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特許拒絶査定不服審判

2019-003144

フィラグリン(FLG)の発現および活性の調整によるFLG関連疾患の処置

審判番号
2019-003144
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2017-081138外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2019年03月06日
審決日
2020年10月13日
公報発行日
2021年04月30日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .537-WZ (C12N) / P18 .536-WZ (C12N)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条1項特許法36条4項特許法36条6項1号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2017- 81138「フィラグリン(FLG)の発現および活性の調整によるFLG関連疾患の処置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月12日出願公開、特開2017-184741〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 本願は、2010年9月24日(パリ条約による優先権主張、2009年9月25日、米国(US);2010年2月24日、米国(US))を国際出願日とする特願2012-531063の一部を平成29年4月17日に新たな特許出願としたものであって、出願後におけるその手続の主な経緯は次のとおりである。 平成30年 3月12日付け:拒絶理由通知 平成30年 8月 3日  :意見書及び手続補正書の提出 平成30年10月30日付け:拒絶査定 平成31年 3月 6日  :審判請求書の提出 令和 2年 2月12日付け:当審拒絶理由通知 令和 2年 5月18日  :意見書及び手続補正書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1~15に係る発明は、令和2年5月18日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~15に記載された事項により特定されるものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認める。 「【請求項1】 患者の細胞または組織と接触させることにより、インビボまたはインビトロで患者の細胞または組織中のフィラグリン(FLG)ポリヌクレオチドの発現を対照と比較して増加させるための12~28ヌクレオチド長のアンチセンスオリゴヌクレオチドであって、 前記オリゴヌクレオチドは、配列番号2を有するFLGの天然アンチセンスポリヌクレオチドを標的とし、それに特異的にハイブリダイズし、患者の細胞または組織中のFLGポリヌクレオチドの発現をアップレギュレートし、 前記オリゴヌクレオチドは、配列番号2に対して100%相補的である、 アンチセンスオリゴヌクレオチド。」 第3 拒絶の理由 令和2年2月12日付けで当審が通知した拒絶の理由は、本願の発明の詳細な説明の記載は、本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本願発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、というものである。 第4 本願明細書等における記載 本願の明細書には、以下の事項が記載されていると認められる(下線は当審で付したものである。)。 摘記ア 「【課題を解決するための手段】 【0008】 一実施形態において、本発明は、天然アンチセンス転写産物の任意の領域をターゲットとするアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて、対応するセンス遺伝子のアップレギュレーションをもたらすことにより、天然アンチセンス転写産物の作用を阻害する方法を提供する。・・・。 【0009】 一実施形態は、患者の細胞または組織を、ヌクレオチド長5~30のアンチセンスオリゴヌクレオチドと接触させ、それによりインビボまたはインビトロで患者の細胞または組織中のFLGポリヌクレオチドの機能および/または発現を調整することを含み、前記オリゴヌクレオチドが、配列番号2のヌクレオチド1~4629のうちの連続するヌクレオチドを5~30個含むポリヌクレオチドの逆相補鎖に対して少なくとも50%の配列同一性を有する、インビボまたはインビトロで患者の細胞または組織中のFLGポリヌクレオチドの機能および/または発現を調整する方法を提供する。 【0010】 一実施形態において、オリゴヌクレオチドは、FLGポリヌクレオチド、例えば、配列2に示すヌクレオチド天然アンチセンス配列、ならびにその任意の変異体、・・・をターゲットとする。アンチセンスオリゴヌクレオチドの例を、配列番号3~13として示す。」 摘記イ 「【0263】 一実施形態において、本発明のアンチセンスまたはオリゴヌクレオチド化合物は、ヌクレオチド長12または13~30のアンチセンス部分を有する。これがヌクレオチド長12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29もしくは30、またはその中の任意の範囲のアンチセンス部分を有するオリゴヌクレオチドを具体化していることは、当業者に理解されよう。」 摘記ウ 「【0293】 遺伝子発現のアップレギュレーションまたは阻害の評価: ・・・ 【0295】 FLGタンパク質およびmRNA発現を、当業者に公知の方法および本明細書の他の部分に記載された方法を用いてアッセイすることができる。・・・。 【0296】 実施形態において、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて検査された試料(例えば、インビボまたはインビトロでの細胞または組織)中でのFLG発現(例えば、mRNAまたはタンパク質)を、対照試料中でのFLG発現との比較により評価する。・・・。あるいは対照アンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、改変された配列または異なる配列を有するもの)で処理された試料との比較を、所望の情報に応じて実施することができる。別の実施形態において、未処理試料に対比させた処理試料の、FLGタンパク質または核酸の発現の差を、未処理試料に対比させた処理試料の、異なる核酸(研究者により適切と考えられた任意の標準を含む、例えばハウスキーピング遺伝子)の発現の差と比較することができる。 【0297】 観察された差は、所望なら、対照との比較に用いるために、例えば比率または分数の形態で、表わすことができる。実施形態において、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドで処理された試料中のFLG mRNAまたはタンパク質のレベルは、未処理試料または対照核酸で処理された試料に対して、約1.25倍~約10倍増加または減少する。・・・。」 摘記エ 「【0343】 実施例 ・・・ 実施例1:フィラグリン(FLG)の核酸分子アンチセンスおよび/またはFLGポリヌクレオチドのセンス鎖に特異的なアンチセンスオリゴヌクレオチドの設計 ・・・ 【0345】 適切なオリゴヌクレオチドの選択は、核酸配列を自動的にアライメントして同一性または相同性の領域を示すコンピュータプログラムを用いることにより、容易になる。そのようなプログラムを用いて、例えばGeneBankなどのデータベースを検索することにより、またはPCR産物を配列決定することにより、得られた核酸配列を比較する。一定範囲の種からの核酸配列を比較すれば、種の間で適度な同一性を示す核酸配列を選択することができる。配列決定されていない遺伝子の場合、サザンブロットを実施して、ターゲット種と他の種の間の同一性の度合いを測定することができる。当該技術分野で周知の通り、サザンブロットを様々な度合いのストリンジェンシーで実施することにより、同一性の適切な指標を得ることが可能である。これらの手順により、制御される対象のターゲット核酸配列に高い相補性を示し、他の種の対応する核酸配列に低い相補性を示すオリゴヌクレオチドを選択することができる。本発明で用いられる遺伝子の適切な領域を選択するのにかなりの許容範囲があることは、当業者に理解されよう。 【0346】 ターゲット核酸へのアンチセンス化合物の結合がターゲット核酸の正常な機能と干渉して、機能および/または活性の調整を起こし、そして特異的結合が望ましい条件下、即ち、インビボアッセイまたは治療的処置の場合の生理学的条件下、そしてインビトロとアッセイの場合のアッセイが実施される条件下で、非ターゲット核酸配列へのアンチセンス化合物の非特異的結合を回避するための十分な度合いの相補性が存在する場合には、アンチセンス化合物は「特異的にハイブリダイズ可能」である。 【0347】 本明細書に記載されたオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーション特性は、当該技術分野で公知の1種以上のインビトロアッセイにより決定することができる。例えば本明細書に記載されたオリゴヌクレオチドの特性は、融解曲線アッセイを利用して、ターゲット天然アンチセンスと潜在的薬物分子の間の結合強度を決定することにより、得ることができる。 ・・・」 摘記オ 「【0353】 実施例2:FLGポリヌクレオチドの調整 アンチセンスオリゴヌクレオチドによるHEPG2細胞の処理 ATCCのHepG2細胞(・・・)を、生育培地(・・・)+10%FBS(・・・)+ペニシリン/ストレプトマイシン(・・・)中で、37℃および5%CO2で生育させた。実験当日に、6穴プレート中の培地を新しい培地に交換した。アンチセンスオリゴヌクレオチドの全てを、20μM濃度に希釈した。この溶液2μlをOpti-MEM培地400μl(・・・)およびリポフェクタミン2000 4μl(・・・)と共に室温で20分間インキュベートして、6穴プレートの各ウェルにHEPG2細胞を付加した。オリゴヌクレオチド溶液の代わりに水2μlを含む類似の混合物を、モックトランスフェクションの対照に用いた。37℃および5%CO2で3~18時間インキュベートした後、培地を新しい生育培地に交換した。アンチセンスオリゴヌクレオチド添加の48時間後に、培地を除去して、PromegaのSVTotal RNA Isolation System(・・・)またはQiagenのRNeasy Total RNA Isolationキット(・・・)を用いて、製造業者の使用説明書に従い、RNAを細胞から抽出した。Thermo ScientificのVerso cDNAキット(・・・)またはHighCapacity cDNA Reverse Transcriptionキット(・・・)を用いて、製造業者のプロトコルに記載された通り実施した逆転写反応物に、RNA 600ngを添加した。この逆転写反応物のcDNAを用いて、ABITaqman Gene Expression Mix(・・・)およびABIにより設計されたプライマー/プローブ(・・・)を用いたリアルタイムPCRにより遺伝子発現をモニタリングした。以下のPCRサイクルを用いた:・・・。アンチセンスオリゴヌクレオチドで処理された後の遺伝子発現の倍率変化を、処理試料とモックトランスフェクション試料の間の18S標準化dCt値の差に基づいて計算した。 結果:リアルタイムPCRの結果から、HepG2細胞中のFLG1 mRNAレベルがFLG1アンチセンスAK056431に対して設計されたオリゴの2種で有意に上昇することが示される(図1)。 【0354】 アンチセンスオリゴヌクレオチドによる518A2細胞の処理 ニューヨークのAlbertEinstein-Montefiore Cancer Centerから得られた518A2細胞を、生育培地(・・・)中で、37℃および5%CO2で生育させた。実験前日に、細胞を1.5×105/mlの密度で6穴プレートに入れて、37℃および5%CO2でインキュベートした。実験当日に、6穴プレート中の培地を新しい培地に交換した。アンチセンスオリゴヌクレオチドの全てを、20μM濃度に希釈した。この溶液2μlをOpti-MEM培地400μl(・・・)およびリポフェクタミン2000 4μl(・・・)と共に室温で20分間インキュベートして、6穴プレートの各ウェルに518A2細胞を付加した。オリゴヌクレオチド溶液の代わりに水2μlを含む類似の混合物を、モックトランスフェクションの対照に用いた。37℃および5%CO2で3~18時間インキュベートした後、培地を新しい生育培地に交換した。アンチセンスオリゴヌクレオチド添加の48時間後に、培地を除去して、PromegaのSVTotal RNA Isolation System(・・・)またはQiagenのRNeasy Total RNA Isolationキット(・・・)を用いて、製造業者の使用説明書に従い、RNAを細胞から抽出した。Thermo ScientificのVerso cDNAキット(・・・)またはHighCapacity cDNA Reverse Transcriptionキット(・・・)を用いて、製造業者のプロトコルに記載された通り実施した逆転写反応物に、RNA 600ngを添加した。この逆転写反応物のcDNAを用いて、ABITaqman Gene Expression Mix(・・・)およびABIにより設計されたプライマー/プローブ(・・・)を用いたリアルタイムPCRにより遺伝子発現をモニタリングした。以下のPCRサイクルを用いた:・・・。アンチセンスオリゴヌクレオチドで処理された後の遺伝子発現の倍率変化を、処理試料とモックトランスフェクション試料との18S標準化dCt値の差に基づいて計算した。 結果:リアルタイムPCRの結果から、518A2細胞中のFLG mRNAレベルがFLG1アンチセンスAK056431に設計されたオリゴの2種で有意に増加することが示される(図2)。別の組み合わせのリアルタイムPCRの結果から、518A2細胞中のFLG mRNAレベルがFLG1アンチセンスAK056431に設計されたオリゴの2種で有意に上昇することが示される(図3)。」 また、本願の図面、及び、明細書における図面の説明として、以下の事項が記載されていると認められる(下線は当審で付したものである。)。 摘記カ 「 」 「【図面の簡単な説明】 【0023】 【図1】HepG2細胞を、リポフェクタミン2000を用いて導入されたホスホチオアートオリゴヌクレオチドで処理した後の、FLG1 mRNAのリアルタイムPCR結果の倍率変化+標準偏差を、対照と比較したグラフである。リアルタイムPCRの結果から、HepG2細胞中のFLG1 mRNAレベルが、FLG1アンチセンス AK056431に対して設計されたオリゴ2種で有意に増加することが示されている。CUR-1157、CUR-1158、CUR-1159、CUR-1160、およびCUR-1161として示された棒は、それぞれ配列番号3、4、5、6および7で処理された試料に対応する。」 「 」 「【図2】518A2細胞を、リポフェクタミン2000を用いて導入された3’反転Tおよび2’Oメチルギャップマーホスホジエステルオリゴを有するホスホジエステルオリゴヌクレオチドで処理した後の、FLG1 mRNAの倍率変化+標準偏差を対照と比較して示す。リアルタイムPCRの結果から、518A2細胞中のFLG mRNAレベルが、FLG1アンチセンス AK056431に対して設計されたオリゴ2種で有意に増加することが示される。CUR-1128、CUR-1129、CUR-1130、およびCUR-1131として示された棒は、それぞれ配列番号8、9、10、および11で処理された試料に対応する。」 「 」 「【図3】518A2細胞を、リポフェクタミン2000を用いて導入されたホスホジエステルオリゴヌクレオチドで処理した後の、FLG1 mRNAの倍率変化+標準偏差を、対照と比較して示す。リアルタイムPCRの結果から、518A2細胞中のFLG1 mRNAレベルが、FLG1アンチセンス AK056431に対して設計されたオリゴ2種で有意に増加することが示される。CUR-1396、およびCUR-1397として示された棒は、それぞれ配列番号12および13で処理された試料に対応する。」 そして、本願の配列表、及び、明細書における配列の説明として、以下の事項が記載されていると認められる(下線は当審で付したものである。)。 摘記キ 「 aaatgctcca catggcccca gtcaccctgc agaaaagaaa tcatcagctt tctgcagcat 60 ・・・ ggaagaagga tctatgtcat gagtgctcac ctggtagagg gaagaccctg aacgtccaga 420 ccgttcccct gaccggccac gtgtggactc ttggtggctc tgctgtctca gcccagcctt 480 tccgtggcct gacactgatt gtgtgtctga gttttctgaa tgtccctcac tgtcactggc 540 ・・・ gttgtggtct atatccaagt gatccatgaa gacatcaacc atatctgggt catctggatt 1080 ctgtacagag ggaagtcaca gagggagact gcatcagaca gaatcacatt atcagccaat 1140 taattcaaag ttaatttaag gaacctgatc tttgagtatt aaaaagtggg acaaaatctt 1200 ・・・ gacagagaga aggttgctcc atgatggatt tggaaactta ctggctagct aaacctgact 2220 gaatgggaag gaatgtggat agctttggaa ctctagtttc actagatgag ctggaatttg 2280 tattttgaca aattgcacgt tatgattatt aagtaatgca actgattttt ttttccctta 2340 ・・・ ttccagtggt gaggcagtct gagaatgtgt gaagcagtat aatgaagcca gaccaagatg 2760 gaagcttggc ctgggatttg agcatcagga aaactgttga agggttatgt atacatcaca 2820 cacacacaca cacacacaca cacacacaca cacacacaca ctctcttcca tactcctata 2880 acaacgtata gtatttacta tacctggtga caggtattta ctatacattg ttgaagatct 2940 ・・・ ggaagtgcat cttggttctg gctcagttgg ctagtgggcc acattgatta aagatgaata 4620 caatgccaa 4629」(配列番号2) (当審注:配列番号2において下線を付した箇所(4箇所)は、配列番号3~13で示されるアンチセンスオリゴヌクレオチドのいずれかに対して相補的な配列を示す。) 「ctccctctgt gacttccctc t 21」(配列番号3) 「gctatccaca ttccttccca 20」(配列番号4) 「gcagagccac caagagtcca 20」(配列番号5) 「gtgtgtgtgt gtgtgtgtgt 20」(配列番号6) 「tccacattcc ttcccattca 20」(配列番号7) 「ccctctgtga cttccctc 18」(配列番号8) 「ccacattcct tcccattcag 20」(配列番号9) 「ucccuctgtg acttcccucu 20」(配列番号10) 「cuccctctgt gacttcccuc u 21」(配列番号11) 「ctccctctgt gacttccctc t 21」(配列番号12) 「tccacattcc ttcccattca 20」(配列番号13) 「【発明を実施するための形態】 【0024】 配列の説明:配列番号1:ヒトフィラグリン(FLG)、mRNA(NCBIアクセション番号:NM_002016);配列番号2:天然FLGアンチセンス配列AK056431;配列番号3~13:アンチセンスオリゴヌクレオチド。・・・。 配列番号10および配列番号11のアンチセンスオリゴヌクレオチドは以下のように修飾されている。 【表1】 」 第5 当審の判断 1.サポート要件違反について (1)本願発明の解決しようとする課題 本願発明の解決しようとする課題は、請求項1の記載及び発明の詳細な説明の段落【0008】~【0010】の記載より(摘記ア)、患者の細胞又は組織と接触させることで、インビボ又はインビトロで患者の細胞又は組織中のFLGポリヌクレオチドの発現を対照と比較して増加させるために用いられる、配列番号2を有するFLGの天然アンチセンスポリヌクレオチドを標的とし、それに特異的にハイブリダイズし、患者の細胞又は組織中のFLGポリヌクレオチドの発現をアップレギュレートする、すなわち「FLG mRNAレベルを上昇させる」、配列番号2に対して100%相補的な12~28ヌクレオチド長のアンチセンスオリゴヌクレオチドを提供すること、であると認められる。 (2)本願明細書等の記載 本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、FLGの天然アンチセンスポリヌクレオチドである4629ヌクレオチド長を有する配列番号2で示されるポリヌクレオチドのうちの、連続するヌクレオチドを含むポリヌクレオチドの逆相補鎖に対して同一である、すなわち配列番号2に対して100%相補的である12~28ヌクレオチド長を有するものであることが記載されている(摘記ア、摘記イ、摘記キ)。 また、実施例1において、FLGの核酸分子アンチセンス又はFLGポリヌクレオチドのセンス鎖に特異的なアンチセンスオリゴヌクレオチドの設計に関する記載がなされており、核酸配列を自動的にアライメントして同一性又は相同性の領域を示すコンピュータプログラムを用いることなどによって、制御される対象のターゲット核酸配列に高い相補性を示し、他の種の対応する核酸配列に低い相補性を示すオリゴヌクレオチドを選択することができ、そして、オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーション特性は、当該技術分野で公知の1種以上のインビトロアッセイにより決定することができる、と記載されている(摘記エ)。さらに、遺伝子発現のアップレギュレーション又は阻害の評価は、本願発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて検査された試料(例えば、インビボ又はインビトロでの細胞又は組織)中でのFLG発現(mRNA)を、対照試料中(未処理試料又は対照核酸で処理された試料)でのFLG発現との比較により評価することも記載されている(摘記ウ)。 そして、2’Oメチル修飾がなされたもの(配列番号10及び11)を除き、また、塩基配列が同一のものについてその重複を排除すると、実施例2には、配列番号2に対して設計された7つのアンチセンスオリゴヌクレオチド、すなわち、 (a)配列番号2における1087~1107番目の領域に対して100%相補的な、「配列番号3(配列番号12)」(当審注:配列番号3と配列番号12は塩基配列が同一であるため、以下このように記す。)又は「配列番号8」で示されるアンチセンスオリゴヌクレオチド (b)配列番号2における2219~2243番目の領域に対して100%相補的な、「配列番号4」、「配列番号7(配列番号13)」(当審注:配列番号7と配列番号13は塩基配列が同一であるため、以下このように記す。)又は「配列番号9」で示されるアンチセンスオリゴヌクレオチド (c)配列番号2における444~463番目に対して100%相補的な、「配列番号5」で示されるアンチセンスオリゴヌクレオチド (d)配列番号2における「ac」が繰り返し現れる2818~2861番目の領域に対して100%相補的な、「配列番号6」で示されるアンチセンスオリゴヌクレオチド のうち、「配列番号3(配列番号12)」及び「配列番号5」で示されるものは、図中の棒グラフにおけるエラーバー、すなわち誤差を考慮しても、HepG2細胞中のFLG1 mRNAレベルを少なくとも2.5倍以上増加することが、また、「配列番号4」、「配列番号7(配列番号13)」及び「配列番号9」で示されるものは、誤差を無視すれば、HepG2細胞中又は518A2細胞中のFLG1 mRNAレベルを1.25倍以上増加することが示されている。さらに、「配列番号8」で示されるものは、518A2細胞中のFLG1 mRNAレベルの増加は誤差を無視すれば1.1倍程度であったことが、そして、「配列番号6」で示されるものは、HepG2細胞中のFLG1 mRNAレベルを増加しなかったことが示されている(摘記オ~キ)。 (3)当審の判断 本願明細書の発明の詳細な説明の記載から、「配列番号3(配列番号12)」、「配列番号4」、「配列番号5」、「配列番号7(配列番号13)」及び「配列番号9」で示される5つのアンチセンスオリゴヌクレオチドについては、いずれも上記課題を解決できるものと認められる。そして、これら5つのアンチセンスオリゴヌクレオチドは上記のとおり、配列番号2における「444~463番目の領域」、「1087~1107番目の領域」、又は、「2219~2243番目の領域」という、4000を超えるヌクレオチド長を有するFLGの天然アンチセンスポリヌクレオチドにおけるごく限られた特定の3つの領域に対して相補的なものであって、その長さは20又は21ヌクレオチド長のものである。発明の詳細な説明には、配列番号2における他の任意の領域に対して100%相補的な12~28ヌクレオチド長のアンチセンスオリゴヌクレオチドが、細胞中のFLG1 mRNAレベルを増加すること、すなわちFLGポリヌクレオチドの発現をアップレギュレートすることについては、何ら確認されていない。 一方、「配列番号8」で示されるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、「配列番号3(配列番号12)」のものより5’末端側の2塩基及び3’末端側の1塩基が削除された18ヌクレオチド長のものであるが、実施例2の結果によると、細胞中のFLG1 mRNAレベルの増加は1.1倍程度であり、誤差も考慮すると有意には増加していないと認められる。また、「配列番号6」で示されるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、配列番号2に対して100%相補的な20ヌクレオチド長のものであるが、実施例2の結果において、細胞中のFLGポリヌクレオチドの発現をアップレギュレートしないことが示されている。つまり、上記特定の3つの領域以外に対して相補的なものでは、mRNAレベルが上昇できなかったことが示されているといえる。 さらに、「配列番号3(配列番号12)」、「配列番号4」、「配列番号5」、「配列番号7(配列番号13)」及び「配列番号9」で示される5つのアンチセンスオリゴヌクレオチドは、いずれもその長さは20又は21ヌクレオチド長のものであるが、12ヌクレオチド長のように20ヌクレオチド長のものと比べてもその3分の2に満たないより短いヌクレオチド長のものであっても、FLGポリヌクレオチドの発現をアップレギュレートすることについては、何ら確認されていない。 そして、一般的に、用いるアンチセンスオリゴヌクレオチドの塩基配列や鎖長の違いによって標的となるポリヌクレオチドを抑制する作用は異なることが知られており、そのため、天然アンチセンスポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズしたとしても、そのことが常に、細胞中のそのセンスポリヌクレオチドの発現のアップレギュレートをもたらすとは限らないとの認識を当業者は有するといえる。また、FLGの天然アンチセンスポリヌクレオチドのように4000を超えるヌクレオチド長を有する天然アンチセンスポリヌクレオチドについて、その任意の領域を標的としてハイブリダイズするアンチセンスオリゴヌクレオチドや、12ヌクレオチド長のように短いヌクレオチド長のアンチセンスオリゴヌクレオチドが、細胞中におけるその発現をアップレギュレートするということが、技術常識として本願出願前に存在したとも認められない。よって、本願明細書に接した当業者は、配列番号2における444~463番目、1087~1107番目、及び、2219~2243番目という特定の3つの領域のいずれかに対して100%相補的であり、かつ、20ヌクレオチド長程度以上の長さを有しているアンチセンスオリゴヌクレオチドであれば、上記課題を解決できることは理解できるものの、配列番号2における上記3領域以外の領域に対して相補的なものや、12ヌクレオチド長のように短いヌクレオチド長のものまでもが、同様に上記課題を解決できることを合理的に理解できるとはいえない。 したがって、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。 (4)小括 本願発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていると認められるから、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。 2.実施可能要件違反について (1)当審の判断 本願発明は、請求項1の記載からみて、「アンチセンスオリゴヌクレオチド」という「物」の発明であるところ、「物」の発明としての本願発明について、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすためには、出願時の技術常識に照らし、当業者が、当該「アンチセンスオリゴヌクレオチド」を過度の試行錯誤を要さずに製造し使用できることを理解し得ることが必要である。 請求項1の記載によれば、「アンチセンスオリゴヌクレオチド」は、「12~28ヌクレオチド長」の長さを有する「配列番号2に対して100%相補的」なものであり、そして、「配列番号2を有するFLGの天然アンチセンスポリヌクレオチドを標的とし、それに特異的にハイブリダイズし、患者の細胞または組織中のFLGポリヌクレオチドの発現をアップレギュレート」するという性質ないし機能によって特定されている。 ここで、配列番号2で示されるFLGの天然アンチセンスポリヌクレオチドは、4629ヌクレオチド長のものであるところ、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、本願発明について実施可能要件を満たすためには、配列番号2の1~4629番目における任意の領域に対して100%相補的であって配列番号2に特異的にハイブリダイズし、かつ、前記した性質ないし機能を有する、12~28ヌクレオチド長の全てのアンチセンスオリゴヌクレオチドを請求項1は包含するものと認められるから、このようなアンチセンスオリゴヌクレオチドの全体について、本願出願時の技術常識に照らし、当業者が、過度の試行錯誤を要さずに、入手又は製造できる程度に記載されていなければならないものと解される。 しかしながら、上記「1.サポート要件違反について」で記載したとおり、本願明細書の発明の詳細な説明において、配列番号2に対して100%相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドのうち、前記した性質ないし機能を有することが具体的に示されているのは、配列番号2における「444~463番目の領域」、「1087~1107番目の領域」、及び、「2219~2243番目の領域」という、4000を超えるヌクレオチド長のうちのごく限られた特定の3つの領域に対して相補的な20又は21ヌクレオチド長のものについてのみである。 本願明細書の実施例1には、アンチセンスオリゴヌクレオチドの設計方法が記載されており、また、段落【0293】~【0297】及び実施例2において、アンチセンスオリゴヌクレオチドによる遺伝子発現のアップレギュレーションの評価方法も記載されているものの、一般的に、用いるアンチセンスオリゴヌクレオチドの塩基配列や鎖長の違いによって標的となるポリヌクレオチドを抑制する作用は異なることが知られており、そのため、天然アンチセンスポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズしたとしても、そのことが常に、細胞中のそのセンスポリヌクレオチドの発現のアップレギュレートをもたらすとは限らないとの認識を当業者は有するといえる。また、FLGの天然アンチセンスポリヌクレオチドのように4000を超えるヌクレオチド長を有する天然アンチセンスポリヌクレオチドについて、その任意の領域を標的としてハイブリダイズするアンチセンスオリゴヌクレオチドや、12ヌクレオチド長のように短いヌクレオチド長のアンチセンスオリゴヌクレオチドが、細胞中におけるその発現をアップレギュレートするということが、技術常識として本願出願前に存在したとも認められない。よって、配列番号2の任意の領域に対して100%相補的であって、配列番号2に特異的にハイブリダイズする、12~28ヌクレオチド長のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、配列番号2が4000を超えるヌクレオチド長であることもふまえれば無数に設計されることになるが、そのように設計された個々のアンチセンスオリゴヌクレオチドが患者の細胞又は組織中のFLGポリヌクレオチドの発現をアップレギュレートするか否かについては、当業者は予測することができないため、そのようなアンチセンスオリゴヌクレオチドの全体について、当業者が入手又は製造するためには、設計された無数のアンチセンスオリゴヌクレオチドに対し、無数のアップレギュレーションに係る評価を行って確認するという、当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤を求めることになる。 したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願発明について、本願出願時の技術常識に照らしても、当業者が、過度の試行錯誤を要することなく、入手又は製造できる程度に記載したものではない。 (2)小括 以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、その記載及び本願出願時の技術常識に基づいて、本願発明の「アンチセンスオリゴヌクレオチド」を製造し使用することができることを、当業者が理解することができる程度に記載されていないから、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。 3.審判請求人の主張について 審判請求人は、令和2年5月18日付け意見書において、サポート要件及び実施可能要件について、概略、以下の主張をしている。 「(a)本願実施例では、「配列番号2を有するFLGの天然アンチセンスポリヌクレオチド(すなわちAK056431)」を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いることでFLGの発現を実際にアップレギュレートできたことが示されています。さらに、本願の実施例には、オリゴヌクレオチドの設計方法やFLGの発現に対する当該オリゴヌクレオチドの効果を調べる方法が詳細に記載されており、本願明細書を閲覧した当業者であれば「FLGの天然アンチセンスポリヌクレオチドAK056431に対して100%相補的である12~28ヌクレオチド長のオリゴヌクレオチド」の中から「AK056431に特異的にハイブリダイズし、FLGの発現をアップレギュレートする」ものを過度の試行錯誤を必要とすることなく同定できます。」 「(b)本願発明は、発明者らの時間的制約のもとで機能することが判明したいくつかのオリゴヌクレオチドに限定されるものではありません。審判官殿は、効果を有さないオリゴヌクレオチドも確認されたことを指摘されていますが、一部のオリゴヌクレオチドが発現をアップレギュレートするように機能しないということは予想外のことではありません。」 「(c)さらに、医薬分野において、マーカッシュ形式で記載された請求項に包含される全ての化合物が、効果の確認された他の化合物と同様に機能するとは期待されませんが、日本では、多くの化合物を包含する網羅的な請求項が数多く登録されており、そして、何百万ものそのような化合物の全てが、その効果について実証されているわけではありません。」 審判請求人の主張(a)及び(b)については、上記「1.サポート要件違反について」及び「2.実施可能要件違反について」で説示したように、アンチセンスオリゴヌクレオチドが標的のポリヌクレオチドを抑制する作用はその塩基配列や鎖長の違いで異なり、標的のポリヌクレオチドである天然アンチセンスポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズできても、細胞中のそのセンスポリヌクレオチドの発現のアップレギュレートをもたらすとは限らないため、4000を超えるヌクレオチド長を有する配列番号2における任意の領域に対して相補的なものや、12ヌクレオチド長程度にすぎない短いヌクレオチド長のものについて、上記課題を解決できるものとして入手又は製造するには過度の試行錯誤を要する。そして、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されている一部のオリゴヌクレオチドがFLGの発現をアップレギュレートするように機能しないということが当業者にとって予想外のことではないとしても、そのことは上記判断を左右しない。 また、審判請求人の主張(c)については、特許出願に係るサポート要件違反や実施可能要件違反についての判断は、請求項の記載がマーカッシュ形式であるか否かを問わず、案件ごとに個別具体的に行われるものであるから、令和2年2月12日付け当審拒絶理由通知で指摘した本願発明のサポート要件違反及び実施可能要件違反の理由について、実質的な反論を行うものとは認められない。 したがって、審判請求人の上記主張(a)~(c)はいずれも採用できない。 第6 むすび 以上のとおり、本願は、請求項1に係る発明が明細書の発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、また、明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者が請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、同法同条第4項第1項に規定する要件を満たしていないから、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2019-003144

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