2020-006220
遺伝子編集用のCAS多様体
- 審判番号
- 2020-006220
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-539218外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年05月07日
- 審決日
- 2022年06月09日
- 公報発行日
- 2022年11月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】プレジデント アンド フェローズ オブ ハーバード カレッジ
- 【請求人代理人】葛和 清司
- 分類
- P18 .121-WZ (C12N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 7項目
第1 手続の経緯
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本願は、平成26年12月12日(パリ条約による優先権主張 2013年12月12日 米国、パリ条約による優先権主張 2014年4月16日 米国、パリ条約による優先権主張 2014年7月8日 米国、パリ条約による優先権主張 2014年7月8日 米国、パリ条約による優先権主張 2014年7月8日 米国、パリ条約による優先権主張 2014年7月8日 米国、パリ条約による優先権主張 2014年7月8日 米国、パリ条約による優先権主張 2014年7月8日 米国、パリ条約による優先権主張 2014年7月8日 米国)を国際出願日とする出願であって、令和1年12月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し令和2年5月7日に拒絶査定不服審判が請求され、令和3年10月28日付けで当審より拒絶理由が通知され、令和4年5月2日に手続補正がなされたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、令和4年5月2日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】(i)Cas9ドメインと、(ii)デアミナーゼドメインとを含む、標的DNA分子の標的シトシン(C)を脱アミノ化する融合タンパク質であって、これによって標的シトシン(C)をチミン(T)に変換する;ここでデアミナーゼドメインが、Cas9ドメインのN末端またはC末端にリンカーにより融合している;ここでCas9ドメインが、配列番号2(野生型Cas9)、配列番号4(ニッカーゼCas9)、または配列番号37(失活型Cas9)のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む;ならびにここでCas9ドメインが、Cas9ヌクレアーゼ活性を不活化する1以上の変異を、RuvC1サブドメイン内および/またはHNHサブドメイン内に含む、前記融合タンパク質。」(以下、「本願発明」という。)
第3 当審における拒絶理由2の概要
本願発明は、本願の優先権主張の日(以下、「本願優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された融合タンパク質に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第4 当審の判断
1 引用文献1の記載事項
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当審の拒絶の理由で引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である引用文献1には、次の事項が記載されている。なお、下記摘記事項は、引用文献1のファミリーである特表2015-523856号公報の記載に基づく。また、下線及び図54Bにおける枠線は当審で付与したものである。
(1) 「【請求項18】(i)標的DNA内の配列に対し相補的なヌクレオチド配列を含むDNA標的化RNAと相互作用するRNA結合部位;および(ii)部位特異的酵素活性を示す活性部位であって、酵素活性の部位が前記DNA標的化RNAによって決定される、活性部位を含む、キメラ部位特異的修飾ポリペプチド。続きを表示(全24行)【請求項19】図3に示されるCas9/Csn1アミノ酸配列のアミノ酸7~166もしくは731~1003に対して、または配列番号1~256および795~1346として記載されるアミノ酸配列のうちのいずれかにおける対応部分に対して、少なくとも約75%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項18に記載のキメラ部位特異的修飾ポリペプチド【請求項20】前記DNA標的化RNAが、配列番号563~682に記載のヌクレオチド配列のうちのいずれか1つに対して、一連の少なくとも8個の連続ヌクレオチドにわたって少なくとも60%の同一性を有するヌクレオチド配列をさらに含む、請求項18に記載のキメラ部位特異的修飾ポリペプチド。【請求項21】前記DNA標的化RNAが、配列番号431~562に記載のヌクレオチド配列のうちのいずれか1つに対して、一連の少なくとも8個の連続ヌクレオチドにわたって少なくとも60%の同一性を有するヌクレオチド配列をさらに含む、請求項18に記載のキメラ部位特異的修飾ポリペプチド。【請求項22】前記酵素活性が前記標的DNAを修飾する、請求項18に記載のキメラ部位特異的修飾ポリペプチド。【請求項23】前記酵素活性が、ヌクレアーゼ活性、メチルトランスフェラーゼ活性、脱メチル化酵素活性、DNA修復活性、DNA損傷活性、脱アミノ化活性、ジスムターゼ活性、アルキル化活性、脱プリン活性、酸化活性、ピリミジンダイマー形成活性、インテグラーゼ活性、トランスポサーゼ活性、リコンビナーゼ活性、ポリメラーゼ活性、リガーゼ活性、ヘリカーゼ活性、光回復酵素活性またはグリコシラーゼ活性である、請求項22に記載のキメラ部位特異的修飾ポリペプチド。【請求項24】前記酵素活性がヌクレアーゼ活性である、請求項23に記載のキメラ部位特異的修飾ポリペプチド。【請求項25】前記ヌクレアーゼ活性が前記標的DNA内で二重鎖切断を引き起こす、請求項24に記載のキメラ部位特異的修飾ポリペプチド。【請求項26】前記酵素活性が前記標的DNAと結合した標的ポリペプチドを修飾する、請求項18に記載のキメラ部位特異的修飾ポリペプチド。【請求項27】前記酵素活性が、メチルトランスフェラーゼ活性、脱メチル化酵素活性、アセチルトランスフェラーゼ活性、脱アセチル化酵素活性、キナーゼ活性、ホスファターゼ活性、ユビキチンリガーゼ活性、脱ユビキチン化活性、アデニル化活性、脱アデニル化活性、SUMO化活性、脱SUMO化活性、リボシル化活性、脱リボシル化活性、ミリストイル化活性または脱ミリストイル化活性である、請求項26に記載のキメラ部位特異的修飾ポリペプチド。【請求項28】前記標的ポリペプチドがヒストンであり、前記酵素活性がメチルトランスフェラーゼ活性、脱メチル化酵素活性、アセチルトランスフェラーゼ活性、脱アセチル化酵素活性、キナーゼ活性、ホスファターゼ活性、ユビキチンリガーゼ活性または脱ユビキチン化活性である、請求項26に記載のキメラ部位特異的修飾ポリペプチド。」
(2) 「【図面の簡単な説明】【0033】・・・【図3B】ストレプトコッカス・ピオゲネス(配列番号8)のCas9/Csn1タンパク質のアミノ酸配列を示す。Cas9は、HNHおよびRuvCエンドヌクレアーゼの双方と相同であるドメインを有する。ドメイン1および2に上線が引かれる。続きを表示(全11行)・・・【図9】二つの種からの例示tracrRNA(活性化RNA)およびcrRNA(標的化RNA)配列を示す。ある程度の互換性が存在する;たとえば、S.ピオゲネスCas9/Csn1タンパク質はL.イノキュア由来のtracrRNAおよびcrRNAと機能する。「|」は、標準的なワトソン‐クリック塩基対を表し、一方で、「・」はG‐Uゆらぎ塩基対を表す。「可変20nt」または「20nt」は標的DNAに相補的なDNA標的断片を意味する(この領域は長さが最大約100ntであり得る)。また、標的化RNAおよび活性化RNAの特色を組み込む単一分子DNA標的化RNAの設計も示される(幅広い種類の種からのCas9/Csn1タンパク質配列が図3で示され、配列番号1~256および795~1346として示される)。ストレプトコッカス・ピオゲネス:上から下:(配列番号//、//、//);リステリア・イノキュア:上から下:(配列番号//、//、//)。提供される配列は、非制限的な例であり、単一分子DNA標的化RNAおよび二分子DNA標的化RNAが、幅広い種類の種からの天然に存在する配列を基に、どのように設計され得るかを図示することを目的とする。幅広い種類の種からの適切な配列の様々な例が次のように示される(Cas9タンパク質:配列番号1~259;tracrRNA:配列番号431~562、またはそれらの補体;crRNA:配列番号563~679、またはそれらの補体;および例示単一分子DNA標的化RNA:配列番号680~682)。・・・【図53】図53A~Cは、変異形Cas9部位特異的ポリペプチド(dCas9)が、dCas9がRuvC1ドメインのみ(たとえば、D10A)、HNHドメインのみ(たとえば、H840A)、または双方のドメイン(たとえば、D10AおよびH840A)で活性を低下させる場合、対象方法のための機構であることを示す実験結果である。【図54A】対象変異形Cas9部位特異的ポリペプチドのための適切な融合パートナー(またはそれらの断片)の例を列挙する。例には列挙されたものが含まれるが、これらに限定されない。【図54B】同上。【図54C】同上。」
(3) 「【0175】活性部位RNA結合部位に加えて、キメラ部位特異的修飾ポリペプチドは「活性部位」を含む。いくつかの実施形態において、主題のキメラ部位特異的修飾ポリペプチドの活性部位は、部位特異的修飾ポリペプチド(例えば、Cas9/Csn1エンドヌクレアーゼ)の自然発生的な活性部位を含む。他の実施形態では、主題のキメラ部位特異的修飾ポリペプチドの活性部位は、部位特異的修飾ポリペプチドの自然発生的な活性部位の修飾されたアミノ酸配列(例えば、置換、欠失、挿入)を含む。目的の自然発生的な活性部位は、当該技術分野において公知の部位特異的修飾ポリペプチドに由来する。例えば、配列番号1~256および795~1346は、部位特異的修飾ポリペプチドとして用いることができる自然発生的なCas9/Csn1エンドヌクレアーゼの非限定的且つ非網羅的な列挙を提供する。主題のキメラ部位特異的修飾ポリペプチドの活性部位は可変であり、本明細書で開示される方法に有用であり得るいずれの異種ポリペプチド配列を含んでいてもよい。【0176】続きを表示(全31行)いくつかの実施形態において、主題のキメラ部位特異的修飾ポリペプチドは、(i)標的DNA内の配列に対し相補的なヌクレオチド配列を含むDNA標的化RNAと相互作用 するRNA結合部位;および(ii)部位特異的酵素活性を示す活性部位(例えば、DNAメチル化活性、DNA切断活性、ヒストンアセチル化活性、ヒストンメチル化活性等)を含み、酵素活性の部位はDNA標的化RNAによって決定される。【0177】他の実施形態では、主題のキメラ部位特異的修飾ポリペプチドは、(i)標的DNA内の配列に対し相補的なヌクレオチド配列を含むDNA標的化RNAと相互作用するRNA結合部位;および(ii)標的DNA内の転写を調節する活性部位(例えば、転写を増加または減少させるための)を含み、標的DNA内の調節される転写の部位はDNA標的化RNAによって決定される。【0178】いくつかの例において、主題のキメラ部位特異的修飾ポリペプチドの活性部位は、標的DNAを修飾する酵素活性(例えば、ヌクレアーゼ活性、メチルトランスフェラーゼ活性 、脱メチル化酵素活性、DNA修復活性、DNA損傷活性、脱アミノ化活性、ジスムターゼ活性、アルキル化活性、脱プリン活性、酸化活性、ピリミジンダイマー形成活性、インテグラーゼ活性、トランスポサーゼ活性、リコンビナーゼ活性、ポリメラーゼ活性、リガーゼ活性、ヘリカーゼ活性、光回復酵素活性またはグリコシラーゼ活性)を有する。【0179】他の例において、主題のキメラ部位特異的修飾ポリペプチドの活性部位は、標的DNAと結合したポリペプチド(例えば、ヒストン)を修飾する酵素活性(例えば、メチルトランスフェラーゼ活性、脱メチル化酵素活性、アセチルトランスフェラーゼ活性、脱アセチル化酵素活性、キナーゼ活性、ホスファターゼ活性、ユビキチンリガーゼ活性、脱ユビキチン化活性、アデニル化活性、脱アデニル化活性、SUMO化活性、脱SUMO化活性、リボシル化活性、脱リボシル化活性、ミリストイル化活性または脱ミリストイル化活性)を有する。【0180】いくつかの例において、主題のキメラ部位特異的修飾ポリペプチドの活性部位は、酵素活性を示す(上記)。他の例において、主題のキメラ部位特異的修飾ポリペプチドの活性部位は、標的DNAの転写を調節する(上記)。主題のキメラ部位特異的修飾ポリペプチドの活性部位は可変であり、本明細書で開示される方法に有用であり得るいずれの異種ポリペプチド配列を含んでいてもよい。【0181】例示的なキメラ部位特異的修飾ポリペプチドいくつかの実施形態において、キメラ部位特異的修飾ポリペプチドの活性部位は、Cas9/Csn1タンパク質の修飾形態を含む。いくつかの例において、Cas9/Csn1タンパク質の修飾形態は、Cas9/Csn1タンパク質の自然発生的なヌクレアーゼ活性を低減させるアミノ酸変化(例えば、欠失、挿入、または置換)を含む。例えば、いくつかの例において、Cas9/Csn1タンパク質の修飾形態は、対応する野生型Cas9/Csn1ポリペプチドの50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満、または1%未満のヌクレアーゼ活性を有する。いくつかの例において、Cas9/Csn1ポリペプチドの修飾形態は、実質的なヌクレアーゼ活性を有さない。【0182】いくつかの実施例において、Cas9/Csn1ポリペプチドの修飾形態は、標的DNAの相補鎖を切断することができるが、標的DNAの非相補鎖を切断する能力が低減している、D10A(配列番号8のアミノ酸位置10におけるアスパラギン酸からアラニン)変異(または配列番号1~256および795~1346に示されるタンパク質のうちのいずれかの対応する変異)である(図11を参照)。いくつかの実施例において、Cas9/Csn1ポリペプチドの修飾形態は、標的DNAの非相補鎖を切断することができるが、標的DNAの相補鎖を切断する能力が低減している、H840A(アミノ酸位置840におけるヒスチジンからアラニン)変異(または配列番号1~256および795~1346として記載されるタンパク質のうちのいずれかの対応する変異)である(図11を参照)。いくつかの実施例において、Cas9/Csn1ポリペプチドの修飾形態は、ポリペプチドが標的DNAの相補鎖および非相補鎖の両方を切断する能力が低減しているような、D10AおよびH840A変異(または配列番号1~256および795~1346として記載されるタンパク質のうちのいずれかの対応する変異)の両方を有する。他の残基を変異させることで、上記の効果(すなわち、1つまたはその他のヌクレアーゼ部分を失活させる)を得ることができる。非限定例として、残基D10、G12、G17、E762、H840、N854、N863、H982、H983、A984、D986、および/またはA987(または配列番号1~256および795~1346として記載されるタンパ質のうちのいずれかの対応する変異)を、変化(すなわち、置換)させることができる(Cas9アミノ酸残基の保存に関するさらなる情報については図3、図5、図11A、および表1を参照)。また、アラニン置換以外の変異も適切である。【0183】目的のさらなる情報について表1. 表1は種々の種に由来するCas9配列内に存在する4つのモチーフを列挙している(図3および図5も参照)。表に列挙されるアミノ酸は、S.ピオゲネス由来のCas9のものである(配列番号8)。【表1】・・・【0184】いくつかの例において、キメラ部位特異的修飾ポリペプチドは、図3に示されるCas9/Csn1アミノ酸配列のアミノ酸7~166または731~1003に対して、または配列番号1~256および795~1346として記載されるアミノ酸配列のうちのいずれかにおける対応部分に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%または100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの例において、キメラ部位特異的修飾ポリペプチドは、4つのモチーフ(表4に列挙され、図3Aおよび図5に示される)を含み、それぞれは、表1に列挙される4つのモチーフ(配列番号260~263)のそれぞれに対して、または、配列番号1~256および795~1346として記載されるアミノ酸配列のいずれかにおける対応部分に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%または100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。いくつかの例において、キメラ部位特異的修飾ポリペプチドは、図3に示されるCas9/Csn1アミノ酸配列のアミノ酸7~166または731~1003に対して、または配列番号1~256および795~1346として記載されるアミノ酸配列のうちのいずれかにおける対応部分に対して、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%または100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。【0185】いくつかの実施形態において、部位特異的修飾ポリペプチドの活性部位は、DNA修飾活性および/または転写因子活性および/またはDNA結合ポリペプチド修飾活性を有する異種ポリペプチドを含む。いくつかの例において、異種ポリペプチドは、ヌクレアーゼ活性を与えるCas9/Csn1ポリペプチドの位置と置換されている。他の実施形態では、主題の部位特異的修飾ポリペプチドは、ヌクレアーゼ活性を正常に与えるCas9/Csn1ポリペプチドの部分(および十分に活性な、または代わりに、対応する野生型活性の100%未満を有するよう修飾されていてもよいCas9/Csn1ポリペプチドの部分)、および異種ポリペプチドの両方を含む。言い換えれば、いくつかの例において、主題のキメラ部位特異的修飾ポリペプチドは、ヌクレアーゼ活性を正常に与えるCas9/Csn1ポリペプチドの部分および異種ポリペプチドの両方を含む融合ポリペプチドである。他の例において、主題のキメラ部位特異的修飾ポリペプチドは、Cas9/Csn1ポリペプチドの活性部位の修飾変異体(例えば、アミノ酸変化、欠失、挿入)および異種ポリペプチドを含む融合ポリペプチドである。さらに別の例では、主題のキメラ部位特異的修飾ポリペプチドは、異種ポリペプチドおよび自然発生的なまたは修飾された部位特異的修飾ポリペプチドのRNA結合部位を含む融合ポリペプチドである。【0186】例えば、キメラCas9/Csn1タンパク質において、自然発生的な(または修飾(例えば、変異、欠失、挿入)された)細菌Cas9/Csn1ポリペプチドは、異種ポリペプチド配列(すなわち、Cas9/Csn1以外のタンパク質由来のポリペプチド配列または別の生物由来のポリペプチド配列)に融合されていてもよい。異種ポリペプチド配列は、キメラCas9/Csn1タンパク質によっても示される活性(例えば、酵素活性)を示し得る(例えば、メチルトランスフェラーゼ活性、アセチルトランスフェラーゼ活性、キナーゼ活性、ユビキチン化活性等)。異種核酸配列を別の核酸配列に連結して(例えば、遺伝子操作によって)、キメラポリペプチドをコードするキメラヌクレオチド配列を作製してもよい。いくつかの実施形態において、キメラCas9/Csn1ポリペプチドは、Cas9/Csn1ポリペプチド(例えば、野生型Cas9またはCas9変異型、例えば、ヌクレアーゼ活性が低減または不活性化されたCas9)を、細胞内局在を与える異種配列(例えば、核に標的化するための核局在化シグナル(NLS);ミトコンドリアに標的化するためのミトコンドリア局在化シグナル;葉緑体に標的化するための葉緑体局在化シグナル;ER保留シグナル;等)と融合することにより作製される。いくつかの実施形態において、異種配列は、追跡または精製を容易にするためのタグを与え得る(例えば、蛍光タンパク質、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)、YFP、RFP、CFP、mCherry、tdTomato等;Hisタグ、例えば、6XHisタグ;赤血球凝集素(HA)タグ;FLAGタグ;Mycタグ;等)。いくつかの実施形態において、異種配列は、安定性の増加または減少を与え得る。いくつかの実施形態において、異種配列は、(例えば、キメラCas9ポリペプチドが別の目的タンパク質、例えば、DNAまたはヒストン修飾タンパク質、転写因子または転写抑制因子、動員(recruiting)タンパク質等に結合する能力を与えるための)結合ドメインを与え得る。【0187】主題の変異型Cas9部位特異的ポリペプチドの、種々のさらなる適切な融合パートナー(またはその断片)の例には、限定はされないが、図54に列挙されるものが含まれる。」
(4) 「【0206】いくつかの実施形態において、部位特異的修飾ポリペプチドは、Cas9/Csn1タンパク質の修飾形態を含む。いくつかの例において、Cas9/Csn1タンパク質の修飾形態は、Cas9/Csn1タンパク質の自然発生的なヌクレアーゼ活性を低減させるアミノ酸変化(例えば、欠失、挿入、または置換)を含む。例えば、いくつかの例において、Cas9/Csn1タンパク質の修飾形態は、対応する野生型Cas9/Csn1ポリペプチドの50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満、または1%未満のヌクレアーゼ活性を有する。いくつかの例において、Cas9/Csn1ポリペプチドの修飾形態は、実質的なヌクレアーゼ活性を有さない。主題の部位特異的修飾ポリペプチドは、実質的なヌクレアーゼ活性を有さないCas9/Csn1ポリペプチドの修飾形態である場合、「dCas9」と称され得る。【0207】いくつかの実施形態において、Cas9/Csn1ポリペプチドの修飾形態は、標的DNAの相補鎖を切断することができるが、標的DNAの非相補鎖を切断する能力が低減している(従って、DSBではなく一本鎖切断(SSB)をもたらす;図11を参照)、D10A(配列番号8のアミノ酸位置10におけるアスパラギン酸からアラニン)変異(または配列番号1~256および795~1346として記載されるタンパク質のうちのいずれかの対応する変異)である。いくつかの実施形態において、Cas9/Csn1ポリペプチドの修飾形態は、標的DNAの非相補鎖を切断することができるが、標的DNAの相補鎖を切断する能力が低減している(従って、DSBではなく一本鎖切断(SSB)をもたらす;図11を参照)、H840A(配列番号8のアミノ酸位置840におけるヒスチジンからアラニン)変異(または配列番号1~256および795~1346として記載されるタンパク質のうちのいずれかの対応する変異)である。Cas9のD10AまたはH840A変異体(または配列番号1~256および795~1346として記載されるタンパク質のいずれかにおける対応する変異)を用いることで、SSBとは対照的に、DSBが存在する場合、非相同末端結合(NHEJ)が起こる可能性がさらにより大きいために、期待される生物学的結果を変化させることができる。従って、DSBの可能性を減少させる(および、従って、NHEJの可能性を減少させる)ことが望ましいいくつかの例においては、Cas9のD10AまたはH840A変異体を用いることができる。他の残基を変異させて、同一の効果を得る(すなわち、1つまたはその他のヌクレアーゼ部分を失活させる)ことができる。非限定例として、残基D10、G12、G17、E762、H840、N854、N863、H982、H983、A984、D986、および/またはA987(または配列番号1~256および795~1346として記載されるタンパク質のうちのいずれかの対応する変異)を、変化(すなわち、置換)させることができる(Cas9アミノ酸残基の保存に関するさらなる情報については図3、図5、図11A、および表1を参照)。また、アラニン置換以外の変異も適切である。部位特異的ポリペプチド(例えば、部位特異的修飾ポリペプチド)が低減された触媒活性を有する場合(例えば、Cas9タンパク質がD10、G12、G17、E762、H840、N854、N863、H982、H983、A984、D986、および/またはA987変異、例えば、D10A、G12A、G17A、E762A、H840A、N854A、N863A、H982A、H983A、A984A、および/またはD986Aを有する場合)のいくつかの実施形態において、該ポリペプチドは、該ポリペプチドがDNA標的化RNAと相互作用する能力を保持している限り、部位特異的に標的DNAになお結合することができる(該ポリペプチドはDNA標的化RNAによって標的DNA配列になお誘導されるため)。【0208】いくつかの実施形態において、Cas9/Csn1ポリペプチドの修飾形態は、該ポリペプチドが標的DNAの相補鎖および非相補鎖の両方を切断する能力が低減しているような(すなわち、該変異体が実質的なヌクレアーゼ活性を有さない可能性がある)、D10A変異およびH840A変異の両方(または配列番号1~256および795~1346として記載されるタンパク質のうちのいずれかの対応する変異)を有する。他の残基を変異させて、同一の効果を得る(すなわち、1つまたはその他のヌクレアーゼ部分を失活させる)ことができる。非限定例として、残基D10、G12、G17、E762、H840、N854、N863、H982、H983、A984、D986、および/またはA987(または配列番号1~256および795~1346として記載されるタンパク質のうちのいずれかの対応する変異)を、変化(すなわち、置換)させることができる(Cas9アミノ酸残基の保存に関するさらなる情報については図3、図5、図11A、および表1を参照)。また、アラニン置換以外の変異も適切である。」
(5) 「【0212】いくつかの例において、部位特異的修飾ポリペプチドは、二重鎖切断を導入する以外の方法で標的DNAを修飾する酵素活性を有する。標的DNAを(例えば、酵素活性を有する異種ポリペプチドを部位特異的修飾ポリペプチドに融合することにより、キメラ部位特異的修飾ポリペプチドを作製することによって)修飾するのに用いられ得る目的の酵素活性には、限定はされないが、メチルトランスフェラーゼ活性、脱メチル化酵素活性、DNA修復活性、DNA損傷活性、脱アミノ化活性、ジスムターゼ活性、アルキル化活性、脱プリン活性、酸化活性、ピリミジンダイマー形成活性、インテグラーゼ活性、トランスポサーゼ活性、リコンビナーゼ活性、ポリメラーゼ活性、リガーゼ活性、ヘリカーゼ活性、光回復酵素活性またはグリコシラーゼ活性)が含まれる。DNAの損傷および修復の活性が環境ストレスに応答した細胞生存および適切なゲノム維持のために必須である一方で、メチル化および脱メチル化は、当該技術分野において、後成的遺伝子制御の重要な方法として認識されている。」
(6) 「【0364】追加の融合パートナー転写の増加または減少を達成するための融合パートナーの非限定例は、図54に列挙されており、転写活性化因子ドメインおよび転写抑制因子ドメイン(例えば、クルッペル結合ボックス(Kruppel associated box)(KRABまたはSKD);Mad mSIN3相互作用ドメイン(SID);ERF抑制因子ドメイン(ERD)等)が含まれる。いくつかのそのような例において、dCas9融合タンパク質は、DNA標的化RNAによって、標的DNA内の特定の位置(すなわち、配列)に標的化され、RNAポリメラーゼのプロモーターへの結合の阻止(転写活性化因子機能を選択的に阻害)、および/または局所的なクロマチン状態の修飾(例えば、標的DNAを修飾するまたは標的DNAと結合したポリペプチドを修飾する融合配列が用いられた場合)等の遺伝子座特異的調節を及ぼす。いくつかの例において、変化は一過性である(例えば、転写の抑制または活性化)。いくつかの例において、変化は遺伝性である(例えば、後成的修飾が標的DNAまたは標的DNAと結合したタンパク質(例えば、ヌクレオソームヒストン)に起こった場合)。【0365】いくつかの実施形態において、異種配列はdCas9ポリペプチドのC末端に融合され得る。いくつかの実施形態において、異種配列はdCas9ポリペプチドのN末端に融合され得る。いくつかの実施形態において、異種配列はdCas9ポリペプチドの内部部分(すなわち、N末端またはC末端以外の部分)に融合され得る。」
(7) 「【0404】例示的なデグロン配列は、細胞および動物の両方において十分に特徴付けされ、試験されている。従って、dCas9をデグロン配列に融合することにより、「調節可能」且つ「誘導性」のdCas9ポリペプチドが作製される。本明細書に記載の融合パートナーのいずれも、あらゆる望ましい組み合わせで用いることができる。この点を説明するための1つの非限定例として、dCas9融合タンパク質は、検出のためのYFP配列、安定性のためのデグロン配列、および標的DNAの転写を増加させるための転写活性化因子配列を含み得る。さらに、dCas9融合タンパク質内に用いることができる融合パートナーの数は限定されている。いくつかの例において、dCas9融合タンパク質は、一つまたは複数(例えば、2つ以上、3つ以上、4つ以上、または5つ以上)の異種配列を含む。【0405】適切な融合パートナーとしては、限定はされないが、メチルトランスフェラーゼ活性、脱メチル化酵素活性、アセチルトランスフェラーゼ活性、脱アセチル化酵素活性、キナーゼ活性、ホスファターゼ活性、ユビキチンリガーゼ活性、脱ユビキチン化活性、アデニル化活性、脱アデニル化活性、SUMO化活性、脱SUMO化活性、リボシル化活性、脱リボシル化活性、ミリストイル化活性または脱ミリストイル化活性を与えるポリペプチドが挙げられ、これらの活性はいずれも、DNAの直接修飾(例えば、DNAのメチル化)に、またはDNA結合ポリペプチドの修飾(例えば、ヒストンまたはDNA結合タンパク質)に向けられることができる。さらに、適切な融合パートナーとしては、限定はされないが、境界エレメント(例えば、CTCF)、末梢動員(periphery recruitment)を与えるタンパク質およびその断片(例えば、ラミンA、ラミンB等)、並びにタンパク質ドッキングエレメント(例えば、FKBP/FRB、Pil1/Aby1等)が挙げられる。【0406】主題の異型Cas9部位特異的ポリペプチドの、種々の追加の適切な融合パートナー(またはその断片)の例としては、限定はされないが、図54に列挙されるものが挙げられる。」
(8) 「[図:0001389998000001.jpg]」(図3B)
(9) 「[図:0001389998000002.jpg]」(図54B)
2 判断
(1)引用発明の認定
引用文献1は、その発明の名称のとおり、RNA依存性標的DNA修飾を主題とする発明を開示する国際公開であって、特許請求の範囲の独立項の一つである請求項18には、DNA標的化RNAと相互作用するRNA結合部位と、当該RNAにより決定(標的化)されるDNA部位において特異的に酵素活性を示す活性部位とを含む、キメラ部位特異的修飾ポリヌクレオチドが記載されている(上記1(1))。
そして、請求項18に従属する請求項23や発明の詳細な説明の「発明を実施するための形態(第一部)」(【0107】-【0351】)には、当該酵素活性の例として脱アミノ化活性が記載され(上記1(1)、上記1(3)【0178】、上記1(5)【0212】)、Cas9タンパク質に基づく配列としてヌクレアーゼ活性を有さない、いわゆるdCas9も記載され(上記1(3)【0186】、上記1(4)【0206】)、同請求項19や【図面の簡単な説明】等には、当該キメラ部位特異的修飾ポリヌクレオチドが幅広い種由来のCas9タンパク質やそれに基づく配列を含むことが記載されている(上記1(1)、上記1(2)【図3B】、【図9】の記載)。
このような一般的な記載に加え、引用文献1には、より具体的な例として、図54が例示されていると認められるところ(上記1(6)【0364】、上記1(7)【0406】、上記1(9))、当該図54の開示内容について検討すると、上記1(2)における「【図54A】対象変異形Cas9部位特異的ポリペプチドのための適切な融合パートナー(またはそれらの断片)の例を列挙する。・・・【図54B】同上。」という記載における「変異形Cas9部位特異的ポリペチド」とは、その前段落図53に関する記載において「変異形Cas9部位特異的ポリペプチド(dCas9)」と記載されていることから、dCas9を指すことは明らかである。また、上記図53に関する記載には、具体的にはdCas9が、活性を低下させるRuvC1ドメインおよび/またはHNHドメイン中の変異を有するポリペプチドであることも記載されている。
以上のことを考慮すると、引用文献1には、次のとおりの発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ヌクレアーゼ活性が低減、あるいは実質的に失活されたdCas9と、DNA脱メチル化酵素である、AIDなどのAID/Apobecデアミナーゼファミリータンパク質とを含む、融合タンパク質であって、ここで、dCas9が、活性を低下させるRuvC1ドメインおよび/またはHNHドメイン中の変異を含む、前記融合タンパク質。」
(2)対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「ヌクレアーゼ活性が低減、あるいは実質的に失活されたdCas9」は本願発明の「(i)Cas9ドメイン」に相当し、また、引用発明の「DNA脱メチル化酵素である、AIDなどのAID/Apobecデアミナーゼファミリータンパク質」は、標的シトシン(C)をチミン(T)に変換するものであり、本願発明の「(ii)デアミナーゼドメイン」に相当する。そうすると、引用発明の「融合タンパク質」は、上記したとおり、本願発明と同様に、「標的DNA分子の標的シトシン(C)を脱アミノ化する」ものであるから、本願発明の「標的DNA分子の標的シトシン(C)を脱アミノ化する融合タンパク質」に相当する。
また、引用発明の「dCas9が、活性を低下させるRuvC1ドメインおよび/またはHNHドメイン中の変異を含む」は、本願発明の「Cas9ドメインが、Cas9ヌクレアーゼ活性を不活化する1以上の変異を、RuvC1サブドメイン内および/またはHNHサブドメイン内に含む」に相当する。
したがって、両者は、「(i)Cas9ドメインと、
(ii)デアミナーゼドメインと
を含む、標的DNA分子の標的シトシン(C)を脱アミノ化する融合タンパク質であって、これによって標的シトシン(C)をチミン(T)に変換する;
ここでCas9ドメインが、Cas9ヌクレアーゼ活性を不活化する1以上の変異を、RuvC1サブドメイン内および/またはHNHサブドメイン内に含む、前記融合タンパク質。」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本願発明では、「デアミナーゼドメインが、Cas9ドメインのN末端またはC末端にリンカーにより融合している」と特定されているのに対し、引用発明では特定されていない点。
(相違点2)
本願発明では、「Cas9ドメインが、配列番号2(野生型Cas9)、配列番号4(ニッカーゼCas9)、または配列番号37(失活型Cas9)のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む」と特定されているのに対し、引用発明では特定されていない点。
(3)判断
(相違点1について)
引用文献1には「いくつかの実施形態において、異種配列はdCas9ポリペプチドのC末端に融合され得る。いくつかの実施形態において、異種配列はdCas9ポリペプチドのN末端に融合され得る」ことが記載されているとともに(上記1(6)【0365】)、融合タンパク質のドメイン間に各種のリンカーを設けることは文献をあげるまでもなく当業者にとって周知のことであるから、引用発明において、融合タンパク質を製造する際にdCas9をコードする遺伝子のN末端側もしくはC末端側に各種のリンカーを設けて、DNA脱メチル化酵素である、AIDなどのAID/Apobecデアミナーゼファミリータンパク質を融合することは当業者が適宜なし得た事項にすぎない。
(相違点2について)
引用発明のdCas9に関して、引用文献1の発明の詳細な説明には、配列番号8に示されるストレプトコッカス・ピオゲネスのCas9/Csn1タンパク質のアミノ酸配列が例示されており(上記1(2)、上記1(8)。変異を含まない、いわゆる野生型と認められる。)、当該配列は本願発明の配列番号2、配列番号4、配列番号37に示されるアミノ酸配列とそれぞれ98%程度の同一性を有するものである。
また、引用文献1には、ヌクレアーゼ活性を不活化する変異としてRuvC1サブドメイン内のD10A、HNHサブドメイン内のH840Aが記載されているから(上記1(2)、1(3)、1(4))、引用発明におけるdCas9として、配列番号8に示される野生型のCas9/Csn1タンパク質に対し、Cas9ヌクレアーゼ活性を不活化するD10AやH840Aなる変異を導入し「Cas9ドメインが、配列番号2(野生型Cas9)、配列番号4(ニッカーゼCas9)、または配列番号37(失活型Cas9)のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む」ものを採用することは当業者が容易になし得ることである。
(4)請求人の主張について
請求人が令和4年5月2日付け意見書においてする主張とそれに対する合議体の判断は、次のとおりである。
ア 請求人の主張
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(ア)引用文献1の「融合タンパク質」に関する記載のうち、Cas9ドメインと、標的DNAの標的シトシン(C)を脱アミノ化するデアミナーゼドメインとを含む融合タンパク質を記載または示唆するものは1つもないから、引用文献1は、Cas9ドメインと、標的DNAの標的シトシン(C)を脱アミノ化するデアミナーゼドメインとを含む融合タンパク質を記載も示唆もしていない。
(イ)引用文献1において開示されている「リンカー」という用語は、Cas9ドメインとデアミナーゼとを結合するリンカーを教示または示唆するものではないから、引用文献1は、本願発明に記載のリンカーを記載も示唆もしない。
(ウ)引用文献1は、図41に描かれ、かつ実施例4で議論されるように、「エンドヌクレアーゼ活性に欠けた、触媒的に死んだCas9が、誘導RNAと共に同時発現されると、転写伸長、RNAポリメラーゼ結合または転写因子結合に特異的に干渉し得るDNA認識複合体を生成する」CRISPR干渉(「CRISPRi」)を開示し、さらに、CRISPRiが、RNAPとdCas9-sgRNAとの間の「物理的衝突」によって機能することが提唱されているから、仮に引用文献1がCas9ドメインと、標的DNA中の標的シトシン(C)を脱アミノ化するデアミナーゼドメインの融合を開示していたとしても、当業者であれば、かかるデアミナーゼがCas9ドメインとの物理的衝突のために阻害されるであろうと当然に予測でき、Cas9-デアミナーゼの融合が標的DNA分子の標的シトシン(C)の脱アミノ化をもたらすことは期待しなかったというべきである。
イ 判断
上記主張(ア)について
引用文献1には、上記(1)のとおり、「【図54A】対象変異形Cas9部位特異的ポリペプチドのための適切な融合パートナー(またはそれらの断片)の例を列挙する。・・・【図54B】同上。」(上記1(2))と記載され、この「変異形Cas9部位特異的ポリペプチド」は、その前段落図53に関する記載において「変異形Cas9部位特異的ポリペプチド(dCas9)」と記載されていることから、dCas9を指すことは明らかである。そして、dCas9の融合パートナーの例として、DNA脱メチル化酵素である、AIDなどのAID/Apobecデアミナーゼファミリータンパク質が上記1(8)に示されているのであるから、引用文献1には、dCas9とDNA脱メチル化酵素である、AIDなどのAID/Apobecデアミナーゼファミリータンパク質との融合タンパク質が記載されているといえる。請求人の主張(ア)は、拒絶理由で認定した引用発明とは無関係なものであるから、採用することができない。
上記主張(イ)について
請求人の主張するとおり、引用文献1には融合タンパク質のドメイン間のリンカーは記載されていないが、上記(3)のとおり、融合タンパク質のドメイン間に各種のリンカーを設けることは文献をあげるまでもなく当業者にとって周知のことであるから、引用発明において、融合タンパク質を製造する際にdCas9をコードする遺伝子のN末端側もしくはC末端側に各種のリンカーを設けて、DNA脱メチル化酵素である、AIDなどのAID/Apobecデアミナーゼファミリータンパク質を融合することは当業者が適宜なし得た事項にすぎない。
上記主張(ウ)について
請求人が引用する引用文献1の実施例4は、「触媒的に死んだCas9が、誘導RNAと共に同時発現されると、転写伸長、RNAポリメラーゼ結合または転写因子結合に特異的に干渉し得るDNA認識複合体を生成する」CRISPR干渉(CRISPRi)と呼ばれるシステムに関するものであり(【0543】)、これは、RNAポリメラーゼがdCas9-sgRNA障害物に遭遇した際に物理的衝突により転写伸長が遮断することを示すものであって(【0570】)、dCas9と活性部位との融合タンパク質を示す実施例ではない。そうすると、引用文献1の上記実施例4の記載から、dCas9との融合により物理的衝突が生じ、DNA脱メチル化酵素である、AIDなどのAID/Apobecデアミナーゼファミリータンパク質が阻害されるであろうと当業者が予測するとは考え難い。むしろ、引用文献1には、実施例5の【0596】に「触媒的に不活性なCas9および活性化因子ドメインまたは抑制因子ドメインを含む融合タンパク質が、標的DNAからの転写をそれぞれ増大または減少させ得ることを我々は実証した。」と記載され、触媒的に不活性なCas9との融合タンパク質において、活性部位が機能することが示されているから、当業者であれば、dCas9とDNA脱メチル化酵素である、AIDなどのAID/Apobecデアミナーゼファミリータンパク質との融合タンパク質において、標的DNA分子の標的シトシン(C)の脱アミノ化をもたらすことを期待するのが自然である。
よって、請求人の主張(ウ)も採用することができない。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2020-006220