特許異議申立
2019-700970
フラックス組成物、ソルダペースト及び電子回路基板
- 審判番号
- 2019-700970
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-015244外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6522674
- 請求日
- 2019年11月29日
- 審決日
- 2022年01月31日
- 公報発行日
- 2022年03月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社タムラ製作所
- 【権利者代理人】太田 洋子
- 【異議申立人】新井 誠一
- 分類
- P1651.537-YB (B23K) / P1651.121-YB (B23K) / P1651.536-YB (B23K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第113条、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6522674号発明「フラックス組成物,ソルダペースト及び電子回路基板」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6522674号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6522674号(請求項の数9。以下,「本件特許」という。)は,平成29年1月31日を出願日とする特許出願(特願2017-15244号)に係るものであって,令和1年5月10日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,令和1年5月29日である。)。
その後,令和1年11月29日に,本件特許の請求項1~9に係る特許に対して,特許異議申立人である新井誠一(以下,「申立人」という。)により,特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は,以下のとおりである。
令和1年11月29日提出 特許異議申立書
令和2年 1月28日付け 取消理由通知書
3月27日提出 意見書,訂正請求書
4月 6日付け 訂正拒絶理由通知書
4月30日差出 上申書(特許権者)
5月 7日付け 通知書(指定期間の延長を認める旨の通知)
6月 1日提出 意見書,手続補正書(訂正請求書の補正)
6月 8日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知)
7月 6日提出 意見書(申立人)
8月 3日付け 取消理由通知書(決定の予告)
9月28日 上申書(特許権者,ファクシミリにて提出)
9月30日付け 通知書(指定期間の延長を認める旨の通知)
11月 2日提出 意見書,訂正請求書
11月13日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知)
12月14日提出 意見書(申立人)
令和3年 2月15日付け 訂正拒絶理由通知書
3月18日提出 意見書,手続補正書
8月 2日付け 取消理由通知書(決定の予告,2回目)
12月24日付け 審尋(特許権者に対して)
令和4年 1月18日提出 回答書(特許権者)
第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
令和3年3月18日提出の手続補正書(訂正事項の一部を削除するものであり,要旨を変更しないものと認める。)により補正された,令和2年11月2日提出の訂正請求書による訂正(以下,「本件訂正」という。)の請求は,本件特許の特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1~9について訂正することを求めるものであり,その内容は,以下のとおりである。下線は,訂正箇所を示す。
なお,令和2年6月1日提出の手続補正書により補正された,同年3月27日提出の訂正請求書による訂正の請求は,本件訂正の請求がされたことに伴い,特許法120条の5第7項の規定により,取り下げられたものとみなす。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「(B-3)炭素数が20から22のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下含むことを特徴とするフラックス組成物。」と記載されているのを,「(B-3)炭素数が20から22のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下含み,前記活性剤(B)としてハロゲン系活性剤を含むことを特徴とするフラックス組成物。」に訂正する。
(2)一群の請求項について
訂正前の請求項1~9について,請求項2~9は,請求項1を直接又は間接的に引用するものであり,上記の訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって,訂正前の請求項1~9は,一群の請求項である。そして,本件訂正は,その一群の請求項ごとに請求がされたものである。
2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1に係る訂正は,訂正前の請求項1に対して,「前記活性剤(B)としてハロゲン系活性剤を含む」との記載を追加するものである。
この訂正は,訂正前の請求項1における「活性剤(B)」について,(B-1)~(B-3)の3種類の活性剤を含むとされていたものを,さらに「ハロゲン系活性剤」を含有させ,合計4種類の活性剤を含むとするものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加,実質上特許請求の範囲の拡張又は変更
(ア)訂正前の明細書には,「活性剤(B)」に含まれ得る,(B-1)~(B-3)以外の「他の活性剤」について,以下の記載がある。
「本実施形態のフラックス組成物には,上記効果を阻害しない範囲で他の活性剤を配合することができる。
このような他の活性剤としては,例えば有機アミンのハロゲン化水素塩等のアミン塩(無機酸塩や有機酸塩),有機酸,有機酸塩,有機アミン塩等が挙げられる。具体的には,ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩,シクロヘキシルアミン臭化水素酸塩,ジエチルアミン塩,ダイマー酸,レブリン酸,乳酸,アクリル酸,安息香酸,サリチル酸,アニス酸,クエン酸,1,4-シクロヘキサンジカルボン酸,アントラニル酸,ピコリン酸及び3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸等が挙げられる。これらは1種単独でまたは複数種を混合して用いてもよい。
当該他の活性剤の配合量は,フラックス組成物全量に対して0質量%超20質量%以下であることが好ましい。」(【0045】)
上記記載によれば,訂正前の明細書には,「他の活性剤」として,「ハロゲン系活性剤」は記載されていない。また,活性剤として(B-1)~(B-3)を含むフラックス組成物において,「他の活性剤」として,さらに「ハロゲン系活性剤」を含有させることが,当業者にとって自明な事項であるともいえない。
(イ)また,訂正前の明細書には,実施例及び比較例が記載されているところ(【0058】~【0074】,表1~8),表1~4には,全ての実施例及び比較例において,「2-ブロモヘキサン酸」を含有させることが示されている。
当該「2-ブロモヘキサン酸」は,訂正前の明細書【0045】(上記(ア)を参照)には,「他の活性剤」として明記はされていないものの,表1~4における「(B)」の欄において,「(B1)」,「(B2)」,「(B3)」(それぞれ,(B-1),(B-2),(B-3)に対応すると解される。)の各欄と並んで,「その他」の欄に「2-ブロモヘキサン酸」と記載されていることから,「他の活性剤」に該当するものと解される。
以上によれば,訂正前の明細書には,「他の活性剤」として,「2-ブロモヘキサン酸」が記載されているといえる。そして,甲1の記載(【0016】,【0017】)によれば,確かに,「2-ブロモヘキサン酸」は,「ハロゲン系活性剤」の一種であると理解し得るものである。
しかしながら,そうであるからといって,訂正前の明細書に,「他の活性剤」として,「2-ブロモヘキサン酸」を上位概念化した,「ハロゲン系活性剤」が記載されているとはいえない。また,そのようなことが,当業者にとって自明な事項であるともいえない。
(ウ)以上によれば,訂正前の請求項1に対して,「前記活性剤(B)としてハロゲン系活性剤を含む」との記載を追加する,訂正事項1に係る訂正は,訂正前の明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものといえるから,同明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものとはいえず,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものである。
ウ 独立特許要件について
本件においては,訂正前の全ての請求項1~9について特許異議の申立てがされているので,特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条7項の独立特許要件は課されない。
3 まとめ
上記2のとおり,訂正事項1に係る訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものに該当するものの,同条9項において準用する同法126条5項及び6項に適合するものではないから,本件訂正は不適法なものであり,認められない。
第3 本件発明
前記第2で述べたとおり,本件訂正は認められないので,本件特許の請求項1~9に係る発明は,本件特許の願書に添付した設定登録時の特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。また,本件特許の願書に添付した設定登録時の明細書を「本件明細書」という。)。
【請求項1】
(A)ベース樹脂と,(B)活性剤と,(C)チキソ剤と,(D)溶剤とを含むフラックス組成物であって,
前記活性剤(B)の配合量はフラックス組成物全量に対して4.5質量%以上35質量%以下であり,
前記活性剤(B)として(B-1)炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して0.5質量%以上3質量%以下,(B-2)炭素数が5から13のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下,及び(B-3)炭素数が20から22のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下含むことを特徴とするフラックス組成物。
【請求項2】
前記炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸(B-1)はマロン酸及びコハク酸の少なくとも一方であり,
前記炭素数が5から13のジカルボン酸(B-2)はグルタル酸,アジピン酸,ピメリン酸,スベリン酸,アゼライン酸,2-メチルアゼライン酸,セバシン酸,ウンデカン二酸,ドデカン二酸及びトリデカン二酸から選ばれる少なくとも1種であり,
前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B-3)はエイコサ二酸,8-エチルオクタデカン二酸,8,13-ジメチル-8,12-エイコサジエン二酸及び11-ビニル-8-オクタデセン二酸から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のフラックス組成物。
【請求項3】
前記炭素数が20から22のジカルボン酸(B-3)は常温で液状または半固体状であることを特徴とする請求項1または2に記載のフラックス組成物。
【請求項4】
酸化防止剤を更に含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のフラックス組成物。
【請求項5】
前記ベース樹脂(A)は(A-1)ロジン系樹脂を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のフラックス組成物。
【請求項6】
前記ベース樹脂(A)は更に(A-2)合成樹脂を含むことを特徴とする請求項5に記載のフラックス組成物。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のフラックス組成物と,はんだ合金粉末とを含むことを特徴とするソルダペースト。
【請求項8】
前記はんだ合金粉末はSn並びにAg,Bi,In,Sb,Cu,Ni及びCoから選ばれる少なくとも1種を含む合金からなることを特徴とする請求項7に記載のソルダペースト。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載のソルダペーストを用いて形成されるはんだ接合体を有することを特徴とする電子回路基板。
第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由
本件特許の請求項1~9に係る特許は,下記(1)~(4)のとおり,特許法113条2号及び4号に該当する。証拠方法は,甲第1号証~甲第3号証(以下,単に「甲1」等という。下記(5)を参照。)である。
(1)申立理由1(サポート要件)
本件発明1~9については,「2-ブロモヘキサン酸」を含有することが特定されていない点で,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではないから,本件特許の請求項1~9に係る特許は,同法113条4号に該当する。
(2)申立理由2(サポート要件)
本件発明1~9については,「(B-2)炭素数が5から13のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下」及び/又は「(B-3)炭素数が20から22のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下」という範囲において,課題が解決できると当業者が認識できるとはいえない点で,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではないから,本件特許の請求項1~9に係る特許は,同法113条4号に該当する。
(3)申立理由3(進歩性)
本件発明1~9は,甲3に記載された発明並びに甲1及び2に記載された事項に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1~9に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(4)申立理由4(明確性要件)
本件発明3については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合するものではないから,本件特許の請求項3に係る特許は,同法113条4号に該当する。
(5)証拠方法
・甲1 特開2015-62913号公報
・甲2 特開平8-155676号公報
・甲3 特開2014-54663号公報
2 令和2年12月14日提出の意見書(申立人)とともに提出された証拠方法
・甲4 特開2015-147250号公報
・甲5 「新・注解 特許法」,第2版,上巻,株式会社青林書院,2017年10月5日,138~139頁
3 取消理由通知書に記載した取消理由
(1)令和2年1月28日付けの取消理由通知書
ア 取消理由1(サポート要件)
上記1の申立理由1(サポート要件)と同旨
イ 取消理由2(サポート要件)
上記1の申立理由2(サポート要件)と同旨
ウ 取消理由4(明確性要件)
上記1の申立理由4(明確性要件)(ただし,本件発明3~9に対するもの。)と同旨
エ 取消理由5(サポート要件)
本件発明1~9については,本件明細書における実施例と比較例をどのように組み合わせて比較するのか不明な点で,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではないから,本件特許の請求項1~9に係る特許は,同法113条4号に該当する。
オ 取消理由6(実施可能要件,サポート要件)
本件発明1~9については,本件明細書における実施例及び比較例のうち,フラックス組成物の各成分の総和が100質量%となっていないものが存在する点で,発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に適合するものではないから,本件特許の請求項1~9に係る特許は,同法113条4号に該当する。
本件発明1~9については,上記と同様の点で,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではないから,本件特許の請求項1~9に係る特許は,同法113条4号に該当する。
(2)令和2年8月3日付けの取消理由通知書(決定の予告)
上記(1)の取消理由1(サポート要件),取消理由5(サポート要件),取消理由6(実施可能要件,サポート要件)と同旨
(3)令和3年8月2日付けの取消理由通知書(決定の予告)
上記(1)の取消理由1(サポート要件),取消理由2(サポート要件),取消理由5(サポート要件),取消理由6(実施可能要件,サポート要件)と同旨
(4)なお,特許権者は,上記(1)の令和2年1月28日付けの取消理由通知書に対して,同年3月27日提出の意見書とともに,証拠方法として,以下の乙第1号証~乙第20号証(以下,単に「乙1」等という。)を提出した。
・乙1 特許第4760026号公報
・乙2 特許第5376746号公報
・乙3 特許第5583703号公報
・乙4 特許第5651413号公報
・乙5 特許第6050207号公報
・乙6 特許第6115060号公報
・乙7 特許第6118489号公報
・乙8 特許第6154447号公報
・乙9 特許第6502809号公報
・乙10 特許第6569905号公報
・乙11 特開平9-129102号公報
・乙12 特開2013-59807号公報
・乙13 特開2014-63924号公報
・乙14 特開2015-150600号公報
・乙15 特許第4561052号公報
・乙16 特許第4676147号公報
・乙17 特許第5132248号公報
・乙18 特許第6092599号公報
・乙19 平成24年(行ケ)第10036号 審決取消請求事件の判決書
・乙20 平成29年(ワ)第9201号 特許権侵害差止等請求事件の判決書
(5)また,特許権者は,令和3年2月15日付けの訂正拒絶理由通知書に対して,同年3月18日提出の意見書とともに,証拠方法として,以下の乙21~乙28を提出した。
・乙21 特開平10-43882号公報
・乙22 特開平10-99991号公報
・乙23 特開2008-100279号公報
・乙24 特開2009-88454号公報
・乙25 特開2010-109022号公報
・乙26 特開2012-71337号公報
・乙27 特開2015-6687号公報
・乙28 特開2016-2553号公報
第5 当審の判断
以下に述べるように,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
1 取消理由1(サポート要件),申立理由1(サポート要件),取消理由2(サポート要件),申立理由2(サポート要件),取消理由5(サポート要件),取消理由6(実施可能要件,サポート要件)
(1)本件発明1のサポート要件について
ア 本件発明1は,(A)ベース樹脂と,(B)活性剤と,(C)チキソ剤と,(D)溶剤とを含むフラックス組成物に関するものである。
イ 本件明細書の記載(【0002】~【0010】)によれば,本件発明1の課題は,酸化性の強い合金元素を含むはんだ合金を用いる場合であっても,はんだ接合部のボイド発生,はんだボールの発生及びはんだ接合不良を抑制しつつ,良好な印刷性を発揮することのできるフラックス組成物を提供することであると認められる。
ウ 本件明細書には,(B)活性剤に関し,炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸(B-1)は,フラックス組成物と合金粉末とを混練する際,その一部が合金粉末の表面をコーティングして,その表面酸化を抑制し得るものであり,また,炭素数が20から22のジカルボン酸(B-3)は,反応性が遅いことから,長時間に渡る基板へのソルダペーストの印刷工程においても安定的であり,リフロー加熱中においても揮発し難いことから,溶融した合金粉末の表面を被覆して,還元作用により酸化を抑制できること(【0042】),ただし,炭素数20から22のジカルボン酸(B-3)は,活性力が低く,炭素数3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸(B-1)との組み合わせのみでは,特に,Bi,In及びSb等を含むはんだ合金の粉末を用いた場合,合金粉末表面の酸化膜を十分に除去できないおそれがあるが(【0042】),(B-1)及び(B-3)の活性剤に,さらに,プリヒート中から強力な活性力を発揮する炭素数が5から13のジカルボン酸(B-2)を所定量含有させることにより,Bi,In及びSb等を含むはんだ合金の粉末を使用した場合であっても,十分に酸化膜を除去できるため(【0043】),はんだ接合部のボイド発生,はんだボールの発生及びはんだ接合不良を抑制しつつ,良好な印刷性を発揮できること(【0041】,【0043】,【0044】)が記載されている。
これらの記載を含む本件明細書の記載(【0011】~【0020】,【0035】~【0045】)によれば,本件発明1の課題は,請求項1に記載されるとおり,(A)ベース樹脂と,(B)活性剤と,(C)チキソ剤と,(D)溶剤とを含むフラックス組成物において,「活性剤(B)の配合量をフラックス組成物全量に対して4.5質量%以上35質量%以下」とし,活性剤(B)として,「(B-1)炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して0.5質量%以上3質量%以下,(B-2)炭素数が5から13のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下,(B-3)炭素数が20から22のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下」含有させることによって,解決できるとされている。
エ そして,本件明細書には,実施例1~16及び比較例1~18が記載されているところ(【0058】~【0074】,表1~8),実施例1~16は,いずれも,請求項1に記載される上記の各要件を備えるフラックス組成物を用いたものである(なお,実施例6及び11~16については,後記(5)のとおり,表1~4の「(D)」欄に誤記がある。)。
また,これらの実施例及び比較例は,いずれも,「2-ブロモヘキサン酸」を含むものであるが,前記第2の2(1)イ(イ)で述べたとおり,当該「2-ブロモヘキサン酸」は,「活性剤(B)」に含まれ得る「他の活性剤」(本件明細書【0045】)に該当するものである。
さらに,これらの実施例及び比較例は,いずれも,酸化防止剤である「イルガノックス245」,添加剤である「1,2,3-ベンゾトリアゾール」を含むものであるが,それぞれ,フラックス組成物に配合できるとされる「酸化防止剤」(本件明細書【0048】),「添加剤」(同【0049】)に該当するものである。
これらの実施例及び比較例においては,ボイド試験(【0066】),はんだボール試験(【0067】),印刷性試験(【0068】)が行われ,表5~8には,それらの結果が示されているが,それらの結果によれば,実施例1~16において,はんだ接合部のボイド発生及びはんだボールの発生が抑制され(その結果,はんだ接合不良も抑制されていると解される。),良好な印刷性が得られることが示されているといえる。
そうすると,当業者であれば,上記実施例以外の場合であっても,請求項1に記載される上記の各要件を備えるフラックス組成物であれば,上記実施例の場合と同様に,はんだ接合部のボイド発生,はんだボールの発生及びはんだ接合不良が抑制され,良好な印刷性が得られることが理解できるといえる。
オ 以上のとおり,本件明細書の記載を総合すれば,請求項1に記載される上記の各要件を備える本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって,当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
したがって,本件発明1については,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。
(2)本件発明2~9のサポート要件について
本件発明2~9は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるところ,上記(1)で本件発明1について述べたのと同様の理由により,本件発明2~9についても,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。
(3)取消理由1(サポート要件),申立理由1(サポート要件)について
ア 令和3年8月2日付けの取消理由通知書(決定の予告)では,本件明細書には,本件発明1のフラックス組成物は,活性剤として,(B-1),(B-2),(B-3)の直鎖飽和ジカルボン酸の組み合わせを含むことにより,ソルダペーストに含まれる合金粉末の酸化を抑制できるという所期の効果を奏する旨記載されるが,実験例の全てにおいて,活性剤として「2-ブロモヘキサン酸」が用いられており,活性剤としての(B-1),(B-2),(B-3)のみによる作用効果は確認できないところ,「2-ブロモヘキサン酸」は活性作用が高いという技術常識を考慮すれば,本件発明1において「2-ブロモヘキサン酸」を使用することが必要であるといえるにもかかわらず,本件発明1は,「2-ブロモヘキサン酸」を含有することを発明特定事項としていないから,本件発明1~9の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない旨,指摘した。
また,令和2年1月28日付けの取消理由通知書,同年8月3日付けの取消理由通知書(決定の予告)においても,同様に指摘した。
以下,検討する。
イ(ア)本件明細書には,上記(1)ウで指摘したとおり,フラックス組成物において,活性剤(B)として,それぞれ所定量の(B-1),(B-2),(B-3)を組み合わせて配合することにより,酸化性の強い合金元素を含むはんだ合金を用いる場合であっても,はんだ接合部のボイド発生,はんだボールの発生及びはんだ接合不良を抑制しつつ,良好な印刷性を発揮することができることが記載されている(【0020】,【0041】~【0044】)。
しかしながら,本件明細書には,このような所定の効果を得るために,「2-ブロモヘキサン酸」が必須の成分であるとは記載されていない。
(イ)本件明細書には,活性剤(B)として,(B-1),(B-2),(B-3)以外にも,「他の活性剤」を配合できることが記載されているが(【0045】),前記第2の2(1)イ(イ)で述べたとおり,本件明細書に記載される全ての実施例及び比較例に含まれる「2-ブロモヘキサン酸」は,「他の活性剤」に該当するものである。
そして,「2-ブロモヘキサン酸」は,フラックス組成物において汎用される活性剤の一つとして知られており(甲1【0016】,【0017】),実施例及び比較例においては,このような「2-ブロモヘキサン酸」を,単に「他の活性剤」として配合したものと解される。
そうすると,本件明細書に記載される全ての実施例が「2-ブロモヘキサン酸」を含むとしても,当業者が,上記(ア)のような所定の効果を得るために,「2-ブロモヘキサン酸」が必須の成分であると理解するとはいえない。
(ウ)「2-ブロモヘキサン酸」は,上記(イ)のとおり,実施例のほか,比較例にも含まれるものであるが,いずれの比較例についても,ボイド試験,はんだボール試験,銅板腐食試験,印刷性試験の少なくともいずれかの結果が「×」(最低の評価)となっている(【0066】~【0072】,表7,8)。
そうすると,いずれも「2-ブロモヘキサン酸」を含む実施例及び比較例の比較によれば,実施例においては,活性剤(B)として,それぞれ所定量の(B-1),(B-2),(B-3)を組み合わせて配合することにより,上記(ア)のような所定の効果が得られることが理解できるから,当業者が,上記(ア)のような所定の効果を得るために,「2-ブロモヘキサン酸」が必須の成分であると理解するとはいえない。
(エ)フラックス組成物において,活性剤(B)に含まれ得る「他の活性剤」として,「2-ブロモヘキサン酸」以外の,「2,3-ジブロモ-1,4-ブンテンジオール」や「2-ヨード安息香酸」を用いた場合であっても,本件明細書に記載される実施例と同様の効果が得られている(令和3年3月18日提出の意見書10~13頁の「追加実験」を参照)ことから,上記(ア)のような所定の効果を得るために,「2-ブロモヘキサン酸」が必須の成分であるとはいえない。
そして,上記(ア)~(ウ)で述べたことを考慮すれば,活性剤(B)として,(B-1),(B-2),(B-3)のみを含み,「他の活性剤」である「2-ブロモヘキサン酸」を含まないフラックス組成物においても,本件明細書に記載される実施例と同様の効果が得られることは,当業者であれば推認し得るといえる。
(オ)以上によれば,本件発明1~9において,「2-ブロモヘキサン酸」を使用することは必要(必須)であるとはいえないから,本件発明1~9が,「2-ブロモヘキサン酸」を含有することを発明特定事項としていないとしても,本件発明1~9については,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。
ウ したがって,取消理由1(サポート要件),申立理由1(サポート要件)によっては,本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
(4)取消理由2(サポート要件),申立理由2(サポート要件)について
ア 令和2年1月28日付けの取消理由通知書,令和3年8月2日付けの取消理由通知書(決定の予告)では,本件発明1における「(B-2)炭素数が5から13のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下」のうち,「2質量%以上3質量%未満」,「12質量%超15質量%以下」については,実施例において効果が確認されておらず,また,本件発明1における「(B-3)炭素数が20から22のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下」のうち,「2質量%以上6質量%未満」,「12質量%超15質量%以下」については,実施例において効果が確認されていないから,技術常識を考慮しても,本件発明1~9の範囲まで,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない旨,指摘した。
以下,検討する。
イ 一般に,同一の成分を含有する組成物どうしでは,各成分の含有量が近接している場合には,その性質も同様となるのが通常であり,また,組成物においては,各成分の含有量が連続的に変化するにしたがって,組成物の性質も連続的に変化していくことが通常である。
そうすると,本件明細書の記載(上記(1)ウを参照)を前提とすれば,(B-2)については3質量%以上12質量%以下の範囲で,また,(B-3)については6質量%以上12質量%以下の範囲で,本件発明1を具体的に実施した実施例1~16において,所定の効果が得られることが示されている以上,当業者であれば,「(B-2)炭素数が5から13のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下」,「(B-3)炭素数が20から22のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下」とした本件発明1においても,程度の差はあるにせよ,実施例1~16と同様に,所定の効果が一定程度は得られることが理解できるといえる。
なお,このようなことは,(B-3)の含有量を2質量%や15質量%とした場合であっても,実施例1~16と同様の効果が得られている(令和2年3月27日提出の意見書11~13頁の「追加実験」の実施例17,18を参照)こととも符合するものである。
以上によれば,本件発明1のうち一部の範囲について,実際に実施例において効果が確認されていないとしても,本件発明1~9については,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。
ウ したがって,取消理由2(サポート要件),申立理由2(サポート要件)によっては,本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
(5)取消理由6(実施可能要件,サポート要件)について
ア 令和3年8月2日付けの取消理由通知書(決定の予告)では,本件明細書の表1~4における実施例6及び11~16,比較例1~3,8,10~11及び15~17については,フラックス組成物の各成分の総和が100質量%となっていないため,上記以外の実施例及び比較例も含め,全ての実験結果について,適正な実験結果ではないのではないかとの合理的な疑問が生じることから,本件発明1~9を実施することができず,また,本件発明1~9の課題が解決できるのか否かも明らかではない旨,指摘した。
また,令和2年1月28日付けの取消理由通知書,同年8月3日付けの取消理由通知書(決定の予告)においても,同様に指摘した。
以下,検討する。
イ(ア)本件明細書の表1~4には,実施例1~16,比較例1~18が記載されているところ,本件明細書の記載(【0060】)によれば,表1~4における数値の単位は,「質量%」である。
(イ)まず,実施例1~5(表1)についてみてみると,いずれの実施例においても,「(A)」については,「(A-1)」である「KE-604」が51質量%,「(B)」については,「(B1)」である「マロン酸」,「コハク酸」が,いずれも,1質量%,「(B2)」である「スベリン酸」,「ドデカン二酸」が,それぞれ,3質量%,6質量%,「(B3)」である「8-エチルオクタデカン二酸」が6質量%,「その他」である「2-ブロモヘキサン酸」が1.5質量%,「(C)」については,「スリパックスZHH」が4質量%,「(D)」については,「ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル」が24.7質量%,「酸化防止剤」については,「イルガノックス245」が1質量%,「添加剤」については,「1,2,3-ベンゾトリアゾール」が0.8質量%であることが見て取れる。
なお,上記「(B1)」,「(B2)」,「(B3)」は,それぞれ,本件発明1における「(B-1)」,「(B-2)」,「(B-3)」に対応し,上記「その他」は,「他の活性剤」(本件明細書【0045】)に対応すると解される。
(ウ)次に,実施例6~9(表1)についてみてみると,「(A-1)」である「KE-604」,「(B2)」である「ドデカン二酸」,「(B3)」である「8-エチルオクタデカン二酸」,「その他」である「2-ブロモヘキサン酸」,「(C)」である「スリパックスZHH」,「酸化防止剤」である「イルガノックス245」,「添加剤」である「1,2,3-ベンゾトリアゾール」の各成分については,実施例1~5と同条件である。
一方,「(B1)」である「マロン酸」,「コハク酸」の含有量については,いずれも,実施例1~5の1質量%から0.5質量%に変更され,また,「ドデカン二酸」以外の「(B2)」については,実施例8では,3質量%の「スベリン酸」であり,実施例1~5と同条件であるが,実施例6,7,9では,実施例1~5の3質量%の「スベリン酸」に代えて,それぞれ,3質量%の「グルタン酸」,「アジピン酸」,「セバシン酸」が用いられている。
すなわち,実施例6~9は,「(A)」,「(C)」,「酸化防止剤,「添加剤」の各成分については,実施例1~5の条件と同条件とした上で,「(B)」の各成分について,その種類や含有量を系統的に変更したものといえる。
(エ)さらに,実施例10~12 (表1,2)についてみてみると,「(A-1)」である「KE-604」,「(B2)」である「スベリン酸」,「ドデカン二酸」,「その他」である「2-ブロモヘキサン酸」,「(C)」である「スリパックスZHH」,「酸化防止剤」である「イルガノックス245」,「添加剤」である「1,2,3-ベンゾトリアゾール」の各成分については,実施例1~5と同条件である。
一方,「(B1)」である「マロン酸」,「コハク酸」の含有量については,実施例6~9の場合と同様,いずれも,実施例1~5の1質量%から0.5質量%に変更され,また,「(B3)」については,実施例10,11,12では,実施例1~5の6質量%の「8-エチルオクタデカン二酸」に代えて,それぞれ,6質量%の「エイコサ二酸」,「8,13-ジメチル-8,12-エイコサジエン二酸」,「11-ビニル-8-オクタデセン二酸」が用いられている。
すなわち,実施例10~12は,実施例6~9の場合と同様,「(A)」,「(C)」,「酸化防止剤,「添加剤」の各成分については,実施例1~5の条件と同条件とした上で,「(B)」の各成分について,その種類や含有量を系統的に変更したものといえる。
(オ)そして,上記(ウ),(エ)で述べたことは,実施例13~16や比較例1~18についても当てはまるものであり,「(A)」,「(C)」,「酸化防止剤,「添加剤」の各成分については,実施例1~5の条件と同条件とした上で,「(B)」の各成分について,その種類や含有量を系統的に変更したものである(なお,実施例15及び16,比較例11~18では,「(A)」についても系統的に変更している。)。
なお,実施例及び比較例において,「(B)」の各成分について系統的に変更していることは,本件発明1が「(B)」の各成分に特徴がある(上記(1)ウを参照)こととも,整合性があるといえる。
(カ)ところで,実施例6及び11~16,比較例1~3,8,10~11及び15~17については,フラックス組成物の各成分の総和が100質量%となっていないことから,表1~4のいずれかの欄に記載された数値に誤記が存在することは,明らかである。
そして,上記(ア)~(オ)で述べたとおり,実施例及び比較例が,基本的に,「(A)」,「(C)」,「酸化防止剤,「添加剤」の各成分については,同条件とした上で,「(B)」の各成分について,その種類や含有量を系統的に変更したものであることを踏まえると,「(D)」欄に誤記があることは,当業者にとって明らかといえる(例えば,実施例6については,「(D)」欄に「24.7」(質量%)と記載されているが,「25.7」(質量%)の誤記である。)。
(キ)以上によれば,本件明細書の表1~4における実施例6及び11~16,比較例1~3,8,10~11及び15~17については,フラックス組成物の各成分の総和が100質量%となっていないものの,「(D)」欄に誤記があることは当業者にとって明らかであり,その正しい記載も当業者であれば直ちに理解できることから,実施例及び比較例の記載は,いずれも,適正な実験結果であるといえる。
そうすると,本件発明1~9については,発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するものであり,また,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。
ウ したがって,取消理由6(実施可能要件,サポート要件)によっては,本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
(6)取消理由5(サポート要件)について
ア 令和3年8月2日付けの取消理由通知書(決定の予告)では,フラックス組成物を構成する各成分の効果を確認し,その組成範囲を決めるためには,フラックス組成物の当該成分以外の成分組成及びソルダペーストのはんだ合金が同じものどうしを比較する必要があるところ,実施例,比較例ともに,5種類のはんだ合金が実験例ごとに変えられており,特定成分の含有量を決定するために,実施例と比較例をどのように組み合わせて比較するのか,その組合せが本件明細書には記載がなく,具体的にどのようにして,「(B-1)炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して0.5質量%以上3質量%以下」,「(B-2)炭素数が5から13のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下」,「(B-3)炭素数が20から22のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下」と特定することができるのか,明らかでないから,本件発明1~9の各成分組成範囲において,課題が解決できるのか明らかでない旨,指摘した。
また,令和2年1月28日付けの取消理由通知書,同年8月3日付けの取消理由通知書(決定の予告)においても,同様に指摘した。
以下,検討する。
イ フラックス組成物の特定成分以外の成分組成及びソルダペーストのはんだ合金が,完全に一致するものどうしの比較ではないにしても,例えば,実施例1と比較例4との比較や,実施例2と比較例5との比較等により,(B-2),(B-3)の配合量が本件発明1の範囲外の場合に,所定の効果が得られないことが理解でき,また,実施例5,8と比較例1,2との比較等により,(B-1)の配合量が本件発明1の範囲外の場合に,所定の効果が得られないことが理解できる等,本件明細書の記載(上記(1)ウを参照)を前提とすれば,当業者であれば,条件が類似するものどうしを適宜比較することにより,各成分の効果を確認し,その組成範囲を決めることができるといえる。
また,そもそも,本件発明1~9については,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものであることは,上記(1),(2)のとおりである。
ウ したがって,取消理由5(サポート要件)によっては,本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
(7)まとめ
したがって,取消理由1(サポート要件),申立理由1(サポート要件),取消理由2(サポート要件),申立理由2(サポート要件),取消理由5(サポート要件),取消理由6(実施可能要件,サポート要件)によっては,本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
2 取消理由4(明確性要件),申立理由4(明確性要件)
(1)令和2年1月28日付けの取消理由通知書では,請求項3には,「常温で液状または半固体状である」ことが記載されているところ,本件明細書の記載(【0039】)によれば,「半固体状とは液状と固体状との間に該当する状態をいい,その一部が流動性を有する状態及び流動性はないが外力を与えると変形する状態」をいうものと理解されるとしても,与える外力の大きさが規定されておらず,また,当該「状態」が具体的にどのような態様であるのか説明されておらず,「半固体状」の技術的意味が明らかでないから,本件発明3~9は明確でない旨,指摘した。
(2)これに対して,特許権者は,令和2年3月27日提出の意見書において,本件特許の出願時において,「半固体」状態であることについては,多数の先行技術文献(乙1~18)で使用されており,これらの技術常識を考慮すると,請求項3における「半固体状」が具体的にどのような態様であるか(例えば,ゼリー状,ジェル状(ゲル状),グリース状,ペースト状等の状態であり,可塑性を持ちながら流動性を持たない性質を有し,温度・応力・歪み等の外部からのストレスによって液体又は固体の性質を呈する。)は,当業者に十分理解し得るものであり,請求項3に記載される「半固体状」の技術的意味は明らかであると主張した。
(3)ア 以上の主張によれば,「半固体」との用語は,本件特許出願時において通常用いられる技術用語であり(乙1~18),その意味は当業者にとって明らかであるため,請求項3に記載される「常温で液状または半固体状である」との記載の意味は明確であり,本件発明3~9は明確であるといえるから,取消理由4(明確性要件)は解消した。
イ なお,申立人は,令和2年7月6日提出の意見書において,特許権者が提出した文献によれば,「半固体状」の定義が様々であり,いずれの解釈を採用するかで本件発明3の権利範囲が変わると主張するが,上記アのとおりであるから,申立人の主張は採用できない。
(4)したがって,取消理由4(明確性要件),申立理由4(明確性要件)によっては,本件特許の請求項3~9に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3(進歩性)
(1)甲3に記載された発明
甲3の記載(請求項1,2,【0002】,【0003】,【0008】,【0017】,【0023】,【0024】,【0027】,【0030】~【0040】,表1~4,図1,2)によれば,特に,請求項1,2の記載を前提として,実施例1(【0032】,表1)に着目すると,甲3には,以下の発明が記載されていると認められる。
「(A)ロジン化合物と,(B)活性剤と,(C)酸化防止剤であるイルガノックス245(ヒンダートフェノール系酸化防止剤:BASFジャパン(株)製)と,(D)チキソ剤であるスリパックスZHH(ヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アマイド:日本化成(株)製)と,(E)溶剤であるヘキシルジグリコールと,ハロゲンであるトランスジブロモブテンジオールとを含むフラックス組成物であって,
前記ロジン化合物(A)の配合量はフラックス組成物全量に対して40重量%であり,
前記ロジン化合物(A)として無水マレイン酸骨格を構造に含む水添ロジンをフラックス組成物全量に対して40重量%含み,
前記活性剤(B)の配合量はフラックス組成物全量に対して6.3重量%であり,
前記活性剤(B)として,炭素数が20の有機酸であるSL-20(エイコサン二酸(炭素数20):岡村製油(株)製)をフラックス組成物全量に対して6重量%含み,
前記活性剤(B)として,炭素数が3の有機酸であるマロン酸をフラックス組成物全量に対して0.3重量%含む,フラックス組成物。」(以下,「甲3発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明における「(A)ロジン化合物」である「無水マレイン酸骨格を構造に含む水添ロジン」,「(B)活性剤」,「(D)チキソ剤であるスリパックスZHH(ヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アマイド:日本化成(株)製)」,「(E)溶剤であるヘキシルジグリコール」,「フラックス組成物」は,それぞれ,本件発明1における「(A)ベース樹脂」,「(B)活性剤」,「(C)チキソ剤」,「(D)溶剤」,「フラックス組成物」に相当する。
甲3発明において,「前記活性剤(B)の配合量はフラックス組成物全量に対して6.3重量%であ」ることは,本件発明1において,「前記活性剤(B)の配合量はフラックス組成物全量に対して4.5質量%以上35質量%以下であ」ることに相当する。
甲3発明において,活性剤(B)として,「炭素数が3の有機酸であるマロン酸」を含むことは,本件発明1において,活性剤(B)として,「(B-1)炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸」を含むことに相当する。
甲3発明において,活性剤(B)として,「炭素数が20の有機酸であるSL-20(エイコサン二酸(炭素数20):岡村製油(株)製)をフラックス組成物全量に対して6重量%」含むことは,本件発明1において,活性剤(B)として,「(B-3)炭素数が20から22のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下」含むことに相当する。
以上によれば,本件発明1と甲3発明とは,
「(A)ベース樹脂と,(B)活性剤と,(C)チキソ剤と,(D)溶剤とを含むフラックス組成物であって,
前記活性剤(B)の配合量はフラックス組成物全量に対して4.5質量%以上35質量%以下であり,
前記活性剤(B)として(B-1)炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸,及び(B-3)炭素数が20から22のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下含む,フラックス組成物。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点1
本件発明1では,活性剤(B)として,さらに「(B-2)炭素数が5から13のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下」含むのに対して,甲3発明では,活性剤(B)として,上記のような所定量の「(B-2)」を含まない点。
・相違点2
本件発明1では,(B-1)炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸を,「フラックス組成物全量に対して0.5質量%以上3質量%以下」含むのに対して,甲3発明では,
炭素数が3の有機酸であるマロン酸を,「フラックス組成物全量に対して0.3重量%」含む点。
イ 相違点1の検討
(ア)甲3発明は,フラックス組成物において,活性剤(B)として,炭素数が20の有機酸であるエイコサン二酸をフラックス組成物全量に対して6重量%含むとともに,炭素数が3の有機酸であるマロン酸をフラックス組成物全量に対して0.3重量%含むものである。
(イ)甲3には,活性剤(B)に関し,炭素数が5~20の有機酸をフラックス組成物全量に対して2~12重量%含むこと(請求項1),炭素数が3以下の有機酸をフラックス組成物全量に対して1重量%以下含むこと(請求項2)が記載されている。
また,甲3には,活性剤(B)として,炭素数が5~20の有機酸が好ましく用いられるが,この炭素数が5~20の有機酸は単独で,又は他の有機酸,アミン類,若しくはこれらのハロゲン化物等と併用することができ,特に,炭素数が5~20の有機酸と炭素数が3以下の有機酸を併用する場合,ソルダーペースト組成物のはんだボール発生抑制効果を向上することができること(【0023】)が記載されている。
そして,甲3には,炭素数が5~20の有機酸としては,例えば,炭素数5~20の直鎖状飽和脂肪酸であるグルタル酸(炭素数5),アジピン酸(炭素数6),ピメリン酸(炭素数7),スベリン酸(炭素数8),アゼライン酸(炭素数9),セバシン酸(炭素数10),ウンデカン二酸(炭素数11),ドデカン二酸(炭素数12),トリデカン二酸(炭素数13),テトラデカン二酸(炭素数14),ペンタデカン二酸(炭素数15),ヘキサデカン二酸(炭素数16),ヘプタデカン二酸(炭素数17),オクタデカン二酸(炭素数18),ノナデカン二酸(炭素数19),エイコサン二酸(炭素数20)が挙げられ,これらは単独又は複数種を組合せて用いることができること(【0023】),炭素数が3以下の有機酸としては,例えば,シュウ酸(炭素数2),マロン酸(炭素数3)が好ましく用いられること(【0023】),炭素数が5~20の有機酸及び炭素数が3以下の有機酸としては,上記以外にも,分枝鎖構造や環状構造を持つ有機酸を用いることができること(【0023】)が記載されている。
(ウ)甲3には,上記(イ)のとおり,活性剤(B)として,それぞれ所定量の,炭素数が5~20の有機酸と炭素数が3以下の有機酸を併用できることが記載されている。現に,甲3発明は,上記(ア)のとおり,活性剤(B)として,それぞれ所定量の,炭素数が20の有機酸であるエイコサン二酸と炭素数が3の有機酸であるマロン酸を併用するものである。
また,甲3には,上記(イ)のとおり,炭素数が5~20の有機酸については,複数種を組合せて使用できることも記載されている。
(エ)しかしながら,甲3には,活性剤(B)として,本件発明1のように,「(B-1)炭素数が3から4の直鎖の飽和ジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して0.5質量%以上3質量%以下」,「(B-2)炭素数が5から13のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下」,「(B-3)炭素数が20から22のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下」を併用することについては,記載されていない。
また,甲3には,実施例及び比較例(【0030】~【0040】,表1~4)が記載されているが,いずれの実施例及び比較例も,上記「(B-1)」,「(B-2)」,「(B-3)」を併用するものではない。
(オ)そうすると,甲3に,炭素数が5~20の有機酸について,複数種を組合せて使用できることが記載されているとしても,活性剤(B)として,それぞれ所定量の,炭素数が20の有機酸であるエイコサン二酸と炭素数が3の有機酸であるマロン酸を併用する,甲3発明において,活性剤(B)として,さらに,炭素数が5~20の有機酸の中から,特に,炭素数が5~13の有機酸を選択して併用することとし,その際,フラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下含むものとすることが動機付けられるとはいえない。
(カ)一方,甲1には,無洗浄方式ではんだ付けする場合でも優れた絶縁性を有するフラックス組成物について記載されており(請求項1,【0005】),活性剤として,ハロゲン系活性剤のほか,有機酸,アミン系活性剤等を用いてもよく,1種を単独で又は2種以上を混合して用いてもよいことが記載されている(【0016】~【0020】)。
また,甲2には,無洗浄化が可能であるとともに,はんだ付け性が良好であり,かつ,絶縁性が良好で電気的信頼性の高いフラックス組成物について記載されており(請求項1~6,【0009】),活性剤として,熱分解開始温度が200℃以上350℃以下である有機ハロゲン化合物を用いることが記載されている(【0010】~【0014】)。
しかしながら,このような甲1及び甲2の記載を考慮したとしても,甲3発明において,活性剤(B)として,さらに,炭素数が5~20の有機酸の中から,特に,炭素数が5~13の有機酸を選択して併用することとし,その際,フラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下含むものとすることが動機付けられるとはいえないことに変わりはない。
(キ)そして,本件発明1は,フラックス組成物において,活性剤(B)として,上記「(B-1)」,「(B-2)」,「(B-3)」を併用することにより,酸化性の強い合金元素を含むはんだ合金を用いる場合であっても,はんだ接合部のボイド発生,はんだボールの発生及びはんだ接合不良を抑制しつつ,良好な印刷性を発揮することができるという,当業者が予測することができない,格別顕著な効果を奏するものである(本件明細書【0020】)。
(ク)以上によれば,甲3発明において,活性剤(B)として,さらに「(B-2)炭素数が5から13のジカルボン酸をフラックス組成物全量に対して2質量%以上15質量%以下」含むものとすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 小括
したがって,相違点2について検討するまでもなく,本件発明1は,甲3に記載された発明並びに甲1及び2に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2~9について
本件発明2~9は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記(2)で述べたとおり,本件発明1が,甲3に記載された発明並びに甲1及び2に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2~9についても同様に,甲3に記載された発明並びに甲1及び2に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)まとめ
以上のとおり,本件発明1~9は,甲3に記載された発明並びに甲1及び2に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,申立理由3(進歩性)によっては,本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおり,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。また,他に本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
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2019-700970