特許異議申立
2019-700972
アルミニウム合金フィン材
- 審判番号
- 2019-700972
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-024594
- 登録番号
- 6526434
- 請求日
- 2019年11月29日
- 審決日
- 2021年12月03日
- 公報発行日
- 2022年04月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三菱アルミニウム株式会社
- 【権利者代理人】横井 幸喜
- 【異議申立人】奥田 翔
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 井上 猛
- 審判官 池渕 立
- 分類
- P1651.113-YAA(C22C) / P1651.121-YAA(C22C) / P1651.536-YAA(C22C) / P1651.537-YAA(C22C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第36条、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第113条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6526434号発明「アルミニウム合金フィン材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6526434号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第6526434号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6526434号(請求項の数4。以下,「本件特許」という。)は,平成27年2月10日を出願日とする特許出願(特願2015-24594号)に係るものであって,令和1年5月17日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,令和1年6月5日である。)。
その後,令和1年11月29日に,本件特許の請求項1~4に係る特許に対して,特許異議申立人である三田翔(令和3年3月30日に氏名(名称)が奥田翔に変更された。以下,「申立人」という。)により,特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は,以下のとおりである。
令和1年11月29日 特許異議申立書
令和2年 3月31日付け 取消理由通知書
6月 2日 意見書,訂正請求書
7月20日付け 訂正拒絶理由通知書
11月 9日付け 取消理由通知書(決定の予告)
令和3年 1月12日 意見書,訂正請求書
2月 8日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知)
3月10日 意見書(申立人)
なお,当審は,上記訂正拒絶理由通知書において,期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが,特許権者から意見書は提出されなかった。
第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
令和3年1月12日提出の訂正請求書による訂正(以下,「本件訂正」という。)の請求は,本件特許の明細書及び特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1~5について訂正することを求めるものであり,その内容は,以下のとおりである。下線は,訂正箇所を示す。
なお,令和2年6月2日提出の訂正請求書による訂正の請求は,本件訂正の請求がされたことに伴い,特許法120条の5第7項の規定により,取り下げられたものとみなす。
(1)訂正事項1
ア 特許請求の範囲の請求項1に「Si:0.7~1.3%」と記載されているのを,「Si:0.8~1.3%」に訂正する。
イ 特許請求の範囲の請求項1に「ろう付後の引張強さが130MPa以上,ろう付後の孔食電位が-1000~-830mVの範囲にあり,さらに,ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が150μm~800μmの範囲にある」と記載されているのを,「ろう付後の引張強さが130MPa以上145MPa以下,前記ろう付後の孔食電位が-1000~-870mVの範囲にあり,さらに,前記ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が180μm~800μmの範囲にある」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に「前記組成成分として,さらに質量%で,Cu:0.03~0.20%を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のアルミニウム合金フィン材。」と記載されているのを,「質量%で,Mn:1.3~1.8%,Si:0.8~1.3%,Fe:0.10~0.35%,Zn:1.5~5.0%,Cu:0.03~0.20%を含有し,残部がAlと不可避不純物からなる組成を有し,固相線温度が615℃以上で,ろう付後の引張強さが130MPa以上150MPa以下,前記ろう付後の孔食電位が-1000~-870mVの範囲にあり,さらに,前記ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が180μm~800μmの範囲にあることを特徴とするアルミニウム合金フィン材。」に訂正する。
(3)訂正事項3
ア 特許請求の範囲の請求項4に「ろう付後に」と記載されているのを,「前記ろう付後に」に訂正する。
イ 特許請求の範囲の請求項4に「請求項1~3のいずれか1項に記載のアルミニウム合金フィン材。」と記載されているのを,「請求項1または3に記載のアルミニウム合金フィン材。」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5として,「前記組成成分として,さらに質量%で,Zr:0.05~0.25%を含有することを特徴とする請求項3または4に記載のアルミニウム合金フィン材。」を追加する。
(5)訂正事項5
ア 明細書の【0007】に「Si:0.7~1.3%」と記載されているのを,「Si:0.8~1.3%」に訂正する。
イ 明細書の【0007】に「ろう付後の引張強さが130MPa以上,ろう付後の孔食電位が-1000~-830mVの範囲にあり,さらに,ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が150μm~800μmの範囲にある」と記載されているのを,「ろう付後の引張強さが130MPa以上145MPa以下,前記ろう付後の孔食電位が-1000~-870mVの範囲にあり,さらに,前記ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が180μm~800μmの範囲にある」に訂正する。
(6)訂正事項6
明細書の【0009】に「前記第1,または第2の本発明において,前記組成成分として,さらに質量%で,Cu:0.03~0.20%を含有することを特徴とする。」と記載されているのを,「質量%で,Mn:1.3~1.8%,Si:0.8~1.3%,Fe:0.10~0.35%,Zn:1.5~5.0%,Cu:0.03~0.20%を含有し,残部がAlと不可避不純物からなる組成を有し,固相線温度が615℃以上で,ろう付後の引張強さが130MPa以上150MPa以下,前記ろう付後の孔食電位が-1000~-870mVの範囲にあり,さらに,前記ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が180μm~800μmの範囲にあることを特徴とする。」に訂正する。
(7)訂正事項7
明細書の【0010】に「前記第1~第3の本発明のいずれかにおいて,ろう付後に」と記載されているのを,「前記第1または第3の本発明において,前記ろう付後に」に訂正する。
(8)訂正事項8
明細書の【0011】に「第5の本発明のアルミニウム合金フィン材は,前記第1~第4の本発明のいずれかにおいて,加工前の素材において,母相中に分布する第二相粒子で,円相当径0.05~0.4μmの範囲にあるものが,20~80個/μm2の範囲で存在することを特徴とする。」と記載されているのを,「第5の本発明のアルミニウム合金フィン材は,前記第3または第4の本発明において,前記組成成分として,さらに質量%で,Zr:0.05~0.25%を含有することを特徴とする。」に訂正する。
(9)訂正事項9
明細書の【0041】に記載された表2の「No.17」を,「発明例」から「比較例」に訂正する。
(10)訂正事項10
明細書の【0042】に記載された表3の「No.43」,「No.50」を,いずれも「発明例」から「比較例」に訂正する。
(11)一群の請求項について
訂正前の請求項1~4について,請求項2~4は,請求項1を直接又は間接的に引用するものであり,上記の訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって,訂正前の請求項1~4は,一群の請求項である。そして,本件訂正は,その一群の請求項ごとに請求がされたものである。
また,上記の訂正事項5~10に係る訂正は,願書に添付した明細書を訂正するものであるが,いずれも一群の請求項である訂正前の請求項1~4に関係する訂正である。そして,本件訂正は,明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てについて行われている。
2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1に係る訂正は,訂正前の請求項1における「Si」の含有量について,「Si:0.7~1.3%」を「Si:0.8~1.3%」とする訂正を含むものである。
この訂正は,アルミニウム合金フィン材における「Si」の含有量について,「0.7~1.3%」を「0.8~1.3%」に限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また,本件特許の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「訂正前明細書等」という。)には,アルミニウム合金の具体例として,Siを0.8%含有するもの(【0031】,表1のNo.8)が記載されていることから,訂正前明細書等には,Siの含有量が0.8~1.3%であることが記載されているといえるから,この訂正は,訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
イ 訂正事項1に係る訂正は,訂正前の請求項1における「ろう付後の引張強さ」について,「130MPa以上」を「130MPa以上145MPa以下」とする訂正を含むものである。
この訂正は,アルミニウム合金フィン材における「ろう付後の引張強さ」について,「130MPa以上」を「130MPa以上145MPa以下」に限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また,訂正前明細書等には,アルミニウム合金フィン材の具体例として,ろう付後の引張強さが145MPaであるもの(【0031】,【0034】,表2の発明例No.11)が記載されていることから,訂正前明細書等には,ろう付後の引張強さが130MPa以上145MPa以下であることが記載されているといえるから,この訂正は,訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
ウ 訂正事項1に係る訂正は,訂正前の請求項1における「ろう付後の孔食電位」について,「-1000~-830mV」を「-1000~-870mV」とする訂正を含むものである。
この訂正は,アルミニウム合金フィン材における「ろう付後の孔食電位」について,「-1000~-830mV」を「-1000~-870mV」に限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また,訂正前明細書等には,アルミニウム合金フィン材の具体例として,ろう付後の孔食電位が-870mVであるもの(【0031】,【0035】,表2の発明例No.18)が記載されていることから,訂正前明細書等には,ろう付後の孔食電位が-1000~-870mVであることが記載されているといえるから,この訂正は,訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
エ 訂正事項1に係る訂正は,訂正前の請求項1における「ろう付後の圧延面の平均結晶粒径」について,「150μm~800μm」を「180μm~800μm」とする訂正を含むものである。
この訂正は,アルミニウム合金フィン材における「ろう付後の圧延面の平均結晶粒径」について,「150μm~800μm」を「180μm~800μm」に限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また,訂正前明細書等には,アルミニウム合金フィン材の具体例として,ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が180μmであるもの(【0031】,【0038】,表2の発明例No.27)が記載されていることから,訂正前明細書等には,ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が180μm~800μmであることが記載されているといえるから,この訂正は,訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
オ 訂正事項1に係る訂正は,訂正前の請求項1における「ろう付後の孔食電位」,「ろう付後の圧延面の平均結晶粒径」を,それぞれ,「前記ろう付後の孔食電位」,「前記ろう付後の圧延面の平均結晶粒径」とする訂正を含むものである。
これらの訂正は,いずれも,上記「ろう付」が,請求項1に記載される「ろう付後の引張強さ」における「ろう付」を意味するものであることを明瞭にするものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。そして,これらの訂正は,訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正事項2に係る訂正は,訂正前の請求項3のうち,請求項1を引用するものについて,引用形式の記載から独立形式の記載に改める訂正を含むものである。
この訂正は,請求項の記載について,訂正前の引用形式の記載を独立形式の記載に改めるものであるから,「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。そして,この訂正は,訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
イ 訂正事項2に係る訂正は,訂正前の請求項1を引用する請求項3における「Si」の含有量について,「Si:0.7~1.3%」を「Si:0.8~1.3%」とする訂正を含むものである。
訂正事項2に係る訂正は,訂正前の請求項1を引用する請求項3における「ろう付後の引張強さ」について,「130MPa以上」を「130MPa以上150MPa以下」とする訂正を含むものである。
訂正事項2に係る訂正は,訂正前の請求項1を引用する請求項3における「ろう付後の孔食電位」について,「-1000~-830mV」を「-1000~-870mV」とする訂正を含むものである。
訂正事項2に係る訂正は,訂正前の請求項1を引用する請求項3における「ろう付後の圧延面の平均結晶粒径」について,「150μm~800μm」を「180μm~800μm」とする訂正を含むものである。
訂正事項2に係る訂正は,訂正前の請求項1を引用する請求項3における「ろう付後の孔食電位」,「ろう付後の圧延面の平均結晶粒径」を,それぞれ,「前記ろう付後の孔食電位」,「前記ろう付後の圧延面の平均結晶粒径」とする訂正を含むものである。
これらの訂正は,いずれも,上記(1)で述べたのと同様の理由により,特許請求の範囲の減縮又は明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。そして,これらの訂正は,いずれも,上記(1)で述べたのと同様の理由により,訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり(訂正前明細書等には,ろう付後の引張強さが150MPaであるもの(【0031】,【0034】,表3の発明例No.53)も記載されている。),また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
ア 訂正事項3に係る訂正は,訂正前の請求項4における「ろう付後に」を「前記ろう付後に」とする訂正を含むものである。
この訂正は,上記(1)オで述べたのと同様の理由により,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。そして,この訂正は,訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
イ 訂正事項3に係る訂正は,訂正前の請求項4における引用請求項について,「請求項1~3のいずれか1項」を「請求項1または3」に訂正するものである。
この訂正は,引用請求項の一部を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして,この訂正は,訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4に係る訂正は,訂正前の請求項3のうち,請求項1を引用する請求項2を引用するものと,訂正前の請求項4のうち,請求項1を引用する請求項2を引用するものと,訂正前の請求項4のうち,請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を引用するものについて,訂正後の請求項3又は4を引用する形で,新たに請求項5として記載するものである。
この訂正は,上記の訂正事項2及び3による訂正に伴い,請求項間の引用関係を整理するものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。そして,この訂正は,訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(5)訂正事項5~8について
訂正事項5~8に係る訂正は,上記の各訂正事項による訂正に合わせて,願書に添付した明細書の記載を整合させるものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。そして,これらの訂正は,訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(6)訂正事項9及び10について
訂正事項9及び10に係る訂正は,上記の各訂正事項による訂正に伴い,「発明例」ではなくなったものを「比較例」とするものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。そして,これらの訂正は,訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(7)独立特許要件について
本件においては,訂正前の全ての請求項1~4について特許異議の申立てがされているので,特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条7項の独立特許要件は課されない。
3 まとめ
上記2のとおり,各訂正事項に係る訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号,3号又は4号に掲げる事項を目的とするものに該当し,同条9項において準用する同法126条5項及び6項に適合するものであるから,結論のとおり,本件訂正を認める。
第3 本件発明
前記第2で述べたとおり,本件訂正は認められるので,本件特許の請求項1~5に係る発明は,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。また,本件訂正後の明細書を「本件明細書」という。)。
【請求項1】
質量%で,Mn:1.3~1.8%,Si:0.8~1.3%,Fe:0.10~0.35%,Zn:1.5~5.0%を含有し,残部がAlと不可避不純物からなる組成を有し,固相線温度が615℃以上で,ろう付後の引張強さが130MPa以上145MPa以下,前記ろう付後の孔食電位が-1000~-870mVの範囲にあり,さらに,前記ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が180μm~800μmの範囲にあることを特徴とするアルミニウム合金フィン材。
【請求項2】
前記組成成分として,さらに質量%で,Zr:0.05~0.25%を含有することを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金フィン材。
【請求項3】
質量%で,Mn:1.3~1.8%,Si:0.8~1.3%,Fe:0.10~0.35%,Zn:1.5~5.0%,Cu:0.03~0.20%を含有し,残部がAlと不可避不純物からなる組成を有し,固相線温度が615℃以上で,ろう付後の引張強さが130MPa以上150MPa以下,前記ろう付後の孔食電位が-1000~-870mVの範囲にあり,さらに,前記ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が180μm~800μmの範囲にあることを特徴とするアルミニウム合金フィン材。
【請求項4】
前記ろう付後に母相中に分布する第二相粒子のうち,円相当径が0.5μm以上のAl-Mn-Fe-Si化合物中のMn,Fe,Siの含有量の平均が,前記化合物中の原子%でFe/(Mn+Si)<0.25の関係を満足することを特徴とする請求項1または3に記載のアルミニウム合金フィン材。
【請求項5】
前記組成成分として,さらに質量%で,Zr:0.05~0.25%を含有することを特徴とする請求項3または4に記載のアルミニウム合金フィン材。
第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由
本件特許の本件訂正前の請求項1~4に係る特許は,下記(1)~(9)のとおり,特許法113条2号及び4号に該当する。証拠方法は,甲第1号証~甲第6号証(以下,単に「甲1」等という。下記(10)を参照。)である。
(1)申立理由1-1(新規性)
本件訂正前の請求項1,3及び4に係る発明は,甲1に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の本件訂正前の請求項1,3及び4に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(2)申立理由1-2(新規性)
本件訂正前の請求項2に係る発明は,甲2に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の本件訂正前の請求項2に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(3)申立理由1-3(新規性)
本件訂正前の請求項3に係る発明は,甲3に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の本件訂正前の請求項3に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(4)申立理由1-4(新規性)
本件訂正前の請求項3に係る発明は,甲4に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の本件訂正前の請求項3に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(5)申立理由2-1(進歩性)
本件訂正前の請求項1,3及び4に係る発明は,甲1に記載された発明に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の本件訂正前の請求項1,3及び4に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(6)申立理由2-2(進歩性)
本件訂正前の請求項2及び4に係る発明は,甲2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の本件訂正前の請求項2に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(7)申立理由2-3(進歩性)
本件訂正前の請求項3及び4に係る発明は,甲3に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の本件訂正前の請求項3に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(8)申立理由2-4(進歩性)
本件訂正前の請求項3及び4に係る発明は,甲4に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の本件訂正前の請求項3に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(9)申立理由3(実施可能要件)
本件訂正前の請求項1~4に係る発明については,発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に適合するものではないから,本件特許の本件訂正前の請求項1~4に係る特許は,同法113条4号に該当する。
(10)証拠方法
・甲1 特開2012-126950号公報
・甲2 特開2002―155332号公報
・甲3 特開平10-88265号公報
・甲4 特開2002-161323号公報
・甲5 特開平6-272069号公報
・甲6 「アルミニウムの組織と性質」,軽金属学会,1991年11月30日,217~230項
2 取消理由通知書に記載した取消理由
(1)令和2年3月31日付けの取消理由通知書
ア 取消理由1(新規性)
上記(1)の申立理由1-1(新規性)(ただし,本件訂正前の請求項1及び4に係る発明に対するもの)と同旨
イ 取消理由2(新規性)
上記(3)の申立理由1-3(新規性)と同旨
ウ 取消理由3(明確性要件)
本件訂正前の請求項1~4に係る発明については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合するものではないから,本件特許の本件訂正前の請求項1~4に係る特許は,同法113条4号に該当する。
(2)令和2年11月9日付けの取消理由通知書(決定の予告)
ア 取消理由1’(新規性)
上記(1)アの取消理由1(新規性)と同旨
イ 取消理由2’(新規性)
上記(1)イの取消理由2(新規性)と同旨
ウ 取消理由3’(明確性要件)
上記(1)ウの取消理由3(明確性要件)と同旨
第5 当審の判断
以下に述べるように,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
1 取消理由3’(明確性要件),取消理由3(明確性要件)
令和2年3月31日付けの取消理由通知書では,本件訂正前の請求項1には,「ろう付後の引張強さが130MPa以上」,「ろう付後の孔食電位が-1000~-830mVの範囲にあり」,「ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が150μm~800μmの範囲にある」と記載されているが,ろう付け条件が異なれば,「ろう付後の引張強さ」,「ろう付後の孔食電位」,「ろう付後の圧延面の平均結晶粒径」の各値が変化するものと考えられ,ろう付け条件をどのようにした場合の値であるか不明であるので,本件訂正前の請求項1~4に係る発明は明確であるとはいえない旨,指摘した。
また,令和2年11月9日付けの取消理由通知書(決定の予告)でも,上記と同様の指摘をした。
これに対して,特許権者は,令和3年1月12日提出の意見書において,本件発明1~5では,ろう付後の引張強さ,孔食電位,圧延面の平均結晶粒径について物性値を規定しているが,これらの物性値は,当業者において選定される加熱条件によって変わるとしても,どのような加熱条件においても本件発明1~5で特定された物性値を満たすと主張した。
以上の主張によれば,本件訂正後の請求項1及び3に記載される「ろう付後の引張強さ」,「ろう付後の孔食電位」,「ろう付後の圧延面の平均結晶粒径」の各値は,当業者において選定される加熱条件によって変わるとしても,どのような加熱条件においてもその各値を満たすことを意味するものであり,その意味は明確であるから,取消理由3’(明確性要件),取消理由3(明確性要件)は解消した。
したがって,取消理由3’(明確性要件),取消理由3(明確性要件)によっては,本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
2 取消理由1’(新規性),取消理由1(新規性),申立理由1-1(新規性),申立理由2-1(進歩性)
(1)甲1に記載された発明
甲1の記載(請求項1,2,【0001】,【0006】,【0007】,【0010】,【0017】,【0022】,【0023】,【0027】,【0034】,【0040】~【0047】,表1~4)によれば,特に,実施例20,比較例11,実施例9(【0034】,【0036】,【0040】,表1~4)にそれぞれ着目すると,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「質量%で,Mn:1.80%,Si:1.15%,Fe:0.20%,Zn:2.50%を含有し,残部がAlと不可避不純物からなる組成を有し,ろう付処理(窒素雰囲気中,600℃,3分間)後の引張強さが163MPaで,鋳造されて鋳塊とされて,480℃10h均質化処理,一般的な熱間圧延,一般的な冷間圧延を経て製造される,板厚0.05mm,調質H14のアルミニウム合金フィン材。」(以下,「甲1発明1」という。)
「質量%で,Mn:1.55%,Si:1.05%,Fe:0.30%,Zn:2.50%を含有し,残部がAlと不可避不純物からなる組成を有し,ろう付処理(窒素雰囲気中,600℃,3分間)後の引張強さが139MPaで,鋳造されて鋳塊とされて,470℃15h均質化処理,一般的な熱間圧延,一般的な冷間圧延を経て製造される,板厚0.05mm,調質H14のアルミニウム合金フィン材。」(以下,「甲1発明2」という。)
「質量%で,Mn:1.70%,Si:1.15%,Fe:0.30%,Zn:2.50%,Cu:0.05%を含有し,残部がAlと不可避不純物からなる組成を有し,ろう付処理(窒素雰囲気中,600℃,3分間)後の引張強さが161MPaで,鋳造されて鋳塊とされて,470℃1h均質化処理,一般的な熱間圧延,一般的な冷間圧延を経て製造される,板厚0.05mm,調質H14のアルミニウム合金フィン材。」(以下,「甲1発明3」という。)
(2)本件発明1について
ア 甲1発明1との対比
(ア)対比
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
本件発明1の組成と,甲1発明1の組成とは,いずれも,Mn,Si,Fe,Znを含有し,残部がAlと不可避不純物からなる点で共通し,これら各成分の含有量も重複一致する。
以上によれば,本件発明1と甲1発明1とは,
「質量%で,Mn:1.3~1.8%,Si:0.8~1.3%,Fe:0.10~0.35%,Zn:1.5~5.0%を含有し,残部がAlと不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金フィン材。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点1-1
本件発明1では,「固相線温度が615℃以上」,「ろう付後の引張強さが130MPa以上145MPa以下」,「前記ろう付後の孔食電位が-1000~-870mVの範囲」,「前記ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が180μm~800μmの範囲」であるのに対して,甲1発明1では,「ろう付処理(窒素雰囲気中,600℃,3分間)後の引張強さが163MPa」であり,固相線温度,ろう付後の孔食電位,ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が,いずれも不明である点。
(イ)相違点1-1の検討
a まず,相違点1-1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
(a)本件発明1では,「ろう付後の引張強さ」が「130MPa以上145MPa以下」であるのに対して,甲1発明1では,「ろう付処理(窒素雰囲気中,600℃,3分間)後の引張強さ」が「163MPa」である以上,両者は,「ろう付後の引張強さ」が異なるものである。
(b)甲1には,フィン材の固相線温度については,何ら具体的に記載されていない。
ここで,本件明細書には,「固相線温度は,成分の設定により達成することができる。」(【0019】)と記載されていることから,本件発明1に係るフィン材は,請求項1に記載される所定の組成を有するアルミニウム合金のうち,「固相線温度が615℃以上」となる組成のものに限定されたものと解されるから,請求項1に記載される組成を有するアルミニウム合金であれば,その「固相線温度」が,必ず「615℃以上」であるとはいえない。
そうすると,甲1発明1の組成は,上記のとおり,本件発明1の組成と一致するものであるが,そのことのみでは,甲1発明1に係るフィン材の「固相線温度」が,必ず「615℃以上」であるかどうかは不明である。
(c)甲1には,フィン材のろう付後の孔食電位については,何ら記載されていない。
甲1には,Znの含有量を0.05~5.0質量%とすることにより,所定の電位とすることが記載されているものの(【0018】),そうであるからといって,甲1発明1に係るフィン材の「ろう付後の孔食電位」が,必ず「-1000~-870mVの範囲」であるかどうかは不明である。
(d)甲1には,フィン材のろう付後の圧延面の平均結晶粒径については,何ら記載されていない。
本件明細書の記載(【0004】,【0022】)によれば,本件発明1においては,「ろう付後の圧延面の平均結晶粒径」を「180μm~800μmの範囲」とすることにより,ろう付け後の強度を確保できるとともに,ろう浸食(座屈)を防止できるものと解される。
一方,甲1発明1に係るフィン材は,上記のとおり,「ろう付処理(窒素雰囲気中,600℃,3分間)後の引張強さが163MPa」であり,また,甲1には,耐ろう侵食性に優れることが記載されているものの(【0010】,【0048】),そうであるからといって,甲1発明1に係るフィン材の「ろう付後の圧延面の平均結晶粒径」が,必ず「180μm~800μmの範囲」であるかどうかは不明である。
(e)申立人は,甲1の実施例に記載のろう付け処理後のフィン材は,本件発明1のフィン材と組成が一致するアルミニウム合金を用いて,本件発明1のフィン材と同様の熱処理条件及び加工条件を用いて製造されたものであるから,請求項1に記載の「ろう付後の孔食電位」及び「ろう付後の圧延面の平均結晶粒径」を満たしている蓋然性が高いと主張する。
以下,検討する。
本件明細書には,本件発明1に係るフィン材の製造方法について,「本発明の組成成分に調整した鋳塊は,常法により製造することができる。鋳造時の鋳造速度は,0.2~10℃/sとするのが望ましい。・・・上記鋳塊を好適には350~480℃×2~15時間の条件で均質化することが望ましい。」(【0027】),「前記素材は,常法により熱間加工,冷間加工を行うことができる。その条件は常法により行うことが可能である。」(【0028】)と記載されている。また,本件明細書の実施例においては,表1に示す組成(残部Al+不可避不純物)を有するアルミニウム合金を,半連続鋳造法により,鋳造速度0.6~2.5℃/秒で溶解,鋳造し,得られた鋳塊に対し,表2,3に示す条件(400~520℃×5~12時間)にて均質化処理を行い,その後,熱間圧延を行い,75%以上で冷間圧延を行った後,350℃にて中間焼鈍を行い,その後圧延率40%の最終圧延を行うことが記載されている(【0031】,表1~3)。
一方,甲1には,甲1発明1に係るフィン材の製造方法について,「表1に示す含有量で各元素を含有し,残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金溶湯を鋳造して鋳塊を作製し,表2に示す条件(当審注:実施例20では,480℃,10h)で均質化処理を行い,その後,熱間圧延,冷間圧延を順次行い,板厚0.05mm,調質H14のフィン材を製造した。なお,熱間圧延および冷間圧延の条件は,一般的に用いられる条件を用いた。」(【0034】,表1,2)と記載されているものの,少なくとも,鋳造速度及び冷間圧延(中間焼鈍を含む)については,その具体的な条件は不明である。
以上によれば,甲1発明1に係るフィン材が,本件発明1に係るフィン材と同様の熱処理条件及び加工条件を用いて製造されたものであるとはいえない。
この点,申立人は,鋳造速度を0.6~2.5℃/秒とすること,中間焼鈍前に75%以上で冷間圧延を行い,中間焼鈍後に圧延率40%の最終圧延を行うこと,中間焼鈍温度を350℃とすることは,一般的に用いられる条件であるとも述べるが,そのように認めるに足りる証拠はない。
よって,申立人の主張は,その前提において失当であり,採用することができない。
(f)以上によれば,相違点1-1は実質的な相違点である。
したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明であるとはいえない。
b 次に,相違点1-1の容易想到性について検討する。
上記aで述べたとおり,甲1には,フィン材の固相線温度,フィン材のろう付後の孔食電位,フィン材のろう付後の圧延面の平均結晶粒径については,何ら具体的に記載されていないから,本件特許についての出願時の技術常識を考慮しても,甲1発明1において,フィン材の固相線温度を615℃以上とすること,フィン材のろう付後の孔食電位を-1000~-870mVの範囲とすること,フィン材のろう付後の圧延面の平均結晶粒径を180μm~800μmの範囲とすることが動機付けられるとはいえない。
そうすると,甲1発明1において,少なくとも,「固相線温度が615℃以上」,「ろう付後の孔食電位が-1000~-870mVの範囲」,「ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が180μm~800μmの範囲」と特定することは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(ウ)小括
以上のとおり,本件発明1は,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 甲1発明2との対比
(ア)対比
本件発明1と甲1発明2とを対比する。
本件発明1の組成と,甲1発明2の組成とは,いずれも,Mn,Si,Fe,Znを含有し,残部がAlと不可避不純物からなる点で共通し,これら各成分の含有量も重複一致する。
甲1発明2における「ろう付処理(窒素雰囲気中,600℃,3分間)後の引張強さが139MPa」は,本件発明1における「ろう付後の引張強さが130MPa以上145MPa以下」に相当する。
以上によれば,本件発明1と甲1発明2とは,
「質量%で,Mn:1.3~1.8%,Si:0.8~1.3%,Fe:0.10~0.35%,Zn:1.5~5.0%を含有し,残部がAlと不可避不純物からなる組成を有し,ろう付後の引張強さが130MPa以上145MPa以下であるアルミニウム合金フィン材。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点1-2
本件発明1では,「固相線温度が615℃以上」,「前記ろう付後の孔食電位が-1000~-870mVの範囲」,「前記ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が180μm~800μmの範囲」であるのに対して,甲1発明2では,固相線温度,ろう付後の孔食電位,ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が,いずれも不明である点。
(イ)相違点1-2の検討
a 相違点1-2は,ろう付後の引張強さの点を除けば,上記ア(イ)で検討した相違点1-1と同様のものであるから,上記ア(イ)aで述べたのと同様の理由により,相違点1-2は実質的な相違点である。
したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明であるとはいえない。
b また,上記ア(イ)bで述べたのと同様の理由により,甲1発明2において,「固相線温度が615℃以上」,「ろう付後の孔食電位が-1000~-870mVの範囲」,「ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が180μm~800μmの範囲」と特定することは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(ウ)小括
以上のとおり,本件発明1は,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と甲1発明3とを対比する。
本件発明3の組成と,甲1発明3の組成とは,いずれも,Mn,Si,Fe,Zn,Cuを含有し,残部がAlと不可避不純物からなる点で共通し,これら各成分の含有量も重複一致する。
以上によれば,本件発明3と甲1発明3とは,
「質量%で,Mn:1.3~1.8%,Si:0.8~1.3%,Fe:0.10~0.35%,Zn:1.5~5.0%,Cu:0.03~0.20%を含有し,残部がAlと不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金フィン材。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点1-3
本件発明3では,「固相線温度が615℃以上」,「ろう付後の引張強さが130MPa以上150MPa以下」,「前記ろう付後の孔食電位が-1000~-870mVの範囲」,「前記ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が180μm~800μmの範囲」であるのに対して,甲1発明3では,「ろう付処理(窒素雰囲気中,600℃,3分間)後の引張強さが161MPa」であり,固相線温度,ろう付後の孔食電位,ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が,いずれも不明である点。
(イ)相違点1-3の検討
a 相違点1-3は,上記(2)ア(イ)で検討した相違点1-1と同様のものであるから,上記(2)ア(イ)aで述べたのと同様の理由により,相違点1-3は実質的な相違点である。
したがって,本件発明3は,甲1に記載された発明であるとはいえない。
b また,上記(2)ア(イ)bで述べたのと同様の理由により,甲1発明3において,少なくとも,「固相線温度が615℃以上」,「ろう付後の孔食電位が-1000~-870mVの範囲」,「ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が180μm~800μmの範囲」と特定することは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
したがって,本件発明3は,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(ウ)小括
以上のとおり,本件発明3は,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明4及び5について
本件発明4及び5と,甲1発明1~3とを対比すると,上記(2),(3)と同様に,両者は,少なくとも,相違点1-1~1-3と同様の点で相違するところ,これらの相違点については,上記(2),(3)で述べたのと同様の理由により,実質的な相違点であり,また,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
したがって,本件発明4及び5は,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)まとめ
以上のとおり,本件発明1及び3~5は,甲1に記載された発明であるとはいえない。
また,本件発明1及び3~5は,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,取消理由1’(新規性),取消理由1(新規性),申立理由1-1(新規性),申立理由2-1(進歩性)によっては,本件特許の請求項1及び3~5に係る特許を取り消すことはできない。
3 取消理由2’(新規性),取消理由2(新規性),申立理由1-3(新規性),申立理由2-3(進歩性)
(1)甲3に記載された発明
甲3の記載(請求項1,3,【0008】,【0017】,【0019】~【0024】,表1,2)によれば,特に,試験材2(【0019】~【0024】,表1,2)に着目すると,甲3には,以下の発明が記載されていると認められる。
「重量%で,Mn:1.7重量%,Si:0.8重量%,Fe:0.3重量%,Zn:4.8重量%,Cu:0.2重量%を含有し,残部Alおよび不可避的不純物からなる組成を有し,ろう付け時と同様,窒素ガス中で600℃3分間加熱した後,測定した引張強さが156MPaで,孔食電位が-850(mV vs SCE)であり,鋳造されて鋳塊となり,均質化処理後,熱間圧延,冷間圧延され,340℃の中間焼鈍を経て仕上げ冷間圧延を経て製造された,0.07mm厚さのアルミニウム合金フィン材。」(以下,「甲3発明」という。)
(2)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と甲3発明とを対比する。
本件発明3の組成と,甲3発明の組成とは,いずれも,Mn,Si,Fe,Zn,Cuを含有し,残部がAlと不可避不純物からなる点で共通し,これら各成分の含有量も重複一致する。
以上によれば,本件発明3と甲3発明とは,
「質量%で,Mn:1.3~1.8%,Si:0.8~1.3%,Fe:0.10~0.35%,Zn:1.5~5.0%,Cu:0.03~0.20%を含有し,残部がAlと不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金フィン材。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点3
本件発明3では,「固相線温度が615℃以上」,「ろう付後の引張強さが130MPa以上150MPa以下」,「前記ろう付後の孔食電位が-1000~-870mVの範囲」,「前記ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が180μm~800μmの範囲」であるのに対して,甲3発明では,「ろう付け時と同様,窒素ガス中で600℃3分間加熱した後,測定した引張強さが156MPaで,孔食電位が-850(mV vs SCE)」であり,固相線温度,ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が,いずれも不明である点。
イ 相違点3の検討
(ア)まず,相違点3が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
a 本件発明3では,「ろう付後の引張強さが130MPa以上150MPa以下」,「前記ろう付後の孔食電位が-1000~-870mVの範囲」であるのに対して,甲3発明では,「ろう付け時と同様,窒素ガス中で600℃3分間加熱した後,測定した引張強さが156MPaで,孔食電位が-850(mV vs SCE)」である以上,両者は,「ろう付後の引張強さ」,「ろう付後の孔食電位」が異なるものである。
b 甲3には,フィン材の固相線温度については,何ら記載されていない。
甲3発明の組成は,上記のとおり,本件発明3の組成と一致するものであるが,上記2(2)ア(イ)a(b)で述べたのと同様の理由により,甲3発明に係るフィン材の「固相線温度」が,必ず「615℃以上」であるかどうかは不明である。
c 甲3には,フィン材のろう付後の圧延面の平均結晶粒径については,何ら記載されていない。
本件明細書の記載(【0004】,【0022】)によれば,本件発明3においては,「ろう付後の圧延面の平均結晶粒径」を「180μm~800μmの範囲」とすることにより,ろう付け後の強度を確保できるとともに,ろう浸食(座屈)を防止できるものと解される。
一方,甲3発明に係るフィン材は,上記のとおり,「ろう付け時と同様,窒素ガス中で600℃3分間加熱した後,測定した引張強さが156MPa」であり,また,甲3には,ろう付け性が良好であることが記載されているものの(【0022】),そうであるからといって,甲3発明に係るフィン材の「ろう付後の圧延面の平均結晶粒径」が,必ず「180μm~800μmの範囲」であるかどうかは不明である。
d 申立人は,甲3の実施例に記載のろう付け処理後のフィン材は,本件発明3のフィン材と組成が一致するアルミニウム合金を用いて,本件発明3のフィン材と同様の熱処理条件及び加工条件を用いて製造されたものであるから,請求項3に記載の「ろう付後の圧延面の平均結晶粒径」を満たしている蓋然性が高いと主張する。
しかしながら,甲3には,甲3発明に係るフィン材の製造方法について,「表1に示す組成のアルミニウム合金を溶解,鋳造し,得られた鋳塊を均質化処理後,熱間圧延,冷間圧延し,中間焼鈍を経て仕上げ冷間圧延を行って,0.07mm厚さのアルミニウム合金フィン材を得た。中間焼鈍温度は340℃とした。」(【0019】,表1)と記載されているものの,少なくとも,鋳造速度,均質化処理及び冷間圧延については,その具体的な条件は不明である。
そうすると,上記2(2)ア(イ)a(e)で述べたのと同様の理由により,甲3発明に係るフィン材が,本件発明3に係るフィン材と同様の熱処理条件及び加工条件を用いて製造されたものであるとはいえない。
よって,申立人の主張は,その前提において失当であり,採用することができない。
e 以上によれば,相違点3は実質的な相違点である。
したがって,本件発明3は,甲3に記載された発明であるとはいえない。
(イ)次に,相違点3の容易想到性について検討する。
上記(ア)で述べたとおり,甲3には,フィン材の固相線温度,フィン材のろう付後の圧延面の平均結晶粒径については,何ら記載されていないから,本件特許についての出願時の技術常識を考慮しても,甲3発明において,フィン材の固相線温度を615℃以上とすること,フィン材のろう付後の圧延面の平均結晶粒径を180μm~800μmの範囲とすることが動機付けられるとはいえない。
そうすると,甲3発明において,少なくとも,「固相線温度が615℃以上」,「ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が180μm~800μmの範囲」と特定することは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
したがって,本件発明3は,甲3に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり,本件発明3は,甲3に記載された発明であるとはいえず,また,甲3に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明4及び5について
本件発明4及び5と,甲3発明とを対比すると,上記(2)と同様に,両者は,少なくとも,相違点3と同様の点で相違するところ,この相違点については,上記(2)で述べたのと同様の理由により,実質的な相違点であり,また,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
したがって,本件発明4及び5は,甲3に記載された発明であるとはいえず,また,甲3に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)まとめ
以上のとおり,本件発明3及び5は,甲3に記載された発明であるとはいえない。
また,本件発明3~5は,甲3に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,取消理由2’(新規性),取消理由2(新規性),申立理由1-3(新規性),申立理由2-3(進歩性)によっては,本件特許の請求項3~5に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由1-2(新規性),申立理由2-2(進歩性)
(1)甲2に記載された発明
甲2の記載(請求項1,【0007】,【0022】,【0024】~【0035】,【0043】,表1,2)によれば,特に,請求項1の記載を前提として,合金No.6を用いたフィン材No.8(【0024】~【0027】,【0030】,表1,2)に着目すると,甲2には,以下の発明が記載されていると認められる。
「質量%で,Mn:1.6%,Si:0.8%,Fe:0.2%,Zn:1.5%,Zr:0.15%を含有し,残部Alと不可避的不純物からなり,ろう付け前の引張強さが190MPaであり,ろう付け後の引張強さが145MPaであり,連続鋳造により上記組成を有するアルミニウム合金を造塊し,常法に従って均質化処理後した後,熱間圧延し,ついで冷間圧延(加工度88~96%)した後,中間焼鈍(温度200~400℃)及び仕上げ冷間圧延(加工度13~70%)を経て製造された,厚み0.07mmのアルミニウム合金フィン材。」(以下,「甲2発明」という。)
(2)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲2発明とを対比する。
本件発明2の組成と,甲2発明の組成とは,いずれも,Mn,Si,Fe,Zn,Zrを含有し,残部がAlと不可避不純物からなる点で共通し,これら各成分の含有量も重複一致する。
甲2発明における「ろう付け後の引張強さが145MPa」は,本件発明2における「ろう付後の引張強さが130MPa以上145MPa以下」に相当する。
以上によれば,本件発明2と甲2発明とは,
「質量%で,Mn:1.3~1.8%,Si:0.8~1.3%,Fe:0.10~0.35%,Zn:1.5~5.0%を含有し,前記組成成分として,さらに質量%で,Zr:0.05~0.25%を含有し,残部がAlと不可避不純物からなる組成を有し,ろう付後の引張強さが130MPa以上145MPa以下であるアルミニウム合金フィン材。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点2
本件発明2では,「固相線温度が615℃以上」,「前記ろう付後の孔食電位が-1000~-870mVの範囲」,「前記ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が180μm~800μmの範囲」であるのに対して,甲2発明では,固相線温度,ろう付後の孔食電位,ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が,いずれも不明である点。
イ 相違点2の検討
(ア)まず,相違点2が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
a 甲2には,フィン材の固相線温度については,何ら記載されていない。
甲2発明の組成は,上記のとおり,本件発明2の組成と一致するものであるが,上記2(2)ア(イ)a(b)で述べたのと同様の理由により,甲2発明に係るフィン材の「固相線温度」が,必ず「615℃以上」であるかどうかは不明である。
b 甲2には,フィン材のろう付後の孔食電位については,何ら記載されていない。
甲2には,Znの含有量を0.5~3質量%とすることにより,電位を卑とすることが記載されているものの(【0015】),そうであるからといって,甲2発明に係るフィン材の「ろう付後の孔食電位」が,必ず「-1000~-870mVの範囲」であるかどうかは不明である。
c 甲2には,フィン材のろう付後の圧延面の平均結晶粒径については,何ら記載されていない。
本件明細書の記載(【0004】,【0022】)によれば,本件発明2においては,「ろう付後の圧延面の平均結晶粒径」を「180μm~800μmの範囲」とすることにより,ろう付け後の強度を確保できるとともに,ろう浸食(座屈)を防止できるものと解される。
一方,甲2発明に係るフィン材は,上記のとおり,「ろう付け後の引張強さが145MPa」であり,また,甲2には,ろう付け性に優れることが記載されているものの(【0043】),そうであるからといって,甲2発明に係るフィン材の「ろう付後の圧延面の平均結晶粒径」が,必ず「180μm~800μmの範囲」であるかどうかは不明である。
d 申立人は,甲2の実施例に記載のろう付け処理後のフィン材は,本件発明2のフィン材と組成が一致するアルミニウム合金を用いて,本件発明2のフィン材と同様の熱処理条件及び加工条件を用いて製造されたものであるから,請求項1に記載の「ろう付後の孔食電位」及び「ろう付後の圧延面の平均結晶粒径」を満たしている蓋然性が高いと主張する。
しかしながら,甲2には,甲2発明に係るフィン材の製造方法について,「連続鋳造により,表1に示す組成(合金No.1~12に示す組成)を有するアルミニウム合金を造塊し,常法に従って均質化処理後した後,熱間圧延し,ついで冷間圧延(加工度88~96%)した後,中間焼鈍(温度200~400℃)及び仕上げ冷間圧延(加工度13~70%)を経て厚み0.07mmのアルミ合金フィン材を製造した,」(【0024】,表1)と記載されているものの,少なくとも,鋳造速度及び均質化処理については,その具体的な条件は不明である。
そうすると,上記2(2)ア(イ)a(e)で述べたのと同様の理由により,甲2発明に係るフィン材が,本件発明2に係るフィン材と同様の熱処理条件及び加工条件を用いて製造されたものであるとはいえない。
よって,申立人の主張は,その前提において失当であり,採用することができない。
f 以上によれば,相違点2は実質的な相違点である。
したがって,本件発明2は,甲2に記載された発明であるとはいえない。
(イ)次に,相違点2の容易想到性について検討する。
上記(ア)で述べたとおり,甲2には,フィン材の固相線温度,フィン材のろう付後の孔食電位,フィン材のろう付後の圧延面の平均結晶粒径については,何ら記載されていないから,本件特許についての出願時の技術常識を考慮しても,甲2発明において,フィン材の固相線温度を615℃以上とすること,フィン材のろう付後の孔食電位を-1000~-870mVの範囲とすること,フィン材のろう付後の圧延面の平均結晶粒径を180μm~800μmの範囲とすることが動機付けられるとはいえない。
そうすると,甲2発明において,「固相線温度が615℃以上」,「前記ろう付後の孔食電位が-1000~-870mVの範囲」,「ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が180μm~800μmの範囲」と特定することは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
したがって,本件発明2は,甲2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり,本件発明2は,甲2に記載された発明であるとはいえず,また,甲2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3) 本件発明4及び5について
本件発明4及び5と,甲2発明とを対比すると,上記(2)と同様に,両者は,少なくとも,相違点2と同様の点で相違するところ,この相違点については,上記(2)で述べたのと同様の理由により,実質的な相違点であり,また,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
したがって,本件発明4及び5は,甲2に記載された発明であるとはいえず,また,甲2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)まとめ
以上のとおり,本件発明2は,甲2に記載された発明であるとはいえない。
また,本件発明2,4及び5は,甲2に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,申立理由1-2(新規性),申立理由2-2(進歩性)によっては,本件特許の請求項2,4及び5に係る特許を取り消すことはできない。
5 申立理由1-4(新規性),申立理由2-4(進歩性)
(1)甲4に記載された発明
甲4の記載(請求項1,【0007】,【0023】,【0025】~【0036】,【0044】,表1,2)によれば,特に,請求項1の記載を前提として,合金No.6を用いたフィン材No.8(【0025】~【0028】,【0031】,表1,2)に着目すると,甲4には,以下の発明が記載されていると認められる。
「質量%で,Mn:1.6%,Si:0.8%,Fe:0.2%,Zn:1.5%,Zr:0.16%,Cu:0.15%を含有し,残部Alと不可避的不純物からなり,ろう付け前の引張強さが182MPaであり,ろう付け後の引張強さが150MPaであり,連続鋳造により上記組成を有するアルミニウム合金を造塊し,常法に従って均質化処理後した後,熱間圧延し,ついで冷間圧延(加工度88~96%)した後,中間焼鈍(温度200~400℃)及び仕上げ冷間圧延(加工度13~70%)を経て製造された,厚み0.07mmのアルミニウム合金フィン材。」(以下,「甲4発明」という。)
(2)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と甲4発明とを対比する。
本件発明3の組成と,甲4発明の組成とは,少なくとも,Mn,Si,Fe,Zn,Cuを含有する点で共通し,これら各成分の含有量も重複一致する。
甲4発明における「ろう付け後の引張強さが150MPa」は,本件発明3における「ろう付後の引張強さが130MPa以上150MPa以下」に相当する。
以上によれば,本件発明3と甲4発明とは,
「質量%で,Mn:1.3~1.8%,Si:0.8~1.3%,Fe:0.10~0.35%,Zn:1.5~5.0%,Cu:0.03~0.20%を含有する組成を有し,ろう付後の引張強さが130MPa以上150MPa以下であるするアルミニウム合金フィン材。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点4-1
本件発明3では,「固相線温度が615℃以上」,「前記ろう付後の孔食電位が-1000~-870mVの範囲」,「前記ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が180μm~800μmの範囲」であるのに対して,甲4発明では,固相線温度,ろう付後の孔食電位,ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が,いずれも不明である点。
・相違点4-2
本件発明3では,それぞれ所定量のMn,Si,Fe,Zn,Cuを含有するほかは,「残部がAlと不可避不純物からなる」組成であり,合金成分としては「Zr」を含有しないのに対して,甲4発明では,それぞれ所定量のMn,Si,Fe,Zn,Cuを含有するほかに,合金成分として,さらに所定量の「Zr」を含有し,「残部Alと不可避的不純物からな」る点。
イ 相違点4-1の検討
(ア)まず,相違点4-1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
a 甲4には,フィン材の固相線温度については,何ら記載されていない。
甲4発明の組成は,上記のとおり,本件発明3の組成と共通するものであるが,上記2(2)ア(イ)a(b)で述べたのと同様の理由により,甲4発明に係るフィン材の「固相線温度」が,必ず「615℃以上」であるかどうかは不明である。
b 甲4には,フィン材のろう付後の孔食電位については,何ら記載されていない。
甲4には,Znの含有量を0.5~3質量%とすることにより,電位を卑とすることが記載されているものの(【0016】),そうであるからといって,甲4発明に係るフィン材の「ろう付後の孔食電位」が,必ず「-1000~-870mVの範囲」であるかどうかは不明である。
c 甲4には,フィン材のろう付後の圧延面の平均結晶粒径については,何ら記載されていない。
本件明細書の記載(【0004】,【0022】)によれば,本件発明3においては,「ろう付後の圧延面の平均結晶粒径」を「180μm~800μmの範囲」とすることにより,ろう付け後の強度を確保できるとともに,ろう浸食(座屈)を防止できるものと解される。
一方,甲4発明に係るフィン材は,上記のとおり,「ろう付け後の引張強さが150MPa」であり,また,甲4には,ろう付け性に優れることが記載されているものの(【0044】),そうであるからといって,甲4発明に係るフィン材の「ろう付後の圧延面の平均結晶粒径」が,必ず「180μm~800μmの範囲」であるかどうかは不明である。
d 申立人は,甲4の実施例に記載のろう付け処理後のフィン材は,本件発明3のフィン材と組成が一致するアルミニウム合金を用いて,本件発明3のフィン材と同様の熱処理条件及び加工条件を用いて製造されたものであるから,請求項3に記載の「ろう付後の孔食電位」及び「ろう付後の圧延面の平均結晶粒径」を満たしている蓋然性が高いと主張する。
しかしながら,甲4には,甲4発明に係るフィン材の製造方法について,「連続鋳造により,表1に示す組成(合金No.1~12に示す組成)を有するアルミニウム合金を造塊し,常法に従って均質化処理後した後,熱間圧延し,ついで冷間圧延(加工度88~96%)した後,中間焼鈍(温度200~400℃)及び仕上げ冷間圧延(加工度13~70%)を経て厚み0.07mmのアルミ合金フィン材を製造した,」(【0025】,表1)と記載されているものの,少なくとも,鋳造速度及び均質化処理については,その具体的な条件は不明である。
そうすると,上記2(2)ア(イ)a(e)で述べたのと同様の理由により,甲4発明に係るフィン材が,本件発明3に係るフィン材と同様の熱処理条件及び加工条件を用いて製造されたものであるとはいえない。
よって,申立人の主張は,その前提において失当であり,採用することができない。
f 以上によれば,相違点4-1は実質的な相違点である。
したがって,相違点4-2について検討するまでもなく,本件発明3は,甲4に記載された発明であるとはいえない。
(イ)次に,相違点4-1の容易想到性について検討する。
上記(ア)で述べたとおり,甲4には,フィン材の固相線温度,フィン材のろう付後の孔食電位,フィン材のろう付後の圧延面の平均結晶粒径については,何ら記載されていないから,本件特許についての出願時の技術常識を考慮しても,甲4発明において,フィン材の固相線温度を615℃以上とすること,フィン材のろう付後の孔食電位を-1000~-870mVの範囲とすること,フィン材のろう付後の圧延面の平均結晶粒径を180μm~800μmの範囲とすることが動機付けられるとはいえない。
そうすると,甲4発明において,少なくとも,「固相線温度が615℃以上」,「前記ろう付後の孔食電位が-1000~-870mVの範囲」,「ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が180μm~800μmの範囲」と特定することは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
したがって,相違点4-2について検討するまでもなく,本件発明3は,甲4に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり,本件発明3は,甲4に記載された発明であるとはいえず,また,甲4に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明4及び5について
本件発明4及び5と,甲4発明とを対比すると,上記(2)と同様に,両者は,少なくとも,相違点4-1と同様の点で相違するところ,この相違点については,上記(2)で述べたのと同様の理由により,実質的な相違点であり,また,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
したがって,本件発明4及び5は,甲4に記載された発明であるとはいえず,また,甲4に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)まとめ
以上のとおり,本件発明3及び5は,甲4に記載された発明であるとはいえない。
また,本件発明3~5は,甲4に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,申立理由1-4(新規性),申立理由2-4(進歩性)によっては,本件特許の請求項3~5に係る特許を取り消すことはできない。
6 申立理由3(実施可能要件)
(1)申立人は,本件訂正前の請求項1に係る発明は,「ろう付後の引張強さが130MPa以上」,「ろう付後の孔食電位が-1000~-830mVの範囲にある」,「ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が150μm~800μmの範囲にある」との構成要件を採用するが,本件訂正前の明細書には,どのようにすれば,アルミニウム合金フィン材のろう付後の引張強さ,孔食電位及び圧延面の平均結晶粒径を,本件訂正前の請求項1に規定の範囲に調節することができるかが記載されていないから,当業者が,本件訂正前の請求項1~4に係る発明を実施することは容易ではないと主張する。
以下,検討する。
(2)ア 本件明細書には,フィン材の組成成分(【0013】~【0018】),固相線温度(【0019】),ろう付後の引張強さ(【0020】),ろう付後の孔食電位(【0021】),ろう付後の圧延面の平均結晶粒径(【0022】)の各事項について,具体的な説明がなされている。
イ また,本件明細書には,フィン材の製造方法(【0024】,【0027】,【0028】)について,具体的な説明がなされており,これらの記載によれば,
(ア)本件発明1~5の組成成分に調整した鋳塊は,常法により製造することができ,鋳造時の鋳造速度は,0.2~10℃/sとするのが望ましいこと,
(イ)上記鋳塊を好適には350~480℃×2~15時間の条件で均質化することが望ましく,これにより,円相当径0.05~0.4μmの範囲にある第二相粒子が20~80個/μm2で分散した素材が得られること,
(ウ)ろう付前の素材の状態で,上記(イ)の第二相粒子を適量分散することで,ろう付熱処理後の結晶粒が大きくなり,耐ろう浸食性が増すため,ろう付けに際し座屈が生じにくくなること,
が理解できる。
ウ そして,本件明細書には,実施例における「発明例」(表1,表2)として,「固相線温度が615℃以上」,「ろう付後の引張強さが130MPa以上145MPa以下」又は「ろう付後の引張強さが130MPa以上150MPa以下」,「ろう付後の孔食電位が-1000~-870mVの範囲にある」,「ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が180μm~800μmの範囲にある」との各条件を満たすフィン材を製造したことが記載されており,具体的には,本件発明1~5の条件を満たす表1に示す組成(残部Al+不可避不純物)を有するアルミニウム合金を,半連続鋳造法により,鋳造速度0.6~2.5℃/秒で溶解,鋳造し,得られた鋳塊に対し,表2,3に示す条件(400~520℃×5~12時間)にて均質化処理を行い,その後,熱間圧延を行い,75%以上で冷間圧延を行った後,350℃にて中間焼鈍を行い,その後圧延率40%の最終圧延を行ったことが記載されている(【0031】,表1~3)。
また,上記「発明例」以外のフィン材についても,当業者であれば,本件明細書の記載に基づき,本件発明1~5の条件を満たす組成を有するアルミニウム合金を用いて,上記の製造方法により製造することができる。
エ 以上によれば,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて,「固相線温度が615℃以上」,「ろう付後の引張強さが130MPa以上145MPa以下」又は「ろう付後の引張強さが130MPa以上150MPa以下」,「ろう付後の孔食電位が-1000~-870mVの範囲にある」,「ろう付後の圧延面の平均結晶粒径が180μm~800μmの範囲にある」との各条件を満たす,本件発明1~5に係るフィン材を製造することができるといえる。
(3)よって,申立人の主張は,採用することができない。
したがって,申立理由3(実施可能要件)によっては,本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおり,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。また,他に本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
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2019-700972