特許拒絶査定不服審判
2019-003097
外部放射源からの内部エネルギー活性のためのプラズモニクス支援システムおよび方法
- 審判番号
- 2019-003097
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-042905外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年03月05日
- 審決日
- 2020年01月31日
- 公報発行日
- 2020年08月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】イミュノライト・エルエルシー
- 【請求人代理人】村山 靖彦
- 【請求人代理人】実広 信哉
- 【請求人代理人】阿部 達彦
- 【請求人】デューク・ユニバーシティ
- 【請求人代理人】村山 靖彦
- 【請求人代理人】実広 信哉
- 【請求人代理人】阿部 達彦
- 分類
- P18 .121-Z (B01J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2017- 42905「外部放射源からの内部エネルギー活性のためのプラズモニクス支援システムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月10日出願公開、特開2017-136591〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
本願は、2009年(平成21年)3月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2008年(平成20年)3月11日 米国、同年7月11日 米国)を国際出願日とする特願2010-550826号(以下、「親出願」という。)の一部を平成25年1月30日に特願2013-15222号(以下、「子出願」という。)として新たな特許出願とし、子出願の一部を同年12月27日に特願2013-272032号(以下、「孫出願」という。)として新たな特許出願とし、孫出願の一部を平成29年3月7日に特願2017-42905号(本願)として新たな特許出願としたものであって、平成29年12月4日付けで拒絶理由が通知され、平成30年5月8日に意見書及び補正書が提出され、同年10月26日付けで拒絶査定がされ(謄本の送達は同年11月5日)、これに対し、平成31年3月5日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同時に、手続補正がされ、令和元年8月8日及び同年11月1日に上申書が提出されたものである。
2 平成31年3月5日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成31年3月5日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正について
本件補正は、本件補正により補正される前の特許請求の範囲の請求項1~6について、下記アを、下記イと補正するものを含む。
ア 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1~6
「【請求項1】 処理すべき媒質内に光反応変化を発生させるための方法であって、
(1)処理すべき前記媒質内に、X線または電子のビームのエネルギーを吸収して紫外光または可視光のうち少なくとも1つを放出することができるエネルギー変調作用物質を配置するステップと、
(2)X線または電子のビームを到達及び集束させ、それによって、前記エネルギー変調作用物質から処理すべき前記媒質内に紫外光または可視光のうち少なくとも1つを放出させるように、X線または電子の集束ビームを処理すべき前記媒質の内部の複数の事前選択された3次元座標に到達させるステップと、
(3)処理すべき媒質内に放出された前記紫外光及び可視光のうち少なくとも1つから、前記媒質へ前記光反応変化を引き起こし、前記集束ビームに曝された前記少なくとも1つの選択された領域内の媒質を硬化させ、2次元または3次元パターンを形成するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記到達させるステップが、X線または電子の前記集束ビームの制御された線量を提供することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記到達させるステップが、X線または電子の前記集束ビームの強度を制御することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記到達させるステップが、X線または電子の前記集束ビームに関して、前記媒質内の少なくとも1つの事前選択された座標へ、較正された放射線ビームを到達させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記到達させるステップが、前記X線または電子の強度変調源からの前記X線または電子の前記集束ビームを到達させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記到達させるステップが、10から150keVの範囲のエネルギーを有するX線を到達させることを含む、請求項1に記載の方法。」
イ 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1~5
「【請求項1】
処理すべき媒質内に光反応変化を発生させるための方法であって、
(1)処理すべき前記媒質内に、X線のビームのエネルギーを吸収して紫外光または可視光のうち少なくとも1つを放出することができるエネルギー変調作用物質を配置するステップと、
(2)10から150keVの範囲のエネルギーを有するX線のビームを到達及び集束させ、それによって、前記エネルギー変調作用物質から処理すべき前記媒質内に紫外光または可視光のうち少なくとも1つを放出させるように、X線の集束ビームを処理すべき前記媒質の内部の複数の事前選択された3次元座標に到達させるステップと、
(3)処理すべき媒質内に放出された前記紫外光及び可視光のうち少なくとも1つから、前記媒質へ前記光反応変化を引き起こし、前記集束ビームに曝された前記少なくとも1つの選択された領域内の媒質を硬化させ、2次元または3次元パターンを形成するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記到達させるステップが、X線の前記集束ビームの制御された線量を提供することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記到達させるステップが、X線の前記集束ビームの強度を制御することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記到達させるステップが、X線の前記集束ビームに関して、前記媒質内の少なくとも1つの事前選択された座標へ、較正された放射線ビームを到達させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記到達させるステップが、前記X線の強度変調源からの前記X線の前記集束ビームを到達させることを含む、請求項1に記載の方法。」
(2)新規事項の有無及び補正の目的要件
本件補正は、本件補正前の請求項1において、本件補正前の請求項6に係る発明特定事項である「到達させるステップが、10から150keVの範囲のエネルギーを有するX線を到達させることを含む」点を限定し、本件補正前の請求項6を削除するものを含み、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
なお、本件補正後の請求項1に係る発明は、実質的に平成30年5月8日付け手続補正後(拒絶査定時)の請求項6に記載された発明であり、原査定の対象とされたものである。
そして、本件補正後の請求項2~5は、本件補正後の請求項1を引用するものであるから、本件補正前の請求項1~6に記載された発明と本件補正後の請求項1~5に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であって、本件補正後の請求項1~5に係る補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)を、進歩性(特許法第29条第2項)について検討する。
(3)本件補正発明
本件補正発明は、上記(1)イの請求項1に記載されたとおりのものと認める。
(4)引用文献・周知例の記載(下線は当審が付与した。また、周知例1~3は、下記(6)アで述べる周知技術を示す文献であるところ、摘示の便宜上この項において示す。下線は当審が付与した。)
ア 引用文献1(特開2001-46488号公報)
原査定の拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-46488号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「硬化剤」(発明の名称)について、次の記載がある。
(引1ア)「【請求項2】 生体組織内の所望の箇所で硬化させる硬化剤であって、X線を吸収して蛍光を発するX線用蛍光成分と、このX線用蛍光成分から発せられた光によって硬化する光硬化性成分と、からなる組成物を含むことを特徴とする硬化剤。」
(引1イ)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば、破損した生体内組織の破損箇所の修復、特に外科的な切開手術を伴わずに生体深奥部の破損箇所を修復させるために用いる硬化剤及びその製造に関する。さらに、本発明は、例えば、破損した構造物(建造物等)の破損箇所の修復、特に構造物内部の破損箇所を修復させるために用いる硬化剤及びその製造に関する。」
(引1ウ)「【0009】
【課題を解決するための手段】以上のような課題を解決するために、本発明は、物質透過力の強いX線の照射に直接的にまたは間接的に感応して硬化する成分を硬化剤に含ませたことを特徴としている。」
(引1エ)「【0024】<用語の定義>
[硬化剤]本明細書において、『硬化剤』とは、生体組織内(又は構造物内)の所望の箇所で硬化させるもののことを言う。
【0025】[硬化剤で使用される成分]本明細書において、『成分』とは、『硬化剤』、『組成物』全体の中の本発明を実現するために用いられる物質を指す一般的な概念であり、当該『成分』は純物質を指す場合もあり、混合物を指す場合もある。」
(引1オ)「【0029】『X線用蛍光成分』は、X線が照射されるとそれを吸収して蛍光を発するものであり、『X線用蛍光成分』としては、CaWO4等のタングステン酸塩系のものや、CaSiO4等のケイ酸塩系のもの等を用いることができる。しかし、X線を吸収して蛍光を発する『蛍光成分』であれば、上記以外の塩や他の物質から形成されたものを用いてもよい。
【0030】『光硬化性成分』は、一般的には、所定波長の光が照射されるとそれに感応して硬化する成分のことを言うが、本発明では、上記X線用蛍光成分から発せられた光によって硬化する成分のことを『光硬化性成分』と言う。このような『光硬化性成分』の一例としては、ポリケイ皮酸ビニルが挙げられるが、これ以外の成分であっても『X線用蛍光成分から発せられた光によって硬化する』成分であれば、本発明に言う『光硬化性成分』に該当する。」
(引1カ)「【0035】硬化剤を硬化させるためのX線を発する「X線照射装置」としては、X線を発生して照射しうる一般的なX線照射装置を用いればよい。」
(引1キ)「【0036】
【発明の実施の形態】以下に、本発明に係る硬化剤を用いて、生体組織の破損箇所を修復する場合について説明する。
【0037】
【実施の形態1】[硬化剤の生体内への注入]本発明に係る硬化剤(以下、修復剤と言うことがある)を、注入具1に充填して、図1に示すように、組織の破損箇所につながる上流の血管あるいはリンパ管等のような管状組織2へ注入する。こうして注入された修復剤は、体液循環の流れによって流動して目的の破損箇所3へ到達する。
【0038】[X線照射による修復剤の硬化]破損箇所3に到達した修復剤は、体液(血液またはリンパ液)とともにこの破損箇所から組織の外部へと漏出する(図2参照)。ここで、この漏出した部分の修復剤のみを感応させるために、X線照射装置21により、破損箇所の表面組織部分のみをターゲットとしてX線22を照射する。
【0039】こうすることにより、体内組織の破損箇所の表面を覆うように修復剤を硬化させることができ、体外から直接的かつ即効的に破損箇所の修復を実現することができる。」
(引1ク)「【図1】
」
(引1ケ)「【図2】
」
イ 周知例1(特開平6-39045号公報)
周知例1は、原査定の拒絶理の理由で引用された引用文献2であるところ、「電子線走査形定位放射線装置」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、直線状のコリメータを使用した定位放射線装置、特に電子線の走査経路の制御により直線状のコリメータで定位治療を実現させる電子線走査形定位放射線装置に関する。
【0002】
【従来の技術】定位法治療法が注目されている。定位法治療法とは、被検体部位へ球面空間の如き広い角度からスポット状X線を照射する点集束形の治療法である。この治療法によれば、患部そのものへの集中的な放射線照射を行いうると共に、患部以外の部位への放射線障害を排除できるとの点で、治療効果は極めて大きいとされている。」
「【0005】本発明の目的は、被検体を動かすことなく定位照射を可能にする電子線走査形定位放射線装置を提供するものである。」
「【0015】
【実施例】図1は本発明の定位放射線装置の実施例図であり、特に図1(イ)は被検体を仰臥させた状態での横方向からみた図、図1(ロ)は同状態での頭側から体軸方向をみた図、図1(ハ)は使用コリメータの拡大斜視図である。ガントリ1は、支持部100によって矢印方向に回転自在に支持されている。この回転は、ベッド12上の被検体11の治療患部の周囲である。ガントリ1は、電子線2を通す内部経路と、偏向部3と、照射へッド5と、より成る。電子線の放出源は、外部にあっても、内部にあってもよい。偏向部3は、電子線2を磁界によって偏向して複数の経路(一点鎖線で示す5つの経路)を逐次選択するコイル型の偏向手段である。
【0016】照射ヘッド5は、真空容器15と先端側に設けた真空窓13とX線ターゲット4とコリメータ14より成る。真空容器15は偏向部3で偏向された経路を含むものであり、偏向するだけの広さと長さとより成る空間を内部に持つ。真空窓13を介して電子線は放出する。X線ターゲット4は、真空窓13から放出してくる電子線の全経路対応の大きさを持つ板形状のターゲットであり、電子線が衝突した場合、その経路別に定まったターゲット部から直進透過方向にX線を放出する。コリメータ14は、X線ターゲット4の各経路位置対応に、X線を透過するスポット孔a、b、c、d、eを持つ。このスポット孔a、b、c、d、eは、透過X線20が一点集束するように、その孔の向きを外部孔程内側方向に傾斜させた構成としている。
・・・(略)・・・
【0018】次に使い方を説明する。ベッド12を移動させて被検体11の患部位置にX線が集中照射可能なように位置決めを行う。更に、偏向部3での偏向経路の選択順位を決定する。例えばa→b→c→d→eのスポット孔の順位に設定する。一般にはこの偏向経路の選択順位は事前にプリセットされている。更に、本実施例では、1回転で1偏向経路を選択するものとしている。この回転に同期しての偏向経路の選択タイミングは事前に設定されている。
【0019】以上の条件のもとで、ガントリ1を回転させて安定回転状態になった段階で、上記選択タイミングに従って先ずスポット孔aにX線が照射するような電子線経路になるべく、偏向部3を制御する。この電子線経路の選択完了時点から360°1回転分スポット孔aへX線を放出させる。この360°1回転分のX線放出とは、この間のみ電子線を放出するように放出源を制御するやり方でも、常時電子線を放出しておき上記360°1回転分の時間タイミングを除く区間(前後の区間)の間遮へいコリメータを経路中に挿入するやり方でも、実現可能である。
【0020】かくして、360°1回転分中にあっては、スポット孔aからX線が連続的に放出されることになり、このスポット孔aの傾斜方向からのスポット状X線が患部位置へ照射されることになる。
【0021】次にスポット孔aに代ってスポット孔b用の経路選択を行い、同様に、その360°1回転分についてスポット孔bで定まる傾斜方向からX線を連続的に照射する。
【0022】以下、スポット孔c→d→eと各回転に同期して経路選択を行い、各スポット孔で定まる方向からのX線照射を行う。尚、スポット孔cについては、集束点の真上とした。」
「
」
ウ 周知例2(特開昭62-177473号公報)
周知例2には、次の記載がある。
「産業上の利用分野
この発明は、X線やγ線等の放射線を検出するための放射線センサに関する。」(1頁左下欄12~14行)
「作用
蛍光体のエネルギ吸収特性は、含有される元素、特に高原子番号の元素のK-吸収端に強く依存する。たとえば、蛍光体としてCaWO4とZnS:Cu:Alとを比較した場合CaWO4は第1図Aに示すようにWのK-吸収端の69.52KeVに鋭いピークを持ち、それより高エネルギ側での吸収が高い。他方ZnS:Cu:Alの場合、第1図Bに示すように69.52KeVに相当するようなK-吸収端はZnの9.66KeVにあるのみで、それより高いエネルギに対しては一様に減少する。
・・・(略)・・・
そして、これらの各蛍光体は発光色が異なるものとされているので、色フィルタなどにより信号分離できる。上の例でもCaWO4の発光は波長420nmにピークを持ち、ZnS:Cu:Alの発光は波長530nmにピークを有するので、色フィルタで分離できる。」(2頁左上欄12行~右上欄18行)
エ 周知例3(特開昭63-168600号公報)
周知例3には、次の記載がある。
「[従来の技術]
医学上の診断のためのX線をX線管の中で、しかも陽極の領域における電子の制動により発生させることが知られている。その結果生じる制動放射線は20keVないし100keVの範囲にわたっている。」(1頁右下欄13~18行))
「可変のエネルギーのほぼ単色のX線を発生するための設備は例えば次のように動作できる。すなわち18μmの厚さのダイヤモンド結晶を通して(110)方向にチャネリングする10MeVないし60MeVのエネルギー範囲の電子を用いて、20keVないし130keVのほぼ単色の光子を発生することができる。」(7頁左下欄7~13行)
「
」
(5)引用文献1に記載された発明(引用発明)
ア 引用文献1の【請求項2】(引1ア)に記載された「硬化剤」は、同じく、【0037】(引1キ)の「本発明に係る硬化剤(以下、修復剤と言うことがある)」という記載から、「修復剤」とも呼ぶことができる。そうすると、該【請求項2】から、引用文献1には、「生体組織内の所望の箇所で硬化させる修復剤であって、X線を吸収して蛍光を発するX線用蛍光成分と、このX線用蛍光成分から発せられた光によって硬化する光硬化性成分と、からなる組成物を含む修復剤」が記載されているといえる。
イ そして、この修復剤について、「生体組織の破損箇所を修復する場合」(【0036】(引1キ))である「【実施の形態1】」(【0037】~【0039】(引1キ))では、その下線で示したように「本発明に係る」「修復剤」、「を、注入具1に充填して、」「管状組織2へ注入する。」「修復剤は、」「目的の破損箇所3へ到達する。」「破損箇所3に到達した修復剤は、」「この破損箇所から組織の外部へと漏出する」(【0037】~【0038】(引1キ))のであるから、該「【実施の形態1】」においては、「修復剤を管状組織2へ注入し、目的の破損箇所3へ到達させ、破損箇所3に到達した修復剤を、その破損箇所3から組織の外部へと漏出させる工程」を備えているといえる。
ウ 該「【実施の形態1】」は、引き続いて、「この漏出した部分の修復剤のみを感応させるために、X線照射装置21により、破損箇所の表面組織部分のみをターゲットとしてX線22を照射する。」(【0038】(引1キ))ものであって、「こうすることにより、体内組織の破損箇所の表面を覆うように修復剤を硬化させることができ」(【0039】(引1キ))るのであるから、上記「この漏出した部分の修復剤のみを感応させるため」という記載は、「この漏出した部分の修復剤のみを感応、すなわち、硬化させるため」と理解することができる。
そして、上記アで述べたように、この硬化は、修復剤の「光硬化性成分」が、「X線を吸収して蛍光を発するX線用蛍光成分」「から発せられた光によって硬化する」ことにより行われるものであるから、該「【実施の形態1】」においては、「修復剤のX線を吸収して蛍光を発するX線用蛍光成分から蛍光を発させて、組織の破損箇所3から組織の外部へと漏出した部分の修復剤のみを感応、すなわち、硬化させるために、X線照射装置21により、破損箇所3の表面組織部分のみをターゲットとしてX線22を照射する工程」を備えているといえる。
エ そして、上記ウの「X線22を照射する工程」の結果として、「体内組織の破損箇所の表面を覆うように修復剤を硬化させることができ」(【0039】(引1キ))、上記ウで述べた、修復剤の硬化が、「修復剤のX線を吸収して蛍光を発するX線用蛍光成分から蛍光を発させて、組織の破損箇所3から組織の外部へと漏出した部分の修復剤のみを感応、すなわち、硬化させる」ことによって行われることを考慮すれば、該「【実施の形態1】」においては、「該X線22の照射によって、修復剤のX線を吸収して蛍光を発するX線用蛍光成分から発せられた光によって、組織の破損箇所3から組織の外部へと漏出した部分の修復剤のみを感応、すなわち、硬化させて、破損箇所3の表面を覆うように修復剤を硬化させる工程」を備えているといえる。
オ 以上のことから、引用文献1には、「【請求項2】」に係る「硬化剤(修復剤)」を用いた「【実施の形態1】」として、
「生体組織内の所望の箇所で硬化させる修復剤であって、X線を吸収して蛍光を発するX線用蛍光成分と、このX線用蛍光成分から発せられた光によって硬化する光硬化性成分と、からなる組成物を含む修復剤を用いた修復剤の硬化方法であって、
修復剤を管状組織2へ注入し、目的の破損箇所3へ到達させ、破損箇所3に到達した修復剤を、その破損箇所3から組織の外部へと漏出させる工程と、
修復剤のX線を吸収して蛍光を発するX線用蛍光成分から蛍光を発させて、組織の破損箇所3から組織の外部へと漏出した部分の修復剤のみを感応、すなわち、硬化させるために、X線照射装置21により、破損箇所3の表面組織部分のみをターゲットとしてX線22を照射する工程と、
該X線22の照射によって、修復剤のX線を吸収して蛍光を発するX線用蛍光成分から発せられた光によって、組織の破損箇所3から組織の外部へと漏出した部分の修復剤のみを感応、すなわち、硬化させて、破損箇所3の表面を覆うように修復剤を硬化させる工程、とを含む修復剤の硬化方法。」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(6)対比・判断
ア 周知技術の整理
対比・判断にあたって、予め周知技術について整理しておく。
(ア)周知技術1について
周知例1には、被検体部位へ球面空間の如き広い角度からスポット状X線を照射する点集束形の治療法である定位法治療法においては、患部そのものへの集中的な放射線照射を行いうると共に、患部以外の部位への放射線障害を排除できること(【0002】)が記載され、照射ヘッド5のコリメータ14は、X線ターゲット4の各経路位置対応に、X線を透過するスポット孔a、b、c、d、eを持ち、このスポット孔a、b、c、d、eは、透過X線20が一点集束するようにした構成となっていること(【0016】)が記載されている。
このように、特定部位への集中的な放射線照射を行うために、X線を集束させること(X線の集束ビームを用いること)は周知であると認められる。
(イ)周知技術2について
周知例2には、X線やγ線等の放射線を検出するための放射線センサにおいて、蛍光体のエネルギ吸収特性は、含有される元素、特に高原子番号の元素のK-吸収端に強く依存し、蛍光体としてのCaWO4はWのK-吸収端の69.52KeVに鋭いピークを持ち、その発光は波長420nmにピークを持つことが記載されている。
そして、エネルギーが69.52KeVの放射線はX線であり、波長420nmの光は可視光(紫~藍)であることは明らかである。
そうすると、CaWO4はエネルギーが69.52KeVのX線に吸収のピークを有し、発光波長は、可視光である420nmにピークを有することは周知であると認められる。
(ウ)周知技術3について
周知例3には、電子の制動によりX線を発生させるX線管では、20keVないし100keVの範囲にわたった放射線が発生すること(1頁右下欄13~18行)が記載され、10MeVないし60MeVのエネルギー範囲の電子を用いて、20keVないし130keVのほぼ単色の光子を発生することができる(7頁左下欄7~13行)ことが記載されていると認められる。
そうすると、X線管では、20keVないし100keVの範囲にわたった放射線が発生すること、及び、10MeVないし60MeVのエネルギー範囲の電子を用いて、20keVないし130keVのX線を発生することができることは周知であると認められる。
イ 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「修復剤」及び「X線」、は、本件補正発明の「処理すべき媒質」及び「X線の」「エネルギー」にそれぞれ相当する。
(イ)引用発明では、「修復剤のX線を吸収して蛍光を発するX線用蛍光成分から発せられた光によって、組織の破損箇所3から組織の外部へと漏出した部分の修復剤のみを感応、すなわち、硬化させて」いるから、「修復剤」の「感応、すなわち、硬化」は、「X線用蛍光成分から発せられた光」による反応であって、本件補正発明の「光反応変化」に相当する。
(ウ)引用発明の「修復剤」に含まれる「X線を吸収して蛍光を発するX線用蛍光成分」の「蛍光」の波長は不明であるが、引用文献1には、「X線用蛍光成分」として「CaWO4等のタングステン酸塩系のものや、CaSiO4等のケイ酸塩系のもの等」(【0029】(引1オ))が例示され、X線によってCaWO4から可視光が発光することは,上記ア(イ)のとおり周知であるから、そのような「X線用蛍光成分」からの蛍光は、「紫外光または可視光のうち少なくとも1つを放出する」ものであると解するのが合理的である。
そうすると、該「X線を吸収して蛍光を発するX線用蛍光成分」は、本件補正発明の「X線のビームのエネルギーを吸収して紫外光または可視光のうち少なくとも1つを放出することができるエネルギー変調作用物質」に相当する。
(エ)引用発明の「修復剤を管状組織2へ注入し、目的の破損箇所3へ到達させ、破損箇所3に到達した修復剤を、その破損箇所3から組織の外部へと漏出させる工程」は、該「漏出」によって、修復剤を「破損箇所3の表面組織部分」に配置するものといえることから、該工程は、本件補正発明の「(1)処理すべき前記媒質内に、X線のビームのエネルギーを吸収して紫外光または可視光のうち少なくとも1つを放出することができるエネルギー変調作用物質を配置するステップ」に相当する。
(オ)引用発明は、「修復剤」が「組織の破損箇所3から組織の外部へと漏出した部分」に存在し、「組織の破損箇所3から組織の外部へと漏出した部分の修復剤のみを感応、すなわち、硬化させるために、X線照射装置21により、破損箇所3の表面組織部分のみをターゲットとしてX線22を照射する工程」を備えている。
そうすると、引用発明の「破損箇所3の表面組織部分」には、「修復剤」が存在するところ、当該部分は3次元的な広がりを有し、当然のことながら、複数の3次元座標を備えているということができるから、引用発明の「修復剤」が存在する「破損箇所3の表面組織部分」は、本件補正発明の「処理すべき媒質の内部の複数の事前選択された3次元座標」に相当する。
また、引用発明の「X線照射装置21により、破損箇所3の表面組織部分のみをターゲットとしてX線22を照射する」際には、「表面組織部分のみ」にX線22が照射されていることからみて、「X線照射装置21」からのX線は集束され集束ビームとなっていることは明らかである。
そして、引用発明の「修復剤のX線を吸収して蛍光を発するX線用蛍光成分から蛍光を発させて、組織の破損箇所3から組織の外部へと漏出した部分の修復剤のみを感応、すなわち、硬化させるために、X線照射装置21により、破損箇所3の表面組織部分のみをターゲットとしてX線22を照射する工程」は、本件補正発明の「(2)」「X線のビームを到達及び集束させ、それによって、エネルギー変調作用物質から処理すべき媒質内に紫外光または可視光のうち少なくとも1つを放出させるように、X線の集束ビームを処理すべき媒質の内部の複数の事前選択された3次元座標に到達させるステップ」に相当する。
(カ)引用発明の「該X線22の照射によって、修復剤のX線を吸収して蛍光を発するX線用蛍光成分から発せられた光によって、組織の破損箇所3から組織の外部へと漏出した部分の修復剤のみを感応させて、破損箇所3の表面を覆うように修復剤を硬化させる工程」における「組織の破損箇所3から組織の外部へと漏出した部分の修復剤」は、3次元的な広がりを有するものであり、何某かの3次元パターンを形成しているといえるから、当該工程は、本件補正発明の「(3)処理すべき媒質内に放出された紫外光及び可視光のうち少なくとも1つから、媒質へ前記光反応変化を引き起こし、集束ビームに曝された少なくとも1つの選択された領域内の媒質を硬化させ、2次元または3次元パターンを形成するステップ」に相当する。
(キ)そうすると、本件補正発明と引用発明とは、
「処理すべき媒質内に光反応変化を発生させるための方法であって、
(1)処理すべき前記媒質内に、X線のビームのエネルギーを吸収して紫外光または可視光のうち少なくとも1つを放出することができるエネルギー変調作用物質を配置するステップと、
(2)X線のビームを到達及び集束させ、それによって、前記エネルギー変調作用物質から処理すべき前記媒質内に紫外光または可視光のうち少なくとも1つを放出させるように、X線の集束ビームを処理すべき前記媒質の内部の複数の事前選択された3次元座標に到達させるステップと、
(3)処理すべき媒質内に放出された前記紫外光及び可視光のうち少なくとも1つから、前記媒質へ前記光反応変化を引き起こし、前記集束ビームに曝された前記少なくとも1つの選択された領域内の媒質を硬化させ、2次元または3次元パターンを形成するステップと、
を含む、方法。」である点で一致し、次の相違点で相違するものと認められる。
(相違点)
「X線」について、本件補正発明は、「10から150keVの範囲のエネルギーを有する」点が特定されているのに対し、引用発明の「X線22」のエネルギーの大きさは不明な点。
ウ 相違点の検討
相違点について検討する。
引用発明における「X線照射装置21」について、引用文献1には、「X線を発生して照射しうる一般的なX線照射装置を用いればよい」(【0035】(引1カ))ことが記載されている。
そして、上記ア(ウ)のとおり、X線管を用いた一般的なX線照射装置において、X線のエネルギーの大きさが「10から150keVの範囲のエネルギーを有する」ことは、本願の優先日前における当業者間の技術常識である。
さらに、上記ア(イ)で述べたように、引用発明の「X線蛍光成分」として引用文献1において例示されたCaWO4は、69.52KeVのX線に吸収のピークを有し、発光は波長420nmにピークを持つことは、本願の優先日前において当業者にとって周知であるから、引用発明において、エネルギーの大きさが69.52KeV程度のものを含むX線を用いることは、引用文献1に示唆されているといえる。
そうすると、引用発明の「X線22」として、そのエネルギーの大きさが「10から150keVの範囲のエネルギーを有する」ものを用いることは、引用文献1の記載及び周知技術に基いて、当業者が容易になし得ることである。
また、当該相違点に係る構成を具備することにより、本件補正発明が格別の効果を奏するものとも認められない。
したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
エ また、上記イ(オ)において、引用発明の「X線照射装置21」からのX線は集束ビームであると認定したが、仮に、本件補正発明と引用発明との間に、「集束ビーム」に係る相違点が存在するとしても、上記ア(ア)のとおり、特定部位への集中的な放射線照射を行うためにX線の集束ビームを用いることは周知技術にすぎないから、引用発明の「X線22」を、「集束ビーム」とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
オ 請求人の主張について
(ア)請求人は、審判請求書、及び、令和元年11月1日付けの上申書において、概ね、次のように主張している。
(i)本願発明は、低エネルギーである10から150keVの範囲のエネルギーを有するX線ビームを用いるのに対し、引用文献1及び2(上記周知例1)には、10から150keVの範囲のエネルギーを有するX線エネルギー源は開示されていない。引用文献2に開示されたX線源は、1MV以上のエネルギー範囲のX線を提供するものである。
(ii)本願発明は、X線の集束ビームを処理すべき媒質の内部の複数の事前選択された3次元座標に到達させ、2次元または3次元のパターンを硬化及び生成するものであるのに対し、引用発明は、幅広いビームで一度に1つの部分を照射することが意図されている。
(イ)請求人の主張についての検討
a 上記主張(i)について
上記ウで述べたように、引用文献1には、引用発明において、10から150keVの範囲内のエネルギーを有するX線を用いることが示唆されている。
また、上記(6)ア(ウ)で述べたように、10MeVないし60MeVのエネルギー範囲の電子を用いて、20keVないし130keVのX線を発生することができることは、本願の優先日前において当業者にとって周知である。
したがって、上記主張(i)は当を得たものといえず採用できない。
b 上記主張(ii)について
上記(6)イ(オ)で述べたとおり、引用発明は、「破損箇所3の表面組織部分のみをターゲットとしてX線22を照射する工程」を備えており、「破損箇所3の表面組織部分」は3次元的な広がりを有しているものであるから、「複数の事前選択された3次元座標」を備えているというべきである。
また、上記(6)イ(カ)で述べたとおり、引用発明は「組織の破損箇所3から組織の外部へと漏出した部分の修復剤のみを感応、すなわち、硬化させて、破損箇所3の表面を覆うように修復剤を硬化させる工程」を備えており、硬化する修復剤は3次元的な広がりを有しているものであって、「3次元のパターンを硬化及び生成するもの」といえる。
一方、本件補正発明における「X線の集束ビームを処理すべき媒質の内部の複数の事前選択された3次元座標に到達させ、2次元または3次元のパターンを硬化及び生成する」という発明特定事項は、文言上、各座標に順次照射するものに限定されていないから、「ビームで一度に1つの部分を照射する」ものも包含するものである。
したがって、請求人の主張は、特許請求の範囲の記載に基くものではなく、採用できない。
(7)むすび
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明及び引用文献1の記載並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
3 本願発明について
(1)本願発明
平成31年3月5日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項6に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成30年5月8日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項6に記載された事項により特定される、上記2(1)アの請求項6に記載されたとおりのものと認められ、当該請求項6に係る発明は、上記2(3)の本件補正発明にほかならない。
(2)原査定の拒絶の理由
本願発明は、上記のとおり、本件補正発明と認められるところ、本願発明に対する原査定の拒絶の理由は、要するに、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
記
引用文献1:特開2001-46488号公報
(3)引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1及びその記載事項並びに引用文献1に記載された発明は、上記2(4)ア及び2(5)に記載したとおりである。
(4)対比・判断
本願発明は、実質的に本件補正発明であって、本件補正発明が上記2に記載したとおり、引用発明及び引用文献1の記載並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び引用文献1の記載並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献1の記載並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって結論のとおり審決する。
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2019-003097