特許拒絶査定不服審判
2024-019598
マイクロカプセルの製造方法
- 審判番号
- 2024-019598
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-539387
- 請求日
- 2024年12月05日
- 審決日
- 2026年03月17日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】フイルメニツヒ ソシエテ アノニム
- 【請求人代理人】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
- 【請求人代理人】前川 純一
- 【請求人代理人】永島 秀郎
- 【請求人代理人】上島 類
- 審判長/審判官
- 審判長 村守 宏文
- 審判官 山田 貴之
- 審判官 瀬下 浩一
- 分類
- P18 .121-Z (B01J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-539387「マイクロカプセルの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年11月26日国際公開、WO2020/234262、令和 4年 7月21日国内公表、特表2022-532971〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2020年(令和2年)5月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2019年5月21日 (US)アメリカ合衆国、2019年7月5日 (EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、令和6年2月28日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内の同年5月20日に意見書及び手続補正書が提出され、同年7月31日付けで拒絶査定がなされ(謄本送達は8月7日)、これに対して、同年12月5日に拒絶査定不服の審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、令和7年6月23日に上申書が提出されたものである。
第2 令和6年12月5日提出の手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年12月5日提出の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「 【請求項1】
コア-シェルマイクロカプセルスラリーの製造方法であって、以下のステップ:
a) 少なくとも2つのイソシアネート官能基を有する少なくとも1種のアミノ酸由来ポリイソシアネートを、香料に溶解させて、油相を形成するステップと、
b) 安定剤を含む分散相を製造するステップであって、前記分散相が前記油相と混和性ではない、ステップと、
c) 前記油相を前記分散相に添加して、二相分散液を形成するステップと、
d) 任意選択的に、ステップc)で得られた前記二相分散液に反応物を添加するステップと、
e) 硬化ステップを実施して、スラリーの形態のコア-シェルマイクロカプセルを形成するステップと
を含み、
前記アミノ酸由来ポリイソシアネートがリジントリイソシアネートであり、
前記安定剤が、アラビアガム、加工デンプン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(PVP)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アニオン性多糖類、アクリルアミドコポリマー、無機粒子、タンパク質およびそれらの混合物からなる群において選択され、
前記分散相が水を含む、
ことを特徴とする、方法。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和6年5月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「 【請求項1】
コア-シェルマイクロカプセルスラリーの製造方法であって、以下のステップ:
a) 少なくとも2つのイソシアネート官能基を有する少なくとも1種のアミノ酸由来ポリイソシアネートを、香料に溶解させて、油相を形成するステップと、
b) 安定剤を含む分散相を製造するステップであって、前記分散相が前記油相と混和性ではない、ステップと、
c) 前記油相を前記分散相に添加して、二相分散液を形成するステップと、
d) 任意選択的に、ステップc)で得られた前記二相分散液に反応物を添加するステップと、
e) 硬化ステップを実施して、スラリーの形態のコア-シェルマイクロカプセルを形成するステップと
を含み、
前記アミノ酸由来ポリイソシアネートがリジントリイソシアネートであるか、あるいはアルギニントリイソシアネート、アスパラギントリイソシアネート、プロリントリイソシアネート、グルタミントリイソシアネート、リジントリイソシアネート、リジンエチルエステルトリイソシアネート、リジンメチルエステルトリイソシアネート、リジンプロピルエステルトリイソシアネート、またはそれらの誘導体、およびそれらの混合物からなる群において選択されるアミノ酸由来トリイソシアネートである
ことを特徴とする、方法。」
2 補正の適否
(1)本件補正について
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「前記アミノ酸由来ポリイソシアネートがリジントリイソシアネートであるか、あるいはアルギニントリイソシアネート、アスパラギントリイソシアネート、プロリントリイソシアネート、グルタミントリイソシアネート、リジントリイソシアネート、リジンエチルエステルトリイソシアネート、リジンメチルエステルトリイソシアネート、リジンプロピルエステルトリイソシアネート、またはそれらの誘導体、およびそれらの混合物からなる群において選択されるアミノ酸由来トリイソシアネートである」、「安定剤」及び「分散相」を、それぞれ、「前記アミノ酸由来ポリイソシアネートがリジントリイソシアネートであり」、「前記安定剤が、アラビアガム、加工デンプン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(PVP)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アニオン性多糖類、アクリルアミドコポリマー、無機粒子、タンパク質およびそれらの混合物からなる群において選択され」及び「前記分散相が水を含む」と特定するものであって、「アミノ酸由来ポリイソシアネート」、「安定剤」及び「分散相」を限定するものであり、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(2)本件補正発明
本件補正発明は、前記1(1)に記載したとおりのものである。
(3)引用文献及びその記載事項
引用文献1:国際公開第2019/039385号(原査定の引用文献7)
「[請求項1] ウレタン樹脂、ウレア樹脂及びメラミン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むカプセル壁と、内包成分であるヒドロキシ基を有さない冷感成分と、を含むマイクロカプセル。」
「[0042] <カプセル壁:ウレタン樹脂、ウレア樹脂及びメラミン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むカプセル壁>
本開示のマイクロカプセルは、内包成分としての既述の特定冷感成分を内包するためのカプセル壁を含む。
本開示におけるカプセル壁は、ウレタン樹脂、ウレア樹脂及びメラミン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むために、壁厚を薄くしても安定であり、必要に応じてマイクロカプセルに応力を掛けてカプセル壁を崩壊させ、内包成分である特定冷感成分の効果を発現させる際の応答性に優れる。さらに、本開示におけるカプセル壁は、生体適合性も良好である。
[0043] (ウレタン樹脂、ウレア樹脂)
カプセル壁の好ましい例であるウレタン樹脂及びウレア樹脂に包含されるポリウレタン、ポリウレア、ポリウレタンポリウレア等について説明する。
ポリウレタン、ポリウレア、ポリウレタンポリウレア等は、保存安定性の観点から、イソシアネート化合物と有機溶剤とを用いて得られるポリマーが好ましく、ウレタン結合及びウレア結合の少なくとも一方を有する高分子がより好ましく、ポリウレタンポリウレアが更に好ましい。
カプセル壁を形成する壁材としては、イソシアネート化合物、シランカップリング剤等が挙げられ、中でも、イソシアネート化合物が好ましく、1分子内に2以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物が好ましい。
[0044] イソシアネート化合物としては、例えば、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、ナフタレン-1,4-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、3,3’-ジメトキシ-ビフェニルジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、キシリレン-1,4-ジイソシアネート、キシリレン-1,3-ジイソシアネート、4-クロロキシリレン-1,3-ジイソシアネート、2-メチルキシリレン-1,3-ジイソシアネート、4,4’-ジフェニルプロパンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルヘキサフルオロプロパンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、プロピレン-1,2-ジイソシアネート、ブチレン-1,2-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,2-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,3-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,4-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン及び1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられる。
以上ではカプセル壁を形成する壁材としての2官能であるジイソシアネート化合物を例示したが、上記例示した化合物から類推される3官能のトリイソシアネート化合物、4官能のテトライソシアネート化合物を、カプセル壁を形成する壁材として用いてもよい。
また、カプセル壁を形成する壁材としては、上記イソシアネート化合物と、エチレングリコール系化合物もしくはビスフェノール系化合物等の2官能アルコール、又はフェノールと、の付加物も挙げられる。
[0045] イソシアネート化合物を用いた縮合体、重合体又は付加体の例としては、上記の2官能イソシアネート化合物の3量体であるビューレット体もしくはイソシアヌレート体、トリメチロールプロパン等のポリオールと2官能イソシアネート化合物の付加体として多官能とした化合物、ベンゼンイソシアネートのホルマリン縮合物、メタクリロイルオキシエチルイソシアネート等の重合性基を有するイソシアネート化合物の重合体、リジントリイソシアネート等が挙げられる。
イソシアネート化合物については「ポリウレタン樹脂ハンドブック」(岩田敬治編、日刊工業新聞社発行(1987))に記載されている。この文献を、カプセル壁を形成する壁材としてのイソシアネート化合物を選択する際に参照することができる。
[0046] 上記の中でも、マイクロカプセルのカプセル壁は、3官能以上のイソシアネートの重合物を含む態様が好ましい。
3官能以上のイソシアネートとしては、例えば、3官能以上の芳香族イソシアネート化合物、3官能以上の脂肪族イソシアネート化合物等が挙げられる。3官能以上のイソシアネート化合物の例としては、2官能のイソシアネート化合物(分子中に2つのイソシアネート基を有する化合物)と分子中に3つ以上の活性水素基を有する化合物(3官能以上の例えばポリオール、ポリアミン、又はポリチオール等)とのアダクト体(付加物)として3官能以上としたイソシアネート化合物(アダクト型)、2官能のイソシアネート化合物の3量体(ビウレット型又はイソシアヌレート型)も好ましい。
3官能以上のイソシアネート化合物の具体的な例としては、キシリレン-1,4-ジイソシアネート又はキシリレン-1,3-ジイソシアネートとトリメチロールプロパンとの付加物、ビウレット体、イソシアヌレート体等であってもよい。
[0047] アダクト型の3官能以上のイソシアネート化合物は、上市されている市販品を用いてもよく、市販品の例としては、タケネート(登録商標)D-102、D-103、D-103H、D-103M2、P49-75S、D-110N、D-120N(イソシアネート価=3.5mmol/g)、D-140N、D-160N(以上、三井化学(株))、デスモジュール(登録商標)L75、UL57SP(住化バイエルウレタン(株))、コロネート(登録商標)HL、HX、L(日本ポリウレタン(株))、P301-75E(旭化成(株))等が挙げられる。
中でも、アダクト型の3官能以上のイソシアネート化合物として、三井化学(株)のタケネート(登録商標)D-110N、D-120N、D-140N、及びD-160Nから選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
イソシアヌレート型の3官能以上のイソシアネート化合物は、上市されている市販品を用いてもよく、例えば、タケネート(登録商標)D-127N、D-170N、D-170HN、D-172N、D-177N(三井化学株式会社製)、スミジュールN3300、デスモジュール(登録商標)N3600、N3900、Z4470BA(住化バイエルウレタン株式会社製)、コロネート(登録商標)HX、HK(日本ポリウレタン株式会社製)、デュラネート(登録商標)TPA-100、TKA-100、TSA-100、TSS-100、TLA-100、TSE-100(旭化成株式会社製)などが挙げられる。
ビウレット型の3官能以上のイソシアネート化合物は、上市されている市販品を用いてもよく、例えば、タケネート(登録商標)D-165N、NP1100(三井化学株式会社製)、デスモジュール(登録商標)N3200(住化バイエルウレタン株式会社製)、デュラネート(登録商標)24A-100(旭化成株式会社製)などが挙げられる。」
「[0082] (衣料用洗浄剤)
本開示の組成物は、さらに、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種の界面活性剤を含むことで衣料用洗浄剤とすることができる。
本開示の衣料用洗浄剤である組成物は、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種の界面活性剤を洗浄剤の主材として含むことで、衣料の洗濯に使用することができる。衣料を組成物で洗浄し、濯ぎ、脱水、乾燥した後、組成物に含まれるマイクロカプセルは、衣料の繊維間の微細な空隙に入り込んで、衣料に保持される。このため、衣類を洗浄した後、特定冷感成分を含むマイクロカプセルを含むことで、冷感を所望の時期に皮膚に付与することができる。
[0083] 本開示の衣料用洗浄剤により洗濯した衣料を着用した場合、衣服の繊維間に保持されたマイクロカプセル内に特定冷感成分が安定に含まれるため、経時後であっても、衣服を擦るなどして応力を与え、マイクロカプセルを崩壊させることで特定冷感成分が皮膚に接触し、冷感を与えることができる。また、特に応力を付与しなくても、衣服を着用し、行動することにより、徐々にマイクロカプセルが崩壊され、冷感が皮膚に対し、徐々に付与される。
[0084] 衣料用洗浄剤としては、組成物全量中、マイクロカプセルを0.1質量%~10質量%、界面活性剤を総量で1質量%~30質量%含むことが好ましい。
その他、衣料用洗浄剤に含まれる公知の成分、例えば、増白剤、脂肪酸、酵素、漂白剤、増粘剤、pH調整剤、色材、香料などをさらに含むことができる。衣料用洗浄剤に用いられる分散媒としては、イオン交換水等の水が好ましい。」
「[0091] (実施例1)
-マイクロカプセル(A)分散液の調製-
ココナード(登録商標)MT(花王(株))7部に、特定冷感成分であるRカルボン17部、及び香料であるRリモネン4.3部を溶解し、溶液Aを得た。
次に、既述で得た溶液Aを撹拌しながら、酢酸エチル0.2部に溶解したトリレンジイソシアナートのトリメチロールプロパン付加物(DIC(株)、バーノックD-750)1.7部を加えて溶液Bを得た。さらに、水57部にポリビニルアルコール(PVA-217E、(株)クラレ)3.5部を溶解した溶液中に上記の溶液Bを加えて、乳化分散した(工程(I))。
乳化分散して得られた乳化液に、水65部を加え、撹拌しながら70℃まで加温し、さらに、温度を維持したまま1時間攪拌を継続した後、冷却した。さらに、水酸化ナトリウム水溶液(10%)1.5部と水を加えて濃度を調整し、ポリウレタンウレアのカプセル壁に、特定冷感成分であるRカルボンが内包されたマイクロカプセル(A)を固形分濃度30%含む分散液を得た。」
(4)引用文献1に記載された発明
引用文献1には実施例1のマイクロカプセル(A)分散液の調製方法として「ココナード(登録商標)MT(花王(株))7部に、特定冷感成分であるRカルボン17部、及び香料であるRリモネン4.3部を溶解し、溶液Aを得て、
次に、既述で得た溶液Aを撹拌しながら、酢酸エチル0.2部に溶解したトリレンジイソシアナートのトリメチロールプロパン付加物(DIC(株)、バーノックD-750)1.7部を加えて溶液Bを得て、さらに、水57部にポリビニルアルコール(PVA-217E、(株)クラレ)3.5部を溶解した溶液中に上記の溶液Bを加えて、乳化分散し(工程(I))、
乳化分散して得られた乳化液に、水65部を加え、撹拌しながら70℃まで加温し、さらに、温度を維持したまま1時間攪拌を継続した後、冷却し、さらに、水酸化ナトリウム水溶液(10%)1.5部と水を加えて濃度を調整して、ポリウレタンウレアのカプセル壁に、特定冷感成分であるRカルボンが内包されたマイクロカプセル(A)を固形分濃度30%含む分散液を得る方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる([0091]参照。)。
(5)対比・判断
ア 引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「ココナード(登録商標)MT(花王(株))7部に、特定冷感成分であるRカルボン17部、及び香料であるRリモネン4.3部を溶解し、溶液Aを得て、
次に、既述で得た溶液Aを撹拌しながら、酢酸エチル0.2部に溶解したトリレンジイソシアナートのトリメチロールプロパン付加物(DIC(株)、バーノックD-750)1.7部を加えて溶液Bを得て」は、「トリレンジイソシアナートのトリメチロールプロパン付加物(DIC(株)、バーノックD-750)」が、本件補正発明の「ポリイソシアネート」に相当し、「溶液B」が、水57部にポリビニルアルコール(PVA-217E、(株)クラレ)3.5部を溶解した溶液中に乳化分散したことからして、本件補正発明の「油相」に相当することは明らかであるから、本件補正発明の「a) 少なくとも2つのイソシアネート官能基を有する」、「ポリイソシアネートを、香料に溶解させて、油相を形成するステップ」に相当する。
引用発明の「水57部にポリビニルアルコール(PVA-217E、(株)クラレ)3.5部を溶解した溶液」は、水溶液であり、また本願明細書の【0093】の記載からみて、「ポリビニルアルコール(PVA-217E、(株)クラレ)」が、本件補正発明の「安定剤」に相当するから、本件補正発明の「安定剤を含む分散相」、「前記分散相が前記油相と混和性ではない」、「前記分散相が水を含む」に相当し、そうすると、引用発明の「さらに、水57部にポリビニルアルコール(PVA-217E、(株)クラレ)3.5部を溶解した溶液中に上記の溶液Bを加えて、乳化分散し(工程(I))」は、本件補正発明の「b) 安定剤を含む分散相を製造するステップであって、前記分散相が前記油相と混和性ではない、ステップと、
c) 前記油相を前記分散相に添加して、二相分散液を形成するステップ」、「前記安定剤が、アラビアガム、加工デンプン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(PVP)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アニオン性多糖類、アクリルアミドコポリマー、無機粒子、タンパク質およびそれらの混合物からなる群において選択され」に相当する。
引用発明の「ポリウレタンウレアのカプセル壁に、特定冷感成分であるRカルボンが内包されたマイクロカプセル(A)を固形分濃度30%含む分散液」は、本件補正発明の「コア-シェルマイクロカプセルスラリー」に相当するから、引用発明の「乳化分散して得られた乳化液に、水65部を加え、撹拌しながら70℃まで加温し、さらに、温度を維持したまま1時間攪拌を継続した後、冷却し、さらに、水酸化ナトリウム水溶液(10%)1.5部と水を加えて濃度を調整して、ポリウレタンウレアのカプセル壁に、特定冷感成分であるRカルボンが内包されたマイクロカプセル(A)を固形分濃度30%含む分散液を得る方法」は、本件補正発明の「コア-シェルマイクロカプセルスラリーの製造方法であって」、「e) 硬化ステップを実施して、スラリーの形態のコア-シェルマイクロカプセルを形成するステップ」に相当する。
本件補正発明の「ステップc)で得られた前記二相分散液に反応物を添加するステップ」は「任意選択的」であるから、引用発明は、本件補正発明の「d) 任意選択的に、ステップc)で得られた前記二相分散液に反応物を添加するステップ」を充足する。
そうすると、本件補正発明と引用発明は「コア-シェルマイクロカプセルスラリーの製造方法であって、以下のステップ:
a) 少なくとも2つのイソシアネート官能基を有するポリイソシアネートを、香料に溶解させて、油相を形成するステップと、
b) 安定剤を含む分散相を製造するステップであって、前記分散相が前記油相と混和性ではない、ステップと、
c) 前記油相を前記分散相に添加して、二相分散液を形成するステップと、
d) 任意選択的に、ステップc)で得られた前記二相分散液に反応物を添加するステップと、
e) 硬化ステップを実施して、スラリーの形態のコア-シェルマイクロカプセルを形成するステップと
を含み、
前記安定剤が、アラビアガム、加工デンプン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(PVP)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アニオン性多糖類、アクリルアミドコポリマー、無機粒子、タンパク質およびそれらの混合物からなる群において選択され、
前記分散相が水を含む、
ことを特徴とする、方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点>
少なくとも2つのイソシアネート官能基を有するポリイソシアネートが、本件補正発明では、アミノ酸由来ポリイソシアネートであるリジントリイソシアネートであるのに対し、引用発明ではトリレンジイソシアナートのトリメチロールプロパン付加物(DIC(株)、バーノックD-750)である点。
イ 相違点についての検討
引用文献1には、カプセル壁材のイソシアネートとして引用発明のカプセル壁材であるトリレンジイソシアナートのトリメチロールプロパン付加物(DIC(株)、バーノックD-750)のような2官能のイソシアネート化合物(分子中に2つのイソシアネート基を有する化合物)と分子中に3つ以上の活性水素基を有する化合物(3官能以上の例えばポリオール)とのアダクト体(付加物)として3官能以上としたイソシアネート化合物(アダクト型)とともにリジントリイソシアネートが記載されており([0043]、[0045]、[0046]参照。)、本願明細書の【0064】、【0067】の記載からみて、当該リジントリイソシアネートはアミノ酸由来ポリイソシアネートである。
そうすると、引用発明において、カプセル壁材としてトリレンジイソシアナートのトリメチロールプロパン付加物(DIC(株)、バーノックD-750)に代えて、リジントリイソシアネートを採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
ウ 本件補正発明の効果について
本件補正発明のマイクロカプセルスラリーの製造方法により製造されたマイクロカプセルは室温および43℃で界面活性剤ベースの製品において良好な安定性を示すという効果を奏するものであるが(本願明細書の【0173】)、引用文献1には、マイクロカプセルが衣料の繊維に吸着したり、繊維間の微細な空隙に入り込んだりして、衣料に保持され、マイクロカプセル内に成分が安定に含まれる、経時後衣服を擦るなどして応力を与え、マイクロカプセルを崩壊させることが記載されているから([0079]~[0084]参照。)、本件補正発明の効果の程度は、本件補正発明の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるとはいえない。
エ 審判請求人の主張及び当審における判断について
(ア)審判請求人の主張
請求人は、令和6年12月5日提出の審判請求書において「引用文献3、7には、本願発明のマイクロカプセルの材料として、本願所定の特定の材料を用いた具体例はなく、当業者といえども、本願発明の効果については予測できるものではありません。」と主張している。
また、請求人は、令和7年6月23日提出の上申書において、前記主張とともに、「実施例2のマイクロカプセルEは、リジントリイソシアネートに加えて、キシレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物であるTakenate(登録商標)D-110Nを油相に添加しています。・・・リジントリイソシアネートを単独で使用するマイクロカプセルAが、安定性向上/漏れの抑制の点でより優れていることがうかがえる結果となっています(表8および9)。」と主張している。
(イ)当審における判断
前記ア、イで検討したとおり、本願所定の特定の材料を用いることについては、リジントリイソシアネート以外は引用発明と異なることではなく、リジントリイソシアネートを用いることは当業者が容易に想到し得ることであるし、効果については、前記ウで検討したとおり、本件補正発明の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるとはいえない。
また、実施例2のシャワージェル形態におけるマイクロカプセルAとマイクロカプセルEは、リジントリイソシアネートを単独で使用したか否かのみならず、漏れ率測定においてそれが添加されたシャワージェルベース製品の組成及び温度も異なるから、リジントリイソシアネートを単独で使用するマイクロカプセルAが、安定性向上/漏れの抑制の点でより優れていることがうかがえる結果として評価できるものではない。
したがって、審判請求人の前記主張は採用できない。
オ 補正の却下の決定についてのまとめ
したがって、本件補正発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
第3 本願発明について
1 本願発明
上記第2のとおり、本件補正は却下されたので、本願発明は、令和6年5月20日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は前記第2 1(2)に示したとおりである。
2 原査定の拒絶理由
原査定の拒絶の理由は、「令和6年2月28日付け拒絶理由通知書に記載した理由3」を含むものであり、要するに、この出願の請求項1~12に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
そして、該拒絶の理由において主引用例として引用された刊行物は次のとおりである。
<引用文献等一覧>
・・・
7.国際公開第2019/039385号
・・・
3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献7は、前記前記第2 2(3)の引用文献1であって、引用文献1の記載事項は、前記第2 2(4)に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記「第2 2(1)」で検討した本件補正発明の「前記アミノ酸由来ポリイソシアネートがリジントリイソシアネートであり」が「前記アミノ酸由来ポリイソシアネートがリジントリイソシアネートであるか、あるいはアルギニントリイソシアネート、アスパラギントリイソシアネート、プロリントリイソシアネート、グルタミントリイソシアネート、リジントリイソシアネート、リジンエチルエステルトリイソシアネート、リジンメチルエステルトリイソシアネート、リジンプロピルエステルトリイソシアネート、またはそれらの誘導体、およびそれらの混合物からなる群において選択されるアミノ酸由来トリイソシアネートである」と特定され、「前記安定剤が、アラビアガム、加工デンプン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(PVP)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アニオン性多糖類、アクリルアミドコポリマー、無機粒子、タンパク質およびそれらの混合物からなる群において選択され」及び「前記分散相が水を含む」との限定がないものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに前記事項によって限定したものに相当する本件補正発明が、前記「第2 2(5)オ」に記載したとおり、当該引用文献1に記載された発明及び当該引用文献1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、当該引用文献1に記載された発明及び当該引用文献1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 上申書に記載された補正案
令和7年6月23日提出の上申書には、請求項1に係る発明の特定事項であるステップd)で添加する反応物を限定する補正をおこなうことを検討している旨記載されている。
しかしながら、このような補正の機会を与える義務が審判合議体にないことは特許法の各規定に照らし明らかであり、仮に上申書の補正案のとおり、ステップd)で添加する反応物を限定したとしても、ステップdは任意選択的であることが特定されている以上、請求項1に係る発明はステップdを含まない態様を含み、そのような態様のものは、前記第2(5)アと同じ理由により、引用発明との対比において新たな相違点を有するものとはならないから、前記第2(5)で検討した本件補正発明と同様に、請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-019598