特許拒絶査定不服審判
2019-008196
光ファイバ、光ファイバケーブル及び通信機器
- 審判番号
- 2019-008196
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2015-504093外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年06月19日
- 審決日
- 2020年06月05日
- 公報発行日
- 2020年09月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】三菱ケミカル株式会社
- 【請求人代理人】宮崎 昭夫
- 【請求人代理人】緒方 雅昭
- 分類
- P18 .113-Z (G02B) / P18 .121-Z (G02B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2015-504093「光ファイバ、光ファイバケーブル及び通信機器」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月30日国際公開、WO2015/111506〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)1月16日(国内優先権主張 2014年1月23日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成30年 8月20日付け:拒絶理由通知書
平成30年10月23日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 3月12日付け:拒絶査定(原査定)
令和 元年 6月19日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 元年 6月21日 :手続補足書の提出
第2 本件発明の認定
本件の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、令和元年6月19日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】 芯と、芯の外周に少なくとも1層の鞘とを有する光ファイバであって、 鞘が、2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート由来の繰り返し単位(A)、フッ素原子を含まないアルキル(メタ)アクリレート由来の繰り返し単位(C)、及び下記式(3)で表されるフルオロアルキル(メタ)アクリレートの由来の繰り返し単位(B)を含む重合体を含む、光ファイバ。 【化3】
(式(3)中、pは1又は2、qは1~4の整数、Rは水素原子又はメチル基、Xは水素原子又はフッ素原子を示す。)」
第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、
(1)本願の請求項2に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2003-139973号公報、特開2003-084148号公報、特開平4―298514号公報にそれぞれ記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない
(2)本願の請求項2に係る発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2003-139973号公報、特開2003-084148号公報、特開平4―298514号公報に記載された発明に基づいて、本願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない
というものである。
第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1:特開平4―298514号公報
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平4―298514号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同様。)
ア 「【請求項1】 炭素数6以上のフッ素化アルキル基を含有するフッ素系硬化性単量体(1)と、炭素数5以下のフッ素化アルキル基を含有するフッ素系硬化性単量体(2)と、多官能硬化性単量体(3)とからなる硬化性組成物において、前記硬化性単量体(1)と前記硬化性単量体(2)との重量比が75/25から99/1であることを特徴とする硬化性組成物。
【請求項2】 炭素数6以上のフッ素化アルキル基を含有するフッ素系硬化性単量体(1)が、下記一般式にて表されるフッ素化(メタ)アクリレ-トである請求項1記載の硬化性組成物。
RfOCOC(R)=CH2
(式中、Rfは炭素数6以上のフッ素化アルキル基であり、Rは水素原子、メチル基またはフッ素原子である。)」
イ 「【請求項4】 炭素数5以下のフッ素化アルキル基を含有するフッ素系硬化性単量体(2)が、下記一般式にて表されるフッ素化(メタ)アクリレ-トである請求項1記載の硬化性組成物。
Rf’OCOC(R)=CH2
(式中、Rf’は炭素数5以下のフッ素化アルキル基であり、Rは水素原子、メチル基またはフッ素原子である。)」
ウ 「【請求項9】 多官能硬化性単量体(3)が、トリメチロールプロパントリアクリレートである請求項1記載の硬化性組成物。」
エ 「【請求項12】 請求項1記載の硬化性組成物を光ファイバ基体に塗布し、然る後に硬化してなる光ファイバ。【請求項13】 光ファイバ基体が、石英、シリカまたはガラスであることを特徴とする請求項12記載の光ファイバ。」
オ 「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、光ファイバ及び光ファイバクラッド材用硬化性組成物に関し、更に詳しくは、機械的強度、耐環境性そして光学的特性に優れた光ファイバ及びそれを製造するのに適した硬化性組成物に関する。」
カ 「【0004】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記公報に記載された硬化性光ファイバクラッド材は、室温にて相溶性または均質性が悪く、そのまま室温で光ファイバの製造に供すると、光ファイバの光伝送性等の光学的特性が極めて悪く、又コアに対するクラッド層の密着性が劣悪となるために、クラッド層の剥離が生じ易く、光ファイバの耐環境性や引っ張り強度が悪く、光ファイバとして到底使用出来なくなるという問題があった。又、相溶性や均質性を向上させる目的で、クラッド樹脂を加温して使おうとすると、偏心等の問題を防止するために厳密な温度制御が必要となり、線引き装置が複雑になると共に、作業性が悪くなるという問題があった。更に又、従来公知の方法にて、クラッド樹脂を室温で透明化しようとすると、組成上クラッド層の機械的強度が劣悪になったり、屈折率が上昇し、目的とする開口数を維持できなくなるという問題があった。
【0005】以上のように、室温においても透明性が良く、低屈折率で作業性に優れ、更に硬化後も透明性や力学的強度に優れ、光ファイバにおいても優れた力学的強度、光学的特性、そして耐熱性・耐湿性等の耐環境性を発揮できるクラッド樹脂が存在しないのが現状であった。
【0006】【課題を解決するための手段】そこで本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討したところ、フッ素化アルキル基の炭素数が異なる、2種類以上のフッ素系硬化性単量体を特定の割合で同時に含有して成る硬化性クラッド材を用いれば、それらの問題が解決されることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0007】即ち本発明は、炭素数6以上のフッ素化アルキル基を含有するフッ素系硬化性単量体(1)と、炭素数5以下のフッ素化アルキル基を含有するフッ素系硬化性単量体(2)と、多官能硬化性単量体(3)とからなり、フッ素系硬化性単量体(1)とフッ素系硬化性単量体(2)との重量比が75/25から99/1である硬化性組成物、及びそれを光ファイバ基体に塗布して硬化してなる光ファイバを提供するものである。」
キ 「【0010】フッ素系硬化性単量体(1)としては、例えば下記一般式(A)にて表されるフッ素化(メタ)アクリレ-トが挙げられる。
RfOCOC(R)=CH2 (A)
(式中、Rfは炭素数6以上のフッ素化アルキル基であり、直鎖状、分岐状、または主鎖中に酸素原子が介入したもの、例えば(CF3)2CF0C(CF3)FCF2-等のいずれでも良く、RはH、メチル基またはFである。)
尚本発明においては、アクリロイル基、メタアクリロイル基そしてα-フッ素化アクリロイル基を含有する化合物をまとめて、(メタ)アクリレ-トと総称する。
【0011】フッ素化(メタ)アクリレ-ト(A)の具体例としては、以下の如き化合物が挙げられる。
a-1 : CH2=CHCOOCH2CH2C8F17
a-2 : CH2=C(CH3)COOCH2CH2C8F17
a-3 : CH2=CHCOOCH2CH2C12F25
a-4 : CH2=C(CH3)COOCH2CH2C12F25
a-5 : CH2=CHCOOCH2CH2C10F21
a-6 : CH2=C(CH3)COOCH2CH2C10F21
a-7 : CH2=CHCOOCH2CH2C6F13
a-8 : CH2=C(CH3)COOCH2CH2C6F13
a-9 : CH2=CHCOOCH2CH2C4F9
a-10 : CH2=C(F)COOCH2CH2C6F13
a-11 : CH2=CHCOOCH2(CH2)6CF(CF3)2
a-12 : CH2=CHCOOCH2(CF2)6H
a-13 : CH2=CHCOOCH2(CF2)8H
a-14 : CH2=C(CH3)COOCH2(CF2)8H
a-15 : CH2=CHCOOCH2(CF2)10H
a-16 : CH2=CHCOOCH2(CF2)12H
a-17 : CH2=CHCOOCH2C(OH)HCH2C8F17
a-18 : CH2=CHCOOCH2CH2N(C3H7)SO2C8F17
a-19 : CH2=CHCOOCH2CH2N(C2H5)COC7F15
a-20 : CH2=CHCOO(CH2)2(CF2)8CF(CF3)2
a-21 : CH2=C(CH2CH2C8F17)COOCH2CH2C8F17
フッ素化(メタ)アクリレ-ト(A)は、構造が異なる2種類以上の化合物の混合物であっても良い。尚、本発明が上記の具体例によって何等限定されるものでないことは勿論である。
【0012】本発明に係る硬化性組成物の、硬化後の透明性、力学的強度、耐溶剤性等の観点や、該樹脂を用いて製造された光ファイバ、とりわけPCFの光学的特性、力学的強度、更に耐溶剤性の観点から、フッ素化(メタ)アクリレ-ト(A)として、a-1、a-2、a-7、a-8が好ましく、なかでもa-1、a-7が極めて好ましい。
【0013】フッ素系硬化性単量体(2)としては、例えば下記一般式(B)にて表されるフッ素化(メタ)アクリレ-トが挙げられる。
Rf’OCOC(R)=CH2 (B)
(式中、Rf’は炭素数5以下のフッ素化アルキル基であり、直鎖状または分岐状のいずれでも良く、RはH、メチル基またはFである。)
フッ素化(メタ)アクリレ-ト(B)の具体例としては、以下の如き化合物が挙げられる。
【0014】b-1 : CH2=CHCOOCH2CF3
b-2 : CH2=CHCOOCH2CF2CF3
b-3 : CH2=CHCOOCH2CFHCF3
b-4 : CH2=C(CH3)COOCH2CFHCF3
b-5 : CH2=CHCOOCH2CH2CF3
b-6 : CH2=CHCOOCH2CF2CFHCF3
b-7 : CH2=CHCOOCH2CF(CF3)CF3
b-8 : CH2=CHCOOCH(CF3)2
b-9 : CH2=C(F)COOCH(CF3)2
b-10 : CH2=C(CH3)COOCH(CF3)2
b-11 : CH2=CHCOOCH2(CF2CF2)2H
b-12 : CH2=C(F)COOCH2(CF2CF2)2H
b-13 : CH2=C(CH3)COOCH2(CF2CF2)2H
b-14 : CH2=CHCOOCH2CF2CF2CFHCF3
フッ素化(メタ)アクリレ-ト(B)は、構造が異なる2種類以上の化合物の混合物であっても良い。尚、本発明が上記の具体例によって何等限定されるものでないことは勿論である。」
ク 「【0017】多官能硬化性単量体(3)としては、公知慣用のものがいずれも使用できるが、例えば多官能(メタ)アクリレ-ト(C)が適している。本発明に係る多官能(メタ)アクリレート(C)とは当業界で通常、多官能(メタ)アクリレート又は特殊アクリレートと称されるものと、プレポリマー、ベースレジン、オリゴマー、又はアクリルオリゴマーと称されるものとを含み、具体的には次の様なものが例示される。
(i) 多価アルコールに(メタ)アクリル酸が2個以上結合した多価(メタ)アクリレート。
(ii) 多価アルコールと多塩基酸の反応より得られるポリエステルポリオールは(メタ)アクリル酸が2個以上結合したポリエステルアクリレート。」
ケ 「【0020】これらのより具体的な化合物の例として、以下の如きものが挙げられる。
c-1 エチレングリコールジ(メタ)アクリレート
c-2 ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート
c-3 トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート
c-4 ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(数平均分子量 150~1000)
c-5 プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート
c-6 ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート
c-7 トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート
c-8 ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート(数平均分子量 200~1000)
c-9 ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート
c-10 1,3 -ブタンジオールジ(メタ)アクリレート
c-11 1,4 -ブタンジオールジ(メタ)アクリレート
c-12 1,6 -ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート
c-13 ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート
c-14 ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート
c-15 トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート
c-16 ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート
c-17 ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート
c-18 ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート
c-19 トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート
c-20 ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート
更に上記以外の具体例としては、・・・(省略)・・・」
コ 「【0022】本発明者等の知見によれば、フッ素化(メタ)アクリレ-ト(A)並びに(B)との相溶性や、本発明に係る硬化性組成物の硬化後の光学的特性や力学的強度の観点から、c-9、c-15が好ましく、その中でもc-15が特に好ましい。」
サ 「【0028】本発明に係る硬化性樹脂組成物において、硬化後の耐熱性、耐湿性等の耐環境性の向上や、光ファイバにおける耐熱性、耐湿性等の耐環境性の向上には、チオール基含有化合物や、ヒンダードフェノール系化合物等の抗酸化剤(4)の導入が極めて重要である。これらの中でも、樹脂の硬化性や耐環境性能の点からチオール基含有化合物が好ましい。」
シ 「【0058】伝送損失は、波長850nmにて、カットバック法にて測定した。耐熱試験後とは、130℃で1000時間PCFを保持した後の850nmでの伝送損失を示している。」
ス 「【0061】【表2】
」
セ 前記スには、実施例5において、「炭素数5以下のフッ素化アルキル基を含有するフッ素系硬化性単量体(2)」として「b-1」(「CH2=CHCOOCH2CF3」)を使用した点、及び、「多官能硬化性単量体(3)」として「c-15」(「トリメチロールプロパントリアクリレート」)を使用した点について記載されている。
(2)前記ア~セから、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「光ファイバ基体と、前記光ファイバ基体に塗布され硬化される硬化性組成物とを有する光ファイバであって、
前記硬化性組成物が、炭素数6以上のフッ素化アルキル基を含有するフッ素系硬化性単量体(1)と炭素数5以下のフッ素化アルキル基を含有するフッ素系硬化性単量体(2)と多官能硬化性単量体(3)とからなり、
炭素数6以上のフッ素化アルキル基を含有するフッ素系硬化性単量体(1)は、好ましくはa-1(CH2=CHCOOCH2CH2C8F17)、a-2(CH2=C(CH3)COOCH2CH2C8F17)、a-7(CH2=CHCOOCH2CH2C6F13)、又は、a-8(CH2=C(CH3)COOCH2CH2C6F13)であり、
炭素数5以下のフッ素化アルキル基を含有するフッ素系硬化性単量体(2)は、b-1(CH2=CHCOOCH2CF3)、b-2(CH2=CHCOOCH2CF2CF3)、b-3(CH2=CHCOOCH2CFHCF3)、b-4(CH2=C(CH3)COOCH2CFHCF3)、b-5(CH2=CHCOOCH2CH2CF3)、b-6(CH2=CHCOOCH2CF2CFHCF3)、b-7(CH2=CHCOOCH2CF(CF3)CF3)、b-8(CH2=CHCOOCH(CF3)2)、b-9(CH2=C(F)COOCH(CF3)2)、b-10(CH2=C(CH3)COOCH(CF3)2)、b-11(CH2=CHCOOCH2(CF2CF2)2H)、b-12(CH2=C(F)COOCH2(CF2CF2)2H)、b-13(CH2=C(CH3)COOCH2(CF2CF2)2H)、又は、b-14(CH2=CHCOOCH2CF2CF2CFHCF3)であり、
多官能硬化性単量体(3)は、好ましくはc-9(ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート)、又は、c-15(トリメチロールプロパントリアクリレート)である、
光ファイバ。」
2 引用文献2:特開2003-139973号公報
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2003-139973号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】ポリメタクリル酸メチル、又は1種類以上のビニル系単量体とメタクリル酸メチルとの共重合体からなるコアと、前記コアの外周に第1クラッド、第2クラッドの順で同心円状に積層されたクラッドを有するプラスチック光ファイバであって、
前記第1クラッドは、下記一般式(I)
【化1】
(式中、mは1又は2、nは5~12の整数を示す。)
で表わされる長鎖フルオロアルキルメタクリレートの単位(A)10~50質量%と、
下記一般式(II)
【化2】
(式中、Xは水素原子又はフッ素原子、mは1~4の整数を示す。)
で表わされる短鎖フルオロアルキルメタクリレートの単位(B)20~90質量%と、他の共重合可能な単量体の単位(C)0~50質量%とからなる共重合体からなり、前記第2クラッドは、ビニリデンフルオライド単位とテトラフルオロエチレン単位とヘキサフルオロプロピレン単位とを含み、ビニリデンフルオライド単位37.01~92モル%とテトラフルオロエチレン単位0.01~55モル%とヘキサフルオロプロピレン単位4.0~7.99モル%とからなる共重合体からなるプラスチック光ファイバ。」
イ 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、家庭内ホームネットワーク、および自動車や航空機、鉄道などのような移動媒体中での光情報通信などに用いられるプラスチック光ファイバ、並びにそれを用いたプラスチック光ファイバケーブル及びプラグ付きプラスチック光ファイバケーブルに関する。」
ウ 「【0013】【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、耐湿熱性や耐曲げ損失特性が優れ、好ましくは伝送帯域にも優れたプラスチック光ファイバ、プラスチック光ファイバケーブル及びプラグ付きプラスチック光ファイバケーブルを提供することである。」
エ 「【0030】【発明の実施の形態】メタクリル酸メチルを主成分とするコアを有するPOFは、湿熱環境下におかれた場合に、コア材及び/又はクラッド材中へ吸収された水分とポリマーとの相分離による白濁化が原因で散乱損失が増大し、水の吸着がいくつかの特定波長域における分子振動吸収をもたらすため、伝送損失が増大する場合がある。一方、POFの曲げ損失の原因としては、クラッドの強度不足による割れや、コア-クラッド間の剥離、構造不整の増大などがある。本発明のPOFは、第1クラッド及び第2クラッドを備え、これらの材料として特定の共重合体を用いることを主な特徴としており、これにより、POFの耐湿熱性及び曲げ損失を改善することを可能としたものである。
【0031】本発明のPOFは、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、又はメタクリル酸メチル(MMA)単位を主成分とする共重合体からなるコアと、この外周に第1クラッド、第2クラッドの順で同心円状に積層されたクラッドを有する。
【0032】本発明のPOFの第1クラッドに用いられる重合体は、良好な透明性および耐熱性を有しながら、屈曲性および加工性に優れる重合体として、前記一般式(I)で表される長鎖フルオロアルキルメタクリレートの単位(A)、前記一般式(II)で表される短鎖フルオロアルキルメタクリレートの単位(B)、及び必要により他の共重合可能な単量体の単位(C)からなる共重合体が用いられる。
【0033】単位(A)を形成する長鎖フルオロアルキルメタクリレートのフッ素化アルキル基のフッ素原子数は、共重合体の機械的特性を向上させるためには13以上であることが好ましく、具体的には、2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート(13FM)、1H,1H,9H-ヘキサデカフルオロノニルメタクリレート(16FM)、2-(パーフルオロオクチル)エチルメタクリレート(17FM)、1H,1H,11H-(イコサフルオロウンデシル)メタクリレート(20FM)、2-(パーフルオロデシル)エチルメタクリレート(21FM)等の単量体単位が挙げられる。これら単量体単位は単独で用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。コストの点から2-(パーフルオロオクチル)エチルメタクリレート(17FM)が好ましい。」
オ 「【0037】単位(C)を形成する他の共重合可能な単量体は、必要に応じて用いることができ、鎖状アルキル(メタ)アクリレート、環式炭化水素基を有するメタクリル酸エステル、親水性単独重合体を形成しうるビニル系単量体が用いられる。」
カ 「【0094】(伝送損失)25m-5mカットバック法により伝送損失(dB/km)を測定した。測定波長が650nm、入射光のNA(開口数)が、0.1、0.65の光を用いた。」キ 「【0099】(繰り返し屈曲回数の測定)長さ4mのPOFケーブルの一端に荷重500gf(4.9N)をかけ、このPOFケーブルの中央を直径15mmの2本の円管にて挟持した。このPOFケーブルの他端を一方の円管側に移動させてPOFケーブルが90度折れ曲がるように円管外周に巻き付けた後、他方の円管側に移動させてPOFケーブルが90度折れ曲がるように円管外周に巻き付けて合計180度屈曲させ、これを繰り返し、POFケーブルが切断した際の曲げ回数を測定した。」
(2) 前記ア~カから、引用文献2には、以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「コアと、前記コアの外周に第1クラッドとを有する光ファイバであって、前記第1クラッドが、
下記一般式(I)
【化1】
(式中、mは1又は2、nは5~12の整数を示す。)
で表わされる長鎖フルオロアルキルメタクリレートの単位(A)であって、好ましくは2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート(13FM)、1H,1H,9H-ヘキサデカフルオロノニルメタクリレート(16FM)、2-(パーフルオロオクチル)エチルメタクリレート(17FM)、1H,1H,11H-(イコサフルオロウンデシル)メタクリレート(20FM)、又は、2-(パーフルオロデシル)エチルメタクリレート(21FM)と、
下記一般式(II)
【化2】
(式中、Xは水素原子又はフッ素原子、mは1~4の整数を示す。)
で表わされる短鎖フルオロアルキルメタクリレートの単位(B)と、
他の共重合可能な単量体の単位(C)である鎖状アルキル(メタ)アクリレートと、
からなる共重合体を含む、光ファイバ。」
3 引用文献3:特開2003-084148号公報
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2003-084148号公報(以下「引用文献3」という。)には、次の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】ポリメタクリル酸メチル、又は1種類以上のビニル系単量体とメタクリル酸メチルとの共重合体からなるコアと、前記コアの外周に第1クラッド、第2クラッドの順で同心円状に積層されたクラッドを有するプラスチック光ファイバであって、
前記第1クラッドは、下記一般式(I)
【化1】
(式中、mは1又は2、nは5~12の整数を示す。)
で表わされる長鎖フルオロアルキルメタクリレートの単位(A)1~40質量%と、
下記一般式(II)
【化2】
(式中、Xは水素原子又はフッ素原子、mは1~4の整数を示す。)
で表わされる短鎖フルオロアルキルメタクリレートの単位(B)1~40質量%と、メタクリル酸メチル単位(C)50~98質量%と、他の共重合可能な単量体の単位(D)0~10質量%とからなる共重合体からなり、前記第2クラッドは、ビニリデンフルオライド単位とテトラフルオロエチレン単位とヘキサフルオロプロピレン単位を有し、ビニリデンフルオライド単位37.01~92モル%とテトラフルオロエチレン単位0.01~55モル%とヘキサフルオロプロピレン単位4.0~7.99モル%とからなる共重合体からなることを特徴とするプラスチック光ファイバ。」
イ 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、家庭内ホームネットワーク、および自動車や航空機、鉄道などのような移動媒体中での光情報通信などに用いられるプラスチック光ファイバ、プラスチック光ファイバケーブル及びプラグ付きプラスチック光ファイバケーブルに関する。」
ウ 「【0011】【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、伝送損失が低く、耐繰り返し屈曲性などの機械的特性に優れたプラスチック光ファイバ、プラスチック光ファイバケーブル及びプラグ付きプラスチック光ファイバケーブルを提供することにある。」
エ 「【0017】【発明の実施の形態】本発明のPOFは、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、又はメタクリル酸メチル(MMA)単位を主成分とする共重合体からなるコアと、この外周に第1クラッド、第2クラッドの順で同心円状に積層されたクラッドを有する。
【0018】本発明のPOFにおいて、第1クラッドの屈折率(ナトリウムD線を用いた25℃での測定値)は、POFの開口数を十分に小さくし、伝送帯域を向上させる点から、1.43以上であることが好ましく、1.455以上であることがより好ましい。また、屈折率が大きすぎるとPOFの曲げ損失が大きくなる傾向があるので、第1クラッドの屈折率は1.477以下であることが好ましい。
【0019】第1クラッドは、一般式(I)で表わされる長鎖フルオロアルキルメタクリレートの単位(A)1~40質量%と、一般式(II)で表わされる短鎖フルオロアルキルメタクリレートの単位(B)1~40質量%と、メタクリル酸メチル単位(C)50~98質量%と、他の共重合可能なビニル系単量体の単位(D)0~10質量%とからなる共重合体から構成される。
【0020】一般式(I)で表される長鎖フルオロアルキルメタクリレートの単位(A)のフッ素化アルキル基のフッ素原子数は、共重合体の機械的特性を向上させるためには13以上であることが好ましい。このような単量体単位としては、2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート(13FM)、1H,1H,9H-ヘキサデカフルオロノニルメタクリレート(16FM)、2-(パーフルオロオクチル)エチルメタクリレート(17FM)、1H,1H,11H-(イコサフルオロウンデシル)メタクリレート(20FM)、2-(パーフルオロデシル)エチルメタクリレート(21FM)等の単量体の単位が挙げられる。これら単量体単位は単独で用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。」
オ 「【0024】第1クラッドを構成する共重合体中のメタクリル酸メチル単位(C)の含有量は、50質量%~98質量%の範囲にあり、好ましくは50.01質量%以上である。メタクリル酸メチル単位(C)の含有量が50質量%未満であると、十分に高い屈折率を第1クラッドに持たせることが困難となり、また十分な透明性や耐熱性が得られないおそれがある。98質量%より多いと剛性が高くなるため、POFを屈曲した時の伝送損失の増加を十分に低減することが困難となる。」
(2)前記ア~オから、引用文献3には、以下の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「コアと、前記コアの外周に第1クラッドとを有する光ファイバであって、前記第1クラッドが、
下記一般式(I)
【化1】
(式中、mは1又は2、nは5~12の整数を示す。)
で表わされる長鎖フルオロアルキルメタクリレートの単位(A)であって、好ましくは2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート(13FM)、1H,1H,9H-ヘキサデカフルオロノニルメタクリレート(16FM)、2-(パーフルオロオクチル)エチルメタクリレート(17FM)、1H,1H,11H-(イコサフルオロウンデシル)メタクリレート(20FM)、又は、2-(パーフルオロデシル)エチルメタクリレート(21FM)と、
下記一般式(II)
【化2】
(式中、Xは水素原子又はフッ素原子、mは1~4の整数を示す。)
で表わされる短鎖フルオロアルキルメタクリレートの単位(B)と、
メタクリル酸メチル単位(C)と、
からなる共重合体を含む、光ファイバ。」
第5 対比・判断
1 本件発明と引用発明1を対比する。
(1)引用発明1の「光ファイバ基体」は本件発明の「芯」に相当する。
(2)引用発明1の前記「光ファイバ基体」に塗布され硬化された「硬化性組成物」は、光ファイバにおけるクラッドを形成するものであるから、本件発明の「鞘」に相当する。
(3)引用発明1の「a-8(CH2=C(CH3)COOCH2CH2C6F13)」は、本件発明の「2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート由来の繰り返し単位(A)」に相当する。
(4)引用発明1の「b-1」(「CH2=CHCOOCH2CF3」)は、本件発明の式(3)において、「R」を「水素原子」、「p」を「1」、「q」を「1」、「X」を「フッ素原子」としたものであるから、本件発明の「式(3)で表されるフルオロアルキル(メタ)アクリレートの由来の繰り返し単位(B)」に相当する。同様に、引用発明1の「b-2」(「CH2=CHCOOCH2CF2CF3」)もまた、本件発明の式(3)において、「R」を「水素原子」、「p」を「1」、「q」を「2」、「X」を「フッ素原子」としたものであるから、本件発明の「式(3)で表されるフルオロアルキル(メタ)アクリレートの由来の繰り返し単位(B)」に相当する。
(5)引用発明1の「トリメチロールプロパントリアクリレート」は、フッ素原子を含まず、アルキル基を備えたアクリレートであることから、本件発明の「フッ素原子を含まないアルキル(メタ)アクリレート由来の繰り返し単位(C)」に相当する。
(6)以上のことから、本件発明と引用発明1との間に相違はない。
(7)なお、仮に、硬化性組成物を形成する各単量体(フッ素系硬化性単量体(1)、フッ素系硬化性単量体(2)及び多官能硬化性単量体(3))の具体例の中から特定のものを選択した点が相違点であるとしても、いくつかの材料の中から適当なものを選択することは、当業者にとって通常の創作能力の発揮であって、単なる設計事項に過ぎないものである。特に、「a-7」(「CH2=CHCOOCH2CH2C6F13」)は好ましい具体例として挙げられ、前記第4 1(1)セにおいて説示したように、実施例5において「炭素数5以下のフッ素化アルキル基を含有するフッ素系硬化性単量体(2)」として「b-1」(「CH2=CHCOOCH2CF3」)を使用した点、及び、「多官能硬化性単量体(3)」として「c-15」(「トリメチロールプロパントリアクリレート」)を使用した点について記載されているように、引用発明1に挙げられた具体例の中から、本件発明のような具体例の組み合わせを選択することに、格別の困難性はない。そして後述するように、本件発明の奏する作用効果もまた、予測しうる範囲内のものであって格別なものとは言えない。
(8)したがって、本件発明は、引用発明1と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、または、本件発明は、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2 本件発明と引用発明2を対比する。
(1)引用発明2の「コア」は本件発明の「芯」に相当し、引用発明2の「第1クラッド」は、本件発明の「鞘」に相当する。
(2)引用発明2の「2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート(13FM)」は、本件発明の「2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート由来の繰り返し単位(A)」に相当する。
(3)引用発明2の「一般式(II)」で表される「短鎖フルオロアルキルメタクリレートの単位(B)」は、本件発明の式(3)において、「R」を「メチル基」、「p」を「1」、添え字「q」を「m」としたものであるから、本件発明の「式(3)で表されるフルオロアルキル(メタ)アクリレートの由来の繰り返し単位(B)」に相当する。
(4)引用発明2の「鎖状アルキル(メタ)アクリレート」は、フッ素原子を含まず、アルキル基を備えた(メタ)アクリレートであることから、本件発明の「フッ素原子を含まないアルキル(メタ)アクリレート由来の繰り返し単位(C)」に相当する。
(5)以上のことから、本件発明と引用発明2との間に相違はない。
(6)なお、仮に、長鎖フルオロアルキルメタクリレートの単位(A)の具体例の中から2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート(13FM)を選択した点が相違点であるとしても、いくつかの材料の中から適当なものを選択することは、当業者にとって通常の創作能力の発揮であって、単なる設計事項に過ぎないものである。特に、2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート(13FM)は好ましい具体例として挙げられているのであるから、引用発明2において、長鎖フルオロアルキルメタクリレートの単位(A)として2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート(13FM)を選択することに格別の困難性はなく、本件発明の奏する作用効果についても予測可能なものである。
(7)したがって、本件発明は、引用発明2と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、または、本件発明は、引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3 本件発明と引用発明3を対比する。
(1)引用発明3の「コア」は本件発明の「芯」に相当し、引用発明3の「第1クラッド」は、本件発明の「鞘」に相当する。
(2)引用発明3の「2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート(13FM)」は、本件発明の「2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート由来の繰り返し単位(A)」に相当する。
(3)引用発明3の「一般式(II)」で表される「短鎖フルオロアルキルメタクリレートの単位(B)」は、本件発明の式(3)において、「R」を「メチル基」、「p」を「1」、添え字「q」を「m」としたものであるから、本件発明の「式(3)で表されるフルオロアルキル(メタ)アクリレートの由来の繰り返し単位(B)」に相当する。
(4)引用発明3の「メタクリル酸メチル単位(C)」は、フッ素原子を含まず、アルキル基を備えたメタクリレートであることから、本件発明の「フッ素原子を含まないアルキル(メタ)アクリレート由来の繰り返し単位」に相当する。
(5)以上のことから、本件発明と引用発明3との間に相違はない。
(6)なお、仮に、長鎖フルオロアルキルメタクリレートの単位(A)の具体例の中から2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート(13FM)を選択した点が相違点であるとしても、いくつかの材料の中から適当なものを選択することは、当業者にとって通常の創作能力の発揮であって、単なる設計事項に過ぎないものである。特に、2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート(13FM)は好ましい具体例として挙げられているのであるから、引用発明3において、長鎖フルオロアルキルメタクリレートの単位(A)として2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート(13FM)を選択することに格別の困難性はなく、本件発明の奏する作用効果についても予測可能なものである。
(7)したがって、本件発明は、引用発明3と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、または、本件発明は、引用発明3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第6 審判請求人の主張について
1 主張1について
(1)審判請求人は審判請求書において、引用文献1~3は13FMを長鎖フルオロアルキルメタクリレートの一例として記載しているに過ぎず、実施例による裏付けもないことから、引用発明1~3は発明として完成されているとはいえず、本件発明は引用発明1~3に対して新規性を有する旨(以下「主張1」という。)を主張する。(審判請求書6頁12行~7頁25行)
(2)確かに、引用文献1~3には13FMを使用した実施例について記載されていない。しかしながら、以下に述べるように引用文献1~3は13FMの使用を開示しており、13FMを本願の優先日時点で利用できなかったという事情は認められないから、引用発明1~3は発明として完成されていたというべきである。
ア 引用文献1には「炭素数6以上のフッ素化アルキル基を含有するフッ素系硬化性単量体(1)」として「a-1」又は「a-7」の使用が極めて好ましいとの記載がある。しかしながら、「a-2」又は「a-8」についても好ましいとの記載があり、引用文献1に「a-7」の使用が「a-8」の使用よりも好ましいとの記載があるからといって、「a-8」を含む光ファイバの発明が開示されていないとすることはできない。
イ 引用文献2には「一般式(I)」で表される「長鎖フルオロアルキルメタクリレートの単位(A)」として「2-(パーフルオロオクチル)エチルメタクリレート(17FM)」の使用が好ましいとの記載がある。しかしながら、当該記載があるからといって、「2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート(13FM)」を含む光ファイバの発明が開示されていないとすることはできない。
ウ 引用文献3において、「一般式(I)」で表される「長鎖フルオロアルキルメタクリレートの単位(A)」として挙げられた好ましい具体例は5つ程度であり、その具体例の一つとして「2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート(13FM)」は挙げられているわけであるから、引用文献3に「2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート(13FM)」を含む光ファイバの発明が開示されているといえる。
(3)よって、審判請求人の主張1は採用できない。
2 主張2について
(1)審判請求人は審判請求書において、13FMを用いた鞘を有する光ファイバ(本件発明)は、17FMを鞘に有する光ファイバ(引用発明2及び3)と比較して、光ファイバの耐熱性(鞘材のガラス転移温度)、伝送損失、機械的強度(繰返屈曲の回数)の3つの特性について全て優れており、予期せぬ技術的効果を有する旨(以下「主張2」という。)を主張する。(審判請求書7頁26行~10頁7行)
(2)そこで本件発明の奏する作用効果について検討する。本件明細書の段落【0077】~【0097】には【表1】~【表4】とともに、鞘材に「2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート」(13FM)を含む光ファイバの実施例と、鞘材に「2-(パーフルオロオクチル)エチルメタクリレート」(17FM)を含む光ファイバの比較例が記載されているところ、これらの試験結果から実施例は比較例に対し、上記3つの特性が優れているものと認められる。
(3)しかしながら、前記試験結果(特に【表2】~【表4】)によれば、実施例は比較例に対し、耐熱性についてはガラス転移温度が1.0~3.0℃(割合に換算すると1.3~4.0%)、伝送損失については3~5dB/km(割合に換算すると2.2~3.7%)が改善されるにとどまる。また、機械的強度については、光ファイバの鞘材の材質以上に、光ファイバを覆う被覆層の材質に依存している点が見て取れる。
(4)したがって、13FMを用いた鞘を有する光ファイバ(本件発明)が17FMを鞘に有する光ファイバ(引用発明2及び3)に対して、上記3つの特性について違いがあるとしても、当業者が予期できないほど優れた技術的効果であるとまで言うことはできない。
(5)よって、審判請求人の主張2は採用できない。
3 主張3について
(1)審判請求人は審判請求書において、追加の参考例1~4によって、17FMに代わる材料の中で13FMが格別顕著な効果を示す旨(以下「主張3」という。)を主張する。(審判請求書10頁8行~11頁7行、【表1】~【表4】)
(2)しかしながら、追加の参考例1~4で使用される「2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート(5FM)」は短鎖フルオロアルキルメタクリレート(繰り返し単位(B))に分類されるものであって、13FMと17FMが分類される長鎖フルオロアルキルメタクリレート(繰り返し単位(A))とは異なるものであることから、長鎖フルオロアルキルメタクリレート(繰り返し単位(A))の中でも13FMが優れている点を立証するものではない。
(3)よって、審判請求人の主張3は採用できない。
4 主張4について
(1)審判請求人は手続補足書を添付し、当該手続補足書から読み取れる技術事項(フッ素化アルキル基を側鎖に有するアクリレートのガラス転移温度が、同側鎖を有するメタクリレートのガラス転移温度より82~103℃低くなる傾向)から、引用文献1において、13FA(a-7)に代えて13FM(a-8)を用いると格別顕著な差が生じるものであり、また、引用発明1は本件発明と鞘材の耐熱性に関する技術思想が異なることから、13FA(a-7)に代えて13FM(a-8)を用いることは容易ではなく、格別顕著な差が生じ得る旨(以下「主張4」という。)を主張する。(審判請求12頁1行~13頁26行、参考資料1(「ふっ素樹脂ハンドブック」))
(2)しかしながら、上記のようにアクリレートよりもメタクリレートの方が耐熱性に優れるということがハンドブック等から理解できる技術事項であるのであれば、上記技術事項を知る当業者であるなら、光ファイバの耐熱性の向上という自明な課題のもと、かえってアクリレートである13FA(a-7)に代えてメタクリレートである13FM(a-8)を採用する動機となると言える。また、引用発明1が本件発明と鞘材の耐熱性に関する技術思想が異なるとしても、それをもって13FM(a-8)の使用が開示されていないということはできない。
(3)よって、審判請求人の主張4は採用できない。
第7 むすび
以上のとおり、本件発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることはできない、または、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2019-008196