特許無効審判
2019-800099
電鋳管の製造方法及び電鋳管
- 審判番号
- 2019-800099
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2002-278121外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 3889689
- 請求日
- 2019年11月21日
- 審決日
- 2023年12月18日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 分類
- P1123.536-YAA(C25D) / P1123.537-YAA(C25D) / P1123.121-YAA(C25D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第123条第1項第4号、特許法第126条第6項、特許法第123条第1項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第134条の2第6項、特許法第36条第5項、特許法第2条第3項第1号、特許法第134条の2第1項、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第3889689号「電鋳管の製造方法及び電鋳管」の特許無効審判事件についてされた令和3年10月18日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において請求項6及び9に係る発明に対する部分の審決取消しの判決(令和3年(行ケ)第10140号、令和4年11月16日)があったので、審決が取り消された部分の請求項6及び9に係る発明についてさらに審理のうえ、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第3889689号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔6~9〕について訂正することを認める。
特許第3889689号の請求項6及び9に係る発明についての審判請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許3889689号(以下、「本件特許」という。)は、平成14年9月24日の出願(特願2002-278121号。以下、「本願」という。)であって、平成18年12月8日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、平成29年9月19日に本件特許についての訂正審判(訂正2017-390094)が請求され、同年11月24日に当該訂正審判についての訂正審決が確定しているものである。
本件は、これに対し、株式会社ナンシンから令和1年11月21日付けで請求項1、5、6及び9に係る発明の特許について請求された特許無効審判であって、特許無効審判が請求された以降の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和1年11月21日 審判請求書、証拠説明書(1)、甲第1~8号証提出
令和2年 2月10日 審判事件答弁書提出
同年 2月13日 上申書(被請求人)提出
同年 3月10日 証拠説明書、乙第1~9号証提出
同年 5月18日付け 審尋
書面審理通知書
同年 6月 2日 上申書(2)(被請求人)提出
同年 6月11日 上申書(請求人)提出
同年 7月27日 回答書(請求人)提出
同年 同月 同日 回答書(被請求人)、証拠説明書(2)、乙第10~19号証提出
同年 8月17日付け 審理事項通知書
同年 同月18日 証拠説明書(2)、甲第14~20号証提出
同年 同月25日 口頭陳述要領書(請求人)提出
同年 同月25日 口頭陳述要領書(被請求人)、証拠説明書(3)、乙第20~22号証提出
同年 9月 4日 口頭審尋
同年 9月25日 上申書(3)(被請求人)、証拠説明書(4)、乙第23~28号証提出
同年 9月28日 営業秘密に関する申出書(被請求人)提出
同年10月 2日 上申書(4)(被請求人)、証拠説明書(5)、乙第29号証提出
同年10月 5日 営業秘密に関する申出書(2)(被請求人)提出
同年10月 9日 上申書(請求人)提出
令和3年 1月18日付け 審決の予告
同年 3月29日 訂正請求書、上申書(5)(被請求人)、証拠説明書(6)、乙第30~33号証提出
同年 5月24日付け 訂正拒絶理由通知書
同年 同月 同日付け 職権審理結果通知書
同年 6月24日 意見書(被請求人)、証拠説明書(7)、乙第34号証の1~38号証提出
同年10月18日付け 審決(以下、「原審決」という。)
(結論
特許第3889689号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項5及び9について訂正することを認める。
特許第3889689号の請求項1、5、6及び9に係る発明についての審判請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。)
同年11月22日 原審決の取消しを求める訴えの提起(知的財産高等裁判所、令和3年(行ケ)第10140号)(請求人)
令和4年11月16日 判決言渡し
(主文
1 特許庁が無効2019-800099号事件について令和3年10月18日にした審決中、請求項6及び9に係る部分を取り消す。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを2分し、その1を原告の、その余を被告の各負担とする。)
同年11月30日 上告及び上告受理申立て(被請求人)
令和5年 1月30日 上告取下(被請求人)
同年 6月15日 上告不受理(決定)
同年 6月21日 訂正請求申立書(被請求人)提出
同年 7月10日付け 通知書(訂正請求のための期間指定通知)
同年 7月21日 訂正請求書提出
同年 8月10日 上申書(請求人)提出
なお、請求人に対し、令和5年7月31日付けで、同年7月21日提出の訂正請求書副本を送付するとともに、期間を指定して意見を求めたが、請求人から指定期間内に応答がなかった。
また、以上のとおり、原審決において、「請求項5及び9について訂正することを認める」、「請求項1、5、6及び9に係る発明についての審判請求は、成り立たない」と結論付けたところ、令和4年11月16日に知的財産高等裁判所において、「1 特許庁が無効2019-800099号事件について令和3年10月18日にした審決中、請求項6及び9に係る部分を取り消す。 2 原告のその余の請求を棄却する」との判決言渡しがあり、この判決(以下、「本件取消判決」という。)はその後確定した。
よって、原審決のうち、請求項1及び5に係る部分については確定した(それにより請求項5についての訂正も確定した)のに対して、請求項6及び9に係る部分については取消しが確定したので、本審決において、請求項6及び9に係る発明についての審判請求のみ検討する。
第2 訂正請求について
1 訂正の請求の趣旨
令和5年7月21日提出の訂正請求書(以下、単に「訂正請求書」という。)により被請求人が行った訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)の趣旨は、「特許第3889689号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項6~9について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正の内容
訂正請求書に記載された本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりのものである。
なお、本件訂正前の特許第3889689号の特許請求の範囲の請求項1~4及び6~9は、訂正2017-390094号の訂正審決により訂正が認められた訂正特許請求の範囲の請求項1~4及び6~9に記載されたとおりのものである。また、請求項5については、上記第1のとおり訂正は確定しているため、令和3年3月29日提出の訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項5に記載されたとおりのものである。
また、令和3年3月29日提出の訂正請求書に係る訂正請求は、請求項5及び9について訂正することを求めるものであるところ、このうち、請求項9について訂正することを求める部分(未確定)については、本件訂正請求がされたため、特許法第134条の2第6項の規定により、取り下げられたものとみなす。
さらに、下線は訂正箇所を示すために当審で付した。
(1)訂正事項1
訂正前の請求項6に
「外周面に電着物または囲繞物とは異なる材質の金属の導電層を設けた細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物を形成し、前記細線材の一方又は両方を引っ張って断面積を小さくなるよう変形させ、前記変形させた細線材と前記導電層の間に隙間を形成して前記変形させた細線材を引き抜いて、前記電着物または前記囲繞物の内側に前記導電層を残したまま細線材を除去して製造される電鋳管であって、
前記導電層は、前記電着物または前記囲繞物より電気伝導率が高いものとし、
前記細線材を除去して形成される中空部の内形状が断面円形状又は断面多角形状であって、前記電着物または前記囲繞物の肉厚が5μm以上50μm以下であることを特徴とする、
電鋳管。」とあるのを、
「外周面に電着物または囲繞物とは異なる材質の金属の導電層を設けた金属線材である細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物を形成し、前記細線材の一方又は両方を引っ張って断面積を小さくなるよう変形させ、前記変形させた細線材と前記導電層の間に隙間を形成して前記変形させた細線材を引き抜いて、前記電着物または前記囲繞物の内側に前記導電層を残したまま細線材を除去して製造される電鋳管を製造する方法であって、
前記導電層は、電解メッキで形成されたものであり、前記電着物または前記囲繞物より電気伝導率が高いものとし、
前記細線材を除去して形成される中空部の内形状が断面円形状又は断面多角形状であって、前記電着物または前記囲繞物の肉厚が5μm以上50μm以下である電鋳管を製造することを特徴とする、
電鋳管の製造方法。」に訂正する。
すなわち、訂正事項1は、訂正前の請求項6の発明特定事項である「細線材」について、「金属線材である」ことを特定する訂正事項(以下、「訂正事項1-1」という。)、訂正前の請求項6の発明特定事項である「導電層」について、「電解メッキで形成されたものであ」ることを特定する訂正事項(以下、「訂正事項1-2」という。)、及び、訂正前の請求項6が、「電鋳管」についての発明であったものを、「電鋳管の製造方法」についての発明に変更する訂正事項(以下、「訂正事項1-3」という。)からなるものである。
また、請求項6を引用する請求項7、8も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
訂正前の請求項7に
「細線材を除去して形成される中空部の内形状が断面円形状を有するものは、中空部の内径が10μm以上85μm以下であり、中空部の内形状が断面多角形状を有するものは、中空部の内接円の直径が10μm以上85μm以下であることを特徴とする、
請求項6記載の電鋳管。」とあるのを
「細線材を除去して形成される中空部の内形状が断面円形状を有するものは、中空部の内径が10μm以上85μm以下であり、中空部の内形状が断面多角形状を有するものは、中空部の内接円の直径が10μm以上85μm以下であることを特徴とする、
請求項6記載の電鋳管の製造方法。」に訂正する。
請求項7を引用する請求項8も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
訂正前の請求項8に
「導電層は、異なる金属によって二層にしたことを特徴とする、
請求項6又は7記載の電鋳管。」とあるのを
「導電層は、異なる金属によって二層にしたことを特徴とする、
請求項6又は7記載の電鋳管の製造方法。」に訂正する。
(4)訂正事項4
訂正前の請求項9に
「電着物または囲繞物はニッケルとし、導電層は金としたことを特徴とする、
請求項6又は7記載の電鋳管。」とあるのを
「外周面に電着物または囲繞物とは異なる材質の金属の導電層を設けた金属線材である細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物を形成し、前記細線材の一方又は両方を引っ張って断面積を小さくなるよう変形させ、前記変形させた細線材と前記導電層の間に隙間を形成して前記変形させた細線材を引き抜いて、前記電着物または前記囲繞物の内側に前記導電層を残したまま細線材を除去してコンタクトプローブ用の管として使用可能な電鋳管を製造する方法であって、
前記導電層は、電解メッキで形成されたものであり、前記電着物または前記囲繞物より電気伝導率が高いものとし、
前記細線材を除去して形成される中空部の内形状が断面円形状又は断面多角形状であって、前記電着物または前記囲繞物の肉厚が5μm以上50μm以下であり、
前記電着物または前記囲繞物はニッケルとし、前記導電層は金としたことを特徴とする、
コンタクトプローブ用の管として使用可能な電鋳管の製造方法。」に訂正する。
すなわち、訂正事項4は、訂正前の請求項6又は7を引用する訂正前の請求項9のうち、訂正前の請求項6を引用するものについて、訂正前の請求項6に記載された事項を繰り入れて独立形式の請求項とする訂正事項(以下、「訂正事項4-1」という。)、訂正前の請求項9の発明特定事項である「細線材」について、「金属線材である」ことを特定する訂正事項(以下、「訂正事項4-2」という。)、訂正前の請求項9の発明特定事項である「電鋳管」について、「コンタクトプローブ用の管として使用可能な」ことを特定する訂正事項(以下、「訂正事項4-3」という。)、訂正前の請求項9の発明特定事項である「導電層」について、「電解メッキで形成されたものであ」ることを特定する訂正事項(以下、「訂正事項4-4」という。)、訂正前の請求項9の発明特定事項である「電着物」、「囲繞物」及び「導電層」に「前記」を付加する訂正事項(以下、「訂正事項4-5」という。)、及び、訂正前の請求項9が、「電鋳管」についての発明であったものを、「電鋳管の製造方法」についての発明に変更する訂正事項(以下、「訂正事項4-6」という。)からなるものである。
なお、訂正請求書に記載された訂正事項4、5は、実質的に同訂正事項6に含まれるものであるから、ここではこれらをまとめて訂正事項4とした。
3 訂正の適否に関する当審の判断
3-1 訂正の目的について
(1)訂正事項1について
訂正事項1-1は、本件訂正前の請求項6の発明特定事項である「細線材」について、「金属線材である」ことを特定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項1-2は、本件訂正前の請求項6の発明特定事項である「導電層」について、「電解メッキで形成されたものであ」ることを特定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
さらに、訂正事項1-3は、本件訂正前の請求項6が「電鋳管」についての発明であり、請求項6に係る発明が、物についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されていたことから、本件取消判決において、明確性要件違反であると判示されたところ、「電鋳管」についての発明を「電鋳管の製造方法」についての発明に変更し、明確性要件違反を解消するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
よって、訂正事項1は、「特許請求の範囲の減縮」及び「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1-3と同様の訂正であるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正事項1-3と同様の訂正であるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
(4)訂正事項4について
訂正事項4-1は、本件訂正前の請求項6又は7を引用する本件訂正前の請求項9のうち、本件訂正前の請求項6を引用するものについて、本件訂正前の請求項6の記載を繰り入れて独立形式の請求項とするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、訂正事項4-2及び訂正事項4-4は、それぞれ訂正事項1-1及び訂正事項1-2と同様の訂正であるから、いずれも「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
さらに、訂正事項4-3は、本件訂正前の請求項9の発明特定事項である「電鋳管」について、「コンタクトプローブ用の管として使用可能な」ことを特定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項4-5は、訂正事項4-1により、本件訂正前の請求項9に本件訂正前の請求項6の記載を繰り入れることに伴い、本件訂正前の請求項6に記載された「電着物」、「囲繞物」及び「導電層」と、本件訂正前の請求項9に記載された「電着物」、「囲繞物」及び「導電層」との関係を明瞭にするために、本件訂正前の請求項9に記載された「電着物」、「囲繞物」及び「導電層」に「前記」を付加するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
さらに、訂正事項4-6は、訂正事項1-3と同様の訂正であるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
よって、訂正事項4は、「特許請求の範囲の減縮」、「明瞭でない記載の釈明」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
3-2 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について
(1)訂正事項1について
訂正事項1-1及び訂正事項1-2は、明らかに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
訂正事項1-3は、本件訂正前の請求項6が「電鋳管」についての発明であったものを「電鋳管の製造方法」についての発明に変更するものであり、すなわち、物についての特許をその物の製造方法についての特許に変更するものであり、一見すると、特許請求の範囲の実質上の変更であるようにもみえる。
しかしながら、以下(1)-1及び(1)-2に示す理由により、訂正事項1-3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
よって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(1)-1 発明が解決しようとする課題とその解決手段について
ア 特許法第126条第6項は、第1項に規定する訂正がいかなる場合にも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない旨を規定したものである。
イ また、特許法第36条第4項第1号の規定により委任された特許法施行規則の第24条の2には、「特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない」と規定されている。
ウ そこで、まず、訂正事項1-3について、本件訂正の前後において、請求項6に係る発明が解決しようとする課題及びその解決手段が、実質的に変更されたものか否かにより、その技術的意義を実質上拡張し、又は変更するものであるか否かについて検討する。
エ 本件訂正前の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の記載(【0003】、【0006】、【0008】、【0045】)から、本件訂正前の請求項6に係る発明の課題は、コンタクトプローブ用の管など、電気を伝導するのに適した部品として使用できる微細な内径の電鋳管を提供することであり、その解決手段は、「電鋳管」について、「外周面に電着物または囲繞物とは異なる材質の金属の導電層を設けた細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物を形成し、前記細線材の一方又は両方を引っ張って断面積を小さくなるよう変形させ、前記変形させた細線材と前記導電層の間に隙間を形成して前記変形させた細線材を引き抜いて、前記電着物または前記囲繞物の内側に前記導電層を残したまま細線材を除去して製造」するものである。
オ 一方、本件訂正後の本件明細書の記載(【0003】、【0006】、【0008】、【0045】)から、本件訂正後の請求項6に係る発明の課題は、コンタクトプローブ用の管など、電気を伝導するのに適した部品として使用できる微細な内径の電鋳管を容易に製造する方法を提供することであり、その解決手段は、「電鋳管」について、「外周面に電着物または囲繞物とは異なる材質の金属の導電層を設けた」「細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物を形成し、前記細線材の一方又は両方を引っ張って断面積を小さくなるよう変形させ、前記変形させた細線材と前記導電層の間に隙間を形成して前記変形させた細線材を引き抜いて、前記電着物または前記囲繞物の内側に前記導電層を残したまま細線材を除去して製造」するものである。
カ してみると、訂正事項1-3について、本件訂正の前後において、請求項6に係る発明の課題に実質的に変更はなく、課題解決手段にも実質的な変更はない。
キ したがって、訂正事項1-3について、本件訂正後の請求項6に係る発明の技術的意義は、本件訂正前の請求項6に係る発明の技術的意義を実質上拡張し、又は変更するものではない。
(1)-2 訂正による第三者の不測の不利益について
ア 特許請求の範囲は、「特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべて」が記載されたもの(特許法第36条第5項)である。
イ また、特許法第126条第6項は、第1項に規定する訂正がいかなる場合にも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない旨を規定したものであって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなる、言い換えれば、訂正前の発明の「実施」に該当しないとされた行為が訂正後の発明の「実施」に該当する行為となる場合、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれがあるため、そうした事態が生じないことを担保したものである。
ウ 以上を踏まえ、訂正事項1-3について、請求項6に係る発明が、本件訂正前後のそれぞれの発明の「実施」に該当する行為の異同により、本件訂正後の発明の「実施」に該当する行為が、本件訂正前の発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものであるか否かについて検討する。
エ ここで、特許法第2条第3項第1号に規定された「物の発明」(本件訂正前の請求項6に係る発明)及び第3号に規定された「物を生産する方法の発明」(本件訂正後の請求項6に係る発明)の実施について比較する。
オ 「物の発明」の実施(第1号)とは、「その物の生産、使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」であり、「物を生産する方法」の実施(第3号)とは、「その方法の使用をする行為」(第2号)のほか、その方法により生産した「物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」である。ここで、「物を生産する方法」の実施における「その方法の使用をする行為」とは、「その方法の使用により生産される物の生産をする行為」と解されることから、「物の発明」の実施における「その物の生産」をする行為に相当する。
カ すると、「物の発明」の実施においては、物の生産方法を特定するものではないのに対して、「物を生産する方法の発明」の実施においては、物の生産方法を「その方法」に特定している点で相違するが、その実施行為の各態様については、全て対応するものである。
キ そして、本件訂正前の請求項6に係る発明は、「外周面に電着物または囲繞物とは異なる材質の金属の導電層を設けた細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物を形成し、前記細線材の一方又は両方を引っ張って断面積を小さくなるよう変形させ、前記変形させた細線材と前記導電層の間に隙間を形成して前記変形させた細線材を引き抜いて、前記電着物または前記囲繞物の内側に前記導電層を残したまま細線材を除去して製造」するという製造方法(以下、「特定の製造方法」という)により「電鋳管」という物が特定された「物の発明」であるから、前記特定の製造方法により製造された「電鋳管」に加え、前記特定の製造方法により製造された「電鋳管」と同一の構造・特性を有する物も、特許発明の実施に含むものである。
ク 一方、本件訂正後の請求項6に係る発明は、上記特定の製造方法により「電鋳管の製造方法」という方法が特定された「物を生産する方法の発明」であるから、前記特定の製造方法により製造された「電鋳管」を、特許発明の実施に含むものである。
ケ そうすると、本件訂正後の請求項6に係る発明の「実施」に該当する行為は、本件訂正前の請求項6に係る発明の「実施」に該当する行為に全て含まれるので、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれはないから、本件訂正前の請求項6に係る発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものとはいえない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1-3と同様の訂正であるから、上記(1)で検討した理由と同様の理由により、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正事項1-3と同様の訂正であるから、上記(1)で検討した理由と同様の理由により、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4-1、訂正事項4-3及び訂正事項4-5は、明らかに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
また、訂正事項4-2、訂正事項4-4及び訂正事項4-6は、それぞれ訂正事項1-1、訂正事項1-2及び訂正事項1-3と同様の訂正であるから、上記(1)で検討した理由と同様の理由により、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
よって、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
3-3 新規事項追加の有無について
(1)訂正事項1について
訂正事項1-1は、本件明細書の「細線材は、例えば、金属線材等のように全体が導電性材料で形成されたものを使用することもできる」(【0033】)との記載を根拠とするものである。
また、訂正事項1-2は、請求項1及び本件明細書【0011】の「導電層は、電解メッキで形成されたものであり、」との記載を根拠とするものである。
さらに、訂正事項1-3は、請求項1~5の記載、本件明細書の「外面に導電層が設けられた細線材を用い、導電層が電鋳管の内面に残るように細線材を除去する電鋳管の製造方法によれば、内面に金メッキ等を設けた電鋳管が製造できる」(【0045】)との記載等を根拠とするものである。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正である。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1-3と同様の訂正であるから、上記(1)で検討した理由と同様の理由により、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正事項1-3と同様の訂正であるから、上記(1)で検討した理由と同様の理由により、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
(4)訂正事項4について
訂正事項4-1及び訂正事項4-5は、明らかに、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項4-2、訂正事項4-4及び訂正事項4-6は、それぞれ訂正事項1-1、訂正事項1-2及び訂正事項1-3と同様の訂正であるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
さらに、訂正事項4-3は、本件明細書の「この細線材の除去方法を用いることにより、例えば、コンタクトプローブ用の管等として使用可能な微細な内径を有する電鋳管が製造できる」(【0042】)との記載を根拠とするものである。
よって、訂正事項4は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
3-4 一群の請求項について
本件訂正前の請求項7~9は、請求項6を引用するものであって、請求項6の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項6~9は一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔6~9〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。
3-5 独立特許要件について
訂正事項1及び訂正事項4は、上記3-1で検討したとおり、その目的として「特許請求の範囲の減縮」を含むものであるところ、本件訂正請求に係る請求項6、9は特許無効審判の請求がなされているので、同請求項に係る発明には、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの規定は適用されない。
一方、本件訂正請求に係る請求項7、8は特許無効審判の請求がなされていないので、同請求項に係る発明には、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの規定が適用されるところ、特許出願の際独立して特許を受けることができない理由が見当たらない。
よって、本件訂正後の請求項7、8に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
4 訂正請求についてのまとめ
上記3のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項及び第7項に適合するものであるから、結論のとおり、本件訂正を認める。
第3 本件発明
以上のとおり、本件訂正請求が認められるので、本件特許の請求項6及び9に係る発明(以下、「本件発明6」、「本件発明9」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、その訂正特許請求の範囲の請求項6及び9に記載された事項により特定される次のものである。
「【請求項6】
外周面に電着物または囲繞物とは異なる材質の金属の導電層を設けた金属線材である細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物を形成し、前記細線材の一方又は両方を引っ張って断面積を小さくなるよう変形させ、前記変形させた細線材と前記導電層の間に隙間を形成して前記変形させた細線材を引き抜いて、前記電着物または前記囲繞物の内側に前記導電層を残したまま細線材を除去して製造される電鋳管を製造する方法であって、
前記導電層は、電解メッキで形成されたものであり、前記電着物または前記囲繞物より電気伝導率が高いものとし、
前記細線材を除去して形成される中空部の内形状が断面円形状又は断面多角形状であって、前記電着物または前記囲繞物の肉厚が5μm以上50μm以下である電鋳管を製造することを特徴とする、
電鋳管の製造方法。」
「【請求項9】
外周面に電着物または囲繞物とは異なる材質の金属の導電層を設けた金属線材である細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物を形成し、前記細線材の一方又は両方を引っ張って断面積を小さくなるよう変形させ、前記変形させた細線材と前記導電層の間に隙間を形成して前記変形させた細線材を引き抜いて、前記電着物または前記囲繞物の内側に前記導電層を残したまま細線材を除去してコンタクトプローブ用の管として使用可能な電鋳管を製造する方法であって、
前記導電層は、電解メッキで形成されたものであり、前記電着物または前記囲繞物より電気伝導率が高いものとし、
前記細線材を除去して形成される中空部の内形状が断面円形状又は断面多角形状であって、前記電着物または前記囲繞物の肉厚が5μm以上50μm以下であり、
前記電着物または前記囲繞物はニッケルとし、前記導電層は金としたことを特徴とする、
コンタクトプローブ用の管として使用可能な電鋳管の製造方法。」
第4 当事者の主張及び提出した証拠方法
1 請求人の主張する無効理由及び提出した証拠方法
請求人は、「特許第3889689号の特許請求の範囲の請求項1、5、6及び9に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」として、審判請求書、証拠説明書(1)及び甲第1~8号証、令和2年7月27日付け回答書、同年8月18日付け証拠説明書(2)及び甲第14~20号証、同年8月25日付け口頭審理陳述要領書、並びに同年10月9日付け上申書を提出し、以下の無効理由1~4により、本件発明1、5、6及び9についての特許は、特許法第123条第1項第2号及び第4号に該当し、無効とすべきものであると主張している。
[証拠方法]
甲第1号証:特開2001-192882号公報
甲第2号証:特開2002-80991号公報
甲第3号証:特開平10-335135号公報
甲第4号証:特開平10-251889号公報
甲第5号証:特開2000-328287号公報
甲第6号証:特開2001-309927号公報
甲第7号証:特開平8-262902号公報
甲第8号証:特開2002-256475号公報
<以上、令和1年11月21日付け証拠説明書(1)に添付。>
甲第14号証:特開2001-207285号公報
甲第15号証:特開2001-249252号公報
甲第16号証:特開昭49-53540号公報
甲第17号証:特公昭57-19751号公報
甲第18号証:特開平4-25805号公報
甲第19号証:特開平5-19124号公報
甲第20号証:特開平5-76542号公報
<以上、令和2年8月18日付け証拠説明書(2)に添付。>
なお、甲第9~13号証は令和2年8月18日提出の証拠説明書(2)記載のとおり欠番である。このうち、甲第9号証は、同年7月27日に請求人提出の回答書の3(2)イ(ア)に「JIS H0400(最新改正年は1998年)」と記載されてはいるものの、同年9月4日に実施された口頭審尋において、請求人から「甲第9号証は提出しない」と陳述されたもの(口頭審尋調書 陳述の要領 請求人 3)である。
また、以下、各甲号証を「甲1」などという。
(1)無効理由1(実施可能要件)
本件発明1、5、6及び9の目的は、細線材を除去する際において、内面に設けた導電層に引張力がかかり難くして、導電層と細線材(当審注:本件明細書における「基線材」との記載は、本件発明の「細線材」と同じ意味で使われていると判断されるので、そのように読替をして記載した。以下同じ。)とを分離し易くし、導電層と電着物または囲繞物との密着性が損なわれ難いようにする電鋳管の製造方法を提供すること(本件明細書【0008】)にある。
しかしながら、電着(析出)させた金属から細線材を除去することは、本件明細書【0006】の電着した金属が細線材の外面に密着しているので、容易なことではなかったとの説明を前提にすると、発明の詳細な説明に記載された製造方法を用いた場合においても、電着した金属(金メッキ)が細線材の外面に密着しているので、電着(析出)させた金属から細線材を除去することが容易ではないはずであるが、その除去方法について開示されていない。
また、特許請求の範囲の記載の製造方法には、引っ張る対象の細線材について、導電層を設けない部分(細線材の露出部分)を備えるものと、導電層を設けない部分を備えないもの(細線材の露出部分がないもの)の2種類が含まれると解されるが、細線材の両端に導電層を設けない部分を備えないもの(細線材の露出部分がないもの)を用いた場合、どのように細線材を直接掴んで引っ張ることができるのか、また、そのような場合に本件発明の効果をどのように奏することができるのか、発明の詳細な説明には、本件発明1、5、6及び9に係る発明について、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が理解できるようにこれを記載していない。
したがって、本件発明1、5、6及び9についての特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。(審判請求書第4頁第2~23行)
(2)無効理由2(サポート要件)
本件明細書の発明の詳細な説明には、「細線材の導電層が設けられていない部分を、一方または両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させ、前記変形させた細線材と前記導電層の間に隙間を形成して、前記変形させた細線材を掴んで引っ張って除去する」発明が記載されているのに対し、特許請求の範囲に記載された発明では、導電層が設けられていない部分を備えないもの(細線材の露出部分がないもの)を包含している。そして、この導電層が設けられていない部分を備えないもの(細線材の露出部分がないもの)については、その全長にわたって電着物または囲繞物が形成されているから、細線材を直接掴むことはできず、細線材の一方または両方からどのように引っ張ることができるのかは不明と言わざるを得ない。
したがって、特許請求の範囲に記載された発明と、発明の詳細な説明に開示された発明とに齟齬があることになり、サポート要件を満たさない。
よって、本件発明1、5、6及び9についての特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。(審判請求書第4頁第24行~第5頁第12行)
(3)無効理由3(明確性要件)
本件発明6及び9は、「電鋳管」という物の発明であるが、その物の製造方法により特定されたものであり、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームとして特定された発明に該当する。
しかしながら、本件発明6及び9について、本願出願時において当該電鋳管をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在していない。
また、本件発明6及び9の発明物である「電鋳管」は、本件発明6で特定された製造方法以外の細線材を除去する方法(本件明細書【0041】記載の1、2又は4の方法)によっても製造することができるものであり、製造された電鋳管がどのような製造方法で製造されたものであるのか不明である。
したがって、本件発明6及び9についての特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。(審判請求書第5頁第13~最終行)
(4)無効理由4(進歩性)
本件発明1、5、6及び9は、本願出願前に日本国内において頒布された甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項、並びに本願出願時の技術常識(甲3ないし甲8)に基いて、本願出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許の請求項1、5、6及び9に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。(審判請求書第6頁第1行~第11頁)
2 被請求人の主張及び提出した証拠方法
被請求人は、令和2年2月10日付け答弁書、同年3月10日付け証拠説明書及び乙第1~9号証、同年7月27日付け回答書、証拠説明書(2)及び乙第10~19号証、同年8月25日付け口頭審理陳述要領書及び証拠説明書(3)及び乙第20~22号証、同年9月25日付け上申書(3)、証拠説明書(4)及び乙第23~28号証、同年10月2日付け上申書(4)、証拠説明書(5)及び乙第29号証、令和3年3月29日付け訂正請求書、上申書(5)、証拠説明書(6)及び乙第30~33号証、同年6月24日付け意見書、証拠説明書(7)及び乙第34号証の1~38号証、並びに、令和5年7月21日付け訂正請求書を提出して、本件特許には上記無効理由1~4は存在しない点を主張し、「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」としている。
[証拠方法]
乙第1号証:特開2001-152383号公報
乙第2号証:特開2001-228363号公報
乙第3号証:特開2001-192880号公報
乙第4号証:特許第3308266号公報
乙第5号証:特開平11-193485号公報
乙第6号証:三田地成幸,鑑定意見書,2019年12月2日
乙第7号証:特許第3889689号に関する訂正審判事件の審決(訂正2017-390094)
乙第8号証:首藤義人,外5名,“液晶高分子プラスチックフェルールのPC接続条件の検討”,電子情報通信学会論文誌 C,Vol.J84-C,No.2,pp.127-135,2001年2月
乙第9号証:大石昌幸、本地隆明、試作分析報告書、株式会社ルス・コム(被請求人)、2020年2月7日
<以上、令和2年3月10日付け証拠説明書に添付。>
乙第10号証:三田地成幸,鑑定意見書,2020年7月16日
乙第11号証:山崎徹,鑑定意見書,2020年7月20日
乙第12号証:特開昭64-83683号公報
乙第13号証:設計ハンドブックホームページの出力物[2020年7月21日印刷]<URL:http://repoengineer.jp/NaturalSci/physics/Netu-bouchou02.htm>
乙第14号証:FA Ubonホームページの出力物[2020年7月21日印刷]<URL:http://fa-ubon.jp/tech/005_performace_pm.html>
乙第15号証:特開平5-59587号公報
乙第16号証:伊藤泰輔,“高弾性率・高強度繊維”,高分子,1985年,34巻,11月号,pp.890-893
乙第17号証:特開平4-45297号公報
乙第18号証:特開2002-80991号公報
乙第19号証:大石昌幸,本地隆明,試作分析報告書訂正書,株式会社ルス・コム(被請求人),2020年7月20日
<以上、令和2年7月27日付け証拠説明書(2)に添付。>
乙第20号証:株式会社朝日メックスのホームページ出力物[2020年3月17日印刷]<URL:http://www.asahi-mex.co.jp/naimekki/index.html>
乙第21号証:特開平11-12791号公報
乙第22号証:長倉三郎,外5名編集,岩波理化学辞典,第5版,第5刷,株式会社岩波書店,2001年8月20日,p.1362
<以上、令和2年8月25日付け証拠説明書(3)に添付。>
乙第23号証:特公昭57-24079号公報
乙第24号証:特公昭60―56239号公報
乙第25号証:特開2000-158075号公報
乙第26号証:特開平9-106716号公報
乙第27号証:大石昌幸,本地隆明,試作分析報告書,株式会社ルス・コム(被請求人),2020年9月25日
乙第28号証:岩村栄治,“薄膜の密着性改善”,表面技術,2007年,Vol.58,No.5,pp.260-266
<以上、令和2年9月25日付け証拠説明書(4)に添付。>
乙第29号証:大石昌幸,本地隆明,試作分析報告書,株式会社ルス・コム(被請求人),2020年10月2日
<以上、令和2年10月2日付け証拠説明書(5)に添付。>
乙第30号証:英国特許公開第1118150号公報
乙第31号証:平成12年度ものづくり人材支援基盤整備事業 -技術・技能の客観化、マニュアル化等-「めっき治具並びにバレルめっきとその加工の実際」,中小企業総合事業団 情報・技術部 技術振興第二課,平成13年1月,pp.26,51,52
乙第32号証:特開平5-268710号公報
乙第33号証:平成12年度実施事業概要,全国鍍金工業組合連合会
<以上、令和3年3月29日付け証拠説明書(6)に添付。>
乙第34号証の1:手続・期日経過表,令和元年(ワ)第17622号,東京地方裁判所民事第46部,令和3年6月1日
乙第34号証の2:手続・期日経過表の訂正書面,令和元年(ワ)第17622号,東京地方裁判所民事第46部,令和3年6月8日
乙第35号証:鷲尾邦彦,“「フェムト秒レーザーによる無機材料の微細加工」解説小特集号によせて”,レーザー研究,2002年5月15日,p.220
乙第36号証:橋田昌樹,“フェムト秒レーザへの産業界での期待”,電学誌,2002年11月1日,122巻,11号,pp.749-753
乙第37号証:特開2002-205179号公報
乙第38号証:特開2001-219290号公報
<以上、令和3年6月24日付け証拠説明書(7)に添付。>
なお、以下、各乙号証を「乙1」などという。
第5 当審の判断
原審決における請求項6及び9に係る部分について、本件取消判決により取り消されたので、更に審理した結果、以下のように、無効理由1~4はいずれも理由がないと判断した。
1 無効理由1(実施可能要件)について
(1)乙号証の記載事項
ア 乙1の記載事項
乙1には、次の記載がなされている。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、光ファイバコネクタ部品の製造方法に関するものであり、・・・(略)・・・一般には、フェルールと言われる部品の製造方法に関するものである。」
「【0020】次に旋盤、グラインダーなどを使用して、図5(b)に示すように中心の線部分を残して電鋳棒の円周上に溝7を30~80mm間隔程度で切削してから、溝7の部分で曲げると、電鋳部分は脆く線は強靭なために電鋳部が折れ、線は折れないために容易に線をひき抜くことが可能となる。溝7は、断面V字形の溝を電鋳棒の表面の円周上に全面に設けるのが望ましいが、溝の断面形状は特に限定されず、溝を電鋳棒の表面の円周上の全面に設けずに部分的であってもよい。また低融点合金メッキの金属線の場合は、加熱しながら折って引き抜けばよい。」
「【0022】
・・・(略)・・・電鋳品に約50mm間隔で切削した溝を研磨機で入れ、この溝部分を曲げて折ってから、線を引き抜いたところ容易に引き抜けた。」
「【図5】
[図:0001409443000001.jpg]
」
イ 乙2の記載事項
乙2には、次の記載がなされている。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、光ファイバコネクタ部品の製造方法に関するものであり、・・・(略)・・・一般にフェルールと言われる部品の製造方法に関するものである。」
「【0022】
・・・(略)・・・電鋳品に溝を40mm間隔で入れ、この溝部分から折って中心の線を引き抜き、次にNC自動加工機、センタレス加工機などで太さ2.000mm、長さ8.00mmまで加工して完成品とした。」
ウ 乙3の記載事項
乙3には、次の記載がなされている。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、光ファイバコネクタ部品の製造方法に関するものであり、・・・(略)・・・一般にフェルールと言われる部品の製造方法に関するものである。」
「【0024】
・・・(略)・・・電鋳品に溝を40mm間隔で入れ、この溝部分から折って中心の線を引き抜き、次にNC自動加工機、センタレス加工機などで太さ2.00mm、長さ8.00mmまで加工して完成品とした。」
エ 乙27の記載事項
乙27には、次の記載がなされている。
「
[図:0001409443000002.jpg]
[図:0001409443000003.jpg]
」(第2~3頁)
オ 乙30の記載事項
乙30には、次の記載がなされている。
「
[図:0001409443000004.jpg]
」(第1頁左欄第9~16行)
(被請求人による訳:本発明は、電鋳によって金属製品の製造方法及び当該方法によって製造された金属製品に関する。本発明による方法を用いて、1つまたは複数の導管を有する物品を製造することができ、各導管は、例えば、直径が1mm以下といった、小さな断面を有する。)
「
[図:0001409443000005.jpg]
」(第2頁右欄第46~58行)
(被請求人による訳:浴を50~55℃に加熱し、銅線を10A/sq.dmの電流密度を使用して2.5時間ニッケルメッキした。次に、アセンブリを水ですすぎ、乾燥させた。次に、メッキされたワイヤをフレームの端に隣接して切断し、メッキされたワイヤの端からニッケルを除去した。次に、銅線を徐々に伸ばして、銅がニッケルから外れるようにし、最終的に銅線が破断した。その後、電鋳されたニッケル管の導管から銅線の破断片を簡単に取り除くことができた。)
カ 乙31の記載事項
乙31には、次の記載がなされている。
「
[図:0001409443000006.jpg]
」(第26頁)
「
[図:0001409443000007.jpg]
[図:0001409443000008.jpg]
」(第51~52頁)
キ 乙32の記載事項
乙32には、次の記載がなされている。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ハーネス製造時等に使用される電線のセミストリップ方法に関する。
【0002】
【従来の技術】端部の芯線部に撚り加工を施した電線を製造する場合、まず図30および図31に示すように、電線10をその長手方向を含む水平面上を移動自在なクランプ1により把持させて、電線10の端部を一対のカッター2,2間に送り込む。つづいて図32に示すように、電線10の端部の被覆部11に一対のカッター2で切り込み、その状態でクランプ1の後退移動により電線10を矢印Q方向に少量後退させる。これにより、図33に示すように一対のカッター2,2の切込位置よりも電線端部側の被覆部12を芯線部13から脱落しないようにして残りの被覆部11から切り離す(セミストリップ処理)。」
「【図30】
[図:0001409443000009.jpg]
【図31】
[図:0001409443000010.jpg]
【図32】
[図:0001409443000011.jpg]
【図33】
[図:0001409443000012.jpg]
」
(2)導電層から細線材を引き抜いて除去することについて
ア 本件明細書【0073】には、「細線材30を一方または両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させる。そして、電着物と細線材30の間に隙間を形成し、細線材30を掴んで引っ張るか、吸引するか、物理的に押し遣るか、気体または液体を噴出して押し遣るかのいずれかの方法を用いて除去する」と記載されている。
イ この記載からすると、細線材を引っ張ることで断面積が小さくなるように変形させることにより、電着した金属(金メッキ)たる「導電層」に対し、細線材が密着しないように「隙間を形成」し、電鋳管を製造するにあたり細線材を引き抜きやすく(除去しやすく)できることは明らかである。
ウ そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明は、「電鋳管の製造方法」に関する本件発明の細線材の引き抜き(除去)を実施できる程度に、明確かつ十分に記載されたものといえる。
(3)細線材の端部の態様別の引き抜きの実施について
(3)-1 細線材の態様について
ア 本件発明は、細線材の一方または両方を引っ張って断面積が小さくなるように変形させるものであるが、その引っ張り対象の細線材としては、次の2種類のものが想定される。
(ア)その両端側に導電層を設けない部分(細線材の露出部分)を備えるもの(以下、「態様1」という。)
(イ)その両端側に導電層を設けない部分(細線材の露出部分)を備えないもの
イ そして、上記ア(イ)は、さらに、次の2種類のものが想定される。
(イ)-1 「細線材」の両端において、「細線材」外周面に電解メッキによる「導電層」が設けられるものの、「電着物または囲繞物」は設けられないもの(以下、「態様2」という。)
(イ)-2 「細線材」の両端において、「細線材」外周面に電解メッキによる「導電層」が設けられ、さらに電鋳による「電着物または囲繞物」も設けられるもの(以下、「態様3」という。)
ウ そこで、上記ア、イの態様1~3の場合に、本件明細書の発明の詳細な説明に記載ないし示唆された事項の範囲で実施可能といえるか否かを、以下検討する。
(3)-2 態様1について
ア 本件明細書の図6に関する【0084】の記載を参酌すると、細線材の両端側の導電層を設けていない部分(細線材の露出部分)を引っ張ることで、引張力が導電層に直接かかり難くなり、導電層と細線材とが分離し易く、また、導電層と電着物との密着性も損なわれ難いという効果を奏しつつ、本件発明のように電着物または囲繞物の内側に導電層を残したまま細線材を引き抜いて除去できることが理解される。
イ そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明は、態様1について、本件発明の細線材の引き抜きが実施できる程度に、明確かつ十分に記載されたものといえる。
(3)-3 態様2について
ア 本件明細書には、細線材の両端側に導電層を設けない部分(細線材の露出部分)を備えないものを想定した直接的な記載はなく、細線材をどのようにして引っ張り、どのように電着物または囲繞物の内側に導電層を残したまま細線材を引き抜いて除去することができるのかということについて、明示的な説明がなされていない。
イ しかしながら、被請求人による乙27の試作分析報告書等による裏付け主張を伴う令和2年9月25日提出の上申書(3)(第7ページ最終行~第9ページ第10行)には、次のウ、エの点が説明されている。
ウ 本件明細書に開示されるように「細線材」としてステンレス製のもので、かつ、「導電層」として金メッキされたものを採用する前提で、両端まで外周面に電解メッキによる「導電層」が設けられた「細線材」について、その両端を把持して引っ張る操作を行うことにより、電着物または囲繞物の内面に導電層を残したまま細線材を除去できるようになる。
エ より詳細には、「細線材」両端の外周面に設けられた「導電層」が剥き出しの状態にあり、これを直接把持して引っ張る操作を行うものであり、当該引っ張る操作によって、脆い導電層(金メッキ)は破断する一方、ステンレス製の細線材は、強靱、かつ、表面が不動態膜で覆われていて導電層との密着性は大きなものではないため、引っ張られることで断面積が小さくなるように変形し、変形した細線材と導電層の間には隙間が形成されるため、電着物または囲繞物の内面に導電層を残したまま細線材を引き抜いて除去できる。
オ 上記イ~エによれば、「電鋳管の製造方法」に関する本件発明は、態様2についても、当業者が過度な試行錯誤なく通常期待される程度の創意工夫の範囲で実施可能、すなわち、発明の詳細な説明の記載に裏付けられる範囲で実施できると判断される。
(3)-4 態様3について
ア 本件明細書には、細線材の両端側に導電層を設けない部分(細線材の露出部分)を備えないものを想定した直接的な記載はなく、細線材をどのようにして引っ張り、どのように電着物または囲繞物の内側に導電層を残したまま細線材を引き抜いて除去することができるのかということについて、明示的な説明がなされていないことは、上記(3)-3のアで述べたとおりである。
イ しかしながら、被請求人による令和3年3月29日提出の上申書(5)(別紙第2の2)には、乙1~3、30~32を周知技術の裏付けとして提示の上、当該両端の「電着物または囲繞物」を除去又は破断してから掴んで引っ張ることで細線材を除去できることが説明されている。
ウ そして、上記イの説明のとおり、乙1~3、30~32に示されるような周知技術も参照して、両端の「電着物または囲繞物」を除去又は破断してから、当該両端を掴んで引っ張ることで細線材の断面積が小さくなるような変形を図り、かつ、その後に細線材の引き抜き除去を図ることは、当業者が過度な試行錯誤なく通常期待される程度の創意工夫の範囲で実施可能、すなわち、発明の詳細な説明の記載により明確かつ十分に裏付けられる範囲で実施できると判断される。
(4)無効理由1(実施可能要件)についてのまとめ
上記(2)及び(3)で検討したとおり、発明の詳細な説明は、当業者が請求項6及び9に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されており、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。
したがって、請求項6及び9に係る発明についての特許は、特許法第123条第1項第4号に該当しないから、無効とすることはできない。
よって、無効理由1は理由がない。
(5)本件取消判決について
なお、本件取消判決では、本件発明1及び5について、概ね次のとおり判示されているところ、上記(1)~(4)の当審の判断は当該判示にも沿うものである。
本件明細書の発明の詳細な説明には、電鋳管の製造方法に関し、電鋳装置を用いて細線材に電鋳を行った後、細線材を一方又は両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させて、電着物と細線材の間に隙間を形成し、細線材を掴んで引っ張る等の方法を用いて、細線を除去することが記載されている(【0061】ないし【0114】、【図1】、【図6】ないし【図9】)。
そして、電着物の一端側に外径の大きな径大部を形成して細線材を引っ張るなどの方法によれば、細線材が除去しやすくなること(【0076】、【図2】)、細線材に外方に向けて略1500N/mm2の引張力をかけるなどして、細線材の横ひずみの変形量が断面積の5%以上となればよいこと(【0079】)、少なくとも略5μmの肉厚を有するように細線材の周りに電着させることができれば、細線材を除去した後でも電鋳管が形成できること(【0080】)、ステンレス製で、外面に導電層(金メッキ)を設けた細線材を使用することにより、内周面に金メッキが施された電鋳管が形成できること(【0081】)、外周部に導電層(金メッキ)が設けられた細線材を、断面積が小さくなるように変形させて除去する場合では、細線材の両端側に導電層を設けない部分を形成し、この導電層を設けていない部分を引っ張るようにすることで、引張力が導電層に直接かかり難くなり、導電層と基線材とが分離しやすく、導電層と電着物との密着性も損なわれ難いことや、細線材の両端では導電層も電着物等も設けられておらず細線材が露出している図が示されている(【0084】、【図6】)。
これらの記載に接した当業者であれば、導電層を設けたステンレス製の細線材の周りに電着物等を形成し、細線材を、一方又は両方から引っ張って細線材の断面積が小さくなるように変形させ、細線材と導電層の間に隙間を形成して、前記変形させた細線材を掴んで引っ張って除去することにより、電鋳管を製造することができること、及び、径大部を形成したり、細線材の端部において細線材を露出させることにより、また、電着物の肉厚や細線材の横ひずみの変形量を適当な値とすることにより、細線材の除去が容易に行えることを理解するといえる。
以上からすると、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1及び訂正発明5を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。
2 無効理由2(サポート要件)について
(1)本件発明6及び9について
ア 本件発明6及び9は、外周面に電着物または囲繞物とは異なる材質の金属の導電層を設けた金属線材である細線材の周りに電着物または囲繞物を形成し、電着物または囲繞物の内側に、電着物または囲繞物より電気伝導率の高い導電層を残したまま細線材を除去して製造される電鋳管の製造方法であって、中空部の内形状が断面円形状又は断面多角形状であり、かつ、電着物または囲繞物の肉厚が5μm以上50μm以下である「電鋳管の製造方法」に関するものである。
イ 一方、本件発明6及び9が解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)は、これら発明の発明特定事項の技術的意味を提示している本件明細書の記載(【0003】、【0006】、【0008】、【0045】)により、コンタクトプローブ用の管など、電気を伝導するのに適した部品として使用できる微細な内径の電鋳管を容易に製造する方法を提供することと把握される。
ウ そして、本件明細書の【課題を解決するための手段】の記載(【0041】~【0045】)によれば、上記課題を解決するための手段としては、以下の2つの要件が反映される必要があると理解できる。
なお、本件明細書【0050】~【0115】における【発明の実施の形態】の記載(併せて図1~9も参照)にも、以下の(ア)、(イ)の2つの要件を兼ね備えた「電鋳管の製造方法」が示されている。
(ア)内面に導電層を設けた電鋳管を製造すること(以下、「電鋳管の構造要件」という。)。
なお、当該要件(ア)は、【0045】に記載される「内面に設ける導電層の材質によって電気伝導率が電着物または囲繞物だけのときより良好にできる」という技術的意味を有する。
(イ)細線材を「一方または両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させて、細線材と電着物または囲繞物の間に隙間を形成し」、これを「掴んで引っ張」り「除去」すること(以下、「細線材の除去要件」という。)。
なお、当該要件(イ)は、【0041】、【0042】の記載からみて、「コンタクトプローブ用の管等として使用可能な微細な内径を有する電鋳管」を実現するための適切な製造工程であるとの技術的意味を有する。
エ そうすると、本件発明6及び9は、上記ウの「電鋳管の構造要件」と「細線材の除去要件」とに相当する2つの要件を兼ね備え、上記課題を解決するための手段が十分に反映された発明となっているから、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。
(2)無効理由2(サポート要件)についてのまとめ
上記(1)で検討したとおり、請求項6及び9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものといえるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
したがって、請求項6及び9に係る発明についての特許は、特許法第123条第1項第4号に該当しないから、無効とすることはできない。
よって、無効理由2は理由がない。
(3)本件取消判決について
なお、本件取消判決では、本件発明1及び5について、概ね次のとおり判示されているところ、上記(1)、(2)の当審の判断は当該判示にも沿うものである。
本件発明1及び訂正発明5の課題は、コンタクトプローブ用の管等、電気を伝導するのに適した部品として使用できる微細な内径の電鋳管を容易に製造する方法を提供することである(本件明細書【0003】、【0006】、【0008】)。
また、本件明細書には、電鋳装置を用いて、細線材に電鋳を行い、電鋳後、細線材を一方又は両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させて、電着物と細線材の間に隙間を形成し、細線材を掴んで引っ張る等の方法を用いて、細線材を除去して電鋳管を製造することが記載されている(本件明細書【0050】ないし【0070】、【0073】、【0075】、【0076】、【0078】ないし【0082】、【0084】、【図1】、【図2】、【図6】)。
そして、外周面に金メッキ等の導電層が設けられた細線材を用い、導電層が電鋳管の内周面に残るように細線材を除去することにより、コンタクトプローブ用の管等の電気を伝導するのに適した部品として使用できる電鋳管を製造できることも記載されている(【0045】、【0081】、【0082】)。
そうすると、本件明細書の記載に接した当業者は、細線材を一方又は両方から引っ張って断面積が小さくなるように変形させて、電着物と細線材の間に隙間を形成し、細線材を掴んで引っ張ること、外周面に導電層を設けたステンレス製の細線材の周りに電着物等を形成し、電着物等の内面に導電層を残したまま細線材を除去することの特定を有する本件発明1及び訂正発明5について、これらの記載により本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると理解するといえるから、本件発明1及び訂正発明5は、サポート要件を充足しているといえる。
3 無効理由3(明確性要件)について
(1)本件発明6及び9について
ア 無効理由3は、本件発明6及び9が、「電鋳管」という物の発明であるところ、その物の製造方法により特定されたものであり、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームとして特定された発明に該当するから、明確ではないというものである。
イ 一方、本件訂正により、本件発明6及び9が、「電鋳管」という物の発明から「電鋳管の製造方法」という物の製造方法の発明に訂正されたから、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームとして特定された発明とはいえない。
ウ したがって、本件発明6及び9は、明確でないとはいえない。
(2)無効理由3(明確性要件)についてのまとめ
上記(1)で検討したとおり、請求項6及び9に係る発明は明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものである。
したがって、請求項6及び9に係る発明についての特許は、特許法第123条第1項第4号に該当しないから、無効とすることはできない。
よって、無効理由3は理由がない。
4 無効理由4(進歩性)について
(1)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
ア 甲1の記載事項
甲1には、次の記載がなされている。下線は当審が付した。以下同様。
「【請求項1】芯線母型に電鋳を施すに際し、抵抗率が5×10-6Ωcm以下の芯線を使用することを特徴とするフェルール形成用微細円柱の製造方法。
【請求項2】芯線に、先ず抵抗率5×10-6Ωcm以下の第一金属の薄層をメッキし、次いで第二金属を所定径まで電鋳することを特徴とするフェルール形成用微細円柱の製法。
【請求項3】芯線が、外径0.126mmのステンレス線である請求項2のフェルール形成用微細円柱の製法。
【請求項4】第一金属が、金、銀、銅、アルミニウム及びこれらの金属を主体とする合金のいずれかからなり、第二金属がニッケル又はニッケルを主体とする合金からなる請求項1から請求項3のいずれか1項のフェルール形成用微細円柱の製法。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光ファイバーのコネクタに使用する金属製フェルールを効率よく製造する方法に関する。特に、本発明は、フェルールの中間体であるフェルール形成用微細円柱を効率よく製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】微細孔パイプは、産業上有用なものである。特に、通信分野で使用されるフェルールは図1に示したように、径が0.126mm程度の細孔を有し、外径が2.5mmで、長さが12mm程度の微細孔パイプである。
【0003】フェルールは、石英系光ファイバー接続用コネクタの構成部品の一部として使用される。光ファイバーは細くて折れやすいので、その接続のためには光ファイバーをコネクタに確実に固定する必要がある。このための光コネクタ用部品が、フェルールである。即ち、光コネクターは、0.125mm程度の太さの光ファイバーを円筒形の管に通して固定することにより、光ファイバーの中心にあるコア同士の位置を正確に合わせて接続を図るものである。」
「【0007】本発明者等は、芯線として0.126mm径のステンレス線を使用しこの外表面にニッケル等を電鋳することにより外径2.5mmのフェルール形成用微細円柱を作り、これを例えば12mmの長さに切断した後、これから芯線を引き抜いてフェルールを製造する方法を考案した。この製法の生産効率を高める為には、芯線をできるかぎり長くし、例えば30~40cmにして、この外表面に均一な外径となるように電鋳して長さ30~40cmのフェルール形成用微細円柱を形成し、これを所定の長さに切断することで効率的な製造が可能になる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、芯線が長ければ長いほど、その外表面に電鋳により形成されたフェルール形成用微細円柱の外径は、図3(b)に示したように電源に近い側の径は大きくなり、電源から遠い側の径は小さくなるり、外径が不均一な電鋳体が得られる傾向がある。これば、電源に近い部分は電流密度は大きいが、電源から遠ざかる芯線部分ほど芯線の電気抵抗が大きくなり電流密度が小さくなり、芯線表面への電着量が少なくなるからである。この結果、電流密度の大きい電源に近い部分ほど径が大きく、電源から遠い部分ほど径は小さくなる。
【0009】本発明は、特に、長尺で、内径が0.126mm程度と小さいフェルール用の微細孔パイプを電鋳で製造するに際して、外径が均一で小さい内径を有し、かつ、同軸性の高いフェルールを形成するための微細円柱を効率よく製造する方法を提供しようとするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明は、芯線母型に電鋳を施すに際し、抵抗率が5×10-6Ωcm以下の芯線を使用することを特徴とするフェルール形成用微細円柱の製造方法である。
【0011】請求項2の発明は、芯線に、先ず抵抗率5×10-6Ωcm以下の第一金属の薄層をメッキし、次いで第二金属を所定径まで電鋳することを特徴とするフェルール形成用微細円柱の製法である。
【0012】請求項3の発明は、芯線が、外径0.126mmのステンレス線である請求項2のフェルール形成用微細円柱の製法である。
【0013】請求項4の発明は、第一金属が、金、銀、銅、アルミニウム及びこれらの金属を主体とする合金のいずれかからなり、第二金属がニッケル又はニッケルを主体とする合金からなる請求項1から請求項3のいずれか1項のフェルール形成用微細円柱の製法である。
【0014】細径を有するパイプを電鋳による製造するには、例えば、特開平10-335135号公報によれば、まず、クロム芯材に軟磁性薄膜を電気メッキにより形成する。これをワイヤーソーで所定の長さに切断し、クロームエッチング液に浸漬してクローム芯材をエッチングして中空の円筒体を得ている。」
「【0020】母型に使用する線の基質としてステンレスを選択し、その表面に厚さ10μm程度の銀、金、銅メッキを施したものを芯線に使用することができる。また、基質が金、銀、アルミニウム、銅又はそれらを主体とする合金を使用することもできる。芯線の表面は平滑な表面であることが好ましいが、微小な凹凸があることが多い。表面に抵抗率の低い金属をメッキすることにより、芯線の外表面が平滑になるというメリットもある。また、ステンレス線やリン青銅線は張力が高いので、フェルール形成用微細円柱から芯線を引き抜くのに好都合である。」
「【0022】これらのうち、特に、スルフアミン酸ニッケルを主成分とする電鋳液が、電鋳作業の容易性、製品の硬度などの物性、化学的安定性、溶接の容易性などの面から好適に使用できる。直流電流7~10A/dm2程度の電流密度で、 1日間程通電を行うことにより、 直径3mm程度に成長した電鋳品を得る。この電鋳品から母型に使用した線を引き抜き、押し出すなどして、芯線16を除去する。
【0023】
【実施例】以下本発明を、実施例に基づいて説明する。断面が円形で径が0.126mmで長さが355mmのステンレス製の線に金(抵抗率2.05×10-6Ωcm)を10μmメッキした、直径0.136mm(当審注:断面が円形で径が0.126mmのステンレス製の線に10μmメッキしたものであるから、「直径0.136mm」は「直径0.146mm」の誤記であると認める。)の芯線を得た。この芯線を図2示す様に電鋳用治具にセットした。一方、スルフアミン酸ニッケルを主成分とする電鋳浴に、ニッケルの金属板をセットし、電鋳浴に浸漬した。芯線を陰極、ニッケル板を陽極にして、10A/dm2程度の電流密度で電鋳を18時間実施した。電鋳により、平均約2.5mmの直径のニッケル電鋳品を得た。電鋳品は、長さ方向に沿って外径は2.5mm±0.05mmの範囲内にあり、均一な電鋳品が得られた。また、真円度、同軸性も良好なものであった。
【0024】この電鋳品を、NC自動加工機で、長さ12mmに切断し、一方の端を中ぐり加工をした。該加工品を縦にして、中ぐり加工していない面を上にして、芯線打ち抜き機にて上から芯線を突起を有するハンマーで叩き、加工品の下からから(当審注:「加工品の下からから」は、「加工品の下から」の誤記と認める。)頭を出した芯線の一部を引き抜くことによって、芯線を除去した。端面を研磨してフェルールとした。」
イ 甲1に記載された発明
上記アで摘記した【0023】、【0024】の実施例の記載より、甲1には、次の「甲1発明」が記載されていると認められる。
[甲1発明]
「断面が円形で径が0.126mmで長さが355mmのステンレス製の線に金(抵抗率2.05×10-6Ωcm)を10μmメッキして、直径0.146mmの芯線を得、この芯線を電鋳用治具にセットし、スルフアミン酸ニッケルを主成分とする電鋳浴に、ニッケルの金属板をセットし、電鋳浴に浸漬し、芯線を陰極、ニッケル板を陽極にして、10A/dm2程度の電流密度で電鋳を18時間実施して、平均約2.5mmの直径のニッケル電鋳品を得て、
この電鋳品を、NC自動加工機で、長さ12mmに切断し、一方の端を中ぐり加工をし、該加工品を縦にして、中ぐり加工していない面を上にして、芯線打ち抜き機にて上から芯線を突起を有するハンマーで叩き、加工品の下から頭を出した芯線の一部を引き抜くことによって、芯線を除去し、端面を研磨する、フェルールの製造方法。」
(2)本件発明6について
(2)-1 対比
本件発明6と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「ステンレス製の線」は、「断面が円形で径が0.126mmで」あるから、本件発明6の「金属線材である細線材」に相当する。
イ 甲1発明の「ニッケル電鋳品」のうち「ステンレス製の線」と「金」のメッキを除く部分は、本件発明6の「電着物または囲繞物」に相当する。
ウ 甲1発明において、「ステンレス製の線に金(抵抗率2.05×10-6Ωcm)を10μmメッキした」ことにより得られるメッキ層は、金からなり「ニッケル電鋳品」と異なる材質であり、さらに、導電性を有することが明らかであるから、本件発明6の「電着物または囲繞物とは異なる材質の金属の導電層」に相当する。
エ 甲1発明において、「ステンレス製の線に金(抵抗率2.05×10-6Ωcm)を10μmメッキした」ことにより得られるメッキ層は、当然に「ステンレス製の線」の外側、すなわち外周面に形成されると認められる。
オ 上記ア~エより、甲1発明の「断面が円形で径が0.126mmで長さが355mmのステンレス製の線に金(抵抗率2.05×10-6Ωcm)を10μmメッキして、直径0.146mmの芯線を得、この芯線を電鋳用治具にセットし、スルフアミン酸ニッケルを主成分とする電鋳浴に、ニッケルの金属板をセットし、電鋳浴に浸漬し、芯線を陰極、ニッケル板を陽極にして、10A/dm2程度の電流密度で電鋳を18時間実施して、平均約2.5mmの直径のニッケル電鋳品を得」る事項は、本件発明6の「外周面に電着物または囲繞物とは異なる材質の金属の導電層を設けた金属線材である細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物を形成」する事項に相当する。
カ 甲1発明の「この電鋳品を、NC自動加工機で、長さ12mmに切断し、一方の端を中ぐり加工をし、該加工品を縦にして、中ぐり加工していない面を上にして、芯線打ち抜き機にて上から芯線を突起を有するハンマーで叩き、加工品の下から頭を出した芯線の一部を引き抜くことによって、芯線を除去し、端面を研磨して製造される」事項と、本件発明6の「細線材の一方または両方を引っ張って断面積を小さくなるよう変形させ、前記変形させた細線材と前記導電層の間に隙間を形成して前記変形させた細線材を引き抜いて、前記電着物または前記囲繞物の内側に前記導電層を残したまま細線材を除去して製造される」事項とは、「細線材の一方または両方を引っ張って」、「細線材を引き抜いて」、「細線材を除去して製造される」事項で一致する。
キ 甲1発明の「フェルール」は、電鋳により製造され、「芯線」が除去されて管状の構造となっているから、本件発明6の「電鋳管」に相当する。
ク 甲1発明は、「ステンレス製の線に金」を「メッキして」「芯線を得、この芯線を」「スルフアミン酸ニッケルを主成分とする電鋳浴に」「浸漬し、」「ニッケル電鋳品を得」るものであるから、金がニッケルよりも導電性が高いという技術常識に照らせば、本件発明6の「導電層は、電解メッキで形成されたものであり、前記電着物または前記囲繞物より電気伝導率が高いものと」する事項のうち、「導電層は、メッキで形成されたものであり、前記電着物または前記囲繞物より電気伝導率が高いものと」する事項を含むものである。
ケ 甲1発明は、「断面が円形」の「芯線」の周りに電鋳し、「芯線」を除去してフェルールを製造するものであって、「芯線」の除去後には、「芯線」が存在した部分に「断面が円形」の空洞が生じるから、本件発明6の「細線材を除去して形成される中空部の内形状が断面円形状または断面多角形状であ」る事項を含むものである。
コ 上記ア~ケより、本件発明6と甲1発明とは、
「外周面に電着物または囲繞物とは異なる材質の金属の導電層を設けた金属線材である細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物を形成し、前記細線材の一方または両方を引っ張って、前記細線材を引き抜いて、前記細線材を除去して製造される電鋳管を製造する方法であって、
前記導電層は、メッキで形成されたものであり、前記電着物または前記囲繞物より電気伝導率が高いものとし、
前記細線材を除去して形成される中空部の内形状が断面円形状又は断面多角形状である電鋳管を製造する、
電鋳管の製造方法。」で一致し、次の相違点で相違する。
[相違点1]
「細線材」の除去方法が、本件発明6は、「細線材の一方または両方を引っ張って断面積を小さくなるよう変形させ、前記変形させた細線材と前記導電層の間に隙間を形成して前記変形させた細線材を引き抜」くものであるのに対し、甲1発明は、「この電鋳品を、NC自動加工機で、長さ12mmに切断し、一方の端を中ぐり加工をし、該加工品を縦にして、中ぐり加工していない面を上にして、芯線打ち抜き機にて上から芯線を突起を有するハンマーで叩き、加工品の下から頭を出した芯線の一部を引き抜く」ものである点。
[相違点2]
本件発明6は、「電着物または前記囲繞物の内側に前記導電層を残したまま細線材を除去」するものであるのに対し、甲1発明は、「芯線を除去」する際に、ニッケル電鋳層の内側に金メッキ層が残るか否かが不明である点。
[相違点3]
「導電層」を「形成」する「メッキ」が、本件発明6は、「電解メッキ」であるのに対し、甲1発明は、電解メッキであるか否かが不明である点。
[相違点4]
「電着物または前記囲繞物」の「肉厚」が、本件発明6は、「5μm以上50μm以下である」のに対し、甲1発明は、断面が円形で径が0.126mmのステンレス製の線に金を10μmメッキして、直径0.146mmの芯線を得、その後、電鋳を実施して、平均約2.5mmの直径のニッケル電鋳品を得て、フェルールを製造するものであり、製造されるフェルールの肉厚が約1.177mmまたは約1.187mmである点。
なお、フェルールの肉厚が約1.177mmまたは約1.187mmである根拠は以下のとおりである。
相違点2で示したとおり、甲1発明の「フェルール」は、「芯線を除去」する際に、ニッケル電鋳層の内側に金メッキ層が残るか否かが不明である。
そこで、まず、金メッキ層が残らない場合の「フェルール」の肉厚について検討するに、「ニッケル電鋳品」の直径が「平均約2.5mm」であり、最終的に製造される「フェルール」の直径も「平均約2.5mm」と認められ、「芯線」が直径「0.146mm」であって、「芯線」を除去した後の「フェルール」の内径は「0.146mm」であるから、その肉厚は、(約2.5mm-0.146mm)/2≒約1.177mm(約1177μm)となる。
次に、金メッキ層が残る場合の「フェルール」の肉厚について検討するに、「ニッケル電鋳品」の直径が「平均2.5mm」であり、最終的に製造される「フェルール」の直径も「平均約2.5mm」と認められ、「ステンレス製の線」が直径「0.126mm」であって、「芯線」を除去した後の「フェルール」の内径は「0.126mm」であるから、その肉厚は、(約2.5mm-0.126mm)/2≒約1.187mm(約1187μm)となる。
(2)-2 相違点についての検討
ア 事案に鑑みて、まず、相違点4について検討する。
イ 甲1発明は、「フェルールの製造方法」の発明であり、また、甲1の【0001】(甲1については、上記(1)のア参照。以下、同じ。)には、「本発明は、光ファイバーのコネクタに使用する金属製フェルールを効率よく製造する方法に関する」と記載されている。
ウ ここで、甲1の【0002】を参照すると、甲1発明が製造の対象とするような光ファイバー接続用の「フェルール」は、一般に、「径が0.126mm程度の細孔を有し、外径が2.5mmで、長さが12mm程度の微細孔パイプ」であり、そして当該記載の寸法からみて、「フェルール」の通常の肉厚は、1187μm程度であると認められる。
エ また、甲1の【0003】には、「光ファイバーは細くて折れやすいので、その接続のためには光ファイバーをコネクタに確実に固定する必要がある。このための光コネクタ用部品が、フェルールである。即ち、光コネクターは、0.125mm程度の太さの光ファイバーを円筒形の管に通して固定することにより、光ファイバーの中心にあるコア同士の位置を正確に合わせて接続を図るものである」と記載されており、この記載からみて、光ファイバーを接続するための「フェルール」が、光ファイバーを確実に固定し、光ファイバーのコア同士を正確に位置合わせ可能とするための、十分な強度を必要とすることは明らかである。
オ そして、本件発明6における「5μm以上50μm以下」との肉厚は、上述した、「フェルール」の通常の肉厚である1187μm程度とは、大きくかけ離れていること、及び、「フェルール」は光ファイバーを接続するもので、一定の強度が必要であると認められるところ、「5μm以上50μm以下」といった極端に薄い肉厚とすると一定の強度が得られないおそれがあることから、「フェルールの製造方法」である甲1発明において、製造される「フェルール」の肉厚を「5μm以上50μm以下」とする動機は生じ得ないばかりか、強度不足となる観点から阻害要因もある。
カ そうすると、本件発明6のような「5μm以上50μm以下」との肉厚を実現することは、甲1発明から当業者が適宜なし得た設計事項とはいえず、また、甲1発明に対し、甲2~甲8に開示のいかなる技術的事項を組み合わせようとしたところで、当業者が容易に想到し得たことではない。
(2)-3 小括
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明6は、甲1発明、甲2に記載された事項及び本願出願時の技術常識(甲3ないし甲8)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明9について
ア 甲1発明は、ステンレス製の線に金をメッキして、ニッケルを電鋳するものであるから、本件発明9の「電着物または前記囲繞物はニッケルとし、前記導電層は金とした」事項を含むものである。
イ そうすると、本件発明9と甲1発明とは、上記(2)の(2)-1で認定した相違点1~4に加えて、次の相違点5で相違する。
[相違点5]
「電鋳管」が、本件発明9は、「コンタクトプローブ用の管として使用可能な」ものであるのに対し、甲1発明は、「フェルール」であり、「コンタクトプローブ用の管として使用可能な」ものかどうか不明である点。
ウ 事案に鑑みて、まず、相違点4について検討する。
エ 相違点4については、上記(2)の(2)-2で検討したとおりであるから、本件発明9は、本件発明6と同様に、甲1発明、甲2に記載された事項及び本願出願時の技術常識(甲3ないし甲8)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)無効理由4(進歩性)についてのまとめ
上記(2)及び(3)で検討したとおり、請求項6及び9に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された事項及び本願出願時の技術常識(甲第3号証ないし甲第8号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
したがって、請求項6及び9に係る発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当しないから、無効とすることはできない。
よって、無効理由4は理由がない。
(5)本件取消判決について
なお、本件取消判決では、本件発明1について、概ね次のとおり判示されているところ、上記(1)~(4)の当審の判断は当該判示にも沿うものである。
本件発明1と甲1方法発明とは、少なくとも、次の相違点4Cの点で相違する。
(相違点4C)
「電着物または前記囲繞物」の「肉厚」に関し、本件発明1は、「前記電着物または前記囲繞物の肉厚が50μm以下である」のに対し、甲1方法発明は、「電鋳品」の「肉厚」が約1.177mm(1177μm)又は約1.187mm(1187μm)である点。」
以下、相違点4Cを前提にその容易想到性について検討する。
甲1方法発明は、金属フェルール形成用微細円柱の製造方法に関するものであるところ、通信分野で使用されるフェルールは、径が0.126mm程度の細孔のある、外径が2.5mmで長さが12mm程度の微細孔パイプを有するものであり、細くて折れやすい太さ0.125mm程度の光ファイバーをコネクタに確実に固定する部品である(甲1文献【0002】、【0003】)。甲1方法発明は、従来、電鋳により細孔パイプを製造することは公知であるが、フェルールの内径はきわめて細いので、芯線をエッチング液で溶出するのは困難であり、引き抜く際にも芯線が断線しやすいという問題があったこと(【0005】、【0006】)、及び、0.126mm径の芯線(ステンレス線)の外表面にニッケル等を電鋳してこれを切断後、芯線を引き抜いてフェルールを製造する方法は、電源から遠い芯線部分で電流密度が小さくなることに起因して、芯線が長いほど外径が不均一な電鋳体が得られる傾向があるという問題があったこと(【0007】、【0008】)を踏まえ、特に長尺で、内径が0.126mmと小さいフェルール用の微細孔パイプを電鋳で製造するに際して、外径が均一で小さい内径を有し、かつ同軸性の高いフェルールを形成するための微細円柱を効率よく製造する方法を提供しようとするものである(【0001】、【0009】)。
甲1方法発明は、フェルール形成用微細円柱の製造方法に関する発明であるところ、一般にフェルール又はフェルール形成用微細円柱の内径は0.126mm、直径は2mmから2.5mmであることは本件出願時の技術常識であると認められ、これによると、その肉厚は、通常、約1187μm ないし約937μm であると認められる。このような肉厚をもって光ファイバーを固定する部品であるフェルール又はフェルール形成用微細円柱の肉厚を、上記技術常識の厚さの約20分の1若しくはそれ以下である50μm以下に当然に変更できると当業者が考えるとは認め難い。
そうすると、フェルール形成用微細円柱を効率よく製造するための方法である甲1方法発明において、その「約1.177mm(1177μm)」又は「約1.187mm(1187μm)」である肉厚を「50μm以下」に変更することは到底動機付けられない。
したがって、相違点4Cは、当業者が容易に想到し得るものではない。
そうすると、本件発明1を甲1方法発明に基づいて容易に発明することはできないとした本件審決の判断には誤りはない。
第5 むすび
以上のとおり、本件の請求項6及び9に係る発明についての特許は、請求人が主張するいずれの理由及び証拠方法によっても無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
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2019-800099