特許拒絶査定不服審判
2023-013402
ジェネレータとその使用方法
- 審判番号
- 2023-013402
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-154873
- 請求日
- 2023年08月09日
- 審決日
- 2024年09月30日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
- 【請求人代理人】棚井 澄雄
- 【請求人代理人】橋本 宏之
- 【請求人代理人】山口 洋
- 【請求人代理人】沖田 壮男
- 【請求人代理人】荒 則彦
- 【請求人】株式会社 トリウムテックソリューション
- 【請求人代理人】棚井 澄雄
- 【請求人代理人】橋本 宏之
- 【請求人代理人】山口 洋
- 【請求人代理人】沖田 壮男
- 【請求人代理人】荒 則彦
- 審判長/審判官
- 審判長 波多江 進
- 審判官 松川 直樹
- 審判官 後藤 孝平
- 分類
- P18 .121-Z (G21C) / P18 .575-Z (G21C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-154873号「ジェネレータとその使用方法」拒絶査定不服審判事件〔令和2年2月27日出願公開、特開2020-30076号〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)8月21日を出願日とする出願であって、その手続の経緯の概略は次のとおりである。
令和4年 9月27日付け:拒絶理由通知書
同年12月 5日 :意見書、手続補正書の提出
令和5年 2月 6日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
同年 4月17日 :意見書、手続補正書の提出
同月26日付け:補正の却下の決定、拒絶査定
同年 8月 9日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和5年8月9日に提出された手続補正書でした補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年8月9日に提出された手続補正書でした補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の内容
令和5年8月9日に提出された手続補正書でした補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についての補正を含むものであって、本件補正前(令和4年12月5日に提出された手続補正書でした補正後をいう。)の特許請求の範囲の請求項1及びそれに対応する本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、それぞれ次の(1)及び(2)に示すとおりである。なお、下線は補正箇所を示す。
(1) 本件補正前
「【請求項1】
中性子の照射によってラジオアイソトープ物質となる、ラジオアイソトープ物質前駆体を備えた熱源と、
前記中性子の照射を制御する制御部と、を有し、
前記ラジオアイソトープ物質前駆体は、232Th、203Tlの少なくとも一方を含むことを特徴とするジェネレータ。」
(2) 本件補正後
「【請求項1】
中性子の照射によってラジオアイソトープ物質となる、ラジオアイソトープ物質前駆体を備えた熱源と、
前記中性子の照射を制御する制御部と、を有し、
前記ラジオアイソトープ物質前駆体は、中性子の照射によって233Uに転換される232Thを含むことを特徴とするジェネレータ。」
2 本件補正の適否についての当審の判断
(1) 本件補正の目的について
本件補正は、本件補正前の請求項1における「ラジオアイソトープ物質前駆体」について、「232Th、203Tlの少なくとも一方を含む」ものであったものを、「232Thを含む」と限定した上で、当該「232Th」が、さらに「中性子の照射によって233Uに転換される232Th」であると限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
したがって、本件補正のうち、本件補正前の請求項1についてする補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
(2) 独立特許要件について
本件補正のうち、本件補正後の請求項1についてする補正は、前記(1)のとおり、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正である。そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下検討する。
ア 本件補正発明
本件補正発明は、前記1(2)の本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。
イ 引用文献に記載された事項及び引用発明の認定
(ア) 引用文献1に記載された事項
a 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に発行された米国特許出願公開第2015/0357067号明細書(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当合議体が付したものである。日本語訳は当合議体が作成した。以下同じ。)。
「SUMMARY
[0003] Unfortunately, there are deficiencies in conventional thermoelectric generators. Many thermoelectric generators use radioisotope fuels as a source of heat. However, the radioisotope fuels in such generators immediately start to decay once the generators are assembled. Thus, conventional thermoelectric generators constructed with radioisotope fuels generally cannot be stored for extended periods of time before they are used. In addition, conventional thermoelectric generators fueled by radioisotopes require high purity radioisotopes such as plutonium. Production of high purity plutonium is prohibitively expensive. Additionally, handling and storage of plutonium requires extreme caution and costly safeguards. Further, spent plutonium waste is radioactive and, as a result, handling, disposal and storage of spent material is problematic and costly due to the prolonged half-life of plutonium isotopes.
[0004] In contrast with conventional approaches, improved techniques are directed to thermoelectric generators which employ a safe, initially dormant, stable, non-radioactive fuel sample which is activated on-demand by a neutron source which initiates and controls activation of the fuel sample. The improved techniques thus allow thermoelectric generators to be fully assembled and stored for extended periods of time before they are deployed for use, and then activated on demand only when the need arises for them to generate power.
[0005] In some examples, the fuel source includes radioactively stable Bismuth 209 (Bi209), which converts to Bi210 when it is exposed to neutron radiation. The Bi210 then radioactively decays into Polonium 210 (Po210), which in turn radioactively decays into stable lead (Pb206). Thus, not only is the fuel sample initially stable, but also it is stable after the fuel is spent. Moreover, radioactive decay of Po210 merely releases alpha particles, which are generally harmless to humans unless ingested or inhaled.」
(日本語訳:
概要
[0003] 残念ながら、従来の熱電発電装置には欠陥がある。熱電発電装置の多くは、熱源として放射性同位元素燃料を使用する。しかし、このような発電装置の放射性同位元素燃料は、発電装置が組み立てられると直ちに崩壊し始める。そのため、放射性同位元素燃料を使用した従来の熱電発電装置は、通常、使用前に長期保管することができない。さらに、放射性同位元素を燃料とする従来の熱電発電装置は、プルトニウム等の高純度の放射性同位元素を必要とする。高純度プルトニウムの生成には、法外なコストがかかる。さらに、プルトニウムの取り扱いと貯蔵には、細心の注意と高コストの安全対策が必要である。さらに、使用済みプルトニウム廃棄物は放射性であり、その結果、プルトニウム同位体の半減期が長いため、使用済み材料の取り扱い、処分、保管には問題があり、コストがかかる。
[0004] 従来のアプローチとは対照的に、改良技術は、燃料試料の放射化を開始し制御する中性子源によってオンデマンドで放射化される、安全で、初期休止状態で、安定した非放射性の燃料試料を使用する熱電発電装置を対象とする。こうして改良技術により、熱電発電装置を完全に組み立て、使用のため配備する前に長期間保管し、発電する必要が生じたときのみオンデマンドで放射化することができる。
[0005] いくつかの実施例では、燃料源は、中性子線に曝されるとBi210に変換される、放射性が安定なビスマス209(Bi209)を含む。Bi210はその後、放射性崩壊してポロニウム210(Po210)となり、次に放射性崩壊して安定な鉛(Pb206)となる。このように、燃料試料は初期に安定しているだけでなく、燃料が使用された後も安定している。さらに、Po210の放射性崩壊は単にアルファ粒子を放出するだけであり、摂取または吸入しない限り、一般に人体には無害である。)
「[0020] FIG. 1 shows a block diagram of a thermoelectric generator 100, which includes a neutron source 120 that receives an activation input 152. The neutron source 120 is positioned in relation to a fuel sample 110 such that the fuel sample 110 is exposed to neutrons 122, which are emitted from the neutron source 120. A set of thermoelectric converters 130 (i.e., one or more thermoelectric converters) are positioned in relation to the fuel sample 110 to convert heat 114 to electricity 132.
(・・・途中省略・・・)
[0023] In operation, the neutron source 120 receives the activation signal 152. In response to receiving the activation signal 152, the neutron source 120 generates neutrons 122, which impinge upon the fuel sample 110. The neutrons 122 convert atoms of Bi209 in the fuel sample to Bi210. A radioactive decay process ensues whereby atoms of Bi210 decay to Po210, which in turn decay into Pb206, releasing alpha particles and heat 114. The set of thermoelectric converters 130 convert energy of the heat 114 to energy of electricity 132. Power management 140 may optionally regulate the electricity 132 (e.g., to produce stable output voltage). In some examples, multiple thermoelectric converters 130 are used, and the power management 140 may further combine outputs to form series and/or parallel output combinations. Further, multiple generators like the generator 100 may be used in combination, with the power management 140 operating to regulate and/or combine electricity 132 from different generators 100.
[0024] Other materials besides Bi209 may be used in the fuel sample 110, such as Bi208. However, Bi208 reacts much more slowly than Bi209, owing to the fact that Bi209 must gain two neutrons before it can decay into Po210 and then into lead. In addition, catalysts such as Beryllium (Be) may be added to the fuel sample 210 to amplify neutron generation initiated by the neutron source 120. In an example, the beryllium is formed in a thin film coating over the Bi209.
[0025] In some examples, the control circuitry 150 is coupled to the neutron source 120 to provide the activation input 152 to the neutron source 120 and thereby to initiate the radioactive decay reactions in the fuel sample 110 and conversion of thermal energy to electrical energy 132 on demand. The control circuitry 150 may be implemented with a microcontroller or microprocessor; however, this is not required.(・・・以下省略・・・)」
(日本語訳:[0020] 図1は、放射化入力152を受信する中性子源120を含む熱電発電装置100のブロック図である。中性子源120は、燃料試料110が中性子源120から放出される中性子122に曝されるように、燃料試料110に対して位置決めされる。一組の熱電変換装置130(すなわち、1つ以上の熱電変換装置)は、熱114を電気132に変換するために燃料試料110に対して位置決めされる。
(・・・途中省略・・・)
[0023] 動作中、中性子源120は放射化信号152を受信する。放射化信号152の受信に応答して、中性子源120は中性子122を発生させ、この中性子は燃料試料110に衝突する。中性子122は、燃料試料中のBi209の原子をBi210に変換する。放射性崩壊プロセスが起こり、Bi210の原子が崩壊してPo210になり、次にこれが崩壊してPb206になって、アルファ粒子と熱114を放出する。一組の熱電変換装置130は、熱114のエネルギーを電気132のエネルギーに変換する。電力管理140は、任意に、(例えば、安定した出力電圧を生成するために)電気132を調整することができる。いくつかの実施例では、複数の熱電変換装置130が使用され、電力管理140はさらに出力を組み合わせて直列及び/又は並列の出力の組み合わせを形成し得る。さらに、異なる発電装置100からの電気132を調整及び/又は結合するように動作する電力管理140によって、発電装置100のような複数の発電装置を組み合わせて使用し得る。
[0024] 燃料試料110には、Bi209以外の材料、例えばBi208等を使用してもよい。しかし、Bi209が崩壊してPo210になり、さらに崩壊して鉛になる前に中性子を2個獲得しなければならないため、Bi208はBi209よりもはるかに反応が遅い。さらに、中性子源120によって開始される中性子発生を増幅させるために、ベリリウム(Be)等の触媒を燃料試料210に添加してもよい。一実施例では、ベリリウムはBi209上に薄膜コーティングで形成される。
[0025] いくつかの実施例では、制御回路150は中性子源120に結合され、中性子源120に放射化入力152を提供し、それにより燃料試料110において放射性崩壊反応を開始させ、熱エネルギーをオンデマンドで電気エネルギー132に変換する。制御回路150は、マイクロコントローラまたはマイクロプロセッサで実装し得るが、これは必須ではない。(・・・以下省略・・・)
「[0029] In some examples, the control circuitry 150 is coupled to the communication receiver 170 to receive commands from a remote system (not shown). For example, the generator 100 may be deployed on a space vehicle and the remote system may be a ground based control center. The remote system transmits a remotely generated activation signal 172, which the communication receiver 170 receives and hands off to the control circuitry 150. When the control circuitry 150 receives the remotely generated activation signal 172, the control circuitry 150 proceeds to generate the activation signal 152 to activate the fuel sample 110 and initiate (or re-initiate) power generation.」
(日本語訳:[0029] いくつかの実施例では、制御回路150は、遠隔システム(図示せず)からコマンドを受信するために、通信受信機170に結合されている。例えば、発電装置100は宇宙船に搭載され、遠隔システムは地上のコントロール・センターであり得る。遠隔システムは遠隔で生成された放射化信号172を送信し、通信受信機170はこれを受信して制御回路150に渡す。制御回路150が遠隔で生成された放射化信号172を受信すると、制御回路150は燃料試料110を放射化し、発電を開始(または再開)するため、放射化信号152の生成を進める。)
Fig.1
「
[図:0001417267000001.jpg]
」
(Fig.1の日本語訳:
[図:0001417267000002.jpg]
)
b 引用発明の認定
前記aに摘記した引用文献1の記載事項によれば、引用文献1には、[0020]~[0029]及び図1に記載された熱電発電装置100として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(なお、認定の根拠となる段落を参考までに括弧内に付してある。また、Bi、Po及びPbの質量数は、引用文献1では、Bi209、Bi210、Po210及びPb206のように右の肩付きで表記されているところ、一般的な表記に従って、209Bi、210Bi、210Po及び206Pbのように左の肩付きで表記した。)。
<引用発明>
「燃料試料の放射化を開始し制御する中性子源によってオンデマンドで放射化される、安全で、初期休止状態で、安定した非放射性の燃料試料を使用する熱電発電装置120であって、([0004])
熱電発電装置100は、放射化入力152を受信する前記中性子源120を含み、前記中性子源120は、前記燃料試料110が前記中性子源120から放出される中性子122に曝されるように、前記燃料試料110に対して位置決めされ、一組の熱電変換装置130は、熱114を電気132に変換するために前記燃料試料110に対して位置決めされ、([0020])
動作中、前記中性子源120は前記放射化信号152を受信し、前記放射化信号152の受信に応答して、前記中性子源120は中性子122を発生させ、この中性子は前記燃料試料110に衝突し、前記中性子122は、前記燃料試料110中の209Bi原子を210Biに変換し、放射性崩壊プロセスが起こり、前記210Biの原子が崩壊して210Poになり、次にこれが崩壊して206Pbになって、アルファ粒子と熱114を放出し、前記一組の熱電変換装置130が、前記熱114のエネルギーを電気132のエネルギーに変換し、([0023])
前記燃料試料110には、209Bi以外の材料を使用してもよく、([0024])
制御回路150が前記中性子源120に結合され、前記中性子源120に前記放射化入力152を提供し、それにより前記燃料試料110において放射性崩壊反応を開始させ、熱エネルギーをオンデマンドで電気エネルギー132に変換し、([0025])
宇宙船に搭載される([0029])
熱電発電装置100。」
(イ) 引用文献2に記載された事項
a 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に発行された特表2002-504231号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(a) 「Appendix 1
中性子中性子発生装置を使って生成された放射性核種の一般的な分析を実施した。ターゲット元素は、高価だが同位元素濃縮によって任意に選択された天然元素でなければならない。中性子捕獲過程は、不安定で、1分から1年の間で小さめに選択されたリーズナブルな寿命を有する娘元素につながる。次いで、次の娘元素は安定かあるいは不安定でありうる。それが安定なならば、その過程は試料の“放射化”として定義されている。第二の同位元素分離は非現実的なので、放射化された化合物は直惨使用しなければならない。この実用的な例は、天然ヨウ素化合物からの128Iの放射化(127I→128I)である。代わりに、第一娘元素が、適当な技術のよって分離することが可能な他の不安定な(同じ時間窓が使用された)化学種に崩壊するならば、本願の方法は、実際の応用に対して純度の高い分離された放射性核種を生成する方法を構成する。実際の例として、連鎖反応98Mo→99Mo→99aTcを挙げる。」(78頁1~13行)
(b) Appendix 1の表のうち85頁に記載された箇所は以下のとおりである。
「
[図:0001417267000003.jpg]
[図:0001417267000004.jpg]
」
(c) Appendix 1の表のうち85頁に記載された箇所から見てとれる事項
上記(a)の記載を踏まえて、上記(b)の表を見ると、
Bi-209は、中性子捕獲過程でBi-210(半減期5.013日)につながること。また、当該Bi-210はPo-210(半減期138.4日)につながること。
Th-232は、中性子捕獲過程でTh-233(半減期22.3分)につながること。また、当該Th-233はPa-233(半減期26.97日)につながること。
b 引用文献2に記載された技術的事項の認定
前記aに摘記した引用文献2の記載事項によれば、引用文献2には、次の技術的事項(以下「引用文献2に記載された技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
<引用文献2に記載された技術的事項>
「中性子発生装置を使って生成された放射性核種の一般的な分析を実施し、ターゲット元素は天然元素でなければならず、中性子捕獲過程は、不安定で、1分から1年の間で小さめに選択されたリーズナブルな寿命を有する娘元素につながり、次いで、次の娘元素は安定かあるいは不安定であり、(78頁1~4行)
Bi-209は、中性子捕獲過程でBi-210(半減期5.013日)につながり、また、当該Bi-210はPo-210(半減期138.4日)につながること、及び、
Th-232は、中性子捕獲過程でTh-233(半減期22.3分)につながり、また、当該Th-233はPa-233(半減期26.97日)につながること。(前記a(c))」
ウ 対比
(ア) 対比分析
a 「中性子の照射によってラジオアイソトープ物質となる、ラジオアイソトープ物質前駆体を備えた熱源」との発明特定事項について
引用発明の「210Bi」は、「放射性崩壊プロセスが起こり、前記210Biの原子が崩壊して210Poにな[る]」ことを踏まえると、本件補正発明の「ラジオアイソトープ物質」に相当する。
また、引用発明の「中性子122が、燃料試料中の209Biの原子を」「変換し[て]」「210Bi」となることは、本件補正発明の「中性子の照射によってラジオアイソトープ物質となる」ことに相当し、引用発明の「209Bi」は、本件補正発明の「ラジオアイソトープ物質前駆体」に相当する。
さらに、引用発明の「燃料試料110」は、「前記燃料試料110中の209Bi原子を210Biに変換し、放射性崩壊プロセスが起こり、前記210Biの原子が崩壊して210Poになり、次にこれが崩壊して206Pbになって、アルファ粒子と熱114を放出[する]」ことを踏まえると、本件補正発明の「ラジオアイソトープ物質前駆体を備えた熱源」に相当する。
したがって、引用発明は上記発明特定事項を備える。
b 「前記中性子の照射を制御する制御部」との発明特定事項について
引用発明の「制御回路150」は、本件補正発明の「制御部」に相当する。
そして、引用発明の「制御回路150」は、「前記中性子源120に結合され、前記中性子源120に前記放射化入力152を提供す[る]」ものであり、「動作中、前記中性子源120は前記放射化信号152を受信し、前記放射化信号152の受信に応答して、前記中性子源120は中性子122を発生させ、この中性子は前記燃料試料110に衝突[する]」ことからみて、中性子122を発生させ燃料試料110へ衝突させること、すなわち、中性子の照射を制御しているといえる。
したがって、引用発明は上記発明特定事項を備える。
c 「前記ラジオアイソトープ物質前駆体は、中性子の照射によって233Uに転換される232Thを含む」との発明特定事項について
ラジオアイソトープ物質前駆体について、本件補正発明は、「中性子の照射によって233Uに転換される232Thを含む」のに対して、引用発明は、206Pbになる209Biである点で相違する。
d 「ジェネレータ」との発明特定事項について
引用発明の「熱電発電装置100」は、本件補正発明の「ジェネレータ」に相当する。
(イ) 一致点及び相違点
前記(ア)の対比分析の結果をまとめると、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、それぞれ次のa及びbに示すとおりである。
a 一致点
「中性子の照射によってラジオアイソトープ物質となる、ラジオアイソトープ物質前駆体を備えた熱源と、
前記中性子の照射を制御する制御部と、を有する、
ジェネレータ」である点。
b 相違点
ラジオアイソトープ物質前駆体について、本件補正発明は、「中性子の照射によって233Uに転換される232Thを含む」のに対して、引用発明は、206Pbになる209Biである点。
エ 判断
(ア) 相違点についての判断
引用発明は、「安定した非放射性」の「燃料試料110」として「209Bi」を用い、当該「燃料試料110」が「放射化を開始し制御する中性子源120によってオンデマンドで放射化され」、「209Bi原子を210Biに変換し、放射性崩壊プロセスが起こり、前記210Biの原子が崩壊して210Poになり、次にこれが崩壊して206Pbになって、アルファ粒子と熱114を放出[する]」反応を利用して熱エネルギーを得ているが、「燃料試料110には、209Bi以外の材料を使用してもよ[い]」とされている。そして、引用発明に接した当業者は、「209Bi以外の材料」として、実質的に非放射性の安定な同位体であって、中性子の照射によって放射性同位体となるものであれば、引用発明の燃料試料110として代替できることを把握することができる。
そして、そのような安定な同位体としては、例えば引用文献2に記載された技術的事項にも見られるように、232Thは209Biとともによく知られていることを勘案すれば、引用発明において「燃料試料110」として「209Bi」に代えて「232Th」を採用することは当業者が容易に想到し得たことである。
ここで、引用文献2に記載された技術的事項に見られるように、「Th-232は、中性子捕獲過程でTh-233(半減期22.3分)につながり、また、当該Th-233はPa-233(半減期26.97日)につながる」ところ、当該Pa-233(半減期26.97日)はβ崩壊してU-233に変換されることは技術常識である(必要であれば後記参考文献参照)。
したがって、引用発明において、引用文献2に記載された技術的事項を踏まえて、「燃料試料110」として「209Bi」に代えて、中性子の照射によって233Uに転換される232Thを採用して、前記相違点に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
【参考文献】:第17回原子力委員会資料 第2-1号、「トリウム利用技術とその研究開発について」 内閣府 原子力政策担当室、平成25年5月9日、1頁
URL:https://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2013/siryo17/siryo2-1.pdf
「トリウムとは」、「Th-232自体は熱中性子を照射しても核分裂せずにTh-233となり、Th-233はPa-233を経て2回ベータ崩壊して、核分裂し易いU-233に変換される」
参考文献の1頁に掲載されている図表等
「
[図:0001417267000005.jpg]
」
(イ) 効果について
本件補正発明の効果としては、本件補正発明の構成が奏するものとして、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて当業者が予測し得ないものとはいえず、顕著なものともいえない。
したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(ウ) 請求人の主張について
a 請求人の主張内容
請求人は、審判請求書において、以下の旨を主張している。
(a)引用発明では、ラジオアイソトープ物質前駆体が、安定な206Pbに転換されることが重要視されている。そのため、引用文献2に記載された技術的事項で232Thが挙げられていたとしても、連鎖反応が続いて不安定な233Uに変換される232Thを、ラジオアイソトープ物質前駆体として敢えて選択する蓋然性はない。
(b)引用発明の209Biの崩壊過程で発生する210Poは、233Uの100億倍の放射能を有し、毒性が強く、引用発明の209Bは、崩壊過程で210Poが発生しない本件補正発明の232Thに比べて、安全性が劣る。
(c)ラジオアイソトープ物質前駆体の候補材料として、あらゆる放射性元素を記載することは容易であるが、記載されている放射性元素を試すことは、甚大な手間とコストを必要とし、決して容易ではない。中性子照射によって崩壊する性質は同じであっても、その崩壊過程において特有の現象が起きるものであるから、放射性元素の崩壊過程を詳しく調べた上で、所定の用途において有効であると判断される放射性元素を選択するものである。232Thの有効性が引用文献1に具体的に示されていない以上、引用文献1の記載に基づいて232Thが容易に選択されることはあり得ない。
b 請求人の主張についての検討
請求人の主張について検討する。
(a)前記a(a)の点について
請求人の主張は、引用文献1の「燃料が使用された後も安定している」([0005])との記載に基づくものと思われるが、この記載は、Bi209を含む燃料源とした場合のより有利な効果を説明するにとどまるものであり、請求人が主張するように燃料が使用された後に安定であることが重要視されているとまではいえない。このことは、引用文献1の請求項1において、燃料源がBi209を含むことや、燃料が使用された後に安定であることが特段特定されていないことからも首肯できる。
(b)前記a(b)の点について
本件補正発明の232Thは、232Thから233Uに至るまでに233Pa(半減期27.0日)を経ているところ(上記(ア)の参考文献の1頁参照。)、その半減期から見て、233Paの放射能や毒性が210Po(半減期138.4日)に比べて特段低いとは認められず、引用発明の209Biは、崩壊過程で210Poが発生しない本件補正発明の232Thに比べて、安全性が劣る旨の請求人の主張は根拠がないものである。
(c)前記a(c)の点について
当業者が引用発明において「209Bi以外の材料」を検討するにあたっては、中性子吸収断面積及び変換後の放射性崩壊プロセスの半減期といった核反応の特性や、天然元素としての資源量等のコストも考慮して選択されることは明らかであるところ、中性子吸収により放射性同位体となる安定な同位体としての232Thは、いわゆるトリウム燃料サイクルの出発となる安定な同位体として核反応の特性も含めてきわめてよく知られた同位体であり、その資源量が豊富であることも本願出願日当時の技術常識である(必要であれば、前記(ア)でも挙げた参考文献の2頁の「トリウムの利用について(1)(丸付き数字の1)」、「<資源>・レアアース資源であるモザナイト等の鉱石からとれる ・U資源と異なる資源分布を持ち、米国では近年賦存量増加が発表されたほか、ノルウェイも自国資源として利用を検討OECD/NEAの報告(2011年)では未発見のものを含め約600万トンと報告されている(ウランは未発見を含め約1,750万トン)との記載参照。)。
したがって、引用文献2に記載された技術的事項及び当該技術常識を踏まえれば、232Thの有効性が引用文献1に具体的に示されていなくとも、当業者が「209Bi以外の材料」として232Thを選択することに甚大な手間とコストを必要とするとまではいえない。
(d)以上のとおり、前記aの請求人の主張はいずれも採用できない。
オ 独立特許要件についての当審の判断のまとめ
以上検討のとおり、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
(3) 本件補正の適否についての当審の判断のまとめ
前記(2)に示したとおり、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、前記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(前記第2の1(1)参照)に記載された事項により特定されるとおりのものである。
2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明についての理由(進歩性の欠如)の概要は、次のとおりである。
理由(進歩性) 本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において発行された下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2又は3に記載された技術的事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
1.米国特許出願公開第2015/0357067号明細書
2.特表2002-504231号公報
3.米国特許出願公開第2007/0297554号明細書
3 引用文献に記載された事項及び引用発明の認定
引用文献1、2に記載された事項、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項の認定は、前記第2[補正の却下の決定の理由]2(2)イにおいて示したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、本件補正発明から「232Th」が、「中性子の照射によって233Uに転換される232Th」ものであるとの限定を除き、ラジオアイソトープ物質前駆体の選択肢として「203Tl」を追加したものである。
そして、本願発明の発明特定事項を全て含み、当該発明特定事項の一部を限定したものに相当する本件補正発明が、前記第2[補正の却下の決定の理由]2(2)において説示したとおり、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同様の理由により、本願発明も、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-013402