特許異議申立
2018-700780
ビジネススーツ用編地
- 審判番号
- 2018-700780
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-566882
- 登録番号
- 特許第6302609号(P6302609)
- 請求日
- 2018年09月27日
- 審決日
- 2019年01月07日
- 公報発行日
- 2019年02月22日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】東洋紡STC株式会社
- 【権利者代理人】風早 信昭
- 【権利者代理人】浅野 典子
- 【異議申立人】櫻井 芳晴
- 【異議申立人代理人】奥村 茂樹
- 審判長/審判官
- 審判長 久保 克彦
- 審判官 西藤 直人
- 審判官 横溝 顕範
- 分類
- P1651.121-Y (D04B) / P1651.537-Y (D04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6302609号発明「ビジネススーツ用編地」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6302609号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6302609号の請求項1~5に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)9月20日(優先権主張 平成28年9月20日)を国際出願日とする出願であって、平成30年3月9日にその特許権の設定登録(特許掲載公報平成30年3月28日発行)がされ、その特許に対し、平成30年9月27日に特許異議申立人櫻井芳晴(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
特許第6302609号の請求項1~5の特許に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
目付が150~280g/m2である柄を有するダブル編地からなり、編地の裏組織において全構造に対するニット-ウエルト構造の比率が0.3~1.0であり、編地基本組織を構成する全ニットループ数に対する全ウエルト数の比率が0.2~0.8であり、コース密度が30~90個/2.54cm、ウェール密度が30~70個/2.54cmであり、且つタテ方向の伸長率(EMT)が5~20%、タテ方向とヨコ方向の伸長率(EMT)の平均が8~20%であることを特徴とするビジネススーツ用編地。
【請求項2】
単糸繊度が2.5~6dtex、総繊度が50~300dtexであるポリエステル長繊維を5~90重量%含むことを特徴とする請求項1に記載のビジネススーツ用編地。
【請求項3】
カチオン可染性ポリエステル繊維及び/又はカチオン可染性ポリエステル繊維とポリエチレンテレフタレート繊維の複合糸を編地全体の20~90重量%使用していることを特徴とする請求項1又は2に記載のビジネススーツ用編地。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のビジネススーツ用編地を身頃に使用していることを特徴とするジャケット。
【請求項5】
請求項1~3のいずれかに記載のビジネススーツ用編地を使用していることを特徴とするスラックス。」
第3 申立理由の概要
申立人の主張する申立理由は、次のとおりである。
ここで、申立人が本件特許異議申立書に添付した甲第1号証等を、それぞれ、「甲1」等という。
また、甲1等に記載された発明及び事項を、それぞれ、「甲1発明」等及び「甲1事項」等という。
1.申立理由1(特許法第29条第2項)
本件発明1、3~5は、甲1発明及び甲3事項に基いて、本件発明2は、甲1発明、甲2事項及び甲3事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明であるから、それらの特許は同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである旨を主張している。
2.申立理由2(特許法第29条第2項)
本件発明1、2、4及び5は、甲2発明及び甲3事項に基いて、本件発明3は、甲2発明、甲1事項及び甲3事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明であるから、それらの特許は同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである旨を主張している。
3.申立理由3(特許法第36条第6項第2号)
本件発明1~5は、特許請求の範囲に記載されている「ビジネススーツ」という用語が不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、それらの特許は同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである旨を主張している。
<刊行物一覧>
甲1:特開2012-207311号公報
甲2:特開2014-43651号公報
甲3:特開2013-129945号公報
第4 刊行物の記載、技術的事項ないし発明
1.甲1について
(1)甲1の請求項1、【0001】、【0009】~【0023】、【0030】、【0032】、【図2】には、染色交編編地に関する事項が記載されており、特に【0030】、【図2】には、「実施例3」として染色交編編地の具体的構成が記載されている。
(2)甲1の【0030】に記載された「No.1」等は、それぞれ、【図2】に記載された「NO.1」等に相当することは明らかであるところ、本決定では「NO.1」等に表記を統一する。また、以下、給糸NO.1等から給糸される糸により形成される構成を、それぞれ、「NO.1構成」等といい、個々のニットループまたはウエルトを「構成要素」という。
そうすると、【0030】に記載された事項、及び、【図2】のモックロディ編組織から、次の事項が読み取れる。なお、【図2】の編組織について、【0009】には「モノクロディ」と記載されている一方、【0030】には「モックロディ」と記載されているが、本決定では「モックロディ」に表記を統一する。
給糸NO.1から給糸される糸により、編地の表裏に交互にニットループが形成されている。NO.1構成において、編地の裏組織を構成する構成要素の数は4個であり、このうちニット-ウエルト構造に属する構成要素の数は0個である。また、NO.1構成において、ニットループ数は8個であり、ウエルト数は0個である。
給糸NO.2から給糸される糸により、編地の裏にニットループとウエルトが交互に形成されている。NO.2構成において、編地の裏組織を構成する構成要素の数は8個であり、このうちニット-ウエルト構造に属する構成要素の数は8個である。また、NO.2構成において、ニットループ数は4個であり、ウエルト数は4個である。
給糸NO.3から給糸される糸により、編地の表にニットループとウエルトが交互に形成されている。NO.3構成において、編地の裏組織を構成する構成要素の数は0個である。また、NO.3構成において、ニットループ数は4個であり、ウエルト数は4個である。
給糸NO.4から給糸される糸により、編地の表裏に交互にニットループが形成されている。編地の裏組織を構成する構成要素の数は4個であり、このうちニット-ウエルト構造に属する構成要素の数は0個である。また、NO.4構成において、ニットループ数は8個であり、ウエルト数は0個である。
給糸NO.5から給糸される糸により、編地の裏にニットループとウエルトが交互に形成されている。NO.5構成において、編地の裏組織を構成する構成要素の数は8個であり、このうちニット-ウエルト構造に属する構成要素の数は8個である。また、NO.5構成において、ニットループ数は4個であり、ウエルト数は4個である。
給糸NO.6から給糸される糸により、編地の表にニットループとウエルトが交互に形成されている。NO.6構成において、編地の裏組織を構成する構成要素の数は0個である。また、NO.6構成において、ニットループ数は4個であり、ウエルト数は4個である。
編地の裏組織における全構造に対するニット-ウエルト構造の比率は、((NO.1構成の編地の裏組織においてニット-ウエルト構造に属する構成要素の数)+(NO.2構成の編地の裏組織においてニット-ウエルト構造に属する構成要素の数)+・・・+(NO.6構成の編地の裏組織においてニットーウエルト構造に属する構成要素の数))/((NO.1構成の編地の裏組織における構成要素の数)+(NO.2構成の編地の裏組織における構成要素の数)+・・・+(NO.6構成の編地の裏組織における構成要素の数))により求められるところ、(0+8+0+0+8+0)/(4+8+0+4+8+0)=16/24=約0.67である。
また、編地基本組織を構成する全ニットループ数に対する全ウエルト数の比率は、((NO.1構成のウエルト数)+(NO.2構成のウエルト数)+・・・+(NO.6構成のウエルト数))/((NO.1構成のニットループ数)+(NO.2構成のニットループ数)+・・・+(NO.6構成のニットループ数))により求められるところ、(0+4+4+0+4+4)/(8+4+4+8+4+4)=16/32=0.5である。
(3)上記(1)及び(2)を踏まえると、甲1には、特に「実施例3」に着目すると、次の甲1発明が記載されている。
「目付が150g/m2であるモックロディ編地からなり、編地の裏組織において全構造に対するニット-ウエルト構造の比率が約0.67であり、編地基本組織を構成する全ニットループ数に対する全ウエルト数の比率が0.5であり、コース密度が34コース/インチ、ウエール密度が40ウエール/インチである、染色交編編地。」
2.甲2について
(1)甲2の請求項1、請求項2、【0001】、【0011】~【0050】、【0064】、【図3】には、表面毛羽が少ない編地に関する事項が記載されており、特に【0049】~【0050】、【図3】には、「実施例2」として表面毛羽が少ない編地の具体的構成が記載されている。
(2)甲2の【0049】に記載された「F1」等は、それぞれ、【図3】に記載された「1」等に相当することは明らかであるところ、本決定では「F1」等に表記を統一する。また、以下、給糸口F1等から給糸される糸により形成される構成を、それぞれ、「F1構成」等といい、個々のニットループ、ウエルトまたはタックを「構成要素」という。
そうすると、【0049】に記載された事項、及び、【図3】のリバーシブル組織から、次の事項が読み取れる。なお、【図3】の組織について、【0049】には「リバーブル組織(図3)」と記載されている一方、「図3に示す・・・リバーシブル編み組織」と記載されているが、前者の「リバーブル組織」は「リバーシブル組織」の誤記であることは明らかである。
給糸口F1から給糸される糸により、編地の裏にニットループとウエルトが交互に形成されている。F1構成において、編地の裏組織を構成する構成要素の数は12個であり、このうちニット-ウエルト構造に属する構成要素の数は12個である。また、F1構成において、ニットループ数は6個であり、ウエルト数は6個である。
給糸口F2から給糸される糸により、編地の表裏に交互にニットループとタックが形成されている。F2構成において、編地の裏組織を構成する構成要素の数は6個であり、このうちニット-ウエルト構造に属する構成要素の数は0個である。またF2構成において、ニットループ数は6個であり、ウエルト数は0個である。
給糸口F3から給糸される糸により、編地の表にニットループとウエルトが交互に形成されている。F3構成において、編地の裏組織を構成する構成要素の数は0個である。また、F3構成において、ニットループ数は6個であり、ウエルト数は6個である。
給糸口F4から給糸される糸により、編地の裏にニットループとウエルトが交互に形成されている。F4構成において、編地の裏組織を構成する構成要素の数は12個であり、このうちニット-ウエルト構造に属する構成要素の数は12個である。また、F4構成において、ニットループ数は6個であり、ウエルト数は6個である。
給糸口F5から給糸される糸により、編地の裏にニットループとウエルトが交互に形成されている。F5構成において、編地の裏組織を構成する構成要素の数は12個であり、このうちニット-ウエルト構造に属する構成要素の数は12個である。また、F5構成において、ニットループ数は6個であり、ウエルト数は6個である。
給糸口F6から給糸される糸により、編地の表裏に交互にニットループとタックが形成されている。F6構成において、編地の裏組織を構成する構成要素の数は6個であり、このうちニット-ウエルト構造に属する構成要素の数は0個である。またF6構成において、ニットループ数は6個であり、ウエルト数は0個である。
給糸口F7から給糸される糸により、編地の表にニットループとウエルトが交互に形成されている。F7構成において、編地の裏組織を構成する構成要素の数は0個である。また、F7構成において、ニットループ数は6個であり、ウエルト数は6個である。
給糸口F8から給糸される糸により、編地の裏にニットループとウエルトが交互に形成されている。F8構成において、編地の裏組織を構成する構成要素の数は12個であり、このうちニット-ウエルト構造に属する構成要素の数は12個である。また、F8構成において、ニットループ数は6個であり、ウエルト数は6個である。
編地の裏組織における全構造に対するニット-ウエルト構造の比率は、((F1構成の編地の裏組織においてニット-ウエルト構造に属する構成要素の数)+(F2構成の編地の裏組織においてニット-ウエルト構造に属する構成要素の数)+・・・+(F8構成の編地の裏組織においてニット-ウエルト構造に属する構成要素の数))/((F1構成の編地の裏組織における構成要素の数)+(F2構成の編地の裏組織における構成要素の数)+・・・+(F8構成の編地の裏組織における構成要素の数))により求められるところ、(12+0+0+12+12+0+0+12)/(12+6+0+12+12+6+0+12)=48/60=0.8である。
また、編地基本組織を構成する全ニットループ数に対する全ウエルト数の比率は、((F1構成のウエルト数)+(F2構成のウエルト数)+・・・+(F8構成のウエルト数))/((F1構成のニットループ数)+(F2構成のニットループ数)+・・・+(F8構成のニットループ数))により求められるところ、(6+0+6+6+6+0+6+6)/(6+6+6+6+6+6+6+6)=36/48=0.75である。
(3)上記(1)及び(2)を踏まえると、甲2には、特に「実施例2」に着目すると、次の甲2発明が記載されている。
「目付が290g/m2であるリバーシブル編地からなり、編地の裏組織において全構造に対するニット-ウエルト構造の比率が0.8であり、編地基本組織を構成する全ニットループ数に対する全ウエルト数の比率が0.75であり、コース密度が31コース/inch、ウエール密度が33ウエール/inchである、表面毛羽が少ない編地。」
3.甲3について
(1)甲3の請求項1、請求項7、【0006】~【0017】、【0023】~【0025】、【0030】~【0031】には、ウォッシャブル織物に関する事項が記載されており、特に【0023】~【0025】、【0030】の「実施例1」及び「実施例2」には、ウォッシャブル織物の具体的構成が記載されている。
(2)甲3の【0030】の【表2】には、「実施例1」及び「実施例2」の織物について、経方向のストレッチ性(EM1)及び緯方向のストレッチ性(EM2)が記載されているところ、「実施例1」では洗濯前でEM1が6%、EM2が11.5%であることが記載されており、「実施例2」では洗濯前でEM1が5.6%、EM2が12.4%であることが記載されている。
経方向と緯方向のストレッチ性の平均についてみると、「実施例1」では、(6%+11.5%)/2=8.75%であり、「実施例2」では、(5.6%+12.4%)/2=9%である。
(3)甲3において、経方向のストレッチ性(EM1)及び緯方向のストレッチ性(EM2)はKES-FB1AUTOという試験機で測定されるところ(【0023】参照)、KES-FB計測システムにより測定されるストレッチ性はEMT値であることは技術常識であるから、甲3の経方向のストレッチ性(EM1)及び緯方向のストレッチ性(EM2)はEMT値であるといえる。
(4)上記(1)~(3)を踏まえると、甲3には、特に「実施例1」及び「実施例2」に着目すると、次の甲3事項が記載されている。
「獣毛繊維からなるか又は獣毛繊維を含む織物をウレタン系樹脂により防縮加工し、その後に還元処理することにより、繊維間接着を切断して風合いを柔軟にし、かつ膨潤収縮を引き起こさせて織物を収縮させ、ストレッチ性を付与した織物からなり、経方向のストレッチ性(EMT)が5.6~6%、経方向と緯方向のストレッチ性(EMT)の平均が8.75~9%であるスーツ用ウォッシャブル織物。」
第5 判断
1.申立理由1(特許法第29条第2項)について
(1)本件発明1について
ア.本件発明1と甲1発明を対比すると、少なくとも、次の点で相違する。
<相違点>
本件発明1では、編地のタテ方向の伸長率(EMT)が5~20%、タテ方向とヨコ方向の伸長率(EMT)の平均が8~20%であるのに対し、甲1発明では、このようなタテ方向の伸長率及びタテ方向とヨコ方向の伸長率の平均について明らかではない点。
上記<相違点>について検討する。
甲1には、編地を、本件発明1の上記<相違点>に係る構成のタテ方向の伸長率及びタテ方向とヨコ方向の伸長率の平均とすることは記載ないし示唆されていない。一方、甲3には、上記第4の3.(4)で示したように、経方向のストレッチ性(EMT)が5.6~6%、経方向と緯方向のストレッチ性(EMT)の平均が8.75~9%であることは記載されている。しかしながら、この経方向のストレッチ性及び経方向と緯方向のストレッチ性の平均は、獣毛繊維からなるか又は獣毛繊維を含む織物をウレタン系樹脂により防縮加工し、その後に還元処理することにより、繊維間接着を切断して風合いを柔軟にし、かつ膨潤収縮を引き起こさせて織物を収縮させた結果得られたものである。よって、甲3に記載されたものと、染色交編編地である甲1発明とは、製法が全く異なるものであるから、上記甲3に記載された経方向のストレッチ性及び経方向と緯方向のストレッチ性の平均の値を甲1発明のタテ方向の伸長率及びタテ方向とヨコ方向の伸長率の平均の値として、採用することは、当業者であっても容易であるとはいえない。また、甲2にも、本件発明1の上記<相違点>に係る構成のタテ方向の伸長率及びタテ方向とヨコ方向の伸長率の平均とすることは記載ないし示唆されていない。
そして、本件発明1は、編地について、上記<相違点>に係る構成のタテ方向の伸長率及びタテ方向とヨコ方向の伸長率の平均とすることにより、ビジネススーツに適度な生地のハリ、コシ感と製品の保形性を実現するとともに、着用に必要な伸度を得ることができるという格別な効果を奏するものである(本件特許明細書の【0014】~【0016】、【0059】参照)。
したがって、上記<相違点>に係る本件発明1の構成は、甲1発明及び甲2事項、甲3事項に基いて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
イ.申立人の主張について
申立人は、本件特許異議申立書の第23頁第12行~第15行において、「甲1発明に係る交編編地は、甲第1号証の4頁47~49行目に記載されているように、任意の伸縮性を付与しうるものである。かかる記載に基づき、甲1発明において、伸長率を甲第3号証記載の範囲とすることは、当業者が容易になしうることである。」と主張している。
しかしながら、上記4頁47~49行目を含む甲第1号証には、甲1発明について、伸縮性に関し、甲第3号証記載の織物に関する伸長率を採用しようと当業者が動機付けられる程度の具体的な伸長率の記載ないし示唆があるとはいえない。
したがって、上記申立人の主張は当を得たものではなく、採用することができない。
(2)本件発明2~5について
本件発明2~5は、上記本件発明1を引用するものであって、上記本件発明1の発明特定事項にさらに技術的限定を加える構成を付加したものであるから、上記(1)で検討した本件発明1と同様、甲1発明及び甲2事項、甲3事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明1、3~5は、甲1発明及び甲3事項に基いて、本件発明2は、甲1発明、甲2事項及び甲3事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定に該当しないから、それらの特許は同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものとはいえない。
2.申立理由2(特許法第29条第2項)について
(1)本件発明1について
ア.本件発明1と甲2発明を対比すると、少なくとも、上記1.(1)ア.で示した<相違点>で相違する。
この<相違点>について検討するに、上記1.(1)ア.で示したとおり、甲1及び甲2には、<相違点>に係る構成のタテ方向の伸長率及びタテ方向とヨコ方向の伸長率の平均とすることは記載ないし示唆されていない。一方、甲3には、上記第4の3.(4)で示したように、経方向のストレッチ性(EMT)が5.6~6%、経方向と緯方向のストレッチ性(EMT)の平均が8.75~9%であることは記載されているものの、上記1.(1)ア.で示したとおり、編地である甲2発明について、製法が全く異なる、防縮加工と還元処理を経た織物について得られた経方向のストレッチ性及び経方向と緯方向のストレッチ性の平均を参考とし、これを採用することは、当業者であっても容易であるとはいえない。
そして、本件発明1は、編地について、上記<相違点>に係る構成のタテ方向の伸長率及びタテ方向とヨコ方向の伸長率の平均とすることにより、上記1.(1)ア.で示した格別な効果を奏するものである。
したがって、上記<相違点>に係る本件発明1の構成は、甲2発明及び甲1事項、甲3事項に基いて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
イ.申立人の主張について
申立人は、本件特許異議申立書の第26頁第25行~第28行において、「甲2発明に係るダブル編地は、適当な伸長率を持つ仮撚加工糸で編成されており、適当な伸縮性を持つものである。かかる甲2発明において、編地の伸長率を甲第3号証記載の範囲とすることは、当業者が容易になしうることである。」と主張している。
しかしながら、甲第2号証には、甲2発明について、伸縮性に関し、甲第3号証記載の織物に関する伸長率を採用しようと当業者が動機付けられる程度の具体的な伸長率の記載ないし示唆があるとはいえない。
したがって、上記申立人の主張は当を得たものではなく、採用することができない。
(2)本件発明2~5について
本件発明2~5は、上記本件発明1を引用するものであって、上記本件発明1の発明特定事項にさらに技術的限定を加える構成を付加したものであるから、上記(1)で検討した本件発明1と同様、甲2発明及び甲1事項、甲3事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明1、2、4及び5は、甲2発明及び甲3事項に基いて、本件発明3は、甲2発明、甲1事項及び甲3事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定に該当しないから、それらの特許は同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものとはいえない。
3.申立理由(特許法第36条第6項第2号)について
申立人は、本件発明1~5の特許請求の範囲に記載されている「ビジネススーツ」という用語について、「ビジネス」は実質的に意味のない用語であるから不明確である旨を主張している(本件特許異議申立書の第29頁第2行~第25行参照)。
しかしながら、「ビジネススーツ」とは、服飾に関する一般常識を勘案すれば、各種仕事の場で着用されるスーツであり、礼を失することのない程度にフォーマルなスーツであることは、当業者ならずとも容易に理解できるものであるから、明確である。また、本件特許明細書の【0007】によると、本件発明1~5の目的が、「編物でありながら生地の伸度が制限されており、ビジネスに用いられるジャケットやスラックスに必要な、適度な伸度と保形性を備えながら、家庭洗濯ができ、且つ柔らかさ、通気性を兼ね備えたビジネススーツ用編地を提供すること」とされていることを踏まえると、本件発明1~5の「ビジネススーツ」は、上記理解に沿うものであるといえる。
したがって、上記申立人の主張は、当を得たものではなく、採用することはできない。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明1~5は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているといえ、それらの特許は同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものとはいえない。
第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2018-700780