特許拒絶査定不服審判
2020-017540
パターニングデバイス冷却システム及びパターニングデバイスを熱調節する方法
- 審判番号
- 2020-017540
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-548349外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年12月23日
- 審決日
- 2021年08月20日
- 公報発行日
- 2022年02月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】エーエスエムエル ネザーランズ ビー.ブイ.
- 【請求人代理人】稲葉 良幸
- 【請求人代理人】大貫 敏史
- 【請求人代理人】江口 昭彦
- 【請求人代理人】内藤 和彦
- 分類
- P18 .113-Z (G03F) / P18 .121-Z (G03F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-548349号「パターニングデバイス冷却システム及びパターニングデバイスを熱調節する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年9月28日国際公開、WO2017/162377号、平成31年4月4日国内公表、特表2019-509521号〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)2月16日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2016年(平成28年)3月24日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成30年11月 6日 :翻訳文、上申書、手続補正書の提出
令和 元年 8月 6日付け:拒絶理由通知書
令和 元年11月12日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 4月 8日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 7月10日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 8月21日付け:拒絶査定
令和 2年12月23日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和2年12月23日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年12月23日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
使用時に露光放射によって照射される、リソグラフィ装置のパターニングデバイスを熱調節するためのパターニングデバイス冷却システムであって、前記パターニングデバイス冷却システムが、
前記パターニングデバイスの平面を超えてガス流を提供することにより前記パターニングデバイスを熱調節するように構成された熱コンディショナと、
前記パターニングデバイスの上方のパージプレートと、
前記パージプレートに形成され、前記平面を超えたガス流を抽出するように構成されたガス抽出器と、
前記パターニングデバイスによって吸収される前記露光放射の量に応じて前記熱コンディショナを制御するように構成されたコントローラと、を備え、
前記コントローラが、
前記パターニングデバイスに入射する単位時間当たりの前記露光放射の量、
前記パターニングデバイスに入射して前記パターニングデバイスによって吸収される前記露光放射の割合、及び
前記パターニングデバイスが前記露光放射によってスキャンされるスキャン速度に応じて、前記熱コンディショナを制御するように構成される、
パターニングデバイス冷却システム。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和2年7月10日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
使用時に露光放射によって照射される、リソグラフィ装置のパターニングデバイスを熱調節するためのパターニングデバイス冷却システムであって、前記パターニングデバイス冷却システムが、
前記パターニングデバイスの平面を超えてガス流を提供することにより前記パターニングデバイスを熱調節するように構成された熱コンディショナと、
前記パターニングデバイスの上方のパージプレートと、
前記パージプレートに形成され、前記平面を超えたガス流を抽出するように構成されたガス抽出器と、
前記パターニングデバイスによって吸収される前記露光放射の量に応じて前記熱コンディショナを制御するように構成されたコントローラと、を備え、
前記コントローラが、
前記パターニングデバイスに入射する単位時間当たりの前記露光放射の量、
前記パターニングデバイスに入射して前記パターニングデバイスによって吸収される前記露光放射の割合、
前記パターニングデバイスが前記露光放射によってスキャンされるスキャン速度、及び
前記パターニングデバイスを前記露光放射によってスキャンする露光経路の長さ、のうちの少なくとも1つに応じて、前記熱コンディショナを制御するように構成される、
パターニングデバイス冷却システム。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「コントローラ」によって「熱コンディショナを制御する」構成が、「前記パターニングデバイスに入射する単位時間当たりの前記露光放射の量、前記パターニングデバイスに入射して前記パターニングデバイスによって吸収される前記露光放射の割合、前記パターニングデバイスが前記露光放射によってスキャンされるスキャン速度、及び前記パターニングデバイスを前記露光放射によってスキャンする露光経路の長さ、のうちの少なくとも1つに応じて」いたものを、「前記パターニングデバイスに入射する単位時間当たりの前記露光放射の量、前記パターニングデバイスに入射して前記パターニングデバイスによって吸収される前記露光放射の割合、及び前記パターニングデバイスが前記露光放射によってスキャンされるスキャン速度に応じて」いるものに限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりの以下のものである(AないしFは、本件補正発明を分説するために当審で付した。以下「構成A」などという。)。
「【請求項1】
A 使用時に露光放射によって照射される、リソグラフィ装置のパターニングデバイスを熱調節するためのパターニングデバイス冷却システムであって、前記パターニングデバイス冷却システムが、
B 前記パターニングデバイスの平面を超えてガス流を提供することにより前記パターニングデバイスを熱調節するように構成された熱コンディショナと、
C 前記パターニングデバイスの上方のパージプレートと、
D 前記パージプレートに形成され、前記平面を超えたガス流を抽出するように構成されたガス抽出器と、
E 前記パターニングデバイスによって吸収される前記露光放射の量に応じて前記熱コンディショナを制御するように構成されたコントローラと、を備え、
F 前記コントローラが、
前記パターニングデバイスに入射する単位時間当たりの前記露光放射の量、
前記パターニングデバイスに入射して前記パターニングデバイスによって吸収される前記露光放射の割合、及び
前記パターニングデバイスが前記露光放射によってスキャンされるスキャン速度に応じて、前記熱コンディショナを制御するように構成される、
A パターニングデバイス冷却システム。」
(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特表2015-536476号公報(平成27年12月21日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付した。以下同じ。)。
a 「【技術分野】
【0001】
・・・
【0002】
[0002] 本発明の実施形態は、リソグラフィ装置のパターニングデバイスに関し、より具体的には、パターニングデバイスの表面を横切ってガスを流すことによってパターニングデバイスの温度を制御する装置及び方法に関する。」
b 「【0032】
[0055] リソグラフィ装置100及び100’は、以下のモードのうち少なくとも1つにて使用可能である。
【0033】
[0056] 1.ステップモードにおいては、支持構造(例えば、マスクテーブル)MT及び基板テーブルWTは、基本的に静止状態に維持される一方、放射ビームBに与えたパターン全体が1回でターゲット部分Cに投影される(すなわち単一静的露光)。次に、別のターゲット部分Cを露光できるように、基板テーブルWTがX方向及び/又はY方向に移動される。
【0034】
[0057] 2.スキャンモードにおいては、支持構造(例えば、マスクテーブル)MT及び基板テーブルWTは同期的にスキャンされる一方、放射ビームBに与えられるパターンがターゲット部分Cに投影される(すなわち単一動的露光)。支持構造(例えば、マスクテーブル)MTに対する基板テーブルWTの速度及び方向は、投影システムPSの拡大(縮小)及び像反転特性によって求めることができる。
【0035】
[0058] 3.別のモードでは、支持構造(例えば、マスクテーブル)MTはプログラマブルパターニングデバイスを保持して実質的に静止状態に維持され、基板テーブルWTを移動又はスキャンさせながら、放射ビームBに与えられたパターンをターゲット部分Cに投影する。パルス状放射源SOを使用し、基板テーブルWTを移動させるごとに、又はスキャン中に連続する放射パルスの間で、プログラマブルパターニングデバイスを必要に応じて更新する。この動作モードは、以上で言及したようなタイプのプログラマブルミラーアレイなどのプログラマブルパターニングデバイスを使用するマスクレスリソグラフィに容易に適用できる。
【0036】
[0059] 上述した使用モードの組合せ及び/又は変形、又は全く異なる使用モードも利用できる。」
c 「【0059】
[0082] コントローラ420を、冷却サブシステム(図示せず)と通信するように構成してもよい。幾つかの実施形態では、コントローラ420は、パターニングデバイス402の所望の温度を達成するため、例えばガス流412の温度、圧力、流量などのガス流412の1つ以上の特性を変更することによってパターニングデバイス402の温度を動的に調整する。パターニングデバイス402のこれらの所望の温度は静的でも動的でもよく、均一でも不均一でもよい。コントローラ420は、上述のようにノズル409の構成に応じてガス供給ノズル409の複数の出口でのガス流412の流量を変更してもよい。・・・
【0062】
[0085] 図5A及び図5Bは、実施形態によるリソグラフィ装置のパターニングデバイス502の温度を制御するように構成されたパターニングデバイス支持体500、及び固定コンポーネント503の側面図を示している。パターニングデバイス支持体500は、上記パターニングデバイス支持体と同様のコンポーネントを含んでいる。これらの同様のコンポーネントには同様の番号が付されており、異なる範囲、又は開示する実施形態を説明するのに役立つ範囲のみを記載する。パターニングデバイス支持体500は、可動コンポーネント504、例えばパターニングデバイス502を支持するレチクルステージの可動コンポーネントを備えてもよい。図1A及び図1Bで説明した放射ビームBなどの放射506はパターニングデバイス502に誘導される。幾つかの実施形態では、パターニングデバイス502はレチクル、又はその他のタイプの透過性マスクでよい。放射506がパターニングデバイス502に入射し、これを通過すると、パターニングデバイス502は放射506からのエネルギーを吸収し、これがパターニングデバイス502の温度上昇、及びそれに関連する熱膨張、並びにパターニングデバイス502の周囲のガスの加熱を生じる。幾つかの実施形態では、コンポーネント503はリソグラフィ装置の非可動コンポーネント、例えば固定パージプレートである。固定パージプレート503は、例えばパターニングデバイス支持体500から約1.5mm上方にあってよい。固定パージプレート503は、パターニングデバイス502と固定パージプレート503の底面との間の区域内に清浄ガスを含む加圧環境の一部を画定する。ガス出口510は、例えば、プレート503内のスキャンステージの長軸に沿った開口又はポートに位置してもよい。スキャンステージの長軸は、例えば図3に示す移動356の方向に沿っていてもよい。幾つかの実施形態では、ガス出口510は、スキャンステージの長軸に沿って可能な移動の全範囲に及んで延在していてもよい。ガス出口510が固定パージプレート503に位置する幾つかの実施形態では、ガス出口510はリソグラフィ装置の動作時の使用中に静止状態を保つ。
【0063】
[0086] パターニングデバイス支持体500は、ガス入口508を含んでもよい。幾つかの実施形態では、ガス入口508は図5Aに示す可動コンポーネント504と一体であってもよい。例えば、可動コンポーネント504はノズルを形成してもよく、ノズルに直接結合されてもよい。幾つかの実施形態では、ガス入口508はコンポーネント504とは別個でもよく、例えば図5Bに示すような可動コンポーネント504によって画定される開口505を通過する別のノズルでもよい。コンポーネント503はガス出口510を含んでもよい。図5A及び図5Bに示すように、ガス出口510は、パターニングデバイス502の上方の固定パージプレート503と一体でもよく、又はこれに結合されてもよい。ガス出口510は、ガス入口508に対してパターニングデバイス502の反対側に位置してもよい。ガス入口508とガス出口510は各々近接するように、例えばパターニングデバイス502の同じ表面、例えばパターニングデバイス502の上面の近傍にあるように位置してもよい。
【0064】
[0087] ガス入口508及びガス出口510は、パターニングデバイス502の表面を横切るガス流512を供給するように位置している。図5A及び図5Bでは、ガス流512はガス入口508からパターニングデバイス502の上面を横切り、これに実質的に平行に進行する。ガス流512がパターニングデバイス502の反対側に達すると、ガス出口510はガス流512を抽出する。
【0065】
[0088] ガス流512はパターニングデバイス502の温度を変更する。例えば、ガス流512はパターニングデバイス502の温度を低減させ、上昇させ、又は維持することができる。幾つかの実施形態では、ガス流512は放射の吸収によるパターニングデバイス202の加熱に抗し、それによってパターニングデバイス202の熱膨張と、パターニングデバイス202の周囲のガスの加熱を低減する。パターニングデバイス202のこの熱膨張、及びパターニングデバイス202の周囲のガスの温度の低減により像歪みが軽減される。幾つかの実施形態では、パターニングデバイス502の所望の温度を達成するため、ガス流512の特性、例えば温度、圧力、又は流量が動的に調整されてもよい。パターニングデバイス502の所望の温度は静的でも動的でもよく、均一でも不均一でもよい。幾つかの実施形態では、ガス流512のガスはヘリウムを含む、又は実質的にヘリウムからなっている。幾つかの実施形態では、ガス流512は極度に清浄な乾燥ガス、又は空気を含んでいる。」
d 図5A及び図5Bは次のものである。
【図5A】
[図:0001381438000001.jpg]
【図5B】
[図:0001381438000002.jpg]
イ 上記アから、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(aないしiは、当審で付した。以下「構成a」などという。)。
「a パターニングデバイス支持体は、パターニングデバイスを支持するレチクルステージの可動コンポーネントを備え(【0062】)、
b 放射が前記パターニングデバイスに入射し、これを通過すると、前記パターニングデバイスは前記放射からのエネルギーを吸収し、これが前記パターニングデバイスの温度上昇、及びそれに関連する熱膨張、並びに前記パターニングデバイスの周囲のガスの加熱を生じ(【0062】)、
c 固定パージプレートは、前記パターニングデバイス支持体から約1.5mm上方にあり、前記固定パージプレートは、前記パターニングデバイスと前記固定パージプレートの底面との間の区域内に清浄ガスを含む加圧環境の一部を画定し(【0062】)、
d 前記パターニングデバイス支持体は、ガス入口を含み(【0063】)、
e ガス出口は、前記パターニングデバイスの上方の前記固定パージプレートと一体であり(【0063】)、
f 前記ガス入口及び前記ガス出口は、前記パターニングデバイスの表面を横切るガス流を供給するように位置し、前記ガス流は前記ガス入口から前記パターニングデバイスの上面を横切り、これに実質的に平行に進行し、前記ガス流が前記パターニングデバイスの反対側に達すると、前記ガス出口は前記ガス流を抽出し(【0064】)、
g 前記ガス流が前記パターニングデバイスの温度を低減させ、上昇させ、又は維持することができ、前記ガス流が放射の吸収による前記パターニングデバイスの加熱に抗することによって前記パターニングデバイスの熱膨張と、前記パターニングデバイスの周囲のガスの加熱を低減し、前記パターニングデバイスの像歪みが軽減されるものであって、前記パターニングデバイスの所望の温度を達成するため、前記ガス流の特性、温度、圧力、又は流量が動的に調整され(【0065】)、
h 前記パターニングデバイスの所望の温度を達成するため、前記ガス流の温度、圧力、流量などのガス流の1つ以上の特性を変更することによって前記パターニングデバイスの温度を動的に調整するコントローラを備え(【0059】)、
i マスクテーブル及び基板テーブルは同期的にスキャンされるスキャンモード(【0034】)にて使用可能な(【0032】)リソグラフィ装置のパターニングデバイスの温度を制御する装置(【0002】)。」
(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「リソグラフィ装置のパターニングデバイスの温度を制御する装置」(構成i)の「パターニングデバイス」は、「放射が前記パターニングデバイスに入射し、これを通過すると、前記パターニングデバイスは前記放射からのエネルギーを吸収し、これが前記パターニングデバイスの温度上昇、及びそれに関連する熱膨張、並びに前記パターニングデバイスの周囲のガスの加熱を生じ」(構成b)るものであるから、本件補正発明の「使用時に露光放射によって照射される、リソグラフィ装置のパターニングデバイス」に相当する。
また、引用発明の「リソグラフィ装置のパターニングデバイスの温度を制御する装置」(構成i)は、「前記ガス流が前記パターニングデバイスの温度を低減させ、上昇させ、又は維持することができ、前記ガス流が放射の吸収による前記パターニングデバイスの加熱に抗することによって前記パターニングデバイスの熱膨張と、前記パターニングデバイスの周囲のガスの加熱を低減し、前記パターニングデバイスの像歪みが軽減されるものであ」(構成g)るから、リソグラフィ装置のパターニングデバイスの温度を制御するために、前記パターニングデバイスの温度を低減させ、上昇させ、又は維持する、前記パターニングデバイスの温度を低減させる装置であるといえる。
したがって、上記構成gに係る引用発明の「リソグラフィ装置のパターニングデバイスの温度を制御する装置」(構成i)は、本件補正発明の「リソグラフィ装置のパターニングデバイスを熱調節するためのパターニングデバイス冷却システム」に相当する。
以上によれば、引用発明の構成b及びgに係る引用発明の「リソグラフィ装置のパターニングデバイスの温度を制御する装置」(構成i)は、本件補正発明の「使用時に露光放射によって照射される、リソグラフィ装置のパターニングデバイスを熱調節するためのパターニングデバイス冷却システム」(構成A)に相当する。
(イ)引用発明の「ガス流」は、「前記ガス入口及び前記ガス出口は、前記パターニングデバイスの表面を横切るガス流を供給するように位置し、前記ガス流は前記ガス入口から前記パターニングデバイスの上面を横切り、これに実質的に平行に進行し、前記ガス流が前記パターニングデバイスの反対側に達する」(構成f)ものであるから、引用発明の「前記ガス入口及び前記ガス出口」が、「前記パターニングデバイスの表面を横切るガス流を供給する」ことは、本件補正発明の「パターニングデバイスの平面を超えてガス流を提供すること」に相当する。
また、引用発明の「ガス流」は、構成fのように供給することで、「前記パターニングデバイスの温度を低減させ、上昇させ、又は維持する」(構成g)ものであるから、引用発明の「ガス流」を供給する「ガス入口」は、本件補正発明の「パターニングデバイスを熱調節するように構成された熱コンディショナ」に相当する。
以上によれば、引用発明の構成f及びgに係る引用発明の「ガス入口」は、本件補正発明の「前記パターニングデバイスの平面を超えてガス流を提供することにより前記パターニングデバイスを熱調節するように構成された熱コンディショナ」(構成B)に相当する。
(ウ)引用発明の「前記パターニングデバイス支持体から約1.5mm上方にあ」る「固定パージプレート」(構成c)が、パターニングデバイスの上方にあることは明らかであるから、上記構成cに係る「固定パージプレート」は、本件補正発明の「前記パターニングデバイスの上方のパージプレート」(構成C)に相当する。
(エ)引用発明の「前記固定パージプレートと一体であり」(構成e)、「ガス入口」とともに、「前記ガス流は前記ガス入口から前記パターニングデバイスの上面を横切り、これに実質的に平行に進行し、前記ガス流が前記パターニングデバイスの反対側に達すると」「前記ガス流を抽出」(構成f)する「ガス出口」は、本件補正発明の「前記パージプレートに形成され、前記平面を超えたガス流を抽出するように構成されたガス抽出器」(構成D)に相当する。
(オ)引用発明の「リソグラフィ装置のパターニングデバイスの温度を制御する装置」(構成i)は、「放射が前記パターニングデバイスに入射し、これを通過すると、前記パターニングデバイスは前記放射からのエネルギーを吸収し、これが前記パターニングデバイスの温度上昇、及びそれに関連する熱膨張、並びに前記パターニングデバイスの周囲のガスの加熱を生じ」(構成b)るため、「前記ガス入口及び前記ガス出口は、前記パターニングデバイスの表面を横切るガス流を供給」(構成f)し、「前記パターニングデバイスの所望の温度を達成する」(構成g)ものであるから、パターニングデバイスが吸収する放射からのエネルギーの量に応じて「ガス流の特性、温度、圧力、又は流量」を「動的に調整」することで「パターニングデバイスの所望の温度を達成する」ものであるといえる。
また、引用発明の「コントローラ」は、本件補正発明の「コントローラ」に相当する。
さらに、「リソグラフィ装置のパターニングデバイスの温度を制御する装置」(構成i)は、「パターニングデバイスの所望の温度を達成するため、ガス流の温度、圧力、流量などのガス流の1つ以上の特性を変更することによってパターニングデバイスの温度を動的に調整するコントローラを備える」(構成h)。
以上によれば、上記構成b、f及びgに係る「リソグラフィ装置のパターニングデバイスの温度を制御する装置」(構成i)は、本件補正発明の「前記パターニングデバイスによって吸収される前記露光放射の量に応じて前記熱コンディショナを制御するように構成されたコントローラ」(構成E)を備える。
イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「A 使用時に露光放射によって照射される、リソグラフィ装置のパターニングデバイスを熱調節するためのパターニングデバイス冷却システムであって、前記パターニングデバイス冷却システムが、
B 前記パターニングデバイスの平面を超えてガス流を提供することにより前記パターニングデバイスを熱調節するように構成された熱コンディショナと、
C 前記パターニングデバイスの上方のパージプレートと、
D 前記パージプレートに形成され、前記平面を超えたガス流を抽出するように構成されたガス抽出器と、
E 前記パターニングデバイスによって吸収される前記露光放射の量に応じて前記熱コンディショナを制御するように構成されたコントローラと、を備える、
A パターニングデバイス冷却システム。」
【相違点1】
「コントローラ」が「前記熱コンディショナを制御する」ことについて、本件補正発明は、「前記パターニングデバイスに入射する単位時間当たりの前記露光放射の量、前記パターニングデバイスに入射して前記パターニングデバイスによって吸収される前記露光放射の割合、及び前記パターニングデバイスが前記露光放射によってスキャンされるスキャン速度に応じ」るものであるのに対し、引用発明は、「放射がパターニングデバイスに入射し、これを通過すると、パターニングデバイスは放射からのエネルギーを吸収し、これがパターニングデバイスの温度上昇、及びそれに関連する熱膨張、並びにパターニングデバイスの周囲のガスの加熱を生じ」(構成b)るものであるため、「前記ガス流が前記パターニングデバイスの温度を低減させ、上昇させ、又は維持することができ、前記ガス流が放射の吸収による前記パターニングデバイスの加熱に抗することによって前記パターニングデバイスの熱膨張と、前記パターニングデバイスの周囲のガスの加熱を低減し、前記パターニングデバイスの像歪みが軽減されるものであって、前記パターニングデバイスの所望の温度を達成するため、前記ガス流の特性、温度、圧力、又は流量が動的に調整される」(構成g)ものであると特定される点。
(4)判断
ア 相違点1について
(ア)上記(3)ア(オ)で検討したとおり、引用発明の「リソグラフィ装置のパターニングデバイスの温度を制御する装置」(構成i)は、パターニングデバイスが吸収する放射からのエネルギーの量に応じて「ガス流の特性、温度、圧力、又は流量」を「動的に調整」することで「パターニングデバイスの所望の温度を達成する」ものであるところ、当該「パターニングデバイスが吸収する放射からのエネルギーの量」が、『パターニングデバイスに入射する放射の量』と『パターニングデバイスが吸収する放射の割合』の積によって求められる量であることは当業者にとって自明の技術事項であるといえる。
また、当該『パターニングデバイスに入射する放射の量』が、『単位時間あたりにパターニングデバイスに入射する放射の量』と『パターニングデバイスに放射する時間』の積で求められることも当業者にとって自明の技術事項であるといえる。
さらに、当該『パターニングデバイスに放射する時間』は、『パターニングデバイス上を放射する長さ』を、『放射ビームのスキャン速度』で割ることによって求められることも当業者にとって自明の技術事項であるといえる。
(イ)上記(ア)によれば、引用発明の「リソグラフィ装置のパターニングデバイスの温度を制御する装置」(構成i)が、パターニングデバイスが吸収する放射からのエネルギーの量に応じて「ガス流の特性、温度、圧力、又は流量」を「動的に調整」することで「パターニングデバイスの所望の温度を達成する」ために必要な、「パターニングデバイスが吸収する放射からのエネルギーの量」は、上記(ア)に示した計算をすることによって求められる量であると認められる。
そして、「パターニングデバイスが吸収する放射からのエネルギーの量」を計算するために、『放射ビームのスキャン速度』が必要な値であることは、本願優先日前に周知の技術事項であったといえる(例えば、特開2009-212244号公報の段落【0044】「露光装置300’は負荷熱算出部302を有する。負荷熱算出部302は、設定されている露光処理に対し、ウエハステージやレチクルステージのスキャン速度や加速度および露光ショット数等の装置稼動情報に基づいて露光装置の負荷熱を算出する。負荷熱算出部302において算出された負荷熱は、調整装置10の熱量制御部30’に出力される。」、特開2006-295148号公報の段落【0018】「例えば、ウエハ露光開始前毎にレチクルパターン面測定装置ROでレチクルRのパターン面R1を計測する場合について説明する。ある照明光エネルギーで露光しているときの2つの露光パターンAおよびBを考えた場合のレチクルパターン面測定装置ROの温度変化のモデル(以下、温度上昇モデルと呼ぶ。)が図4に示される。Aはスキャン速度が大きい場合であり、Bはスキャン速度が小さい場合が示される。」、特開平10-135099号公報の段落【0014】「本実施例では、露光装置本体は、ステッパであったが、ステッパに代えて直接描画法を使用した電子ビーム露光装置を使用することもできる。その場合には、露光量を規定するものとして、露光時間に代えて、露光時間(スキャン速度)及び/又は露光エネルギーを使用する。」参照。)。
(ウ)したがって、「マスクテーブル及び基板テーブルは同期的にスキャンされるスキャンモードにて使用可能なリソグラフィ装置のパターニングデバイスの温度を制御する装置」(構成i)である引用発明において、「コントローラ」が「前記パターニングデバイスの所望の温度を達成するため、前記ガス流の温度、圧力、流量などのガス流の1つ以上の特性を変更することによって前記パターニングデバイスの温度を動的に調整する」(構成h)ことを実現するために、上記(イ)で述べた、『単位時間あたりにパターニングデバイスに入射する放射の量』、『パターニングデバイスが吸収する放射の割合』及び『放射ビームのスキャン速度』をも考慮して、「ガス流の特性、温度、圧力、又は流量」を「動的に調整」するものとなし、上記相違点1に係る本件補正発明の構成となすことは、当業者が容易に想到し得たことである。
イ 本件補正発明の奏する効果について
(ア)「コントローラ」が、「前記パターニングデバイスに入射する単位時間当たりの前記露光放射の量」(以下「パラメータA」という。)、「前記パターニングデバイスに入射して前記パターニングデバイスによって吸収される前記露光放射の割合」(以下「パラメータB」という。)、「前記パターニングデバイスが前記露光放射によってスキャンされるスキャン速度」(以下「パラメータC」という。)に応じて、熱コンディショナを制御するように構成されることに関して、本願の発明の詳細な説明には、次の通り記載されている
「【0052】
[0057] ある実施形態では、コントローラ500は、パターニングデバイスMAに入射する単位時間当たりの露光放射の量に応じて熱コンディショナ20を制御してパターニングデバイスMAを熱調節するように構成される。・・・」
「【0057】
[0062] ある実施形態では、コントローラ500は、パターニングデバイスMAに入射してパターニングデバイスMAによって吸収される露光放射の割合がより大きい場合、熱コンディショナ20を制御してパターニングデバイスMAをより強く冷却するように構成される。・・・
【0059】
[0064] ある実施形態では、コントローラ500は、パターニングデバイスMAが露光放射によってスキャンされるスキャン速度に応じて熱コンディショナ20を制御してパターニングデバイスMAを熱調節するように構成される。・・・
【0063】
[0068] 以上で説明したように、パターニングデバイスMAの温度変化に影響を及ぼす様々なパラメータがある。これらのパラメータには、パターニングデバイスMAに入射する単位時間当たりの露光放射の量、パターニングデバイスMAに入射してパターニングデバイスMAによって吸収される露光放射の割合、パターニングデバイスMAが露光放射によってスキャンされるスキャン速度、及びパターニングデバイスMAを露光放射によってスキャンする露光経路の長さが含まれる。コントローラ500は、これらのパラメータの一部又はこれらのパラメータのすべてに応じて熱コンディショナ20を制御してパターニングデバイスMAを熱調節するように構成されてよい。」
(イ)上記(ア)によれば、パラメータAに関する「ある実施形態」(【0052】~【0053】)、パラメータBに関する「ある実施形態」(【0057】~【0058】)、あるいは、パラメータCに関する「ある実施形態」(【0059】~【0060】)が別個に記載されている。
また、「コントローラ500は、これらのパラメータの一部又はこれらのパラメータのすべてに応じて熱コンディショナ20を制御してパターニングデバイスMAを熱調節するように構成されてよい。」(【0063】)として、パラメータの一部に応じて熱コンディショナ20を制御してもよい旨が記載されている。
しかしながら、パラメータAないしCの3つのパラメータ全てに応じて熱コンディショナ20を制御することに係る実施形態は記載されていない。
また、パラメータAないしCの3つのパラメータ全てに応じて熱コンディショナ20を制御することが何らかの技術的効果を奏するものであるとも記載されていない。
(ウ)上記(ア)及び(イ)を総合的に勘案すれば、本件補正発明の奏する作用効果は、パラメータAないしCの3つのパラメータ個別に応じて熱コンディショナ20を制御することにより得られる効果の総和以上の格別の効果を奏するものではなく、引用発明及び周知の技術事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
ウ 請求人の審判請求書における主張について
(ア)請求人は、審判請求書の【請求の理由】「4 本願発明が特許されるべき理由」において、「本発明によれば、パターニングデバイスの加熱に関係する最も重要な露光条件として、『前記パターニングデバイスに入射する単位時間当たりの前記露光放射の量』、『前記パターニングデバイスに入射して前記パターニングデバイスによって吸収される前記露光放射の割合』、及び『前記パターニングデバイスが前記露光放射によってスキャンされるスキャン速度』の3つの物理量であることを見出し、この3つの物理量に基づいて熱コンディショナを制御することにより、明細書の段落0070に記載されているような効果を奏することができる。」と主張している。
(イ)しかしながら、「マスクテーブル及び基板テーブルは同期的にスキャンされるスキャンモードにて使用可能なリソグラフィ装置のパターニングデバイスの温度を制御する装置」(構成i)である引用発明において、「コントローラ」が「前記パターニングデバイスの所望の温度を達成するため、前記ガス流の温度、圧力、流量などのガス流の1つ以上の特性を変更することによって前記パターニングデバイスの温度を動的に調整する」(構成h)ことを実現するために、『単位時間あたりにパターニングデバイスに入射する放射の量』、『パターニングデバイスが吸収する放射の割合』及び『放射ビームのスキャン速度』という物理量を用いることが容易に想到し得たとであることは、上記アで述べたとおりである。
(ウ)また、請求人が審判請求書で主張する、「明細書の段落0070に記載されているような効果」については、上記イで述べたとおりであって、本件補正発明の奏する作用効果は、パラメータAないしCの3つのパラメータ個別に応じて熱コンディショナ20を制御することにより得られる効果の総和以上の格別の効果を奏するものではなく、引用発明及び周知の技術事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
(エ)よって上記請求人の主張は採用できない。
エ したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 本件補正についてのむすび
以上2(3)、(4)で検討したとおり、本件補正は、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和2年12月23日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和2年7月10日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1~3、7~8、10に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、及び、この出願の請求項1~3、7~8、10に係る発明は、本願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特表2015-536476号公報
3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、前記第2の[理由]2(2)アに記載したとおりである。
4 対比・判断
(1)引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明において、「コントローラ」が「熱コンディショナを制御する」構成が、「前記パターニングデバイスに入射する単位時間当たりの前記露光放射の量、前記パターニングデバイスに入射して前記パターニングデバイスによって吸収される前記露光放射の割合、及び前記パターニングデバイスが前記露光放射によってスキャンされるスキャン速度に応じて」いたものを、「前記パターニングデバイスに入射する単位時間当たりの前記露光放射の量、前記パターニングデバイスに入射して前記パターニングデバイスによって吸収される前記露光放射の割合、前記パターニングデバイスが前記露光放射によってスキャンされるスキャン速度、及び前記パターニングデバイスを前記露光放射によってスキャンする露光経路の長さ、のうちの少なくとも1つに応じ」るものとするものである。
イ そうすると、本願発明は、上記前記第2の[理由]2(3)での検討を踏まえると、「コントローラ」が「前記熱コンディショナを制御する」ことについて、本願発明は、「前記パターニングデバイスに入射する単位時間当たりの前記露光放射の量、前記パターニングデバイスに入射して前記パターニングデバイスによって吸収される前記露光放射の割合、前記パターニングデバイスが前記露光放射によってスキャンされるスキャン速度、及び前記パターニングデバイスを前記露光放射によってスキャンする露光経路の長さ、のうちの少なくとも1つに応じ」るものであるに対し、引用発明は、「放射がパターニングデバイスに入射し、これを通過すると、パターニングデバイスは放射からのエネルギーを吸収し、これがパターニングデバイスの温度上昇、及びそれに関連する熱膨張、並びにパターニングデバイスの周囲のガスの加熱を生じ」(構成b)るため、「前記ガス流が前記パターニングデバイスの温度を低減させ、上昇させ、又は維持することができ、前記ガス流が放射の吸収による前記パターニングデバイスの加熱に抗することによって前記パターニングデバイスの熱膨張と、前記パターニングデバイスの周囲のガスの加熱を低減し、前記パターニングデバイスの像歪みが軽減されるものであって、前記パターニングデバイスの所望の温度を達成するため、前記ガス流の特性、温度、圧力、又は流量が動的に調整される」(構成g)ものであると特定される点(以下「相違点2」という。)で一見相違しその余の点で一致する。
(2)判断
相違点2について
引用発明は、「放射がパターニングデバイスに入射し、これを通過すると、パターニングデバイスは放射からのエネルギーを吸収し、これがパターニングデバイスの温度上昇、及びそれに関連する熱膨張、並びにパターニングデバイスの周囲のガスの加熱を生じ」(構成b)るため、「前記ガス流が前記パターニングデバイスの温度を低減させ、上昇させ、又は維持することができ、前記ガス流が放射の吸収による前記パターニングデバイスの加熱に抗することによって前記パターニングデバイスの熱膨張と、前記パターニングデバイスの周囲のガスの加熱を低減し、前記パターニングデバイスの像歪みが軽減されるものであって、前記パターニングデバイスの所望の温度を達成するため、前記ガス流の特性、温度、圧力、又は流量が動的に調整される」(構成g)ものであることから、パターニングデバイスの所望の温度を達成するためには、パターニングデバイスに入射する単位時間当たりの露光放射の量、パターニングデバイスに入射して前記パターニングデバイスによって吸収される前記露光放射の割合、前記パターニングデバイスが露光放射によってスキャンされるスキャン速度、及びパターニングデバイスを露光放射によってスキャンする露光経路の長さ、のうちの少なくとも1つを用いて調整していると考えるのが自然である。
したがって、相違点2は実質的な相違点ではない。
よって、引用発明は本願発明であって、両者に相違するところはない。
そうでないとしても、本願発明は、「前記パターニングデバイスに入射する単位時間当たりの前記露光放射の量、前記パターニングデバイスに入射して前記パターニングデバイスによって吸収される前記露光放射の割合」「のうちの少なくとも1つに応じて、前記熱コンディショナを制御するように構成される」ものであってよいところ、このように単位時間あたりの放射の量、あるいは、吸収される放射の割合に基づいて熱コンディショナを制御することは、パターニングデバイスの温度を制御する装置の技術分野において周知の技術的手段にすぎないといえるから(例えば、特開2010-283305号公報の段落【0034】「以上のようにレチクル2’の伸縮状態を計測しながら、冷却ファン61、61’によって冷却し、所定の温度状態である伸縮状態にし、次の露光が開始される。このため、露光によって発生するレチクル2’の膨張状態の予測が高精度に行うことが出来、補正することが可能となる。レチクル2’の膨張状態の予測は、露光エリア、レチクルの透過率、照明条件等のパラメータによって、状態(形状、発生量)は変化する。これらパラメータ情報と、露光量(若しくは、露光している経過時間)に依存して、膨張状態を予測する。」、特開2000-243684号公報の段落【0020】「本発明の第2の実施形態によると、レチクルを保持する部材の表面あるいはレチクルを保持する機構を所持したユニットあるいはレチクル周辺に配管部を設置し、前記配管部に液体または温度制御された液体を送流し、前記レチクルを保持する部材あるいはレチクルを保持する機構を所持したユニットあるいはレチクル周辺を冷却する。前記の液体または温度制御された液体(以下、液体または温度制御された液体を液体と総称する。)を冷媒としてレチクルまたはレチクル周辺の温度上昇自体を抑える。」及び段落【0021】「またレチクルの熱変形の要因にはレチクルの非透過パターンの占有率だけでなく、レチクルに照射される積算露光量、連続露光時間等の要因もある。前記に列挙したような要因についても考慮して液体の送流量を設定することはより効果がある。」、特開2000-68193号公報の段落【0010】「本発明の露光方法は、パターンが形成されたレチクルを照明して基板に露光転写する方法であって、使用するレチクルの種類に応じて、該レチクルを冷却する能力を変化させることを特徴とする。冷却能力を変化させるには、例えばレチクルへの気体送風の送風量(恒温エア)もしくは気体温度を変化させる。また、冷却能力の変化のさせ方としては、レチクルのパターンが占める面積割合に応じて冷却能力を変化させたり、使用するレチクルの種類、さらには積算露光量、積算露光エネルギー量、連続露光時間の少なくとも1つ以上の要因に応じて冷却能力を変化させたりすることができる。」との記載参照。)、上記前記第2の[理由]2(4)アでの検討を踏まえると、引用発明の「リソグラフィ装置のパターニングデバイス502の温度を制御する装置」(構成i)において、上記相違点2に係る本願発明の構成となすことは当業者にとって設計的事項にすぎない。
したがって、当業者が引用発明及び周知の技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2020-017540