特許異議申立
2019-700359
床材の製造方法及び床材
- 審判番号
- 2019-700359
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-138840
- 登録番号
- 特許第6419659号(P6419659)
- 請求日
- 2019年04月26日
- 審決日
- 2020年03月25日
- 公報発行日
- 2020年06月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東リ株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人まこと国際特許事務所
- 【異議申立人】内田 照和
- 審判長/審判官
- 審判長 小林 俊久
- 審判官 秋田 将行
- 審判官 大塚 裕一
- 分類
- P1651.113-YAA(E04F) / P1651.121-YAA(E04F) / P1651.537-YAA(E04F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第113条第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6419659号発明「床材の製造方法及び床材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6419659号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕、5について訂正することを認める。
特許第6419659号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6419659号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成27年7月10日に出願され、平成30年10月19日にその特許権の設定登録がされ、平成30年11月7日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成31年 4月26日 :特許異議申立人内田照和による請求項1ない し5に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 1年 6月28日付け:取消理由通知書
令和 1年 8月29日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 1年10月10日 :特許異議申立人による意見書の提出
令和 1年11月18日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和 2年 1月17日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 2年 2月27日 :特許異議申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。
(1)一群の請求項1ないし4に係る訂正
訂正前の請求項1ないし4について、請求項2ないし4は、請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の記載を以下のとおりに訂正する。
「【請求項1】
複数のガラス繊維及び天然繊維を含むガラスシートを準備する工程、
前記ガラスシートに、ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない接合樹脂を付着させることにより、前記接合樹脂の目付量が320g/m2以上であり、前記接合樹脂が、前記ガラスシートの内部に含浸されていると共に、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成している、樹脂付きガラスシートを準備する工程、
前記樹脂付きガラスシートの上面に塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする上側樹脂層を積層し、前記樹脂付きガラスシートの下面に塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする下側樹脂層を積層し、加熱加圧して上側樹脂層、ガラスシート及び下側樹脂層を一体化する工程、を有する床材の製造方法。」
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2の記載を以下のとおりに訂正する。
「【請求項2】
前記樹脂付きガラスシートの接合樹脂の目付量が630g/m2以下であり、
前記樹脂付きガラスシートの通気度が0~10cc/cm2・secである、請求項1に記載の床材の製造方法。」
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3の記載を以下のとおりに訂正する。
「【請求項3】
前記上側樹脂層及び下側樹脂層の双方の塩化ビニル系樹脂が、サスペンション塩化ビニル系樹脂を含む、請求項1または2に記載の床材の製造方法。」
エ 訂正事項4
願書に添付した明細書の段落【0005】の記載を以下のとおりに訂正する。
「【0005】
本発明の床材の製造方法は、複数のガラス繊維及び天然繊維を含むガラスシートを準備する工程、前記ガラスシートに、ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない接合樹脂を付着させることにより、前記接合樹脂の目付量が320g/m2以上であり、前記接合樹脂が、前記ガラスシートの内部に含浸されていると共に、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成している、樹脂付きガラスシートを準備する工程、前記樹脂付きガラスシートの上面に塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする上側樹脂層を積層し、前記樹脂付きガラスシートの下面に塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする下側樹脂層を積層し、加熱加圧して上側樹脂層、ガラスシート及び下側樹脂層を一体化する工程、を有する床材の製造方法る工程を有する。」
オ 訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0006】の記載を以下のとおりに訂正する。
「【0006】
本発明の好ましい床材の製造方法は、前記樹脂付きガラスシートの接合樹脂の目付量が630g/m2以下であり、前記樹脂付きガラスシートの通気度が0~10cc/cm2・secである。
本発明の好ましい床材の製造方法は、前記上側樹脂層及び下側樹脂層の双方の塩化ビニル系樹脂が、サスペンション塩化ビニル系樹脂を含む。
本発明の好ましい床材の製造方法は、前記ガラスシートが、繊維成分全体を100質量%とした場合に、天然繊維を15質量%~50質量%含む。」
カ 訂正事項6
願書に添付した明細書の段落【0008】の記載を以下のとおりに訂正する。
「【0008】
発明の製造方法によれば、ペースト塩化ビニル系樹脂を含み且つ架橋剤を含まない所定の目付量の接合樹脂が、ガラスシートの内部に含浸されていると共に、ガラスシートの上側においてガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、ガラスシートの下側においてガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつガラスシートの下側において不連続な層を成している、天然繊維を含む樹脂付きガラスシートに、塩化ビニル系樹脂を含む上側樹脂層及び下側樹脂層を積層して加熱加圧することにより、ガラスシートと上側樹脂層及び下側樹脂層とを容易に接合させ、層間強度に優れた床材を得ることができる。」
(2)請求項5に係る訂正
ア 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項5の記載を以下のとおりに訂正する。
「【請求項5】
塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする上側樹脂層と、塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする下側樹脂層と、前記上側樹脂層と下側樹脂層の間に積層されたガラスシートであって、複数のガラス繊維及び天然繊維を含むガラスシートと、を有し、
前記ガラスシートに、ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない接合樹脂が目付量320g/m2以上で付着されており、
前記接合樹脂が、前記ガラスシートの内部に含浸されていると共に、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成しており、
前記上側樹脂層及び下側樹脂層が、前記接合樹脂を介して接合されている、床材。」
イ 訂正事項8
願書に添付した明細書の段落【0007】の記載を以下のとおりに訂正する。
「【0007】
本発明の別の局面によれば、床材を提供する。
本発明の床材は、塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする上側樹脂層と、塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする下側樹脂層と、前記上側樹脂層と下側樹脂層の間に積層されたガラスシートであって、複数のガラス繊維及び天然繊維を含むガラスシートと、を有し、 前記ガラスシートに、ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない接合樹脂が目付量320g/m2以上で付着されており、前記接合樹脂が、前記ガラスシートの内部に含浸されていると共に、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成しており、前記上側樹脂層及び下側樹脂層が、前記接合樹脂を介して接合されている。」
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、訂正前の請求項1の「樹脂付きガラスシート」において用いられる「塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂」とする「接合樹脂」について「ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない」ことを限定し、
訂正前の「樹脂付きガラスシートを準備する工程」において準備される「前記接合樹脂の目付量が320g/m2以上である樹脂付きガラスシート」について「ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない接合樹脂を付着させることにより」準備されることを限定し、
訂正前の樹脂付きガラスシートの「ガラスシートに付着された接合樹脂」について「前記ガラスシートの内部に含浸されていると共に、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成している」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の追加について
願書に添付された明細書の【0027】、【0028】、【0031】、【0034】、【0051】、【0055】、【0056】、【0093】には次の記載がある。
(ア)「【0027】
接合樹脂5のガラスシート4に対する付着態様は、上面側又は下面側から見て下記の4つの態様に大別できる。
(a)接合樹脂5は、樹脂付きガラスシート6の上面側から見て、ガラスシート4を構成する複数の繊維41の全てに付着している。
(b)接合樹脂5は、樹脂付きガラスシート6の上面側から見て、ガラスシート4を構成する複数の繊維41の少なくとも一部に付着し且つ複数の繊維41のうちの少なくとも1本の繊維に付着していない部分を有する。
(c)接合樹脂5は、樹脂付きガラスシート6の下面側から見て、ガラスシート4を構成する複数の繊維41の全てに付着している。
(d)接合樹脂5は、樹脂付きガラスシート6の下面側から見て、ガラスシート4を構成する複数の繊維41の少なくとも一部に付着し且つ複数の繊維41のうちの少なくとも1本に付着していない部分を有する。
なお、本明細書において、「上面側(又は下面側)から見て」とは、その層の上面(又は下面)に対して垂直な方向から見ることをいう。
接合樹脂5の付着態様は、上記(a)及び(b)から選ばれる1つで且つ(c)及び(d)から選ばれる1つの態様であり、好ましくは、(a)及び(c)の態様、又は、(a)及び(d)の態様である。
【0028】
前記(a)においては、樹脂付きガラスシート6の上面側から見て、複数の繊維41のほとんど全てが接合樹脂に覆われ、前記(c)においても同様に、樹脂付きガラスシート6の下面側から見て、複数の繊維41のほとんど全てが接合樹脂に覆われている。なお、図3乃至図5は、この(a)及び(c)の態様を図示している。 前記(b)においては、樹脂付きガラスシート6の上面側から見て、繊維41が露出している部分を有し、前記(d)においても同様に、樹脂付きガラスシート6の下面側から見て、繊維41が露出している部分を有する。」
(イ)「【0031】
さらに、樹脂付きガラスシート6において、接合樹脂5は、ガラスシート4にほぼ沿って層を成している。なお、図3乃至図5において、ガラスシート4の上面41u及び下面42dを二点鎖線で表している。
例えば、接合樹脂5は、図3乃至図5に示すように、ガラスシート4の内部に含浸し、さらに、ガラスシート4の上側においてガラスシート4の上面41uにほぼ沿って層を成し、さらに、接合樹脂5は、図3及び図4に示すように、ガラスシート4の下側においてガラスシート4の下面42dにほぼ沿って層を成している。なお、図5に示す態様は、接合樹脂5がガラスシート4の下側において層を成しているが、その層がガラスシート4の下面42dよりもシート4の厚み方向上側に入りこんでいる場合である。特に図示しないが、ガラスシート4の上側において層を成している接合樹脂5が、ガラスシート4の上面41uよりもシート4の厚み方向下側に入りこんでいる場合であってもよい。」
(ウ)「【0034】
接合樹脂5が上記(a)の態様で付着している場合には、図3乃至図5に示すように、上接合樹脂層51は、ガラスシート4の上側において連続して層を成している。接合樹脂5が上記(b)の態様で付着している場合には、上接合樹脂層51は、一部不連続な部分を有しつつ全体として見ると層を成している(図示せず)。同様に、接合樹脂5が上記(c)の態様で付着している場合には、下接合樹脂層52は、図3乃至図5に示すように、ガラスシート4の下面側において連続して層を成している。接合樹脂5が上記(d)の態様で付着している場合には、下接合樹脂層52は、一部不連続な部分を有しつつ全体として見ると層を成している(図示せず)。
上接合樹脂層51の上面は、平坦状でもよく、或いは、凹凸状でもよい。下接合樹脂層52の下面は、平坦状でもよく、或いは、凹凸状でもよい。」
(エ)「【0051】
前記各塩化ビニル系樹脂は、K値60~95程度のものが好ましく、K値65~80程度のものがより好ましい。
前記上側樹脂層2及び下側樹脂層3には、通常、上記樹脂成分以外に各種添加剤が含まれる。添加剤としては、従来公知のものを使用でき、例えば、充填剤、可塑剤、難燃剤、安定剤、吸湿剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤、発泡剤、防黴剤などが挙げられる。」
(オ)「【0055】
<接合樹脂>
接合樹脂5としては、繊維41、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の何れにも接合するものであれば特に限定されず、従来公知の樹脂を用いることができる。接合樹脂5としては、上側樹脂層2及び下側樹脂層3で例示したような熱可塑性樹脂が挙げられる。
繊維41、塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする上側樹脂層2及び下側樹脂層3に対する接合性に優れていることから、接合樹脂5は、主成分樹脂として塩化ビニル系樹脂を含むことが好ましく、主成分樹脂としてペースト塩化ビニル系樹脂を含むことが好ましい。
上述のように、2種類以上の接合樹脂5をガラスシート4に付着させる場合には、それらの接合樹脂5は、いずれも熱可塑性樹脂であることが好ましく、いずれも主成分樹脂として塩化ビニル系樹脂であることがより好ましく、いずれも主成分樹脂としてペースト塩化ビニル系樹脂を含むことがさらに好ましい。
2種類以上の接合樹脂は、異なる接合樹脂であり、例えば、主成分樹脂が異なる場合、主成分樹脂は同種又は同じで、その配合量が異なる場合、主成分樹脂は同種又は同じで且つ配合量も略同じであるが、充填剤などの添加剤の配合量が異なる場合、組成は同じであるが、粘度が異なる場合、などが挙げられる。
【0056】
サスペンション塩化ビニル系樹脂は比較的硬いので、その樹脂はガラスシート4に強固に付着し難いが、ペースト塩化ビニル系樹脂は、可塑剤の量が多く、比較的軟らかいので、ガラスシート4への塗工も容易で且つ繊維41に強固に付着する。また、ペースト塩化ビニル系樹脂は、サスペンション塩化ビニル系樹脂に対する相溶性に優れているので、それを含む接合樹脂5は、サスペンション塩化ビニル系樹脂を含む上側樹脂層2又は下側樹脂層3にも強固に接合するようになる。
接合樹脂5に含まれるペースト塩化ビニル系樹脂は、多数の微粒子集合体からなる粒子径が0.1~10μm(好ましくは1~3μm)の微細粉末であり、好ましくは、前記微細粉末の表面に界面活性剤がコーティングされている。前記ペースト塩化ビニル系樹脂の平均重合度は1000~2000程度が好ましく、K値は、60~95程度が好ましく、K値65~80程度がより好ましい。
なお、接合樹脂5には、通常、各種添加剤が含まれる。添加剤としては、上記に例示したようなものが挙げられる。」
(カ)「【0093】[実施例1]
上記ペースト塩化ビニル系樹脂100質量部に、可塑剤としてフタル酸ジオクチルを73質量部、充填剤として炭酸カルシウムを150質量部混合することにより、ペースト塩化ビニル系樹脂の粘度を2000mPa・sに調整した。この樹脂を第1接合樹脂として用いた。なお、前記粘度は、BM型粘度計(東機産業株式会社製の商品名「BII形粘度計-BMII」)を用いて、20℃、60rpmにて測定した。
上記第1のガラス不織布の上面に、汎用的なロールコーターを用いて、第1接合樹脂の目付量が約350g/m2となるように、第1接合樹脂を塗工することにより、樹脂付きガラスシートを作製した。
この樹脂付きガラスシートの通気度は、0cc/cm2・secであった。
なお、第1のガラス不織布及び樹脂付きガラスシートの各通気度の測定は、上記記載の通りで行った。」
(キ)上記の記載からみて明細書の【0055】、【0056】、【0093】には、「接合樹脂」の主成分樹脂である「塩化ビニル系樹脂」を「ペースト塩化ビニル系樹脂」とすることが記載されているといえる。
また、本件特許の明細書等には、接合樹脂が「架橋剤」を含まないことは明記されていないが、【0056】において接合樹脂に含まれる添加剤として「上記に例示したようなものが挙げられる」と記載されており、ここでいう添加剤の「例示」とは、【0051】に挙げられたものであると認められるところ、【0051】には架橋剤は挙げられておらず、また、接合樹脂に架橋剤が含まれなければならない特段の理由も見当たらない。そうすると、接合樹脂が架橋剤を含まないことを規定することは、明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるから、明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、【0027】、【0028】、【0031】、【0034】には、
接合樹脂5は、ガラスシート4の内部に含浸し、さらに、ガラスシート4の上側においてガラスシート4の上面41uにほぼ沿って層を成し、樹脂付きガラスシート6の下面側から見て、繊維41が露出している部分を有し、上接合樹脂層51は、ガラスシート4の上側において連続して層を成しており、下接合樹脂層52は、一部不連続な部分を有しつつ全体として見ると層を成していることが記載されているから、「接合樹脂」が、「前記ガラスシートの内部に含浸されていると共に、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成している」ことが記載されているといえる。
そうすると、「樹脂付きガラスシート」について「ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない接合樹脂を付着させることにより、前記接合樹脂の目付量が320g/m2以上であり、前記接合樹脂が、前記ガラスシートの内部に含浸されていると共に、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成している」ことが記載されているといえる。
よって、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項1は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2に係る請求項2についての訂正は、訂正前1の請求項2における「樹脂付きガラスシート」の「通気度」について「前記樹脂付きガラスシートの通気度が0~10cc/cm2・secである」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の追加について
願書に添付された明細書の【0037】、【0078】には次の記載がある。
(ア)「【0037】
前記樹脂付きガラスシート6においては、上記ガラスシート4のほとんどの開口Aが接合樹脂5によって塞がれている。
樹脂付きガラスシート6の通気度は、例えば、0~10cc/cm2・secであり、好ましくは0~5cc/cm2・secであり、より好ましくは0~3cc/cm2・secである。このような通気度を有する樹脂付きガラスシート6は、上側樹脂層2と下側樹脂層3との間のほとんどにおいて接合樹脂5が介在するので、ガラスシートに上側樹脂層及び下側樹脂層が容易に接合するようになる。樹脂付きガラスシート6の通気度は、測定対象を樹脂付きガラスシートに代えた上で、上記ガラスシート4の通気度と同様にして測定できる。
なお、図3乃至図5は、接合樹脂5がガラスシート4の開口の全てを塞いでいる場合、つまり、通気度が零である場合を示している。特に図示しないが、本発明においては、開口のうち僅かな部分において接合樹脂5を有さない場合も含まれ、このような場合は、上記の通気度が零でない場合である。」
(イ)「【0078】
ガラスシート4Mに付着させた接合樹脂5Mの流動性が高く、垂れなどを生じる場合には、ヒーターやオーブンなどの加熱手段(図示せず)を用いて接合樹脂5Mを強制的に乾燥することが好ましい。前記乾燥により、ガラスシート4Mに付着した接合樹脂5Mが垂れることなく、樹脂付きガラスシート6Mを得ることができる。得られた樹脂付きガラスシート6Mは、ほとんど開口を有さず、その通気度は、0~10cc/cm2・secであり、好ましくは0~5cc/cm2・secであり、より好ましくは0~3cc/cm2・secである。」
(ウ)上記の記載からみて明細書の【0037】、【0078】には、「樹脂付きガラスシート」の「通気度」は「0~10cc/cm2・sec」であることが記載されているといえる。
よって、訂正事項2に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項2は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3に係る請求項3についての訂正のうち「前記上側樹脂層及び・・・」とする訂正(以下「訂正事項3の訂正1」という。)は、訂正事項1に係る訂正により、請求項1における「接合樹脂」に含まれる主成分樹脂が「ペースト塩化ビニル系樹脂」であるとする訂正がされたことにより重複する記載を削除したものであって、訂正後の請求項1の記載と請求項3の記載とを整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする。
また、訂正事項3に係る請求項3についての訂正のうち「・・・及び下側樹脂の双方の塩化ビニル系樹脂が、・・・」とする訂正(以下「訂正事項3の訂正2」という。)は、訂正前の請求項3が、上側樹脂層及び下側樹脂層の「少なくとも一方」の塩化ビニル系樹脂が、サスペンション塩化ビニル系樹脂を含むことを規定していたところ、「双方」の塩化ビニル系樹脂が、サスペンション塩化ビニル系樹脂を含むと限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の追加について
(ア)上記アのとおり、訂正事項3の訂正1は、訂正後の請求項1の記載と請求項3の記載とを整合させるものであり、新たな事項を追加するものではない。
(イ)また、訂正事項3の訂正2について検討すると、願書に添付された明細書の【0043】、【0049】、【0080】には次の記載がある。
a 「【0043】
また、サスペンション塩化ビニル系樹脂は、ペースト塩化ビニル系樹脂に比して硬く且つ強度に優れているので、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の厚みを比較的小さくしても(つまり、床材1の厚みを小さくしても)、機械的強度に優れ且つ反りの小さい床材1を得ることができる。例えば、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の双方がサスペンション塩化ビニル系樹脂を含み、接合樹脂5がペースト塩化ビニル系樹脂を含む場合、層間接合力を維持したまま床材1の厚みを比較的小さくすることもできる。
本発明の床材1は、上述のように層間剥離を生じ難いので、床面に敷設する際に、その縁部が捲れることもなく、良好な仕上がりで施工できる。また、既に敷設した床材1を貼り替える際、層間剥離を生じることなく既設の床材1を引き剥がすことができる。このため、既設の床材1の一部(主として下方部)が床面に貼り付いたままで残存する可能性が低く、貼り替え施工も容易に行うことができる。
以下、各層について詳しく説明する。」
b 「【0049】
前記塩化ビニル系樹脂としては、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法などで製造されたものを用いることができる。加工し易く且つ取り扱い易いことから、乳化重合法、又は、懸濁重合法で得られる塩化ビニル系樹脂が好ましい。これらの塩化ビニル系樹脂は、1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。
好ましくは、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の少なくとも一方は、主成分樹脂としてサスペンション塩化ビニル系樹脂を含み、より好ましくは、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の双方は、主成分樹脂としてサスペンション塩化ビニル系樹脂を含む。上側樹脂層2及び下側樹脂層3をサスペンション塩化ビニル系樹脂で形成することにより、床材1の強度を確保しつつ比較的厚みの小さい床材1を得ることができる。」
c 「【0080】
また、別途、保護層72M、化粧層73M、上側樹脂層2M、下側樹脂層3M及び基材層74Mを準備する。これらの層72M,73M,2M,3M,74Mは、所定幅の長尺帯状であり、好ましくは、ガラスシート4Mとほぼ同じ幅の長尺帯状のものを準備する。なお、意匠性を有する上側樹脂層を用いる場合には、化粧層73Mは省略される。
上側樹脂層2M及び下側樹脂層3Mのうち少なくとも一方は、サスペンション塩化ビニル系樹脂を主成分とする樹脂で形成され、好ましくは、双方がサスペンション塩化ビニル系樹脂を主成分とする樹脂で形成される。
これらの層72M,73M,2M,3Mの形成方法は、特に限定されず、それらを形成する材料に応じて適宜選択でき、例えば、カレンダー法、溶融押出法、溶液流延法などが挙げられる。」
d 上記の記載からみて【0043】、【0049】、【0080】には、上側樹脂層及び下側樹脂層の双方がサスペンション塩化ビニル系樹脂を主成分とする樹脂で形成されることが記載されているといえる。
(ウ)よって、訂正事項3の訂正1及び訂正2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、訂正事項3に係る請求項3の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項3は、上記アのとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするとともに、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正事項4に係る訂正は、明細書の発明の詳細な説明の記載と訂正事項1に係る訂正による訂正後の請求項1の記載とを整合させるための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の追加について
上記アのとおり、訂正事項4に係る訂正は、発明の詳細な説明の記載と訂正事項1に係る訂正による訂正後の請求項1の記載とを整合させるための訂正であるから、訂正事項4に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項4は、上記アのとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)訂正事項5
ア 訂正の目的について
訂正事項5に係る訂正は、明細書の発明の詳細な説明の記載と、訂正事項2に係る訂正による訂正後の請求項2の記載、及び、訂正事項3に係る訂正による訂正後の請求項3の記載とを整合させるための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の追加について
上記アのとおり、訂正事項5に係る訂正は、発明の詳細な説明の記載と、訂正事項2に係る訂正による訂正後の請求項2の記載、及び、訂正事項3に係る訂正による訂正後の請求項3の記載とを整合させるための訂正であるから、訂正事項5に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項5は、上記アのとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(6)訂正事項6
ア 訂正の目的について
訂正事項6に係る訂正は、明細書の発明の詳細な説明の記載と訂正事項1に係る訂正による訂正後の請求項1の記載とを整合させるための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の追加について
上記アのとおり、訂正事項6に係る訂正は、発明の詳細な説明の記載と訂正事項1に係る訂正による訂正後の請求項1の記載とを整合させるための訂正であるから、訂正事項6に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項6は、上記アのとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(7)訂正事項7
ア 訂正の目的について
訂正事項7に係る請求項5についての訂正は、訂正前の請求項5の「接合樹脂」について「ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない」ことを限定するとともに、「前記ガラスシートの内部に含浸されていると共に、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成して」いることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の追加について
訂正事項7に係る訂正は、上記(1)の訂正事項1に係る訂正と実質的に同様の訂正であり、上記(1)イに示したように、訂正事項1は、新規事項を追加するものでないから、訂正事項7に係る訂正も、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項7は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(8)訂正事項8
ア 訂正の目的について
訂正事項8に係る訂正は、明細書の発明の詳細な説明の記載と訂正事項7に係る訂正による訂正後の請求項5の記載とを整合させるための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の追加について
上記アのとおり、訂正事項8に係る訂正は、発明の詳細な説明の記載と訂正事項7に係る訂正による訂正後の請求項5の記載とを整合させるための訂正であるから、訂正事項8に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項8は、上記アのとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
4 一群の請求項、及び独立特許要件について
訂正前の請求項2は請求項1を引用し、請求項3は請求項1又は2を引用し、請求項4は請求項1ないし3を引用しているから、請求項2ないし4は、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正がされるものである。そのため、請求項1ないし4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に該当する。
よって、訂正事項1ないし6の訂正は、一群の請求項〔1-4〕に対して請求されたものである。
また、訂正事項7及び8の訂正は、請求項5に対して請求されたものである。
そして、本件においては、訂正前の請求項1ないし5について特許異議の申立てがされているから、訂正事項1ないし8の訂正は、いずれも特許異議の申立てがされている請求項に係る訂正であり、訂正事項1ないし8により特許請求の範囲の限定的減縮が行われていても、訂正後の請求項1ないし5に係る発明について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
5 まとめ
したがって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕及び請求項5について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし5に係る発明(以下、各々を「本件訂正発明1」等といい、請求項1ないし5に係る発明をまとめて「本件訂正発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
1 本件訂正発明1
「【請求項1】
複数のガラス繊維及び天然繊維を含むガラスシートを準備する工程、
前記ガラスシートに、ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない接合樹脂を付着させることにより、前記接合樹脂の目付量が320g/m2以上であり、前記接合樹脂が、前記ガラスシートの内部に含浸されていると共に、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成している、樹脂付きガラスシートを準備する工程、
前記樹脂付きガラスシートの上面に塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする上側樹脂層を積層し、前記樹脂付きガラスシートの下面に塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする下側樹脂層を積層し、加熱加圧して上側樹脂層、ガラスシート及び下側樹脂層を一体化する工程、を有する床材の製造方法。」
2 本件訂正発明2
「【請求項2】
前記樹脂付きガラスシートの接合樹脂の目付量が630g/m2以下であり、
前記樹脂付きガラスシートの通気度が0~10cc/cm2・secである、請求項1に記載の床材の製造方法。」
3 本件訂正発明3
「【請求項3】
前記上側樹脂層及び下側樹脂層の双方の塩化ビニル系樹脂が、サスペンション塩化ビニル系樹脂を含む、請求項1または2に記載の床材の製造方法。」
4 本件訂正発明4
「【請求項4】
前記ガラスシートが、繊維成分全体を100質量%とした場合に、天然繊維を15質量%~50質量%含む、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の床材の製造方法。」
5 本件訂正発明5
「【請求項5】
塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする上側樹脂層と、塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする下側樹脂層と、前記上側樹脂層と下側樹脂層の間に積層されたガラスシートであって、複数のガラス繊維及び天然繊維を含むガラスシートと、を有し、
前記ガラスシートに、ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない接合樹脂が目付量320g/m2以上で付着されており、
前記接合樹脂が、前記ガラスシートの内部に含浸されていると共に、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成しており、
前記上側樹脂層及び下側樹脂層が、前記接合樹脂を介して接合されている、床材。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし5に係る特許に対して、当審が令和1年11月18日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
訂正前の請求項1ないし5に係る発明は、甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1ないし5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、訂正前の請求項1ないし5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 甲号証の記載
(1)甲第3号証(特開平05-163824号公報)の記載
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。以下、他の甲号証についても同様。)。
ア 「【0001】
【技術分野】本発明は、ガラス繊維層を含む塩化ビニル系樹脂床材に関する。」
イ 「【0003】
【目的】そこで、本発明の目的は、ガラス繊維層とその周辺の塩化ビニル系樹脂層との間に剥離現象が発生せず、強い積層強度を有し、寸法安定性に優れ、かつすぐれた耐キャスター走行性を有する床材を提供する点にある。」
ウ 「【0004】
【構成】本発明の第1は、塩化ビニル系樹脂シートの少なくとも片面に、ガラス繊維層を含む架橋塩化ビニル系樹脂層を有することを特徴とする床材に関する。本発明の第2は、架橋剤を配合した塩化ビニル系樹脂ペーストを合浸したガラス繊維層を塩化ビニル系樹脂シートと重ね合せた後、加熱加圧することを特徴とする請求項1記載の床材を製造する方法に関する。
【0005】本発明における塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル重合体、塩化ビニルと塩化ビニリデン、酢酸ビニルなどとの共重合体など各種の塩化ビニルを主成分とする共重合体を包含する。塩化ビニル系樹脂ペーストとしては、たとえば、昭和52年12月20日日刊工業新聞社発行、「プラスチック加工技術便覧(新版)」ペースト加工の項に記載されているように公知のペーストを使用することができる。」
エ 「【0007】ガラス繊維層としては、ガラス繊維不織布、織布等を例示することができる。ガラス繊維は、公知のシラン系あるいはチタン系カップリング剤であらかじめ処理しておくこともできる。本発明は、通常長尺物を意図するものであるが、これを所定の大きさに打抜いてタイルとして使用することもできる。」
オ 「【0008】
【実施例】
実施例1
配合表1の組成よりなる架橋塩化ビニル系樹脂ペーストをリバースコーター、ディップコーター、あるいはグラビアコーターなど適宜のコーターを用いてガラス繊維不織布に塗布処理した。塗布量は300g/m2とした。この状態での不織布の厚さは約0.4mmであった。配合表2の組成よりなる厚さ約0.8mmのポリ塩化ビニルシートを前記架橋塩化ビニル系樹脂ペースト含浸ガラス繊維不織布2の上下両面重ね合せ、全体の厚さ約2mmの長尺床材を得た。
【表1】
配合表1 架橋性PVCペースト
┏━━━━━━━━━━━━┳━━━━━┓
┃PVCペーストレジン ┃ 100┃
┃可塑剤DHP ┃ 50┃
┃パッケージ安定剤 ┃ 2┃
┃DB ┃ 5┃
┗━━━━━━━━━━━━┻━━━━━┛
【表2】
配合表2 積層用PVCシート
┏━━━━━━━━━━━━━┳━━━━┓
┃PVCサスペンジョンレジン┃ 100┃
┃可塑剤DOP ┃ 36┃
┃安定剤 ┃ 3┃
┃炭酸カルシウム ┃ 20┃
┗━━━━━━━━━━━━━┻━━━━┛
具体的製造方法は、図1に示すようにガラス不織布2はコーター4により架橋性PVCペーストで処理されラミネータへと入って行く。PVCシート1、2はそれぞれの赤外ヒータ5、6によりプレヒートされ中間に架橋性PVCペースト含浸ガラスシートを挾み込んだ後、ラミネータ7、8へと送られ、製品となる。従って架橋反応は7で開始されドラム8で完結する。
比較例1
配合表2の組成の積層用PVCシート厚さ2mmのものを用いた(ガラス繊維層なし)。
比較例2
実施例1のガラス繊維不織布に全く含浸処理を行わないほかは、実施例1と同様にして全体の厚さ2mmの長尺床材とした。
比較例3
配合表1の組成において架橋剤であるDBを除くほかは実施例1と同様にして全体の厚さ2mmの長尺床材を得た。
その結果を表3、表4に示す。」
カ 図1
キ 上記オの比較例3においては、PVCペーストレジン、可塑剤DHP、パッケージ安定剤、DBを組成とする配合表1の架橋性PVCペーストの組成において、架橋剤である前記DBを除いており、当該DBを除いた組成のPVCペーストは、架橋剤を含まないPVCペーストであることは明らかである。
ク 甲第3号証に記載された発明
上記ア~キからみて、甲第3号証には、比較例3として以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「架橋剤を含まないPVCペーストをコーター4によりガラス繊維不織布に塗布量300g/m2で塗布処理して架橋剤を含まないPVCペースト含浸ガラスシートを得て、
PVCサスペンジョンレジンを含む組成よりなるポリ塩化ビニルシート1及び2をそれぞれの赤外ヒータ5、6によりプレヒートし、当該ポリ塩化ビニルシート1及び2の中間に前記架橋剤を含まないPVCペースト含浸ガラスシートを挾み込んだ後、ラミネータ7、8へと送られて加熱加圧して製品とする塩化ビニル系樹脂床材の製造方法。」
ケ 甲第3号証に記載された物の発明
上記ア~キからみて、甲第3号証には、比較例3として以下の物の発明(以下「甲3物発明」という。)が記載されていると認められる。
「PVCサスペンジョンレジンを含む組成よりなるポリ塩化ビニルシート1及び2と、前記ポリ塩化ビニルシート1及び2の中間に挾み込まれた、PVCペースト含浸ガラスシートとを有し、
前記PVCペーストは架橋剤を含まないPVCペーストであり、
前記架橋剤を含まないPVCペーストをコーター4によりガラス繊維不織布に塗布量300g/m2で塗布処理したものである、塩化ビニル系樹脂床材の製品。」
(2)甲第1号証(実願昭54-011321号(実開昭55-110234号)のマイクロフィルム)の記載
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、図面とともに次の事項が記載されている)。
ア 「2 実用新案登録請求の範囲
1.ガラス繊維を主成分とするガラスペーパーの片面又は両面に耐熱性ポリ塩化ビニール層を設けたことを特徴とする建築用積層材の基材。
3 考案の詳細な説明
本考案は壁材・床材などの建築材として用いられる積層材の基材に関するものである。詳しくは、その表面に塩化ビニール加工などが施こされて始めて壁材・床材などになるという基材シートに関するものである。
その目的は、壁材・床材などに加工するに際してすぐれた加工性、物性、取扱い性を有し、しかも得られた壁材・床材などがすぐれた強さ、寸法安定性、耐ブロッキング性を有するという、塩化ビニール加工用基材を提供することにある。」(明細書第1頁第4行~第2頁第2行)
イ 「従来、壁材・床材等の建築用積層材に利用されているポリ塩化ビニール製建築材において、その基材は主として紙、織物、不織布、又はアスベスト紙等が使用されていた。しかし紙、織物、不織布等は寸法安定性において難点があり、一方アスベスト紙の場合は「割れ」等の取扱い性及び衛生管理面での問題を有していた。」(明細書第2頁第3行~9行)
ウ 「本考案をその製造方法及び図面を参照しながら説明する。
まず、本考案に使用するガラスペーパーとはガラス繊維を主成分とし、これにパルプ等の有機繊維、アスベスト、岩綿等の無機繊維、又は充填剤樹脂などを混抄、抄合せ、或いは含浸したものである。
また本考案の重要な構成部分である耐熱性ポリ塩化ビニール層とは、塩化ビニールペーストレジンに一般の可塑剤、安定剤、充填剤、色材、及び滑剤等を常法により配合してポリ塩化ビニールペーストゾル(以下、単にペーストゾルという。)を作成してこれに耐熱性向上剤を配合したものである。この配合量は品種によっても異なるが一般にペーストレジン100重量部に対して2~50重量部が適当である。
この耐熱性向上剤とは硬化助剤又は架橋剤などであり、例えばDAP(オルソフタル酸ジアリル)、TMTP(トリメチロールプロパンメタクリレート)の如きアリルエステル系やアクリル酸エステル系、不飽和ポリエステル系、エポオキシ系等の熱硬化性助剤、などでも、或いは塩化ビニール樹脂と直接架橋するジチオールの如きチオール系、アミン系等の反応性助剤などを1種或いは2種以上使用してもよいものである。なお必要により促進剤を併用してもよいことはいうまでもない。」(明細書第3頁下から1行~第5頁第5行)
エ 「本考案基材は、前記ガラスペーパーの片面又は両面に上記の如き耐熱性向上剤を配合した前記ペーストゾルを塗布又は含浸し、熱処理したものである。
なお、必要によりこの表面に耐熱性でない普通のペーストゾルを塗布することもある。この場合は先にこの普通のペーストゾルを塗布加工しその裏面に耐熱性のペーストゾルを塗布してもよいことは勿論である。何れの場合も表面平滑性を要求される時は表面を転写法で加工して平滑にしても、また加工後塩化ビニール用エンボス機により平滑にしてもよい。」(明細書第5頁第6行~17行)
オ 「また、第3図はガラスペーパー(1)の両面に耐熱性ポリ塩化ビニール層(2)を設けたもので、この場合は両面より塗布してもよいがディプして同時に含浸加工してもよい。
さらに第4図は片面には耐熱性にしていない普通のポリ塩化ビニール層(3)を設けたものである。この第4図のものを得るには直接塗布する場合は前述の耐熱性のペーストゾルを塗布し加熱処理して(2)の層を設け、次に表面に普通のペーストゾルを塗布し必要に応じて塩化ビニール用エンボス機で平滑性にしてもよいし、また転写法の場合は先に離型材に普通のペーストゾルを塗布しその上にガラスペーパーを乗せ加熱し、ついでその上に耐熱性のペーストゾルを塗布して加熱処理し剥離すればよい。」(明細書第6頁第4行~18行)
カ 「実施例 1
繊維径9μカット長13mmのガラス繊維60重量部とNBKP(パルプ)40重量部との混抄紙にポリビニールアルコールを15%含浸し坪量45g/m2のガラスペーパーを作成した。
一方、塩化ビニールペーストレンジ(日本ゼオン(株)製の商品名ゼオン131)100重量部に、DOP45重量部、DBPl0重量部、安定剤3重量部、炭酸カルシウム40重量部、架橋剤としてジチオール系助剤(三協化成(株)製の商品名ジスネットPC-3)4重量部、及び粘度調整剤としてミネラルターベン4重量部、を配合して塩化ビニールペーストゾルを調合した。
前記ガラスペーパーに上記のペーストゾルをナイフコーターにて300g/m2の付量で塗布し120℃×2分の予備乾燥を行ないついで170℃×2分の熱処理を施こし本考案基材を得た。」(明細書第8頁第16行~第9頁第14行)
キ 「実施例 2
実施例1における架橋剤を含まないペーストゾルをステンレスベルトに150g/m2の割合で塗布し、つづいて繊維径9μカット長13mmのガラス繊維のシートにポリビニールアルコール、メラミン、及び触媒の混合比100対10対lの混合樹脂を15%含浸した坪量40g/m2のガラスペーパーを乗せ120~150℃の加熱炉で2分間加熱し、その上より塩化ビニールペーストレジン100重量部、DOP50重量部、DOA25重量部、安定剤3重量部、炭酸カルシウム25重量部、整泡剤4重量部、及び実施例1と同じ架橋剤4重量部を配合したペーストゾルを機械発泡法によって発泡倍率2倍にして450g/m2の割合で塗布し120℃×2分と170℃×2分の熱処理を施こした後ステンレスベルトより剥離して厚さ0.7mmの本考案基材を得た。」(明細書第10頁第9行~第11頁第6行)
ク 上記オに摘記した記載を踏まえると、第4図からは、ガラスペーパー(1)の片面に耐熱性ポリ塩化ビニール層(2)を設け、もう一方の片面には耐熱性にしていない普通のポリ塩化ビニール層(3)を設けていることが看て取れる。
ケ 上記ア及びイから、床材等の建築用積層材に利用されているポリ塩化ビニール製建築材における基材は、主として紙、織物、不織布、又はアスベスト紙等が例示されているように、ポリ塩化ビニールとは異なる材料であって、ポリ塩化ビニールとともに用いられることにより床材等の建築用積層材を構成してポリ塩化ビニール製建築材となる基材である。
コ 上記ウ及びクを踏まえると、上記キの実施例2においては、ガラスペーパー(1)に対して、架橋剤を含まないペーストゾルから得られた耐熱性にしていない普通のポリ塩化ビニール層(3)の目付量が150g/m2の割合であり、架橋剤を配合したペーストゾルから得られた耐熱性ポリ塩化ビニール層(2)の目付量が450g/m2の割合となっていることから、上記ガラスペーパーに対するポリ塩化ビニールを含むペーストゾルの目付量が600g/m2であることとなる。
サ 上記ア~コより、甲第1号証には以下の技術事項(以下「甲1技術事項」という。)が記載されていると認められる。
「ポリ塩化ビニールとともに用いられることにより床材等の建築用積層材を構成してポリ塩化ビニール製建築材となる基材において、ガラス繊維を主成分とするガラスペーパーに対するポリ塩化ビニールを含むペーストゾルの目付量が600g/m2であること、及び、前記ガラスペーパーはガラス繊維60重量部及びパルプ40重量部を含むガラスペーパーを用いること。」
(3)甲第2号証(特開昭58-197382号公報)の記載
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「3.発明の詳細な説明
本発明は、積層材用基体の製法に関し、さらに詳しくは、片面は比較的大きな充填材を含む層、もう一面は不織布を含む層よりなる二層積層構造を持つポリ塩化ビニル製のシート状物であり、特に床敷材の基体として有用なシート状基体の製法に関する。
一般に、床敷材としては、シート状基体にプラスチック中間層、装飾層および保護層を順次形成した構造の物が、装飾性および歩行感に優れているので、多用されている。シート状基体としてはアスベスト製の紙状物または合成樹脂製シートが利用されているが、近年アスベストの有害性が主張され、しだいに合成樹脂製シートが多く用いられるようになっている。基体に要求される物性としては、強度、耐水性、寸法安定性、高温時の強度などが挙げられる。ところが、合成樹脂製シート基体は、寸法安定性および高温時の強度に問題があるので、この欠点を改良するために補強材が使用されることになる。補強材としては種々の材料が利用されるが、補強効果が大きく、かつ加工基体としても使用できる不織布が多く利用されている。合成樹脂としては、加工性、経済性などの面から、ポリ塩化ビニル樹脂が好ましく用いられている。
また不織布を含む層の上にプラスチック中間層および保護層を設けると、これら積層された層の収縮率の相違によりそり現象が生しる。これを防止するため、さらに所望の厚みを得るためにバック層として比較的充填材を多く含む層を設けているのが実情である。従って、寸法安定性や高温時の強度などを付与するために不織布等で補強された層と、所望の厚みを得るためやそり防止のためのバック層とからなる二層構造のシート状物が床敷材の基体としては理想的である。
このような床敷材の基体を製造する方法の1つとして、ペースト状ポリ塩化ビニル樹脂組成物(以下「ペーストゾル」という。)を不繊布に含浸して補強されたシート層を作り、その後、充填材を多く含むペーストゾルを塗布するか、またはフィルムを貼り合せてバック層を形成する方法がある。」(第1頁右下欄第19行~第2頁右上欄第19行)
イ 「本発明で使用される不織布は、ペーストゾルが浸透してゆく程度の多孔性を有しているものならばいずれも使用できる。しかし、見かけの孔径が0.5mmを越えると浸透したペーストゾルがその表面張力によりシート内に滞留していることができず塗布部の汚染を引き起こす。寸法安定性、耐熱性を付与できる点から、無機繊維を30重量部またはそれ以上含む不繊布が好ましい。特に、ガラス繊維を主体とし、それにパルプや合成繊維などで適度の開孔性を持たせたガラス不繊布が経済性および取扱いやすさの点で最も好ましい。不織布の厚みがあまり厚いとペーストゾルの浸透に侍間がかかるので、2mm以下のものが好ましく、より好ましくは0.2~0.5mmの厚みのものである。」(第3頁左上欄第11行~右上欄第4行)
ウ 「充填材として、炭酸カルシウム、タルク、クレーなどの鉱物性粉体;銅、アルミニウム、鉄、などの金属粉体;樹脂粉砕物;ナイロンビーズ、ポリエステルビーズ、ガラスビーズ、炭素ビーズなどの人工球状物;アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維などの有機繊維;ガラス繊維、炭素繊維、ロックウールなどの無機繊維;金属繊維などが例示できる。」(第3頁右上欄第17行~左下欄第4行)
エ 「ペーストゾルの塗布工程は、ナイフコーター、ロールコーターなどを用いた片面塗布の可能な方法により行なわれる。ペーストゾルの塗布された不織布は、ロール、ネット、ベルトなどの支持体に担持されない状態で移動されてゆく。この開にペーストゾルは不織布内に浸透してゆくのである。したがって、移動してゆく距離が長くまた時間が長いほど良いわけであるが、加工性や強度の面から、予備加熱を行ないペーストゾルの粘度を下げて浸透を早めるのが好ましい。予備加熱は赤外線方式や熱風方式などで行なう。予備加熱温度はペーストゾルが80℃以下の温度になるように行なう。あまり高い温度にすると最低粘度を示す温度状態にある時間が短かくなり充分な分離効果が得られない。続いて、ペーストゾルのゲル化溶融点にまで加温する。この加温効果は前の予備加熱工程と連続的に行なってもよい。たとえば浮上式乾燥機を使用する場合、第1乾燥ゾーンをペーストゾルが80℃以丁になるような温度に設定し、第2乾燥ゾーン以後をゲル化溶融温度以上にする方法である。このようにして得られたシート状基体の浸透側の面はわずかな凹凸があり、化学発泡ペーストゾルやフィルムなどの中間層を施す場合、まれに問題を生じることがある。従って、高度の平滑性が要求される時は、その面をエンボス加工したり、ペーストゾルのゲル化溶融時に少なくとも浸透面側を平滑な面を有する熱ドラムまたはステンレスベルトなどに密着させつつ行ない必要によりさらにエンボス加工を行なうとよい。」(第4頁左上欄第5行~右上欄第13行)
オ 「実施例2
次の組成のペーストゾルを調製した。
ペーストゾル配合 重量部
ペースト用塩化ビニル樹脂
(平均粒径 0.8μ) 100
ジオクチルフタレート(比重 0.986) 55
錫メルカプト系安定剤 2
微細炭酸カルシウム(平均粒径 1.5μ) 10
中空ガラス球(平均粒径100μ、比重0.7)30
上記配合により得られたペーストゾルは、室温状態での見掛粘度は12,500cpsであったが、70℃での粘度は1,300cpsに低下した。
ガラスペーパー混抄紙(ガラス繊維75%およびパルプ25%の混抄紙、
秤量40g/m2、厚み0.29mm、見掛開孔径44μ)にリバースロールコーターにより上記ペーストゾルを1,100g/m2の割合で片面塗布し、これを支持体に担持されない状態で加熱シリンダーに導いた。この間に遠赤外線式加熱器で約70℃を保つようにペーストゾル塗布ガラスペーパーを加温した。平滑な面を有し、かつ190℃に加熱された加熱シリンダーにペーストゾルが浸透した側の面を密着させつつゲル化溶融させてシート状基体を得た。得られたシート状基体は厚さ1mm、比重約1.1であって層間の強度も充分であり、かつ寸法安定性もすぐれていた。また平滑な面を有しているため後工程においてもなんら問題のないものであった。」(第5頁左上欄第15行~左下欄第1行)
カ 上記オのペーストゾルの組成において、ジオクチルフタレートは可塑剤であることが技術常識であり、錫メルカプト系安定剤は安定剤であり、微細炭酸カルシウム及び中空ガラス球は充填剤であり、架橋剤を含まないことが理解できる。
キ 上記ア~カからみて、甲第2号証には以下の技術事項(以下「甲2技術事項」という。)が記載されていると認められる。
「シート状基体にプラスチック中間層、装飾層及び保護層を順次形成した床敷材に用いられるシート状基体の製造方法であって、架橋剤を含まないペースト状ポリ塩化ビニル組成物を、ガラス繊維75%およびパルプ25%のガラスペーパー混抄紙に、1,100g/m2の割合で塗布して前記シート状基材を製造する方法。」
(4)甲第6号証(特開平04-232742号公報)の記載
本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第6号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、合成樹脂製の粒子により装飾層を形成する装飾シートに関し、特に、デザインや機能等の要請により該合成樹脂製粒子のバッキング材が表面に露出する必要のある上記装飾シートに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、建築(天井材,壁材,床材等),家具,車両,電気製品,履物,カバン類等の表面材として、合成樹脂製の装飾シートが広く使用されている。
【0003】このような装飾シート、特に床材として使用さる装飾シートとして、最近、第3図に示すように、ガラス繊維,合成繊維,天然繊維等による不織布,織布,編布等に合成樹脂を塗布又は含浸させたシート材、あるいは合成樹脂製のシート材等よりなるバッキング材1上に、合成樹脂製粒子(チップ)10を散布して固定し、該チップ10による微小なモザイク状の模様を形成して装飾層2とするものが開発されている。」
イ 「【0014】本発明装飾シートにおける合成樹脂層を有するバッキング材としては、例えば、発泡又は非発泡の合成樹脂シート、ガラス繊維,有機繊維,パルプ等の1種又は2種以上からなる不織布,織布,編布等に合成樹脂を塗布又は含浸させたもの等で有色又は無色の透明,半透明,不透明の合成樹脂層が実質的に形成されているシート状のものが使用できる。
【0015】この合成樹脂シートを構成し、あるいは不織布等に塗布又は含浸等する合成樹脂としては、ポリ塩化ビニル、塩化ビニルとエチレン,酢酸ビニル,ビニルエーテル,マレイン酸エステル,(メタ)アクリル酸,(メタ)アクリル酸エステル,アクリロニトリル,ウレタン等との共重合樹脂等の塩化ビニル系樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ウレタン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、6-ナイロン、6,6-ナイロン、ポリアセタール樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンオキサイド等が挙げられ、これらは単独で又は混合して使用される。
【0016】これらの合成樹脂には、可塑剤、必要に応じて着色剤,充填剤,安定剤,発泡剤,防黴剤等の添加剤が添加さる。」
ウ 「【0023】本発明装飾シートにおいては、以上のバッキング材上に設けられる微小モザイク状模様層を構成するための合成樹脂製粒子の樹脂としては、この種の模様層を形成する際に通常使用されるチップを構成する熱可塑性樹脂を使用することができる。具体的には、バッキング材の合成樹脂層を形成する合成樹脂と同様の合成樹脂を使用することができる。」
エ 「【0030】本発明装飾シートは、上記のバッキング材の合成樹脂層を形成する合成樹脂のゲル化前又はゲル化後に、該バッキング材の合成樹脂層上に上記の合成樹脂製粒子を散布し、次いで加熱加圧することにより形成される。」
オ 「【0038】
【実施例】実施例1
(合成樹脂製粒子の調製)表1の組成物を高速攪拌翼型ミキサー(ヘンシェルミキサー)で加熱攪拌して造粒後、直ちに冷却して着色合成樹脂製粒子を得た。
【0039】
【表1】
ポリ塩化ビニル 100重量部
(平均分子量=800)
可塑剤 40重量部
(ジー2ーエチルヘキシルフタレート)
Ba-Zn系安定剤 3重量部
充填剤(炭酸カルシウム) 1重量部
着色剤 適宜量
上記のようにして得た着色合成樹脂製粒子を篩いにかけて平均粒径2mmのものを採取した。
【0040】(本発明シートの調製)ガラス繊維混抄不織布(50g/m2)に、表2に示す組成の塩化ビニルペーストを500g/m2の量で塗布含浸させ、不織布上に合成樹脂層5を形成し、該ペーストがゲル化する前に、上記の合成樹脂製粒子を振動型散布器により、1100g/m2の量となるように散布した。
【0041】
【表2】
ポリ塩化ビニル樹脂 60重量部
粗粒子ポリ塩化ビニル樹脂 40重量部
可塑剤 30重量部
(ジー2ーエチルヘキシルフタレート)
Ba-Zn系安定剤 3重量部
粘度低下剤 5重量部
【0042】次いで、図2に示す165℃に加熱された径0.8mのヒートロール3と、径0.1mで、表面がスポンジにより構成された圧接ロール4とによりに、接触角θ=300°、接触圧20000Kg/m2で5分間圧接させた。
【0043】このようにして得られた本発明シートの概略を図1に示す。図1において、1がバッキング材で、該バッキング材1上に上記の着色合成樹脂製粒子10による微小なモザイク状の模様からなる装飾層2が形成されており、該装飾層2のモザイク状模様を構成している着色合成樹脂製粒子10間からバッキング材1の合成樹脂層5の合成樹脂が露出している。」
カ 上記オの表1の組成から、装飾層を構成する着色合成樹脂粒子は、ポリ塩化ビニル樹脂を主成分とする粒子であることが理解できる。また、表2の組成から、塩化ビニルペーストは、架橋剤を含まないことが理解できる。
キ 上記ア~カからみて、甲第6号証には以下の技術事項(以下「甲6技術事項」という。)が記載されていると認められる。
「床材等の表面材として使用される装飾シートにおけるバッキング材の製造方法であって、前記装飾シートは、バッキング材の上にポリ塩化ビニル樹脂を主成分とする着色合成樹脂性粒子による装飾層が形成されるものであり、前記バッキング材を、ガラス繊維,パルプ等の1種又は2種以上からなるガラス繊維混抄不織布に、架橋剤を含まない塩化ビニルペーストを500g/m2の量で塗布含浸させて製造する方法。」
3 当審の判断
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と甲3発明とを対比する。
(ア)甲3発明における「ガラス繊維不織布」と、本件訂正発明1における「複数のガラス繊維及び天然繊維を含むガラスシート」とは、「複数のガラス繊維を含むガラスシート」である点で共通する。
(イ)甲3発明における「架橋剤を含まないPVCペーストをコーター4によりガラス繊維不織布に塗布量300g/m2で塗布処理して架橋剤を含まないPVCペースト含浸ガラスシートを得」るためには、「ガラス繊維不織布」を準備していることは明らかである。
そうすると、甲3発明において、前記「ガラス繊維不織布」を準備することと、本件訂正発明1における「複数のガラス繊維及び天然繊維を含むガラスシートを準備する工程」とは、「複数のガラス繊維を含むガラスシートを準備する工程」である点で共通する。
(ウ)本件訂正発明1における「接合樹脂」は、上記第2の2(1)イ(オ)に摘記した明細書【0055】の記載のように「接合樹脂5としては、繊維41、上側樹脂層2及び下側樹脂層3の何れにも接合するものであれば特に限定され」ないものである。
そして、甲3発明における「架橋剤を含まないPVCペースト」は、ガラスシートに付着された樹脂であり、PVCサスペンジョンレジンを含む組成よりなるポリ塩化ビニルシート1及び2が積層されて加熱加圧される樹脂であって、前記ガラス繊維不織布、ポリ塩化ビニルシート1及び2に接合する樹脂であることは明らかであるから、本件訂正発明1における「ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない接合樹脂」に相当する。
(エ)甲3発明における「架橋剤を含まないPVCペーストをコーター4によりガラス繊維不織布に塗布量300g/m2で塗布処理して架橋剤を含まないPVCペースト含浸ガラスシートを得」ることと、
本件訂正発明1における「前記ガラスシートに、ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない接合樹脂を付着させることにより、前記接合樹脂の目付量が320g/m2以上であり、前記接合樹脂が、前記ガラスシートの内部に含浸されていると共に、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成している、樹脂付きガラスシートを準備する工程」とは、
「前記ガラスシートに、ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない接合樹脂を付着させることにより、前記接合樹脂の目付量が所定量であり、前記接合樹脂が、前記ガラスシートの内部に含浸されている、樹脂付きガラスシートを準備する工程」である点で共通する。
(オ)甲3発明における「当該ポリ塩化ビニルシート1及び2」は、本件訂正発明1における「塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする上側樹脂層」及び「塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする下側樹脂層」に相当する。
(カ)甲3発明における「当該ポリ塩化ビニルシート1及び2の中間に前記架橋剤を含まないPVCペースト含浸ガラスシートを挾み込んだ後、ラミネータ7、8へと送られて加熱加圧して製品とする」ことは、
本件訂正発明1における「前記樹脂付きガラスシートの上面に塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする上側樹脂層を積層し、前記樹脂付きガラスシートの下面に塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする下側樹脂層を積層し、加熱加圧して上側樹脂層、ガラスシート及び下側樹脂層を一体化する工程」に相当する。
(キ)甲3発明における「塩化ビニル系樹脂床材の製造方法」は、本件訂正発明1における「床材の製造方法」に相当する。
(ク)そうすると、本件訂正発明1と甲3発明は、以下の点で一致点と相違点を有する。
(一致点)
「複数のガラス繊維を含むガラスシートを準備する工程、
前記ガラスシートに、ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない接合樹脂を付着させることにより、前記接合樹脂の目付量が所定量であり、前記接合樹脂が、前記ガラスシートの内部に含浸されている、樹脂付きガラスシートを準備する工程、
前記樹脂付きガラスシートの上面に塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする上側樹脂層を積層し、前記樹脂付きガラスシートの下面に塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする下側樹脂層を積層し、加熱加圧して上側樹脂層、ガラスシート及び下側樹脂層を一体化する工程、を有する床材の製造方法。」
・相違点1
ガラスシートが、本件訂正発明1においては、ガラス繊維とともに天然繊維を含むのに対して、甲3発明においては、そのようなことは特定されていない点。
・相違点2
本件訂正発明1においては、「ガラスシート」に付着させた「接合樹脂」の目付量が「320g/m2以上」であるのに対して、甲3発明においては、「ガラス繊維不織布」に塗布された「架橋剤を含まないPVCペースト」の目付量が「300g/m2」である点。
・相違点3
本件訂正発明1においては、「ガラスシート」に付着させた「前記接合樹脂」が、「前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成している」のに対し、甲3発明においては、「ガラス繊維不織布」に塗布された「架橋剤を含まないPVCペースト」について、そのようなことは特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑み、まず上記相違点3について検討する。
甲3発明においては、床材において、ガラス繊維不織布に塗布された架橋剤を含まないPVCペーストが、前記ガラス繊維不織布の上側において前記ガラス繊維不織布の上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラス繊維不織布の下側において前記ガラス繊維不織布を構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラス繊維不織布の下側において不連続な層を成していることは開示されておらず、示唆もされていない。
また、甲第1号証、甲第2号証、甲第6号証にも、ガラスシートに付着させた接合樹脂が、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成すようにすることは記載も示唆もされていない。
他に、甲3発明におけるガラス繊維不織布に付着させた架橋剤を含まないPVCペーストを、前記ガラス繊維不織布の上側において前記ガラス繊維不織布の上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラス繊維不織布の下側において前記ガラス繊維不織布を構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラス繊維不織布の下側において不連続な層を成しているようにすることを示唆する証拠はない。
そうすると、甲3発明におけるガラス繊維不織布に付着させた接合樹脂が、前記ガラス繊維不織布の上側において前記ガラス繊維不織布の上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラス繊維不織布の下側において前記ガラス繊維不織布を構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラス繊維不織布の下側において不連続な層を成すようにすることに動機づけがあるとはいえないから、当業者であっても容易に想到し得たことであるということはできない。
他に、本件訂正発明1が、甲3発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認めるべき特段の事情もない。
以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲3発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
(2)本件訂正発明2ないし4について
本件訂正発明2ないし4は、本件訂正発明1の全ての発明特定事項を含み、さらに限定する事項を含むものであるから、本件訂正発明1と同じ理由により、甲3発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
(3)本件訂正発明5について
ア 対比
本件訂正発明5と甲3物発明を対比する。
上記(1)ア(ア)~(キ)における本件訂正発明1と甲3発明との対比を踏まえると、本件訂正発明5と甲3物発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
・一致点
「塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする上側樹脂層と、塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする下側樹脂層と、前記上側樹脂層と下側樹脂層の間に積層されたガラスシートであって、複数のガラス繊維を含むガラスシートと、を有し、
前記ガラスシートに、ペースト塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂として含み且つ架橋剤を含まない接合樹脂が目付量320g/m2以上で付着されており、
前記接合樹脂が、前記ガラスシートの内部に含浸されており、
前記上側樹脂層及び下側樹脂層が、前記接合樹脂を介して接合されている、床材。」
・相違点A
ガラスシートが、本件訂正発明5においては、ガラス繊維とともに天然繊維を含むのに対して、甲3物発明においては、そのようなことは特定されていない点。
・相違点B
本件訂正発明5においては、「ガラスシート」に付着させた「接合樹脂」の目付量が「320g/m2以上」であるのに対して、甲3物発明においては、「ガラス繊維不織布」に塗布された「架橋剤を含まないPVCペースト」の目付量が「300g/m2」である点。
・相違点C
本件訂正発明5においては「ガラスシート」に付着させた「前記接合樹脂」が、「前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成して」いるのに対し、甲3物発明においては、「ガラス繊維不織布」に塗布された「架橋剤を含まないPVCペースト」について、そのようなことは特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑み、まず上記相違点Cについて検討する。
相違点Cは、上記相違点3と同様の相違点であり、相違点3については、上記(1)イに示したとおりである。
そうすると、甲3物発明におけるガラスシートに付着させた接合樹脂が、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成しているようにすることに動機づけがあるとはいえないから、当業者であっても容易に想到し得たことであるということはできない。
他に、本件訂正発明5が、甲3物発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認めるべき特段の事情もない。
以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明5は、甲3物発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
(4)特許異議申立人の意見について
ア 特許異議申立人は、令和2年2月27日付け意見書において、「そして、相違点4(当審注:本決定における相違点3)については、ガラスシートの片面(上面)に接合樹脂を付着させる場合の一態様を発明特定事項として鋺曲に規定しているに過ぎず、何ら特別な技術的事項を規定するものではない。即ち、接合樹脂をガラスシートの片面に塗工する片面塗工の場合、当該片面では接合樹脂の連続層が形成されるが、ガラスシートを含浸して反対側の面に漏れ出た接合樹脂が不連続層を形成し得ることは、当業者にとっては明らかなことであり、かかる片面塗工は、そもそも甲第3号証(特開平05-163824号公報。請求項1等)、甲第5号証(特開昭61-152452号公報。第4頁右上欄8行目以下、及び図1からみて、被膜被覆が付されたのは基布上面であると見受けられる。)等に開示されており、本件発明の属する技術分野における周知技術に過ぎない。」、及び、「相違点4については、上記したとおりであるが、単に片面(上面)に接合樹脂を付着させる片面塗工の一態様を、鹿爪らしく「連続」や「不連続(片面に塗工すれば接合樹脂がガラスシートに含浸して反対面にも漏れ出るというに過ぎない。)」等の用語を用いて殊更に鋺曲に表現して規定しているに過ぎない。当該用語によって特定された態様は特段の技術的意義を有さず、また、当該片面塗工は、甲第3号証等に開示されているように、当該技術分野における周知の事項である。加えて、当該事項による具体的な作用効果も明らかではない。」との意見を述べている(意見書第1頁下から2行~第2頁第8行、第3頁下から2行~第4頁第4行)。
イ 上記特許異議申立人の意見について検討する。
(ア)甲第3号証には、下記の記載がある。
「【請求項1】 塩化ビニル系樹脂シートの少なくとも片面に、ガラス繊維層を含む架橋塩化ビニル系樹脂層を有することを特徴とする床材。」
(イ)甲第5号証には、下記の記載がある。
「コロナ放電処理された基布は、次いで、その片面又は両表面に対する高分子重合体の被膜被覆に付される。」
(ウ)しかしながら、甲第3号証及び甲第5号証には、ガラス繊維の片面に樹脂を付着させることが記載されているものの、他の面の接合樹脂については記載も示唆もされておらず、甲第3号証及び甲第5号証の記載を参酌しても、片面に樹脂を付着させる片面塗工であれば、樹脂付きガラスシートのガラスシートに付着させた接合樹脂が、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成すということが開示または示唆されていると解することはできない。
オ 以上のようであるから、特許異議申立人の上記意見は採用できない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1ないし5について、概略、以下の申立理由があることを主張している。(特許異議申立書第9頁第3行~第10頁21行、第25頁13行~第27頁第7行参照)
(1)特許法第29条第1項第3号について
ア 訂正前の請求項1及び5に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明と同一である。
イ 訂正前の請求項2及び4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一である。
(2)特許法第29条第2項について
ア 訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。また、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明と周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 訂正前の請求項2ないし4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。又は、甲第1号証に記載された発明と周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ 訂正前の請求項5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。また、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明と周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。また、甲第3号証に記載された発明又は甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。また、甲第3号証に記載された発明又は甲第4号証に記載された発明と周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)特許法第36条第6項第2号について
請求項1ないし5における「塩化ビニル系樹脂を主成分樹脂とする」及び「接合樹脂」が如何なる物を意味するのが明らかでなく、したがって、請求項1ないし5に係る発明は不明確である。
(4)特許法第36条第6項第1号について
請求項1ないし5について、本件特許発明1は、接合樹脂の目付量に上限を規定しておらず、また、実施例8(目付量950g/m2)及び実施例9(目付量1100g/m2)では層間強度の評価が行われていないから、目付量が何処まで増大した場合にも本件特許発明の作用効果が得られるのかが明らかではなく、本件特許発明1ないし5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
2.証拠
本件特許異議申立において提出された証拠は、以下のとおりである。
甲第1号証 :実願昭54-011321号(実開昭55-110234号 )のマイクロフィルム
甲第2号証 :特開昭58-197382号公報
甲第3号証 :特開平05-163824号公報
甲第4号証 :特表2014-529021号公報
甲第5号証 :特開昭61-152452号公報
甲第6号証 :特開平04-232742号公報
甲第7号証 :特開平07-026041号公報
3 上記申立理由について
請求項1ないし5は、令和2年1月17日付け訂正請求書による訂正の請求により訂正されており、本件訂正発明1ないし5は、上記第3に示したとおりである。
(1)上記1(1)について
ア 甲第1号証及び甲第2号証には、床材において、ガラスシートに付着させた接合樹脂が、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成していることは記載も示唆もされていない。
イ よって、本件訂正発明1及び5は、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明ではない。
ウ また、本件訂正発明2及び4は、甲第1号証に記載された発明ではない。
(2)上記1(2)について
ア 甲第1号証~甲第7号証のいずれにも、床材において、ガラスシートに付着させた接合樹脂が、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成しているようにすることは記載も示唆もされていない。
イ よって、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。また、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明と周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ また、本件訂正発明2ないし4は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。又は、甲第1号証に記載された発明と周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ また、本件訂正発明5は、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。また、甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明と周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。また、甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。また、甲第4号証に記載された発明と周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(なお、本件訂正発明5について、甲第3号証に記載された発明又は甲第3号証に記載された発明と周知慣用技術に基づく容易想到についての判断は上記第4の3(3)イに示したとおりである。)
(3)上記1(3)について
特許異議申立人は特許異議申立書において「本件特許発明1における「接合樹脂」は、「塩化ビニル系樹脂を主成分とする」ところ、本件特許明細書に記載の「バインダー」と区別できず、「接合樹脂」が如何なる物を意味するのか明らかでない。」との意見を述べている(特許異議申立書第24頁第2~21行)。
しかしながら、本件訂正発明1ないし5においては「接合樹脂」と「バインダー」の関係を規定するものではなく、ガラスシートに付着された「接合樹脂」について「接合樹脂の目付量が320g/m2以上」であり、「前記ガラスシートの内部に含浸されていると共に、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成している」ことを規定しているのであって、「接合樹脂」自体についての発明特定事項が不明確であるとはいえないから、特許異議申立人が主張する上記意見は採用できない。
(4)上記1(4)について
特許異議申立人は特許異議申立書において、「本件特許発明1は、接合樹脂の目付量に上限を規定しておらず、また、本件特許明細書の【0008】によれば、本件特許発明の効果は、「ガラスシートと上側樹脂層及び下側樹脂層とを容易に接合させ、層間強度に優れた床材を得ることができる」点にあるところ、実施例8(目付量950g/m2)及び実施例9(目付量1100g/m2)では層間強度の評価が行われていないから、目付量が何処まで増大した場合にも本件特許発明の作用効果が得られるのかが明らかでない。」との意見を述べている(特許異議申立書第25頁第2~8行)。
本件訂正発明1ないし5は、本件特許明細書の【0002】にあるように「樹脂層とガラス繊維を含むガラスシートは、接合し難いので、樹脂層とガラスシートの層間で剥離しないようにする必要がある。」ことを背景とし、発明が解決しようとする課題は、【0004】の記載のように、「ガラスシートに上側樹脂層及び下側樹脂層を容易に接合し得る床材の製造方法及び床材を提供すること」である。
そして、本件訂正発明1ないし5において、ガラスシートに付着された「接合樹脂」については、「接合樹脂の目付量が320g/m2以上」であることのみを特定しているものではなく、さらに、「前記接合樹脂が、前記ガラスシートの内部に含浸されていると共に、前記ガラスシートの上側において前記ガラスシートの上面にほぼ沿って連続して層を成し、且つ、前記ガラスシートの下側において前記ガラスシートを構成する繊維が露出した部分を有しつつ前記ガラスシートの下側において不連続な層を成している」ことも特定しているのであり、当業者であれば、本件訂正発明1ないし5により上記課題を解決できると理解することができる。
そうすると、接合樹脂の目付量に上限を規定していない点のみをもって、本件特許発明の作用効果が得られるのかが明らかでないとする特許異議申立人が主張する上記意見は採用できない。
また、本件特許明細書の【0109】には「各実施例及び比較例の床材について、上側樹脂層とガラスシートとの間の層間剥離強度を測定したところ、表1に示す通りであった。ただし、実施例8及び9並びに比較例4については、層完強度の結果が予測できるため、実際の測定は行わなかった。」と記載されており、実施例8及び実施例9については、実施例1ないし7の層間強度の傾向から結果が予測できるので測定するまでもないと判断したものと解するのが自然である。
そうすると、実施例8及び実施例9の層間強度について記載されていないことのみをもって、本件特許発明の作用効果が得られるのかが明らかでないとする特許異議申立人が主張する上記意見は採用できない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2019-700359