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特許異議申立

2020-700218

農業用フィルム及び農園芸用施設

審判番号
2020-700218
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-067032
登録番号
特許第6584706号(P6584706)
請求日
2020年03月31日
審決日
2021年03月05日
公報発行日
2021年07月30日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】住友化学株式会社
  • 【権利者代理人】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
  • 【権利者】サンテーラ株式会社
  • 【権利者代理人】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
  • 【異議申立人】古郡 裕介
審判長/審判官
  • 審判長 住田 秀弘
  • 審判官 森次 顕
  • 審判官 土屋 真理子
分類
P1651.113-YAA(C08J) / P1651.121-YAA(C08J) / P1651.536-YAA(C08J) / P1651.537-YAA(C08J)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第2号、特許法第126条第5項、特許法第113条第2号、特許法第113条第4号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第2条第3項第1号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6584706号発明「農業用フィルム及び農園芸用施設」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6584706号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6584706号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6584706号(以下「本件特許」という。)に係る特許出願は、平成31年3月29日に出願され、令和1年9月13日にその特許権の設定登録がされ、同年10月2日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後の特許異議の申立ての経緯は以下のとおりである。 令和 2年 3月31日   特許異議申立人古郡裕介(以下「申立人」と いう。)による請求項1ないし5に係る発明 の特許に対する特許異議の申立て 同年 6月15日付け 取消理由通知 同年 8月18日   特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 同年10月 5日   申立人による意見書の提出 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 令和2年8月18日提出の訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)による訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)に係る訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし5について訂正することを求めるものであり、その内容は以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。以下同様。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、 「(B)下記式(1)により算出される線膨張係数が1.7×10-4K-1以上2.6×10-4K-1以下、」 とあるのを、 「(B)下記式(1)により算出される線膨張係数が1.8×10-4K-1以上2.6×10-4K-1以下、」 と訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に、 「線膨張係数=(L25℃-L0℃)/(25℃-0℃)(1) ここで、L25℃は25℃における当該フィルム表面に対して垂直方向の当該フィルムの長さを表し、L0℃は0℃における当該フィルム表面に対して垂直方向の当該フィルムの長さを表す。」 とあるのを、 「線膨張係数=1/L×(L25℃-L0℃)/(25℃-0℃)(1) ここで、L25℃は25℃における当該フィルム表面に対して垂直方向の当該フィルムの長さを表し、L0℃は0℃における当該フィルム表面に対して垂直方向の当該フィルムの長さを表し、Lは室温における当該フィルム表面に対して垂直方向の当該フィルムの長さを表す。」 と訂正する。 (3)訂正事項3 明細書の段落【0008】に、 「線膨張係数=(L25℃-L0℃)/(25℃-0℃)(1) ここで、L25℃は25℃における当該フィルム表面に対して垂直方向の当該フィルムの長さを表し、L0℃は0℃における当該フィルム表面に対して垂直方向の当該フィルムの長さを表す。」 とあるのを、 「線膨張係数=1/L×(L25℃-L0℃)/(25℃-0℃)(1) ここで、L25℃は25℃における当該フィルム表面に対して垂直方向の当該フィルムの長さを表し、L0℃は0℃における当該フィルム表面に対して垂直方向の当該フィルムの長さを表し、Lは室温における当該フィルム表面に対して垂直方向の当該フィルムの長さを表す。」 と訂正する。 (4)訂正事項4 明細書の段落【0014】に、 「線膨張係数=(L25℃-L0℃)/(25℃-0℃)(1) ここで、L25℃は25℃におけるフィルム表面に対して垂直方向のフィルムの長さであり、L0℃は0℃におけるフィルム表面に対して垂直方向のフィルムの長さである。」 とあるのを、 「線膨張係数=1/L×(L25℃-L0℃)/(25℃-0℃)(1) ここで、L25℃は25℃におけるフィルム表面に対して垂直方向のフィルムの長さであり、L0℃は0℃におけるフィルム表面に対して垂直方向のフィルムの長さである。Lは室温における当該フィルム表面に対して垂直方向の当該フィルムの長さを表す。」 と訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件及び一群の請求項 (1)訂正事項1について ア.訂正の目的の適否 上記訂正事項1に係る訂正は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1について、「線膨張係数」の数値範囲を訂正前の「1.7×10-4K-1以上2.6×10-4K-1以下」から訂正後の「1.8×10-4K-1以上2.6×10-4K-1以下」へと縮小するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ.新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (ア)本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)の段落【0151】には以下の記載がある(なお、【表1】及び【表2】は当審で横向きに回転した。)。 「【表1】 【表2】 」 (イ)上記【表2】の「線膨張係数」の行に「0℃から25℃まで」及び「×10-4K-1」と記載され、さらに「実施例」の「実4」の欄に「1.8」と記載されていることから、実施例4の場合の「0℃から25℃まで」における「線膨張係数」が「1.8×10-4K-1」であることが理解できる。 (ウ)そうすると、訂正事項1に係る訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものといえる。 (エ)また、訂正事項1は、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (オ)訂正事項1は、請求項1を引用する請求項2ないし5についても同様に訂正するものであるが、かかる訂正についても、上記と同様に本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (カ)したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (2)訂正事項2について ア.訂正の目的の適否 訂正事項2に係る訂正は、「線膨張係数」を算出する式を訂正するものであるところ、訂正前の請求項1の「線膨張係数=(L25℃-L0℃)/(25℃-0℃)」との式(以下「訂正前の式(1)」という。)及び「ここで、L25℃は25℃における当該フィルム表面に対して垂直方向の当該フィルムの長さを表し、L0℃は0℃における当該フィルム表面に対して垂直方向の当該フィルムの長さを表す。」との記載によれば、「線膨張係数」は、「長さ」を「℃」(温度)で除したものであるから、その単位は「長さ/℃」(長さ/温度)となる一方、訂正前の請求項1における「1.7×10-4K-1以上2.6×10-4K-1以下」との記載においては「線膨張係数」の単位は「K-1」(1/温度)とされているから、訂正前の請求項1においては「線膨張係数」の式と単位とが整合していなかった。 しかしながら、日本産業規格 JIS K 7197「プラスチックの熱機械分析による線膨脹率試験方法」において、「線膨張係数」に相当する「平均線膨張率αSP」を求める式を ここに, αSP:平均線膨張率(℃-1) L0:室温での試験片の長さ(μm) T1:平均線膨張率を求める低温側温度(℃) T2:平均線膨張率を求める高温側温度(℃) ΔLspm:試験片についてのT1のときの長さとT2のとき の長さの差[(T2のときの長さ)-(T1のときの長さ)] の測定値(μm) ΔLRefm:長さ校正用の標準試験片についてのT1のとき の長さとT2のときの長さの差[(T2のときの長さ)-(T 1のときの長さ)]の測定値(μm) αRef:長さ校正用の標準試験片T1-T2間での平均線膨 張率の計算値(℃-1) としていることなどからみて、訂正前の式(1)が「線膨張係数」を算出する式であればその右辺を「室温での長さ」で除すべきものであって、訂正前の式(1)は「線膨張係数」を算出する式としては明らかな誤りを含むものであると認められる。 そして、請求項1に「L25℃は25℃における当該フィルム表面に対して垂直方向の当該フィルムの長さを表し、L0℃は0℃における当該フィルム表面に対して垂直方向の当該フィルムの長さを表す。」と記載されていることからして、請求項1において「線膨張係数」を算出する際に用いられる「室温での長さ」が、「L25℃」や「L0℃」と同様に「フィルム表面に対して垂直方向の当該フィルムの長さ」であることは明らかである。 そうすると、上記訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。 イ.新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (ア)上記「ア.」で検討したとおり、訂正事項2に係る訂正は、誤記の訂正を目的とするものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものといえる。 (イ)また、訂正事項2に係る訂正は、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (ウ)訂正事項2は、請求項1を引用する請求項2ないし5についても同様に訂正するものであるが、かかる訂正についても、上記と同様に本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (エ)したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (3)訂正事項3及び4について ア.上記訂正事項3及び4に係る訂正はいずれも、上記訂正事項2に係る訂正に伴い特許請求の範囲と明細書の記載を整合させる訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ.また、当該訂正は、上記訂正事項2に係る訂正と同様に、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ.したがって、訂正事項3及び4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (4)独立特許要件について 本件特許異議の申立は、訂正前の全ての請求項に対してされているので、本件訂正に関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 (5)一群の請求項について 訂正事項1に係る訂正前の請求項1ないし5は、請求項2ないし5がそれぞれ請求項1を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1ないし5に対応する訂正後の請求項1ないし5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 そして、訂正事項1ないし4に係る訂正は、本件訂正前の請求項1ないし5に関係する訂正であるから、本件訂正請求は一群の請求項ごとにされたものである。 3.小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第6項及び第7項の規定に適合するので、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 第3 本件訂正特許発明 本件訂正請求により訂正された請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正特許発明1」ないし「本件訂正特許発明5」といい、全体を「本件訂正特許発明」と総称する。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 連続相と分散相とからなる層を少なくとも1層有し、下記(A)及び(B)を満たす農業用フィルム; (A)当該フィルム表面に対して垂直方向、且つ当該フィルム面内の遅相軸と平行方向に切断した断面において、前記分散相のうち円相当径が1μm以上10μm以下である分散相の断面の面積の比率が、前記層の断面の面積に対して1%以上30%以下、 (B)下記式(1)により算出される線膨張係数が1.8×10-4K-1以上2.6×10-4K-1以下、 線膨張係数=1/L×(L25℃-L0℃)/(25℃-0℃)(1) ここで、L25℃は25℃における当該フィルム表面に対して垂直方向の当該フィルムの長さを表し、L0℃は0℃における当該フィルム表面に対して垂直方向の当該フィルムの長さを表し、Lは室温における当該フィルム表面に対して垂直方向の当該フィルムの長さを表す。 【請求項2】 前記連続相は熱可塑性樹脂を含む請求項1に記載の農業用フィルム。 【請求項3】 前記熱可塑性樹脂はポリオレフィン系樹脂である請求項2に記載の農業用フィルム。 【請求項4】 前記分散相に含まれる成分の屈折率は、1.50以上1.53以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の農業用フィルム。 【請求項5】 請求項1~4のいずれか一項に記載の農業用フィルムが農園芸用施設フレームに展張された農園芸用施設。」 第4 特許異議申立理由の概要及び証拠 1.特許異議申立理由の概要 申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、概ね以下の申立理由を主張するとともに、証拠方法として、以下の「2.」に示す各甲号証(以下、各甲号証を「甲1」等、各甲号証に係る発明を「甲1発明」等ということがある。)を提出している。 (1)本件請求項1~3,5の各発明は、本件特許出願の出願日に、日本国内で公然実施をされた発明であるから、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 (2)本件請求項1~3,5の各発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 (3)本件請求項2~5の各発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 (4)本件請求項1~5の各発明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 (5)本件請求項1~5の各発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 (6)本件請求項1~5の各発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 2.申立書に添付して提出された証拠方法 甲第1号証:三菱樹脂アグリドリーム株式会社、「美サンランダイヤスター(登録商標)」カタログ、2013年5月20日 甲第2号証:実験成績証明書 甲第3号証:特開2015-112746号公報 甲第4号証:特開2006-248043号公報 甲第5号証:特開2014-209903号公報 甲第6号証:片倉コープアグリ株式会社、「無機素材事業」、URL:http://www.katakuraco-op.com/sp/business/inorganic.html 第5 取消理由通知に記載した取消理由の概要 令和2年6月15日付け取消理由通知に記載した取消理由の概要は以下のとおりである。 1.本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし5の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 2.本件特許の請求項1ないし3及び5に係る発明は、本件特許の出願前に公然実施をされた発明と同一であって、特許法第29条第1項第2号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 3.本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前に公然実施をされた発明、及び、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲第3号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 第6 取消理由通知に記載した取消理由についての当審の判断 1.特許法第36条第6項第2号について 訂正前の請求項1における「1.7×10-4K-1以上2.6×10-4K-1以下」との記載によれば「線膨張係数」の単位は「K-1」(1/温度)であると認められる一方、訂正前の請求項1の「線膨張係数=(L25℃-L0℃)/(25℃-0℃)」(訂正前の式(1))及び「ここで、L25℃は25℃における当該フィルム表面に対して垂直方向の当該フィルムの長さを表し、L0℃は0℃における当該フィルム表面に対して垂直方向の当該フィルムの長さを表す。」との記載によれば、「線膨張係数」は、「長さ」を「℃」(温度)で除したものであるから、その単位は「長さ/℃」(長さ/温度)であると解されるため、訂正前の請求項1の記載は「線膨張係数」の単位が、「K-1」(1/温度)であるのか、「長さ/℃」(長さ/温度)であるのかが不明であった。 また、仮に「線膨張係数」の単位が式(1)に基づく「長さ/℃」である場合、「長さ」の単位が不明であるから、「長さ/℃」で表される「線膨張係数」の値も不明であった。 しかしながら、本件訂正により、請求項1の全体を通じて「線膨張係数」の単位が温度の逆数である「K-1」とされ、長さの単位に依存することなく定まることとなったため、本件訂正発明1及び請求項1の記載を引用して記載された本件訂正発明2ないし5は明確となった。 よって、本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし5の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものである。 2.特許法第29条第1項第2号及び同条第2項について (1)各甲号証について ア.甲第1号証及び甲第2号証 (ア)甲第1号証 特許異議申立書に添付された甲第1号証には以下の記載等がある(下線は当審で付した。以下同様。)。 a.「耐久無滴散乱光農POフィルム 美サンラン(R)(当審注:「(R)」は○の中にRを表す。以下同様。)ダイヤスター(R) 「美サンラン」の新しい光がハウス全体にゆきわたります。 ハウスの外から中の見え方比較 美サンランダイヤスター ダイヤスター」(第1ページ) b.「ハウスの中に入る光線が適度な散乱光となり、ハウス全体に光がゆきわたります。」(第2ページ上部) c.「三菱樹脂アグリドリーム株式会社 (中略) 13.05.20.L(K)」(第2ページ下部) d.上記「a.」の記載を踏まえると、第1ページの写真からは、「耐久無滴散乱光農POフィルム美サンランダイヤスターがフレームに展帳されたハウス」を看取することができる。 (イ)甲第2号証 特許異議申立書に添付された甲第2号証には以下の記載等がある。 a.「三菱ケミカルアグリドリーム社(三菱樹脂アグリドリーム社の現在の社名)製の「美サンランダイヤスター(登録商標)」を入手し、円相当径1μm以上10μm以下の分散相の断面積比率と、線膨張係数を測定した。」(第2ページ第2~4行) b.「(1)フィルム断面の観察 凍結させたサンプルを、フィルム表面に対して垂直方向、且つ前記位相差測定装置を用いて求めたフィルム面内の遅相軸と平行方向に、ロータリーミクロトームで切断した。切断した断面をマイクロスコープ VHX-5000(キーエンス社)、レンズ VH-ZST(キーエンス社)を使用して、500倍で観察、撮影した。」(第2ページ第6~10行) c.「(2)分散相の断面積比率の測定方法 上記写真を用いて、粒子含有層中の粒子の面積を計測した。計測結果より分散相比率を計算した。結果を表1に示す。」(第2ページ下から4行~下から2行) d.「2.線膨張係数の測定方法 (1)フィルム長さの測定 フィルムから5mm×5mmの試験片を切り出し、圧縮モードに設定した熱機械分析装置(製品名:TMA402 F1 Hyperion(NETZSCH社製))にセットし、荷重を0.05Nとし、試験片を-15℃以下まで冷却した。その後、5℃/minの速度で、60℃まで昇温しながら、0℃及び25℃における表面に垂直な方向の長さ、すなわち厚さを測定した。なお、測定はヘリウム雰囲気下(フロー70ml/min)で行った。 測定結果を添付する。添付のグラフに示すように、測定時初期温度26℃での長さ(L26℃)は151.000μmであり、L0℃は150.298μmであり、L25℃は150.975μmであり、(L25℃-L0℃)は0.677μmであった。 (2)線膨張係数の算出 (中略) 式(1/L26℃)×(L25℃-L0℃)/(25℃-0℃)を用いて、L25℃とL0℃の単位をμmとして算出すると、(1/151)×0.677/25となり線膨張係数は、1.79×10-4K-1であった。」(第3ページ表1の次の行~下から2行) e.「3.結論 美サンランダイヤスターは、樹脂(連続相)に分散する粒子(分散相)からなる層(中間層)を有するフィルムである。 中間層において、円相当径が1μm以上10μm以下である分散相の断面の面積の比率は、中間層の断面の面積に対して2%である。」(第3ページ最下行~第4ページ第4行) f.上記「d.」の記載から、「フィルム」の「0℃及び25℃における表面に垂直な方向の長さ」をそれぞれ「L0℃」及び「L25℃」とし、「測定時初期温度26℃での長さ」を「L26℃」としていることが理解できる。 (ウ)甲第1号証及び甲第2号証から把握される発明 a.当審が職権で調査したところによれば、三菱樹脂アグリドリーム株式会社は2017年に三菱ケミカルアグリドリーム株式会社に社名を変更しているから、「三菱樹脂アグリドリーム株式会社」との記載がある甲第1号証は少なくとも本件特許の出願前である2017年以前に作成されたものであると認められる。なお、このような認定は、上記「(ア)c.」の「13.05.20.L(K)」との記載が2013年5月20日作成を意味すると解した場合とも時期的に整合する。また、甲第1号証のようなカタログに掲載された製品は、広くユーザーに対して譲渡等の申出がされ、実際に譲渡等が行われたことが推認される。 b.甲第2号証において実験された製品の名称は「美サンランダイヤスター(登録商標)」であって、甲第1号証の「美サンラン(R)ダイヤスター(R)」と名称が一致しているから、甲第2号証において実験された製品は、甲第1号証のものと同一の製品であると一応推認できる。 c.そうすると、甲第1号証及び甲第2号証から、次の発明(以下「公然実施発明1」という。)が本件特許の出願前に公然実施されたものと認められる。 「樹脂(連続相)に分散する粒子(分散相)からなる層(中間層)を有するフィルムであり、 フィルム表面に対して垂直方向、且つ前記フィルム面内の遅相軸と平行方向に切断した断面の中間層において、円相当径が1μm以上10μm以下である分散相の断面の面積の比率は、中間層の断面の面積に対して2%であり、 フィルムの0℃及び25℃における表面に垂直な方向の長さをそれぞれL0℃及びL25℃とし、測定時初期温度26℃での長さをL26℃としたとき、式(1/L26℃)×(L25℃-L0℃)/(25℃-0℃)を用いて、L25℃とL0℃の単位をμmとして算出すると、線膨張係数は、1.79×10-4K-1である 耐久無滴散乱光農POフィルム。」 イ.甲第3号証 本件特許の出願前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特許異議申立書に添付された甲第3号証には以下の記載等がある。 (ア)「【請求項1】 少なくとも外層、中間層及び内層を有する農業用ポリオレフィン系多層フィルムであって、 外層が、線状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン又は酢酸ビニル含有量が1~10重量%のエチレン酢酸ビニル共重合体から選択される少なくとも1種を含有してなり、 中間層が、酢酸ビニル含有量が1~20重量%のエチレン酢酸ビニル共重合体(A)を含有してなり、 内層が、線状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン又は酢酸ビニル含有量が1~10重量%のエチレン酢酸ビニル共重合体から選択される少なくとも1種を含有してなり、 少なくとも中間層に架橋アクリル粒子を含有する、 前記多層フィルム。」 (イ)「【実施例】 【0096】 (1)積層フィルムの調製 3層インフレーション成形装置として3層ダイに100mmφ((株)プラ工研製)を用い、押出機はチューブ外内層を30mmφ((株)プラ技研製)2台、中間層を40mmφ((株)プラ技研製)として、外内層押出し機温度180℃、中間層押し出し機温度170℃、ダイス温度180~190℃、ブロー比2.0~3.0、引取り速度3~7m/分、厚さ0.15mmにて表1~表3に示した成分からなる3層の積層フィルムを得た。(中略) 【0102】 架橋アクリル粒子A:PMMA架橋ビーズG-800(根上工業社製、平均粒子径;6μm、屈折率:1.51) 【0103】 架橋アクリル粒子B:PMMA-ポリスチレン共重合体架橋ビーズG-400(根上工業社製、平均粒子径:15μm、屈折率:1.51)」 (ウ)「【0110】 〔実施例1~7、比較例1~3〕 架橋アクリル粒子として、G-400、G-800、架橋ウレタン粒子としてC-400を用い、各種樹脂組成により、上記三層フィルムを作製した。前記方法により、各サンプル温度での555nm直進透過率の測定及び評価を行った。 その結果を表1、表2に示す。 【0111】 【表1】 【0112】 【表2】 」 (エ)上記「(ア)」で「中間層に架橋アクリル粒子を含有する」とされた「架橋アクリル粒子」は、上記「(ウ)」の記載によれば、実施例1においては「架橋アクリル粒子A」、実施例2においては「架橋アクリル粒子B」であり、上記「(イ)」の記載によれば、「架橋アクリル粒子A」又は「架橋アクリル粒子B」のいずれも屈折率が1.51であることが分かる。 (オ)以上を総合すると、甲第3号証には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。 「エチレン酢酸ビニル共重合体を含有してなる中間層に屈折率が1.51の架橋アクリル粒子を含有する、 農業用ポリオレフィン系多層フィルム。」 (2)請求項1 ア.対比 本件訂正特許発明1と公然実施発明1とを対比する。 (ア)公然実施発明1の「樹脂(連続相)に分散する粒子(分散相)からなる層(中間層)を有する」ことは、本件訂正特許発明1の「連続相と分散相とからなる層を少なくとも1層有」することに相当する。 (イ)公然実施発明1の「農POフィルム」が農業用ポリオレフィン系フィルムを指すことは当業者にとって明らかであるから、公然実施発明1の「耐久無滴散乱光農POフィルム」は、本件訂正特許発明1の「農業用フィルム」に相当する。 (ウ)公然実施発明1の「フィルム表面に対して垂直方向、且つ前記フィルム面内の遅相軸と平行方向に切断した断面の中間層において、円相当径が1μm以上10μm以下である分散相の断面の面積の比率は、中間層の断面の面積に対して2%であ」ることは、本件訂正特許発明1の「(A)当該フィルム表面に対して垂直方向、且つ当該フィルム面内の遅相軸と平行方向に切断した断面において、前記分散相のうち円相当径が1μm以上10μm以下である分散相の断面の面積の比率が、前記層の断面の面積に対して1%以上30%以下」である「(A)」「を満たす」ことに相当する。 (エ)公然実施発明1の「L26℃」は「測定時初期温度26℃での長さ」であるから室温におけるフィルムの長さであるといえる。また、「L0℃及びL25℃」が「表面に垂直な方向の長さ」であることからみて、同じ式中で用いられる「L26℃」も同様に「表面に垂直な方向の長さ」であることは明らかである。 そうすると、公然実施発明1の「L26℃」は、本件訂正特許発明1における「室温における当該フィルム表面に対して垂直方向の当該フィルムの長さ」である「L」に相当する。 (オ)してみると、本件訂正特許発明1と公然実施発明1とは、 「連続相と分散相とからなる層を少なくとも1層有し、下記(A)を満たす農業用フィルム; (A)当該フィルム表面に対して垂直方向、且つ当該フィルム面内の遅相軸と平行方向に切断した断面において、前記分散相のうち円相当径が1μm以上10μm以下である分散相の断面の面積の比率が、前記層の断面の面積に対して1%以上30%以下。」 である点で一致し、次の点で相違する。 (相違点) 式(1)により算出される線膨張係数(以下、単に「線膨張係数」という場合がある。)が、本件訂正特許発明1においては「1.8×10-4K-1以上2.6×10-4K-1以下」であるのに対して、公然実施発明1においては「1.79×10-4K-1」である点。 イ.判断 上記相違点について検討する。 (ア)公然実施発明1における線膨張係数である「1.79×10-4K-1」は、本件訂正特許発明1における線膨張係数である「1.8×10-4K-1以上2.6×10-4K-1以下」の範囲に含まれるものではない。 (イ)本件特許明細書の段落【0151】の【表1】及び【表2】(上記「第2 2.(1)イ.(ア)」参照)からは、線膨張係数が「1.8×10-4K-1以上2.6×10-4K-1以下」の範囲に含まれる実施例1ないし4においては、「ヘイズ値(40℃)-ヘイズ値(0℃)」の値が39%ないし42%であって、線膨張係数が上記範囲外の1.7×10-4K-1である実施例5における37%を上回っていることが看て取れる。 そして、本件訂正特許発明は、「農業用フィルムには、日射の強い夏には光散乱性が高くなることで、過剰な直射光に起因する作物の葉焼け等の障害を防ぐのみならず、一年を通して日射量の低下を防止することが求められる。このため、冬季の低温下では低い光散乱性を示す一方で、夏季の高温下では高い光散乱性を示し、その光散乱性の温度に依存する変化が大きな農業用フィルムが求められている。」(段落【0004】)ことを前提に、「0℃~40℃程度の範囲における光散乱性の変化が大きく、且つ剛性に優れたフィルムを提供すること」(段落【0007】)を課題とするものであると認められるところ、段落【0016】に「線膨張係数が1.5×10-4K-1以上2.8×10-4K-1以下であることにより、40℃付近に達する夏季に光散乱性を高め、0℃付近に達する冬季に光散乱性を低くすることができる。具体的には、40℃付近に達する夏季にヘイズ値を高くし、0℃付近に達する冬季にヘイズ値を低くすることができる。」と記載されていることからすれば、「ヘイズ値(40℃)-ヘイズ値(0℃)」の値が大きければ、「40℃付近に達する夏季に光散乱性を高め、0℃付近に達する冬季に光散乱性を低くすることができる」ことが理解できる。 そうすると、本件訂正特許発明1は、線膨張係数を1.8×10-4K-1以上2.6×10-4K-1以下とすることを発明特定事項として備えることにより、「40℃付近に達する夏季に光散乱性を高め、0℃付近に達する冬季に光散乱性を低くすることができる」という明細書記載の効果を奏するものと認められる。 (ウ)以上のとおりであって、本件訂正特許発明1と公然実施発明1とは上記相違点において相違しており、本件訂正特許発明1は当該相違点に係る発明特定事項を備えることにより明細書記載の上記の効果を奏するから、公然実施発明1によっては、本件訂正特許発明1が本件特許の出願前に公然実施をされた発明であるとはいえない。 (エ)また、甲第3号証にも、線膨張係数を1.8×10-4K-1以上2.6×10-4K-1以下とすることは記載も示唆もされていないから、本件訂正特許発明1が、公然実施発明1及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 ウ.申立人の主張について (ア)申立人は令和2年10月5日提出の意見書において、「1.80×10-4K-1は、1.79×10-4K-1と異なるといえるが、有効数字を考慮すれば、1.8×10-4K-1は1.79×10-4K-1と同等である。」(第5ページ第3~6行)と主張する(下線は申立人が付したものである。)。 しかしながら、一般に有効数字は測定結果等に対して用いられる表記法であるところ、特許請求の範囲の請求項1における「1.8×10-4K-1以上2.6×10-4K-1以下」との記載は測定結果を表すものではないし、本件特許明細書等を参照しても当該記載が有効数字による表記であると解すべき事情はない。 そうすると、申立人の上記主張を採用することはできない。 (イ)申立人はまた同意見書において、「さらに、甲第2号証では、実験をたまたま室温26℃で実施した。従って、(L25℃-L0℃)/(25℃-0℃)を、測定時初期温度26℃におけるLで除した。実験をより低い室温で実施すれば、Lはより小さくなり、従って、Lで除した線膨張係数は大きくなり、特許権者が述べる本件特許発明の範囲に含まれる。本件特許発明は新規性がない。」(第5ページ第7~11行)とも主張する。 しかしながら、本件特許明細書の段落【0027】に「なお、本段落に説明するフィルムの厚さは、室温(23℃)程度で測定され得るフィルムの厚さであり、線膨張係数を求める式(1)におけるL25℃及びL0℃とは必ずしも一致しない。」と記載されていることからして、式(1)におけるLの測定も「室温(23℃)」と大きく異ならない温度で行われるものであると解するのが相当であり、測定温度の変化に伴う垂直方向のフィルムの長さの変化は微小であることが技術常識であるところ、Lの測定がそのような温度で行われるのであれば、測定温度が変化しても式(1)によって求められる線膨張係数の値に有意な変化が生じないことは明らかである。 そして、申立人の上記主張は、測定温度によるLの値の変化や、当該Lの値の変化に伴う線膨張係数の変化についての具体的な実験結果に基づくものでもない。 そうすると、申立人の上記主張を採用することはできない。 (3)請求項2、3及び5 本件訂正特許発明2、3及び5は、本件訂正特許発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記「(2)」と同様の理由により、本件特許の出願前に公然実施をされた発明であるとはいえず、公然実施発明1及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 第7 取消理由で採用しなかった特許異議申立理由についての判断 上記「第4」の特許異議申立理由のうち、取消理由で採用し上記「第6」で判断した以外の理由について判断する。 1.新規性及び進歩性(上記「第4 1.(2)及び(3)」) (1)甲第1号証には、上記「第6 2.(1)ア.(ア)」で摘記した事項等が記載されているが、「耐久無滴散乱光農POフィルム」の線膨張係数については何ら記載がない。 (2)そうすると、本件訂正特許発明1と甲第1号証に記載された発明とは、少なくとも「第6 2.(2)ア.(オ)」の相違点において相違する。 (3)当該相違点については「第6 2.(2)イ.」で検討したとおりであるから、本件訂正特許発明1が甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。 また、本件訂正特許発明1が、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (4)本件訂正特許発明2ないし5は、本件訂正特許発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記「(1)ないし(3)」と同様の理由により、本件訂正特許発明2、3及び5が、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、本件訂正特許発明2ないし5が、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2.実施可能要件(上記「第4 1.(4)」) (1)申立人の主張の概要 実施可能要件についての申立人の主張の概要は以下のとおりである。 ア.本件特許発明は、線膨張係数を求める式において長さの単位が定義されていないので線膨張係数を算出できず、さらに、単位がK-1である線膨張係数は式(1)から得られず、当業者は、本件特許発明を実施できない(申立書第6ページ下から5行~最下行)。 イ.本件特許明細書の段落【0019】等で説明する線膨張係数の調整方法は不確かであり、実施例で使用する材料が僅かに変わるだけで所定の線膨張係数が得られないなら、当業者にとって、本件特許明細書の実施例で使用した樹脂と粒子以外で、どのような連続相と分散相を用いれば、目的とする農業用フィルム又は農園芸用施設が得られるか不明で、当業者に過度の試行錯誤を要する(申立書第7ページ第1行~第8ページ下から4行)。 (2)検討 物の発明における発明の「実施」とは、その物の生産、使用等をする行為をいう(特許法第2条第3項第1号)から、特許法第36条第4項第1号の「その実施をすることができる」(実施可能要件)とは、その物を生産することができ、かつ、その物を使用できることである。したがって、物の発明については、明細書の発明の詳細な説明の記載又はその示唆及び出願当時の技術常識に基づき、当業者がその物を生産することができ、かつ、その物を使用できるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。 以下、上記の観点から、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するか否かについて検討する。 ア.申立人の「(1)ア.」の主張について 本件訂正により、線膨張係数の単位がK-1であることが明確になった。そして、K-1は温度の逆数であって長さの次元を含まないから、その算出のためにどのような単位の長さを用いても、算出される線膨張係数の値が変わることはない。 そうすると、式(1)において長さの単位が定義されていなくても線膨張係数を算出することができ、式(1)によって単位をK-1とする線膨張係数が得られることは明らかである。 イ.申立人の「(1)イ.」の主張について 本件特許明細書には、段落【0019】に「(a)連続相と分散相とからなる層における各相の成分の種類及び割合」及び「(b)フィルムにおける連続相と分散相とからなる層の厚さの比率」を適宜調整することにより線膨張係数を調整することができることが記載されており、このうち(a)に関しては、段落【0034】ないし【0066】に連続相について、段落【0068】ないし【0082】に分散相について、それぞれ具体的な成分の種類及び割合が挙げられており、(b)に関しては、段落【0106】に「農業用フィルム全体の厚さに対する、連続相と分散相とからなる層の厚さの比率を高くすることにより、線膨張係数をより高くすることができる」と記載され、具体的な多層フィルムの厚さや各層の厚さの比率の範囲が挙げられているから、当業者はこれらの記載に基づいて、本件特許明細書に実施例として記載されていないものについても、各層の成分及び割合や、層の厚さの比率を選択することにより、過度の試行錯誤を要することなく、線膨張係数を調整することができるものと認められる。 また、申立人は、実施例で使用する材料が僅かに変わるだけで所定の線膨張係数が得られないとする主張に関して、本件特許明細書の【表2】の実施例1、比較例1及び比較例2を挙げて、「このMMA含有量の差は僅かであり、同じエチレン-メタクリル酸メチル共重合体であってもMMA含有量が少し変わるだけで本件特許発明の線膨張係数は得られなくなることが分かる」(申立書第8ページ第17~18行)とも主張するが、実施例1、比較例1及び比較例2で用いられたMMA(メタクリル酸メチル)含有量が異なる重合体は、【表2】によればWH206-F、WD201-F、WK3-7及びCM5022であって、段落【0132】を参照するといずれも市販されている製品であると認められるから、これらの製品を適宜選択等することによりMMA含有量が異なるフィルムを作成することが、当業者にとって過度の負担となるとも認められない。 (3)小括 上記「(2)」のとおりであって、本件訂正特許発明の農業用フィルムは、明細書の発明の詳細な説明の記載又はその示唆及び出願当時の技術常識に基づき、当業者が生産することができ、かつ、使用できると認められるから、本件訂正特許発明が実施可能要件を満たさないということはできない。 3.サポート要件(上記「第4 1.(5)」) (1)申立人の主張の概要 サポート要件についての申立人の主張の概要は以下のとおりである。 ア.本件特許発明の課題は、「0℃~40℃程度の範囲における光散乱性の変化が大きく、且つ剛性に優れたフィルムを提供する」ことである。実施例のフィルムはこの課題を達成できているが、連続相の種類をわずかに変えるだけで課題を達成できなくなる。本件特許発明1~5において、連続相と分散相は全く特定されていない。即ち、実施例1~5から請求項1~5に記載の広い範囲まで発明を拡張ないし一般化できない(申立書第8ページ下から3行~第9ページ第5行)。 イ.本件特許の請求項1には、発明の課題を解決するための手段である実施例が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許が付与されている。本件特許の請求項1の記載は、当業者が課題を解決できると認識できる実施例の範囲をはるかに超えている(申立書第9ページ第6~10行)。 (2)検討 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。 以下、上記の観点から、本件特許の特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かについて検討する。なお、本件訂正後の本件訂正特許発明は、実施例1ないし4を含み実施例5を含まないものとされたので、以下ではこの点を踏まえて検討する。 ア.申立人の「(1)ア.」の主張について 本件特許明細書の【表2】には、重合体及び粒子等の組成、内外装組成、層構成並びに厚さを様々に異ならせた実施例1ないし4について、線膨張係数が1.8×10-4K-1以上2.6×10-4K-1以下の範囲内にあることが示されており、本件特許明細書には、上記「2.(2)イ.」のとおり、連続相と分散相とからなる層における各相の成分の種類及び割合、並びに、層の厚さの比率を適宜調整することにより線膨張係数を調整することができることが記載されており、連続相及び分散相の具体的な成分の種類及び割合並びに多層フィルムの厚さや各層の厚さの比率の範囲も挙げられている。 そうすると、当業者は、実施例1ないし4について重合体及び粒子等の組成、内外装組成、層構成並びに厚さを調整することにより、また、本件特許明細書における連続相と分散相とからなる層における各相の成分の種類及び割合、並びに、層の厚さの比率についての記載を参酌して、成分を選択し所要のパラメータを調整すること等により、実施例1ないし4以外のものについても、線膨張係数を1.8×10-4K-1以上2.6×10-4K-1以下になるようにすることにより、課題を解決することができるものと認められる。 そうすると、申立人の上記主張は採用することができない。 イ.申立人の「(1)イ.」の主張について 上記「ア.」のとおり、当業者は、発明の詳細な説明の記載から、実施例以外のものであっても、線膨張係数を1.8×10-4K-1以上2.6×10-4K-1以下とすれば、0℃~40℃程度の範囲における光散乱性の変化が大きくなり、本件訂正特許発明の課題を解決できると認識することができるものと認められる。 そうすると、申立人の上記主張は採用することができない。 (3)小括 上記「(2)」のとおりであって、本件訂正特許発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により、また、出願時の技術常識に照らし、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められるから、本件訂正特許発明がサポート要件に適合しないということはできない。 第8 むすび 以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、本件訂正特許発明1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件訂正特許発明1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2020-700218

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