特許異議申立
2020-700030
ガスバリアフィルム、および、ガスバリアフィルムの製造方法
- 審判番号
- 2020-700030
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-085020
- 登録番号
- 特許第6547946号(P6547946)
- 請求日
- 2020年01月17日
- 審決日
- 2021年03月29日
- 公報発行日
- 2021年07月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】凸版印刷株式会社
- 【権利者代理人】恩田 誠
- 【権利者代理人】恩田 博宣
- 【異議申立人】藤江 桂子
- 【異議申立人】特許業務法人 朝日奈特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 茂夫
- 審判官 村山 達也
- 審判官 間中 耕治
- 分類
- P1651.121-YAA(B32B) / P1651.536-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B) / P1651.561-YAA(B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第4項第1号、特許法第17条の2第3項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の8、特許法第135条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6547946号発明「ガスバリアフィルム、および、ガスバリアフィルムの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6547946号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-2〕、〔3-5〕について訂正することを認める。
特許第6547946号の請求項3~5に係る特許を維持する。
特許第6547946号の請求項1~2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1.手続の経緯
特許第6547946号の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成27年4月17日に出願され、令和元年7月5日に特許権の設定登録がされ、同年7月24日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立てに関する経緯は、次のとおりである。
令和2年 1月17日 :特許異議申立人藤江桂子(以下「申立人A」という)による請求項1~5に係る特許に対する特許異議の申立て
同年 1月23日 :特許異議申立人特許業務法人朝日奈特許事務所(以下「申立人B」という)による請求項1~5に係る特許に対する特許異議の申立て
同年 5月19日付け:取消理由通知書
同年 7月27日 :特許権者による意見書の提出
同年 8月25日付け:取消理由通知(決定の予告)
同年10月26日 :特許権者による意見書の提出及び訂正請求
(以下、当該訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)
同年12月 7日 :申立人Aによる意見書の提出
第2.本件訂正の適否についての判断
1.本件訂正の内容
本件訂正の内容は以下のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、
「前記ガスバリア層における水素量が30.0at%以下であり、前記反応生成物を蒸着する工程では、前記反応生成物が生成される空間に残留する水分量を吸着によって所望の値にまで下げ、前記アルミニウムと前記酸化ガスと水分とが反応することで前記反応生成物を生成する」
とあるのを、
「前記ガスバリア層における水素量が30.0at%以下であり、前記反応生成物を蒸着する工程では、前記反応生成物を生成する期間において前記反応生成物が生成される空間に残留する水分量を吸着によって所望の値にまで下げ、前記アルミニウムと前記酸化ガスと水分とが反応することで前記反応生成物を生成する」
に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4~5も同様に訂正する。)。
2.一群の請求項
訂正前の請求項1~2ついて、請求項2は請求項1を引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
また、訂正前の請求項3~5について、請求項4~5は請求項3を直接的又は間接的に引用するものであり、訂正事項3によって記載が訂正される請求項3に連動して訂正されるものである。
したがって、請求項〔1~2〕、〔3~5〕に係る本件訂正は、それぞれ特許法第120条の5第4項に規定する、一群の請求項ごとにされたものである。
そして、本件訂正は、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めはされてないから、本件訂正請求は、一群の請求項である本件訂正前の請求項1~2に対応する訂正後の請求項〔1~2〕、及び、本件訂正前の請求項3~5に対応する訂正後の請求項〔3~5〕を訂正単位とするものであり、訂正事項1~2、訂正事項3は、一体の訂正事項として取り扱われるものである。
3.本件訂正の目的の適否、新規事項追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による本件訂正は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2による本件訂正は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、訂正前の請求項3において、「前記反応生成物が生成される空間に残留する水分量を吸着によって所望の値にまで下げ」る期間について規定されていなかったところ、この期間について、「前記反応生成物を生成する期間において」と規定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許明細書等の段落【0045】には、
「真空チャンバ20の内部には、コールドトラップ31が収容されている。コールドトラップ31は、反応生成物が生成される空間において水分を吸着によって捕集し、真空チャンバ20の内部における水分量を反応生成物が生成される期間において所望の値にまで下げる。」
と記載されているから、新規事項を追加するものではなく、また、発明特定事項である「真空チャンバ20の内部における水分量を」「所望の値にまでさげる」期間について、「反応生成物が生成される期間」と下位概念化するものであるから、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない(なお、下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
4.小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、特許請求の範囲を、本件訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1~2〕、〔3~5〕について訂正することを認める。
第3.訂正後の本件発明
上記第2.のとおり、本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1~5は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された、次のとおりのものである。
なお、訂正特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明を、以下「本件発明1」等という。
「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
真空雰囲気下においてアルミニウムを加熱して蒸発させる工程と、
蒸発したアルミニウムと酸化ガスとの反応生成物として、水素を含有した酸化アルミニウムであるAlOXHYを生成し、光透過性を有したプラスチックフィルムに前記反応生成物を蒸着させてガスバリア層を形成する工程とを含み、
酸素組成比Xは、1.00<X<2.00を満たし、
水素組成比Yは、0.10<Y<1.20を満たし、
前記ガスバリア層における水素量が30.0at%以下であり、
前記反応生成物を蒸着する工程では、前記反応生成物を生成する期間において前記反応生成物が生成される空間に残留する水分量を吸着によって所望の値にまで下げ、前記アルミニウムと前記酸化ガスと水分とが反応することで前記反応生成物を生成する
ことを特徴とするガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記アルミニウムを加熱する工程では、前記アルミニウムの加熱に、電子ビーム加熱、抵抗加熱、および、高周波誘導加熱からなる群から選択される少なくとも1つを用いる
請求項3に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記反応生成物を蒸着する工程では、ICPプラズマ、ヘリコン波プラズマ、マイクロ波プラズマ、ホロカソード放電からなる群から選択される少なくとも1つを前記酸化ガスから生成し、前記酸化ガスから生成されたプラズマとアルミニウムとの反応によって前記反応生成物を生成する
請求項3または4に記載のガスバリアフィルムの製造方法。」
第4.取消理由(決定の予告)の概要
本件特許の請求項1~5に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した令和2年8月25日付けの取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
1.本件特許は、平成31年1月25日付けでした請求項1の補正が、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。
2.本件特許は、本件発明1~2が発明の詳細な説明に記載されたものでないため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3.本件特許は、本件発明1~2が明確でないため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
4.本件特許は、明細書の記載が、本件発明1~5について当業者が実施できる程度に十分に明確かつ十分に記載されたものでないため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
5.本件発明1~5は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<引用文献等一覧>
引用文献1:特開昭63-222849号公報(申立人Aの甲第1号証、申立人Bの甲第1号証)
引用文献2:特開平5-214135号公報(申立人Bの甲第2号証)
引用文献3:特開2012-56311号公報(申立人Aの甲第8号証、申立人Bの甲第3号証)
引用文献4:特許4028046号公報(申立人Aの甲第10号証)
引用文献5:特開2000-38668号公報(申立人Aの甲第2号証、申立人Bの甲第6号証)
引用文献6:特開2014-221543号公報(申立人Bの甲第8号証)
引用文献7:特開2015-63024号公報(申立人Aの甲第9号証、申立人Bの甲第4号証)
第5.取消理由(決定の予告)に対する当審の判断
1.特許法第17条の2第3項に係る理由について
本件訂正により、上記取消理由の対象となる請求項1~2が削除されたので、上記取消理由には理由がない。
2.特許法第36条第6項第1号に係る理由について
本件訂正により、上記取消理由の対象となる請求項1~2が削除されたので、上記取消理由には理由がない。
3.特許法第36条第6項第2号に係る理由について
本件訂正により、上記取消理由の対象となる請求項1~2が削除されたので、上記取消理由には理由がない。
4.特許法第36条第4項第1号に係る理由について
(1)ガスバリア層の酸素組成比X、水素組成比Y、水素量について
本件発明3には、ガスバリア層を形成するAlOXHYからなる酸化アルミニウムが、
「酸素組成比Xは、1.00<X<2.00を満たし、
水素組成比Yは、0.10<Y<1.20を満たし、
前記ガスバリア層における水素量が30.0at%以下であ」る点が特定されている。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【表1】には、ガスバリア層の酸素組成比、水素組成比Y、水素量の具体例として、O/Al、H/Al、H(at%)がそれぞれ1.53、0.34、11.4の実施例、1.74、1.16、38.1の比較例1、1.69、1.48、31.4の比較例2が記載されている。
【表1】
ここで、【表1】の実施例、比較例1及び比較例2ついて、O/Al、H/Al、H(at%)の値からAl(at%)、O(at%)を計算し、Al(at%)、O(at%)、H(at%)の合計のat%を求めると、実施例は96.2at%、比較例1は128.1at%、比較例2は88.5%となり、いずれも100at%とはならない。
しかしながら、ガスバリア層には、不可避的に炭素や窒素などの他の元素が存在することは技術常識であることや、測定においては多少の誤差が生じ得ることに鑑みると、実施例、比較例1及び比較例2の合計のat%が100%とならないことをもって、本件特許明細書は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではないとはいえない。
なお、比較例1について、合計のat%が100%を大きく上回るものであるが、特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明の記載について、いわゆる当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであることを求めているのであって、明細書の段落【0046】~【0047】の記載、及び、段落【0052】~【0060】の記載によれば、少なくとも製造方法の発明である本件発明3~5については、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものと認められる。
(2)蒸着直後のガスバリア層における酸素組成比X、水素組成比Y及び水素量について
本件発明3には、ガスバリアフィルムの製造方法において、
「蒸発したアルミニウムと酸化ガスとの反応生成物として、水素を含有した酸化アルミニウムであるAlOXHYを生成し、光透過性を有したプラスチックフィルムに前記反応生成物を蒸着させてガスバリア層を形成する工程とを含み、
酸素組成比Xは、1.00<X<2.00を満たし、
水素組成比Yは、0.10<Y<1.20を満たし、
前記ガスバリア層における水素量が30.0at%以下であ」る点が特定されている。
ここで、蒸着フィルムを蒸着後に大気に開放することにより、成膜された金属膜(たとえばアルミナ膜)の酸化が進行し得るものであるが、ガスバリア層を大気に開放してからその組成の測定を開始するまでの環境は、40℃、90%RHのような特殊環境ではなく一般的な設備環境であり、また、ガスバリア層を大気に開放してからその組成の測定を開始するまでの期間は、組成の結果に大きな差異をもたらせるような長い期間ではなく、一般的な数時間程度であることは明細書に触れた当業者であれば十分に理解でき、本件発明3の蒸着直後のガスバリア層における酸素組成比X、水素組成比Y及び水素量は、大気開放後の酸素組成比X、水素組成比Y及び水素量と大差ないものと認められるから、当該値をどのように求めるのかを理解することができないとは言えず、本件特許明細書は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものと認められる。
したがって、本件特許発明に関し、発明の詳細な説明に、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があるといえ、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。
5.特許法第29条第2項に係る理由について
(1)引用文献記載事項
ア.引用文献1に記載された事項及び引用文献1に記載された発明
引用文献1には、以下の記載がある(下線は、当審にて付した。以下同様。)。
(ア)「2.特許請求の範囲
透明プラスチックフィルム基体上に、酸化アルミニウムと水酸化アルミニウムより成る薄層を設けたことを特徴とする包装用フィルム。」(第1ページ左下欄第4~7行)。
(イ)「[産業上の利用分野]
本発明は包装用フィルムに関する。更に詳しくは、ガスバリア性と透明性に優れた包装用フィルムに関する。
[従来の技術]
従来、ガスバリア性の優れた包装用フィルムとして、プラスチックフィルムの少なくとも片面に酸化硅素を蒸着したものが知られている(特公昭53-12953)。酸化硅素の蒸着フィルムは、ガスバリア性において、塩化ビニリデン系やポリビニルアルコール系のコーティング層を設けたプラスチックフィルムより優れたガスバリア性を有している。
[発明が解決しようとする問題点]
しかし、このような酸化硅素を蒸着した従来のガスバリア性包装用フィルムには、次のような問題があった。すなわち、ガスバリア性を向上させるため蒸着膜厚を厚くしたり、蒸着フィルムが吸湿により寸法変化すると酸化硅素層に亀裂やひび割れが発生し、ガスバリア性が著しく低下する。また、可撓性が十分でなく、蒸着フィルムを折り曲げたり、延ばしたり、成型したりすると亀裂が発生しガスバリア性が低下する問題があった。
かかる欠点を改良するため、本発明者らは、透明プラスチックフィルム基体上に、非結晶性の酸化アルミニウム薄層を設けたことを特徴とする包装用フィルムを既に提案した(特願昭60-242070)。
しかし、酸化アルミニウム薄層は、その形成時の条件のコントロールが容易ではないために、多孔質な構造となり易く、このために酸化アルミニウム薄層の膜厚が薄い場合にガスバリア性が低下し、特に水蒸気バリア性の低下が著しいという問題点があることがわかった。
本発明は、上記欠点のないもの、すなわち透明で酸素ガスバリア性、水蒸気ガスバリア性の共に優れた包装用フィルムを提供することにある。
[問題点を解決するための手段]
すなわち本発明は、透明プラスチックフィルム基体上に、酸化アルミニウムと水酸化アルミニウムより成る薄層を設けたことを特徴とする包装用フィルムである。」(第1ページ左下欄第9行~第2ページ左上欄第10行)。
(ウ)「本発明の透明プラスチックフィルムの厚さは、特に制限を受けないが、3~400μmの範囲が望ましく、機械強度と可撓性の点で更に好ましくは5~200μmの範囲であることが望ましい。
かかる透明プラスチックフィルム基体上に、酸化アルミニウムと水酸化アルミニウムより成る薄層が形成される。
本発明でいう酸化アルミニウムとは、AlO、Al2O2、Al2O3などのアルミニウムの酸化物であるが、本発明では、中でも透明性の点でAl2O3であることが望ましい。水酸化アルミニウムとは、Al(OH)3、AlO(OH )などの水酸化物である。
また酸化アルミニウム薄層中に、透明性とガスバリア性を損わない範囲で、アルミニウム、銅、鉄、タングステン、モリブデンなどの金属や酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化タングステン、酸化モリブデン、窒化硼素などの不純物が微量に含まれることは許容される。
酸化アルミニウムと水酸化アルミニウムより成る薄層の厚みは、使用する基体と目的に合せて選定されるが、本発明においては30Å~5000Åの範囲が望ましく、好ましくは50Å~2000Å、更に好ましくは100Å~1000Åが望ましい。30Å未満ではガスバリア性が十分でなく、5000Å以上では基体フィルムが15μm以下のように極めて薄い場合にカールが発生するなど平面性を損う。
酸化アルミニウムと水酸化アルミニウムの比率は、重量比で90:10から10:90の範囲が望ましく、更に好ましくは80:20から20:80の範囲が望ましい。」(第2ページ左下欄第1行~右下欄第12行))。
(エ)「図は、酸化アルミニウム膜を形成する反応性蒸着法置の一例を示す概略図である。
図において真空容器1内に設置された巻出し軸2より、プラスチックフィルム5が送り出され、-30~-5℃に冷却された冷却ドラム3を経由して、巻取り軸4に巻取られる。この間、冷却ドラム上にて、高周波誘導加熱電源に接続された蒸発器6内のアルミニウムが蒸発し、酸素ボンベ10から、ガス流量制御装置9を通してマスク7で囲まれたガス吹出口8から供給される酸素ガスと反応して、プラスチックフィルム基体5の上に酸化アルミニウム薄層が形成される。真空容器中の圧力は1×10-5~1×10-2トール、酸素ガスの供給量は、蒸発器6からのアルミニウムの蒸発量に応じて調整される。酸化アルミニウムの膜厚は蒸発器への供給電力とフィルム走行速度により調整される。
このようにして形成した酸化アルミニウム蒸着膜を後処理により酸化アルミニウムと水酸化アルミニウムより成る膜に変成することができる。この後処理の条件としては、水分と温度と時間が必要であり、例えば、60℃、80%RHの恒温恒湿層に24hr保管する方法、または20℃、60%RH中で1週間調湿した後、100℃の熱風乾燥機で30分熱処理する方法などが選択される。水酸化アルミニウム形成の熱処理条件としては、要求されるガスバリア性や使用するプラスチックフィルム基体の耐熱性などを考慮して適宜選択される。
このようにして形成した酸化アルミニウムと水酸化アルミニウムより成る薄層は、多孔質な膜構造となり易い酸化アルミニウム薄層を水酸化アルミニウムが封孔している構造となっている。このため特に水蒸気バリア性が優れている。
本発明の包装用フィルムは、酸化アルミニウムと水酸化アルミニウムより成る薄層を設ける前、あるいは後にプラスチックフィルム面および/または酸化アルミニウムと水酸化アルミニウムより成る薄層面に、ヒートシール性や耐摩耗性を与えるためのコーティング、押出しラミネーション、あるいは、他のフィルムとの積層や文字、図柄などの印刷を適宜行なうことができる。
本発明による包装用フィルムは、透明性が高く、酸素ガスバリア性、水蒸気バリア性が共に優れているため、内容物の変質を防ぐことができ、かつ透視性の良い包装材料として食品、電気部品、繊維製品、プラスチック部品などの包装に用いることができる。」(第3ページ右上欄第9行~右下欄第16行)
(オ)「[実施例]
実施例1~3、比較例1
二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ20μm)を幅500mm、長さ10,000mのロール状とし、図に示す反応性蒸着装置に装着した。純度99.98%のアルミニウムを高周波誘導加熱蒸発器に充填した後、真空容器を1×10-4Torrに排気した。次いて高周波誘導加熱蒸発器を加熱し、アルミニウムの蒸着を始めると同時にフィルムの走行を始める。ガス流量制御装置によりガス吹出口から酸素ガスを供給し、酸素ガスの供給量は真空容器の圧力及び蒸着フィルムの光線透過率を見ながら調整して圧力3.0×10-4Torrで蒸着を行ない、厚さ500Åの酸化アルミニウム蒸着膜を得た。
次いで、この酸化アルミニウムを形成したプラスチックフィルムを40℃、80%RHで1週間保管した後、100℃の熱風乾燥機で30分間熱処理したものを実施例1、10分間熱処理したものを実施例2、1分間熱処理したものを実施例3とする。
熱処理を行なわなかったものを比較例1とする。
ESCA(VGサイエンティフィック製、ESCALAB-5)による表面分析の結果、酸化アルミニウムと水酸化アルミニウムの比率(重量比)は、実施例1では65:35、実施例2では70:30、実施例3では90:10、比較例1では100:0であった。
表1にそれぞれのガスバリア性を示す。
実施例4~5、比較例2
二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ50μm)上に、高周波マグネトロンスパッタリング装置(日電アネルバ製)を用いて、酸化アルミニウムと水酸化アルミニウムからなる膜をスパッタした。スパッタは酸化アルミニウムと水酸化アルミニウムを混合した(混合比60:40(重量比))直径6インチの焼結体をターゲットとし、Arと酸素の混合ガス(Ar:O2=95:5(体積比))を導入し、13.56MHzの高周波電力を2KW投入しながら行なった。スパッタ時間の調整により、膜厚を200Åとしたものを実施例4、膜厚を600Åとしたものを実施例5、スパッタを行なっていない基体フィルムを比較例2とする。
実施例4,5は、ESCAによる表面分析の結果、いずれも酸化アルミニウムと水酸化アルミニウムの比率は60:40(重量比)であった。
表1にそれぞれガスバリア性を示す。
」(第4ページ左上欄第13行~左下欄)
(カ)「
」(第5ページ右上欄)
(キ)上記(ア)~(カ)の事項をまとめると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。
<引用発明2>
「純度99.98%のアルミニウムを高周波誘導加熱蒸発器に充填した後、真空容器を1×10-4Torrに排気し、次いで高周波誘導加熱蒸発器を加熱し、アルミニウムの蒸着を始めると同時にフィルムの走行を始める工程と、
ガス流量制御装置によりガス吹出口から酸素ガスを供給し、圧力3.0×10-4Torrで蒸着を行ない、厚さ500Åの酸化アルミニウム蒸着膜を得る工程と、
酸化アルミニウムを形成したプラスチックフィルムを40℃、80%RHで1週間保管した後、100℃の熱風乾燥機で30分間熱処理、10分間熱処理、または1分間熱処理し、酸化アルミニウム蒸着膜を酸化アルミニウムと水酸化アルミニウムより成る膜に変成する後処理工程とを含み、
酸化アルミニウムとは、AlO、Al2O2、Al2O3などのアルミニウムの酸化物であり、透明性の点でAl2O3であることが望ましく、
水酸化アルミニウムとは、Al(OH)3、AlO(OH)などの水酸化物であり、
酸化アルミニウムと水酸化アルムニウムの重量比が、65:35、70:30、または90:10である、
透明で酸素ガスバリア性、水蒸気ガスバリア性の共に優れた包装用フィルムの製造方法。」
イ.引用文献5に記載された事項
引用文献5には、以下の記載がある。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】真空装置を用いて薄膜を形成する分野、たとえばスパッタによるITO製造、熱線反射のためのガラスコーティング、そして食品包装等に使われるアルミニウム蒸着フィルム等の製造装置および製造方法に関するものであり、特に透明性、ガスバリア性、耐屈曲性に優れた食品、医薬品、電子部品等の気密性を要求される包装材料、または、ガス遮断材料として優れた特性を持つ透明ガスバリアフィルムの製造装置および製造方法に関するものである。」
(イ)「【0020】以下に実施例をあげて本発明を説明する。本発明を透明バリアフィルムに適用して説明する。図1で示す直径1700mm×奥行き1100mm容量約2.5m3の真空槽をもつロールコーター式蒸着装置で実験を行った。前記蒸着装置は22000l/secの排気速度の排気装置及び水分を吸着する装置(商品名ポリコールド)を備えている。前記装置には真空槽、内部の隔壁、ルツボ、シャッターに水冷のための通路があり、それぞれの注水口、排水口をまとめた管には三方バルブが取り付けられておりクーリングタワーと温湯機との接続が切り替えるられるように成っている。センターロールは不凍液が循環できるように通路があり外部の冷却装置につながっている。前記冷却装置は加温も可能である。」
ウ.引用文献6に記載された事項
引用文献6には、以下の記載がある。
(ア)「【0044】
(ガスバリア層)
本発明で用いるガスバリア層としては、SiO2、Al2O3などの透明金属酸化物及びSiO2-Al2O3等の複合金属酸化物、SiN、AlN等の金属窒化物、SiON、AlON等の金属酸窒化物よりなる無機薄膜層が挙げられる。これらの中で透明性に優れるという観点から金属酸化物が好ましい。また、PVAなどに扁平粒子を添加した有機物によるガスバリア層も用いることが可能であるが、湿度などの環境に対するガスバリア性の安定性の観点から無機薄膜層を用いることが好ましい。」
(イ)「【0049】
また、無機薄膜層を成膜する際の水分圧としては、2×10-3Pa以下が好ましく、さらに好ましくは5×10-4Pa以下である。水分圧が2×10-3Paを超える場合、無機薄膜層中に水素が取り込まれ、ネットワーク(例えば、M-O-)の成長が停止する。このため、無機薄膜層の連続性が乏しくなり、ガスバリア性が低下してしまう。」
(2)本件発明3について
ア.対比
本件発明3と引用発明2とを対比する。
(ア)引用発明2の「純度99.98%のアルミニウムを高周波誘導加熱蒸発器に充填した後、真空容器を1×10-4Torrに排気し、次いて高周波誘導加熱蒸発器を加熱し、アルミニウムの蒸着を始める」点は、本件発明3の「真空雰囲気下においてアルミニウムを加熱して蒸発させる」点に相当する。
(イ)引用発明2の「酸化アルミニウムと水酸化アルミニウムより成る膜」は、「多孔質な膜構造となり易い酸化アルミニウム薄層を水酸化アルミニウムが封孔している構造」であるため、「特に水蒸気バリア性が優れている」ものであるから、本件発明3の「ガスバリア層」に相当する。
(ウ)引用発明2の「透明で酸素ガスバリア性、水蒸気ガスバリア性の共に優れた包装用フィルム」は、本件発明3の「ガスバリアフィルム」に相当する。
(エ)引用発明2において、「透明」な「包装用フィルム」を構成する「プラスチックフィルム」は「光透過性を有する」ものといえる。
上記(ア)~(エ)より、本件発明3と引用発明2とは、
「真空雰囲気下においてアルミニウムを加熱して蒸発させる工程と、
光透過性を有したプラスチックフィルムにガスバリア層を形成する工程とを含む、
ガスバリアフィルムの製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点3>
ガスバリア層を形成する工程が、本件発明3は、「蒸発したアルミニウムと酸化ガスとの反応生成物として、水素を含有した酸化アルミニウムであるAlOXHYを生成し、光透過性を有したプラスチックフィルムに前記反応生成物を蒸着させ」るものであり、「前記反応生成物を蒸着する工程では、前記反応生成物を生成する期間において前記反応生成物が生成される空間に残留する水分量を吸着によって所望の値にまで下げ、前記アルミニウムと前記酸化ガスと水分とが反応することで前記反応生成物を生成する」ものであるのに対し、引用発明2は、「ガス流量制御装置によりガス吹出口から酸素ガスを供給し、圧力3.0×10-4Torrで蒸着を行ない、厚さ500Åの酸化アルミニウム蒸着膜を得」たのち、「酸化アルミニウムを形成したプラスチックフィルムを40℃、80%RHで1週間保管した後、100℃の熱風乾燥機で30分間熱処理、10分間熱処理、または1分間熱処理し、酸化アルミニウム蒸着膜を酸化アルミニウムと水酸化アルミニウムより成る膜に変成する」ものである点。
<相違点4>
ガスバリア層について、本件発明3は、「水素を含有した酸化アルミニウムであるAlOXHY」であり、「酸素組成比Xは、1.00<X<2.00をたし、水素組成比Yは、0.10<Y<1.20を満たし、前記ガスバリア層における水素量が30.0at%以下であ」るのに対し、引用発明2は、「酸化アルミニウムと水酸化アルミニウムより成る」ものであり、「酸化アルミニウムとは、AlO、Al2O2、Al2O3などのアルミニウムの酸化物であり、透明性の点でAl2O3であることが望ましく、水酸化アルミニウムとは、Al(OH)3、AlO(OH)などの水酸化物であり、酸化アルミニウムと水酸化アルミニウムの重量比が、65:35、70:30、90:10である」ものの、AlOXHYとして換算した場合に、酸素組成比X、水素組成比Y及び水素量の原子パーセントの具体的な範囲が明らかでない点。
イ.相違点についての検討
<相違点3について>
引用文献5には、上記第5.5.(1)イ.において摘示したように、透明性、ガスバリア性、耐屈曲性に優れたアルミニウム蒸着フィルムを製造するための、真空槽を有するロールコーター式蒸着装置が、水分を吸着する装置(商品名ポリコールド)を備えることが記載されている。
引用文献6には、上記第5.5.(1)ウ.において摘示したように、ガスバリア層としてAl2O3などの無機薄膜層を成膜する際に、水素が取り込まれるとガスバリア性が低下することから、水分圧を制限することが記載されている。
したがって、ガスバリアフィルムのアルミニウムの蒸着工程において、水素が取り込まれることによってガスバリア性が低下しないように、水分を吸着して除去することは本件特許の出願日前において周知の技術である。
一方で、引用発明2は、「酸化アルミニウムを形成したプラスチックフィルムを40℃、80%RHで1週間保管した後、100℃の熱風乾燥機で30分間熱処理、10分間熱処理、または1分間熱処理し、酸化アルミニウム蒸着膜を酸化アルミニウムと水酸化アルミニウムより成る膜に変成する」ものであり、アルミニウムの蒸着工程で反応生成物を生成する期間においては、水酸基の導入を要しないものであるから、引用発明2に上記周知の技術を適用し、ガスバリアフィルムのアルミニウムの蒸着工程において水分を吸着して除去することができたとしても、アルミニウムの蒸着工程においては可能な限り多くの水分を吸着して除去しようとするのが合理的であって、アルミニウムと酸化ガスと水分とを反応させるために、水分量を「所望の値」にまで下げることが当業者にとって容易になし得るものであるとはいえない。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3は、引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということができない。
(3)本件発明4~5について
本件発明4~5は、本件発明3の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明3と同様の理由から、引用発明2及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということができない。
第6.取消理由としなかった申立理由について
1.申立人A及び申立人Bの主張する申立理由のうち、取消理由又は取消理由(予告)としなかった理由
(1)申立人Aの特許異議申立書に添付された甲第8号証(特開2012-56311号公報)を主たる引用例とした場合
ア.理由8-1(特許法第29条第1項第3号)
本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、甲第8号証に記載された発明(以下、「甲8発明」という。以下同様。)であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない発明である。
イ.理由8-2(特許法第29条第2項)
本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、甲8発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である。
(2)申立人Aの特許異議申立書に添付された甲第10号証(特許第4028046号公報)を主たる引用例とした場合
ア.理由10-1(特許法第29条第1項第3号)
本件訂正前の請求項3~4に係る発明は、甲10発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない発明である。
イ.理由10-2(特許法第29条第2項)
本件訂正前の請求項3~5に係る発明は、甲10発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である。
(3)申立人Bの特許異議申立書に添付された甲第4号証(特開2015-63024号公報)を主たる引用例とした場合
ア.理由4-1(特許法第29条第2項)
本件訂正前の請求項3~5に係る発明は、甲4発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である。
2.上記主張についての検討
(1)理由8-1(特許法第29条第1項第3号)について
ア.甲第8号証の記載
(ア)「【背景技術】
【0002】
従来から、高分子フィルム基材の表面に、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム等の無機物(無機酸化物を含む)を使用し、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理気相成長法(PVD法)、あるいは、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(以下、CVD法という)等を利用して、その無機物の蒸着膜を形成してなる透明ガスバリア性フィルムは、水蒸気や酸素などの各種ガスの遮断を必要とする食品や医薬品などの包装材として用いられている。」
(イ)「【0006】
また、真空蒸着法により形成された酸化金属薄膜の上にプラズマCVD法により形成されたシリコン化合物薄膜を順次積層した方法は、プラズマや蒸着源からの熱ダメージが大きく、高分子フィルム基材が熱負けによる反りが発生し、後工程の加工で作業性が悪くなるなどの問題があった。本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、膜形成によるフィルムの反りを低減し、かつフィルム搬送や印刷、ラミネート、熱水殺菌処理といった高温処理や後工程においても、ガスバリア性が悪化しない、透明かつ高度なガスバリア性を有するガスバリア性フィルムを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記課題は次の構成によって達成される。すなわち、
(1)高分子フィルム基材の片面または両面に、X線光電子分光法(XPS法)により測定される膜表層のO/AL比が1.7~2.3の範囲であって、X線反射測定法(GIXR法)により測定される膜密度が2.5g/cm3~2.8g/cm3の範囲である酸化アルミニウム層を有し、さらに該酸化アルミニウム層の前記高分子フィルム基材と反対の面の上にシラン化合物を含む有機化合物層が配置されていることを特徴とするガスバリア性フィルム。
・・・」
(ウ)「【0019】
また、本発明にかかる酸化アルミニウム層の表面において、XPS法により測定されるO/AL比率は、有機化合物層形成の際に酸化アルミニウム層の欠陥にシラン化合物を含む有機化合物が含浸してガス透過性を抑える観点から、1.7~2.3の範囲であり、1.75~2.1の範囲であることが好ましく、より好ましくは1.90~2.05の範囲である。シラン化合物は、有機化合物に含まれる水分及び乾燥時の加熱処理により加水分解されてシラノールになり、酸化アルミニウム層と有機化合物層の界面のアルミニウム原子に結合した水酸基と脱水縮合反応して、アルミニウム原子と化学的に結合する。従って、アルミニウム原子の濃度が大きい方が酸化アルミニウム層の欠陥部分に有機化合物を効率よく含浸できガスバリア性は向上するため、O/AL比率は小さい方が好ましい。しかし、酸化アルミニウム層表層のO/AL比率は1.7より小さくなると、酸化アルミニウム層の粒成長に伴う欠陥数が増加するため、酸化アルミニウム層内部の全ての欠陥を有機化合物で含浸することができなくなり、ガスバリア性は悪化する。従って、O/AL比率は1.7以上で形成することが好ましい。また、O/AL比率は2.3より大きくなると、外気の湿気により水酸化されたアルミニウム成分が増えることにより、欠陥数は増加して有機化合物の含浸効率が低下するためガスバリア性は悪化する。従って、酸化アルミニウム層表層のO/AL比率は2.3以下で形成することが好ましい。」
(エ)「【0056】
・装置:Rigaku製 X線 SPECTROMETER RIX1000
・X線管:横型Crターゲット
・分光結晶:LIF1
(実施例1)
(酸化アルミニウム層の製造)
図2に示す装置構造の巻き取り式の真空蒸着装置を使用し、厚さ12μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製“ルミラー”(登録商標) 12T705)を高分子フィルム基材とし、その片面に、アルミニウムを蒸着材料に用いて抵抗加熱方式によりアルミニウムを蒸気化し、酸素ガスを導入して酸化アルミニウム層を設けた。図2は本発明のガスバリア性フィルムの製造に当たり酸化アルミニウム層を形成する工程に用いるための巻き取り式真空蒸着装置の概略図である。まず、巻き取り式真空蒸着装置4の巻き取り室5の中で、巻き出しロール6にセットされた高分子フィルム基材1を搬送速度100m/minで巻き出し、ガイドロール8,9,10を介して、クーリングドラム11に通す。ボート7上にはアルミニウム等のワイヤーが導入されていて、ボート7からアルミニウムを蒸発させ、酸素導入ノズル12から酸素ガス0.4L/minを導入し、さらにプラズマ電極13から酸素プラズマを導入することにより、このクーリングドラム11上の位置において高分子フィルム基材1の表面に酸化アルミニウム層を形成した。このとき、プラズマ電極13には、酸素ガス0.2L/minを導入し、プラズマ投入電力は3.0kwとした。その後、この酸化アルミニウム層を形成した高分子フィルム基材をガイドロール14、15、16を介して、巻き取りロール17に巻き取った。」
(オ)「
」
以上を総合し、甲第8号証には、以下の甲8発明が記載されている。
「透明高分子フィルム基材上に、酸化アルミニウム層を設け、その上にシラン化合物を含む有機化合物を設けた酸素ガスバリア性及び水蒸気ガスバリア性に優れ、O/Al比が1.7~2.3である包装用フィルムの製造方法であって、巻き取り式の真空蒸着装置において、アルミニウムを蒸着材料に用いて抵抗加熱方式によりアルミニウムを蒸気化し、酸素ガスを導入して酸化アルミニウム層を設け、シラン化合物は、有機化合物に含まれる水分及び乾燥時の加熱処理により加水分解されてシラノールになり、酸化アルミニウム層と有機化合物層の界面のアルミニウム原子に結合した水酸基と脱水縮合反応して、アルミニウム原子と化学的に結合する包装用フィルムの製造方法。」
イ.本件発明3について
(ア)対比
本件発明3と甲8発明とを対比すると、甲8発明の「透明高分子フィルム基材」は本件発明3の「光透過性を有したプラスチックフィルム」に相当し、以下同様に、「アルミニウムを蒸着材料に用いて抵抗加熱方式によりアルミニウムを蒸気化」は「アルミニウムを加熱して蒸発させる工程」に、「酸素ガス」は「酸化ガス」にそれぞれ相当する。
また、甲8発明の「アルミニウムを蒸気化し、酸素ガスを導入して」設けられた「酸化アルミニウム層」は、本件発明3の「蒸発したアルミニウムと酸化ガスとの反応生成物」に相当し、甲8発明の「真空蒸着装置」は、真空状態で蒸着させるものであるから、本件発明3の「真空雰囲気下において」「蒸着」に相当し、甲8発明の「酸素ガスバリア性及び水蒸気ガスバリア性に優れ」た「包装用フィルム」は、本件発明3の「ガスバリアフィルム」に相当する。
よって、本件発明3と甲8発明は、以下の点で一致する。
<一致点8>
「真空雰囲気下においてアルミニウムを加熱して蒸発させる工程と、蒸発したアルミニウムと酸化ガスとの反応生成物を光透過性を有したプラスチックフィルムに蒸着させてガスバリア層を形成する工程とを含むガスバリアフィルムの製造方法。」
<相違点8-1>
蒸発したアルミニウムと酸化ガスとの反応生成物である酸化アルミニウムについて、本件発明3は、「水素を含有した酸化アルミニウムであるAlOXHY」であって、「酸素組成比Xは、1.00<X<2.00を満たし、水素組成比Yは、0.10<Y<1.20を満たし、前記ガスバリア層における水素量が30.0at%以下」であるのに対し、甲8発明は、具体的組成が明記されていない点。
<相違点8-2>
反応生成物を蒸着する工程について、本件発明3は、「前記反応生成物を生成する期間において前記反応生成物が生成される空間に残留する水分量を吸着によって所望の値にまで下げ、前記アルミニウムと前記酸化ガスと水分とが反応することで前記反応生成物を生成する」のに対し、甲8発明は、そのようなことが明記されていない点。
(イ)相違点についての検討
事案に鑑み、まず<相違点8-2>について検討する。甲8発明の真空蒸着装置は、アルミニウムと酸化ガスと水分とを反応させるために、水分量を「所望の値」にまで下げるものではないから、<相違点8-2>は実質的な相違点である。
よって、<相違点8-1>について検討するまでもなく、本件発明3は、甲8発明ではない。
ウ.本件発明4~5について
本件発明4~5は、本件発明3の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明4~5についても同様に、甲8発明ではない。
(2)理由8-2(特許法第29条第2項)について
ア.甲第8号証の記載
甲第8号証に記載された事項及び甲8発明については、上記第6.2.(1)ア.で述べたとおりである。
イ.本件発明3について
(ア)対比
上記第6.2.(1)ウ.(ア)のとおり、本件発明3と甲8発明は<一致点8>で一致し<相違点8-1>~<相違点8-2>で相違するものである。
(イ)相違点についての検討
<相違点8-1>及び<相違点8-2>について検討する。甲8発明の真空蒸着装置は、酸化アルミニウム層成膜時に水酸基の導入を要しないものであるから、ガスバリアフィルムのアルミニウムの蒸着工程において水分を吸着して除去することができたとしても、アルミニウムの蒸着工程においては可能な限り多くの水分を吸着して除去しようとするのが合理的であって、アルミニウムと酸化ガスと水分とを反応させるために、水分量を「所望の値」にまで下げることにより、酸素組成比Xが1.00<X<2.00を満たし、水素組成比Yが0.10<Y<1.20を満たし、ガスバリア層における水素量が30.0at%以下である水素を含有した酸化アルミニウムであるAlOXHYを生成するガスバリアフィルムの製造方法とすることは、当業者が容易に想到することができたものであるといえない。
よって、本件発明3は、甲8発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
ウ.本件発明4~5について
本件発明4~5は、本件発明3の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明3と同様の理由から、甲8発明に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
(3)理由10-1(特許法第29条第1項第3号)について
ア.甲第10号証の記載
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、透明バリア性ポリプロピレンフィルム、それを使用した積層体および包装用容器に関し、更に詳しくは、透明性、酸素、水蒸気等に対するガスバリア性、耐衝撃性等に優れ、更に、ラミネ-ト加工、印刷加工、製袋ないし製函加工等の後加工適性を有し、また、バリア性膜としての蒸着膜の剥離を防止し、かつ、その熱的クラックの発生を阻止し、その劣化を防止してバリア-性膜として優れた耐性を発揮し、飲食品、医薬品、洗剤、シャンプ-、オイル、歯磨き、接着剤、粘着剤等の化学品ないし化粧品、その他等の種々の物品の充填包装適性、保存適性等に優れた透明バリア性ポリプロピレンフィルム、およびそれを使用した積層体および包装用容器に関するものである。」
(イ)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のアルミニウム箔においては、使用後の再利用が困難であり、かつ、廃棄後焼却すると、金属箔由来の焼却灰が残り、環境上の問題点がある。また、上記のポリ塩化ビニリデン系樹脂のコ-ティング膜を有するナイロンフィルムあるいはポリエチレンテレフタレ-トフィルム等においては、使用後に廃棄し、焼却すると、例えば、塩素ガス等の有害なガスが発生し、これもまた、環境上の問題点がある。更に、上記のポリビニルアルコ-ルフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合体のケン化物フィルム、ポリアクリロニトリル系樹脂フィルム等においては、例えば、内容物として、食品を充填し、ボイル処理やレトルト処理等の加熱殺菌時に、充分なバリア性を保持することが困難であり、また、包装製品の保存、流通環境における温度や湿度等に影響を受けるという問題点がある。
上記のような問題点を解決するものとして、上記のように、近年、プラスチック基材の上に、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の無機酸化物の蒸着膜を設けた構成からなる透明バリア性フィルム、あるいは、アルミニウム等の金属の蒸着膜をを設けた構成からなるバリア性フィルムが提案されているが、これらのものは、使用後に焼却しても残留物が少なく、また、高湿度下でのバリア性の劣化も少なく、種々の包装用材料として多用されているものである。」
(ウ)「【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記のような問題点を解決すべく種々研究の結果、2軸延伸ポリプロピレンフィルム基材の一方の面に、物理蒸着法による無機酸化物の蒸着膜を形成し、これを第1の薄膜とし、該第1の薄膜を、次に形成する第2の薄膜の第1の薄膜への密着性を向上させ、かつ、第2の薄膜を形成するプラズマ処理による2軸延伸ポリプロピレンフィルムの黄変と劣化等を防止する耐プラズマ保護層とし、次いで、上記の第1の薄膜の上に、プラズマ化学蒸着法による無機酸化物の蒸着膜を形成し、これを第2の薄膜とし、少なくとも2種以上の無機酸化物による第1の薄膜と第2の薄膜とを積層して透明バリア性ポリプロピレンフィルムを製造し、更に、該透明バリア性ポリプロピレンフィルムに、ヒ-トシ-ル性を有するポリオレフィン系樹脂層、あるいは、基材フィルム層等を積層して積層体を製造し、更に、該積層体を使用して製袋または製函して包装用容器を製造し、該包装用容器内に種々の物品を充填包装したところ、透明性、酸素あるいは水蒸気等に対するガスバリア性、耐衝撃性等に優れ、更に、ラミネ-ト加工、印刷加工、製袋ないし製函加工等の後加工適性を有し、また、バリア性膜としての蒸着膜の剥離を防止し、かつ、その熱的クラックの発生を阻止し、その劣化を防止してバリア-性膜として優れた耐性を発揮し、飲食品、医薬品、洗剤、シャンプ-、オイル、歯磨き、接着剤、粘着剤等の化学品ないし化粧品、その他等の種々の物品の充填包装適性、保存適性等に優れた透明バリア性ポリプロピレンフィルム、およびそれを使用した積層体および包装用容器を製造し得ることを見出して本発明を完成したものである。」
(エ)「【0014】
次にまた、本発明において、透明バリア性ポリプロピレンフィルムを構成する第1の薄膜としては、基本的に無機酸化物をアモルファス(非晶質)化した薄膜であれば使用可能であり、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化カリウム、酸化スズ、酸化ナトリウム、酸化ホウ素、酸化チタン、酸化鉛、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム等の無機酸化物をアモルファス(非晶質)化した薄膜を使用することができる。
本発明において、上記の第1の薄膜としては、具体的には、例えば、上記のような金属酸化物からなる無機酸化物、あるいは、金属等を使用し、必要ならば、酸素ガス等を供給しながら、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレ-ティング法等の物理気相成長法(物理蒸着法、Physical Vapor Deposition法、PVD法)によって、無機酸化物の蒸着膜を形成し、これを第1の薄膜として使用することができる。上記において、蒸着原料の加熱方式としては、例えば、エレクトロンビ-ム(EB)方式、高周波誘導加熱方式、抵抗加熱方式等を用いられる。
上記の物理蒸着法について、その一例として、巻き取り式蒸着機の例を挙げて更に具体的に説明すると、図11の概略的構成図に示すように、巻き取り式真空蒸着装置111の真空チャンバ-112の中で、巻き出しロ-ル113から繰り出す2軸延伸ポリプロピレンフィルム114は、コ-ティングドラム115を経て蒸着チャンバ-116の中に入り、ここで、るつぼ117で蒸着源として熱せられた金属、あるいは、金属酸化物を蒸発させ、その際に、酸素吹き出し口118より酸素ガス等を噴出させながら、冷却したコ-ティングドラム115の2軸延伸ポリプロピレンフィルム114の上に、マスク119、119を介して無機酸化物の蒸着膜を成膜化し、次いで蒸着膜を形成した2軸延伸ポリプロピレンフィルム114を真空チャンバ-112内に送り出して巻き取りロ-ル120に巻き取ることによって、第1の薄膜としての物理蒸着法による無機酸化物の蒸着膜を製造することができる。
【0015】・・・本発明において、上記の密着強度を更に向上させるために、第1の薄膜としての無機酸化物の蒸着膜を有する2軸延伸ポリプロピレンフィルムを、大気中に長時間保持することにより、あるいは、インラインまたはオフラインで酸素プラズマ処理により、第1の薄膜としての無機酸化物の蒸着膜面に、水酸基を導入することも可能である。例えば、第1の薄膜としての無機酸化物の蒸着膜が、酸化アルミニウムの蒸着膜である場合、アルミニウムに直結した酸素(酸化アルミニウム)と水酸基(水酸化アルミニウム)の比率を重量比で40:60~70:30位にすることが好ましいものである。而して、本発明において、上記の耐プラズマ保護層、更には、第2の薄膜の密着性を向上させるものとしての第1の薄膜は、透明性に優れ、非結晶性の無機酸化物の蒸着膜が好ましく、具体的には、式AlOX (ただし、式中、Xは、1~1.5の数を表す。)で表される酸化アルミニウムの蒸着膜が好ましいものである。また、本発明において、第1の薄膜の膜厚としては、50~300Å位、より好ましくは、100~250Å位が望ましく、而して、上記において、300Å、更には、250Åより厚くなると、その膜にクラック等が発生し易くなるので好ましくなく、また、50Å未満、更には、100Å未満であると、その効果を奏することが困難になることから好ましくないものである。」
(オ)「【0028】
【実施例】
実施例1
(1).基材として、厚さ20μmの2軸延伸ポリプロピレンフィルム(TD方向の引張強度:12Kgf/mm2 )を使用し、これをエレクトロンビ-ム(EB)加熱方式のPVD真空蒸着機の送り出しロ-ルに装着し、下記の条件で酸化アルミニウムの蒸着膜からなる保護層を上記のポリプロピレンフィルムのコロナ処理面に形成した。
蒸着原料:アルミニウム
真空チャンバ-内の真空度:2.5×10-3mbar
酸素導入前の蒸着チャンバ-内の真空度:2.2×10-4mbar
酸素導入後の蒸着チャンバ-内の真空度:3.1×10-4mbar
フィルムの搬送速度:480m/分
蒸着面:コロナ処理
面蒸着膜の厚さ:250Å(蛍光X線分析法)
(2).上記で製造した酸化アルミニウムの蒸着膜を有する2軸延伸ポリプロピレンフィルムを高周波プラズマ方式CVD蒸着装置の送り出しロ-ルに装着し、下記の条件で酸化ケイ素の蒸着膜からなるバリア層を、2軸延伸ポリプロピレンフィルムの酸化アルミニウムの蒸着膜の上に形成して、本発明にかかる透明バリア性ポリプロピレンフィルムを製造した。
反応ガス混合比:1.1.3.3-テトラメチルジシロキサン:酸素ガス:ヘリウム=1:10:8
真空チャンバ-内の真空度:7.0×10-6mbar
蒸着チャンバ-内の真空度:3.8×10-2mbar
冷却・電極ドラム供給電力:10kW
フィルムの搬送速度:100m/分
蒸着膜の厚さ:200Å(蛍光X線分析法)
(3).上記で製造した本発明にかかる透明バリア性ポリプロピレンフィルムの酸化ケイ素の蒸着膜の面に、厚さ50μmの低密度ポリエチレンフィルムをドライラミネ-ト法で積層して、下記の層構成からなる本発明にかかる積層体を製造した。上記において、接着剤としては、2液硬化型のウレタン系接着剤を用いて、その接着剤量は、4.5g/m2(固形分量)であった。
厚さ15μmの2軸延伸ポリプロピレンフィルム/酸化アルミニウムの蒸着膜/酸化ケイ素の蒸着膜/接着剤層/厚さ50μmの低密度ポリエチレンフィルム」
(カ)「
」
以上を総合し、甲第10号証には、以下の甲10発明が記載されている。
「巻き取り式真空蒸着装置111の真空チャンバ-112の中で、巻き出しロ-ル113から繰り出す2軸延伸ポリプロピレンフィルム114は、コ-ティングドラム115を経て蒸着チャンバ-116の中に入り、ここで、るつぼ117で蒸着源として熱せられたアルミニウムを蒸発させ、その際に、酸素吹き出し口118より酸素ガス等を噴出させながら、冷却したコ-ティングドラム115の2軸延伸ポリプロピレンフィルム114の上に、マスク119、119を介して酸化アルミニウムの蒸着膜を成膜化した透明バリア性ポリプロピレンフィルムの製造方法。」
イ.本件発明3について
(ア)対比
本件発明3と甲10発明とを対比すると、甲10発明の「透明バリア性ポリプロピレンフィルム」は本件発明3の「光透過性を有したプラスチックフィルム」に相当し、以下同様に、「るつぼ117で蒸着源として熱せられたアルミニウムを蒸発」は「アルミニウムを加熱して蒸発させる工程」に、「酸素ガス」は「酸化ガス」にそれぞれ相当する。
また、甲10発明の「巻き取り式真空蒸着装置111」は、真空状態で蒸着させるものであるから、本件発明3の「真空雰囲気下において」「蒸着」に相当し、甲10発明の「酸化アルミニウムの蒸着膜」は、本件発明3の「蒸発したアルミニウムと酸化ガスとの反応生成物」に相当し、甲10発明の「透明バリア性ポリプロピレンフィルム」は、本件発明3の「ガスバリアフィルム」に相当する。
よって、本件発明3と甲8発明は、以下の点で一致する。
<一致点10>
「真空雰囲気下においてアルミニウムを加熱して蒸発させる工程と、
蒸発したアルミニウムと酸化ガスとの反応生成物を生成し、光透過性を有したプラスチックフィルムに前記反応生成物を蒸着させてガスバリア層を形成する工程とを含むガスバリアフィルムの製造方法。」
<相違点10-1>
蒸発したアルミニウムと酸化ガスとの反応生成物である酸化アルミニウムについて、本件発明3は、「水素を含有した酸化アルミニウムであるAlOXHY」であって、「酸素組成比Xは、1.00<X<2.00を満たし、水素組成比Yは、0.10<Y<1.20を満たし、前記ガスバリア層における水素量が30.0at%以下」であるのに対し、甲10発明は、具体的組成が明記されていない点。
<相違点10-2>
反応生成物を蒸着する工程について、本件発明3は、「前記反応生成物を生成する期間において前記反応生成物が生成される空間に残留する水分量を吸着によって所望の値にまで下げ、前記アルミニウムと前記酸化ガスと水分とが反応することで前記反応生成物を生成する」のに対し、甲10発明は、そのようなことが明記されていない点。
(イ)相違点についての検討
事案に鑑み、まず<相違点10-2>について検討する。甲10発明の巻き取り式真空蒸着装置111は、アルミニウムと酸化ガスと水分とを反応させるために、水分量を「所望の値」にまで下げるものではないから、<相違点10-2>は実質的な相違点である。
よって、<相違点10-1>について検討するまでもなく、本件発明3は、甲10発明ではない。
ウ.本件発明4について
本件発明4は、本件発明3の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明4についても同様に、甲10発明ではない。
(4)理由10-2(特許法第29条第2項)について
ア.甲第10号証の記載
甲第10号証に記載された事項及び甲10発明については、上記第6.2.(3)ア.で述べたとおりである。
イ.本件発明3について
(ア)対比
上記第6.2.(3)ウ.(ア)のとおり、本件発明3と甲10発明は<一致点10>で一致し<相違点10-1>~<相違点10-2>で相違するものである。
(イ)相違点についての検討
<相違点10-1>及び<相違点10-2>について検討する。甲10発明の巻き取り式真空蒸着装置は、水酸基を導入することによって、アルミニウムに直結した酸素(酸化アルミニウム)と水酸基(水酸化アルミニウム)の比率を調整するものであるから、アルミニウムと酸化ガスと水分とを反応させるために、水分量を「所望の値」にまで下げることにより、酸素組成比Xが1.00<X<2.00を満たし、水素組成比Yが0.10<Y<1.20を満たし、ガスバリア層における水素量が30.0at%以下である水素を含有した酸化アルミニウムであるAlOXHYを生成するガスバリアフィルムの製造方法とすることは、当業者が容易に想到することができたものであるといえない。
よって、本件発明3は、甲10発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
ウ.本件発明4~5について
本件発明4~5は、本件発明3の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明3と同様の理由から、甲10発明に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
(5)理由4-1(特許法第29条第2項)について
ア.甲第4号証の記載
(ア)「【請求項11】
基材と、当該基材上に形成されたガスバリア層と、を備えたガスバリア性フィルムであって、
前記基材上に前記ガスバリア層を形成する際に、真空蒸着法と、当該真空蒸着法で用いる蒸着材料からなる蒸着粒子に対する、高密度プラズマを発生させる手段により発生させた高密度プラズマによる活性化と、を併せて用いることにより、80%以上100%以下の範囲内の光線透過率で水蒸気透過率の最大値と最小値との差を2g/m2・day以下としたことを特徴とするガスバリア性フィルム。
・・・
【請求項4】
前記ガスバリア層は、アルミニウムを含む層であることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載したガスバリア性フィルム。」
(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の包装材、医療医薬品、インクジェットタンク部材の外装材、樹脂等の輸出用包材、太陽電池バックシート等の産業資材向け外装材に用いられるガスバリア性フィルムに関するものである。」
(ウ)「【0023】
(ガスバリア層11の構成)
ガスバリア層11の材料としては、例えば、酸化珪素膜、窒化珪素膜、酸窒化珪素膜、酸化アルミニウム膜、窒化アルミニウム膜、酸窒化アルミニウム膜、酸化マグネシウム膜を用いることが可能である。これらの材料を蒸着する際に用いる蒸着材料は、特に限定されるものではなく、公知のものを用いることが可能であるが、特に、酸化アルミニウム膜、窒化アルミニウム膜、酸窒化アルミニウム膜等、アルミニウムを含む膜を蒸着材料として用いる場合、透明性を向上させつつ、ガスバリア性能の維持及び向上が、その他の材料と比較して容易となるため、好ましい。 ・・・」
(エ)「【0031】
(ガスバリア性フィルム1の製造方法)
以下、図1を参照しつつ、図2を用いて、ガスバリア性フィルム1の製造方法について説明する。なお、図2は、本実施形態のガスバリア性プラスチックフィルムの製造装置の概略構成を示す図である。
図2中に示すように、ガスバリア性フィルム1の製造装置2は、真空チャンバー20と、巻き出しローラー22と、成膜ロール23と、巻取りローラー24と、直進電子ビーム銃26と、反応性ガス導入パイプ27と、反応ガスボンベ28と、坩堝31を備えている。」
(オ)「【0034】
ガスバリア層11をプラスチックフィルム21上に形成する処理では、坩堝31に、ガスバリア層11を成膜するための蒸着材料25をセットし、直進電子ビーム銃26から出力する電子ビームにより加熱する。
直進電子ビーム銃26が出力する電子ビームにより加熱された蒸着材料25は、蒸気となりプラスチックフィルム21に蒸着されるが、図2中では、加熱された蒸着材料25による蒸気を蒸着粒子29で示し、蒸着粒子29を活性化する高密度プラズマを、プラズマ30として示す。」
(カ)「【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
図2の製造装置2を用いて、厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ製P60)の片面に、AlOxからなるガスバリア層11を形成した。その際、ガスバリア層11の透過率を変化させるため、導入する酸素ガス量を変化させた。また、100Aに電流制御されたホロカソード放電による高密度プラズマを併用した。」
(キ)「
」
以上を総合し、甲第4号証には、以下の甲4発明が記載されている。
「ガスバリア性フィルム1の製造装置2は、真空チャンバー20と、巻き出しローラー22と、成膜ロール23と、巻取りローラー24と、直進電子ビーム銃26と、反応性ガス導入パイプ27と、反応ガスボンベ28と、坩堝31を備え、坩堝31に、アルミニウムを含むガスバリア層11を成膜するための蒸着材料25をセットし、酸素ガスを導入しながら、直進電子ビーム銃26から出力する電子ビームにより加熱された蒸着材料25は、蒸気となりプラスチックフィルム21に蒸着されてガスバリア層をプラスチックフィルムに形成するガスバリア性フィルムの製造方法。」
イ.本件発明3について
(ア)対比
本件発明3と甲4発明とを対比すると、甲4発明の「プラスチックフィルム」は、本件発明3の「プラスチックフィルム」に相当し、以下同様に、「酸素ガス」は「酸化ガス」に、「ガスバリア性フィルム」は「ガスバリアフィルム」相当する。
また、甲4発明の「アルミニウムを含むガスバリア層11を成膜するための蒸着材料25」を「電子ビームにより加熱」し「蒸気」とすることは、本件発明3の「アルミニウムを加熱して蒸発させる工程」に相当し、甲4発明の「真空チャンバー20」を備えた「製造装置2」は、真空状態で蒸着させるものであるから、本件発明3の「真空雰囲気下において」「蒸着」に相当する。
よって、本件発明3と甲4発明は、以下の点で一致する。
<一致点4>
「真空雰囲気下においてアルミニウムを加熱して蒸発させる工程と、
プラスチックフィルムに反応生成物を蒸着させてガスバリア層を形成する工程とを含むガスバリアフィルムの製造方法。」
<相違点4-1>
蒸発したアルミニウムと酸化ガスとの反応生成物について、本件発明3は、「水素を含有した酸化アルミニウムであるAlOXHY」であって、「酸素組成比Xは、1.00<X<2.00を満たし、水素組成比Yは、0.10<Y<1.20を満たし、前記ガスバリア層における水素量が30.0at%以下」であるのに対し、甲4発明は、具体的組成が明記されていない点。
<相違点4-2>
反応生成物を蒸着する工程について、本件発明3は、「前記反応生成物を生成する期間において前記反応生成物が生成される空間に残留する水分量を吸着によって所望の値にまで下げ、前記アルミニウムと前記酸化ガスと水分とが反応することで前記反応生成物を生成する」のに対し、甲4発明は、そのようなことが明記されていない点。
(イ)相違点についての検討
<相違点4-1>及び<相違点4-2>について検討する。甲4発明は、アルミニウムの蒸着工程で反応生成物を生成する期間においては、水酸基の導入を要しないものであるから、ガスバリアフィルムのアルミニウムの蒸着工程において水分を吸着して除去することができたとしても、アルミニウムの蒸着工程においては可能な限り多くの水分を吸着して除去しようとするのが合理的であって、アルミニウムと酸化ガスと水分とを反応させるために、水分量を「所望の値」にまで下げることにより、酸素組成比Xが1.00<X<2.00を満たし、水素組成比Yが0.10<Y<1.20を満たし、ガスバリア層における水素量が30.0at%以下である水素を含有した酸化アルミニウムであるAlOXHYを生成するガスバリアフィルムの製造方法とすることは、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
よって、本件発明3は、甲4発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
ウ.本件発明4~5について
本件発明4~5は、本件発明3の発明特定事項を全て含み、更に限定するものであるから、本件発明3と同様の理由から、甲4発明に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない。
3.小括
以上のとおりであるから、申立人A及びBのかかる主張は、採用することができない。
第7.申立人Aの意見書による主張について
(1)申立人Aは、「Al、O、Hの合計のat%が100at%を上回ることについては、依然として不明なままである。」と主張するが、上述したとおり、ガスバリア層には、不可避的に炭素や窒素などの他の元素が存在することは技術常識であることや、測定においては多少の誤差が生じ得ることに鑑みると、実施例、比較例1及び比較例2の合計のat%が100%とならないことをもって、本件特許明細書は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではないとはいえない。
(2)申立人Aは、進歩性欠如の理由として、「訂正発明3が従来周知のコールドトラップと異なる用い方をするのであれば、例えば、どの値まで水分量を下げるのかを特定し説明しなければならない。」と主張するが、訂正発明3においては、酸素組成比Xは、1.00<X<2.00を満たし、水素組成比Yは、0.10<Y<1.20を満たし、ガスバリア層における水素量が30.0at%以下である水素を含有した酸化アルミニウムであるAlOXHYを生成できる程度に水分量を下げると特定しているから、上記主張は採用できない。
(3)申立人Aは、訂正により顕在化した取消理由として、明確性違反及びサポート要件違反を主張するが、訂正発明3の「酸素組成比Xは、1.00<X<2.00を満たし、水素組成比Yは、0.10<Y<1.20を満たし、前記ガスバリア層における水素量が30.0at%以下であり、」との事項は、本件特許異議申立ての時点で既に本件特許の請求項3に特定されていた事項であり、申立人Aの、訂正により顕在化した取消理由として主張する上記理由は時機に遅れた申立理由であり、採用することはできない。
なお、訂正発明3の「酸素組成比Xは、1.00<X<2.00を満たし、水素組成比Yは、0.10<Y<1.20を満たし、前記ガスバリア層における水素量が30.0at%以下であり、」との事項は、「前記反応生成物を生成する期間において前記反応生成物が生成される空間に残留する水分量を吸着によって所望の値にまで下げ」ることによって生成されるガスバリアフィルムの技術的特徴を特定するものにすぎないから明確であり、また、前記反応生成物を生成する期間において前記反応生成物が生成される空間に残留する水分量を吸着によって所望の値にまで下げ」ることによって、「酸素組成比Xは、1.00<X<2.00を満たし、水素組成比Yは、0.10<Y<1.20を満たし、前記ガスバリア層における水素量が30.0at%以下であり、」という技術的特徴を有するガスバリアフィルムが生成されることは、本件特許明細書等の段落【0045】及び技術常識を参酌すると、発明の詳細な説明において当業者が認識できるように記載された範囲内のものである。
第8.むすび
以上のとおり、本件発明3~5に係る特許は、申立人の主張する申立理由、取消理由通知及び取消理由通知(予告)の取消理由によって取り消すことができない。
また、他に本件発明3~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正により、請求項1、2に係る特許は削除されたため、請求項1、2に対して申立人A、Bがした特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8で準用する特許法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2020-700030