特許異議申立
2020-700366
懸架用コイルばね
- 審判番号
- 2020-700366
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-196036
- 登録番号
- 特許第6613095号(P6613095)
- 請求日
- 2020年05月27日
- 審決日
- 2021年01月29日
- 公報発行日
- 2021年05月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日本発條株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人スズエ国際特許事務所
- 【異議申立人】金澤 毅
- 審判長/審判官
- 審判長 平田 信勝
- 審判官 尾崎 和寛
- 審判官 杉山 健一
- 分類
- P1651.113-YAA(F16F) / P1651.121-YAA(F16F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6613095号発明「懸架用コイルばね」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6613095号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第6613095号の請求項1、3ないし5に係る特許を維持する。
特許第6613095号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6613095号の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成27年10月1日に出願され、令和1年11月8日にその特許権の設定登録がされ、同年11月27日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年5月27日:特許異議申立人金澤毅(以下、「異議申立人」とい
う。)による請求項1~5に係る特許に対する特許
異議の申立て
同年8月21日付け:取消理由通知書
同年10月29日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年12月21日 :異議申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
特許権者によって令和2年10月29日に提出された訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の内容は次のとおりである(下線は訂正箇所である。)。
・訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記素線の上端側の部分にポジティブピッチの巻端部を有し、この巻端部の先端にコイル中心軸に対しコイル径方向に片寄った位置の1箇所で前記上側のばね座に接する端末一点強当り部を有し」と記載されているのを、「前記素線の上端側の部分にポジティブピッチの巻端部を有し、この巻端部の先端にコイル中心軸に対しコイル径方向における車両内側に片寄った位置の1箇所で前記上側のばね座に接する端末一点強当り部を有し」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~5も同様に訂正する。)。
・訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記素線の下端側の部分には前記端末一点強当り部とは反対側に寄った位置において前記下側のばね座に接する座巻部を有した」と記載されているのを、「前記素線の下端側の部分には前記コイル中心軸に対し前記端末一点強当り部とは反対側の車両外側に寄った位置において前記下側のばね座に接する座巻部を有し、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~5も同様に訂正する。)。
・訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1における「座巻部を有し」の直後に、「 前記座巻部は、
前記コイルの中心軸に対し前記車両外側に寄った位置において、当該懸架用コイルばねに負荷される圧縮の荷重の大きさにかかわらず常に前記下側のばね座に接する第1の部分と、
前記圧縮の荷重が小さいときに前記下側のばね座から離れ、前記圧縮の荷重が大きくなると前記下側のばね座に接する第2の部分と、
を有し、」と加入訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~5も同様に訂正する。)。
・訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1における「ことを特徴とする懸架用コイルばね」の直前に、「 当該懸架用コイルばねが前記圧縮の荷重により圧縮された状態において、当該懸架用コイルばねの反発荷重の中心線である反力線位置が前記コイル中心軸に対し角度をなして前記圧縮の荷重の入力作用線に沿う方向に傾く」を加入訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~5も同様に訂正する。)。
・訂正事項5
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
・訂正事項6
特許請求の範囲の請求項3に「 前記ポジティブピッチの前記巻端部は、荷重が負荷された状態において前記素線の先端から0.4巻きまでの領域が前記上側のばね座に接するピッチ角を有したことを特徴とする請求項1または2に記載の懸架用コイルばね。」と記載されているのを、「 前記ポジティブピッチの前記巻端部は、荷重が負荷された状態において前記素線の先端から0.4巻きまでの領域が前記上側のばね座に接するピッチ角を有したことを特徴とする請求項1に記載の懸架用コイルばね。」に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項5も同様に訂正する。)。
・訂正事項7
特許請求の範囲の請求項4に「 前記端末一点強当り部に保護チップが設けられ、この保護チップが接する前記上側のばね座に受け部を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の懸架用コイルばね。」と記載されているのを、「 前記端末一点強当り部に保護チップが設けられ、この保護チップが接する前記上側のばね座に受け部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の懸架用コイルばね。」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5も同様に訂正する。)。
・訂正事項8
特許請求の範囲の請求項5に「 前記座巻部が車両外側に寄った位置に形成され、かつこの座巻部は、圧縮の荷重が負荷されていない状態においてネガティブピッチで、荷重が負荷された状態において前記下側のばね座に押されることによってポジティブピッチに変形することを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の懸架用コイルばね。」と記載されているのを、「 前記座巻部が車両外側に寄った位置に形成され、かつこの座巻部は、圧縮の荷重が負荷されていない状態においてネガティブピッチで、荷重が負荷された状態において前記下側のばね座に押されることによってポジティブピッチに変形することを特徴とする請求項3または4に記載の懸架用コイルばね。」に訂正する。
・訂正事項9
明細書の段落【0014】に「 本発明の1つの実施形態は、螺旋形に巻かれた素線からなり、上側のばね座と下側のばね座との間で圧縮される懸架用コイルばねであって、前記素線の上端側の部分にポジティブピッチの巻端部を有し、この巻端部の先端にコイル中心軸に対しコイル径方向に片寄った位置において1箇所で前記上側のばね座に接する端末一点強当り部を有し、かつ、前記素線の下端側の部分には、前記端末一点強当り部とは反対側の位置(例えば車両外側)において前記下側のばね座に接する座巻部を有している。」と記載されているのを、「 本発明の1つの実施形態は、螺旋形に巻かれた素線からなり、上側のばね座と下側のばね座との間で圧縮される懸架用コイルばねであって、前記素線の上端側の部分にポジティブピッチの巻端部を有し、この巻端部の先端にコイル中心軸に対しコイル径方向における車両内側に片寄った位置において1箇所で前記上側のばね座に接する端末一点強当り部を有し、かつ、前記素線の下端側の部分には、前記コイル中心軸に対し前記端末一点強当り部とは反対側の車両外側に寄った位置において前記下側のばね座に接する座巻部を有している。前記座巻部は、前記コイル中心軸に対し前記車両外側に寄った位置において、当該懸架用コイルばねに負荷される圧縮の荷重の大木債にかかわらず常に前記下側のばね座に接する第1の部分と、前記圧縮の荷重が小さいときに前記下側のばね座から離れ、前記圧縮の荷重が大きくなると前記下側のばね座に接する第2の部分と、を有している。当該懸架用コイルばねが前記圧縮の荷重により圧縮された状態において、当該懸架用コイルばねの反発荷重の中心線である反力線位置が前記コイル中心軸に対し角度をなして前記圧縮の荷重の入力作用線に沿う方向に傾く。」に訂正する。
訂正前の請求項1~5について、請求項2~5は請求項1の記載を直接的又は間接的に引用しているものであるから、特許請求の範囲の記載を訂正する訂正事項1~8は、一群の請求項〔1~5〕に対して請求されたものである。
また、明細書の記載を訂正する訂正事項9は、一群の請求項〔1~5〕について請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1における、端末一点強当り部が上側のばね座に接する位置を、訂正後において「車両内側」に更に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は、願書に添付した明細書(以下、単に「明細書」という。)の段落【0025】の記載に基づいているといえるから、新規事項の追加には当たらない。
さらに、訂正事項1は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項1における、座巻部が下側のばね座に接する位置を、訂正後において「コイル中心軸に対し」「車両外側」に更に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2は、明細書の段落【0026】の記載に基づいているといえるから、新規事項の追加には当たらない。
さらに、訂正事項2は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項1における、座巻部の構成を更に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項3は、明細書の段落【0022】及び【0026】の記載に基づいているといえるから、新規事項の追加には当たらない。
さらに、訂正事項3は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4
訂正事項4は、請求項1における、懸架用コイルばねについて、発明特定事項を直列的に付加することによって更に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項4は、明細書の段落【0027】並びに願書に添付した図面の【図1】及び【図2】の記載に基づいているといえるから、新規事項の追加には当たらない。
さらに、訂正事項4は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)訂正事項5
訂正事項5は、訂正前の請求項2の記載を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加には当たらず、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(6)訂正事項6~8
訂正事項6~8は、訂正事項5により請求項2を削除することにともない、訂正後の請求項3~5において、引用請求項を削除し、請求項間の引用関係の整合性を保つものである。
したがって、訂正事項6~8は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項6~8は、新規事項の追加には当たらず、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(7)訂正事項9
訂正事項9は、訂正事項1~4にともなって生じる、特許請求の範囲の記載と明細書の記載の不整合を解消するための訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加には当たらず、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求に係る訂正事項1~9は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件特許発明
本件訂正請求により訂正された請求項1及び3~5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」及び「本件発明3」~「本件発明5」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1及び3~5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
[本件発明1]
「螺旋形に巻かれた素線からなり、上側のばね座と下側のばね座との間で圧縮される懸架用コイルばねであって、
前記素線の上端側の部分にポジティブピッチの巻端部を有し、この巻端部の先端にコイル中心軸に対しコイル径方向における車両内側に片寄った位置の1箇所で前記上側のばね座に接する端末一点強当り部を有し、かつ、
前記素線の下端側の部分には前記コイル中心軸に対し前記端末一点強当り部とは反対側の車両外側に寄った位置において前記下側のばね座に接する座巻部を有し、
前記座巻部は、
前記コイルの中心軸に対し前記車両外側に寄った位置において、当該懸架用コイルばねに負荷される圧縮の荷重の大きさにかかわらず常に前記下側のばね座に接する第1の部分と、
前記圧縮の荷重が小さいときに前記下側のばね座から離れ、前記圧縮の荷重が大きくなると前記下側のばね座に接する第2の部分と、
を有し、
当該懸架用コイルばねが前記圧縮の荷重により圧縮された状態において、当該懸架用コイルばねの反発荷重の中心線である反力線位置が前記コイル中心軸に対し角度をなして前記圧縮の荷重の入力作用線に沿う方向に傾くことを特徴とする懸架用コイルばね。」
[本件発明3]
「前記ポジティブピッチの前記巻端部は、荷重が負荷された状態において前記素線の先端から0.4巻きまでの領域が前記上側のばね座に接するピッチ角を有したことを特徴とする請求項1に記載の懸架用コイルばね。」
[本件発明4]
「前記端末一点強当り部に保護チップが設けられ、この保護チップが接する前記上側のばね座に受け部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の懸架用コイルばね。」
[本件発明5]
「前記座巻部が車両外側に寄った位置に形成され、かつこの座巻部は、圧縮の荷重が負荷されていない状態においてネガティブピッチで、荷重が負荷された状態において前記下側のばね座に押されることによってポジティブピッチに変形することを特徴とする請求項3または4に記載の懸架用コイルばね。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由の概要
訂正前の請求項1~5に係る特許に対して、当審が特許権者に対して令和2年8月21日付けで通知した取消理由の概要は次のとおりである。
・請求項1及び2に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知・慣用の構成に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
・請求項3に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献1、2に記載の事項及び周知・慣用の構成に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、請求項3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
・請求項4及び5に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献1~3に記載の事項及び周知・慣用の構成に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、請求項4及び5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
引用文献1:仏国特許出願公開第2540586号明細書
引用文献2:国際公開第2014/181872号
引用文献3:特開昭60-85003号公報
引用文献1~3は、それぞれ、異議申立人が提出した甲第1号証~甲第3号証である。
第5 当審の判断
1 引用文献1の記載事項等
(1)引用文献1の記載事項
引用文献1には、図面と共に次の記載がある(訳は、異議申立人が提出した訳を参考に、当審で作成したものである。)。
ア(第1ページ第4行~第7行)
当審訳「本発明は、ばねとそのカップの少なくとも1つの新しい組合せに関し、この組合せは、マクファーソンサスペンション懸架装置を製造するために特に使用可能である。」
イ(第5ページ第25行~第28行)
当審訳「フランジ3、4が設けられた2つのカップ1と2の間に配置された本発明によるばねRは、螺旋状に巻かれた金属ワイヤのいくつかのアクティブターン5からなり、各端部で支持ターン6、7によって終端される。」
ウ(第5ページ第29行~第6ページ第3行)
当審訳「本発明によれば、螺旋状に巻かれた支持ターン6の1つは、ばねRのアクティブターン5の軸9の外側にその中心8を有し、カップ1と角度αを形成する。その直径はアクティブターン5の直径よりも小さいため、このターン6はあまり曲がらず、ばねRのストロークの大部分の間、カップ1と単一の接点10を保持する。ただし、高負荷では、10の圧力が非常に強いままであれば、カップ1との接触が少し広がっていると想定できます。」
エ(第6ページ第4行~第21行)
当審訳「ばねRの自由端10がカップ1に斜めに接触した結果、ばねによってカップ1に及ぼされる力は水平成分Hを有し、カップ1に加えられる力の合力Fの方向は、ばねの軸9に対して傾斜する。その反作用として、他のカップ2に加えられた力の合力F‘は等しく反対になり、カップ2とカップ2に加えられた支持ターン7の形状に関係なく同じ傾きになる。しかしながら、このターンが従来の形状を有する場合、結果として生じるF及びF’は、ばねの軸を通過せず、それらの向きβ(図2を参照)は、負荷と共に変化する傾向があることが分かる。支持ターン7とそのカップ2の間に角度γを設けることで、支持ターン7とカップ2の接触点11を同じ垂直平面に配置してばね軸を通過させる結果、ばねの軸に通して、この一定の方向を維持する。言い換えると、2つの自由端10及び11並びにアクティブターン軸9は同じ平面内にある。」
(2)引用文献1に記載の発明
ア 引用文献1の記載及び当業者における技術的常識から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているといえる。
・マクファーソンサスペンションは車両の懸架装置に用いられるものである。
・螺旋状に巻かれた金属ワイヤのいくつかのアクティブターン5及び各端部で支持ターン6、7によって終端され、2つのカップ1と2の間に配置されるマクファーソンサスペンションに使用されるばねR(上記摘記(1)ア及びイ)。
・ばねRの螺旋状に巻かれた支持ターン6は、カップ1と角度αを形成し、支持ターン6は、ばねRのストロークの大部分の間、カップ1との単一の接触点10を保持するものである(上記摘記(1)ウ)。
・接触点10は、軸9に対して、ばねRの径方向における車両内側に片寄った位置にある(Fig.2)。
・螺旋状に巻かれた支持ターン7は、カップ2との接触点11を保持するものであり、接触点11は、ばねRの軸9に対して、ばねRの接触点10とは反対側の、車両外側に寄った位置にある(上記摘記(1)エ及びFig.2)。
イ 上記引用文献1に記載の技術的事項より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「螺旋状に巻かれた金属ワイヤのいくつかのアクティブターン5及び各端部で支持ターン6、7によって終端され、2つのカップ1と2の間に配置される車両のマクファーソンサスペンションに使用されるばねRであって、
前記支持ターン6は、前記カップ1と角度αを形成し、ばねRのストロークの大部分の間、カップ1との単一の接触点10を保持するものであり、
前記接触点10は、軸9に対して、ばねRの径方向における車両内側に片寄った位置にあり、
前記支持ターン7は、前記カップ2との接触点11を保持するものであり、前記接触点11は前記ばねRの軸9に対して、前記接触点10とは反対側の、車両外側に寄った位置にある、
車両のマクファーソンサスペンションに使用されるばねR。」
2 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「車両」は、本件発明1の「車両」に相当し、また、引用発明の「金属ワイヤ」は、本件発明1の「素線」に相当する。
引用発明の「カップ1」は、上側のばね座といえるから、本件発明1の「上側のばね座」に相当し、同様に「カップ2」は、「下側のばね座」に相当する。
引用発明の「ばねR」は、マクファーソンサスペンションという車両の懸架装置に用いられる、「いくつかのアクティブターン5及び各端部で支持ターン6、7によって終端され」るコイルばねであり、また、機構上カップ1と2の間で圧縮配置されるものであることは明らかである。
したがって、引用発明の「ばねR」及び「ばねRの軸9」は、本件発明1の「懸架用コイルばね」及び「コイル中心軸」に相当し、引用発明の「螺旋状に巻かれた金属ワイヤのいくつかのアクティブターン5及び各端部で支持ターン6、7によって終端され、2つのカップ1と2の間に配置される車両のマクファーソンサスペンションに使用されるばねR」は、本件発明1の「螺旋状に巻かれた素線からなり、上側のばね座と下側のばね座との間で圧縮される懸架用コイルばね」に相当する。
引用発明の「支持ターン6」は、当該支持ターン6に保持された接触点10によって、カップ1に接触するものであるから、本件発明1の「素線の上端側の部分」の「巻端部」に相当する。
引用発明の「前記カップ1と角度αを形成」していることは、本件発明の「ポジティブピッチ」「を有し」ていることに相当する。
したがって、引用発明の「前記支持ターン6は、前記カップ1と角度αを形成し」ていることは、本件発明1の「前記素線の上端側の部分にポジティブピッチの巻端部を有し」ていることに相当する。
引用発明の「接触点10」は、「ばねRのストロークの大部分の間、カップ1との単一の接触点10」となるものであるから、本件発明1の「端末一点強当り部」に相当する。
また、引用発明の「接触点10」は、「支持ターン6」の端部に保持されるものであり、「軸9に対して、ばねRの径方向における車両内側に片寄った位置にあ」るから、ばねRの中心の軸9に対し、ばね径方向における車両内側に片寄った位置にあるといえる。
したがって、引用発明の、「前記支持ターン6は、前記カップ1と角度αを形成し、ばねRのストロークの大部分の間、カップ1との単一の接触点10を保持するものであり、前記接触点10は、軸9に対して、ばねRの径方向における車両内側に片寄った位置にあ」ることは、本件発明1の「前記素線の上端側の部分にポジティブピッチの巻端部を有し、この巻端部の先端にコイル中心軸に対しコイル径方向における車両内側に片寄った位置の1箇所で前記上側のばね座に接する端末一点強当り部を有」することに相当する。
引用発明の「支持ターン7」は、当該支持ターン7に保持された接触点11によって、カップ2に接触するものであるから、本件発明1の「素線の下端側の部分」に相当する。
引用発明の「接触点11」は、カップ2と接触する部分であるから、本件発明1の「ばね座に接する座巻部」との対比において、「ばね座に接する部分」との限度で共通する。
また、引用発明の「接触点11」は、「前記ばねRの軸9に対して、前記接触点10とは反対側の、車両外側に寄った位置にある」ものである。
したがって、引用発明の、「前記支持ターン7は、前記カップ2との接触点11を保持するものであり、前記接触点11は前記ばねRの軸9に対して、前記接触点10とは反対側の、車両外側に寄った位置にある」ことは、本件発明1の「前記素線の下端側の部分には前記コイル中心軸に対し前記端末一点強当り部とは反対側の車両外側に寄った位置において前記下側のばね座に接する座巻部を有」することとの対比において、「前記素線の下端側の部分には前記コイル中心軸に対し前記端末一点強当り部とは反対側の車両外側に寄った位置において前記下側のばね座に接する部分を有」するとの限度で共通する。
以上のとおりであるから、本件発明1と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりとなる。
[一致点]
「螺旋形に巻かれた素線からなり、上側のばね座と下側のばね座との間で圧縮される懸架用コイルばねであって、
前記素線の上端側の部分にポジティブピッチの巻端部を有し、この巻端部の先端にコイル中心軸に対しコイル径方向における車両内側に片寄った位置の1箇所で前記上側のばね座に接する端末一点強当り部を有し、かつ、
前記素線の下端側の部分には前記コイル中心軸に対し前記端末一点強当り部とは反対側の車両外側に寄った位置において前記下側のばね座に接する部分を有した懸架用コイルばね。」
[相違点1]
本件発明1は、懸架用コイルばねを構成する素線の下端側の部分に「前記コイルの中心軸に対し前記車両外側に寄った位置において、当該懸架用コイルばねに負荷される圧縮の荷重の大きさにかかわらず常に前記下側のばね座に接する第1の部分と、前記圧縮の荷重が小さいときに前記下側のばね座から離れ、前記圧縮の荷重が大きくなると前記下側のばね座に接する第2の部分と、を有」する「座巻部」を有しているのに対し、引用発明は、「接触点11」を有しているものである点。
[相違点2]
本件発明1は、「当該懸架用コイルばねが前記圧縮の荷重により圧縮された状態において、当該懸架用コイルばねの反発荷重の中心線である反力線位置が前記コイル中心軸に対し角度をなして前記圧縮の荷重の入力作用線に沿う方向に傾く」ものであるのに対し、引用発明は、ばねRについてかかる特定がされていない点。
3 判断
(1)引用文献1の「このターンが従来の形状を有する場合、結果として生じるF及びF’は、ばねの軸を通過せず、それらの向きβ(図2を参照)は、負荷と共に変化する傾向があることが分かる。支持ターン7とそのカップ2の間に角度γを設けることで、支持ターン7とカップ2の接触点11を同じ垂直平面に配置してばね軸を通過させる結果、ばねの軸に通して、この一定の方向を維持する。言い換えると、2つの自由端10及び11並びにアクティブターン軸9は同じ平面内にある。」(上記摘記(1)エ)との記載からすれば、引用発明は、ばねにかかる負荷の状態によらず、支持ターン7とカップ2が常に接触点11で接触することによって、接触点10がカップ1に作用する力の合力Fと接触点11がカップ2に作用する力の合力F’とが作用する軸がばね軸9を通過するように構成しているものといえる。
そうしてみると、仮令、懸架用コイルばねの素線の下端部の部分に座巻部を設けることが周知・慣用の構成であり、かかる座巻部が、懸架用コイルばねに負荷される圧縮の荷重の大きさにかかわらず常に下側のばね座に接する第1の部分と、圧縮の荷重が小さいときに下側のばね座から離れ、圧縮の荷重が大きくなると下側のばね座に接する第2の部分とからなるものであったとしても、かかる座巻部、すなわち、下側のばね座に対するコイルばねの端部の接触する接触点の位置が変化しうる座巻部を引用発明における接触点11に代えて用いる動機付けはないというべきである。
したがって、相違点1は実質的な相違点であるといえ、また、引用発明において、相違点1に係る本件発明1の構成となすことは、当業者であっても容易に想到しうるものとはいえない。
よって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、引用文献2、3及び異議申立人の提出した甲第4号証には、引用発明において相違点1に係る本件発明1の構成と成すことが容易であることについては、記載も示唆もされていない。
(2)本件発明3~5は、本件発明1を更に減縮したものであるから、本件発明3~5と引用発明との間には、少なくとも相違点1が存在することとなり、本件発明1と同様の理由により、引用発明、あるいは、引用発明及び引用文献2、3に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)異議申立人による令和2年12月21日提出の意見書の中での主張は、概略次のとおりである。
ア 本件発明1の「座巻部」について、素線とばね座との接触長などの接触態様について何ら特定していない以上、引用発明の「接触点11」との間に実質的な相違はない。(第2ページ下から5行~第3ページ第15行)
イ 高負荷状態で懸架コイルの上端部のみならず下端部の接触状態も変化することは自明な事項にすぎない。(第3ページ第17行~第28行)
ウ 上記イより、引用発明の接触点11を座巻部とすることは実質的に引用文献1に開示されているから、引用発明における接触点11に代えて座巻部を設けることには動機付けが存在しないとの特許権者の主張は当を得ない。(第4ページ第5行~末行)
しかしながら、上記(1)に説示のとおり、引用発明は、ばねにかかる負荷の状態によらず、支持ターン7とカップ2が常に接触点11で接触することによって、接触点10がカップ1に作用する力の合力Fと接触点11がカップ2に作用する力の合力F’とが作用する軸がばね軸9を通過するように構成しているものといえるから、高負荷状態で懸架コイルの下端部の接触状態が変化することがあるとしても、それは、接触点10がカップ1に作用する力の合力Fと接触点11がカップ2に作用する力の合力F’とが作用する軸がばね軸9を通過するものであるという、引用発明の趣旨を逸脱しない程度の範囲で変化するように構成したもの(そのためにターン7とカップ2との間に角度γを設けている)といえるから、異議申立人の上記ア及びイの主張は採用できない。
また、下側のばね座に対するコイルばねの端部の接触する接触点の位置が変化しうる座巻部を引用発明における接触点11に代えて用いる動機付けがないことは、上記(1)に説示のとおりであるから、異議申立人の上記ウの主張も採用できない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由(特許異議申立書に記載した特許異議申立て理由)によっては、本件請求項1及び3~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1及び3~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項2に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、異議申立人による特許異議申立てについて、請求項2に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2020-700366