特許拒絶査定不服審判
2022-019522
使用済燃料の処理方法及び処理システム
- 審判番号
- 2022-019522
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-011086
- 請求日
- 2022年12月02日
- 審決日
- 2023年11月13日
- 公報発行日
- 2024年02月22日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
- 【請求人代理人】ポレール弁理士法人
- 審判長/審判官
- 審判長 波多江 進
- 審判官 松川 直樹
- 審判官 野村 伸雄
- 分類
- P18 .121-Z (G21C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-11086号「使用済燃料の処理方法及び処理システム」拒絶査定不服審判事件〔令和2年8月6日出願公開、特開2020-118585号〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年(平成31年)1月25日を出願日とする出願であって、その手続の経緯の概略は次のとおりである。
令和4年 1月21日付け:拒絶理由通知書
同年 3月30日 :意見書、手続補正書の提出
同年 5月27日付け:拒絶理由通知書
同年 7月21日 :意見書、手続補正書の提出
同年 8月31日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
同年12月 2日 :審判請求書、手続補正書の提出
同月28日付け:前置報告書
令和5年 3月 1日 :上申書の提出
第2 本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和4年12月2日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1の記載は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
軽水炉の使用済燃料から分離されたプルトニウム及び核分裂生成物を含む液、又は前記液を固体にしたものを貯蔵する貯蔵工程を含み、
前記液は、
前記使用済燃料を溶解した水溶液に還元剤を添加してプルトニウムを還元するとともに有機溶媒を接触させることにより、前記水溶液からウランを抽出し前記水溶液に残ったプルトニウム及び前記核分裂生成物を得る共除染工程を含む操作により作製するものであって分離プルトニウムとして扱われないものであり、実質的にウランを含まない、使用済燃料の処理方法。」
第3 原査定の拒絶の理由の概要
本願発明は、原査定時の請求項2に係る発明であるところ、原査定の請求項2に係る発明に対する拒絶の理由の概要は、以下の理由を含むものである。
(進歩性)この出願の請求項2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である引用文献1に記載された発明及び引用文献2に例示される周知の技術的事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1.特開2010-43953号公報
引用文献2.特開平5-93795号公報
第4 引用文献の記載及び引用発明等の認定
1 引用文献1
(1) 引用文献1の記載事項
原査定で引用された前記引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は当合議体が付した。以下同じ。)。
「【請求項1】
使用済核燃料を硝酸水溶液に溶解させ、得られる燃料溶解液に含まれる核種を溶媒抽出により分離し回収する使用済核燃料の再処理方法において、
前記燃料溶解液に含まれるプルトニウムの原子価を基準とし、このプルトニウムの原子価が溶媒抽出効率の低い原子価となるまで且つ核分裂生成物やマイナーアクチニドを除去することなく、燃料溶解液に含まれる核種の電解還元を行う電解原子価調整工程と、
前記燃料溶解液に含まれるウランを抽出可能な抽出用溶媒を用い、前記電解原子価調整工程を経た燃料溶解液から抽出用溶媒にウランを分配させる核種分離工程と、
を有することを特徴とする使用済核燃料の再処理方法。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済核燃料の再処理技術に係り、特に、使用済核燃料を硝酸水溶液に溶解させ、得られる燃料溶解液に含まれる核種を溶媒抽出により分離し回収する使用済核燃料の再処理方法およびこの再処理方法に用いられる使用済核燃料の再処理方法および遠心抽出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、わが国ならびに海外諸国の多くにおける原子力エネルギー利用は、使用済核燃料の再処理工程を含む核燃料サイクルに立脚している。使用済核燃料の再処理は、使用済核燃料から化学的にFP(核分裂生成物)やMA(マイナーアクチニド;Np、Am,Cmなど)を除去し、再び原子炉で利用可能なU(ウラン)、Pu(プルトニウム)を分離回収する工程であり、エネルギー資源の有効利用において重要な位置付けを担うと共に核不拡散の要請を受ける。
【0003】
使用済核燃料の再処理方法は、種々提案されている。溶媒抽出法の1つであるピューレックス法(たとえば、特許文献1参照)は、UおよびPuの選択的回収、臨界安全性などの面で優れており、近年代表的な手法となっている。このピューレックス法では、使用済核燃料(燃料集合体)の切断→切断片の硝酸溶解→溶媒抽出によるFP除去(共除染)→溶媒抽出によるUとPuの相互分離→Uの精製、UとPuの混合→U溶液の脱硝、U-Pu混合溶液の脱硝→U酸化物の製造、U-Pu混合酸化物の製造、という流れで処理が行われる。
【0004】
従来の使用済核燃料の再処理方法にあっては、使用済核燃料に含まれるPuは最終的にU-Pu混合酸化物として回収され、軽水炉用MOX燃料として利用されることとなる。すなわち、Puが容易に単独利用できないよう構成され、核拡散に対する一定の抑止効果を有している。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(1)使用済核燃料の再処理にあっては、Uについては高純度で回収すると共にPuについては核管理上単独で存在することを避けたいという要求がある。従来の使用済核燃料の再処理方法にあっては、再処理工程の一部にUとPuが相互分離される工程が含まれており、核不拡散に対する脆弱性が残っている。加えて、再処理を経たPuの最終形態がU-Pu混合酸化物であっても、すでに強力な放射能を持つFPが除去されてしまっておりPu単離回収の可能性が危惧される。」
「【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、使用済核燃料からプルトニウムが単独で分離される工程を設けることなく高純度のウランを回収でき、加えて再処理を経たプルトニウムの単離回収が困難なものとなり、核拡散に対する抑止効果に優れる。」
「【0016】
本実施形態の使用済核燃料の再処理方法は、原子炉から取り出された使用済核燃料を硝酸水溶液に溶解させ、得られる燃料溶解液に含まれる核種を溶媒抽出により分離し回収するピューレックス法に基礎が置かれる。
【0017】
図1はこの再処理方法にて実行される再処理工程を示すフローチャートであり、以下、この再処理方法における各工程を説明する。
(・・・省略・・・)
【0020】
工程S3は、工程S2を経て切断片となった使用済核燃料をステンレス製の溶解槽に入れ硝酸水溶液で溶解し、U、Pu、FP(核分裂生成物)、MA(マイナーアクチニド;Np、Am、Cmなど)を硝酸水溶液中に溶出させる工程である。ジルカロイ合金製或いはステンレス製の燃料被覆管その他の燃料集合体構造物の切断片は硝酸水溶液に対し不溶解性であり、これらの切断片は固体放射性廃棄物として処理・処分する。なお、工程S1~工程S3は、ピューレックス法で用いられる公知の技術を用いることができる。
【0021】
工程S4は、Puの原子価が工程S5にて行われる溶媒抽出の効率が低くなる原子価になるまで、燃料溶解液中の各溶存核種の電解還元を行う工程である(電解原子価調整工程)。この電解原子価調整工程は、FPやMAが除去されていない燃料溶解液を対象として行う。
【0022】
工程S5は、燃料溶解液に含まれるUを効率よく抽出可能な抽出用溶媒を用い、工程S4を経た燃料溶解液から抽出用溶媒にUを選択的に分配させると共にPuその他の溶存核種を燃料溶解液に残留させる工程である。すなわち、Uと、Puその他の核種(FP、MAなど)とを分離回収する工程である(核種分離工程)。なお、Puその他の核種の混合物については、軽水炉用MOX燃料の原料としてストックされる。
(・・・省略・・・)
【0024】
工程S7は、マイクロ波を照射するなどして工程S6で得られるU精製溶液の脱硝を行う工程である。なお、工程S6および工程S7は、ピューレックス法で用いられる公知の技術を用いることができる。なお、工程S7を経た後、Uは酸化物としての形態でストックされ、軽水炉用燃料或いは高速炉用ブランケットとして利用される。
【0025】
本実施形態の使用済核燃料の再処理方法における工程S4および工程S5の具体例を説明する。
【0026】
工程S5の核種分離工程では、抽出用溶媒として、ドデカンにより希釈されたTBP(リン酸トリブチル)を含有する有機溶媒(以下、TBP溶媒)を用いる。(・・・省略・・・)
【0028】
ここで、工程S3で得られる燃料溶解液中のPuは4価で存在する。4価のPu(Pu(IV))と3価のPu(Pu(III))の分配係数に関し、TBP溶媒の硝酸水溶液に対する分配係数は、それぞれ20、0.01ほどの相違がある。したがって、Pu(IV)はTBP溶媒で安定であり、Pu(III)は硝酸水溶液で安定である。
【0029】
工程S4では、Puの原子価による分配係数の差によって、TBP溶媒にUを分配させる工程S5でPuが燃料溶解液に残留するようにPuの原子価を電解還元により調整する。すなわち、工程S4では、Puの原子価が3価となるように、燃料溶解液に含まれるPuの電解原子価調整を行う。
【0030】
工程S4の電解原子価調整は、FPおよびMAなどが除去されていない燃料溶解液を対象として行うため、Pu以外の溶存核種、たとえば、U、Np、Am、Cmも同時に電解還元を受けることとなる。この際、燃料溶解液に含まれるPuの原子価が3価となるよう電解還元操作を行うことにより、Pu(IV)→Pu(III)という還元反応のほか、U(VI)→(IV)、Np(VI)→(V)という還元反応が起こる。このように電解原子価調整を行ったとき、一般的な使用済核燃料の組成に基づく燃料溶解液の化学量論から、燃料溶解液中のUの大部分はU(VI)として存在しており、Npの大部分はNp(V)として存在することが判っている。
【0031】
工程S4の電解原子価調整を行うと、工程S5の核種分離工程において、電解還元を受けて生成した燃料溶解液中のPu(III)およびNp(V)はTBP溶媒には分配されず燃料溶解液に残留する。加えて、燃料溶解液はFPやMAの除染が行われていないため、FPやMAの一部も同様に燃料溶解液に残留する。一方、工程S4で電解還元を受けて生成したU(IV)ならびに電解還元されずに残ったU(VI)は、TBP溶媒に対して高い分配係数を持ち、このTBP溶媒に良好に分配される。」
「【0051】
ところで、従来の使用済核燃料の再処理方法では、使用済核燃料の切断片を硝酸水溶液に溶解させて燃料溶解液とした後、この燃料溶解液から高レベル放射能を持つFPを取り除く処理(いわゆる共除染)が行われる。次いで、UとPuの相互分離→U精製→U脱硝酸という工程と、核不拡散の要請から行われるUとPuの再度の混合→U-Pu混合物の脱硝、という工程で再処理が行われる。しかし、再処理工程の一部に「UとPuの相互分離」の工程が設けられておりPuが単独で存在していること、また、「共除染」の工程が設けられておりU-Pu混合物からのPu単離が比較的容易となっていることから、Puの単独利用の可能性が懸念される。
【0052】
これに対し、本実施形態の使用済核燃料の再処理方法では、その全工程を通じ、共除染を行うことなく且つUとPuの相互分離を行うことなく、Uと、Puその他の核種と、に分離される。また、Uの純度は90%~100%である。すなわち、Uについては高純度で単独回収しつつ、Puについては再利用されるまでFPやMAなどと共に高レベルの放射能を有する状態で貯蔵され、Puのみを抽出・精製することが困難なものとなる。」
「【図1】
[図:0001406411000001.jpg]
」
(2) 引用発明の認定
前記(1)で摘記した引用文献1の記載事項から、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(なお、参考までに、認定の根拠とした箇所である引用文献1の段落等を括弧内に記載する。)。
<引用発明>
「使用済核燃料を硝酸水溶液に溶解させ、得られる燃料溶解液に含まれる核種を溶媒抽出により分離し回収する使用済核燃料の再処理方法において、
前記燃料溶解液に含まれるプルトニウムの原子価を基準とし、このプルトニウムの原子価が溶媒抽出効率の低い原子価となるまで且つ核分裂生成物やマイナーアクチニドを除去することなく、燃料溶解液に含まれる核種の電解還元を行う電解原子価調整工程と、
前記燃料溶解液に含まれるウランを抽出可能な抽出用溶媒を用い、前記電解原子価調整工程を経た燃料溶解液から抽出用溶媒にウランを分配させる核種分離工程と、
を有し、(【請求項1】)
前記燃料溶解液は、原子炉から取り出され、切断片となった使用済核燃料をステンレス製の溶解槽に入れ硝酸水溶液で溶解し、U、Pu、FP(核分裂生成物)、MA(マイナーアクチニド;Np、Am、Cmなど)を硝酸水溶液中に溶出させる工程によって得られるものであり、(【0016】、【0020】)
前記電解原子価調整工程は、Puの原子価が前記核種分離工程にて行われる溶媒抽出の効率が低くなる原子価になるまで、燃料溶解液中の各溶存核種の電解還元を行う工程であり、FPやMAが除去されていない燃料溶解液を対象として行い、(【0021】)
前記核種分離工程は、前記燃料溶解液に含まれるUを効率よく抽出可能な抽出用溶媒を用い、電解原子価調整工程を経た燃料溶解液から抽出用溶媒にUを選択的に分配させると共にPuその他の溶存核種を燃料溶解液に残留させ、Uと、Puその他の核種(FP、MAなど)とを分離回収する工程であり、Puその他の核種の混合物については、軽水炉用MOX燃料の原料としてストックされ、(【0022】)
前記核種分離工程では、抽出用溶媒として、ドデカンにより希釈されたTBP(リン酸トリブチル)を含有する有機溶媒(TBP溶媒)を用い、(【0026】)
前記電解原子価調整工程では、Puの原子価が3価となるように、燃料溶解液に含まれるPuの電解原子価調整を行い、(【0029】)
前記電解原子価調整は、FPおよびMAなどが除去されていない燃料溶解液を対象として行うため、Pu以外の溶存核種、たとえば、U、Np、Am、Cmも同時に電解還元を受けることとなり、この際、燃料溶解液に含まれるPuの原子価が3価となるよう電解還元操作を行うことにより、Pu(IV)→Pu(III)という還元反応のほか、U(VI)→(IV)、Np(VI)→(V)という還元反応が起こり、(【0030】)
Uについては高純度で単独回収しつつ、Puについては再利用されるまでFPやMAなどと共に高レベルの放射能を有する状態で貯蔵され、Puのみを抽出・精製することが困難なものとなる、(【0052】)
使用済核燃料の再処理方法。(【0016】)」
2 周知の技術的事項の認定
(1) 周知文献1の記載事項
原査定で引用された特開平5-93795号公報(以下「周知文献1という」。)には、以下の事項が記載されている。
「【0002】
【従来の技術】使用済核燃料中のUおよびPuを回収するための溶媒抽出法の1つとして、ピューレックス法が従来から広く採用されている。図2は従来のピューレックス法の概略を説明するためのフローシートであり、使用済核燃料の硝酸溶解液は調整工程で硝酸濃度を調整したのち、ミキサー・セトラー、遠心抽出器あるいはパルスコラムのごとき多段抽出装置内で30%TBP有機溶媒相と接触させる。これにより溶解液中に含まれるUおよびPuは有機溶媒相に抽出され、核分裂生成物(FP)は硝酸水相に逆抽出されて高放射性廃液(HAW)として除去される。この工程を共除染工程という。
【0003】UおよびPuを装荷した共除染工程からの有機溶媒は、次いでU/Pu分配工程に送り、ミキサー・セトラー、遠心抽出器あるいはパルスコラムのごとき多段抽出装置内で希硝酸からなるPu逆抽出液と接触させて、Puを硝酸水相に逆抽出するとともにUは有機溶媒相に残留させることによって、UとPuとを分離する。かような分配工程は従来においては還元分配法により行われている。すなわち、分配温度は40℃以上といった比較的高い温度が採用されており、そのままではUとPuとの分配係数比が小さく分離が不可能であるため、Pu逆抽出液である硝酸水相に硝酸ヒドロキシルアミン(HAN)あるいは硝酸ウラナス(U(IV))といった還元剤を添加して、4価のPuを完全に3価に還元することによって硝酸水相に逆抽出している。」
(2) 周知文献2の記載事項
本願出願前に日本国内又は外国において発行され、本審決において新たに引用される文献である特開平7-35894号公報(以下「周知文献2という」。)には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、使用済核燃料の再処理方法に関し、更に詳しくは溶媒抽出法で使用済核燃料からウラン、プルトニウム、超ウラン元素を分離回収すると共に、核分裂生成物のみを分離処理する再処理方法に関する。」
「【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために第1の本発明は、使用済核燃料を硝酸に溶解後この硝酸溶解液を、還元条件下でリン酸トリブチルと接触させることにより、該リン酸トリブチル中にウランを抽出し、抽出廃液中にプルトニウム、超ウラン元素および核分裂生成物を残留させる点に特徴がある。」
「【0007】
【作用】使用済核燃料は燃料の組成、燃焼度および冷却期間などによって異なるが、一般的な軽水炉燃料の場合はウラン、プルトニウムおよびその他の核分裂生成物と超ウラン元素が重量比で100:1:4で存在するものである。該使用済核燃料を溶解する硝酸は2~4規定の通常品で良い。リン酸トリブチルはドデカンあるいはケロシンに溶解し通常20~60%溶液として使用するものであればよい。該硝酸溶解液とリン酸トリブチルを接触させるにはミキサセトラまたはパルスカラムなどを挙げることができるが、液-液接触型の抽出器ならば特に限定されない。
【0008】液-液接触時に還元条件を作り出す必要があり例えば、硝酸ウラナス、硝酸ヒドロキシルアミン等の無機還元剤の添加が挙げられる。これらの物質を化学量論の3~8倍添加すればプルトニウムを4価から3価へと還元しリン酸トリブチルには溶解しにくくなる。また還元性の金属としてAl,Zn,Mg等の使用も考えられるが不純物質を増やすことにもなるので良くない。プルトニウムの還元を電気分解的に行っても差し支えない。」
(3) 周知の技術的事項の認定
前記(1)で摘記した周知文献1及び2の記載事項から、以下の事項が周知の技術的事項であると認められる(以下「周知の技術的事項」という。)。
<周知の技術的事項>
「使用済核燃料中のウランとプルトニウムを溶媒抽出法により分離するために4価のプルトニウムを3価に還元するに際し、還元剤を添加すること。」
第5 対比・判断
1 対比分析
本願発明と引用発明を対比する
(1) 本願発明の「軽水炉の使用済燃料から分離されたプルトニウム及び核分裂生成物を含む液、又は前記液を固体にしたものを貯蔵する貯蔵工程を含[む]」との発明特定事項について
ア 上記発明特定事項のうち「軽水炉の使用済燃料から分離されたプルトニウム及び核分裂生成物を含む液」について
引用発明の「核種分離工程」は、原子炉から取り出された使用済燃料を溶解した燃料溶解液に対して、「燃料溶解液に含まれるUを効率よく抽出可能な抽出用溶媒を用い、電解原子価調整工程を経た燃料溶解液から抽出用溶媒にUを選択的に分配させると共にPuその他の溶存核種を燃料溶解液に残留させ、Uと、Puその他の核種(FP、MAなど)とを分離回収する工程」であるから、本願発明の「軽水炉の使用済燃料から分離されたプルトニウム及び核分裂生成物を含む液」と、引用発明の「核種分離工程」後の「燃料溶解液」は、「原子炉の使用済燃料から分離されたプルトニウム及び核分裂生成物を含む液」である点で共通する。
イ 上記発明特定事項のうち、軽水炉の使用済燃料から分離されたプルトニウム及び核分裂生成物を含む「液、又は前記液を固体にしたものを貯蔵する貯蔵工程」について
本願発明の「液、又は前記液を固体にしたものを貯蔵する貯蔵工程」と、引用発明において、「核種分離工程」後の「燃料溶解液」中の「Puその他の核種の混合物」が、「軽水炉用MOX燃料の原料としてストックされる」ことは、「液中のプルトニウム及び核分裂生成物を貯蔵する貯蔵工程」である点で共通する。
ウ 以上ア及びイの検討によれば、本願発明と引用発明は、「原子炉の使用済燃料から分離されたプルトニウム及び核分裂生成物を含む液中のプルトニウム及び核分裂生成物を貯蔵する貯蔵工程を含[む]」点で共通する。
(2) 本願発明の「前記液は、前記使用済燃料を溶解した水溶液に還元剤を添加してプルトニウムを還元するとともに有機溶媒を接触させることにより、前記水溶液からウランを抽出し前記水溶液に残ったプルトニウム及び前記核分裂生成物を得る共除染工程を含む操作により作製するものであって分離プルトニウムとして扱われないものであり、実質的にウランを含まない」との発明特定事項について
ア 上記発明特定事項のうち「前記使用済燃料を溶解した水溶液に還元剤を添加してプルトニウムを還元する」点について
(ア) 引用発明の「燃料溶解液」は、使用済核燃料を硝酸水溶液で溶解して得られるものであるから、本願発明の「前記使用済燃料を溶解した水溶液」に相当する。
(イ) 引用発明の「電解原子価調整工程」は、当該「燃料溶解液に含まれるプルトニウムの原子価を基準とし、このプルトニウムの原子価が溶媒抽出効率の低い原子価となるまで」、「燃料溶解液に含まれる核種の電解還元を行う」から、上記(ア)も踏まえると、本願発明の「前記使用済燃料を溶解した水溶液に還元剤を添加してプルトニウムを還元する」ことと、「前記使用済燃料を溶解した水溶液においてプルトニウムを還元する」点で共通する。
イ 上記発明特定事項のうち「有機溶媒を接触させることにより、前記水溶液からウランを抽出し前記水溶液に残ったプルトニウム及び前記核分裂生成物を得る共除染工程」について
(ア) 引用発明の「核種分離工程」は、「抽出用溶媒として、ドデカンにより希釈されたTBP(リン酸トリブチル)を含有する有機溶媒(TBP溶媒)を用い、電解原子価調整工程を経た燃料溶解液から抽出用溶媒にUを選択的に分配させると共にPuその他の溶存核種を燃料溶解液に残留させ、Uと、Puその他の核種(FP、MAなど)とを分離回収する工程」であるから、上記ア(ア)も踏まえると、本願発明の「有機溶媒を接触させることにより、前記水溶液からウランを抽出し前記水溶液に残ったプルトニウム及び前記核分裂生成物を得る」ことに相当する。
(イ)a ここで、上記発明特定事項における「共除染工程」について検討すると、「共除染」とは一般に、「ウラン、プルトニウム及びFP(核分裂生成物)を含む溶解液から、FPを除去(分離)すること」(原子力ハンドブック編集委員会編、「原子力ハンドブック」第1版第1刷、株式会社オーム社、平成19年11月20日、p.666、右欄1-10行)を意味する。
b 一方、本願の明細書には、共除染工程に関して、「まず、軽水炉の使用済燃料は、硝酸により溶解して水溶液とする(S210:溶解工程)。そして、この水溶液に還元剤を投入してPuを3価に還元するとともに、有機溶媒を接触させることにより、ウラン(U)を有機溶媒側(有機相)に抽出する(S220:共除染工程)。この際、FP及びPuは、水溶液側(水相)に残る。そして、抽出されたUについては、更に精製する(S240:U精製工程)。」(【0044】)と記載され、「共除染」が、上記aのような一般的な意味とは異なる、ウラン、プルトニウム及びFP(核分裂生成物)を含む溶解液から、ウランを抽出し、プルトニウム及びFPを溶解液に残すことを含む、上記aの一般的な意味よりも広い意味で用いられていると解するのが相当である
c これに対して、引用発明の「核種分離工程」は、「燃料溶解液に含まれるUを効率よく抽出可能な抽出用溶媒を用い、電解原子価調整工程を経た燃料溶解液から抽出用溶媒にUを選択的に分配させると共にPuその他の溶存核種を燃料溶解液に残留させ、Uと、Puその他の核種(FP、MAなど)とを分離回収する工程であ[る]」から、これも「ウラン、プルトニウム及びFPを含む溶解液から、ウランを抽出し、プルトニウム及びFPを溶解液に残す」ものである。
d 上記b及びcの検討を踏まえると、引用発明の「核種分離工程」は、本願発明の「共除染工程」に相当するといえる。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)をまとめると、引用発明の「核種分離工程」は、本願発明の「有機溶媒を接触させることにより、前記水溶液からウランを抽出し前記水溶液に残ったプルトニウム及び前記核分裂生成物を得る共除染工程」に相当する。
ウ 上記発明特定事項のうち「前記液は」「共除染工程を含む操作により作製するもの」である点について
上記(1)で検討した引用発明の核種分離工程後の「燃料溶解液」は、電解原子価調整工程及び核種分離工程を含む操作により作製するものであるといえるから、上記ア及びイの検討も踏まえると、本願発明の上記発明特定事項と引用発明は、「前記液は、前記使用済燃料を溶解した水溶液においてプルトニウムを還元するとともに有機溶媒を接触させることにより、前記水溶液からウランを抽出し前記水溶液に残ったプルトニウム及び前記核分裂生成物を得る共除染工程を含む操作により作製するものであ[る]」点で共通する。
エ 上記発明特定事項のうち「前記液は」「分離プルトニウムとして扱われないものであ[る]」ことについて
引用発明の「核種分離工程」により「燃料溶解液から抽出用溶媒にUを選択的に分配させると共にPuその他の溶存核種を燃料溶解液に残留させ[た]」後の「燃料溶解液」は、Puと、その他の核種(FP、MAなど)を含む液であるところ、引用発明はまた、「Uについては高純度で単独回収しつつ、Puについては再利用されるまでFPやMAなどと共に高レベルの放射能を有する状態で貯蔵され、Puのみを抽出・精製することが困難なものとなる」ものであるから、本願の発明の詳細な説明の「本実施例によれば、Puは、FPが共存するため、線量率が高くなり、分離Puとしては扱われない。」(【0033】)との記載に照らして、分離Puとしては扱われないものである。
よって、本願発明と引用発明は、「前記液は」「分離プルトニウムとして扱われないものであ[る]」点で一致する。
オ 上記発明特定事項のうち「前記液は」「実質的にウランを含まない」ことについて
引用発明の「核種分離工程」は、「燃料溶解液に含まれるUを効率よく抽出可能な抽出用溶媒を用い、電解原子価調整工程を経た燃料溶解液から抽出用溶媒にUを選択的に分配させると共にPuその他の溶存核種を燃料溶解液に残留させ、Uと、Puその他の核種(FP、MAなど)とを分離回収する工程」であるから、「核種分離工程」後の「燃料溶解液」は、実質的にUを含まないものと解される。
よって、本願発明と引用発明は、「前記液は」「実質的にウランを含まない」点で一致する。
カ 以上ウ~オをまとめると、本願発明と引用発明は、「前記液は、前記使用済燃料を溶解した水溶液においてプルトニウムを還元するとともに有機溶媒を接触させることにより、前記水溶液からウランを抽出し前記水溶液に残ったプルトニウム及び前記核分裂生成物を得る共除染工程を含む操作により作製するものであって分離プルトニウムとして扱われないものであり、実質的にウランを含まない」点で共通する。
(3) 引用発明の「使用済核燃料の再処理方法」は、本願発明の「使用済燃料の処理方法」に相当する
2 一致点及び相違点
(1) 以上によれば、本願発明と引用発明は、以下の点において一致する。
【一致点】
「原子炉の使用済燃料から分離されたプルトニウム及び核分裂生成物を含む液中のプルトニウム及び核分裂生成物を貯蔵する貯蔵工程を含み、
前記液は、
前記使用済燃料を溶解した水溶液においてプルトニウムを還元するとともに有機溶媒を接触させることにより、前記水溶液からウランを抽出し前記水溶液に残ったプルトニウム及び前記核分裂生成物を得る共除染工程を含む操作により作製するものであって分離プルトニウムとして扱われないものであり、実質的にウランを含まない、使用済燃料の処理方法。」である点。
(2) 本願発明と引用発明は、以下の点で相違する。
【相違点1】
使用済燃料について、本願発明は「軽水炉」の使用済燃料であるのに対して、引用発明は「使用済核燃料」が軽水炉のものであるかどうか明示されてはいない点。
【相違点2】
貯蔵するものが、本願発明は、プルトニウム及び核分裂生成物を含む液、又は前記液を固体にしたものであるのに対して、引用発明は「Puその他の核種の混合物については、軽水炉用MOX燃料の原料としてストックされ[る]」ものであって、液、又は前記液を固体にしたものかどうか明示されてはいない点。
【相違点3】
プルトニウムを還元するに際し、本願発明は、「還元剤を添加」するのに対して、引用発明は、「電解還元を行う」点。
3 判断
(1) 相違点1について
引用発明の「使用済核燃料」は、ウランを含むものであり、また、「わが国」「における原子力エネルギー利用」(【0002】)による「使用済核燃料」が想定されていることと、わが国で稼働している原子炉はほぼ軽水炉であるとの技術常識から見て、軽水炉の使用済燃料であることは明らかである。また、そうでなくても、引用発明の「使用済核燃料」を、ごく一般的な「軽水炉の使用済燃料」として、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(2) 相違点2について
引用発明において、「燃料溶解液」のPuその他の核種の混合物を、軽水炉用MOX燃料の原料としてストックするに際しては、液のまま貯蔵するか、あるいは、当該液を固体にしたものを貯蔵するか、いずれかの形態とすることは、技術常識であるから(例えば固体にしたものについては、引用文献1にはUについてではあるが、【0024】に「Uは酸化物としての形態でストックされる」と記載されていることからも裏付けられる。)、液のまま貯蔵するか、あるいは、当該液を固体にしたものを貯蔵して、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
(3) 相違点3について
ア 引用発明の「電解原子価調整工程」は、「核種分離工程」においてUとPuとを分離するために、「Puの原子価が前記核種分離工程にて行われる溶媒抽出の効率が低くなる原子価になるまで、燃料溶解液中の各溶存核種の電解還元を行う工程」であって、「燃料溶解液に含まれるPuの原子価が3価となるよう電解還元操作を行い」、「Pu(IV)→Pu(III)という還元反応」が起こるものであるところ、上記第4の2(3)で認定したとおり、「使用済核燃料中のウランとプルトニウムを溶媒抽出法により分離するために4価のプルトニウムを3価に還元するに際し、還元剤を添加すること。」が周知の技術的事項である。
イ そして、「Puの原子価が3価となるように」する手段としては、引用発明のように「電解還元を行う」ことのほか、「還元剤を添加する」ことが周知の技術的事項であったところ、いずれの手段を採用するかは、発明を具体的に実施するに際して、当業者がそれぞれの方法の長所短所を考慮して適宜選択できる事項といえる。
ウ したがって、引用発明において、Pu(IV)→Pu(III)という還元反応により燃料溶解液に含まれるPuの原子価が3価となるようにするための手段として、電解還元に代えて、当該周知の技術的事項を採用し、上記相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
(3) 総合検討
そして、上記相違点を総合的に検討しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知の技術的事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
(4) 請求人の主張について
ア 請求人の主張内容
請求人は審判請求書で概略下記のように主張する。
引用文献1においては、核分裂生成物等を含む燃料溶解液に電解還元を施している点で、従来のピューレックス法とは異なる考え方から電解還元を採用していると考えられ、引用発明の電解還元の代わりに、引用文献2に記載の還元剤の添加をそのまま採用することはできないと考えられる。また、引用文献1の技術の一部である「電解還元」を引用文献2に記載の「還元剤」の「添加」で置き換えることには、還元の対象となる液が異なり、かつ、還元処理の原理が異なるため、阻害要因があると考えられる。さらに、周知文献2は、還元剤の添加に代えて、プルトニウムの還元を電気分解的に行ってもよいことを示しており、電気分解的に行う方法を還元剤の添加に置き換えることとは、置き換えの方向が反対である。
イ 請求人の主張についての検討
しかしながら、上記3(2)で検討したとおりであって、引用発明及び周知の技術的事項は、いずれも4価のPuを3価に還元する点で共通しており、引用文献1の全記載を参酌しても、当該還元を還元剤の添加により行うことを妨げる記載は見当たらないし、請求人の主張する「引用発明の電解還元の代わりに、引用文献2に記載の還元剤の添加をそのまま採用することはできないと考えられる」との主張の具体的な根拠は不明である。
すなわち、引用発明は「Uと、Puその他の核種(FP、MAなど)とを分離回収」することにより、「Uについては高純度で単独回収しつつ、Puについては再利用されるまでFPやMAなどと共に高レベルの放射能を有する状態で貯蔵され、Puのみを抽出・精製することが困難なものとなる」との作用効果を得る発明であって、4価のPuを3価に還元する手段として電解還元に代えて還元剤の添加を採用することにより、当該作用効果が得られなくなると考えるべき特段の事情は存在しない。
また、請求人は「還元の対象となる液が異なり、かつ、還元処理の原理が異なる」点を主張するが、引用発明及び周知の技術的事項は、いずれも4価のPuを3価に還元する点で共通することは上記のとおりであり、引用発明において還元剤を添加する手段を採用することによっても4価のPuを3価に還元することが実現できることは明らかなことであるし、この結果、Uと、Puその他の核種(FP、MAなど)とを分離回収することができることもまた明らかである。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。
4 進歩性についてのまとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-019522