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特許拒絶査定不服審判

2023-020696

応力低減のための金属ケイ化物窒化

審判番号
2023-020696
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-523320
請求日
2023年12月05日
審決日
2025年12月05日
公報発行日
2026年05月29日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】エーエスエムエル ネザーランズ ビー.ブイ.
  • 【請求人代理人】稲葉 良幸
  • 【請求人代理人】大貫 敏史
  • 【請求人代理人】江口 昭彦
  • 【請求人代理人】内藤 和彦
審判長/審判官
  • 審判長 岡田 吉美
  • 審判官 小澤 尚由
  • 審判官 野村 伸雄
分類
P18 .536-WZ (G03F) / P18 .537-WZ (G03F)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条
データ出所
審決公報(XML)

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特願2020-523320「応力低減のための金属ケイ化物窒化」拒絶査定不服審判事件〔令和 元年 5月 9日国際公開、WO2019/086643、令和 3年 1月21日国内公表、特表2021-501909〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2018年(平成30年)11月5日を国際出願日とする外国語特許出願であって(パリ条約による優先権主張外国庁受理2017年11月6日 2018年6月22日、いずれも欧州特許庁)、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。 令和2年 6月23日 :翻訳文の提出 同年 6月25日 :手続補正書の提出 令和4年10月 4日付け:拒絶理由通知書 同年12月26日 :意見書、手続補正書の提出 令和5年 3月31日付け:拒絶理由通知書(最後) 同年 6月28日 :意見書、手続補正書の提出 同年 8月 7日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) (同月 8日 :原査定の謄本の送達) 同年12月 5日 :審判請求書、手続補正書の提出 令和6年11月11日付け:拒絶理由通知書 令和7年 2月12日 :意見書、手続補正書の提出 同年 3月31日付け:審尋 同年 9月 3日 :応対記録 同月29日 :回答書 以下、令和6年11月11日付け拒絶理由通知書を「当審拒絶理由通知書」という。 第2 特許請求の範囲 本願の特許請求の範囲は、令和7年2月12日に提出された手続補正書により補正されており、請求項1~18の記載は、次のとおりである。 「【請求項1】 窒化された金属ケイ化物を含み、 前記窒化された金属ケイ化物は、式Mx(Si)yNzを有し、Mは金属であり、x,y,zはそれぞれ0より大きい、 リソグラフィ装置用のペリクル。 【請求項2】 前記窒化された金属ケイ化物の前記式は、化学量論的または非化学量論的な値を有する、請求項1に記載のペリクル。 【請求項3】 前記窒化された金属ケイ化物は、式Mx(Si)yNzを有し、x≦y≦2xであり、かつ0<z≦xである、請求項1に記載のペリクル。 【請求項4】 金属Mは、Ce、Pr、Sc、Eu、Nd、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、La、Y、およびBeを含む群から選択される、請求項1~3のいずれかに記載のペリクル。 【請求項5】 前記金属ケイ化物窒化物内の窒素の原子濃度は、25%未満である、請求項1~4のいずれかに記載のペリクル。 【請求項6】 前記金属ケイ化物窒化物内の窒素の原子濃度は、5%未満である、請求項5に記載のペリクル。 【請求項7】 前記ペリクルは、少なくとも1つのキャッピング層をさらに含む、請求項1~6のいずれかに記載のペリクル。 【請求項8】 前記キャッピング層は、ルテニウム、ホウ素、金属ホウ化物、炭化ホウ素、および/または窒化ホウ素を含む、請求項7に記載のペリクル。 【請求項9】 前記少なくとも1つのキャッピング層は、0.1nmから10nmの厚みを有する、請求項7又は8に記載のペリクル。 【請求項10】 前記窒化された金属ケイ化物を含む層は、10nmから40nmの厚みを有する、請求項1~9のいずれかに記載のペリクル。 【請求項11】 スペクトル純度フィルタを含む、請求項1~10のいずれかに記載のペリクル。 【請求項12】 リソグラフィ装置用のペリクルを製造する方法であって、金属ケイ化物膜を窒化して窒化された金属ケイ化物を形成することを含み、 前記窒化された金属ケイ化物は、式Mx(Si)yNzを有し、Mは金属であり、x,y,zはそれぞれ0より大きい、 方法。 【請求項13】 前記金属は、Ce、Pr、Sc、Eu、Nd、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、La、YおよびBeを含む群から選択される、請求項12に記載の方法。 【請求項14】 請求項12又は13に記載の方法によって取得可能であるか、または取得される、リソグラフィ装置用のペリクル。 【請求項15】 請求項1~11のいずれか1項に記載のペリクル、および前記ペリクルを支持するフレームを備える、リソグラフィ装置用のアセンブリ。 【請求項16】 EUV放射にさらされた時のペリクルの透過率の変化を打ち消すように選択および構成された、少なくとも1つの補償層をさらに含む、請求項1に記載のペリクル。 【請求項17】 前記少なくとも1つの補償層は、二酸化シリコン、シリコン、窒化シリコン、炭化シリコン、炭素、炭化ホウ素、二酸化ルテニウム、ホウ素、ホウ化ジルコニウム、およびモリブデンのうちの1つまたは複数を含む、請求項16に記載のペリクル。」 第3 当審拒絶理由書で指摘した拒絶理由の内容 当審拒絶理由通知書で通知した拒絶の理由のうちの理由2(実施可能要件違反)及び理由3(サポート要件違反)は、それぞれ以下の1及び2に示すとおりである。なお、下線は当合議体による。 1 理由2(実施可能要件) この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。 記 (1) 請求項1に記載された特定事項 請求項1には「窒化された金属ケイ化物を含み、前記窒化された金属ケイ化物は、式Mx(Si)yNzを有し、Mは金属であり、x,y,zはそれぞれ0より大きい、リソグラフィ装置用のペリクル」との特定事項の記載がある。 (2) 本願明細書等に記載された技術的事項 本願明細書等には、おおむね、次の技術的事項が記載されていると認められる。 ア リソグラフィ装置、特にEUVリソグラフィ装置の内部は過酷な環境となる場合があるため、ペリクルは、優れた化学的および熱的安定性を示すことが求められる。(【0006】) イ 炭素系材料を含み得る既知のペリクルは、寿命が限定的であったり、フリーラジカル種を含有する雰囲気内でエッチングされるため、使用によって経時的に劣化し得たりするものであった。(【0007】~【0009】) ウ 高融点金属ケイ化物は、化学的および熱的安定性ならびに電気伝導率のため、ゲート材料、オーミック接触、および加熱要素としての使用が研究されてきたが、本発明までは、そのような材料をペリクルとして使用することは不可能であった。 すなわち、ペリクルは、マイクロ電子工学チップよりもはるかに大きいものであり、約1cm×1cmよりも大きい金属ケイ化物膜を製造することはこれまで不可能であった。自立金属ケイ化物膜の従来の製造においては、シリコン基板上で成長する金属ケイ化膜を約900℃以上に加熱して、膜をアニーリング(金属ケイ化物の密度を高くするために必要である。)させてから冷却するが、この方法で形成された金属ケイ化物膜は、内部に大きな引張応力(シリコン基板の熱膨張係数と金属ケイ化物膜の熱膨張係数の間の不一致によって生じると考えられる。)が生じ、1cm×1cmの面積を超えて成長することができないと考えられる。(【0011】~【0019】) エ 驚くべきことに、金属ケイ化物に窒素を添加することによって、窒素を含まない金属ケイ化物、あるいはシリコン層、シリコンウェーハ、シリコン膜、または同様のものに対する利点が数多く生じることが分かっている。これらの利点によって、これまで不可能であった、金属ケイ化物膜を含むペリクルの提供が可能となる。(【0030】) オ 第一に、驚くべきことに、窒素の添加によって、窒素が添加されていない場合と比べて、膜がよりアモルファスに保たれることから、強度、熱に対する耐性、および機械的負荷に対する耐性が増大し、このことは改善された引張強度によって示される。 第二に、窒素の添加によって、アニーリングプロセス中、金属ケイ化物膜はより圧縮した状態に保たれるため、金属ケイ化物窒化物膜は、室温まで冷却されるにつれて収縮するが、窒素の添加が無い場合と比べて膜の収縮の程度は小さく、結果として、室温における膜内部の残留引張応力は小さくなる。さらに、約450℃から600℃の高温に至る高出力露光中、膜は、ゼロ状態密度で、かつ応力蓄積が無いままに保たれることとなる。特に、窒素の添加によって、堆積される時点で既にペリクルは高密度になっているため、加熱された時にペリクルは収縮せず、それによって、使用中の密度の変化に対してより耐性のあるものとなる。 第三に、窒素を含むことによるさらに驚くべき利点は、金属ケイ化物の酸化の低減および自然酸化物の厚みの低減であり、酸化しやすさが低下することで、金属ケイ化物の化学的および熱的安定性が改善し、また、自然酸化物の厚みが低減することで、金属ケイ化物にかかる応力が低減し、EUV透過の改善も促進する。 第四に、金属ケイ化物層への窒素の添加によって、材料の線熱膨張係数が低減することから、温度変化によって生じる材料内の引張応力が小さくなり、やはり引張応力が低減することによって、より大きな膜を生成することが可能となる。(【0032】~【0035】、【0048】) カ 金属ケイ化物窒化物は、10nmから約40nmの厚み、好ましくは約15nmから約30nmの厚みを有してよい。ペリクルの一例として、MoSiNxが記載されている。(【0046】、【0127】) キ 金属ケイ化物基板を、例えば、プラズマで窒素を含むスパッタリングして、窒化することによって、窒素が金属ケイ化物と反応して、ペリクル基板上に金属ケイ化物窒化物を形成することが可能である。金属ケイ化物窒化物層は、シリコン基板上に、例えば、周囲温度で製造し、形成することができる。次いで、ウェーハを好適な液体中でエッチングしてよく、ペリクル膜を液体の中からフレーム上に持ち上げる。また、MxSiyNzは、窒素の添加によって、高温のアニーリング、および犠牲酸化物の高温の堆積を組み込んだ、CMOSプロセスを使用して製造することもできる。(【0031】、【0048】、【0050】) ク 本願明細書等には、窒化された金属ケイ化物膜を含むペリクルについての具体的な実施例は記載されていない。 (3) 判断 ア 請求項1には、前記(1)のとおり、「窒化された金属ケイ化物を含み、前記窒化された金属ケイ化物は、式Mx(Si)yNzを有し、Mは金属であり、x,y,zはそれぞれ0より大きい、リソグラフィ装置用のペリクル」(以下「本件ペリクル」という。また、「式Mx(Si)yNzを有し、Mは金属であり、x,y,zはそれぞれ0より大きい」「窒化された金属ケイ化物」を、以下、「本件金属ケイ化物窒化物」という。)が記載されている。 しかしながら、以下のとおり、本願明細書等の記載は、当業者が、本件金属ケイ化物窒化物を含む「リソグラフィ装置用のペリクル」を製造することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。 イ(ア) 本件ペリクルは、前記(2)ウによれば、マイクロ電子工学チップよりもはるかに大きく、約1cm×1cmの面積を超える大きなものであることが当然の前提とされている。さらに、本件ペリクルは、EUVリソグラフィ装置用であることが典型的に想定されるとともに(前記(2)ア)、金属ケイ化物窒化物の厚みが10nm~約40nmであることが想定されており(前記(2)カ)、これらに加えて、「ペリクル」である以上、自立膜であることも前提になっている(前記(2)ウの「自立金属ケイ化物膜」という記載からもその点が理解される。)と解される。そして、本件ペリクルで用いられている金属ケイ化物窒化物の膜とは、窒化されているか否かで異なる、従来の金属ケイ化物の膜は、内部に大きな引張応力が生じることから、大きな面積のものを製造することができないとされている(前記(2)ウ)。 このように、本件ペリクルは、面積が大きく、厚みが非常に薄い一方で、自立膜である(つまり、相当の強度を持っている)ことが想定されている上に、材料的に類似した膜がペリクルとして製造できないとされていることに照らせば、一般に製造が困難であるとみるのが相当である。 (イ) そこで、本願明細書等において、本件ペリクルが本件金属ケイ化物窒化物によって製造できる原理がどのように説明されているかをみると、前記(2)オのとおり、以下の(i)~(iv)の示すことが記載されている。 (i) 窒素の添加によって膜がよりアモルファスに保たれ、そのことによって、強度、熱に対する耐性、および機械的負荷に対する耐性が増大すること。 (ii) 窒素の添加によって、アニーリングプロセス中、金属ケイ化物膜はより圧縮した状態に保たれ、そのことによって、室温における膜内部の残留応力が小さくなること。 (iii) 窒素の添加によって、堆積される時点で既にペリクルは高密度になっているため、加熱された時にペリクルは収縮せず、それによって、使用中の密度の変化に対してより耐性のあるものとなること。 (iv) 金属ケイ化物層への窒素の添加によって、材料の線熱膨張係数が低減することから、温度変化によって生じる材料内の引張応力が小さくなり、そのことによって、より大きな膜を生成することが可能となること。 (ウ)a しかしながら、前記(i)については、金属ケイ化物に窒素を添加すると膜がよりアモルファスに保たれることが技術常識であるとはいえない(実際、【0032】には「驚くべきことに」と記載されている。)し、いずれにせよ、そのメカニズムが物理的に理解し難いことから、膜がアモルファスに保たれる金属ケイ化物窒化物がそもそも存在するのか不明であり、また、それが仮に存在するとしても、どのような金属ケイ化物窒化物であれば膜がアモルファスに保たれるのかは不明である。仮に、膜がアモルファスに保たれる金属ケイ化物窒化物が存在するとしても、そのことをもって、直ちに、強度、熱に対する耐性、および機械的負荷に対する耐性が増大するとはいえないのであり、このことは、やはり、そのような増大が生じるという技術常識が存在するとはいえず、そのメカニズムが物理的に不明であることからみて明らかである。さらに、前記の増大が生じるメカニズムが物理的に明らかとなったとしても、本願明細書等の記載からは、その程度が不明であるため、前記アで説示したところの、面積が大きく、厚みが非常に薄い一方で、自立膜であることが想定される本件ペリクルが製造できることが理解できるとはいえない。 b 前記(ii)及び(iv)については、前記(i)と同様の問題がある。 c 前記(iii)については、窒素の添加によって、堆積される時点で既にペリクルは高密度になっているということまでは物理的に理解できるとしても、そのことによって、加熱された時にペリクルは収縮しないといえるのかは不明であるし、いずれにせよ、その収縮の程度が不明であるため、やはり、前記(i)と同様の問題がある。 d このように、本願明細書等に記載された本件ペリクルが本件金属ケイ化物窒化物によって製造できる原理は当業者にとって理解できるものとはいえないことから、上記の原理の記載によっては、当業者は、本件ペリクルを製造できることを理解できるとはいえない。 (エ)a 本願明細書等には、前記(2)キのとおり、製造方法が記載されているが、一般的な内容にとどまっており、このような製造方法であれば、前記イで指摘した課題解決原理を理解できるとはいえない。 b また、本願明細書等には、前記(2)カのとおり、「MoSiNxペリクル」が一例として記載されているものの、本件金属ケイ化物窒化物の金属が「Mo」であれば、上記の課題解決原理が理解できるとはいえないし、「Mo」以外のものについても同様である。 c さらに、本願明細書等には、前記(2)カのとおり、金属ケイ化物窒化物の厚みが10nmから約40nmの厚みであることが記載されているが、このような厚みであれば、上記の課題解決原理が理解できるともいえない。 d このように、本願明細書等に記載された一般的な内容によっては、前記(イ)で指摘した課題解決原理が理解できることにはならず、そのため、前記(ア)で説示したような本件ペリクルを製造するに当たって想定される困難性を克服できることを当業者が理解できるともいえない。 (オ) そして、本願明細書等には、前記(2)クのとおり、窒化された金属ケイ化物膜を含むペリクルについての具体的な実施例は記載されておらず、そのため、前記イで説示した課題解決原理が妥当であることが具体的に裏付けられていない。 ウ 以上のとおり、本件ペリクルを製造することは一般に困難であるといえるにもかかわらず、本願明細書等の記載によっては、当業者は、本件ペリクルが製造できる原理を理解することができず、その原理が具体的に裏付けられてもいないことから、本願明細書等の記載は、当業者が、請求項1に特定された本件ペリクルを実施ができる程度に明確かつ十分なものとはいえない。 請求項1の従属項も同様である。 2 理由3(サポート要件) この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。 記 請求項1に係る発明が解決しようとする課題(以下「本件課題」という。)は、約1cm×1cmよりも大きい金属ケイ化物膜を製造することはこれまで不可能であったため、既知の金属ケイ化物膜は、ペリクルとして使用することができないこと(【0013】)及びリソグラフィ方法または装置において使用されるペリクルが、十分な寿命を有し、かつ、ペリクルがさらされ得る高い熱負荷、および/またはペリクルがさらされ得る水素(またはそれに類似するもの、例えばH*およびHO*を含むフリーラジカル種等)の結果として、急速に経時的に劣化しないようにすることができなかったこと(【0026】)である。 しかしながら、本願明細書等の記載をみても、前記1(3)イのとおり、本件金属ケイ化物窒化物によって、本件ペリクルを製造することができる原理を当業者が理解することができず、また、その原理が具体的に裏付けられてもいないことから、本件ペリクルにおいて本件金属ケイ化物窒化物を用いることによって、本件課題を解決できることが認識できるとはいえない。 したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 請求項1の従属項も同様である。 第4 意見書、審尋及び回答書について 1 令和7年2月12日に提出された意見書における主張 令和7年2月12日に提出された意見書(以下、単に「意見書」という。)において、請求人は、理由2(実施可能要件違反)及び理由3(サポート要件違反)について、それぞれ以下の(1)及び(2)に示すことを主張している。なお、下線は、当合議体が付したものである。 (1) 理由2(実施可能要件違反)についての反論 特許法36条4項1号とは、発明の詳細な説明は、請求項に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていなければならないとするものである。物の発明について実施をすることができるとは、その物を作れ、かつ、その物を使用できることである。物を生産する方法の発明においては、その方法により物を再生産できることである。 請求項1に係る発明を実施するため、発明の詳細な説明には以下のように記載されている。 「【0012】 [00012] 金属ケイ化物化合物は、トランジスタゲートに使用することができる。トランジスタゲートは、シリコンウェーハ上に金属ケイ化物化合物の層を堆積させることによって形成することができる。金属ケイ化物層または金属ケイ化物膜は、物理気相成長(PVD)または化学気相成長(CVD)等の気相成長技術によって、シリコン上に堆積させることができる。堆積ステップでは、モリブデン等の高い融点を有する高融点金属がシリコンウェーハ上に堆積し、そこで反応して金属ケイ化物層を形成する。金属ケイ化物層を保護するために、金属ケイ化物層にシリコンまたは酸化シリコンの犠牲層を設けてもよい。そのような層状の材料は、半導体基板上またはソースおよびドレイン領域上に形成されたシリコンゲート電極またはシリコン配線層、あるいは単結晶シリコンの半導体基板の主要面内に形成された拡散配線層の電気抵抗を可能な限り低減するために、半導体デバイスにおいて使用されてきた。 【0014】 [00014] 自立金属ケイ化物膜の従来の製造においては、膜を約900℃以上に加熱して、膜をアニーリングさせる。アニーリングによって、金属ケイ化物をその特定の温度での最小応力状態に至らせ、かつ金属ケイ化物膜の密度を増大させることができる。冷却されると、金属ケイ化物は、金属ケイ化物膜がその上で成長するシリコン基板(例えば、シリコンウェーハ)よりも収縮し、結果として、冷却後に、金属ケイ化物層内に大きな引張応力が生じる。金属ケイ化物層を回収するために、ウェーハの残りの部分がエッチング除去される。金属ケイ化物層はエッチャント内を浮遊し、回収可能となる。しかし、金属ケイ化物膜内部の大きな引張応力は保持される。 【0018】 [00018] 実際には、金属ケイ化物層を、単結晶シリコンウェーハの表面上に堆積させる。次いでウェーハはアニーリングされるが、これは約400℃から600℃の温度、例えば500℃まで加熱することによって達成することができる。次いで、ペリクルは、最低約725℃以上の温度、好ましくは最低約750℃まで加熱されて、TEOSおよび熱酸化物等の犠牲酸化物の分解、ならびに金属ケイ化物層の安定化を可能にする。これらの温度は、約0.5から1.5GPa、例えば1GPaの大きな引張応力を、金属ケイ化物膜内に発生させる。シリコンウェーハは、好ましくは単結晶シリコンウェーハであるが、ゲルマニウムウェーハ、またはEUV透過に好適な他の材料から作製されたウェーハを使用することもできる。 【0031】 [00031] 金属ケイ化物基板を窒化することによって、窒素が金属ケイ化物と反応して、ペリクル基板上に金属ケイ化物窒化物(metal-silicide-nitride)を形成することが可能である。金属ケイ化物窒化物層は、シリコン基板上に形成することができる。シリコン基板はシリコンウェーハであってよい。同様に、多結晶シリコンペリクルの強度を改善するために、純シリコンに窒素をドープすることが可能である。この場合、基板は実質的に純シリコンである。 【0032】 [00032] 第一に、驚くべきことに、窒素の添加によって、窒素が添加されていない場合と比べて、膜がよりアモルファスに保たれることが分かっている。この結果、強度、熱に対する耐性、および機械的負荷に対する耐性が増大する。このことは改善された引張強度によって示される。 【0038】 [00038] したがって、金属ケイ化物窒化物膜においては、金属よりもシリコンの原子濃度の方が高い。好ましくは、シリコンの原子濃度は、金属の原子濃度の約2倍、すなわちy=2xである。非化学量論的な値が可能であることが理解されるだろう。例えば、yの値は、xおよび2xを含む、xと2xの間の任意の数であってよい。 【0044】 [00044] 他の典型的な組成は、Mо2Si4N、Zr2Si4N、Mо3Si6NおよびZr3Si6Nである。これらの例から分かるように、窒素の原子濃度は、金属の原子濃度未満である。好ましくは、窒素の原子濃度は、金属、シリコン、および窒素の総原子濃度の約25%未満である。そのため、金属およびシリコンは、金属ケイ化物膜における金属、シリコンおよび窒素原子の総数の約75%超を構成することが好ましい。言い換えると、金属ケイ化物窒化物ペリクルの原子全体の約75%超が金属またはシリコン原子であり、残りの約25%が窒素原子である。 【0045】 [00045] 窒素の原子濃度は、約20%未満、約15%未満、約10%未満、約5%未満、または約1%未満であってよい。 【0046】 [00046] ペリクルは、少なくとも1つのキャッピング層をさらに含んでよい。ペリクルは、金属ケイ化物窒化物または窒化されたシリコン膜の各側に、キャッピング層を含んでよい。金属ケイ化物窒化物または窒化されたシリコン膜は、10nmから約40nmの厚み、好ましくは約15nmから約30nmの厚みを有してよい。少なくとも1つのキャッピング層は、約0.1nmから約10nmの厚み、好ましくは約1nmから約5nmの厚みを有してよい。キャッピング層は、任意の好適なキャッピング材料を含むことができる。好適なキャッピング材料は、EUVリソグラフィ装置の環境内で熱的および化学的に安定であり、かつペリクルを通るEUVの透過を著しく阻害しないものである。キャッピング層はまた、窒化された金属ケイ化物またはシリコンに付着可能であるように、ペリクルに適合しなければならない。好適なコーティング材料は、ルテニウムRu、ホウ素B、金属ホウ化物、ホウ化炭素B4C、窒化ホウ素BN、または類似のものを含む。 【0050】 [00050] 金属ケイ化物またはシリコンの窒化は、金属ケイ化物基板またはシリコン基板をプラズマでスパッタリングすることによって引き起こされる。スパッタリングは、反応性スパッタリングであってよい。プラズマは、任意の好適なプラズマであってよい。プラズマは、窒素を含むことが好ましい。好ましくは、プラズマは、アルゴンと窒素ガスの混合物を含む。アルゴンガスは、不活性雰囲気をもたらすために含まれる。他の希ガスより安価なため、アルゴンを使用することが好ましいが、他の希ガスを使用してもよい。 【0051】 [00051] 窒素に対するアルゴンの比率は、様々であってよい。ガス混合物内の窒素の割合が大きいと、金属ケイ化物膜内により多くの量の窒素が組み込まれることとなる。例えば、窒素にアルゴンを足した量で窒素の量を割ったものとして計算される窒素流量比が、約10%であった場合、金属ケイ化物窒化物膜内の窒素の原子濃度は約18%となった。窒素流量比が約40%であった場合、金属ケイ化物窒化物膜内の窒素の原子濃度は約42%となった。同様に、窒素流量比が10%から40%に増大すると、それに対応して酸素の原子濃度が約34%から約15%に低下し、自然酸化物層の厚みの低減を示した。そのため、窒素に対するアルゴンの比率は、必要とされる窒化の程度に応じて様々であってよい。」 本願明細書に記載されているように、金属ケイ化物化合物は、電極や配線に使用されてきた材料であるものの(【0012】)、ペリクルへの適用ができなかった材料であるところ、本発明では、金属ケイ化物に窒素を含ませることによって、ペリクルへの適用を可能にしたものである。 そして、本願明細書には、金属ケイ化物の窒化は、例えば、金属ケイ化物基板をプラズマでスパッタリングする際の雰囲気ガスに窒素を含ませることにより行うことが記載されており(【0031】)、金属ケイ化物窒化物膜における目標とする窒素の原子濃度(【0044】)や、これを達成するためのガスの流量比(【0051】)が記載されている。なお、本件特許出願時において、金属ケイ化物膜の製造方法自体は周知であり、スパッタリングガス中に窒素ガスを含ませて膜中に窒素を含ませる手法自体は周知であると思料する。 さらに、窒化された金属ケイ化物は、出願当時、ペリクルへの適用例は当然のことながらないものの、例えば、位相シフト層としてマスクに使用されたり、反射保護層として使用されることが知られている(例えば、米国特許出願公開第2012/0345552号、米国特許出願公開第2002/0058186号、米国特許第8,663,875号、米国特許5,066,615号、米国特許第5,639,678号参照)。 また、出願当時に公開されている下記の参考文献Aには、窒素の添加により膜の機械的負荷に対する耐性が増大することが言及されている。 <参考文献A> “Comparative study on mechanical properties of MoSiN multilayer films deposited on Si(100) and Ti-covered Si(100) substrates | Metals and Materials International” https://link.springer.com/article/10.1007/BF03027903 上記に挙げたような出願当時の技術常識を考慮すれば、当業者であれば、本願明細書の記載及び技術常識に基づいて、請求項1に係る発明を特段の困難性を伴うことなく実施できるものと思料する。 さらにいえば、本件のファミリー出願は、他国においても登録されており(例えば、米国特許11,287,737号、台湾特許第I835311参照)、本願は、実施可能要件を満たすものと認定されるべきものと思料する。 (2) 理由3(サポート要件違反)についての反論 本願明細書の【0032】には、窒素の添加によって、窒素が添加されていない場合と比べて、膜がよりアモルファスに保たれ、この結果、強度、熱に対する耐性、および機械的負荷に対する耐性が増大することが記載されている。この記載によれば、本件ペリクルを製造することができる原理を当業者が理解することができる。また、出願当時に公開されている前記の参考献Aには、金属ケイ化物への窒素の添加により金属ケイ化物窒化物膜の機械的負荷に対する耐性が増大することが言及されている。 よって、当業者であれば、本願明細書の記載及び技術常識に基づき、本件ペリクルにおいて本件金属ケイ化物窒化物を用いることによって、本件課題を解決できることが認識できるものである。 上述したように、本件のファミリー出願は、他国においても登録されており(例えば、米国特許11,287,737号、台湾特許第I835311参照)、本件発明は、サポート要件を満たすものと認定されるべきものと思料する。」 2 令和7年3月31日付け審尋 当審において、前任の合議体の暫定的見解を次の(1)のとおり示した上で、(2)に示す事項について審尋した。 (1) (前任の)合議体の暫定的見解 請求人は、意見書において、当審拒絶理由通知書記載の理由2及び3に対して反論しているが、この反論は以下のアからウに示すとおり採用することができない。 ア 請求人は、本願明細書等の記載及び技術常識に基づき、当業者は、本件ペリクルを製造できる旨主張し、その根拠として、次の(i)~(iv)を挙げる。 (i) 金属ケイ化物膜の製造方法及びスパッタリングガス中に窒素ガスを含ませて膜中に窒素を含ませる手法自体は、周知であること。 (ii) 本願明細書等には、次の事項が記載されていること。 金属ケイ化物の窒化を、金属ケイ化物基板をプラズマでスパッタリングする際の雰囲気ガスに窒素を含ませることにより行うこと(【0050】)。 金属ケイ化物窒化物膜における目標とする窒素の原子濃度が総原子濃度の約25%未満であることが好ましいこと(【0044】、【0045】)。 これを達成するために窒素に対するアルゴンの比率を調整すればよいこと(【0051】)。 (iii) 窒化金属ケイ化物自体は、位相シフト層や反射保護層としてではあるが、膜状のものとして存在していたのが技術常識であること。 (iv) 窒素の添加により膜の機械的負荷に対する耐性が増大することが技術常識であること(請求人は出願前公知の参考論文(以下、単に「参考論文」という。)を提出している。) イ そこで検討すると、まず、(iii)及び(iv)は、窒化金属ケイ化物からなる膜が「ペリクル」として成立する機序ないし原理を説明しようとするものと解されるが、これらの説明によっては、依然として、当業者は、本件ペリクルを製造できる原理を理解できるとはいえない。 すなわち、本件ペリクルは自立膜である一方で、位相シフト層や反射保護層は自立膜ではないし、また、請求人が提出した証拠によれば、反射保護層の厚さは不明である上、位相シフト層に対応するMoSiN層の厚さは69nm(米国特許第8663875明細書の実施例1等)であって、本件ペリクルの厚さ(10~40nmであることが想定されている。)よりもある程度は厚いことから、本件ペリクルは、これらの層と比べて、必要とされる強度が相当程度高いものとなっている。 そして、金属ケイ化物膜は、これを窒化して窒化金属ケイ化物膜とすることによって、より高い硬度が得られるとともに、圧縮残留応力もより大きくなる性質があり、そのため、窒化金属ケイ化物膜が、定性的には、金属ケイ化物膜よりも自立膜として成立しやすいことを理解できる余地があるとしても、その性質が、定量的に、自立膜として成立するレベルに至っているのかは不明である。この点、上記の性質を明らかにする根拠として提出された参考文献A(図6)においては、窒化金属ケイ化物膜に該当するMoSiN膜が、Ti/SiあるいはTi/Si3N4/Siからなる多層膜の上に形成されている上、その厚さも不明であることから、MoSiN膜が本件ペリクルで想定される厚さの単独の膜となったときの硬度及び圧縮残留応力がどの程度の値なのかは不明であるし、仮にこれが明らかになったとしても、その程度が定量的に自立膜として成立するレベルに至っているのかはやはり不明である。 したがって、請求人が主張する(iii)及び(iv)の事情によっては、当業者は、窒化金属ケイ化物からなる膜が「ペリクル」として成立する機序ないし原理を、理解できるとはいえない。 ウ そして、(i)及び(ii)のような本願明細書等の記載及び技術常識があるとしても、当業者は、窒化金属ケイ化物からなる膜が「ペリクル」として成立する機序ないし原理を、理解できるとはいえないことから、何らかの具体的な裏付け(典型的には実施例の存在)が必要となると言わざるを得ないのであり、それにもかかわらず、本願明細書等にはそれが存在していない。 (ii)の点を個別にみるとしても、スパッタリング法において膜を製造するためには、成膜時の温度や基板に対して印加するバイアス電圧などの複数の成膜条件を選択する必要があり、それらの条件によって膜質が変化することも例示するまでもなく技術常識であることから、請求人が指摘した事項が本願明細書等の記載及び技術常識に基づいて明らかであるとしても、これらの事項によって、当業者が本件ペリクルを製造できるともいえない。 (2) 請求人への審尋 ア 前記(1)の合議体の暫定的見解に対し、意見があればされたい。 イ 前記(1)ウのとおり、合議体は、結局、本願明細書等に実施例の記載がないことが問題であると考えているが、本件ペリクルを製造することが、単なる推測ないし臆測にとどまらず、本願明細書等の記載及び技術常識に基づいて実際に可能であるというのであれば、それを明らかにする実験成績証明書を提出されたい(ただし、下記付言を参照。)。 ウ 本願明細書等(【0127】)には「MoSiNxペリクル」が一例として記載されており、参考論文の窒化金属ケイ化物膜も「MoSiN」に係るものである。しかるに、仮に、窒化金属ケイ化物が窒化ケイ化モリブデンであれば本件ペリクルとして製造できるとしても、請求項1の記載は窒化金属ケイ化物における「金属」が「Mo」以外であってもよいことから、Mo以外のいかなる金属でも特性が同様であるとは考え難い中で、「Mo」以外の金属でも窒化ケイ化モリブデンと同様に本件ペリクルを製造できることを当業者が認識できることが、特にサポート要件違反を解消する文脈で必要となってくるので、この点についての合理的な説明もされたい。 また、技術常識に基づく説明を行う際は、その説明を立証するための証拠も併せて提出されたい。 (付言)発明の詳細な説明の記載が不足しているために、出願時の技術常識を考慮しても、発明の詳細な説明が、当業者が請求項に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない場合には、出願後に実験成績証明書を提出して、発明の詳細な説明の記載不足を補うことにより、当業者が請求項に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ 十分に記載したものであると主張したとしても、拒絶理由は解消されないので注意されたい。 サポート要件違反についても同様である。 3 令和7年9月29日に提出された回答書の内容 令和7年9月29日に提出された回答書(以下、単に「回答書」という。)において、請求人は、下記の(1)に示す参考資料1-6を提出し、(2)に示す回答をした。 また、回答書において、令和7年8月20日に提出された回答書案に対する同月25日の当合議体の指摘(応対記録を参照)に対して、(3)に示す意見を述べている。 (1) 請求人が提出した参考資料1-6 ア 参考資料1 S. Yu. Zueva et al., “Optical, Mechanical, and Thermal Properties of Free-Standing MoSi2Nx and ZrSi2Ny Nanocomposite Films” ISSN 1063-7842, Technical Physics, 2019, Vol. 64, No. 11, pp. 1590-1595 イ 参考資料2 N. I. Chkhalo et al., “Free-standing spectral purity filters for extreme ultraviolet lithography” J. Micro/Nanolith. MEMS MOEMS 11(2), 021115 (Apr-Jun 2012) ウ 参考資料3 H. Kung et al., “SYNTHESIS, STRUCTURE AND MECHANICAL PROPERTIES OF NANOSTRUCTURED MoSi2Nx” NanoStmctured Materials, Vol. 7, Nos. l/2, pp. 81-88, 1996 エ 参考資料4 Yu-Cheng Liu., “Microstructure Evolution and Mechanical Behavior of Mo-Si-N Films” Coatings 2020, 10, 987 オ 参考資料5 J. Musil et al., “Structure and properties of magnetron sputtered Zr-Si-N films with a high (>25 at.%) Si content” Thin Solid Films 478 (2005) 238 - 247 カ 参考資料6 J.-P. Hirvonen et al., “Crystallization and oxidation behavior of Mo-Si-N coatings” Surface and Coatings Technology 74-75 (1995) 981-985 (2) 前記2(1)の合議体の暫定的見解に対する意見 ア(ア) 合議体が審尋書において、当業者は、窒化金属ケイ化物からなる膜が「ペリクル」として成立する機序ないし原理を、依然として理解できるとはいえないと認定していることの理由の一つとして、前回出願人が提出した参考資料Aには、ペリクルに使用された金属ケイ化物又は窒化金属ケイ化物に関する文献がなかったことが挙げられると思料する。 (イ) ここで、参考資料1には、ペリクルに使用されるMoSi2Nx及びZrSi2Nyの自立膜の特性について開示されている。参考資料1の記載によれば、ペリクルに使用されるMoSi2Nx又はZrSi2Nyの自立膜が製造できることが分かる。参考資料1では、アルゴンと窒素ガスの混合物を用いたマグネトロンスパッタリングでこれらの膜を形成しており(参考資料1の「2. INVESTIGATION TECHNIQUES」参照)、本願明細書の【0050】に記載された方法と同じである。参考資料1は、本件の出願日(2017年11月6日)後ではあるものの、本件の国際公開日(2019年5月9日)の前に開示されたものである。 (ウ) また、参考資料2には、MoSi2及びZrSi2により形成される層を含む自立膜(メンブレン)が、極端紫外線リソグラフィ用の自立型スペクトル純度フィルタに適用可能なことが示されている。参考資料2は、本件の出願日(2017年11月6日)よりずっと前に開示されたものである。参考資料2には、10~30mmのZrSi2又はMoSi2のメンブレンが製造されたことが報告されている(021115-2頁の左欄参照)。MoSi2又はZrSi2の膜スペクトル純度フィルタの自立膜として製造可能であるという事実は、MoSi2及びZrSi2を窒化してなるMoSi2Nx及びZrSi2Nyの膜が「ペリクル」の自立膜として製造可能であることを間接的に裏付けるものと思料する。本願明細書の【0030】-【0035】に記載されているように、MoSi2及びZrSi2を窒化することにより、メンブレンの引張応力を小さくすることができ、メンブレンの機械的負荷に対する耐性を増大させることができるからである。 イ(ア) また、審尋書を参照すると、合議体は窒化された金属ケイ化物を含むペリクル膜(メンブレン)が単独で自立膜として成立するレベルの強度に至っていることを要求しているように思えるが、これには誤りがある。本願明細書には、メンブレンの周囲が境界で保持されてなるペリクルについて開示されている(明細書の【0081】、【0092】、【0128】~【0135】参照)。メンブレンの周囲の境界がメンブレンに追加の強度と事前張力を付与することができ、メンブレンの強度を向上させることができるのである。 (イ) なお、本願明細書に開示されたメンブレンの周囲に境界を備えるペリクルの製造方法は、参考資料1,2に記載された方法とは異なるものであり、その理由は、参考資料1,2に記載された方法では、メンブレンを成長させるためのウェーハを全てエッチング除去して、エッチャント内を浮遊した金属ケイ化物層をメンブレンとして回収することから、参考資料1,2に記載された方法ではメンブレンの周囲に境界が形成されないからである。参考資料1には、“(for example, at the stage of film separation from a substrate at wet etching)”と記載され(1593頁右欄)、参考資料2には、“The sub-layer is then dissolved in a process of selective liquid etching; the structure is separated from the substrate and floats on the liquid surface. On the next stage of fabrication the floating film is lifted from the liquid surface and placed onto a frame.”(02115-2頁左欄参照)と記載されている点をご参照下さい。参考資料1,2に記載された方法では、メンブレンの張力制御が困難なためメンブレンの引張強度が低くなるという不利益がある。本願明細書に開示されたペリクルによれば、メンブレンの周囲に境界を残しておくことにより、メンブレンの引張強度を改善することができる。 (ウ) 下記表は、本願発明者らによるZrSiに窒素を添加したメンブレンの特性を示す実験結果である。下記表において、σは応力を示し、+は引張応力、-は圧縮応力を示す。ΔHは、機械的負荷に対する耐性を示す。下記表に示すように、ZrSiを窒化することにより、メンブレンの引張応力を低減でき、機械的耐性を向上させることができることが分かる。 [図:0001434518000001.jpg] ウ(ア) 参考資料3-6は、MoSiNxおよびZrSiNx薄膜に関する論文であり、参考資料3-6は、MoSiNxおよびZrSiNx薄膜の製造方法が本発明の出願時点において当業者に周知であることを裏付けるものである。 (イ) また、参考資料3には、MoSiNxのアルモファス構造や機械特性について報告があり(”SUMMARY AND CONDLUSION”参照)、これは本願明細書の【0032】の記載の裏付けとなる。参考資料4には、MoSiNxの機械特性について報告がある(図7及び表2)。参考資料5には、ZrSiNxのアルモファス構造や向上した強度について報告があり(“4. Conclusions”参照)、これは本願明細書の【0032】の記載の裏付けとなる。参考資料6には、MoSiNxのアルモファス構造や酸化耐性について報告があり(“4. Conclusions”参照)、これは本願明細書の【0034】の記載の裏付けとなる。ただし、これらの参考資料には、MoSiNxおよびZrSiNx薄膜を自立型EUVペリクルやスペクトルフィルタに適用することについて何ら示唆されておらず、これらの参考資料は本発明の進歩性を否定するものではない。 エ また、本発明の対応外国出願は、いずれの国においても、明細書中に実施例の記載がないことを理由として本件特許発明が実施可能でない又は明細書にサポートされていないとして拒絶理由を受けてはいない。なお、本発明の対応外国出願のいくつかは、他の国において、既に特許になっている(US11,287,737B2, US11,686,997 B2, US 11,971,654B2, TWI776984B, TWI835311B)。このように、従来技術に対して新規性及び進歩性を有する発明に対して、本願明細書中に実施例の記載がないことを理由として本件特許発明が実施可能でない又は明細書にサポートされていないことを理由として拒絶をするという合議体の認定は、他の国の審査・審理と比べて、出願人に過大な負担を課すものであり適切ではないものと思料する。 オ さらに、本出願人は、リソグラフィに使用される、材料に特徴を有するペリクルについて、明細書に実験データを記載していなくても、これまで特許を取得できている。このような特許の一例として、例えば、特許第4777381号、特許第6189907号、特許第6253641号、特許第7258017号、特許第7524280号、特許第7606574号が挙げられる。 カ 以上のように、下記(i)~(vii)の事実を考慮すれば、本願明細書を参照した当業者は、本発明のペリクルを実施できるものであり、明細書の記載要件を満たしていると判断されるべきものと思料する。 (i) 本願明細書の【0127】~【0131】には、窒化された金属ケイ化物のメンブレンの周囲に境界が設けられてなるペリクルの製造方法の一例が図面を用いて開示されていること。 (ii) 参考資料1によれば、MoSi2Nx及びZrSi2Nyにより形成される層を含む自立膜(メンブレン)を備えるペリクルが製造できることが報告されていること。 (iii) 参考資料2によれば、MoSi2及びZrSi2により形成される層を含む自立膜(メンブレン)を備えるスペクトル純度フィルタが製造できることが報告されていること。 (iv) 本願明細書の【0032】~【0035】には金属ケイ化物に窒素を添加することによる効果が記載されていること。 (v) 参考資料3-6に記載されているように、窒化された金属ケイ化物の成膜方法自体は当業者に良く知られていること。 (vi) 本発明の対応外国出願は、いずれの国においても、本件特許発明が実施可能でない又は明細書にサポートされていないとして拒絶理由を受けてはいないこと。 (vii) 本出願人は日本において、明細書に実験結果の記載がなくても、材料に特徴を有するペリクルに関する発明についてこれまでも特許を取得できていること。 (3) 回答書案に対する合議体の指摘について ア 合議体の指摘 前記(2)の主張に基づく回答書案を審判官合議体に8月20日付けで提出したところ、9月3日付け応対記録において審判官合議体により以下のような見解が示された。合議体によれば、おおむね、下記の指摘事項1~3を理由として、現在の請求項1に係る発明は、依然として、理由2(実施可能要件違反)及び理由3(サポート要件違反)を満たしていないとの見解が示された。 (ア) 指摘事項1 本発明では、窒化金属ケイ化物における金属MがMo以外であってもよいものとなっているものの、金属MがMo以外の全ての金属で本発明の課題を解決でき、実施できるのか依然として、本願の明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて理解できない。 (イ) 指摘事項2 金属MがMoの場合であっても、窒素が非常に多くて、ケイ素が非常に少ない場合、例えばz/yが100のような場合に、本発明の課題を解決でき、実施できるのか、依然として、本願の明細書の発明の詳細な説明に基づいては理解できない。 (ウ) 指摘事項3 本願発明は、窒化金属ケイ化物がアモルファスであることは特定されていないので、窒化金属ケイ化物がアモルファスでないものも包摂するところ、このような場合に、本発明の課題を解決でき、実施できるのか、依然として、本願の明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいては理解できない(明細書の【0032】参照)。 イ 合議体の指摘に対する意見 しかしながら、出願人は、審判官合議体の見解には下記の理由により承服できない。 (ア) 指摘事項1について 本願明細書の【0043】,【0044】には、窒化金属ケイ化物における「金属」が「Mo」以外の場合における、窒化金属ケイ化物の組成の一例を開示している。また、(2)にて主張したように、少なくとも金属Mが「Zr」についての実験結果及び論文を提出している。これらの内容に基づけば、当業者であれば、Mが「Mo」だけでなく他の金属、少なくとも「Zr」においては本願発明を実施できるはずである。 「【0043】 [00043] ペリクルの典型的な組成は、ZrSi2N、MоSi2N、LaSi2NおよびYSi2Nである。これらの例のそれぞれにおいて、x=1、y=2、かつz=1である。 【0044】 [00044] 他の典型的な組成は、Mо2Si4N、Zr2Si4N、Mо3Si6NおよびZr3Si6Nである。」 (イ) 指摘事項2について 当業者は、本願明細書を参酌した上で、本発明に係る発明を理解するはずであり、本願明細書の【0044】には、ペリクル膜のための窒化された金属ケイ化物における窒素の原子濃度は、約25%未満であることが記載されている。本願明細書を参照すれば、本発明は審判官殿が指摘するようなz/yが100のようなケースをターゲットとしていないことは明らかである。よって、本願明細書を参照して請求項1に係る発明を理解した当業者であれば、請求項1に係る発明を実施する上で特段の困難はないものである。 【0044】 [00044] 他の典型的な組成は、Mо2Si4N、Zr2Si4N、Mо3Si6NおよびZr3Si6Nである。これらの例から分かるように、窒素の原子濃度は、金属の原子濃度未満である。好ましくは、窒素の原子濃度は、金属、シリコン、および窒素の総原子濃度の約25%未満である。そのため、金属およびシリコンは、金属ケイ化物膜における金属、シリコンおよび窒素原子の総数の約75%超を構成することが好ましい。言い換えると、金属ケイ化物窒化物ペリクルの原子全体の約75%超が金属またはシリコン原子であり、残りの約25%が窒素原子である。 (ウ) 指摘事項3について 本願明細書の【0032】には、「第一に、驚くべきことに、窒素の添加によって、窒素が添加されていない場合と比べて、膜がよりアモルファスに保たれることが分かっている。この結果、強度、熱に対する耐性、および機械的負荷に対する耐性が増大する。このことは改善された引張強度によって示される。」と記載されている。「よりアモルファスに」とは、厳密にアモルファス状態にあるという意味ではなく、単に構造の変化に言及しているにすぎない。よって、窒化された金属ケイ化物、必ずしも「アモルファス状態」になければならないものではない。むしろ、この段落は、窒素を添加することの重要性を説明しているものであり、窒素を添加する点は、請求項1に既に特定されている。 第5 本願明細書の発明の詳細な説明に記載された事項 本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体によるものである。 1 【技術分野】、【背景技術】(【0001】~【0027】) 「【技術分野】 【0001】 …(中略)… 【0002】 [0002] 本発明は、リソグラフィ装置用のペリクル、リソグラフィ装置用のペリクルの製造方法、およびペリクルを備えるリソグラフィ装置、ならびにそれらの使用に関する。 【背景技術】 【0003】 [0003] リソグラフィ装置は、所望のパターンを基板上に付与するように構築された機械である。リソグラフィ装置は、例えば、集積回路(IC)の製造に用いることができる。リソグラフィ装置は、例えば、パターニングデバイス(例えば、マスク)からのパターンを、基板上に設けられた放射感応性材料(レジスト)の層上に投影することができる。 【0004】 [0004] 基板上にパターンを投影するためにリソグラフィ装置によって使用される放射の波長が、その基板上に形成可能なフィーチャの最小サイズを決定する。4~20nmの範囲内の波長を有する電磁放射であるEUV放射を用いるリソグラフィ装置を使用することで、従来の(例えば、193nmの波長を有する電磁放射を使用し得る)リソグラフィ装置よりも小さいフィーチャを基板上に形成することができる。 【0005】 [0005] リソグラフィ装置は、パターニングデバイス(例えば、マスクまたはレチクル)を含む。パターニングデバイスを通って、またはパターニングデバイスに反射して放射が提供され、基板上に像を形成する。ペリクルを設けて、パターニングデバイスを空中浮遊粒子やその他の形の汚染から保護してもよい。パターニングデバイスの表面上の汚染は、基板上の製造欠陥を引き起こす場合がある。 【0006】 [0006] ペリクルは、パターニングデバイス以外の光学コンポーネントを保護するために設けることもできる。ペリクルを使用して、リソグラフィ装置の互いに封止された領域の間に、リソグラフィ放射用の通路を設けることもできる。ペリクルは、スペクトル純度フィルタ等のフィルタとして使用することもできる。リソグラフィ装置、特にEUVリソグラフィ装置の内部は過酷な環境となる場合があるため、ペリクルは、優れた化学的および熱的安定性を示すことが求められる。 【0007】 [0007] 既知のペリクルは、例えば、自立グラフェンメンブレンや、ハロゲン化グラフェン、グラファン、フラーレン、カーボンナノチューブといったグラフェン誘導体、またはその他の炭素系材料を含み得る。マスクアセンブリは、パターニングデバイス(例えば、マスク)を粒子汚染から保護するペリクルを含むことができる。ペリクルは、ペリクルフレームによって支持されて、ペリクルアセンブリを形成することもできる。ペリクルは、例えば、ペリクルの境界領域をフレームに接着することによって、フレームに取り付けることができる。フレームは、パターニングデバイスに、恒久的または取り外し可能な形で取り付けることができる。自立グラフェンメンブレンは、液体表面上にグラフェンの薄膜を浮かべ、その薄膜をシリコンフレーム上にすくい上げることによって形成することができる。この方法で形成されたメンブレンの質は、ばらつきがあり、制御が困難であることが分かっている。さらに、大きなグラフェンメンブレンを確実に生成するのは困難である。 【0008】 [0008] 自立グラフェンメンブレンやその他の炭素系メンブレンを含むペリクル等の、既知のペリクルの寿命は、限定的であることが分かっている。 【0009】 [0009] 既知のペリクルは、H*およびHO*等のフリーラジカル種を含有する雰囲気内でエッチングされる場合があり、そのため、使用によって経時的に劣化し得ることも分かっている。ペリクルは非常に薄いため、フリーラジカル種との反応によって脆弱化し、最終的には機能不全となる場合がある。したがって、ペリクルとして使用するための代替的な材料が必要とされる。 【0010】 [00010] 加えて、ペリクルの透過率は、経時的に変化し得ることが分かっている。このことは、ペリクルを通過可能な放射の量に影響を及ぼすため、リソグラフィ装置内で使用されるレジストの露光不足または露光過多を引き起こし得る。また、透過率が減少すると、そうでない場合と比べてペリクルが高温で動作することとなる可能性があり、ペリクルの損傷およびペリクルの寿命の低下を招き得る。したがって、使用中に透過率が変化しにくい、代替的なペリクルが望ましい。 【0011】 [00011] 二ケイ化モリブデン、二ケイ化ニオブ、二ケイ化タンタル、および二ケイ化タングステン等の高融点金属ケイ化物は、それらの化学的および熱的安定性ならびに電気伝導率のため、ゲート材料、オーミック接触、および加熱要素としての使用が研究されてきた。本発明までは、そのような材料をペリクルとして使用することは不可能であった。 【0012】 [00012] 金属ケイ化物化合物は、トランジスタゲートに使用することができる。トランジスタゲートは、シリコンウェーハ上に金属ケイ化物化合物の層を堆積させることによって形成することができる。金属ケイ化物層または金属ケイ化物膜は、物理気相成長(PVD)または化学気相成長(CVD)等の気相成長技術によって、シリコン上に堆積させることができる。堆積ステップでは、モリブデン等の高い融点を有する高融点金属がシリコンウェーハ上に堆積し、そこで反応して金属ケイ化物層を形成する。金属ケイ化物層を保護するために、金属ケイ化物層にシリコンまたは酸化シリコンの犠牲層を設けてもよい。そのような層状の材料は、半導体基板上またはソースおよびドレイン領域上に形成されたシリコンゲート電極またはシリコン配線層、あるいは単結晶シリコンの半導体基板の主要面内に形成された拡散配線層の電気抵抗を可能な限り低減するために、半導体デバイスにおいて使用されてきた。 【0013】 [00013] しかし、半導体産業において、マイクロ電子工学における使用で知られているそのような材料は、ペリクルとしての使用には適さないことが分かっている。ペリクルは、マイクロ電子工学チップよりもはるかに大きく、かつはるかに過酷な動作環境にさらされることが理解されるだろう。加えて、マイクロ電子工学において使用される場合は、そのような材料の電子特性が最も重要であるが、ペリクルとして使用される場合には、物理特性がより重要となる。さらに、約1cm×1cmよりも大きい金属ケイ化物膜を製造することはこれまで不可能であったため、既知の金属ケイ化物膜は、ペリクルとして使用することができない。 【0014】 [00014] 自立金属ケイ化物膜の従来の製造においては、膜を約900℃以上に加熱して、膜をアニーリングさせる。アニーリングによって、金属ケイ化物をその特定の温度での最小応力状態に至らせ、かつ金属ケイ化物膜の密度を増大させることができる。冷却されると、金属ケイ化物は、金属ケイ化物膜がその上で成長するシリコン基板(例えば、シリコンウェーハ)よりも収縮し、結果として、冷却後に、金属ケイ化物層内に大きな引張応力が生じる。金属ケイ化物層を回収するために、ウェーハの残りの部分がエッチング除去される。金属ケイ化物層はエッチャント内を浮遊し、回収可能となる。しかし、金属ケイ化物膜内部の大きな引張応力は保持される。 【0015】 [00015] 科学的理論に拘束されることを望むものではないが、この方法で形成された金属ケイ化物膜は、シリコン基板の熱膨張係数と金属ケイ化物膜の熱膨張係数の間の不一致によって生じる応力のために、1cm×1cmの面積を超えて成長することができないと考えられる。特に、金属ケイ化物膜は、加熱されるとシリコン基板よりも膨張し、冷却されるとより収縮し、結果として、金属ケイ化物層内に大きな引張応力が生じる。 【0016】 [00016] 金属ケイ化物層の密度を高くするために、金属ケイ化物層をアニーリングすることが必要である。リソグラフィ装置内で材料がペリクルとして使用される前にアニーリングが行われなかった場合、その材料は、リソグラフィ装置内で露光中に加熱された時に、密度が高まり収縮するだろう。その結果、材料内に大きな引張応力が生じ、ペリクルが破損する可能性がある。 【0017】 [00017] ペリクル膜を高温にさらす別の理由は、高品質な犠牲酸化物の堆積を可能にするためである。犠牲酸化物層の堆積は、極薄いペリクル膜の剥離を可能にするためのものである。犠牲酸化物を高温で堆積させることによって、犠牲酸化物層内に微小な穴が生じないようにされる。そのため、ペリクル回収のために必要な犠牲酸化物の堆積は、製造プロセスに高温を取り入れる。犠牲酸化物は、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)の分解によってもたらされ得る。約600℃を超える温度では、TEOSは二酸化シリコンおよびジエチルエーテルに分解する。 【0018】 [00018] 実際には、金属ケイ化物層を、単結晶シリコンウェーハの表面上に堆積させる。次いでウェーハはアニーリングされるが、これは約400℃から600℃の温度、例えば500℃まで加熱することによって達成することができる。次いで、ペリクルは、最低約725℃以上の温度、好ましくは最低約750℃まで加熱されて、TEOSおよび熱酸化物等の犠牲酸化物の分解、ならびに金属ケイ化物層の安定化を可能にする。これらの温度は、約0.5から1.5GPa、例えば1GPaの大きな引張応力を、金属ケイ化物膜内に発生させる。シリコンウェーハは、好ましくは単結晶シリコンウェーハであるが、ゲルマニウムウェーハ、またはEUV透過に好適な他の材料から作製されたウェーハを使用することもできる。 【0019】 [00019] そのような膜は、良好な密度を有する一方で、引張応力が大きすぎるため、リソグラフィ装置内でペリクルとして使用するのに十分大きく成長することができず、そうでなくても大きな内部応力のために不安定である。 【0020】 [00020] したがって、好ましくはリソグラフィ装置内で、特にEUVリソグラフィ装置内で、ペリクルとして使用するのに十分大きくかつ安定した金属ケイ化物膜の製造を可能にする、ペリクルの製造方法を提供することが望ましい。また、熱的および化学的に安定であり、かつ既知の金属ケイ化物材料より強度の高いペリクルを提供することも望ましい。 【0021】 [00021] 本出願は一般に、リソグラフィ装置、特にEUVリソグラフィ装置の文脈におけるペリクルに言及するが、本発明はペリクルおよびリソグラフィ装置のみに限定されるものではなく、本発明の主題は他の任意の好適な装置または状況において使用してよいことが理解される。 【0022】 [00022] 例えば、本発明の方法は、スペクトル純度フィルタにも同様に適用することができる。プラズマを使用してEUV放射を発生させるEUV源等のEUV源は、実際には望ましい「帯域内の」EUV放射だけでなく、望ましくない(帯域外の)放射も放出する。この帯域外の放射は、深UV(DUV)放射範囲(100から400nm)において最も顕著である。さらに、一部のEUV源、例えばレーザ生成プラズマEUV源の場合、通常10.6ミクロンのレーザからの放射も、顕著な望ましくない(帯域外の)赤外(IR)放射源を形成し得る。 【0023】 [00023] リソグラフィ装置において、いくつかの理由でスペクトル純度が所望される。理由の1つは、レジストは放射の帯域外の波長に対して感応性が高く、したがって、レジストがそのような帯域外の放射にさらされた場合、レジストに付与された露光パターンの像品質が低下し得るためである。さらに、帯域外の赤外放射、例えば、一部のレーザ生成プラズマ源における10.6ミクロンの放射は、リソグラフィ装置内部のパターニングデバイス、基板、および光学部品の、望まれない不必要な加熱を招く。そのような加熱は、これらの要素の損傷、寿命の低下、および/またはレジストコートされた基板上に投影および付与されるパターンの欠陥または歪みを招くおそれがある。 【0024】 [00024] 典型的なスペクトル純度フィルタは、例えば、モリブデンまたはルテニウム等の反射性金属でコートされたシリコンメンブレンから形成することができる。使用中、典型的なスペクトル純度フィルタは、例えば、入射する赤外およびEUV放射からの高い熱負荷にさらされ得る。この熱負荷によって、スペクトル純度フィルタの温度は800℃を超える可能性があり、その結果、最終的にコーティングの層間剥離が生じる。シリコンメンブレンの層間剥離および劣化は、水素の存在によって加速されるが、水素は、スペクトル純度フィルタが使用される環境内で、デブリ(例えば、レジストからの分子ガス放出(molecular outgassing)や粒子デブリ等)がリソグラフィ装置の特定の部品に進入することや特定の部品から離れることを抑制するために、ガスとしてしばしば使用される。 【0025】 [00025] このように、本発明に係る金属ケイ化物膜は、望まれない放射を遮るスペクトル純度フィルタとして使用することができ、またリソグラフィマスクを粒子による汚染から保護するペリクルとして使用することもできる。したがって、本出願における「ペリクル」への言及は、「スペクトル純度フィルタ」への言及でもある(これらの用語は互換可能である)。本出願においては主にペリクルに言及するが、全ての特徴はスペクトル純度フィルタにも同様に適用することができる。スペクトル純度フィルタは、ペリクルの一種であることが理解される。 【0026】 [00026] リソグラフィ装置(および/または方法)において、レジストコートされた基板へのパターン付与に使用される放射の強度の損失を最低限にすることが望ましい。この理由の1つは、例えば、露光時間を減少させ、スループットを増大するために、理想的には、可能な限り多くの放射が基板にパターンを付与するために利用可能となるべきだからである。同時に、リソグラフィ装置を通過して、基板上に入射する、望ましくない(例えば、帯域外の)放射の量を最低限にすることが望ましい。さらに、リソグラフィ方法または装置において使用されるペリクルが、十分な寿命を有し、かつ、ペリクルがさらされ得る高い熱負荷、および/またはペリクルがさらされ得る水素(またはそれに類似するもの、例えばH*およびHO*を含むフリーラジカル種等)の結果として、急速に経時的に劣化しないようにすることが望ましい。したがって、改善された(または代替的な)ペリクル、および、例えばリソグラフィ装置および/または方法において使用するのに好適なペリクルを提供することが望ましい。 【0027】 [00027] さらに、本出願は一般に、二ケイ化モリブデンペリクルに言及するが、任意の好適な金属ケイ化物材料が使用できることが理解されるだろう。例えば、ペリクルは、二ケイ化ジルコニウム、二ケイ化ニオブ、二ケイ化ランタン、二ケイ化イットリウム、および/または二ケイ化ベリリウムを含んでよい。加えて、EUV放射にさらされた時のペリクルの透過率の変化を打ち消すように選択および構成された少なくとも1つの犠牲層を有するペリクル、および関連する方法に関する本発明の実施形態は、窒化された金属ケイ化物(nitridated metal silicide)または窒化されたシリコン(nitridated silicon)を含むペリクルに適用してもよく、他の任意の種類のペリクルに適用してもよい。」 2 発明の概略(【0028】~【0113】) 「【発明の概略】 【0028】 [00028] 本発明は、既知のペリクル、ならびにペリクルを生成および設計する既知の方法に関する上記の問題を考慮してなされたものである。 【0029】 [00029] 本発明の第1の態様によれば、窒化された金属ケイ化物または窒化されたシリコンを含む、リソグラフィ装置用のペリクルが提供される。 【0030】 [00030] 驚くべきことに、金属ケイ化物に窒素を添加することによって、窒素を含まない金属ケイ化物、あるいはシリコン層、シリコンウェーハ、シリコン膜、または同様のものに対する利点が数多く生じることが分かっている。これらの利点によって、これまで不可能であった、金属ケイ化物膜を含むペリクルの提供が可能となる。金属ケイ化物基板は、ケイ化モリブデンまたはケイ化ジルコニウム基板であり得る。 【0031】 [00031] 金属ケイ化物基板を窒化することによって、窒素が金属ケイ化物と反応して、ペリクル基板上に金属ケイ化物窒化物(metal-silicide-nitride)を形成することが可能である。金属ケイ化物窒化物層は、シリコン基板上に形成することができる。シリコン基板はシリコンウェーハであってよい。同様に、多結晶シリコンペリクルの強度を改善するために、純シリコンに窒素をドープすることが可能である。この場合、基板は実質的に純シリコンである。 【0032】 [00032] 第一に、驚くべきことに、窒素の添加によって、窒素が添加されていない場合と比べて、膜がよりアモルファスに保たれることが分かっている。この結果、強度、熱に対する耐性、および機械的負荷に対する耐性が増大する。このことは改善された引張強度によって示される。 【0033】 [00033] 加えて、窒素の添加によって、アニーリングプロセス中、金属ケイ化物膜はより圧縮した状態に保たれる。そのため、金属ケイ化物窒化物膜は、室温まで冷却されるにつれて収縮するが、窒素の添加が無い場合と比べて膜の収縮の程度は小さく、結果として、室温における膜内部の残留引張応力は小さくなる。さらに、約450℃から600℃の高温に至る高出力露光中、膜は、ゼロ状態密度で、かつ応力蓄積が無いままに保たれることとなる。特に、窒素の添加によって、堆積される時点で既にペリクルは高密度になっているため、加熱された時にペリクルは収縮せず、それによって、使用中の密度の変化に対してより耐性のあるものとなる。 【0034】 [00034] 窒素を含むことによるさらに驚くべき利点は、金属ケイ化物の酸化の低減および自然酸化物の厚みの低減である。酸化しやすさが低下することで、金属ケイ化物の化学的および熱的安定性が改善し、自然酸化物の厚みが低減することで、金属ケイ化物にかかる応力が低減する。科学的理論に拘束されることを望むものではないが、自然酸化物層は圧縮応力を発生させるため、ペリクル膜に対して引張力を作用させ、したがって膜を脆弱化すると考えられる。自然酸化物層の厚みが低減することで、引張応力が低減すると考えられる。また、自然酸化物の厚みが低減することで、EUV透過の改善も促進する。EUV放射のパワーが低減し、それによって装置全体の効率が低下して装置のスループットが低減するのを回避するために、利用可能な限り多くのEUV放射が、吸収されることなくペリクルを通過可能であることが重要である。 【0035】 [00035] 金属ケイ化物層への窒素の添加によって、材料の線熱膨張係数が低減することも分かっている。これによって、温度変化によって生じる材料内の引張応力が小さくなり、やはり引張応力が低減することによって、より大きな膜を生成することが可能となる。 【0036】 [00036] 同様の利点は、窒化シリコンペリクルにも認められる。 【0037】 [00037] 好ましくは、金属ケイ化物窒化物は、式Mx(Si)yNzを有し、x≦y≦2xであり、かつ0<z≦xである。添加される窒素の厳密な量は、化合物内の金属の性質、およびペリクル用の動作条件に応じて調節することができる。例えば、ケイ化モリブデン化合物と比較して、ケイ化ジルコニウム化合物内により多くの量の窒素を含めることが可能であり、これは、ジルコニウムはモリブデンよりもEUV放射に対する透過性が高いため、窒素の量の増大はEUV透過を低減するものの、ジルコニウムの改善された透過率によって均衡されるからである。 【0038】 [00038] したがって、金属ケイ化物窒化物膜においては、金属よりもシリコンの原子濃度の方が高い。好ましくは、シリコンの原子濃度は、金属の原子濃度の約2倍、すなわちy=2xである。非化学量論的な値が可能であることが理解されるだろう。例えば、yの値は、xおよび2xを含む、xと2xの間の任意の数であってよい。 【0039】 [00039] 窒素の存在は、金属ケイ化物膜に望ましい物理的特性をもたらすために必要なため、zの値はゼロより大きい。高濃度で窒素を添加すると金属ケイ化物材料の電気伝導率が低減すること、また、高い窒素濃度ではEUV透過率が減少することから、金属ケイ化物層の窒素含有量は、可能な限り低く、しかし上記の利点を示すのに十分な程度に高く保つことが好ましい。1未満のxを有することは、EUV透過率に悪影響は及ぼさないが、本明細書に記載される機械的な利点をもたらすことが分かっている。そのため、zの値はxの値以下である。好ましくは、zの値は1以下である。 【0040】 [00040] 好ましくは、窒化されたシリコンは、式SiNaを有し、0.01≦a≦1である。好ましくは、a≦0.5であり、より好ましくはa≦0.1である。窒素がドープされたシリコンは、マイクロ電子工学での使用が知られているが、ドープされたシリコン内の窒素の最大量は、1万のシリコン原子につき約1つの窒素原子であり、すなわち、0.01原子%である。現在の文脈において、これは「a」の最大値が0.0001であることを意味し得る。わずかにドープされたシリコンにおいては、「a」の値は桁違いに小さいだろう。さらに、窒化シリコン(Si3N4)においては、シリコン原子より窒素原子の割合が大きく、すなわち、「a」>1である。そのため、本発明のペリクルの式は、マイクロ電子工学において使用される式から外れ、かつ、窒化シリコンが、例えば、ベアリングまたはターボ過給機等においてバルク材として使用される場合の式からも外れる。 【0041】 [00041] ペリクルを構成する材料の式は、化学量論的である必要はない。式は、最小公分母に換算されており、かつ/または短縮された形式で示されていると解釈すべきである。例えば、膜の式がMo2Si4Ni1の場合、これをMoSi2Ni0.5と表現することもできる。別の例では、膜の式がZr3Si6Ni1の場合、これをZrSi2N0.33と表現してもよい。実際は、シリコンは部分的にのみ窒化されているため、式は化学量論的にはならない。 【0042】 [00042] 好ましくは、金属(M)は、Ce、Pr、Sc、Eu、Nd、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、La、Y、およびBeを含む群から選択される。好ましくは、金属(M)は、Mo、ZrまたはBeである。 【0043】 [00043] ペリクルの典型的な組成は、ZrSi2N、MоSi2N、LaSi2NおよびYSi2Nである。これらの例のそれぞれにおいて、x=1、y=2、かつz=1である。 【0044】 [00044] 他の典型的な組成は、Mо2Si4N、Zr2Si4N、Mо3Si6NおよびZr3Si6Nである。これらの例から分かるように、窒素の原子濃度は、金属の原子濃度未満である。好ましくは、窒素の原子濃度は、金属、シリコン、および窒素の総原子濃度の約25%未満である。そのため、金属およびシリコンは、金属ケイ化物膜における金属、シリコンおよび窒素原子の総数の約75%超を構成することが好ましい。言い換えると、金属ケイ化物窒化物ペリクルの原子全体の約75%超が金属またはシリコン原子であり、残りの約25%が窒素原子である。 【0045】 [00045] 窒素の原子濃度は、約20%未満、約15%未満、約10%未満、約5%未満、または約1%未満であってよい。 【0046】 [00046] ペリクルは、少なくとも1つのキャッピング層をさらに含んでよい。ペリクルは、金属ケイ化物窒化物または窒化されたシリコン膜の各側に、キャッピング層を含んでよい。金属ケイ化物窒化物または窒化されたシリコン膜は、10nmから約40nmの厚み、好ましくは約15nmから約30nmの厚みを有してよい。少なくとも1つのキャッピング層は、約0.1nmから約10nmの厚み、好ましくは約1nmから約5nmの厚みを有してよい。キャッピング層は、任意の好適なキャッピング材料を含むことができる。好適なキャッピング材料は、EUVリソグラフィ装置の環境内で熱的および化学的に安定であり、かつペリクルを通るEUVの透過を著しく阻害しないものである。キャッピング層はまた、窒化された金属ケイ化物またはシリコンに付着可能であるように、ペリクルに適合しなければならない。好適なコーティング材料は、ルテニウムRu、ホウ素B、金属ホウ化物、ホウ化炭素B4C、窒化ホウ素BN、または類似のものを含む。 【0047】 [00047] キャッピング材料は、例えば、化学気相成長またはスパッタリング等の、任意の好適な方法を使用して付与することができる。 【0048】 [00048] 実際には、MxSiyNzは、ウェーハ上において周囲温度で製造することができる。次いで、ウェーハを好適な液体中でエッチングしてよく、ペリクル膜を液体の中からフレーム上に持ち上げてよい。この場合、窒素の添加によって、主に膜の密度が増大し、したがって耐熱性が増大する。これを使用して、様々な用途のEUVフィルタを生成することができる。MxSiyNzは、高温のアニーリング、および犠牲酸化物の高温の堆積を組み込んだ、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)プロセスを使用して製造することもできる。窒素の添加に起因する低い熱膨張係数、および窒素の添加に起因する構造的変化に対する耐性の向上は、主に応力を低減するのに役立ち、フルサイズのペリクルの製造を可能にする。 【0049】 [00049] 本明細書に記載される第2の態様によれば、リソグラフィ装置用のペリクルを製造する方法であって、金属ケイ化物基板またはシリコン基板を窒化することを含む方法が提供される。 【0050】 [00050] 金属ケイ化物またはシリコンの窒化は、金属ケイ化物基板またはシリコン基板をプラズマでスパッタリングすることによって引き起こされる。スパッタリングは、反応性スパッタリングであってよい。プラズマは、任意の好適なプラズマであってよい。プラズマは、窒素を含むことが好ましい。好ましくは、プラズマは、アルゴンと窒素ガスの混合物を含む。アルゴンガスは、不活性雰囲気をもたらすために含まれる。他の希ガスより安価なため、アルゴンを使用することが好ましいが、他の希ガスを使用してもよい。 【0051】 [00051] 窒素に対するアルゴンの比率は、様々であってよい。ガス混合物内の窒素の割合が大きいと、金属ケイ化物膜内により多くの量の窒素が組み込まれることとなる。例えば、窒素にアルゴンを足した量で窒素の量を割ったものとして計算される窒素流量比が、約10%であった場合、金属ケイ化物窒化物膜内の窒素の原子濃度は約18%となった。窒素流量比が約40%であった場合、金属ケイ化物窒化物膜内の窒素の原子濃度は約42%となった。同様に、窒素流量比が10%から40%に増大すると、それに対応して酸素の原子濃度が約34%から約15%に低下し、自然酸化物層の厚みの低減を示した。そのため、窒素に対するアルゴンの比率は、必要とされる窒化の程度に応じて様々であってよい。 【0052】 [00052] 金属ケイ化物を形成する金属は、Ce、Pr、Sc、Eu、Nd、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、La、YおよびBeを含む群から選択されてよい。この群のうち、モリブデン、ジルコニウム、およびベリリウムが、好ましい元素である。モリブデンが最も好ましい。 【0053】 [00053] ペリクルの既知の生成方法の限界のために、現在まで、金属ケイ化物を含むペリクルを作製する好適な方法は存在しなかった。 【0054】 [00054] 窒化された金属ケイ化物材料は、これまで半導体トランジスタにおけるゲートを形成するためにのみ使用されてきたが、それらのゲートは、ペリクルよりも数桁小さく、かつ、リソグラフィ装置、特にEUV装置の過酷な熱的および化学的環境に耐える必要がないものである。 …(後略)」 3 発明を実施する形態(【0115】~【0141】) 「【発明を実施するための形態】 …(中略)… 【0127】 [000127] 一例として、MoSiNxペリクルを、3Paの水素の圧力下、580℃で20時間にわたりEUV放射にさらして、ペリクルの透過率は約1%増大したことが分かった。これは、表面が最終的に、フォトニックエッチングされやすい酸窒化ケイ素となり、それによって薄くなったためと考えられる。別のMoSiNxペリクルを、ホウ素の層でコーティングし、20時間にわたって、3Paの水素の圧力下、約540℃で試験した。この結果、ペリクルの透過率が約1%減少した。このように、ホウ素層は、酸窒化ケイ素のエッチングによって生じた透過率の変化を打ち消した。したがって、より薄い酸化ホウ素の層が形成されてペリクルの透過率の変化が0%に近づくようにするために、ホウ素層の厚みを変更し得る。 …(後略)」 第6 当合議体の判断 1 サポート要件について (1) サポート要件の充足についての判断の概要 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 これを本件について適用すると、続く(2)において詳細に検討するとおり、技術常識を参酌しても本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいては、請求項1の「ペリクル」の概念の全範囲、すなわち、「窒化された金属ケイ化物は、式Mx(Si)yNzを有し、Mは金属であり、x,y,zはそれぞれ0より大きい」という記載で特定される材料の全範囲の「ペリクル」において、発明の課題を解決できると認識できるとはいえないから、本願の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。 (2) サポート要件の充足についての詳細な検討 ア 請求項1に係る発明が解決しようとする課題 請求項1に係る発明が解決しようとする課題(以下「本件課題」という。)は、前記第5に摘記した本願明細書の発明の詳細な説明を参酌すると、次のとおりであると認められる。 <本件課題> 約1cm×1cmよりも大きい金属ケイ化物膜を製造することはこれまで不可能であったため、既知の金属ケイ化物膜は、ペリクルとして使用することができないこと、及び、リソグラフィ方法又は装置において使用されるペリクルが、十分な寿命を有し、かつ、ペリクルがさらされ得る高い熱負荷、及び/又はペリクルがさらされ得る水素(又はそれに類似するもの、例えばH*およびHO*を含むフリーラジカル種等)の結果として、急速に経時的に劣化しないようにすることができなかったこと。 イ 解決手段についての発明の詳細な説明の開示 (ア) 作用・機序についての説明 前記第5に摘記した本願明細書の記載のうち、【0030】~【0036】の記載を参酌すると、ペリクルのベースとなる材料として金属ケイ化物を採用した場合に、金属ケイ化物に窒素を添加することによって、次の(i)~(iv)の利点がもたらされることが説明されている。 (i) 窒素が添加されていない場合と比べて膜がよりアモルファスに保たれること(すなわち、高温にさらされても再結晶かしにくいこと)(【0032】)。 (ii) アニーリングプロセス中、金属ケイ化物膜はより圧縮した状態に保たれ、室温における膜内部の残留引張応力は小さくなること(【0033】)。 (iii) 酸化しやすさが低下すること(【0034】)。 (iv) 線熱膨張係数が低減すること(【0035】)。 (イ) 材料についての言及 前記第5に摘記した本願明細書の記載のうち、【0037】~【0045】及び【0127】の記載を参酌すると、金属ケイ化物窒化物の具体的材料としては、次の(i)~(v)の技術事項が開示されている。 (i) 「好ましくは、金属ケイ化物窒化物は、式Mx(Si)yNzを有し、x≦y≦2xである。」ということ(【0037】)。 (ii) 「高い窒素濃度ではEUV透過率が減少することから、金属ケイ化物層の窒素含有量は、可能な限り低く、しかし上記の利点を示すのに十分な程度に高く保つことが好ましい。1未満のxを有することは、EUV透過率に悪影響は及ぼさないが、本明細書に記載される機械的な利点をもたらすことが分かっている。そのため、zの値はxの値以下である。好ましくは、zの値は1以下である。」ということ(【0039】)、 及び、 「窒化シリコン(Si3N4)においては、シリコン原子より窒素原子の割合が大きく、すなわち、「a」>1である。そのため、本発明のペリクルの式は、マイクロ電子工学において使用される式から外れ[る]」ということ(【0040】)。 (iii) 「好ましくは、金属(M)は、Ce、Pr、Sc、Eu、Nd、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、La、Y、およびBeを含む群から選択される。好ましくは、金属(M)は、Mo、ZrまたはBeである。」ということ(【0042】)。 (iv) 「ペリクルの典型的な組成は、ZrSi2N、MоSi2N、LaSi2NおよびYSi2Nである。これらの例のそれぞれにおいて、x=1、y=2、かつz=1である。他の典型的な組成は、Mо2Si4N、Zr2Si4N、Mо3Si6NおよびZr3Si6Nである。これらの例から分かるように、窒素の原子濃度は、金属の原子濃度未満である。」ということ(【0043】及び【0044】)。 (v) 一例として、MoSiNxペリクルがあること(【0127】)。 ウ 検討 (ア) 金属元素Mの特定について a まず、請求項1の「式Mx(Si)yNzを有し、Mは金属であり、x,y,zはそれぞれ0より大きい」という技術事項におけるMについて検討する。 b(a) 請求項1においては、Mは限定されていない。 (b) 請求項4においては、「金属Mは、Ce、Pr、Sc、Eu、Nd、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、La、Y、およびBeを含む群から選択される、請求項1~3のいずれかに記載のペリクル。」と記載されている。 (c) 明細書の【0042】においては、「好ましくは、金属(M)は、Ce、Pr、Sc、Eu、Nd、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、La、Y、およびBeを含む群から選択される。好ましくは、金属(M)は、Mo、ZrまたはBeである。」と記載されている。 c 前記b(a)から(c)を踏まえると、金属元素Mには、限定が無いといえる。 d そうすると、請求項1には、例えば、WxSiyNz(例えばWSi3N)なども含まれることとなるところ、W(タングステン)はEUV光の吸収率が高く、ペリクルにふさわしくないことは明らかであるから、請求項1の範囲の全域において本件課題が解決できることは認識できないといえる。 e また、本願明細書並びに回答書の回答、参考文献A及び参考資料1~5を参照しても、明細書の【0042】に開示された元素のうち「Mo」と「Zr」を除いた「Ce、Pr、Sc、Eu、Nd、Ti、V、Cr、Nb、Ru、Rh、La、Y及びBe」については、実験データや技術常識は何ら開示されていないから、これらの元素について、「約1cm×1cmよりも大きい金属ケイ化物膜を製造することができること」は、当業者は認識できないというべきであって、これらの元素については、将来展望を述べた程度にしか評価できないというべきである。 f 以上のとおりであるから、金属元素MについてMo又はZrについての限定の無い本願の請求項1は、サポート要件を充足するとはいえない。 (イ) 組成比及び固体状態の特定について a アモルファスの特定が無いことについて (a) 請求項1の記載においては、組成比「x,y,z」については、「x,y,zはそれぞれ0より大きい」との限定しかなく、アモルファスであることの特定もないから、請求項1に係る「窒化された金属ケイ化物(Mx(Si)yNz)は、結晶性のものも包摂するものであって、アモルファスであるとはいえない。 (b) 実際、請求人が提出した参考文献A、参考資料4及び参考資料5を参酌すると、「Mx(Si)yNzを有し、Mは金属であり、x,y,zはそれぞれ0より大きい」との記載で特定される窒化された金属ケイ化物の範囲には、アモルファスではなく結晶性のものが包摂されていることが理解される。 すなわち、参考文献Aには「we obtained highly-oriented crystalline MoSiNx」(464ページ左欄下から1行目から右欄1行目)と記載されている。 さらに、参考資料4においては、Mo2NをベースとしてSiを含ませる実験をしているところ、19.8原子%Siのものはアモルファスになっている一方、13.2原子%Siのものはアモルファスになっていない(4ページの「3.2 Phase Identification」の節及びFigure 1等参照)。 また、参考資料5においてはZr-Si-N膜を扱っているところ、N/Si比率が低いところでは多結晶状態となっている(Abstract、240ページ右下からの「3.3.elemental and phase composition」の節、Fig. 3等参照)。 (c) 前記イ(ア)に摘記した本願明細書の発明の詳細な説明の記載等に基づけば、課題を解決するためには、金属ケイ化物膜がアモルファスになっていることに発明の鍵があるというべきであり、課題解決のための必須の構成であると理解されるところ、かかる特定のない本願の請求項1は、サポート要件を充足するとはいえない。 (d) 請求人は、回答書において、「よりアモルファスに」とは、厳密にアモルファス状態にあるという意味ではなく、単に構造の変化に言及しているにすぎない。よって、請求人は、窒化された金属ケイ化物、必ずしも「アモルファス状態」になければならないものではなく、むしろ、この段落は、窒素を添加することの重要性を説明しているものであり、窒素を添加する点は、請求項1に既に特定されている」と主張する。 しかしながら、「結晶性」の状態と「アモルファス」の状態とは同じ固体状態であっても全く異なる状態であり、このような固体状態の変化があれば、これまで「約1cm×1cmよりも大きい金属ケイ化物膜」を製造することができなかったものができるようになることはあり得ても、「アモルファス状態」の形成無くして、どうして、例えば、非常に微量のNを含有するだけで、これまで「約1cm×1cmよりも大きい金属ケイ化物膜」を製造することができなかったものができるようになるといえるのか、理解することができない。したがって、請求人の主張は採用できない。 b 窒素濃度の特定について(特にEUV透過率の観点から) (a) 前記イ(イ)の(ii)で摘記したとおり、本願明細書の【0039】においては、次のとおり説明されている。 「高い窒素濃度ではEUV透過率が減少することから、金属ケイ化物層の窒素含有量は、可能な限り低く、しかし上記の利点を示すのに十分な程度に高く保つことが好ましい。1未満のxを有することは、EUV透過率に悪影響は及ぼさないが、本明細書に記載される機械的な利点をもたらすことが分かっている。そのため、zの値はxの値以下である。好ましくは、zの値は1以下である。」 (b) 請求項1においては、前記(a)の限定が無いことから、発明の詳細な説明に開示されたものに対応していないことは明らかである。 請求項1においては、MとSiの組成比の特定も不十分であるから、Mの含有率も非常に低いものも含まれ、例えば「窒化シリコン(Si3N4)にわずかにZrやMo等がドープされたものも含まれてしまうところ、「窒化シリコン(Si3N4)」に近い性質の材料がどうして本件課題を解決できるのか理解できない。 (c) 請求人は、回答書において、本願明細書の【0044】には、ペリクル膜のための窒化された金属ケイ化物における窒素の原子濃度は、約25%未満であることが記載されていると主張するところ、当該限定のある請求項5に対する主張であれば理解できるものの、請求項1には当該限定は記載されていないのであるから、請求人の主張は失当である。 (3) サポート要件の充足についての判断のまとめ 以上検討のとおり、請求項1においては、「窒化された金属ケイ化物」については、「式Mx(Si)yNzを有し、Mは金属であり、x,y,zはそれぞれ0より大きい」とのみ特定されており、Mの特定、(x,y,z)の特定及び固体状態に関する特定(アモルファスであることの特定)が不十分であるから、請求項1において特定された技術事項だけでは、当業者は本件課題を解決できると認識できない。 よって、本願の特許請求の範囲の請求項1は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。 2 実施可能要件について (1) 特許法36条4項1号は、発明の詳細な説明は、請求項に係る発明について、経済産業省令(特許法施行規則24条の2)で定めるところにより(すなわち、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することにより)、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていなければならないとするものであるところ、意見書において請求人が指摘するとおり、物の発明について実施をすることができるためには、その物を作れ、かつ、その物を使用できることが必要である。 (2)ア 本願は材料の発明であり化学の分野の要素を備える発明であるところ、化学は実証研究の学問と言われるように、化学の分野の発明においては、一般的には実際に製造・測定してみなければ、効果の確認ができないことが多く、推測や憶測を述べたのにとどまらず技術を実質的に使用できるように開示したといえるためには、多くの場合、実証結果の開示を伴うものであることが必要である。 イ これを本件の場合についてみると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、少なくとも次の(ア)から(ウ)の三つの場合について、所定の効果を奏することにより本件課題を解決できることについて、実証結果を提示することにより検証されているものではなく、前記1においてサポート要件の判断について検討したとおり、請求人が技術常識や技術水準を立証するために提示した参考文献A及び参考資料1~6を参酌しても、少なくとも次の(ア)から(ウ)の三つの場合については、本願の発明の詳細な説明の記載に基づいては本件課題を解決できることを理解することができない。 (ア) MがMo又はZr以外の場合 (イ) 金属ケイ化物がアモルファスではなく、結晶性の場合 (ウ) z>xの場合 ウ したがって、本願の発明の詳細な説明の記載は、本願の請求項1に記載の発明について、その物を作れ、かつ、その物を使用でき、当業者が発明の技術上の意義を理解できる程度の具体的な情報が開示されていないから、その確認のためには当業者に過度の試行錯誤を要するものであるといえる。 (4) よって、本願明細書発明の詳細な説明は、請求項1に係る発明について、経済産業省令(特許法施行規則24条の2)で定めるところにより(すなわち、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することにより)、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、特許法36条4項1号の要件を満たしていない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、本願の明細書の発明の詳細な説明は、請求項1について、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。 また、本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。 したがって、本願は、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2023-020696

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