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特許異議申立

2024-700759

異原子ドープダイヤモンド

審判番号
2024-700759
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-215405
登録番号
7430874
請求日
2024年08月13日
審決日
2025年03月18日
公報発行日
2025年06月27日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】国立大学法人 熊本大学
  • 【権利者代理人】弁理士法人WisePlus
  • 【権利者】株式会社日本触媒
  • 【権利者代理人】弁理士法人WisePlus
  • 【異議申立人】豊田 享子
審判長/審判官
  • 審判長 深草 祐一
  • 審判官 後藤 政博
  • 審判官 河本 充雄
分類
P1652.113-YAA(C01B) / P1652.121-YAA(C01B) / P1652.536-YAA(C01B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7430874号発明「異原子ドープダイヤモンド」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7430874号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。 特許第7430874号の請求項1、2に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7430874号の請求項1~4に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、令和1年11月28日の出願あって、令和6年2月5日にその特許権の設定登録がされ、同年同月14日に特許掲載公報が発行された。 その特許についての特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和6年 8月13日 :特許異議申立人 豊田享子(以下、「申立人」という。)による請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立て 同年 9月27日 :申立人による手続補正書(方式)の提出 同年10月28日付け:取消理由通知 同年12月25日 :特許権者による意見書、訂正請求書の提出 令和7年 2月21日 :申立人による意見書の提出 第2 本件訂正の適否についての判断 1 本件訂正の内容 令和6年12月25日にされた訂正請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)による訂正の内容は、以下のとおりである(当審注:下線は訂正箇所を示すため当審が付与した。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「酸素原子及び窒素原子がそれぞれ1原子%以上ドープされていること」と記載されているのを、「酸素原子及び窒素原子がそれぞれ1原子%以上ドープされている、SQUID分析で25K以上に転移点を有すること」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する)。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1による訂正は、異原子ドープダイヤモンドについて、「SQUID分析で25K以上に転移点を有する」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)の【0014】の記載に基づくものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 また、訂正事項1による訂正は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 まとめ 本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正を認める。 第3 本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1、2の特許に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 酸素原子及び窒素原子がそれぞれ1原子%以上ドープされている、SQUID分析で25K以上に転移点を有することを特徴とする異原子ドープダイヤモンド。 【請求項2】 前記酸素原子及び/又は窒素原子のドープ量が3原子%以上であることを特徴とする請求項1に記載の異原子ドープダイヤモンド。」 第4 申立理由の概要 申立人は、証拠として甲第1号証~甲第4号証(以下、「甲1」~「甲4」という。)を提出し、以下の理由により、請求項1、2に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 1 申立理由1(実施可能要件) 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2 申立理由2(新規性) 請求項1、2に係る発明は、甲2、甲3又は甲4に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 3 申立理由3(進歩性) 請求項1、2に係る発明は、甲2、甲3又は甲4に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 [証拠方法] 甲1:S. Sotoma, et al.、RSC Adv. 、2015、5、p.13818-13827 甲2:J.I.B Wilson et al.、Journal of Electron Spectroscopy and Related Phenomena、121、2001、p.183-201 甲3:V Yu Dolmatov、Russian Chemical Reviews、76(4)、2007、p.339-360 甲4:米国特許第5916955号明細書 第5 取消理由の概要 当審において、令和6年10月28日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 1 取消理由1(新規性) 請求項1、2に係る発明は、甲2又は甲3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 第6 甲号証の記載、甲号証に記載された発明 1 甲1(S. Sotoma, et al.、RSC Adv. 、2015、5、p.13818-13827) 甲1には以下の記載がある。なお、甲1の記載は、当審の訳文で示す。 「XPSは、電子の分析深さを分析対象表面の数ナノメートル内に局在化させるので、材料表面を特徴づけるのに役立つ方法である」(13821ページ左欄28~30行) 2 甲2(J.I.B Wilson et al.、Journal of Electron Spectroscopy and Related Phenomena、121、2001、p.183-201) (1)甲2の記載 甲2には以下の記載がある。なお、甲2の記載は、当審の訳文で示す。 「 [図:0001423515000001.jpg] [図:0001423515000002.jpg] 」(192ページ) (2)甲2に記載された発明 上記(1)の表1における試料が「窒素原子処理(16時間)」の欄の記載に注目すると、甲2には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。 「組成が炭素86.6%、酸素4.9%、窒素8.5%である原子ビーム処理CVDダイヤモンド。」 3 甲3(V Yu Dolmatov、Russian Chemical Reviews、76(4)、2007、p.339-360) (1)甲3の記載 甲3には以下の記載がある。なお、甲3の記載は、当審の訳文で示す(下線は当審において付した。以下、同様である。)。 「I.序論 爆轟合成ナノダイヤモンド(ND)は、1 9 6 3年にソ連の研究者により、非酸化性媒体中で負の酸素バランスを有する高爆発性混合物の爆発分解によって初めて合成された1,2。」(183ページ左欄8~12行) 「 [図:0001423515000003.jpg] 」(344ページ) (2)甲3に記載された発明 上記(1)の表5における還元剤が「添加剤なし」の欄の記載に注目すると、甲3には、以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されている。 「元素組成が炭素88.5質量%、水素1.1質量%、窒素2.2質量%、酸素8.2質量%である爆轟合成ナノダイヤモンド(ND)。」 4 甲4(米国特許第5916955号明細書) (1)甲4には以下の記載がある。なお、甲4の記載は、当審の訳文で示す。 「特許請求の範囲 1.炭素、水素、窒素及び酸素を含むダイヤモンド-炭素物質であって、 立方晶変態の炭素 30~75質量% 炭素のレントゲン無定形相 10~15質量% 結晶変化の炭素 残部 を含み、上記元素の量比が、 炭素 84~89質量% 水素 0.3~1.1質量% 窒素 3.1~4.3質量% 酸素 2.0~7.1質量% 不燃性不純物 2.0~5.0質量% であり、表面にメチル、カルボキシル、キノン、ラクトン、エーテル、アルデヒド官能基が含有されていることを特徴とするダイヤモンド-炭素物質。」 「元素組成によると、30個の生成物(質量%)は84.0~89.0の炭素、0.3~1.1の水素、3.1~4.3の窒素、2.0~7.1%の酸素(範囲で)を含む。(元素組成は、有機化学の標準的な燃焼法を用いて測定される)」(2欄46~51行) 「窒素と炭素の分布のデータは、X線光電子分光法を用いて得られた。酸素原子と炭素原子、窒素原子と炭素原子の間の以下の関係がソース標本において見出された: O/C=0.030~0.040、N/C=0.01~0.03。表面をアルゴンイオンでエッチング後、これらの関係は変化した: O/C = 0.017~0.020、N/C = 0.001~0.0005。これは、酸素含有基及び窒素含有基が粒子表面に存在することを示す。」(2欄52~60行) 「黒色粉末は、以下の化学組成を有する:83.9%炭素、1.1%水素、8.1%酸素、3.3%窒素。」(4欄60~62行) 「 [図:0001423515000004.jpg] [図:0001423515000005.jpg] [図:0001423515000006.jpg] [図:0001423515000007.jpg] [図:0001423515000008.jpg] [図:0001423515000009.jpg] [図:0001423515000010.jpg] 」(5~6欄) (2)甲4に記載された発明 上記(1)の記載によれば、甲4には、以下の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されている。 「炭素、水素、窒素及び酸素を含むダイヤモンド-炭素物質であって、 立方晶変態の炭素 30~75質量% 炭素のレントゲン無定形相 10~15質量% 結晶変化の炭素 残部 を含み、上記元素の量比が、 炭素 84~89質量% 水素 0.3~1.1質量% 窒素 3.1~4.3質量% 酸素 2.0~7.1質量% 不燃性不純物 2.0~5.0質量% であり、表面にメチル、カルボキシル、キノン、ラクトン、エーテル、アルデヒド官能基が含有されていることを特徴とするダイヤモンド-炭素物質。」 第7 取消理由1(新規性)、申立理由2(新規性)及び申立理由3(進歩性)について 1 甲2を主引用例とした場合 (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲2発明とを対比する。 (ア)本件発明1の「酸素原子」及び「窒素原子」のドープ量について、本件明細書等の【0012】には、「(異原子ドープダイヤモンド) 本発明の異原子ドープダイヤモンドは、酸素原子及び/又は窒素原子が1原子% 以上ドープされている。 ・・・ 上記酸素原子及び/又は窒素原子のドープ量は、その上限値は特に限定されないが、通常、30原子%以下であり、例えば、15原子%以下である。 上記酸素原子及び/又は窒素原子のドープ量は、窒素原子と酸素原子が両方ドープされている場合は、これらの合計量を言う。 上記ドープ量は、実施例に記載されるXPS分析で検出される水素原子以外の全元素の総和100原子%中の元素量である。」と記載されている。 そうすると、本件発明1の「酸素原子」及び「窒素原子」のドープ量は、それぞれ、水素原子以外の全総和100原子%中の元素量である。 (イ)甲2発明の「原子ビーム処理CVDダイヤモンド」は、組成が炭素86.6%、酸素4.9%、窒素8.5%である」から、酸素のドープ量は4.9%、窒素のドープ量は8.5%であるといえるものの、「%」が「原子%」であるのか「質量%」であるのか不明である。 ここで、甲2発明における「%」が「質量%」あるとし、また、炭素の原子量が12.0107、酸素の原子量が15.9994、窒素の原子量が14.0067であることは技術常識であるから、上記アにおける本件発明1の「酸素原子」及び「窒素原子」のドープ量の求め方を参酌すると、甲2発明において、酸素のドープ量は(4.9/15.9994)/(86.6/12.0107+4.9/15.9994+8.5/14.0067)=3.77原子%、窒素のドープ量は(8.5/14.0067)/(86.6/12.0107+4.9/15.9994+8.5/14.0067)=7.47原子%である。 また、甲2発明における「%」が「原子%」であるとし、上記アにおける本件発明1の「酸素原子」及び「窒素原子」のドープ量の求め方を参酌すると、甲2発明において、酸素のドープ量は4.9原子%、窒素のドープ量は8.5原子%である。 そうすると、いずれにしても、甲2発明の「原子ビーム処理CVDダイヤモンド」は、酸素原子及び窒素原子がそれぞれ1原子%以上ドープされている異原子ドープダイヤモンドであるといえる。 (ウ)以上によれば、本件発明1と甲2発明との一致点、相違点は以下のとおりとなる。 <一致点> 「酸素原子及び窒素原子がそれぞれ1原子%以上ドープされている異原子ドープダイヤモンド。」 <相違点> 相違点1:本件発明1は、「SQUID分析で25K以上に転移点を有する」のに対し、甲2発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。 イ 相違点1についての判断 本件発明1の効果について、本件明細書等には以下の記載がある。 「【発明の効果】 【0010】 本発明の異原子ドープダイヤモンドは、上述の構成よりなり、酸素原子及び/又は窒素原子のドープ量が多く、高温で超伝導特性を示すことができる。」 以上の記載によれば、本件発明1は、「SQUID分析で25K以上に転移点を有」し、高温で超伝導特性を有するものであるといえる。 しかし、甲2には、「原子ビーム処理CVDダイヤモンド」が、「SQUID分析で25K以上に転移点を有」し、高温で超伝導特性を有することは、記載も示唆もされていないし、このことが、本件特許の出願日前において技術常識であったともいえない。 したがって、甲2発明は、相違点1に係る本件発明1の構成を備えているとはいえないから、相違点1は実質的な相違点である。 よって、本件発明1は、甲2発明ではない。 また、本件発明1は、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 小括 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲2発明ではないし、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件発明2について 本件発明2は、本件発明1の全ての構成を有するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲2発明ではないし、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。 2 甲3を主引用例とした場合 (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲3発明とを対比する。 (ア)甲3発明の「爆轟合成ナノダイヤモンド」は、「元素組成が炭素88.5質量%、水素1.1質量%、窒素2.2質量%、酸素8.2質量%である」であるところ、炭素の原子量が12.0107、酸素の原子量が15.9994、窒素の原子量が14.0067であることは技術常識であるから、上記1(1)アにおける本件発明1の「酸素原子」及び「窒素原子」のドープ量の求め方を参酌すると、甲3発明において、酸素のドープ量は(8.2/15.9994)/(88.5/12.0107+8.2/15.9994+2.2/14.0067)=6.38原子%、窒素のドープ量は(2.2/14.0067)/(86.6/12.0107+8.2/15.9994+2.2/14.0067)=1.95原子%である。 そうすると、甲3発明の「爆轟合成ナノダイヤモンド」は、酸素原子及び窒素原子がそれぞれ1原子%以上ドープされている異原子ドープダイヤモンドであるといえる。 (イ)以上によれば、本件発明1と甲3発明との一致点、相違点は以下のとおりとなる。 <一致点> 「酸素原子及び窒素原子がそれぞれ1原子%以上ドープされている異原子ドープダイヤモンド。」 <相違点> 相違点2:本件発明1は、「SQUID分析で25K以上に転移点を有する」のに対し、甲3発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点。 イ 相違点2についての判断 上記1(1)イで検討したとおり、本件発明1は、「SQUID分析で25K以上に転移点を有」し、高温で超伝導特性を有するものである。 しかし、甲3には、「爆轟合成ナノダイヤモンド(ND)」が、「SQUID分析で25K以上に転移点を有」し、高温で超伝導特性を有することは、記載も示唆もされていないし、このことが、本件特許の出願日前において技術常識であったともいえない。 したがって、甲3発明は、相違点2に係る本件発明1の構成を備えているとはいえないから、相違点2は実質的な相違点である。 よって、本件発明1は、甲3発明ではない。 また、本件発明1は、甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件発明2について 本件発明2は、本件発明1の全ての構成を有するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲3発明ではないし、甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。 3 甲4を主引用発明とした場合 (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲4発明とを対比すると、本件発明1は、「SQUID分析で25K以上に転移点を有する」のに対し、甲4発明は、そのような構成を有しているかどうか不明である点(以下、「相違点3」という。)で少なくとも相違する。 イ 相違点3についての判断 ア 上記1(1)イで検討したとおり、本件発明1は、「SQUID分析で25K以上に転移点を有」し、高温で超伝導特性を有するものである。 しかし、甲4には、「ダイヤモンド-炭素物質」が、「SQUID分析で25K以上に転移点を有」し、高温で超伝導特性を有することは、記載も示唆もされていないし、このことが、本件特許の出願日前において技術常識であったともいえない。 したがって、甲4発明は、相違点3に係る本件発明1の構成を備えているとはいえないから、相違点2は実質的な相違点である。 よって、本件発明1は、甲4発明ではない。 また、本件発明1は、甲4発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件発明2について 本件発明2は、本件発明1の全ての構成を有するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲4発明ではないし、甲4発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。 4 申立人の主張について 申立人は、令和7年2月21日提出の意見書の4ページ12~15行、24~27行において、本件特許の出願前に公知である参考資料2~4から、ダイヤモンドの窒素ドープ量が86ppmよりも高くなれば超電導転移温度Tcは27Kよりも高くなる蓋然性が極めて高いので、「SQUID分析で25K以上に転移点を有する」本件発明1は、甲2及び甲3に記載された発明であり、また、参考資料2に示された86ppmよりも高い窒素濃度を示す甲2及び甲3に記載されたダイヤモンドがSQUID分析で25K以上に転移点を有することは、甲2及び甲3と参考資料2~4を組み合わせることにより当業者により極めて容易に思いつくことができる旨主張している。 しかし、本件発明1は、「酸素原子及び窒素原子がそれぞれ1原子%以上ドープされている」ものであるところ、参考文献2~4は、酸素原子及び窒素原子をドープしたものではないから、これらの参考文献の記載から、甲2発明及び甲3発明が、「SQUID分析で25K以上に転移点を有」し、高温で超伝導特性を有しているとはいえない。 また、上記1(1)イ及び2(1)イで検討したとおり、甲2及び甲3には、ダイヤモンドが、「SQUID分析で25K以上に転移点を有」し、高温で超伝導特性を有することは、記載も示唆もされていないし、このことが、本件特許の出願日前において技術常識であったともいえないから、参考文献2の記載を参酌しても、甲2発明及び甲3発明において、「SQUID分析で25K以上に転移点を有」し、高温で超伝導特性を有するようにすることが、当業者にとって容易に想到し得たこととはいえない。 よって、申立人の上記主張は採用できない。 5 まとめ 上記1~4で検討したとおりであるから、請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。 また、請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。 したがって、取消理由1、申立理由2及び申立理由3は、いずれも理由がない。 第8 申立理由1(実施可能要件)について 1 申立人は、特許異議申立書の3ページ11行~4頁1行において、以下のとおり主張している。 「本件特許明細書の段落0022と0023には、異原子ドープダイヤモンドの酸素量と窒素量は、各々実施例に記載のXPS分析により測定できることが記載され、実施例1において、ダイヤモンドのXPS分析の結果、ダイヤモンドの窒素原子ドープ量は1原子%、酸素原子ドープ量は6原子%であると記載されている。 甲第1号証の13821頁左欄28~30行には、「XPSは、電子の分析深さを分析対象表面の数ナノメートル内に局在化させるので、材料表面を特徴づけるのに役立つ方法である」ことが記載されている。また、本件特許の出願後に公開された参考資料1の8307頁左欄下から10行~8307頁右欄3行には、以下の記載がなされている: 「酸化後のNDOx中の酸素化官能基における改良は、XPS分析で確認できる。 Fig.S2及びTable S1(ESI)におけるXPS スペクトル調査は、C、O並びに少量のNとClの存在を示す。酸素含量は、532.5 eVでのO1sスペクトル(Fig.S3, ESI)により確認され、酸素の原子パーセントは、NDの8.71%からNDOxの11.54%に上昇する(Table S1, ESI)。 NDとNDOxのC1sピーク解析スペクトルはFig.1c,dに各々示されている。酸化後、C-O結合は4.93%から8.24%に増加する(Table S1, ESI)。C-O結合の増加は、NDOxの酸素含量の増加と関連する。」 参考資料1のように、XPSはナノダイヤモンド(ND)表面の官能基量を測定するために使用され、ナノダイヤモンド内部に「ドープ」された酸素原子や窒素原子などの異原子量の測定対象外であり、異原子ドープ量をXPSにより測定することを開示した本件特許明細書は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないので、特許法第36条第4項第1号の要件に違反する。」 2 しかし、参考文献1(L.I. Ardhayanti and S. Hayami et al., Chem. Commun. 2023, 59, 8306-8309.)には、XPS分析によってダイヤモンドの酸素原子及び窒素原子の濃度が測定できないことは記載されていない。 また、甲1の上記「XPSは、電子の分析深さを分析対象表面の数ナノメートル内に局在化させるので、材料表面を特徴づけるのに役立つ方法である」との記載によれば、XPS分析によって、ダイヤモンド表面の酸素原子及び窒素原子の濃度は測定できるといえ、甲2(第6 2(1)参照)、甲4(第6 4(1)参照)には、いずれも、XPS分析によるダイヤモンドの酸素原子濃度及び窒素原子濃度が記載されている。 そして、本件明細書等の【0017】には、「異原子ドープダイヤモンドの製造方法」について、「本発明は、異原子ドープダイヤモンドを製造する方法であって、該製造方法は、酸素原子及び/又は窒素原子を含有するグラフェンを1000℃以上、かつ5GPa以上で処理する工程を含む異原子ドープダイヤモンドの製造方法でもある。」と記載されており、この製造方法によれば、ダイヤモンド中に均一に酸素原子及び窒素原子が含まれているといえるから、XPS分析により測定したダイヤモンド表面の酸素原子及び窒素原子の濃度は、ダイヤモンド中の酸素原子及び窒素原子の濃度と同じであるといえる。 以上から、ダイヤモンドにおける酸素原子及び窒素原子のドープ量をXPS分析により測定できるといえる。 したがって、申立人の上記主張は採用できない。 よって、申立理由1は、理由がない。 第9 令和7年2月21日提出の意見書(以下、「意見書」という。)における申立人の主張について 1 申立人は、意見書の5ページ4行~6ページ19行において、本件訂正請求に付随して新たに生じた取消理由として、以下の主張1~3を理由として、本件明細書等の記載から「転移点」の意味を当業者は正確に把握できないから、本件発明1、2は特許請求の範囲の記載が明確でないため、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨主張している。 (1)主張1(意見書5ページ8行~下から2行) 本件明細書等の【0032】、【0035】の記載によれば、SQUID分析により得られる転移点の温度はダイヤモンドの粒径に比例し、粒径が大きくなると転移点の温度が高くなることを明示しているが、異原子ドープダイヤモンドの超伝導転移温度Tcを研究した参考資料5(高圧力の科学と技術、Vol.2、No.3、1993、180~186ページ)の183ページ左欄に式(5)として示されているように、窒素ドープナノダイヤモンドを含むBCS系のTcはMcMillan方程式で表されるものの、McMillan方程式には粒子径の関与はなく、粒子径の異なるダイヤモンドが異なる転移点を示すとする本件明細書等の開示は、その根拠が不明瞭である。 (2)主張2(意見書5ページ最下行~6ページ7行) 本件明細書等の【0033】には、図2(a)は「実施例1で得られた窒素原子ドープダイヤモンドの灰色部、粒状部と、炉材であるTa、LaCrO3をXRD測定した結果を示すグラフである。」と記載されており、SQUID分析はTa、LaCrO3を含むサンプルについて測定されているので、図3に記載の転移点は、ダイヤモンドに由来するのか、或いはTa、LaCrO3に由来するのかは明確でなく、本件明細書等は、異原子ドープダイヤモンドがSQUID分析で25K以上に転移点を有することについて必要十分な開示がなされていない。 (3)主張3(意見書6ページ8~14行) 本件明細書等には、異原子ドープダイヤモンドを酸素原子及び/又は窒素原子を含有するグラフェンを1000℃以上、かつ5GPa以上で処理する工程により得られることが開示されるのみであり、他の製造方法により本件発明の異原子ドープダイヤモンドが得られる可能性について本件明細書等は教示も示唆もしていないから、本件発明1、2が本件明細書等によりサポートされるためには、請求項3、4の製造法により得られたものであることを明記すべきである。 2(1)主張1について 本件明細書等の【0035】には、「図3の結果から、転移点が30K付近と130K付近の2か所にあることがわかった。これは灰色部1における粒径の小さい成分が低温で、粒状部2における大きな成分が高温で転移しているものと考えられる。」と記載されており、この記載は、灰色部1における粒径の小さい成分が低温で、粒状部2における大きな成分が高温で転移しているとの考えを示しているだけで、SQUID分析における転移点の温度とダイヤモンドの粒子径との関係を示しているものではないから、上記【0033】の記載は、SQUID分析により得られる転移点の温度はダイヤモンドの粒径に比例し、粒径が大きくなると転移点の温度が高くなることを明示しているとはいえない。 したがって、申立人の主張1は、前提において誤っている。 (2)主張2について 本件明細書等の【0033】の「図2(a)は、実施例1で得られた窒素原子ドープダイヤモンドの灰色部、粒状部と、炉材であるTa、LaCrO3をXRD測定した結果を示すグラフである。 XRD測定の結果から、灰色部1、粒状部2共に、2θ=43°の位置に強いピークが現れ、ダイヤモンドであることが分かる。また、炉材のTa、LaCrO3とは異なるピークを有している。」との記載によれば、XPS測定は、窒素原子ドープダイヤモンド及び炉材であるTa、LaCrO3を測定し、その結果におけるピークから、灰色部1、粒状部2が、共にダイヤモンドであること、炉材のTa、LaCrO3とは異なるピークを有していることを確認している。 一方、本件明細書等の【0035】の「図3は、実施例1で得られた窒素原子ドープダイヤモンドをSQUID分析で2~300Kの温度範囲で評価した結果を示すグラフである。 図3の結果から、転移点が30K付近と130K付近の2か所にあることがわかった。これは灰色部1における粒径の小さい成分が低温で、粒状部2における大きな成分が高温で転移しているものと考えられる。」との記載によれば、SQUID分析は、窒素原子ドープダイヤモンドを評価すると記載されているものの、炉材である炉材のTa、LaCrO3も評価するとは記載されていない。 したがって、図3に記載の転移点は、ダイヤモンドに由来するといえる。 (3)主張3について 申立人の上記主張3は、明確性要件違反についての主張ではない。 なお、本件発明1、2は、その構成から、本件明細書等の【0007】に記載されている「異原子のドープ量が多く、高温で超伝導特性を示す異原子ドープダイヤモンドを提供すること」との課題を解決できると認識できるものであるから、本件発明1、2は、本件明細書等にサポートされているといえる。 (4)以上から、申立人の上記主張1~3は採用できない。 第10 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700759

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