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特許拒絶査定不服審判

2022-021142

導電性ダイヤモンド電極を有する電気化学セル

審判番号
2022-021142
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-205706
請求日
2022年12月27日
審決日
2024年06月19日
公報発行日
2024年11月29日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】エレメント シックス テクノロジーズ リミテッド
  • 【請求人代理人】田中 伸一郎
  • 【請求人代理人】▲吉▼田 和彦
  • 【請求人代理人】須田 洋之
  • 【請求人代理人】倉澤 伊知郎
  • 【請求人代理人】山本 泰史
  • 【請求人代理人】鈴木 博子
  • 【請求人代理人】渡邊 誠
審判長/審判官
  • 審判長 三崎 仁
  • 審判官 原 賢一
  • 審判官 小野 久子
分類
P18 .121-Z (B01J) / P18 .575-Z (B01J)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項特許法49条2号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第50条の2、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2020-205706「導電性ダイヤモンド電極を有する電気化学セル」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 5月13日出願公開、特開2021- 73080〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、2016年(平成28年)11月25日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2015年12月21日、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国(GB))を国際出願日とする特願2018-532728号の一部を令和2年12月11日に新たな特許出願としたものであり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。 令和4年 1月25日付け 拒絶理由通知(特許法第50条の2の通知を 伴うもの) 同年 5月 2日 手続補正書及び意見書の提出 同年 8月30日付け 補正の却下の決定及び拒絶査定(以下、「原 査定」という。) 同年12月27日 手続補正書(以下、同手続補正書によりなさ れた補正を、「本件補正」という。)及び審 判請求書の提出 令和5年 2月15日 手続補正書(方式)の提出(「請求の理由」 の内容を補正するもの) 第2 本件補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理由] 1 本件補正について (1)本件補正後の請求項1の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。 「【請求項1】 流体を処理する電気化学セルであって、前記電気化学セルは、 少なくとも2本の対向した電極を有し、前記少なくとも2本の対向した電極は、該電極相互間に流体のための流路を画定し、前記電極のうちの少なくとも1本は、導電性ダイヤモンド材料で作られ、 前記流体が前記電極相互間の前記流路を通って流されたときに電流が前記電極相互間に 流れるよう前記電極相互間に電位差を印加するよう構成された駆動回路を有し、 前記電極が収納されたハウジングを有し、前記ハウジングは、前記流体を前記流体経路 内に収容するよう構成された圧力シールおよび前記電極を支持する支持構造体を有し、前記支持構造体は前記対向した電極の間の前記流路内に配置され、 前記支持構造体および前記圧力シールは、前記電気化学セルが2barから10barまでの範囲にある動作圧力を有し、前記動作圧力の範囲内において、前記電極は、破損しないで支持され、前記動作圧力の範囲内において、前記流体は、前記流路内に収容され、 前記電極は、0.5mmから3.5mmまでの範囲にある距離だけ互いに隔てられ、 前記駆動回路は、動作電圧が20V以下の場合、少なくとも20cm2の電極面積にわたって15,000Amp/m2以上の電流密度を与える電位差を前記電極相互間に印加するよう構成されている、電気化学セル。」(下線は補正箇所である。) (2)本件補正前の請求項1の記載 本件補正前の請求項1の記載は次のとおりである。なお、令和4年5月2日に提出された手続補正書は、同年8月30日付け補正の却下の決定により却下されているから、本件補正前の請求項1は、出願当初の願書に添付された特許請求の範囲に記載されたものである。 「【請求項1】 流体を処理する電気化学セルであって、前記電気化学セルは、 少なくとも2本の対向した電極を有し、前記少なくとも2本の対向した電極は、該電極相互間に流体のための流路を画定し、前記電極のうちの少なくとも1本は、導電性ダイヤモンド材料で作られ、 前記流体が前記電極相互間の前記流路を通って流されたときに電流が前記電極相互間に流れるよう前記電極相互間に電位差を印加するよう構成された駆動回路を有し、 前記電極が収納されたハウジングを有し、前記ハウジングは、前記流体を前記流体経路内に収容するよう構成された圧力シールおよび前記電極を支持する支持構造体を有し、 前記支持構造体および前記圧力シールは、前記電気化学セルが2barから10barまでの範囲にある動作圧力を有し、前記動作圧力の範囲内において、前記電極は、破損しないで支持され、前記動作圧力の範囲内において、前記流体は、前記流路内に収容され、 前記電極は、0.5mmから4mmまでの範囲にある距離だけ互いに隔てられ、 前記駆動回路は、動作電圧が20V以下の場合、少なくとも20cm2の電極面積にわたって15,000Amp/m2以上の電流密度を与える電位差を前記電極相互間に印加するよう構成されている、電気化学セル。」 2 補正の適否 (1)補正の目的について 本件補正は、請求項1において、「前記支持構造体」が、「前記対向した電極の間の前記流路内に配置され」ることを特定すると共に、本件補正前には、「電極は、0.5mmから4mmまでの範囲にある距離だけ互いに隔てられ」とあったものを、「電極は、0.5mmから3.5mmまでの範囲にある距離だけ互いに隔てられ」と補正するものである。 ここで、前者の補正は、支持構造体が配置されている箇所を、「前記対向した電極の間の前記流路内」に限定するものであり、後者は、電極が互いに隔てられる距離を、「0.5mmから4mmまでの範囲」から「0.5mmから3.5mmまでの範囲」に限定するもので、いわゆる限定的減縮をしたものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。 そこで、上記1(1)で記載した本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (2)独立特許要件について ア 引用文献に記載された事項 (ア)引用文献1に記載された事項 本願優先日前に頒布され、下記第3の2で述べる原査定の拒絶の理由において引用された引用文献1(Werner Haenni et al,Chapter 5 Industrial applications of diamond electrodes,SEMICONDUCTORS AND SEMIMETALS,2004年,Vol.77,Page.168-170)には、次の事項が記載されている。なお、摘記事項の後に当審の仮訳を記載する。また、下線は当審において付したものである。 a 「4.3 MODULAR ELECTROCHEMICAL REACTOR:DIACELL(R)(当審注:○にRを(R)と記載する。また、下線は当審で付した。以下、同様。) A registered, molecular electrochemical cell system, called DiaCell(R) developed by the workers (Haenni, Faure and Rychen, 2001a), based on circular(100 mm in diameter) diamond electrodes for ceramic and metallic supports, has been developed for laboratory and pilot plant applications. All other types of circular electrodes, like DSAs on titanium, glassy-carbon, platinum on titanium, zirconium or nickel can also be mounted in this cell. Figure 14 shows the basic bipolar electrochemical cell module. On the exploded view the two current feeder electrodes with their housings can be seen in which the liquid entrance, respectively, exit are located. The bipolar electrode is positioned between the two current feeder electrodes. The seals are at the same time liquid distributors through the individual cell compartments. The DiaCell(R) allows stack mounting of maximum five cell compartments in bipolar mode. The cell can also function in monopolar mode without or with one or two diaphragms. Each module can be operated with an adjustable electrode distance of 1, 2, 5 or 10 mm. The modules are tight up to 2 bar. A high pressure module for operation up to 12 bar is in development. The volumetric flow rate of the electrolyte is 200-300 l min-1 per compartment with a pressure drop of about 0.3 bar. The DiaCell(R) can be driven with a potential of maximum 48V for non-insulated connection(low) and a current of maximum 150A. Several cells can be mounted in parallel or in series. For water disinfection, like swimming pools, ballast water and gray water treatment or fresh water disinfection, the system can be equipped with sensors for the controlled production of chlorine or ozone. This DiaCell(R) system is subject to adaptation at any time to future diamond plate electrode dimensions like 100 X 100, 125 X 200, 200 X 250 and 250 X 400 mm2.」(168頁下から3行~170頁末行) 4.3モジュール式電気化学反応器:DIACELL(R) セラミックおよび金属支持体用の円形(直径100mm)ダイヤモンド電極に基づいて、研究者(Haenni、Faure and Rychen、2001a)によって開発されたDiaCell(R)と呼ばれる登録済みの分子電気化学セルシステムが、実験室での使用およびパイロットプラントへの適用のために開発されてきた。チタン、ガラス状炭素、チタン上の白金、ジルコニウム又はニッケル上のDSAなど、他のすべてのタイプの円形電極もこのセルに取り付けることができる。 図14に、基本的なバイポーラ電気化学セルモジュールを示す。分解図では、2つの電流フィーダー電極とそのハウジングが、それぞれ液体の入口と出口が配置されているのがわかる。バイポーラ電極は、2つの電流フィーダー電極の間に配置される。シールは同時に、個々のセルコンパートメントを介した液体分配器である。 DiaCell(R)を使用すると、バイポーラモードで最大5つのセルコンパートメントをスタックマウントできる。セルは、1つまたは2つのダイアフラムの有無にかかわらずモノポーラモードで機能することもできる。各モジュールは、1、2、5または10mmの調整可能な電極距離で操作できる。モジュールは2バールまで水漏れしない。最大12バールで動作する高圧モジュールが開発中である。電解液の体積流量は、コンパートメントあたり200-300lmin-1で、圧力損失は約0.3バールである。 DiaCell(R)は、非絶縁接続(低)の場合は最大48Vの電位、最大150Aの電流で駆動できる。複数のセルを並列または直列に取り付けることができる。 スイミングプール、バラスト水、灰色水処理又は淡水消毒などの水消毒の場合、システムには、塩素またはオゾンの生成を制御するためのセンサーを装備できる。 このDiacell(R)システムは、100×100、125×200、200×250及び250×400mm2などの将来のダイヤモンドプレート電極の寸法にいつでも適合させることができる。 b 「 [図:0001415774000001.jpg] Fig. 14. Top: DiaCell(R) as used for swimming pool, ballast and waste water treatment and disinfection. The module is equipped with three compartment(two current feeders and two bipolar-electrodes). Inter-electrode distance 10mm. Bottom: The exploded view of the basic bipolar module of the electrochemical cell system.」(170頁図14) 図14 上:スイミングプール、バラスト、廃水処理および消毒に使用されるDiaCell(R)。モジュールには3つのコンパートメント(2つの電流フィーダーと2つのバイポーラ電極)が装備されている。電極間距離10mm。下:電気化学セルシステムの基本的なバイポーラモジュールの分解図。 (イ)引用文献2に記載された事項 本願優先日前に頒布され、下記第3の2で述べる原査定の拒絶の理由において引用された引用文献2(特表2013-541644号公報)には、次の事項が記載されている。 a 「【請求項1】 反応器用のバイポーラセルであって、前記セルは、端電極及び前記端電極相互間に位置する少なくとも1つのバイポーラ電極を有し、前記バイポーラ電極は、ダイヤモンドシートを有し、前記セルは、各端電極と該端電極に隣接して位置する前記ダイヤモンドシートとの間に位置する多孔質支持構造体を有し、2枚以上のダイヤモンドシートが設けられ、隣り合うダイヤモンドシートの各対相互間には多孔質支持構造体が設けられ、前記支持構造体は、前記ダイヤモンドシートに接触すると共に該ダイヤモンドシートを支持するよう働く、バイポーラセル。 ・・・ 【請求項35】 前記セルは、汚水又は排水を含む電解液の処理のためのものである、請求項1~34のうちいずれか一に記載のセル。 ・・・ 【請求項37】 電解液、例えば汚水又は排水の処理のための請求項1~35のうちいずれか一に記載のセルの使用。」 b 「【0011】 効果的な電気化学セルの設計におけるもう1つの重要な要因は、電極相互間の離隔距離の最適化である。電極間隔を減少させると、セルの電力効率が向上するという利点が得られる。これは、間隔が短いと、電解液の電気抵抗が減少し、それに応じてセル動作中におけるオーム損失が減少するからである。国際公開第2008/029258号パンフレットでは、セルは、各電極と関連した一連のプレート又は層の状態に構成されている。この設計は、構成上モジュール方式であるという利点を有するが、電極の離隔距離に事実上の限度が課される。というのは、各プレートは、電解液のための供給チャネル、電解液それ自体の支持構造体及びなんらかの形式のシーラントを備えなければならないからである。最適には、構成方法により、電極離隔距離を例えば実際の最小プレート厚さのような要因とは別個独立に減少させることができる。 ・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0014】 課題は、以下のように要約できる。 1.薄いBDD電極は、機械的破壊を生じやすい。 2.厚い電極は、製造するのに費用が高くつきすぎる。 3.電極間隔の実際の下限は、最適レベルよりも高い。 4.セル内の乱流が不十分であることにより、電極表面のところにおける物質移動量が減少する。 【課題を解決するための手段】 【0015】 本発明の一観点によれば、汚水や排水を含む電解液の処理又は電気合成のための反応器用バイポーラセルであって、セルは、端電極及び端電極相互間に位置する少なくとも1つのバイポーラ電極を有し、バイポーラ電極は、ダイヤモンドシートを有し、セルは、各端電極とこの端電極に隣接して位置するダイヤモンドシートとの間に位置する多孔質支持構造体を有し、2枚以上のダイヤモンドシートが設けられ、隣り合うダイヤモンドシートの各対相互間には多孔質支持構造体が設けられ、支持構造体は、ダイヤモンドシートに接触すると共にこのダイヤモンドシートを支持するよう働くことを特徴とする反応器用バイポーラセルが提供される。 【0016】 かくして、多孔質支持構造体は、ダイヤモンドシートを支持するサンドイッチ状態の層を形成し、それにより機械的破壊の恐れが減少すると共に薄いダイヤモンド電極の使用が可能になる。支持構造体を隣り合う電極対相互間に設けることにより、電極は、互いに間隔を置いて配置されるようになり、それにより電極間隔の実際の下限が減少する。支持構造体の多孔性により、セル内の乱流が増大し、それにより電極表面のところでの物質移動量が向上する。 【0017】 各支持構造体は、好ましくは弾性である。このようにして機械的応力を吸収することができる。各支持構造体は、メッシュ又はフェルトから成るのが良い。別の実施形態では、各支持構造体は、貫通チャネルが穿孔された物体から成る。別の実施形態では、各支持構造体は、格子状に配置されたロッドから成る。格子は、ロッドがセル中の流れ方向に対して鋭角をなすように配置されるのが良い。これにより、乱流度が向上する。」 イ 引用文献1に記載された発明 上記ア(ア)aの記載、特に下線を付した記載によれば、引用文献1には、「支持体用の円形(直径100mm)ダイヤモンド電極を有し、2つの電流フィーダー電極とそのハウジングが、それぞれ液体の入口と出口が配置され、バイポーラ電極が、2つの電流フィーダー電極の間に配置され、シールが個々のセルコンパートメントを介した液体分配器であり、各モジュールが1、2、5又は10mmの調整可能な電極距離で操作でき、モジュールは2バールまで水漏れせず、最大48Vの電位、最大150Aの電流で駆動でき、水消毒の場合、システムには、塩素またはオゾンの生成を制御するためのセンサーを装備でき、100×100mm2などのダイヤモンドプレート電極の寸法にいつでも適合させることができる、バイポーラ電気化学セルモジュール」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。 ウ 対比・判断 (ア)補正発明と引用発明との対比 補正発明と引用発明とを対比する。 a 引用発明の「バイポーラ電気化学セルモジュール」は、水消毒に使用するものであり、駆動回路を有することは明らかであるから、補正発明の「流体を処理する電気化学セルであって、前記電気化学セルは、」「前記流体が前記電極相互間の前記流路を通って流されたときに電流が前記電極相互間に流れるよう前記電極相互間に電位差を印加するよう構成された駆動回路を有し」に相当する。 b 引用発明の「ダイヤモンド電極を有し、2つの電流フィーダー電極とそのハウジングが、それぞれ液体の入口と出口が配置され、バイポーラ電極が、2つの電流フィーダー電極の間に配置され」は、補正発明の「少なくとも2本の対向した電極を有し、前記少なくとも2本の対向した電極は、該電極相互間に流体のための流路を画定し、前記電極のうちの少なくとも1本は、導電性ダイヤモンド材料で作られ」に相当する。 c 引用発明の「支持体」及び「シール」は、それぞれ、補正発明の「支持構造体」及び「圧力シール」に相当する。 そして、電極は支持体用であり、引用発明の「ハウジング」は、2つの電流フィーダー電極のものであり、2つの電流フィーダー電極の間にはバイポーラ電極が配置されるから、電流フィーダー電極及びバイポーラ電極を収容するものである。 また、引用発明の「ハウジング」は、液体の入口と出口が配置されるものであり、シールが個々のセルコンパートメントを介した液体分配器であり、モジュールは2バールまで水漏れしないから、引用発明の「ハウジング」は、2バールまで水漏れしない液体のシール及びこの圧力でも破損しないバイポーラ電極を有するものであるといえる。 そうすると、引用発明の「ハウジング」は、補正発明の「前記電極が収納されたハウジングを有し、前記ハウジングは、前記流体を前記流体経路内に収容するよう構成された圧力シールおよび前記電極を支持する支持構造体を有し」、「前記支持構造体および前記圧力シールは、前記電気化学セルが2barから10barまでの範囲にある動作圧力を有し、前記動作圧力の範囲内において、前記電極は、破損しないで支持され、前記動作圧力の範囲内において、前記流体は、前記流路内に収容され」に相当する構成を有するものであるといえる。 d 引用発明の「1、2、5又は10mmの調整可能な電極距離で操作でき」は、電極距離が1mm又2mmである場合を含むものであるから、補正発明の「前記電極は、0.5mmから3.5mmまでの範囲にある距離だけ互いに隔てられ」に相当する。 e そうすると、補正発明と引用発明は、「流体を処理する電気化学セルであって、前記電気化学セルは、 少なくとも2本の対向した電極を有し、前記少なくとも2本の対向した電極は、該電極相互間に流体のための流路を画定し、前記電極のうちの少なくとも1本は、導電性ダイヤモンド材料で作られ、 前記流体が前記電極相互間の前記流路を通って流されたときに電流が前記電極相互間に流れるよう前記電極相互間に電位差を印加するよう構成された駆動回路を有し、 前記電極が収納されたハウジングを有し、前記ハウジングは、前記流体を前記流体経路内に収容するよう構成された圧力シールおよび前記電極を支持する支持構造体を有し、 前記支持構造体および前記圧力シールは、前記電気化学セルが2barから10barまでの範囲にある動作圧力を有し、前記動作圧力の範囲内において、前記電極は、破損しないで支持され、前記動作圧力の範囲内において、前記流体は、前記流路内に収容され、 前記電極は、0.5mmから3.5mmまでの範囲にある距離だけ互いに隔てられている、電気化学セル。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 支持構造体が、補正発明では対向した電極の間の流路の中に配置されるのに対し、引用発明ではそのような特定がない点。 <相違点2> 補正発明では、駆動回路は、動作電圧が20V以下の場合、少なくとも20cm2の電極面積にわたって15,000Amp/m2以上の電流密度を与える電位差を前記電極相互間に印加するよう構成されているのに対し、引用発明ではそのような特定がない点。 (イ)相違点に対する判断 a 相違点1について (a)引用文献2の上記ア(イ)bに記載されるように、電気化学セルにおいて、電極間隔を減少させると、電解液の電気抵抗が減少し、それに応じてセル動作中におけるオーム損失が減少するが(【0011】)、他方、電極間隔を減少させた場合、セル内の乱流が不十分であることにより、電極表面のところにおける物質移動量が減少する等の課題(【0014】)があることも知られていた。 この課題に対し、引用文献2に記載されるバイポーラセルでは、支持構造体を隣り合う電極対相互間に設けることにより、支持構造体の多孔性により、セル内の乱流を増大させ、それにより電極表面のところでの物質移動量を向上させている(【0016】)。 また、同aの記載によれば、引用文献2に記載されるバイポーラセルは、例えば汚水又は排水の処理のためのものである。 (b)引用発明は、電極距離が1又は2mmという減少された場合を含むところ、このような場合には、上記(a)で述べた、電極表面のところにおける物質移動量が減少する等の課題が、引用発明においても生じるおそれがあることを、当業者であれば認識し得るといえるから、この課題への対処として、引用文献1の上記ア(ア)bの記載によれば、廃水処理にも用いられる引用発明と同じく廃水処理に関するものであり、電極距離が減少された距離の場合への課題への対策を記載している引用文献2を参照し、引用発明において、引用文献2に記載される、支持構造体を隣り合う電極対相互間に設けるという事項を採用することは、当業者ならば容易に想到し得るといえる。 (c)そうすると、上記相違点1に係る補正発明の構成は、当業者が容易に想到し得たものであるといえる。 b 相違点2について 引用発明も、最大48Vの電位で駆動されるものであるから、動作電圧が20V以下の場合でも駆動できるものであるところ、引用発明の駆動回路は、最大150Aの電流で駆動できるものである。 ここで、2つの電流供給電極(current feeder electrodes)間の間隔が、引用発明にあるように、例えば1mm等、極小の場合、20V以下でも150A程度の電流が流れることになるといえる。 そして、150Aの電流が流れれば、引用発明の電極は円形(直径100mm)ダイヤモンド電極であるから、その面積は0.00785m2(0.05(m)×0.05(m)×3.14)となる。 そうすると、引用発明において電流密度は最大19108Amp/m2(150Amp/0.00785m2)となって、15,000Amp/m2以上となるから、上記相違点2は実質的な相違点とはならない。 さらに、相違点2が実質的な相違点であるとしても、上記a(a)で述べたように、電気化学セルにおいて、電極間隔を減少させると、電解液の電気抵抗が減少し、それに応じてセル動作中におけるオーム損失が減少することは、既に知られており、セル動作中におけるオーム損失を減少させることが好ましいことは明らかであるから、引用発明において、動作電圧が20V以下の場合でも、電極間隔を減少させること等により、高い電流を流せるものとし、電流密度が15,000Amp/m2以上で駆動できるものとすることは、当業者ならば容易に想到し得ることであるといえる。 c 補正発明の効果について 補正発明の効果は、本願明細書の【0020】に記載されるように、「ダイヤモンドを利用した電気化学セルの電気抵抗を次の2つの主要の仕方で、すなわち、(i)ダイヤモンド電極間隔を減少させることにより、(ii)ダイヤモンド電極支持構造体および圧力使用を含むハウジングを設計し直して動作圧力および流速を増大させることにより電気抵抗を減少させ」、補正発明で特定されるように「動作電圧が20V以下の場合、少なくとも20cm2の電極面積にわたって15,000Amp/m2以上の電流密度を与える電位差を前記電極相互間に印加するよう構成」(以下、「補正発明の駆動条件」という。)することができた、ことにあるといえる。 しかしながら、補正発明において、ダイヤモンド電極間隔を減少させ、動作圧力を増大させたといっても、引用発明は、ダイヤモンド電極間隔及び動作圧力の点で補正発明と相違するものではない。 また、補正発明は、流体の流速を増大させているものであるといえるところ、本願明細書の【0028】には、流体の流速が、「電気化学セルを通って少なくとも1ms-1」であることが記載されている。 他方、引用文献1の上記ア(ア)aの記載によれば、DiaCell(R)を使用すると、バイポーラモードで最大5つのセルコンパートメントをスタックマウントできるところ、「電解液の体積流量は、コンパートメントあたり200-300lmin-1」である。ここで、200-300lmin-1は、3.33-5ls-1(200/60-300/60)であるから、引用発明は、流速の点で補正発明と相違するものではない。 そうすると、補正発明において、「補正発明の駆動条件」を実行するための各要因が、引用発明においても備わっているのであるから、引用発明においても、「補正発明の駆動条件」と同様の条件を実行できるといえるし、実際、引用発明においても、「補正発明の駆動条件」と同様の条件を実行できることは、上記bで述べたとおりである。 以上のとおり、補正発明の効果は、格別なものではない。 (ウ)審判請求人の審判請求書(令和5年2月15日提出の手続補正書)における主張について a 審判請求人の主張(審判請求書(5)d~f) (a)まず、補正発明は、電気化学セルによる処理の効率を改善することに向けられている。即ち、本件発明者は、導電性ダイヤモンド材料製の電極の間隔を狭くすることと、支持構造体及び圧力シールを備えることにより、破損されることなく電極を支持しながら動作圧力を2~10barの範囲にすること、との組み合わせの相乗効果によって、ダイヤモンドベースの電気化学セルの抵抗率を低下させることに成功したのである。引用例1は、上記の動作圧力と、電極の間隔との具体的な「組み合わせ」については何ら開示も示唆もしていない。寧ろ、引用例1は逆教示をしている。即ち、引用例1の166頁セクション3.3には電極の間隔が15mmであることが記載され、168頁セクション4.2には電極の間隔が4~5mmであることが記載され、182頁セクション6.1には電極の間隔が10mmであることが記載され、189頁セクション6.2.4には電極の間隔が4mmであることが記載されている。・・・このように、引用例1には、間隔が非常に広く記載されているが、間隔が小さい0.5mm~3.5mmの範囲については、1つも「example」が記載されていない。 (b)ここで、電極の間隔を狭くすることにより、電流が電極の間の流体を通過する必要のある距離が短くなり、これにより、電気抵抗を減ずることができる。動作圧力を高くすることにより、流体中の気泡の大きさを小さくすることができ、これにより、流体の抵抗率を低下させることができる。それに加えて、上記請求項1に記載されている電気化学セルの動作圧力限界を超えることなく流体の流速を高くすることができる。また、流体の流速を高めることは、ダイヤモンド電極の表面から気泡を除去するのを助け、このことも、ダイヤモンド電極の間の流体の抵抗率を低下させることに貢献する。 (c)一方、引用例1においては、対向する電極の間の流れ経路の中には、支持構造体が配置されていない。支持構造体を使用していない電極を高圧下で作動させると、電極の機械的な破損のリスクが高くなる。その上、支持構造体が流体の流れ経路の中にあるため、支持構造体の大きさ及び性質が動作圧力に影響を与える。このような作用で動作圧力が影響を受けない引用例1においては、この問題は発生しない。従って、補正発明に到達しようとするとき、当業者が引用例1を参照することは考えられない。支持構造体を使用することにより、引用例1において可能な(又は望まれている)圧力を超えて動作圧力を高くすることが可能になり、この結果、流体中の気泡の大きさを小さくすることができる。これにより、流体の抵抗率が低下し、動作圧力を過度に高めることなく、高い流速を使用することが可能になる。このように、支持構造体と、電極の間隔、動作圧力は、相互に複雑に関係しており、当業者は、各引用例を参照したとしても、本願請求項1に記載されている動作圧力と、電極の間隔との具体的な「組み合わせ」に、容易に到達することはできないのである。 従って、補正発明は、引用例1及び2に記載の発明に対し、進歩性を有し、特許されるべきものである。 b 上記aの主張に対する当審の判断 上記a(a)の「導電性ダイヤモンド材料製の電極の間隔を狭くすることと、支持構造体及び圧力シールを備えることにより、破損されることなく電極を支持しながら動作圧力を2~10barの範囲にすること、との組み合わせの相乗効果によって、ダイヤモンドベースの電気化学セルの抵抗率を低下させることに成功した」とする点については、上記(イ)cで述べたように引用発明も、ダイヤモンドベースの電気化学セルの抵抗率が低下したものであるといえるから、上記支持構造の点で相乗効果が奏されているとすることはできない。また、DiaCell(R)についての記載ではない上記a(a)の引用文献1の他の記載にかかわらず、上記イで引用発明を認定したように、引用文献1には、2バールの動作圧力と、1又は2mm電極の間隔との具体的な「組み合わせ」が記載されているといえる。 上記a(b)の「動作圧力を高くすることにより、流体中の気泡の大きさを小さくすることができ、これにより、流体の抵抗率を低下させることができる。」点については、動作圧力において、本願発明と相違するものではない引用発明においても、同じ現象が生じているといえるし、同(b)の「流体の流速を高めることは、ダイヤモンド電極の表面から気泡を除去するのを助け、このことも、ダイヤモンド電極の間の流体の抵抗率を低下させることに貢献する」点については、上記(イ)cで述べたように、引用発明も補正発明と同程度の流速で運転されているといえる。 上記a(c)の「引用例1においては、対向する電極の間の流れ経路の中には、支持構造体が配置されていない。支持構造体を使用していない電極を高圧下で作動させると、電極の機械的な破損のリスクが高くなる。その上、支持構造体が流体の流れ経路の中にあるため、支持構造体の大きさ及び性質が動作圧力に影響を与える。このような作用で動作圧力が影響を受けない引用例1においては、この問題は発生しない」点について、引用発明も補正発明と同様に高圧下で作動されているといえるのであるから、電極の機械的な破損のリスクが高くなるという問題が発生しないとまではいえない。そして、引用発明に適用することが当業者にとり容易であるといえる引用文献2に記載の事項には、その効果として、電極の間の流れ経路の中に、支持構造体を配置することにより、機械的破壊の恐れが減少すること(上記ア(イ)b)も含まれている。 また、同(c)の「支持構造体を使用することにより、引用例1において可能な(又は望まれている)圧力を超えて動作圧力を高くすることが可能になり、この結果、流体中の気泡の大きさを小さくすることができる」点については、支持構造体を使用すること、及び動作圧力を高くすることは、本願明細書に記載されているものの、動作圧力を高くする手段として、支持構造体を使用するという技術思想は、本願明細書に明確に記載されているとはいえないし、また、動作圧力が過度に高くなってはかえって電気化学セルの運転に不利であるところ、上記a(c)でも、「支持構造体の大きさ及び性質が動作圧力に影響を与える」とあるとおり、支持構造体には適切な構造及び性質が必要であるといえるが、本願明細書では、その点が明らかにされていないから、上記の点は、本願明細書の記載に基づくものではない。 以上のとおり、審判請求人の手続補正書により補正された審判請求書での主張は採用することができない。 (エ)小括 以上のとおり、補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 3 本件補正についてのむすび よって、補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、令和4年1月25日付け拒絶理由通知書に記載された理由1及び2であって、その理由2は、本願発明は、本願優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 記 引用文献1:Werner Haenni et al,Chapter 5 Industrial applications of diamond electrodes,SEMICONDUCTORS AND SEMIMETALS,2004年,Vol.77,Page.168-170 引用文献2:特表2013-541644号公報 3 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び2の記載事項は、前記第2の[理由]2(2)アに記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、前記第2の[理由]2(1)で検討したように、補正発明に対して、支持構造体が配置されている箇所に関する「前記対向した電極の間の前記流路内に配置され」るとの限定事項を削除するものであると共に、電極が互いに隔てられる距離の範囲を「0.5mmから3.5mmまでの範囲」から「0.5mmから4mmまでの範囲」に拡張したものにあたる。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する補正発明が、前記第2の[理由]2(2)ウに記載したとおり、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、補正発明と同様に、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、同法第49条第2号に該当するから、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり、審決する。

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2022-021142

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