、「前記インクジェット印刷された前記起毛面のL*a*b*表色系に基づくL*値が最も低い色の部分のL*値(L*a)が50以下である」ことが特定されているのに対し、引用発明3は、そのように特定されていない点。
しかしながら、上記イに示したとおり、引用文献3には、「インクジェット印刷されていない部分のL*a*b*表色系に基づくL*値(L*b)」について記載も示唆もされていない。また、起毛面をインクジェット印刷するにあたり、相違点8に係る本件発明12の構成とすることが、本件特許の出願前に周知であったとする他の証拠も提出されていない。
したがって、引用発明3において、相違点8に係る本件発明12の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
よって、本件発明12は、引用発明3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
カ 本件発明13について
本件発明13は、本件発明12の発明特定事項を全て含んだ上で他の発明特定事項が付加されたものである。
そうすると、本件発明13と引用発明3とを対比すると、両者の間には、少なくとも、本件発明12と引用発明3とを対比した際の相違点8が存在することになり、そして、その相違点8についての判断は、上記オで述べたとおりである。
したがって、引用発明3において、相違点8に係る本件発明13とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
よって、本件発明13は、引用発明3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)申立人の意見について
申立人は、令和4年2月24日に提出した意見書において、本件訂正前の請求項3~5に記載の発明特定事項は、引用文献2及び引用文献3にそれぞれ実質的に記載されており、又は少なくとも引用文献2及び引用文献3の記載から当業者が容易に想到し得る程度のものであるとして、以下の主張をしている。
ア 引用文献2を主引例とする進歩性について
本件発明3に係る「前記インクジェット印刷された前記起毛面のL*a*b*表色系に基づくL*値が最も低い色の部分のL*値(L*a)と前記インクジェット印刷されていない部分のL*値(L*b)との明度差ΔL*(L*b-L*a)が50以下である」という発明特定事項、
本件発明4に係る「L*値(L*b)が80以下である」という発明特定事項、
本件発明5に係る「L*値(L*a)が50以下である」という発明特定事項は、いずれも引用文献2に明示的に記載されていないものの、明度L*は、0が白色、100が黒色(当審注:0が黒色、100が白色の誤記と思われる。)であり、50付近が中間の濃さ(暗さ)の色を表すものであるところ、引用文献2の実施例1に記載の「ベロア調人工皮革」は、「起毛面」に相当する「立毛表面」についての明度L*(L*aに相当)、「インクジェット印刷されていない部分」に相当する「切り口」ないし「裏面」についての明度L*(L*bに相当)は、いずれも「色の濃い深みのある赤」に着色されている以上、中間的な濃さ(暗さ)である明度L*=50よりも「暗い(dark)」明度を持つため、両者の明度差ΔL*(L*b-L*a)が50以下、インクジェット印刷されていない部分の明度L*値(L*b)が80以下、起毛面についての明度L*値(L*a)が50以下であることは実質的に記載されている。
なお、引用文献2の実施例1に記載の「ベロア調人工皮革」は、ナイフコーターにより立毛表面全体に水系塗料が塗布されたものであるため、立毛表面の全体の明度L*は一定であり、立毛表面についての明度L*は、「起毛面のL*値が最も低い色の部分のL*値」と同義である。
また、明度差ΔL*から算出可能なΔE*は、20でも異なる色と認識されるものであるところ、引用文献2の実施例1に記載の「ベロア調人工皮革」は、同系統の色に着色されるものであって、明度差ΔL*が50を超えることはあり得ず、明度差ΔL*は50以下である蓋然性が高い。
さらに、引用文献2には「内部まで均一に着色され、色の深み、色の堅牢度、表面外観共にすぐれたベロア調人工皮革を製造する事ができる」(3ページ右上欄13~15行)ことが記載されており、「起毛面」に相当する「立毛表面」と、「インクジェット印刷されていない部分」に相当する「切り口」ないし「裏面」とが、同等の色調になるように調整することは、当業者が容易に想到し得ることである。
イ 引用文献3を主引例とする進歩性について
本件発明3に係る「前記インクジェット印刷された前記起毛面のL*a*b*表色系に基づくL*値が最も低い色の部分のL*値(L*a)と前記インクジェット印刷されていない部分のL*値(L*b)との明度差ΔL*(L*b-L*a)が50以下である」という発明特定事項、
本件発明4に係る「L*値(L*b)が80以下である」という発明特定事項、
本件発明5に係る「L*値(L*a)が50以下である」という発明特定事項は、いずれも引用文献3に明示的に記載されていないものの、引用文献3の実施例2に記載の「スエード調人工皮革」は、「ダークグレー色」に着色され、「色合わせや色調の調整」により「非常に均質な高級感のあるスエード調人工皮革」とされたものであり、「ダークグレー色」が中間的な濃さ(暗さ)である明度L*=50よりも「暗い(dark)」明度を持つため、「起毛面」に相当する「立毛繊維」についての明度L*(L*aに相当)と、「インクジェット印刷されていない部分」に相当する「3次元絡合体及び高分子弾性体A」についての明度L*(L*bに相当)は、ともに50以下である蓋然性が高く、両者の明度差ΔL*(L*b-L*a)が50を超えることはあり得ず、いずれも実質的な相違点であるとはいえない。
なお、引用文献3の実施例2に記載の「スエード調人工皮革」は、グラビア機により繊維絡合不織布表面全体に顔料を含む水分散液が塗布されたものであるため、立毛繊維を持つ表面全体の明度L*は一定であり、立毛繊維についての明度L*は、「起毛面のL*値が最も低い色の部分のL*値」と同義である。
また、明度差ΔL*から算出可能なΔE*は、20でも異なる色と認識されるものであるところ、引用文献3の実施例2に記載の「スエード調人工皮革」は、その全体が均質なダークグレー色に着色されたものであって、明度差ΔL*が50を超えることはあり得ず、明度差ΔL*は50以下である蓋然性が高い。
さらに、引用文献3には「色合わせや色調の調整」により「非常に均質な高級感のあるスエード調人工皮革」が得られるものであるため、「起毛面」に相当する「立毛繊維」と、「インクジェット印刷されていない部分」に相当する「3次元絡合体及び高分子弾性体A」とが、同等の色調になるように調整することは、当業者が容易に想到し得ることである。
ウ 申立人の主張の検討
(ア)本件発明の解決しようとする課題及び作用効果について
本件明細書の【0002】、【0004】には、従来から「人工皮革の表面に模様や図柄を施す方法として、インクジェットプリンタを用いて印刷するインクジェット印刷技術」が知られており、「目的とする発色を得るために、明度の高い自然色の人工皮革基材や人工皮革基材の表面に積層した白色の印刷層に印刷していた」ところ、「自然色の人工皮革基材や白色の印刷層に印刷した場合、人工皮革の端面が見えるような用途においては、端面に人工皮革の断面が露出してインクジェット印刷の色調と自然色の人工皮革の断面との色調の違いが表出し、一体感のない美観に乏しい外観になる」こと、「特に、インクジェット印刷人工皮革を樹脂成形体等の表面に積層一体化して用いるような用途では、さらに樹脂成形体の端面が表出して各層が異なる色調の端面を露出させるためにさらに美観が乏しくなる」ことを課題とし、
インクジェット印刷された起毛面のL*a*b*表色系に基づくL*値が最も低い色の部分のL*値(L*a)、インクジェット印刷されていない部分のL*値(L*b)、及び、両者の明度差ΔL*(L*b-L*a)に着目し、
本件訂正前の請求項3に記載の発明特定事項は、上記明度差ΔL*(L*b-L*a)が50以下であること、本件訂正前の請求項4に記載の発明特定事項は、上記L*値(L*b)が80以下であること、本件訂正前の請求項5に記載の発明特定事項は、上記L*値(L*a)が50以下であることを、それぞれ規定することで「端面に人工皮革の断面が露出してインクジェット印刷の色調と自然色の人工皮革の断面との色調の違いを抑制できる」(本願明細書の【0014】)という作用効果を奏するものである。
(イ)「インクジェット印刷された起毛面のL*a*b*表色系に基づくL*値が最も低い色の部分のL*値(L*a)」について
申立人は、引用文献2の実施例1に記載の「ベロア調人工皮革」の立毛表面についての明度L*、及び引用文献3の実施例2に記載の「スエード調人工皮革」の立毛繊維についての明度L*は、いずれも、本件発明の「起毛面のL*値が最も低い色の部分のL*値」と同義である旨、主張している。
しかしながら、引用文献2において、起毛面に当たる「着色基体層の立毛表面」は、『ナイフロールコーター』を用いて色の濃い深みのある赤の『単色』に塗布されたものであり、引用文献3において、起毛面に当たる「立毛繊維」は、『グラビア機』を用いて均質なダークグレー色の『淡色』に塗布されたものであって、インクジェット印刷により着色されたものでなく、起毛面に当たる着色基体層の立毛表面には、明度L*値に高低差が存在しないから、引用文献2の立毛表面についての明度L*、及び引用文献3の立毛繊維についての明度L*は、「インクジェット印刷された起毛面のL*a*b*表色系に基づくL*値が最も低い色の部分のL*値(L*a)」と同義ではない。
そうすると、引用発明2には、L*値(L*a)や明度差ΔL*(L*b-L*a)の数値範囲を規定することが記載も示唆する記載もなく、本件訂正前の請求項3及び5に記載の発明特定事項は、引用文献2及び引用文献3に実質的に記載されているとはいえない。また、当該事項は、他の証拠をみても記載もないし示唆する記載もない。さらに、周知の事項であるともいえない。
また、本件訂正前の請求項4に記載された「上記L*値(L*b)が80以下である」という発明特定事項は、起毛面がインクジェット印刷されることを前提とし、インクジェット印刷されていない部分の明度の上限値を規定したものであって、引用発明2又は引用発明3は、起毛面がインクジェット印刷によって印刷されたものでない以上、両者はその前提において相違しているから、当該発明特定事項も、引用文献2及び引用文献3に実質的に記載されているとはいえない。また、当該事項は、他の証拠をみても記載もないし示唆する記載もない。さらに、周知の事項であるともいえない。
(ウ)同等の色調に調整することの容易想到性について
申立人は、引用発明2における、「起毛面」に相当する「立毛表面」と、「インクジェット印刷されていない部分」に相当する「切り口」ないし「裏面」とが、同等の色調になるように調整すること、及び引用発明3における、「起毛面」に相当する「立毛繊維」と、「インクジェット印刷されていない部分」に相当する「3次元絡合体及び高分子弾性体A」とが、同等の色調になるように調整することは、当業者が容易に想到し得ることである旨、主張している。
しかしながら、本件明細書の【0063】~【0093】には、実施例として、人工皮革基材のL*値(L*b)が60または72、立毛面のL*値(L*a)が29~48、明度差(L*b-L*a)が24~43のものが記載されているとおり、本件発明は、『同等の色調になるように調整すること』により、課題の解決を図るものではなく、当該点において、引用発明2又は引用発明3と技術思想が異なることは明らかであるから、この点についての申立人の主張は採用できない。
(5)小括
よって、本件発明3~7、9~13は、引用発明2又は引用発明3に基いて、当業者が容易に発明し得たものではない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、当審が通知した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立て理由によっては、請求項3~7、9~13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項3~7、9~13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正により請求項1、2、8は削除され、特許異議の申立ての対象となる請求項1、2、8に係る特許は存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する特許法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-700680