特許拒絶査定不服審判
2020-008687
制御装置
- 審判番号
- 2020-008687
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-033840外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年06月23日
- 審決日
- 2022年10月19日
- 公報発行日
- 2023年01月27日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .161-WZ (G05B) / P18 .121-WZ (G05B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条の2、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第41条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-33840「制御装置」拒絶査定不服審判事件〔令和元年9月5日出願公開、特開2019-149047〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本出願は、平成30年2月27日に出願された特願2018-33840号であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和 2年 2月 3日付け:拒絶理由を通知
令和 2年 3月 9日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 4月22日付け:拒絶の査定
令和 2年 6月23日 :審判請求書と同時に手続補正書の提出
令和 3年 6月 9日付け:拒絶理由を通知
令和 3年 7月19日 :意見書、手続補正書の提出
令和 3年12月27日付け:拒絶理由を通知
令和 4年 2月 2日 :意見書、手続補正書(以下、この手続補正書による補正を「本件補正」という。)の提出
令和 4年 6月30日付け:審尋
なお、上記令和4年6月30日付け審尋に対して、請求人より令和4年8月12日に本出願について特許を受けることを断念する旨の電話連絡(初回応対令和4年8月12日の応対記録を参照。)があった。
第2 本願発明
本願の請求項1-2に係る発明(以下、このうち請求項1に係る発明を「本願発明」という。)は、本件補正によって補正をした特許請求の範囲の請求項1-2に記載した事項により特定されるとおりのものであって、本願発明が特定される請求項1に記載した事項は以下のとおりである。(下線は、補正箇所について付したものである。)
「 【請求項1】
回転しているワークに工具を押し当てて移動させることで前記ワークにねじ切り加工を行う工作機械を加工プログラムに従って制御する制御装置であって、
前記加工プログラムを読みだして前記ねじ切り加工の解析データを出力するプログラム解析手段と、
前記加工プログラムに含まれる切上げ・切込み運動動作条件指令ブロックを解析して、切上げ・切込み運動の解析データを作成する切上げ・切込み運動動作条件解析手段と、
前記切上げ・切込み運動の解析データに基づいて切上げ・切込み運動指令を作成する切上げ・切込み運動挿入手段と、
前記ねじ切り加工の解析データに基づいて制御軸へ出力するための旋削加工移動指令を作成するとともに、前記切上げ・切込み運動挿入手段で作成された前記切上げ・切込み運動指令を受けてこれらの指令を出力する補間手段と、を有し、
前記ねじ切り加工は、ねじ溝切削方向に沿って、前記旋削加工移動指令に基づく旋削加工動作と、前記切上げ・切込み運動指令に基づく切込み動作及び前記工具をワークの径方向に切上げることにより切屑を分断する切上げ動作と、前記旋削加工移動指令による前記工具を直前の前記切上げ動作の開始位置まで前記ワークと干渉しないようにアプローチさせる動作と、からなるサイクルを、切込み開始点を前記ねじ溝切削方向に少しずつずらしながら繰り返し実行することにより実行され、
前記切上げ・切込み運動は、前記切上げ動作の開始位置から、1回前の前記切上げ動作の前記工具と前記ワークが離れた位置の軸方向の座標値に達するまでの間の切削量が一定となる経路で、前記切上げ動作を実行することを特徴とする
制御装置。」
第3 当審で通知した令和3年12月27日付け拒絶理由
当審が、令和3年12月27日付けで通知した拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の概要は、以下のとおりである。
1 理由A(拡大先願)
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
記
・請求項 1
・引用文献等 1-4、6
(引用文献2-4、及び6は、周知技術を例示する文献。)
・請求項 2
・引用文献等 1-3
(引用文献2-3は、周知技術を例示する文献。)
2 理由B(進歩性)
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
・請求項 1-2
・引用文献等 2、4-6
3 理由C(明確性)
この出願は、特許請求の範囲の請求項1-2の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
<引用文献等一覧>
1.特願2017-137346号(国際公開第2019/012937号)
2.特開2015-225518号公報[周知技術を例示する文献]
3.国際公開第2016/067371号[同上]
4.特開2014-87886号公報[同上]
5.特開昭63-272416号公報[同上]
6.特公昭59-39250号公報[同上]
なお、以下では、上記<引用文献等一覧>の1の出願を「先願1」と、2の文献を「引用文献2」と、3-6の文献を同様に「引用文献3」-「引用文献6」という。
第4 理由Aについての当審の判断
1 先願1の発明者及び出願人
本出願の発明者は、先願1の特許出願に係る発明をしたものと同一ではなく、また、本出願の出願人は、その出願の時において、先願1の出願人と同一でもない。
2 先願1の先願発明が出願公開をされたとみなされることについて
本出願の日前の特許出願である先願1(特願2017-137346号)は、特許法第41条第1項の規定による優先権主張の基礎とされた先の出願であるため、同法第42条の規定により取り下げたものとみなされ、出願公開をされなかった。しかしながら、先願1の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明(以下、「先願発明」という。)について、当該先願1の同法第41条第1項本文の規定による優先権の主張を伴う国際出願に係る国際公開第2019/012937号(以下、「先願1公開」という。)のうち、段落[0001]-[0007]、[0010]-[0011]、[0014]-[0038]、[0046]-[0051]、請求の範囲の請求項1-2,5-6、及び図面の図1-3の記載に係る発明は、先願発明を内容とするところ、同法第184条の15第2項の規定により読み替えて適用される同法第41条第3項の規定により、出願公開をされたものとみなして、同法第29条の2本文の規定が適用される。
3 先願1公開の記載内容
(1)先願1公開の記載事項(下線は当審で付した。以下同じ。)
ア 明細書
「[0001]
本発明は、ワークにネジ溝を形成するネジ切り加工装置及びネジ切り加工方法に関する。
・・・
発明が解決しようとする課題
[0004]
上記従来のネジ切り加工装置ないしネジ切り加工方法では、繰り返し行うそれぞれの旋削加工において、ワークのネジ切りが必要な軸方向の全範囲に亘って連続して工具による旋削加工を行うようにしているので、形成しようとするネジの長さが有る程度長くなると、切込み加工の際に生じる切粉も長くなり、切粉が工具に絡まったり、切粉によってワークの表面に傷が付いたりするという問題が生じる虞があった。
[0005]
本発明は、上記課題を鑑みて成されたものであり、その目的は、切粉を分断しながらネジ切り加工を行うことが可能なネジ切り加工装置及びネジ切り加工方法を提供することにある。」
「発明を実施するための形態
[0016]
本発明の一実施の形態であるネジ切り加工装置1は、ワークWを回転可能に支持する主軸2と、ワークWに対する工具3の相対移動を制御する制御部4とを備え、制御部4がワークWと工具3とを所定の旋削工程に沿って移動制御することでワークWにネジ溝を形成するものである。ネジ切り加工装置1は、例えば旋盤として構成することができる。ネジ切り加工装置1を用いることで、以下に示す本発明の一実施の形態であるワークWのネジ切り加工方法を行うことができる。
[0017]
図1に示すように、ワークWとしては、例えば鋼材等の金属材料によって断面円形の棒状に形成された部材を用いることができる。
[0018]
ワークWはチャック(不図示)等の把持手段によりネジ切り加工装置1のワークWを回転可能で軸方向(Z軸方向)に移動可能な主軸2に同軸状に固定され、主軸2により回転駆動されて回転中心軸Cを中心として回転する。
[0019]
工具3は、駆動機構5によって駆動されて、ワークWに対して軸方向(Z軸方向)及び径方向(X軸方向)に自動的に相対移動することができる。図1においては工具3の形状を模式的に示すが、工具3としては、形成しようとするネジのネジ溝に対応した形状の刃先部分を有するものが用いられる。
[0020]
主軸2の回転及び工具3の作動の制御は、制御部4によって行われる。
[0021]
本実施の形態では、ワークWに対して、工具3を移動させることでネジ切り加工を行う例として説明する。本実施の形態のネジ切り加工装置1は、制御部4により工具3(駆動機構5)の作動を制御して、図1に示す工具経路Pに沿って工具3の刃先部分を移動させることで、主軸2によって回転したワークWの外周面を所定のネジ切り加工条件(ピッチ間隔、切り込み深さ等)でネジ切り加工を行う。
[0022]
工具経路Pは、工具3がワークWをネジ切り加工するときの移動経路を示している。本実施の形態における工具経路Pは、従来技術のネジ切り加工と同様に最初のワークWの軸方向の切り込み位置から、ネジ底Bの寸法位置に向かって少しずつ加工を進める工具3の移動経路に相当する複数の副経路p1~pn(nは自然数)を有する。図1には、工具経路Pによるネジ切り加工の途中状態として、4つの副経路p1~p4を例示的に示す。4つの副経路p1~p4においては、副経路p1、副経路p2、副経路p3、副経路p4・・・副経路pnの順序で連続的にネジ切り加工が進むように、工具3の刃先部分が移動する。
[0023]
副経路p1は、所定(一定)の切込み深さDとなる径方向位置において、工具3の刃先部分を、ワークWに対して当該ワークWの先端側から基端側(主軸2の側)に向けて軸方向に移動させる切込み経路paと、切込み経路paに対して主軸2の側で連なるとともに工具3の刃先部分をワークWに対して主軸2の側に向けて軸方向に移動させつつ径方向外側に移動させる傾斜した切上げ経路pbとを有している。本実施の形態では、工具3のワークWに対する所定の切込み深さDは、ワークWに形成するネジのネジ底Bに対応する深さである。工具3は、切込み経路paに沿って移動し、ワークWを所定の切込み深さDで切り込むことができ、切上げ経路pbに沿って移動することで回転するワークWの外周に所定のネジ切り加工条件で斜めに切り上げながら旋削によるネジ溝を形成することができる。副経路p1を移動する工具3によって旋削工程が施される軸方向の加工長は、従来のネジ切り加工による一度の軸方向の加工長に対して短く設定されている。
[0024]
副経路p1に沿って移動する工具3によるワークWの旋削工程が完了すると、工具3はワークWの外周面よりも径方向外側にまで移動した後、軸方向に沿って主軸2から離れる方向に移動し、副経路p1よりも主軸2の側にずれた副経路p2に沿って移動してワークWに対する次の旋削工程を行う。
[0025]
副経路p2も、副経路p1の切込み経路paと同一の切込み深さD及び軸方向長さを有する切込み経路と、副経路p1の切上げ経路pbと同一の傾斜角度及び軸方向長さを有する切上げ経路とを有している。副経路p2は、ワークWの切上げを開始する軸方向位置(切上げ経路を開始する軸方向位置)が、副経路p1に沿って移動する工具3による前の旋削工程においてワークWの切上げを開始した軸方向位置(切上げ経路pbが開始された軸方向位置)とワークWの切上げを終了した軸方向位置(切上げ経路pbが終了した軸方向位置)との間に位置するように、前の旋削工程を行った副経路p1に対して主軸2の側に向けて所定距離だけ軸方向にずれている。副経路p2に沿って移動する工具3によるワークWの旋削工程においては、ワークWを一定の切込み深さDで切り込む切込み加工は、前の旋削工程において切込み加工が開始された軸方向位置よりも主軸2寄りの位置から開始され、ワークWを切り上げる切上げ加工は、前の旋削工程においてワークWの切上げを開始した軸方向位置と切上げを終了した軸方向位置との間から開始される。
[0026]
副経路p2に沿って移動する工具3による旋削工程が完了すると、再度、工具3は、次の旋削工程を行うために、軸方向に沿って主軸2から離れる方向に移動し、前の副経路p2よりも主軸2の側にずれた副経路p3に沿って移動し、ワークWに対して次の旋削工程を行う。副経路p3も、副経路p1及び副経路p2の切込み経路paと同一の切込み深さ及び軸方向長さを有する切込み経路と、副経路p1及び副経路p2の切上げ経路pbと同一の傾斜角度及び軸方向長さを有する切上げ経路とを有している。副経路p3に沿って移動する工具3によるワークWの旋削工程も、ワークWを所定の切込み深さDで切り込む切込み加工は、副経路p2に沿う前の旋削工程において切込み加工が開始された軸方向位置よりも主軸2寄りの位置から開始され、ワークWを切り上げる切上げ加工は、前の旋削工程においてワークWの切上げを開始した軸方向位置と切上げを終了した軸方向位置との間から開始される。
[0027]
以下同様に、ワークWの切上げを開始する軸方向位置が、前の旋削工程おいてワークWの切上げを開始した軸方向位置とワークWの切上げを終了した軸方向位置との間に移動されるように副経路p4・・・副経路pnの順序で工具3の移動経路を設定し、ワークWの切上げを開始する軸方向位置を前の旋削工程によるワークWの切上げを開始した軸方向位置に対して順に変更させながら旋削工程を繰り返し行うことで、ワークWの外周面を徐々にネジ切り加工する。
[0028]
各副経路p2~pnにおいて次の旋削工程を開始する際には、制御部4により、主軸2の回転と工具3のワークWへの切込み開始位置との位相が同期されるように調整され、工具3は前の旋削工程において切り込まれたワークWの切込み部分に沿って所定の切り込み深さでネジ溝に侵入するとともに未加工部分に到達し、その位置から前の旋削工程に継続してワークWの切込み加工及び切り上げ加工を行う。
[0029]
各副経路p1~pnのネジ切り加工が進むと切り込み位置がネジ底Bの位置に近くなり、所定の副経路pn(本実施の形態ではp3)のときにワークWの端面においてネジ底Bに達した深さに仕上げられる。各副経路p1~pnにおいては切上げ加工における工具3のワークWへの切込み深さは、前の切上げ経路と次の切上げ経路との間の距離となる。
[0030]
図1において一番左側の矢印により引き出して示すように、副経路p1~p4の順序で工具3によるワークWの旋削工程が行われた部分は、徐々にネジ溝が深く形成されている。図1における一番左側の矢印の例においては、副経路p4で所望のネジ底Bに達するようなネジ切り加工の条件になっているので、副経路p4の旋削工程によりネジ底Bを有するネジに仕上げられている。図1において左から2番目の矢印により引き出して示すように、ワークWの副経路p2~p4の3つの旋削工程のみが完了した部分は、ワークWの副経路p2~p4の順序で工具3が通過して徐々にネジ溝が深くされているが、未だネジ底Bに沿った深さには達していない状態となっており、次の旋削作工程が行われることでネジに仕上げられる。図1において一番右側の矢印により引き出して示すように、ワークWの副経路p3、p4の旋削工程のみが完了した部分は、ワークWの副経路p3、p4の順序で工具3が通過して徐々にネジ溝が深くされているが、未だネジ溝は浅い状態であり、あと2回旋削作工程が行われることでネジに仕上げられる。規定の回数の旋削工程が行われるとネジ切り加工が完了し、ワークWの外周面に所望のネジ溝が形成される。
[0031]
上記したネジ切り加工装置1によるネジ切り加工方法では、各副経路p1~pnを移動する工具3によって行われる旋削工程の軸方向の加工長は、何れも、ワークWのネジ切り加工寸法よりも短くなるので、工具3が副経路p1~pnに沿って移動することにより行われるそれぞれの旋削工程において、工具3によりワークWが旋削されることにより生じる切粉は、各旋削工程が完了する度に分断され、従来のネジ切り加工でワークWのネジ切り加工寸法とほぼ同じ長さで発生していた切粉よりも短くなる。よって、ネジ切り加工により生じる切粉を短くして、切粉が工具3に絡まったり、切粉によってワークWの表面に傷が付いたりすることを防止することができる。また、丈長のネジ切り加工が切粉を短くしながら行うことが可能となる。さらに、ワークのたわみ、ビビりなどを防止して、高精度のネジ切り加工が可能となる。
[0032]
各副経路p1~pnを移動する工具3によって行われる旋削工程において、切り込み位置がネジ底Bの位置に達した後の副経路Pnでは切込み経路に沿って移動する工具3による切込み加工の前半部分は一度加工した工具経路Pを沿うように加工するゼロカットとなり、当該ゼロカットの後にワークWのネジ切り加工が行われることになるので、仮に加工残りがあってもこのゼロカットで除去がされるため、ネジ溝に段差を生じさせることなくネジ切り加工を行うことができる。
[0033]
それぞれの副経路p1~pnにおける切上げ経路pbの切り上げの角度を変更等することで、切上げ経路pbの軸方向長さLの変更や、ネジ切り加工を完了するまでに必要な旋削工程の回数を調整することができる。」
イ 図面
「[図1]
[図:0001392425000001.jpg]
」
(2)先願1公開の記載事項の整理
ア 段落[0021]の記載からみて、先願1公開記載のネジ切り加工装置1の制御部4は、回転しているワークWに対して旋削工程を行い、工具経路Pに沿って工具3の刃先部分を移動させることで前記ワークWにネジ切り加工を行うネジ切り加工装置1を制御することが、認められる。
イ 段落[0017]-[0027]、[0031]、及び図1の記載からみて、先願1公開記載のネジ切り加工は、旋削工程が施される軸方向に沿って、制御部4の制御による旋削工程と、制御部4の制御により、副経路p1~pn(nは自然数)の順序の工具経路Pで、一つの副経路に沿って移動する工具3による旋削工程が完了すると切粉が分断され、次の旋削工程を行うために、軸方向に沿って主軸2から離れる方向に工具3が移動し、前の副経路よりも主軸2の側にずれた次の副経路に沿って次の旋削工程を行うことで、連続的にネジ切り加工が進むように工具3の刃先部分が移動することにより行われるものであって、上記副経路p1~pnのそれぞれは、同一の切り込み深さD及び軸方向長さを有する切込み経路pa、及び同一の傾斜角度及び軸方向長さを有する切上げ経路pbを有するものであることが、認められる。
(3)先願発明1
上記(1)、(2)から先願1公開には、以下の発明(以下、「先願発明1」という。)が記載されていると認められる。
「回転しているワークWに対して工具経路Pに沿って工具3の刃先部分を移動させることで前記ワークWにネジ切り加工を行うネジ切り加工装置1を制御する制御部4であって、
前記ネジ切り加工は、旋削工程が施される軸方向に沿って、制御部4の制御による旋削工程と、制御部4の制御により、同一の切り込み深さD及び軸方向長さを有する切込み経路pa、及び同一の傾斜角度及び軸方向長さを有する切上げ経路pbを有する副経路p1~pn(nは自然数)の順序の工具経路Pで、一つの副経路に沿って移動する工具3による旋削工程が完了すると切粉が分断され、次の旋削工程を行うために、軸方向に沿って主軸2から離れる方向に工具3が移動し、前の副経路よりも主軸2の側にずれた次の副経路に沿って次の旋削工程を行うことで、連続的にネジ切り加工が進むように工具3の刃先部分が移動することにより行われる
制御部4。」
4 本願発明と先願発明1の対比
(1)相当関係
ア 先願発明1の「ワークW」は本願発明の「ワーク」に、同様に「工具3」は「工具」に、「ネジ切り加工」は「ねじ切り加工」に、「ネジ切り加工装置1」は「工作機械」に、「制御部4」は「制御装置」に相当する。そして、先願発明1の「回転しているワークWに対して工具経路Pに沿って工具3の刃先部分を移動させる」ことは本願発明の「回転しているワークに工具を押し当てて移動させる」ことに相当する。
イ 先願発明1の「制御部4の制御による旋削工程」は本願発明の「旋削加工移動指令に基づく旋削加工動作」に相当する。
ウ 先願発明1の工具3に関し、先願1公開の段落[0019]には、「駆動機構5によって駆動されて、ワークWに対して軸方向(Z軸方向)及び径方向(X軸方向)に自動的に相対移動することができる」ことが、及び同段落[0023]には、「工具3の刃先部分を、ワークWに対して当該ワークWの先端側から基端側(主軸2の側)に向けて軸方向に移動させる切込み経路paと、切込み経路paに対して主軸2の側で連なるとともに工具3の刃先部分をワークWに対して主軸2の側に向けて軸方向に移動させつつ径方向外側に移動させる傾斜した切上げ経路pbとを有している」ことが記載されている。
その一方で、本願発明の工具の切上げ・切込み運動に関し、本願明細書の段落【0016】には、「回転軸C周りに回転しているワークに対して、Z方向に移動する工具を接触させてねじ切り旋削加工を行うと、ワークが削れて切屑が発生する。このような切削加工の加工動作中に、X-ねじ溝切削方向平面における工具の切上げ・切込み運動を挿入することで、切屑を分断すると共に、冷却液を工具とワークの間に循環させる」ことが記載されている。
先願1公開の上記段落[0019]及び[0023]の記載と、本願明細書の上記段落【0016】の記載からみて、先願1公開に記載された工具3と本願発明の工具は、共に回転するワークに対して、軸方向(本願明細書のZ方向)に送られつつ径方向(本願明細書のX方向)に切上げられることでねじ溝切削が進行することから、先願発明1の「旋削工程が施される軸方向」と、本願発明の「ねじ溝切削方向」は、いずれも本願明細書のZ方向を意味し、前者は後者に相当する。
エ 先願1発明の「制御部4の制御により、同一の切り込み深さD及び軸方向長さを有する切込み経路pa、及び同一の傾斜角度及び軸方向長さを有する切上げ経路pbを有する副経路p1~pn(nは自然数)の順序の工具経路Pで、一つの副経路に沿って移動する工具3による旋削工程が完了すると切粉が分断され、次の旋削工程を行うために、軸方向に沿って主軸2から離れる方向に工具3が移動し、前の副経路よりも主軸2の側にずれた次の副経路に沿って次の旋削工程を行うことで、連続的にネジ切り加工が進むように工具3の刃先部分が移動すること」により「行われ」ることについて、切込み経路と切上げ経路の副経路に沿った旋削工程の後に切粉が分断され、より主軸2の側にずれた副経路で次の旋削工程を行うものであることからみて、本願発明の「前記切上げ・切込み運動指令に基づく切込み動作及び前記工具をワークの径方向に切上げることにより切屑を分断する切上げ動作と、前記旋削加工移動指令による前記工具を直前の前記切上げ動作の開始位置まで前記ワークと干渉しないようにアプローチさせる動作と、からなるサイクルを、切込み開始点を前記ねじ溝切削方向に少しずつずらしながら繰り返し実行する」ことにより「実行され」ることに相当する。
(2)一致点及び相違点
よって、本願発明と先願発明1は、次の点で一致し、相違する。
ア 一致点
回転しているワークに工具を押し当てて移動させることで前記ワークにねじ切り加工を行う工作機械を制御する制御装置であって、
前記ねじ切り加工は、ねじ溝切削方向に沿って、前記旋削加工移動指令に基づく旋削加工動作と、前記切上げ・切込み運動指令に基づく切込み動作及び前記工具をワークの径方向に切上げることにより切屑を分断する切上げ動作と、前記旋削加工移動指令による前記工具を直前の前記切上げ動作の開始位置まで前記ワークと干渉しないようにアプローチさせる動作と、からなるサイクルを、切込み開始点を前記ねじ溝切削方向に少しずつずらしながら繰り返し実行することにより実行される
制御装置。
イ 相違点
(ア)相違点1
本願発明1においては、「制御装置」が「工作機械を加工プログラムに従って制御」し、「前記加工プログラムを読みだして前記ねじ切り加工の解析データを出力するプログラム解析手段と、前記加工プログラムに含まれる切上げ・切込み運動動作条件指令ブロックを解析して、切上げ・切込み運動の解析データを作成する切上げ・切込み運動動作条件解析手段と、前記切上げ・切込み運動の解析データに基づいて切上げ・切込み運動指令を作成する切上げ・切込み運動挿入手段と、前記ねじ切り加工の解析データに基づいて制御軸へ出力するための旋削加工移動指令を作成するとともに、前記切上げ・切込み運動挿入手段で作成された前記切上げ・切込み運動指令を受けてこれらの指令を出力する補間手段」を有するのに対して、先願発明1は、制御装置が「加工プログラムに従って制御」することが特定されておらず、したがって、上記の「プログラム解析手段」、「切上げ・切込み運動動作条件解析手段」、「切上げ・切込み運動挿入手段」、及び「補間手段」を備えるか否かが不明である点。
(イ)相違点2
本願発明1の切上げ・切込み運動は、「切上げ動作の開始位置から、1回前の前記切上げ動作の前記工具と前記ワークが離れた位置の軸方向の座標値に達するまでの間の切削量が一定となる経路で、前記切上げ動作を実行する」のに対して、先願発明1は、このような経路で切上げ動作が実行されるか不明である点。
5 相違点の判断
(1)相違点1についての判断
ア 以下のイ-オに示すように、上記相違点1に係る本願発明1の各事項は周知技術であり、本願発明1は、先願発明1に当該周知技術を付加、もしくは当該周知技術に転換したものに過ぎず、新たな効果を奏しないものである。したがって、相違点1は課題解決のための具体化手段における微差であると認められる。
イ 工作機械を加工プログラムに従って制御することは、引用文献2[特に、段落【0026】、及び図4を参照。]、及び引用文献3[特に、段落【0010】,【0014】,【0017】,【0023】、及び図1を参照。]に記載されている周知技術(以下「周知技術1」という。)である。
ウ 上記周知技術1を例示するこれらの引用文献2及び引用文献3には、さらに、以下の(ア)及び(イ)に示す事項も記載されている。
(ア)引用文献2[特に、段落【0019】-【0059】、図1-13を参照。]には、工作機械(旋盤加工装置)を加工プログラムに従って旋削加工するのに、この加工プログラムを読みだして解析データを出力するプログラム解析手段(プログラム解析手段26)と、前記加工プログラムにおいて指令される切上げ・切込み運動の動作条件を解析する切上げ・切込み運動動作条件解析手段(切上げ・切込み運動動作条件解析手段28)と、前記切上げ・切込み運動動作条件解析手段によって解析した動作条件に基づいて作成する切上げ・切込み運動を前記旋削加工に挿入する切上げ・切込み運動指令を出力する切上げ・切込み運動挿入手段(切上げ・切込み運動挿入手段29)と、前記解析データに基づいて制御軸へ出力するための旋削加工移動指令を作成して出力するとともに、前記切上げ・切込み運動指令に基づいて切上げ・切込み挿入処理を実行する補間手段(補間手段27)と、を有し、前記切上げ・切込み運動挿入手段は、旋削加工方向に沿って、切込み動作と、前記工具をワークの径方向に切上げることにより切屑を分断する切上げ動作と、直前の前記切上げ動作の開始位置まで前記工具を前記ワークと干渉しないようにアプローチさせる動作と、からなるサイクルを繰り返し実行する数値制御装置(段落【0026】)が記載されている。
(イ)引用文献3[特に、段落【0010】-【0038】、図1-15を参照。]には、工作機械(ねじ切り加工を行う工具)を加工プログラム(加工プログラム432)に従って制御するのに、この加工プログラムを読みだして解析データを出力するプログラム解析手段(解析処理部45)と、前記加工プログラムにおいて指令される振動の動作条件を解析する振動指令解析部(段落【0017】記載の加工プログラム432に振動指令が含まれているかを解析し、振動指令が含まれている場合に、振動指令に含まれる振動条件を生成する振動指令解析部452に関する記載を参照。)と、前記振動指令解析部によって解析した動作条件に基づいて作成する振動をねじ切り加工に挿入する振動指令を出力する振動移動量算出部(段落【0019】、及び図1記載の振動移動量算出部482に関する記載を参照。)と、前記解析データ(段落【0017】、及び図1の移動指令生成部451に関する記載を参照。)に基づいて制御軸へ出力するための移動指令を作成して出力する(段落【0019】、及び図1の指令移動量算出部481に関する記載を参照。)とともに、前記振動指令に基づいて振動を重畳する(段落【0019】、及び図1の移動量重畳部483に関する記載を参照。)補間手段(段落【0019】、及び図1記載の補間処理部48に関する記載を参照。)と、を有し、前記振動移動量算出部が算出する振動移動量が、移動指令の指令移動量に重畳した重畳移動量による動作を実行する数値制御装置(段落【0019】)が記載されている。
エ これらの引用文献2及び引用文献3の内容からみて、制御装置がワークに加工を行う工作機械を加工プログラムに従って制御するのに、この加工プログラムを読みだしてねじ切り加工の解析データを出力するプログラム解析手段(引用文献2のプログラム解析手段26、引用文献3の解析処理部45)と、前記加工プログラムに含まれる切上げ・切込み運動動作条件指令ブロックを解析して、切上げ・切込み運動の解析データを作成する手段(引用文献2の切上げ・切込み運動動作条件解析手段28、引用文献3の振動指令解析部452)と、この運動の解析データに基づいて運動指令を作成する手段(引用文献2の切上げ・切込み運動挿入手段29、引用文献3の振動移動量算出部482)と、ねじ切り加工の解析データに基づいて制御軸へ出力するための旋削加工移動指令を作成するとともに、上記運動指令を受けてこれらの指令を出力する補間手段(引用文献2の補間手段27、引用文献3の補間処理部48)を備えることは周知技術(以下「周知技術2」という。)であると認められる。
オ そして、周知技術1及び2に関して例示した上記引用文献2及び引用文献3記載のものは、いずれも、先願発明1と同様に、工作機械において工具とワークの相対移動を制御し、ワークの加工動作に対して、運動を挿入あるいは重畳するものである上に、特に引用文献2が本願明細書において先行技術文献として挙げられていることからみて、これらの周知技術はこの技術分野において基礎的なものであることが認められる。よって、本願発明1は、先願発明1に対して、上記周知技術1及び2を付加ないし上記周知技術1及び2に転換したものに過ぎず、新たな効果を奏しないものであって、相違点1は課題解決のための具体化手段における微差であると認められる。
(2)相違点2についての判断
ねじ切り加工においては、工具の経路として切削量が一定となるものを選択することは、例えば引用文献4[特に、段落【0016】の記載を参照。]、あるいは引用文献6[特に、特許請求の範囲の記載を参照。]にも記載されている周知技術(以下、「周知技術3」という。)であって、先願発明1において、切上げ動作の開始位置から、1回前の切上げ動作の工具とワークが離れた位置の軸方向の座標値に達するまでの間の切削量が一定となる経路を選択することは周知技術3の付加ないし周知技術3に転換したものに相当し、相違点2は、相違点1と同様に、課題解決のための具体化手段における微差であると認められる。
6 小括
以上のとおり、本願発明と先願発明1との間の相違点1及び相違点2は、課題解決のための具体的手段における微差であって、本願発明は先願発明1と実質同一であると認められるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
第5 理由Bについての当審の判断
1 引用文献2の記載内容
(1)引用文献2の記載事項
ア 明細書
「【技術分野】
【0001】
本発明は、数値制御装置に関し、特に切りくずの分断性向上、冷却液の効率的な循環のための切上げ・切込み運動または円運動挿入機能を有する数値制御装置に関する。
・・・
【0009】
そこで本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、旋削加工において、特別な機構などを組み込むことなく、切りくずの分断と、ワークの加工面と工具刃先の間に冷却液を循環させるように旋盤加工機械を制御できる数値制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願請求項1に係る発明は、回転しているワークに工具を押し当てて移動させることで前記ワークを目的の形状に加工する旋削加工を行う工作機械を加工プログラムに従って制御する数値制御装置において、前記加工プログラムにおいて指令される切上げ・切込み運動の動作条件を解析する切上げ・切込み運動動作条件解析手段と、前記切上げ・切込み運動動作条件解析手段によって解析した動作条件に基づいて作成する切上げ・切込み運動を前記旋削加工に挿入する切上げ・切込み運動挿入手段と、を備えことを特徴とする数値制御装置である。
・・・
【0023】
<実施の形態1>
本実施の形態では、旋削加工の加工動作に対して工具軌跡が3点以上の頂点を持つ多角形となる運動である切上げ・切込み運動を挿入する例を示す。
【0024】
図2は、本実施の形態における切上げ・切込み運動を示すイメージ図である。回転しているワーク50に対して工具46を接触させて旋削加工を行うと、ワークが削れて切りくずが発生する。このような切削加工の加工動作中に、Z-X平面における工具46の切上げ・切込み運動を挿入することで、切りくずを分断すると共に、冷却液を工具46とワーク50の間に循環させる。
【0025】
図3は、Z-X平面における切上げ・切込み運動をY軸から見た拡大図である。切上げ・切込み運動は、工具軌跡が切上げと切り込みを二辺とする三角形で表される動きであり、加工面に対する切上げ・切込み角度R、切上げ・切込み量Iを任意に設定することで定義される。
【0026】
図4は、本実施の形態の数値制御装置10の機能構成を示すブロック図である。
数値制御装置10のCPU11は、ROM12に格納されたシステムプログラム読み出して実行することにより、プログラム解析手段26、補間手段27、切上げ・切込み運動動作条件解析手段28、切上げ・切込み運動挿入手段29として動作する。プログラム解析手段26はCMOSメモリ14から読み出した加工プログラムを解析し、解析データを出力する。プログラム解析手段26が加工プログラムの中に切上げ・切込み運動動作条件指令ブロックを認識すると、切上げ・切込み運動動作条件解析手段28が動作し、当該切上げ・切込み運動動作条件指令ブロックを解析して切上げ・切込み運動の解析データを作成し、プログラム解析手段26へ出力する。補間手段27は、プログラム解析手段26から取得した解析データに基づいて制御軸へ出力するための旋削加工移動指令を作成して出力する。また、切上げ・切込み運動を動作させるタイミングにおいて切上げ・切込み運動挿入手段29が動作し、切上げ・切込み運動挿入手段29は切上げ・切込み運動指令を作成して補間手段27へと出力する。そして、当該切上げ・切込み運動指令に基づいて軸制御が行われることで切上げ・切込み運動の挿入が実現される。
【0027】
図5は、補間手段27の切上げ・切込み挿入処理を説明するフローチャートである。
図5のフローチャートにおいて、切上げ・切込み運動実行中フラグexec_fは現在切上げ・切込み運動を実行中であるか否かを示すフラグである。また、時間カウンタcnt_tは前回切上げ・切込み運動を実行してからの時間を示すカウンタであり、切上げ・切込み運動挿入間隔ins_tは、切上げ・切込み運動の挿入間隔を示している。
【0028】
補間手段27は、切上げ・切込み運動実行中フラグexec_fを参照し、現在切上げ・切込み運動を実行中であるかどうかを判定する(S501)、現在切上げ・切込み運動の実行中ではない場合、時間カウンタcnt_tのカウントを増加させる(S502)。そして、時間カウンタcnt_tの値が、切上げ・切込み運動挿入間隔ins_tの値よりも小さいか否かを判定し(S503)、小さい場合には旋削加工移動指令に元づく軸制御を継続する(S504)。
【0029】
S503において、時間カウンタcnt_tの値が、切上げ・切込み運動挿入間隔ins_tの値よりも大きい場合には、切上げ・切込み運動実行中フラグexec_fをオンにし(S505)、切上げ・切込み運動挿入指令に基づいて切上げ・切込み運動挿入処理を実行する。その後、切上げ・切込み運動の終了判定を行い(S506)、切上げ・切込み運動がまだ処理していない場合は切上げ・切込み運動実行中フラグexec_fを維持して補間手段27の処理を終了し、切上げ・切込み運動が終了した場合は、切上げ・切込み運動実行中フラグexec_fと時間カウンタcnt_tの値をクリアして、補間手段27の処理を終了する。
【0030】
なお、S501において現在切上げ・切込み運動を実行中であると判定された場合は、切上げ・切込み運動を継続する。
【0031】
このような補間手段27の処理が、数値制御装置10上で繰り返し実行されることで、切削加工移動指令に基づく切削加工動作に対する切上げ・切込み運動挿入処理が実行される。
・・・
【0035】
図7は、加工プログラムに基づいて制御された旋盤加工機械の動作を示す図である。図7において、N04~N09の矢印は、それぞれ図6の加工プログラムの対応するブロックの制御による工具46の軌跡を示している。また、N05,N06の箇所に記載される逆三角の軌跡が、N03ブロックで指令される切上げ・切込み運動時の工具46の軌跡を示している。
【0036】
このように、本実施の形態では、ワーク50への切込み時、切上げ・切込み運動を挿入することでワーク50と工具46に離れる時間が発生するため、切りくずの分断性の向上や工具の効率的な冷却が可能となり、従来の旋削加工で発生していた、切りくずがワーク50を傷つけたり、工具46の冷却が効率よく行われず工具寿命や加工精度が低下したりするといった問題を解決している。」
イ 図面
「【図1】
[図:0001392425000002.jpg]
」
「【図2】
[図:0001392425000003.jpg]
」
「【図3】
[図:0001392425000004.jpg]
」
「【図4】
[図:0001392425000005.jpg]
」
「【図5】
[図:0001392425000006.jpg]
」
「【図7】
[図:0001392425000007.jpg]
」
(2)引用文献2の記載事項の整理
ア 段落【0010】の記載からみて、引用文献2記載の数値制御装置10は、回転しているワーク50に工具46を押し当てて移動させることで前記ワークに旋削加工を行う工作機械を加工プログラムに従って制御するものであることが、認められる。
イ 段落【0026】、及び図4の記載からみて、引用文献2記載の数値制御装置10は、加工プログラムを読みだして旋削加工の解析データを出力するプログラム解析手段26と、加工プログラムに含まれる切上げ・切込み運動動作条件指令ブロックを解析して、切上げ・切込み運動の解析データを作成する切上げ・切込み運動動作条件解析手段28と、切上げ・切込み運動の解析データに基づいて切上げ・切込み運動指令を作成する切上げ・切込み運動挿入手段29と、旋削加工の解析データに基づいて制御軸へ出力するための旋削加工移動指令を作成するとともに、切上げ・切込み運動挿入手段29で作成された切上げ・切込み運動指令を受けてこれらの指令を出力する補間手段27を有するものであることが、認められる。
ウ 段落【0035】、及び図7の記載からみて、引用文献2記載の切削加工は、旋削加工方向に沿って、旋削加工移動指令に基づく旋削加工動作と、切上げ・切込み運動指令に基づく切込み動作及び前記工具46をワーク50の径方向に切上げることにより切屑を分断する切上げ動作と、旋削加工移動指令による前記工具46を直前の前記切上げ動作の開始位置までワーク50と干渉しないようにアプローチさせる動作と、からなるサイクルを、切込み開始点を旋削加工方向に少しずつずらしながら繰り返し実行することにより実行されることが、認められる。
(3)引用発明2
上記(1)、(2)から、引用文献2には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「回転しているワーク50に工具46を押し当てて移動させることで前記ワークに旋削加工を行う工作機械を加工プログラムに従って制御する数値制御装置10であって、
前記加工プログラムを読みだして前記旋削加工の解析データを出力するプログラム解析手段26と、
前記加工プログラムに含まれる切上げ・切込み運動動作条件指令ブロックを解析して、切上げ・切込み運動の解析データを作成する切上げ・切込み運動動作条件解析手段28と、
前記切上げ・切込み運動の解析データに基づいて切上げ・切込み運動指令を作成する切上げ・切込み運動挿入手段29と、
前記旋削加工の解析データに基づいて制御軸へ出力するための旋削加工移動指令を作成するとともに、前記切上げ・切込み運動挿入手段29で作成された前記切上げ・切込み運動指令を受けてこれらの指令を出力する補間手段27と、を有し、
前記旋削加工は、旋削加工方向に沿って、前記旋削加工移動指令に基づく旋削加工動作と、前記切上げ・切込み運動指令に基づく切込み動作及び前記工具46をワーク50の径方向に切上げることにより切屑を分断する切上げ動作と、前記旋削加工移動指令による前記工具46を直前の前記切上げ動作の開始位置まで前記ワーク50と干渉しないようにアプローチさせる動作と、からなるサイクルを、切込み開始点を前記旋削加工方向に少しずつずらしながら繰り返し実行することにより実行される、
数値制御装置10。」
2 本願発明と引用発明2の対比
(1)相当関係
ア 引用発明2の「旋削加工」と本願発明の「ねじ切り加工」を対比すると、「切削加工」という点に限り一致する。
イ 引用発明2の「数値制御装置10」は本願発明の「制御装置」に相当する。
(2)一致点及び相違点
ア 一致点
「回転しているワークに工具を押し当てて移動させることで前記ワークに切削加工を行う工作機械を加工プログラムに従って制御する制御装置であって、
前記加工プログラムを読みだして前記切削加工の解析データを出力するプログラム解析手段と、
前記加工プログラムに含まれる切上げ・切込み運動動作条件指令ブロックを解析して、切上げ・切込み運動の解析データを作成する切上げ・切込み運動動作条件解析手段と、
前記切上げ・切込み運動の解析データに基づいて切上げ・切込み運動指令を作成する切上げ・切込み運動挿入手段と、
前記切削加工の解析データに基づいて制御軸へ出力するための旋削加工移動指令を作成するとともに、前記切上げ・切込み運動挿入手段で作成された前記切上げ・切込み運動指令を受けてこれらの指令を出力する補間手段と、を有し、
前記切削加工は、切削加工方向に沿って、前記旋削加工移動指令に基づく旋削加工動作と、前記切上げ・切込み運動指令に基づく切込み動作及び前記工具をワークの径方向に切上げることにより切屑を分断する切上げ動作と、前記旋削加工移動指令による前記工具を直前の前記切上げ動作の開始位置まで前記ワークと干渉しないようにアプローチさせる動作と、からなるサイクルを、切込み開始点を前記旋削加工方向に少しずつずらしながら繰り返し実行することにより実行される
制御装置。
イ 相違点
(ア)相違点3
上記一致点に係る「切削加工」が、本願発明では「ねじ切り加工」であるのに対して、引用発明2では「旋削加工」である点。
(イ)相違点4
本願発明1の切上げ・切込み運動は、「切上げ動作の開始位置から、1回前の前記切上げ動作の前記工具と前記ワークが離れた位置の軸方向の座標値に達するまでの間の切削量が一定となる経路で、前記切上げ動作を実行する」のに対して、引用発明2は、このような経路で切上げ動作が実行されるか不明である点。
3 相違点の判断
(1)相違点3についての判断
ねじ切り加工は、旋削加工におけるワークの回転速度と工具の軸方向の送り速度を調整して実現できるものであるが、このように、ねじ切り加工を旋削加工により行うことも周知技術(以下、「周知技術4」という。)であって、例えば、引用文献4[特に、段落0015、図1を参照。]、引用文献5[特に、第2頁右上欄第5行-右下欄第3行、第1図を参照。]、引用文献6[特に、第1欄第1欄第36行-第3欄第27行、第1図を参照。]にも記載されているものである。そして旋削加工の範ちゅうにある当該周知技術4を踏まえて、引用文献2に記載された発明の旋削加工をねじ切り加工に適用し、本願発明に想到することは、当業者が容易になし得たことである。
(2)相違点4についての判断
ねじ切り加工において、工具の経路として切削量が一定となるものを選択することは、上記相違点2でも検討した例えば引用文献4[段落【0016】等]、あるいは引用文献6[特許請求の範囲等]にも記載されている周知技術3であって、引用発明2の旋削加工でねじ切りに加工を行うのに、この周知技術3を適用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
4 小括
よって、本願発明は、引用発明2、及び引用文献4-6にも記載された周知技術4、及び引用文献4、6にも記載された周知技術3に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第6 請求人の主張
1 理由Aに関する主張
請求人は、令和4年2月2日提出の意見書(【意見の内容】(3-2))において、本願発明においては、「「ねじ切り加工」のサイクルを切込み開始点をねじ溝切削方向に少しずつずらしながら繰り返す動作として実行する」ものであるのに対して、先願発明1においては、「副経路による繰り返しのネジ切り加工は、旋削工程における切上げを開始する軸方向位置を前の旋削工程による切上げを開始した軸方向位置に対して軸方向に順に変更しながら繰り返す動作が」行われるものである点で相違する旨を指摘し、「先願1の明細書や図面には、副経路の制御動作の開始及び終了をワークの軸方向にずらす点以外の手法については記載又は示唆がないため、当該制御動作がいわゆる「課題解決のための具体化手段における微差」とはいえないとの主張をする。
これに対して、当審は、令和4年6月30日付け審尋の3(1)「上記2(1)の主張に関する点」のイにおいて、「先願1発明は「軸方向に順に変更」する制御により、本願発明と同様に「ねじ溝切削方向に少しずつずらし」ながらねじ切り加工を行っているものと理解する」との見解を示した上で、当審の理解の是非について請求人に回答を求めた。
しかしながら、上記第1のとおり、当該審尋に対して、請求人より本出願について特許を受けることを断念する旨の電話連絡があり、改めて検討しても当審の当該見解は妥当であると認められる。
2 理由Bに関する主張
請求人は、上記1の意見書(【意見の内容】(3-3))において、「引用文献2に記載された発明の「切削方向」は、「ワークの軸方向」(図示上のz方向)となり、「切込み・切上げ運動」は当該z軸を通る平面上の多角形運動あるいは円運動」となることから、「ワークの軸方向で行われるもの」であり、「本願発明のように「ねじ溝切削方向に沿って」行われるもの」ではないことを指摘し、「引用文献2に記載された発明に引用文献4~6の記載に基づく周知技術を適用できたとしても、依然として「切込み・切上げ運動」の方向についての相違点が残る」との主張をする。
これに対して、当審は、上記1の審尋の3(2)「上記2(2)の主張に関する点」において、「本願発明のねじ切り加工は、X方向及びZ方向への工具の制御により行われるものであることも考慮すれば、当審は、本願発明の「切込み・切上げ動作」も、引用文献2の「切込み・切上げ運動」と同様にXZ平面内の運動(2次元平面内の運動)となる点で、両者に差異はないものと理解する」との見解を示した上で、当審の理解の是非について回答を求めた。
しかしながら、上記第1のとおり、当該審尋に対して、請求人より本出願について特許を受けることを断念する旨の電話連絡があり、改めて検討しても上記の当審の見解は妥当であると認められる。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明は先願発明1と同一であるから、請求項2について検討するまでもなく、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
また、本願発明は、引用文献2に記載された発明、及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2020-008687