特許拒絶査定不服審判
2024-016617
プラズマサイトイド樹状細胞活性化用組成物
- 審判番号
- 2024-016617
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-581181
- 請求日
- 2024年10月17日
- 審決日
- 2025年12月01日
- 公報発行日
- 2026年02月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】森永乳業株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人秀和特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 松田 成正
- 審判官 宮久保 博幸
- 審判官 天野 宏樹
- 分類
- P18 .113-Z (A23L) / P18 .121-Z (A23L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-581181「プラズマサイトイド樹状細胞活性化用組成物」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 8月18日国際公開、WO2022/172523〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
この出願は、2021年10月29日(優先権主張2021年2月9日、日本国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和6年 3月29日付け 拒絶理由通知
同 年 5月29日 意見書及び手続補正書の提出
同 年 7月18日付け 拒絶査定
同 年10月17日 審判請求書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~5に係る発明は、令和6年5月29日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項3に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次に示す請求項3並びに請求項3の引用する請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。
「 【請求項1】
ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する、プラズマサイトイド樹状細胞(pDC)活性化用組成物であって、
前記活性化が、pDCにおけるCD86発現量の増加、及び/又はpDCにおけるHLA-DR発現量の増加である、組成物。
【請求項2】
ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する、pDCにおけるCD86発現及び/又はHLA-DR発現の促進用組成物。
【請求項3】
免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる、請求項1又は2に記載の組成物。」
第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、令和6年3月29日付け拒絶理由通知に示された理由1、2であり、次のとおりのものである。
「1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
●理由1(新規性)、理由2(進歩性)について
・請求項 1-7
・引用文献等 1
……
・請求項 1-7
・引用文献等 2-5
……
<引用文献等一覧>
1.VAN SPLUNTER, M. et al.,Bovine Lactoferrin Enhances TLR7-Mediated Responses in Plasmacytoid Dendritic Cells in Elderly Women,Frontiers in Immunology,2018年,Vol. 9, Article 2677,pp. 1-12,doi: 10.3389/fimmu.2018.02677
2.特開平7-179355号公報
3.特開2006-83089号公報
4.特開2004-359648号公報
5.久原徹哉,ラクトフェリンの生理機能とその応用,New Food Industry,2006年,Vol. 48, No. 12,pp. 63-70」
第4 当審の判断
当審は、原査定の拒絶の理由1(新規性)、理由2(進歩性)に示すとおり、
(A)本願発明は、本願優先日時点の技術常識を考慮すると、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、また引用文献1に記載された発明に基いて、本願優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、及び
(B)本願発明は、本願優先日時点の技術常識を考慮すると、引用文献2~5のいずれかに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、また引用文献2~5に記載された発明に基いて、本願優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、と判断する。
理由は、以下のとおりである。
1 本願明細書の記載
本願明細書には、次の記載がある(下線は、当審による)。
記載(本-1)
「【背景技術】
【0002】
樹状細胞は、自然免疫系および獲得免疫系を高度に制御する免疫細胞である。樹状細胞の一種であるプラズマサイトイド樹状細胞(形質細胞様樹状細胞、plasmacytoid dendritic cell、以降「pDC」とも記す)は、Toll様受容体(TLR)7およびTLR9を発現しており、TLR-7やTLR-9でウイルス由来のRNAやDNAを認識し、ウイルスに対して増殖阻害活性を示す大量のI型インターフェロン(IFN)を産生する。また、pDCは抗原提示細胞としても働き、特定のT細胞を活性化する。」
記載(本-2)
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、pDCを活性化させることにより、免疫機能を維持、改善、又は強化することができる組成物を提供することを課題とする。」
記載(本-3)
「【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、ヒト末梢血から回収した単核細胞をLF存在下で培養すると、pDCが増加し、またCD86陽性細胞も増加することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の第一の態様は、ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する、プラズマサイトイド樹状細胞(pDC)活性化用組成物である。
……。
本発明の第三の態様は、ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する、pDCにおけるCD86及び/又はHLA-DR発現促進用組成物である。
これら本発明の組成物は、免疫機能を維持、改善、又は強化するために好ましく用いられる。また、これら本発明の組成物は、飲食品又は医薬品の形態であってよい。」
記載(本-4)
「【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、pDCを活性化させることにより、免疫機能を維持、改善、又は強化することができる。」
記載(本-5)
「【0019】
本態様の組成物において、ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物の組成物全体に対する含有量は、好ましくは0.001質量%以上100質量%未満、より好ましくは0.005~95質量%、さらに好ましくは0.01~85質量%である。」
記載(本-6)
「【0020】
本発明の組成物は、pDCを活性化することができる。
……。
【0021】
また、pDCの活性化には、pDCの活性化マーカーの発現が高いことが含まれる。
前述の通りpDCは抗原提示細胞としても働き、ヒトのpDCは、主要組織適合抗原クラスII(MHC-II)である白血球型抗原遺伝子複合体(HLA)-DR陽性細胞である。pDCはHLA-DRにより外来抗原を提示することで、CD4陽性T細胞やCD8陽性T細胞を活性化することができる。……。したがって、pDCのMHC-IIであるHLA-DRや共刺激分子であるCD86などの発現が高いことは、pDCの抗原提示細胞としての活性が高いことを示す指標となる(……)。すなわち、HLA-DR、CD86、CD40、CD80、CD83等はpDCの活性化マーカーとして評価に用いることができる。
【0022】
……。CD86陽性細胞はCD86を発現している細胞を指し、pDCにおいてCD86の発現はpDCの活性化を表す。なお、pDCは元々HLA-DR陽性細胞であるため、一部のpDCのみが発現するCD86とは異なり、HLA-DR陽性細胞数の割合はpDC活性化の指標とはならない(……)。
また、pDCの活性化マーカーの発現が高いことには、pDCにおけるCD86及び/又はHLA-DR発現量の増加が含まれる。……。言い換えると、本発明の組成物は、pDCにおけるCD86及び/又はHLA-DR発現を促進することができる。
ここで、CD86及び/又はHLA-DRの発現は、周知の方法で定性的又は定量的に確認することができ、例えば蛍光標識化抗体を用いた免疫学的手法等により行うことができる。」
記載(本-7)
「【0023】
本発明の組成物はpDCを活性化させることから、種々の免疫細胞の働きを活性化したり、IFN産生を促進したりすることが見込まれるため、免疫機能を維持、改善、又は強化することが期待できる。免疫機能の維持とは正常又は良好な免疫機能が発揮されている状態を保ち機能低下することを防ぐことを含み、免疫機能の改善とは低下した免疫機能を正常な状態にすることを含む。」
記載(本-8)
「【0037】
本発明の組成物が飲食品(飼料を含む)の態様である場合、免疫機能の維持等の用途が表示された飲食品として提供・販売されることが可能である。また、本明細書に係るラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物は、これら飲食品等の製造のために使用可能である。
……
【0040】
また、「表示」には、健康食品、機能性食品、経腸栄養食品、特別用途食品、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、医薬用部外品等としての表示も挙げられる。……。
かかる表示としては、例えば、「pDC(プラズマサイトイド樹状細胞)に働きかけ」、「免疫細胞pDCに働きかける」、「免疫細胞pDCを活性化する」「免疫細胞pDCを増やす」、「健康な人の免疫機能の維持に役立つ」、「免疫機能を高める」、「免疫機能をサポート」、「健康な人の免疫機能の維持をサポート」、「pDC (プラズマサイトイド樹状細胞)に働きかけ、健康な人の免疫機能の維持に役立つ」等と表示することが挙げられる。」
記載(本-9)
「【0050】
[実施例1]
協力者(n=3)から採取したヒト末梢血から単核細胞(PBMC)を回収した。ラクトフェリン(森永乳業株式会社製MLF-2)(100~200μg/mL)を添加又は非添加(対照群)した、……。培養開始24時間後に細胞を回収し、フローサイトメーターを用いて、PBMCの各免疫細胞の細胞表面マーカーCD86の発現を評価した。なお、CD86の発現(陽性)は、pDCの活性化を表す。
結果を表1に示す。いずれの試料においても、ラクトフェリン存在下で培養した場合に、計測した全細胞数におけるpDC数の割合も、pDC中のCD86陽性細胞数の割合も増加したことが認められた。また、pDC1細胞当たりのCD86発現量も増加したことが認められた。」
記載(本-10)
「【0052】
[実施例2]
協力者(n=2)から採取したヒト末梢血から単核細胞(PBMC)を回収した。ラクトフェリン(森永乳業株式会社製MLF-2)(100μg/mL)を添加又は非添加(対照群)した、……。培養開始24時間後に細胞を回収し、フローサイトメーターを用いて、PBMCの各免疫細胞の細胞表面マーカーCD86とHLA-DRの発現を評価した。なお、CD86とHLA-DRの発現はそれぞれ、pDCの活性化を表す。
結果を表2に示す。ラクトフェリン存在下で培養した場合に、pDC1細胞当たりのCD86とHLA-DR発現量も増加したことが認められた。」
2 本願発明の組成、及び用途
(1)本願発明の組成
上記第2に示した請求項3の引用する請求項1及び請求項2に記載された事項により、本願発明は、
「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する」組成物であることが特定されている。
一方、「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物」の組成物全体に対する含有量については、請求項1~3には記載されていない。
また、本願明細書においては、請求項1に係る組成物~請求項3に係る組成物それぞれを区別することなく、記載(本-5)に「本態様の組成物において、ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物の組成物全体に対する含有量」を「好ましくは……。」として示していることを参酌すると、「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物」の組成物全体に対する含有量が、請求項1~3に記載されたいずれかの事項によって、特定されているとも認められない。
したがって、本願発明の組成は、「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する」ことと認められる。
(2)本願発明の用途
本願発明では、上記第2に示した請求項3に記載された事項により、本願発明が、
「免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる」組成物であることが特定されている。
そこで、上記第2に示した請求項3の引用する請求項1及び請求項2に記載された事項が、本願発明の用途をさらに限定するものであるかを検討する。
本願発明は、記載(本-2)及び記載(本-4)に示されるとおり、pDCを活性化させることにより、免疫機能を維持、改善、又は強化することができる組成物を提供することを課題とする発明であると認められる。
記載(本-7)には、本願発明が、pDCを活性化させることから、種々の免疫細胞の働きを活性化したり、IFN産生を促進したりすることが見込まれるため、免疫機能を維持、改善、又は強化することが期待できるものであることが示されている。
記載(本-6)、記載(本-9)及び記載(本-10)には、本願明細書において、CD-86の発現、HLA-DRの発現が、pDCの活性化を表すものとして用いられていることが示されている。
また、pDCのCD-86の発現量やHLA-DRの発現量が、pDCの活性化を表す指標となることは、当業界において知られたことでもある(例えば、藤原大介 他,“ウイルス感染防御を統括するプラズマサイトイド樹状細胞を活性化する乳酸菌の開発”,化学と生物,53巻9号,p.626-631(2015年)(特に、p.629左欄3~12行、図5~7)(URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/53/9/53_530914/_pdf/-char/ja)、及び、小岩井乳業株式会社“乳酸菌による「免疫賦活」効果”,一般社団法人全国発酵乳乳酸菌飲料協会 発酵乳乳酸菌飲料公正取引協議会(2015年)(特に、第1頁右欄4行~第2頁左欄7行、第3頁右欄3行~第4頁左欄15行、図3)(URL:https://www.nyusankin.or.jp/wp/wp-content/uploads/2019/12/Nyusankin_487_a.pdf)などを参照のこと)。
これらのことから、本願発明は、pDCの活性化を、免疫機能を維持、改善、又は強化することの作用機序とするものであって、本願発明にいう「pDCにおけるCD86発現量の増加、及び/又はpDCにおけるHLA-DR発現量の増加」及び「pDCにおけるCD86発現及び/又はHLA-DR発現の促進」は、本願発明が免疫機能を維持、改善、又は強化することの作用機序であるpDCの活性化を示すために採用された指標であると認められる。
記載(本-3)には、請求項1に記載された事項に対応する「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する、プラズマサイトイド樹状細胞(pDC)活性化用組成物」、及び請求項2に記載された事項に対応する「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する、pDCにおけるCD86及び/又はHLA-DR発現促進用組成物」は、免疫機能を維持、改善、又は強化するために好ましく用いられるものであることが示されている一方、本願明細書には、「免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる」ことが、pDCにおけるCD86発現量の増加、及び/又はpDCにおけるHLA-DR発現量の増加、あるいは、pDCにおけるCD86発現及び/又はHLA-DR発現の促進、によって限定されることは示されていない。
また、記載(本-8)には、本願発明の組成物が、免疫機能の維持等の用途が表示された飲食品として提供・販売される場合の表示の例が挙げられているが、そこにも、pDCにおけるCD86発現量の増加、及び/又はpDCにおけるHLA-DR発現量の増加に関する表示例や、pDCにおけるCD86発現及び/又はHLA-DR発現の促進に関する表示例は挙げられていない。
さらに、本願明細書には、「免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる」ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する組成物から、「pDCを活性化させることにより、免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる」ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する組成物を、区別するための手段や方法等はまったく示されておらず、本願明細書の他の箇所にも、本願発明にいう「免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる」ことが、「pDCを活性化させることにより、免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる」ことに限定されることは示されていない。
したがって、請求項3の引用する請求項1に記載された事項「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する、プラズマサイトイド樹状細胞(pDC)活性化用組成物であって、前記活性化が、pDCにおけるCD86発現量の増加、及び/又はpDCにおけるHLA-DR発現量の増加である、組成物」、及び同請求項2に記載された事項「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する、pDCにおけるCD86発現及び/又はHLA-DR発現の促進用組成物」との事項は、本願発明の用途を、「免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる」ことから、さらに限定するものとは認めらない。
以上より、本願発明の用途は、「免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる」ことであると認められる。
3 原査定の拒絶の理由1(新規性)、理由2(進歩性)のうち、上記(A)に示す理由について
(1)引用文献1(VAN SPLUNTER, M. et al.,Bovine Lactoferrin Enhances TLR7-Mediated Responses in Plasmacytoid Dendritic Cells in Elderly Women,Frontiers in Immunology,2018年,Vol. 9, Article 2677,pp. 1-12,doi: 10.3389/fimmu.2018.02677)の記載事項
原査定で引用された引用文献1には、次の記載がある。訳文にて示す。
記載(1-1)
「ウシラクトフェリンは、高齢女性における形質細胞様樹状細胞におけるTLR7媒介性応答を増強する:ウシラクトフェリン、GOSおよびビタミンDを用いた栄養介入研究からの結果。」(第1頁(タイトル))
記載(1-2)
「加齢の間、免疫系は調節不全になる。特に、プラズマサイトイド樹状細胞(pDCs)および骨髄系樹状細胞(mDCs)は、Toll様受容体(TLR)媒介性応答を低下させ、感染に対する感受性の増加をもたらす。ウシラクトフェリン(bLF)の消費は、ウイルスによる感染を減少させることが示されている。ガラクトオリゴ糖(GOS)およびビタミンDは、それぞれ、血清中の炎症促進性サイトカインレベルの低下およびTLR7/8応答の増加と関連する。bLF、GOSおよびビタミンDの、pDCsおよびmDCsのTLR応答性を回復させ、血清中の炎症マーカーを減少させる可能性を調査するために、高齢女性における二重盲検プラセボ対照栄養介入試験を実施した。栄養介入群(n=15)は、bLFを3週間、続いてbLF+GOSを3週間、その後bLF+GOS+ビタミンDを3週間受けた。プラセボ群(n=15)は、マルトデキストリンを9週間受けた。3週間ごとに血液を採取し、pDCsおよびmDCsのTLR応答、ならびに血清中の炎症関連マーカーを測定した。bLF補充の3週間後、プラセボ群と比較して、栄養介入群のpDCsにおいてTLR7/8及びTLR1/2応答の増加が観察された。栄養介入全体の効果を調べたところ、mDCsにおいてTLR1/2媒介性応答の増加が観察され、血清においてsVCAMは減少する傾向があった。最後に、RAND-36質問票に基づいた身体機能は、介入群において改善する傾向があった。特に、pDCsにおけるTLR7媒介性応答は、プラセボと比較してbLF補充後に増強されたので、これは、bLFが、高齢女性においてpDCによって媒介される抗ウイルス応答に寄与し得ることを示唆する。臨床試験登録番号:NCT03026244,clinicaltrials.gov.」(第1頁(要約))
記載(1-3)
「試験製品
介入群において、対象は、3週間分のbLF(活性用量として1g/日のbLFを含有する1.026g/日のヴィヴィナル・ラクトフェリン粉末;フリースラントアンドカンピーナ・ドモ、オランダ アメルスフォールト)を受けた。……。マルトデキストリンをプラセボ製品として、ならびに栄養介入製品のための担体として使用した。」(3頁左欄27行~右欄6行)
記載(1-4)
「TLR刺激時のpDCsにおける細胞内サイトカイン産生に対する栄養介入の効果
栄養介入がpDCsにおける抗ウイルス応答に影響を及ぼすかどうかを決定するために、TLR7/8リガンドR848による刺激後に細胞内のIFN-α、IL-6、およびTNF-α産生を測定した。栄養介入群ではプラセボ群と比較して、0日目と比較して21日目にIL-6+pDCsの割合が有意に増加し(p=0.005)、IFNα+pDCsは増加する傾向(p=0.09)があった(図2)。栄養介入群は最初の21日間にbLFを消費したのみであるので、これは、ラクトフェリン補充がTLR7/8刺激に対するpDCsの応答を増加させたことを示す。TNF-α+pDCsは、TLR7/8刺激後の栄養介入群においては0日目と比較して42日目に増加する傾向があったが、プラセボ群では21日目から42日目に増加した。」(5頁右欄1行~16行)
記載(1-5)
「pDCsは、インフルエンザ感染時のIFN-αの主要な産生体であり、これはTLR7媒介性である(14)。bLFは、TLR7によっても認識されるライノウイルスおよびC型肝炎による感染数の減少に関連するので(19-21)、本発明者らは、bLRによる栄養的介入が、pDCsによる抗ウイルスサイトカインIFN-αの産生を増加させ得ると仮定した。実際に、bLF補充単独(0~21日)は、IL-6の産生を増強し、pDCsにおけるTLR7/8刺激に応答してIFN-αの産生を増加させる傾向があった。その後のGOSおよびビタミンDの補充は、プラセボと比較して、使用した任意のTLR刺激に応答するpDCsのサイトカイン産生をさらに増強しなかった。対照的に、最初の3週間の間のbLFの補充は、同じ刺激に対するmDCの増強された応答をもたらさず、炎症に関与する血清マーカーにも影響を及ぼさなかった。」(7頁右欄46行~8頁右欄3行)
記載(1-6)
「結論として、bLF、GOSおよびビタミンDによる影響補充は安全であり、pDCおよびmDCの両方において高齢女性におけるTLR刺激に対する応答を増強するが、血清中の炎症促進性マーカーに対する明確な効果は観察されず、これはおそらく研究群の規模によるものである。特に、pDCsにおけるTLR7媒介性応答は、プラセボと比較してbLF補充後に増強され、bLFが高齢女性におけるウイルス感染に対する保護に寄与し得ることを示唆した。」(10頁左欄31行~38行)
(2)引用文献1に記載された発明
記載(1-3)には、ウシラクトフェリン(bLF)を含有する組成物を対象者に与えたことが示されており、その結果として、記載(1-1)~記載(1-2)、記載(1-4)~記載(1-6)には、加齢により免疫系が調整不全になるとされるところ、高齢女性に対してウシラクトフェリンを摂取させることにより、プラズマサイトイド樹状細胞(pDCs)におけるTLR7/8媒介性反応が増強され、IFN-α、IL-6、およびTNF-α産生が増加することが示され、記載(1-1)~記載(1-2)及び記載(1-6)には、ウシラクトフェリンが高齢女性におけるプラズマサイトイド樹状細胞におけるTLR7媒介性応答を増強してウイルス感染に対する保護に寄与し得ることが示されている。
したがって、記載(1-1)~記載(1-6)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
<引用発明1>
「高齢女性に対して、プラズマサイトイド樹状細胞におけるTLR7/8媒介性反応を増強し、IFN-α、IL-6、およびTNF-α産生を増加させて、ウイルス感染に対する保護をするための、ラクトフェリンを含有する、組成物。」
(3)対比・判断
ア 対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
本願発明と引用発明1とは、いずれも組成物であって、
引用発明1の組成と認められる「ラクトフェリンを含有する」は、上記2(1)に示した本願発明の組成「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する」ことに該当する。
そうすると、本願発明と引用発明1とは、
「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する、組成物。」である組成の点では一致し、次に示す用途に係る文言上の相違点(1)で、文言上は相違する。
文言上の相違点(1):
本願発明の用途は、上記2(2)に示したとおり、「免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる」ことである一方、
引用発明1の用途は、「高齢女性に対して、プラズマサイトイド樹状細胞におけるTLR7/8媒介性反応を増強し、IFN-α、IL-6、およびTNF-α産生を増加させて、ウイルス感染に対する保護をするための」であると認められる点。
イ 文言上の相違点(1)についての判断
公知の物は、原則として、特許法29条1項各号により新規性を欠くこととなるが、当該物について未知の属性を発見し、その属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見出した発明であるといえる場合には、当該発明は、当該用途の存在によって公知の物とは区別され、用途発明としての新規性が認められるものと解される(令和4年12月13日判決言渡 令和3年(行ケ)第10066号判決を参照のこと)。
引用発明1の用途「高齢女性に対して、プラズマサイトイド樹状細胞におけるTLR7/8媒介性反応を増強し、IFN-α、IL-6、およびTNF-α産生を増加させて、ウイルス感染に対する保護をするための」は、本願発明の用途「免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる」ことに該当すると認められるので、文言上の相違点(1)は実質的な相違点ではなく、本願発明の用途が新たな用途であるとすることはできない。
したがって、本願発明は、「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する、組成物。」について未知の属性を発見し、その属性により、「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する、組成物。」が新たな用途への使用に適することを見出した発明であるとはいうことはできない。
よって、本願発明は、引用発明1であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
なお、仮に、本願発明が、上記第2に示した請求項3の引用する請求項1に記載された事項「プラズマサイトイド樹状細胞(pDC)活性化用組成物であって、前記活性化が、pDCにおけるCD86発現量の増加、及び/又はpDCにおけるHLA-DR発現量の増加である、組成物」、及び同請求項2に記載された事項「pDCにおけるCD86発現及び/又はHLA-DR発現の促進用組成物」によって、引用発明1と異なるとした場合についても、念のために検討する。
上記(2)に示したとおり、引用文献1には、ウシラクトフェリンを含有する組成物が、高齢女性に対して、プラズマサイトイド樹状細胞におけるTLR7/8媒介性反応を増強し、IFN-α、IL-6、およびTNF-α産生を増加させて、ウイルス感染に対する保護に寄与し得ることが記載されている。
また、pDCのIFN-α産生とともに、pDCのHLA-DRやCD86の発現量が、プラズマサイトイド樹状細胞(pDC)の関与する免疫賦活作用の指標となることは、当業界において知られたことである(例えば、藤原大介 他,“ウイルス感染防御を統括するプラズマサイトイド樹状細胞を活性化する乳酸菌の開発”,化学と生物,53巻9号,p.626-631(2015年)(特に、p.629左欄3~12行、図5~7)(URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/53/9/53_530914/_pdf/-char/ja)、及び、小岩井乳業株式会社“乳酸菌による「免疫賦活」効果”,一般社団法人全国発酵乳乳酸菌飲料協会 発酵乳乳酸菌飲料公正取引協議会(2015年)(特に、第1頁右欄4行~第2頁左欄7行、第3頁右欄3行~第4頁左欄15行、図3)(URL:https://www.nyusankin.or.jp/wp/wp-content/uploads/2019/12/Nyusankin_487_a.pdf)などを参照のこと)。
したがって、引用文献1に記載されたプラズマサイトイド樹状細胞(pDC)の関与する免疫賦活作用について、IFN-α、IL-6、およびTNF-α産生増加を指標とすることに代えて、HLA-DRやCD86の発現量の増加または発現の促進を指標として、本願発明をすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、本願発明による効果として、ヒト末梢血から回収された単核細胞(PBMC)をラクトフェリン存在下で培養したものにおいて得られた効果が、記載(本-9)及び記載(本-10)に具体的に示されているものの、本願発明の組成と引用発明1との組成に差異がない以上、技術常識を参酌しても、「免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる」ことを用途とする本願発明により、当業者の予想し得ない顕著な効果が得られるとは認められない。
よって、仮に、本願発明が、請求項3の引用する請求項1に記載された事項「プラズマサイトイド樹状細胞(pDC)活性化用組成物であって、前記活性化が、pDCにおけるCD86発現量の増加、及び/又はpDCにおけるHLA-DR発現量の増加である、組成物」、及び同請求項2に記載された事項「pDCにおけるCD86発現及び/又はHLA-DR発現の促進用組成物」によって、引用発明1と異なるとしても、本願発明は、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(4)小括
以上のとおり、本願発明は、引用発明1であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、また、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
4 原査定の拒絶の理由1(新規性)、理由2(進歩性)のうち、上記(B)に示す理由について
(1)引用文献2(特開平07-179355号公報)を根拠とする理由について
ア 引用文献2の記載事項
記載(2-1)
「【請求項1】 哺乳類のラクトフェリン、哺乳類のアポラクトフェリン、哺乳類の金属飽和ラクトフェリン、およびこれらの任意の混合物からなる群より選択されたラクトフェリンを加水分解して得られるラクトフェリン分解物を有効成分とするIgGおよびIgMクラスの抗体産生を促進する免疫賦活剤。」
記載(2-2)
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来ラクトフェリン類の加水分解物が血清の存在下で抗体産生促進作用を有するという報告はなされておらず、さらに、血清の存在下でIgGおよびIgMの両クラスの抗体産生を同時に促進するという報告は皆無であった。
この発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、全身性免疫に関係するIgGおよびIgMの両クラスの抗体産生能を血清存在下で同時に促進する新しい免疫賦活剤を提供することを目的としている。
【0006】
【問題を解決するための手段】
この発明の発明者らは、ラクトフェリン類の加水分解物の新規な作用効果について鋭意研究を重ねた結果、ラクトフェリン類の加水分解物が、血清存在下においても強い免疫賦活作用を発現し、IgGおよびIgMの両クラスの抗体産生を同時に促進することを発見し、この発明を完成した。」
記載(2-3)
「【0020】試験例2
この試験は、LF分解物のIgGおよびIgMクラスの抗体産生促進効果を調べるために行った。
1.試料の調製
試験例1と同一の方法によりLF分解物を調製した。
2.試験方法
リンパ細胞を試験例1と同一の方法により調製し、106 個/mlの割合に調整したリンパ細胞を、チューブ当たり1mlずつ分注し、表2に示す濃度でLF分解物を添加し、5%CO2 存在下、37℃で1週間培養した。培養終了後、培養上清中のIgGおよびIgMクラスの抗体量を酵素抗体法[イムノケミストリ-(Immunochemistry) 、第8巻、第871ペ-ジ、1971年]により測定し、培養上清中にリンパ細胞から産生されたIgGおよびIgMの量を測定した。なお、LF分解物を添加しない対照試料についても、前記と同一の方法によりIgGおよびIgMの量を測定した。
3.試験結果
この試験の結果は、表2に示すとおりである。表2から明らかなようにLF分解物を10μg/ml以上の濃度で添加した試験試料において、IgGおよびIgMクラスの抗体産生が格段に促進されることが認められ、LF分解物の添加量の増加によりこれらの抗体産生が顕著に促進された。この試験結果は、従来全く知られていなかったLF分解物の新しい効果を示しており、この発明の発明者らが初めて見出した事実である。」
記載(2-4)
「【0026】
【発明の効果】以上詳しく説明したとおり、この発明によって奏せられる効果は、次のとおりである。
1)リンパ球の増殖を促進し、IgGおよびIgMクラスの抗体の産生を増強することにより、疾病、老化等による免疫能の低下を予防または改善することができる。
2)乳等の天然物より調製したLF分解物を有効成分としているので、極めて安全性が高い。」
イ 引用文献2に記載された発明
記載(2-1)~記載(2-4)から、引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。
<引用発明2>
「哺乳類のラクトフェリン、哺乳類のアポラクトフェリン、哺乳類の金属飽和ラクトフェリン、およびこれらの任意の混合物からなる群より選択されたラクトフェリンを加水分解して得られるラクトフェリン分解物を有効成分とするIgGおよびIgMクラスの抗体産生を促進する免疫賦活剤」
ウ 対比・判断
(ア)対比
本願発明と引用発明2とを対比する。
本願発明と引用発明2とは、いずれも組成物であって、
引用発明2の組成と認められる「哺乳類のラクトフェリン、哺乳類のアポラクトフェリン、哺乳類の金属飽和ラクトフェリン、およびこれらの任意の混合物からなる群より選択されたラクトフェリンを加水分解して得られるラクトフェリン分解物を有効成分とする」は、本願発明の組成「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する」ことに該当する。
そうすると、本願発明と引用発明2とは、
「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する、組成物。」である組成の点では一致し、次に示す用途に係る文言上の相違点(2)で、文言上は相違する。
文言上の相違点(2):
本願発明の用途は、上記2(2)に示したとおり、「免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる」ことである一方、
引用発明2の用途は、「IgGおよびIgMクラスの抗体産生を促進する免疫賦活」であると認められる点。
(イ)文言上の相違点(2)についての判断
公知の物は、原則として、特許法29条1項各号により新規性を欠くこととなるが、当該物について未知の属性を発見し、その属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見出した発明であるといえる場合には、当該発明は、当該用途の存在によって公知の物とは区別され、用途発明としての新規性が認められるものと解される(令和4年12月13日判決言渡 令和3年(行ケ)第10066号判決を参照のこと)。
記載(2-4)には、IgGおよびIgMクラスの抗体の産生を増強することにより、疾病、老化等による免疫能の低下を予防または改善することができることが示されていることから、引用発明2の用途「IgGおよびIgMクラスの抗体産生を促進する免疫賦活」は、本願発明の用途「免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる」ことに該当すると認められるので、文言上の相違点(2)は実質的な相違点ではなく、本願発明の用途が新たな用途であるとすることはできない。
したがって、本願発明は、「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する、組成物。」について未知の属性を発見し、その属性により、「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する、組成物。」が新たな用途への使用に適することを見出した発明であるとはいうことはできない。
よって、本願発明は、引用発明2であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
なお、仮に、文言上の相違点(2)が実質的な相違点であるとしても、「IgGおよびIgMクラスの抗体産生を促進する免疫賦活」を用途とする引用発明2を、「免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる」ことを用途とするものにして、本願発明をすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、本願発明による効果として、ヒト末梢血から回収された単核細胞(PBMC)をラクトフェリン存在下で培養したものにおいて得られた効果が、記載(本-9)及び記載(本-10)に具体的に示されているものの、本願発明の組成と引用発明2との組成に差異がない以上、技術常識を参酌しても、「免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる」ことを用途とする本願発明により、当業者の予想し得ない顕著な効果が得られるとは認められない。
よって、仮に、本願発明が、文言上の相違点(2)によって、引用発明2と異なるとしても、本願発明は、引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
エ 小括
以上のとおり、本願発明は、引用発明2であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、また、引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(2)引用文献3(特開2006-083089号公報)を根拠とする理由について
ア 引用文献3の記載事項
記載(3-1)
「【請求項1】
ラクトフェリンを有効成分として含有するインターフェロン-α産生増強剤。
【請求項2】
ラクトフェリンが、金属飽和型、金属部分飽和型、アポ型からなる群より選択される1種又は2種以上の混合物である請求項1に記載のインターフェロン-α産生増強剤。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のインターフェロン-α産生増強剤を含有してなる飲食品。
【請求項4】
ラクトフェリンを含有し、インターフェロン-α産生増強作用を有するものであることを特徴とし、インターフェロン-α産生増強のために用いられるものである旨の表示を付した飲食品。
【請求項5】
ラクトフェリンを有効成分として含有するインターフェロン-β産生増強剤。
【請求項6】
ラクトフェリンが、金属飽和型、金属部分飽和型、アポ型からなる群より選択される1種又は2種以上の混合物である請求項5に記載のインターフェロン-β産生増強剤。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載のインターフェロン-β産生増強剤を含有してなる飲食品。
【請求項8】
ラクトフェリンを含有し、インターフェロン-β産生増強作用を有するものであることを特徴とし、インターフェロン-β産生増強のために用いられるものである旨の表示を付した飲食品。」
記載(3-2)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトフェリンを有効成分とする、抗ウイルス、抗腫瘍、細胞増殖抑制、免疫修飾作用等の効果を有するインターフェロン-α産生増強剤及びインターフェロン-β産生増強剤、並びにこれを含有してなる飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ラクトフェリン(LF)には、種々の免疫賦活作用を有することが報告されている。特に様々な病態モデルの動物実験において、ウシラクトフェリン経口投与が病態改善効果を発揮しているが、これらがウシラクトフェリンの免疫賦活作用を介してもたらされると説明されている。ウシラクトフェリンの免疫賦活作用のうち、インターフェロン(IFN)-γの産生増強を示すものがいくつかある。IFN-γは細胞性免疫の調節において中心的役割を果たす因子であり、インターロイキン-12(IL-12)、インターロイキン-18(IL-18)等のサイトカインによって産生が誘導される。」
記載(3-3)
「【0006】
IFN-γの主要な産生細胞はT細胞やマクロファージであり、IL-12、IL-18及びIFN-γ自身によって産生が誘導され、細胞性免疫を担う細胞障害性T細胞やNK細胞、マクロファージを活性化する。
【0007】
一方、IFN-α及びIFN-βは、マクロファージ、樹上細胞、及び上皮細胞において産生され、若しくは微生物やウイルスの刺激によって産生が誘導され、NK細胞を活性化してこれらの感染に対する初動防御機構として作用するとともに、NK細胞からのIFN-α産生を誘導して細胞性免疫の発動を促すのである。」
記載(3-4)
「【0017】
本発明は、インターフェロン製剤の臨床適用となっていないような疾病に対して、IFN-α製剤の代替製剤として有用であって、経口摂取が可能なインターフェロン-α産生増強剤及び/又はインターフェロン-β産生増強剤を提供することを第1の目的としている。
【0018】
さらに、本発明は、ラクトフェリンを有効成分としたインターフェロン-α産生増強剤及び/又はインターフェロン-β産生増強剤を含有する飲食品、又はラクトフェリンを含有し、インターフェロン-α及び/又はインターフェロン-βの産生増強作用を有するものであることを特徴とし、インターフェロン-α及び/又はインターフェロン-βの産生増強のために用いられるものである旨の表示を付した飲食品を提供することを第2の目的としている。」
記載(3-5)
「【0049】
次に試験例を示して本発明を詳細に説明する。
[試験例1]
本試験は、ラクトフェリンの経口投与によるインターフェロン-βの発現を遺伝子レベルで検討するために行った。
【0050】
(1)試験方法
7週齢のC57BL/6マウス(日本チャールスリバーより購入)27匹について、1週間馴化飼育した後、1群9匹ずつ3群に分け、それぞれをラクトフェリン(LF)群、ウシ血清アルブミン(BSA)群、生理食塩水(対照)群とした。LF群のマウスには、ウシ・ラクトフェリン(森永乳業社製)の投与量が300mg/kg体重となるように、生理食塩水(大塚製薬社製)に溶解したウシ・ラクトフェリン溶液200μlを経口ゾンデを使用して、7日間連続して投与した。同様に、BSA群のマウスには、ウシ血清アルブミン(シグマ社製)の投与量が300mg/kg体重となるように、生理食塩水に溶解したBSA溶液200μlを経口ゾンデを使用して、7日間連続して投与した。尚、対照群のマウスには、生理食塩水200μlを経口ゾンデを使用して、7日間連続して投与した。投与完了後、マウスの小腸に点在するパイエル板組織を採取し、トータルRNA抽出用試薬(製品名:RNA-BeeTM Reagent,コスモ・バイオ社製)を使用してパイエル板組織から全RNAを抽出し、プライマー(センス鎖の配列:TTCCTGCTGTGCTTCTCCAC,アンチセンス鎖の配列:GATTCACTACCAGTCCCAGAGTC。尚、A:アデニン、G:グアニン、T:チミン、C:シトシン、をそれぞれ意味する。)、及びPCR試薬(製品名:iQ SYBR Green Supermix[カタログ番号:170-8885]、バイオ・ラッド社製)を用いて、サーマルサイクラー(バイオ・ラッド社製)を使用してreal-time PCRを行った。
【0051】
(2)試験結果
本試験の結果は表1に示すとおりである。表1から、LF投与群でのIFN-βのmRNA発現量は、対照群に比して顕著(約2倍)に増加することが判明した。尚、BSA群ではIFN-βのmRNA発現量の増加は確認されなかった。」
記載(3-6)
「【0053】
[試験例2]
本試験は、ラクトフェリンの経口投与によるインターフェロン-α産生をウエスタンブロッティング法にて検討するために行った。
【0054】
(1)試料の調製
7週齢のC57BL/6マウス(日本チャールスリバーより購入)4匹について、1週間馴化飼育した後、1群2匹ずつ2群に分け、それぞれをラクトフェリン(LF)群、生理食塩水(対照)群とした。LF群のマウスには、ウシ・ラクトフェリン(森永乳業社製)の投与量が300mg/kg体重となるように、生理食塩水(大塚製薬社製)に溶解したウシ・ラクトフェリン溶液200μlを経口ゾンデを使用して、7日間連続して投与した。同様に、対照群のマウスには、生理食塩水200μlを経口ゾンデを使用して、7日間連続して投与した。投与完了後、各投与群のそれぞれのマウスの小腸に点在するパイエル板組織を採取し、採取したパイエル板組織をハンドホモゲナイザーに投入し、さらにホモゲナイズ試薬〔9.1mMリン酸水素二ナトリウム(和光純薬工業社製)、1.7mMリン酸二水素ナトリウム(和光純薬工業社製)、及び150mM塩化ナトリウム(和光純薬工業社製)を含むリン酸緩衝液pH7.4、並びに最終濃度1%NP-40(シグマ社製)、最終濃度0.5%デオキシコール酸ナトリウム(和光純薬工業社製)、最終濃度0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS:和光純薬工業社製)、最終濃度100μg/ml(p-アミジノフェニル)メタンスルホニルフルオリド塩酸塩(和光純薬工業社製)をそれぞれ含む溶液〕0.5mlを添加して均質化した。その後、均質化溶液全量をマイクロチューブに移し、4℃で12,000rpmの条件で10分間遠心分離して上清を回収し、さらにもう一回同一条件で遠心分離して上清を回収して各投与群の試料溶液を調製した。
【0055】
(2)試験方法
各試料溶液のタンパク質濃度を定量し、30μg相当量を分取して電気泳動サンプルとし、また、組換え体IFN-α(rIFN-α:PBL Biomedical Laboratories社製、カタログ番号12100-1)をポジティブコントロールサンプルとして、それぞれSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った。電気泳動後、ゲル中に分離したタンパク質をポリビニリデンジフルオライド(PVDF)・メンブレンフィルター(アマシャムファルマシアバイオテク社製)に転写し、ブロックエース(雪印乳業社製)にてPVDFメンブレンをブロックした後、IFN-α抗ウサギ抗体(PBL Biomedical Laboratories社製、カタログ番号32100-1)溶液を一次抗体として反応させた。さらに、抗ウサギIgG-抗ヤギ抗体(Cappel社製、カタログ番号55676)を二次抗体として反応させ、PVDFメンブレンをECL-Plusウエスタンブロッティング検出用反応液(アマシャムファルマシアバイオテク社製)に5分間浸した。その後、PVDFメンブレンを用いてハイパーフィルムECL(アマシャムファルマシアバイオテク社製)を感光させ、感光したバンド(IFN-α)の濃淡をデンシトメーターにより定量した。
【0056】
(3)試験結果
本試験の結果は図1及び表2に示すとおりである。図1はウエスタンブロッティングを示し、表2は感光したバンド(IFN-α)の濃淡をデンシトメーターにより定量した結果である。その結果、対照群に比して、ラクトフェリン群では、マウスのパイエル板におけるIFN-αの産生量が約16倍に増加したことから、ラクトフェリンを投与することにより、顕著にIFN-α産生増強効果を発揮することが判明した。」
記載(3-7)
「【0058】
[試験例3]
本試験は、ラクトフェリンの経口投与によるインターフェロン-β産生をウエスタンブロッティング法にて検討するために行った。
【0059】
(1)試料の調製
7週齢のC57BL/6マウス(日本チャールスリバーより購入)7匹について、1週間馴化飼育した後、それぞれをラクトフェリン(LF)群3匹、生理食塩水(対照)群2匹、ウシ血清アルブミン(BSA)群2匹に群分けした。LF群のマウスには、ウシ・ラクトフェリン(森永乳業社製)の投与量が300mg/kg体重となるように、生理食塩水(大塚製薬社製)に溶解したウシ・ラクトフェリン溶液200μlを経口ゾンデを使用して、7日間連続して投与した。BSA群のマウスには、ウシ血清アルブミン(シグマ社製)の投与量が300mg/kg体重となるように、生理食塩水に溶解したBSA溶液200μlを経口ゾンデを使用して、7日間連続して投与した。尚、対照群のマウスには、生理食塩水200μlを経口ゾンデを使用して、7日間連続して投与した。投与完了後、各投与群のそれぞれのマウスの小腸に点在するパイエル板組織を採取し、試験例2と同様の方法で各投与群の試料溶液を調製した。
【0060】
(2)試験方法
各試料溶液のタンパク質濃度を定量し、30μg相当量を分取して電気泳動サンプルとし、また、組換え体IFN-β(rIFN-β:PBL Biomedical Laboratories社製、カタログ番号12400-1)をポジティブコントロールサンプルとして、それぞれSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った。電気泳動後、ゲル中に分離したタンパク質をポリビニリデンジフルオライド(PVDF)・メンブレンフィルター(アマシャムファルマシアバイオテク社製)に転写し、ブロックエース(雪印乳業社製)にてPVDFメンブレンをブロックした後、IFN-β抗ウサギ抗体(PBL Biomedical Laboratories社製、カタログ番号32400-1)溶液を一次抗体として反応させた。さらに、抗ウサギIgG-抗ヤギ抗体(Cappel社製、カタログ番号55676)を二次抗体として反応させ、PVDFメンブレンをECL-Plusウエスタンブロッティング検出用反応液(アマシャムファルマシアバイオテク社製)に5分間浸した。その後、PVDFメンブレンを用いてハイパーフィルムECL(アマシャムファルマシアバイオテク社製)を感光させ、感光したバンド(IFN-β)の濃淡をデンシトメーターにより定量した。
【0061】
(3)試験結果
本試験の結果は図2及び表3に示すとおりである。図2はウエスタンブロッティングを示し、表3は感光したバンド(IFN-β)の濃淡をデンシトメーターにより定量した結果である。その結果、対照群に比して、ラクトフェリン群では、マウスのパイエル板におけるIFN-βの産生量がそれぞれ約4.4倍、約1.8倍、約11倍となり、いずれの投与群においてもIFN-βが増加したことから、ラクトフェリンを投与することにより、顕著にIFN-β産生増強効果を発揮することが判明した。尚、BSA群ではIFN-β産生増強効果は確認されなかった。」
イ 引用文献3に記載された発明
記載(3-1)~記載(3-7)から、引用文献3には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されているといえる。
<引用発明3>
「ラクトフェリンを有効成分として含有するインターフェロン-α産生増強剤及び/又はインターフェロン-β産生増強剤。」
ウ 対比・判断
(ア)対比
本願発明と引用発明3とを対比する。
本願発明と引用発明3とは、いずれも組成物であって、
引用発明3の組成と認められる「ラクトフェリンを有効成分として含有する」は、上記2(1)に示した本願発明の組成「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する」ことに該当する。
そうすると、本願発明と引用発明3とは、
「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する、組成物。」である組成の点では一致し、次に示す用途に係る文言上の相違点(3)で、文言上は相違する。
文言上の相違点(3):
本願発明の用途は、上記2(2)に示したとおり、「免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる」ことである一方、
引用発明3の用途は、「インターフェロン-α産生増強及び/又はインターフェロン-β産生増強」であると認められる点。
(イ)文言上の相違点(3)についての判断
公知の物は、原則として、特許法29条1項各号により新規性を欠くこととなるが、当該物について未知の属性を発見し、その属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見出した発明であるといえる場合には、当該発明は、当該用途の存在によって公知の物とは区別され、用途発明としての新規性が認められるものと解される(令和4年12月13日判決言渡 令和3年(行ケ)第10066号判決を参照のこと)。
記載(3-3)には、IFN-α及びIFN-βは、マクロファージ、樹上細胞(「樹状細胞」の誤記と認める)、及び上皮細胞において産生され、若しくは微生物やウイルスの刺激によって産生が誘導され、NK細胞を活性化してこれらの感染に対する初動防御機構として作用するとともに、NK細胞からのIFN-α産生を誘導して細胞性免疫の発動を促すことが示されていることから、引用発明3の用途「インターフェロン-α産生増強及び/又はインターフェロン-β産生増強」は、本願発明の用途「免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる」ことに該当すると認められるので、文言上の相違点(3)は実質的な相違点ではなく、本願発明の用途が新たな用途であるとすることはできない。
したがって、本願発明は、「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する、組成物。」について未知の属性を発見し、その属性により、「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する、組成物。」が新たな用途への使用に適することを見出した発明であるとはいうことはできない。
よって、本願発明は、引用発明3であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
なお、仮に、文言上の相違点(3)が実質的な相違点であるとしても、「インターフェロン-α産生増強及び/又はインターフェロン-β産生増強」を用途とする引用発明3を、「免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる」ことを用途とするものに変更して、本願発明をすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、本願発明による効果として、ヒト末梢血から回収された単核細胞(PBMC)をラクトフェリン存在下で培養したものにおいて得られた効果が、記載(本-9)及び記載(本-10)に具体的に示されているものの、本願発明の組成と引用発明3との組成に差異がない以上、技術常識を参酌しても、「免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる」ことを用途とする本願発明により、当業者の予想し得ない顕著な効果が得られるとは認められない。
よって、仮に、本願発明が、文言上の相違点(3)によって、引用発明3と異なるとしても、本願発明は、引用発明3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
エ 小括
以上のとおり、本願発明は、引用発明3であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、また、引用発明3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(3)引用文献4(特開2004-359648号公報)を根拠とする理由について
ア 引用文献4の記載事項
記載(4-1)
「【請求項1】
生理活性物質が封入され、レシチン及びステロールを含んだリポソームを含有することを特徴とする経口摂取用組成物。
【請求項2】
レシチンのグリセロールの1位に炭素数14~24の飽和脂肪酸、2位に炭素数14~24の不飽和脂肪酸が結合していることを特徴とする請求項1に記載の経口摂取用組成物。
【請求項3】
レシチンが、卵黄レシチン及び大豆レシチンからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の経口摂取用組成物。
【請求項4】
ステロールが、コレステロール及びフィトステロールからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1~3のいずれかに記載の経口摂取用組成物。
【請求項5】
レシチンとステロールのモル比が、55:45~95:5である請求項1~4のいずれかに記載の経口摂取用組成物。
【請求項6】
生理活性物質が、生理活性蛋白質である請求項1~5のいずれかに記載の経口摂取用組成物。
【請求項7】
生理活性蛋白質が、ラクトフェリン、トランスフェリン、インターフェロン、インターロイキン及びリゾチームからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項6に記載の経口摂取用組成物。
【請求項8】
生理活性蛋白質が、ラクトフェリンである請求項7に記載の経口摂取用組成物。
【請求項9】
経口摂取用組成物が食品組成物である請求項1~8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
薬学的に許容される担体を含有し、経口摂取用組成物が医薬組成物である請求項1~8のいずれかに記載の経口摂取用組成物。
【請求項11】
医薬組成物が免疫増強剤である請求項10に記載の経口摂取用組成物。」
記載(4-2)
「【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、免疫増強作用を有する経口摂取用組成物を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決するために脂質膜微小運搬体であるリポソームに生理活性物質を封入することによって、免疫増強作用を有するリポソーム含有経口摂取用組成物としたものである。」
記載(4-3)
「【0036】
特に、ラクトフェリンを封入したリポソームを含有する経口投与用組成物は、その投与により、IFN-α、IFN-γ、IL-4、IL-12、B細胞、T細胞、ヘルパーT細胞等の値の向上がみられることから、免疫増強作用を有しており、重症急性呼吸器症候群(SARS)、HIV感染症(AIDSなど)、ウイルス性肝炎(急性A型肝炎、急性B型肝炎、急性C型肝炎、急性E型肝炎、慢性B型肝炎、慢性C型肝炎など)、ウイルス性結膜炎、腸管感染症(コレラ、腸チフス、パラチフス、サルモネラ感染症、細菌性赤痢、食中毒、アデノウイルス性腸炎などのウイルス性腸管感染症)、結核、細菌性疾患(ペスト、野兎病、炭疽、ブルセラ症、ハンセン病、マイコバクテリア感染症、破傷風、ジフテリア、百日咳、敗血症、レジオネラ症など)、梅毒、淋病感染症、クラミジア感染症、トリコモナス症、オウム病、トラコーマ、チフス、リケッチア症、ポリオ、狂犬病、日本脳炎などのウイルス性脳炎、ウイルス性髄膜炎、テング熱、黄熱などのウイルス性出血、ヘルペスウイルス感染症、肺炎、ガン等の予防又は治療に有効である。特に、肺炎、ウイルス性肝炎に有効である。」
記載(4-4)
「【0042】
実施例3
ヒトに対するラクトフェリン封入リポソーム含有錠剤の摂取試験
本試験の目的と内容を理解し、文書及び口頭にて同意を得られた26歳~37歳までの健常人5名を対象とした。なお、試験開始前2週間以内にラクトフェリンを含有する食品を摂取した者、食物アレルギーを有する者は除外した。
【0043】
試験デザインはオープントライアル試験とした。被験者5名に実施例2で得られた錠剤を1回4錠、1日3回、食間に摂取するよう指導した。摂取期間は1週間とした。試験食品は1ボトルに120錠入れて配布した。
【0044】
摂取前及び摂取1週間後に被験者から採血を行い、一般血液検査(アルブミン、A/G比、GOT、GPT、γ-GTP、ALP、血糖、HbA1c、中性脂肪、総コレステロール、HDL-コレステロール、動脈硬化指数、尿素窒素、クレアチニン、尿酸、アミラーゼ、白血球数、赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリット値、血小板数、好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球)の測定を行った。免疫学的検査[全血法IFN-α産生能、PHA刺激サイトカイン産生能(IFN-γ、IL-4、IL-12)、NK活性値(40:1)、B-cell(CD19)、T-cell(CD3+56-)、ヘルパーT-cell(CD4)]の測定を行った。
【0045】
一般血液検査の結果はすべて正常範囲内の値であり、安全性に問題ないことが確認された。
【0046】
次に、免疫学的検査の結果を表2に示す。試験食品1週間摂取後に、B-cell、T-cell、ヘルパーT-cellの数が有意に増加した(図1)。一方、NK活性に変化が認められなかった。PHA刺激によるサイトカイン産生において、IFN-γ、IL-4、IL-12の産生能が増加していることより(図2)、ヘルパーT-cellのTh1、Th2タイプのサイトカインの両方を活性化した。また、全血法におけるIFN-αの産生能においても有意な増加が認められた(図3)。
【0047】
以上より、ラクトフェリン封入リポソームはC型肝炎をはじめとする種々の感染症、ウイルス性疾患やガンなどに対して有効である。」
記載(4-5)
「【0053】
【発明の効果】
生理活性蛋白質を経口摂取したとき、胃酸や胃内、小腸内のタンパク分解酵素によって分解され生理活性が抑制されてしまうため、経口摂取による利用が普及していなかったが、蛋白質をリポソームに封入することにより、ペプチド性化合物の生理活性の低下を抑制または生理活性を増強することができるため、このリポソームの経口摂取により蛋白質の生理活性を有効に利用できる。
【0054】
特にラクトフェリン封入リポソームは、その投与により、IFN-α、IFN-γ、IL-4、IL-12、B細胞、T細胞、ヘルパーT細胞等の値の向上がみられることから、免疫増強作用を有しており、各種の感染症、肝炎、ガン等の予防又は治療に有効である。このため、ラクトフェリン封入リポソームを含有する経口摂取用組成物は、食品組成物、医薬組成物として有用である。」
イ 引用文献4に記載された発明
記載(4-1)~記載(4-5)から、引用文献4には、次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されているといえる。
<引用発明4>
「薬学的に許容される担体を含有し、ラクトフェリンである生理活性蛋白質である生理活性物質が封入され、レシチン及びステロールを含んだリポソームを含有することを特徴とする、免疫増強剤である医薬組成物である経口摂取用組成物。」
ウ 対比・判断
(ア)対比
本願発明と引用発明4とを対比する。
本願発明と引用発明4とは、いずれも組成物であって、
引用発明4の組成と認められる「薬学的に許容される担体を含有し、ラクトフェリンである生理活性蛋白質である生理活性物質が封入され、レシチン及びステロールを含んだリポソームを含有する」は、上記2(1)に示した本願発明の組成「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する」ことに該当する。
そうすると、本願発明と引用発明4とは、
「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する、組成物。」である組成の点では一致し、次に示す用途に係る文言上の相違点(4)で、文言上は相違する。
文言上の相違点(4):
本願発明の用途は、上記2(2)に示したとおり、「免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる」ことである一方、
引用発明4の用途は、「免疫増強剤である医薬組成物である経口摂取用」であると認められる点。
(イ)文言上の相違点(4)についての判断
公知の物は、原則として、特許法29条1項各号により新規性を欠くこととなるが、当該物について未知の属性を発見し、その属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見出した発明であるといえる場合には、当該発明は、当該用途の存在によって公知の物とは区別され、用途発明としての新規性が認められるものと解される(令和4年12月13日判決言渡 令和3年(行ケ)第10066号判決を参照のこと)。
記載(4-3)には、ラクトフェリンを封入したリポソームを含有する経口投与用組成物は、免疫増強作用を有しており、重症急性呼吸器症候群(SARS)、HIV感染症(AIDSなど)、ウイルス性肝炎(急性A型肝炎、急性B型肝炎、急性C型肝炎、急性E型肝炎、慢性B型肝炎、慢性C型肝炎など)、ウイルス性結膜炎、腸管感染症(コレラ、腸チフス、パラチフス、サルモネラ感染症、細菌性赤痢、食中毒、アデノウイルス性腸炎などのウイルス性腸管感染症)、結核、細菌性疾患(ペスト、野兎病、炭疽、ブルセラ症、ハンセン病、マイコバクテリア感染症、破傷風、ジフテリア、百日咳、敗血症、レジオネラ症など)、梅毒、淋病感染症、クラミジア感染症、トリコモナス症、オウム病、トラコーマ、チフス、リケッチア症、ポリオ、狂犬病、日本脳炎などのウイルス性脳炎、ウイルス性髄膜炎、テング熱、黄熱などのウイルス性出血、ヘルペスウイルス感染症、肺炎、ガン等の予防又は治療に有効であることが示されている。
また、記載(4-4)には、ヒトに対するラクトフェリン封入リポソーム含有錠剤の摂取試験の結果として、ラクトフェリン封入リポソームはC型肝炎をはじめとする種々の感染症、ウイルス性疾患やガンなどに対して有効であることが示されている。
また、記載(4-5)には、ラクトフェリン封入リポソームは、免疫増強作用を有しており、各種の感染症、肝炎、ガン等の予防又は治療に有効であることが示されている。
これらの記載(4-3)~記載(4-5)から、引用発明4の用途「免疫増強剤である医薬組成物である経口摂取用」は、本願発明の用途「免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる」に該当すると認められるので、文言上の相違点(4)は実質的な相違点ではなく、本願発明の用途が新たな用途であるとすることはできない。
したがって、本願発明は、「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する、組成物。」について未知の属性を発見し、その属性により、「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する、組成物。」が新たな用途への使用に適することを見出した発明であるとはいうことはできない。
よって、本願発明は、引用発明4であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
なお、仮に、文言上の相違点(4)が実質的な相違点であるとしても、「免疫増強剤である医薬組成物である経口摂取用」を用途とする引用発明4を、「免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる」ことを用途とするものに変更して、本願発明をすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、本願発明による効果として、ヒト末梢血から回収された単核細胞(PBMC)をラクトフェリン存在下で培養したものにおいて得られた効果が、記載(本-9)及び記載(本-10)に具体的に示されているものの、本願発明の組成と引用発明4との組成に差異がない以上、技術常識を参酌しても、「免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる」ことを用途とする本願発明により、当業者の予想し得ない顕著な効果が得られるとは認められない。
よって、仮に、本願発明が、文言上の相違点(4)によって、引用発明4と異なるとしても、本願発明は、引用発明4に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
エ 小括
以上のとおり、本願発明は、引用発明4であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、また、引用発明4に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(4)引用文献5(久原徹哉,ラクトフェリンの生理機能とその応用,New Food Industry,2006年,Vol.48,No.12,pp.63-70)を根拠とする理由について
ア 引用文献5の記載事項
記載(5-1)
「1.ラクトフェリン経口摂取による免疫機能の増強
ラクトフェリンは厚生労働省がん克服新10カ年戦略プロジェクトにおいて発がん抑制作用を有する食品成分の1つとして研究課題に挙げられ,発がん抑制効果やがん転移抑制効果が研究されてきた6)。大腸をはじめとする各種臓器特異的発がんモデルやマウス大腸がん肺転移モデルにおいて,ラクトフェリン経口投与は発がん抑制効果,がん転移抑制効果を発揮することが示された(図1-1,2)。これらの研究においてラクトフェリン経口投与によりナチュラルキラー(NK)細胞活性や細胞障害性T細胞(CTL)活性の増強が誘導された。さらに種々の病原菌感染動物モデルを用いてラクトフェリンの抗菌,感染予防効果が研究された結果,カンジダ感染マウスモデルではマクロファージの抗菌活性,NO産生能の増加,さらに末梢リンパ節細胞のIL-12,IFN-γ産生能の上昇が認められた。I型herpes simplexウイルス感染マウスモデルでは,ラクトフェリン経口投与により脾臓細胞のIL-12,IFN-γ産生能の亢進が示され,他方インフルエンザウイルス感染マウスモデルでは肺の炎症低減を伴う血清および肺胞洗浄液中のIL-6濃度の上昇抑制が認められた。健常動物においてもラクトフェリン経口投与による血清中IgG2n濃度の増加,および脾臓細胞のIL-2,IFN-γ産生能上昇が報告されている。種々の感染動物モデルにおいてラクトフェリン経口投与による感染抑制効果が極めて速やかに数日以内で表れることや,試験動物の血清中IgGのクラスやサイトカイン産生のパターンから見てラクトフェリン経口摂取により主としてTh1型免疫反応が誘導・増強されることから,ラクトフェリン経口摂取によって発揮される免疫修飾作用は微生物感染などに対する迅速な免疫応答を担う自然免疫の中のNK細胞に端緒を発していると推測された。」(64頁右欄12行~65頁左欄26行)
記載(5-2)
「獲得免疫を担うT細胞,B細胞と異なりNK細胞は特異的抗原認識機構を持たず,非特異的に腫瘍細胞やウイルス感染細胞を認識してこれらの排除に重要な役割を担っている。NK細胞の抗原認識機構は抑制性受容体と活性化受容体の両者のバランスにより成立している。」(65頁右欄2行~8行)
記載(5-3)
「がん細胞やウイルス感染細胞などクラスI MHCの発現が欠損あるいは低下した標的細胞は,活性化受容体を介してNK細胞を活性化させる一方で,抑制性受容体の制御が誘導できないためNK細胞により障害・排除される。活性化したNK細胞は細胞障害分子としてperforin,granzymes,Fas ligand,TRAIL ( TNF related apoptosis inducing ligand ) 等を発現する。さらにIFN-γの産生亢進を介してCTLを効率的に誘導することで間接的な獲得免疫の増強も担っている。」(65頁右欄23行~33行)
記載(5-4)
「これらの結果からラクトフェリン経口投与により誘導される末梢NK細胞の増加および活性化には腸管上皮の産生するIL-18とPP,MNLで産生されるtype-I IFNが大きく関与すると考えられた。」(68頁左欄24行~右欄3行)
記載(5-5)
「おわりに
動物モデルでの研究結果を中心にラクトフェリン経口摂取による免疫賦活作用とそのメカニズムについて紹介した。ラクトフェリンは消化管の種々の免疫組織に直接あるいは分解物の形で作用し,IL-18やtype-I IFN等のサイトカインが自然免疫を担うNK細胞の増殖,活性化を引き起こして免疫力の増強をもたらすと考えられた。ラクトフェリン経口摂取によるIL-18とIFN-α産生誘導,NK細胞活性増強効果はヒト臨床試験においても同様の知見が確認,報告されている。……。今秋には国立がんセンターで行われた臨床研究でラクトフェリンの長期摂取による大腸腺腫進展抑制効果が示された9)。……。直接的な抗菌・抗ウイルス活性と間接的な免疫賦活活性があいまって,二重三重の生体防御システムを構築するツールとしてラクトフェリンの効用が期待される。」(69頁左欄17行~右欄21行)
イ 引用文献5に記載された発明
記載(5-1)~記載(5-5)から、引用文献5には、次の発明(以下、「引用発明5」という。)が記載されているといえる。
<引用発明5>
「ラクトフェリンを含有する、NK細胞の増殖及び活性化によりもたらされる免疫機能増強用組成物。」
ウ 対比・判断
(ア)対比
本願発明と引用発明5とを対比する。
本願発明と引用発明5とは、いずれも組成物であって、
引用発明5の組成と認められる「ラクトフェリンを含有する」は、上記2(1)に示した本願発明の組成「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する」ことに該当する。
そうすると、本願発明と引用発明5とは、
「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する、組成物。」である組成の点では一致し、次に示す用途に係る文言上の相違点(5)で、文言上は相違する。
文言上の相違点(5):
本願発明の用途は、上記2(2)に示したとおり、「免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる」ことである一方、
引用発明5の用途は、「NK細胞の増殖及び活性化によりもたらされる免疫機能増強用」であると認められる。
(イ)文言上の相違点(5)についての判断
公知の物は、原則として、特許法29条1項各号により新規性を欠くこととなるが、当該物について未知の属性を発見し、その属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見出した発明であるといえる場合には、当該発明は、当該用途の存在によって公知の物とは区別され、用途発明としての新規性が認められるものと解される(令和4年12月13日判決言渡 令和3年(行ケ)第10066号判決を参照のこと)。
記載(5-1)には、各種疾病モデル動物に対するラクトフェリン経口投与により、ナチュラルキラー(NK)細胞活性や細胞障害性T細胞(CTL)活性の増強が誘導されたこと、マクロファージの抗菌活性,NO産生能の増加,さらに末梢リンパ節細胞のIL-12,IFN-γ産生能の上昇が認められたこと、脾臓細胞のIL-12,IFN-γ産生能の亢進が示されたこと、肺の炎症低減を伴う血清および肺胞洗浄液中のIL-6濃度の上昇抑制が認められたことが示され、健常動物に対するラクトフェリン経口投与により、血清中IgG2n濃度の増加,および脾臓細胞のIL-2,IFN-γ産生能上昇が報告されていること、等が示されている。
また、記載(5-4)には、腸管上皮の産生するIL-18とPP,MNLで産生されるtype-I IFNが大きく関与して、ラクトフェリン経口投与により末梢NK細胞の増加および活性化が誘導されると考えられることが示されている。
また、記載(5-5)には、ラクトフェリンは消化管の種々の免疫組織に直接あるいは分解物の形で作用し,IL-18やtype-I IFN等のサイトカインが自然免疫を担うNK細胞の増殖及び活性化を引き起こして免疫力の増強をもたらすと考えられたことが示され、ラクトフェリン経口摂取によるIL-18とIFN-α産生誘導,NK細胞活性増強効果はヒト臨床試験においても同様の知見が確認報告されていること、臨床研究でラクトフェリンの長期摂取による大腸腺腫進展抑制効果が示されたことも示されている。
これらの記載(5-1)及び記載(5-4)~記載(5-5)から、引用発明5の用途「NK細胞の増殖及び活性化によりもたらされる免疫機能増強用」は、本願発明の用途「免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる」に該当すると認められるので、文言上の相違点(5)は実質的な相違点ではなく、本願発明の用途が新たな用途であるとすることはできない。
したがって、本願発明は、「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する、組成物。」について未知の属性を発見し、その属性により、「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する、組成物。」が新たな用途への使用に適することを見出した発明であるとはいうことはできない。
よって、本願発明は、引用発明5であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
なお、仮に、文言上の相違点(5)が実質的な相違点であるとしても、「NK細胞の増殖及び活性化によりもたらされる免疫機能増強用」を用途とする引用発明5を、「免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる」ことを用途とするものに変更して、本願発明をすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、本願発明による効果として、ヒト末梢血から回収された単核細胞(PBMC)をラクトフェリン存在下で培養したものにおいて得られた効果が、記載(本-9)及び記載(本-10)に具体的に示されているものの、本願発明の組成と引用発明5との組成に差異がない以上、技術常識を参酌しても、「免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる」ことを用途とする本願発明により、当業者の予想し得ない顕著な効果が得られるとは認められない。
よって、仮に、本願発明が、文言上の相違点(5)によって、引用発明5と異なるとしても、本願発明は、引用発明5に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
エ 小括
以上のとおり、本願発明は、引用発明5であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、また、引用発明5に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
5 審判請求人の主張について
(1)審判請求人の主張の概略
審判請求人は、審判請求書[請求の理由](4)において、
審判請求書に添付した参考文献1(Fitzgerald-Bocarsly P, et al., Cytokine Growth Factor Rev.
2008 Feb; 19(1): 3-19.)、参考文献2(Palucka AK,et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U S A., 2005 Mar
1; 102(9): 3372-3377.)及び参考文献3(Dedecjus M,et al., Thyroid. 2011 May; 21(5): 533-40.)の記載、並びに別件拒絶査定不服審判(不服2018-13527)の審決の記載を示しつつ、概略、次の主張をしている。
(主張1)
「……、引用文献1~5のいずれにも、ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物の摂取により、pDCにおいてCD86及び/又はHLA-DRの発現量が増加することについて一切記載も示唆もされていない。
……。すなわち、本願発明の組成物により生じる免疫機能の維持、改善、又は強化作用は、pDCにおけるCD86及び/又はHLA-DRの発現量増加によるT細胞への働きかけの機序により引き起こされるものである。
一方、引用文献1にはpDCにおいてインターフェロンαの産生が増加したことが記載されているが、インターフェロンαの産生増加はCD86及び/又はHLA-DRの発現量増加とは異なる事象である。
……。すなわち、pDCにおけるCD86やHLA-DRの発現上昇は、インターフェロンαの産生抑制につながる場合もあるため、pDCのインターフェロンα産生促進効果が知られているからといって、pDCの活性化(…)を促す効果までもが認められるとは言えない。
……。すなわち、pDCにおけるインターフェロンαの産生とCD86及び/又はHLA-DRの発現とは相反する方向に働くことから、引用文献1に記載されるウシラクトフェリンがインターフェロンαの産生を増加させることからCD86及び/又はHLA-DRの発現量増加を想起することは当業者にとって困難である。
……、引用文献1に記載のpDCにおけるインターフェロンαの産生増加が免疫機能の維持、改善、又は強化という効果に帰結するとは必ずしもいえない。
……。
……、前述の通り引用文献1に記載のpDCにおけるインターフェロンαの産生増加が免疫機能の維持、改善、又は強化という効果に帰結するとは必ずしもいえないため、引用文献1からラクトフェリンを「免疫機能の維持、改善、又は強化」の用途に用いることを把握できるとはいえない。」
(主張2)
「……、「免疫機能の維持、改善、又は強化」という下流の用途に至る機序は1つではなく種々あり得ることが当該技術分野において周知であるところ、「pDCにおけるCD86発現量及び/又はHLA-DR発現量を増加させる」という特定の1つをターゲットとし、かつその作用点にラクトフェリンが有効に働くことを見出したことは当業者にとって困難であると言わざるを得ない。
また、引用文献1が開示するpDCを介した抗ウイルス応答の増強作用は、本願発明の組成物の作用機序とは明確に異なり、また新たな用途を提供するものである。
……。そうすると、CD86やHLA-DRの発現増加を予防医療のターゲットとすることが考えられ、広く免疫機能を対象とするのではなく「CD86及び/又はHLA-DRの発現増加」という具体的で特徴的な用途が当該技術分野には存在するといえる。
……、前述のようにpDCのCD86及びHLA-DRの発現が上昇するとT細胞の活性化につながることから、甲状腺機能の維持に寄与し得ることを当業者は理解し得る。
……。本願においてもまた、本願出願時において「pDCにおけるTLR7が刺激されたことによる抗ウイルス作用」が奏されれば、「pDCにおけるCD86及び/又はpDCの発現量増加」も奏されるといった技術常識が存在したとは認められない。また、ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物の摂取により、pDCにおいてCD86及び/又はHLA-DRの発現量を増加させ免疫機能を維持、改善、又は強化させるという技術思想は本願発明者らによって見出されたものであり、最終的に免疫機能を維持、改善、又は強化する機能を有する成分でさえあれば「pDCにおいてCD86及び/又はpDCの発現量を増加させる有効成分」として機能することが本願出願時の技術常識であったとも認められない。そうすると、引用文献1から本願発明の用途を導き出すことはできないため、本願発明と引用文献1に記載された発明とは用途において明確に相違するものであるし、当業者は本願発明の用途に引用文献1の開示から想到することもできない。」
(2)審判請求人の主張についての検討
審判請求人の上記主張について、検討する。
(主張1)について
「免疫機能を維持、改善、又は強化する」について、記載(本-7)には「本発明の組成物はpDCを活性化させることから、種々の免疫細胞の働きを活性化したり、IFN産生を促進したりすることが見込まれるため、免疫機能を維持、改善、又は強化することが期待できる。」との記載があって、本願発明による「免疫機能を維持、改善、又は強化する」作用は、本願発明が、種々の免疫細胞の働きを活性化したり、インターフェロン産生を促進したりすることによって、得られるものであることが示されている。
また、CD-86の発現、及びHLA-DRの発現を指標として観察されるpDCの活性化により、T細胞のみならず、NK細胞、B細胞、マクロファージなどの様々な免疫細胞が活性化することは、当業界における技術常識である(例えば、藤原大介 他,“ウイルス感染防御を統括するプラズマサイトイド樹状細胞を活性化する乳酸菌の開発”,化学と生物,53巻9号,p.626-631(2015年)(特に、p.626右欄20行~p.627左欄3行、p.630右欄21行~p.631左欄最終行、図11)(URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/53/9/53_530914/_pdf/-char/ja)、及び、小岩井乳業株式会社“乳酸菌による「免疫賦活」効果”,一般社団法人全国発酵乳乳酸菌飲料協会 発酵乳乳酸菌飲料公正取引協議会(2015年)(特に、第1頁左欄15行~第2頁左欄最終行、図1)(URL:https://www.nyusankin.or.jp/wp/wp-content/uploads/2019/12/Nyusankin_487_a.pdf)などを参照のこと)。
特に、pDCがウイルス感染を認識して放出するインターフェロン-αおよびインターフェロン-βといったtype I インターフェロンがウイルス複製阻害機構を活性化し、直接的な抗ウイルス効果を発揮すること、pDCが産生するtype I インターフェロンが自然免疫の一部であるNK細胞の活性化必須因子として感染初期応答を制御すること、等も技術常識である(例えば、藤原大介 他,“ウイルス感染防御を統括するプラズマサイトイド樹状細胞を活性化する乳酸菌の開発”,化学と生物,53巻9号,p.626-631(2015年)(特に、p.626右欄20行~p.627左欄3行)(URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/53/9/53_530914/_pdf/-char/ja)などを参照のこと)。
T細胞に関して、記載(本-1)に「pDCは抗原提示細胞としても働き、特定のT細胞を活性化する。」との記載があり、記載(本-6)に「pDCはHLA-DRにより外来抗原を提示することで、CD4陽性T細胞やCD8陽性T細胞を活性化することができる。その際に、共刺激分子であるCD86、CD40、CD80、CD83などによる共刺激シグナルがT細胞の活性化に必要とされる。」との記載があるものの、本願発明による「免疫機能を維持、改善、又は強化する」作用が、記載(本-7)に示されたことに反して、pDCにおけるCD86及び/又はHLA-DRの発現量増加によるT細胞への働きかけの機序により引き起こされるものであることは、本願明細書には記載されておらず、また、技術常識を参酌しても、本願明細書、特許請求の範囲、又は図面の記載により示されていることであるとはいえない。
そのため、本願発明による「免疫機能を維持、改善、又は強化する」作用が、pDCにおけるCD86及び/又はHLA-DRの発現量増加によるT細胞への働きかけの機序により引き起こされるものであること、及び、pDCにおけるインターフェロンαの産生増加が免疫の維持、改善、又は強化という効果に帰結するとは必ずしもいえないことを前提とする、審判請求人の上記(主張1)は、技術常識を参酌しても、本願明細書、特許請求の範囲、又は図面の記載に基づかない主張といえる。
したがって、審判請求人の上記(主張1)によっては、
・本願発明の組成は、「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する」ことであるとの、上記2(1)に示した認定、及び
・本願発明は、pDCの活性化を、免疫機能を維持、改善、又は強化することの作用機序とするものであり、本願発明にいう「pDCにおけるCD86発現量の増加、及び/又はpDCにおけるHLA-DR発現量の増加」及び「pDCにおけるCD86発現及び/又はHLA-DR発現の促進」は、本願発明が免疫機能を維持、改善、又は強化することの作用機序であるpDCの活性化を示すために採用された指標であって、本願発明の用途は、「免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる」ことであるとの、上記2(2)に示した認定、
のいずれも覆すことはできず、また、
・本願発明の新規性及び進歩性についての判断を覆すこともできない。
(主張2)について
本願発明が、「pDCにおけるCD86発現量及び/又はHLA-DR発現量を増加させる」という特定の1つをターゲットとするものであることは、本願明細書には記載されておらず、また、技術常識を参酌しても、本願明細書、特許請求の範囲、又は図面の記載により示されていることであるとはいえない。
また、本願発明が、「pDCにおいてCD86及び/又はHLA-DEの発現量を増加させ免疫機能を維持、改善、又は強化させるという技術思想」に基づいてなされたものであることは、本願明細書には記載されておらず、また、技術常識を参酌しても、本願明細書、特許請求の範囲、又は図面の記載により示されていることであるとはいえない。
そのため、本願発明が、「広く免疫機能を対象とするのではなく「CD86及び/又はHLA-DRの発現増加」という用途を有するものであることを前提とする、審判請求人の上記(主張2)は、技術常識を参酌しても、本願明細書、特許請求の範囲、又は図面の記載に基づかない主張といえる。
したがって、審判請求人の上記(主張2)によっては、
・本願発明の組成は、「ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン加水分解物を含有する」ことであるとの、上記2(1)に示した認定、及び
・本願発明は、pDCの活性化を、免疫機能を維持、改善、又は強化することの作用機序とするものであり、本願発明にいう「pDCにおけるCD86発現量の増加、及び/又はpDCにおけるHLA-DR発現量の増加」及び「pDCにおけるCD86発現及び/又はHLA-DR発現の促進」は、本願発明が免疫機能を維持、改善、又は強化することの作用機序であるpDCの活性化を示すために採用された指標であって、本願発明の用途は、「免疫機能を維持、改善、又は強化するために用いられる」ことであるとの、上記2(2)に示した認定、
のいずれも覆すことはできず、また、
・本願発明の新規性及び進歩性についての判断を覆すこともできない。
以上のとおり、審判請求人の主張によって、上記2に示した本願発明の組成及び用途についての認定、並びに上記3及び4に示した本願発明の新規性及び進歩性についての判断を、覆すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-016617