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特許異議申立

2018-700861

廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法

審判番号
2018-700861
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2014-253694
登録番号
特許第6314814号(P6314814)
請求日
2018年10月24日
審決日
2019年02月26日
公報発行日
2019年05月31日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】住友金属鉱山株式会社
  • 【権利者代理人】小池 晃
  • 【権利者代理人】河野 貴明
  • 【権利者代理人】北原 明彦
  • 【権利者代理人】村上 浩之
  • 【権利者代理人】伊賀 誠司
  • 【異議申立人】特許業務法人 藤央特許事務所
審判長/審判官
  • 審判長 中澤 登
  • 審判官 ▲辻▼ 弘輔
  • 審判官 土屋 知久
分類
P1651.121-YAA(C22B) / P1651.537-YAA(C22B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6314814号発明「廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6314814号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6314814号の請求項1、2、4、5に係る特許を維持する。 特許第6314814号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許6314814号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成26年12月16日に出願され、平成30年 4月 6日にその特許の設定登録がされ、同年 4月25日に特許掲載公報が発行された。 その後、全請求項である請求項1~5に係る特許に対し、平成30年10月24日に、特許異議申立人として、特許業務法人 藤央特許事務所(以下、「異議申立人」という。)が、特許異議の申立てを行った。 そして、当審は、平成30年12月 3日付けで取消理由を通知し、特許権者は、その指定期間内である平成31年 2月 4日付けで意見書及び訂正請求書を提出した。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 (1)平成31年 2月 4日付けの訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)による訂正(以下、「本件訂正」という)の内容は、以下の訂正事項1~5のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すために当審が付した。 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「前記酸性抽出剤は、ジ(2-エチルヘキシル)ホスホン酸であることを特徴とする」 とあるのを、 「前記酸性抽出剤は、ジ(2-エチルヘキシル)ホスホン酸であり、前記溶媒抽出工程において、アルカリを添加して溶媒抽出時の水相のpH値を5.0~6.5に調整することを特徴とする」 に訂正する。 請求項1を引用する請求項2、4、5についても同様に訂正する。 イ 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 ウ 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項4に 「請求項1乃至3の何れか1項に記載の」 とあるのを、 「請求項1又は2に記載の」 に訂正する。 エ 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項5に 「請求項1乃至4の何れか1項に記載の」 とあるのを、 「請求項1、2、4の何れか1項に記載の」 に訂正する。 オ 訂正事項5 明細書の段落【0035】に 「逆抽出工程とを含み、酸性抽出剤は、ジ(2-エチルヘキシル)ホスホン酸であることを特徴とする。」 とあるのを、 「逆抽出工程とを含み、酸性抽出剤は、ジ(2-エチルヘキシル)ホスホン酸であり、前記溶媒抽出工程において、アルカリを添加して溶媒抽出時の水相のpH値を5.0~6.5に調整することを特徴とする。」 に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について ア 訂正事項1による訂正は、本件訂正前の請求項1に対し、本件訂正前の請求項3に記載されていた「前記溶媒抽出工程において、アルカリを添加して溶媒抽出時の水相のpH値を5.0~6.5に調整する」との事項を直列的に追加することにより、請求項1における「溶媒抽出工程」を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。 イ 訂正事項1による訂正後の請求項1に係る発明は、本件訂正前の請求項3に係る発明のうち、請求項1を引用していた場合のものと同じである。 したがって、訂正事項1による訂正が新規事項を追加するものではないことは明らかであるし、特許請求の範囲を拡張又は変更するものに該当しないことも明らかである。 (2)訂正事項2について 訂正事項2による訂正は、請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。 また、当該訂正が、新規事項を追加するものではないことは明らかであるし、特許請求の範囲を拡張又は変更するものに該当しないことも明らかである。 (3)訂正事項3について 訂正事項3による訂正は、「請求項1乃至3の何れか1項」を引用していた本件訂正前の請求項4において、引用請求項数を削減し、「請求項1又は2」を引用するものとする訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。 また、当該訂正が、新規事項を追加するものではないことは明らかであるし、特許請求の範囲を拡張又は変更するものに該当しないことも明らかである。 (4)訂正事項4について 訂正事項4による訂正は、「請求項1乃至4の何れか1項」を引用していた本件訂正前の請求項5において、引用請求項数を削減し、「請求項1、2、4の何れか一項」を引用するものとする訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものである。 また、当該訂正が、新規事項を追加するものではないことは明らかであるし、特許請求の範囲を拡張又は変更するものに該当しないことも明らかである。 (5)訂正事項5について 訂正事項5による訂正は、明細書の段落【0035】の記載を、訂正事項1により訂正される特許請求の範囲の請求項1の記載に整合させるために行う訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。 また、当該訂正が、新規事項を追加するものではないことは明らかであるし、特許請求の範囲を拡張又は変更するものに該当しないことも明らかである。 3 一群の請求項 本件訂正前の請求項1~5について、請求項2~5はそれぞれ請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1~5は一群の請求項であるところ、本件訂正請求は、上記一群の請求項についてされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1~5〕を訂正単位として訂正の請求をするものである。 4 本件訂正が特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合することについて 訂正事項5による訂正は明細書の訂正であるところ、当該明細書の訂正に関連する請求項の全てである請求項1~5について訂正を行わなければならない。 そして、本件訂正は、請求項1~5について行われているといえるから、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。 5 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~5〕について、訂正を認める。 6 補足(本件訂正の請求において、特許法第120条の5第5項ただし書きにおける「特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるとき」について) 訂正事項1による訂正は、実質的に、本件訂正前の請求項1に係る発明を削除するとともに、本件訂正前の請求項3に係る発明を本件訂正後の請求項1に係る発明とする訂正であるとみることができる。 ここで、本件訂正前の請求項3に係る発明について、異議申立人は、特許異議申立書を提出する時点において取消理由が存在することの十分な主張を行うことができたものである。 また、特許異議の申立ての期間が特許掲載公報発行の日から6月以内に制限されている趣旨を踏まえると、本件訂正前の請求項3に係る発明と同じものである本件訂正後の請求項1に係る発明に対し、特許異議申立書において記載されていなかった新たな取消理由を主張することは許されないというべきである。 したがって、本件訂正の請求においては、異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるときに当たるものと判断した。 第3 本件発明 前記第2のとおり本件訂正の請求は認容されるから、本件特許の請求項1~5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明5」という)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、訂正箇所に下線を付した。 「【請求項1】 廃リチウムイオン電池から、湿式処理法によりニッケル及びコバルトを分離回収する廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法であって、 前記廃リチウムイオン電池より得られた有価金属含有物を、酸性溶液に混合して溶解した後に、浸出液と浸出残渣とに分離する浸出工程と、 前記浸出工程で得られた浸出液に中和剤を添加して、中和終液とアルミニウムを含有する中和澱物とに分離する中和工程と、 前記中和工程で得られた中和終液について、酸性抽出剤による溶媒抽出処理を行い、ニッケル及びコバルトを含有する抽出後の有機溶媒とリン及びフッ素を含有する抽出残液とを得る溶媒抽出工程と、 前記溶媒抽出工程で得られた抽出後の有機溶媒を、硫酸溶液で逆抽出することでニッケル及びコバルトを含有する逆抽出液を得る逆抽出工程とを含み、 前記酸性抽出剤は、ジ(2-エチルヘキシル)ホスホン酸であり、 前記溶媒抽出工程において、アルカリを添加して溶媒抽出時の水相のpH値を5.0~6.5に調整することを特徴とする廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法。 【請求項2】 前記中和工程において、前記中和剤を添加して前記浸出液のpH値を4.5~6.0に調整することを特徴とする請求項1に記載の廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 前記逆抽出工程において、硫酸溶液を添加して逆抽出時の水相のpH値を0~4.0に調整することを特徴とする請求項1又は2に記載の廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法。 【請求項5】 前記溶媒抽出工程で得られた抽出残液に、中和剤を添加して、リン及びフッ素を含有する沈澱物を生成させ、該リン及びフッ素を分離除去することを特徴とする請求項1、2、4の何れか1項に記載の廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法。」 第4 申立理由の概要 1 異議申立人は、後記2に示す甲第1号証~甲第5号証(以下、それぞれ、「甲1」~「甲5」という。)を提出した。 その上で、以下の2つの理由で本件特許が取り消されるべきものであることを主張している(以下、それぞれ便宜的に「申立理由1」~「申立理由2」という。)。 ・申立理由1(進歩性) 請求項1~4に係る発明は、甲1及び甲2に記載された発明と、甲3や甲4等に記載の周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、請求項5に係る発明は、甲1、甲2及び甲5に記載された発明と、甲3や甲4等に記載の周知技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 ・申立理由2(サポート要件) 請求項1、2、4、5は、「溶媒抽出工程」における溶媒抽出時のpHについて何ら特定されておらず、本件発明が解決しようとする課題である「有価金属であるニッケルやコバルトと、リンやフッ素とを完全に分離し、且つ、リンやフッ素を確実に回収して排水中のリンやフッ素負荷を上昇させないこと」という課題を常に解決できるとは考えられないから、請求項1、2、4、5の範囲にまで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、請求項1、2、4、5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2 証拠方法 甲1:特開2007-122885号公報 甲2:特開2014-162982号公報 甲3:特開平9-209054号公報 甲4:特開平6-220553号公報 甲5:特開2010-180439号公報 第5 当審の判断 当審においては、取消理由として、申立理由1を採用せず、申立理由2のみを採用して、取消理由通知をした。 そして、本件訂正の請求が前記第2のとおり認容される結果、本件発明3は削除され存在しないものとなり、本件発明1、2、4、5に係る発明は前記第3のとおりのものとなったところ、以下の1において述べるとおり、取消理由通知に記載した取消理由(申立理由2)では、本件発明1、2、4、5に係る特許を取り消すことができないものと判断する。 また、以下の2において述べるとおり、申立理由1では、本件発明1、2、4、5に係る特許を取り消すことができないものと判断する。 1 取消理由通知に記載した取消理由(申立理由2(サポート要件))についての判断 (1)本件発明1について ア 特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たすか否かの判断は、請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとを対比、検討した上で、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるか否かによって判断される。 イ そこで、本件発明が解決しようとする課題(以下、単に「本件課題」という。)について検討すると、本件明細書の段落【0032】によれば、本件課題は、 「有価金属であるニッケルやコバルトと、リンやフッ素とを完全に分離し、且つ、リンやフッ素を確実に回収して排水中のリンやフッ素負荷を上昇させないことが可能な、使用済みのリチウムイオン電池(以下、「廃リチウムイオン電池」と称する。)からの有価金属の回収方法を提供すること」 という事項であると認められる。 ゆえに、本件課題は、以下の二つの事項からなるといえる。 1)有価金属であるニッケルやコバルトと、リンやフッ素とを完全に分離する 2)リンやフッ素を確実に回収して排水中のリンやフッ素負荷を上昇させない ウ そして、本件明細書には、本件課題を解決することに関連して、以下の記載がある。 なお、下線は当審において強調のために付したものである。ただし、段落【0035】の「り、前記溶媒抽出工程において、アルカリを添加して溶媒抽出時の水相のpH値を5.0~6.5に調整する」の下線については、本件訂正により追加された記載を示すために付したものである。 「【課題を解決するための手段】 【0033】 本発明者らは、廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法において、特に、不純物を有機溶媒に抽出するのでは無く、不純物を抽出残液に残して、有価金属であるニッケル及びコバルトのみを有機溶媒に抽出する方法に着目し、有価金属と不純物とを完全に分離し、且つ、不純物を確実に回収する方法について鋭意研究を重ねた。 【0034】 その結果、浸出工程、中和工程を経て得られたリンやフッ素を含有するニッケル及びコバルト水溶液について、酸性抽出剤による溶媒抽出処理を行い、ニッケル及びコバルトを一旦有機相中に移行させた後、硫酸溶液で逆抽出することにより、ニッケル及びコバルトと、リンやフッ素との完全分離が可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。 【0035】 即ち、上記目的を達成するための本発明に係る廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法は、廃リチウムイオン電池から、湿式処理法によりニッケル及びコバルトを分離回収する廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法であって、廃リチウムイオン電池より得られた有価金属含有物を、酸性溶液に混合して溶解した後に、浸出液と浸出残渣とに分離する浸出工程と、浸出工程で得られた浸出液に中和剤を添加して、中和終液とアルミニウムを含有する中和澱物とに分離する中和工程と、中和工程で得られた中和終液について、酸性抽出剤による溶媒抽出処理を行い、ニッケル及びコバルトを含有する抽出後の有機溶媒とリン及びフッ素を含有する抽出残液とを得る溶媒抽出工程と、溶媒抽出工程で得られた抽出後の有機溶媒を、硫酸溶液で逆抽出することでニッケル及びコバルトを含有する逆抽出液を得る逆抽出工程とを含み、逆抽出工程とを含み、酸性抽出剤は、ジ(2-エチルヘキシル)ホスホン酸であり、前記溶媒抽出工程において、アルカリを添加して溶媒抽出時の水相のpH値を5.0~6.5に調整することを特徴とする。 【発明の効果】 【0036】 本発明によれば、有価金属であるニッケルやコバルトと、不純物であるリンやフッ素とを完全に分離し、且つ、リンやフッ素を確実に回収して排水中のリンやフッ素負荷を上昇させずに、廃リチウムイオン電池から有価金属を回収することが可能となる。」 「【0079】 溶媒抽出工程S13では、抽出時の水相のpH値を5.0~6.5に維持する。水相のpH値が5.0未満の場合には、ニッケルの抽出が不十分になる。一方、水相のpH値が6.5を超える場合には、ニッケル及びコバルトが沈澱物を生成し、溶媒抽出反応を阻害するので好ましくない。 【0080】 溶媒抽出工程S13では、中和終液中のリンやフッ素は有機溶媒に抽出されずに、抽出残液に残留する。従って、溶媒抽出工程S13では、溶媒抽出処理によって、有価金属であるニッケルやコバルトと、不純物であるリンやフッ素を完全に分離することができる。そして、分離したリン及びフッ素を所定の方法で回収することにより、排水中の不純物の含有量を低減することができる。」 「【0094】 溶媒抽出工程S13において、ジ(2-エチルヘキシル)ホスホン酸(D2EHPA)等の酸性抽出剤を使用した場合には、抽出時の水相のpH値を4以上に調整すると、ニッケルやコバルトは有機相側に移行し、リンやフッ素は水相側に残存するため、不純物の分離が可能となる。」 エ 上記ウによれば、本件明細書には、所定の「浸出工程」、「中和工程」、「溶媒抽出工程」及び「逆抽出工程」を含む「廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法」が記載されている。 そして、特に段落【0079】~【0080】には、「溶媒抽出工程」において、抽出時の水相のpH値を5.0~6.5に維持することで、ニッケルの抽出が不十分になることがなく、また、ニッケル及びコバルトが沈殿物を生成し、溶媒抽出反応を阻害するということもなく、溶媒抽出処理によって、有価金属であるニッケルやコバルトと、不純物であるリンやフッ素を完全に分離することができることが記載されている。 したがって、本件明細書には、「廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法」において、特に「溶媒抽出工程」で、抽出時の水相のpH値を5.0~6.5に維持することによって、本件課題の「1)有価金属であるニッケルやコバルトと、リンやフッ素とを完全に分離する」という事項を解決できることが記載されているといえる。 オ ここで、「有価金属であるニッケルやコバルトと、リンやフッ素とを完全に分離」するという事項を解決するための抽出時の水相のpHの値に関し、段落【0079】には「5.0~6.5」という数値が記載され、段落【0094】には「4以上」という数値が記載され、両数値が完全に一致していない。 この点については、段落【0094】の「4以上」という数値は、不純物の分離が可能となるような最低限のpHを示すものであって、不純物の分離が可能となるもののニッケルの抽出はまだ不十分になる数値である一方、段落【0079】の「5.0~6.5」という数値は、「4以上」という数値をさらに限定するものであって、不純物の分離が可能となり、かつ、ニッケルの抽出が不十分になることやニッケル及びコバルトが沈殿物を生成し溶媒抽出反応を阻害することがない数値であると、本件明細書の記載全体から理解することができる。 そのため、「有価金属であるニッケルやコバルトと、リンやフッ素とを完全に分離」するという事項を解決するための抽出時の水相のpHの値として、本件明細書に記載されているのは、「4以上」ではなく、「5.0~6.5」であると、上記エにおいて判断した。 カ また、本件明細書には、「廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法」において、不純物を有機溶媒に抽出するのではなく、不純物を抽出残液に残して、有価金属であるニッケル及びコバルトのみを有機溶媒に抽出する方法に着目したことが記載されている(段落【0033】)ことを踏まえると、上記エのとおり、「溶媒抽出工程」において、抽出時の水相のpH値を5.0~6.5に維持することで完全に分離されたリンやフッ素は、抽出残液に残されることになる。 そして、段落【0080】によれば、完全に分離されて抽出残液に残されたリンやフッ素は、所定の方法で回収することにより、排水中の不純物の含有量を低減することができるものである。 したがって、本件明細書には、「廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法」において、特に「溶媒抽出工程」で、抽出時の水相のpH値を5.0~6.5に維持することによって、完全に分離されたリンやフッ素が抽出残液に残される結果、本件課題の「2)リンやフッ素を確実に回収して排水中のリンやフッ素負荷を上昇させない」という事項を解決できることも記載されているといえる。 キ そして、本件発明1は、前記第3のとおりのものであって、「廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法」において、「前記溶媒抽出工程において、アルカリを添加して溶媒抽出時の水相のpH値を5.0~6.5に調整する」ことが特定されているから、上記エ~カの検討に照らし、本件発明1は、本件課題を解決できるものであって、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。 ク よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものである。 (2)本件発明2、4、5について 本件発明2、4、5は、いずれも、本件発明1を引用するものであって、本件発明1に特定される発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明1と同じ理由で、発明の詳細な説明に記載したものである。 2 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由(申立理由1(進歩性))についての判断 (1)甲1~甲5の記載 ア 甲1(特開2007-122885号公報)には、以下の記載がある(下線は当審で付した。「・・・」により記載の省略を示す。以下同様である。)。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法であって、リチウムイオン電池を解体する解体工程と、電池解体物をアルコール又は水で洗浄し、電解液及び電解質を除去する洗浄工程と、洗浄した電池解体物を硫酸水溶液に浸漬して、正極基板から正極活物質を剥離する正極活物質剥離工程と、剥離した正極活物質を固定炭素含有物の存在下に酸性溶液で浸出する浸出工程と、得られた浸出液から中和によりアルミニウム、銅を分離除去する中和工程と、中和工程後の浸出液からニッケル、コバルトを分離回収するニッケル・コバルト回収工程と、残った水溶液中のリチウムを溶媒抽出と逆抽出により濃縮した後、リチウムを炭酸リチウムの固体として分離回収するリチウム回収工程とを備えることを特徴とするリチウムイオン電池からの有価金属回収方法。」 「【技術分野】 【0001】 本発明は、使用済みのリチウムイオン2次電池のリサイクルにおいて、電池を解体して、正極活物質に含まれるリチウムなどの有価金属を効率的に分離回収する方法に関する。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明は、このような従来の事情に鑑み、使用済みのリチウムイオン電池のリサイクルにおいて、加熱・焼却などの乾式処理を行わずに、正極活物質などに含まれているリチウム、ニッケル、コバルトなどの有価金属を効率よく分離回収する方法を提供することを目的とする。」 「【0015】 本発明によるリチウムイオン電池からの有価金属の回収方法を、図1に示す工程図を参照して以下に説明する。 ・・・ 【0029】 (6)ニッケル・コバルト回収工程 上記中和工程を終了した浸出液からニッケル及びコバルトを分離・回収するにあたっては、その浸出液に更に中和剤を添加してpHを6.5~10.0に調整する。浸出液のpHが6.5よりも低い場合は、ニッケル及びコバルトを澱物として分離回収することができない。また、浸出液のpHが10.0を超えると、中和剤の使用量が増加するため不経済である。この工程においても、ソーダ灰や消石灰、水酸化ナトリウムなどといった一般的な中和剤を用いることができる。尚、この工程において、リチウムは浸出液中に残留する。 【0030】 アルミニウム・銅と、ニッケル・コバルトと、リチウムとを分離精製する方法として、上記した中和の他に、硫化や溶媒抽出などの方法も考えられる。しかし、硫化を用いる場合には、優先的に銅及びアルミニウムを硫化させ除去することが出来るが、同時にロスするニッケルやコバルトの量も大きくなる。また、硫化水素ガスの発生するため、その除害設備や硫化物の精製工程が必要になる。溶媒抽出を用いる場合は、ニッケルとコバルトは分離可能であるが、ニッケルと同時にリチウムが抽出される問題がある。また、油水分離のための設備負荷などが増大する点でも不利である。」 「【図1】 」 イ 甲2(特開2014-162982号公報)には、以下の記載がある。 「【請求項1】 工程(1):リチウム、マンガン、ニッケル、及びコバルトからなる金属群Aと、銅、アルミニウム及び鉄からなる金属群Bとを含有する金属混合水溶液に対して、ホスホン酸エステル系抽出剤及びカルボン酸系抽出剤を含有する第一混合抽出剤を使用して溶媒抽出し、当該金属混合溶液から金属群Bに属する金属分を分離する工程、 工程(2):工程(1)後の抽出残液に対して、燐酸エステル系抽出剤及びオキシム系抽出剤を含有する第二混合抽出剤を使用して溶媒抽出し、当該抽出残液から更に金属群Bに属する金属分を分離すると共にマンガンも分離する工程、 工程(3):工程(2)後の抽出残液に対して、ホスホン酸エステル系抽出剤を使用して溶媒抽出し、当該抽出残液からコバルトを分離する工程、 工程(4):工程(3)後の抽出残液に対して、カルボン酸系抽出剤を使用して溶媒抽出し、当該抽出残液からニッケルを分離する工程、 を順に行うことを含む金属混合水溶液からの金属の分離回収方法。」 「【0042】 (工程3) 工程(2)を終えた段階で、金属群Bは金属混合溶液からほとんど分離除去されている。また、マンガンも大部分が分離されている。従って、工程(2)後の抽出残液中にはリチウム、コバルト、及びニッケルが主として含まれている。工程(3)以降ではこれら金属群Aに属する金属の分離回収を行う。 【0043】 工程(3)では、工程(2)後の抽出残液(水相)に対して、ホスホン酸エステル系抽出剤を使用して溶媒抽出し、当該抽出残液からコバルトを分離する。ホスホン酸エステル系抽出剤としては特に制限はないが、ニッケルとコバルトの分離効率の観点から2-エチルヘキシルホスホン酸2-エチルヘキシル(商品名:PC-88A、Ionquest801)が好ましい。 ・・・ 【0045】 抽出の手順は、工程(1)と同様に、常法に従えばよい。但し、抽出時の平衡pHはニッケルとコバルトの分離性の理由により4.5~5.5とするのが好ましく、4.8~5.2とするのがより好ましい。 【0046】 溶媒抽出後のコバルトを含有する抽出剤(有機相)に対しては、工程(1)と同様に、逆抽出を行うことができる。水相側に移動したコバルトは、電解採取などによって回収可能である。」 「【図1】 」 ウ 甲3(特開平9-209054号公報)には、以下の記載がある。 「【0007】これらの抽出剤は、溶液が低pH値であるときにはコバルトが優先的に抽出されるが、NaOH等のアルカリを使用してpH値を次第に高めるとニッケルの抽出が行われるようになるので、溶液のpH値を適宜調整することにより溶液中にニッケルを残留させてコバルトを抽出することにより両者の分離を行うことができる。しかしながら、実際には原液中のコバルトを完全に抽出しようとすれば、コバルト抽出溶媒中に僅かではあるがニッケルがともに抽出されてしまうし、一方溶液のpH値をニッケルの抽出が行われないような値に調整すると、該溶液中にコバルトが残留してしまうので両者の完全分離を行うことはきわめて困難であった。」 エ 甲4(特開平6-220553号公報)には、以下の記載がある。 「【0002】 【従来の技術】ニッケルとコバルトは特殊鋼、特殊合金や磁性材料、触媒等の原料金属としてわが国の産業に欠かすことのできない重要な金属である。溶媒抽出法によるこれらの金属の分離・精製法に関しては以前からかなりの研究が行われ、わが国も含め世界で十数箇所の工場でこのプロセスを用いた商業的な操業が行われている。この場合の原料鉱物は例えば酸化ニッケル鉱等の天然の鉱石であるが、これらの鉱石の産地は偏在しており、各種の産業廃棄物等の2次資源からのニッケルとコバルトの回収を行うことが望まれている。これらの金属を比較的高濃度で含有する廃棄物として原油の脱硫用の触媒があげられる。しかしながら、廃脱硫触媒はニッケルやコバルトの10倍以上のモリブデン、バナジウムなどを含有しており、ニッケルとコバルトをモリブデンとバナジウムから効率的に分離することが技術上の問題点となる。工業的に使用されているD2EHPA〔(ジ-(2-エチルヘキシル)リン酸〕、PC-88A〔(株)大八化学工業製;成分は2-エチルヘキシルホスホン酸モノ-2-エチルヘキシルエステル〕、Cyanex 272〔アメリカンサイアナミッド社製;成分はジ-(2,4,4-トリメチルペンチル)-ホスフィン酸〕などの酸性燐化合物抽出剤を用いた硫酸水溶液からの抽出においても、また高分子量アミンを用いた塩酸水溶液からの抽出においても、これらの金属の抽出の序列はいずれの場合でもモリブデンやバナジウムの方に大きく偏っており、これらの抽出剤ではモリブデンやバナジウム中に存在するニッケル、コバルトを選択的に回収することは全く不可能である。」 オ 甲5(特開2010-180439号公報)には、以下の記載がある。 「【請求項1】 ニッケル及びコバルトと鉄、アルミニウム及びマンガンその他の不純物元素とを含有する硫酸酸性水溶液から、ニッケルを回収する方法であって、 下記の工程(1)~(5)を含むことを特徴とする硫酸酸性水溶液からのニッケル回収方法。 工程(1):前記硫酸酸性水溶液に、亜硫酸ガスと空気又は酸素ガスからなる混合ガスを吹き込みながら、炭酸カルシウムを添加して酸化中和処理に付し、生成された鉄及びアルミニウムを含有する沈殿物(a)を除去する。 工程(2):前記工程(1)で得られた酸化中和処理後液に、水酸化カルシウムを添加して中和処理に付し、ニッケル及びコバルトを含有する混合水酸化物を分離回収する。 工程(3):前記工程(2)で得られた混合水酸化物を、濃度50質量%以上の硫酸溶液中で溶解処理に付し、生成されたマンガン及び石膏を含有する沈殿物(b)を除去してニッケル及びコバルトの濃縮液を得る。 工程(4):前記工程(3)で得られた濃縮液を、燐酸エステル系酸性抽出剤を用いて溶媒抽出処理に付し、ニッケルを含有する抽出残液とコバルトを含有する逆抽出液を得る。 工程(5):前記工程(4)で得られた抽出残液に、中和剤を添加して中和処理に付し、生成された水酸化ニッケルを分離回収する。」 (2)甲1発明について 甲1の請求項1の記載をもとに、甲1には、使用済みのリチウムイオン電池のリサイクルにおいて、正極活物質などに含まれているリチウム、ニッケル、コバルトなどの有価金属を効率よく分離回収する方法を提供すると記載されている(段落【0007】)ことと、ニッケル・コバルト回収工程を中和により行うことが記載されている(段落【0030】)ことを踏まえると、甲1には、以下の甲1発明が記載されていると認められる。 「[甲1発明] 使用済みのリチウムイオン電池から、正極活物質などに含まれているリチウム、ニッケル、コバルトなどの有価金属を回収する方法であって、 リチウムイオン電池を解体する解体工程と、 電池解体物をアルコール又は水で洗浄し、電解液及び電解質を除去する洗浄工程と、 洗浄した電池解体物を硫酸水溶液に浸漬して、正極基板から正極活物質を剥離する正極活物質剥離工程と、 剥離した正極活物質を固定炭素含有物の存在下に酸性溶液で浸出する浸出工程と、 得られた浸出液から中和によりアルミニウム、銅を分離除去する中和工程と、 中和工程後の浸出液から中和によりニッケル、コバルトを分離回収するニッケル・コバルト回収工程と、 残った水溶液中のリチウムを溶媒抽出と逆抽出により濃縮した後、リチウムを炭酸リチウムの固体として分離回収するリチウム回収工程とを備えることを特徴とする リチウムイオン電池からの有価金属回収方法。」 (3)本件発明1について ア 本件発明1と、甲1発明とを対比する。 (ア)本件発明1が「廃リチウムイオン電池から、湿式処理法によりニッケル及びコバルトを分離回収する廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法」であるのに対し、甲1発明は「使用済みのリチウムイオン電池から、正極活物質などに含まれているリチウム、ニッケル、コバルトなどの有価金属を回収する方法」であり、この点について対比すると、以下のことがいえる。 甲1発明の「使用済みのリチウムイオン電池」は、本件発明1の「廃リチウムイオン電池」に相当する。 また、両発明は、回収する「有価金属」が「ニッケル」及び「コバルト」を含む点で共通しているところ、甲1発明を規定する各事項からみて、甲1発明の方法は「湿式処理法」であるといえる。 以上を踏まえると、両発明は「廃リチウムイオン電池から、湿式処理法により少なくともニッケル及びコバルトを分離回収する廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法」である点で一致する。 (イ)甲1発明の「剥離した正極活物質を固定炭素含有物の存在下に酸性溶液で浸出する浸出工程」は、本件発明1の「前記廃リチウムイオン電池より得られた有価金属含有物を、酸性溶液に混合して溶解した後に、浸出液と浸出残渣とに分離する浸出工程」に相当する。 (ウ)甲1発明の「得られた浸出液から中和によりアルミニウム、銅を分離除去する中和工程」は、本件発明1の「前記浸出工程で得られた浸出液に中和剤を添加して、中和終液とアルミニウムを含有する中和澱物とに分離する中和工程」に相当する。 (エ)上記(ウ)を踏まえると、甲1発明の「中和工程後の浸出液」は、本件発明1の「前記中和工程で得られた中和終液」に相当する。 (オ)したがって、両発明は、以下の点で一致する。 「廃リチウムイオン電池から、湿式処理法により少なくともニッケル及びコバルトを分離回収する廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法であって、 前記廃リチウムイオン電池より得られた有価金属含有物を、酸性溶液に混合して溶解した後に、浸出液と浸出残渣とに分離する浸出工程と、 前記浸出工程で得られた浸出液に中和剤を添加して、中和終液とアルミニウムを含有する中和澱物とに分離する中和工程と、 を含む、廃リチウムイオン電池からの有価金属の回収方法。」 (カ)その一方、両発明は、少なくとも、「前記中和工程で得られた中和終液」に対する工程に関する以下の点で相違する。 (相違点1) 「前記中和工程で得られた中和終液」に対する工程として、 本件発明1は「酸性抽出剤による溶媒抽出処理を行い、ニッケル及びコバルトを含有する抽出後の有機溶媒とリン及びフッ素を含有する抽出残液とを得る溶媒抽出工程」を含み、「前記酸性抽出剤は、ジ(2-エチルヘキシル)ホスホン酸であり、前記溶媒抽出工程において、アルカリを添加して溶媒抽出時の水相のpH値を5.0~6.5に調整する」のに対し、甲1発明は、「中和によりニッケル、コバルトを分離回収するニッケル・コバルト回収工程」を備える点 イ 上記相違点1について検討する。 (ア)甲1の【0030】には、「アルミニウム・銅と、ニッケル・コバルトと、リチウムとを分離精製する方法として、上記した中和の他に、硫化や溶媒抽出などの方法も考えられる。」と記載されている一方、「溶媒抽出を用いる場合は、ニッケルとコバルトは分離可能であるが、ニッケルと同時にリチウムが抽出される問題がある。また、油水分離のための設備負荷などが増大する点でも不利である。」と記載されている。 この記載に接した当業者は、甲1発明における「中和によりニッケル、コバルトを分離回収するニッケル・コバルト回収工程」を、「中和」により行うことに代えて「溶媒抽出」により行う変更をした場合に、「ニッケルと同時にリチウムが抽出される問題」が生じることや、「油水分離のための設備負荷などが増大する点」で不利になることを認識する。 そうすると、甲1発明における「中和によりニッケル、コバルトを分離回収するニッケル・コバルト回収工程」を、「中和」により行うことに代えて「溶媒抽出」により行うように変更することについて、阻害要因が存在するといえる。 (イ)そして、甲2には、所定の溶液に対し、ホスホン酸エステル抽出剤を使用してコバルトを溶媒抽出し、その抽出後の有機相に対して硫酸溶液等を用いて逆抽出して、コバルトを回収することが記載されている(請求項1、【0042】~【0047】、【0030】)。すなわち、甲2には、所定の溶液に対し、コバルトを「溶媒抽出」した後に逆抽出してコバルトを回収することが記載されているといえる。 しかしながら、上記(ア)で検討したとおり、甲1発明において、「中和によりニッケル、コバルトを分離回収するニッケル・コバルト回収工程」を、「中和」により行うことに代えて「溶媒抽出」により行うように変更することについて、阻害要因が存在しているから、甲1発明に対し、甲2に記載された、コバルトを「溶媒抽出」することを含む上記の技術事項を適用することは、当業者が容易になし得たことではない。 したがって、甲2の記載を考慮したとしても、当業者は、甲1発明における「中和によりニッケル、コバルトを分離回収するニッケル・コバルト回収工程」を、「溶媒抽出」により行うように変更することを、容易になし得たとはいえない。 (ウ)また、甲3には、所定の抽出剤を用いて溶媒抽出を行う場合に、コバルト抽出溶媒中に僅かではあるがニッケルがともに抽出されてしまうことが記載されており(段落【0007】)、甲4には、工業的に使用されている酸性燐化合物抽出剤のうちの一つとしてジ-(2-エチルヘキシル)リン酸が記載されており(段落【0002】)、甲5には、硫酸酸性水溶液からのニッケル回収方法が記載されている(請求項1)。 しかしながら、甲2の記載に加え、これら甲3~甲5の記載を考慮したとしても、当業者は、甲1発明における「中和によりニッケル、コバルトを分離回収するニッケル・コバルト回収工程」を、「溶媒抽出」により行うように変更することを、容易になし得たとはいえない。 (エ)以上によれば、当業者は、甲1発明に基づき、甲2~甲5の記載を考慮したとしても、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項のうち、「酸性抽出剤による溶媒抽出処理を行い、ニッケル及びコバルトを含有する抽出後の有機溶媒とリン及びフッ素を含有する抽出残液とを得る溶媒抽出工程」を想到することができない。 (オ)さらに、甲1~甲5の記載に加え、技術常識を考慮したとしても、本件発明1が奏する「有価金属であるニッケルやコバルトと、不純物であるリンやフッ素とを完全に分離し、且つ、リンやフッ素を確実に回収して排水中のリンやフッ素負荷を上昇させずに、廃リチウムイオン電池から有価金属を回収することが可能となる。」(段落【0036】)という効果は、当業者が予測し得たものであるとはいえない。 ウ したがって、本件発明1と甲1発明との他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明に基づき、甲2~甲5の記載を考慮したとしても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件発明2、4、5について 本件発明2、4、5は、いずれも本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項をすべて備えるものであるから、本件発明1と同様にして、甲1に記載された発明に基づき、甲2~甲5の記載を考慮したとしても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1、2、4、5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1、2、4、5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、本件訂正によって、請求項3に係る発明が削除されたため、請求項3に係る特許についての特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しないこととなった。 よって、結論のとおり決定する。

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2018-700861

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