特許拒絶査定不服審判
2021-011406
RNAウイルスの採取装置および方法
- 審判番号
- 2021-011406
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-525415外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年08月26日
- 審決日
- 2022年09月14日
- 公報発行日
- 2023年03月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】グローバル・ライフ・サイエンシズ・ソリューションズ・オペレーションズ・ユーケー・リミテッド
- 【請求人代理人】飯田 雅人
- 【請求人代理人】崔 允辰
- 【請求人代理人】田中 研二
- 分類
- P18 .121-Z (C12N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第6項、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-525415「RNAウイルスの採取装置および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 5月26日国際公開、WO2017/084970、平成31年 1月24日国内公表、特表2019-501640〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成28年11月11日(パリ条約による優先権主張 2015年11月19日 米国)を国際出願日とする出願であって、令和3年4月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、令和3年8月26日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに手続補正がなされ、令和4年2月28日に上申書が提出されたものである。
第2 令和3年8月26日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和3年8月26日付の手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1の
「【請求項1】
RNAウイルスを含有する生物学的試料の不活化および乾燥保存の方法であって、前記方法が、
組成物が組み込まれた不溶性の乾燥固体マトリックスを提供することであって、前記組成物が、少なくとも1つのタンパク質変性剤、乾燥状態でその中に含浸された少なくとも1つの酸または酸性滴定された緩衝液試薬を含む、提供すること、
前記生物学的試料を前記乾燥固体マトリックスと接触させて、前記生物学的試料の細胞を効果的に溶解させ、無傷の状態で前記RNAを保存すること、
前記固体マトリックス上で前記生物学的試料を乾燥させること、および
周囲条件下で乾燥状態の前記固体マトリックス上に前記生物学的試料を保存することであって、前記試料が感染性ではなく、その中の前記RNAが、無傷の状態に維持される、
保存すること
を含み、
前記酸が、酢酸、クエン酸、酒石酸、リン酸、塩酸、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン-塩酸(TCEP-HCl)、酸化トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン-塩酸(TCEP-O-HCl)、硫酸、硝酸、バニリン酸、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸またはそれらの組合せを含む、方法。」(以下、「本願発明」という。)
を、
「【請求項1】
RNAウイルスを含有する生物学的試料の不活化および乾燥保存の方法であって、前記方法が、
組成物が組み込まれた不溶性の乾燥固体マトリックスを提供することであって、前記組成物が、少なくとも1つのタンパク質変性剤、乾燥状態でその中に含浸された少なくとも1つの酸または酸性滴定された緩衝液試薬を含む、提供すること、
前記生物学的試料を前記乾燥固体マトリックスと接触させて、前記生物学的試料の細胞を効果的に溶解させ、無傷の状態で前記RNAを保存する、接触させること、
前記固体マトリックス上で前記生物学的試料を乾燥させること、および
周囲条件下で乾燥状態の前記固体マトリックス上に前記生物学的試料を保存することであって、前記試料が、感染性ではなく、その中の前記RNAが、無傷の状態に維持される、保存すること
を含み、
前記酸が、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン-塩酸(TCEP-HCl)である、方法。」(以下、「本願補正発明」という。)
とする補正を含むものである。
2 補正の適否
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1における「酸」の種類を限定する補正を含むものであるから、特許法第17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するかどうか)について以下に検討する。
(1)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である米国特許出願公開第2013/0338351号明細書(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。(なお、英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。下線は当審にて付加した。)
(ア) 「技術分野
[0002] 本発明は、生体試料から核酸を乾燥した様式で常温抽出・安定化するための固体基材および方法に関するものである。」
(イ) 「[0024] 試料からの核酸の抽出及び保存のための固体マトリックスは、1以上の酸又は酸滴定緩衝液及びタンパク質変性剤を乾燥状態で含む。・・・用語「固体マトリックス」は、本明細書では、非溶解性なマトリックスを指す。マトリックスは、マトリックス材料を可溶化することなく、核酸の収集、抽出及び保存を可能にする。」
(ウ) 「[0037] マトリックスの実施形態は、酸又は酸滴定緩衝剤を乾燥状態で含み、これは、核酸の抽出中に再水和され得る。酸の例は、酢酸、クエン酸、酒石酸、リン酸、塩酸、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン-塩酸(TCEP-HCl)、酸化トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン-塩酸(TCEP-O-HCl)、硫酸、硝酸、バニリン酸、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸又はそれらの組合せを包含するがこれらに限定されない。」
(エ) 「[0041] 抽出核酸は、リボ核酸(RNA)、デオキシリボ核酸(DNA)又はそれらの組合せを含む。一実施形態では、抽出核酸はRNAを含む。RNAは、mRNA、tRNA、rRNA、スモールRNA、siRNA、miRNA、非コードRNA、動物RNA、植物RNA、ウイルスRNA又は細菌RNAであってよい。
(オ) 「[0042] マトリックスは、実質的に無傷の状態で、周囲温度で乾燥した様式で核酸を保存するように構成されている。」
(カ) 「実施例2
TCEP-Oでコーティングされた乾燥マトリックスにおける還元活性の喪失の確認
[0051]
紙試料は、単純なディップコーティングプロセスを使用し、TCEP又はTCEP-Oを含有する溶液中で調製した。簡潔に述べると、コーティング溶液は、表Iにおいて記載されている通りに調製した。対照試料である25-1は最終溶液のpHが3.5となったため、他のすべての試料はHClでpH3.5に調整された。31-ETFセルロース紙を各コーティング溶液に浸漬し、完全飽和後、紙をニップローラに通して、過剰な溶液を除去した。次いで、紙試料をオーブン内で乾燥させ、乾燥剤とともにマイラーホイルバッグ内に梱包し、使用するまで4℃で保存した。
表I TCEPまたはTCEP-Oを含有する紙試料の調整
[図:0001394502000001.jpg]
[0052] 試料調製後、DTNB比色分析アッセイを使用して、紙の還元活性を分析した。1mM DTNB希釈標準溶液を、水中2.5mMストック溶液からPBS中で調製した。試料穿孔部(直径3mm)を表Iにおいて記載されている各紙から抜き、5mLのDTNB希釈標準溶液に浸し、30分間振とうした。次いで、得られた溶液中のTNB(チオビス-(2-ニトロ安息香酸)を、412nmのUV吸光度によって測定し、これを図2に明記する。TCEP-Oを含有する試料25-3及び27-6は、DTNBからTNBへの還元を示さず、還元力の損失を示していた。TCEPを含有する試料25-1及び27-5は、DTNB比色分析アッセイを使用して、DTNBをTNBに変換することにより、強い還元活性を示す。これらの結果は、実施例1における先のNMR分析を確認するものであった。」
(キ) 「実施例3
乾燥血斑からのRNA安定性分析
[0053] 表Iにおいて記載されている通りの実施例2からの試料に、全血で斑点を付け、室温でRNAを安定させる能力について試験した。50μLのラット全血を試験動物の尾静脈から収集し、試料25-1、25-3、27-5及び27-6に斑点を付けた。血斑を風乾させ、湿度を制御(約20%RH)下、周囲室温で5日(25-1、25-3)又は12日(27-5、27-6)間保存した。ベータ-メルカプトエタノールで強化されたRLT溶解緩衝液(キアゲン)を使用して7mmの中心穿孔部からRNAを抽出し、従来のシリカ膜スピンカラムを使用し、当技術分野において公知のプロトコール(例えば、キアゲンQIAamp RNA血液キット)に従って精製した。精製RNAを、ヌクレアーゼフリー水を用いてスピンカラムから溶出し、試料のそれぞれについてのRINを、RNA6000ピコラボチップスを使用するアジレント2100バイオアナライザで測定した。慣例により、6超のRINは高品質RNAを示すものであり、RT-PCR又はマイクロアレイ用途等の定量的ダウンストリーム分析に非常に望ましい。
[0054] 前述した通り、RIN値は、表1に収載されている各組成物について、RNA6000ピコラボチップスを使用するアジレント2100バイオアナライザによって決定し、データを図3に示す。予想外にも、TCEP-Oを含有する試料は、TCEPを含有するものに匹敵するRNA整合性を提供した。RINスコアは、TCEP(試料25-1、27-5)の存在下で、完全に酸化されたTCEP(試料25-3、27-6)のスコアよりもわずかに高いだけであった。この現象は酸性pHに依存し得るものであり、なぜなら、TCEP-HClを含有する対照製剤25-1の自然なpH終点を複製するために、すべての試料を、3.5の最終pHに滴定されたコーティング溶液から調製したからである。」
(ク) 「[0060] 本発明の特定の特徴のみを本明細書で図示し、説明したが、当業者には多くの修正および変更が生じるであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の範囲内に入るようなすべてのそのような修正および変更をカバーすることを意図していることが理解されるものである。
1.固体マトリックスであって;
1種以上のタンパク質変性剤と、
当該マトリックスに乾燥状態で含浸した1種以上の酸又は酸滴定緩衝剤とを含んでおり、
当該マトリックスが、水和時に酸性pHをもたらし、試料から核酸を抽出し、周囲温度において核酸を実質的に乾燥状態で保存するように構成された、マトリックス。
・・・
24.試料から核酸を抽出及び保存する方法であって:
タンパク質変性剤及び酸又は酸滴定緩衝剤を含む乾燥固体マトリックス上の試料を用意するステップと、
水和によって試料から核酸を抽出するための酸性pHを生じさせるステップと、
抽出核酸を含むマトリックスを乾燥させるステップと、
周囲温度においてマトリックス上の抽出核酸を実質的に乾燥した形態で保存するステップ
とを含む、方法。
・・・
28.試料が生物学的試料である、請求項24に記載の方法。
・・・
32.抽出核酸がRNAを含む、請求項24に記載の方法。
・・・
42.酸が、酢酸、クエン酸、酒石酸、リン酸、塩酸、TCEP-HCl、TCEP-O-HCl、硫酸、硝酸、バニリン酸、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸又はそれらの組合せを含む、請求項24に記載の方法。」
(ケ) 「
[図:0001394502000002.jpg]
」
イ 引用文献2
原査定の拒絶の理由で引用された、本願優先日前に頒布された刊行物であるLancet Infect.Dis., 2015, Vol.15, Issue 9, p.1005(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。(なお、英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。下線は当審にて付加した。)
「インドや西アフリカの医療施設は、訓練された人材もインフラも不十分であるため、エボラウイルス病の診断に乾燥血液スポットを使用すれば、検体を安全に輸送することができ、瀉血の専門家も不要になる。乾燥血液スポットの使用は、様々なウイルス感染症の診断と監視のための有望な代替方法であり、フィールド環境において指刺し、検体から調製することができる。乾燥2時間後に集めた乾燥血液スポットは、コールドチェーンを維持することなく、ジップロック・プラスチックバッグに入れて簡単に出荷することができる。乾燥によりろ紙上のウイルスは感染力を失うため、血液サンプルのバイオハザードのリスクは最小化される。FTAカードのような化学的に調製されたカードの進歩は、乾燥血液スポットの取り扱いと検査室への輸送の安全性を高める。ウイルスの核酸、抗体、抗原は室温で2週間は安定である。」(第1005頁中欄第6~29行)
ウ 引用文献3
原査定の拒絶の理由で引用された、本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるAvian Dis., 2012, Vol.56, pp.200-207(以下、「引用文献3」という。)には、次の事項が記載されている。(なお、英語で記載されているので、当審による翻訳文で示す。下線は当審にて付加した。)
「FTAカードが野鳥試料からのAI(鳥インフルエンザ)ウイルスの分子検出に使用できることを実証した。FTAカードはCL(総排出腔)サンプルに最も有効であり、OP(口腔咽頭)サンプルにはより限定的な有効性であった。FTAカードの使用にあたっては、滅菌済み綿棒を使用して肛門を拭き取り、糞便をFTAカードのサンプリングエリアに薄く塗布することが必要である。保管や輸送の際には、接種したカードを紙袋やビニール袋に入れることができるが、湿気によるRNAの分解を抑えるために乾燥剤を入れることが望ましい。糞便材料に存在する感染性物質は24時間以内に不活性化されるはずで、サンプル輸送に伴うリスクと制約を軽減することができる。」(第206頁左欄第50~61行)
(2)引用発明
引用文献1は、生体試料から核酸を乾燥した様式で常温抽出・安定化するための固体基材および方法の発明を開示する明細書であって(摘記ア(ア))、特許請求の範囲に記載された発明(摘記ア(ク))の具体例として、タンパク質変性剤としてのチオシアン酸グアニジン(GuSCN)及び酸滴定緩衝剤としてのTCEP-HClを含む乾燥固体マトリックスを用いて、血液試料からRNAを抽出及び保存したことが記載されている(実施例2及び3の試料25-1。摘記ア(カ)、(キ)、(ケ))。
したがって、引用文献1には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。
「血液試料からRNAを抽出及び保存する方法であって、
タンパク質変性剤としてのチオシアン酸グアニジン(GuSCN)及び酸(滴定緩衝剤)としてのTCEP-HClを含む乾燥固体マトリックス上の血液試料を用意するステップと、
水和によって血液試料からRNAを抽出するための酸性pHを生じさせるステップと、
抽出RNAを含むマトリックスを乾燥させるステップと、
周囲温度においてマトリックス上の抽出RNAを実質的に乾燥した形式で保存するステップとを含む、方法。」(以下、「引用発明」という。)
(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「乾燥固体マトリックス」は、「タンパク質変性剤としてのチオシアン酸グアニジン(GuSCN)及び酸(滴定緩衝剤)としてのTCEP-HCl」を含んでおり(摘記ア(ウ))、非溶解性のものであるから(摘記ア(イ))、本願補正発明の「組成物が組み込まれた不溶性の乾燥固体マトリックス」であり、「前記組成物が、少なくとも1つのタンパク質変性剤、乾燥状態でその中に含浸された少なくとも1つの酸または酸性滴定された緩衝液試薬を含む」、「前記酸が、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン-塩酸(TCEP-HCl)である」ものに該当する。また、引用発明の「乾燥固体マトリックス」は実質的に無傷の状態で、周囲温度で乾燥した形式で核酸を保存するように構成されているものであるから(摘記ア(オ))、引用発明の「乾燥固体マトリックス上の血液試料を用意するステップと、水和によって血液試料からRNAを抽出するための酸性pHを生じさせるステップ」は、本願補正発明の「前記生物学的試料を前記乾燥固体マトリックスと接触させて、前記生物学的試料の細胞を効果的に溶解させ、無傷の状態で前記RNAを保存する、接触させること」に該当し、引用発明の「保存」は、本願補正発明と同様に「前記RNAが、無傷の状態に維持される」ものであると認められる。
したがって、本願補正発明と引用発明とは、
「RNAを含有する生物学的試料の乾燥保存の方法であって、前記方法が、
組成物が組み込まれた不溶性の乾燥固体マトリックスを提供することであって、前記組成物が、少なくとも1つのタンパク質変性剤、乾燥状態でその中に含浸された少なくとも1つの酸または酸性滴定された緩衝液試薬を含む、提供すること、
前記生物学的試料を前記乾燥固体マトリックスと接触させて、前記生物学的試料の細胞を効果的に溶解させ、無傷の状態で前記RNAを保存する、接触させること、
前記固体マトリックス上で前記生物学的試料を乾燥させること、および
周囲条件下で乾燥状態の前記固体マトリックス上に前記生物学的試料を保存することであって、前記試料の中の前記RNAが、無傷の状態に維持される、保存すること
を含み、
前記酸が、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン-塩酸(TCEP-HCl)である、方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点)
本願補正発明では、生物学的試料が「RNAウイルスを含有する」ものであり、固体マトリックス上に保存された当該生物学的試料が「不活化」され、「感染性ではなく」なっていることが特定されているのに対して、引用発明ではこれらの事項が特定されていない点。
(4)判断
上記相違点について検討すると、引用文献1には、固体マトリックス上で乾燥保存させる核酸の例として、ウイルスRNAが記載されている(摘記ア(エ))。また、FTAカードのような固体マトリックス上で乾燥保存した生物学的試料からRNAウイルスの核酸すなわちRNAを検出することにより、ウイルス感染を検知すること(周知事項1)や、FTAカードのような固体マトリックス上で乾燥されたウイルスが不活化され感染性ではなくなること(周知事項2)は、例えば、原査定の理由で引用した引用文献2(摘記イ)及び引用文献3(摘記ウ)に記載されているとおり、本願優先日前、周知である。
このとおり、固体マトリックス上でウイルスRNAを乾燥保存することが
引用文献1にも例示されたうえ、周知(周知事項1)でもある以上、引用発明の生物学的試料をRNAウイルスを含有するものとすることは、当業者が容易に想到し得ることといわざるを得ない。そして、固体マトリックス上で乾燥されたウイルスが不活化して感染性ではなくなることは、引用発明の生物学的試料をRNAウイルスを含有するものとすることで必然的に生じる周知(周知事項2)の結果にすぎないと認められる。
したがって、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
なお、令和4年2月28日提出の上申書において、請求人は、本願補正発明は実質的に実施例の開示にまで限定されている旨主張するが、本願補正発明は「RNAウイルス」や「タンパク質変性剤」の種類は限定されておらず、実施例(「RNAウイルス」がエボラウイルス、「タンパク質変性剤」がGuSCN)の開示にまで限定されているとは認めらないから、前提において失当である。
もっとも、引用文献1に記載された引用発明は、「タンパク質変性剤としてのチオシアン酸グアニジン(GuSCN)及び酸(滴定緩衝剤)としてのTCEP-HCl」を含んでいる点で、本願実施例と等しいものである。また、本願実施例のエボラウイルスは周知のRNAウイルスであって(例えば、引用文献2)、固体マトリックス上で乾燥されると不活性化して感染性でなくなることは、上記周知事項2から予測し得る範囲内のことである。よって、本願実施例についても進歩性を認めることはできない。
(5)むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
第3 本願発明について
令和3年8月26日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、令和2年11月25日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、上記第2の1に「本願発明」として記載したとおりのものである。
そして、本願発明は、「酸」として、「トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン-塩酸(TCEP-HCl)」に加えてそれ以外の選択肢をも含むものであるから、本願発明は本願補正発明を包含するものであることが明らかである。
上記第2の2で述べたとおり、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明を包含する本願発明も同様に、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-011406