特許拒絶査定不服審判
2019-004179
ニンジン汁の旨味抑制方法、ニンジン汁の製造方法、ニンジン汁、及び、にんじんジュース
- 審判番号
- 2019-004179
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-165562外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年04月01日
- 審決日
- 2020年06月30日
- 公報発行日
- 2020年10月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】カゴメ株式会社
- 分類
- P18 .121-WZ (A23L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2017-165562「ニンジン汁の旨味抑制方法、ニンジン汁の製造方法、ニンジン汁、及び、にんじんジュース」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 2月 8日出願公開、特開2018- 19706〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成27年9月30日を出願日とする特願2015-194878号の一部を、平成29年8月30日に新たな特許出願としたものである。
以降の手続は次のとおりである。
平成29年10月26日 手続補正書及び上申書の提出
平成30年 2月20日 刊行物等提出書の提出
平成30年10月16日付け 拒絶理由通知
平成30年10月22日 手続補正書及び意見書の提出
平成31年 3月 6日付け 拒絶査定
平成31年 4月 1日 審判請求書の提出
令和 2年 3月23日付け 拒絶理由通知
令和 2年 4月 8日 意見書の提出
第2 本願発明
この出願の請求項1~4に係る発明は、平成30年10月22日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
ニンジン汁の製造方法であって、それを構成するのは、少なくとも、以下の工程であり、
(1)温浴ブランチ:ここで温浴ブランチされるのは、ニンジンであり、その温度は、75度以上であり、前記ニンジンが浸っているのは、酸性水溶液であり、この酸性水溶液のpHは、2.6以下であり、
かつ、
(2)搾り:ここで搾られるのは、ブランチされたニンジンであり、それによって得られるのは、ニンジン汁である、
前記製造方法。」
第3 当審拒絶理由について
当審が令和 2年 2月23日付けで通知した拒絶理由は、概略、以下の通りである。
本願の請求項1~4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
刊行物1:特開平10-313835号公報
第4 刊行物に記載された事項
この出願の出願前に頒布された刊行物1には、以下の事項が記載されている。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 生ニンジンを皮むき状態で1日以上経過させることなく、ニンジンのペクチンエステラーゼ活性を完全に失活させ、かつペクチナーゼ活性残存率を60%以下とするように酵素失活処理し、その後破砕し搾汁する工程を有するニンジンジュースの製造方法。
【請求項2】 生ニンジンを皮むき状態で1日以上経過させることなく、ニンジンを70~80℃の水中で内部温度が70~80℃に達するまでブランチングし、その後破砕し搾汁する工程を有するニンジンジュースの製造方法。
【請求項3】 生ニンジンを皮むき状態で1日以上経過させることなく、ニンジンを60~70℃の0.02M~0.05Mクエン酸溶液中で内部温度が60~70℃に達するまでブランチングし、その後破砕し搾汁する工程を有するニンジンジュースの製造方法。」
(1b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、凝集の起こらない高品質で安定した性状のニンジンジュースを製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来のニンジンジュースの製造方法は、ニンジンを沸騰水中で加熱(ブランチング)して酵素失活させた後、破砕乃至磨砕して搾汁する方法が一般的であった。しかし、この製法では、搾汁率が低く、搾汁液の色調が悪く、ブランチングに長時間を要するために搾汁液に加熱臭が付き、その香味も悪いという問題があったため、特開平6-217744号は、ニンジンを先ず破砕又は切断しつつビタミンC及び/又はクエン酸成分を加え、その後得られた破砕物を密閉系において品温80~90℃到温となるように加熱(ブランチング)して酵素失活させた後、二軸回転型エクストルーダーにて搾汁してジュースを得る製造する方法を開示している。
【0003】
【本発明が解決しようとする課題】しかしながら、かかる発明の如く、ニンジンを破砕した後にブランチングを行うと、加熱臭は付かなくなるものの、生臭さが強くなり飲みにくくなる傾向がある。では、上記発明を、単にブランチングした後破砕するように変更すればよいかと言うと、品温80~90℃到温となるようにブランチングした場合、搾汁液に加熱臭が付く問題があるし、この加熱臭を避けるために品温の到達温度を下げると凝集が発生するようになりかえって品質を低下させてしまう。
【0004】また、品温を80~90℃に到達させるために沸騰水中でブランチングを行うと、搾汁率が低下し、香味も悪くなることが明らかになってきた。
【0005】そこで本発明は、かかる問題点に鑑みて、ニンジンジュース製造における凝集の原因を解明し、その上で、ニンジンをブランチングした後破砕する製造法において、生臭さが低く、凝集を生じることがない高品質で安定した性状のニンジンジュースを歩留り良く得られるニンジンジュースの製造方法を提供せんとする。
【0006】
【課題を解決するための手段】かかる課題解決のための本発明のニンジンジュースの製造方法は、生ニンジンを剥皮し、皮むき状態で1日以上経過させることなく、ニンジンのペクチンエステラーゼ活性を完全に失活させ、かつペクチナーゼ活性残存率を60%以下とするように酵素失活処理し、その後破砕、搾汁することを特徴とする。
【0007】本発明においては、生ニンジンを洗浄したものを剥皮する。そして、皮むき後1日以上、好ましくは12時間以上経過しない間に上記酵素失活処理する。皮むき状態で1日以上経過すると、例えば品温が90℃に達するまで十分にブランチングしても凝集の発生を防ぐことが難しくなる。
【0008】本発明の酵素失活処理は、ニンジンのペクチンエステラーゼ活性を完全に失活させ、かつペクチナーゼ活性残存率を60%以下に処理するものである。ペクチンエステラーゼ活性が完全に失活しないか、或いはペクチナーゼ活性残存率が60%以上であると、凝集が発生する可能性がある。
【0009】本発明におけるニンジンのペクチンエステラーゼ活性を完全に失活させ、かつペクチナーゼ活性残存率を60%以下にするように酵素失活処理方法としては、例えばニンジンを70~80℃の水中で内部温度が70~80℃に達するまでブランチングするのが好ましい。かかる方法において、ブランチングを行う水温が70℃より低いとペクチン分解酵素の働きにより凝集が発生するようになり、80℃より高い温度では収率が減少し、かつ加熱臭が付くようになる。
【0010】また、ニンジンを60~70℃の0.02M~0.05
Mクエン酸溶液中で内部温度が60~70℃に達するまでブランチングする方法も好ましい酵素失活処理方法である。この処理方法によれば、ブランチングを行う水温を一層低下させされるから、加熱臭の付着をより一層確実に防止でき、しかも収率をより一層高めることができる。」(注:下線は合議体が付した。以下同様。)
(1c)「【0014】(酵素添加試験)ニンジンジュースに各種酵素を添加し、凝集の発生を観察した。
【0015】従来公知の方法(沸騰水中で品温80~90℃までブランチングし、破砕、搾汁により調製)で製造したニンジン濃縮ジュースを蒸留水でbrix6.0に希釈して試料とし、この試料にセルラーゼ、ヘミセルラーゼ、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、ペクチナーゼ、ペクチンエステラーゼ、ペルオキシダーゼ、カタラーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼを1unit/ml~10unit/ml(0.08μg/ml~3.3mg/ml)の範囲で数段階に調整して添加し、各酵素の至適温度で30分間反応させた後、100℃、5分の加熱により酵素を完全に失活させた。そして5%クエン酸でpH4.2に調整し、80℃で2分間加熱し、その後の凝集を肉眼で観察した。
【0016】この結果、ペクチナーゼ添加及びペクチンエステラーゼ添加の試料に凝集が認められた。
【0017】次に、市販のニンジンを水洗浄した後、剥皮し、2cm角ダイスにカットし、これを内部温度が100℃になるまでブランチングして、破砕しネルろ過により搾汁し、遠心分離(3000rpm,10分)してニンジンジュースとし、ペクチナーゼ活性が完全に失活していることを確認し試料とした。この試料に各種酵素(ペクチナーゼ、ペクチンエステラーゼ)溶液を添加して25℃で30分間反応させ、その後100℃、5分の加熱により酵素を失活させた。そして次に5%クエン酸でpH4.2に調整し、80℃で2分間加熱し、その後の凝集を肉眼で観察した。
【0018】この結果、ペクチナーゼ活性を完全に失活させたニンジンジュースでは、ペクチナーゼ添加した場合のみ凝集が認められた。以上より、ペクチナーゼ活性が残存するニンジンジュースでは、ペクチナーゼ添加及びペクチンエステラーゼ添加に凝集が認められ、ペクチナーゼ活性を失活させたニンジンジュースでは、ペクチナーゼ添加のみ凝集が認められたのであるから、ニンジンジュースの凝集にはペクチナーゼ活性が不可欠であること、及びペクチンエステラーゼも関与していることがわかった。」
(1d)「【0019】(ブランチング温度試験)市販のニンジンを水洗浄した後、剥皮し、2cm角ダイスにカットした。これを50~100℃の各温度に設定した水中で内部温度が50~100℃に達するまでブランチングを行い(例えば、70℃の水中でニンジン内部温度が70℃に達するまでブランチングを行い、この時の温度を70℃とする。以下、同様)、その後、破砕し、ネルろ過により搾汁し、遠心分離(3000rpm,10分)してニンジンジュースとした。また、比較例としてブランシングを行わないジュースを作成した(無処理区)。
【0020】表1は、ブランチング温度試験により得られた各ジュースについてのブランチング温度、凝集評価、ペクチナーゼ活性残存率(%)、ペクチンエステラーゼ活性残存率(%)、搾汁率(重量%)、Brix、滴定酸分(W/W%)、pH、色調を示したもの・・・(略)・・・である。」
(1e)「【0023】
【表1】
【0024】表1の結果により、70℃以上でのブランチングにより凝集は防止された。また、図3の結果より、凝集が防止された70℃でのブランチングでは、ペクチナーゼ活性は60%以下に低下し、ペクチンエステラーゼ活性は完全に失活していた。さらに80℃では、ペクチナーゼ活性は30%以下に低下し、ペクチンエステラーゼ活性は完全に失活していた。これより、凝集を防止するにはペクチナーゼ活性を60%以下に低下させると共に、ペクチンエステラーゼ活性は完全に失活させる必要があると考えられる。また、図1及び図2の結果より、収率及びbrixはブランチング温度の上昇に伴い低下するため、ブランチング温度は70~80℃が好ましいと判断することができる。」
(1f)「【0025】(ニンジンの保存状態と凝集との関係)皮むき状態で1日以上経過した皮むきニンジン(米国産)を、50~100℃の水中で内部温度が各設定温度(50~100℃)となるまでブランチングを行い、その後、破砕し、ネルろ過により搾汁し、遠心分離(3000rpm,10分)してニンジンジュースとした。他方、上記と同種類のニンジン(米国産)を皮むきカットした直後に上記と同様に処理してニンジンジュースとした。そして、これらのニンジンジュースを、5%クエン酸でpH4.2に調整し、80℃で2分間加熱し、その後の凝集を肉眼で観察し、結果を表2に示した。
【0026】
【表2】
【0027】この結果、皮むき後すぐにブランチング処理したニンジンジュースでは、70℃以上のブランチングをすれば凝集が認められなかったが、皮むきの状態で長時間保存したニンジンは70~90℃でも凝集が認められた。これより、皮むき状態での保持期間も凝集の発生防止に影響することが判明した。」
(1g)「【0031】(クエン酸溶液でのブランチング試験)市販のニンジンを水洗し剥皮した後、2cm角ダイスにカットし、これを60℃の0.01~0.5Mクエン酸溶液中又は60℃の水中で内部温度が60℃に達するまでブランチングを行った。その後、いずれも破砕、ネルろ過により搾汁し、遠心分離(3000rpm,10分)してニンジンジュースとした。得られたジュースについて、上記と同様の方法で、凝集評価、搾汁率(重量%)、Brix、滴定酸分(酸度) 、pH、色調を測定及び観察し、この結果を表4に示すと共に、クエン酸濃度とペクチナーゼ活性との関係を図4に示した。
【0032】
【表4】
【0033】表4の結果より、クエン酸溶液の濃度が0.02M以上であれば、60℃のブランチングでも凝集は認められなかった。また、図4の結果より、凝集を起こした0.01Mクエン酸溶液では、ペクチナーゼ活性は水の場合と同様であったが、凝集を防止できた0.02Mクエン酸溶液では、ペクチナーゼ活性は85%前後に低下し、0.02M以上のクエン酸溶液では濃度依存的にペクチナーゼ活性は抑制された。なお、0.1M以上のクエン酸溶液ではジュースpHが低すぎるため、利用に不適当であると考えられる。」
第5 当審の判断
1 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、摘記(1b)のとおり、ニンジンをブランチングした後破砕する製造法において、生臭さが低く、凝集を生じることがない高品質で安定した性状のニンジンジュースを歩留り良く得られるニンジンジュースの製造方法を提供することが課題である旨記載されている。
そして、上記の方法を提供するために、刊行物1には、摘記(1a)の請求項1に記載された下記の発明が記載されている。
「生ニンジンを皮むき状態で1日以上経過させることなく、ニンジンのペクチンエステラーゼ活性を完全に失活させ、かつペクチナーゼ活性残存率を60%以下とするように酵素失活処理し、その後破砕し搾汁する工程を有するニンジンジュースの製造方法。」(以下、「引用発明」ともいう。)
2 本願発明との対比
引用発明と本願発明を対比する。
引用発明の「ニンジンのペクチンエステラーゼ活性を完全に失活させ、かつペクチナーゼ活性残存率を60%以下とするように酵素失活処理」することとは、具体的には刊行物1の特許請求の範囲の請求項2に記載される「ニンジンを70~80℃の水中で内部温度が70~80℃に達するまでブランチング」や請求項3に記載される「ニンジンを60~70℃の0.02M~0.05Mクエン酸溶液中で内部温度が60~70℃に達するまでブランチング」のようなブランチング処理であると認められるから、引用発明の上記酵素失活処理は、本願発明の(1)の工程と、「温浴ブランチ:ここで温浴ブランチされるのは、ニンジン」である点で共通すると認められる。
また、引用発明の「ニンジンジュース」は、本願発明の「ニンジン汁」に、引用発明の「搾汁」は、本願発明の「搾り」に相当する。
したがって、両者は
「ニンジン汁の製造方法であって、それを構成するのは、少なくとも、以下の工程であり、
(1)温浴ブランチ:ここで温浴ブランチされるのは、ニンジンであり、
かつ、
(2)搾り:ここで搾られるのは、ブランチされたニンジンであり、それによって得られるのは、ニンジン汁である、
前記製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。
相違点:温浴ブランチについて、本願発明では「その温度は、75度以上であり、前記ニンジンが浸っているのは、酸性水溶液であり、この酸性水溶液のpHは、2.6以下であり」と特定されているのに対して、引用発明ではニンジンのペクチンエステラーゼ活性を完全に失活させ、かつペクチナーゼ活性残存率を60%以下とするような酵素失活処理である点。
3 判断
(1)相違点について
刊行物1の摘記(1b)、(1c)、(1d)から、従来、ニンジンジュースの製造において、酵素失活のためにニンジンの品温が80~90℃に達する程度にブランチングする方法が行われていたが、このような方法には搾汁液の加熱臭が付くという問題があること、この加熱臭を避けるために品温の到達温度を下げると凝集が発生するようになりかえって品質を低下させてしまうという問題があること、ニンジンジュースの凝集は、酵素であるペクチンエステラーゼ及びペクチナーゼの活性によって生じることが理解され、ブランチング液が水の場合に品温70~80℃に達するようにブランチングする方法や、ブランチング液が0.02~0.05Mのクエン酸溶液の場合に品温が60~70℃に達するまでブランチングする方法などによって、ペクチンエステラーゼ活性を完全に失活させ、かつペクチナーゼ活性残存率を60%以下とすると、これらの問題が解決できることが理解される。
ここで、ニンジンジュースについて、飲用時に均一で異物感がない、すなわち凝集が生じない、ニンジンジュースを得ることは周知の課題であり、引用発明においては、ペクチンエステラーゼ及びペクチナーゼの失活がニンジンジュースの凝集を生じさせないための処理であることは、摘示(1b)の記載からも明らかであるところ、凝集のないニンジンジュースを製造するためにはこれらの酵素を確実に失活させることが必要であることは、刊行物1に接した当業者であれば当然に理解する技術的事項である。
そして、摘示(1d)(1e)から、ブランチング温度が高いほど酵素が失活し、凝集は生じにくいが、収率やbrixは低下すること、摘示(1g)から、ブランチング液としてクエン酸溶液を用いると、より酵素が失活すること、クエン酸濃度が0.02Mよりも高ければ凝集は生じにくいが、酸度が高くなると、結果としてニンジンジュースの酸味が強くなるから好ましくないことが理解されるから(表4の得られたジュースのpH値、【0033】最終文)、これらの事項を踏まえ、刊行物1に具体的に示された、0.02~0.05Mのクエン酸溶液中で品温が60~70℃に達するまでブランチングする方法だけでなく、酵素の失活をより確実にすること等を目的として、ブランチング液として0.02~0.05Mのクエン酸溶液を用いて、ブランチング液が水の場合に採用されている搾汁液の加熱臭等の問題がないとされる品温が70~80℃に達するまでのブランチングを行うことは、当業者が容易になし得ることである。
そして、本願明細書の表1の記載からも分かるように、0.02~0.05Mのクエン酸溶液のpHは本願発明に特定される「pHは、2.6以下」を満足することは、化学的事実であると認められる(特開2011-140506号公報【0135】実施例11の5行目、特開2005-21067号公報【0024】【0029】段落参照。クエン酸の濃度が高くなればpHが低下することは技術常識である。本願明細書【表1】【表2】のブランチング液のpHとニンジン汁のpHと刊行物1の表4のジュースのpH参照)。
したがって、引用発明において、酵素失活処理として0.02~0.05Mのクエン酸溶液中で品温が70~80℃に達するまでブランチングすること、そして、ペクチンエストラーゼ活性を完全に失活させる等により凝集の防止をより確実に行うことを重視して、「その温度は、75度以上であり、前記ニンジンが浸っているのは、酸性水溶液であり、この酸性水溶液のpHは、2.6以下」の温浴ブランチを行うことは、当業者が容易になし得ることである。
(2)効果について
本願明細書の表1をみると、ブランチング温度がより低い実施例1、2に対して、ブランチング温度が高い実施例3~9はニンジン汁の後味を悪くするグアニル酸の生成量が多いことから、本願発明において、75度以上の温度で温浴ブランチングしたことによって、当業者の予測を超えた作用効果が生じていることは示されておらず、格別顕著な効果が奏されたとは認められない。
(3)審判請求人の主張について
ア 審判請求人は、令和2年4月8日に提出した意見書「2.出願人の意見」において、「第1に、「品温が70~80℃に達するまでのブランチングを行う」にあたり、殊更、「「酵素の失活をより確実にする」との動機は、生じません。刊行物1に記載のとおり、「凝集が防止された70℃でのブランチングでは、ペクチナーゼ活性は60%以下に低下し、ペクチンエステラーゼ活性は完全に失活していた。さらに80℃では、ペクチナーゼ活性は30%以下に低下し、ペクチンエステラーゼ活性は完全に失活していた。」(段落[0024])からです。」と述べ、酵素の失活をより確実にするという動機について刊行物1には記載されていない旨主張する。
イ また、審判請求人は、令和2年4月8日に提出した意見書「2.出願人の意見」において、「第2に、仮に「酵素の失活をより確実にする」との動機があったとしても、クエン酸溶液が採用されるか否かは、疑問です。刊行物1の記載のとおり、「凝集を起こした0.01Mクエン酸溶液では、ペクチナーゼ活性は水の場合と同様であったが、凝集を防止できた0.02Mクエン酸溶液では、ペクチナーゼ活性は85%前後に低下し、0.02M以上のクエン酸溶液では濃度依存的にペクチナーゼ活性は抑制された。」(段落[0033])ことから、クエン酸溶液のペクチナーゼ活性抑制効果は、極めて弱いです。「濃度依存的にペクチナーゼ活性は抑制され」るとしても、その抑制程度は、明示されていません。しかも、クエン酸濃度0.02M(酸度0.13w/w%)から0.02M(酸度0.26w/w%)の間で、酸度が0.20w/w%を超える(刊行物1の段落[0032]の[表4])ことからすると、抑制効果を狙ってクエン酸濃度を高めれば、ニンジン汁らしからぬ酸味が無視できなくなります。つまり、「酵素の失活をより確実にする」ために、クエン酸溶液を採用することは、そのメリットよりもデメリットの方が多いと言わざるを得ません。」と述べ、クエン酸溶液によるペクチナーゼ活性抑制効果は極めて低く、抑制効果を狙ってクエン酸溶液の濃度を高めると酸味の問題が発生する旨主張する。
ア について
刊行物1の摘示(1f)【表2】の記載から、ペクチンエステラーゼ、ペクチナーゼのような酵素が十分に失活していないことに起因する凝集のような問題の発生が理解されるところ、審判請求人の指摘する刊行物1の【0024】の記載を考慮してもなお、上記(1)で検討したとおり、引用発明においてこれらの酵素の残存活性に起因する問題を回避すべく酵素を十分に失活させること、すなわち、より高いブランチング温度を採用することは、当業者であれば容易に想到することである。
よって、上記審判請求人の主張アを採用することはできない。
イ について
上記(1)で検討したとおり、クエン酸溶液として刊行物1に具体的に示された0.02~0.05Mの濃度のものを使用することは当業者が容易になし得ることであり、刊行物1の摘示(1g)【0033】には「凝集を起こした0.01Mクエン酸溶液では、ペクチナーゼ活性は水の場合と同様であったが、凝集を防止できた0.02Mクエン酸溶液では、ペクチナーゼ活性は85%前後に低下し、0.02M以上のクエン酸溶液では濃度依存的にペクチナーゼ活性は抑制された。なお、0.1M以上のクエン酸溶液ではジュースpHが低すぎるため、利用に不適当であると考えられる。」と記載されているから、0.02~0.05Mの濃度のクエン酸溶液を使用する場合に審判請求人の主張する酸味の問題が発生するとはいえない。
よって、上記審判請求人の主張イを採用することはできない。
4 まとめ
したがって、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第6 まとめ
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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