特許異議申立
2019-700203
スルフィド化剤およびポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法
- 審判番号
- 2019-700203
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-101412
- 登録番号
- 特許第6402971号(P6402971)
- 請求日
- 2019年03月13日
- 審決日
- 2019年06月27日
- 公報発行日
- 2019年08月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】DIC株式会社
- 【権利者代理人】小川 眞治
- 【権利者代理人】岩本 明洋
- 【権利者代理人】大野 孝幸
- 【異議申立人】山田 宏基
- 審判長/審判官
- 審判長 佐藤 健史
- 審判官 橋本 栄和
- 審判官 井上 猛
- 分類
- P1652.121-Y (C08G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6402971号発明「スルフィド化剤およびポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6402971号の請求項1ないし3、5及び7に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第6402971号に係る出願(特願2014-101412号、以下「本願」という。)は、平成26年5月15日に出願人DIC株式会社(以下「特許権者」ということがある。)によりされた特許出願であり、平成30年9月21日に特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、特許掲載公報が平成30年10月10日に発行されたものである。
2.本件異議申立の趣旨
本件特許につき平成31年3月13日に特許異議申立人山田宏基(以下「申立人」という。)により、「特許第6402971号の特許請求の範囲の請求項1ないし3、5及び7に記載された発明についての特許を取消すべきである。」という趣旨の本件特許異議の申立てがされた。
(よって、本件特許の特許請求の範囲の請求項4及び6に記載された発明についての特許は、本件特許異議の申立ての審理の対象外である。)
第2 本件特許の特許請求の範囲に記載された事項
本件特許の特許請求の範囲には、以下のとおりの請求項1ないし7が記載されている。
「【請求項1】
少なくとも、ポリアリーレンスルフィド樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物およびスルフィド化剤を含む混合物(a)と水とを接触させた後、ポリアリーレンスルフィド樹脂を分離、除去して、少なくとも、アルカリ金属ハロゲン化物およびスルフィド化剤を含む水溶液(b)を得る工程(1)、
少なくとも、アルカリ金属ハロゲン化物およびスルフィド化剤を含む水溶液(b)に酸を加えて、硫化水素を生成させる工程(2)、
生成した硫化水素を回収する工程(3)、および、
得られた硫化水素とアルカリ金属水酸化物とを反応させる工程(4)、
を有すること、
スルフィド化剤が、アルカリ金属硫化物およびアルカリ金属水硫化物からなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする、スルフィド化剤の製造方法。
【請求項2】
少なくとも、ポリアリーレンスルフィド樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物およびスルフィド化剤を含む混合物(a)は、
非プロトン性極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、スルフィド化剤とを反応させた後に得られる、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物、前記非プロトン性極性溶媒およびスルフィド化剤を含む粗反応混合物であるか、または当該粗反応混合物から前記非プロトン性極性溶媒を固液分離させて得られた反応混合物である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
非プロトン性極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、スルフィド化剤とを反応させる際に用いる前記スルフィド化剤は、少なくとも非プロトン性極性溶媒の存在下で、含水スルフィド化剤を脱水する脱水工程を経て得られたものである、請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
得られた硫化水素とアルカリ金属水酸化物とを反応させる工程(4)の後に、未反応のアルカリ金属水酸化物に対して、硫化水素を加えて、該硫化水素と未反応のアルカリ金属水酸化物とを反応させる工程(5)を有する、請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
前記請求項3に記載の脱水工程において生成した硫化水素を回収した後、アルカリ金属水酸化物と反応させてスルフィド化剤を得る工程、を有することを特徴とするスルフィド化剤の製造方法。
【請求項6】
アルカリ金属水酸化物と反応させてアルカリ金属水硫化物及び/又はアルカリ金属硫化物を得る工程の後に、未反応のアルカリ金属水酸化物に対して、硫化水素を加えて、該硫化水素と未反応のアルカリ金属水酸化物とを反応させる工程を有する、請求項5記載のスルフィド化剤の製造方法。
【請求項7】
有機アミド溶媒の存在下で含水スルフィド化剤を脱水して得られたスルフィド化剤を、有機アミド溶媒の存在下でポリハロ芳香族化合物と反応させてポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法において、含水スルフィド化剤またはスルフィド化剤の少なくとも一部として前記請求項1~4の何れか一項記載の製造方法により得られたスルフィド化剤および/または前記請求項5または6の製造方法により得られたスルフィド化剤を加える工程を有することを特徴とする、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。」
(以下、上記請求項1に記載された事項で特定される発明を「本件発明」という。)
第3 申立人が主張する取消理由
申立人は、同人が提出した本件異議申立書(以下、「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第3号証を提示し、申立書における申立人の取消理由に係る主張を当審で整理すると、概略、以下の取消理由が存するとしているものと認められる。
取消理由:本件特許の請求項1ないし3、5及び7に係る発明は、いずれも、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明並びに更に甲第3号証に記載された事項を組み合わせることによって、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
・申立人提示の甲号証
甲第1号証:特表2013-540703号公報
甲第2号証:特開平11-169870号公報
甲第3号証:特開平2-160833号公報
(以下、それぞれ「甲1」ないし「甲3」と略していう。)
第4 当審の判断
当審は、
申立人が主張する上記取消理由については理由がなく、ほかに各特許を取り消すべき理由も発見できないから、本件の請求項1ないし3、5及び7に係る発明についての特許はいずれも維持すべきもの、
と判断する。以下、詳述する。
1.各甲号証の記載事項及び記載された発明
上記取消理由は、本件特許が特許法第29条に違反してされたものであることに基づくものであるから、当該理由につき検討するにあたり、申立人が提示した甲1ないし甲3に記載された事項の摘示及び当該事項に基づく各甲号証に係る引用発明の認定を行う。(なお、下線は当審が付したものである。)
(1)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
ア.甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
(a1)
「【請求項1】
含水溶媒を用いて、二硫化ナトリウムとクロロシクロヘキサンを反応させて、ジシクロヘキシルジスルフィドを合成する製造方法であって、副生する塩化ナトリウムを含む反応混合物の少なくとも一部を酸性にした後、中和することにより塩化ナトリウムを回収するジシクロヘキシルジスルフィドの製造方法。
【請求項2】
副生する塩化ナトリウムを含む反応混合物の少なくとも一部が、固体成分および/または液体成分である請求項1に記載のジシクロヘキシルジスルフィドの製造方法。
【請求項3】
塩化ナトリウムを含む固体成分を、反応混合物から取り出し、次に水を加えて水溶液にする請求項2に記載のジシクロヘキシルジスルフィドの製造方法。
【請求項4】
塩化ナトリウムを含む固体成分を、反応混合物から取り出し、次に濾液からジシクロヘキシルジスルフィドを含む油層を分離し、残留している塩化ナトリウムを含む水層を、二硫化ナトリウムとクロロシクロヘキサンの反応に再利用する請求項3に記載のジシクロヘキシルジスルフィドの製造方法。
【請求項5】
副生した塩化ナトリウムを含む反応混合物の少なくとも一部を酸性にすることにより、硫化水素を含むガスを放出させ、放出された硫化水素を含むガスを、水酸化ナトリウム水溶液で吸収して、硫化ナトリウム水溶液にして回収する請求項1に記載のジシクロヘキシルジスルフィドの製造方法。
【請求項6】
含水溶媒が含水メタノールまたは含水エタノールである請求項1に記載のジシクロヘキシルジスルフィドの製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法で製造したジシクロヘキシルジスルフィドを原料とするN-(シクロヘキシルチオ)フタルイミドの製造方法。
【請求項8】
含水溶媒を用いて行った二硫化ナトリウムとクロロシクロヘキサンの反応で生成した塩化ナトリウムを含む反応混合物の少なくとも一部を酸性にした後、中和することにより塩化ナトリウムを回収する塩化ナトリウムの製造方法。
【請求項9】
副生する塩化ナトリウムを含む反応混合物の少なくとも一部が、固体成分および/または液体成分である請求項8に記載の塩化ナトリウムの製造方法。
【請求項10】
塩化ナトリウムを含む固体成分を、反応混合物から取り出し、次に水を加えて水溶液にする請求項9に記載の塩化ナトリウムの製造方法。
【請求項11】
副生する塩化ナトリウムを含む反応混合物の少なくとも一部を酸性にすることにより、硫化水素を含むガスを放出させ、放出された硫化水素を含むガスを、水酸化ナトリウム水溶液で吸収させて、硫化ナトリウム水溶液として回収する請求項8に記載の塩化ナトリウムの製造方法。
【請求項12】
含水溶媒が含水メタノールまたは含水エタノールである請求項8に記載の塩化ナトリウムの製造方法。
【請求項13】
請求項8に記載の塩化ナトリウムの製造方法で回収した塩化ナトリウムを、陽イオン交換樹脂の再生剤として用いる塩化ナトリウムの使用法。」
(a2)
「【0001】
本発明は、タイヤのゴム加硫遅延剤用の原料等として有用なジシクロヘキシルジスルフィド、及び工業用の塩化ナトリウムの製造方法に関するものである。」
(a3)
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、環境に対して悪影響を全く与えず、かつ資源を有効に利用できる工業的に有利なジシクロヘキシルジスルフィドおよび塩化ナトリウムの製造方法を提供することにある。」
(a4)
「【0009】
本発明は、含水溶媒を用いて二硫化ナトリウムとクロロシクロヘキサンを反応させて、ジシクロヘキシルジスルフィドを合成する方法において、副生する塩化ナトリウムを含む反応混合物の少なくとも一部を酸性にした後、中和することにより塩化ナトリウムを回収するジシクロヘキシルジスルフィドの製造方法である。」
(a5)
「【0016】
本発明で使用する二硫化ナトリウムの合成法には、例えば以下の方法が挙げられる。すなわち、含水溶媒中で硫化ナトリウムと硫黄を反応させる方法である。硫化ナトリウムと硫黄の反応は定量的に進行するので、硫黄の使用量は通常、硫化ナトリウムに対して0.5~1.5モル倍である。好ましくは0.8~1.2モル倍である。」
(a6)
「【0023】
本発明では、原料のクロロシクロヘキサン、硫化ナトリウム、二硫化ナトリウム由来の硫化ナトリウム等が、反応せずに一部残留する場合がある。このような場合、反応混合物は分離して、ジシクロヘキシルジスルフィド、クロロシクロヘキサン等を含む油層と、塩化ナトリウム、硫化ナトリウム等を含む水層となる。
【0024】
すなわち、本発明は、含水溶媒を用いて二硫化ナトリウムとクロロシクロヘキサンを反応させて、ジシクロヘキシルジスルフィドを合成する方法において、副生する塩化ナトリウムを含む反応混合物の少なくとも一部を酸性にした後、中和することにより塩化ナトリウムを回収するジシクロヘキシルジスルフィドの製造方法である。」
(a7)
「【0031】
本発明では、副生する塩化ナトリウムを含む反応混合物の少なくとも一部を酸性にする。固体成分を酸性にするには、固体成分に水を加えるのが好ましい。さらに好ましくは、固体成分を水に完全に溶かして水溶液にすることである。本発明では、塩化ナトリウムを含む固体成分を反応混合物から取り出して、その後水を加えて水溶液とするのがさらに好ましい。本発明では、好ましくは、生成した塩化ナトリウムを含む反応混合物の少なくとも一部を酸性にして、特に環境に悪影響を与える硫化ナトリウム類を取り除き、精製された塩化ナトリウムを回収する。本発明で、さらに好ましくは、精製した塩化ナトリウム水溶液として塩化ナトリウムを回収する。」
(a8)
「【0035】
本発明では、塩化ナトリウムを含む反応混合物の少なくとも一部を酸性にすることで、好ましくは、反応混合物中に共存する硫化ナトリウム類を、硫化水素を含むガスとして放出させ、水酸化ナトリウム水溶液に吸収させて回収することができる。硫化水素を含むガスを放出させるには、反応混合物の一部に酸を加えてもよく、酸に反応混合物の一部を加えてもよい。本発明では、好ましくは、反応混合物に酸を加える。吸収に用いる水酸化ナトリウム水溶液の水酸化ナトリウムの量は、含まれる硫化ナトリウムまたは硫化水素の1モル倍以上が好ましく、2モル倍以上がより好ましい。ガスの吸収装置には、液滴式、気泡式、液膜式等があるが、特に制限はない。実験室ではガスの吸収装置としてはガス洗浄瓶の使用が好ましい。確実に吸収するために、ガスの吸収装置は複数の装置を使用する。水酸化ナトリウム水溶液中に回収した硫化ナトリウムは、工業的に有効に使用できる。水酸化ナトリウム水溶液中に回収した硫化ナトリウムは、本発明のジシクロヘキシルジスルフィドと塩化ナトリウムの製造方法で使用するのが好ましい。」
(a9)
「【0044】
実施例1
(含水メタノール溶媒での反応)
オートクレーブに、60重量%硫化ナトリウム140g(結晶水56.0g、硫化ナトリウム量84.0g、1.08モル(分子量78.1))、硫黄31.4g(0.978モル(原子量32.1))、水酸化ナトリウム12.1g(0.303モル(分子量40.0))、メタノール80.0g、および水130gを仕込み、65℃で0.5時間加熱し、二硫化ナトリウムを調製した。冷却後、オートクレーブを開放し、95重量%クロロシクロヘキサン190g(クロロシクロヘキサン量181g、1.53モル(分子量118.6))を仕込み(合計584g)、100℃、ゲージ圧力200kPaで8時間加熱して、初回の反応を実施した。冷却後、初回反応混合物から、副生した塩化ナトリウムを含む固体成分を濾過して取り出した。こうして、110gの固体成分が得られた。濾液は440gであった。固体成分には、78.0gの塩化ナトリウム(1.33モル(分子量58.44))が含まれていた。固体成分には副生した塩化ナトリウムを含む液体成分が付着していた。
【0045】
その後、濾液を分液すると、残留した塩化ナトリウムを含む初回反応の水層280gと油層160gになった。水層は硫黄化合物の悪臭がひどく、真っ黒で、環境負荷が大きな液体であった。油層にガスクロマトグラフィー分析を実施した。油層のジシクロヘキシルジスルフィドの濃度は84.4重量%(ジシクロヘキシルジスルフィド量135g、0.586モル(分子量230.4)、反応収率76.6%)であった。
【0046】
再利用(第二回目の反応)を行うために、初回反応の水層280gをオートクレーブに入れ、60重量%硫化ナトリウム95g(結晶水38g、硫化ナトリウム量57g、0.730モル)、硫黄20.6g(0.643モル)、水酸化ナトリウム5.5g(0.14モル)、メタノール7.0g、および水6.0gを仕込み、65℃で0.5時間加熱して二硫化ナトリウムを調製した。冷却後、オートクレーブを開放し、95重量%クロロシクロヘキサン190g(クロロシクロヘキサン量181g、1.53モル)を仕込み(合計604g)、100℃、ゲージ圧力200kPaで8時間加熱し、第二回反応を実施した。冷却後、第二回反応混合物から、副生した塩化ナトリウムを含む固体成分を濾過して取り出して、120gの固体成分を得た。濾液は460gであった。固体成分には、塩化ナトリウム80.0g(1.37モル)が含まれていた。固体成分には、副生した塩化ナトリウムを含む液体成分が付着していた。
【0047】
それから濾液を分液して、第二回反応の水層300gと油層160gを得た。水層は硫黄化合物の悪臭がひどく、真っ黒で、河川の汚染など環境に悪影響を及ぼすと思われる液体であった。油層にはガスクロマトグラフィー分析を実施した。油層のジシクロヘキシルジスルフィドの濃度は83.1重量%(ジシクロヘキシルジスルフィド133g、0.577モル、反応収率75.5%)であった。
【0048】
このように、環境に悪影響を与える初回反応の水層を、全く廃棄せずに、問題なく第二回反応(再反応)に有効に利用することができた。
【0049】
引き続き、300gの第二回反応の水層を、上記と同様に、第三回目の反応に用いて、環境負荷が大きい第二回反応の水層を全く廃棄せずに第三回反応(再反応)に有効に利用することができる。
・・(中略)・・
【0051】
(固体成分の処理)
初回反応と第二回反応において副生した固体成分を混合した。そこから175g(塩化ナトリウム量120g、2.06モル;硫化ナトリウム量8.6g、0.11モル)を取り出して、300mlの水で溶解すると黒緑色の塩化ナトリウム水溶液となって、硫黄化合物の悪臭がした。この溶液に30重量%塩酸30ml(35g、塩化水素量10.4g、0.28モル(分子量36.46))を撹拌しながら加えて、液体の温度が20℃から50℃まで上がり、pH値を4にした。同時に放出された硫化水素ガスを30重量%水酸化ナトリウム水溶液160ml(214g、水酸化ナトリウム量64g、1.6モル)を入れたガス洗浄瓶に導入して吸収させ、500gの粗製塩化ナトリウム水溶液が残った。
【0052】
一方、このようにして塩酸を加えて酸性にした500gの粗製塩化ナトリウム水溶液に、30重量%の水酸化ナトリウム水溶液6.0ml(8.0g;水酸化ナトリウム量2.4g、0.06モル)を加えて中和し、液体温度50℃で、pH値を7にした。その後、30%の過酸化水素水5.0g(過酸化水素量1.5g、0.044モル(分子量34.0))を加え、80℃で0.5時間加熱した。0.5時間、同温度下で水溶液の底部から空気をバブリングして臭気を除いた。その後、液体の温度を50℃に冷却し、濾紙で不溶物を濾過した。こうして無色透明な26重量%精製塩化ナトリウム水溶液510g(比重1.2)が得られた。精製塩化ナトリウム水溶液中には、塩化ナトリウム137g(2.34モル)、硫酸ナトリウム1.5g(分子量142.1)が含まれていた。」
(a10)
「【0055】
実施例2
(液体成分の処理)
実施例1に記載した含水メタノール溶媒の反応で、初回反応で得られた固体成分を反応混合物から取り出して、濾液を分液した。残留した塩化ナトリウムを含む初回反応の水層280gから48g(メタノール量13g、塩化ナトリウム量2.0g、0.034モル;硫化ナトリウム量4.8g、0.062モル)を取った。初回反応の水層は黒緑色、硫黄化合物の悪臭がある液体であった。
【0056】
48gの初回反応の水層に、30重量%塩酸16ml(19g、塩化水素量5.6g、0.154モル)を、撹拌しながら加えた。水層の温度は20℃から40℃に上がり、水層のpH値は2になった。30重量%塩酸を加えることで、放出された硫化水素のガス2.1g(0.062モル(分子量は34.1))を、30重量%水酸化ナトリウム水溶液36g、(水酸化ナトリウム量10.8g、0.270モル)に導入して吸収させ、硫化ナトリウムを得た。水層として、粗製塩化ナトリウム水溶液67g(メタノール量13g、塩化ナトリウム量9.2g、0.158モル)が残った。
【0057】
その後、この粗製塩化ナトリウム水溶液に、30重量%の水酸化ナトリウム水溶液4.0g(水酸化ナトリウム量1.2g、0.030モル)を加えて中和し、pH値を7にした。粗製塩化ナトリウム水溶液の温度は30℃であった。次に、30%過酸化水素水2.7g(過酸化水素量0.81g、0.024モル)を加えて、80℃で0.5時間加熱した。0.5時間、80℃で水溶液の底部から空気をバブリングし、臭気とメタノールを除去した。そして、液体の温度を50℃に冷却し、濾紙で不溶物を濾過した。こうして58gの無色透明な19重量%精製塩化ナトリウム水溶液(比重1.2)が得られた。精製された塩化ナトリウム水溶液には、塩化ナトリウム11g、硫酸ナトリウム0.3gが含まれていた。この精製塩化ナトリウム水溶液は、実施例1と同様に陽イオン交換樹脂の再生に使うことができた。」
(a11)
「【0069】
実施例5
(回収した硫化ナトリウムを利用した反応)
実施例1の固体成分の処理と同様に、固体成分を水に溶かして、pH4の酸性に調節し、放出される硫化水素ガスを、30重量%水酸化ナトリウム水溶液を入れたガス洗浄瓶へ導入し吸収させた。固体成分を水に溶かして、pH4の酸性に調節し、放出される硫化水素ガスを、30重量%水酸化ナトリウム水溶液を入れたガス洗浄瓶へ導入し吸収させる工程をガスが吸収されにくくなるまで繰り返して、27重量%硫化ナトリウム水溶液を得た。
【0070】
27重量%硫化ナトリウム水溶液311g(水量227g、硫化ナトリウム量84.0g、1.08モル)を用いて、硫化ナトリウムと水を仕込まずに(合計625g)、実施例1と同様に反応を行った。100gの固体成分を得た。濾液は500gであった。固体成分には塩化ナトリウムが76.0g(1.30モル)含まれていた。固体成分には、副生された塩化ナトリウムを含む液体成分が付着していた。
【0071】
次に、濾液を分液した。残留した塩化ナトリウムを含む初回反応の水層342gと油層158gを得た。水層は硫黄化合物の悪臭がひどく、真っ黒で環境負荷が大きな液体であった。油層にはガスクロマトグラフィー分析を実施した。油層のジシクロヘキシルジスルフィドの濃度は83.5重量%(ジシクロヘキシルジスルフィド量は132g、0.573モル、反応収率は74.9%)であった。」
イ.甲1に記載された発明
甲1には、上記(a1)ないし(a11)の記載事項(特に、摘示(a1)、摘示(a9)、摘示(a10)及び摘示(a11)の下線部の記載事項)からみて、
「硫化ナトリウム、硫黄及び水酸化ナトリウムをメタノール及び水を含有する含水溶媒中で反応させて二硫化ナトリウムを調製した後、該二硫化ナトリウムとクロロシクロヘキサンを含水溶媒を用いて反応させて、ジシクロヘキシルジスルフィドを合成する製造方法であって、
(a)反応後の反応混合物から副生する塩化ナトリウムを含む固体成分を取り出し、水に溶解した水溶液、
又は
(b)反応後の反応混合物を濾過して得た濾液を更に分液して得られる残留した塩化ナトリウムを含む水層、
を酸性にすることにより、硫化水素を含むガスを放出させ、放出された硫化水素を含むガスを、水酸化ナトリウム水溶液で吸収して、硫化ナトリウム水溶液にして回収し、二硫化ナトリウムとクロロシクロヘキサンの反応に再利用するジシクロヘキシルジスルフィドの製造方法。」
に係る発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
(2)甲2の記載事項及び甲2に記載された発明
ア.甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
(b1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 有機極性溶媒中でアルカリ金属硫化物とポリハロ芳香族化合物とを反応させて得られたポリアリーレンスルフィドを含有する重合体スラリーからポリアリーレンスルフィドを単離精製する工程において排出される着色排水に次亜塩素酸化合物を添加することを特徴とするポリアリーレンスルフィド製造時の排水処理方法。
【請求項2】 前記排水のpHを7~10に調整した後、次亜塩素酸化合物を添加する請求項1記載の排水処理方法。」
(b2)
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上述した工程より排出される排水は著しく着色しており、そのままでは廃棄できず、さらに大量の水で希釈して廃棄されている。
本発明の課題は、ポリアリーレンスルフィド製造時の着色排水を脱色させる簡便な排水処置方法を提供することにある。」
(b3)
「【0013】上述した単離精製工程からの排出液中に、重合溶媒や洗浄溶媒としての有機化合物を含有している場合は、蒸留により分離され、溶媒及び有機化合物は回収される。一方、無機塩等を含有した水溶液は排水として処理される。この排水中には、未反応モノマーであるアルカリ金属硫化物やアルカリ金属硫化物が重合中に変化したポリスルフィド等が残存しており、これらが原因と推定されるかなりの着色が見られる。この着色排水に次亜塩素酸化合物を添加することによって、着色原因と推定される物質がチオ硫酸ナトリウムへ酸化され、退色するものと推定している。上述した着色現象は、単離精製工程で酸等を使用すると着色が特に激しく、この様な場合においても次亜塩素酸化合物の添加による退色効果は顕著である。」
(b4)
「【0016】
【実施例】・・(中略)・・
【0017】参考例1
4リットルのオートクレーブにN-メチルピロリドン(NMP)1260g、結晶水含有水硫化ナトリウム(NaSH・xH2O)309.3g(4.00mol)を仕込、アルカリトラップを装備し、窒素雰囲気下、開放系において昇温を始め、100℃であらかじめ水酸化ナトリウム164.8g(4.12mol)を水178.5gに溶かしておいた水溶液を加え、さらに昇温を続けた。145℃付近で水-NMP-H2S混合物が留出を始め、200℃まで留出させた。このとき留出した水は234.1g、NMPは61.2g、H2Sは69.65mmolであった。ついでこの系を密閉して220℃まで昇温してp-ジクロロベンゼン577.7g(3.93mol)をNMP359.5gに溶かした溶液を圧入添加した。そして窒素雰囲気、加圧下で220℃で4時間、その後260℃に昇温して1時間反応し反応終了後冷却して重合体スラリーを得た。
【0018】実施例1
参考例1で得られた重合体スラリー300gを減圧下加熱し、NMPを留去して得られた缶残固形物に水250gを添加して攪拌し濾別した後、さらに水250gで洗浄した。このとき排出したろ液は、pHが13で黄褐色(ガードナーカラー値10)に着色していた。そこに有効塩素12重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、該水溶液濃度が15重量%となるように添加したところ、ろ液は薄い黄色(ガードナーカラー値4)となった。以下、次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、有効塩素12重量%のものを使用した。
・・(中略)・・
【0023】
【発明の効果】本発明の排水処理方法によれば、着色排水の脱色が容易である。」
イ.甲2に記載された発明
甲2には、上記記載事項(特に下線部)からみて、
「有機極性溶媒中でアルカリ金属硫化物とポリハロ芳香族化合物とを反応させて得られたポリアリーレンスルフィドを含有する重合体スラリーからポリアリーレンスルフィドを単離精製する工程において排出される着色排水にpH7以上で次亜塩素酸化合物を添加するポリアリーレンスルフィド製造時の排水の脱色処理方法。」
に係る発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
(3)甲3の記載事項及び甲3に記載された発明
ア.甲3の記載事項
甲3には、以下の事項が記載されている。
(c1)
「2.特許請求の範囲
ポリアリーレンスルフイドの製造に当り、アルカリ金属スルフィドおよび/または、水硫化アルカリ金属の脱水工程中に飛散する硫化水素ガスを、アルカリ金属水酸化物の水溶液により吸収し、脱水工程および/または、重合工程にリサイクルして再使用することを特徴とするポリアリーレンスルフイドの製造方法。」(第1頁左下欄)
(c2)
「[産業上の利用分野]
本発明は、ポリアリーレンスルフィド製造工程での副生硫化水素ガスを、回収すると同時に、製品ポリマの分子量等の特性値を安定させるポリアリーレンスルフィドの製造方法に関するものである。」(第1頁左下欄第13行~第18行)
(c3)
「[従来の技術]
ポリアリーレンスルフィドは、ハロゲン化芳香族(一般的にはジハロゲン化物であるが、一部1または3以上のハロゲン化物を添加することもある)とアルカリ金属スルフィド等を、極性溶媒および少量の水の存在下、200~300℃の高温高圧条件下で、重縮合反応を行なうことにより製造される。
この重縮合反応の前段階として、アルカリ金属スルフィドおよび/または水硫化アルカリ金属の、水溶液および/または結晶水を含む固体から水分を除去する脱水工程が必要である。
この脱水工程は、一般的には、n-メチルピロリドン等の極性溶媒の存在下で操作され、その溶媒とのコンプレックスを生成する。」(第1頁左下欄第14行~右下欄第13行)
(c4)
「[本発明が解決しようとする問題点]
上記脱水工程に於いては、脱水処理中に一部硫化水素が飛散しロスする。この飛散現象は次の点で問題となる。
1) 有効S分のロス
2) 硫化水素ガスの発生による環境問題
3) 後続する重合工程に於ける有効S分/ハロゲン化芳香族モル比、アルカリ金属過剰率等の変動要因となり、従って製品ポリマの分子量等各種特性値の変動要因となること
一般的に、ポリアリーレンスルフィド製造工程での原料のモル比の精度は、0.2%以下の誤差とする必要のある厳しいものである。
特に、生産速度の変更、原料特にS源原料のロット切替、品種切替等により脱水工程の初期組成、加熱速度等の条件変更があった後は、硫化水素副生量が変化し、従ってより一層目標条件との誤差が大きくなることが、安定操業上の問題であった。
また、排ガス中の硫化水素は有害な物質であり、アルカリ水溶液等で吸収した後、活性汚泥処理等で無害化する必要がある。
[問題点を解決するための手段およびその作用]
本発明では、脱水工程での副生硫化水素を、アルカリ金属水酸化物の水溶液により吸収し、次バッチの脱水工程および/または、重合工程にリサイクルして再使用することにより、上記の問題点全てを解決すると同時に、安価なポリアリーレンスルフィドの製造方法を提供するものである。」(第2頁左上欄第17行~左下欄第4行)
(c5)(記載中、丸数字は「○1」のように表す。)
「本発明の一例を第1図を用いて説明する。
機器○1~○4、および、ライン1~12は、前記第1図と同じである。○5は、硫化水素吸収塔であり、厳密に濃度および、量を測定され14から供給された苛性ソーダによって、硫化水素を含むコンデンサ排ガス中から硫化水素を吸収し水硫化ソーダとなし、次バッチの脱水工程にリサイクル使用する。排ガス16中の硫化水素は少なく、排ガス処理工程の負荷を激減でき、有効S分の回収もできる。また、原料ロット変更や、脱水条件の変更により、硫化水素副生率が変化した場合、次バッチからはその誤差が相殺され特性値が安定する。
硫化水素吸収塔の型式は、アルカリ金属水酸化物の水溶液に対する硫化水素の吸収速度が速いため、循環ポンプ付き充填塔型等一般的なもので良く、液張り込み/バブリング型のものでも十分である。」(第2頁左下欄第5行~右下欄第1行)
(c6)
「[実施例]
以下に従来技術のプロセスと本発明の改良点を具体的に説明するために、前者を比較例1及び2、後者を実施例1及び2として例示する。
比較例1
硫化ソーダ5水塩168.14Kg(Na2S1Kgモル)、48%苛性ソーダ水溶液1.67Kg(NaOH 0.02Kgモル)とn-メチルピロリドン、198.26Kg(2Kgモル)を、第1図に示すプロセスに於ける攪拌機付き反応槽に供給した後、攪拌しながら加熱し、発生するベーパは、理論段数5段の精単塔で還流比1の条件下で処理した。コンデンサ排ガスは、10%苛性ソーダ水溶液、22Kg(NaOH 0.055Kgモル)を、液深800mmで張込んだ硫化水素ガス吸収塔に導入して吸収した。3時間後、精溜塔の塔頂温度が上昇し、脱水処理が終了したことを確認した後、この吸収液を分析したところ、初期に仕込んだ苛性ソーダの65モル%が硫化ソーダとなっており、脱水反応仕込み硫化ソーダの1.8モル%が、硫化水素として飛散していることが分った。
反応槽に、n-メチルピロリドン128.87Kg(1.3Kgモル)を追加供給した後、更にパラジクロルベンゼン147.01Kg(1Kgモル)を供給して昇温し、260℃で5時間の反応をした後、底部抜き出しラインを介して常圧下に吐出した。
得られた租ポリマのサンプルを、多量の水で洗浄し乾燥した後に、ER(エクストルージョンレート:温度315.6℃、荷重345g、オリフィス0.0825吋径・1.25吋長)を測定したところ30g/10分であった。
比較例2
比較例1と同様の設備、手順、仕込み量でテストを行なうに際し、脱水加熱速度を遅くして、6時間で脱水を完結した。
この場合、硫化水素吸収液を分析したところ初期に仕込んだ苛性ソーダの76モル%が硫化ソーダとなっており、脱水槽仕込み硫化ソーダの2.1モル%が硫化水素として飛散していることが分った。
続いて、比較例1と同様の手順、仕込み量で重合テストを行なった。この場合のポリマのERは、38g/10分であった。
実施例1
比較例1に続いて、比較例1で回収された硫化ソーダ/苛性ソーダ水溶液を使用して、次のテストを実施した。
硫化ソーダ5水塩、165.12Kg
(0.982Kgモル)、比較例1での回収硫化ソーダ/苛性ソーダ水溶液の全量(NaOH 0.019Kgモル、Na2S 0.018Kgモル)と、n-メチルピロリドン、198.26Kg(2Kgモル)を、第1図に示すプロセスに於ける攪拌機付き反応槽に供給した。以下の脱水工程の手順、条件は、比較実施例1と同様とした。
脱水処理が終了後の硫化水素吸収液を分析したところ、初期に仕込んだ苛性ソーダの67モル%が硫化ソーダとなっており、脱水反応仕込み硫化ソーダの1.84モル%が、硫化水素として飛散していることが分った。
反応槽に、n-メチルピロリドン128.87Kg(1.3Kgモル)を追加供給した後、更に、パラジクロルベンゼン147.01Kg(1Kgモル)を供給した後昇温し、以下の重合工程の手順、条件は比較例1と同様とした。
得られたポリマのERを測定したところ、29g/10分であった。
実施例2
硫化ソーダ回収液を、実施例1での回収液の全量を使用し、その他の脱水/重合条件は実施例1と同様として繰り返しテストを実施した。
硫化ソーダ回収液での苛性ソーダ転化率は、66%、ポリマのERは、29g/10分であった。
実施例3
比較例2に続き、硫化ソーダ回収液を、比較例2での回収液の全量を使用、脱水速度は比較実施例2と同様とし、その他の脱水/重合条件は実施例2と同様としてテストを実施した。硫化ソーダ回収液での苛性ソーダ転化率は、77%、ポリマのERは、30g/10分であった。」(第2頁右下欄第2行~第3頁右下欄第2行)
(c7)「第1図」(第4頁上段)
「
」
イ.甲3に記載された発明
甲3には、上記記載事項(特に下線部)からみて、
「ポリアリーレンスルフイドの製造に当り、重縮合反応の前段階としてのアルカリ金属スルフィドおよび/または、水硫化アルカリ金属の脱水工程中に飛散する硫化水素ガスを、アルカリ金属水酸化物の水溶液により吸収し、脱水工程および/または、重合工程にリサイクルして再使用することを特徴とするポリアリーレンスルフイドの製造方法。」
に係る発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているといえる。
2.本件発明についての対比・検討
(1)甲1発明に基づく検討
ア.対比
本件発明と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「ジシクロヘキシルジスルフィド」及び本件発明における「ポリアリーレンスルフィド樹脂」は、いずれもスルフィド化合物に包含されるものであって、「スルフィド化合物」であるという限りにおいて一致し、甲1発明における「二硫化ナトリウム」は、クロロシクロヘキサンと反応しジシクロヘキサンジスルフィドを生成する「スルフィド化剤」であり、甲1発明において水酸化ナトリウム水溶液と反応させて回収する「硫化ナトリウム」は、ハロゲン化炭化水素と反応し脱ハロゲン化ナトリウムによりスルフィド化合物を形成するアルカリ金属硫化物であることが当業者に自明であるから、甲1発明における「二硫化ナトリウム」及び「硫化ナトリウム」は、いずれも物質として、本件発明における「アルカリ金属硫化物」である「スルフィド化剤」に相当し、甲1発明における「塩化ナトリウム」は、本件発明における「アルカリ金属ハロゲン化物」に相当する。
また、甲1発明における「二硫化ナトリウムとクロロシクロヘキサンを含水溶媒を用いて反応させて、ジシクロヘキシルジスルフィドを合成する製造方法」における「(a)反応後の反応混合物から副生する塩化ナトリウムを含む固体成分を取り出し、水に溶解した水溶液」を得る工程又は「(b)反応後の反応混合物を濾過して得た濾液を更に分液して得られる残留した塩化ナトリウムを含む水層」を得る工程は、いずれも、「ジシクロヘキシルジスルフィド」なるスルフィド化合物が水溶性ではないことにより、上記各工程で得られる「水溶液」又は「水層」には「ジシクロヘキシルジスルフィド」なるスルフィド化合物が含有されず、水溶性の「塩化ナトリウム」及び未反応の水溶性化合物である「二硫化ナトリウム」及び「硫化ナトリウム」なる「スルフィド化剤」を含有するものと当業者はその常識に従い理解できるから、当該「水溶液」又は「水層」を得る工程は、スルフィド化合物の種別は異なるものの、本件発明における「少なくとも、スルフィド化合物、アルカリ金属ハロゲン化物およびスルフィド化剤を含む混合物(a)と水とを接触させた後、スルフィド化合物を分離、除去して、少なくとも、アルカリ金属ハロゲン化物およびスルフィド化剤を含む水溶液(b)を得る工程(1)」に相当する。
そして、甲1発明における「(a)反応後の反応混合物から副生する塩化ナトリウムを含む固体成分を取り出し、水に溶解した水溶液」又は「(b)反応後の反応混合物を濾過して得た濾液を更に分液して得られる残留した塩化ナトリウムを含む水層」「を酸性にすることにより、硫化水素を含むガスを放出させ、放出された硫化水素を含むガスを、水酸化ナトリウム水溶液で吸収して、硫化ナトリウム水溶液にして回収し」は、本件発明における「少なくとも、アルカリ金属ハロゲン化物およびスルフィド化剤を含む水溶液(b)に酸を加えて、硫化水素を生成させる工程(2)、生成した硫化水素を回収する工程(3)、および、得られた硫化水素とアルカリ金属水酸化物とを反応させる工程(4)、を有する」に相当するとともに、甲1発明における「二硫化ナトリウムとクロロシクロヘキサンの反応に再利用する」は、回収された硫化ナトリウム水溶液を「硫化ナトリウム、硫黄及び水酸化ナトリウムをメタノール及び水を含有する含水溶媒中で反応させて二硫化ナトリウムを調製」する工程に使用し、スルフィド化合物の合成におけるスルフィド化剤として使用することを意味するから、甲1発明における上記各工程からなる方法は、本件発明における「スルフィド化剤の製造方法」に相当するものといえる。
してみると、本件発明と甲1発明とは、
「少なくとも、スルフィド化合物、アルカリ金属ハロゲン化物およびスルフィド化剤を含む混合物(a)と水とを接触させた後、スルフィド化合物を分離、除去して、少なくとも、アルカリ金属ハロゲン化物およびスルフィド化剤を含む水溶液(b)を得る工程(1)、
少なくとも、アルカリ金属ハロゲン化物およびスルフィド化剤を含む水溶液(b)に酸を加えて、硫化水素を生成させる工程(2)、
生成した硫化水素を回収する工程(3)、および、
得られた硫化水素とアルカリ金属水酸化物とを反応させる工程(4)、
を有すること、
スルフィド化剤が、アルカリ金属硫化物およびアルカリ金属水硫化物からなる群から選ばれる少なくとも1つである、スルフィド化剤の製造方法。」で一致し、下記の点で相違する。
相違点1:「スルフィド化合物」につき、本件発明では「ポリアリーレンスルフィド樹脂」であるのに対して、甲1発明では「ジシクロヘキシルジスルフィド」である点
イ.相違点についての検討
上記相違点1につき検討する。
甲2には、上記1.(2)イ.で示したとおり、
「有機極性溶媒中でアルカリ金属硫化物とポリハロ芳香族化合物とを反応させて得られたポリアリーレンスルフィドを含有する重合体スラリーからポリアリーレンスルフィドを単離精製する工程において排出される着色排水にpH7以上で次亜塩素酸化合物を添加するポリアリーレンスルフィド製造時の排水の脱色処理方法。」
に係る甲2発明が記載されているところ、当該発明では、あくまでポリアリーレンスルフィドを含有する重合体スラリーから排出される着色排水につき脱色処理を行うことについてのみであり、当該排水からスルフィド化剤を回収・製造することなどを意図するものでもないから、低分子化合物であるジシクロヘキシルジスルフィドを合成する製造方法に係る甲1発明において、製造すべき目的化合物が異なる甲2発明を組み合わせるべき動機となる事項が存するものとは認められない。
してみると、上記相違点1につき、甲1発明に対して、甲2発明を組み合わせて当業者が容易になし得ることということはできない。
また、甲3には、上記1.(3)イ.で示したとおり、
「ポリアリーレンスルフイドの製造に当り、重縮合反応の前段階としてのアルカリ金属スルフィドおよび/または、水硫化アルカリ金属の脱水工程中に飛散する硫化水素ガスを、アルカリ金属水酸化物の水溶液により吸収し、脱水工程および/または、重合工程にリサイクルして再使用することを特徴とするポリアリーレンスルフイドの製造方法。」
に係る甲3発明が記載されているところ、当該発明では、ポリアリーレンスルフイドの製造にあたり、重縮合反応の前段階として脱水工程中に飛散する硫化水素ガスを、アルカリ金属水酸化物の水溶液により吸収し、重合工程にリサイクルして再使用することのみであり、重合後の混合物を処理してスルフィド化剤を回収することなどを意図するものではないから、低分子化合物であるジシクロヘキシルジスルフィドを合成する製造方法に係る甲1発明において、製造すべき目的化合物が異なり重合後の排水処理に係るものでもない甲3発明を組み合わせるべき動機となる事項が存するものとは認められない。
してみると、上記相違点1につき、甲1発明に対して、甲3発明を組み合わせて当業者が容易になし得ることということはできない。
ウ.小括
したがって、本件発明は、甲1発明に甲2発明又は甲3発明を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
よって、申立人が主張する上記取消理由については、理由がない。
(2)請求項1に係る発明についての検討のまとめ
以上のとおり、本件発明、すなわち、本件の請求項1に係る発明につき、甲1発明ないし甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
3.他の請求項に係る発明について
本件特許の請求項2、3、5及び7に係る発明は、いずれも請求項1に係る本件発明を引用しているものであるところ、上記2.でそれぞれ説示したとおりの理由により、本件発明は、甲1ないし甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということはできないから、本件特許の請求項2、3、5及び7に係る発明についても、甲1ないし甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということができない。
4.当審の判断のまとめ
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし3、5及び7に係る発明は、いずれも、甲1ないし甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということはできない。
よって、本件の請求項1ないし3、5及び7に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条の規定に違反してされたものということはできないから、上記取消理由は理由がなく、本件の請求項1ないし3、5及び7に係る発明についての特許は、取り消すことができない。
第5 むすび
以上のとおり、本件特許に係る異議申立において特許異議申立人が主張する取消理由は理由がなく、本件の請求項1ないし3、5及び7に係る発明についての特許は、取り消すことができない。
ほかに、本件の請求項1ないし3、5及び7に係る発明についての特許を取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2019-700203