特許拒絶査定不服審判
2020-017053
導電性ダイヤモンド電極を有する電気化学セル
- 審判番号
- 2020-017053
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-532728
- 請求日
- 2020年12月11日
- 審決日
- 2022年04月26日
- 公報発行日
- 2022年10月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】エレメント シックス テクノロジーズ リミテッド
- 【請求人代理人】田中 伸一郎
- 【請求人代理人】▲吉▼田 和彦
- 【請求人代理人】須田 洋之
- 【請求人代理人】松下 満
- 【請求人代理人】倉澤 伊知郎
- 【請求人代理人】山本 泰史
- 【請求人代理人】渡邊 誠
- 審判長/審判官
- 審判長 門前 浩一
- 審判官 瀬下 浩一
- 審判官 亀ヶ谷 明久
- 分類
- P18 .121-Z (B01J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-532728「導電性ダイヤモンド電極を有する電気化学セル」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月29日国際公開、WO2017/108327、平成31年 3月28日国内公表、特表2019-508223〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)11月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年12月21日 (GB)英国)を国際出願日とする出願であって、平成30年8月14日に手続補正書が提出され、令和元年8月28日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である令和2年3月9日に意見書及び手続補正書が提出され、同年7月29日付けで拒絶査定され(謄本の発送は8月11日)、これに対し、同年12月11日に拒絶査定不服審判が請求され、令和3年1月21日に審判請求書を補正する手続補正書(方式)が提出され、同年11月30日付けの当審による審尋に対して、令和4年2月28日に回答書が提出されたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1ないし14に係る発明は、令和2年3月9日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、単に「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「 【請求項1】
流体を処理する電気化学セルであって、前記電気化学セルは、
少なくとも2本の対向した電極を有し、前記少なくとも2本の対向した電極は、該電極相互間に流体のための流路を画定し、前記電極のうちの少なくとも1本は、導電性ダイヤモンド材料で作られ、
前記流体が前記電極相互間の前記流路を通って流されたときに電流が前記電極相互間に流れるよう前記電極相互間に電位差を印加するよう構成された駆動回路を有し、
前記電極が収納されたハウジングを有し、前記ハウジングは、前記流体を前記流路内に収容するよう構成された圧力シールおよび前記電極を支持する支持構造体を有し、該支持構造体は前記対向した電極の間の流路の中に配置され、
前記支持構造体および前記圧力シールは、前記電気化学セルが2barから10barまでの範囲にある動作圧力を有し、前記動作圧力の範囲内において、前記電極は、破損しないで支持され、前記動作圧力の範囲内において、前記流体は、前記流路内に収容され、
前記電極は、0.5mmから3.5mmまでの範囲にある距離だけ互いに隔てられ、
前記駆動回路は、動作電圧が20V以下の場合、少なくとも20cm2の電極面積にわたって15,000Amp/m2以上の電流密度を与える電位差を前記電極相互間に印加するよう構成されている、電気化学セル。」
第3 原査定の理由の概要
原査定の理由は、令和元年8月28日付け拒絶理由通知書に記載された理由2であって、要するに、上記本願発明は、下記の刊行物1、2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
記
引用文献1.Werner Haenni et al,Chapter 5 Industrial applications of diamond electrodes,SEMICONDUCTORS AND SEMIMETALS,2004年,Vol.77,Page.168-170
引用文献2. 特表2013-541644号公報
第4 当審の判断
当審は、令和2年12月11日提出の審判請求書を斟酌しても、上記した原査定の拒絶の理由が依然として妥当すると判断する。
その理由は以下のとおりである。
1.引用文献及びその記載事項
(1)原査定で引用された本願優先日前に頒布された引用文献1には、次の記載がある。なお、摘記事項の後ろに当審の仮訳を掲載した。
(1a)「4.3 MODULAR ELECTROCHEMICAL REACTOR:DIACELL (R)(当審注:○にRを(R)と記載した。また、下線は当審で付した。以下、同様。)
A registered, molecular electrochemical cell system, called DiaCell(R) developed by the workers(Haenni, Faure and Rychen, 2001a), based on circular(100 mm in diameter) diamond electrodes for ceramic and metallic supports, has been developed for laboratory and pilot plant applications. All other types of circular electrodes, like DSAs on titanium, glass-carbon, platinum on titanium, zirconium or nickel can also be mounted in this cell.
Figure 14 shows the basic bipolar electrochemical cell module. On the exploded view the two current feeder electrodes with their housings can be seen in which the liquid entrance, respectively, exit are located. The bipolar electrode is positioned between the two current feeder electrodes. The seals are at the same time liquid distributors through the individual cell compartments.
The DiaCell(R) allows stack mounting of maximum five cell compartments in bipolar mode. The cell can also function in monopolar mode without or with one or two diaphragms. Each module can be operated with an adjustable electrode distance of 1, 2, 5 or 10 mm. The modules are tight up to 2 bar. A high pressure module for operation up to 12 bar is in development. The volumetric flow rate of the electrolyte is 200-300 l min-1 per compartment with a pressure drop of about 0.3 bar.
The DiaCell(R) can be driven with a potential of maximum 48V for non-insulated connection(low) and a current of maximum 150A. Several cells can be mounted in parallel or in series.
For water disinfection, like swimming pools, ballast water and gray water treatment or fresh water disinfection, the system can be equipped with sensors for the controlled production of chlorine or ozone.
This DiaCell(R) system is subject to adaptation at any time to future diamond plate electrode dimensions like 100 X 100, 125 X 200, 200 X 250 and 250 X 400 mm2.」(第168ページ下から第3行~第170ページ最終行)
4.3モジュール式電気化学反応器:DIACELL(R)
セラミックおよび金属支持体用の円形(直径100mm)ダイヤモンド電極に基づいて、研究者(Haenni、Faure and Rychen、2001a)によって開発されたDiaCell(R)と呼ばれる登録済みの分子電気化学セルシステムが、実験室での使用およびパイロットプラントへの適用のために開発されてきた。チタン、ガラス状炭素、チタン上の白金、ジルコニウム又はニッケル上のDSAなど、他のすべてのタイプの円形電極もこのセルに取り付けることができる。
図14に、基本的なバイポーラ電気化学セルモジュールを示す。分解図では、2つの電流フィーダー電極とそのハウジングが、それぞれ液体の入口と出口が配置されているのがわかる。バイポーラ電極は、2つの電流フィーダー電極の間に配置される。シールは同時に、個々のセルコンパートメントを介した液体分配器である。
DiaCell(R)を使用すると、バイポーラモードで最大5つのセルコンパートメントをスタックマウントできる。セルは、1つまたは2つのダイアフラムの有無にかかわらずモノポーラモードで機能することもできる。各モジュールは、1、2、5または10mmの調整可能な電極距離で操作できる。モジュールは2バールまで水漏れしない。最大12バールで動作する高圧モジュールが開発中である。電解液の体積流量は、コンパートメントあたり200-300lmin-1で、圧力損失は約0.3バールである。
DiaCell(R)は、非絶縁接続(低)の場合は最大48Vの電位、最大150Aの電流で駆動できる。複数のセルを並列または直列に取り付けることができる。
スイミングプール、バラスト水、灰色水処理又は淡水消毒などの水消毒の場合、システムには、塩素またはオゾンの生成を制御するためのセンサーを装備できる。
このDiacell(R)システムは、100×100、125×200、200×250及び250×400mm2などの将来のダイヤモンドプレート電極の寸法にいつでも適合させることができる。
(1b)
「
[図:0001388670000001.jpg]
Fig. 14. Top: DiaCell(R) as used for swimming pool, ballast and waste water treatment and disinfection. The module is equipped with three compartment(two current feeders and two bipolar-electrodes). Inter-electrode distance 10mm. Bottom: The exploded view of the basic bipolar module of the electrochemical cell system.」(第170ページ図14)
図14 上:スイミングプール、バラスト、廃水処理および消毒に使用されるDiaCell(R)。 モジュールには3つのコンパートメント(2つの電流フィーダーと2つのバイポーラ電極)が装備されている。電極間距離10mm。下:電気化学セルシステムの基本的なバイポーラモジュールの分解図。
(2)原査定で引用された本願優先日前に頒布された引用文献2には、次の記載がある。
(2a)「【請求項1】
反応器用のバイポーラセルであって、前記セルは、端電極及び前記端電極相互間に位置する少なくとも1つのバイポーラ電極を有し、前記バイポーラ電極は、ダイヤモンドシートを有し、前記セルは、各端電極と該端電極に隣接して位置する前記ダイヤモンドシートとの間に位置する多孔質支持構造体を有し、2枚以上のダイヤモンドシートが設けられ、隣り合うダイヤモンドシートの各対相互間には多孔質支持構造体が設けられ、前記支持構造体は、前記ダイヤモンドシートに接触すると共に該ダイヤモンドシートを支持するよう働く、バイポーラセル。
・・・
【請求項35】
前記セルは、汚水又は排水を含む電解液の処理のためのものである、請求項1~34のうちいずれか一に記載のセル。
・・・
【請求項37】
電解液、例えば汚水又は排水の処理のための請求項1~35のうちいずれか一に記載のセルの使用。」
(2b)「【0016】
かくして、多孔質支持構造体は、ダイヤモンドシートを支持するサンドイッチ状態の層を形成し、それにより機械的破壊の恐れが減少すると共に薄いダイヤモンド電極の使用が可能になる。支持構造体を隣り合う電極対相互間に設けることにより、電極は、互いに間隔を置いて配置されるようになり、それにより電極間隔の実際の下限が減少する。支持構造体の多孔性により、セル内の乱流が増大し、それにより電極表面のところでの物質移動量が向上する。
【0017】
各支持構造体は、好ましくは弾性である。このようにして機械的応力を吸収することができる。各支持構造体は、メッシュ又はフェルトから成るのが良い。別の実施形態では、各支持構造体は、貫通チャネルが穿孔された物体から成る。別の実施形態では、各支持構造体は、格子状に配置されたロッドから成る。格子は、ロッドがセル中の流れ方向に対して鋭角をなすように配置されるのが良い。これにより、乱流度が向上する。」
2.引用文献1に記載された発明について
引用文献1には、「支持体用の円形(直径100mm)ダイヤモンド電極を有し、2つの電流フィーダー電極とそのハウジングが、それぞれ液体の入口と出口が配置され、バイポーラ電極が、2つの電流フィーダー電極の間に配置され、シールが個々のセルコンパートメントを介した液体分配器であり、各モジュールが1、2、5又は10mmの調整可能な電極距離で操作でき、モジュールは2バールまで水漏れせず、最大48Vの電位、最大150Aの電流で駆動でき、水消毒の場合、システムには、塩素またはオゾンの生成を制御するためのセンサーを装備でき、100×100mm2などのダイヤモンドプレート電極の寸法にいつでも適合させることができる、バイポーラ電気化学セルモジュール」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる(摘記1a参照)。
3.対比・判断
(1)本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「バイポーラ電気化学セルモジュール」は、水消毒に使用するものであり、駆動回路を有することは明らかであるから、本願発明の「流体を処理する電気化学セルであって、前記電気化学セルは、」「前記流体が前記電極相互間の前記流路を通って流されたときに電流が前記電極相互間に流れるよう前記電極相互間に電位差を印加するよう構成された駆動回路を有し」に相当する。
引用発明の「ダイヤモンド電極を有し、2つの電流フィーダー電極とそのハウジングが、それぞれ液体の入口と出口が配置され、バイポーラ電極が、2つの電流フィーダー電極の間に配置され」は、本願発明の「少なくとも2本の対向した電極を有し、前記少なくとも2本の対向した電極は、該電極相互間に流体のための流路を画定し、前記電極のうちの少なくとも1本は、導電性ダイヤモンド材料で作られ」に相当する。
引用発明の「支持体」及び「シール」は、それぞれ、本願発明の「支持構造体」及び「圧力シール」に相当し、電極は支持体用であり、引用発明の「ハウジング」は、2つの電流フィーダー電極のものであり、液体の入口と出口が配置され、シールが個々のセルコンパートメントを介した液体分配器であり、モジュールは2バールまで水漏れしないから、引用発明の「ハウジング」は、本願発明の「前記電極が収納されたハウジングを有し、前記ハウジングは、前記流体を前記流路内に収容するよう構成された圧力シールおよび前記電極を支持する支持構造体を有し」及び「前記支持構造体および前記圧力シールは、前記電気化学セルが2barから10barまでの範囲にある動作圧力を有し、前記動作圧力の範囲内において、前記電極は、破損しないで支持され、前記動作圧力の範囲内において、前記流体は、前記流路内に収容され」に相当する。
引用発明の「1、2、5又は10mmの調整可能な電極距離で操作でき」は、電極距離が1mm又2mmである場合を含むものであるから、本願発明の「前記電極は、0.5mmから3.5mmまでの範囲にある距離だけ互いに隔てられ」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、「流体を処理する電気化学セルであって、前記電気化学セルは、
少なくとも2本の対向した電極を有し、前記少なくとも2本の対向した電極は、該電極相互間に流体のための流路を画定し、前記電極のうちの少なくとも1本は、導電性ダイヤモンド材料で作られ、
前記流体が前記電極相互間の前記流路を通って流されたときに電流が前記電極相互間に流れるよう前記電極相互間に電位差を印加するよう構成された駆動回路を有し、
前記電極が収納されたハウジングを有し、前記ハウジングは、前記流体を前記流路内に収容するよう構成された圧力シールおよび前記電極を支持する支持構造体を有し、
前記支持構造体および前記圧力シールは、前記電気化学セルが2barから10barまでの範囲にある動作圧力を有し、前記動作圧力の範囲内において、前記電極は、破損しないで支持され、前記動作圧力の範囲内において、前記流体は、前記流路内に収容され、
前記電極は、0.5mmから3.5mmまでの範囲にある距離だけ互いに隔てられている、
電気化学セル。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
支持構造体が、本願発明では対向した電極の間の流路の中に配置されるのに対し、引用発明ではそのような特定がない点。
<相違点2>
本願発明では、駆動回路は、動作電圧が20V以下の場合、少なくとも20cm2の電極面積にわたって15,000Amp/m2以上の電流密度を与える電位差を前記電極相互間に印加するよう構成されているのに対し、引用発明ではそのような特定がない点。
(2)相違点について検討する。
<相違点1>について
引用文献2には、汚水又は排水を含む電解液、汚水又は排水の処理のための、ダイヤモンドシートを有するバイポーラセルにおいて、ダイヤモンドシートを支持する支持構造体を電極の間の流路に配置することが、記載されている(摘記2b参照)。
そうすると、水消毒を行う電気化学セルである引用発明において、引用発明と同様に汚水又は排水を処理するものである刊行物2に記載のバイポーラセルのように、支持構造体が対向した電極の間の流路の中に配置されるものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
<相違点2>について
本願発明の駆動回路は、動作電圧が20Vを超える場合については電流密度の特定がされていない。
そして、引用発明の駆動回路が、動作電圧が20V以上であるから、この点は実質的な相違点とはならない。
仮に、本願発明の駆動回路が、動作電圧が20Vより大きい場合を含まないとしても、引用発明も、最大48Vの電位で駆動できるものであるから、動作電圧が20V以下の場合でも駆動できるものである。
そして、引用発明の駆動回路は、最大150Aの電流で駆動できるものであるから、2つの電流供給電極(current feeder electrodes)間の液体の導電率が高ければ、流体の電気抵抗が小さくなり、20V以下でも150Aの電流が流れることになり、150Aの電流が流れれば、引用発明の電極は円形(直径100mm)ダイヤモンド電極であるから、その面積は0.00785m2(0.05(m)×0.05(m)×3.14)となり、そうすると、引用発明において電流密度は最大19108Amp/m2(1500Amp/0.00785m2)となって、15,000Amp/m2以上となるから、<相違点2>は実質的な相違点とはならない。
さらに、この点が相違するとしても、引用発明において、動作電圧が20V以下の場合に、最大150Aの電流で駆動できるものとし、電流密度が15,000Amp/m2以上の駆動回路とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
4.本願発明の効果について
本件特許明細書の段落[0027]には、「これら電流密度は、20V以下の動作電圧の場合に達成される。」と記載されているが、本願明細書の記載からみて、本願発明が、実際に、駆動回路が、動作電圧が20V以下の場合、少なくとも20cm2の電極面積にわたって15,000Amp/m2以上の電流密度を与える電位差を前記電極相互間に印加するように構成されているのか不明であり、回答書においても、段落[0027]の記載に関し、実際には何Vで達成できたのか回答しておらず、また、本願明細書においても実測したデータは開示されていないから、本願発明が、引用発明と対比して、当業者であっても予測し得ない顕著な効果を発現しているとは認められない。
5.審判請求人の主張及び当審の判断
(1)審判請求時の主張
審判請求人は、審判請求書の手続補正書において、「d. まず、本願発明は、電気化学セルによる処理の効率を改善することに向けられている。即ち、本件発明者は、導電性ダイヤモンド材料製の電極の間隔を狭くすることと、支持構造体及び圧力シールを備えることにより、破損されることなく電極を支持しながら動作圧力を2~10barの範囲にすること、との組み合わせの相乗効果によって、ダイヤモンドベースの電気化学セルの抵抗率を低下させることに成功したのである。引用例1は、上記の動作圧力と、電極の間隔との具体的な「組み合わせ」については何ら開示も示唆もしていない。寧ろ、引用例1は逆教示をしている。即ち、引用例1の40頁23~24行の「example2」には、「ホルダは、電極の間隔を約20mmに維持するのを可能にする。」との記載があり、引用例1においては、上記請求項1に記載されている間隔よりも凡そ1桁大きい間隔が採用されている。引用例1には、間隔が0.5~50mmとして非常に広く記載されているが、間隔が小さい0.5mm~3.5mmの範囲については、1つも「example」が記載されていない。
e. ここで、電極の間隔を狭くすることにより、電流が電極の間の流体を通過する必要のある距離が短くなり、これにより、電気抵抗を減ずることができる。動作圧力を高くすることにより、流体中の気泡の大きさを小さくすることができ、これにより、流体の抵抗率を低下させることができる。それに加えて、上記請求項1に記載されている電気化学セルの動作圧力限界を超えることなく流体の流速を高くすることができる。また、流体の流速を高めることは、ダイヤモンド電極の表面から気泡を除去するのを助け、このことも、ダイヤモンド電極の間の流体の抵抗率を低下させることに貢献する。
f. 一方、引用例1においては、対向する電極の間の流れ経路の中には、支持構造体が配置されていない。支持構造体を使用していない電極を高圧下で作動させると、電極の機械的な破損のリスクが高くなる。その上、支持構造体が流体の流れ経路の中にあるため、支持構造体の大きさ及び性質が動作圧力に影響を与える。このような作用で動作圧力が影響を受けない引用例1においては、この問題は発生しない。従って、本願発明に到達しようとするとき、当業者が引用例1を参照することは考えられない。支持構造体を使用することにより、引用例1において可能な(又は望まれている)圧力を超えて動作圧力を高くすることが可能になり、この結果、流体中の気泡の大きさを小さくすることができる。これにより、流体の抵抗率が低下し、動作圧力を過度に高めることなく、高い流速を使用することが可能になる。このように、支持構造体と、電極の間隔、動作圧力は、相互に複雑に関係しており、当業者は、各引用例を参照したとしても、本願請求項1に記載されている動作圧力と、電極の間隔との具体的な「組み合わせ」に、容易に到達することはできないのである。
従って、本願請求項1記載の発明は、引用例1及び2に記載の発明に対し、進歩性を有し、特許されるべきものである。」と主張する。
(2)回答書における主張
審判請求人は、回答書において、「b. 本願請求項1における「前記駆動回路は、動作電圧が20V以下の場合、少なくとも20cm2の電極面積にわたって15,000Amp/m2以上の電流密度を与える電位差を前記電極相互間に印加するよう構成されている」という特定は、動作電圧が20Vより大きい場合を含まないことを意図したものである。しかしながら、本願の駆動回路は、引用例1に記載の駆動回路と区別することができ、また、引用例1から容易ではない。
c. しかしながら、引用例1(Werner Haenni,Chapter 5 Industrial applications of diamond electrodes,SEMICONDUCTORS AND SEMIMETALS)の166頁セクション3.3には電極の間隔が15mmであることが記載され、168頁セクション4.2には電極の間隔が4~5mmであることが記載され、182頁セクション6.1には電極の間隔が10mmであることが記載され、189頁セクション6.2.4には電極の間隔が4mmであることが記載されている。(なお、拒絶査定において引用された部分は引用例1の168~170頁であり、上記のうち168頁の記載以外は、引用範囲外である。)
d. これら引用例1に記載された具体例では、何れも、電極の間隔が本願の請求項1に記載された電極の間隔(3.5mm)よりも広い。従って、引用例1の具体例には、「電極は、0.5mmから3.5mmまでの範囲にある距離だけ互いに隔てられ」ていることは開示されていない。このように、電極の間隔を小さくすることにより、電極の間の電流が流れる必要がある流体の距離が短くなり、これにより、電気抵抗が小さくなる。
e. また、本願請求項1に記載されているように、作動圧力を増加させることにより、流体中の気泡のサイズが小さくなり、これにより、流体の抵抗率が小さくなる。その上、電気化学セルの作動圧力限界を超えることなく、流体の流れの速度を増加させることができる。流体の流れの速度を増加させることは、ダイヤモンド電極の表面からの気泡の除去を促進し、これが、ダイヤモンド電極の間の流体の抵抗率を更に低下させる。」と主張する。
(3)当審の判断
ここで、審判請求書のd.の主張は、回答書により取り下げられた。
そして、審判請求書のe.及びf.で、電極の間隔を狭くすることにより、気泡の除去や気泡の大きさを小さくすることができることによる本願発明の効果を主張しているが、上記3(1)のとおり、電極の間隔は相違点ではなく、引用発明も当然に上記効果を奏するものであり、そのような効果の主張は本願発明の相違点に基づくものではないし、電極の間隔が小さければ流体の電気抵抗が小さくなるから、引用発明も当然に上記効果を奏するものであることは自明である。
また、回答書のc.についても、166頁セクション3.3、168頁セクション4.2、182頁セクション6.1、189頁セクション6.2.4は、引用発明が記載された168ページセクション4.3のDiaCell(R)についての記載ではないから、それらの記載から引用発明の電極の間隔が本願発明の電極の間隔(3.5mm)よりも広いということはできず、そして、上記3(1)のとおり、電極の間隔は相違点ではなく、回答書のd.及びe.についても、審判請求書のe.及びf.と同様である。
そして、回答書のb.についても、請求人の意図はともかく、本願請求項1の記載から本願発明を解釈すると、本願発明は、動作電圧が20Vより大きい駆動回路を有する場合を除外するものではないと当審は判断した。
よって、審判請求人の上記主張はいずれも採用できない。
6.小括
以上検討のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第5 むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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