特許異議申立
2020-700845
連続繊維補強材を使用した短繊維補強コンクリート構造物
- 審判番号
- 2020-700845
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-004748
- 登録番号
- 特許第6688441号(P6688441)
- 請求日
- 2020年10月28日
- 審決日
- 2021年09月21日
- 公報発行日
- 2021年12月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東京製綱株式会社
- 【権利者代理人】安彦 元
- 【権利者代理人】眞榮城 繁樹
- 【権利者】オリエンタル白石株式会社
- 【権利者代理人】安彦 元
- 【権利者代理人】眞榮城 繁樹
- 【異議申立人】桑城 伸語
- 審判長/審判官
- 審判長 日比野 隆治
- 審判官 末松 佳記
- 審判官 後藤 政博
- 分類
- P1651.121-YAA(E01D) / P1651.16 -YAA(E01D) / P1651.537-YAA(E01D) / P1651.851-YAA(E01D) / P1651.853-YAA(E01D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第3項、特許法第113条第2号、特許法第29条第2項、特許法第29条の2
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6688441号発明「連続繊維補強材を使用した短繊維補強コンクリート構造物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6688441号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、〔3~7〕について訂正することを認める。
特許第6688441号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6688441号の請求項1~7に係る特許についての出願は、令和2年1月15日(優先権主張 平成31年4月8日 日本国)を出願日とする特許出願であり、令和2年4月7日にその特許権の設定登録がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、同年10月28日に特許異議申立人桑城伸語(以下、「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされ、令和3年2月16日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年4月30日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して、同年6月25日に異議申立人より意見書の提出がなされたものである。
第2 本件訂正の適否についての判断
1 訂正事項
令和3年4月30日になされた訂正の請求(以下、その訂正を「本件訂正」という。)は、本件特許請求の範囲及び明細書を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲及び訂正明細書のとおり、訂正後の請求項1、2、3~7について訂正することを求めるものであって、特許請求の範囲の訂正は、請求項1、請求項2及び一群の請求項を構成する請求項3~7を訂正の単位として請求されたものであり、明細書の訂正は、その訂正に係る請求項の全てについて請求されたものであるから、この訂正の請求は、特許法第120条の5第3項及び第4項、並びに、同法同条第9項において準用する同法第126条第4項の規定に従うものである。
そして、本件訂正の具体的な訂正事項は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「連続繊維補強材が主補強材又は緊張材として配設された」と記載されているのを、「FRP補強材である連続繊維補強材が主補強材又は緊張材として配設された」に訂正するとともに、同請求項に「コンクリート体積に対して」と記載されているのを、「、最大骨材径が13mm以上20mm以下の普通骨材を使用した高強度コンクリートのコンクリート体積に対して」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「連続繊維補強材が主補強材又は緊張材として配設された」と記載されているのを、「FRP補強材である連続繊維補強材が主補強材又は緊張材として配設された」に訂正するとともに、同請求項に「コンクリート体積に対して」と記載されているのを、「、最大骨材径が13mm以上20mm以下の普通骨材を使用した高強度コンクリートのコンクリート体積に対して」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「連続繊維補強材が主補強材又は緊張材として配設された」と記載されているのを、「FRP補強材である連続繊維補強材が主補強材又は緊張材として配設された」に訂正するとともに、同請求項に「コンクリート体積に対して」と記載されているのを、「、最大骨材径が13mm以上20mm以下の普通骨材を使用した高強度コンクリートのコンクリート体積に対して」に訂正する(請求項3を直接または間接的に引用する請求項5~7についても同様に訂正する。)。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「連続繊維補強材が主補強材又は緊張材として配設された」と記載されているのを、「FRP補強材である連続繊維補強材が主補強材又は緊張材として配設された」に訂正するとともに、同請求項に「コンクリート体積に対して」と記載されているのを、「、最大骨材径が13mm以上20mm以下の普通骨材を使用した高強度コンクリートのコンクリート体積に対して」に訂正する(請求項4を直接または間接的に引用する請求項5~7についても同様に訂正する。)。
(5)訂正事項5
明細書【0041】~【0044】のそれぞれに「連続繊維補強材が主補強材又は緊張材として配設された」と記載されているのを、「FRP補強材である連続繊維補強材が主補強材又は緊張材として配設された」に訂正するとともに、【0041】~【0044】のそれぞれに「コンクリート体積に対して」と記載されているのを、「、最大骨材径が13mm以上20mm以下の普通骨材を使用した高強度コンクリートのコンクリート体積に対して」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1~4について
ア 訂正事項1~4はいずれも、「連続繊維補強材」とあるのを、「FRP補強材である連続繊維補強材」とするとともに、「コンクリート体積に対して」とあるのを、「、最大骨材径が13mm以上20mm以下の普通骨材を使用した高強度コンクリートのコンクリート体積に対して」とするものであり、前者については、連続繊維補強材の材質がFRP補強材であることを特定するものであって、後者については、コンクリートの強度及び骨材の寸法と種類を特定してコンクリートの構成を明らかにするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項1~4のうち、「連続繊維補強材」が「FRP補強材である」とした点は、本件特許明細書の【0009】の「連続繊維補強材とは、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、などの連続繊維を、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカ?ボネイト樹脂、塩化ビニルなどの樹脂で集束含浸した複合材料であるFRP補強材のことを指している(FRP : Fiber-Reinforced Plastics)(繊維強化プラスチック))。」との記載に基づくものである。また、「コンクリート体積に対して」を、「、最大骨材径が13mm以上20mm以下の普通骨材を使用した高強度コンクリートのコンクリート体積に対して」とした点における、「高強度コンクリート」については、本件特許明細書の【0103】の「使用したコンクリートは通常の高強度コンクリートであり、圧縮強度は71N/mm2(RC床版)と74N/mm2(CFCC床版)であった。」との記載に基づくものであり、「、最大骨材径が13mm以上20mm以下の普通骨材を使用した」については、本件特許明細書の【0069】及び【0091】の「打設するフレッシュコンクリートは、最大骨材径が13mm~20mmの砂利、砕石などの粗骨材、砂、砕砂などの細骨材、セメント、水、フライアッシュや高炉スラグなどの混和材、AE減水剤や高性能減水剤などの混和剤から構成される通常配合のコンクリートである。」との記載(特に「最大骨材径が13mm~20mmの砂利、砕石などの粗骨材」及び「通常配合のコンクリート」との記載)、並びに、ここでいう「砂利」及び「砕石」は、一般に「普通骨材」と呼称され、「通常配合のコンクリート」には、砂利・砕石などの「普通骨材」が含まれるものであることが技術常識であること(令和3年4月30日に特許権者が提出した意見書に添付された下記乙第3~5号証を参酌した。)に基づくものである。
したがって、訂正事項1~4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるといえる。
ウ 訂正事項1~4は、請求項1~4の「連続繊維補強材」及び「コンクリート」をさらに限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項5について
訂正事項5は、上記訂正事項1~4に伴い、本件訂正後の特許請求の範囲における請求項1~4の記載と本件訂正前の明細書の【0041】~【0044】の記載とが不整合となっていたところ、両者を整合させて記載を明瞭にするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項5は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
3 小括以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
第3 特許請求の範囲の記載(本件発明)
前記第2のとおり、本件訂正の請求は適法にされたものであり認容できるから、本件特許の請求項1~7に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認められる(以下、各請求項に係る発明を項番号に合わせて「本件発明1」、「本件発明2」などといい、まとめて「本件発明」という。)。
「 【請求項1】
FRP補強材である連続繊維補強材が主補強材又は緊張材として配設された構造体として機能するコンクリート構造物であって、
有機繊維からなる短繊維補強材が、最大骨材径が13mm以上20mm以下の普通骨材を使用した高強度コンクリートのコンクリート体積に対して0.5%以上2.5%以下混入され、
前記連続繊維補強材は、棒状又はより線状であり、
前記短繊維補強材の前記有機繊維の繊維長Lfとコンクリート配合の最大骨材径Gmとの比Lf/Gmが、1.2以上3.7以下であり、且つ、有機繊維の断面積を円換算した等価直径をDeとしたときのアスペクト比Lf/Deが、30以上69以下であるコンクリート構造物。
【請求項2】
FRP補強材である連続繊維補強材が主補強材又は緊張材として配設された構造体として機能するコンクリート構造物であって、
有機繊維からなる短繊維補強材が、最大骨材径が13mm以上20mm以下の普通骨材を使用した高強度コンクリートのコンクリート体積に対して0.5%以上2.5%以下混入され、
前記連続繊維補強材は、棒状又はより線状であり、
前記短繊維補強材の前記有機繊維の繊維長Lfとコンクリート配合の最大骨材径Gmとの比Lf/Gmが、1.2以上3.7以下であり、且つ、前記有機繊維の断面積が0.19mm2~0.79mm2であるコンクリート構造物。
【請求項3】
FRP補強材である連続繊維補強材が主補強材又は緊張材として配設された構造体として機能するコンクリート床版であって、
有機繊維からなる短繊維補強材が、最大骨材径が13mm以上20mm以下の普通骨材を使用した高強度コンクリートのコンクリート体積に対して0.5%以上2.5%以下混入され、
前記連続繊維補強材は、棒状又はより線状であり、
前記短繊維補強材の前記有機繊維の繊維長Lfとコンクリート配合の最大骨材径Gmとの比Lf/Gmが、1.2以上3.7以下であり、且つ、有機繊維の断面積を円換算した等価直径をDeとしたときのアスペクト比Lf/Deが、30以上69以下であるコンクリート床版。
【請求項4】
FRP補強材である連続繊維補強材が主補強材又は緊張材として配設された構造体として機能するコンクリート床版であって、
有機繊維からなる短繊維補強材が、最大骨材径が13mm以上20mm以下の普通骨材を使用した高強度コンクリートのコンクリート体積に対して0.5%以上2.5%以下混入され、
前記連続繊維補強材は、棒状又はより線状であり、
前記短繊維補強材の前記有機繊維の繊維長Lfとコンクリート配合の最大骨材径Gmとの比Lf/Gmが、1.2以上3.7以下であり、且つ、前記有機繊維の断面積が0.19mm2~0.79mm2であるコンクリート床版。
【請求項5】
前記連続繊維補強材は、炭素繊維又はアラミド繊維である請求項3又は4記載のコンクリート床版。
【請求項6】
前記短繊維補強材の前記有機繊維は、ポリプロピレン繊維である請求項3ないし5のいずれかに記載のコンクリート床版。
【請求項7】
前記連続繊維補強材によりプレストレスが導入されている請求項3ないし6のいずれかに記載のコンクリート床版。」
第4 取消理由の概要
令和3年2月16日付けで当審が特許権者に通知した取消理由は、本件訂正前の請求項1~7に係る特許は、以下の理由により特許法第113条第2号及び第4号に該当するため取り消すべきものである、というものである。
・取消理由1:(進歩性欠如)本件訂正前の請求項1~7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記甲第2号証に記載された発明及び周知技術(下記甲第5~11号証参照)に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
・取消理由2:(拡大先願要件違反)本件訂正前の請求項1~4、6、7に係る発明は、本件特許の優先日前の特許出願であって、その優先日後に出願公開がされた特許出願(甲第1号証に係る出願)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の発明者がその優先日前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の優先日の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、その特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
・取消理由3:(サポート要件違反)本件特許は、本件訂正前の特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
<提出された証拠>
甲第1号証:特開2019-64872号公報(特願2017-192462号)
甲第2号証:福田雅人 他、超高耐久床版の疲労耐久性に関する実験的検討、プレストレストコンクリート工学会、第26回シンポジウム論文集、2017年10月
甲第5号証:佐々木亘 他、アラミド短繊維を用いた高強度繊維補強コンクリートの基礎物性、三井住友建設 技術研究開発報告、第10号、2012年
甲第6号証:杉本勝哉 他、短繊維補強コンクリートのリサイクル性に関する基礎的検討、コンクリート工学年次論文集、Vol.34、No.1、2012年
甲第7号証:齋藤俊克 他、繊維長さ粗骨材最大寸法比がビニロン繊維補強ポーラスコンクリートの力学的性質に及ぼす影響、コンクリート工学年次論文集、Vol.32、No.1、2010年
甲第8号証:川又篤 他、繊維種及び混入量が繊維補強セメント系複合材料の靭性に及ぼす影響、コンクリート工学年次論文集、Vol.27、No.1、2005年
甲第9号証:谷口秀明 他、高じん性コンクリートの開発 -ビニロン繊維補強コンクリートの基礎物性-、三井住友建設 技術研究開発報告、第6号、2008年
甲第10号証:平石剛紀 他、ポリプロピレン短繊維補強コンクリートのフレッシュおよび硬化性状、コンクリート工学年次論文集、Vol.22、No.1、2000年
甲第11号証:佐々木亘、種々の短繊維を用いた高強度繊維補強コンクリートの材料特性と配合設計に関する研究、京都大学学術情報リポジトリ、2014年
第5 取消理由についての当審の判断
1 甲号証の記載事項
(1)甲第1号証に係る出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「先願明細書等」という。)の記載事項
先願明細書等の【実施例】には、「本発明1,2」として、、人工軽量骨材を使用したベースコンクリートに、直径0.66mm、標準長30mmであるPVA繊維をコンクリート体積に対して0.5%混入した、繊維補強軽量コンクリート供試体が記載されている。
そして、前記コンクリート試供体は、PC鋼材を緊張材として配設してプレストレストコンクリート床版とするものであり(【0034】)、また、前記軽量骨材の最大粒径は15mmである(【0016】)。
(2)甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、高強度繊維補強コンクリートを用いたプレキャスト床版であって、補強鉄筋やPC鋼材を一切使用せず、コンクリート内に混入されたビニロン短繊維と緊張材としてのアラミドFRPロッドによるプレストレスのみで補強されているプレキャスト床版が記載されている(5頁目左側中段の「2. 超高耐久床版の概要」及び「3. 疲労耐久性の検討」を参照)。
(3)甲第5号証の記載事項
PVA繊維またはアラミド繊維からなる短繊維補強材がコンクリート体積に対して0.5%、0.75%、1.0%又は1.5%混入され、前記短繊維の断面積を円換算した等価直径をDeとしたときのアスペクト比Lf/Deが38、45又は60であることが記載されている(第46頁 表-1の「VF1」、「AF1」及び「AF2」)。そして、前記短繊維の繊維径が0.66mm又は0.5mmであること、すなわち、前記短繊維の断面積が0.342mm2又は0.196mm2であることが記載されている(第46頁 表-1の「VF1」及び「AF2」)。
(4)甲第6号証の記載事項
短繊維補強コンクリートを用いた構造物において、ポリプロピレン繊維からなる短繊維補強材がコンクリート体積に対して0.5%又は1.0%混入され、粗骨材最大寸法が20mmであり、前記ポリプロピレン繊維の繊維長が48mmであることが記載されている(第1600頁 「要旨」の欄、「2.実験概要」の欄、表-1、第1601頁 表-2及び表-3)。
そして、前記短繊維の繊維径が0.70mmであることが記載されている(第1601頁 表-3)。
(5)甲第7号証の記載事項
ビニロン繊維からなる短繊維補強材がコンクリート体積に対して0.5%混入され、粗骨材最大寸法が20mmであり、前記ビニロン繊維の繊維長が40mmであることが記載されている(第1421頁~第1425頁)。
(6)甲第8号証の記載事項
ポリプロピレン繊維、PVA繊維または高強度ポリエチレン繊維からなる短繊維補強材がコンクリート体積に対して1.0%、1.5%又は2.0%混入されることが記載されている(第296頁 表-3及び表-4)。
(7)甲第9号証の記載事項
PVA(ビニロン)繊維からなる短繊維補強材がコンクリート体積に対して0.5%、1.0%又は1.5%混入されることが記載されている(第74頁 表-1、第81頁 図-15)。
(8)甲第10号証の記載事項
ポリプロピレン繊維からなる短繊維補強材がコンクリート体積に対して0.5%、1.0%又は1.5%混入されることが記載されている(第284頁 表-3)。
(9)甲第11号証の記載事項
アラミド繊維またはPVA繊維からなる短繊維補強材がコンクリート体積に対して0.5%、0.75%、1.0%又は1.5%混入されることが記載されている(第60頁 図-4.1、第63頁 図-4.8、第64頁 図-4.10及び図-4.11、第66頁 図-4.14、第67頁 図-4.15)。
2 取消理由に対する判断
(1)取消理由1(進歩性)について
ア 甲第2号証に記載された発明(甲2発明)
甲第2号証の上記1(2)の記載事項によると、甲第2号証には、
「アラミドFRPロッドが緊張材として配設された高強度繊維補強コンクリートを用いたプレキャスト床版であって、ビニロン短繊維がコンクリートに対して混入されたプレキャスト床版。」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
イ 本件発明と甲2発明との対比・判断
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「アラミドFRPロッド」は、本件発明1の「棒状」である「FRP補強材である連続繊維補強材」に相当し、甲2発明の「プレキャスト床版」は、高強度繊維補強コンクリートを用いたものであるから、本件発明1の「構造体として機能するコンクリート構造物」に相当し、甲2発明の「ビニロン短繊維」は、本件発明1の「有機繊維からなる短繊維補強材」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは、
「FRP補強材である連続繊維補強材が緊張材として配設された構造体として機能するコンクリート構造物であって、有機繊維からなる短繊維補強材がコンクリートに対して混入されたコンクリート構造物。」
である点で一致し、少なくとも次の点で相違しているものと認められる。
・相違点2-1:有機繊維からなる短繊維補強材がコンクリートに対して混入された割合を、本件発明1は、コンクリート体積に対して0.5%以上2.5%以下としているのに対して、甲2発明は、上記割合を規定していない点。
・相違点2-2:本件発明1は、前記短繊維補強材の前記有機繊維の繊維長Lfとコンクリート配合の最大骨材径Gmとの比Lf/Gmが、1.2以上3.7以下であることが特定されているのに対して、甲2発明は、上記Lf/Gmが規定されていない点。
・相違点2-3:本件発明1は、前記有機繊維の断面積を円換算した等価直径をDeとしたときのアスペクト比Lf/Deが、30以上69以下であることが特定されているのに対して、甲2発明は、上記Lf/Deが規定されていない点。
・相違点2-4:本件発明1は、前記短繊維補強材を混入する対象であるコンクリートが、最大骨材径が13mm以上20mm以下の普通骨材を使用した高強度コンクリートであることが特定されているのに対して、甲2発明は、そのことが規定されていない点。
そこで、まず上記相違点2-1について検討する。
甲2発明のコンクリート構造物を構成するコンクリートは、上記アのとおり、FRP補強材である連続繊維補強材を主補強材又は緊張材として使用するとともに、コンクリート中に有機繊維からなる短繊維補強材を含むものであるが、甲第2号証を子細にみても、当該短繊維補強材がいかなる目的で添加されたものであり、どのような作用・機能を有するのかについて、具体的な記載は見当たらない。
一方、上記1(3)~(9)のとおり、甲第5~11号証には、有機繊維からなる短繊維補強材が多種多様なコンクリートに対して0.5体積%~2.5体積%程度混入されることが記載されているものの、いずれの文献にも、FRP補強材である連続繊維補強材を主補強材又は緊張材として使用することについては一切記載されておらず、また、連続繊維補強材の力学的な欠点を補い、連続繊維補強材の優れた特性を活かすべく、コンクリートに対して有機繊維からなる短繊維補強材が添加されることについては記載も示唆もない。
したがって、甲2発明において、コンクリート対して短繊維補強材を混入する際の配合割合として、連続繊維補強材の力学的な欠点を補い、連続繊維補強材の優れた特性を活かすような配合割合とする動機付けはなく、甲第5~11号証に記載された、多種多様なコンクリートに対して混入される短繊維補強材の配合割合を参酌する動機付けも存在しないというべきである。
また、上記相違点2-1に係る構成を具備することにより奏される本件発明1の効果(連続繊維補強材の力学的な欠点を補い、連続繊維補強材の優れた特性を活かすべく、連続繊維補強材とともに有機短繊維補強材を用いることで、架橋効果により、せん断力や、曲げ靭性、曲げ強度といった機械的強度に優れたコンクリートとすること)は、いずれの証拠からも予測可能なものではなく、格別のものである。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1を、甲2発明及び甲第5~11号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(イ)本件発明2~4について
本件発明2~4と甲2発明とを対比すると、いずれの場合も少なくとも上記(ア)の相違点2-1の点で相違する。
そして、上記相違点2-1は、甲2発明及び甲第5~11号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができないものであるから、本件発明2~4についても、甲2発明及び甲第5~11号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(ウ)本件発明5~7について
本件発明5~7は、本件発明3、4の発明特定事項を全て具備するものであるから、本件発明5~7についても、上記(イ)に記載したのと同様の理由により、甲2発明及び甲第5~11号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
ウ 以上のとおりであるから、取消理由1には理由がない。
(2)取消理由2(拡大先願要件違反)について
ア 先願明細書等に記載された発明(甲1-1発明、甲1-2発明)
上記1(1)の記載事項によると、先願明細書等に記載された「本発明1、2」は、前記PVA繊維及び前記軽量骨材のサイズから計算すると、繊維長Lfとコンクリート配合の最大骨材径Gmとの比Lf/Gmは2.0であり、前記PVA繊維の断面積を円換算した等価直径をDeとしたときのアスペクト比Lf/Deは45.45であり、前記有機繊維の断面積は0.34mm2であるということができる。
そうすると、先願明細書等には、
「PC鋼材が緊張材として配設された繊維補強軽量コンクリートを用いたプレストレストコンクリート床版であって、PVA繊維からなる短繊維補強材が、最大粒径が15mmである軽量骨材を使用した繊維補強軽量コンクリートのコンクリート体積に対して0.5%混入され、前記短繊維補強材の前記PVA繊維の繊維長Lfとコンクリート配合の最大骨材径Gmとの比Lf/Gmが2.0であり、前記PVA繊維の断面積を円換算した等価直径をDeとしたときのアスペクト比Lf/Deが45.45であり、繊維補強コンクリートはプレストレストコンクリートである、プレストレストコンクリート床版。」
の発明(以下、「甲1-1発明」という。)、
及び
「PC鋼材が緊張材として配設された繊維補強軽量コンクリートを用いたプレストレストコンクリート床版であって、PVA繊維からなる短繊維補強材が、最大粒径が15mmである軽量骨材を使用した繊維補強軽量コンクリートのコンクリート体積に対して0.5%混入され、前記短繊維補強材の前記PVA繊維の繊維長Lfとコンクリート配合の最大骨材径Gmとの比Lf/Gmが2.0であり、前記PVA繊維の断面積が0.34mm2であり、繊維補強コンクリートはプレストレストコンクリートである、プレストレストコンクリート床版。」
の発明(以下、「甲1-2発明」という。)
が記載されていると認められる。
イ 甲1発明との対比・判断
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲1-1発明とを対比すると、甲1-1発明の「コンクリート床版」は、本件発明1の「構造体として機能するコンクリート構造物」に相当し、甲1-1発明の「PVA繊維」は、本件発明1の「有機繊維からなる短繊維補強材」に相当する。
また、甲1-1発明においてLf/Gmが2.0であり、Lf/Deが45.45であることは、本件発明1においてLf/Gmが1.2以上3.7以下であり、Lf/Deが、30以上69以下であることに相当する。
そうすると、本件発明1と甲1-1発明とは、
「連続繊維補強材が主補強材又は緊張材として配設された構造体として機能するコンクリート構造物であって、有機繊維からなる短繊維補強材がコンクリートに対して混入され、Lf/Gmが1.2以上3.7以下であり、Lf/Deが、30以上69以下であるコンクリート構造物。」
である点で一致し、少なくとも次の点で相違しているといえる。
・相違点1-1:主補強材又は緊張材として配設された連続繊維補強材が、本件発明1では、FRP補強材であるのに対して、甲1発明では、PC鋼材である点。
・相違点1-2:本件発明1では、前記短繊維補強材を混入する対象であるコンクリートが、最大骨材径が13mm以上20mm以下の普通骨材を使用した高強度コンクリートであるのに対して、甲1発明では、最大粒径が15mmである軽量骨材を使用した繊維補強軽量コンクリートである点。
そして、上記相違点1-1及び相違点1-2は、いずれも実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1-1発明と同一であるとはいえないし、甲1-1発明と実質同一であるというに足りる証拠もない。
(イ)本件発明2について
本件発明2と甲1-2発明とを対比すると、甲1-2発明においてPVA繊維の断面積が0.34mm2であることは、本件発明1において有機繊維の断面積が0.19mm2~0.79mm2であることに相当する。
そうすると、上記(ア)で対比・判断したことを踏まえれば、本件発明1と甲1-2発明とは、
「連続繊維補強材が主補強材又は緊張材として配設された構造体として機能するコンクリート構造物であって、有機繊維からなる短繊維補強材がコンクリートに対して混入され、有機繊維の断面積が0.19mm2~0.79mm2であるコンクリート構造物。」
である点で一致し、少なくとも次の点で相違するものと認められる。
・相違点1’-1:主補強材又は緊張材として配設された連続繊維補強材が、本件発明1では、FRP補強材であるのに対して、甲1発明では、PC鋼材である点。
・相違点1’-2:本件発明1では、前記短繊維補強材を混入する対象であるコンクリートが、最大骨材径が13mm以上20mm以下の普通骨材を使用した高強度コンクリートであるのに対して、甲1発明では、最大粒径が15mmである軽量骨材を使用した繊維補強軽量コンクリートである点。
上記相違点1’-1及び相違点1’-2は、それぞれ上記(ア)の相違点1-1及び相違点1-2と同じ相違点であるから、上記(ア)における検討と同様、本件発明2は、甲1-2発明と同一であるとも実質同一であるともいえない。
(ウ)本件発明3、4について
本件発明3と甲1-1発明、及び、本件発明4と甲1-2発明をそれぞれ対比してみると、前者は、上記(ア)の相違点1-1、相違点1-2の点で、後者は、上記(イ)の相違点1’-1及び相違点1’-2の点でそれぞれ相違するものと認められるから、上記(ア)、(イ)における検討と同様、本件発明3、4は、甲1-1発明又は甲1-2発明と同一ないし実質同一であるとはいえない。
(エ)本件発明5~7について
本件発明5~7は、本件発明3、4の発明特定事項を全て具備するものであるから、本件発明5~7についても、甲1-1発明又は甲1-2発明と同一ないし実質同一であるとはいえない。
ウ 以上のとおりであるから、取消理由2には理由がない。
(3)取消理由3(サポート要件違反)について
ア 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるので、以下、この観点に基づいて検討する。
イ 本件発明の課題について
本件発明が解決しようとする課題は、「連続繊維補強材を主補強材又は緊張材とするとともに、短繊維補強材をコンクリートに混入することにより、連続繊維補強材の力学的な欠点を補って錆びるとのない(原文ママ)連続繊維補強材の優れた特性を活かした製造コストが安く超高耐久なコンクリート構造物及びコンクリート床版を提供すること」である(本件特許明細書【0040】)。
ウ 本件発明の課題に関連する記載について
上記課題における「連続繊維補強材の力学的な欠点」に関し、本件特許明細書の【0010】、【0016】、【0024】には、せん断剛性が低いことなどが記載され、さらに、同【0038】には、「以上のように、100年以上の使用に耐え得る超高耐久なコンクリート床版の実現には、錆びることのない連続繊維補強材の適用が理想的である。しかし、連続繊維補強材が有する力学的な欠点のために、これを適用したコンクリート床版は、従来の鉄筋やPC鋼より線などの鋼材を使用したコンクリート床版と比較して、せん断耐力、曲げ剛性、曲げひび割れの発生応力、曲げ靭性性能などの諸点で構造性能が劣っていた。」(下線は当審が付与した。)との記載があることから、本件発明における「連続繊維補強材の力学的な欠点」とは、せん断剛性が低いことなどを指し、これに起因して、連続繊維補強材を主補強材又は緊張材としたコンクリート構造物及びコンクリート床版においては、従来の鉄筋やPC鋼より線などの鋼材を使用した場合と比較して、せん断耐力、曲げ剛性、曲げひび割れの発生応力、曲げ靭性性能などの諸点で構造性能が劣るといった不具合が発現しているものと認められる。
そして、本件発明においては、連続繊維補強材のかかる力学的な欠点を補い、優れた特性を活かすべく、主補強材又は緊張材としての連続繊維補強材とともに、所定寸法の有機短繊維補強材を最大骨材径が13mm以上20mm以下の普通骨材を使用した高強度コンクリートに対して必要量混入することで、有機短繊維補強材がコンクリート中で架橋効果を発揮し、従来の鉄筋やPC鋼より線などの鋼材を使用したコンクリート床版と比較しても、せん断耐力、曲げ剛性、曲げひび割れの発生応力、曲げ靭性性能などの特性で同等以上の性能を発揮するようになったものと認められる(本件特許明細書の【0050】~【0052】、【0073】、【0074】、【0120】~【0122】、【0135】、【0166】等)。
実際、発明の詳細な説明の実施例をみると、連続繊維補強材として炭素繊維補強材またはアラミド繊維補強材を用い、短繊維補強材として所定寸法のポリプロピレン繊維を必要量用いたコンクリート構造物の具体例(【0110】~【0166】)においては、連続繊維補強材の上記力学的な欠点を短繊維補強材が補うことを当業者が理解することができ、上記課題を解決できると認識できるといえる。
エ 「当業者において課題解決できると認識できる範囲」の認定
上記ウのとおり、発明の詳細な説明の実施例の記載から、実施例に係るコンクリート構造物について、当業者は、本件発明の課題を解決することができるものと認識できるといえる。
そして、上記ウで示した、連続繊維補強材の力学的な欠点を補うことについての作用機序に照らすと、実施例に係るコンクリート構造物以外のコンクリート構造物において、FRP補強材及び有機繊維の材質を特定せずとも、棒状又はより線状のFRP補強材を主補強材又は緊張材として配設するとともに、所定寸法の有機繊維を必要量配合せしめれば、有機繊維からなる短繊維補強材がコンクリート中で架橋効果を発揮し、これによりFRP補強材である連続繊維補強材の上記力学的な欠点を補うものと考えられる以上、棒状又はより線状のFRP補強材を主補強材又は緊張材として配設するとともに、所定寸法の有機繊維を必要量配合せしめたコンクリート構造物の特性が上記実施例から遠くかけ離れたものとなるとは言い難い。
そうすると、上記実施例の記載や技術常識などに照らすと、上記実施例に記載された、連続繊維補強材として炭素繊維補強材またはアラミド繊維補強材を用い、短繊維補強材として所定寸法のポリプロピレン繊維を必要量用いたコンクリート構造物と同等の特性を発現し、もって、当業者が本件発明の課題が解決できると認識できる範囲として、訂正後の本件発明1が規定するような、
「FRP補強材である連続繊維補強材が主補強材又は緊張材として配設された構造体として機能するコンクリート構造物であって、
有機繊維からなる短繊維補強材が、最大骨材径が13mm以上20mm以下の普通骨材を使用した高強度コンクリートのコンクリート体積に対して0.5%以上2.5%以下混入され、
前記連続繊維補強材は、棒状又はより線状であり、
前記短繊維補強材の前記有機繊維の繊維長Lfとコンクリート配合の最大骨材径Gmとの比Lf/Gmが、1.2以上3.7以下であり、且つ、有機繊維の断面積を円換算した等価直径をDeとしたときのアスペクト比Lf/Deが、30以上69以下であるコンクリート構造物」を認めることができるから、結局、「当業者において課題解決できると認識できる範囲」は、本件発明1の範囲を包含するものと解するのが合理的である。
オ サポート要件適合性について
上記アの判断手法に照らして、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、上記エの「当業者において課題解決できると認識できる範囲」のものであるか否かを検討すると、上記エのとおり、本件発明1は、「当業者において課題解決できると認識できる範囲」のものであるし、本件発明2~7についても同様であるから、本件発明1~7について記載した特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号のサポート要件の規定に適合するというべきである。
カ 以上のとおりであるから、取消理由3には理由がない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要と当該特許異議申立理由についての当審の判断
異議申立人が主張する特許異議申立理由のうち、上記第4の取消理由において採用しなかった特許異議申立理由は、要するに、(i)甲第1号証に基づく進歩性欠如及び(ii)甲第6号証に基づく進歩性欠如であるが、これらの特許異議申立理由についても理由があるとはいえない。
以下、その理由について詳述する。
1 甲第1号証に基づく進歩性欠如について
甲第1号証は、本件特許に係るパリ条約による優先権主張日後の2019年(平成31年)4月25日に公開された公開特許公報であり、同優先権主張日後に公知となった文献であるから、同優先権主張日前に公知となった文献ではない。
そうすると、この優先権主張の適否が問題となるが、この点に関する異議申立人の主張は次のとおりである。
すなわち、異議申立人は、本件特許出願の優先権主張の基礎となる出願(特願2019-73822号)の明細書等を甲第12号証として提出し、同明細書等には、本件特許発明が規定する諸数値のうち、Lf/Gmが1.2以上1.4未満、2.3超3.7以下の範囲、及び、Lf/Deが60超69以下の範囲に属する実施例が記載されていないので、上記優先権主張は認められるべきでないというものである。
そこで検討するに、確かに、異議申立人の主張する通り、甲第12号証の明細書には、上記範囲に属する実施例は見当たらない。しかしながら、甲第12号証の特許請求の範囲をみると、その請求項1及び請求項3には、「Lf/Gmが、1.2以上3.7以下であり、且つ、・・・Lf/Deが、30以上69以下である」ことが記載されているし、同明細書の実施例をみても、そこには、当該請求項1、3に記載された数値範囲全体に対するものではないにしても、Lf/Gmが1.4以上2.3以下であり、且つ、Lf/Deが、30以上60以下の範囲に属するものが記載されているから、本件特許発明が規定する諸数値については、その基礎とされた出願の明細書等において、技術思想として記載されていたものと解するのが合理的であって、本件特許に係るパリ条約による優先権主張を認めることができる。
そうである以上、当該優先権主張は認められないとする異議申立人の主張を採用することはできないし、これを前提とする甲第1号証に基づく進歩性欠如についての申立も理由がないといわざるを得ない。
なお、仮に本件特許について優先権の主張が認められないとしても、甲第1号証に記載された発明は、主補強材としてPC鋼材を用いるものであって、FRP補強材である連続繊維補強材が主補強材又は緊張材として配設されるようなものではないし(第4の1(1)参照)、このPC鋼材はせん断剛性が高い材料であるから、これに替えてせん断剛性が低い炭素繊維やアラミド繊維といったFRPロッドを採用する動機付けは存在しないから、甲第1号証を公知文献として扱って主たる証拠としても本件発明の進歩性を否定することはできない。
2 甲第6号証に基づく進歩性欠如について
甲第6号証には、FRP補強材である連続繊維補強材が主補強材又は緊張材として配設されることは記載も示唆もされていない(第4の1(4)参照)。そして、PC鋼材よりもせん断剛性が低い炭素繊維やアラミド繊維といったFRP補強材を採用する動機付けも存在しない。
そして、本件発明は、FRP補強材である連続繊維補強材を主補強材又は緊張材として配設するとともに、所定寸法の有機繊維からなる短繊維補強材を必要量配合することで、FRP補強材である連続繊維補強材の力学的欠点であるせん断剛性などを架橋効果により補うことができるものであり、このような顕著な効果は、他の文献などをみても当業者が予測できないものである。
したがって、甲第6号証を主たる証拠として進歩性を否定することはできない。
第6 令和3年6月25日に提出された意見書における異議申立人の主張について
1 甲第1、2、5~11号証の記載に基づく本件発明1~7の進歩性欠如についての主張や、サポート要件違反についての主張に対する当審の判断は、上記第4、5に示したとおりであり、異議申立人の主張は認められない。
2 異議申立人は、上記意見書とともに新たに甲第13号証を提出し、甲第13号証の記載に基づく進歩性欠如を主張しているため、念のため、ここで検討をする。
<新たに提出された証拠>
甲第13号証:狩野武 他、超高耐久床版の疲労耐久性に関する実験的検討、三井住友建設技術研究開発報告、第16号、2018年
(1)甲第13号証は、甲第2号証を掲載するシンポジウム論文集に対応してオンラインで公開された報告書である。
甲第13号証には、甲第2号証と同様に、高強度繊維補強コンクリートを用いたプレキャスト床版であって、補強鉄筋やPC鋼材を一切使用せず、コンクリート内に混入されたビニロン短繊維と緊張材としてのアラミドFRPロッドによるプレストレスのみで補強されているプレキャスト床版が記載されており(28頁目「2. 超高耐久床版の概要」及び「3. 疲労耐久性の検討」を参照)さらに、表-2において、ビニロン繊維のアスペクト比が45であることが記載されている(28頁目右欄)。
(2)そうすると、甲第13号証には、
「アラミドFRPロッドが緊張材として配設された高強度繊維補強コンクリートを用いたプレキャスト床版であって、ビニロン短繊維がコンクリートに対して混入され、ビニロン短繊維のアスペクト比が45であるプレキャスト床版。」の発明(以下、「甲13発明」という。)が記載されていると認められる。
(3)本件発明1と甲13発明とを対比すると、甲13発明の「アラミドFRPロッド」は、本件発明1の「棒状」である「FRP補強材である連続繊維補強材」に相当し、甲13発明の「プレキャスト床版」は、高強度繊維補強コンクリートを用いたものであるから、本件発明1の「構造体として機能するコンクリート構造物」に相当し、甲13発明の「ビニロン短繊維」は、本件発明1の「有機繊維からなる短繊維補強材」に相当し、甲13発明の「ビニロン短繊維のアスペクト比が45である」は、本件発明1の「有機繊維の断面積を円換算した等価直径をDeとしたときのアスペクト比Lf/Deが、30以上69以下である」に相当する。
してみれば、本件発明1と甲13発明とは、
「FRP補強材である連続繊維補強材が緊張材として配設された構造体として機能するコンクリート構造物であって、有機繊維からなる短繊維補強材がコンクリートに対して混入され、有機繊維の断面積を円換算した等価直径をDeとしたときのアスペクト比Lf/Deが、30以上69以下であるコンクリート構造物。」
である点で一致し、少なくとも次の点で相違しているといえる。
・相違点13-1:有機繊維からなる短繊維補強材がコンクリートに対して混入された割合を、本件発明1は、コンクリート体積に対して0.5%以上2.5%以下としているのに対して、甲2発明は、上記割合を規定していない点。
・相違点13-2:本件発明1は、前記短繊維補強材の前記有機繊維の繊維長Lfとコンクリート配合の最大骨材径Gmとの比Lf/Gmが、1.2以上3.7以下であることが特定されているのに対して、甲2発明は、上記Lf/Gmが規定されていない点。
・相違点13-3:本件発明1は、前記短繊維補強材を混入する対象であるコンクリートが、最大骨材径が13mm以上20mm以下の普通骨材を使用した高強度コンクリートであることが特定されているのに対して、甲2発明は、そのことが規定されていない点。
(4)上記相違点13-1について検討する。
上記相違点13-1は、上記第4の2(1)イ(ア)における、本件発明1と甲2発明との相違点2-1と同一の相違点であり、その判断も、上記相違点2-1の場合と同様である。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1を、甲13発明及び甲第5~11号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(5)本件発明2~7についても、上記第4の2(1)イ(イ)、(ウ)での判断と同様であり、本件発明2~7を、甲13発明及び甲第5~11号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(6)以上のとおりであるから、甲第13号証に基づく異議申立人の主張は認められない。
第7 むすび
以上の検討のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件特許1~7を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1~7を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2020-700845