2020-012334
ケラチン物質への適用後に多層構造を形成することができる化粧用組成物
- 審判番号
- 2020-012334
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-551342外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年09月02日
- 審決日
- 2022年04月04日
- 公報発行日
- 2022年09月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ロレアル
- 【請求人代理人】園田・小林特許業務法人
- 分類
- P18 .536-WZ (A61K) / P18 .537-WZ (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条1項特許法36条4項特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第2条第3項第1号、特許法第36条第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 15項目
第1 手続の経緯
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本願は、2017年3月31日(パリ条約による優先権主張、2016年3月31日、2016年5月2日(3件)、2016年8月31日(2件)、2017年2月28日(2件) いずれも米国(US))を国際出願日とする出願であって、令和2年5月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年9月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出された。その後、令和3年10月11日付けで当審から拒絶理由が通知され、令和4年1月7日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1-11に係る発明は、令和4年1月7日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-11に記載された事項により特定されるものであり、そのうち、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」ともいう。)は以下のとおりのものである。なお、下線は当該補正の基となる補正前の請求項2の記載からの変更箇所を示す。
「少なくとも2つの不混和性構成要素を含む、ケラチン物質への適用の後に多層構造を形成することができる化粧用組成物であって、前記適用の前に、前記少なくとも2つの不混和性構成要素は、前記組成物中で不混和性であり、前記組成物は、前記適用の際に、前記少なくとも2つの不混和性構成要素が一時的に混和性になるように混合して使用するための組成物であり、前記多層構造が、前記ケラチン物質に最も近い層(層A)及び前記ケラチン物質に最も遠い層(層B)を含み、層Aが、前記組成物の総重量に対して約0.01重量%から60重量%の、60℃未満の少なくとも1つのガラス転移温度を有する少なくとも1つのシリコーン含有膜形成剤及び/又は少なくとも1つの炭化水素含有膜形成剤を含み、層Bが、前記組成物の総重量に対して約0.01重量%から90重量%の、室温で層Bにおける約1,000cStから22,000,000cStの粘度を実現するのに十分な量の一又は複数のシリコーン化合物を含み、層A中のシリコーン含有膜形成剤及び/又は炭化水素含有膜形成剤と層B中のシリコーン化合物との重量比が約1:50から50:1であり、フッ化化合物を含まず、かつ液体である、化粧用組成物。」
第3 当審における拒絶理由の概要
当審において令和3年10月11日付けで通知した拒絶理由の概要は、本願は、本願発明が明確でないので、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件(明確性要件)を満たしておらず、また、本願は、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明の記載から、本願発明がその課題を解決できることを当業者が把握することができないので、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしておらず、そして、本願は、発明の詳細な説明の記載が、本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)を満たしていない、というものである。
第4 本願明細書の発明の詳細な説明における記載事項
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本願明細書の発明の詳細な説明及び図面には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。
ア 「【0002】本発明は、ケラチン物質への適用後に多層構造を形成することができる化粧用組成物に関する。このような組成物は、複数工程の適用プロセスを行う必要なく、多層化粧品に付随する利益を可能にする。【背景技術】【0003】適用するとロングウェアの特性を持つように試みて、ファンデーション、リップスティック及びアイシャドウ等の有色化粧品を含む多くの化粧用組成物が配合されてきた。残念ながら、これらの組成物の多くは、概して、良好なロングウェア/耐移り性並びに良好な適用特性、良好な快適さ及び/又は良好な審美特性(例えば、ツヤ、又はマット特性)の両方は持たない。・・・【0006】したがって、適用時に改善された美容特性、特に良好な耐久性、感触、輝き、明るさ、及び/又はマット感の特性を有する、改善された「単回工程」の化粧用組成物が依然として必要とされている。」
イ 「【0015】本発明はまた、本発明の組成物を、ケラチン物質(例えば、皮膚、毛髪、睫毛、爪又は口唇)に適用する方法であって、不混和性構成要素が一時的に混和性になるように組成物を混合又はブレンドすることと、一時的に混和性の構成要素を含む組成物をケラチン物質に適用することとを含む方法にも関する。ケラチン物質に適用された後、構成要素が分離してケラチン物質上に多層構造を形成する。・・・【0017】本発明はまた、ケラチン物質への適用後に多層構造を形成することができる化粧用組成物、好ましくはファンデーション、アイライナー、アイシャドウ、マスカラ、又はマニキュア液等の組成物であって、少なくとも2つの不混和性構成要素A及びBを含む化粧用組成物にも関する。構成要素Aは、組成物の総重量に対して約0.01重量%から60重量%の、好ましくは60℃未満、好ましくは正常なヒトの体温より低い少なくとも1つのガラス転移温度を有する少なくとも1つのシリコーン及び/又は炭化水素含有膜形成剤を含むことが好ましい。好ましい実施態様において、少なくとも1つのシリコーン及び/又は炭化水素含有膜形成剤は、多糖、高粘度エステル、ポリブテン、ポリイソブテン、ポリ水素化ブテン、アクリルポリマー、アクリレートコポリマー、ビニルピロリドン(VP)含有ホモポリマー及びコポリマー、ポリウレタン、ポリオレフィン、シリコーン樹脂、シリコーンアクリレートコポリマー、並びにこれらの混合物からなる群から選択される膜形成剤を含む。構成要素Bは、組成物の総重量に対して約0.01重量%から90重量%の、好ましくは約1000cStから22000000cStの粘度を実現するのに十分な量の一又は複数のシリコーン化合物を含む。・・・」
ウ 「【0040】多層構造を形成することができる組成物本発明の様々な実施態様によれば、ケラチン物質への適用後に多層構造を形成することができる化粧用組成物が提供される。・・・【0041】続きを表示(全30行)本発明の一又は複数の実施態様によれば、本発明の化粧用組成物は、以下、「構成要素A」及び「構成要素B」と呼ぶ、少なくとも2つの構成要素を含む。一又は複数の実施態様において、構成要素A及び構成要素Bは両方とも、シリコーンを含む。構成要素Aは、例えば、シリコーン含有膜形成剤を含んでもよい。構成要素Bは、例えば、シリコーンゴムを含んでもよい。いくつかの実施態様において、構成要素Aは、炭化水素膜形成剤を含み、構成要素Bは、シリコーン化合物を含む。ここでも、構成要素Bは、例えば、シリコーンゴムを含んでもよい。一又は複数の実施態様において、構成要素Aは、シリコーン含有膜形成剤及び炭化水素含有膜形成剤の両方を含みうる。【0042】構成要素Aは、組成物をケラチン物質へ適用した後、ケラチン物質に最も近い多層構造の層を形成する本発明の組成物の構成要素である。多層構造のこの層を、以下、「層A」と呼ぶ。好ましい実施態様によれば、構成要素A/層Aは、2つの間の表面エネルギー特性に起因するケラチン物質の表面に対する親和性を有する。【0043】構成要素Bは、組成物をケラチン物質へ適用した後、ケラチン物質から最も遠い多層構造の層を形成する本発明の組成物の構成要素である。多層構造のこの層を、以下、「層B」と呼ぶ。好ましい実施態様によれば、構成要素B/層Bは、空気界面に対して親和性を有する。・・・【0045】ケラチン物質へ適用する前、構成要素A及び構成要素Bは、本発明の組成物中で不混和性である。好ましくは、不混和性構成要素の不混和性は、組成物を静置したときの2構成要素間の非相溶性、ケラチン物質へ適用した後の2構成要素間の非相溶性、又は両方に起因する。【0046】一又は複数の実施態様において、不混和性構成要素の不混和性は、例えば、粘度、ガラス転移温度、界面張力、溶解度パラメーター、密度、及び/若しくは構成要素の化学的/構造的非相溶性における差、並びに/又は温度及び/若しくは圧力によって誘発される差等の差に起因する。【0047】例えば、組成物を静置したときの不混和性構成要素の不混和性は、例えば、化学的/構造的非相溶性、構成要素間の界面張力の差(例えば、互いに相溶性の溶媒内の相間の界面張力の差など)、粘度の差、各相内のポリマーのガラス転移温度の差並びに/又は温度及び/若しくは圧力によって誘発される差に起因しうる。【0048】例えば、組成物を適用したときの不混和性構成要素の不混和性は、例えば、化学的/構造的非相溶性、構成要素間の界面張力の差、溶媒の蒸発後の構成要素の密度における差、並びに/又は温度及び/若しくは圧力によって誘発される差に起因しうる。【0049】一又は複数の実施態様において、ケラチン物質への適用直前及び/又は適用中、本発明の組成物をケラチン物質に適用する際に、構成要素A及び構成要素Bが一時的に混和性になるように、本発明の組成物を混合又はブレンドする。【0050】本発明の組成物をケラチン物質に適用した後、構成要素Aは構成要素Bから分離する。組成物を適用したケラチン物質上で組成物が乾燥したら、不混和性構成要素A及び構成要素Bは、それぞれ、層A及び層Bを含む多層構造を、例えば以下のようなケラチン物質上に形成する:[図:0001387734000001.jpg]・・・【0054】ケラチン物質に適用した後の構成要素A及び構成要素Bの分離に影響を与える要素としては、例えば、これらに限定されないが、基材の表面エネルギー、各構成要素の密度、溶媒の蒸発特性、成膜剤のTg、及び/又は成膜剤の粘度を含む上記の特性を挙げることができる。【0055】特定の理論に束縛されることを望むわけではないが、構成要素Aは、構成要素Bよりも、適用されるケラチン物質の表面エネルギーの特性に近い表面エネルギー特性を有すると考えられる。例えば、皮膚の表面エネルギーは、36mN/mであると推定される。これに応じて、構成要素Aが約36mN/mの表面エネルギーを有する場合、構成要素Aが皮膚に移動することができると考えられる。構成要素Bは、好ましくは、より低い表面エネルギーを有すると考えられ、空気界面に向かって移動すると考えられる傾向が強くなる。【0056】特定の理論に束縛されることを望むわけではないが、構成要素A及びBの界面張力が、相分離(特に、適用後に構成要素A及びBが分離する比率)に影響を与えると考えられる。このような相分離は、例えば、構成要素A及びBの温度における差、構成要素A及びBのTgにおける差(構成要素のTgが高いほど、相分離にかかる時間が長い)、成膜剤の重量分率における差、並びに/又は構成要素A及びBの圧力における差などの上記のような差によって影響されうると考えられる。」
エ 「【0073】構成要素A及び/又は構成要素Bに添加される許容可能な成分の例を以下で考察する。【0074】膜形成剤(成膜剤)続きを表示(全30行)本発明の組成物は、少なくとも1つのシリコーン及び/又は炭化水素含有膜形成剤を含んでよい。シリコーン及び炭化水素含有膜形成剤は、当技術分野において公知であり、任意のシリコーン及び/又は炭化水素含有膜形成剤を使用してよい。・・・・・・【0078】炭化水素含有膜形成剤(成膜剤)本発明の組成物は、少なくとも1つの炭化水素含有膜形成剤を含んでもよい。本明細書で用いる場合、「炭化水素含有膜形成剤」は、少なくとも約2.5、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、又は99重量%の炭化水素を含む膜形成剤を指す。・・・・・・【0089】シリコーン含有膜形成剤(成膜剤)本発明の組成物は、少なくとも1つのシリコーン含有膜形成剤を含んでもよい。本明細書で用いる場合、「シリコーン含有膜形成剤」は、シリコーンを含有する膜形成剤を指す。・・・・・・【0132】本発明の一又は複数の実施態様によれば、構成要素Aは、少なくとも1つのシリコーンアクリレート及び少なくとも1つのシリコーン樹脂を含む。好ましくは、少なくとも1つのシリコーン樹脂は、ポリプロピルシルセスキオキサン樹脂である。・・・【0133】シリコーン化合物一又は複数の実施態様において、本発明の組成物は、少なくとも1つのシリコーン化合物を含む。好ましくは、構成要素Bは、膜形成剤ではない一又は複数のシリコーン化合物を含む。また、好ましくは、少なくとも1つのシリコーン化合物は、別の構成要素中の膜形成剤より低い表面エネルギーを有する。そのため、例えば、構成要素Bが、膜形成剤ではない少なくとも1つのシリコーン化合物を含有する場合、シリコーン化合物は、好ましくは、構成要素A中の膜形成剤より低い表面エネルギーを有する。【0134】シリコーン化合物は、例えば、最低限1個の酸素、より更なる実施態様では2個の酸素に結合したケイ素を含む高分子であってよい。・・・【0135】一又は複数の実施態様において、用語「シリコーン化合物」は、これらに限定されないが、シリコーンゴム、シリコーン溶液、及びシリコーンワックスを含む。シリコーン化合物は、存在する場合、組成物に特性を付与することができる(例えば、ツヤ又はマット感の品質を強化する)。・・・・・・【0183】本発明の特定の実施態様によれば、組成物は、好ましくは、一又は複数の揮発性非シリコーン油を含み、揮発性炭化水素油、揮発性エステル及び揮発性エーテルから選択することができる。このような揮発性非シリコーン油の例としては、これらに限定されないが、8-16個の炭素原子を有する揮発性炭化水素油及びこれらの混合物、特に分岐鎖C8-C16アルカン、例えばC8-C16イソアルカン(イソパラフィンとしても公知)、イソヘキサデカン、イソドデカン、イソデカン、並びに、例えば、商標名Isopar又はPermethylで販売されている油が挙げられる。好ましくは、揮発性非シリコーン油は、少なくとも40℃の引火点を有する。・・・【0189】一又は複数の実施態様において、高粘度のエステルは、スクロース酢酸イソブチルを含む。好適なスクロース酢酸イソブチル化合物の一例は、Eastman(登録商標)(TN州Kingsport)から市販されているSAIB-100(登録商標)である。このエステルは、30℃で約100000cpsの粘度を有し、20℃で約1.5の屈折率を有する。・・・」
オ 「【実施例】【0236】実施例1-ファンデーションの試験調製続きを表示(全168行)ファンデーションの実施例の発明2、比較3及び比較4を、高速ミキサーを使用して調製した。高速ミキサーのカップに、全てのポリマーを添加した。サンプルを、2500-3500RPMで均一になるまで混合した。サンプルは、典型的には、混濁していて透明ではなく、均一性は、サンプルの滑らかさによって判断した。混合したてのサンプルに、QS溶媒に加えて、顔料、顔料分散体、及び任意の他の粒子を添加した。サンプルを2500-3500RPMで均一になるまで更に混合した。成分を以下の表に示す。【0237】比較1は、市販製品である。比較1は、シリコーン化合物を含有せず、使用したシリコーン樹脂のTgが高いため、比較用として考えられる。【0238】比較3は、膜形成剤(すなわち、構成要素A)を一切含有しないため、比較用として考えられる。【0239】比較4は、シリコーン化合物(すなわち、構成要素B)を含有しないため、比較用として考えられる。【0240】摩耗試験ファンデーションサンプルを、3ミルの湿潤ドローダウンバーを使用してByko-Charts Black Scrub Panels P122-10N(6.50×17.00インチ)上にキャストした。膜を、最低5時間、乾燥させた。次いで、最下部バーに付着したVelcro(3/4”の白色010 PSA0172)ループ側面部を備えた自動ドローダウン機(Gardco Automatic Drawdown Machine)を使用して、サンプルを摩耗させた。バーに付着したVelcroと膜界面との間で接触させ、次いでバーを、サンプルを横断して自動的に5回ドラッグした(一方向は、ドラッグして横切る方向と見なす)。次いで、サンプルを、製品の除去について評価した(1を最低限の除去とし、2を中程度の除去とし、3を完全な除去として格付けした)。【0241】セルフレベリング試験サンプルを、その乾燥膜特性について評価した。サンプルを、室温で3ミルの湿潤ドローダウンバーを使用してByko-Charts Black Scrub Panels P122-10N(6.50×17.00インチ)にキャストした。サンプルを、最低5時間、乾燥させた。乾燥後、サンプルを、相分離及びセルフレベリング特性について視覚的及び手動的に評価した。相分離を評価するために、手袋をはめた人差し指でサンプルの界面を端から端まで軽く一打ちこすることによって膜を攪拌した。サンプルを粗面化できた場合、それを記録し、セルフレベリングによる膜の回復について更に評価した。サンプルを最低でも24時間の間、静置しておき、次いで界面の質について、いくらかの回復があったかを視覚的に再評価した。粗面化する前、最初の粗面化時、及び粗面化から24時間後のサンプルの画像も撮影しておいた。24時間後、サンプルが回復の兆しを示したか否かを記録した。[図:0001387734000002.jpg]1 = Kp550, Shin Etsu2 = 1515 シリコーンゴム、Dow Corning【0242】上の表で確認できるように、膜を破壊させ、自己回復を示す唯一の組成物は、発明1だった。比較1は、膜を破壊せず、したがって自己回復を示さないと考えられる。このような膜のセットは、十分な妨害を受ければ、膜が剥離することがあり、ファンデーションの品質は非常に低くなることを意味する。発明2は、膜を破壊させ、次いで破壊が見つけられなくなる点まで平らにした。比較3は、膜を破壊させたが、部分的にも除去され、この場合もファンデーションに望ましくない効果となった。比較4は、膜をわずかに破壊し、いくらかのセルフレベリングを示したが、発明1ほどではなかった。したがって、発明1が、最も高度なセルフレベリングを示したファンデーションサンプルだった。【0243】また、上の表で確認できるように、発明2のみが、摩耗試験で1のスコアを残し、最小限の除去を示した唯一の組成物だったことを意味する。他の全ての比較サンプルは、2をスコアし、中程度の除去に対応した。【0244】これらの結果は、膜形成剤及びシリコーン化合物の両方を有することと、良好な摩耗自己回復特性の達成との間の関係を示す。発明2及び比較3は、比較3が一切の膜形成剤を含まず、イソドデカンを増やして、同レベルの顔料及びジメチコノールを維持する点で異なる。同様に、発明2及び比較4は、比較4がジメチコノールを含まず、ここでもイソドデカンを増やして、同レベルの顔料及び膜形成剤を維持する点で異なる。したがって、発明2を比較3と直接比較して、膜形成剤を除去する効果をみることができ、発明2を比較4と直接比較して、シリコーン化合物を除去する効果をみることができる。【0245】実際、結果は、構成要素A及びBの両方が存在する(すなわち、相乗効果)場合のみ、自己回復及び良好な摩耗が示されたことを実証する。比較3は、膜が破壊する間に一部が除去され、自己回復を示さず、摩耗試験では2をスコアした。比較4は、わずかに破壊し、自己回復を示し、ここでも摩耗試験では2をスコアするのみであった。発明2の性能は、全ての点で比較3及び4に優っており、その結果、両方の構成要素が必要であることを示し、構成要素A又はBのうちの1つしか含まない組成物と比べて相乗効果を有することが示された。【0246】実施例2-下塗り試験調製下塗りの実施例を、高速ミキサーを使用して調製した。高速ミキサーのカップに、全てのポリマーを添加した。サンプルを、2500-3500RPMで均一になるまで混合した。サンプルは、混濁していて透明ではなく、均一性は、サンプルの滑らかさによって判断した。混合したてのサンプルに、フィラー粒子を添加した。サンプルを2500-3500RPMで均一になるまで再度混合した。【0247】比較6は、市販製品である。【0248】セルフレベリング試験サンプルを、その乾燥膜特性について評価した。サンプルを、室温で3ミルの湿潤ドローダウンバーを使用してByko-Charts Black Scrub Panels P122-10N(6.50×17.00インチ)にキャストした。サンプルを、最低5時間、乾燥させた。乾燥後、サンプルを、相分離及びセルフレベリング特性について視覚的及び手動的に評価した。相分離を評価するために、手袋をはめた人差し指でサンプルの界面を端から端まで軽く一打ちこすることによって膜を攪拌した。サンプルを粗面化できた場合、それを記録し、セルフレベリングによる膜の回復について更に評価した。サンプルを最低でも24時間の間、静置しておき、次いで界面の質について、いくらかの回復があったかを視覚的に再評価した。粗面化する前、最初の粗面化時、及び粗面化から24時間後のサンプルの画像も撮影しておいた。24時間後、サンプルが回復の兆しを示したか否かを記録した。【0249】バルク相分離評価全てのサンプルを、均質性、相分離、及び任意の追加の視覚属性について視覚的に評価した。これらの評価は、バルク配合物を、混合又は攪拌後に24時間、室温で静置させた後で実施した。バルクに相分離が見えるか否か、サンプルを確認した。【0250】接着評価サンプルを、室温で3ミルの湿潤ドローダウンバーを使用してBYK Byko-Charts Black Scrub Panels P122-10N(6.50×17.00インチ)にキャストした。サンプルを、最低でも24時間、乾燥させた。一枚のASTMクロスハッチテープ(Permacel 99/PA-28060/51596)を膜に適用し、軽くたたいて確実に膜と接触させた。テープを180度の角度で外し、製品の除去について視覚的に評価した。1を製品の除去がなかった、2を部分的に製品が除去された、3を完全に製品が除去された、とする三点尺度で、製品を評価した。【0251】下塗りの上部のアイシャドウの視覚的評価サンプルを、室温で3ミルの湿潤ドローダウンバーを使用してBYK Byko-Charts Black Scrub Panels P122-10N(6.50×17.00インチ)にキャストした。サンプルを、最低でも24時間、乾燥させた。膜をセットした後、アイシャドウを下塗りサンプルの上部に適用した。色の強度及びバルク製品に対する色濃度について製品を視覚的に評価した。色の強度は、1を非常に高い強度、2を中程度の強度、3を低い強度とする三点尺度に従って評価した。色濃度は、アイシャドウのバルクの色に対する色の効果に基づいて格付けし、1を、バルクに非常に似ているとし、2を、いくらか類似しているとし、3を、バルクとは全く似ていないとした。[図:0001387734000003.jpg]1 = 1515 シリコーンゴム、Dow Corning2 = DOW CORNING VM-2270 エーロゲル微粒子【0252】上の表で確認できるように、市販の商業的に入手可能な比較6は、接着評価、色の強度又は色濃度の面で発明5と同等には機能しなかった。その上、発明5は、破壊後にセルフレベリング特性を示したが、比較6は、破壊中に部分的に除去し、経時的にセルフレベリングしなかった。【0253】実施例3-無水組成物サンプルの調製:組成物を、高速ミキサーを使用して調製した。高速ミキサーのカップに、全てのポリマーを添加した。サンプルを2500-3500RPMで均一になるまで混合した。サンプルは、典型的には、混濁していて透明ではなく、均一性は、サンプルの滑らかさによって判断した。混合したてのサンプルに、QS溶媒に加えて、顔料、顔料分散体、及び任意の他の粒子を添加した。サンプルを2500-3500RPMで均一になるまで更に混合した。【0254】膜の破壊及び回復:サンプルを、その乾燥膜特性について評価した。サンプルを、室温で3ミルの湿潤ドローダウンバーを使用してBYK不透明度チャート(#2812)上にキャストした。サンプルを、最低5時間、乾燥させた。乾燥後、サンプルを、相分離及びセルフレベリング特性について視覚的及び手動的に評価した。相分離を評価するために、手袋をはめた指で膜を攪拌した。サンプルを粗面化できた場合、それを記録し、セルフレベリングによる膜の回復について更に評価した。サンプルを最低でも24時間の間、静置しておき、次いで界面の質について、いくらかの回復があったかを視覚的に再評価した。粗面化する前、最初の粗面化時、及び粗面化から24時間後のサンプルの画像も撮影しておいた。24時間後、サンプルが回復の兆しを示したか否かを記録した。【0255】水接触角:BYK不透明度チャート(#2812)に、3ミルの湿潤ドローダウンバーを使用して膜をキャストした。測定前に、膜を少なくとも48時間乾燥させた。全ての接触角の測定値は、張力計を使用して獲得した。2-3マイクロリットルの液滴をキャストした膜上に置き、10秒後に平均接触角の値を獲得した。サンプルごとに最低3つの接触角の値を取り、平均を以下の表に示す。【0256】以下の表の組成物を調製し、上記のプロトコールに従って試験した。確認できるように、発明1は、攪拌後にセルフレベリング特性を示した。その上、発明1の水接触角は、比較3と同様だった。[図:0001387734000004.jpg]1. XIAMETER PMX-200 シリコーン溶液 1000CS2. Dow Corning 1515 Siゴム【0257】以下の表の組成物を調製し、上記のプロトコールに従って試験した。確認できるように、発明1は、攪拌後にセルフレベリング特性を示した。その上、発明1の水接触角は、比較3と同様だった。【0258】実施例4-リップオイル組成物の調製リップオイルの実施例を、高速ミキサーを使用して調製した。高速ミキサーのカップに、全てのポリマーを添加した。サンプルを2500-3500RPMで均一になるまで混合した。サンプルは、典型的には、混濁していて透明ではなく、均一性は、サンプルの滑らかさによって判断した。混合したてのサンプルに、QS溶媒に加えて、顔料、顔料分散体、及び任意の他の粒子を添加した。サンプルを2500-3500RPMで均一になるまで更に混合した。【0259】試験プロトコール光沢度の試験サンプルを、光沢計を使用して光沢値について評価した。3ミルの湿潤ドローダウンバーを使用して、膜をBYK不透明度チャート(#2812)に付着させることによって、サンプル膜を調製した。膜を最低でも1時間乾燥させ、次いで、BYKマイクロ-TRI-グロスメーターを使用して、光沢値について評価した。獲得した値から、60度の値を記録した。10GU未満の値は、低い光沢度と見なし、10-69GUの値は、中程度の光沢度と見なし、70GU以上の値は、高い光沢度と見なした。【0260】耐移り性:キス試験サンプルを、耐移り性について試験した。サンプルはそれぞれ対象により適用され、15分間乾燥させた。15分の乾燥時間の後、各対象は、自分たちの清潔な手の甲にキスし、画像を撮って、移り性のレベルを評価した。完全な移り性の場合、スコアを3とし、一方、いくらかの移り性には2のスコアを付け、わずかから皆無の移り性には1のスコアを付けた。【0261】セルフレベリング試験サンプルを、その乾燥膜特性について評価した。サンプルを、室温で3ミルの湿潤ドローダウンバーを使用してBYK不透明度チャート(#2812)にキャストした。サンプルを、最低5時間、乾燥させた。乾燥後、サンプルを、相分離及びセルフレベリング特性について視覚的及び手動的に評価した。相分離を評価するために、手袋をはめた指で35-55グラムの力によって膜を攪拌した。全てのサンプルに同じ力を適用することを保証するために、コントラストカードをスケール上に置き、その位置に重みをかけて膜を押下し、スケールにタールを塗った。次いで、手袋をはめた人差し指を使ってサンプルを横断した。加える圧力は、35-55gの範囲内の力を維持した。サンプルを粗面化できた場合、それを記録し、セルフレベリングによる膜の回復について更に評価した。サンプルを最低でも24時間の間、静置しておき、次いで界面の質について、いくらかの回復があったかを視覚的に再評価した。粗面化する前、最初の粗面化時、及び粗面化から24時間後のサンプルの画像も撮影しておいた。24時間後、サンプルが回復の兆しを示したか否かを記録した。【0262】バルク相分離全てのサンプルを、均質性、相分離、及び任意の追加の視覚属性について視覚的に評価した。これらの評価は、バルク配合物を、混合又は攪拌後に、最低でも1時間-72時間、室温で静置させた後で実施した。【0263】発明及び比較の組成物以下の表の組成物を調製し、上記のプロトコールに従って試験した。確認できるように、発明3及び5は、市販の比較例に対して耐移り性が改善されており、光沢度の値も高かった。加えて、サンプルがバルクに相分離され、固有のセルフレベリング特性も、このサンプル内で見られた。[図:0001387734000005.jpg]3. Dow Corning 1515 Siゴム4. XIAMETER PMX-200 シリコーン溶液 1,000,000 CS5. XIAMETER PMX-200 シリコーン溶液 1000CS* 顔料を含まない。[図:0001387734000006.jpg]【0264】実施例5-リップグロスの調製リップグロス組成物を、高速ミキサーを使用して調製した。高速ミキサーのカップに、全てのポリマーを添加した。サンプルを2500-3500RPMで均一になるまで混合した。サンプルは、典型的には、混濁していて透明ではなく、均一性は、サンプルの滑らかさによって判断した。混合したてのサンプルに、QS溶媒に加えて、顔料、顔料分散体、及び任意の他の粒子を添加した。サンプルを2500-3500RPMで均一になるまで更に混合した。【0265】試験プロトコール耐移り性:キス試験サンプルを、耐移り性について試験した。サンプルはそれぞれ対象により適用され、15分間乾燥させた。15分の乾燥時間の後、各対象は、自分たちの清潔な手の甲にキスし、画像を撮影して、移り性のレベルを評価した。完全な移り性の場合、スコアを3とし、一方、いくらかの移り性には2のスコアを付け、わずかから皆無の移り性には1のスコアを付けた。【0266】粘着性試験サンプルの粘着性を評価するために、各サンプルの薄膜を、3ミルの湿潤ドローダウンバーを使用してBYK不透明度チャート(#2812)に置いた。膜を最低でも1時間乾燥させ、テクスチャー分析器を使用して、そのピーク力を測定した。1/2”のステンレス鋼ボールプローブを使用し、標準的接着試験を実施したが、その試験において、最低10秒間、250gの力で、0.5mm/secの速度にて、プローブをサンプルに適用した。プローブは、10mm/secの速度でサンプルから取り除かれた。ピーク力の粘着性を読み取りから獲得した。典型的には、最低でも3回の測定を行ない、平均ピーク力を記録する。全ての測定は、環境温度で実施した。【0267】光沢度の試験サンプルを、光沢計を使用して光沢値について評価した。3ミルの湿潤ドローダウンバーを使用して、膜をBYK不透明度チャート(#2812)に付着させることによって、サンプル膜を調製した。膜を最低でも1時間乾燥させ、次いで、BYKマイクロ-TRI-グロスメーターを使用して、光沢値について評価した。獲得した値から、60度の値を記録した。10GU未満の値は、低い光沢度と見なし、10-69GUの値は、中程度の光沢度と見なし、70GU以上の値は、高い光沢度と見なした。【0268】セルフレベリング試験サンプルを、その乾燥膜特性について評価した。サンプルを、室温で3ミルの湿潤ドローダウンバーを使用してBYK不透明度チャート(#2812)にキャストした。サンプルを、最低5時間、乾燥させた。乾燥後、サンプルを、相分離及びセルフレベリング特性について視覚的及び手動的に評価した。相分離を評価するために、手袋をはめた指で35-55グラムの力によって膜を攪拌した。全てのサンプルに同じ力を適用することを保証するために、コントラストカードをスケール上に置き、その位置に重みをかけて膜を押下し、スケールにタールを塗った。次いで、手袋をはめた人差し指を使ってサンプルを横断した。加える圧力は、35-55gの範囲内の力を維持した。サンプルを粗面化できた場合、それを記録し、セルフレベリングによる膜の回復について更に評価した。サンプルを最低でも24時間の間、静置しておき、次いで界面の質について、いくらかの回復があったかを視覚的に再評価した。粗面化する前、最初の粗面化時、及び粗面化から24時間後のサンプルの画像も撮影しておいた。24時間後、サンプルが回復の兆しを示したか否かを記録した。【0269】バルク相分離全ての配合物を、均質性、相分離、及び任意の追加の視覚属性について視覚的に評価した。これらの評価は、バルク配合物を、混合又は攪拌後に、最低でも1時間から72時間まで、室温で静置させた後で実施した。【0270】発明及び比較の組成物以下の表の組成物を調製し、上記のプロトコールに従って試験した。確認できるように、発明10は、市販の比較例に対して耐移り性が改善されており、光沢度の値も高かった。その上、サンプルの粘着性の値は低かった。加えて、サンプルはバルクに相分離し、固有のセルフレベリング特性も、このサンプル内で見られた。[図:0001387734000007.jpg]* 顔料を含まない。1. Dow Corning 1515 Siゴム2. XIAMETER PMX-200 シリコーン溶液 1,000,000 CS3. XIAMETER PMX-200 シリコーン溶液 1000CS【0271】実施例6-水含有配合物発明1の調製発明1を、高速ミキサーを使用して調製した。発明1の成分を、以下の表に示す。高速ミキサーのカップに、全てのポリマーを添加した。サンプルを2500-3500RPMで均一になるまで混合した。サンプルは、典型的には、混濁していて透明ではなく、均一性は、サンプルの滑らかさによって判断した。混合したてのサンプルに、QS溶媒及び水に加えて、顔料、顔料分散体、及び任意の他の粒子を添加した。サンプルを2500-3500RPMで均一になるまで更に混合した。【0272】比較2は、市販製品である。【0273】バルク相分離評価全てのサンプルを、均質性、相分離、及び任意の追加の視覚属性について視覚的に評価した。これらの評価は、バルク配合物を、混合又は攪拌後に24時間、室温で静置させた後で実施した。バルクに相分離が現れた場合、サンプルをPSと記録し、サンプルに均質性が現れた場合、Hと記録した。【0274】セルフレベリング試験サンプルを、その乾燥膜特性について評価した。サンプルを、室温で3ミルの湿潤ドローダウンバーを使用してBYK不透明度チャート(#2812)にキャストした。サンプルを、最低5時間、乾燥させた。乾燥後、サンプルを、相分離及びセルフレベリング特性について視覚的及び手動的に評価した。相分離を評価するために、手袋をはめた人差し指でサンプルの界面を端から端まで軽く一打ちこすることによって膜を攪拌した。サンプルを粗面化できた場合、それを記録し、セルフレベリングによる膜の回復について更に評価した。サンプルを最低でも24時間の間、静置しておき、次いで界面の質について、いくらかの回復があったかを視覚的に再評価した。粗面化する前、最初の粗面化時、及び粗面化から24時間後のサンプルの画像も撮影しておいた。24時間後、サンプルが回復の兆しを示したか否かを記録した。【0275】耐移り性:キス試験サンプルを、耐移り性について試験した。サンプルはそれぞれ対象により適用され、15分間乾燥させた。15分の乾燥時間の後、各対象は、自分たちの清潔な手の甲にキスし、画像を撮って、移り性のレベルを評価した。完全な移り性の場合、スコアを3とし、一方、いくらかの移り性には2のスコアを付け、わずかから皆無の移り性には1のスコアを付けた。【0276】光沢度の試験用のサンプルを、光沢計を使用して光沢値について評価した。3ミルの湿潤ドローダウンバーを使用して、膜をBYK不透明度チャート(#2812)に付着させることによって、サンプル膜を調製した。膜を最低でも1時間乾燥させ、次いで、BYKマイクロ-TRI-グロスメーターを使用して、光沢値について評価した。獲得した値から、60度の値を記録した。【0277】上記の試験の結果を以下の表に示す。[図:0001387734000008.jpg]1Shinetsu KP552Dow Corning 1515ゴム3Dow Corning Xiameter PMX-200 1000 CS4Dow Corning Xiameter PMX-200 1,000,000 CS上の表の結果からわかるように、発明1は、市販製品と比べてより良好なセルフレベリング特性をもたらす。【0278】実施例7-サンプル配合物液体リップスティック[図:0001387734000009.jpg]【0279】液体リップスティック[図:0001387734000010.jpg]【0280】液体リップスティック[図:0001387734000011.jpg]【0281】液体リップスティック[図:0001387734000012.jpg]【0282】リップグロス[図:0001387734000013.jpg]【0283】リップオイル[図:0001387734000014.jpg]【0284】ファンデーション[図:0001387734000015.jpg]【0285】毛髪用組成物[図:0001387734000016.jpg]」
第5 本願発明1に係る特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
1 実施可能要件の検討の前提
特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載が適合するものでなければならない要件として、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」(いわゆる「実施可能要件」)を規定している。
この規定にいう「実施」とは、物の発明においては、その物を生産、使用等をする行為をいうものであるから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載は、その記載及び本願の出願時の技術常識に基づいて、当業者が、その発明に係る物を、生産することができ、かつ、使用することができる程度のものでなければならない。
そこで、この観点から、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、本願発明1について実施可能要件を満たすか否か、以下、検討する。
2 本願明細書の発明の詳細な説明の記載について
少なくとも2つの不混和性構成要素を含む、液体である本願発明1の「化粧用組成物」は、請求項1における記載のとおり、それを一時的に混和して、ケラチン物質、すなわち摘記事項イの【0015】の記載に照らすに、皮膚、毛髪、睫毛、爪又は口唇といったものに適用した後に、シリコーン含有膜形成剤又は炭化水素含有膜形成剤を含む、ケラチン物質に最も近い層(層A)と、シリコーン化合物を含む、ケラチン物質に最も遠い層(層B)とを含む多層構造を形成することができるものとされているから、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願の出願時の技術常識に照らし、当業者がそのような化粧用組成物を生産することができ、かつ、使用することができる程度に記載されている必要がある。
摘記事項エ及びオのとおり、本願明細書の実施例1~6には、実施例1の発明2、実施例2の発明5、実施例3の発明1、実施例4の発明3、実施例4の発明5、実施例5の発明10及び実施例6の発明1として、摘記事項イの【0017】、摘記事項エの【0132】、【0189】のとおり、シリコーン含有膜形成剤又は炭化水素含有膜形成剤に相当するポリプロピルシルセスキオキサン(ポリプロピルシルセスキオキサン樹脂)、シリコーンアクリレートポリマー、アクリレート/ジメチコンコポリマー又はスクロール酢酸イソブチル(SAIB)のいずれかを少なくとも1つ含み、かつ、摘記事項エの【0135】のとおり、シリコーン化合物に相当するジメチコノール(シリコーンゴム)又はジメチコン(シリコーン溶液)のいずれかを少なくとも1つ含む、ファンデーション等である7つの組成物が具体的に記載され、それらについての膜の破壊、セルフレベリング特性等の種々の特性に係る試験の結果が各表中に示されている。そして、このうちの実施例2の発明5、実施例4の発明3、実施例4の発明5、実施例5の発明10及び実施例6の発明1の5つの組成物については、摘記事項オの【0249】、【0262】、【0269】及び【0273】に記載のバルク相分離に係る評価手法を用いて、バルク相分離が確認されたことが示されている。
しかしながら、摘記事項オの【0249】、【0262】、【0269】及び【0273】に記載のバルク相分離に係る評価手法はいずれも、例えば、【0249】における、「全てのサンプルを、均質性、相分離、及び任意の追加の視覚属性について視覚的に評価した。これらの評価は、バルク配合物を、混合又は攪拌後に24時間、室温で静置させた後で実施した。バルクに相分離が見えるか否か、サンプルを確認した。」との記載によれば、実施例2の発明5等の組成物をバルク配合物として、混合又は攪拌後に所定の時間、室温で静置させた後で、バルクに相分離が見えるか否か視覚的に評価することと認められ、これは、液体である組成物について、その混和後に、皮膚等のケラチン物質に適用することなく単に静置することで、主に組成物に含まれる物質相互の親和性の低さ及び比重の違いに起因した相分離が生じるか否かを確認する手法というものに留まる。
さらに、当該手法を用いることでバルク相分離が確認されたことが示されている上記5つの組成物は全て、ポリプロピルシルセスキオキサン(ポリプロピルシルセスキオキサン樹脂)、ジメチコノール(シリコーンゴム)及び溶媒であるイソドデカン(揮発性炭化水素油)を必須で含み、かつ、実施例2の発明5以外の上記4つの組成物はいずれもジメチコン(シリコーン溶液)(1000CS、1,000,000CS)を含むものであるところ、それぞれについて確認された相分離後の各相にどのような成分が含まれているのかの確認も一切なされていない。また、摘記事項オの【0256】とおり、実施例3の発明1の組成物はスクロール酢酸イソブチル(SAIB)、ジメチコノール、ジメチコン及びイソドデカンが配合されたものであるが、その相分離に係る評価結果は示されておらず、そして、摘記事項オのとおり【0278】~【0285】に記載の液体リップスティック等の化粧用組成物はいずれも、各々の組成について記載されているだけである。
また、本願明細書の実施例には、摘記事項オの【0241】、【0248】、【0261】、【0268】及び【0274】に記載のセルフレベリング試験に係る評価手法において、組成物の相分離についても当該試験において評価したことについての記載があるが、組成物をサンプルとしてキャストしたとしている「Byko-Charts Black Scrub Panels P122-10N」はケラチン物質に該当するとは認められないし、当該セルフレベリング試験による評価結果はセルフレベリング特性、すなわち自己水平性の有無として示されているだけである。
以上のとおり、本願明細書の実施例には、ポリプロピルシルセスキオキサン(ポリプロピルシルセスキオキサン樹脂)、ジメチコノール(シリコーンゴム)及びイソドデカンを必ず含んでなる特定の組成物についてさえも、それらを一時的に混和して、皮膚等であるケラチン物質への適用した後に、当該組成物に含まれているシリコーン含有膜形成剤又は炭化水素含有膜形成剤が、これを含むケラチン物質に最も近い層(層A)として、また、当該組成物に含まれているシリコーン化合物が、これを含むケラチン物質に最も遠い層(層B)として、多層構造が形成されることについての確認はなされていない。
また、本願明細書には摘記事項ウ及びエのとおり、シリコーン含有膜形成剤又は炭化水素含有膜形成剤を含む層A(構成要素A)はケラチン物質の表面に対する親和性を有し、一方、シリコーン化合物を含む層B(構成要素B)は空気界面に対して親和性を有すること(【0042】、【0043】)、構成要素Aは皮膚の表面エネルギー(36mN/m)程度である場合、皮膚に移動することができると考えられ、一方、構成要素Bはより低い表面エネルギーを有すると考えられ、空気界面に向かって移動すると考えられる傾向が強くなること(【0055】)、構成要素Bが膜形成剤ではないシリコーン化合物を含有する場合、シリコーン化合物は構成要素A中の膜形成剤より低い表面エネルギーを有すること(【0133】)といった、本願発明1に相当する組成物を皮膚等のケラチン物質に適用した後における、層A及び層Bの形成に係る理論についての記載がある。
しかしながら、実施例でバルク相分離が生じたことを確認している実施例2の発明5等の組成物について、含有される膜形成剤や膜形成剤ではないシリコーン化合物がどのような表面エネルギーを有するものであるのか全く不明であるし、相分離後に形成されるシリコーン含有膜形成剤又は炭化水素含有膜形成剤を含む層の表面エネルギーは皮膚の表面エネルギー(36mN/m)程度であり、ケラチン物質の表面に対する親和性を有すること、また、相分離後に形成されるシリコーン化合物を含む層の表面エネルギーはより低く、空気界面に対して親和性を有すること、さらに表面エネルギーに基づく親和性の違いによって実際にケラチン物質に最も近い層(層A)とケラチン物質に最も遠い層(層B)の多層構造が形成されることについて、そのことを裏付ける試験結果等は本願明細書に何ら記載されていない。そして、本願発明1に相当する組成物が相分離して形成されるシリコーン含有膜形成剤又は炭化水素含有膜形成剤を含む層及びシリコーン化合物を含む層とは、シリコーン含有膜形成剤又は炭化水素含有膜形成剤のみ、あるいは、シリコーン化合物のみから構成されるものではなく、顔料や溶媒などの他の成分も含んでなるものであるところ、そのような複数の成分からなる各々の層の表面エネルギーやケラチン物質及び空気界面に対する親和性が上記のとおりであることが、本願出願時における当業者の技術常識であったとも認められない。
かえって、発明の詳細な説明には摘記事項ウのとおり、組成物を静置したときの不混和性構成要素の不混和性の起因となる特徴と、組成物を適用したときの不混和性構成要素の不混和性の起因となる特徴に関し、両者は完全に一致するものではないことを説明するものと理解される記載も認められる(【0047】、【0048】)。
よって、本願明細書の実施例におけるバルク相分離に係る評価手法による、実施例2の発明5等の組成物についての相分離の結果等に加え、当該分野の技術常識をふまえて発明の詳細な説明における記載を勘案したとしても、本願発明1の化粧用組成物が、それを一時的に混和して皮膚等のケラチン物質に適用した後において、ケラチン物質に最も近い層シリコーン含有膜形成剤又は炭化水素含有膜形成剤を含み、かつ、ケラチン物質に最も遠い層にシリコーン化合物を含むという多層構造を形成することを、当業者は理解することができない。
さらに、そのように、実施例2の発明5等の実施例に記載された特定の組成物でさえも、ケラチン物質への適用後に上記所定の多層構造を形成することについて理解することができないところ、摘記事項ア及びエのとおり、本願発明1の化粧用組成物に含まれるシリコーン含有膜形成剤、炭化水素含有膜形成剤又はシリコーン化合物には、実施例における組成物において実際に用いられているものと比べても、分子量や親油性/親水性、液体である化粧用組成物に含まれる溶媒に対する溶解性などの物理化学的な特性が相当に異なる様々なものが含まれるが、それらを化粧用組成物中にどのような量比でどのように組み合わせて採用すれば、ケラチン物質への適用後に上記所定の多層構造を形成することができるのかを把握するには、当業者をしても過度の試行錯誤を要することになる。
3 小括
よって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。
第6 本願発明1に係る特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
1 サポート要件の検討の前提
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆる「サポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本願の出願時の技術常識に照らし、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、この観点から、本願の請求項1の記載がサポート要件を満たすか否か、以下、検討する。
2 本願発明1が解決しようとする課題及びその解決手段について
本願の請求項1の記載、及び本願明細書の特に摘記事項ア~オの記載からみて、本願発明1が解決しようとする課題は、
「一時的に混和してケラチン物質に適用した後に、シリコーン含有膜形成剤又は炭化水素含有膜形成剤を含む、ケラチン物質に最も近い層(層A)と、シリコーン化合物を含む、ケラチン物質に最も遠い層(層B)とを含む多層構造を形成することができる、不混和性構成要素を含む化粧用組成物を提供すること」
を含むものであると認められる。
これに対し、上記第5に記載したとおり、本願発明1は、当業者が本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識に基づき、これを実施することができないのであるから、本願発明1は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び本願出願時の技術常識に照らして、上記した課題を解決できると認識できる範囲のものということはできない。
3 小括
よって、本願発明1は、明細書の発明の詳細な説明に記載したものでなはい。
第7 審判請求人の主張について
1 令和4年1月7日に提出された意見書における主張
令和4年1月7日に提出された意見書において、請求人は、概略、以下の点を主張する。
(1)一定時間、室温で静置した後にもたらされるバルク相分離の場合、2種以上の不混和性成分に対し、重力が主な駆動力として作用することにより、多層構造が形成され、また、化粧用組成物をケラチン物質へ適用した際に形成される多層構造は、ケラチン物質の表面や空気界面に対する親和性相互作用を主な駆動力として形成されるが、このような親和性相互作用に係る駆動力は、重力に係る駆動力と比較して、化粧用組成物の構成成分に対する作用がはるかに強いことを、当業者は理解する。そのため、当業者は、請求項に記載の化粧用組成物をケラチン物質へ適用した際の多層構造の形成の「速さ」が、一定時間、室温で静置した後にもたらされる多層構造の形成の「速さ」と比較して、はるかに速いことを理解し、本願明細書実施例に記載の「バルク相分離」についての評価に接した当業者は、請求項に記載の化粧用組成物が、ケラチン物質へ適用した際に、美容特性を発揮するのに十分な程度に速やかに、多層構造を形成することを理解する。
(2)「層Aが、前記組成物の総重量に対して約0.01重量%から60重量%の、60℃未満の少なくとも1つのガラス転移温度を有する少なくとも1つのシリコーン及び/又は炭化水素含有膜形成剤を含み、層Bが、前記組成物の総重量に対して約0.01重量%から90重量%の、一又は複数のシリコーン化合物を含み、層A中のシリコーン及び/又は炭化水素含有膜形成剤と層B中のシリコーン化合物との重量比が約1:50から50:1であり、かつフッ化化合物を含まない」
という特定事項は、請求項に記載の化粧用組成物における、本願明細書の【0046】、【0047】に記載されるような不混和性構成要素の不混和性の起因となる特徴を特定するものであって、実施例に記載されるように当該特定事項を満たす様々な組成の化粧用組成物が所望の性質を示したことからもこのことは明らかであり、化粧用組成物の構成成分に適切な不混和性をもたらし、ケラチン物質への適用の後に多層構造を形成することを可能にする。
2 上記主張についての判断
しかしながら、上記(1)の点については、請求人が説明するように、親和性相互作用に係る駆動力が重力に係る駆動力と比較して強いことについては、当業者が理解したとしても、そのような理解をもとに、当該多層構造について、シリコーン含有膜形成剤又は炭化水素含有膜形成剤を含む層がケラチン物質に最も近い層となり、かつ、シリコーン化合物を含む層がケラチン物質に最も遠い層となることを、当業者は理解できるということにはならない。
また、上記(2)の点について、上記の特定事項を満たす組成物が、一時的に混和してケラチン物質に適用した後に、シリコーン含有膜形成剤又は炭化水素含有膜形成剤を含む、ケラチン物質に最も近い層(層A)と、シリコーン化合物を含む、ケラチン物質に最も遠い層(層B)とを含む多層構造を形成することについて、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から当業者が把握できないことは、上記第5の2で述べたとおりである。
よって、請求人の上記主張はいずれも採用できない。
第8 むすび
以上のとおり、本願は、明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者が請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、特許法第36条第4項第1項に規定する要件を満たしていないから、また、請求項1に係る発明が明細書の発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許請求の範囲の記載が同法同条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2020-012334