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特許拒絶査定不服審判

2020-002924

キャスク用施設、キャスクのハンドリング方法

審判番号
2020-002924
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2016-102332外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2020年03月03日
審決日
2020年11月25日
公報発行日
2021年03月26日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-Z (G21C)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2016-102332「キャスク用施設、キャスクのハンドリング方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月30日出願公開、特開2017-211188〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 15項目
【理 由】

第1 手続の経緯

本願は、平成28年5月23日の出願であって、その手続の経緯は、次のとおりである。

令和元年 8月13日付け:拒絶理由通知書
令和元年10月21日  :意見書・手続補正書
令和元年11月29日付け:拒絶査定
令和2年 3月 3日  :審判請求書・手続補正書

第2 本願発明の認定

本願の請求項に係る発明は、令和2年3月3日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)後の特許請求の範囲の請求項1~2に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「水平方向に延びて、使用済み燃料を収納したキャスクが横置き状態で前記水平方向に移動可能に設置されるレールと、
前記レールの上方に設置されるとともに、前記レール上の吊り上げ位置に位置する横置き状態の前記キャスクの一端側に係合して上方に巻き上げる吊り材を有する巻き上げ装置と、
床面に設けられ、前記巻き上げ装置を上方で支持する脚部と、
前記レール上で、前記キャスクに対して一端側に向かって力を付与することで該キャスクを移動させる水平移動部と、
を備え、
前記巻き上げ装置による前記吊り材の巻取りと、前記水平移動部による前記キャスクの移動とを、同時に開始し、かつ互いに等速で進める
キャスク用施設。」

第3 原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由は、本件補正前の請求項3に係る発明(本願発明と実質的に同一である。)は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

引用文献1:実願昭47-113193号(実開昭49-68110号)のマイクロフィルム(当審注:原査定における引用文献2である。)
引用文献2:実願昭50-107549号(実開昭52-21400号)のマイクロフィルム(当審注:原査定における引用文献1である。)

第4 引用発明の認定

1 原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった実願昭47-113193号(実開昭49-68110号)のマイクロフィルム(引用文献1)には、次の記載がある(下線は当審が付した。以下、同じ。)。

(1)「実用新案登録請求の範囲
平行する軌条と、駆動機構に連係し、軌条に並行して回動する無端鎖と構造物の基端部を回動可能にして支承し且つ、軌条走行車輪と無端鎖に係止する係止腕を装備した台車とより成り、無端鎖の回動に関連して構造物の先端を鉛直方向に吊持して、これを起伏せしめることを特徴とする塔状構造物載置装置。」(第1頁第4行~第10行)
(2)「本案は化学反応塔或いは大型ロケット等の塔状構造物の載置装置に関する。
化学反応塔或いは大型ロケット等の長尺を成す塔状構造物の組立ては、これを横倒状態の下に組立てられる場合が多い。
そこで組立後これを所定の場所まで運搬し起立させるのに構造物の強度が十分で、ワイヤロープにて斜め吊りをしてもよい場合には作業は簡単であるが、ワイヤロープの斜め吊りによつて生じる軸方向圧縮力を構造物に与えてはならない場合は、構造物を運搬してきた台車を移動させるか構造物を吊り上げているクレーンを走行または横行させることによりワイヤロープを常に鉛直にするようにしなければならない。
しかし起立場所の設備やスペースの関係で台車を動かしたり、クレーンを走行或いは横行させることのできない場合やウインチを用いた吊上作業の場合のように走行、横行機能を有しない場合など常にワイヤロープを鉛直に保つことができないことも多い。」(第1頁下から8行~第2頁下から9行)

(3)「上記の構成に於いて、本案装置の作用を述べると、第1図に示す状態の下に長尺を成す塔状構造物(A)を運搬車(1)上に搭載し、目的地点まで移動させて巻上機構(13)のフック(14)直下に構造物(A)の先端(C)を臨ませ、第3図に示す如くフック(14)と構造物(A)の先端(C)とを連結し、巻上機構(13)の巻上動作に関連して駆動機構(5)を動作させて無端鎖(4)を介して台車(9)を引き寄せつゝ、構造物(A)の起立を計るものであり、またこれとは逆に運搬車上への搭載作業を行なうものである。」(第3頁下から9行~第4頁2行)

(4)「尚、図示実施例では運搬車に対し、設備したものを示したが特定の地点に固定的に設備できることは勿論である。」(第4頁3行~第5行)

(5)第1図は、次のものである。

(6)第3図は、次のものである。

2 上記1の各記載によれば、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、引用発明の認定に関連する引用文献1の記載箇所を、参考までに、括弧内に付してある。

「平行する軌条と、駆動機構に連係し、軌条に並行して回動する無端鎖と構造物の基端部を回動可能にして支承し且つ、軌条走行車輪と無端鎖に係止する係止腕を装備した台車とより成り、無端鎖の回動に関連して構造物の先端を鉛直方向に吊持して、これを起伏せしめる塔状構造物載置装置であって、(上記1(1))
塔状構造物は、長尺を成すものであって、(上記1(2))
巻上機構(13)のフック(14)直下に構造物(A)の先端(C)を臨ませ、フック(14)と構造物(A)の先端(C)とを連結し、巻上機構(13)の巻上動作に関連して駆動機構(5)を動作させて無端鎖(4)を介して台車(9)を引き寄せつゝ、構造物(A)の起立を計るものであり、(上記1(3))
巻上機構(13)は、走行、横行機能を有しないウインチとワイヤロープを含むものであり、(上記1(2))
特定の地点に固定的に設備したものである、(上記1(4))
塔状構造物載置装置。」

第5 対比

1 本願発明と引用発明との対比

(1)本願発明の「水平方向に延びて、使用済み燃料を収納したキャスクが横置き状態で前記水平方向に移動可能に設置されるレールと、」との特定事項について

ア 引用発明の「長尺を成す」「塔状構造物」は、本願発明の「使用済み燃料を収納したキャスク」とは、長尺状構造物である点で一致する。

イ 引用発明の「平行する軌条」は、以下のとおり、「(塔状)構造物」が本願発明でいう「横置き状態で前記水平方向に移動可能に設置されるレール」であるといえる。

引用発明は、「平行する軌条」と「駆動機構に連係し、軌条に並行して回動する無端鎖」と「構造物の基端部を回動可能にして支承し且つ、軌条走行車輪と無端鎖に係止する係止腕を装備した台車」とを備えており、「塔状構造物」を「起伏せしめる」ものである。

(ア)そして、引用発明の「塔状構造物」は、「起伏せしめる」ものであるから、本願発明でいう「横置き状態」にあるといえる。

(イ)引用発明の「平行する軌条」が本願発明の「水平方向に延び」た「レール」に相当することは、明らかである。

(ウ)引用発明の「平行する軌条」は、「塔状構造物」が本願発明でいう「横置き状態で前記水平方向に移動可能に設置され」ているといえる。

すなわち、まず、引用発明は、「台車」を備えるところ、「台車」は「軌条走行車輪」を「装備」するとされており、「軌条走行車輪」は、その文言に照らして、上記「平行する軌条」上を「走行」するものと解されるから、結局、「平行する軌条」は、その上を「台車」を走行させるものといえる。そして、「台車」は、「(塔状)構造物の基端部」を「支承」している。そうすると、上記(ア)及び(イ)にも照らせば、引用発明の「平行する軌条」は、「(塔状)構造物」が本願発明でいう「横置き状態で前記水平方向に移動可能に設置され」ているといえる。

(エ)したがって、引用発明の「平行する軌条」は、「(塔状)構造物」が本願発明でいう「横置き状態で前記水平方向に移動可能に設置されるレール」であるといえる。

ウ 以上によれば、引用発明は、本願発明の上記特定事項とは、「水平方向に延びて、」長尺状構造物が「横置き状態で前記水平方向に移動可能に設置されるレール」を備える点で一致するが、長尺状構造物が「使用済み燃料を収納したキャスク」ではない点で相違する。

(2)本願発明の「前記レールの上方に設置されるとともに、前記レール上の吊り上げ位置に位置する横置き状態の前記キャスクの一端側に係合して上方に巻き上げる吊り材を有する巻き上げ装置と、」との特定事項について

ア 引用発明の「走行、横行機能を有しないウインチとワイヤロープを含む」「巻上機構(13)」は、本願発明の「巻き上げ装置」に相当する。

イ 引用発明の「ワイヤロープ」及び「フック(14)」は、本願発明の「吊り材」に相当する。

ウ 引用発明の「巻上機構(13)」は、本願発明でいう「前記レールの上方に設置される」ものといえる。

すなわち、引用発明は、「巻上機構(13)の巻上動作」にも基づいて「構造物(A)の起立を計るものであ」るから、「巻上機構(13)」は、「台車(9)」よりも上方に存在するといえる。そして、上記(1)イ(ウ)のとおり、「平行する軌条」は、その上を「台車」を走行させるものであるから、「台車(9)」は、「平行する軌条」の上方に存在するといえる。よって、「巻上機構(13)」は、「平行する軌条」の上方に存在するといえる。

したがって、引用発明の「巻上機構(13)」は、本願発明でいう「前記レールの上方に設置される」ものといえる。

エ 引用発明の「ワイヤロープ」及び「フック(14)」(本願発明の「吊り材」に相当。)は、以下のとおり、本願発明でいう「前記レール上の吊り上げ位置に位置する横置き状態の」塔状構造物「の一端側に係合して上方に巻き上げる」ものといえる。

引用発明は、「巻上機構(13)のフック(14)直下に構造物(A)の先端(C)を臨ませ、フック(14)と構造物(A)の先端(C)とを連結」するものであり、その「構造物(A)」は、「起立を計るもの」である。

(ア)そして、引用発明の上記「巻上機構(13)のフック(14)直下」にある「構造物(A)」の位置は、本願発明の「吊り上げ位置」に相当する。

また、当該「吊り上げ位置」は、上記(1)イ(ウ)のとおり、「平行する軌条」は、「塔状構造物」が本願発明でいう「横置き状態で前記水平方向に移動可能に設置され」ていることにも照らすと、本願発明でいう「前記レール上」にあるといえる。

よって、引用発明の上記「巻上機構(13)のフック(14)直下」にある「構造物(A)」は、本願発明でいう「前記レール上の吊り上げ位置に位置する」ことになる。

(イ)当該「吊り上げ位置」に存在する引用発明の「構造物(A)」は、「起立を計るもの」であるから、本願発明でいう「横置き状態」にあるといえる。

(ウ)当該「吊り上げ位置」に存在する引用発明の「構造物(A)」は、「フック(14)と構造物(A)の先端(C)とを連結」されるのであるから、「フック(14)」は、構造物(A)の(本願発明でいう)「一端側に係合して上方に巻き上げる」ためのものといえる。

(エ)したがって、引用発明の「ワイヤロープ」及び「フック(14)」(本願発明の「吊り材」に相当。)は、本願発明でいう「前記レール上の吊り上げ位置に位置する横置き状態の」塔状構造物「の一端側に係合して上方に巻き上げる」ものといえる。

オ よって、引用発明は、本願発明の上記特定事項とは、「前記レールの上方に設置されるとともに、前記レール上の吊り上げ位置に位置する横置き状態の」長尺構造物「の一端側に係合して上方に巻き上げる吊り材を有する巻き上げ装置」を備える点で一致するが、長尺状構造物が「前記キャスク」ではない点で相違する。

(3)本願発明の「床面に設けられ、前記巻き上げ装置を上方で支持する脚部と、」との特定事項について

引用発明は、本願発明の上記特定事項を備えない。

(4)本願発明の「前記レール上で、前記キャスクに対して一端側に向かって力を付与することで該キャスクを移動させる水平移動部と、」との特定事項について

ア 引用発明は、「駆動機構に連係し、軌条に並行して回動する無端鎖」を備えるとともに「駆動機構(5)を動作させて無端鎖(4)を介して台車(9)を引き寄せ」るものであり、その「台車」は、「構造物の基端部を回動可能にして支承」するものであるから、これを「駆動機構」及びそれ「に連係し、軌条に並行して回動する無端鎖」が「塔状構造物」に対してどのように作用するのかという観点から整理すると、引用発明の「駆動機構」は、それ「に連係し、軌条に並行して回動する無端鎖」を介して、「塔状構造物」の「基端部」に力を付与して、「塔状構造物」を「軌条」に沿って移動させていることになる。

そして、「軌条」は、上記(1)イ(イ)のとおり「水平方向に延び」ている。

そうすると、引用発明の「駆動機構」及びそれ「に連係し、軌条に並行して回動する無端鎖」は、本願発明でいう「前記レール上で、」塔状構造物「に対して一端側に向かって力を付与することで」塔状構造物を「移動させる水平移動部」であるといえる。

イ よって、引用発明は、本願発明の上記特定事項とは、「前記レール上で、」長尺状構造物「に対して一端側に向かって力を付与することで」長尺構造物を「移動させる水平移動部」を備える点で一致するが、長尺状構造物が「使用済み燃料を収納したキャスク」ではない点で相違する。

(5)本願発明の「前記巻き上げ装置による前記吊り材の巻取りと、前記水平移動部による前記キャスクの移動とを、同時に開始し、かつ互いに等速で進める」との特定事項について

引用発明は、「巻上機構(13)の巻上動作に関連して駆動機構(5)を動作させて無端鎖(4)を介して台車(9)を引き寄せつゝ、構造物(A)の起立を計るものであ」るから、上記(2)及び(4)にも照らせば、本願発明の上記特定事項とは、「前記巻き上げ装置による前記吊り材の巻取りと、前記水平移動部による前記キャスクの移動とを、」所定のタイミングで「開始し」、所定の速度で「進める」点で一致する。

しかし、引用発明は、上記所定のタイミングが「同時」なのか不明であり、上記所定の速度が「互いに等速」であるかも不明である。

(6)本願発明の「キャスク用施設」との特定事項について

ア 引用発明の「特定の地点に固定的に設備したものである」「塔状構造物載置装置」は、本願発明でいう「施設」といえる。

イ よって、引用発明は、本願発明の上記特定事項とは、長尺状構造物「用施設」である点で一致するが、長尺状構造物が「キャスク」ではない点で相違する。

2 一致点及び相違点の認定

上記1によれば、本願発明と引用発明とは、

「水平方向に延びて、長尺状構造物が横置き状態で前記水平方向に移動可能に設置されるレールと、
前記レールの上方に設置されるとともに、前記レール上の吊り上げ位置に位置する横置き状態の前記長尺状構造物の一端側に係合して上方に巻き上げる吊り材を有する巻き上げ装置と、
前記レール上で、前記長尺状構造物に対して一端側に向かって力を付与することで該長尺状構造物を移動させる水平移動部と、
を備え、
前記巻き上げ装置による前記吊り材の巻取りと、前記水平移動部による前記長尺状構造物の移動とを、所定のタイミングで開始し、かつ所定の速度で進める
長尺状構造物用施設。」

である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]

長尺状構造物が、本願発明は、「使用済み燃料を収納したキャスク」であるのに対し、引用発明は、塔状構造物である点。

[相違点2]

本願発明は、「床面に設けられ、前記巻き上げ装置を上方で支持する脚部」を備えるのに対し、引用発明は、それを備えない点。

[相違点3]

「前記巻き上げ装置による前記吊り材の巻取りと、前記水平移動部による前記長尺状構造物の移動」に関し、それらを「開始」する「所定のタイミング」とそれらを「進める」「所定の速度」が、本願発明は、「同時に開始し、かつ互いに等速で進める」ようにしたものであるのに対し、引用発明は、「巻上機構(13)の巻上動作に関連して駆動機構(5)を動作させて無端鎖(4)を介して台車(9)を引き寄せつゝ、構造物(A)の起立を計る」ようにしたものである点。

第6 相違点の判断

1 相違点1について

引用発明の塔状構造物は、「長尺を成すもの」であって、「起伏せしめる」ものであれば足りる。

そして、長尺を成す構造物として「使用済み燃料を収納したキャスク」があることは技術常識(例えば、引用文献2(実願昭50-107549号(実開昭52-21400号)のマイクロフィルムの第1頁下から2行~第2頁第6行・第1図・第3図を参照。))であるし、そのようなキャスクを起伏せしめる必要があることも技術常識(例えば、特開2003-84093号公報の【0028】、特開2012-166878号公報の【請求項1】・【0031】・【0067】、上記引用文献2の実用新案登録請求の範囲・第5頁第8行~第8頁第5行を参照。)である。

そうすると、引用発明において、塔状構造物として「使用済み燃料を収納したキャスク」を採用することは、当業者が適宜なし得たことである。

2 相違点2について

引用発明の「巻上機構(13)」は、上記第5の1(2)ウのとおり、「上方に設置される」ものであるところ、上方に設置される構造を、具体的にどのように構成するのかは、当業者が、実施に当たり技術常識を踏まえて適宜設計するものといえる。

そして、ある構造を上方に設置する際に、その構造を上方で支持する、床面に設けられた脚部をもってすることは、常套手段である。

そうすると、引用発明の「巻上機構(13)」を上方に設置する際に、当該「巻上機構(13)」を上方で支持する、床面に設けられた脚部をもってすることは、当業者が適宜なし得たことである。

3 相違点3について

(1)まず、本願発明の「前記巻き上げ装置による前記吊り材の巻取りと、前記水平移動部による前記キャスクの移動とを、同時に開始し、かつ互いに等速で進める」との特定事項(以下「本件特定事項」という。)の技術的意義を検討する。

ア 本件特定事項に関して、本願明細書【0034】・【0035】・【0042】には、次の記載がある。

「続いて、キャスク輸送体CtからキャスクCを取り出すとともに、キャスクCの姿勢を変化させる(ハンドリング工程S4)。より詳細には図3に示すように、まず、ウインチ40の引張用ワイヤー42のみを巻き取ることで、キャスク輸送体Ctをレール2に沿って上記の載置位置P1から吊り上げ位置P2に移動させる。キャスク輸送体Ctが吊り上げ位置P2に到達した後、巻き上げ装置30によるワイヤー32の巻取りと、ウインチ40による引張用ワイヤー42の巻取りとを同期した状態で行う。すなわち、ワイヤー32の巻取りと、引張用ワイヤー42の巻取りとを同時に開始し、かつ互いに等速で進める。なお、実際の作業では、作業員の監視下で、手動によって上記ワイヤー32、及び引張用ワイヤー42の巻取りを同期させることが望ましい。一方で、これら巻取り作業を、制御装置等によって同期させる構成を採ることも可能である。」(【0034】)、

「ワイヤー32の上方への巻取りを進めるにつれて、図3の鎖線で示すように、キャスクCの一端側が次第に上方へ移動する。同時に、引張用ワイヤー42が他端側へ巻き取られるにつれて、キャスクCには他端側から一端側へ向かう力が付与される。ここで、キャスクCは輸送用スキッドSt及びエクステンションスキッドSeに載せられた状態にあるため、引張用ワイヤー42の巻取りによる引張力によって、キャスクCの他端側を含む部分は、レール2上を他端側から一端側に向かって水平移動する。より詳細には、エクステンションスキッドSeのローラ61がレール2上を転動することで、キャスクCの他端側が一端側に向かって移動する。このような操作を続けることにより、キャスクCは輸送用スキッドSt上で、横置き状態から直立姿勢に遷移する。このとき、輸送用スキッドStの係合凹部Rに係合した一対の下部トラニオンC32(水平方向を向く一対の下部トラニオンC32)は、係合凹部R内で、当該下部トラニオンC32同士を結ぶ線を回転中心として徐々に回転する。キャスクCが直立した後、巻取り装置によってキャスクCをさらに上方へ持ち上げることで、当該キャスクCは輸送用スキッドStから脱離する。」(【0035】)、

「例えば、上記実施形態におけるウインチ40に代えて、キャスクCを他端側から一端側に押す他の装置を水平移動部として採用することも可能である。つまり、キャスクCの他端に対して、下部トラニオンC32を介して他端側から一端側に向かう力を付与することができる限りにおいては、水平移動部としていかなる装置を適用してもよい。」(【0042】)

イ 上記アによれば、本件特定事項の技術的意義は、巻き上げ装置30によるワイヤー32の巻取りとウインチ40による引張用ワイヤー42の巻取りとを同期した状態で行うことにより、キャスクを横置き状態から直立状態に遷移させることにあると認められる。そして、ウインチ40は、キャスクCを他端側から一端側に押す他の装置であってもよい。

(2)これを引用発明についてみると、引用発明は、「巻上機構(13)の巻上動作に関連して駆動機構(5)を動作させて無端鎖(4)を介して台車(9)を引き寄せつゝ、構造物(A)の起立を計るものであ」るから、上記(1)イで認定した本件特定事項と同じ技術的意義を奏するものといえる。

しかるに、引用発明において、「巻上機構(13)の巻上動作」と「駆動機構(5)」の「動作」をどのようなタイミングで開始するかや、その速度をどうするかは、当業者が実施に当たり適宜設定するものであるところ、上記のとおり、引用発明が本件特定事項と同じ技術的意義を奏することにも照らせば、引用発明において、相違点3に係る構成のようにすることは、当業者が適宜なし得たことであるといえる。

4 本願発明の効果について

本願発明の効果は、引用発明及び技術常識に基づいて当業者が予測し得るものである。

5 請求人の主張について

(1)請求人は、引用文献1の第3図では、「巻上機構13」として、水平移動を行うための台車を有する構造物が記載されているから、当該「巻上機構13」は「クレーン」に類するものであることがうかがわれ、そうであれば、当該「巻上機構13」は、本願発明の「脚部」によって「上方で支持」された「巻き上げ装置」に相当しない旨主張する。

しかしながら、本願発明の「床面に設けられ」た「脚部」によって「上方で支持」された「巻き上げ装置」という特定からは、「クレーン」が排除されているとはいい難い。よって、請求人の主張は、その前提が失当である。

また、それを措くとしても、引用文献1には、上記第4の1(2)のとおり、「ウインチを用いた吊上作業の場合のように走行、横行機能を有しない場合」をも想定した記載が存在する。そうすると、引用文献1の第3図の「巻上機構13」が「クレーン」に類するものであるとしても、そのことが上記の認定判断を左右することはない。

(2)請求人は、引用文献1の「巻上機構13」が、建屋の側壁面に設置されるものである点で、本願発明のような、脚部を介して床面に設けられている「巻き上げ装置」とは相違する旨主張する。

しかしながら、引用文献1の実用新案登録請求の範囲の記載には、「巻上機構13」が建屋の側壁面に設置されることは特定されていないから、引用発明において、「巻上機構13」をどのように設置するのかは、上記2で判断したとおり、当業者が適宜設計するにすぎないものである。そして、相違点2が格別でないことも、上記2で判断したとおりである。

(3)よって、請求人の主張は、いずれも採用できない。

6 小括

したがって、本願発明は、引用発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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2020-002924

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