特許拒絶査定不服審判
2020-007310
核の保存方法
- 審判番号
- 2020-007310
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-528528外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年05月29日
- 審決日
- 2021年09月16日
- 公報発行日
- 2022年03月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】グローバル・ライフ・サイエンシズ・ソリューションズ・オペレーションズ・ユーケー・リミテッド
- 【請求人代理人】飯田 雅人
- 【請求人代理人】崔 允辰
- 【請求人代理人】田中 研二
- 分類
- P18 .121-WZ (C12N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2016-528528「核の保存方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月29日国際公開、WO2015/011203、平成28年 8月22日国内公表、特表2016-524921〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成26年7月23日(パリ条約による優先権主張 平成25年7月23日 英国)を国際出願日とする出願であって、令和2年1月28日に拒絶査定がなされ、同年5月29日に拒絶査定不服審判が請求され、令和3年4月13日付けで当審より拒絶理由が通知され、同年7月16日付けで意見書および手続補正書が提出されたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1~9に係る発明は、令和3年7月16日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定されるものであり、そのうち本願の請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
細胞核を保存するための方法であって、
i)細胞サンプル中に存在する細胞質膜及び核膜の一部分を選択的に溶解して、大部分の
無傷の細胞核を残す工程と、
ii)細胞サンプルを固体支持体上に回収する工程と、
iii)固体支持体を洗浄する工程と、
iv)固体支持体を乾燥する工程と、
v)固体支持体上の無傷核を10℃から30℃の周囲温度で保存する工程と
を含む、方法。」
第3 当審で通知した拒絶理由の概要
当審で通知した拒絶理由は、この出願の請求項1~9に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
(刊行物)
1.特開平6-315374号公報
第4 当審の判断
1.引用例1の記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平6-315374号公報(以下、「引用例1」という)には、次の記載がある。
(1)「【請求項1】 a)細胞核の大部分を無傷で残しながら、核膜の一部と一緒に細胞質膜を選択的に溶解するように全細胞を含む液体を処理し、
b)処理液を表面にのせ、それによりその表面に溶解核からのDNAのメッシュが形成され無傷の細胞核が捕捉される、
c)細胞の他の成分から捕捉された細胞核を分離するために表面上のDNAメッシュを洗浄することからなる細胞の成分の分離法。」(特許請求の範囲)
(2)「【0035】処理液は次に表面にのせられる。全て、またはより普通には一部、の溶解核からのDNAがメッシュを形成し、それは表面と接触して残り無傷の細胞核を捕捉する。表面は好適には透過性膜の形であり、即ち、その膜を通して処理液が通過させられる。織または不織繊維または単繊維の膜が好適である。しかしながら、フィルター製造のトラックエッチ法または他の方法もまた適している。もしくは、固形シートも使用できる。この選択は特定の適用例に依存している。種々の孔径の膜もまた適している、より大きな孔径はDNAメッシュの付着のための位置が少ないので、夾雑物の除去はより容易になるが核の保持は悪くなる。
【0036】DNAのメッシュが表面と接触して残っていることを確かめるために種々の手段が利用できる。好適には表面はDNAと結合できる(例えば化学的相互作用により)材料からできている。プラスチック材料へのDNAの結合は複雑であり、これらの現象の種々の組み合わせを含んでいる。例えば高度に荷電されたポリマー表面は荷電相互作用を好むであろうし、一方荷電されていないポリマー表面は疎水的結合を好むであろう。表面が透過性膜である場合、DNAメッシュは膜の上、または、孔中または孔の開き口に物理的に捕捉される。もしくは、好ましくはないが、核捕捉性を持たない表面の使用も可能である、例えばDNAメッシュを二つの透過性膜間にサンドイッチにすることができる。」
(3)「【0049】DNAおよび/または核はまた乾燥、凍結乾燥またはー20またはそれ以下で凍結することにより膜上で長期間貯蔵できる。短期間の貯蔵のためには、それらは4℃に維持される。」
2.引用発明
上記1.(1)より、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「a)細胞核の大部分を無傷で残しながら、核膜の一部と一緒に細胞質膜を選択的に溶解するように全細胞を含む液体を処理し、
b)処理液を表面にのせ、それによりその表面に溶解核からのDNAのメッシュが形成され無傷の細胞核が捕捉される、
c)細胞の他の成分から捕捉された細胞核を分離するために表面上のDNAメッシュを洗浄することからなる細胞の成分の分離法。」
3.対比
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)と引用発明を対比する。
引用発明の「全細胞を含む液体」は、本願発明の「細胞サンプル」に相当し、引用発明の「表面」は、上記1.(2)の記載からみて本願発明の「固体支持体」に相当すると認められるから、引用発明の「a)細胞核の大部分を無傷で残しながら、核膜の一部と一緒に細胞質膜を選択的に溶解するように全細胞を含む液体を処理」する工程は、本願発明の「i)細胞サンプル中に存在する細胞質膜及び核膜の一部分を選択的に溶解して、大部分の無傷の細胞核を残す工程」に相当し、引用発明の「b)処理液を表面にのせ、それによりその表面に溶解核からのDNAのメッシュが形成され無傷の細胞核が捕捉される」工程は、本願発明の「ii)細胞サンプルを固体支持体上に回収する工程」に相当し、引用発明の「c)細胞の他の成分から捕捉された細胞核を分離するために表面上のDNAメッシュを洗浄する」工程は、本願発明の「iii)固体支持体を洗浄する工程」に相当すると認められる。
また、引用発明の「細胞の成分の分離法」は、本願発明の「細胞核を保存するための方法」におけるi)~iii)までの工程からなる「細胞核を処理する方法」である点で共通すると認められる。
したがって、両者は、
「細胞核を処理する方法であって、
i)細胞サンプル中に存在する細胞質膜及び核膜の一部分を選択的に溶解して、大部分の無傷の細胞核を残す工程と、
ii)細胞サンプルを固体支持体上に回収する工程と、
iii)固体支持体を洗浄する工程と、
を含む、方法。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点)
本願発明は、「細胞核を保存するための方法」であり、
「iv)固体支持体を乾燥する工程と、
v)固体支持体上の無傷核を10℃から30℃の周囲温度で保存する工程」を含むことが特定されているのに対して、引用発明は「細胞の成分の分離法」である点。
4.相違点についての判断
引用例1の段落【0049】には「DNAおよび/または核はまた乾燥、凍結乾燥またはー20またはそれ以下で凍結することにより膜上で長期間貯蔵できる。短期間の貯蔵のためには、それらは4℃に維持される。」と記載されており、引用発明により分離された無傷の細胞核について、長期保存するために乾燥すること、凍結乾燥すること、また、-20℃またはそれ以下で凍結すること、短期保存するために4℃で冷蔵することが示されていると認められる。ここで、乾燥、凍結乾燥物の保存温度について明記はないが、常温での保存を意味すると解され、実際、乾燥させた生体成分を周囲温度のような常温で保存することは当業者にとって常套手段であり、10~30℃は常温と呼ばれる温度と相違するとはいえない。
そうすると、引用発明により分離された無傷の細胞核を長期保存すること、そのために、表面上のDNAメッシュに捕捉された状態の細胞核を表面と共に乾燥し、細胞核を表面と共に常温で保存すること、すなわち、引用発明においてさらに「iv)固体支持体を乾燥する工程と、
v)固体支持体上の無傷核を10℃から30℃の周囲温度で保存する工程」とを行う「細胞核を保存するための方法」とすることは、当業者が容易になし得ることである。
そして、本願発明において、引用例1の記載から予測できない効果が奏されたとも認められない。
したがって、本願発明は引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
5.審判請求人の主張について
審判請求人は令和3年7月16日付け意見書において、
「引用例1には、DNAおよび/または核を、乾燥状態で4℃に維持し、短期間の貯蔵を行うことが記載されております。この「4℃」という貯蔵温度は、本願発明において無傷核を保存するための、「10℃から30℃の周囲温度」とは明確に異なります。
そして、引用例1に開示された「4℃」という温度は、一般的には「低温」もしくは「冷蔵温度」と呼ばれるものであり、「周辺温度」とは明らかに異なるものであることは当業者にとり明らかであります。すなわち、引用例1における、乾燥状態で4℃に維持し短期間の貯蔵を行うという記載は、「周辺温度」で保存すること、ましてや本願発明のように10℃から30℃に特定される「周辺温度」で保存することを示唆するものではありません。」と主張している。
しかし、引用例1の段落【0049】の「DNAおよび/または核はまた乾燥、凍結乾燥またはー20またはそれ以下で凍結することにより膜上で長期間貯蔵できる。短期間の貯蔵のためには、それらは4℃に維持される。」と記載され、前記“それら”はDNAおよび/または核を指すと認められるから、この記載は、DNAおよび/または核の貯蔵について、
長期間貯蔵の場合 : 乾燥、凍結乾燥、凍結
短期間貯蔵の場合 : 4℃に維持
とすることが示されていると認められる。
したがって、引用例1に「DNAおよび/または核」を「乾燥状態で4℃に維持」する「短期間の貯蔵」が記載されているとする審判請求人の主張は誤りである。
第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるであるから、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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